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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C08J
管理番号 1122167
審判番号 無効2004-80076  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-14 
確定日 2005-08-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3329154号発明「フィルムの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3329154号の請求項1乃至6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第3329154号に係る発明についての出願は、平成7年9月14日の出願であって、平成14年7月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、平成15年3月31日付で特許異議の申立てがなされ、平成15年9月9日付で訂正請求がなされ、平成15年10月10日付で特許異議の申立てに対し、訂正前の請求項8〜13を訂正後の請求項1〜6として訂正を認め、異議申立の却下決定がなされ、平成16年6月14日付で、訂正後の請求項1〜6に係る特許について、審判請求人 宇部興産株式会社により本件無効審判請求がなされ、平成16年8月31日付で答弁書と共に再度訂正請求(以下、「再訂正」という。)がなされ、平成16年11月4日に弁駁書が提出され、平成16年12月14日に口頭審理が行われ、平成17年3月1日に訂正拒絶理由が通知され、この訂正拒絶理由通知に対して何らの応答もなされなかったというものである。

II 訂正の適否について
1 訂正の内容
再訂正において、被請求人が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
明細書の段落【0021】において、「水系溶剤の供給装置および排出装置による水系溶剤の更新設備、」とあるのを削除する。
2 訂正の目的の適否
上記再訂正につき、被請求人は、再訂正に係る訂正請求書において、「『水系溶剤の供給装置および排出装置による水系溶剤の更新設備』は本件特許でいうところの『撹拌装置』として機能するものではない。」と主張し、また、口頭審理において、「請求項1の撹拌設備とは、水槽内の濃度を十分に均一にするために、水系溶剤を流動させる設備を意味する。」と主張している。
しかし、再訂正前の本件特許明細書では、この更新設備も撹拌設備の一態様として認識しており、また、この削除によっても、本件特許発明の撹拌設備からこの更新設備が除外されたとは言えない。
よって、当該訂正の目的は不明りょうな記載の釈明であるとも、特許請求の範囲の減縮であるとも言えない。また、誤記の訂正とも言えないことは明らかである。
3 むすび
以上のとおりであるから、当該訂正は、特許法第134条第2項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

III 本件発明
上記のとおり、平成16年8月31日付の訂正請求は認められないので、本件特許第3329154号の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、願書に添付した明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】水系溶剤を充填した水槽にフィルムを通過せしめる工程を有する溶液製膜方法によるフィルムの製造方法において、該水槽のうち少なくとも一つに水系溶剤の撹拌設備を具備してなることを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】水系溶剤の撹拌設備が循環設備であることを特徴とする請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】循環設備による水系溶剤の循環回数が1時間当たりに1回以上であることを特徴とする請求項2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】フィルムが通過する水槽が少なくとも2槽以上あることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】水槽の少なくとも1つが、フィルム出口部にフィルム表面に付着している水系溶剤の除去設備を具備してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】水系溶剤の除去設備が、ニップロール、エアナイフ、メタリングバー、拭取り装置および吸引装置から選ばれた少なくとも1種類以上の設備であることを特徴とする請求項5に記載のフィルムの製造方法。」

IV 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、「特許第3329154号の『平成15年9月9日付け訂正請求書により訂正された明細書(以下、本件特許明細書という)』の請求項1〜6に係る特許を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、その証拠方法として下記の甲第1〜3号証を提出しているところ、その理由の概略は以下のとおりである。
(1)本件特許明細書の請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1〜6に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)本件特許明細書の請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)本件の請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第36条第4項又は第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
甲第1号証:特開平5-131469号公報
甲第2号証:日本化学会編「化学便覧応用編 改訂3版」丸善株式会社、
昭和55年3月15日発行、815〜818頁、目次、奥付
甲第3号証:特公昭42-815号公報
2 被請求人の主張
被請求人は、平成16年8月31日付で答弁書及び訂正請求書を提出し、その訂正された明細書の請求項1〜6に係る発明について「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張している。

V 当審の判断
1 無効理由IV 1 (2)について
(1)各証拠の記載事項
請求人が提出した甲第1〜3号証には、以下のことが記載されている。
ア 甲第1号証
a.「【0006】本発明で使用されるポリマは、溶媒に可溶で溶液製膜可能なポリマであれば特に限定されないが、特に芳香族ポリアミドのフィルム製造において有用である。…該ポリマ溶液のフィルム化は溶液製膜法により行なわれる。
【0007】溶液製膜法には乾式法、乾湿式法、湿式法があるが、該ポリマ溶液の製造に乾式法、乾湿式法を採用した場合に有効である。…乾燥されたフィルムは支持体より剥離され、乾湿式法の場合には水系の媒体中へ浸漬または媒体を噴霧して無機塩および溶媒を抽出し、必要に応じて縦方向に延伸される。…
【0008】…これら乾式法、乾湿式法で得られるフィルムは一般に1〜200μmである。該フィルムは磁気記録媒体、感熱記録媒体、フレキシブルプリント回路基盤などに用いられるが、特に表面性の良好なフィルムや磁気記録媒体用フィルムの製膜において本発明は有用である。」
イ 甲第2号証
b.「10.4.1 製造方法

d.溶液法
高分子を溶媒に溶かして溶液とし,それを流延してフィルム状にした後,溶媒を除去する方法であり,…凝固浴を用いる方式を湿式という….…図10.59に湿式法を示す.溶液法の特徴は,相当薄いフィルムまでつくれることおよび異物,ゲルなどの少ない均質なフィルムをつくれることにある.」(816頁左欄6行〜817頁左欄5行)
c.



(817頁)
ウ 甲第3号証
d.「本発明は高度の耐熱性を有する繊維、フイルム、フイラメント、糸等の如き成形物品の製造法、特に高度の耐熱強度を有する繊維、フイラメント、フイルムその他の成形物品を全部が芳香族からなるポリアミドで製造する方法に関するものである。」(1頁右欄2〜7行)
e.「本発明の他の目的は全体が芳香族ポリアミドからなるフイラメント、繊維、フイルムその他の成形品を製造する為の良好な湿式押出し変形法を得んとするにある。」(2頁左欄下から4〜1行)
f.「高濃度の溶媒と塩金属を溶存する凝固浴の1部を連続的に取出して新規の溶媒-水混合液を凝固浴に絶えず補給して凝固浴に殆んど一定の状態を維持せしめることが便宜である。凝固浴中の凝固条件を一定にする為に、凝固液は、新規の凝固液若くは水を絶えず補給し、その一方で当量の使用済み凝固液を連続的に取出すことにより循環され好適濃度が維持される。」(4頁28〜36行)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
ア)本件発明1と甲第1号証に記載された発明との対比
甲第1号証に記載された発明は、溶液製膜法によるフィルムの製造方法ににおいて、乾湿式法や湿式法といった、途中に湿式工程を経る方法が採用でき、その際、フィルムが水系媒体中に浸漬されるものである。そして、得られるフィルムは表面性の良好なものであり、また、磁気記録媒体用に用いられるものである(摘示事項a.)。この水系媒体は水系溶剤と認められ、浸漬するには何らかの槽が必要と認められる。
そうすると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「水系溶剤を充填した水槽にフィルムを通過せしめる工程を有する溶液製膜方法によるフィルムの製造方法」
<相違点>
「本件発明1は、上記製造方法において、該水槽のうち少なくとも一つに水系溶剤の撹拌設備を具備するのに対し、甲第1号証に記載された発明は、そのことが記載されていない点。」
イ)相違点に対する判断
甲第3号証には、「フイルムその他の成形品を製造する為の良好な湿式押出し変形法」(摘示事項e.)に関し、「高濃度の溶媒と塩金属を溶存する凝固浴の1部を連続的に取出して新規の溶媒-水混合液を凝固浴に絶えず補給して凝固浴に殆んど一定の状態を維持せしめることが便宜である。凝固浴中の凝固条件を一定にする為に、凝固液は、新規の凝固液若くは水を絶えず補給し、その一方で当量の使用済み凝固液を連続的に取出すことにより循環され好適濃度が維持される」(摘示事項f.)ことが記載されている。この「湿式押出し変形法」は、本件発明1の溶液製膜法と同様、途中に湿式工程を経るものであり、「溶媒-水混合液」及び「凝固液」は本件発明1の「水系溶剤」に、「凝固浴」は本件発明1の「水槽」に、それぞれ相当する。また、「新規の凝固液若くは水を絶えず補給し、その一方で当量の使用済み凝固液を連続的に取出すことにより循環され」ることにより、「凝固液」は「好適濃度が維持される」のであるから、この循環のための装置は「凝固液」の撹拌設備である。
そして、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とは、共にポリマー溶液から湿式でポリマー成形体を得る工程において、水系溶剤を通過させることで一致するものであるから、甲第1号証に記載された発明において、水系溶剤を充填した水槽に、甲第3号証に記載された発明のように撹拌設備を具備させることは、当業者が容易に想到しうることと認められる。
被請求人は答弁書において「本件特許発明によれば、『有機高分子からなる無欠点性の優れた基材フィルムにより、ドロップアウトの少ない、特に詳しくはデータストレージ用途に適したフィルム』が得られる(段落番号【0056】」と述べているが、甲第1号証に記載された発明において、得られるフィルムは表面性の良好なものであり、また、磁気記録媒体用に用いられるもの(摘示事項a.)であるから、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明を組合わせることにより、上記の作用効果は自ずと得られるものと認められるので、本件発明1によって奏される効果において、格別のものは見いだせない。
よって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ウ)本件発明1と甲第2号証に記載された発明との対比
甲第2号証に記載された発明は、溶液法によるフィルムの製造方法に関し、凝固浴や水洗浴等を用いる湿式法が記載されており(摘示事項b.及びc.)、溶液法の特徴として、「相当薄いフィルムまでつくれることおよび異物,ゲルなどの少ない均質なフィルムをつくれること」が挙げられている(摘示事項b.)。この凝固浴や水洗浴等は本件発明1の「水槽」に、凝固浴や水洗浴等に充填されている液は本件発明1の「水系溶剤」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲第2号証に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「水系溶剤を充填した水槽にフィルムを通過せしめる工程を有する溶液製膜方法によるフィルムの製造方法」
<相違点>
「本件発明1は、上記製造方法において、該水槽のうち少なくとも一つに水系溶剤の撹拌設備を具備するのに対し、甲第2号証に記載された発明は、そのことが記載されていない点。」
エ)相違点に対する判断
甲第3号証には、V 1 (2)ア(イ)で指摘した点が記載されており、また、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とは、共にポリマー溶液から湿式でポリマー成形体を得る工程において、水系溶剤を通過させることで一致するものであるから、甲第2号証に記載された発明において、水系溶剤を充填した水槽に、甲第3号証に記載された発明のように撹拌設備を具備させることは、当業者が容易に想到しうることと認められる。
そして、奏される効果においても、V 1 (2)ア(イ)で検討したとおり、格別のものは見いだせない。
よって、本件発明1は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「水系溶剤の撹拌設備が循環設備である」との限定を加えたものである。これに対し、甲第3号証には、撹拌設備として循環設備が記載されている。
よって、本件発明2は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、また、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2において、「循環設備による水系溶剤の循環回数が1時間当たりに1回以上である」との限定を加えたものである。
この循環回数は、甲第3号証に記載された発明でいうところの「好適濃度が維持される」ようにするために、当業者が適宜設定することができる設計的事項である。
よって、本件発明3は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、また、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

エ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかにおいて、「フィルムが通過する水槽が少なくとも2槽以上ある」との限定を加えたものである。
この水槽の個数は、抽出効率等、水系溶剤による処理の程度を勘案して、当業者が適宜設定することができる設計的事項である。また、甲第2号証に記載された発明において、図10.59(摘示事項c.)は、本件発明4でいうところの「フィルムが通過する水槽が少なくとも2槽以上ある」ものと認められる。
よって、本件発明4は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、また、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

オ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1〜4のいずれかにおいて、「水槽の少なくとも1つが、フィルム出口部にフィルム表面に付着している水系溶剤の除去設備を具備してなる」との限定を加えたものである。
水系溶剤は、フィルムから抽出された不要な成分を含むものであり、この水系溶剤をフィルムから除去することは、当然行われるべきことである。このため、「水系溶剤の除去設備」を具備させることは、当業者が適宜設定することができる設計的事項である。
よって、本件発明5は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、また、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

カ 本件発明6について
本件発明6は、本件発明5において、「水系溶剤の除去設備が、ニップロール、エアナイフ、メタリングバー、拭取り装置および吸引装置から選ばれた少なくとも1種類以上の設備である」との限定を加えたものである。
フィルム等の平滑面に付着している液体の除去手段として、ニップロール、エアナイフ、メタリングバー、拭取り装置、吸引装置を用いることは、当業者における常套手段である。
よって、本件発明6は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、また、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

VI むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由、すなわちIV 1 (1)および(3)について検討するまでもなく、本件発明1〜6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-27 
結審通知日 2005-06-29 
審決日 2005-07-12 
出願番号 特願平7-236743
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐野 整博
大熊 幸治
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3329154号(P3329154)
発明の名称 フィルムの製造方法  
代理人 羽鳥 修  

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