• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1121163
異議申立番号 異議2003-70448  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-19 
確定日 2005-07-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3315256号「粘着剤層を有する偏光板及びその製造方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについてされた平成16年6月8日付取消決定に対し、東京高等裁判所において、上記決定を取り消す旨の判決(平成16年(行ケ)第330号、平成17年3月29日判決言渡)があったので、更に審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第3315256号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許出願:平成6年7月7日(特願平6-180902号)
設定登録:平成14年6月7日(特許第3315256号)
公報発行:平成14年8月19日
綜研化学株式会社より異議申立(全請求項):平成15年2月19日
日東電工株式会社より異議申立(全請求項):平成15年2月19日
取消理由通知:平成15年5月21日
意見書、訂正請求書の提出:平成15年7月24日
日東電工株式会社より上申書:平成15年9月24日
特許権者に対して審尋:平成16年1月5日
特許権者より回答書:平成16年3月16日
取消決定:平成16年6月8日
東京高等裁判所への出訴:平成16年7月22日
(平成16年(行ケ)330号)
訂正の審判請求:平成16年10月20日[訂正2004-39239]
訂正2004-39239の審決(訂正認容):平成17年1月20日
訂正2004-39239の審決確定:平成17年2月1日
訂正2004-39239審決について更正決定:平成17年3月8日
判決言渡:平成17年3月29日(結論:決定を取り消す)
異議申立人に対して審尋:平成17年4月19日
綜研化学株式会社より回答書:平成17年6月6日

II.本件請求項1、2に係る発明
本件特許については、上記のとおり訂正2004-39239で請求された訂正を認める審決が確定しているから、本件の請求項1ないし5に係る発明は、上記訂正の審判の請求書に添付した訂正明細書の記載からみて次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に25〜500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けたことを特徴とする粘着剤層を有する偏光板。
【請求項2】 積層体がポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層、又はセルロース系保護層/ポリビニルアルコール系偏光フィルム/セルロース系保護層のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の粘着剤層を有する偏光板。
【請求項3】 アクリル系樹脂粘着剤層の更に外側に離型フィルムを設けたことを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤層を有する偏光板。
【請求項4】 請求項1または2記載の粘着剤層を有する偏光板を製造するにあたり、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムと保護層とからなる積層体に塗工し、50〜200℃の温度にて乾燥してなることを特徴とする粘着剤層を有する偏光板の製造方法。
【請求項5】 請求項3記載の粘着剤層を有する偏光板を製造するにあたり、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤をポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層とからなる積層体あるいは離型フィルムのいずれか一方に塗工し、50〜200℃の温度にて乾燥した後、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体あるいは離型フィルムの残りの一方を他方に貼り合わせることを特徴とする粘着剤層を有する偏光板の製造方法。」
なお、上記訂正明細書、訂正の審決、更正決定にはいずれも誤記があるが、上記平成16年(行ケ)330号判決の認定にしたがって、上記のとおり認定した。

III.異議申立ての理由及び取消理由の概要
1-1.異議申立人綜研化学株式会社は、下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出して、特許査定時の請求項1ないし7に係る発明は、次の理由により取り消すべきであると主張する。
(1)請求項1ないし7に係る発明は、甲第2号証に示す実験報告書を参酌すると甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
(2)請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開昭53-113566号公報(以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:平成15年2月14日付け実験報告書(以下、「実験報告1」という。)
甲第3号証:特開昭59-111114号公報(以下、「刊行物2」という。)

1-2.さらに、異議申立人綜研化学株式会社は、平成17年2月10日付け回答書において、甲第2号証を訂正した新たな実験報告書((以下、「実験報告1’」という。)を提出し、訂正後の請求項1ないし5に係る発明は、実験報告1’を参酌すると刊行物1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張する。

2.異議申立人日東電工株式会社は、下記の甲第1号証ないし甲第5号証を提出して、特許査定時の請求項1ないし7に係る発明は、次の理由により取り消すべきであると主張する。
(1)請求項1ないし7に係る発明は、甲第2号証に示す実験報告書を参酌すると甲第1号証に記載された発明であり、又甲第5号証に示す実験報告書を参酌すると甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
(2)特許査定時の明細書の記載は不備であるから、特許法第36条第4項又は第5項第2号に規定する要件を満たしていない。

甲第1号証:特開昭59-111114号公報(上記刊行物2)
甲第2号証:平成15年2月10日付け実験報告1(以下、「実験報告2」という。)
甲第3号証:特開平6-75701号公報(以下、「刊行物4」という。)
甲第4号証:特開昭53-41245号公報(以下、「刊行物3」という。)
甲第5号証:平成15年2月10日付け実験報告2(以下、「実験報告3」という。)

3.当審においては、特許査定時の請求項1ないし7に係る発明に対し、次のような取消理由を通知した。
(1)請求項1ないし7に係る発明は、刊行物1、2、3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)請求項1ないし7に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができない。
(3)特許査定時の明細書の記載は不備であるから、特許法第36条第4項又は第5項第2号に規定する要件を満たしていない。

IV.当審の判断
[1]特許法第29条第1項、第2項違反について
1.各証拠方法の記載事項
刊行物1(特開昭53-113566号公報)には、次の事項が記載されている。
(1a)「(1)偏光膜の少なくとも片面にF5値が5以下の透明アクリル系フィルムを積層していなる積層偏光膜。
(2)表面に粘着剤が塗布されている特許請求の範囲第1項記載の偏光膜。」(特許請求の範囲第1、2項)
(1b)「偏光能を有する膜状物-偏光膜-として、例えばポリビニールアルコール・沃素系,ポリビニールアルコール・ポリエン系・・・など、多数のものが知られている。これらの偏光膜は、・・・ヒビ割れ等による破損が起こりやすい。その対策として、偏光膜にセルロース系フィルムを積層して補強する方法があるが、セルロース系フィルム積層偏光膜は、剛性が大きいため、ガラス板、液晶素子セル等に接着する際、接着部分に気泡が残りやすく、また作業性が悪い欠点があった。」(1頁左下欄19行〜右上欄13行)、
(1c)「ここでF5値とは、ASTM-D882-64Tに従って測定したフィルムの5%延伸時の応力(単位Kg/mm2)である。・・・F5値が5以下のアクリル系フィルムを積層した偏光膜は、強靱かつ柔軟であって破損しにくいばかりでなく、ガラス等の硬い表面に対してよく”なじむ”から、両者の接着に際して接着部分に気泡が残るようなことはない。」(2頁左上欄4〜18行)
(1d)「次に本発明による積層偏光膜の構成例と製造実施例を示す。
・・・
粘着剤層付アクリル系フィルム積層偏光膜
6/4/1/2/3
6/4/1/2/3/4/6
・・・
(但し、1は偏光膜、2は接着剤層、3はアクリル系フィルム、4は粘着剤層、・・・6は離型フィルムである。)」(3頁左上欄8行〜右上欄10行)、
(1e)「実施例1
・・・アクリル系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜の片面に次の方法で粘着剤層を積層した。すなわちポリエチレンテレフタレート離型フィルム(50μ)の片面にアプリケーターを用いてドクターナイフ(ギャップ4/1000インチ)で下記粘着剤溶液を塗布し、金属製枠に取りつけて熱風乾燥機中で80℃2分間乾燥する(粘着剤塗布量は11.0g/m2)。
この粘着剤塗布面に上記アクリル系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜を温度60℃、圧力2.0Kg/cm2で、2秒間圧着する。
別に、セルロース系フィルム・・・を、上記アクリル系フィルムの積層と全く同一方法で塩ビポリエン系偏光膜(20μ)に、両面積層し、次いで片面粘着剤積層して、片面粘着剤層付きセルロース系フィルム両面積層塩ビポリエン系偏光膜を得た。
これらの積層偏光膜を1.5cm×2.0cmに切断して液晶素子セルに慎重に接着したところ、片面粘着剤層付きセルロース系フィルム両面積層偏光膜は硬くて作業性が悪く、しかも液晶素子セルと粘着剤層間に気泡が残った。一方、柔軟な片面粘着剤層付きアクリル系フィルム積層偏光膜の場合は作業性が良好であり、気泡も残らなかった。
・・・
[粘着剤溶液組成]
アクリレート系粘着剤
(綜研化学社製・商品名SKダイン100B) 10部
酢酸エチル 26部」
(3頁右上欄14行〜4頁左上欄11行)。

「実験報告1」には、刊行物1の4頁記載のアクリレート系粘着剤(綜研化学株式会社製:商品名SKダイン100B)100gと酢酸エチル900gを混合して粘着剤溶液Aを調整し、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート離型フィルム(リンテック社製:PET5011)の剥離面にギャップ4/1000インチのドクターナイフで、前記粘着剤溶液Aを塗布し、80℃熱風乾燥機中の金網上で2分間乾燥させ、粘着剤付きフィルムを得たこと、この粘着剤付きフィルムを裁断し、9つの裁断片を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(ジーエルサイエンス株式会社製;型番GC-353)にで残存溶剤量を測定したところ、平均値が401ppm(各測定値は、平均から11%以内)であったことが記載されている。
「実験報告1’」には、刊行物1の4頁記載のアクリレート系粘着剤(綜研化学株式会社製:商品名SKダイン100B)100gと酢酸エチル260gを混合して粘着剤溶液Aを調整し、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート離型フィルム(リンテック社製:PET5011)の剥離面にギャップ4/1000インチのドクターナイフで、前記粘着剤溶液Aを塗布し、80℃熱風乾燥機中の金網上で2分間乾燥させ、粘着剤付きフィルムを得たこと、この粘着剤付きフィルムを裁断し、9つの裁断片を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(ジーエルサイエンス株式会社製;型番GC-353)にで残存溶剤量を測定したところ、平均値が401ppm(各測定値は、平均から11%以内)であったことが記載されている。

刊行物2(特開昭59-111114号公報)には、次の事項が記載されている。
(2a)「アクリル酸(又はメタクリル酸)系アルキルエステルを共重合主成分とし、共重合成分として、分子中にベンゼン環を有する重合性芳香族モノマー3〜30重量%を含有し、かつ分子中にカルボキシル基を有する重合性モノマーを5重量%以下の量で含有してもよいアクリル系樹脂からなる感圧性接着剤層が、偏光性フィルムがセルロース系保護層で被覆されてなる偏光板の少なくとも一面に設けられてなることを特徴とする接着層を有する偏光板。」(特許請求の範囲)
(2b)「本発明の偏光板は上述の通りの構成のものであり、とくに、・・・アクリル系樹脂からなる感圧接着剤層が、偏光板のセルロース系保護層面に設けられてなる接着層を有する偏光板であるから、・・・・これを液晶セル面等に適用し、液晶表示板等となして使用した場合、比較的高温度や高湿度の条件下でも、従来品の如く、偏光板のセルロース系保護層が損われたり、反射用金属箔を腐蝕劣化させたりすることがなく、又、接着層中に気泡が発生したり、液晶セル面から偏光板が剥離することも著しく抑制され、長時間の使用に耐え得る優れた性能を有するものである。」(3頁右下欄8行〜4頁左上欄4行)
(2c)「実施例1
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素導入管を備えた重合反応装置に、下記組成物を仕込み、窒素置換しながら、60℃に昇温した。
ブチルアクリレート 890g
2-ハイドロオキシエチルメタクリレート 10g
ベンジルメタクリレート 100g
アゾビスイソブチロニトリル 0.3g
酢酸エチル 1000g
60℃に保ちながら、3時間後に酢酸エチルを500g追加し、更に3時間後酢酸エチルを500g追加した。更に4時間後、酢酸エチル1000gとアゾビスイソブチロニトリル3gの混合液を加え、温度を酢酸エチル還流温度に昇温後5時間重合させた。
重合終了後、固形分15%になる様に、トルエンを加え、ガラスフィルターにてロ過して、粘着剤を得た。
この粘着剤100gに架橋剤としてトリメチロールプロパントリレンジイソシアネートを、0.06g混合し、シリコーン離型剤を塗布した厚さ25μのポリエステルフィルム上に200g/m2になる様に塗布し、80℃にて20分間乾燥させて感圧性接着フィルムを作った。
上記で用意した感圧性接着フィルムの接着剤層側を、厚さ25μのポリビニルアルコール偏光フィルムの両面が厚さ80μの三酢酸セルロースフィルムで、ウレタン系接着剤により貼着被覆された偏光板の一面に積層し、ローラで押圧して、接着層付きの偏光板を用意した。」(4頁左上欄9行〜右上欄19行)、

実験報告2には、刊行物2の実施例1に記載されている配合に従って、粘着剤を製造し、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(離型フィルム)に塗布した後、80℃にて20分間乾燥し、感圧性接着フィルムを得たこと、これを、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(加熱条件:150℃×30分間)にて、粘着剤中の溶剤含有量を測定したところ、平均値が17.1ppmであったことが記載されている。

刊行物3(特開昭53-41245号公報)には、次の事項が記載されている。
(3a)「偏光フィルムの少なくとも片面に二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロースの群から選ばれた1つのセルロース系フィルムを貼り合わせてなる偏光板の片面または両面に感圧接着剤層を形成してなる接着偏光板を加熱加湿処理するかあるいは加熱または加熱減圧処理を施して後加湿処理し、セルロース系フィルム中の残存溶媒を実質的に完全に除去することを特徴とする接着偏光板の処理方法。」(特許請求の範囲)、
(3b)「実施例1
I:偏光フィルム
厚さ40μのポリビニルアルコール系フィルム・・・を約90℃で加熱して一軸方向に5倍延伸せしめ、・・・偏光フィルムを得た。
II:偏光板
三酢酸セルロースフィルムの片面に、ポリ酢酸ビニル・・・の溶液を乾燥後の厚みが5μとなるようにキャスチングし、次いで前述の偏光フィルムの両面に該キャスチング面を介して重ね合わせ、80℃に保持された種々の偏光板を得た。
III:接着偏光板
前述の偏光板の片面に、アクリル酸エステルを主体としたアクリル系感圧接着剤(30%トルエン溶液)を乾燥後の厚みが30μとなるようにコーチングし、80℃×20分間乾燥して感圧接着剤層中のトルエンを殆ど除去した接着剤層を形成することによって接着偏光板を得た。
この接着偏光板の糊面に、表面に剥離処理を施してなるポリエステルフィルムを仮着して後、・・・加熱および加湿処理を同時に行ない16×50mmの大きさに切断してサンプルを作製した。」(3頁左上欄8行〜右上欄15行)。

「実験報告3」には、刊行物3の実施例1と同じようにアクリル系粘着剤を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(離型フィルム)に乾燥後の厚みが30μmになるように塗布した後、80℃にて10分及び20分間乾燥し、感圧性接着フィルムを得たこと、これを溶剤含有量測定のサンプルとし、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー(加熱条件:150℃×30分間)にて、粘着剤中の溶剤含有量を測定したところ、80℃×10分の乾燥条件のものは平均値が58.7ppmであり、80℃×20分の乾燥条件のものは平均値が12.7ppmであったことが記載されている。

刊行物4(特開平6-75701号公報)には、次の事項が記載されている。
(4a)「液晶表示パネルの視認側に透明保護板を設けてタブレット板装備の手書入力可能な液晶表示装置を製造するにあたり、液晶表示パネルと透明保護板を透明な粘接着性樹脂からなる緩衝性を有する接着シートを介し、かつその接着界面に紫外線重合性の液を介在させて紫外線照射により接着処理することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。」(特許請求の範囲)、
(4b)「実施例1
厚さ1.1mmの透明なガラス板(180mm×250mm)の片面に偏光フィルム(日東電工社製、NPF-F1205DU)を接着したものの上に、厚さ200μmの粘着性の接着シートを一方のセパレータを剥がしてロールラミネーターを介し圧着したのち、残るセパレータを剥がして接着シート面を露出させその表面に紫外線重合性の液を滴下して厚さ1.1mmの透明なガラス板を重ね合せて密着させ、当該紫外線重合性の液層を接着シートとガラス板の界面全体に薄層展開させて高圧水銀ランプにより紫外線を200mJ/cm2照射し、当該紫外線重合性の薄層展開を硬化させて、液晶表示パネル形成用のガラス板の上に偏光フィルムと透明な接着層を介してガラス製透明保護板を接着した積層体を得た。
なお前記において、接着シートは、アクリル酸ブチル95重量部、アクリル酸5重量部、過酸化ベンゾイル0.2重量部をトルエン300重量部に溶解させて撹拌下に約60℃で6時間反応させて粘着性のアクリル系ポリマーの溶液を得、それにアクリル系ポリマー100重量部あたり0.5重量部のイソシアネート系架橋剤を配合してポリエステル系セパレータ上にリバースロールコート法で展開し、その上にさらにポリエステル系セパレータを付与して加熱乾燥して形成したものである。」(段落【0021】〜【0022】)。

2.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と、刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1には、偏光膜に保護層を形成した積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層を設けた粘着剤層を有する偏光板が記載されていると認められるが、「保護層」は「F5値が5以下の透明アクリル系フィルム」であり、「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層を設ける」ことは記載されていない。
したがって、本件請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明ではない。
また、刊行物1に記載の発明は、偏光膜の保護層として、上記の特定のアクリル系フィルムを使用することにより気泡の発生等を防止しようとするものであって、「セルロース系保護層」を設けることは好ましくないものとされているから、「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体」が刊行物2、3に記載されているように本願出願前に知られていたとしても、刊行物1記載の積層体を「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体」に置換することが当業者に容易になしうるとすることはできない。
異議申立人は、実験報告1の記載には誤記があったとして、実験報告1’を提出し、刊行物1の実施例1においてアクリル系樹脂粘着剤の溶剤含有量は平均401ppmであると主張するが、仮に刊行物1の実施例1におけるアクリル系樹脂粘着剤の溶剤含有量が25〜500ppmの範囲であるとしても、実施例1のアクリル系樹脂粘着剤は「アクリル系フィルム」との接着剤として記載されているものであり、接着する樹脂が異なれば、粘着剤の接着作用が異なることは技術常識であるから、「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体」において、粘着層の剥離を防止させるためにアクリル系樹脂粘着剤の溶剤含有量を25〜500ppmの範囲とすることが当業者に容易になしうるとすることはできない。
また、刊行物2ないし4のいずれにも、請求項1に係る発明の構成である「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側に25〜500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層を設けた」点について記載されていない。
すなわち、刊行物2には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層(刊行物2においては感圧性接着剤層)を設けた、粘着剤層を有する偏光板が記載されているが、粘着剤層の溶剤含有量については記載されていない。また、実験報告2には、実施例1を追試したところ粘着剤層の溶剤含有量は4サンプルの平均が17.1ppmであったと記載されていることからみても、刊行物2に記載された発明の、粘着剤層の溶剤含有量が25〜500ppmの範囲であるとすることはできない。
刊行物3には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層(刊行物3においてはセルロース系フィルム)からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層(同じく感圧接着剤)を設けた偏光板が記載されていると認められるが、実施例1には、粘着剤層の溶剤のトルエンは殆ど除去されていることが記載されており、さらに偏光板に粘着剤層を形成した後、粘着剤層を有する偏光板(同じく接着偏光板)を加熱加湿処理してセルロース系保護層中の残存溶媒をも除去するものであり、粘着剤層の溶剤含有量が25〜500ppmの範囲であるとすることはできない。
実験報告3には、偏光板にアクリル系粘着剤層を形成した後、乾燥して粘着剤層の溶剤含有量を測定したことが記載されているが、刊行物3に記載されたアクリル系粘着剤がどのようなものか不明りょうなため、実験報告3が刊行物3に記載された粘着剤層を正確に追試したものとはいえない上、80℃×20分の乾燥条件のものは平均値が12.7ppmであったことが示されていることから、実験報告3によっても、刊行物3に記載された発明における粘着剤層の溶剤含有量が25〜500ppmの範囲であるとはいえない。
刊行物4には、偏光フィルムと透明保護板をアクリル系樹脂からなる接着シートで接着することが記載されているが、「ポリビニルアルコール系偏光フィルムとセルロース系保護層からなる積層体の少なくとも一方の外側にアクリル系樹脂粘着剤層を設ける」ことは記載されておらず、粘着剤層の溶剤含有量についても記載されていない。
そして、請求項1に係る発明は、アクリル系樹脂粘着剤層の溶剤含有量を特定の範囲に限定することにより、粘着剤の発泡や剥離を起こさず、高温、高湿環境下で長時間放置しても光学特性が低下しないという特有の作用効果を奏するものである。
したがって、請求項1に係る発明は、刊行物1、2、3に記載された発明であるとすることはできず、また、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)請求項2、3に係る発明について
請求項2、3に係る発明は、請求項1に係る発明を引用し、さらに構成を限定した発明であるから、請求項1に係る発明と同様の理由により、刊行物1、2、3に記載された発明ではなく、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)請求項4、5に係る発明について
請求項4に係る発明は請求項1または2に係る発明の偏光板の製造方法であり、請求項5に係る発明は、請求項3に係る発明の偏光板の製造方法であって、いずれも、請求項1、2または3に係る発明の構成を含むものであるから、請求項1、2、3に係る発明と同様の理由により、刊行物1、2、3に記載された発明ではなく、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもでない。

[2]特許法第36条違反について
1.異議申立人日東電工株式会社が申立て、当審の取消理由通知で指摘した、査定時の明細書の不備は次のとおりである。
(1)実施例1には、実施不可能な溶剤濃度が記載されており、発明の詳細な説明には、請求項に係る発明が当業者が容易に実施することができる程度に記載されていない。
(2)請求項6、7には「10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤」を偏光フィルムと保護層からなる積層体に塗工し、乾燥する偏光板の製造方法が記載されているが、発明の詳細な説明には、請求項と対応する事項が記載されていない。
(3)請求項6、7の「10000ppm以上」は下限値だけを示す数値限定であって、発明の範囲が不明確である。
(4)請求項7に記載の乾燥温度は、「50〜200℃」であるのに実施例4の乾燥温度は220℃であり、両者が整合しないから請求項7に係る発明は不明確である。
(5)請求項7に係る発明は表現が不適切であり、発明が不明確である。

上記(1)、(2)について検討すると、明細書には溶剤濃度について、請求項1には「25〜500ppmの溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤層」、段落【0023】には「アクリル系樹脂粘着剤を偏光板あるいは離型フィルムに塗工し、乾燥した後の溶剤含有量は、例えばヘッドスペースガスクロマトグラフィー(日立製作所社製)により測定される。」と記載されている。
これらの記載によれば、請求項1の溶剤含有割合「25〜500ppm」は、アクリル系樹脂粘着剤層中の有機溶剤の割合であることは明らかである。
一方、請求項4、5(査定時の明細書の請求項6、7)には「10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤」と、請求項1と同じ表現で有機溶剤の含有割合が記載されているから、請求項4、5の有機溶剤の割合「10000ppm以上」も、アクリル系樹脂粘着剤中の有機溶剤の割合であると認められる。
そして、明細書の段落【0021】には、「偏光板あるいは離型フィルムに塗工する前にあらかじめ溶剤含有量を調整しておいたアクリル系樹脂粘着剤を用いても良いが、好ましくは上記アクリル系樹脂粘着剤をトルエン、酢酸エチル等の前記溶剤で10000ppm以上、好ましくは100000以上に希釈し、偏光板あるいは離型フィルムに塗工した後、・・・乾燥することにより、溶剤含有量をコントロールすることが望ましい。」と記載されている。すなわち、アクリル系樹脂粘着剤の溶剤含有量は、あらかじめ請求項1で規定する25〜500ppmに調整しておいてもよいし、トルエン等の溶剤で10000ppm以上に希釈し、希釈されたアクリル系樹脂粘着剤を塗布後乾燥することが好ましいことが示されているのであって、ppmで表された数値は溶剤の割合を表していることは明らかである。
ところで、実施例1には、「アクリル系樹脂粘着剤(A)(樹脂成分;アクリル酸n-ブチル:アクリル酸=100:5、コロネートL(日本ポリウレタン社製);5%)をトルエンで希釈し2000000ppmとした」と記載されている。2000000ppmは200%であるから、希釈されたアクリル系樹脂粘着剤中の溶剤の含有量でないことは明らかであり、「希釈し2000000ppmとした」は、アクリル系樹脂粘着剤に対しトルエン200%で希釈したことを意味すると解することができ、実施例1に記載の溶剤濃度が実施不可能な濃度であるということはできない。
そして、明細書の実施例1ないし4及び比較例1、2には、10000ppm以上の有機溶剤を含有したアクリル系樹脂粘着剤を積層体に塗工後、乾燥させる偏光板の製造方法が記載されており、乾燥温度と乾燥時間を調整することで、粘着剤層中の溶剤の含有量を調整できることが示されているのであるから、発明の詳細な説明に、請求項に係る発明が当業者が容易に実施することができる程度に記載されていないとすることはできない。
上記(3)について検討すると、上記段落【0021】の記載によれば、有機溶剤の含有割合は、乾燥後の含有量が請求項1で限定される範囲となるものであれば、どのような割合でも良いことは明らかであり、請求項4、5に有機溶剤の上限が記載されていないからといって、その記載が不備であるとはいえない。
上記(4)、(5)について検討すると、訂正の審判において明細書の訂正がなされた結果、請求項5(査定時の請求項7)の記載の不備は解消している。なお、請求項5は、乾燥温度を50〜200℃に限定したものであるが、このような乾燥温度のものは実施例1ないし3に記載されており、請求項5の記載は、発明の詳細な説明の記載と整合している。

V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-06-08 
出願番号 特願平6-180902
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
P 1 651・ 534- Y (G02B)
P 1 651・ 113- Y (G02B)
P 1 651・ 531- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伏見 隆夫
秋月 美紀子
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3315256号(P3315256)
権利者 日本合成化学工業株式会社
発明の名称 粘着剤層を有する偏光板  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 亨  
代理人 中山 光子  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 高畑 ちより  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ