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審決分類 審判 一部申し立て 1項1号公知  B41J
審判 一部申し立て 発明同一  B41J
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1122823
異議申立番号 異議2003-72707  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-12-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-05 
確定日 2005-06-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3403806号「サーマルヘッド」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3403806号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願 平成6年6月1日
特許権設定登録 平成15年2月28日
特許異議申立て(申立人:石井義章、請求項1に係る特許に対して)
平成15年11月5日
取消理由通知 平成17年2月4日付け
訂正請求 平成17年4月18日
意見書 平成17年4月18日

第2 訂正の適否
1.訂正の内容(訂正箇所にはアンダーラインを付している。)
[訂正事項a]
特許請求の範囲の請求項1に係る記載「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有する」を、
「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間と連通されている」と訂正する。

[訂正事項b]
明細書の段落【0007】の「【課題を解決するための手段】…特徴とする。」を、
「【課題を解決するための手段】
本発明の第1のサーマルヘッドは、放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間と連通されていることを特徴とする。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(訂正事項aについて)
上記訂正事項aについては、特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有する」を、より下位概念に限定するものである。
そして、本件特許明細書の段落【0013】には
「この隙間下部にあたる部分の放熱板に形成され、放熱板の他の面に開口端を有する溝は、隙間に存在する空気などのガスを有機樹脂で封止する際に外部へ逃がすことのできるものであれば、とくにその形状、大きさ等に制限はない。たとえば、発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを平行に突き合わせて放熱板に接着した場合、放熱板の長手方向全長にわたって溝を形成することが好ましい。また、全長が長い放熱板で1本の溝だけでは空気が逃げにくい場合、補助効果の穴や溝を追加形成することにより、確実に空気を逃がすことができる。放熱板に形成される開口端は、少なくとも 1個あればよい。溝の断面形状は正方形、長方形、台形、三角形、U字型、V字型等種々の形状をとることができる。また、溝の幅は、基体と基板とを平行に突き合わせた場合の隙間幅以上あることが空気をより十分に逃がすことができるためとくに好ましい。たとえば、突き合わせて放熱板に接着した場合、 200μm 以上あることが好ましい。さらに、溝の位置は少なくとも隙間下部に位置することが好ましい。」の記載が、
又、同段落【0018】には
「【作用】発熱抵抗体を有する基体と駆動回路基板との接合部下にあたる部分の放熱板に溝を形成し外界との通気路を設けると、有機樹脂封止工程中に隙間に存在する膨脹した空気は溝部へ逃げることができるため、有機樹脂封止部に気泡が発生しない。 また、ガス透過性を有する接着層を有していると、有機樹脂封止工程中の昇温によって材料粘度が低下しても、有機樹脂は接着層で止まる一方、隙間に存在する膨脹した空気はガス透過性を有する接着層を通じて溝部へ逃げることができるため、有機樹脂封止部に気泡が発生しない。」の記載がされていることからして、
本件特許発明において、「前記基体と前記基板とが配置されている隙間」に存在していた空気が、有機樹脂封止工程中の昇温により膨張した際に、これを溝部へ逃がすことを目的としていることが明記されている。
してみれば、訂正事項aにおける「かつこの溝が前記隙間と連通されている」なる訂正は、前記「有機樹脂封止工程中に隙間に存在する膨脹した空気は溝部へ逃げることができる」とされる記載を根拠として、実質的に同一の内容を表現したものであるのは明らかである。
よって、当該訂正事項は、前記各記載事項に基づいて特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、当該訂正事項は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

[訂正事項bについて]
上記訂正事項bについては、明細書の段落【0007】の「【課題を解決するための手段】…特徴とする。」において、請求項1の記載を援用している箇所の記載を、前記訂正事項aによる訂正と整合させるべく、訂正するものである。
よって、当該訂正事項は、誤記の訂正或いは明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

[まとめ]
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立ての概要
異議申立人:石井義章は、以下の証拠を提出すると共に、以下の取消理由を主張している。
甲第1号証:特開昭62-9964号公報
甲第2号証:実願昭63-17976号(実開平1-125642号)の全文明細書
甲第3号証:実願平4-62230号(実開平6-17939号)の全文明細書
甲第4号証:実願平5-4309号(実開平6-57646号)の全文明細書

[取消理由1]
訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であり、当該発明は特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

[取消理由2]
訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証、又は甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得る発明であり、当該発明は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

[取消理由3]
訂正前の本件請求項1に係る発明は、当該特許出願の日前の他の実用新案登録出願であって当該出願後に出願公開された甲第4号証に記載された発明と同一であって、その発明をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者でもなく、当該出願の時にその出願人と当該他の実用新案登録出願の出願人とが同一の者でないから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。

[取消理由4]
本件請求項に記載の特許発明は、「基板間に閉じ込められた空気層を放熱板の溝を伝って逃がす」という本件特許発明の作用効果を奏しない構成が含まれており、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないから、特許法第36条第5項第2号に規定する用件を満足していないため、特許を受けることができないものである。

2.本件発明
本件特許3403806号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下の通りのものである。

【請求項1】放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、 かつこの溝が前記隙間に連通されていることを特徴とするサーマルヘッド。

3.刊行物記載の発明
当審が平成17年2月4日付けで通知した取消しの理由に引用した各刊行物には、以下の記載事項が認められる。
(1) 刊行物1(特開昭62-9964号公報)
[記載事項ア]
「〔発明の概要〕
本発明は感熱記録紙等に例えば階調プリントするプリンターに使用するサーマルヘッドであり、表面に発熱抵抗体が設けられた絶縁基板と、この絶縁基板に接触して設けられ放熱体を構成する金属ベースとを有するサーマルヘッドに於いて、この絶縁基板のこの発熱抵抗体の真下に対応する部分とこの金属ベースとの間に空隙を設け、発熱抵抗体の放熱のばらつきをなくし、プリントの濃度むらをなくす様にしたものである。」
(1頁左欄15行〜右欄5行)

[記載事項イ]
「〔実施例〕
以下第1図を参照しながら本発明サーマルヘッドの一実施例につき説明しよう。この第1図に於いて第2図及び第3図に対応する部分には同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
この第1図例に於いては第2図及び第3図に示す如く、アルミニュームAlよりなり、放熱板を構成する金属ベース(1)上にヘッド基板(2)、ドライブ基板(3)等を設ける。このヘッド基板(2)は第2図、第3図と同様に比較的熱伝導性の良いガラスグレーズアルミナ基板、ガラス基板等の絶縁基板(2a)上に複数の略矩形状に形成された例えばTa-SiO2より成る発熱抵抗体(2b)を所定間隔を空けて夫々独立して並列に設け、之等発熱抵抗体(2b)の夫々の一端に個別電極(2c)を接続し、他端に各発熱抵抗体(2b)に共通となる共通電極(2d)を接続し、この発熱抵抗体(2b)、個別電極(2c)及び共通電極(2d)上にSiO2等の耐酸化層(2e)及びTa2O5等の耐摩耗層(2f)を積層形成して構成する。このヘッド基板(2)の絶縁基板(2a)の下面を例えばシリコーン接着剤で金属ベース(1)の所定位置に接着固定する。」
(2頁右下欄16行〜3頁左上欄18行、第1図、第2図)

[記載事項ウ]
「第1図は本発明のサーマルヘッドの一実施例を示す一部切欠断面図、第2図はサーマルヘッドの例を示す一部切欠斜視図」
(3頁右下欄6〜8行)

前記記載事項イ、ウを参照するに、当該刊行物の第1図には、
「金属ベース(1)上に、発熱抵抗体(2b)を有するヘッド基板(2)とドライブ基板(3)とを接着し、ドライブ基板(3)上に配置されたドライブICチップ(3b)と駆動用回路との電気的接合部とをモールド材を用いて封止し、該モールド材(6)がヘッド基板(2)とドライブ基板(3)との隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、基板(2)、(3)間の隙間の封止部の下部にあたる部分の金属ベース(1)に溝が形成されるもの」が開示されている。

また、金属ベース(1)の溝に関して、当該刊行物の第2図には、金属ベース(1)の端面に開口端を有することが看取される。
なお、ドライブICチップ3bと駆動用回路とを封止するモールド材6に関して、具体的な材料について当該刊行物には具体的に言及されていないものの、かかるモールド材を有機樹脂により形成することは当業者の周知慣用技術に属することであり、当該刊行物に記載されているに等しい事項といえる。

(2) 刊行物2(実願昭63-17976号(実開平1-125642号)の全文明細書)
[記載事項エ]
「ガラス製の発熱基板の一主表面の一端部に発熱体が形成され、発熱体上部にはガラス製の上基板が接着されており、発熱基板と上基板の端面に沿って記録媒体が摺動して印字が行われる端面型サーマルヘッド。」
(実用新案登録請求の範囲)

[記載事項オ]
「(目的)
本考案は端面型サーマルヘッドとして機能するサーマルヘッドを従来の平面型サーマルヘッドの製造プロセスの利点を生かして製造することのできるサーマルヘッドを提供することを目的とするものである。」
(5頁4〜9行)

[記載事項カ]
「第12図は支持板24に段差を設け、発熱基板21の端面で支持板24に接着させた例を表わしている。記号33で示された太い実線は接着剤である。
このように発熱基板21の端面を支持板に接着すれば、印字の際の発熱による熱膨張率の差によって記録面23が凹状に反る。しかし、感熱紙などの記録媒体はプラテンローラなどの弾性体により記録面23に押しつけられるので、仮に記録面23が100〜150μm程度反ったとしても印字品質に影響を与えない。
また、支持板24としてアルミニウムのように熱膨張率の大きいものを用いたとしても、板状体の端面のそりは表面のそりに比べると構造的に小さくなる。」
(13頁15行〜14頁9行)

前記記載事項エ、カを参照するに、当該刊行物の第12図には、
「放熱板24上に、発熱基板21と配線基板25とを接着剤33を介して接着し、配線基板25上に配置されたICチップ26を樹脂27で封止し、該樹脂27が発熱基板21と配線基板25との隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、樹脂27の封止部の下部にあたる部分の放熱板24に溝を形成するもの」が開示されている。

又、当該刊行物には、放熱板24の溝が放熱板24の他の面に開口端を有することは明示的に記載されていないものの、通常、放熱板の加工が押出し加工、もしくは引抜き加工により行われ、これらの加工法では放熱板の断面形状が長手方向にわたり略同一形状になることから、放熱板24の溝が放熱板24の他の面に開口端を有することは、当該刊行物に記載されているに等しい事項といえる。
なお、当該第12図を参照するに、放熱板24に設けられた溝と基板間の隙間との間には接着剤が介在している様子が開示されており、当該サーマルヘッドにおいては、発熱基板21と配線基板25との間の空気が放熱板24の溝に流入できない構造であることが把握できる。

(3) 刊行物3(実願平4-62230号(実開平6-17939号)の全文明細書)
[記載事項キ]
「【図2】従来例の断面図である。
【符号の説明】
1 ヘッド基板
2 プリント配線板
2a プリント配線板の切除面
2b 当接面
3 支持板
5 レジンコート
10 発熱抵抗体」
(2頁右欄3〜11行、【図2】(A)、(B))

[記載事項ク]
「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、サーマルプリントヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術及びその問題点】
一般にプリント配線板は、量産時に外形をプレス打ち抜きにより形成するため、破断面の直線性は悪くなる。このようなプリント配線板をサーマルプリントヘッドに採用すると、この破断面とサーマルプリントヘッドのヘッド基板を当接した時、当接部分に僅かな隙間ができることになる。
【0003】
図2に示すように、支持板3上に、発熱抵抗体(図示せず)や駆動素子6が設けられたヘッド基板1と前記のように作成されたプリント配線板2を支持板3上に接着剤4で固定して当接すると、ヘッド基板側当接面1aとプリント配線板側当接面2bとの間に僅かな隙間ができ、この当接部上に駆動素子6が保護するためのレジン5をコートした場合、当接部にレジンが浸透していないため空隙ができやすい。
【0004】
前記駆動素子6を保護するためのレジン5は熱硬化性のものを使用するため、硬化時の加熱により前記空隙内の空気が膨張してレジン5内に気泡5aが発生する。そしてこの気泡5aが破裂してレンジコートが不完全となる場合があり、ワイヤボンディングされた金線7の断線、駆動素子6表面の酸化等不良発生の要因となる。」
(3頁11〜23行)

[記載事項ケ]
「【0005】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、前記問題点に鑑み、ヘッド基板とプリント配線板の前記当接部にレジンを浸透させ、空隙が生じないように、レジン内の気泡発生を防止する点にある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本考案は、ヘッド基板に当接するプリント配線板の当接辺側の両端部以外を僅かに切除することによりレジンを当接部に浸透しやすくし、気泡の発生原因となる空隙をなくすることを特徴とするものである。」
(3頁24行〜4頁4行)

前記記載事項キ、クを参照するに、当該刊行物の図2(A)及び(B)には、
「支持板3上に、発熱抵抗体10を有するヘッド基板1と、プリント配線板2とを接着し、ヘッド基板1上に配置された駆動素子6と発熱抵抗体10との電気的接合部とを熱硬化性のレジン5を用いて封止し、該レジン5がヘッド基板1とプリント配線板2との隙間上部まで封止してなるサーマルヘッド」の構成が開示されている。

(4) 刊行物4(実願平5-4309号(実開平6-57646号)の全文明細書)
[記載事項コ]
「【0004】
各々熱変形した状態で硬質レジンが硬化しているので、常温に戻ったとき、当接部の両端が中央に引き寄せられる現象が起きる。このことにより図5に示すように曲がり変形が発生する。この曲がり変形により発熱抵抗体2aの直線性がなくなり、印字に悪影響を及ぼすという問題点があった。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、前記硬質レジンの熱硬化後の前記曲がり変形を抑制したサーマルプリントヘッドを提供する点にある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本考案サーマルプリントヘッドは、絶縁基板上に発熱抵抗体を形成したヘッド基板とプリント配線板とを支持板上に固定し、前記ヘッド基板または前記プリント配線板上に搭載されたドライバICを硬質レジンで前記ヘッド基板と前記プリント配線板に跨がるようにコーティングしたサーマルプリントヘッドにおいて、前記支持板に設けた突起部または仕切片を挟むように前記ヘッド基板と前記プリント配線板とを前記支持板上に固定したことを特徴とする。」
(3頁21行〜4頁8行)

[記載事項サ]
「【図面の簡単な説明】
【図1】本考案第1実施例の断面図である。
【図2】本考案第2実施例の断面図である。
【図3】従来例の断面図である。
【図4】本考案の平面図である。
【図5】従来例の平面図である。
【符号の説明】
1 支持板
1a 突起部
2 ヘッド基板
3 プリント配線板
4 硬質レジン
5 ドライバIC
6 接着剤
8 仕切片」
(2頁左欄11行〜右欄12行、【図1】、【図2】、【図4】)

[記載事項シ]
「【0007】
【実施例】
図1は、本考案サーマルプリントヘッドの断面図である。なお前記従来例と同一部分には同じ符号を付している。
図1において、支持板1には、突起部1aが長手方向に延設されている。該突起部1aを挟むようにヘッド基板2とプリント配線板3が接着剤6により固定される。その後、ドライバIC5をヘッド基板2上に固定し、ワイヤボンディングによりヘッド基板2及びプリント配線板3の入出力パターン(図示せず)と接続される。そして、液状の硬質レジン4をドライバIC5と接続部に塗布し、高温乾燥により硬化させる。
【0008】
高温条件下では、長手方向にヘッド基板2、プリント配線板3は伸びた形で変形している。その状態で硬質レジン4が硬化するのは、従来例と同様である。常温に戻る過程において、プリント配線板3がヘッド基板2の両端部を中央に引きよせる力が作用してくるが、図4に示すように支持板1に設けられた突起部1aよりも上にプリント配線板3の中央部が押し出されて来ることがないので、ヘッド基板2の中央部は前記突起部1aに当接した状態を保つことができる。
【0009】
また、同様に両端部においても、ヘッド基板2が突起部1aよりも下にプリント配線板3を押し下げることがないので、各々の直線性は保たれるのである。
【0010】
尚、図1において、支持板1に設けた突起部1aは、図2に示すようにに支持板1に設けられた固定溝1bに仕切片8を挿入した形状としてもよい。又、前記各実施例において、ヘッド基板2に配置されるドライバ1C5は、プリント配線板3上に配置してもよい。」
(3頁11〜23行)

前記記載事項サ、シを参照するに、当該刊行物の図2には、
「支持板1上に、発熱抵抗体2aを有するヘッド基板2と、プリント配線板3とを接着し、ヘッド基板2上に配置されたドライバーIC5と発熱抵抗体2aとの電気的接合部とを硬質レジン4を用いて封止し、該硬質レジン4がヘッド基板2とプリント配線板3との隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、ヘッド基板2とプリント配線板3との隙間の封止部の下部にあたる部分の支持板1に固定溝1bを形成するもの」が開示されている。

又、支持板1上の固定溝1bに関して、支持板の他の面に開口端を有することは明示的に示されていないものの、当該刊行物の図1や図4に示されたサーマルヘッドにおいては、支持板1上に形成された突起部1aの両側に配される溝が支持板1の端面まで開口されることが開示されている。
この図1や図4のサーマルヘッドは図2の基礎となる実施例であることから、図2のサーマルヘッドにおいても固定溝1bが支持板1の端面で開口端を有しているものと解し得る。

4.対比・判断
(1) [取消理由1]及び[取消理由2]について
[刊行物1記載のものとの対比・判断]
本件発明と刊行物1記載のものを対比すると、刊行物1記載のものの「金属ベース(1)」、「発熱抵抗体(2b)」、「(発熱抵抗体(2b)を有する)ヘッド基板(2)」、「ドライブ基板(3)」、「ドライブICチップ(3b)」及び「(封止に用いられる)モールド材」が、
本件発明の「放熱板」、「発熱抵抗体」、「(発熱抵抗体を有する)基体」、「駆動用回路基板」、「駆動用半導体素子」及び「(封止に用いられる)有機樹脂」に対応することは、技術常識に照らして明らかである。
したがって、本件発明と刊行物1記載のものは、
「放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、
前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、
かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、
前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、
この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有することを特徴とするサーマルヘッド。」
である点で一致するものの、
本件発明においては、「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有」することに加えて、「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を有しているのに対して、
刊行物1記載のものにおいては、溝と隙間が連通しているか否か不明な点で相違している。

ここで、前記「(1) 刊行物1(特開昭62-9964号公報)」の記載事項アにあるように、刊行物1では、発熱抵抗体の放熱のばらつきをなくし、プリントの濃度むらをなくす様にすべく、絶縁基板の発熱抵抗体の真下に対応する部分と金属ベースとの間に空隙を設けることが発明の目的及び課題解決手段であって、本件発明における有機樹脂を用いて封止を行う際に当該封止状態を良好に保つために放熱板に溝を設けたものとは、目的・課題が異なるものである。
したがって、確かに前記一致点認定にあるように、放熱板に類似の溝構成が認められるとしても、当該溝を「基体と基板とが配置されている隙間」に連通することを想起させる動機があるものとはいえない。

[刊行物2記載のものとの対比・判断]
本件発明と刊行物2記載のものを対比すると、刊行物2記載のものの「放熱板24」、「発熱基板21」、「配線基板25」、「ICチップ26」及び「(封止に用いられる)樹脂」が、
本件発明の「放熱板」、「(発熱抵抗体を有する)基体」、「駆動用回路基板」、「駆動用半導体素子」及び「(封止に用いられる)有機樹脂」に対応することは、技術常識に照らして明らかである。
したがって、本件発明と刊行物2記載のものは、
「放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、
前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、
かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、
前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、
この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有することを特徴とするサーマルヘッド。」
である点で一致するものの、
本件発明においては、「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有」することに加えて、「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を有しているのに対して、
刊行物2記載のものにおいては、溝と隙間が連通しているか否か不明な点で相違している。

ここで、前記「(2) 刊行物2(実願昭63-17976号(実開平1-125642号)の全文明細書)の記載事項カにあるように、刊行物2の第12図に示された構成は、端面型サーマルヘッドとして機能するサーマルヘッドを従来の平面型サーマルヘッドの製造プロセスの利点を生かして製造することのできるサーマルヘッドを提供することを目的としており、支持板24のそりが印字品質に影響を与えないようになすことを意図するものである。
したがって、たとえ第12図に、発熱基板21と配線基板25との当接位置に相当する箇所で放熱板24に溝の存在が把握できたとしても、当該溝は前記目的を達成するものである以上、本件発明における有機樹脂を用いて封止を行う際に当該封止状態を良好に保つために放熱板に設けられた溝ではなく、「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる構成を想起させるものとはいえない。
したがって、確かに前記一致点認定にあるように、放熱板に類似の溝構成が認められるとしても、当該溝を「基体と基板とが配置されている隙間」に連通することを想起させる動機があるものとはいえない。

[刊行物3記載のものとの対比・判断]
次に、本件発明と刊行物3記載のものを対比すると、刊行物3記載のものの「支持板3」、「発熱抵抗体10」、「(発熱抵抗体10を有する)ヘッド基板1」、「プリント配線板2」、「駆動素子6」及び「(封止に用いられる)熱硬化性レジン」が、
本件発明の「放熱板」、「発熱抵抗体」、「(発熱抵抗体を有する)基体」、「駆動用回路基板」、「駆動用半導体素子」及び「(封止に用いられる)有機樹脂」に対応することは、技術常識に照らして明らかである。
したがって、本件発明と刊行物3記載のものは、
「放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、
前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、
かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなることを特徴とするサーマルヘッド。」
である点で一致するものの、
本件発明においては、「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有」することに加えて、「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を有しているのに対して、
刊行物3記載のものにおいては、隙間に連通する溝を有するか否か不明な点で相違している。

ここで、前記「(3) 刊行物3(実願平4-62230号(実開平6-17939号)の全文明細書)の記載事項クにあるように、刊行物3においては、
プリント配線板とヘッド基板を当接した際に、当接部分に僅かな隙間が発生し、当該隙間に存在する空気が、駆動素子6を保護するための熱硬化性レジンを硬化させる際の加熱で膨張して、気泡となりレジンコートを不完全としてしまうという点を解決課題としている。
この点、本件発明と解決課題を共通しているものといえる。
しかしながら、刊行物3においては、前記記載事項ケにみられるように、プリント配線板とヘッド基板との隙間にレジンが浸透しやすくするように、ヘッド基板に当接するプリント配線板の当接辺側の両端部以外を僅かに切除することを解決手段としている。
してみれば、本件発明と解決課題を同じくしているとしても、基体と基板とが配置されている隙間(刊行物3では、「ヘッド基板側当接面1aとプリント配線板側当接面2bとの僅かな隙間」と表現されている。)の上部を有機樹脂を用いて封止している点で類似しているに過ぎず、当該隙間に連通する溝を設けることまでを意図しているものとはいえないのであり、本件発明における放熱板に溝を設け、これを前記隙間を連通させる構成を想起させる動機があるものとはいえない。

[対比・判断のまとめ]
以上に検討したように、刊行物1〜3記載のもののいずれにおいても、本件発明における「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる記載のうち、前半部分の「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、」なる特定を有すると認定し得るとしても、後半部分である「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を備えるものとはいえず、又、これら刊行物に記載される他の記載を参酌しても、後半部分の特定を示唆するものとはいえない。
してみるに、異議申立人が主張するように、本件発明が刊行物1又は刊行物2に記載された発明と実質的に同一であるとも、刊行物1及び刊行物2、又は刊行物1及び刊行物3に記載された事項から当業者が容易に想到し得る発明であるともいえない。
よって、異議申立人が主張する取消理由1及び2は成り立たない。

(2) [取消理由3]について
[刊行物4記載のものとの対比・判断]
本件発明と刊行物4記載のものを対比すると、刊行物4記載のものの「支持板1」、「ヘッド基板2」、「プリント配線板3」、「ドライバIC5」及び「(封止に用いられる)硬質レジン」が、
本件発明の「放熱板」、「(発熱抵抗体を有する)基体」、「駆動用回路基板」、「駆動用半導体素子」及び「(封止に用いられる)有機樹脂」に対応することは、技術常識に照らして明らかである。
したがって、本件発明と刊行物4記載のものは、
「放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、
前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、
かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、
前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、
この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有することを特徴とするサーマルヘッド。」
である点で一致するものの、
本件発明においては、「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有」することに加えて、「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を有しているのに対して、
刊行物4記載のものにおいては、溝と隙間が連通しているか否か不明な点で相違している。

ここで、刊行物4の記載事項コに明らかなように、当該刊行物の図2に認められる溝は、硬化している硬質レジンが常温に戻ったときにヘッド基板とプリント配線板との当接部両端が中央に引き寄せられる現象が発生することを阻止すべく、仕切片を挟むためのものであって、膨張した空気を当接部の隙間から逃がすことを目的とするものとはいえない。
したがって、前記一致点で認定したように、放熱板に類似の溝構成が認められるとしても、当該溝を「基体と基板とが配置されている隙間」に連通する構成であるとはいえず、又、これを想起させるものとはいえない。

[対比・判断のまとめ]
以上に検討したように、刊行物4記載のものは、本件発明における「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる記載のうち、前半部分の「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、」なる特定を有すると認定し得るとしても、後半部分である「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を備えるものとはいえず、又、これら刊行物に記載される他の記載を参酌しても、後半部分の特定を示唆するものとはいえない。
又、前記「(1) [取消理由1]及び[取消理由2]について」で検討したように、公知である刊行物1〜3においても、本件発明の「かつこの溝が前記隙間に連通されている」なる特定を備えることの記載或いは示唆があるものではない。
してみるに、異議申立人が主張するように、本件発明が刊行物4に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

(3) [取消理由4]について
異議申立人は、訂正前の本件請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が記載されておらず、特許法第第5項第2号の用件を満たしていないと主張する。
しかしながら、前記「第2 訂正の適否」の「1.訂正の内容」にみられるように、訂正後の本件請求項1に係る記載は、
「前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間と連通されている」と訂正されたことで、異議申立人が指摘したところの、本件特許発明の作用効果を奏しないサーマルヘッドを含まないものとなったことが明確である。
又、当該訂正に新規事項はなく、特許請求の範囲の拡張・変更もないことは前記で検討したとおりである。
してみれば、異議申立人の主張する取消理由は、訂正により解消した。

第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許は取り消すことができない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サーマルヘッド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間と連通されていることを特徴とするサーマルヘッド。
【請求項2】放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつ前記溝を覆って前記放熱板上にガス透過性を有する接着層が形成されてなることを特徴とするサーマルヘッド。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はサーマルヘッドに係り、とくにその放熱板の形状に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にサーマルヘッドは熱伝導性の良好な金属、たとえばアルミニウムなどから作られた放熱板上に発熱抵抗体を有する基体とこの発熱抵抗体を発熱させるための駆動回路基板を接着し、そのいずれかの上部に駆動回路半導体素子を配置した構成となっている。発熱抵抗体を有する基体と回路基板は駆動用半導体素子を介して電気的に接合されている。また駆動用半導体素子と前記電気的接合部は有機樹脂を用いて封止され、保護されている。
【0003】
従来のサーマルヘッドの断面の一例を図4に示す。アルミ製放熱板2の平面上に両面接着テープ7を貼り、その上に発熱抵抗体を有する基体であるセラミック基板3と駆動用回路基板4を平行に突き合わせて接着する。ここで、セラミック基板3は生産性の点から通常チョコブレーク方式により元の基板から分割して製造される。また駆動用回路基板4は型ぬきによる外形加工により製造されている。そのため、いずれの基板においてもその端面には微小の凹凸が生じ、接合部位に微小の隙間10が生じるのが現状である。放熱板上にこのような基板同士を平行に突き合わせて接着し、その後、半導体素子5および電気的接合部となるボンディングワイヤ6を有機樹脂8を使用して封止してサーマルヘッドを得ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、封止用の有機樹脂8は一般に粘度やチクソトロピック性により、セラミック基板3と駆動用回路基板4との間に生じた隙間10に塗布直後には流れ込めないため図4に示すように基板間の隙間10に空気が閉じこめられることになる。室温では有機樹脂8はある程度の粘度を有しているためこの隙間10には浸入しない。ここで熱硬化型の有機樹脂8は、室温より高く、また硬化が加速、促進される温度よりも低い、ある温度領域で急激に粘度が低下するという特性を持っている。そのため熱硬化反応中に有機樹脂8がこの温度領域に入った時に有機樹脂8は基板間の隙間10に入っていこうとする。また加熱により基板間の隙間10に閉じこめられた空気が膨脹し、外部へ出ていく力が働く。その結果、基板間の隙間10からは気泡11が発生し、硬化後の封止材料に凹凸12が残ったり、より気泡が膨脹すると封止樹脂に穴があいたりすることになる。気泡11が発生する模式断面図を図3に示す。
【0005】
封止樹脂表面に凹凸があると感熱紙の走行に影響を及ぼしたり、感圧によって感熱紙に黒いすじが発生するなどして画品質を劣化させる問題がある。また基板間隙間10から発生した気泡11が封止樹脂表面までつながって到達した場合、基板表面の導体パターンやボンディングワイヤーが一般環境にさらされることになり、機械的な衝撃や耐湿性不良により画品質が劣化する問題がある。
【0006】
本発明はかかる課題に対処するためになされたもので、気泡の発生を抑え、優れた画品質を有することのできるサーマルヘッドを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1のサーマルヘッドは、放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつこの溝が前記隙間と連通されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2のサーマルヘッドは、放熱板と、この放熱板上に発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着し、前記基体または前記基板上に配置された駆動用半導体素子と前記発熱抵抗体または前記駆動用回路との電気的接合部とを有機樹脂を用いて封止してなり、かつ前記有機樹脂は前記基体と前記基板とが配置されている隙間上部まで封止してなるサーマルヘッドにおいて、前記基体と前記基板とが配置されている隙間の封止部の下部にあたる部分の放熱板に溝が形成され、この溝が前記基体と前記基板とが配置されている前記放熱板の面以外の他の面に開口端を有し、かつ前記溝を覆って前記放熱板上にガス透過性を有する接着層が形成されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明に係わる放熱板は、熱伝導性に優れ、かつ発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを保持することのできる材料であれば、とくに制限なく使用することができるが、アルミニウムやアルミニウム合金等がとくに好ましい。
【0010】
また、発熱抵抗体を有する基体はセラミック基板、鉄-クロム合金などの金属基板にポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂を塗布した基板、ガラス基板、ほうろう基板などを使用することができる。チョコブレーク方式により分割して製造されることが多いセラミック基板は本発明に適している。
【0011】
駆動用回路基板は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂をガラス繊維に含浸硬化させた積層板、セラミック基板、ポリイミドなどのフィルム等に回路を形成した基板を用いることができる。製造性が容易なエポキシ樹脂などをガラス繊維に含浸硬化させた積層板が好ましい。
【0012】
発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板は、所定の間隔をおいて接着されるが、放熱板上に平行に突き合わせて接着されることが小型化を図る上でとくに好ましい。平行に突き合わせて放熱板に接着した場合においても発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板の接合面が凹凸を有するため両基板間に微小な隙間を生じる。
【0013】
この隙間下部にあたる部分の放熱板に形成され、放熱板の他の面に開口端を有する溝は、隙間に存在する空気などのガスを有機樹脂で封止する際に外部へ逃がすことのできるものであれば、とくにその形状、大きさ等に制限はない。たとえば、発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを平行に突き合わせて放熱板に接着した場合、放熱板の長手方向全長にわたって溝を形成することが好ましい。また、全長が長い放熱板で1本の溝だけでは空気が逃げにくい場合、補助効果の穴や溝を追加形成することにより、確実に空気を逃がすことができる。放熱板に形成される開口端は、少なくとも1個あればよい。溝の断面形状は正方形、長方形、台形、三角形、U字型、V字型等種々の形状をとることができる。また、溝の幅は、基体と基板とを平行に突き合わせた場合の隙間幅以上あることが空気をより十分に逃がすことができるためとくに好ましい。たとえば、突き合わせて放熱板に接着した場合、200μm以上あることが好ましい。さらに、溝の位置は少なくとも隙間下部に位置することが好ましい。
【0014】
本発明に係わる駆動用半導体素子と発熱抵抗体または駆動用回路との電気的接合部は、駆動用半導体素子と発熱抵抗体または駆動用回路とを電気的に接続することのできるものであれば、とくに制限なく使用することができる。具体的にはボンディングワイヤーなどを挙げることができる。
【0015】
本発明に係わる封止用有機樹脂はエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等を使用することができる。
【0016】
本発明の第2のサーマルヘッドは、上述の開口端を有する溝が形成された放熱板上にガス透過性を有する接着層を形成した後、発熱抵抗体を有する基体と駆動用回路基板とを接着する。ここで、ガス透過性を有する接着層は、不織布に接着剤を塗布して両面接着性とした接着層がとくに好ましい。放熱板、封止用有機樹脂、溝の形態等は第1のサーマルヘッドと同じものを使用することができる。
【0017】
なお、放熱板上に形成された溝に沿ってスリットをいれた後基体と基板とを突き合わせて接着して接合することもできる。また、溝に沿ってスリットをいれる場合においてはガス不透過性を有する接着層であっても気泡の発生を抑えることができる。
【0018】
【作用】
発熱抵抗体を有する基体と駆動回路基板との接合部下にあたる部分の放熱板に溝を形成し外界との通気路を設けると、有機樹脂封止工程中に隙間に存在する膨脹した空気は溝部へ逃げることができるため、有機樹脂封止部に気泡が発生しない。 また、ガス透過性を有する接着層を有していると、有機樹脂封止工程中の昇温によって材料粘度が低下しても、有機樹脂は接着層で止まる一方、隙間に存在する膨脹した空気はガス透過性を有する接着層を通じて溝部へ逃げることができるため、有機樹脂封止部に気泡が発生しない。
【0019】
【実施例】
以下具体的に図面を用いて本発明の実施例を説明する。
実施例1
図1は実施例1に係わるサーマルヘッドの断面図を、図2は有機樹脂を塗布した直後のサーマルヘッドの断面図をそれぞれ示す。また、従来例と同一の機能を果たす要素には同一の番号を付している。サーマルヘッドの発熱素子(図示を省略)を有する基体はセラミック基板3であり、半導体素子駆動用回路基板4はガラスエポキシ製積層板である。半導体素子5はセラミック基板3上に配置される場合と駆動用回路基板4上に配置される場合があり、また半導体素子5のワイヤボンディングはセラミック基板3と回路基板4の両方になされる場合とセラミック基板3のみになされる場合がある。図1は半導体素子5がセラミック基板3上に配置され、ワイヤボンディングはセラミック基板3と回路基板4の両方になされる場合の断面図である。なお、サーマルヘッドはB4のサイズに対応する長さとした。
【0020】
セラミック基板3と回路基板4の接合部下部にあたる部分の放熱板1に、長手方向に全長にわたり、溝9を形成する。溝の幅、断面形状については例えば0.5mm×0.5mmの方形とし、放熱板に対する各基板の合体精度より、ずれが最大の場合でも接合部が溝9から外れないようにする。長手方向に全長にわたり、溝9を形成した放熱板1の平面図を図5(a)に、そのA-A断面図を図5(b)に示す。
【0021】
放熱板1に溝9も含めて全面に両面接着テープ7を貼る。この両面接着テープ7は空気を通す性質のものを用いる。本実施例ではレーヨン不織布にアクリル系接着剤を塗布した厚さ160μmの両面接着テープを用いた。両面接着テープ7を貼った放熱板1にセラミック基板3と回路基板4を突き合わせた状態で接着する。
【0022】
つぎにセラミック基板3上に半導体素子5をマウントし、ワイヤボンディングによって電気的接合を行った後、半導体素子5、およびボンディングワイヤ6をエポキシ系有機樹脂セミコート225(信越化学社製の商品名、粘度(B型粘度計、95Pa・s at25℃))8を塗布することによって封止した。このとき各基板の外形寸法ばらつき範囲内で断面寸法がばらつくため基板間には隙間10が存在する。ここにチクソトロピック性を有する有機樹脂8を塗布すると、有機樹脂8が持つ粘度、チクソトロピック性のため基板間の隙間10には有機樹脂8は流れ込まず第2図に示すように両基板3、4と両面接着テープ7で囲まれる部分に空気層ができる。
【0023】
室温より高く、また硬化が加速、促進される温度よりも低い、材料固有の温度領域で、熱硬化型の有機樹脂8は急激に粘度が低下する。そのため熱硬化中に材料がこの温度領域に入った時に有機樹脂8は流れやすくなって、室温では入り込まなかった基板間の隙間10に入り込もうとする。このとき基板間、両面接着テープ7、有機樹脂8により閉じこめられていた隙間10の空気は有機樹脂8の流れ込む圧力によって両面接着テープ7を通り抜け、放熱板1に形成された溝9を伝って外部に逃げることができる。しかし有機樹脂8は両面接着テープ7を通り抜けることは出来ないので図1に示すように基板間にも有機樹脂8が入り込んだ形で硬化させることができる。
【0024】
つぎに、有機樹脂8を120℃、3Hの条件で硬化させ半導体素子5およびボンディングワイヤ6を完全に被覆したサーマルヘッドを得た。得られたサーマルヘッドにおける封止樹脂の気泡発生数を5試料につき測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
比較例1
放熱板1に溝9を設けない以外は実施例1と同一の材料および形状のサーマルヘッドを同一の方法で5試料作製した。得られたサーマルヘッドの気泡発生数を実施例1と同一の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

比較例1に比較して実施例1のサーマルヘッドは封止樹脂に気泡の発生が見られなかった。また、実施例1のサーマルヘッドは表面が滑らかであり、感熱紙の走行にもなんら影響をおよぼさなかった。さらに気泡による凹凸や穴が無いため、突起物等の感圧による黒すじの発生も無く、画品質が向上した。
【0027】
実施例2放熱板1に形成される溝9の形状について説明する。実施例1では放熱板1の長手方向全長にわたって溝9を形成したのみであるが(図5(a)および図5(b))、有機樹脂8の塗布エリアや形状によっては基板間の隙間10の空気をさらに外部へ逃げやすくすることもできる。その例を図6から図8に示す。図6は溝9を中央部のみに形成し、放熱板の裏から空気逃げ用の穴を形成した場合を、図7は基板間下部の溝9に対し、その溝9に交差、あるいはつながる他の溝を形成した場合を、図8は放熱板に段差を形成し、その段差部に溝を形成した場合の例をそれぞれ示す。
【0028】
図6から図8に示す放熱板1を用いて実施例1と同一の方法でサーマルヘッドを作製した。得られたサーマルヘッドの気泡発生数を実施例1と同一の方法で測定した結果、実施例1と同一の値が得られた。このように、中央部のみの溝に加えて補助効果の穴や溝を形成することにより、確実に空気を逃がすことができるようになる。なお、以上の実施例だけでなく、基本となる有機樹脂塗布エリア下の放熱板の溝に接続し、空気逃げをすることのできる開口端を有する穴や溝は実施例1と同様の作用、効果を得ることができる。また以上の実施例を種々組み合わせることもできる。
【0029】
実施例3
実施例1において、放熱板1に溝9も含めて全面に両面接着テープ7を貼った後、開口端を有する溝9の部分のみの両面接着テープ7を除去する。この工程以外は実施例1と同一の材料および形状のサーマルヘッドを同一の方法で作製した。得られたサーマルヘッドの気泡発生数を実施例1と同一の方法で測定した結果、実施例1と同一の良好な結果が得られた。
【0030】
実施例4
実施例1において、放熱板1の開口端を有する溝9の隙間部分を確保して、溝9にかかるように両面接着テープ7を貼った。この工程以外は実施例1と同一の材料および形状のサーマルヘッドを同一の方法で作製した。得られたサーマルヘッドの気泡発生数を実施例1と同一の方法で測定した結果、実施例1と同一の良好な結果が得られた。
【0031】
【発明の効果】
本発明の第1のサーマルヘッドは、平行配置された基体と駆動用回路基板との隙間下部にあたる放熱板に開口端を有する溝が形成されてなるので、半導体素子およびボンディングワイヤを有機樹脂で樹脂封止する場合においても基板間に閉じこめられた空気層を放熱板の溝を伝って逃がすことができる。その結果、基板間からの気泡の発生を抑えることができ、硬化後の封止樹脂表面の凹凸や、穴の発生をなくすことができる。
【0032】
また、本発明の第2のサーマルヘッドは、ガス透過性を有する接着層を溝の上部に有しているので、有機樹脂封止工程中の昇温によって材料粘度が低下しても、有機樹脂は接着層で止まる一方、隙間に存在する膨脹した空気はガス透過性を有する接着層を通じて溝部へ逃げることができる。その結果、基板間からの気泡の発生を抑えることができ、硬化後の封止樹脂表面の凹凸や、穴の発生をなくすことができる。
【0033】
以上の結果、本発明のサーマルヘッドは、その表面が滑らかであり、感熱紙の走行にもなんら影響をおよぼさなかった。さらに突起物等の感圧による黒すじの発生も無く、画品質が向上した。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例1に係わるサーマルヘッドの断面を示す図である。
【図2】
有機樹脂塗布直後の実施例1に係わるサーマルヘッドの断面を示す図である。
【図3】
従来のサーマルヘッドにおいて気泡が発生する模式断面を示す図である。
【図4】
従来のサーマルヘッドの断面を示す図である。
【図5】
溝の形状を示す放熱板の平面およびそのA-A断面を示す図である。
【図6】
溝の形状の一例を示す放熱板の平面およびそのA-A断面を示す図である。
【図7】
溝の形状の一例を示す放熱板の平面およびそのA-A断面を示す図である。
【図8】
溝の形状の一例を示す放熱板の平面およびそのA-A断面を示す図である。
【符号の説明】
1………本発明の放熱板、2………従来の放熱板、3………セラミック基板、4………駆動用回路基板、5………半導体素子、6………ボンディングワイヤ、7………両面接着テープ、8………有機樹脂、9………溝、10………基板間の隙間、11………気泡、12………凹凸。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-24 
出願番号 特願平6-120429
審決分類 P 1 652・ 534- YA (B41J)
P 1 652・ 111- YA (B41J)
P 1 652・ 161- YA (B41J)
P 1 652・ 121- YA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾崎 俊彦  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 谷山 稔男
藤井 靖子
登録日 2003-02-28 
登録番号 特許第3403806号(P3403806)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 サーマルヘッド  
代理人 須山 佐一  
代理人 須山 佐一  
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