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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16B
管理番号 1122231
審判番号 不服2001-12593  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-09-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-07-19 
確定日 2005-08-10 
事件の表示 平成8年特許願第73259号「結合構造」拒絶査定不服審判事件〔平成9年9月16日出願公開、特開平9-242730〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年3月4日の出願であって、その請求項1乃至8に係る発明(以下それぞれ、「本願発明1」乃至「本願発明8」という。)は、平成13年7月19日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

【請求項1】基部と、この基部に基端側を支持される一方、先端を共通の中心側に突出された複数の係合片と、軸部の外径を先細となるテーパー状とされた雄ねじとを有し、前記雄ねじの前記軸部を、回転させることなしに、前記係合片を弾性変形させることにより前記係合片の先端間に挿入できるようになっており、前記係合片の先端間に前記雄ねじの前記軸部が挿入され、該軸部のうちのテーパー状とされた部分のねじ溝に前記係合片の先端が係合されてなる結合構造。

【請求項2】先端を共通の中心側に突出された2個の係合片の組み合わせが複数組所定の間隔を置いて並べて設けられ、これらの複数組のうちの選択された組の係合片間に前記雄ねじが挿入された請求項1記載の結合構造。

【請求項3】前記係合片の先端に、円弧状に凹む凹部が設けられている請求項2記載の結合構造。

【請求項4】前記雄ねじのねじ山のねじ後端側のフランクのフランク角はねじ先端側のフランクのフランク角より小さくされている請求項1,2または3記載の結合構造。

【請求項5】ワイヤを網状に結合してなり、筒状に湾曲された筒状部を有する網状パネルと、支柱と、この支柱に取り付けられるパネル支持具と、このパネル支持具に設けられ、前記網状パネルの前記筒状部に挿入されて前記網状パネルを支持する円筒状部とを有してなる網状フェンスにおいて前記パネル支持具の前記円筒状部に前記網状パネルを固定する結合構造であって、前記パネル支持具の前記円筒状部の基部に基端側を支持される一方、先端を共通の中心側に突出された複数の係合片と、中央部に穴、両側に押さえ部をそれぞれ設けられた留め具と、軸部の外径を先細となるテーパー状とされた雄ねじとを有し、前記雄ねじの前記軸部を、回転させることなしに、前記係合片を弾性変形させることにより前記係合片の先端間に挿入できるようになっており、前記雄ねじの前記軸部が前記留め具の穴および前記係合片の先端間に挿入され、前記軸部のうちのテーパー状とされた部分のねじ溝に前記係合片の先端が係合され、前記雄ねじにより前記押さえ部を介して前記網状パネルの前記筒状部の前記ワイヤが押さえられてなる結合構造。

【請求項6】先端を共通の中心側に突出された2個の係合片の組み合わせが複数組所定の間隔を置いて並べて設けられ、これらの複数組のうちの選択された組の係合片間に前記雄ねじが挿入された請求項5記載の結合構造。

【請求項7】前記係合片の先端に、円弧状に凹む凹部が設けられている請求項6記載の結合構造。

【請求項8】前記雄ねじのねじ山のねじ後端側のフランクのフランク角はねじ先端側のフランクのフランク角より小さくされている請求項5,6または7記載の結合構造。

2.引用刊行物及び引用発明
これに対し、平成16年2月12日付けで当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭47-51373号(実開昭49-8670号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には、「ナツト型締結具」に関し、下記の技術的事項が図面とともに記載されている。

(1-a)「図中Aは本考案になるナツト型締結具で、この締結具Aは本体1と被締結体2のそれぞれに形成した孔3,4に挿通される取付螺子杆5に螺合して、被締結体2を本体1に締結するものであり、特に本体1が板厚の薄いねじ立てできないようなパネルである場合に用いられる。前記締結具Aは、ばね弾性を有する板材よりなり中央部に前記取付螺子杆5が螺合する螺合孔6を形成したナツト部7と、このナツト部7と一体に形成され前記螺合孔6の外方に対向して突出する突出片部8,8とを具備している。そして、前記突出片部8,8に前記本体1の孔3の周縁部に当接してハ字状に開拡される第1脚部9,9が形成されるとともに、これら第1脚部9,9の両側方にあつてこれらと同一方向に突出し、その先端10a,10a側を外方に折曲して、その折曲部10b,10bを前記本体1の孔3より挿入して本体1と被締結体2との間に位置させる第2脚部10,10が形成されている。なお、前記本体1の孔3は第2脚部10,10の折曲部10b,10bが挿入されるに十分な大きさとするとともに、螺合孔6は取付螺子杆5に弾圧して螺合するように螺合孔6周縁部に切り割り部11が形成されている。また、実施例では取付螺子杆5にタツピングスクリユーが使用され、従つて螺合孔6にはねじ立てせず、ねじ込んで用いるものである。」(明細書第2ページ第9行〜第3ページ第15行)

(1-b)「上記のように構成された締結具Aで被締結体2を本体1に締結するには、まず第2図に示すように、本体1の孔3より締結具Aの第2脚部10,10の折曲部10b,10bを挿入して本体1と被締結体2との間に位置させるとともに、被締結体2の孔4が孔3に合致するように重ねる。次いで、取付螺子杆5を被締結体2の孔4より挿通し、締結具Aの螺合孔6に螺合し、被締結体2が本体1側に移動するように螺動操作すれば、締結具Aは第3図に示すように弾性変形して締付けられる。これにより本体1は第1脚部9,9と第2脚部10,10との間に弾圧挟持されるとともに、第1脚部9,9のばね力と第2脚部10,10の折曲部10b,10bのばね力により被締結体2を弾圧的に本体1に締結できる。」(明細書第3ページ第16行〜第4ページ第11行)

(1-c)「また、第4図には本考案の他の実施例が示されている。この実施例の場合は、ナツト部12に対向する切り起こし片部13,13を形成し、これら切り起こし片部13,13の対向縁部に螺合孔14を形成するとともに、第1脚部15,15に補強用凸条16,16を形成したもので、上記第1の実施例と同様に本考案の目的を達成できるものである。」(明細書第4ページ第12行〜第19行)

以上の記載事項及び図面(特に、第3図および第4図参照。)の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「ナツト部12と、このナツト部12に基端側を支持される一方、先端を共通の中心側に突出された複数の切り起こし片部13と、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5とを有し、前記取付螺子杆(タツピングスクリユー)5の軸部を、ねじ込んで、前記切り起こし片部13を弾性変形させることにより前記切り起こし片部13の先端間に挿入できるようになっており、前記切り起こし片部13の先端間に前記取付螺子杆(タツピングスクリユー)5の前記軸部が挿入され、該軸部のうちのねじ溝に前記切り起こし片部13の先端が係合されてなるナツト型締結具を用いてなる結合構造」

また、上記拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-113016号公報(以下「刊行物2」という。)には、「結合具および結合構造」に関し、下記の技術的事項が図面とともに記載されている。
(2-a)「第1図に示されるように、雄ネジ8を穴6および凹部7に軸方向矢印の向き(係合片3,4が切り起こされている向き)に押し込むと、第一および第二の係合片3,4が弾性曲げ変形することにより、係合片3,4の中心側端3b,4bが雄ネジ8のネジ山を越えて行く。
また、雄ネジ8の押し込みを止めると、その位置において係合片3,4の中心側端3b,4bが雄ネジ8のネジ溝に係合する。これにより、雄ネジ8を結合具1に対して回転させることなく、雄ネジ8を係合片3,4の中心側端3b,4bに迅速に螺合し、結合具1と雄ネジ8とを結合することができる。
また、このようにして雄ネジ8の押し込みを止めたときの結合具1の係合片3,4に対する雄ネジ8の螺合位置が所望の位置からずれているときは、雄ネジ8を回転すると、係合片3,4の中心側端3b,4bが雄ネジ8のネジ溝に沿って相対的に移動するので、螺合位置を所望の位置に精密に調整することができる。」(第4ページ左上欄第7行〜右上欄第6行)

3.対比及び判断
本願発明1と引用発明を対比する。その有する機能を勘案すると、引用発明の「ナツト部12」は、本願発明1の「基部」に相当し、以下同様に、「切り起こし片部13」は「係合片」に、「取付螺子杆(タツピングスクリユー)5」は「雄ねじ」に、「ナツト型締結具を用いてなる結合構造」は「結合構造」に、各々相当する。
そして、引用発明は、「取付螺子杆(タツピングスクリユー)5の軸部」を、前記係合片を弾性変形させることにより前記係合片の先端間に挿入できるようになっており、前記係合片の先端間に前記軸部が挿入され、該軸部のねじ溝に前記係合片の先端が係合されてなるものである。
故に、両者には、以下の一致点及び相違点があるものと認める。

[一致点]
「基部と、この基部に基端側を支持される一方、先端を共通の中心側に突出された複数の係合片と、雄ねじとを有し、前記雄ねじの軸部を、前記係合片を弾性変形させることにより前記係合片の先端間に挿入できるようになっており、前記係合片の先端間に前記雄ねじの前記軸部が挿入され、該軸部のねじ溝に前記係合片の先端が係合されてなる結合構造」

[相違点1]
本願発明1は、「前記雄ねじの前記軸部を、回転させることなしに、前記係合片を弾性変形させることにより前記係合片の先端間に挿入できるようになって」いるのに対し、引用発明は、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5の軸部を、回転させることなしに、係合片の先端間に挿入できるかどうか明らかでない点

[相違点2]
本願発明1は、「雄ねじ」が「軸部の外径を先細となるテーパー状とされ」ており、「該軸部のうちのテーパー状とされた部分のねじ溝に前記係合片の先端が係合されて」いるのに対し、引用発明は、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5の軸部がそのように形成されておらず、テーパー状とされた部分のねじ溝には係合片の先端が係合していない点

そこで、上記各相違点について検討する。
まず、相違点1について検討する。
上記刊行物2には、「第1図に示されるように、雄ネジ8を穴6および凹部7に軸方向矢印の向き(係合片3,4が切り起こされている向き)に押し込むと、第一および第二の係合片3,4が弾性曲げ変形することにより、係合片3,4の中心側端3b,4bが雄ネジ8のネジ山を越えて行く。…これにより、雄ネジ8を結合具1に対して回転させることなく、雄ネジ8を係合片3,4の中心側端3b,4bに迅速に螺合し、結合具1と雄ネジ8とを結合することができる。…」と記載されているように(上記摘記事項(2-a)参照)、挿入手段として、「回転することなしに」、押し込みで行うことが開示されている。
また、そもそも、回転することなしに、押し込みにより挿入することは、係合片を利用した結合構造において周知の技術である(必要ならば、特開平3-37402号公報の複数の螺合片3の先端間に雄ネジ7を押し込む点、特開平7-296622号公報の一対の挟持片46、51の先端間に取付ねじ71を圧入する点、特開平7-91419号公報の複数の係合片6の先端間に雄側結合具1を押し込む点を参照されたい。)。
そして、引用発明における切り起こし片部13は弾性変形が可能であり、その基端のみを支持された薄板状の形状・構造を参酌すれば、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5を押し込める程度に弾性変形可能である点は十分に窺い知ることができる。
さらに、上記刊行物1全体の記載からしても、引用発明において、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5を、回転することなしに、押し込みにより挿入することを阻害する特段の要因も認められない。
してみると、引用発明において、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5の螺合孔へ挿入するに際し、回転させることなしに、押し込んで切り起こし片部13を弾性変形させることが、当業者にとって格別技術的に困難であるとは認められない。
よって、引用発明に上記刊行物2に記載されている発明及び上記周知の技術を適用し、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。

次に、相違点2について検討するに、全長に亘り外径を先細となるテーパー状とされた雄ねじは、周知のものである(例えば、実願昭57-112840号(実開昭59-17307号)のマイクロフィルムのタッピングスクリュー14参照。)。
そして、引用発明において、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5としては、適宜の形態のものを採用し得るものと認められ、引用発明において取付螺子杆(タツピングスクリユー)5として、上記周知の雄ねじを採用することが、当業者にとって格別の創意を要することとは認められない。
よって、引用発明に上記周知の技術を適用し、相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。

また、本願発明1の作用効果について検討しても、引用発明、上記刊行物2に記載された発明及び上記周知の技術から予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明1は、引用発明、上記刊行物2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ところで、請求人は、平成16年4月9日付け意見書において、概略「引用発明における切り起こし片部13と刊行物2に記載された発明における係合片3,4とは、前者は雄ねじのねじ山を乗り越えることはない一方、後者は雄ねじのねじ山を乗り越えるように弾性変形するという点で、機能・作用を全く異にしますから、単に両者とも弾性変形するという点をもってして、前者に代えて後者を採用することは当業者であれば適宜成し得たことではない」として「本願発明1は引用発明、刊行物2に記載された発明及び周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない」旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、そもそも、回転することなしに、押し込みにより挿入することは、係合片を利用した結合構造において周知の技術である。そして、引用発明における切り起こし片部13は、取付螺子杆(タツピングスクリユー)5を押し込める程度に十分弾性変形可能であるものと認められ、さらに、回転することなしに、押し込みにより挿入することを阻害する特段の要因も認められないので、引用発明に刊行物2に記載された発明を適用することが当業者にとって格別技術的に困難であると認められないことも、上記のとおりである。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおりであるので、本願発明1は、刊行物1、刊行物2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2乃至8について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-13 
結審通知日 2004-05-14 
審決日 2004-05-25 
出願番号 特願平8-73259
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩小谷 一郎藤村 泰智  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 窪田 治彦
前田 幸雄
発明の名称 結合構造  
代理人 大森 泉  

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