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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1121128
異議申立番号 異議2003-70908  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-14 
確定日 2005-06-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3333600号「高強度Al合金フィン材およびその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3333600号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3333600号の請求項1乃至4に係る発明についての出願は、平成5年9月6日に特許出願され、平成14年7月26日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、古河電気工業株式会社より請求項1乃至4に係る発明についての特許に対し、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成15年11月11日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至kのとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:請求項1及び2の「高強度Al合金フィン材」に係る発明を削除する。また、請求項1及び2の削除に伴って、請求項1又は請求項2の記載を引用する請求項3の「高強度Al合金フィン材の製造方法」に係る発明について、請求項1を引用する内容を請求項1として、請求項2を引用する内容を請求項2として、それぞれ独立記載形式で記載すると共に、旧請求項1又は2の「シリコン(Si):0.7〜1.5%」を「シリコン(Si)1.01〜1.5%」と、旧請求項3の「Al合金を溶製し、」を「高強度Al合金を溶製し、」とそれぞれ訂正する。さらに、旧請求項4の「請求項3に記載の」を「請求項1又は請求項2に記載の」と訂正すると共に、その項番号を「請求項3」と訂正する。
(2)訂正事項b:発明の名称の「高強度Al合金フィン材およびその製造方法」を「高強度Al合金フィン材の製造方法」と訂正する。
(3)訂正事項c:明細書の段落【0001】の「高強度Al合金フィン材およびその製造方法」を「高強度Al合金フィン材の製造方法」と訂正する。
(4)訂正事項d:明細書の段落【0012】の「第1発明の高強度Al合金フィン材は、」を「第1発明のAl合金フィン材の製造方法は、」と訂正し、「Si:0.7〜1.5%」を「Si:1.01〜1.5%」と訂正すると共に、「化学成分組成を有することに特徴を有するものである。」を、「化学成分を有する高強度Al合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロールを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とすることに特徴を有するものである。」と訂正する。
(5)訂正事項e:明細書の段落【0013】の「第2発明の高強度Al合金フィン材は、」を「第2発明の高強度Al合金フィン材の製造方法は、」と訂正する。
(6)訂正事項f:明細書の段落【0014】の記載を削除する。
(7)訂正事項g:明細書の段落【0015】の「第4発明の」を「第3発明の」と訂正し、「第3発明において、」を「第1発明または第2発明において、」と訂正する。
(8)訂正事項h:明細書の段落【0017】の「その含有量が0.7%未満では、」を「その含有量が1.01%未満では、」と訂正し、また、「0.7〜1.5%の範囲内に」を「1.01〜1.5%の範囲内に」と訂正する。
(9)訂正事項i:明細書の段落【0025】の「No.A〜E]を「No.A、C、E」と訂正する。
(10)訂正事項j:明細書の段落【0026】の「表1」の本発明「No.B」及び「No.D」を削除する。
(11)訂正事項k:明細書の段落【0030】の「表3」の本発明「No.B」及び「No.D」を削除する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、訂正前の請求項1、2を削除すると共に、この請求項1、2の削除に伴って訂正前の請求項1及び請求項2を引用した請求項3を2つに分け、それぞれ請求項1及び請求項2とし、訂正前の請求項4を請求項3と訂正するものである。また、訂正前の請求項1及び請求項2のシリコンの含有量の下限「0.7%」を「1.01%」と訂正すると共に、訂正前の請求項3の「Al合金を溶製し、」を「高強度Al合金を溶製し、」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
訂正事項b乃至kは、いずれも訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、その発明の名称の訂正や特許明細書の記載の整合性を図るための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、訂正事項a乃至kの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、いずれも新規事項に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件訂正発明
平成15年11月11日付け訂正請求は、これを認容することができるから、訂正後の請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件訂正発明1乃至3」という)は、訂正明細書の請求項1乃至3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】重量%で、
マンガン(Mn) :0.5〜2%、
シリコン(Si) :1.01〜1.5%、
鉄(Fe) :0.1〜1.5%、
ジルコニウム(Zr) :0.05〜0.5%、
クロム(Cr) :0.05〜0.5%、
チタン(Ti) :0.02〜0.5%、
バナジウム(V) :0.05〜0.5%、および、
銅(Cu) :0.015〜1%、
を含有し、さらに、
亜鉛(Zn) :0.3〜3%、
錫(Sn) :0.02〜0.2%、および、
インジウム(In) :0.005〜0.05%、
のうち、少なくとも1種を含有し、残りがAlと不可避不純物とからなる化学成分組成を有する高強度Al合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロールを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とすることを特徴とする、高強度Al合金フィン材の製造方法。
【請求項2】重量%で、
マンガン(Mn) :0.5〜2%、
シリコン(Si) :1.01〜1.5%、
鉄(Fe) :0.1〜1.5%、
ジルコニウム(Zr) :0.05〜0.5%、
クロム(Cr) :0.05〜0.5%、
チタン(Ti) :0.02〜0.5%、
バナジウム(V) :0.05〜0.5%、
銅(Cu) :0.015〜1%、および、
マグネシウム(Mg) :0.05〜1.5%、
を含有し、さらに、
亜鉛(Zn) :0.3〜3%、
錫(Sn) :0.02〜0.2%、および、
インジウム(In) :0.005〜0.05%、
のうち、少なくとも1種を含有し、残りがAlと不可避不純物とからなる化学成分組成を有する高強度Al合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロールを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とすることを特徴とする、高強度Al合金フィン材の製造方法。
【請求項3】前記板状体に対して、熱間圧延、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とする、請求項1又は請求項2に記載の高強度Al合金フィン材の製造方法。」

4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1号証乃至甲第8号証を提出して、次のとおり主張している。
(1)訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)訂正前の本件請求項3及び4に係る発明は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
4-2.証拠の記載内容
特許異議申立人が提出した上記甲第1号証乃至甲第8号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開昭58-156197号公報
(1a)「2.Si 0.3〜1.0%、Cu 0.05〜0.25%、Mn 0.6〜1.5%およびMg 0.45〜0.9%を含み、さらにCr 0.05〜0.25%、Ti 0.01〜0.25%、Zr 0.03〜0.25%およびV 0.01〜0.25%の1種または2種以上を含み、残りがAlおよび不純物からなり、不純物中特にFeは0.8%以下である合金をフィン材として用いろう付けにより形成されたことを特徴とする超高圧用プレートフィン型熱交換器。」(特許請求の範囲2)
(1b)「この発明はSiの過拡散を抑制し、かつ強度と加工性でA3004合金に匹敵する材料を開発し、これをフィン材として用いた超高圧用プレートフィン型熱交換器の提供を目的としたものである。」(第2頁右上欄1〜5行)
(1c)「Siについては、Mgと共存して強度を高めるのに役立つ。また濃度勾配が緩和されることでろう合金からのSiの拡散による侵入を抑制するのにも役立つ。その量が0.3%未満ではこれらの効果がなく、1.0%を越えると融点が低下して好ましくない。」(第2頁右上欄19行〜左下欄4行)
(1d)「Cuは強度向上に役立つが、0.05%未満ではこの効果がなく、0.25%を越えると巨大な金属間化合物を形成して素材欠陥を生じやすい。」(第2頁左下欄5〜7行)
(1e)第1表の実施例No.18は、Si 0.60%、Cu 0.15%、Mn 1.3%、Mg 0.50%、Cr 0.07%、Ti 0.05%、Zr 0.08%、V 0.07%、Fe 0.40%、残部Alからなる合金である。
(2)甲第2号証:特開昭62-196348号公報
(2a)「(1)Mn:0.7〜1.5%、Zn:0.3〜2.0%、Cr:0.03〜0.3%、Zr:0.03〜0.2%、Fe:0.2〜0.7%、Si:0.1〜0.9%を含み、あるいは更にCu:0.05〜0.5%及びMg:0.05〜0.5%のうちの1種又は2種を含み、残部が実質的にAlであるアルミニウム合金製熱交換器用フィン材。」(特許請求の範囲(1))
(2b)「Zn:フィン材の腐食電位を卑にして犠牲陽極効果を高める。0.3%未満ではその効果が無く、2.0%超えると自己腐食性が高くなり、かつろう付け性が低下する。」(第2頁右上欄6〜9行)
(2c)「Cu,Mg:以上の組成のフィンに対し、その強度を追加的に向上させる。いづれもその添加量の下限値未満では、その効果は得られず、また上限値を越えるとフィン材の耐垂下性を劣化させる。更にCuは上限値を越えるとフィン材の電位を貴にするので、Znの犠性陽極効果が損なわれる。」(第2頁左下欄2〜9行)
(3)甲第3号証:特開平4-173934号公報
(3a)「(2)Si 0.7〜1.0wt%、Fe 0.05〜0.4wt%、Cu 0.1〜0.2wt%、Mn 1.0〜1.8wt%、Mg 0.05〜1.0wt%、Zn 0.5〜2.0wt%、Ca 0.01〜0.5wt%を含み、更にCr 0.25wt%以下、Zr 0.25wt%以下の範囲内で何れか1種又は2種を含み、残部Alと不可避的不純物からなる真空ろう付用アルミニウム合金フィン材。」(特許請求の範囲(2))
(3b)「Cuは強度を向上する働きをする。その含有量を0.1〜0.2%と限定したのは下限未満ではその効果が不十分であり、上限を越えるとZnのもつ犠牲効果を低下してしまうためである。」(第2頁左下欄8〜11行)
(3c)「Znは、フィン材犠牲陽極効果をもたらせる働きをする。その含有量を0.5〜2.0%と限定したのは、下限未満ではその効果が不十分であり、上限を越えてもその効果が飽和するばかりでなく、自己耐食性が低下するためである。」(第2頁右下欄7〜11行)
(4)甲第4号証:特開平5-98376号公報
(4a)「【請求項2】Si0.05〜0.8wt%、Fe0.05〜0.6wt%、Mn0.6〜1.6wt%を含有し、さらにZn0.3〜2.0wt%、In0.03〜0.3wt%、Sn0.03〜0.3wt%のうちの1種または2種以上を含有し、またさらに各々0.3wt%以下のCu、Mg、Cr、Zr、Tiのうちの1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避的不純物とからなり、ろう付け加熱前の比抵抗値が44nΩm以下であり、かつろう付け加熱後の比抵抗値が44nΩm以下であることを特徴とする低温ろう付け用アルミニウム合金犠牲フィン材。」(【請求項2】)
(4b)「Zn、In、Snはフィン材の電位を卑にし、フィン材に犠牲効果を付与し、熱交換器の耐食性を高める働きを有する。その量が、Zn0.3wt%未満、In0.03wt%未満、Sn0.03wt%未満では犠牲効果が十分でなく、Znは2.0wt%を超えて、Inは0.3wt%を超えて、Snは0.3wt%を超えて添加しても効果は変わらず、逆にフィン材としての成形性が低下する。したがって、Zn0.3〜2.0wt%、In0.03〜0.3wt%、Sn0.03〜0.3wt%のうちの1種または2種以上含有するように定める。」(段落【0007】)
(4c)「本発明フィン材ではさらに0.3wt%以下のCu、0.3wt%以下のMg、0.3wt%以下のCr、0.3wt%以下のZr、0.3wt%以下のTiのうちの1種または2種以上添加することがある。これらの元素のうち、CuおよびMgは主に固溶硬化と析出硬化により強度を向上させる。しかし、Cuはフィン材の電位を貴にする働きを有するため、0.3wt%を超えて添加した場合、フィン材の犠牲効果を減じてしまう。」(段落【0008】)
(5)甲第5号証:特開平3-31454号公報
(5a)「(2)Mn0.3〜2.0wt%、Fe0.05〜2.0wt%を含み、更にZr0.3wt%以下、Cr0.3wt%以下、Ti0.1wt%以下、Cu0.5wt%以下、Si0.8wt%以下、Mg0.5wt%以下の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金を連続鋳造圧延により厚さ2〜10mmの板とした後、冷間圧延を行い、該冷間圧延の前又は途中でpH10以上のアルカリ溶液により1〜300秒間洗浄処理し、冷間圧延の途中320〜550℃で中間焼鈍を行なった後、圧延率15〜70%の最終冷間圧延を行なって板厚0.04〜0.2mmのフィン材とすることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法。」(特許請求の範囲(2))
(5b)「また本発明において、Zr0.3wt%以下、Cr0.3wt%以下、Ti0.1wt%以下、Cu0.5wt%以下、Si0.8wt%以下、Mg0.5wt%以下の範囲内で何れか1種又は2種以上を添加するのは、フィン材の常温強度及び高温強度(耐垂下性)を更に向上するためで、特にZr,Cr,Tiは結晶粒を微細化して高温強度の向上に有効であり、Cu,Si,Mgはフィンの常温強度を高め、かつ成形性の向上に有効であり、これらを必要に応じて選択して添加する。」(第3頁左上欄14行〜右上欄3行)
(5c)「ここで連続鋳造圧延を行なうのは、添加元素であるMn及びFeをフィン材中に固溶させるためであり、従来のDC鋳造、熱間圧延の工程では熱間圧延中に大部分のMn及びFeが析出してしまい、フィンの耐垂下性を向上させることができないためである。また連続鋳造圧延により厚さ2〜10mmの板としたのは、・・・厚さが10mmを超えると凝固時の冷却速度が小さくなり、ここで連続鋳造圧延を行なうのは、添加元素であるMn及びFeをフィン材中に固溶させるためであり、従来のDC鋳造、熱間圧延の工程では熱間圧延中に大部分のMn及びFeが析出してしまい、フィンの耐垂下性を向上させることができないためである。また連続鋳造圧延により厚さ2〜10mmの板としたのは、・・・厚さが10mmを超えると凝固時の冷却速度が小さくなり、十分にMn及びFeが固溶できなくなるためである。」(第3頁右上欄6〜16行)
(5d)「連続鋳造圧延としては、従来から用いられているハンター法や3C法を用い、冷却速度を50℃/sec以上とする。」(第3頁右上欄16〜19行)
(6)甲第6号証:特開平3-31455号公報
(6a)「(2)Fe0.05〜0.6wt%、Si0.8wt%以下を含み、更にZn2wt%以下、In0.3wt%以下、Sn0.3wt%以下、Ca0.3wt%以下、Cu0.3wt%以下、Mn0.2wt%以下、Mg0.5wt%以下、Ti0.1wt%以下、Zr0.2wt%以下、B0.05wt%以下、Cr0.3wt%以下の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなるろう付け加熱後の電気比抵抗が38nΩm以下であるアルミニウム合金を、連続鋳造圧延により厚さ2〜10mmの板とした後、冷間圧延を行ない、該冷間圧延の前又は途中でpH10以上のアルカリ溶液により1〜300秒間洗浄処理し、冷間圧延の途中280〜550℃で中間焼鈍を施した後、圧延率15〜70%の最終冷間圧延を施して板厚0.04〜0.2mmのフィン材とすることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金フィン材の製造方法。」(特許請求の範囲(2))
(6b)「即ちZn2%以下、In0.3%以下、Sn0.3%以下、Ca0.3%以下の添加はフィン材に犠牲陽極効果を持たせ、Cu0.3%以下、Mn0.2%以下、Mg0.5%以下の添加はフィンの強度向上に有効に作用し、Ti0.1%以下、Zr0.2%以下、B0.05%以下、Cr0.3%以下の添加は、フィン材の組織を微細化して、強度の向上に有効である。」(第3頁右上欄12〜19行)
(7)甲第7号証:特開平3-100143号公報
(7a)「(4)Mn0.3〜2.0wt%、Fe0.05〜2.0wt%を含み、Zn0.3〜2.0wt%、In0.01〜0.3wt%、Sn0.01〜0.3wt%の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、Zr0.3wt%以下、Cr0.3%wt%以下の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、更にCu0.5wt%以下、Si0.8wt%以下、Mg0.5wt%以下の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金フィン材の製造において、アルミニウム合金溶湯を連続鋳造圧延により厚さ2〜10mmの板とした後、冷間圧延により厚さ0.04〜0.2mmのフィン材とするにあたり、冷間圧延途中に最終冷間圧延率が15〜70%の範囲となる板厚で320〜550℃で中間焼鈍を行い、上記冷間圧延の途中又は前にpH10以上のアルカリ溶液で1〜300秒アルカリ洗浄を行うことを特徴とするろう付け用アルミニウム合金フィン材の製造方法。」(特許請求の範囲(4))
(7b)「Cu、Si、Mgはフィン中に固溶し、フィン材の強度を向上させる目的で添加するもので、その含有量をCu0.5%以下、Si0.8%以下、Mg0.5%以下の範囲で何れか1種又は2種以上と限定したのは、Cuが上限を越えるとフィン材の犠牲効果を減じ、Siが上限を越えると耐垂下性が低下し、Mgが上限を越えるとろう付け性が低下するためである。」(第3頁右下欄19行〜第4頁左上欄6行)
(8)甲第8号証:日本金属学会編「金属便覧」平成4年4月20日、丸善株式会社発行、第1033〜1034頁
(8a)「(i)双ロール法
H.Bessemerが溶鋼から薄板を直接製造することを試みた際に始まる双ロール法は、2個の水冷銅ロールの間隙に溶湯を注入し薄板を製造するプロセスで、溶湯を下から注入するハンター法(図15・68)と水平に注入する3C法があり、アルミニウムの薄板連鋳に用いられている。鋳造能力は類似しており、板厚5〜20mm、最大幅1700mm、鋳造速度8.33×10-3〜1.67×10-2m・s-1(0.5〜1m・min-1)である。」(第1034頁左欄10〜18行)

4-3.当審の判断
(1)上記(1)の主張について
上記(1)の主張は、訂正前の請求項1及び請求項2に係る発明に関するものであるが、これら「高強度Al合金フィン材」に係る請求項1及び請求項2は、上記訂正により削除されたから、上記(1)の主張は、上記訂正により解消されたと云える。

(2)上記(2)の主張について
(i)本件訂正発明1について
甲第1号証乃至甲第3号証は、いずれも「Al合金フィン材」に関するものであるから、これら証拠の中から、その代表的な「Al合金フィン材」の成分組成を摘示すると、甲第1号証の(1a)には、「Si 0.3〜1.0%、Cu 0.05〜0.25%、Mn 0.6〜1.5%およびMg 0.45〜0.9%を含み、さらにCr 0.05〜0.25%、Ti 0.01〜0.25%、Zr 0.03〜0.25%およびV 0.01〜0.25%の1種または2種以上を含み、残りがAlおよび不純物からなり、不純物中特にFeは0.8%以下である合金をフィン材として用いろう付けにより形成されたことを特徴とする超高圧用プレートフィン型熱交換器」と記載されているから、甲第1号証には、本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、「Mn 0.6〜1.5%、Si 0.3〜1.0%、Fe 0.8%以下、Zr 0.03〜0.25%、Cr 0.05〜0.25%、Ti 0.01〜0.25%、V 0.01〜0.25%、Cu 0.05〜0.25%を含有し、さらに、Mg 0.45〜0.9%を含み、残りがAlおよび不可避不純物からなる高強度Al合金フィン材」が記載されていると云える。
しかしながら、これら証拠には、上記成分組成の「高強度Al合金フィン材」の製造方法を具体的に示す記載はない。
すなわち、本件訂正発明1は、「高強度Al合金フィン材の製造方法」に関し、その成分組成中にCuを微量添加することによって、Zr、Cr、Ti及びVの元素が相互に結合して粗大な晶出物となることを抑制すると共に、Al合金の溶湯を鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造して厚さ50mm以下の板状体を調製することによって微細な晶出物の更なる微細化と高密度化を達成したものであるところ、甲第1号証乃至甲第3号証に記載の「Al合金フィン材」は、Cuを「強度向上」という目的で添加しているにすぎず、本件訂正発明1の上記「Zr、Cr、Ti及びVの元素が相互に結合して粗大な晶出物となることを抑制する」という目的でCuを添加するものではない。そして、これら証拠に記載の「Al合金フィン材」では、Cuの微量添加による晶出物の微細化を図るものではないから、これら証拠には、微細な晶出物を更に微細化し高密度化するための鋳込速度や鋳片厚さという製造条件についても何ら示唆されていない。
甲第4号証には、「Al合金フィン材とその製造方法」が記載されているが、この証拠の「Al合金フィン材」も、Cuを「固溶硬化と析出硬化による強度向上」という目的で添加しているにすぎず、この証拠に記載された製造条件も、微細な晶出物を更に微細化し高密度化するためのものではない。
してみると、本件訂正発明1は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
次に、「製造方法」に関する甲第5号証乃至甲第8号証について検討するに、甲第5号証乃至甲第7号証には、アルミニウム合金溶湯を連続鋳造圧延法により2〜10mmの板状体とした後、冷間圧延により厚さ0.04〜0.2mmのフィン材を製造すること、この場合の連続鋳造圧延とは、「従来から用いられているハンター法や3C法を用い、冷却速度を50℃/sec以上とする。」ものであることがそれぞれ記載されているが、これら証拠に記載された「連続鋳造圧延」の目的は、例えば甲第5号証の上記(5c)の「ここで連続鋳造圧延を行なうのは、添加元素であるMn及びFeをフィン材中に固溶させるためであり、従来のDC鋳造、熱間圧延の工程では熱間圧延中に大部分のMn及びFeが析出してしまい、フィンの耐垂下性を向上させることができないためである。」という記載に代表されるように、Mn及びFeという添加元素の固溶によってフィン材の耐垂下性を向上させるためである。また厚さ「2〜10mm」の鋳片とする目的も、上記「厚さが10mmを超えると凝固時の冷却速度が小さくなり、十分にMn及びFeが固溶できなくなるためである。」という記載によれば、同様にMn及びFeの固溶の確保のためであるから、本件訂正発明1のようなCuの微量添加による晶出物の粗大化の抑制(微細な晶出物の形成)やこの微細な晶出物を更に微細化し高密度化する目的でないことは明らかである。また、これら証拠に記載の「Al合金フィン材」に含まれる「Cu」も、フィン材の常温強度の向上や成形性の向上等のための元素であり、本件訂正発明1のような「晶出物の粗大化の抑制」というものではない。
また、甲第8号証には、一般的な双ロール法によるアルミニウムの連続鋳造法が紹介されているだけであり、この双ロール法と「Al合金フィン材」におけるCuの微量添加による晶出物の微細化との関係やこの微細な晶出物を更に微細化し高密度化するための鋳造条件等との関係を示唆する記載も見当たらない。
してみると、本件訂正発明1は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(ii)本件訂正発明2及び3について
本件訂正発明2及び本件訂正発明3も、その成分組成及び製造条件が本件訂正発明1と共通しているから、上記理由と同様に、甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、特許異議申立人の上記(2)の主張も、採用することができない。
5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1乃至3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1乃至3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行の伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高強度Al合金フィン材の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、
マンガン(Mn) :0.5〜2%、
シリコン(Si) :1.01〜1.5%、
鉄(Fe) :0.1〜1.5%、
ジルコニウム(Zr) :0.05〜0.5%、
クロム(Cr) :0.05〜0.5%、
チタン(Ti) :0.02〜0.5%、
バナジウム(V) :0.05〜0.5%、および、
銅(Cu) :0.015〜1%、
を含有し、さらに、
亜鉛(Zn) :0.3〜3%、
錫(Sn) :0.02〜0.2%、および、
インジウム(In) :0.005〜0.05%、
のうち、少なくとも1種を含有し、残りがAlと不可避不純物とからなる化学成分組成を有する高強度Al合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロールを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とすることを特徴とする、高強度Al合金フィン材の製造方法。
【請求項2】 重量%で、
マンガン(Mn) :0.5〜2%、
シリコン(Si) :1.01〜1.5%、
鉄(Fe) :0.1〜1.5%、
ジルコニウム(Zr) :0.05〜0.5%、
クロム(Cr) :0.05〜0.5%、
チタン(Ti) :0.02〜0.5%、
バナジウム(V) :0.05〜0.5%、
銅(Cu) :0.015〜1%、および、
マグネシウム(Mg) :0.05〜1.5%、
を含有し、さらに、
亜鉛(Zn) :0.3〜3%、
錫(Sn) :0.02〜0.2%、および、
インジウム(In) :0.005〜0.05%、
のうち、少なくとも1種を含有し、残りがAlと不可避不純物とからなる化学成分組成を有する高強度Al合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロールを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とすることを特徴とする、高強度Al合金フィン材の製造方法。
【請求項3】 前記板状体に対して、熱間圧延、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とする、請求項1又は請求項2に記載の高強度Al合金フィン材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、ろう付工法によって製造される自動車用熱交換器に用いられる高強度Al合金フィン材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、Al合金は軽くて熱伝導性にも優れ、且つ、耐食性も良好であることから、自動車のラジエ-タ等の熱交換器の製造に広く用いられている。この熱交換器は、例えば、Al-Mn系合金を芯材とし、この芯材の片面または両面にAl-Si系合金のろう材をクラッドしたものからなるブレ-ジングシ-トで構成された管材と、Al-Mn系合金のフィンとを組み合わせ、この組合せ体を、真空中でろう付けするか、不活性雰囲気中または大気雰囲気中でフラックスを用いてろう付けすることによって製造されている。
【0003】
従って、熱交換器用Al合金製フィン材には、ろう付時におけるろう材の溶融温度以上の加熱に対して変形しない十分な強度(耐高温座屈性)、ろう付後の熱交換器使用時における十分な強度、管材を防食するために管材に対して電気化学的に卑となる犠牲陽極効果、管材中を流れる作動流体から効率よく抜熱し得る優れた熱伝導性、および、フィン素材製造時の優れた熱間加工性等が要求される。このような特性を満足するAl合金フィン材として、従来からAl-Mn系の合金に、上述した特性を付加するための種々の元素が添加されたAl合金フィン材が提案されている。
【0004】
最近は更に、材料の軽量化要望にも対応できるものの開発がなされている。そのようなAl合金フィン材として、例えば、特開平2-305946号公報(以下、先行技術1という)には、Al-Mn-Si系合金に、犠牲陽極効果を付与するためにZnを、熱伝導性を向上させるためにFeを添加し、更に、耐高温座屈性を改善するためにZr、Cr、TiおよびVのうちから少なくとも1種を添加したAl合金の鋳塊を調製し、これに対して、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍および冷間圧延を施すことによって製造されたフィン材が提案されている。
【0005】
また、フィン用Al合金の鋳造方法として、溶湯を、厚さ数100mmの水冷金型に100mm/min前後の鋳造速度で鋳造して鋳片を製造する方法(半連続鋳造法)、および、厚さ約10mm以下の水冷金型に約200mm/min以上の速い鋳造速度で鋳造しそのまま板状体にする方法(連続鋳造法)が知られているが、連続鋳造法は技術開発段階であり未だ広く行われていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
先行技術1においては、フィン材の化学成分のうち、Zr、Cr、TiおよびVの4元素のうち少なくとも1種を添加して、耐高温座屈性を改善している。しかしながら、フィン材の薄肉化要求を満たすためには、耐高温座屈性と共に、ろう付後の強度も向上させることが重要な課題であるが、この点に関しては未だ改善されていない。
【0007】
Zr、Cr、TiおよびVの各成分は、いずれもAl素地中には殆ど固溶せず、各々の元素はAlとの2元化合物を形成してAl素地中に分散する性質を有する。従って、各々の元素は、ろう付後のAl合金フィンの強度を向上させることができ、しかも、熱伝導性、電気化学的性質(犠牲陽極効果)および固相線温度を変化させることがない。しかしながら、先行技術1に示されたような、Zr、Cr、TiおよびVの4元素をすべて含むAl合金の溶湯を、通常の厚さ数100mmの水冷金型に鋳造速度100mm/min以下で半連続鋳造した場合には、これらの元素が相互に結合して、粗大な晶出物(例えば、Zr-Ti系化合物等)を形成するため、これらの元素がフィン材の強度向上に寄与せず、しかも、熱間加工性を著しく劣化させるという問題があった。
【0008】
Al合金フィン材に対する最近の薄肉化要求に対しては、ろう付後の強度、および、ろう付時の耐高温座屈性の一層の向上が要求され、しかも、犠牲陽極効果、熱伝導性および素材の熱間加工性を従来水準に保持することが必要であるが、従来技術では、上述したように、Al合金フィン材に対する最近の薄肉化要求を十分に満たすことができない。
【0009】
この発明の目的は、上述した問題を解決し、Al-Mn-Si系Al合金に、Zr、Cr、TiおよびVのすべての元素を同時に含有させ、ろう付け後の強度を向上させることによって、フィンの薄肉化要求に応えることができるAl合金製フィン材を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、Al-Mn-Si系Al合金に、Zr、Cr、TiおよびVのすべての元素を同時に含有させた場合でも、Cuを微量でも含有させることによって、鋳造時にこれらの元素が、相互に結合して粗大な晶出物となるのが抑制され、そして、各々の元素がAlと結合して微細な晶出物となるので、このAl合金は熱間加工性が損なわれることなく強度が向上することを知見した。また、更に、上記Al合金の溶湯を、厚さ50mm以下の水冷金型に、鋳造速度200mm/min以上で鋳造することによって、前記微細な晶出物がさらに微細、且つ、高密度に晶出するため、より一層強度の向上を図ることができることを知見した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、Al-Mn-Si系Al合金に、Zr、Cr、TiおよびVのすべての元素と共に、少なくとも微量のCuを同時に含有させることによって、ろう付後の強度を向上させ、更に、Feを含有させて耐高温座屈性およびろう付後の強度を向上させ、必要に応じて更にMgを含有させて強度の向上を図る。そして、Zn、Sn、Inのうち少なくとも1種を含有させて犠牲陽極効果を付与するものである。
【0012】
即ち、第1発明の高強度Al合金フィン材の製造方法は、重量%で、Mn:0.5〜2%、Si:1.01〜1.5%、Fe:0.1〜1.5%、Zr:0.05〜0.5%、Cr:0.05〜0.5%、Ti:0.02〜0.5%、V:0.05〜0.5%、および、Cu:0.015〜1%、を含有し、さらに、Zn:0.3〜3%、Sn:0.02〜0.2%、および、In:0.005〜0.05%のうち、少なくとも1種を含有し、残りがAlと不可避不純物とからなる化学成分組成を有する高強度Al合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロールを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、冷間圧延および焼鈍を施すことによってAl合金板とすることに特徴を有するものである。
【0013】
第2発明の高強度Al合金フィン材の製造方法は、第1発明の高強度Al合金フィン材が有する化学成分組成に、更に、Mgを0.05〜1.5%含有することに特徴を有するものである。
【0014】
【0015】
第3発明の高強度Al合金フィン材の製造方法は、第1発明の方法または第2発明の方法において、前記板状体に対して、熱間圧延を施した後に、前記冷間圧延および前記焼鈍を施すことによってAl合金板とすることに特徴を有するものである。
【0016】
【作用】
この発明のAl合金の化学成分組成を上述した範囲内に限定した理由について述べる。
(1)Mn、Fe:Mn、Feは、Al-Mn系、Al-Fe系、Al-Mn-Fe系化合物を形成して、ろう付け時の高温強度、および、ろう付後の強度を向上させる。しかしながら、それらの含有量が、Mnは0.5%未満、Feは0.1%未満では、その効果が不十分である。一方、それらの含有量が、Mnは2%超、Feは1.5%超では、フィンの成形加工性が低下する。従って、Mnの含有量は、0.5〜2%、Feの含有量は、0.1〜1.5%の範囲内に限定すべきである。
【0017】
(2)Si:Siは、素地に固溶するか、または、Al-Mn-Si系化合物として析出し、ろう付後の強度を向上させる。しかしながら、その含有量が1.01%未満では、その効果が不十分である。一方、その含有量が1.5%超では、フィン材の固相線温度がろう付温度以下になり局部溶融をおこす。従って、Siの含有量は、1.01〜1.5%の範囲内に限定すべきである。
【0018】
(3)Zr、Cr、Ti、V:Zr、Cr、Ti、Vはいずれも、素地のAlと2元化合物を形成して、ろう付時の高温強度、および、ろう付後の強度を向上させる。しかしながら、Zr、Cr、Vの各々の含有量が0.05%未満、Tiの含有量が0.02%未満では、その効果が不十分である。一方、Zr、Cr、Ti、Vの各々の含有量が0.5%超では、相互に結合して粗大晶出物を形成するようになり、素材の熱間加工性を低下させる。従って、Zr、Cr、Vの各々の含有量は0.05〜0.5%、Tiの含有量は0.02〜0.5%の範囲内に限定すべきである。
【0019】
(4)Cu:Cuは、本発明において重要な作用を有しており、Cuが微量でも含有されると、Zr、Cr、Ti、Vが相互に結合した粗大な晶出物が形成されるのが抑制され、Zr、Cr、Ti、VとAlとの2元化合物が微細に晶出して、熱間加工性が損なわれることなく強度が向上する。また、Cu自身が固溶してろう付後の強度を向上させる。しかしながら、Cuの含有量が1%超では、電気化学的電位が貴になり過ぎ、犠牲陽極効果を失う。従って、Cuの含有量は、0.015〜1%の範囲内に限定すべきである。
【0020】
(5)Mg:Mgは、Siとの共存下でMg2Siとして析出し、ろう付後の強度を向上させる。従って、必要に応じてMgを含有させる。しかしながら、その含有量が0.05%未満では、その効果が不十分である。一方、その含有量が1.5%超では、フィン材の固相線温度がろう付温度以下になり、ろう付時にフィン材が局部溶融を起こす。従って、Mgの含有量は、0.05〜1.5%の範囲内に限定すべきである。
【0021】
(6)Zn、Sn、In:Zn、Sn、Inは、いずれも電気化学的電位を卑にして、フィン材に犠牲陽極効果を付与する。従って、Zn、Sn、Inのうち少なくとも1種を含有させる。しかしながら、Znの含有量が0.3%未満、Snのそれが0.02%未満、Inのそれが0.005%未満では、その効果が不十分である。一方、それらの含有量が、Znは3%超、Snは0.2%超、Inは0.05%超では、電気化学的電位が卑になり過ぎ、自己腐食速度が大きくなり過ぎる。従って、Znの含有量は、0.3〜3%の範囲内、Snの含有量は、0.02〜0.2%の範囲内、Inの含有量は、0.005〜0.05%の範囲内に限定すべきである。
【0022】
次に、本発明の製造条件について説明する。上述した本発明の範囲内の前記化学成分組成を有するAl合金の溶湯を、前述した半連続鋳造法よりも完全凝固時間(水冷金型に溶湯を注入した後それが完全に凝固するのに要する時間)が短い連続鋳造法によって鋳造することによって、Zr、Cr、Ti、Vの晶出物の粗大化を一層抑制することができることを知見した。上記知見に基づいて、上述した本発明の範囲内の前記化学成分組成を有するAl合金を溶製し、得られた溶湯を、水冷金型、または、2個以上の水冷ロ-ルを用いて、鋳込速度200mm/min以上で連続鋳造することによって、厚さ50mm以下の板状体を調製し、このようにして得られた前記板状体に対して、必要に応じて熱間加工を施し、次いで、冷間圧延および適宜焼鈍を施す。
【0023】
本発明法における溶湯の連続鋳造における鋳造厚さおよび鋳造速度の限定理由について述べる。
鋳造厚さ:鋳造厚さは、厚くなるほど、溶湯が水冷金型に注入された後完全に凝固するまでの凝固時間が長くかかり、この間に前記晶出物は粗大に成長する。本発明の範囲内のCuを含有する場合、Cuによる前記晶出物粗大化の抑制作用も考慮して、鋳造厚さの上限を50mmとした。一方、鋳造厚さは薄いほど完全凝固時間は短くなり、前記晶出物の粗大化が抑制されるので、所望の板厚を考慮し、且つ、鋳造作業ができる範囲であればよく、下限を限定しない。
【0024】
鋳造速度:鋳造速度が遅すぎると、溶湯が水冷金型に注入された後完全に凝固するまでの凝固時間が長くなるので、前記晶出物は粗大に成長し、また、健全な表面性状の板を鋳造することができない。従って、鋳造速度の下限を200mm/minとした。一方、鋳造速度が速くなっても前記晶出物の粗大化はみられないので、鋳造作業ができる範囲であればよく、上限を限定しない。
【0025】
【実施例】
次に、この発明を、本発明の実施例により、比較例および従来例と対比しながら説明する。表1に示した、本発明の範囲内の化学成分組成であるNo.A、CE、Cuの含有量のみが本発明の範囲外の化学成分組成である比較例No.a〜d、および、Cu、および、Zr、Cr、Ti、Vの含有量が本発明の範囲外の化学成分組成である従来例No.1〜7のAl合金を溶製し、得られた溶湯を、表2に示した、本発明の範囲内の鋳造方法であるI〜IV、および、従来法(半連続鋳造法)であるVのうちの何れかの方法によって、水冷金型に鋳造し、このようにして鋳塊または板状体(鋳造体と総称する)を得た。採用した鋳造法を表1に併記した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
鋳造法IまたはIIによって得た鋳造体(厚さ4または10mm)に対しては、熱間圧延を省略し、中間焼鈍を適宜施した後に冷間圧延を施すことによって、厚さ0.07mmのフィン材を調製した。鋳造法IIIまたはIVによって得た鋳造体(厚さ28または47mm)に対しては、熱間圧延を施し、得られた熱間圧延板について熱間圧延割れの有無を調べ、次いで、中間焼鈍を適宜施した後に冷間圧延を施すことによって、厚さ0.07mmのフィン材を調製した。鋳造法Vによって得た鋳造体(厚さ550mm)に対しては、均質化処理を施し、面削を行なった後に、熱間圧延を施し、得られた熱間圧延板について熱間圧延割れの有無を調べ、次いで、中間焼鈍を適宜施した後に冷間圧延を施すことによって、厚さ0.07mmのフィン材を調製した。
【0029】
次に、このようにして得られたフィン材に対して、ろう付後を想定した、N2雰囲気中での温度605℃、5min保持後冷却の熱処理を施した後、引張試験、および、3.5%NaCl溶液中での孔食電位測定試験を行なった。表3に、それらの試験結果、および、上述した熱間圧延割れの有無の結果をしめした。
【0030】
【表3】

【0031】
表1〜3から下記の事項が明らかである。
比較例について:比較例No.a,bは、Cuの含有量が0.0006、0.0005%と低く、本発明の範囲外であったので、Zr、Cr、Ti、Vによる微細晶出物が形成されず、粗大な晶出物となったために、ろう付後の引張強さが従来例No.1〜7と同一水準の低値であり、強度が向上しなかった。その上、No.bに見られるように、熱間圧延割れが多少発生し、熱間加工性が若干劣化した。比較例No.c,dは、Cuの含有量が本発明の範囲を外れて高い。そして、鋳造法は本発明の範囲内である。従って、Zr、Cr、Ti、Vによる微細晶出物の分散により、ろう付後の引張強さは、従来例より著しく向上した。しかしながら、Cuの含有量が本発明の上限より高かったので、孔食電位が高く、貴となり過ぎ、犠牲陽極効果が劣化した。
【0032】
従来例について:Cuを添加せず、しかも、Zr、Cr、Ti、Vの4元素のうち少なくとも1元素でも含有せず、しかも、従来の半連続鋳造法で製造された従来例No.1〜7は、Zr、Cr、Ti、Vによる微細晶出物が形成されず、粗大な晶出物となったために、いずれも、ろう付後の引張強さは高くなく、その上、熱間圧延割れが発生し、熱間加工性が劣化した。
【0033】
本発明の実施例について:本発明の実施例は、熱間加工性が損なわれることなく、そして、犠牲陽極効果が劣化することなく、ろう付後の強度が、従来例のすべておよび比較例No.a,bと比較して著しく向上した。
【0034】
【発明の効果】
本発明は、上述したように構成されているので、Zr、Cr、Ti、Vが相互に結合して粗大な晶出物を形成することなく、これら元素はAlとの2元化合物を形成して素地中に微細に分散する。従って、熱伝導性、電気化学的性質(犠牲陽極効果)および固相線温度(ろう付性)に殆ど影響を与えず、しかも、熱間加工性を劣化させることなく、ろう付後の強度が向上する高強度Al合金フィン材を提供することができる、工業上有用な効果がもたらされる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-18 
出願番号 特願平5-245890
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
綿谷 晶廣
登録日 2002-07-26 
登録番号 特許第3333600号(P3333600)
権利者 三菱アルミニウム株式会社
発明の名称 高強度Al合金フィン材の製造方法  
代理人 石川 泰男  
代理人 煤孫 耕郎  
代理人 石川 泰男  

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