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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない E02D
管理番号 1121881
審判番号 無効2004-80072  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-10-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-08 
確定日 2005-06-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3521363号発明「山留め工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3521363号(以下、「本件特許」という。)の出願は、平成7年3月29日に特許出願された特願平7-72156号(以下、「本願特許出願」という。)であって、その請求項1ないし請求項3に係る発明について平成16年2月20日に設定登録され、その後の平成16年6月8日に、前記本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人株式会社竹中工務店(以下、「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2004-80072〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人清水建設株式会社(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の平成16年8月30日付けの審判事件答弁書及び同日付けの訂正請求書が提出され、これに対して請求人により、新たな無効理由及び甲第7号証及び甲第8号証の刊行物が追加補充された平成16年10月19日付けの審判事件弁駁書が提出されたことにより、当審は、平成15年改正特許法(以下、単に「改正特許法」という。)施行規則第47条の5第3項に基づいて請求の理由の要旨を変更する補正がなされた無効審判請求について許可の決定をして両当事者に平成16年11月2日付けの「補正許否の決定」を送付するとともに、被請求人に答弁する機会を与えたところ、被請求人は上記平成16年8月30日付け訂正請求書を取り下げるとともに、指定期間内の平成16年12月6日付けの審判事件答弁書とともに同日付けの訂正請求書を提出し、そして前記請求人は平成17年3月3日付けの審判事件弁駁書2を提出したものである。

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
(1) 請求人は、平成16年6月8日付けの当初の無効審判請求においては、下記の甲第1号証ないし甲第6号証の刊行物を提示し、
「特許第3521363号の特許請求の範囲の請求項1、2及び3に係る発明の特許は無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
との審決を求める。」と主張して、概略を次に示すところの無効理由1〜無効理由9を主張した。
無効理由1:本件の請求項1に係る発明は、実質的に本願特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当することにより特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由2:本件の請求項1に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由3:本件の請求項1に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第4号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由4:本件の請求項1に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由5:本件の請求項2に係る発明は、実質的に本願特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当することにより特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由6:本件の請求項2に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由7:本件の請求項2に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第6号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由8:本件の請求項2に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由9:本件の請求項3に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:藤田圭一監修『土木現場実用語辞典』の第137頁(甲第1号証の1)の「しんそうこんごうしょりこうほう[深層混合処理工法]」の項及び第139〜140頁(甲第1号証の2)の「ちゅうれつこうほう[柱列工法]」の項、株式会社井上書院、1993年9月25日発行
甲第2号証:特開昭61-1719号公報
甲第3号証:『基礎工3月号<第15巻 第3号>』の第62〜67頁「報文 市街地における大規模山留め工事の計画と実施-東宝日比谷ビル新築工事-」の項、株式会社総合土木研究所、昭和62(1987)年3月15日発行
甲第4号証:特開平4-174126号公報
甲第5号証:特開平6-2329号公報
甲第6号証:特開平2-74715号公報

(2) 請求人は、平成16年10月19日付けの審判事件弁駁書において、下記の甲第7号証及び甲第8号証の刊行物を追加提示して、平成16年8月30日付けの訂正請求に基づいて訂正された特許第3521363号の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明に対して、概略を次に示すところの無効理由10及び無効理由11を主張した。
無効理由10:本件の訂正後の請求項1に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物に記載の発明及び甲第6号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由11:本件の訂正後の請求項2に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物に記載の発明及び甲第6号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第7号証:社団法人日本建築学会編集『山留め設計施工指針』の第123〜127頁「4.5 山留め壁の根入れ長さの検討」の項、社団法人日本建築学会、昭和63年1月15日発行
甲第8号証:特開平4-174123号公報

(3) 請求人は、平成17年3月3日付けの審判事件弁駁書2において、平成16年8月30日付け訂正請求が取り下げられ、改めて平成16年12月6日付けの訂正請求に基づいて訂正された特許第3521363号の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明に対して、概略を次に示すところの無効理由12及び無効理由13を主張した。
無効理由12:本件の訂正後の請求項1に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物に記載の発明、並びに、甲第3号証及び甲第6号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由13:本件の訂正後の請求項2に係る発明は、本願特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物に記載の発明、並びに、甲第3号証及び甲第6号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.被請求人の主張
(1) 被請求人は、先ず、平成16年8月30日付けの審判事件答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張するとともに、請求人の前記主張に対し、前記平成16年8月30日付け審判事件答弁書と同日付けの訂正請求書を提出して「本件の請求項1、2に係る発明は、甲第3号証〜甲第6号証に基づいて、当業者が容易に発明することができないものであるから、進歩性を有すると言うべきである。」と主張した。
(2) 被請求人は、さらに、平成16年12月6日付けの審判事件答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張するとともに、請求人の前記主張に対し、上記平成16年8月30日付けの訂正請求書を取り下げるとともに、改めて前記平成16年12月6日付け審判事件答弁書と同日付けの訂正請求書を提出して「本件発明1は、甲第3号証[当審注:「甲第5号証」の誤記と認める。]、甲第6〜8号証に基づいて、また、本件発明2は、甲第3号証、甲第6〜8号証に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明することができないものであるから、進歩性を有すると言うべきである。」と主張した。

第3 訂正請求の適否についての判断
被請求人は、前述したように、上記平成16年8月30日付けの訂正請求書を取り下げるとともに、改めて前記平成16年12月6日付けの訂正請求書を提出しているので、平成16年12月6日付けの訂正請求の適否について検討する。
1.訂正請求の時期的要件についての検討
本件訂正請求は、改正特許法第134条第2項の規定に基いて指定期間内の平成17年12月6日に提出されたものであるから、本件訂正請求は、同法第134条の2第1項本文に規定されている時期的要件を満たすものである。

2.訂正請求の内容
被請求人は、前記訂正請求により、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を前記訂正請求書に添付した訂正明細書に記載したとおりの次の内容の訂正を請求するものである。
・[訂正事項a]:特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】 地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を間隔を空けて複数配設し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。」の記載を、
「【請求項1】 地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。」と訂正する。
・[訂正事項b]:特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項2の
「【請求項2】 山留め壁の内側に、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を併設して山留め壁を2重構造とすることを特徴とする請求項1に記載の山留め工法。」の記載を、
「【請求項2】 地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、山留め壁の内側に密接して、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして併設して山留め壁を2重構造とし、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記補助壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。」と訂正する。
・[訂正事項c]:特許掲載公報の特許請求の範囲の「【請求項3】 間隔を空けて複数配設された深層混合処理工法による改良体壁からなる支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を配設することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の山留め工法。」を削除する。
・[訂正事項d]:特許掲載公報の3欄32〜40行に記載の
「【課題を解決するための手段】本発明においては、上記の課題を解決するために以下の手段を講じるものである。請求項1に記載の山留め工法は、地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を間隔を空けて複数配設し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする。」の記載を、
「【課題を解決するための手段】本発明においては、上記の課題を解決するために以下の手段を講じるものである。請求項1に記載の山留め工法は、地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする。」と訂正する。
・[訂正事項e]:特許掲載公報の3欄41〜45行に記載の
「請求項2に記載の山留め工法は、請求項1に記載の山留め工法における山留め壁の内側に、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を併設して山留め壁を2重構造とすることを特徴とする。」の記載を、
「請求項2に記載の山留め工法は、地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、山留め壁の内側に密接して、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして併設して山留め壁を2重構造とし、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記補助壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする。」と訂正する。
・[訂正事項f]:特許掲載公報の3欄46〜49行に記載の
「請求項3に記載の山留め工法は、請求項1または2に記載の山留め工法における支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を配設することを特徴とする。」の記載を、削除する。
・[訂正事項g]:特許掲載公報の4欄2〜8行に記載の
「【作用】請求項1に記載の山留め工法によれば、山留め壁に沿って支持壁を間隔を空けて櫛状に並設することにより、山留め壁および支持壁と、その間に存在する原地盤土とを一体化してひとつの構造物とする。この構造物は壁厚の大きな山留め壁となって断面剛性が高まるので、周辺の地盤から作用する側圧によっても変形、倒壊することなく周囲の地盤を支えることができる。」の記載を、
「【作用】請求項1に記載の山留め工法によれば、山留め壁に沿って支持壁を間隔を空けて櫛状に並設するとともに、支持壁に山留め壁と平行に内壁を配設することで、山留め壁と内壁との間を支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、これにより、山留め壁、支持壁および内壁と、その間に存在する原地盤土とを一体化してひとつの構造物とする。この構造物は壁厚の大きな山留め壁となって断面剛性が高まるので、周辺の地盤から作用する側圧によっても変形、倒壊することなく周囲の地盤を支えることができる。」と訂正する。
・[訂正事項h]:特許掲載公報の4欄9〜13行に記載の
「請求項2に記載の山留め工法によれば、請求項1に記載の山留め工法における山留め壁の内側に補助壁を併設したうえで支持壁を間隔を空けて櫛状に並設することにより、山留め壁の断面剛性をさらに高めることができる。」の記載を、
「請求項2に記載の山留め工法によれば、請求項1に記載の山留め工法における山留め壁の内側に補助壁を併設し、支持壁を間隔を空けて複数配設することで、補助壁と内壁との間を支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築することにより、山留め壁の断面剛性をさらに高めることができる。」と訂正する。
・[訂正事項i]:特許掲載公報の4欄14〜18行に記載の
「請求項3に記載の山留め工法によれば、請求項1または2に記載の山留め工法における支持壁に山留め壁と平行に内壁を箱状に配設することにより、山留め壁および内壁と、その間の原地盤土との一体化をさらに強めることができる。」の記載を、削除する。
・[訂正事項j]:特許掲載公報の7欄41〜44行に記載の
「さらに、設計条件に応じて、補助壁111、内壁120のいずれか一方、もしくは両方を構築せず、図5の(A)、(B)に示すような山留め構造150a、150bを構築することも可能である。」の記載を、
「さらに、設計条件に応じて、補助壁111を構築せず、図5(B)に示すような山留め構造150bを構築することも可能である。」と訂正する。

3.訂正請求の目的の適否についての検討
[訂正事項a]の訂正は、請求項1の発明特定事項を限定することを目的とする訂正であるから、改正特許法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項b]の訂正は、請求項2を、請求項1の引用形式から独立形式にした上で、請求項2の発明特定事項を限定することを目的とする訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項c]の訂正は、請求項3を削除する訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項d]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項1に関する前記[訂正事項a]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項e]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項2に関する前記[訂正事項b]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項f]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項3に関する前記[訂正事項c]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項g]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項1に関する前記[訂正事項a]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項h]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項2に関する前記[訂正事項b]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項i]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項3に関する前記[訂正事項c]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
[訂正事項j]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、請求項1に関する前記[訂正事項a]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

したがって、上記[訂正事項a]ないし[訂正事項j]の訂正は、上記のとおり、改正特許法第134条の2第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項のいずれかを目的としているから、同法第134条の2第1項ただし書の規定に適合する。

4.新規事項の存否についての検討
上記[訂正事項a]ないし[訂正事項j]における特許明細書及び特許請求の範囲の訂正は、特許明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、改正特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合する。

5.実質上変更・拡張の有無についての検討
上記[訂正事項a]ないし[訂正事項j]における特許明細書及び特許請求の範囲の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、改正特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

6.むすび
以上のとおりであり、本件訂正請求は、改正特許法第134条の2第1項並びに同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、本件訂正請求を認める。

なお、本件無効審判請求は、その請求の対象が特許明細書の全請求項の請求項1ないし請求項3に係る発明の特許に対して請求されているのであり、改正特許法第134条の2第5項において読み替えて適用される同法第126条第5項に「この場合において、第126条第5項中『第1項ただし書第1号又は第2号』とあるのは、『特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号』と読み替えるものとする。」と規定されていることにより、本件の訂正請求の適否の検討においては、同法第134条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定されている、いわゆる「独立特許要件の有無」についての検討を要しないことを、念のために付言しておく。

第4 本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明
特許明細書における特許請求の範囲が、平成16年12月6日付けの訂正請求により訂正されたので、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、これらを、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、平成16年12月6日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。
【請求項2】 地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、山留め壁の内側に密接して、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして併設して山留め壁を2重構造とし、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記補助壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。」

第5 無効理由1ないし無効理由13について
1.甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第1号証の刊行物には、土木現場実用語「深層混合処理工法」及び「柱列工法」についての定義、解説ないし説明が次のように記載されている。
甲第1号証の1:「しんそうこんごうしょりこうほう[深層混合処理工法]軟弱地盤処理工法の中の固結工法の一つ。セメントや石灰などの安定材と地盤の土とを原位置でかくはん混合し、柱状に固結させる工法。」
甲第1号証の2:「ちゅうれつこうほう[柱列工法]地下連続壁工法の一つ。場所打ちコンクリート杭、モルタル杭などを連続して打設し、柱列式の壁を構築して土留め壁や止水壁とする工法。「柱列式地下壁工法」ともいう。」

(2)甲第2号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第2号証の刊行物には、「ソイルパイル柱列壁工法」に関し、次の技術事項が記載されている。
「第2図は、芯材4としてH形鋼を使用した複合ソイルパイルによって山留め壁を形成したソイルパイル柱列壁を示している。」(2頁左上欄6〜8行)

(3)甲第3号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第3号証の刊行物には、「市街地(東宝日比谷ビル新築工事)における大規模山留め工事の計画と実施の報文」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「順打ち工法,切梁7段(各段60%以上のプレロードを導入)を採用することとした。山留め壁はソイルセメント柱列をφ750@600,芯材H-598×199×10×16(上杭)H-622×203×14×18(下杭)@600とし,工法としてはTSP工法(Takenaka Soilcement Pile Method)を用いた。」(64頁右欄38〜43行)
「地盤改良の要否および工法については,特に山留め壁の変形を防止すべき部分が限定されていること,地盤改良効果が明快であることの2点から検討を行った。その結果ソイルセメント柱列による切梁方式(ソイルストラット工法),および擁壁方式(ソイルバットレス工法)の地盤改良を既存地中障害物を考慮してそれぞれ行うこととした。地盤改良位置を図-6に示した。」(65頁左欄15〜22行)
「山留め壁の変形抑止として用いたソイルストラッ卜部(E-2),ソイルバットレス部(E-1)の効果は図-10中に示したとおりである。山留め壁最大変位の経時変化からソイルストラット,ソイルバットレスの順で変位抑止効果があることがわかる。」(67頁左欄11〜15行)
「今回採用したソイルストラット工法,ソイルバットレス工法のような積極的に山留め壁の変形を抑止し,周辺への影響を小さくする工法が必要となると考えられる。」(67頁左欄22〜26行)
そして、甲第3号証の「図-6 山留め架構平面(5段切梁)と計測位置」(66頁)の図面における矢印E-1の矢示位置に、地下構造物の構築領域に沿ってソイルセメント柱列による山留め壁が構築され、更に山留め壁の内側に約4倍の壁厚さでソイルセメント柱列による補助壁が併設されて山留め壁が2重壁構造となっており、そして補助壁から内方へ山留め壁に対しほぼ直角方向にソイルセメント柱列からなるソイルバットレスが間隔を空けて2個櫛状に配設された山留め架構平面が示されている。

(4)甲第4号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第4号証の刊行物には、「土留壁工法」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「この発明は、地下連続壁からなる土留壁本体の内側面に控壁(バットレス)をT字型に一体化して土留壁本体を安定に自立させる方式の土留壁工法の改良に関する。」(1頁左欄20行〜同右欄3行)

(5)甲第5号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第5号証の刊行物には、「地中連続壁による山留め、止水工法」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】深い部分にある不透水層に達する地中連続壁をまず構築し、その内側、または外側に土圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁を構築し、この作業を必要な壁厚が確保できるまで繰り返すことを特徴とする地中連続壁による山留め、止水工法。
【請求項2】深い部分にある不透水層に達する地中連続壁をまず構築し、次に、その内側または外側に、地中連続壁と直角方向に一体化して土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁を構築し、さらにその地中連続壁と直角方向に一体化して同じ深さまで地中連続壁を構築することを特徴とする地中連続壁による山留め、止水工法。
【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】この発明はLNGや原油の地下タンク、シールドトンネルの縦坑、その他の地下構造物における地中連続壁による山留め、止水工法である。
【0002】【発明が解決しようとする課題】地下構造物がどんどん大型化しており、例えば、LNGの地下タンクの場合で20年前に容量60,000KLだったものが、最近では容量200,000KLが建設されている。また、原油の地下タンクは、容量350,000KLが建設されている。大型の地下構造物の場合、大きな土圧、水圧を受けることから、ほとんどの場合地中連続壁による山留め、止水工法が採用されている。
【0003】地中連続壁は、地中に短冊型の鉄筋コンクリートの壁を連続して造り、土圧、水圧に抵抗するとともに、その連続した壁で止水性を確保するものである。一般に、地中連続壁の上部においては、土圧、水圧に対する抵抗力が期待されるのに対して、下部は止水性のみが期待される。
【0004】掘削する機械の関係から、地中連続壁は一定の壁厚で構築されるのが一般的であるが、地中連続壁の上部および下部における機能を考えると、下部においては薄い地中連続壁で十分であり、上部の土圧、水圧に対して必要な厚い壁厚を下部まで同じ寸法でつくることは不経済である。
【0005】この問題を解決するため、変断面地中連続壁が開発されており、特開昭59-154217が当社から出願されている。
【0006】この工法は、鉄筋コンクリート製の一体構造である変断面地中連続壁を構築するものであり、変断面に地中を掘削した後、掘削形状に応じた鉄筋籠を建て込み、コンクリートを打設する。この工法は、以下の問題点がある。
【0007】すなわち断面変化部分で掘削面の肌落ちが生じやすく、止水性の確保が難しい。
【0008】また掘削に長時間を要するため、孔壁の安定確保が難しい。
【0009】また壁厚の大きい掘削機械で上部を掘削した後、掘削機械を変え、壁厚の小さい下部を掘削するため、2種類の掘削機械が必要となる。
【0010】さらに横方向の鉄筋をラップさせる場合に、鉄筋籠の挿入が困難である。
【0011】この発明は前記問題点を解消すべく開発した工法である。
【0012】【課題を解決するための手段】この発明の地中連続壁による山留め、止水工法は、深い部分にある不透水層に達する地中連続壁をまず構築し、その内側、または外側に土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁を構築し、この作業を必要な壁厚が確保できるまで繰り返す方法と、深い部分にある不透水層に達する地中連続壁をまず構築し、次に、その内側または外側に、地中連続壁と直角方向に一体化して土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁を構築し、さらにその地中連続壁と直角方向に一体化して同じ深さまで地中連続壁を構築する方法である。
【0013】【実施例】1番目の発明は重ね方式地中接続壁であり、深い部分にある不透水層4に達する地中連続壁1をまず構築する。その内側、または外側に土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁2を構築する。この作業を必要な壁厚が確保できるまで繰り返す。また地中連続壁1と2の間は必要に応じてグラウトする。さらに断熱性を良くするため連続壁2は例えばパーライトを混入したコンクリート(パーライトコンクリート)のようにポーラスなコンクリートを打設してもよい。
【0014】2番目の発明は井桁方式地中連続壁であり、深い部分にある不透水層4に達する地中連続壁1をまず構築する。次に、その内側または外側に、地中連続壁1と直角方向に一体化して土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁2を構築する。さらに、地中連続壁2と直角方向に一体化して地中連続壁2と同じ深さまで地中連続壁3を構築する。
【0015】その後、円筒形の山留めなど軸圧縮力が卓越する場合には、土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで井桁の内部を掘削しコンクリートに置き換える。
【0016】また、必要に応じて1番目の発明のように連続壁1と3の間の2で区切られた部分に上記の断熱を目的として材料を打設する。
【0017】【発明の効果】この発明は以上の構成からなり、同じ壁厚の地中連続壁となるため掘削機械が一種類で済み、機械の効率的な運用ができ、工事費の低減が図れる。
【0018】また掘削の終了した部分から順次コンクリートを打設していくため、孔壁の安定が確保しやすい。
【0019】また汎用の掘削機械が使用できるため、機械の調達が容易であり、費用が安い。
【0020】また従来の地中連続壁と同様の止水性が確保される。
【0021】さらに必要とされる山留の規模に応じて、土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで、前記重ね方式地中連続壁であれば地中連続壁の数をふやすことにより、前記井桁方式地中連続壁であれば井桁の数を増やすことにより容易に対応できる。」
そして、甲第5号証の【図2】には、2番目の発明の実施例の横断面図(a) 及び一部縦断面図(b) が記載されていて、上記摘記事項を裏付ける技術事項が図示されている。
上記甲第5号証の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第5号証には、「深い部分にある不透水層4に達する地中連続壁1をまず構築し、次に、その内側に、地中連続壁1と直角方向に一体化して、その上端を地中連続壁1と同じ高さとし下端を土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで地中連続壁2を構築し、さらに、地中連続壁2と直角方向に一体化して、その上端を地中連続壁2と同じ高さとし下端を地中連続壁2と同じ深さまで地中連続壁3を構築する井桁方式地中連続壁による山留め、止水工法」の発明(以下、これを「引用発明」という。)の記載が認められる。

(6)甲第6号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第6号証の刊行物には、「自立山留め壁の構築工法」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
(1) 建物の地階外周部位置の地盤を、基礎底面下所要深度まで攪拌翼を有するロッドの回転により固化剤を注入しながら掘削,攪拌し、掘削土と固化剤を混合してここに外側ソイルセメント固結柱体を連続的に、地階外周部を周回して造成し、更にこの外側ソイルセメント固結柱体の内周側に並列し、建物地階の基礎底面位置の直下から所要深度までの地盤を同じく固化剤の注入と同時に掘削,攪拌し、内側ソイルセメント固結柱体を連続的に周回して造成し、地階下で並列する山留め壁を構築する自立山留め壁の構築方法。
3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
この発明は地盤改良コラムの造成によって自立の山留め壁を構築する、自立山留め壁の構築方法に関するものである。
〔発明が解決しようとする課題〕
根切り深さが地下構造物の一層程度の場合の自立山留め壁は親杭横矢板壁が一般的であるが、この工法は一層を越える深度では山留め壁の水平変位が大きくなり、また地下水位が高い場合には止水性に問題があり、限定された深度、地盤でしか採用できないのが実情である。
この発明はこうした地下一層程度の山留め壁に通常採用される親杭横矢板壁工法の弱点を踏まえてなされさたもので、地盤改良コラムの造成により山留め壁を構築することにより施工の適用範囲を拡張しようとするものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明では地盤を固化剤の注入と同時に掘削,攪拌し、掘削土と固化剤を混合してソイルセメント固結柱体を連続的に造成することにより山留壁としての剛性を確保し、その根切りに伴う水平変位を抑えるとともに、止水性を向上させ、更に建物地階の基礎底面位置より所要深度までソイルセメント固結柱体を並列させ、一体化することにより根入れ部の受働抵抗、すなわち主働土圧に対する抵抗力を高め、その区間の変位、変形を防止する。
〔実 施 例〕
以下本発明を一実施例を示す図面に基づいて説明する。
この発明は先端に攪拌翼を有するロッドの回転と上下動により土をゆるめながら掘削土中に固化剤を注入して両者を攪拌し、混合することによって地中にソイルセメント固結柱体を連続的に、並列して造成し、建物Bの地階b下で並列する山留め壁Aを構築するものである。
第1図により施工手順を説明する。
まず建物Bの地階b外周部位置の地盤を、地表面から地階bの基礎底面下所要深度まで固化剤を注入しながらロッドにより掘削,攪拌し、掘削土と固化剤を混合して外側ソイルセメント固結柱体(以下外側柱体1)1を造成する(I,II)。
次にこの外側柱体1の内周側、すなわち建物B側に並列し、基礎底面位置の直下から外側柱体1の根入れ部先端までの地盤を同様に固化剤の注入と同時に掘削,攪拌し、外側柱体1と同一の内側ソイルセメント固結柱体(以下内側柱体2)2を造成する(III,IV)。
続いて既に造成した外側柱体1に連続して外側主体1を造成し(V)、更にI,IIIの作業を交互に繰り返して連続し、並列する外側主体1、内側柱体2を造成する(VI)。
以上の手順で外側柱体1と内側柱体2を建物Bの地階b外周部を周回して造成し(VII)、地階b下、すなわち根入れ部分で並列する山留め壁が構築される。
ところで地盤が軟弱な場合、または根切り深さが大きい場合等山留め壁Aに作用する土圧が大きくなることが予想され、ソイルセメント固結柱体のみでは耐力が不足する場合には固化剤の固結前に鉄筋籠,鉄骨等の芯材が挿入され、固結柱体が補強される。
第2図は内側柱体2を基礎底面下に格子状に配置し、内側柱体2に建物Bの荷重を支持させた場合の施工例を示したものであるが、この場合内側柱体2はまた格子状に連続することによって地盤を仕切り、その動きを拘束して液状化を阻止する役目を果たす。
〔発明の効果〕
この発明は以上の通りであり、剛性の高いソイルセメソト固結柱体により山留め壁を構築するものであるため根切りに伴う水平変位が小さく、施工時の安全性が向上される。
そして山留め壁は根入れ部分で並列しているため受働抵抗が大きく、また内側柱体は基礎杭として利用することができ、その配置の仕方によって液状化の防止に役立てることができる。」(1頁左欄4行〜2頁左下欄16行)

(7)甲第7号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第7号証の刊行物には、「山留め設計施工指針」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「4.5 山留め壁の根入れ長さの検討
山留め壁を根切り底面以下の地盤中に根入れする長さは,以下に示す項目の検討結果を総合的に判断して決めなければならない.
丸(1) 山留め壁に作用する主働側(背面側)の側圧と受働側(掘削側)の側圧との力のバランスに対して安全である.
丸(2) ヒービングやボイリングなど根切り底面の安定を確保しうる十分な長さである.
丸(3) 山留め壁の支持力に対して安全である.
丸(4) 地下水を遮水する上で十分な長さである.
上記の項目に関する検討方法を以下に示す.
4.5.1 力のつり合いによる検討
(1)自立山留めの場合
…(摘記省略)….
(a)山留め壁下端でのモーメントのつり合いによる検討
…(摘記省略)….
(b)特性長からの検討
…(摘記省略)….
(2)切ばり段数が1段の場合の検討 …(摘記省略)….
(3)切ばり段数が多段の場合の検討
…(摘記省略)….
4.5.2 根入れ底面の安定からの検討
…(摘記省略)….
4.5.3 支持力に対する検討
…(摘記省略)….
4.5.4 地下水の遮水に対する検討
…(摘記省略)….」

(8)甲第8号証の記載事項
本件の特許出願前に頒布された甲第8号証の刊行物には、「地下駐車場の?体工法」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「第1図は本発明の一実施例による地下駐車場の躯体工法の概略を示すもので、1a、1bは建物の地下外壁となる地中連続壁であり、所定間隔をおいて平行に設けられ、その下部は支持地盤にまで達している。地下外壁1aの内面側(地下外壁1bとの対向面側)には、外壁1aと直交する水平方向の寸法が短い控壁3a、3b、3c……が所定間隔をおいて外壁1aと一体的に設けられている。同様に地下外壁1bの内側面には控壁4a、4b、4c……が所定間隔をおいて外壁1aと直交して一体的に設けられている。前記控壁3a、3b、3c……および控壁4a、4b、4c……の下部は支持地盤にまで達しており、控壁3a、3b、3c……によって地下外壁1aが強固に支持され、控壁4a、4b、4c……によって地下外壁1bが強固に支持され、それぞれ自立土留壁となっている。そして第1図のように地下外壁1a、1b間の地盤を根切り、そこに地下階となる空間を形成する。そのとき控壁3a、3b、3c……および控壁4a、4b、4c……の上部を根切底Zより上方に突出させ、その突出部分を地下階すなわち地下駐車場の間仕切り壁とする。」(2頁右上欄4行〜2頁左下欄7行)

2.無効理由12及び無効理由13についての当審の判断
(1)本件発明1に対する無効理由12について
ア.対比及び一致点・相違点
本件発明1と甲第5号証の刊行物に記載された引用発明とを対比すると、引用発明の「地中連続壁1」、「その内側に、」、「地中連続壁1と直角方向に一体化して」、「地中連続壁2」、「地中連続壁2と直角方向に一体化して」、「地中連続壁3」、「井桁方式地中連続壁」及び「山留め、止水工法」が、本件発明1の「柱列式地中連続壁からなる山留め壁」、「前記構築領域の内側の地盤に、」、「山留め壁の水平方向の延在方向に沿って、間隔を空けて複数配設する」、「支持壁」、「前記支持壁に、山留め壁と平行に」、「内壁」、「前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体」及び「山留め工法」にそれぞれ対応する。
そして、引用発明の「深い部分にある不透水層4に達する」と、本件発明1の「支持地盤に達する」は、ともに「地盤のある深さに達する」である点において共通している。
そうすると、本件発明1と引用発明の両者は、「地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を地盤のある深さに達するまで構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って支持壁を、間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に内壁を、配設することで、前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築する山留め工法」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:支持壁及び内壁を、本件発明1が「深層混合処理工法による改良体からなる」としているのに対して、引用発明は、単に「地中連続壁2」及び「地中連続壁3」である点。
相違点2:山留め壁が達する地盤のある深さが、本件発明1では、「支持地盤に達するまで」であるのに対して、引用発明では「深い部分にある不透水層4に達する」である点。
相違点3:本件発明1では「その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持する」のに対して、引用発明では、そのような掘削及び支保工による支持工程については明記されていない点。
相違点4:支持壁及び内壁を、本件発明1では、「その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして」配設するのに対して、引用発明では、その上端を地中連続壁1と同じ高さとし、下端は土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまでとしている点。

イ.相違点についての検討
(ア)相違点1について
請求人が提出した甲第1号証の甲第1号証の1及び甲第2号証には、それぞれ「[深層混合処理工法]軟弱地盤処理工法の中の固結工法の一つ。セメントや石灰などの安定材と地盤の土とを原位置でかくはん混合し、柱状に固結させる工法。」及び「第2図は、芯材4としてH形鋼を使用した複合ソイルパイルによって山留め壁を形成したソイルパイル柱列壁を示している。」が記載されていて、地中連続壁として深層混合処理工法による改良体から構成することは、本願特許出願時の周知慣用技術である。
そうすると、本件発明1の上記相違点1に係る、支持壁及び内壁を深層混合処理工法による改良体から構成することは、本願特許出願時の周知慣用技術に基いて、当業者が必要に応じて適宜選択できる設計事項にすぎないことである。

(イ)相違点2について
請求人が提出した甲第8号証には「1a、1bは建物の地下外壁となる地中連続壁であり、所定間隔をおいて平行に設けられ、その下部は支持地盤にまで達している。」及び「前記控壁3a、3b、3c……および控壁4a、4b、4c……の下部は支持地盤にまで達しており、」が記載されていて、地中連続壁の下部を支持地盤にまで達するように構築することは、本願特許出願時の周知慣用技術である。
そうすると、引用発明における「深い部分にある不透水層4に達する地中連続壁1を構築」することに代えて上記周知慣用技術を適用することにより、本件発明1の上記相違点2に係る、山留め壁を支持地盤に達するまで構築することとすることは、本願特許出願時の周知慣用技術に基いて、当業者が必要に応じて適宜選択採用できる設計事項である。

(ウ)相違点3について
甲第3号証及び甲第7号証にも図示されているとおり、山留め壁の構築後に構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することは、本願特許出願時の周知慣用技術である。
そうすると、引用発明において、本件発明1の上記相違点3に係る、山留め壁等からなる壁体の構築後に、前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することは、本願特許出願時の周知慣用技術に基いて、当業者が必要に応じて適宜選択できる設計事項である。

(エ)相違点4について
本件発明1の上記相違点4に係る「支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点及び「内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点についての構成が、次の〔理由A〕及び〔理由B〕により、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物のいずれにも記載されているということができず、また、上記相違点4に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件訂正明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点4に係る構成は、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に想到できたことであるとは、いえない。
〔理由A〕:まず、甲第5号証の刊行物に記載の引用発明について検討すると、引用発明の「井桁方式地中連続壁」は、その甲第5号証の刊行物に記載のとおり「地中連続壁の上部においては、土圧、水圧に対する抵抗力が期待されるのに対して、下部は止水性のみが期待される」ものとして構築されるのであり、引用発明の「井桁方式地中連続壁」における「深い部分にある不透水層に達する地中連続壁」は、止水性のみが期待されているものである一方、「その内側に、地中連続壁1と直角方向に一体化して、その上端を地中連続壁1と同じ高さとし下端を土圧、水圧に対する抵抗力として必要な深さまで構築される地中連続壁2」と、「地中連続壁2と直角方向に一体化して、その上端を地中連続壁2と同じ高さとし下端を地中連続壁2と同じ深さまで地中連続壁3」とは、土圧、水圧に対する抵抗力が期待されるものとして構築されるのであるから、かかる引用発明からは、その「地中連続壁2(支持壁)」及び「地中連続壁3(内壁)」の「地中連続壁1(山留め壁)」に対する深さ位置に関する構成を、本件発明1の上記相違点4に係る「支持壁及び内壁のそれぞれの上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」構成に変更する動機づけが、もとより想起され得ないものであることは、明らかである。
そしてまた、甲第5号証を除く他の甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物における記載事項を検討してみても、本件発明1の上記相違点4に係る構成が、記載されているということができない。
そして、本件訂正明細書及び図面の記載によれば、本件発明1における「支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」構成及び「内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」構成により、「前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体」は、それぞれの下端が等しく「支持地盤に達するまで構築」するように構築された山留め壁と内壁と支持壁から構成されることになるのであり、これにより、本件発明1は、本件訂正明細書に記載されているところの「請求項1に記載の山留め工法によれば、山留め壁に沿って支持壁を間隔を空けて櫛状に並設するとともに、支持壁に山留め壁と平行に内壁を配設することで、山留め壁と内壁との間を支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、これにより、山留め壁、支持壁および内壁と、その間に存在する原地盤土とを一体化してひとつの構造物とする。この構造物は壁厚の大きな山留め壁となって断面剛性が高まるので、周辺の地盤から作用する側圧によっても変形、倒壊することなく周囲の地盤を支えることができる。」及び「本発明の山留め工法によれば、山留め構造を、間隔をあけて配置された壁体と、その壁体間に存在する地盤とを一体化し、ひとつの構造体とすることによって、構築領域の掘削に伴う山留め壁の変形、および周辺地盤の変状を効果的に抑制することができる。従来の山留め壁よりも断面剛性を飛躍的に高め、かつ山留め壁の施工コストを大幅に削減することができる。しかも、山留め壁の断面剛性が高まることによって支保工に必要とされる剛性を低減できるので、支保工の施工コストをも削減することができる。地下掘削工事においては必ず山留めが行われるので、この山留め工法を取り入れて設計、施工を行うことで、周辺地盤の変状防止、施工コストの削減のみならず、完成後の構築物を含めた周辺基盤の整備、付帯設備の構築等を有効に進めることができる。」という、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知技術ないし周知慣用技術から予測できる作用効果の範囲外のものと認められる。
〔理由B〕:次に、本件発明1における技術用語「床付け面の深さ」の観点から検討すると、本件訂正明細書の段落【0016】に「ここで、外壁20および中間壁30は、周囲の地盤Jの土質や土圧等の影響により予想される山留め壁10の変形を考慮して効果的な長さとする。山留め掘削施工中の山留め壁10の壁変位は、前述した図9のように表れるので、外壁20および中間壁30の下端は、壁変位が最大となる床付け面Tよりもさらに深く構築する。」と記載されている中で、技術用語「床付け面T」についての定義がなされているのであり、その定義によれば、本件発明1における技術用語「床付け面の深さ」は、「図9に図示される山留め掘削施工中の山留め壁の壁変位が最大となる面Tの深さの位置」の意義で使用されていることは明らかである。さらに、図9の図示によれば、該「床付け面T」の深さの位置は、山留め壁の根入れ長さが地表面GLから34mの深度の場合(山留め壁の根入れGL-34m)では、「床付け面T」が、丁度山留め壁の根入れ長さ34mの略半分の17mの深さの位置になることが看取できる。
してみると、本件訂正明細書の記載及び図9の図示によれば、本件発明1における技術用語「床付け面の深さ」の意義は、「山留め掘削施工中の山留め壁10の壁変位が最大となる面」であり、その結果、本件発明1の「床付け面の深さ」が、本件発明1の山留め壁の根入れ長さに依存する物理量であることは明らかである。そのことは、【図5(B)】における山留め壁110と内壁120と支持壁130との位置関係の図示を参照すると、本件発明1では、支持壁及び内壁の上端の深さ位置が、共に地表面GLから山留め壁の根入れ長さの略半分の深さ位置にあって、かつ、支持壁及び内壁の下端の深さ位置が、共に山留め壁と同じ深さ位置にあることから、本件発明1における支持壁及び内壁の長さは、山留め壁の長さの略半分となることがわかる。
そうすると、本件発明1の技術用語「床付け面の深さ」の観点からの検討でも、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物のいずれにも、本件発明1の上記相違点4に係る「支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点及び「内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点についての構成が記載されているということができず、また、上記相違点4に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件訂正明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点4に係る構成は、当業者が容易に想到できたことであるとは、いえない。
そして、本件発明1が奏する作用効果は、前述のとおりであり、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知技術ないし周知慣用技術から予測できる作用効果の範囲外のものと認められる。

ウ.まとめ
以上のとおりであり、本件発明1は、引用発明に甲第2号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知技術ないし周知慣用技術を適用したとしても、当業者が容易に本件発明1の構成を得ることができたものということができないから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。

(2)本件発明2に対する無効理由13について
ア.対比及び一致点・相違点
本件発明2と引用発明とを対比する前に、本件発明2が、請求項1に係る本件発明1にさらに「山留め壁の内側に密接して、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして併設して山留め壁を2重構造とし、」の構成が付加された発明であることを斟酌すると、本件発明2が本件発明1の下位概念の発明であることは明らかである。
そうすると、本件発明1が、前述のとおり、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないものである以上、本件発明1の下位概念の発明である本件発明2も、本件発明1と同じ理由で、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないというべきものである。

そして、本件発明2が奏する作用効果は、訂正明細書に記載の「請求項2に記載の山留め工法によれば、請求項1に記載の山留め工法における山留め壁の内側に補助壁を併設し、支持壁を間隔を空けて複数配設することで、補助壁と内壁との間を支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築することにより、山留め壁の断面剛性をさらに高めることができる。」及び「本発明の山留め工法によれば、山留め構造を、間隔をあけて配置された壁体と、その壁体間に存在する地盤とを一体化し、ひとつの構造体とすることによって、構築領域の掘削に伴う山留め壁の変形、および周辺地盤の変状を効果的に抑制することができる。従来の山留め壁よりも断面剛性を飛躍的に高め、かつ山留め壁の施工コストを大幅に削減することができる。しかも、山留め壁の断面剛性が高まることによって支保工に必要とされる剛性を低減できるので、支保工の施工コストをも削減することができる。地下掘削工事においては必ず山留めが行われるので、この山留め工法を取り入れて設計、施工を行うことで、周辺地盤の変状防止、施工コストの削減のみならず、完成後の構築物を含めた周辺基盤の整備、付帯設備の構築等を有効に進めることができる。」のとおりであり、引用発明、甲第2号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知技術ないし周知慣用技術から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。

イ.まとめ
以上のとおりであり、本件発明2は、引用発明に甲第2号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の公知技術ないし周知慣用技術を適用したとしても、当業者が容易に本件発明2の構成を得ることができたものということができないから、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。

3.無効理由1ないし無効理由11についての当審の判断
(1)本件発明1に対する無効理由1ないし無効理由4について
上記「(1)本件発明1に対する無効理由12について」欄において前述したとおり、本件発明1の「支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点及び「内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点の構成が、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物のいずれかに記載されているということができず、また、上記構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1は、甲第3号証の刊行物に記載された発明でないばかりでなく、甲第3号証或いは甲第4号証或いは甲第5号証の刊行物にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(2)本件発明2に対する無効理由5ないし無効理由8について
上記「(2)本件発明2に対する無効理由13について」欄において前述したとおり、本件発明2の「支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点及び「内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点の構成が、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物のいずれかに記載されているということができず、また、上記構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明2は、甲第3号証の刊行物に記載された発明でないばかりでなく、甲第3号証或いは甲第6号証或いは甲第5号証の刊行物にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(3)無効理由9について
平成16年12月6日付けの訂正請求により、請求項3が削除されたので、請求項3についての無効理由9により請求項3に係る発明の特許を無効とすることは、もとよりできることではないから、請求人の無効理由9についての主張は、採用することができない。

(4)本件発明1に対する無効理由10及び本件発明2に対する無効理由11について
上記上記「(1)本件発明1に対する無効理由12について」及び「(2)本件発明2に対する無効理由13について」欄において前述したとおり、本件発明1及び本件発明2の「支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点及び「内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設する」点の構成が、甲第1号証ないし甲第8号証の刊行物のいずれかに記載されているということができず、また、上記構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1及び本件発明2は、甲第5号証又は甲第3号証の刊行物に記載された発明及び甲第6号証ないし甲第8号証の刊行物に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(5)まとめ
以上のとおりであり、請求人が主張する無効理由1ないし無効理由13のいずれの理由によっても、本件発明1及び本件発明2を無効とすることができない。

第6 審判事件弁駁書2における請求人の主張について
請求人は、その審判事件弁駁書2の「3.上記相違点(ハ)の検討」(8頁〜9頁)及び「2.上記相違点(ホ)の検討」(12頁〜14頁)において、「(本件特許発明1(又は、本件発明2)においていう『その上端を床付け面の深さとし』は、)……例えば本件特許の出願前である1992年(平成4年)に株式会社井上書院から発行された建築慣用語研究会編『建築現場実用語辞典』の240頁右欄の用語『とこづけ[床付け]』欄に『砂利の敷き込みや捨てコン打ちができるように、根切り底まで所定の深さにそろえること』と解説された意味、内容とも整合する。」と主張する。
しかしながら、請求人が主張する上記「建築慣用語研究会編『建築現場実用語辞典』の240頁右欄の用語『とこづけ[床付け]』欄に『砂利の敷き込みや捨てコン打ちができるように、根切り底まで所定の深さにそろえること』と解説された意味、内容」を表した書証を、本件無効審判請求の証拠方法として提出していないから、請求人の上記主張の真偽を確かめるべくもなく、前記主張は、もとより採用することができない。
また、仮に、上記「建築慣用語研究会編『建築現場実用語辞典』の240頁右欄の用語『とこづけ[床付け]』欄に『砂利の敷き込みや捨てコン打ちができるように、根切り底まで所定の深さにそろえること』と解説されていたとしても、前記解説された意味、内容は、本件の訂正明細書に定義された「床付け面」の「図9に図示される山留め掘削施工中の山留め壁の壁変位が最大となる面Tの深さの位置」の意義と、意味・内容が大きく相違するものであるから、その点においても、請求人の「本件特許発明1(又は、本件発明2)においていう『その上端を床付け面の深さとし』は、『砂利の敷き込みや捨てコン打ちができるように、根切り底まで所定の深さにそろえること』と解説された意味、内容とも整合する」の主張は、採用することができない。

第7 むすび
請求人の主張する無効理由1ないし無効理由13についての当審の判断は、以上のとおりであり、本件発明1及び本件発明2は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定にも該当しないから、本件発明1及び本件発明2に係る本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当せず、無効とすべきものとすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
山留め工法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。
【請求項2】
地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、山留め壁の内側に密接して、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして併設して山留め壁を2重構造とし、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記補助壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする山留め工法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、地下掘削工事の際に周囲の地盤を支え、崩壊や有害な変形を防止するために必要な山留めの構築方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
山留めは、地下掘削工事の際に周囲の地盤を支え、崩壊や有害な変形を防止するために必要な構造物である。山留めは、図8に示すように、山留め壁1と、切梁3や腹起こし2等の支保工4とから構成される。山留め壁1には背面の地盤Jからの外力(土圧と水圧)が作用するが、山留め壁1は内側の掘削地盤や支保工4によって支持されている。
【0003】
ところで、このような山留めを施したうえで地下掘削を行っても、周囲の地盤が軟弱な粘性土地盤等であれば、山留め壁の変形、周囲の地盤の沈下といった現象が顕著に表れる。図9に掘削時の山留め壁変位例を示す。これらの現象を防止するためには、山留め壁自体の剛性を高めて変形を抑えることが非常に有効である。従来よく行われているのは、山留め壁として壁厚の大きな鉄筋コンクリート地中連続壁を用い、さらに剛性の高い強固な支保工を用いる方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような従来の工法によれば、次のような課題をも抱えている。
(1)大深度下で壁厚の大きな鉄筋コンクリート地中連続壁を施工することはコストがかかる。
(2)図9に示した山留め壁の変位例から、周囲の地盤から山留め壁に作用する外力を考慮すれば、深度方向に同一の壁厚を有する鉄筋コンクリート地中連続壁を施工するのは合理的とはいえない。しかし、作用する外力に応じて壁厚を変化させた鉄筋コンクリート地中連続壁を施工するのは技術的に非常に困難である。
(3)鉄筋コンクリート地中連続壁はそのままに、切梁の段数を増やす、部材を大型化する等して支保工を強固な構造とすると、支保工の施工にもコストがかかる。また、大規模な切削工事においては支保工自体が工事の妨げとなる。さらに、解体時に多くの手間が必要となる。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、施工が簡単でしかも低コストにて施工可能な山留め工法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、上記の課題を解決するために以下の手段を講じるものである。請求項1に記載の山留め工法は、地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記山留め壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の山留め工法は、地盤に、地下構造物の構築領域に沿って柱列式地中連続壁からなる山留め壁を支持地盤に達するまで構築し、山留め壁の内側に密接して、柱列式地中連続壁もしくは深層混合処理工法による改良体からなる補助壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして併設して山留め壁を2重構造とし、前記構築領域の内側の地盤に、山留め壁の水平方向の延在方向に沿って深層混合処理工法による改良体からなる支持壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして間隔を空けて複数配設するとともに、前記支持壁に、山留め壁と平行に深層混合処理工法による改良体からなる内壁を、その上端を床付け面の深さとし下端を山留め壁と同じ深さとして配設することで、前記補助壁と前記内壁との間を前記支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、その後前記構築領域を掘削するとともに構築領域側に露出する山留め壁を支保工により支持することを特徴とする。
【0009】
【作用】
請求項1に記載の山留め工法によれば、山留め壁に沿って支持壁を間隔を空けて櫛状に並設するとともに、支持壁に山留め壁と平行に内壁を配設することで、山留め壁と内壁との間を支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築し、これにより、山留め壁、支持壁および内壁と、その間に存在する原地盤土とを一体化してひとつの構造物とする。この構造物は壁厚の大きな山留め壁となって断面剛性が高まるので、周辺の地盤から作用する側圧によっても変形、倒壊することなく周囲の地盤を支えることができる。
【0010】
請求項2に記載の山留め工法によれば、請求項1に記載の山留め工法における山留め壁の内側に補助壁を併設し、支持壁を間隔を空けて複数配設することで、補助壁と内壁との間を支持壁で掛け渡した状態として箱形に仕切られた壁体を構築することにより、山留め壁の断面剛性をさらに高めることができる。
【0011】
【実施例】
本発明の山留め工法の参考例を図1を参照して説明する。図1は、本参考例の山留め工法により施工された山留めを示している。この山留めは、地盤Jに、地下構造物の構築領域Rに沿って構築された柱列式地中連続壁からなる山留め壁10と、構築領域Rの外側の地盤Jに、山留め壁10に沿って平行に構築された深層混合処理工法による改良体からなる外壁20と、山留め壁10と外壁20との間に掛け渡すように間隔を空けて複数構築された深層混合処理工法による改良体からなる中間壁30と、構築領域R側に露出する山留め壁10を支持する支保工40とから構成されている。
【0012】
ここで、深層混合処理工法とは、地盤改良工法のうちの固結工法の一種で、壁体を設けるべき地盤に石灰、セメント等の安定材を攪拌翼等で攪拌し、土を化学的に固結させる方法である。この深層混合処理工法によれば、地中のある領域に壁体を構築することが可能である。
【0013】
山留めを施工するには、まず、地盤Jの構築領域Rに沿ってH鋼を芯材とする柱列式地中連続壁を構築して山留め壁10とする。山留め壁10の下端は、地中の岩盤等の支持地盤Gに達するものとする。
【0014】
次に、構築領域Rの外側の地盤Jに、山留め壁10に沿って平行に外壁20を構築する。これにより、構築領域Rは二重の壁体で囲まれた状態となる。
【0015】
続いて、山留め壁10と外壁20との間に残る地盤J1に、山留め壁10と外壁20との間に掛け渡すように間隔を空けて中間壁30を複数構築する。これにより、構築領域Rの周囲には、上方から見て箱形に仕切られた壁体が構築された状態となる。
【0016】
ここで、外壁20および中間壁30は、周囲の地盤Jの土質や土圧等の影響により予想される山留め壁10の変形を考慮して効果的な長さとする。山留め掘削施工中の山留め壁10の壁変位は、前述した図9のように表れるので、外壁20および中間壁30の下端は、壁変位が最大となる床付け面Tよりもさらに深く構築する。
【0017】
山留め壁10、外壁20および中間壁30の構築が完了した後、構築領域R側の掘削を開始し、露出した山留め壁10を支保工40を配設することにより支持する。
【0018】
上記のような山留め工法を採用すれば、山留め壁10と外壁20との間に中間壁30を構築することにより、山留め壁10および外壁20と、それらの壁体の間に残る地盤J1とが一体化した構造物となる。この山留め構造50をひとつの壁体とみなすと山留め壁10の垂直方向の厚さが増加するので、山留め構造50の剛性が増加し、掘削に伴う山留め壁10の変形が抑えられるとともに周辺の地盤Jが確実に支えられる。
【0019】
ここで、山留め壁のみを構築した場合と、上記の山留め工法による山留め構造50を構築した場合とで断面係数の比較を行う。
(a)山留め壁10および外壁20の壁厚ともに85cm、中間壁30同士の間隔200cmとして山留め構造50を構築すると、その断面係数は、
・壁厚85cmの柱列式地中連続壁のみを構築した場合の78倍
・壁厚85cmの鉄筋コンクリート連壁のみを構築した場合の52倍
・壁厚100cmの鉄筋コンクリート連壁のみを構築した場合の28倍
・壁厚150cmの鉄筋コンクリート連壁のみを構築した場合の5倍となる。
(b)山留め壁10および外壁20の壁厚ともに85cm、中間壁30同士の間隔100cmとして山留め構造50を構築すると、その断面係数は、
・壁厚85cmの柱列式地中連続壁のみを構築した場合の10倍
・壁厚85cmの鉄筋コンクリート連壁のみを構築した場合の7倍
・壁厚100cmの鉄筋コンクリート連壁のみを構築した場合の3倍
・壁厚150cmの鉄筋コンクリート連壁のみを構築した場合の0.7倍となる。
【0020】
上記の比較結果から、本実施例にて説明した山留め工法により構築した山留め構造50は、従来の山留めに比べて断面剛性を飛躍的に高めることができる。
【0021】
さらに、上記の比較の対称となった鉄筋コンクリート連壁の単位面積あたりの施工コストは、柱列式地中連続壁の単位面積あたりの施工コストのほぼ4倍であるので、例えば壁厚100cmの鉄筋コンクリート連壁の3倍の断面剛性を備える柱列式地中連続壁の山留め構造50を構築すると、山留め壁10と外壁20の深さを同等に施工しても施工コストは2分の1程度である。したがって、山留めの施工コストを大幅に削減することができる。
【0022】
さらに、支保工40に必要とされる剛性を低減できるので、支保工40の施工コストを削減することができる。
【0023】
外壁20と中間壁30との間の空間は、構築領域R部分に構造躯体が完成した後、地下通路、駐車場等を構築することによって有効に利用可能である。
【0024】
本参考例においては、外壁20および中間壁30に深層混合処理工法による改良体を採用した。その理由は、周囲の地盤Jの土質や土圧等の影響によって山留め壁10には大きな引張り応力が作用するためH鋼を配設して応力をもたせるが、山留め壁10と外壁20との間には拘束された地盤J1が存在するため外壁20には大きな引張り応力が作用しないからである。よって、設計の都合によっては外壁20に柱列式地中連続壁を採用してもかまわない。
【0025】
次に、本発明の実施例を図2ないし図5を参照して説明する。図2は、本実施例の山留め工法により施工された山留めを示している。この山留めは、地盤Jに、地下構造物の構築領域Rに沿って構築された柱列式地中連続壁からなる山留め壁110と、山留め壁110の内側に密接して構築された深層混合処理工法による改良体からなる補助壁111と、構築領域Rの内側の地盤Jに、山留め壁110の水平方向の延在方向に沿って平行に構築された深層混合処理工法による改良体からなる内壁120と、山留め壁110と内壁120との間に掛け渡すように間隔を空けて複数構築された深層混合処理工法による改良体からなる支持壁130と、構築領域R側に露出する山留め壁110を支持する支保工140とから構成されている。
【0026】
山留めを施工するには、まず、地盤Jの構築領域Rに沿ってH鋼を芯材とする柱列式地中連続壁を構築して山留め壁110とする。山留め壁110の下端は、地中の岩盤等の支持地盤Gに達するものとする。
【0027】
次に、構築領域Rの内側の地盤Jに、山留め壁110に沿って密接する深層混合処理工法により補助壁111を構築する。補助壁111の下端は山留め壁110の下端と同じ深度に達するものとし、上端は床付け面Tが構築される深度に達するまで構築する。
【0028】
続いて、補助壁111よりもさらに内側の地盤Jに、山留め壁110に沿って平行に、深層混合処理工法により内壁120を構築する。内壁120の下端および上端はそれぞれ補助壁111と同等の深度まで構築する。これにより、構築領域Rは二重の壁体で囲まれた状態となる。
【0029】
さらに、補助壁111と内壁120との間に残る地盤J2に、補助壁111と内壁120との間に掛け渡すように間隔を空けて、深層混合処理工法により支持壁130を複数構築する。これにより、構築領域Rの周囲には、上方から見て箱形に仕切られた壁体が構築された状態となる。
【0030】
山留め壁110、補助壁111、内壁120および支持壁130の構築が完了した後、構築領域R側の掘削を開始し、露出した山留め壁110を支保工140を配設することにより支持する。
【0031】
上記のような山留め工法を採用すれば、補助壁111と内壁120との間に支持壁130を構築することにより、山留め壁110および内壁120と、それらの壁体の間に残る地盤J2とが一体化した構造物となる。この山留め構造150をひとつの壁体とみなすと、前記第1実施例と同様に、山留め壁110の垂直方向の厚さが増加するので山留め構造150の剛性が増加し、掘削に伴う山留め壁体110の変形が抑えられるとともに、周辺の地盤Jが確実に支えられる。
【0032】
山留め構造150には、図3に示すように、主働、受働の側圧力Sが作用し、さらに底面には反力Hが作用する(図中矢印方向)。しかし、山留め構造150を回転させようとする力Lは、底面に作用する反力Hによって打ち消すことができる。
【0033】
掘削が進行したとき、山留め壁110は根切り底付近が最も変形し(図9参照)、これによって山留め構造150には、図4に示すように、山留め壁110と補助壁111との間にせん断力Fが発生する。しかし、補助壁111、支持壁130を構築することより、発生するせん断力を打ち消して山留め壁110の変形量を低減することができる。
【0034】
補助壁111、内壁120、支持壁130を構成する深層混合処理工法による改良体の材料については、2次元FEM解析の結果、内部に発生する最大ひずみは、実際の強度試験により得られる破壊ひずみの3分の1程度であるので、改良体の材料自体は3倍程度の安全率をもって変形に耐えることができる。
【0035】
なお、本実施例においては、補助壁111に深層混合処理工法による改良体を採用したが、設計の都合によっては外壁110と同様に柱列式地中連続壁を採用してもかまわない。
【0036】
さらに、設計条件に応じて、補助壁111を構築せず、図5(B)に示すような山留め構造150bを構築することも可能である。
【0037】
ところで、上記の実施例にて説明した柱列式地中連続壁など原位置攪拌系山留め壁においては、その壁面に作用する側圧(土圧、水圧等)の測定が非常に重要となるが、従来の原位置攪拌系山留め壁における側圧測定は次のような問題を有する。
(1)原位置攪拌系山留め壁の断面が円形なので、円弧状の地盤側面に土圧計を当接させるのが困難である。
(2)原位置攪拌系山留め壁では、攪拌混合された原位置土の中に、土圧計を取り付けた構造部材を配し、密度および粘性の大きな材料のなかをジャッキングするため、地盤側面に密着させ難い。
(3)土圧計受圧面と地盤側面との間に攪拌混合した改良地盤が挟み込まれたり、これを避けるために過度に土圧計を地盤側面に押し付けることにより押し込み応力集中が発生する等、土圧計に極めて大きな圧力が発生することが多い。
【0038】
そこで、これらの問題をふまえて次のような側圧測定方法を採用すると、壁面に作用する側圧を正確に測定することが可能である。
まず、図6に示すように、土圧計60の受圧面に原位置攪拌系山留め壁の断面Dの形状に合致する形状の取り付け板61を採用し、この取り付け板61には原位置攪拌系混合土が通過できる穴を複数設ける。なお、ジャッキ70そのものの形状容量は従来と同等のものを採用する。これにより、取り付け板61に設けられた穴を原位置攪拌土が通過して地盤の断面Dに取り付け板61が密着する。
【0039】
図7に上記の側圧測定方法による測定結果を示す。図7においては、異なる平面位置の2地点にて実施した測定結果を示している。この測定結果から、深度が増すにつれて側圧が増加するとともに、側圧の大きさも双方でほぼ同程度の値を示していることから、本側圧測定方法が有効であると考えられる。なお、図7には、既往の測定方法による測定結果も示しており、この測定結果から、比較的浅い位置で大きな側圧値を示すなど応力集中の影響が認められる。
【0040】
【発明の効果】
本発明の山留め工法によれば、山留め構造を、間隔をあけて配置された壁体と、その壁体間に存在する地盤とを一体化し、ひとつの構造体とすることによって、構築領域の掘削に伴う山留め壁の変形、および周辺地盤の変状を効果的に抑制することができる。
従来の山留め壁よりも断面剛性を飛躍的に高め、かつ山留め壁の施工コストを大幅に削減することができる。しかも、山留め壁の断面剛性が高まることによって支保工に必要とされる剛性を低減できるので、支保工の施工コストをも削減することができる。
地下掘削工事においては必ず山留めが行われるので、この山留め工法を取り入れて設計、施工を行うことで、周辺地盤の変状防止、施工コストの削減のみならず、完成後の構築物を含めた周辺基盤の整備、付帯設備の構築等を有効に進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の山留め工法の参考例を示す断面斜視図である。
【図2】本発明の山留め工法の実施例を示す断面斜視図である。
【図3】実施例の山留め構造に働く外力、反力の状態を示す断面図である。
【図4】実施例の山留め構造に働くせん断力の状態を示す断面図である。
【図5】実施例の他の実施態様を示す断面斜視図である。
【図6】周辺地盤の側圧測定方法を実施する装置の平面図である。
【図7】上記側圧測定方法により測定された地盤断面の側圧値を示すグラフである。
【図8】従来の山留め構造を示す断面斜視図である。
【図9】掘削時の山留め壁の変位例を示すグラフである。
【符号の説明】
10 山留め壁
20 外壁
30 中間壁
40 支保工
110 山留め壁
111 補助壁
120 内壁
130 支持壁
140 支保工
R 構築領域
J 地盤
G 支持地盤
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-04-13 
結審通知日 2005-04-18 
審決日 2005-05-10 
出願番号 特願平7-72156
審決分類 P 1 112・ 121- YA (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊岡 智代  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
佐藤 昭喜
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3521363号(P3521363)
発明の名称 山留め工法  
代理人 高橋 詔男  
代理人 青山 正和  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 山名 正彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 青山 正和  
代理人 渡邊 隆  

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