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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1121885
審判番号 無効2004-80065  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-03 
確定日 2005-03-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2013699号発明「軽量盛土」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2013699号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

平成 5年 1月22日 出願(特願平5-26002)
(特願昭60-181135(昭和60年8月20日出願)の分割)
平成 6年 7月27日 出願公告(特公平6-56019)
平成 8年 2月 2日 特許登録(特許第2013699号)
平成16年 6月 3日 本件無効審判請求
平成16年 8月19日 審判事件答弁書、訂正請求書
平成16年 9月29日 審判事件弁駁書
平成16年11月15日 特許庁審判廷で口頭審理
平成16年11月29日 請求人の上申書
平成16年12月15日 審判事件答弁書

2.当事者の主張

(1)請求人の主張の概要
(ア)請求人は、請求書において、本件の請求項1、2に係る発明(以下、請求項1、2に係る発明を「本件発明1、2」という。)の特許を無効とする理由として次のように主張し、甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
無効理由1:本件発明1、2は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第1号、または同第2号、または同3号の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
無効理由2:本件発明1、2は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、同法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
(イ)また、平成16年9月29日付け審判事件弁駁書において、平成16年8月19日付け訂正請求書は、特許請求の範囲を拡張し、変更しているものであること、さらに、訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、「本件訂正発明1、2」という。)は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第1号、同第2号、同第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件訂正発明1、2は、甲第1号証ないし甲第8号証及び甲第16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張し、甲第11号証ないし甲第16号証を提出した。

甲第1号証:X ICSMFE, STOCKHOLM 1981, Soil Mechanics and Foundation Engineering Tenth International Conference VOLUME2, Polystyrene Foam for Lightweight Road Embankment, 247-252頁、その抄訳
甲第2号証:Veglaboratoriet, Meddelalse nr 53 Februar 1981, Polystyrene foam for lightweight road embankment, 27-34頁、その抄訳
甲第3号証、同の2:Civil Engineering-ASCE February 1974, Polystyrene foam is competitive, lightweight fill, 68-69頁、その抄訳
甲第4号証、同の2:Engineering & contract record, Vol.92,No.11, November 1979, Lightweight materials beat backfill problems, 60-62、その抄訳
甲第5号証:HOVEDOPPGAVEN 1979 STUD. TECHN. ROALD AABOE,
OPPGAVENS TEKST : BURK AV LETEE FYLLMASSER I VEGBYGGUING, OSLO, 24, DESEMBER 1979 、その抄訳
甲第6号証:STYROFOAM BULLETIN#94, USE OF STYROFOAM HI FOR LIGHTWEIGHT FILL, T.M. LOUIE, July 5, 1979、その抄訳
甲第7号証、同の2:International Construction, November 1980, Norway banks on foam, 36-37頁
甲第8号証:土と基礎33巻8号、「1日国際会議「道路盛土に用いるプラスチック材料-軟弱地盤問題の新しい解決法-」出席報告」、45-46頁、昭和60年8月25日発行
甲第9号証: 欠番
甲第10号証: 欠番
甲第11号証:ファクシミリ通信文書、その訳
甲第12号証:Advanced Learner's ENGLISH DICTIONARY、1154-1155頁
甲第13号証:土木英和辞典、近代図書株式会社、220-221頁
甲第14号証:国際建設技術協会のウェブページ
甲第15号証:Concise Dictionary, 758-759頁
甲第16号証:特開昭57-130633号公報

(2)被請求人の主張の概要
(ア)被請求人は、平成16年8月19日付けで訂正請求書と審判事件答弁書を提出し、同答弁書において、請求人の主張はいずれも理由がない旨次のように主張する。
(i)甲第5号証、甲第8号証は本件特許出願前に頒布された刊行物とはいえない。
(ii)仮に甲第5号証、甲第8号証が公知刊行物であるとしても、訂正後の発明1、2(本件訂正発明1、2)は甲第1号証ないし甲第8号証に記載されていない構成を有しそれに基づく顕著な作用効果を奏するので、請求人主張の無効理由はない。すなわち、甲第1号証、甲第2号証、甲第7号証には、ブロックを上下方向に連結していることを開示しているのみであり、上下方向と平面方向の二方向に連結することは開示されておらず、また、他の刊行物には、平面方向の連結はもとより、上下方向の連結すら開示されていない。
(イ)また、平成16年12月15日付け答弁書において、甲第16号証記載発明の軽量フローティグコンクリートブロックは、本件訂正発明の硬質発泡プラスティックブロックとは技術的に全く異なる部材であり、本件訂正発明のような軽量盛土には適用できないと主張するとともに、各証拠について次のように主張する。
(i)甲第1号証の1mの掘削部分は樹皮で埋められており、地中には硬質発泡プラスチックブロックは積み重ねられていない。
(ii)甲第3号証からは、「地中から地盤面を越える高さに硬質発泡プラスチックブロックは積み重ねられ」という構造は不明である。
(iii)甲第4号証には、「地中から地盤面を越える高さに硬質発泡プラスチックブロックは積み重ねられ」という構造は開示されていない。
(iv)甲第6号証には、本件訂正発明の構成要件2A、2bについて何ら開示されていない。
(v)甲第7号証は、発泡スチロールを埋め戻し土代わりとして使用することを開示しているにすぎない。

3.訂正請求について

(1)訂正事項
平成16年8月19日付けの訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の
「【請求項1】 地盤面上に硬質発泡プラスチックブロックが積み重ねられ、その上から覆土が施されていることを特徴とする軽量盛土。
【請求項2】 地盤面が掘り下げられていて、地中から地盤面を越える高さに硬質発泡プラスチックブロックが積み重ねられ、その上から覆土が施されていることを特徴とする軽量盛土。」を、
「【請求項1】 地盤面上に硬質発泡プラスチックブロックが、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土が施されていることを特徴とする軽量盛土。
【請求項2】 地盤面が掘り下げられていて、地中から地盤面を越える高さに硬質発泡プラスチックブロックが、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土が施されていることを特徴とする軽量盛土。」と訂正する。
(イ)訂正事項2
明細書の段落【0009】を
「【課題を解決するための手段】
このために本発明で講じられた手段を図1で説明すると、請求項1の発明では、地盤面1上に硬質発泡プラスチックブロック2が、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土3が施されている軽量盛土としているものである。」と訂正する。
(ウ)訂正事項3
明細書の段落【0010】を
「また、請求項2の発明では、地盤面1が掘り下げられていて、地中から地盤面1を越える高さに硬質発泡プラスチックブロック2が、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土3が施されている軽量盛土としているものである。」と訂正する。

(2)訂正の適否
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正事項2、3は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記訂正事項はいずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第134条第2項ただし書き及び同条第5号で準用する特許法第126条第2項ないし第4項の要件を満たすので、訂正を認める。

4.無効理由について

請求人主張の無効理由2について検討する。
4-1 請求人提出の甲第2号証刊行物に記載された事項
(1)本件特許出願前に外国において頒布されたことが明らかな甲第2号証には次の記載が認められる。
(ア)27頁の表題及び要約の欄
「表題:軽量な道路盛土のための発泡スチロール
要約
地盤(心土)の支持力が低い場合、沈下を軽減し、高い道路盛土の安定性を確保するために、軽量盛土骨材や樹皮が用いられてきた。1972年、発泡スチロール樹脂ブロックが同じ目的(地盤沈下を軽減し安定性を確保する)で導入された。そのコンセプトはさらに10箇所の道路盛土において用いられ、ほぼ平均1000(の発泡スチロール樹脂)が使用された。その工法の主な利点は、発泡スチロールが超軽量の材料であるため、その盛土材の重量が、無視できる程度にまで軽減されることである。発泡樹脂の盛土は、橋の建設、或いは杭の使用が必要な場面で用いられる。
その工法は、技術的に信頼でき、4mの高さまでの盛土に使用された。
発泡樹脂は道路や基層の凍結防止材として、ノルウェーの建設業界でも長年使用されてきた。その超軽量性ゆえ、この素材は、2つの小さな橋の間で大きな沈下が頻発する問題のあった道路の盛土においてlmの厚みで試用された。沈下の割合(の減少)は、納得のいくものだった。この経験を弾みとして、発泡スチロールブロックを使用するアイデアは急速に普及した。」
(イ)30頁の4.1の項
「4.1 詳細と使用条件
道路盛土においては、0.5m×1.0m×3.0mの発泡スチロールブロックが一般的に使用される。2.0m長のブロックはより一般的に製造されているが、より大きなブロックが好まれる。今日ノルウェーで製造された最大のブロックは0.5m×1.0m×5.0mであるが、重量は50kgを超えず、即ち二人の人間によって容易に扱う事が出来る。ノルウェーで最も一般的な発泡スチロールの密度は20kg/m3から40kg/m3の範囲で圧縮強度100kN/m2 (1kg/cm2)と250kN/m2 (2.5kg/cm2)である。価格はおよそ40$から70$である。
20kg/m3のタイプが満足できる性能を発揮できる事が証明されており、一般的に使用されている。押し出し発泡スチロールは必要とされる以上に高品質であるが、発泡スチロールに比較して非常に高価である。
1977年には15のノルウェーの発泡スチロール製造会社が約300,000の発泡スチロールを製造し、殆どが断熱材として使用された。およそ10,000は、道路盛土、橋台部、擁壁の裏込めに用いる軽量骨材として使用されたが、この分野での発泡スチロールの需要は急速に拡大している。
ブロックは、平らな表面を得るため、かつ互いのブロックを平らにするために、0ないし50mmの水平の砂の基層上に設置されるべきことが条件である。図4に示されているとおり、各層は、ブロックが、他の層のブロックに対し、直角となるよう配置される事が望ましい。
この超軽量盛土は最大高4mであるが、その高さに限定すべき明確な理由は無い。不安定さ、及び風力による浮きあがりの危険性は無い様に思える。また、事故や大型トラックによる衝撃の危険性も無いと思われる。
ブロックが下の層の上を滑る事を防止するため、材木用の両面連結具(例えば、口径117mmのBulldog)を用いる。それらは簡単に足で下のブロックに押し込むことができ、上のブロックはその連結具に押し下げることが出来る。さらに、lm間隔で空きを作る。材木用連結具の使用は安全な工法と考えられている。ただし、それら(材木用連結具)が大きな力に対して十分な強度を持っているか否か、あるいは、それらが事実必要であるか否かについては不確定である。
望むらくは、ブロックが、継ぎ目が千鳥格子(互い違い)となるパターンを使用して連結されるべきである。発泡スチロール盛土材は鉛直に積み上げる事ができるが、通常は、3:1、又は、1:1の傾斜をつける。それは、傾斜部の裏込め材の重量を軽減できるからでもある。
発泡スチロールはガソリンや石油等との化学反応により溶解する。保護策としては、最初に現場で成形される100mm厚のポリウレタンフォームを用いる。ただし、ポリエチレンフォームは、高価であり、かつ天候に左右されやすく、現在では、この層には、舗装強度を増す100mm厚のコンクリート厚板が使用されている。コンクリート厚板の上部に、最小0.4m厚の通常のたわみ性舗装が施工されるべきである。
20cm厚しかない舗装が用いられたが、それは十分に機能した。ただし、薄い舗装は低い熱容量しか持たず、0℃前後で頻繁に道路凍結を起こしてしまうことを考慮すべきである。」
(ウ)以上の記載及び図面を参酌すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認められる。
「地盤面上に硬質発泡プラスチックブロックが、上下方向及び平面方向に積み重ねられた各ブロックの層が他の層のブロックに対して直角になるように積み重ねられ、上の層と下の層のブロックは材木用の両面連結具で連結され、その上にコンクリート板やたわみ性舗装が施されていることを特徴とする軽量盛土。」

(2)同じく甲第4号証には次の記載が認められる。
(ア)60頁の表題
「軽量な材料が裏込め材の諸問題を解決」
(イ)60頁左欄1〜5行
「ケベック州の5つの橋のアプローチ部において、押出し発泡スチロール(extruded polystyrene foam)の束が、軟弱な地盤の上の重い土に代わり、軽量盛土材として使用されている。」
(ウ)61頁中欄2行〜右欄末行
「トレーラー25台分のスタイロフォームHI-60がモントリオール近くのVarennesにあるDowの工場から工事現場に直送された。据え付けと取扱いを迅速にするため、10mm厚であり、2.4m×0.6mの3つのブロックを工場で接着し、18kgの束を作った。
(中略)
適正に配置した発泡スチロールは、230mmの砂で覆われ、次いで6mil(ミリインチ)の厚のポリエチレンシートで覆われる。これにより、起こりうるガソリンの流出による損傷から(発泡スチロールブロックを)保護する。最後に、裏込め材が、その軽量材(発泡スチロールブロック)の上と、側面の傾斜部に配置される。・・・」

4-2 本件訂正発明1と甲第2号証記載発明との対比、判断
(1)対比
本件訂正発明1と甲第2号証記載発明とを対比すると、甲第2号証記載発明のコンクリート板やたわみ性舗装は、ブロックを覆う物で共通するから、両者は
「地盤面上に硬質発泡プラスチックブロックが、上下硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上からブロックを覆う物が施されていることを特徴とする軽量盛土。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件訂正発明1においては、硬質発泡プラスチックブロックは「上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ」ているのに対し、甲第2号証記載発明のブロックは上下方向には連結されているものの、平面相隣接するブロック同志は連結されていない点。
相違点2:ブロックを覆う物が本件訂正発明1では「覆土」であるのに対し、甲第2号証記載発明は、コンクリート板やたわみ性舗装である点。
(2)判断
上記相違点1については、本件訂正発明1において上記相違点1に係る構成としたことによって、「積み重ねた硬質発泡プラスチックブロック2が崩壊しにくくなる」(段落番号0026)という作用効果を奏するものであるが、甲第2号証記載発明においても、上下方向及び平面方向に積み重なられた各ブロックの層が他の層のブロックに対して直角になるように積み重ねられ、上の層と下の層とは材木用の両面連結具で連結されていることから、上下のブロックの層は水平方向の移動が拘束されており、したがって、積み上げたブロックを崩壊しにくくしているといえ、ブロックの崩壊を防ぐために、特に本件訂正発明1の上記相違点1に係る構成のように、平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志をも連結することは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
次に相違点2については、本件訂正発明1の「覆土」は、硬質発泡プラスチックブロックを保護するもの(段落番号0031)であり、甲第2号証記載発明のようにコンクリート板やたわみ性舗装としても硬質発泡プラスチックブロックを保護する点において同じであるから、特に本件訂正発明1のように「覆土」としたことに技術的意義はなく、単なる設計的事項にすぎない。
なお、甲第4号証には、積み上げた硬質発泡プラスチックブロックの上を砂で覆うことが記載されているように、「盛土道路」において「覆土」を施工することは周知の技術にすぎない。
また、本件訂正発明1が奏する作用効果は格別顕著とはいえない。
したがって、本件訂正発明1は甲第2号証記載発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項に該当する。

4-3 本件訂正発明2と甲第2号証記載発明との対比、判断
(1)対比
本件訂正発明2と甲第2号証記載発明とを対比すると、甲第2号証記載発明のコンクリート板やたわみ性舗装は、ブロックを覆う物で共通するから、両者は
「硬質発泡プラスチックブロックが、上下硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上からブロックを覆う物が施されていることを特徴とする軽量盛土。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件訂正発明2は、地盤面が掘り下げられていて、地中から地盤面を越える高さに硬質発泡プラスチックブロックが積み重ねられているのに対し、
甲第2号証記載発明では、ブロックは、地盤面上に積み重ねられている点。
相違点2:本件訂正発明2においては、硬質発泡プラスチックブロックは「上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ」ているのに対し、甲第2号証記載発明のブロックは上下方向には連結されているものの、平面相隣接するブロック同志は連結されていない点。
相違点3:ブロックを覆う物が本件訂正発明2では「覆土」であるのに対し、甲第2号証記載発明は、コンクリート板やたわみ性舗装である点。
(2)判断
上記相違点1については、本件訂正発明2は上記相違点1に係る構成としたことによって、「取り除いた土砂より硬質発泡プラスチックブロック2が軽い分、支持面4に加わる荷重を軽減できる」(段落番号0011)という作用効果を奏するものであるが、地盤を掘り下げそこに硬質発泡プラスチックブロックを充填すれば、支持面に加わる荷重を少なくすることができるのは当然のことであり、甲第2号証記載発明も硬質発泡プラスチックブロックを用いたことによって、地盤(支持面)に加わる荷重を軽減しようとするものであるから、上記相違点1は当業者が必要により適宜採用できた事項にすぎない。
次に相違点2、3については、本件訂正発明1についての相違点1、2と同じ判断である。
また、本件訂正発明2が奏する作用効果は格別顕著とはいえない。
したがって、本件訂正発明2は甲第2号証記載発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項に該当する。

4-4 被請求人の主張に対して
被請求人は、甲第2号証のブルドッグという両面連結具は、上下一方向にブロックを連結することを開示しているにすぎず、また、その30頁29行に「それらが事実必要であるか否かについては不確実である」との見解が示されており、上下のブロックを連結することの必要性が未だ定まっていなかったことが明らかである旨主張する(平成16年8月19日付け答弁書7頁〜9頁)。
しかしながら、甲第2号証には、ブロックが下の層の上を滑る事を防止するため、材木用の両面連結具(例えば、口径117mmのBulldog)を用いることが明記されており、ただし書きとして、材木用連結具が大きな力に対して十分な強度を持っているか否か、あるいは、それらが事実必要であるか否かについては不確定であると記載されているにすぎないのであるから、積み重ねた上下のブロックを連結する技術思想が開示されていることに変わりはない。被請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件訂正発明1、2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軽量盛土
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】地盤面上に硬質発泡プラスチックブロックが、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土が施されていることを特徴とする軽量盛土。
【請求項2】地盤面が掘り下げられていて、地中から地盤面を越える高さに硬質発泡プラスチックブロックが、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土が施されていることを特徴とする軽量盛土。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、軟弱地盤上に道路等を構築する場合に、軟弱地盤対策としてとられる軽量盛土に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、軟弱地盤上に建物等を構築する場合に、地盤面を掘り下げてそこに硬質発泡プラスチックを充填して埋め戻しの埋め土代わりとし、その上に建物等を構築することが知られている(米国特許第3626702号明細書)。
【0003】
上記従来の技術は、掘り下げることによって取り除いた土砂に比して硬質発泡プラスチックブロックがきわめて軽量であることによって、当該箇所の支持面に加わる荷重を軽減し、この支持面の支持力に余裕を持たせることによって、その上方に構築される建物等の荷重を支えられるようにしようとするもので、軽量埋め土といえるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の軽量埋め土による埋め戻しの場合、その上に構築される建物等の重量が大きい場合には相当深く地盤を掘り下げて硬質発泡プラスチックブロックを充填する必要がある。特に軟弱な地盤を深く掘り下げるのは、周囲の地盤崩壊等の危険も大きく、工事に多大の手間と費用がかかる問題がある。
【0005】
一方、道路の構築は、路面の排水性の確保等のために盛土を施し、路面が周囲の地盤より高くなるように行われることが多い。特に低湿地帯等における道路の構築に際しては、盛土を高くし、路面の冠水等を防止することも行われる。また、丘陵地帯の高速道路等においても、極端な勾配を防止するために、谷部において高く盛土をして道路を構築する場合も多い。
【0006】
上記のような高い盛土を伴う道路の構築については、盛土量が多くなるため、それを支える地盤上にかなりの荷重が加わることになり、地盤が軟弱であるとこれを支えきれず、沈下の原因となる。
【0007】
このような場合に従来の軽量埋め土を利用し、支持面の支持力に余裕を持たそうとすると、地盤面上の盛土の重量がかなり大きいので、深く地盤面を掘り下げて硬質発泡プラスチックブロックを充填しなければならず、工事に多大の手間と費用がかかることになる。
【0008】
本発明は、このような従来の軽量埋め土の問題点に鑑みてなされたもので、特に軟弱地盤上に盛土を行う場合に、地盤面を深く掘り下げることなく当該盛土を支持できるようにすることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このために本発明で講じられた手段を図1で説明すると、請求項1の発明では、地盤面1上に硬質発泡プラスチックブロック2が、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土3が施されている軽量盛土としているものである。
【0010】
また、請求項2の発明では、地盤面1が掘り下げられていて、地中から地盤面1を越える高さに硬質発泡プラスチックブロック2が、上下及び平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2同志が連結されて積み重ねられ、その上から覆土3が施されている軽量盛土としているものである。
【0011】
【作用】
地盤面1上に積み重ねられる硬質発泡体プラスチックブロック2は、盛土の重量を軽減し、支持面4にかかる荷重を軽くする働きをなす。更に地中から地盤面1を越えて硬質発泡プラスチックブロック2を積み重ねた場合、取り除いた土砂より硬質発泡プラスチックブロック2が軽い分、更に支持面4に加わる荷重を軽減できる。
【0012】
【実施例】
図1は本発明の一実施例を示す縦断面図で、図示される本軽量盛土は、道路の構築のためのものとなっている。
【0013】
図中1は地盤面で、この地盤面1が掘り下げられ、地中から地盤面1を越える高さに硬質発泡プラスチックブロック2が積み重ねられている。
【0014】
硬質発泡プラスチックブロック2の材質としては、例えばポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の発泡体が挙げられる。
【0015】
硬質発泡プラスチックブロック2としては、押出発泡によるものでも、ビーズ発泡によるものでもよい。
【0016】
ビーズ発泡によると、厚みのある一体の塊状の硬質発泡プラスチックブロック2を得ることができる。但し、硬質発泡プラスチックブロック2は、一体の塊状のもののみではなく、押出発泡又はビーズ発泡によって成形された複数枚の発泡板を重ねて、接着剤による接着又はベルトによる締結等で一体化したものでもよい。ベルトで締結する場合、例えばポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン等の腐食しにくい材質のベルトを用いることが好ましい。
【0017】
硬質発泡プラスチックブロック2の大きさは、作業性、積み重ねた後の崩れにくさ等を考慮して定めればよい。一例として、幅1000mm、長さ2000mm、厚さ500mmの大きさのものが挙げられる。
【0018】
硬質発泡プラスチックブロック2をビーズ発泡成形品とし、これを積み重ねた上に、押出発泡によって成形した発泡板を重ねることで、ビーズ発泡成形品と押出発泡成形品を組み合わせて用いることもできる。一般に、押出発泡成形品はビーズ発泡成形品に比して耐圧縮性や耐屈曲性に優れる。積み重ねた硬質発泡プラスチックブロック2の上層にこの押出発泡成形品を用いると、構築される軽量盛土上面に加わる車両等の荷重をこの押出発泡成形品が支えることで、その下方に位置するビーズ発泡成形品に発生する応力を緩和することができる。
【0019】
地盤面1上に積み重ねられる硬質発泡プラスチックブロック2の両側は、通常盛土の両側が傾斜面となっていることから、この傾斜面を形成しやすくすると共に、当該傾斜面を構成する覆土3の重量を軽減するために、階段状にすることが好ましい。特になだらかな傾斜面を形成する場合には、比較的薄い(50〜100mm程度)の硬質発泡プラスチックブロック2を階段状に積めばよい。
【0020】
また、図示されるように、地中に積み重ねる部分を、全体としてほぼ逆台形状に積み重ね、大きな荷重を受けやすい中央部分を重点的に軽量化する構成とすると、使用する硬質発泡プラスチックブロック2の量を節減することができる。
【0021】
図示される実施例では、地盤面1を掘り下げて、地中から硬質発泡プラスチックブロック2を積み重ねる構成となっているが、地盤にある程度の支持力があれば、地盤面1の掘り下げを省略し、地盤面1上に直接硬質発泡プラスチックブロックを積み重ねることもできる。
【0022】
積み重ねられる硬質発泡プラスチックブロック2は、図2に示されるように、下段の硬質発泡プラスチックブロック2同志の継ぎ目と、そのすぐ上段の硬質発泡プラスチックブロック2同志の継ぎ目が上下に揃わないようにすることが好ましい。継ぎ目が揃うと、安定した積み重ね状態が得にくくなる。
【0023】
積み重ねられる硬質発泡プラスチックブロック2は、安定した強固な積み重ね状態を得る上で、図3に示されるように、相互に連結具5で連結されていることが好ましい。
【0024】
連結具5は、図4に示されるように、金属板の周縁に斜めに切り込みを入れ、当該部分を折り立てて歯6a,6bとしたもので、歯6a,6bは、先端が鋭角の直角三角形状をなし、上下に突出している。下方に突出している歯6bが、硬質発泡プラスチックブロック2の上面に突き刺さり、上方に突出している歯6aが、この上に重ねられる硬質発泡プラスチックブロック2の下面に突き刺さるものである。
【0025】
連結具5は、図3に示されるように、平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2間に跨がって位置し、その下向きのは6bは、相隣接する2つの硬質発泡プラスチックブロック2の各々に突き刺さっている。従って、連結具5は、上下の硬質発泡プラスチックブロック2を連結すると共に、平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2同志をも連結するものとなっている。
【0026】
連結具5を上記のようにして平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2間に跨がって取り付けると、硬質発泡プラスチックブロック2を上下方向のみならず横方向にも連結でき、積み重ねた硬質発泡プラスチックブロック2が崩壊しにくくなる。
【0027】
連結具5を平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2間に取り付けて、硬質発泡プラスチックブロック2を上下方向のみならず横方向にも連結する場合、連結具5が、少なくとも2本の下向きの歯6bと少なくとも1本の上向きの歯6aを有することが必要である。即ち、平面相隣接する2つの硬質発泡プラスチックブロック2を各々突き刺す下向きの歯6bと、上に重ねられる硬質発泡プラスチックブロック2を突き刺す上向きの歯6aが必要である。但し、上向きの歯6aとした向きの歯6bの両者を複数本としてもよい。
【0028】
少なくとも下向きの歯6bは、図4に示されるように、歯6bの形成されていない中央部を間に、左右に分かれて形成されていることが好ましい。このようにすると、歯6bが形成されていない中央部が、平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2間の継ぎ目付近に当るように連結具5を取り付けることで、歯6bが硬質発泡プラスチックブロック2の端部に突き刺さって、硬質発泡プラスチックブロック2の端部が割れやすくなるのを防止することができる。上向きの歯6aが複数本の場合、この上向きの歯6aも上記のように左右に分けて設けることが好ましい。
【0029】
また、図4に示されるように、複数本とした場合の上向きの歯6aと下向きの歯6bは、前後方向を向いたものと左右方向を向いたものが併存することが好ましい。歯6a,6bが全て同一方向に揃うと、その方向の力が硬質発泡プラスチックブロック2に作用した時に、歯6a,6bに沿って硬質発泡プラスチックブロック2が裂けやすくなる。
【0030】
連結具5を使用する場合、平面相隣接する硬質発泡プラスチックブロック2同志をしっかり突き合わせてから、両者間に歯6bを突き刺すようにすればよい。この時歯2bが完全に刺し込まれていなくとも、その上に硬質発泡プラスチックブロック2を重ねて押さえ付けた時に、歯6aの刺し込みと共に歯6bも十分刺し込むことができる。
【0031】
以上のようにして、地盤面1を越える高さに積み重ねられた硬質発泡プラスチック2の上には、覆土3が施されている。この覆土3は、いわば軽量の硬質発泡プラスチックブロック2を芯材として所期の盛土を得るためのものであると共に、積み重ねられた硬質発泡プラスチックブロック2を保護するものである。
【0032】
特に積み重ねられた硬質発泡プラスチックブロック2の上面に施される覆土3は保護砂で、その上に施される舗装体7の砂利等が硬質発泡プラスチックブロックに食い込むのを防止するものとなっている。
【0033】
尚、このような道路の構築に用いる場合、ガソリン等の溶剤から硬質発泡プラスチックブロック2を保護するため、積み重ねた硬質発泡プラスチックブロック2をポリエチレンやポリプロピレンのシートあるいはコンクリート床版等で覆って保護することが好ましい。
【0034】
【発明の効果】
本発明は、以上説明した通りのものであり、いわば盛土の芯剤として軽量な硬質発泡プラスチックブロック2を用いることで、盛土の重量を大幅に軽減することができ、軟弱地盤上に高い盛土を構築する場合でも、従来の軽量埋め土を用いる場合のように深く地盤面1を掘り下げる必要がなく、工事の手間及び経費を大幅に軽減できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る軽量盛土の一実施例を示す縦断面図である。
【図2】
硬質発泡プラスチックブロックの積み重ね状態を示す斜視図である。
【図3】
連結具による、硬質発泡プラスチックブロックの連結状態を示す斜視図である。
【図4】
連結具の斜視図である。
【符号の説明】
1 地盤面
2 硬質発泡プラスチックブロック
3 覆土
4 支持面
5 連結具
6a,6b 歯
7 舗装体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-01-18 
結審通知日 2005-01-19 
審決日 2005-02-01 
出願番号 特願平5-26002
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 秀推  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
山田 忠夫
登録日 1996-02-02 
登録番号 特許第2013699号(P2013699)
発明の名称 軽量盛土  
代理人 工藤 一郎  
代理人 山口 芳広  
代理人 山口 芳広  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 渡邉 敬介  

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