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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 発明同一  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1121054
異議申立番号 異議2003-70957  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2004-11-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3334056号「酸素捕捉用の方法および組成物」の請求項1〜36に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3334056号の請求項1〜30に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3334056号は、パリ条約の優先権主張(優先日:平成3年6月27日)を伴って平成4年6月24日に出願され、平成14年8月2日に特許の設定登録がなされたものであって、その特許につき、平成15年4月15日付けで三菱瓦斯化学株式会社より特許異議の申立がなされ、その後、以下の手続を経ている。
取消理由通知書 平成15年 8月26日
訂正請求書 平成16年 3月 9日
特許異議意見書 平成16年 3月 9日
審尋(特許異議申立人) 平成16年 3月15日
上申書(権利者) 平成16年 3月25日
上申書(権利者) 平成16年 8月25日
取消理由通知書 平成16年10月 6日
訂正請求取下書 平成16年10月13日
訂正請求書 平成16年10月13日
特許異議意見書 平成16年10月13日
なお、平成16年3月9日付け訂正請求は平成16年10月13日付け訂正請求取下書により取り下げられている。また、平成16年3月15日付け審尋に対しては特許異議申立人からは回答がなかったものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
本件明細書につき、平成16年10月13日付け訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の〈イ〉〜〈ヨ〉の訂正を求めるものである。
以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「訂正明細書」という。
〈イ〉特許明細書の請求項1における、
「有機化合物、及び該有機化合物に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量で存在する遷移金属触媒を含有する組成物」を
「有機化合物、該有機化合物に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量で存在する遷移金属触媒、及び光開始剤を含有する組成物」に訂正する。
〈ロ〉特許明細書の請求項1における、「200〜750nmの波長を有する化学作用放射線」を「200〜750nmの波長を有する紫外線」に訂正する。
〈ハ〉特許明細書の請求項1における、
「酸素捕捉を開始させる方法。」を
「酸素捕捉を開始させ、開始後の酸素捕捉速度が、酸化可能な有機化合物1g当り、25℃、1気圧で1日当り酸素を少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度であり、酸素障壁と組合わせる場合には、酸素捕捉速度は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である方法。」に訂正する。
〈ニ〉特許明細書の請求項2における、
「放射線に」を、「200〜750nmの波長を有する紫外線に」訂正する。
〈ホ〉特許明細書の請求項14及び32における、「接着性または非接着性挿入材および繊維状マット挿入材」をそれぞれ削除する。
〈ヘ〉特許明細書の請求項7における、「請求項1〜4のいずれかに記載の方法」を「請求項1〜3のいずれかに記載の方法」に訂正する。
〈ト〉特許明細書の請求項17における、
「を含有することを特徴とする酸素捕捉に適した組成物。」を
「を含有し、ここで酸素捕捉反応開始後の酸素捕捉速度が、上記エチレン性不飽和炭化水素1g当り、1気圧、25℃で1日当り少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度を示し、酸素障壁と組合せる場合には、酸素捕捉活性は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度であることを特徴とする酸素捕捉用組成物。」に訂正する。
〈チ〉特許明細書の請求項8、10、12、13、20及び21の記載を削除する。
〈リ〉特許明細書の請求項9における請求項番号を1つ繰り上げ、同請求項11における請求項番号を2つ繰り上げ、同請求項14〜19における請求項番号をそれぞれ4つ繰り上げ、及び、同請求項22〜36における請求項番号をそれぞれ6つ繰り上げる。
これらの請求項番号の訂正に応じ、特許明細書の請求項11、14〜16、18、22、23、及び、26〜36において、引用するところの請求項の番号をそれぞれ繰り上げる。
〈ヌ〉特許明細書の請求項9において引用する請求項を「1〜4」から「1〜3」に訂正する。
特許明細書の請求項19において引用する請求項を「17〜18」から「14」に訂正する。
〈ル〉特許明細書の請求項24において引用する請求項番号を「17〜23」から「13〜17のいずれか」に訂正する。
特許明細書の請求項25において引用する請求項番号を「17〜24」から「13〜18のいずれか」に訂正する。
〈ヲ〉特許明細書の段落0010における「たとえば化学作用放射線」を「たとえば紫外線」に訂正する。
〈ワ〉特許明細書の段落0015における「接着剤または非接着性のシート挿入物、ガスケット、密封剤または繊維マット挿入物」を「ガスケット、密封剤」と訂正する。
〈カ〉特許明細書の段落0049における「紫外または可視光」を「紫外線又は電子線」に訂正する。
〈ヨ〉特許明細書の段落0060における「コバルトマスターバッチから、共押出しにより」を「コバルトマスターバッチを用い、他成分との共押出しにより」に訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
II-2-1.訂正の目的
上記訂正事項〈イ〉は、特許明細書の請求項1に記載される組成物につき、その含有成分として光開始剤を付加し、当該組成物を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ロ〉は、特許明細書の請求項1に記載される放射線を紫外線に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ハ〉は、特許明細書の請求項1に記載される「酸素捕捉を解させる方法」につき、酸素捕捉速度に関する事項を付加し、その態様を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ニ〉は、特許明細書の請求項2における放射線との記載を請求項1の上記訂正事項〈ロ〉に整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ホ〉は、特許明細書の請求項14及び32における組成物又は層状体につき、その適用範囲の一部を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ヘ〉及び〈ヌ〉は、各々、引用する請求項の一部を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ト〉は、特許明細書の請求項17に記載される「組成物」につき、その用途を限定し、かつ、酸素捕捉速度及び酸素捕捉活性に関する事項を付加するものであり、いずれのものも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈チ〉は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈リ〉は、上記の請求項の削除に伴い、請求項番号又は引用する請求項の番号を繰り上げるものであり、特許請求の範囲の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ル〉は、特許明細書の請求項24及び25において、上記の請求項の削除に伴い引用する請求項の番号を繰り上げ、かつ、引用する請求項が選択して引用されることを明確化するものであり、いずれのものも、特許請求の範囲の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ヲ〉〜〈カ〉は、特許明細書の請求項1、14及び32の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載をこれに整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記訂正事項〈ヨ〉は、共押出の操作をより明確化するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、上記訂正事項〈イ〉〜〈ヨ〉は、改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合する。

II-2-2.新規事項の有無
上記訂正事項〈イ〉は、特許明細書の段落0028〜0029等の記載に基づくものである。
上記訂正事項〈ロ〉は、特許明細書の「本件方法に使用する放射線には化学作用放射線、たとえば約200ないし750ナノメートル(nm)の波長を有する、好ましくは約200ないし400nmの波長を有する紫外または可視光が可能である。」(段落0049)等の記載に基づくものである。
上記訂正事項〈ハ〉は、特許明細書の「包装に使用するならば、・・・いずれにせよ、放射線暴露は層状体または物品の酸素捕捉剤としての使用の前であることが必要である。」(段落0050)、同「有用な捕捉速度は、空気中25℃、1気圧での捕捉用成分中の酸化可能な有機化合物1グラムあたりの日量で、酸素(O2)0.05ccという低い値であり得るが、ある種の組成物、たとえば・・・、1グラムあたりの日量で酸素0.5cc、またはそれ以上の速度の能力を有するので」(段落0052)及び同「いずれかの酸素障壁との組合わせで開始される酸素捕捉活性は25℃において、1平方メートルあたり毎気圧の日量で約1.0立方センチメートル未満の全酸素透過速度を生むべきである。酸素捕捉容量は、少なくとも2日間はこの透過速度を超えないものであるべきである。」(段落0054)との記載から、自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正事項〈ホ〉、〈ヘ〉、〈チ〉及び〈ヌ〉は、請求項、引用する請求項の一部、又は、並列的に規定される要件を、削除するだけのものであり、特許明細書の記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正事項〈ト〉は、上記訂正事項〈ハ〉と同じように、特許明細書の記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記訂正事項〈ニ〉、〈リ〉及び〈ル〉〜〈ヨ〉は、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載を上記請求項の訂正事項に整合させるだけのものであり、ないしは、単に記載を明確化するだけのものであり、特許明細書の記載から自明なこととして導き出せないものではない。
したがって、上記訂正事項〈イ〉〜〈ヨ〉は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされるものであり、新規事項の追加には当たらない。

II-2-3.拡張・変更の存否
上記〈イ〉〜〈ヨ〉の訂正は、発明の目的の範囲内で請求項に記載される発明を限定する、ないしは、発明の詳細な説明の記載を明りょうにするだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
II-3.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
本件明細書は、前記のとおり、平成16年10月13日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正されたものであって、訂正後の本件請求項1〜30に係る発明(以下、それぞれ、必要に応じて、「本件発明1」〜「本件発明30」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されるとおりのものであり、訂正後の請求項1及び13には次のことが記載される。
【請求項1】ベンジル性(benzylic)、アリル性(allylic)又は第3級の水素を含有する炭素化合物から選択された酸化可能な有機化合物、該有機化合物に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量で存在する遷移金属触媒、及び光開始剤を含有する組成物により、包装材又は容器内の環境から酸素を捕捉する方法であって、該組成物に、200〜750nmの波長を有する紫外線を酸化可能な有機化合物1g当り少くとも0.1ジュールの強さで、又は電子線を0.2〜20メガラッドの放射線量で暴露することにより酸素捕捉を開始させ、開始後の酸素捕捉速度が、酸化可能な有機化合物1g当り、25℃、1気圧で1日当り酸素を少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度であり、酸素障壁と組合わせる場合には、酸素捕捉速度は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である方法。
【請求項13】(a)少くとも1種の置換された、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素、
(b)該炭化水素(a)に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量での少くとも1種の遷移金属触媒、および
(c)該組成物の0.01〜10重量%の光開始剤(ただし0.5〜5重量部のアンスラキノン系化合物又はベンゾイン系化合物を含む組成物、ならびに8%ナフテン酸マンガンを0.5部含む組成物を除く)
を含有し、ここで酸素捕捉反応開始後の酸素捕捉速度が、上記エチレン性不飽和炭化水素1g当り、1気圧、25℃で1日当り少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度を示し、酸素障壁と組合せる場合には、酸素捕捉活性は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度であることを特徴とする酸素捕捉用組成物。

IV.特許異議申立の概要
異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
なお、先の平成15年8月26日付け取消理由通知は、当該特許異議申立の理由及び証拠により構成されたものである。
【理由-1】本件請求項1、4〜6、12〜17、28及び33に係る発明(訂正後の本件請求項1、4〜6、10〜13、22及び27に係る発明)は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2号の規定により特許受けることができない。
【理由-2】本件請求項1〜36に係る発明(訂正後の本件請求項1〜30に係る発明)は、甲第2〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
【理由-3】本件請求項1〜16に係る発明(訂正後の本件請求項1〜12に係る発明)の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件請求項1〜36に係る発明(訂正後の本件請求項1〜30に係る発明)は取り消されるべきものである。
甲第1号証:特願平3-150260号の願書に最初に添付した明細書に
替わる特開平5-5042号公報
甲第2号証:特表平2-500846号公報
甲第3号証:Michael L Rooney「Oxygen sca
venging:a novel use of rubb
er photo-oxidation」Chemistr
y and Industry,20 March 1982
,p197〜198
甲第4号証:特開昭48-75639号公報
甲第5号証:特公昭51-42137号公報

V.証拠の記載内容
V-A.甲第1号証(特開平5-5042号公報)には、以下のことが記載される。
(A-1)「【請求項1】エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物及び酸化触媒から成る組成物を含有するガスバリア層を備えた包装材に、放射線を照射することを特徴とする包装材の酸素バリア性の改良方法。」(特許請求の範囲)
(A-2)「ガスバリヤ層を備えたフィルム、シート、ボトル、容器等の包装材に、放射線を照射することにより、ポリマーラジカルを故意的に増やすことができる。よって、照射直後から、ガスバリヤ層の酸素バリヤ性は向上し所望の特性値に達する。」(段落0007)
(A-3)「EVOHの酸化触媒による酸化は、EVOHの光、熱等の作用による分解によりポリマーラジカルが生成することによりはじまり、その後酸化触媒の働きにより、ポリマーラジカルに酸素が吸着しパーオキシラジカルと成り、このパーオキシラジカルがEVOHからプロトンを引き抜き、ポリマーラジカルが生成する。
この様な連鎖反応が進みポリマーラジカルがある濃度に達したときEVOHの酸素バリア性が向上し所望の特性値に達する。つまり、ポリマーラジカルを故意的に増やし、ある濃度に達すれば、その時点から優れた酸素バリア性包装材と成り得る。」(段落0012及び0013)
(A-4)「なお、本発明に用いられる放射線とは、放射線同位元素によるα線,β線,γ線,X線,又は電子線であり、この様な放射線の照射は、公知の種々の方法で行われうる。」(段落0014)
(A-5)「〔実施例1〕多層射出成形法により3層のプリフォームを製造した。内外層はポリエステル、中間層(ガスバリア層)はEVOH1重量部に対してコバルト元素が100ppmとなる量のステアリン酸コバルト(酸化触媒)を混合した組成物である。このプリフォームを用いて延伸中空成形してボトル試料を製造した。得られたボトルの平均肉厚は0.48mm(ガスバリア層0.06mm)、内容料250ml、表面積0.03m2の偏平なボトルである。
このボトルに放射線量100kGyのγ線を照射して試料1を作成した。更に試料1の作成において、γ線照射条件を放射線量20kGyにかえた以外は同様にしてボトル試料2を作成した。」(段落0016〜0018)
(A-6)「〔実施例3〕実施例1の試料1の作成において、γ線照射を加速電圧200kV、照射線量100KGyの電子線照射にかえた以外は同様にして、ボトル試料8を作成した。
更に試料8の作成において、電子線照射条件を放射線量20KGyにかえた以外は同様にして試料9を作成した。また、試料8の作成において、電子線を照射しないこと以外は同様にして試料10を作成した。
得られた照射ボトル試料8〜10のそれぞれの照射直後の酸素透過度を測定した。結果を表3に示す。」(段落0024〜0026)
(A-7)「【表3】
試料No. 酸素透過率(ml/m2・day・atm)
8 0.31
9 0.43
10 0.81」旨(段落0027)

V-B.甲第2号証(特表平2-500846号公報)には、以下のことが記載されている。
(B-1)「1.ポリマーから成り酸素捕集特性を有する組成物または該組成物の層を含有する包装用障壁において、組成物が酸化可能有機成分の金属触媒酸化により酸素を捕集することを特徴とする包装用障壁。」(特許請求の範囲第1項)
(B-2)「10.酸化可能有機成分が酸化可能ポリマーであることを特徴とする請求項1項から9項までのいずれか1項に記載の障壁。
11.酸化可能有機成分がポリアミドであることを特徴とする請求の範囲第1項から第9項までのいずれか1項に記載の障壁。
12.酸化可能有機成分が式-NH-CH2-アリレン-CH2-NH-CO-アルキレン-CO-で表わされる単位を含有するポリマーであることを特徴とする請求の範囲第1項から第9項までのいずれか1項に記載の障壁」(特許請求の範囲第10〜12項)
(B-3)「ポリマー、酸化可能有機成分及び該酸化可能有機成分の酸化用金属触媒から成ることを特徴とする包装用組成物。」(特許請求の範囲第25項)
(B-4)「本発明は包装、具体的には酸素に敏感な物質、さらに具体的には食物及び飲み物の包装に関する。」(第3頁右上欄第3及び4行)
(B-5)「捕集型のPWとPMは厳密に言って本当の透過度及び透過性ではないが(透過及び捕集は同時に起こるので)、むしろ見かけ上のものである。しかし、ここでは従来の用語「透過度」及び「透過性」を使用する。・・・。本明細書では(特に記載されないかぎり)以後PWとPMの値はP=0.21気圧、壁の酸素に富んだ面の相対湿度=50%、温度=23℃、(PM値の場合)壁の厚さ=0.3mmの条件によるものとする。」(第4頁右下欄末行〜第5頁左上欄第11行)
(B-6)「障壁の酸素透過度は10.0cm3/(m2・atm・dayすなわち1日につき1気圧で1m2あたり)以下;好ましくは5.0cm3以下;さらに好ましくは2.0cm3以下;特に0.5cm3以下、とりわけ0.1cm3以下であるのが有利である。」(第5頁左下欄第6〜10行)
(B-7)「障壁は剛い障壁、柔軟なシート、または密着フィルムなどである。それは、均質なもの、積層体、または他のポリマーで被覆されたものであり得る。積層または被覆された障壁の場合、捕集特性は障壁の或る層に存し、該障壁の透過度は捕集性がない場合には比較的高く、それだけでは十分でないが1個以上の他の比較的低い透過度を有するが酸素捕集特性はないか不十分な層と組合せれば十分満足が得られる。このような単独の層は包装が密封されたとき酸素が第一に浸入する包装の外側に使用され得る。酸素捕集層のいずれかの側でもこのような層を設けると充填または密封する前に捕集容量が消費されるのを減少できるであろう。」(第5頁右下欄第12〜末行)
(B-8)「金属触媒が酸化で果たす役割は充分理解しているが、少なくとも2つの正の酸化状態を有する金属、特に遷移金属を正の酸化状態の1つに添加される場合の最も有望な触媒として、特に陽イオンと見なしている。従って、II(・・・)及びIII(・・・)の状態に添加されるコバルト及びII(・・・)の状態に添加される銅がある酸化可能有機成分と共に効果的であることが判明した。付言するに、カルボキシレートの形で添加すると好都合であることが判明した。一般的に言えば、触媒のレベルが高ければ捕集性も向上する。触媒と他の成分の間に起こる望ましくない相互作用、例えば、解重合などがない場合は、5000ppmまでの全組成物に対する金属の重量比は容易に予想できる。少なくとも10ppm、好ましくは50ppm、さらに好ましくは100ppmの金属のレベルにより触媒作用を行うことができる・・・。」(第7頁左上欄第16行〜右上欄第9行)
(B-9)ポリエチレンテレフタレート、MXD6(メタ-キシリレンジアミンH2NCH2-m-C6H4-CH2NH2とアジピン酸HO2C(CH2)4CO2Hとのポリアミド、4%)及びコバルト(200ppm)を含む混合物を射出成形及び吹き込み成形により瓶を形成して、その瓶の障壁につき、浸透度を試験した結果、実施例3では、277日間に亘り0.03cm3/(m2・atm・day)以下であり、コバルトを添加しなかった場合は3.0cm3/(m2・atm・day)であり、そして、実施例3では0.9ミリモルのO2を捕集したこと(第9頁右下欄第7行〜第10頁右下欄末行)。
(B-10)MXD6(2%)とコバルト(100ppm)とを含む試料の予備成形体25gを、空気と共に60cm3の小びんに密封した場合、38日後のO2の容量比が、5%、8%及び12%である(第11頁左上欄末行〜左下欄第8行)。

V-C.甲第3号証(「Oxygen scavenging:a novel use of rubber photo-oxidation」)には、図2が掲載され、以下のことが記載される。
(C-1)「酸素感受性食品と化学物質を包装する空間、または、試験環境から、酸素を迅速に除去する方法が望まれている。」(第197頁左欄第1〜3行)
(C-2)「図2にて、染色されたゴムの酸素除去比率についての、照射強度の効果が示される。3×104ルクスの初期除去比率は、6×104ルクスの半分以上であり、このことは、光酸化は、光の強度に対して比例関係にはないことを示す。・・・無染色のゴムを含む袋においては、ゆっくりした一様な酸素除去が生ずるが、これは、プロジェクター光の近紫外成分により励起されたフリーラジカル反応によるものと思われる。染色されたゴムを含む袋であって、暗闇に保持されたものは、360分後には酸素除去能力を示さなかった。」(第198頁左欄第16〜末行)

V-D.甲第4号証(特開昭48-75639号公報)には、以下のことが記載される。
(D-1)「熱可塑性樹脂に(1)不飽和炭素を有する樹脂状物質あるいはゴム状物質の一種もしくは2種以上と(2)周期律表第IVa属、第Va属、第VIa属、第VIIa属、VIIIa属から選ばれる遷移元素あるいは周期律表・・・から選ばれる・・・微細粉末状金属あるいはその化合物の一種もしくは2種以上を樹脂組成物総量に対して0.1ないし10重量%添加配合した光劣化促進樹脂組成物。」旨(特許請求の範囲)
(D-2)「本発明は、太陽光線なかでも紫外線に照射された場合、短時間で劣化し崩壊する樹脂組成物に関する。更に詳しくは熱可塑性樹脂の各種成形品を屋外に放置した場合、太陽光線中の紫外線によって容易に酸化劣化が起こり、その結果分子鎖が切断し短時間で粉末またはフレーク状となるか、または軽い衝撃などで簡単に粉末またはフレーク状に崩壊し得る樹脂組成物に関するものである。」(第1頁左下欄第15行〜右下欄第3行)
(D-3)「本発明に使用する不飽和炭素を有するゴム状物質としては、EPDMゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンゴム、天然ゴム、・・・など多量の炭素-炭素二重結合を有するゴム類が用いられる。」(第3頁左上欄第15行〜右上欄第1行)
(D-4)「実施例1〜2
低密度ポリエチレン(・・・)に第1表に示すように、ポリテルペン(・・・)とコバルトアセチルアセトナート(・・・)、ポリブタジエン(・・・)とステアリン酸第二鉄とを、・・・加熱圧縮して1mm厚さのシートを作成しウェーザーオーメーター(・・・)により、ブラックパネル63℃/湿度50%で200時間暴露し、劣化後の伸びおよび>C=O量を測定した。」(第4頁左下欄第10行〜右下欄第5行)

V-E.甲第5号証(特公昭51-42137号公報)には、以下のことが記載される。
(E-1)「熱可塑性ビニルポリマーもしくはコポリマーと22から29,40から47もしくは57から79までの原子番号をもつ金属の少なくとも1つの非イオン性有機可溶性錯体とからなり、該錯体は光および/または熱により活性化されて一層光酸化活性な該金属の形を与えることができるものであり、その含有量は組成物の所望の寿命の終りにポリマーの分解を起こすような量であることを特徴とするプラスチック組成物。」(特許請求の範囲)
(E-2)「熱可塑性ポリマーは包装の目的に広く用いられており、またそれらはこの目的に対し多くの長所をもつ。しかしながら、光および外気にさらしたとき、一般に熱可塑性ポリマーは破壊されるのに長時間かかる。・・・。本発明は、環境にさらすと比較的速く分解する熱可塑性ポリマー組成物を与える。」(第1欄第31行〜第2欄第9行)
(E-3)「本発明の熱可塑性組成物は他の混合成分、例えば発泡剤、酸化防止剤、安定化剤、潤滑剤、帯電防止剤および粘着防止剤、を含んでいてもよい。これらのいくつかは加工操作の間に余分な抑制効果をもち、あるいはそれらは光活性化剤と混合したときポリマーの紫外光安定性を変える。加工の間にポリマーの安定性を最適化しまた以後での紫外光への露出の間のポリマーの安定性を最小にするために、可能なときはいつも未安定化ポリマー(すなわち酸化防止剤または安定剤を含まないポリマー)で出発するのが、一般に一層便利であることを見出した。しかしながら、比較的多量の酸化防止剤と安定化剤とにより安定化されたものも含めて、すべての検討した市販の熱可塑性ポリマーについて、本発明で用いられる金属錯体は光活性化剤として作用することが見出された。」(第4欄第32行〜第5欄第3行)
(E-4)「熱可塑性ポリマーは、好ましくは・・・、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、またはポリスチレンのようなフィルム・・・、ならびにそのようなポリマーの混合物、特に不飽和ポリマーとの混合物、もまた本発明の組成物中に用いることができる。」(第5欄第4〜14行)

VI.当審の判断
VI-1.理由-1について
VI-1-1.本件発明1
甲第1号証には、その前記摘示(A-1)〜(A-4)によれば、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物及び酸化触媒からなる組成物を含有するガスバリア層を備えた包装材に、電子線等の放射線を照射することにより、照射直後からガスバリヤ層の酸素バリヤ性を向上させる、包装材の酸素バリア性の改良方法」に関するものであって、当該酸化触媒として、前記摘示(A-5)によれば、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物1重量部に対してコバルト元素が100ppmとなる量のステアリン酸コバルト」を用いるものであり、更には、前記摘示(A-5)〜(A-7)によれば、当該電子線を、ガスバリヤ層0.06mmを有するボトルに100KGy及び20KGy照射した場合に、そのボトルの酸素透過率(ml/m2・day・atm)がそれぞれ0.31及び0.43であるという発明が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載される発明とを対比する。
甲第1号証に記載される発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物は、前記摘示(A-3)によれば、酸化触媒により酸化されるのであるから、酸化可能な有機化合物であるということができる。
また、甲第1号証の発明の酸化触媒は、ステアリン酸コバルトで構成してもよいのであるから、それは、遷移金属触媒に該当することは明らかであり、かつ、そのステアリン酸コバルトのエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対する含有量である100ppmも本件発明の数値範囲10〜10000ppmに含まれる。
そして、甲第1号証の発明における電子線は、換算によれば、10メガラッド(100KGy)及び2メガラッド(20KGy)が照射されることになり、これは、本件発明1の電子線の放射線量の数値範囲に含まれる。
更に、甲第1号証の発明では、電子線等の照射によりガスバリヤ層の酸素バリヤ性が発現するのであるから、その酸素バリア性の改良方法においては、本件発明1と同じように、電子線を照射することにより酸素捕捉を開始する方法を含むものであると認められる。
よって、両者は、
「酸化可能な有機化合物、及び該有機化合物に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量で存在する遷移金属触媒を含有する組成物により、包装材又は容器内の環境から酸素を捕捉する方法であって、該組成物に、200〜750nmの波長を有する紫外線を酸化可能な有機化合物1g当り少くとも0.1ジュールの強さで、又は電子線を0.2〜20メガラッドの放射線量で暴露することにより酸素捕捉を開始させる方法」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点1】当該酸化可能な有機化合物が、本件発明1では、「ベンジル性(benzylic)、アリル性(allylic)又は第3級の水素を含有する炭素化合物から選択された」ものであるとされるが、甲第1号証に記載の発明のものでは、ベンジル基を有さず、アリル基を有さず、また、第三級炭素原子に結合する水素を有するものでなく、したがって、当該構成を具備しない点
【相違点2】当該組成物が、本件発明1では「光開始剤」を含有するのに対し、甲第1号証に記載の発明のものでは、当該構成を具備しない点
【相違点3】当該組成物に紫外線又は電子線を暴露することにより、本件発明1では、「開始後の酸素捕捉速度が、酸化可能な有機化合物1g当り、25℃、1気圧で1日当り酸素を少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度であり、酸素障壁と組合わせる場合には、酸素捕捉速度は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である」というものであるが、甲第1号証に記載の発明では、当該構成が明示されない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点1及び2について】
訂正明細書の記載によれば、本件発明1は、その酸素捕捉を開始させる方法において、「ベンジル性(benzylic)、アリル性(allylic)又は第3級の水素を含有する炭素化合物から選択された」酸化可能な有機化合物、遷移金属触媒、及び「光開始剤」を含有する組成物に紫外線又は電子線を暴露することにより、その余の構成と相俟って、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することができる等の有用な効果を奏したものであり、甲第1号証に記載の発明及び甲第1号証のその他の記載をみても、そこでの組成物に、当該特定の酸化可能な有機化合物及び光開始剤を含有させることにつき示唆するものは何もない。
してみれば、その他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明1は、その酸素捕捉を開始させる方法において、「ベンジル性(benzylic)、アリル性(allylic)又は第3級の水素を含有する炭素化合物から選択された」酸化可能な有機化合物、及び、「光開始剤」を含有する組成物を用いる点で、甲第1号証に記載の発明に対して、別異の発明を構成するものである。
(なお、特許異議申立人は、光開始剤を添加することは周知慣用の技術である旨、更に主張する。しかし、重合性ないしは架橋性組成物に光開始剤を添加することは周知の技術であるとしても、この種の酸素捕捉性組成物に光開始剤を用いることは周知・慣用の事項ではなく、したがって、甲第1号証に記載の発明の組成物において光開始剤を含有することが自明なこととして導き出せない。)
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と同一であるということはできない。
VI-1-2.本件発明13
甲第1号証には、その前記摘示(A-1)〜(A-4)によれば、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物及び酸化触媒からなり、その組成物に電子線等の放射線を照射することにより、照射直後からガスバリヤ層の酸素バリヤ性を向上する組成物」に関するものであって、当該酸化触媒として、前記摘示(A-5)によれば、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物1重量部に対してコバルト元素が100ppmとなる量のステアリン酸コバルト」を用いるものであり、更には、前記摘示(A-5)〜(A-7)によれば、当該電子線を、ガスバリヤ層0.06mmを有するボトルに100KGy及び20KGy照射した場合に、そのボトルの酸素透過率(ml/m2・day・atm)がそれぞれ0.31及び0.43であるという発明が記載されている。
そこで、本件発明13と甲第1号証に記載される発明を対比すると、両者は、
「(a)炭化水素、および
(b)該炭化水素(a)に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量での少くとも1種の遷移金属触媒、を含有する酸素捕捉用組成物」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点1’】当該炭化水素が、本件発明13では、「少くとも1種の置換された、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素」であるのに対し、甲第1号証に記載の発明では、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物で示されるように飽和炭化水素を用いるものであり、当該構成を具備しない点
【相違点2’】当該組成物が、本件発明13では「該組成物の0.01〜10重量%の光開始剤(ただし0.5〜5重量部のアンスラキノン系化合物又はベンゾイン系化合物を含む組成物、ならびに8%ナフテン酸マンガンを0.5部含む組成物を除く)」を含有するのに対し、甲第1号証に記載の発明のものでは、当該構成を具備しない点
【相違点3’】当該組成物につき、本件発明13では、「酸素捕捉反応開始後の酸素捕捉速度が、上記エチレン性不飽和炭化水素1g当り、1気圧、25℃で1日当り少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度を示し、酸素障壁と組合せる場合には、酸素捕捉活性は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である」とするのに対し、甲第1号証に記載の発明では、当該構成が明示されない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点1’及び2’について】
訂正明細書の記載によれば、本件発明13は、酸素捕捉用組成物において、「エチレン性不飽和炭化水素」、「光開始剤」、及び遷移金属触媒を含有することにより、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することができる組成物を提供することができたという、有用な効果をを奏したものであり、甲第1号証に記載の発明及び甲第1号証のその他の記載をみても、その組成物に当該エチレン性不飽和炭化水素及び光開始剤を含有させることにつき示唆するものはない。
してみれば、その他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明13は、その組成物において、「少くとも1種の置換された、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素」及び「該組成物の0.01〜10重量%の光開始剤(ただし0.5〜5重量部のアンスラキノン系化合物又はベンゾイン系化合物を含む組成物、ならびに8%ナフテン酸マンガンを0.5部含む組成物を除く)」を含有させる点で、甲第1号証に記載の発明に対して、別異の発明を構成するものである。
したがって、本件発明13は、甲第1号証に記載の発明と同一であるということはできない。

VI-1-3.本件発明4〜6、10〜12、22及び27について
本件発明4〜6、10〜12、22及び27は、訂正後の請求項1又は同請求項13を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1又は13の構成を全て具備するものである。
したがって、本件発明1につき説示した上記VI-1-1.の理由、又は、本件発明13につき説示した上記VI-1-2.の理由と同じ理由によりにより、本件発明4〜6、10〜12、22及び27は、甲第1号証に記載の発明と同一であるということはできない。

VI-2.理由-2について
VI-2-1.本件発明1
甲第2号証には、前記摘示(B-1)及び(B-3)により、「酸素捕集特性を有する組成物の層を含有する包装用障壁において、該組成物が酸化可能有機成分と金属触媒とからなる組成物により酸素を捕集すること」に関し、その酸化可能有機成分は、前記摘示(B-2)及び(B-9)により、「式-NH-CH2-C6H4-CH2-NH-CO-(CH2)4-CO-で表わされる単位を含有するポリアミド」であり、その金属触媒は、前記摘示(B-8)により、「遷移金属触媒を全組成物に対して10ppm〜5000ppm用いる」ものであって、その包装用障壁の物性は、前記摘示(B-5)及び(B-9)により、「酸素透過度が0〜0.3cm3/(m2・atm・day)(23℃)であって、コバルトを添加しない比較例ではその酸素透過度が3.0cm3/(m2・atm・day)(23℃)である」という発明が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第4号証に記載された発明(方法)とを対比する。
甲第2号証に記載された発明の「酸化可能有機成分の化合物」、「金属触媒」は、本件発明1の「酸化可能な有機化合物」、「遷移金属触媒」にそれぞれ相当し、この場合、その酸化可能有機成分は、-C6H4-CH2-で示されるベンジル基を有するので、本件発明1でいう「ベンジル性(benzylic)の水素を含有する炭素化合物」に含まれ、また、その金属触媒の配合量は、本件発明1でいう「有機化合物に基づく10〜10000ppm」を実質上満たし得る。
そして、甲第2号証に記載された発明の包装用障壁は、酸素捕集特性を有する組成物の層を保有するのであるから、本件発明1と同じように包装材又は容器内の環境から酸素を捕捉し得るものである。
よって、両者は、
「ベンジル性(benzylic)、アリル性(allylic)又は第3級の水素を含有する炭素化合物から選択された酸化可能な有機化合物、及び、該有機化合物に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量で存在する遷移金属触媒を含有する組成物により、包装材又は容器内の環境から酸素を捕捉する方法」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点イ】当該組成物が、本件発明1では、「光開始剤」を含有するのに対し、甲第2号証の発明ではそのような構成を具備しない点
【相違点ロ】当該方法において、本件発明1では、「該組成物に、200〜750nmの波長を有する紫外線を酸化可能な有機化合物1g当り少くとも0.1ジュールの強さで、又は電子線を0.2〜20メガラッドの放射線量で暴露することにより酸素捕捉を開始させる」のに対し、甲第2号証の発明では紫外線ないしは電子線を照射するものではなく、当該構成を具備しない点
【相違点ハ】当該組成物の酸素捕捉速度につき、本件発明1では、「開始後の酸素捕捉速度が、酸化可能な有機化合物1g当り、25℃、1気圧で1日当り酸素を少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度であり、酸素障壁と組合わせる場合には、酸素捕捉速度は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である」のに対し、甲第2号証の発明では、その包装用障壁の酸素透過度が0〜0.3cm3/(m2・atm・day)(23℃)であって、コバルトを添加しない比較例ではその酸素透過度が3.0cm3/(m2・atm・day)(23℃)であるので、その組成物の酸素捕捉速度は、計算によれば、約2.7〜3.0cm3/(m2・atm・day)(23℃)となるものの、その酸素捕捉速度は酸化可能有機成分の重量当りの数値では表示されず、したがって、甲第2号証の発明では当該構成を具備することが明示されない点
以下、相違点につき検討する。
【相違点イについて】
訂正明細書の記載によれば、本件発明1は、その酸素捕捉を開始させる方法において、酸化可能な有機化合物、遷移金属触媒、及び「光開始剤」を含有する組成物に紫外線又は電子線を暴露することにより、その余の構成と相俟って、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することができる等の有用な効果を奏したものである。
これに対して、甲第2号証に記載の発明及び甲第2号証のその他の記載をみても、当該光開始剤を用いることにつき示唆するものは何もない。
次に、当該相違点イにつき、甲第3〜5号証の記載を順次みる。
甲第3号証には、染色された、即ち、染料の添加されたゴムに対してプロジェクター光を照射すると、当該ゴムは、光の照射中、酸素除去能力を呈することが示される。しかし、ここでの発明は、光の照射を止めた場合にはそのゴムの酸素除去能力が喪失するものであり、当然のこととして、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することにつき配慮するものではなく、そのうえ、光開始剤を遷移金属と共に用いることにつき教示するものは何もない。
甲第4及び5号証には、太陽光線等の環境にさらすことにより劣化ないしは分解する樹脂組成物に関する発明が記載されており、甲第4号証の発明では「不飽和炭素を有する樹脂状物質あるいはゴム状物質の一種もしくは2種以上と、遷移金属とを配合してなる樹脂組成物」〔前記摘示(D-1)を参照〕が、また、甲第5号証の発明では「ポリプロピレン等の熱可塑性ビニルポリマーと遷移金属の非イオン性有機可溶性錯体を含有するプラスチック組成物」〔前記摘示(E-1)及び(E-4)を参照〕が示されるものの、それらの発明では、酸素捕捉性を制御することにつき配慮するものではなく、そのうえ、遷移金属又は非イオン性有機可溶性錯体に加えて、光開始剤を用いることにつき教示するものは何もない。
(特許異議申立人は甲第5号証には光活性剤の使用が示唆される旨、更に、主張するが、甲第5号証に記載される光活性剤は、その摘示(E-3)で示されるように遷移金属触媒に相当する「非イオン性有機可溶性錯体」のことを指すものであり、それが、本件発明1の光開始剤に該当するものではない。)
このように、上記甲3〜5号証の発明では紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することにつき配慮するものはなく、また、この種の酸素捕捉性組成物に光開始剤を用いることが教示されない。
してみれば、甲第3〜5号証に記載の発明を考慮したとしても、甲第2号証に記載の発明の組成物に対して、光開始剤を添加する動機付けがなく、甲第2〜5号証の記載から上記相違点イに関する本件発明1の構成を当業者が容易に導き出すことができない。
【相違点ロについて】
訂正明細書の記載によれば、本件発明1は、その酸素捕捉を開始させる方法において、酸化可能な有機化合物、遷移金属触媒、及び光開始剤を含有する組成物に「紫外線又は電子線を暴露する」ことにより、その余の構成と相俟って、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することができる等の有用な効果を奏したものである。
これに対して、甲第2号証に記載の発明及び甲第2号証のその他の記載をみても、当該紫外線又は電子線を用いることにつき示唆するものはない。
次に、当該相違点イにつき、甲第3〜5号証の記載を順次みる。
前記したとおり、甲第3号証に記載の発明は、光の照射を止めた場合にゴムの酸素除去能力が喪失するものであり、当然のこととして、そこでは、紫外線又は電子線の暴露後における酸素捕捉性を制御するために光を照射するものではなく、また、甲第4及び5号証に記載の発明では、太陽光線等の環境にさらすこと、即ち、太陽光等を暴露することは、樹脂組成物を劣化ないしは分解させるために行うものであって、紫外線又は電子線の暴露後における酸素捕捉性を制御する観点からなされるものではなく、したがって、これら甲第3〜5号証の発明を考慮したとしても、当該相違点ロに関する構成を甲第2号証に記載に発明に適用する動機付けはなく、甲第2〜5号証の記載から上記相違点ロに関する本件発明1の構成を当業者が容易に導き出すことができない。
したがって、その他の相違点ハにつき検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2〜5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
VI-2-2.本件発明13
甲第2号証には、前記摘示(B-1)及び(B-3)により、「酸化可能有機成分と金属触媒とからなる酸素捕集特性を有する組成物」に関し、その酸化可能有機成分は、「式-NH-CH2-C6H4-CH2-NH-CO-(CH2)4-CO-で表わされる単位を含有するポリアミド」であり、その金属触媒は、「遷移金属触媒を全組成物に対して10ppm〜5000ppm用いる」ものであって、その組成物の物性は、「酸素透過度が0〜0.3cm3/(m2・atm・day)(23℃)であって、コバルトを添加しない比較例ではその酸素透過度が3.0cm3/(m2・atm・day)(23℃)である」という発明が記載されている。
そこで、本件発明13と甲第2号証に記載の発明を対比すると、両者は、
「(a)炭化水素、および
(b)該炭化水素(a)に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量での少くとも1種の遷移金属触媒を含有する酸素捕捉用組成物」である点で共通し、以下の点で相違する。
【相違点I】当該炭化水素が、本件発明13では、「少くとも1種の置換された、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素」であるのに対し、甲第1号証に記載の発明では、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物でしめされるように飽和炭化水素を用いるものであり、当該構成を具備しない点
【相違点II】当該組成物が、本件発明13では「該組成物の0.01〜10重量%の光開始剤(ただし0.5〜5重量部のアンスラキノン系化合物又はベンゾイン系化合物を含む組成物、ならびに8%ナフテン酸マンガンを0.5部含む組成物を除く)」を含有するのに対し、甲第1号証に記載の発明のものでは、当該構成を具備しない点
【相違点III】当該組成物につき、本件発明13では、「酸素捕捉反応開始後の酸素捕捉速度が、上記エチレン性不飽和炭化水素1g当り、1気圧、25℃で1日当り少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度を示し、酸素障壁と組合せる場合には、酸素捕捉活性は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である」とするのに対し、甲第1号証に記載の発明では、当該構成が明示されない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点I及びIIについて】
訂正明細書の記載によれば、本件発明13は、酸素捕捉用組成物において、「エチレン性不飽和炭化水素」、「光開始剤」、及び遷移金属触媒を含有することにより、その余の構成と相俟って、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することができる組成物を提供することができたという、有用な効果をを奏したものである。
これに対して、甲第2号証に記載の発明及び甲第2号証のその他の記載をみても、その組成物に当該エチレン性不飽和炭化水素及び光開始剤を含有させることにつき示唆ないし教示するものは何もない。
次に、当該相違点IIにつき、甲第3〜5号証の記載を順次みる。
甲第3号証には、染料の添加されたゴムはプロジェクター光の照射により、その光の照射中、酸素除去能力を呈することが示されるものの、ここでの発明は、光の照射を止めた場合にはそのゴムの酸素除去能力が喪失するものであり、当然のこととして、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することにつき配慮するものではなく、そのうえ、エチレン性不飽和炭化水素及び光開始剤を遷移金属と共に用いることにつき教示するものは何もない。
甲第4及び5号証には、太陽光線等の環境にさらすことにより劣化ないしは分解する樹脂組成物に関する発明が記載されており、甲第4号証の発明では「不飽和炭素を有する樹脂状物質あるいはゴム状物質の一種もしくは2種以上と、遷移金属とを配合してなる樹脂組成物」が、また、甲第5号証の発明では「ポリプロピレン等の熱可塑性ビニルポリマーと遷移金属の非イオン性有機可溶性錯体を含有するプラスチック組成物」が示されるものの、それらの発明では、紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することにつき配慮するものではなく、そのうえ、エチレン性不飽和炭化水素及び光開始剤を遷移金属と共に用いることにつき教示するものは何もない。
このように、上記甲3〜5号証の発明では紫外線又は電子線の暴露後において酸素捕捉性を制御することにつき配慮するものはなく、また、エチレン性不飽和炭化水素及び光開始剤を遷移金属と共に用いることにつき教示するものは何もない。
してみれば、甲第3〜5号証に記載の発明を考慮したとしても、甲第2号証に記載の発明の組成物に対して、エチレン性不飽和炭化水素及び光開始剤を添加する動機付けがなく、甲第2〜5号証の記載から上記相違点I及びIIに関する本件発明13の構成を当業者が容易に導き出すことができない。
したがって、その他の相違点IIIにつき検討するまでもなく、本件発明13は、甲第2〜5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-2-3.本件発明2〜12及び14〜30
本件発明2〜12及び14〜30は、訂正後の請求項1又は同請求項13を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明1又は13の構成を全て具備するものである。
したがって、本件発明1につき説示した上記VI-2-1.の理由、又は、本件発明13につき説示した上記VI-2-2.の理由と同じ理由によりにより、本件発明2〜12及び14〜30は甲第2〜5号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-3.理由3について
ここでの特許異議申立人の主張の概略は、本件請求項1には、「ベンジル性(benzylic)の水素を含有する炭素化合物」、「アリル性(allylic)の水素を含有する炭素化合物」及び「第3級の水素を含有する炭素化合物」が記載されているが、これらの化合物がいかなるものかについては本件明細書に記載がないというものである。
しかし、「ベンジル性の水素を含有する炭素化合物」とはベンジル基に結合した水素を有する炭素化合物を意味すること、「アリル性の水素を含有する炭素化合物」とはアリル基に結合した水素を有する炭素化合物を意味すること、そして、「第3級の水素を含有する炭素化合物」とは第3級炭素原子(即ち、3個の別の炭素原子に単結合で結合している炭素原子、必要ならば、平成16年8月25日付け上申書に添付した参考資料、及び、平成16年10月13日付け特許異議意見書に添付した参考資料を参照)に結合した水素を有する炭素化合物を意味することは、当業者にとって明らかなことである。
そして、訂正明細書の実施例2〜5、8及び9において用いられる「1,2-ポリブタジエン」は、その化学構造からみて、当該「アリル性の水素を含有する炭素化合物」に該当し、同時に、「第3級の水素を含有する炭素化合物」に該当するものであり、また、同実施例6及び7で用いられる「プロピレン共重合体」及び「ポリ-(1-ブテン)」は、その化学構造からみて、「第3級の水素を含有する炭素化合物」に該当し、更に、同実施例10で用いられるMXDポリアミド(m-キシレンアジパミド)」は、その化学構造からみて、「ベンジル性の水素を含有する炭素化合物」に該当するものである。
してみれば、訂正明細書では、上記三種の炭素化合物につき、詳しい説明がなされていないとしても、その意味するところは当業者にとって明らかであり、また、その炭素化合物を用いた実施例が訂正明細書に記載されているのであるから、訂正明細書の発明の詳細な説明には、当該炭素化合物につき、当業者が容易に実施をすることができる程度に発明が記載されていないとはいえない。
したがって、特許異議申立人が主張する点で、本件発明1〜12の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとはいえない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜30に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜30に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
酸素捕捉用の方法および組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ベンジル性(benzylic)、アリル性(allylic)又は第3級の水素を含有する炭素化合物から選択された酸化可能な有機化合物、該有機化合物に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量で存在する遷移金属触媒、及び光開始剤を含有する組成物により、包装材又は容器内の環境から酸素を捕捉する方法であって、該組成物に、200〜750nmの波長を有する紫外線を酸化可能な有機化合物1g当り少なくとも0.1ジュールの強さで、又は電子線を0.2〜20メガラッドの放射線量で暴露することにより酸素捕捉を開始させ、開始後の酸素捕捉速度が、酸化可能な有機化合物1g当り、25℃、1気圧で1日当り酸素を少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度であり、酸素障壁と組合わせる場合には、酸素捕捉活性は、25℃において1平方メートルあたり少なくとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度である方法。
【請求項2】 該組成物が、酸素を捕捉するのに適した層状体、フィルム又は物品に組み込まれ、そしてこれら層状体、又は物品が200〜750nmの波長を有する紫外線に暴露されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】 該遷移金属触媒がコバルト塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】 該酸化可能な有機化合物が置換されている、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素を含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】 該置換エチレン性不飽和炭化水素が酸素含有部分を含むものであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】 該酸素含有部分がエステル、カルボン酸、アルデヒド、エーテル、ケトン、アルコール、過酸化物およびヒドロペルオキシドよりなるグループの一員であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】 該酸化可能な有機化合物がポリブタジエンを含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】 該酸化可能な有機化合物がポリプロピレン、ポリブチレン、プロピレン共重合体およびブチレン共重合体よりなるグループの一員であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】 該組成物がさらに1種または2種以上の酸化防止剤をも含有するものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】 該組成物が内張り材、被覆剤、密封剤、ガスケット、よりなるグループの一員中に存在することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】 該組成物が多層フィルムの少なくとも一層中に存在することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】 該フィルムが酸素感受性製品用の酸素障壁包装材の形状であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】 (a) 少なくとも1種の置換された、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素、
(b) 該炭化水素(a)に基づいて10〜10000ppmの遷移金属を有する量での少くとも1種の遷移金属触媒、および
(c) 該組成物の0.01〜10重量%の光開始剤(ただし0.5〜5重量部のアンスラキノン系化合物又はベンゾイン系化合物を含む組成物、ならびに8%ナフテン酸マンガンを0.5部含む組成物を除く)
を含有し、ここで酸素捕捉反応開始後の酸素捕捉速度が、上記エチレン性不飽和炭化水素1g当り、1気圧、25℃で1日当り少なくとも0.5ccの酸素捕捉速度を示し、酸素障壁と組合せる場合には、酸素捕捉活性は、25℃において1平方メートルあたり少くとも2日間は1気圧で1日当り1.0立方センチメートル未満の酸素透過速度であることを特徴とする酸素捕捉用組成物。
【請求項14】 該置換エチレン性不飽和炭化水素が酸素含有部分を含むものであることを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項15】 該酸素含有部分がエステル、カルボン酸、アルデヒド、エーテル、ケトン、アルコール、過酸化物およびヒドロペルオキシドよりなるグループの一員であることを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】 該遷移金属触媒がコバルト塩であることを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項17】 該(c)がベンゾフェノン、ポリ-(エチレン一酸化炭素)、及び/又は2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンであることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】 該組成物がさらに酸化防止剤をも含有することを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】 該組成物がさらに重合体性希釈剤をも含有することを特徴とする請求項13〜18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】 該重合体性希釈剤が熱可塑性重合体であることを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項21】 該熱可塑性重合体がポリ-(エチレン酢酸ビニル)であることを特徴とする請求項20に記載の組成物。
【請求項22】 請求項13-21のいずれか一つに記載された組成物を含有する層状体。
【請求項23】 該層状体が1層または2層以上の付加的な層状体と隣接していることを特徴とする請求項22に記載の層状体。
【請求項24】 該付加的な層状体の1層または2層以上が酸素障壁であることを特徴とする請求項23に記載の層状体。
【請求項25】 該付加的な層状体が該層状体と同時押出ししたものであることを特徴とする請求項23又は24に記載の層状体。
【請求項26】 該層状体が内張り材、被覆剤、密封剤、ガスケット、よりなるグループの一員であることを特徴とする請求項22〜25のいずれかに記載の層状体。
【請求項27】 物品が請求項13-21のいずれか一つに記載された組成物を含有する層状体を含むことを特徴とする酸素感受性製品の包装用物品。
【請求項28】 該層状体が1層または2層以上の付加的な層状体と隣接していることを特徴とする請求項27記載の物品。
【請求項29】 該付加的な層状体の1層または2層以上が酸素障壁であることを特徴とする請求項28記載の物品。
【請求項30】 該付加的な層状体が該層状体と同時押出ししたものであることを特徴とする請求項28又は29記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の分野】
本発明は一般には酸素感受性製品、特に食品および飲料製品を含有する環境において酸素を捕捉する組成物、物品および方法に関するものである。以下の開示から明らかになるであろうように、“酸素捕捉剤”または“捕捉剤”の語は与えられた環境から酸素を消費する、枯渇させる、またはその量を減少させる組成物を呼ぶものである。
【0002】
【発明の背景】
酸素感受性製品の酸素への暴露の制限がその製品の品質および“貯蔵寿命”を維持し、改善することは周知の事実である。たとえば、包装系において酸素感受性食品の酸素暴露を制限することにより、その食品の品質が維持され、食品の腐敗が回避される。加えて、この種の包装はまた製品の商品価値をより長く保ち、これにより、廃棄と再仕入れの必要とにより生ずる経費を減少させる。食品包装工業においては、数種の酸素暴露を制限する手段が既に開発されている。現在、より一般的に使用される手段には改良大気包装(MAP)、真空包装および酸素障壁フィルム包装が含まれる。最初の2者の場合には酸素減少雰囲気を包装に使用し、後者の場合には酸素が包装環境に入ることが物理的に防止される。
【0003】
他のより近代的な酸素暴露制限手段には、包装材構造体に酸素捕捉剤を混入させることが含まれる。捕捉剤の包装材への混入により、包装全体を通じての均一な捕捉効果が得られる。加えて、この種の混入により酸素の包装材壁の通過を妨害して捕捉し、これにより包装全体を通じて酸素のレベルを可能な最低限に維持する手段(本件明細書中においては“活性酸素障壁”と呼ぶ)が得られる。
【0004】
酸素捕捉壁に混入される酸素捕捉剤の一例は、ヨーロッパ特許出願301,719および380,319に、ならびにPCT90/00578および90/00504に説明されている。また、U.S.5,021,515をも参照されたい。これらの特許出願に開示されている酸素捕捉剤は、遷移金属とポリアミドとを含有するものである。包装壁はポリアミドにより触媒された捕捉剤を通じて包装の内部に達する酸素の量を調整する(活性酸素障壁)。しかし、この壁による有用な酸素捕捉の開始、すなわち、環境条件下で1平方メートルあたり日量約5立方センチメートル(cc)以内の酸素という結果は30日間も現れないことが見いだされている。本件明細書の実施例10を参照されたい。有用な酸素捕捉の開始までの遅れを、本件明細書においては以後誘導期と呼ぶ。
【0005】
実際に、これらの捕捉剤を混入した他の酸素捕捉剤および壁も誘導期を示すことがあり得る。たとえば、遷移金属触媒とエチレン性不飽和化合物、たとえばポリブタジエン、ポリイソプレン、脱水ヒマシ油等とを含有する酸素捕捉剤は誘導期を示す可能性がある。これらの捕捉剤は、1991年4月2日付で受理された、“酸素捕捉用の組成物、物品および方法(Compositions,Articles and Methodsfor Scavenging Oxygen)”に関する同時係属中の一連番号679,419に記載されている。酸素捕捉剤がポリブタジエンを含有する場合には、誘導期が30日を超えることがあり得る。ポリイソプレンまたは脱水ヒマシ油を含有する捕捉剤は、典型的にはより短い誘導期、すなわち、それぞれ14日および1日の遅れを有する。明らかに誘導期の持続期間は数種の要素により変化し、そのあるものは完全には理解されておらず、また、制御されていない。したがって、長い誘導期を有する酸素捕捉剤を使用する場合には、信頼性のある捕捉挙動を与えるために、捕捉剤または酸素捕捉用の層状体、およびそれから製造した物品を、捕捉剤として使用するまで有効な状態に保つことが必要になるであろう。他方、短い誘導期を有する捕捉剤を使用する場合には、捕捉剤としての最大の有効性を得るために層状体およびそれから製造した物品を迅速に製造し、短時間で、ときには即座に使用し始めなければならないであろう。そうでなければ、これらの捕捉剤は無酸素雰囲気で貯蔵しなければならず、これには費用がかかるであろう。
【0006】
酸素感受性食品用の包装における要求に応じて捕捉を開始するために使用し得るであろう一つの方法は、光酸化可能なゴム、すなわちシス-1,4-ポリイソプレンと光感受性付与用の染料とを包装材の内表面に混入し、ついでこれを可視光に暴露する工程を包含する。ルーニー(M.L.Rooney)、“酸素捕捉:ゴム光酸化の新規な使用(Oxygen Scavenging:A Novel Use of Rubber Photo-oxidation)”、化学と工業(Chemistry and Industry)、1982年3月20日号、197-198ページを参照されたい。この方法は酸素捕捉を数分以内に開始し、したがって所望の時期に酸素捕捉を開始させることができるが、捕捉効果を維持するためには包装材の光に対する定常的な暴露が必要である。さらに、染料を包含しているために、無色の包装、特に食品および飲料製品に使用する透明な、通常は無色の包装材を必要とする応用面にこの方法を使用するのは困難である。
【0007】
【発明の概要】
したがって、酸素捕捉剤の捕捉性の制御に有効な方法と新規な組成物とを開発し、必要に応じて酸素の捕捉を開始する手段を提供することが本発明の目標である。
【0008】
酸素感受性の製品を含有する物品に使用する層状体への混入に適した組成物を用いて、これらの方法を使用することも目標の一つである。
【0009】
酸素感受性の製品、特に食品および飲料製品を含有する多層物品中で酸素の捕捉を開始する方法を提供することも目標の一つである。
【0010】
上記の目標は、酸化可能な有機化合物と遷移金属触媒とを含有する組成物を用い、この組成物を放射線、たとえば紫外線または電子線に暴露して酸素を捕捉する方法により達成される。この方法はフィルム層および多層物品、特に酸素感受性製品の包装用に使用するものの中の酸素捕捉剤に使用することができる。この方法は、酸素捕捉剤を含有するフィルムまたは物品の製造中にも製造後にも使用することができる。上記の層状体または物品を酸素感受性製品の包装用に製造する場合には、この方法は製品の包装前にも、包装中にも、また包装後にも使用することができる。
【0011】
本件方法に使用する場合には、(a)置換されている、または未置換のエチエン性不飽和炭化水素、および、(b)遷移金属触媒を含有する組成物が特に好ましい。
【0012】
捕捉の開始をさらに促進し、かつ/または制御するために、この組成物が光開始剤および/または酸化防止剤を含有することも好ましい。
【0013】
上記の(a)および(b)を含有する組成物を層状体、たとえばフィルム層とともに、または層状体中で使用するならば、酸素感受性製品の包装用の新規な物品を製造することもできる。これらの物品を本件明細書に記載した方法で使用するならば、これらの物品は活性酸素障壁として作用することにより、かつ/または物品中の酸素を捕捉する手段として作用することにより酸素暴露を調整する。上記の到達点および他のものは以下の記述により明らかになるであろう。
【0014】
【発明の記述】
本発明記載の方法は、種々の分野で使用される包装用物品とともに使用することができる。包装用物品は、典型的には剛性容器、可撓性の袋、両者の組合わせ等を含む数種の形状で出現する。典型的な剛性の、または半剛性の物品には100ないし1000ミクロンの範囲の壁厚を有するプラスチック、紙またはボール紙の箱またはビン、たとえばジュース容器、軟質飲料容器、熱成形皿またはカップが含まれる。典型的な可撓性の袋には多くの食品の包装に使用されるものが含まれ、恐らくは5ないし250ミクロンの厚さを有するであろう。この種の物品の壁は材料の単層よりなるものであっても多層よりなるものであってもよい。
【0015】
本発明記載の方法はまた、非複合性の酸素捕捉剤成分または層状体、たとえば被覆材、ビンのキャップの内張り材、ガスケット、密封剤を有する包装材に使用することもできる。
【0016】
この種の包装用物品に包装される製品には食品および飲料のみでなく、医薬、医学用製品、腐食性金属または電子装置等のような製品も含まれる。
【0017】
本発明記載の方法を使用するためには、本件酸素捕捉剤またはそれから製造した層状体もしくは包装用物品は酸化可能な有機化合物を含有すべきである。この種の化合物には、ベンジル性、アリル性、及び/または第3級の水素を含有する炭素化合物が含まれるが、これに必然的に限定されるものではない。
【0018】
特定の化合物には α-オレフィンの重合体および共重合体が含まれる。この種の重合体の例は低密度ポリエチレン、極低密度ポリエチレンおよび超低密度ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブチレンすなわちポリ-(1-ブテン);プロピレン共重合体;ブチレン共重合体;水素化ジエン重合体等である。
【0019】
適当な酸化可能な化合物には芳香族ポリアミド、たとえば m-キシレンアジパミドのようなポリアミドも含まれる。他の適当なポリアミドはヨーロッパ特許出願301,719に開示されている。
【0020】
上に述べたように、置換されている、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素を本発明とともに使用することが特に好ましい。本件明細書中で定義したように、未置換エチレン性不飽和炭化水素は少なくとも1個の脂肪族炭素-炭素二重結合を有し、炭素と水素とが100重量%を占める全ての化合物である。置換エチレン性不飽和炭化水素は、本件明細書中では少なくとも1個の脂肪族炭素-炭素二重結合を有し、炭素と水素とが約50重量%ないし99重量%を占めるエチレン性不飽和炭化水素として定義される。好ましい置換、または未置換エチレン性不飽和炭化水素は、1分子あたりに2個または3個以上のエチレン性不飽和基を有するものである。より好ましくは、3個または4個以上のエチレン性不飽和基と1,000またはそれ以上の重量平均分子量とを有する重合体化合物である。
【0021】
未置換エチレン性不飽和炭化水素の好ましい例にはジエン重合体、たとえばポリイソプレン、ポリブタジエン(特に、50%より大きな、またはこれと等しい1,2微細構造を有するポリブタジエンとして定義される1,2-ポリブタジエン)、およびその共重合体、たとえばスチレン-ブタジエン共重合体が含まれるが、これに限定されるものではない。この種の炭化水素にはまた重合体化合物、たとえばポリペンテナマー、ポリオクテナマー、およびオレフィン複分解により製造される他の重合体;ジエンオリゴマー、たとえばスクアレン;ならびにジシクロペンタジエン、ノルボルナジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、または2個以上の炭素-炭素二重結合(共役または非共役)を有する他の単量体から誘導される重合体または共重合体も含まれる。これらの炭化水素には、さらにカルテノイド、たとえばβ-カロテンも含まれる。
【0022】
好ましい置換エチレン性不飽和炭化水素には酸素含有部分を有するもの、たとえばエステル、カルボン酸、アルデヒド、エーテル、ケトン、アルコール、過酸化物、および/またはヒドロペルオキシドが含まれるが、これに限定されるものではない。この種の炭化水素の特定の例には縮合重合体、たとえば炭素-炭素二重結合を有する単量体から誘導されたポリエステル;不飽和脂肪酸、たとえばオレイン酸、リシノレイン酸、脱水リシノレイン酸およびリノレイン酸、ならびにこれらの誘導体、たとえばエステルが含まれるが、これに限定されるものではない。この種の炭化水素にはまた、(メタ)アクリル酸(メタ)アリルから誘導された重合体または共重合体も含まれる。
【0023】
使用する組成物はまた、2種または3種以上の上記の置換されている、または未置換のエチレン性不飽和炭化水素の混合物を含有していてもよい。
【0024】
これも明らかになるように、室温において固体透明層を形成するのに適したエチレン性不飽和炭化水素が上記の包装用物品中の酸素の捕捉用に好ましい。透明性が必要な大部分の応用面には、可視光の少なくとも50%を透過させる層状体が受容される。
【0025】
1,2-ポリブタジエンから製造した透明な酸素捕捉性層状体および包装用物品が特に好ましい。これらのフィルムは、たとえばポリエチレンのものと同等の透明度、機械的性質および加工特性を示す。加えて、これらのフィルムはその酸素容量の大部分、または全てを消費したのちにおいても、また、希釈剤樹脂がほとんど、または全く存在しない場合にも、その透明性および機械的な完全性を維持する。さらに、この種のフィルムは比較的高い酸素容量をも示し、捕捉が始まれば比較的高い捕捉速度をも示す。
【0026】
上記のように、本発明記載の方法は遷移金属触媒を含有する捕捉用組成物、層状体または物品とともに使用する。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、好ましい触媒は少なくとも2種の酸化状態の間で容易に相互転化し得るものである。シェルドン(R.A.Sheldon)、コーチ(J.K.Kochi);“有機化合物の金属触媒酸化(Metal-Catalyzed Oxidation of Organic Compounds)”、アカデミックプレス(Academic Press,New York)1981を参照されたい。
【0027】
本件触媒は好ましくは塩の形状であり、その金属は周期表の第1、第2または第3遷移系列から選択する。適当な金属にはマンガン(II)または(III)、鉄(II)または(III)、コバルト(II)または(III)、ニッケル(II)または(III)、銅(I)または(II)、ロジウム(II)、(III)または(IV)およびルテニウムが含まれるが、これに限定されるものではない。導入時の金属の酸化状態は、活性形状のものである必要はない。この金属は好ましくは鉄、ニッケルまたは銅、より好ましくはマンガン、最も好ましくはコバルトである。この金属の適当な対イオンには塩化物イオン、酢酸イオン、ステアリン酸イオン、パルミチン酸イオン、2-エチルヘキサン酸イオン、ネオデカン酸イオンまたはナフテン酸イオンが含まれるが、これに限定されるものではない。特に好ましい塩には 2-エチルヘキサン酸コバルト(II)およびネオデカン酸コバルト(II)が含まれる。金属塩はイオノマーであってもよく、この場合には重合体性対イオンを使用する。この種のイオノマーは当該技術で周知されている。
【0028】
明らかになるであろうように、本発明記載の方法は、酸化可能な有機化合物と遷移金属触媒とのみから、光開始剤なしで製造した組成物、層状体または包装用物品中で酸素捕捉を開始させることもできるが、光開始剤または酸化防止剤のような成分も、酸化捕捉性の開始をさらに促進、または制御するために添加することができる。さらに、希釈剤のような付加的な成分を添加して、本件層状体を包装用層状体としての使用に、より受容され易くすることもできる。
【0029】
たとえば、組成物の時期尚早の酸化を防止するために酸素捕捉剤の製造に使用する組成物に酸化防止剤が含有されているならば、この組成物に光開始剤または種々の光開始剤の混合物を添加するのがしばしば好ましい。
【0030】
適当な光開始剤は当業者に周知されている。特定の例にはベンゾフェノン、o-メトキシベンゾフェノン、アセトフェノン、o-メトキシアセトフェノン、アセナフテンキノン、メチルエチルケトン、バレロフェノン、ヘキサノフェノン、α-フェニルブチロフェノン、p-モルホリノプロピオフェノン、ジベンゾスベロン、4-モルホリノベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、4-o-モルホリノデオキシベンゾイン、p-ジアセチルベンゼン、4-アミノベンゾフェノン、4′-メトキシアセトフェノン、α-テトラロン、9-アセチルフェナントレン、2-アセチルフェナントレン、10-チオキサンテノン、3-アセチルフェナントレン、3-アセチルインドール、9-フルオレノン、1-インダノン、1,3,5-トリアセチルベンゼン、チオキサンテン-9-オン、キサンテン-9-オン、7-H-ベンズ[de]アントラセン-7-オン、ベンゾインテトラヒドロピラニルエーテル、4,4′-ビス- (ジメチルアミノ)-ベンゾフェノン、1′-アセトナフトン、2′-アセトナフトン、アセトナフトンおよび 2,3-ブタンジオン、ベンズ[a]アントラセン-7,12-ジオン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、α,α-ジエトキシアセトフェノン、α,α-ジブトキシアセトフェノン等が含まれるが、これに限定されるものではない。一重項酸素発生光増感剤、たとえばローズベンガル、メチレン青およびテトラフェニルポルフィンも、光開始剤として使用することができる。重合体開始剤にはポリ-(エチレン一酸化炭素)およびオリゴ-[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)-フェニル]-プロパノン]が含まれる。一般にはより迅速な、より効率的な開始が得られるので、光開始剤の使用が好ましい。化学作用放射線を使用する場合には、開始剤はより長い波長での開始を可能にし、これが発生の費用を軽減し、害の少ないものにする。
上記のように、捕捉開始を制御するために酸化防止剤を本発明に使用することができる。本件明細書で定義される酸化防止剤は、重合体の酸化的分解または架橋を阻止する全ての物質である。典型的には、この種の酸化防止剤は重合体材料の加工を容易にするために、および/またはその有用な寿命を延長するために添加される。本発明との関連において、この種の添加剤は放射線の不存在における酸素捕捉に関する誘導期を延長する。したがって、層状体の、または物品の捕捉性が必要な場合には、層状体または物品(および混入された全ての光開始剤)は放射線に暴露すればよい。
【0031】
酸化防止剤、たとえば2,6-ジ-(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)、2,2′-メチレンビス-(6-t-ブチル-p-クレゾール)、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス-(ノニルフェニル)およびチオジプロピオン酸ジラウリルが本発明での使用に適しているでろう。
【0032】
本発明記載の方法はまた、フィルム形成性の希釈剤重合体を含有する酸素捕捉用層状体に使用することもできる。この種の重合体は熱可塑性のものであり、フィルムを包装用層状体としての使用に受け入れ易くする。これらはまた、ある程度は酸化可能なものであってもよく、したがって、酸素捕捉剤配合剤中で酸化可能な有機化合物として機能することもできる。適当な希釈剤にはポリエチレン、低密度ポリエチレン、極低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ならびにエチレン共重合体、たとえばエチレン-酢酸ビニル、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル、エチレン-(メタ)アクリル酸およびエチレン-(メタ)アクリル酸イオノマーが含まれるが、これに限定されるものではない。剛体物品、たとえば飲料容器においては PET がしばしば使用される。種々の希釈剤の混合物も使用し得るが、重合体希釈剤の選択は、製造すべき物品とその最終用途とに大幅に依存する。この種の選択要因は当該技術で周知されている。たとえば透明性、清浄性、酸素捕捉剤としての有効性、障壁性、機械的性質および/または物品の構造が、酸化可能な有機化合物との混和性に欠ける希釈剤重合体を含有する混合物により不利益な影響を受けることがあり得るのである。
【0033】
酸素捕捉剤層状体に含有させ得る他の添加剤には、充填剤、顔料、染料、安定剤、加工助剤、可塑剤、難燃剤、かすみ防止剤等が含まれるが、これに必然的に限定されるものではない。
【0034】
酸素捕捉用の層状体および物品を製造するには、その所望の成分を好ましくは50℃ないし300℃の範囲の温度で熔融混合するが、たとえば溶媒を使用し、続いて蒸発させる代替法を使用することもできる。混合の直後に最終物品または予備成形体を形成させることも、その後の最終的な包装用物品の製造における使用のための貯蔵品またはマスターバッチを形成させることもできる。混合済みの組成物を使用してフィルム層または物品を製造する場合には、典型的には混合に続いて(共)押出し、溶媒鋳込み、射出成形、伸長ブロー成形、配向、熱成形、押出し被覆、被覆と硬化、ラミネーションまたはこれらの組合わせを行う。
【0035】
酸素捕捉用組成物、層状体および/または物品中で使用する各成分の量は、本件方法の使用、有効性および結果に影響を与える。たとえば、酸化可能な有機化合物、遷移金属触媒、ならびに使用するならば光開始剤、酸化防止剤、重合体希釈剤および添加剤の量は、物品とその最終用途とに応じて変化することがあり得る。
【0036】
たとえば、酸素捕捉剤中の酸化可能な有機化合物の主要な機能は捕捉工程中で酸素と不可逆的に反応することであるが、遷移金属触媒の主要な機能はこの工程を容易にすることである。したがって、酸化可能な有機化合物の量は組成物の酸素容量に、すなわち、組成物が消費し得る酸素の量に大幅な影響を与えるであろう。遷移金属触媒の量は酸素の消費速度に影響を与えるであろう。遷移金属触媒の量は、これが主として捕捉速度に影響を与えるために、誘導期にも影響を与える可能性がある。
【0037】
酸化可能な有機化合物の量は、酸化可能な有機化合物と遷移金属触媒との双方(本件明細書中では、以後、たとえば共押出しフィルム中の“捕捉用成分”と呼び、この捕捉用成分は、酸化可能な化合物と遷移金属触媒との双方がともに存在する特定の層状体を含むであろう)が存在する組成物または層状体の1ないし99重量%の、好ましくは10ないし99重量%の範囲が可能である。
【0038】
典型的には、遷移金属触媒の量は、金属含有量のみ(配位子、対イオン等を除く)を基準にして、上記の捕捉用成分の0.001ないし1%(10ないし10,000ppm)の範囲が可能である。遷移金属触媒の量が1%未満である場合には、酸化可能な有機化合物および、存在するならば希釈剤または添加剤は、捕捉用成分の実質的に全量を、すなわち、酸化可能な有機化合物に関して上に述べたように、99%以上を占めるであろう。
【0039】
光開始剤を使用する場合には、その主要な機能は放射線への暴露に際して酸素捕捉の開始を強調し、促進することである。光開始剤の量も変化する可能性がある。多くの場合に、この量は使用する酸化可能な化合物、使用する放射線の波長および強度、使用する酸化防止剤の性質および量、ならびに使用する光開始剤の型に応じて変化する。光開始剤の量はまた、捕捉用成分の使用方法に応じても変化する。たとえば、光開始剤含有成分を、使用する放射線に対して若干不透明な層状体の下に置くならば、より多量の開始剤が必要となるであろう。
【0040】
しかし、大部分の目的には、光開始剤を使用するならばその量は、全組成物の0.01ないし10重量%の範囲であろう。
【0041】
酸化防止剤を使用するならば、組成物中に存在し得るその量も本件方法の結果に影響を与えるであろう。上記のように、この種の物質は通常は酸化可能な有機化合物または希釈剤重合体中に存在して、重合体の酸化および/またはゲル化を防止する。典型的には、これらは約0.01ないし1重量%存在するが、所望ならば、余分な量の酸化防止剤を添加して誘導期を上記のように調整することもできる。
【0042】
1種または2種以上の希釈剤重合体を使用する場合には、これらの重合体は全体として捕捉剤組成物の99重量%をも占めることができる。
【0043】
使用するいかなる他の添加剤も通常は捕捉用成分の10%以上を占めず、好ましい量は捕捉用成分の5重量%以下である。
【0044】
上記のように、本発明は単一の捕捉用層状体とともにでも、多層物品中に存在する捕捉用層状体とともにでも使用することができる。単一層物品は溶媒鋳込み法により、または押出し成形により製造することができる。多層物品は典型的には共押出し、被覆および/またはラミネーションを用いて製造する。
【0045】
多層物品の付加的な層は“酸素障壁”層を、すなわち、室温、すなわち約25℃における毎気圧日量で、1平方メートルあたり500立方センチメートル(cc/m2)、またはそれ以下の酸素透過速度を有する材料の層を含んでいてもよい。典型的な酸素障壁は、ポリ-(エチレンビニルアルコール)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリ-(二塩化ビニリデン)、ポリエチレンテレフタレート、シリカおよびポリアミドよりなるものである。上記のある種の物質の共重合体および金属箔層を使用することもできる。
【0046】
他の付加的な層状体は、1層または2層以上の酸素を透過させる層を含んでいてもよい。一つの好ましい包装用構造体、特に食品用の可撓性包装材用のものにおいては、層状体は包装の外側から始まって包装の最も内側の層まで順次に、(i)酸素障壁層、(ii)捕捉層、すなわち上に定義した捕捉用成分、および任意に(iii)酸素透過層を含んでいる。(i)の酸素障壁性の制御は、捕捉用成分(ii)への酸素の流入速度を制限し、ひいては捕捉容量の消耗速度を制限して包装材の捕捉寿命を調整する手段を可能にする。層(iii)の酸素透過性の制御は、捕捉用成分(ii)の組成とは独立に、構造体全体についての酸素捕捉速度に上限を設定する手段を可能にする。これは、包装の密封に先立って、空気の不存在でフィルムの寿命を延長し、操作する目的に役立つ。さらに、層(iii)は捕捉用フィルム中の個々の成分の、または捕捉の副生成物の包装内部への移動に対する障壁を提供することもできる。さらに、層(iii)はまた、熱熔封性、透明性および/または多層フィルムのブロッキングに対する抵抗性をも改良する。
【0047】
その他の付加的な層、たとえば接着層も使用することができる。接着層に典型的に使用される組成物には、無水物機能性のポリオレフィンおよび他の周知の接着層が含まれる。
【0048】
各成分を選択し、所望の捕捉用組成物、層状体または物品用に配合したところで、本発明記載の方法は酸素捕捉を開始させるためにこの組成物、層状体または物品の放射線への暴露を使用する。酸素捕捉の誘導期を有意に減少または消失させるように酸素捕捉剤中で酸素捕捉を開始させることを、本件明細書中では捕捉を促進すると定義する。上記のように、誘導期は捕捉用組成物が有用な捕捉性を示すまでの時間である。さらに、酸素捕捉の開始はまた、放射線の不存在で中間的な誘導期を有する組成物に適用することもできる。実施例6を参照されたい。酸素捕捉を開始させる正確な手法は知られていないが、いかなる特定の理論にも拘束されることなく、酸素捕捉剤を放射線に暴露すると以下の1種または2種以上の事象が生じると考えられる:
(a) いかなるものであれ酸化防止剤が存在するならば、そのかなりのものが消耗して酸化を進行させる;
(b) 金属の酸化状態および/または配位子の構造の変化により遷移金属触媒が活性化されて、その捕捉に関する効果が増強される;または、
(c) 存在、または残留する全ての酸化防止剤の阻止効果にも拘わらず、系中に存在する遊離基および/または過酸化物種がかなり増加する。
【0049】
本件方法に使用する放射線には化学作用放射線、たとえば約200ないし750ナノメートル(nm)の波長を有する、好ましくは約200ないし400nmの波長を有する紫外線又は電子線が可能である。この方法を使用する場合には、酸素捕捉剤を、捕捉用成分1グラムあたり少なくとも0.1ジュール暴露するのが好ましい。暴露の典型的な量は1グラムあたり10ないし100ジュールの範囲である。放射線はまた、約0.2ないし20メガラッドの、好ましくは約1ないし10メガラッドの線量の電子線であってもよい。他の放射線源にはイオン化放射線、たとえばガンマ線、X-線およびコロナ放電が含まれる。放射線暴露は好ましくは酸素の存在下に行う。暴露の継続時間は、存在する光開始剤の量および型、暴露すべき層状体の厚さ、存在する全ての酸化防止剤の量、ならびに放射線源の波長および強度を含むがこれに限定されない数種の要因に応じて変化する。
【0050】
酸化捕捉用の層状体または物品を使用する場合には、放射線への暴露は層状体または物品の製造中であっても製造後であってもよい。得られる層状体または物品を酸素感受性製品の包装に使用するならば、暴露は包装の直前であっても包装中であっても、包装後であってもよいが、いずれにせよ、放射線暴露は層状体または物品の酸素捕捉剤としての使用の前であることが必要である。放射線を最大限に均一にするためには、暴露は層状体または物品が平坦なシートの形状である加工段階で行うべきである。
【0051】
本発明記載の方法を最も効率的な手法で使用するためには、酸素捕捉剤の酸素捕捉能力、たとえば速度および容量を測定することが好ましい。酸素捕捉速度を測定するには、捕捉剤が一定量の酸素を密閉容器から消尽させるまでに経過する時間を測定する。ある場合には、以下の方法により捕捉剤の速度を適当に測定することができる。ある種の酸素含有雰囲気、たとえば典型的には20.6体積%の酸素を含有する空気の気密な密閉容器中に所望の捕捉剤よりなるフィルムを入れる。ついで、一定時間ののち、容器の内側の大気の試料を取り出して残留酸素の百分率を測定する。通常は、得られる特定の速度は温度および雰囲気の条件が異なれば変化する。以下に示した速度は、これが多くの場合に、酸素捕捉剤および/または層状体、ならびにこれから製造した物品を使用する諸条件を最もよく代表するので、室温1気圧における値である。
【0052】
活性酸素障壁が必要な場合には、有用な捕捉速度は、空気中25℃、1気圧での捕捉用成分中の酸化可能な有機化合物1グラムあたりの日量で、酸素(O2)0.05ccという低い値であり得るが、ある種の組成物、たとえばエチレン性不飽和の酸化可能な有機化合物を含有するものは、1グラムあたりの日量で酸素0.5cc、またはそれ以上の速度の能力を有するので、この種の組成物を包装内部からの酸素捕捉に適したもの、また、活性酸素障壁の応用面に適したものにする。エチレン性不飽和炭化水素を含有する捕捉剤は、1グラムあたりの日量で5.0ccまたはそれ以上の、より好ましい速度も可能である。
【0053】
一般には、活性酸素障壁としての使用に適したフィルム層は、25℃、1気圧の空気中で測定して、1平方メートルあたりの日量で酸素1ccという低い捕捉速度を有する可能性があるが、エチレン性不飽和炭化水素を含有する層状体は同一の条件下で、1平方メートルあたりの日量で酸素10ccを超える捕捉速度が可能であり、1平方メートルあたりの日量で酸素約25cc、またはそれ以上の酸素捕捉速度を有する可能性もある。このような速度は、上記の層状体を包装の内部からの酸素の捕捉に適した、また、活性酸素障壁の応用面に適したものにする。
【0054】
本件方法を活性酸素障壁の応用とともに使用することが望ましい場合には、いずれかの酸素障壁との組合わせで開始される酸素捕捉活性は25℃において、1平方メートルあたり毎気圧の日量で約1.0立方センチメートル未満の全酸素透過速度を生むべきである。酸素捕捉容量は、少なくとも2日間はこの透過速度を超えないものであるべきである。
【0055】
多くの商業的な応用面で、捕捉速度が可能な限り迅速に、好ましくは約4週間以内に0.1%未満の内部酸素レベルを達成し得るものであることが期待される。““エイジレス”-食品保存の新時代(“AgelessR”- A New Age in Food Preservation)”(日付不明)という標題の三菱ガス化学社(Mitsubisi Gas and Chemical Company,Inc.)の文献を参照されたい。
【0056】
捕捉が開始されれば、捕捉剤、層状体またはこれから製造された物品はその能力の限度まで、すなわち、捕捉剤が無効になる以前に消費し得る酸素の量まで捕捉し得るはずである。実際の使用においては、与えられた応用面に必要な容量は以下の諸条件に応じて定まる:
(1) 包装品中に最初に存在する酸素の量、
(2) 捕捉性の不存在における包装品内への酸素の流入速度、および
(3) 包装品に意図された貯蔵寿命。
【0057】
エチレン性不飽和化合物を含有する捕捉剤を使用する場合には、その容量は1グラムあたり酸素1ccという低いものでもあり得るが、少なくとも1グラムあたり酸素50ccでもあり得る。この種の捕捉剤が層状体中に存在する場合には、この層状体は好ましくは厚さ1ミル、1平方メートルあたり少なくとも酸素250ccの、より好ましくは厚さ1ミル、1平方メートルあたり少なくとも酸素1200ccの酸素容量を有する。
【0058】
本発明の実施態様とその利点とをさらに説明するために以下の実施例を提出するが、これらの実施例は決して限定的なものを意味するわけではなく、単に説明的なものである。実施例中に示した百分率は配合剤に対する重量百分率である。未照射の対照例を含む以下の全ての試料は試験中、環境光に暴露してあった。これが、その捕捉性の若干の変化を説明し得るものと考えられる。
【0059】
【実施例】
実施例1
マスターバッチの製造
連続混和とペレット化操作とにより遷移金属触媒を含有するマスターバッチを製造した。特に、9%の酢酸ビニル含有量を有するポリ-(エチレン酢酸ビニル)(EVA-9)とムーニー・ケミカル(Mooney Chemicals)社製のテンケム(TEN-CEMR)ネオデカン酸コバルト(コバルト22.5重量%)のペレットとの乾燥混合物を、ストランドダイを装備したブラベンダー(BRABENDERR)対向回転、相互噛合い、双スクリュー押出し機のホッパーに入れた。使用した触媒の量は2.3重量%で、マスターバッチ中のコバルトは5000ppmとなった。この押出し機を120℃に、ダイは110℃に維持した。得られるストランドを水浴に通じて冷却し、ついでエアナイフで乾燥した。ついで、このストランドをキリオン(KILLIONR)ペレタイザーに供給した。得られるペレットを本件明細書中では“コバルトマスターバッチ”と呼ぶが、これを以下に説明する配合剤中で使用する。10%のベンゾフェノン光開始剤(アルドリッチ(Aldrich))と5000ppmのテンケムコバルトとを含有する第2のマスターバッチを同様の方法で製造した。この第2のマスターバッチは、本件明細書中では“コバルトベンゾフェノンマスターバッチ”と呼ぶ。
【0060】
実施例2
フィルムの製造と試験
実施例1で説明したコバルトマスターバッチを用い、他成分との共押出しにより多層ブロー成形フィルムを製造した。得られたフィルムは約3ミルの厚さを有する2層構造体であった。1層はポリ-(エチレン酢酸ビニル)を含有し、他の(捕捉用)層は日本合成ゴム社製のRB830 1,2-ポリブタジエン80%、コバルトマスターバッチ10%、および光開始剤として含有されるダウ・ケミカル(Dow Chemical)社製のポリ-(エチレン一酸化炭素)(CO 10%)1%を含有していた。この捕捉用の層は厚さ約1.5-2.0ミルであった。それぞれ約5gの重量を有するこのフィルムの試料を照射し、ついで体積400ccの空気を含有する障壁袋中で密封した。ついで、この袋から気密注射器を付けた接着性のゴム帯を通して気体試料(4cc)を取り出し、モコン(MOCONR)LC700F型酸素分析器で分析した。以下の表は、このフィルムの捕捉活性とフィルムを照射した放射線の型および継続時間または量とを示す。直下の表、および他の実施例の下の表中の破線(---)は、試料を取らなかったことを示す。以下の結果は特に、この特定のフィルムのUV照射した試料と電子線照射した試料とが対照例より効果的であることを示している。最も効果的な開始は、高線量の電子線でのものであった。
【0061】
【表1】


実施例3
捕捉用層がRB830 1,2-ポリブタジエン90%と実施例1のコバルトベンゾフェノンマスターバッチ10%とであったことを除いて、実施例2と同様にして第2のフィルムを製造し、試験した。直下の表は、試験結果と使用した照射の型および継続時間または線量とを示す。下の結果は、この特定の型のフィルムにおいてベンゾフェノン開始剤がポリ-(エチレン一酸化炭素)より効果的であることを示している。実施例2と比較されたい。この結果はまた、この特定の型のフィルムではUVAが電子線照射より効果的であることをも示している。
【0062】
【表2】

実施例4
このフィルム試料も、捕捉用層がRB830 1,2-ポリブタジエン90%と実施例1のコバルトマスターバッチ10%とよりなるものであったことを除いて、実施例2と同様にして製造し、試験した。下の表は、試験結果と使用した照射の型および継続時間または線量とを示す。下の結果は、この特定の型のフィルムでは電子線照射のみ、すなわち光開始剤なしでも酸素捕捉を開始させるのに十分であることを示している。
【0063】
【表3】


実施例5
このフィルムも、捕捉用層がRB830 1,2-ポリブタジエン80%、ポリ-(エチレン一酸化炭素)(CO10%)10%および実施例1のコバルトベンゾフェノンマスターバッチ10%とよりなるものであったことを除いて、実施例 2 と同様にして製造し、試験した。下の表は、試験結果と使用した照射の型および継続時間または線量とを示す。この結果は、この特定の型のフィルムでは光開始剤の混合物を使用し得ることを示している。
【0064】
【表4】


実施例6
エチレン-プロピレン共重合体(エチレン5%)90重量%とコバルトベンゾフェノンマスターバッチ10重量%とよりなる配合剤をブラベンダー混合室中で製造した。ついで、それぞれ約3gの重量の2枚のフィルムをカーバー(CarverR)実験室用プレスでプレス成形し、実施例2の記述と同様にして試験した。下の表は試験結果を示す。この結果は、第3級水素を有する重合体を含有するフィルム中で酸素捕捉を開始させ得ることを示している。
【0065】
【表5】


実施例7
90%のアルドリッチ製ポリ-(1-ブテン)(熔融指数=20)と10%のコバルトベンゾフェノンマスターバッチとよりなる配合剤を、ブラベンダー混合室中で製造した。2-3グラムの範囲の重量を有する2枚のフィルムをプレス成形し、実施例6の記述と同様にして試験した。以下の表は試験結果を示す。この結果は実施例6に示したものと同等である。
【0066】
【表6】


実施例8
この実施例は、より短い波長のUVへの暴露(UVBおよびUVC)により、光開始剤を使用した場合にも(実施例2および3)、使用しない場合にも(実施例4)酸素捕捉をより短い時間内に開始させ得ることを示すものである。この結果はまた、連続法における放射線の有効性をも示している。
【0067】
実施例2-4に記載した4枚のフィルムを、中圧水銀アーク灯を用いるコーライト(COLIGHTR)紫外線装置で照射した。これらの試料は2種の方法の一方で照射した。方法Aにおいては、フィルムの一片を反射性の剛体裏板に付着させ、毎分10メートル(m/分)で上記のアーク灯の下を通過させた。方法Bにおいては、フィルムのロールを10m/分の速度でアーク灯の下(枠から枠まで)を通過させた。上記の速度では紫外線装置は約180mJ/cm2を与えた。試験用の各フィルム試料は約7gの重量を有し、500ccの空気を含有する障壁袋中で試験した。UV出力は、EIT365CH1型集積UVラジオメーターで測定した。下の表はこれらの試験結果を示す。
【0068】
【表6】


実施例9
以下の配合剤をブラベンダー混合室中で製造した:RB830 1,2-ポリブタジエン45.0g、チバガイギー(Ciba-Geigy)社製のイルガキュア(IRGACURER)651光開始剤0.45g、および500重量ppmのコバルトとするのに十分な量のアクゾ社(Akzo Inc.)製のヌーリードライ(NOURY-DRYR)2-エチルヒキサン酸コバルト貯蔵溶液。ついで、この配合剤から2枚の2-3gのフィルムをプレス成形し、実施例2と同様にして試験した。以下の表はこれらの結果を示す。これらの結果は2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、すなわち イルガキュア651光開始剤の有効性を示している。
【0069】
【表7】


実施例10
以下の実施例は、三菱ガス化学社製のMXD6規格6001(m-キシレンアジパミド)樹脂を用いる酸素捕捉の開始を示すものである。MXD6ポリアミドを熱酢酸から溶媒鋳込み成形して2種の配合剤を製造した。配合1は、3.3gのMXD6ポリアミドとコバルト500ppmとするのに十分な量のアクゾケミカル社のヌーリードライコバルト溶液とを含有するものであった。配合2は、3.1gのMXD6ポリアミド、0.038gのベンゾフェノン(アルドリッチ)、およびコバルト500ppmとするのに十分な量のヌーリードライコバルト溶液を含有するものであった。残留酢酸は真空炉中でフィルムから除去した。配合1からのフィルムは照射せず、配合2からのものは1.6mW/cm2で10分間(UV)照射した。双方のフィルムとも、400ccの空気を有する障壁袋中で試験した。
【0070】
【表8】


実施例11
実施例3に記述したフィルムの一部を実施例3の記述と同様の手法でUV放射線aに暴露した。ついで、このフィルムを暗所に保管したことを除いて、上の実施例2の記述と同様にしてこのフィルムを試験した。下の結果は、酸素捕捉が開始したのちには放射線への暴露を停止しても捕捉が継続することを示している。
【0071】
【表9】

以下の対照例は、本発明記載の酸素捕捉方法が遷移金属触媒の存在を必要とすることを示すものである。
【0072】
対照例1
ポリブタジエン層状体が100%のRB830 1,2-ポリブタジエンよりなるものであったことを除いて、実施例2と同様にして共押出しフィルムを製造した。このフィルムに7.6メガラッドの線量の電子線を与え、ついで、上記のようにして捕捉に関して試験した。結果は直下の表に示してある。
【0073】
【表10】

対照例2
RB830 1,2-ポリブタジエンのビーズから6.7gのフィルムをプレス成形した。ついで、このフィルムを1.6mW/cm2のUVAで10分間照射し、障壁袋が130ccの空気を含有するのみであったことを除いて、上記のものと同様にして捕捉を試験した。結果は直下の表に示してある。
【0074】
【表11】


 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-14 
出願番号 特願平4-188988
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C09K)
P 1 651・ 531- YA (C09K)
P 1 651・ 161- YA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村守 宏文  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 大黒 浩之
岡田 和加子
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3334056号(P3334056)
権利者 クライオバツク・インコーポレイテツド
発明の名称 酸素捕捉用の方法および組成物  
代理人 大谷 保  
代理人 小田島 平吉  
代理人 小田島 平吉  

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