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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G06F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
審判 全部申し立て 特174条1項  G06F
審判 全部申し立て 発明同一  G06F
審判 全部申し立て 1項1号公知  G06F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G06F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06F
管理番号 1122849
異議申立番号 異議2003-71359  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-26 
確定日 2005-06-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3349693号「デジタル部品の作製方法およびそのデジタル部品を記録した読み取り可能な記録媒体」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3349693号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3349693号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る発明についての出願は、平成12年5月30日(優先権主張平成11年12月15日)に特許出願されたもので、平成14年9月13日にその発明について特許の設定登録がなされた後、その特許について、異議申立人梅村和裕、オートデスク株式会社(外6名)、田村皓治、吉田春男、社団法人日本フルードパワー工業会及び富士通株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月20日に訂正請求がなされたものである。

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項a
本件特許明細書の特許請求の範囲を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】 三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、 該ボルトのデータが三次元CAD画面上で表示される該ボルト全体の形状と大きさ、前記ねじ部であるとの表示および該ねじ部の直径と長さ、および前記軸部の直径と長さからなるデータと、
前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータとを組み合わせて作製され、
前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される、簡易形状として記述されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする、デジタル部品の作製方法。
【請求項2】 三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データが配管継手であり、該配管継手が簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする、デジタル部品の作製方法。
【請求項3】 三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データがベアリングであり、該ベアリングが内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする、デジタル部品の作製方法。
【請求項4】 前記簡易形状部分を色分けすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載のデジタル部品の作製方法。
【請求項5】 前記デジタル部品に公差が定められている部分は、その公差の最大許容値と最小許容値の中間値を用いて作製することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のデジタル部品の作製方法。
【請求項6】 三次元CADシステム上で取り扱われるデジタル部品データを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記デジタル部品データは、請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載のデジタル部品データであることを特徴とする記録媒体。」
(2)訂正事項b
本件特許明細書の段落0005、0007、0016、0017及び0048を削除し、0010〜0015を添付の訂正明細書のとおり訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aのうち請求項1については、訂正前の請求項7(訂正前の請求項6及び同請求項1を引用して記載されている)の「デジタル部品データ」を「デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、該ボルトのデータが三次元CAD画面上で表示される該ボルト全体の形状と大きさ、前記ねじ部であるとの表示および該ねじ部の直径と長さ、および前記軸部の直径と長さからなるデータと、前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータとを組み合わせて作製され」と限定し、訂正前の請求項7の「簡易形状」を「前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される、簡易形状」と限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落0022、0024及び0025の記載からみて、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)訂正事項aのうち請求項2については、訂正前の請求項1の「デジタル部品」を「配管継手」に限定し、訂正前の請求項1の「簡易形状」を「簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述され」に限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落0033の記載からみて、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
なお、訂正前の請求項1に記載されていた「デジタル部品データは、三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素と、実部品を表わす要素との組み合わせとして作製され」に相当するものが請求項2には記載されていないが、請求項2には「デジタル部品データ」は記載されており、このデータはCADシステムにおいて使用される以上、「該部品を取り扱うために必要とされる要素と、実部品を表わす要素との組み合わせとして作製され」ることは自明のことである。そして、訂正前の請求項1に記載されていた「該部品を取り扱うために必要とされる要素および実部品を表わす要素の少なくとも一つの要素が簡易形状として記述され」を「簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述され」と具体的に限定した以上、「該部品を取り扱うために必要とされる要素と、実部品を表わす要素」を明示することは不要となったのであり、これを省いたからといって特許請求の範囲の減縮を目的とするものでなくなるわけではない。
(3)訂正事項aのうち請求項3については、訂正前の請求項1の「デジタル部品」を「ベアリング」に限定し、訂正前の請求項1の「簡易形状」を「内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製し」に限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落0037の記載からみて、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)訂正事項aのうち請求項4については、上記(1)ないし(3)で記したように特許請求の範囲を限定したそれぞれの請求項を更に限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落0024の記載からみて、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(5)訂正事項aのうち請求項5については、訂正前の請求項4を上記(1)ないし(4)で記したように限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(6)訂正事項aのうち請求項6については、訂正前の請求項8を上記(1)ないし(5)で記したように限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(7) 訂正事項bは、訂正事項aにおいて訂正された記載との整合をとるために発明の詳細な説明の記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.申立ての理由の概要
(1)異議申立人梅村和裕の主張の概要
本件請求項1ないし8に係る特許発明は、記載が不明瞭であり、また発明の詳細な説明に記載されていない事項を含んでいるので特許法第36条第4項又は第6項の規定により特許を受けることができないものである。また、本件請求項1は、新規事項を含んでいるので、特許法第17条の2第3項に違反するものである。また、本件請求項1ないし8に係る特許発明は、本来発明でないものであり、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができないものである。また、本件請求項1ないし8に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明、及びそれらに記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項及び第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件請求項1ないし8に係る特許発明は、特許法第113条第1号、第2号及び第4号の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議申立人オートデスク株式会社(外6名)の主張の概要
請求項1ないし8に係る特許発明は特許法上の発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書きの規定により特許を受けることができないものであり、いずれの請求項に係る特許も、特許法第113号第1項第2号の規定により取り消すべきものである。また、たとえ特許法上の発明に該当するとしても、いずれも、甲第1号証ないし甲第8号証並びに検甲第1号証及び検甲第2号証により証明される先行技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、いずれの請求項に係る特許も、特許法第113号第1項第2号の規定により取り消すべきものである。また、本件明細書の記載には不備があり、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであることから、請求項1〜8に係る特許は、いずれも特許法第113条第1項第4号の規定により取り消すべきものである。さらに、請求項1〜8に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであることから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第113条第1項第1号の規定により取り消すべきものである。
(3)異議申立人田村皓治の主張の概要
本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に不備があり、請求項1〜8に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号、同頃第1号、及び第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。また、本件特許の請求項1〜3及び6〜8に係る発明は、産業上利用することができる発明ではないから、請求項1〜3及び6〜8に係る発明の特許は特許法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。さらに、本件特許の請求項1〜4及び8に係る発明は、特許出願前に当業者が特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと認められるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。さらにまた、本件特許の請求項1〜3及び8に係る発明は、その特許出願の日前の他の特許出願であってその特許出願後に出願公開がされたものの当初明細書に記載された発明と同一であると認められるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(4)異議申立人吉田春男の主張の概要
請求項1、2、3及び8に係る各特許発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2項の規定により取り消すべきものである。
(5)異議申立人社団法人日本フルードパワー工業会の主張の概要
請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2項の規定により取り消すべきものである。
(6)異議申立人富士通株式会社の主張の概要
本件請求項1乃至8に係る各特許発明は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された従来例と同じものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。また、本件請求項1ないし8に係る各特許発明は、特許法第29条第1項柱書きの要件を満たしておらず特許を受けることができないのもであり、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。更に、本件請求項1乃至8に係る各特許発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」などという。)は、前述のとおり訂正が認められたので、平成16年7月20日付け訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2の1.(1)訂正事項a参照。)

3.刊行物及び先願明細書
各異議申立人が提示した刊行物及び他の特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には以下のような発明が記載されている。
(1)刊行物1:NIKKEI COMPUTER GRAPHICS 1993年12月号、60-74頁(梅村和裕の提出した甲第1号証)
「三次元CADシステムにおいて、拘束条件を満たすように3次元形状を自動的に変形すること。」
(2)刊行物2:型技術、第10巻、第10号、1995年10月号、40〜45頁(同甲第2号証)
「三次元CADシステムにおいて、実際に加工する穴形状のみ作成し部品そのものはデータ化しないこと。」
(3)刊行物3:Computer Aided Design report、Vol.8 No.3、1997年3月、P2〜23(同甲第3号証)
「ソリッドモデルを用いるCADシステムにおいて、部品の簡略化した表現作成を自動化すべきであること。」
(4)刊行物4:Pro/ENGINEERの基礎から応用、平成11年5月14日、株式会社山海堂、32〜33頁(同甲第4号証)
「三次元CADシステムにおいて、ボルトやナットのねじ山や谷の形状を3次元で表示することはなく、ワイヤーフレーム表示では、ねじの外形と他に罫線が2本のマゼンダ色で明確に表示されること。」
(5)引用例5:Pro/ENGINEER BASIC LIBRARY Catalog 1989-1994、8-1頁(同甲第5号証)
「基本的ライブラリとして、各種規格のボルト」
(6)刊行物6:日経メカニカル別冊、デジタルファクトリ、101〜107頁、1996年(同甲第6号証)
「三次元CADシステムにおいて、ソリッドモデラのデータを用いること。」
(7)刊行物7:特開平7-105271号公報(同甲第7号証、田村皓治の提出した甲第4号証及び日本フルードパワー工業会の提出した甲第7号証)
「CADデータを寸法公差処理パターンで修正すること。」
(8)刊行物8:「Mechanical Desktop R3 Genius+ソリッドモデリング Gnius Desktop 3 新機能習得コース」、1999年2月、オートデスク株式会社発行、0-2〜0-5、1-1〜1-2、3-88、5-8〜5-14(オートデスク株式会社(外6名)の提出した甲第1号証)
「三次元CADシステムにおいて、ボルトを簡易形状で表現すること」及び「寸法許容差を指定すること。」
(9)刊行物9:太田幹郎著、「機械系学生・技術者のための3次元CAD(Comuter Aided Geqmetric Design)Pro/ENGINEERの基礎から応用へ」、平成11年5月14日、株式会社山海堂、91頁(同甲第3号証)
「三次元CADシステムにおいて、ボルトやナットのねじ山や谷の形状を3次元で表現することはなく、ねじの外径や谷径のラインはマゼンダ色の線で表現できること。」
(10)刊行物10:日経デジタル・エンジニアリング2000年4月号、2000年3月15日、日経BP社、48頁(同甲第8号証)
「3次元CADデジタルJIS部品において、工具やボルトの径はそれぞれの部品に刻印してあり、目視で確認できること。」
(11)刊行物11:特開平4-123267号公報(田村皓治の提出した甲第1号証)
「CADシステムにおいて、歯車を2つの外形線とその間に平行に書かれた多数の線分とで表現すること。」
(12)刊行物12:特開平6-215079号公報(同甲第2号証)
「CADなどの図形作成において、歯車を歯車の外形を構成する楕円と底面を構成する楕円弧及び線分で表示する。」
(13)刊行物13:特開平6-342458号公報(同甲第3号証)
「三次元CADシステムにおいて、オブジェクトのワイヤ・フレームとともにデータム・プレーンを表示すること。」
(14)刊行物14:日経デジタルエンジニアリング 1999年11月号、43頁(吉田春男の提出した甲第1号証)
「3次元CADデジタルJIS部品のモデルデータの例としてCAD上での使い勝手を考慮し、データ作成時になるべくデータ容量が軽くなるようにモデリングすること。」
(15)刊行物15:日経デジタルエンジニアリング 1999年7月号、66頁(同甲第2号証)
「三次元CADを使っていく上で、データ量が大きくなるとデータの読み出しや計算に時間がかかること。」
(16)刊行物16:Pro/ENGINEER Assembly Modeling User’s Guide 日本語版、4-1〜4-15、5-1〜5-14(同甲第3号証)
「三次元CADシステムにおいて、部品を簡略表示すること」
(17)刊行物17:特開平4-310178号公報(日本フルードパワー工業会の提出した甲第1号証)
「CADシステムにおいて、ねじ部品の形状を表現する際に、ねじ溝の部分を簡易形状で表示すること。」
(18)刊行物18:特開平10-124559号公報(同甲第2号証)
「CAD図面の簡略表示方法において、ねじ部が実線で表示されあるいはねじ部のみ抹消されること。」
(19)刊行物19:機械設計、第43巻第17号(1999年12月臨時増刊号)、4頁〜5頁(同甲第3号証)
「3次元CADがコンピュータを使うやり方の点では2次元CADと同じであること。」
(20)刊行物20:特開平10-27269号公報(同甲第4号証)
「三次元CADシステムのモデリング方法において、ボルトのねじ部を簡易形状で表示すること」
(21)刊行物21:特開平11-45352号公報(同甲第5号証)
「三次元ソリッドモデリング方法において、雨樋の軒継手の三次元ソリッドモデリングのための形状創成手順の実行過程で得られる中間形状を利用すること。」
(22)刊行物22:特開平10-240786号公報(同甲第6号証)
「三次元CADシステムの部品データ登録方法において、エジェクタピンをソリッドベースの部品データとして登録すること。」
先願明細書1: 特願平10-309814号(特開2000-137829号公報参照)(田村皓治の提出した甲第5号証)
「3次元CADシステムにおいて、筐体を3次元ソリッドモデルで入力し、同じ穴が多数ある場合はそのうちの1個のみ正確に形状表現できる3次元ソリッドモデルで表現し、残りの多数の穴はデータ容量の小さいテクスチャマッピングにより表現すること。」
先願明細書2: 特願平11-7447号(特開2000-207436号公報参照)(同甲第6号証)
「3次元CADシステムの制御方法及びその記憶媒体において、モデルにおいて指定する特定のポイントの属性をモデルに一括して表示すること。」

4.公知発明
異議申立人オートデスク株式会社(外6名)の提出した検甲第1号証(「Mechanical Desktop R3 Genius+」パッケージソフトウエア製品)及び同甲第2号証(日経デジタル・エンジニアリング、1998年10月号、1998年9月15日、日経BP社)によれば、3次元CADソフトウエア製品である「Mechanical Desktop R3 Genius+」が1998年の9月頃に発売され、そのアップデートキットが1998年10月頃に送付されたものと認められるから、同ソフトウエア製品に実現されている発明は、遅くとも本件特許についての出願の優先権主張日である平成11年12月15日までには公知であったと認められる。
そして、検甲第1号証によれば、同ソフトウエア製品には以下の発明が実現されている。
「三次元CADシステムにおいて、デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝が記述されていること。」(以下、「公知発明」という。)
なお、同異議申立人は、「V字型の溝の幅は、いずれもねじピッチの61.5%とされていることがわかる」(同異議申立人の特許異議申立書14頁19〜20行)と主張している。しかし、溝幅によりねじピッチを表すとすれば両者の寸法を同一とするのが自然であるし、また、M8のねじの場合は両者の割合は0.77÷1.25=61.6%であるのに対し、M10のねじの場合は両者の割合は0.92÷1.5=61.3%とばらばらでしかも半端な値であり、溝幅がねじピッチを表すものとは認められない。(同検甲第1号証及び同甲第10号証(「JISハンドブック 4 ねじ 2001」、2001年1月31日、財団法人日本規格協会、784〜789頁)による。)
また、同異議申立人は、検甲第2号証(「JIS部品3次元モデリングセミナー」CD-ROM、2000年10月25日、長岩昭人著、日経BP社)、甲第4号証(日経デジタル・エンジニアリングによる広告主向け媒体資料、1999年版、9,10,12頁)、甲第5号証(2000年5月19日に日経BP社から発信された電子メールニュース(NO.516)の写し)、甲第6号証(2000年5月24日に日経BP社から発信された電子メールニュース(NO.519)の写し)及び甲第7号証(2000年5月31日に日経BP社から発信された電子メールニュース(NO.524)の写し)を提出して、上記CD-ROMに格納された「(1)モデリング時の視点を考慮した基準軸例1」及び「(2)モデリング時の視点を考えない基準軸例1」の「深溝玉軸受けの玉部分をチューブ状に作成したものを表す画像」が、遅くとも本件特許についての出願の現実の出願日である平成12年5月30日までに、インターネット上で公開された旨(同異議申立人の特許異議申立書15頁17行〜17頁4行)主張している。
しかし、前後の文脈を見ると、同画像は「組立図などに挿入した時のモデルへの視点を考慮したモデリングを心がける。(中略)3次元CADによるモデリングは、配置や向きを自由に変化させることができるが、(中略)視点を考慮してモデリングすることをここでは強調したい。」及び「3次元の場合も2次元と同様に視点を考え、軸を設定する。」という文脈の中で理解すべきであるから、同画像は視点を考えた軸の設定の説明のための図にすぎない。してみると、玉部分を簡易形状のチューブ状に作成しデータ化することや簡易形状として三次元CAD画面上に表示することが記述されているとは認められない。
なお、同CD-ROMの後の方に「1-6データ容量を考慮したモデリング(軸受編)」が格納されており、この部分は「深溝玉軸受けの玉部分をチューブ状に簡略形状でモデリングすること」を記述したものと認められるが、この部分が上記出願日までに公開されたことの証明はない。

5.各刊行物及び先願明細書記載の発明並びに公知発明との対比及び判断
(1)本件特許発明1について
本件特許発明と公知発明とを対比すると、前者においては「前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される、簡易形状として記述されて」いるのに対し、後者においては円周状に形成した溝がねじ山のピッチ、高さ及び条数を表すものではない点で相違する。(上記4.参照)
そして、円周状に形成した溝がねじ山のピッチ、高さ及び条数を表すことについて、刊行物1ないし24並びに先願明細書1及び2のいずれにも記載されておらず示唆もされていない。
特に、「簡易形状」として円周状に形成した溝を採用する際に、更にその数によってねじ山の条数を表すことは、円周状に形成した溝の数を増やすことにより複雑化するものであるから、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件特許発明1は公知発明、刊行物1ないし24に記載された発明ではなく、同発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、先願明細書1及び2に記載された発明と同一とも認められないから、本件特許発明1について特許法第29条又は第29条の2の規定に違反してされたと認めることはできない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と公知発明とを対比すると、前者においては「配管継手が簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述されて」いるのに対し、後者においては配管継手が簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有さずねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述されていない点で相違する。
そして、ねじがねじ込まれる基準位置を溝で記述することについて、刊行物1ないし24並びに先願明細書1及び2のいずれにも記載されておらず示唆もされていない。
よって、本件特許発明2は公知発明、刊行物1ないし24に記載された発明ではなく、同発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、先願明細書1及び2に記載された発明と同一とも認められないから、本件特許発明2について特許法第29条又は第29条の2の規定に違反してされたと認めることはできない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3及び特許明細書の段落0034ないし0038は、優先権主張の基礎となる出願(特願平11-355536号)の出願当初の明細書又は図面に記載されていないから、本件特許発明3については現実の出願日が特許法第29条等の適用における基準日となる。
本件特許発明3と公知発明とを対比すると、前者においては「ベアリングが内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化されており、三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なう」のに対し、後者においてはベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化することもそのデータを読み出し三次元CAD画面上に表示する処理を行うこともない点で相違する。
そして、ベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化し三次元CAD画面上に表示することについて、刊行物1ないし24並びに先願明細書1及び2のいずれにも記載されておらず示唆もされていない。
よって、本件特許発明3は公知発明、刊行物1ないし24に記載された発明ではなく、同発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、また、先願明細書1及び2に記載された発明と同一とも認められないから、本件特許発明3について特許法第29条又は第29条の2の規定に違反してされたと認めることはできない。

(4)本件特許発明4ないし6について
本件特許発明4ないし6は、本件特許発明1ないし3をさらに限定しあるいはカテゴリーを物の発明(記憶媒体)にしたものであるから、上記(1)ないし(3)と同様の理由で、本件特許発明4ないし6について特許法第29条及び第29条の2の規定に違反してされたと認めることはできない。

6.発明の成立性についての判断
本件特許発明1ないし6はいずれも、三次元CADシステムを前提とし、「デジタル部品が実部品形状の位置を簡易形状として記載するので、デジタル部品を作製するのに必要とされるメモリー容量を少なくすることができる」(特許明細書段落0045)ものであり、「メモリー」というハードウエア資源を有効に利用するものであるから、自然法則を利用しているといえる。また、CADシステムが製造業に用いられることは明らかであるから、本件特許発明1ないし6は産業上利用できるものである。
したがって、本件特許発明1ないし6について特許法第29条第1項柱書きの規定に違反してされたと認めることはできない。
なお、異議申立人オートデスク株式会社(外6名)は甲第9号証(長岩昭人とJIS/CAD開発チーム著、「これが3Dルールブックだ」、平成13年3月15日、未来望出版発行、「はじめに」、46〜47、50〜53、76〜77頁)及び検甲2号証(上記4.参照)を提出して、特許請求の範囲に記載されたものは人為的取り決めにすぎない旨主張(同人の特許異議申立書19頁7〜21行)しているが、上述のように本件特許発明1ないし6が自然法則を利用するものである以上、単なる人為的取り決めであるとは認められないし、また、同証拠方法の作成者が特許法上の「発明」かどうかを考慮して「ルール」や「約束事」と記述しているとはとうてい認められないから、同証拠方法は本件特許発明1ないし6が「発明」かどうかとは関連性がないものである。

7.新規事項の追加についての判断
異議申立人梅村和裕の主張する「通信インターフェース」及び異議申立人オートデスク株式会社(外6名)の主張する「三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素及び実部品を表す要素の少なくとも一つの要素が簡易形状として記述され」が新規事項に該当するという主張は訂正により解消した。
また、異議申立人オートデスク株式会社(外6名)の主張するように「簡易形状として記述され」は出願当初の明細書又は図面には記載されていないが、同明細書には「簡易形状として記載」とは記載されていたのであり、語感の関係上「記載」を「記述」とすることは同明細書の記載の範囲内においてしたものといえる。

8.特許請求の範囲及び明細書の記載不備についての判断
以下、特許明細書の範囲及び明細書の記載不備について、異議申立人梅村和裕、オートデスク株式会社(外6名)及び田村皓治の主張を、それぞれ検討する。
(1)異議申立人梅村和裕の主張(同人の特許異議申立書6頁26行〜13頁6行)について
ア 「通信インターフェース」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
イ 「供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法」については、供給されて使用されることを前提としたデジタル部品データの作成方法という意味であるから、これが不明とする同人の主張は失当である。
ウ 「作製」とは「作成」の意であることは明らかであるから、これを有体物の作製と決めつけている同人の主張はその前提において失当である。
エ 「前記デジタル部品データは、三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素と、実部品を表わす要素との組み合わせとして作製され」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
オ 「三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素および実部品を表わす要素の少なくとも一つの要素が簡易形状として記述」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
カ 同人は「デジタル部品の作製方法」に直接関係するのは「三次元CADシステムは、・・・デジタル部品を表示する処理を行う」だけであると主張するが、請求項1では「前記デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、該ボルトのデータが三次元CAD画面上で表示される該ボルト全体の形状と大きさ、前記ねじ部であるとの表示および該ねじ部の直径と長さ、および前記軸部の直径と長さからなるデータと、前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータとを組み合わせて作製され、前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される、簡易形状として記述されて」という記載が、請求項2では「前記デジタル部品データが配管継手であり、該配管継手が簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述されており」という記載が、請求項3では「前記デジタル部品データがベアリングであり、該ベアリングが内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化されており」という記載が、それぞれ「作製方法」の内容を特定しているから、同人の主張はその前提において失当である。
キ 「簡易形状として記述された情報」については、前記カで摘記したように特定されているから、同人の主張は失当である。
ク どこからデジタル部品データを読み出すかについては、三次元CADシステムがコンピュータシステムを前提としていることが当業者にとって自明である以上、コンピュータシステムの技術常識により当業者が適宜選択すべきことであり、これが特定されていないからといって記載不備と認めることはできない。
ケ 「前記三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素および実部品を表わす要素の少なくとも一つの要素が前記デジタル部品の内部構造である」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
コ 「実部品を表わす要素が前記デジタル部品の表面に刻印されている」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
サ 「デジタル部品に公差が定められている部分は、その公差の最大許容値と最小許容値の中間値を用いて作製する」について、「作製」を実在の部品の「作製」と解すべきでないことは、上記ウで記したとおりであるから、同人の主張は失当である。
シ 「前記デジタル部品の体積に現実の部品を構成する材料の密度の値を乗じたときに現実の部品の重量となるように該デジタル部品の内部に空間部を設ける」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
ス 「三次元CADシステム上で該ボルトを取り扱うために必要とされる要素を簡易表示された実部品形状の一部に溝形状として表示」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
セ 同人は「記憶媒体が単なるデータを格納するものであり、技術範囲が不明である」と主張するが、請求項6は請求項1ないし6を引用して記載しており、同請求項に記載された「デジタル部品データ」は単なるデータでなく特定のデータであるから、技術範囲が不明とする同人の主張は根拠がない。

(2)異議申立人オートデスク株式会社(外6名)の主張(同人の特許異議申立書19頁22行〜20頁24行)について
ア 「三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素および実部品を表わす要素の少なくとも一つの要素が簡易形状として記述され」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
イ 「内部構造」は請求項3において、「内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製し」と特定されているから、不明確ということはできない。
ウ 「刻印」を含む訂正前の請求項3は、削除されたから、同人の主張はその前提において失当である。
エ 「内部」を含む訂正前の請求項5は、削除されたから、同人の主張はその前提において失当である。
オ 「三次元CADシステム上で該ボルトを取り扱うために必要とされる要素を簡易表示された実部品形状の一部に溝形状として表示すること」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。

(3)異議申立人田村皓治の主張(同人の特許異議申立書9頁23行〜15頁27行)について
ア 「デジタル部品データは、三次元CADシステム上で該部品を取り扱うため
に必要とされる要素と、実部品を表わす要素との組み合わせとして作製され」は、いずれの請求項にも記載されていないから、同人の主張はその前提において失当である。
イ CADシステムにおいては「デジタル部品」がデータとして存在し扱われることが自明であるから、「デジタル部品」と「デジタル部品データ」が混在していても不明確ということはできない。
ウ 訂正前の請求項8は請求項6に訂正され、その前提部「・・・デジタル部品データを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって」と末尾の「記録媒体」は一致しているから、これを不明確ということはできない。
エ 請求項1では「前記デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、該ボルトのデータが三次元CAD画面上で表示される該ボルト全体の形状と大きさ、前記ねじ部であるとの表示および該ねじ部の直径と長さ、および前記軸部の直径と長さからなるデータと、前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータとを組み合わせて作製され、前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される、簡易形状として記述され」と作製方法の内容が特定されているから、デジタル部品の作製方法を内容とするものではないとする同人の主張は失当である。
オ 「三次元CADシステム上で該部品を取り扱うために必要とされる要素」及び「実部品を表わす要素」は、いずれの請求項にも記載されていないから、これらと発明の詳細な説明の記載と対応していない、あるいはこの点について発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されていないとする同人の主張は、その前提において失当である。
また、請求項1の「簡易形状」は特許明細書段落0022ないし0025に、請求項2の「簡易形状」は特許明細書段落0033に、請求項3の「簡易形状」は特許明細書段落0037にそれぞれ対応することは明らかである。
(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立てのいずれの理由によっても、本件特許が特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたと認めることはできない。

9.異議申立人富士通株式会社の主張について
同人の主張を、同人の提出した、甲第1号証(特開平6-103339号公報)、甲第2号証(CoCreate/SolidDesigner コンセプトガイド、1998年5月、3-5、3-7、3-9、3-11頁)、甲第3号証(特開平7-105271号公報)、甲第4号証(コンピュータ設計・製図 CADの実際II 監修 岩田一明、発行所 共立出版株式会社、87頁)、甲第5号証(特開平11-345256号公報)及び甲第6号証(日経デジタル・エンジニアリング 1999年11月号 日経BS社 1999年10月15日発行、43頁)とともに検討しても、上記5.6.8.と同様の理由により、本件特許発明1ないし6についての特許を取り消すことはできない。

10.結論
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件特許発明1ないし6についての特許を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
デジタル部品の作製方法およびそのデジタル部品を記録した読み取り可能な記録媒体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、
該ボルトのデータが三次元CAD画面上で表示される該ボルト全体の形状と大きさ、前記ねじ部であるとの表示および該ねじ部の直径と長さ、および前記軸部の直径と長さからなるデータと、
前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータとを組み合わせて作製され、
前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される、簡易形状として記述されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする、デジタル部品の作製方法。
【請求項2】三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データが配管継手であり、該配管継手が簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする、デジタル部品の作製方法。
【請求項3】三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データがベアリングであり、該ベアリングが内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする、デジタル部品の作製方法。
【請求項4】前記簡易形状部分を色分けすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載のデジタル部品の作製方法。
【請求項5】前記デジタル部品に公差が定められている部分は、その公差の最大許容値と最小許容値の中間値を用いて作製することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のデジタル部品の作製方法。
【請求項6】三次元CADシステム上で取り扱われるデジタル部品データを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記デジタル部品データは、請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載のデジタル部品データであることを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、三次元デジタル画面上で取り扱われるデジタル部品の作製方法およびそのダジタル部品を記録した読み取り可能な記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
三次元CAD(Computer Aided Design)システムにより、コンピーター内に形成された仮想的な三次元空間内にて、製品設計、金型設計、設備設計、製品のモデリング、生産シミュレーションを行なうことがなされている。例えば、開発の分野において、従来のシーケンスエンジニアリング(順序だてた製造過程)からコンカレントエンジニアリング(各部署同時製造)に移行するために、三次元CADシステム内での製品試作・モデリングが必須となってきている。
従来、三次元CADシステム内で用いるためのデジタル表示される部品、すなわちデジタル部品は、実際の部品にできるだけ近似させたバーチャルデータとして作製されていた。
従来のデジタル部品の一例としてボルトの例を図6に示す。図6は、デジタル部品として提供される六角穴付きボルト15をプリントアウトした図である。ボルト15は、ねじ部16、軸部17および頭部18とが一体成形されて、ナットまたはねじ穴にねじ部16をねじ込んで機械部品などを締結する機能を有する機械要素であり、デジタル部品として提供される場合は、ボルトを表示する各部のデータがボルトのファイルとしてメモリー領域に格納されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば、実際の部品にできるだけ近似させたバーチャルデータとしてのボルトを、三次元CADシステム内で行なう製品試作・モデリングに用いようとすると、ボルト一つのデータ容量が多くなりすぎ、仮想的な三次元空間内で使い勝手が悪くなるという問題がある。例えば、ソフト間での互換性がなくなり、ISO(国際標準化機構)で開発中のSTEP(ISO10303)、三次元CADデータの標準といえる米国規格協会(ANSI)が制定した中間フォーマットの一つであるIGESを使用している三次元CADソフト間で正常に動作しなくなるという問題がある。
【0004】
また、日本工業規格(JIS)として制定されているボルトやナット類を、その規定されている形状、寸法に基づいてデジタル部品として製品設計やモデルシミュレーションに用いようとすると、ボルトやナット類をモデリングするために標準化されている全てのボルトやナット類のデータを登録しておかなければならなくなる。データ容量が多くなりすぎると画面の切替えが極端に遅くなったり、格納に長時間かかるなど、事実上三次元CADシステム内に直接取り込むことができないという問題がある。
【0005】
削除
【0006】
デジタル部品の中には、バーチャルデータとしては同一となるが、その部品の主機能が内部構造に含まれているものがある。例えば、ベアリングには深溝玉軸受、ころ軸受、アンギュラ軸受、針状ころ軸受などの種類があるが、バーチャルデータとしては区別がつかない。二次元のCADシステム内では、ベアリングは断面または記号化して使用されていたため区別できていたが、三次元CADシステム内で行なう製品試作・モデリングに用いようとすると、単なる三次元化では種類の区別がつかないという問題がある。
【0007】
削除
【0008】
デジタル部品は、そのデータを用いて実際の部品加工を行なうことができる。しかし、その場合、バーチャルデータとしてのデジタル部品の寸法をそのまま使用すると、その部品に公差がある場合、標準寸法でデジタル部品がモデリングされていると、機械加工時に必然的に発生する機械的な加工による誤差を吸収できないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、三次元CADシステム内での使い勝手に優れ、かつ製品設計やモデルシミュレーションにおいてデジタル部品として必要十分な性能を備え、実際の部品加工を行なうのにも適したデジタル部品の作製方法およびそのデジタル部品を記録した読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データが、ねじ部と軸部と頭部とからなるボルトのデータであり、該ボルトのデータが三次元CAD画面上で表示される該ボルト全体の形状と大きさ、前記ねじ部であるとの表示および該ねじ部の直径と長さ、および前記軸部の直径と長さからなるデータと、前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータとを組み合わせて作製され、
前記ねじ部のねじ山のピッチ、ねじ山の高さ、およびねじ山の条数からなるデータは、前記ねじ部と前記軸部との境界に円周状に形成した溝の溝幅の長さの大小により前記ねじ山のピッチが、前記溝の深さにより前記ねじ山の高さが、前記溝の数により前記ねじ山の条数が表される簡易形状として記述されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、前記デジタル部品データが配管継手であり、該配管継手が簡易形状として記載されるテーパー雄ねじもしくは雌ねじ部を有し、該ねじがねじ込まれる基準位置が溝で記述されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、三次元CADシステムにおいて、外部記憶装置あるいはコンピュータを介する通信、によって供給されて使用される、デジタル部品データの作製方法であって、
前記デジタル部品データがベアリングであり、該ベアリングが内部構造となるベアリングの転動体部分を簡易形状のチューブ状に作製しデータ化されており、
三次元CADシステムは、該デジタル部品データを読み出し、簡易形状として記述された情報に基づいて三次元CAD画面上に該デジタル部品を表示する処理を行なうことを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1、請求項2または請求項3に記載のデジタル部品の作製方法において、前記簡易形状部分を色分けすることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のデジタル部品の作製方法において、前記デジタル部品に公差が定められている部分は、その公差の最大許容直と最小許容直の中間値を用いて作製することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、三次元CADシステム上で取り扱われるデジタル部品データを格納したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記デジタル部品データは、請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載のデジタル部品データであることを特徴とする。
【0016】
削除
【0017】
削除
【0018】
本発明において、デジタル部品とは、三次元CADシステム内で用いるために、バーチャルデータ化されて三次元CAD画面上で三次元物体として表示される部品をいう。
また、三次元CAD画面上でデジタル部品を取り扱うときに必要とされる要素とは、製品設計やモデルシミュレーションを三次元CADシステムを用いて行なう際に、その三次元CADシステムが有するアッセンブリ機能、干渉機能等を利用して部品同士を処理する手段、例えば、部品同士を加える演算や差し引く演算等を行なうために必要とされる要素をいい、実部品を表わす要素とは、現実の部品を表わす形状、公差、材質、表面粗さ等をいう。
また、本発明において、実部品形状とは現実の部品の寸法・形状を忠実にバーチャルデータ化した形状をいい、簡易形状とは実部品形状を直線、曲線等で単純化した形状をいい、単純化されたバーチャルデータとは、実部品等を表わす要素を所定の約束事により単純化して簡易表示した形状をいう。
【0019】
三次元CAD画面上でデジタル部品を取り扱う場合、例えばボルトを用いて機械部品を締結する場合、図6において必要なデータはねじ部16の直径、長さ、軸部17の直径、長さが最も重要なデータであり、ねじ部16に形成されているねじ山のピッチ、ねじの形状等は必ずしも必要でない。このように、三次元CAD画面上では、現実の部品と全て同じ形状を示すバーチャルデータ化は必要なく、むしろ種々の弊害が生じる。例えば、上記ボルトの場合、ねじの形状等がバーチャルデータ化において最もメモリーを使う部分であるが、三次元CAD画面上では無視される部分である。
【0020】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、三次元CAD画面上で該部品を取り扱うために必要とされる要素を単純化されたバーチャルデータとして記載することにより、あるいは、実部品形状の一部を簡易形状として組み合わせて記載することにより、デジタル部品のメモリー容量を減らし、またSTEPやIGESを使用している三次元CADソフト間でデータ変換を容易にできる。さらに、実部品を表わす要素を単純化されたバーチャルデータとして記載することにより、現実の部品におけるバーチャルデータ化では実現困難であった公差や材質等の相違も表現できるようになる。
【0021】
また、これらのデータをフロッピーやMO、CD-ROMなどの記録媒体に記録することにより、三次元CADシステム内での製品試作・モデリングを行なうときの「三次元デジタル部品」を容易に提供できる。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明によるデジタル部品の一例を図1および図2により説明する。図1および図2は三次元CADシステム内でバーチャルデータ、すなわち立体部品として画面表示されるボルトの例を示す斜視図である。
図1において、ボルト1は実部品形状の一部が簡易形状として記載されている。すなわちボルト1は、ねじ部2、軸部3および頭部4より構成されるが、三次元CAD画面上でボルト1を取り扱うときに必要とされる要素は、バーチャルデータとして表示されるボルト1全体の形状とその大きさ、ねじ部2であるとの表示およびその直径と長さ、軸部3の直径と長さである。現実のねじ部2に形成されているねじ山のピッチ、ねじの形状等は仮想空間では必要とされていないため、その一部が省略されてねじ山が直線の簡易形状として表示されている。ねじ部2は簡易形状2aと実部品形状2b、2bとの組み合わせで表現され、簡易形状2aの直径でねじの谷が表現される。この記載方法によりメモリー容量を減らすことができる。
【0023】
図1の形状は、特にCAD画面上での干渉をチェックする時の判断材料として有効である。例えば、ねじ部2の径と同じ径を有する穴にボルト1を挿入すると、実部品形状2bで表されている先端ねじ部と後端ねじ部との間に簡易形状2aで表されている谷径との隙間があるので、干渉チェックで赤色警告される部分は、実部品形状2bのねじ山の頂点部分となる。これにより、干渉チェックにおいても、ねじ部2の部分が明確に判定できる。
【0024】
また、図2において、ボルト1は、実部品形状の一部を簡易形状として記載されている。または、ボルト1は、実部品を表わす要素が単純化されたバーチャルデータとして記載されている。すなわち、ねじ部2全体が簡易形状として記載されている。このような簡易形状の記載は、JIS規格などで採用されている二次元製図における省略製図法に対応させることができる。また、簡易形状部分を色分けすることにより、より明確なバーチャルデータ化ができる。
【0025】
また、現実のねじ部2に形成されているねじ山のピッチ、ねじの形状等は仮想空間では必要とされていないが、現実の部品加工などで必要な要素であるため、これらのデータがバーチャルデータ化されているとNC旋盤で加工する際などのデータとして利用することができ、デジタル部品の応用範囲が広がる。
例えば、ねじ山を直線として表示するのみでなく、ねじ部となる部分を利用して、ねじピッチをねじ部2と軸部3との間に形成した溝5の溝幅の大きさAとして記載することにより、その溝5の大きさAの長さの大小によりねじピッチを記載できる。同様に、溝5の深さによりねじ山の高さBを、溝5の数によりねじ山の条数をそれぞれ記載できる。その他、ねじの種類やねじ山の巻き方向等についても所定の形式を定めることにより記載できる。
【0026】
他の例としては、アイボルト、ねじ込みボルト、またはメートルねじ、管用ねじなどの三角ねじ、角ねじ、台形ねじ、のこ歯ねじ、丸ねじ、電球ねじ等のねじ類一般のねじ部の表記、歯車類の表記、ねじを切るタップ類の先端部の表記、ドライバー先端部の表記を簡易形状とできる。また、製品設計等で必要とされるねじピッチなどを単純化されたバーチャルデータとして記載できる。
【0027】
歯車類の表記について、図7および図8により説明する。図7および図8は、それぞれ本発明方法により作製されるデジタル歯車の斜視図である。
歯車19は、バーチャルデータとして実際の部品形状を忠実に立体化してモデリングしようとすると歯形部分のモデリングだけでもデータ容量が大きくなる。そこで、図7に示すように、歯車19の全周を分割して、円周の一部を実際の形状に忠実にモデリングした部分19aと簡易形状の円形部分19bとして記載する。忠実にモデリングした部分19aを記載するのは、歯車の噛み合いなどの検討を三次元CAD画面上で検証するためである。また、この場合、歯数を歯車19の一部分に刻印する表示部分20を設けることにより、簡易形状とされたために省略された実部品を表わす要素を、具体的な値として視覚的に三次元CAD画面上で利用できる。
【0028】
図8は、より簡略化した歯車21のモデリングを示す図である。歯車21の基本要素である歯の外径D1、基準ピッチ円直径D2、歯底の外径D3をそれぞれ同心円の円弧として表している。また、歯数を刻印する表示部分20を設けている。円弧部分は歯数によりその長さを変化させることができ、またそれぞれの円弧部分の数も少なくとも二か所程度あればデジタル部品としての歯車を少ないデータ容量で記載することができる。図8に示す歯車の場合、歯車同士の噛み合いは基準ピッチ円直径D2同士を合わせるだけで歯車の位置関係を把握することができる。
【0029】
歯数を歯車の一部分に刻印するように、実部品を表わす要素をデジタル部品の表面に刻印することにより、例えば三次元CAD画面に呼び込んだボルトのサイズを確認したいとき、従来のCAD画面上での操作のように、寸法計測手段等をとることなく視覚的に部品の特性を把握することができる。刻印された実部品を表わす要素、例えばボルトの場合、その長さやサイズ、種類等は製品のモデリングや生産シミュレーション等において、常に表面に刻印されているので、多方向からみても正確に読み取ることができる。
【0030】
デジタル部品の表面に刻印される実部品を表わす要素として、仕上げ記号や幾何記号などを挙げることができる。二次元CADにおいては、日本工業規格(JIS)により仕上げ精度を逆三角形で表示することが一般的に行なわれている。しかし、三次元CAD画面上で平面的な逆三角形を表示するのみでは、見る方向によって逆三角形が平面的に見えたりするため、仕上げ精度を表示することができなくなる。デジタル部品に仕上げ記号を刻印することにより、多方向からみても正確に読み取ることができる。この仕上げ記号は、多方向からみても円形にみえるように、20インチ程度の画面において、特に直径2mm程度で、深さが1mm以下の半円球を刻印することが好ましい。この半円球一つが逆三角形一つに該当すると約束することにより、デジタル部品の表面要素を表わすことができる。
【0031】
また、従来の三次元CADシステムにおけるデジタル部品、すなわち現実の部品をバーチャルデータとして表示した部品では、寸法公差が違う部分を表現することができなかったが、図3に示すように、本発明方法により容易に表記できる。図3(a)はデジタル部品としての雌ねじの斜視図、図3(b)はC-C部分拡大断面図をそれぞれ表記した例である。
軸径が同一であっても、用途に応じて寸法公差が違う場合が機械加工では頻繁に生じる。例えば図3(a)における雌ねじにおいて、軸部6は型などに埋め込まれる部分6aと軸受やブッシュなどが取り付けられる部分6bとからなり、これらの部分はそれぞれ寸法公差が異なる。二次元図面表記において、寸法公差の違いは数字等で表示されているが、三次元データにおいて、軸部6aおよび軸部6bを区別して記載しようとすると、一つの軸というより軸部6aと軸部6bとに分離された軸6となってしまう。
本発明においては、図3(a)に示すように、軸部6aと軸部6bとの境界に溝5を設け、この溝5を境にして軸部6aと軸部6bとを色分けすることにより、このデジタル部品の軸寸法公差を容易に表現できる。
また、ねじ部分を図3(b)に示すように、ねじ部の長さ6d、ピッチ6c、谷径6eを単純化されたバーチャルデータとして記載する。これらの寸法をデジタル的に測ることにより、規格集などを見ることなく実部品を表わす要素が分かる。また、NC旋盤にインプットするためのデータとしても利用できる。
【0032】
また、デジタル部品のデータよりNC旋盤等で実際に加工する場合を考慮して、本発明のデジタル部品に寸法公差が定められている部分は、その公差の最大許容値と最小許容値の中間値を用いてデジタル部品をモデリングすることができる。図3(c)は軸の寸法公差の表示方法の一例を示す。図3(c)において、φ15h6の軸6はφ15.000mm〜φ14.989mmが基準であることを示しているが、デジタル部品としては軸径を最大許容値と最小許容値の中間値であるφ14.9945mm(=(15.000-14.989)/2)で作製する。この理由は、デジタル部品の画像データを直接NC旋盤等のデータに読み込むと、実際の機械加工上の誤差が吸収できなくなるためである。例えば、φ15h6の軸6をφ15.000mmで記載しておくと、必ず発生する±0.002mm程度の機械的な加工誤差のため、φ15.001で実際の部品を製造してしまう場合が生じる。しかし本発明のデジタル部品として作製しておくと、加工の誤差が±0.002mm程度発生しても、実際の部品の出来上がりは、φ14.9965mm〜φ14.9925mmとなり寸法公差内での加工が容易にできる。
【0033】
デジタル部品としての配管継手について図4により説明する。図4(a)はデジタルエルボの平面図を、図4(b)は軸方向断面図をそれぞれ示す。デジタルエルボにはテーパー雄ねじ2cとテーパー雌ねじ2dとが両端末に設けられている。これらのテーパーねじは、ねじ部分がテーパーになっているので、現実の部品ではある基準位置以上にはねじが回らなくなる。しかし、三次元CAD画面上では、デジタルエルボは、どこまででもねじ込みが可能となる。
本発明は、この三次元CAD画面上でデジタルエルボを取り扱うために必要とされる基準位置を溝5a、5bで表記する。基準位置が分かることにより、デジタルエルボを用いて連結するときに、どこまでねじ込まれて、どのくらいの長さになるかが分かる。
【0034】
配管継手とともに使用される部品としてパイプ類がある。このパイプ類をデジタル部品として作製する場合の例について、図9により説明する。図9はパイプ類のモデリングを示す図である。パイプ22の径(サイズ)と肉厚(スケジュール)とは、色分けとバーコード23で表示する。例えばパイプ22の径の違いにより黄色、青、赤と色分けする。また、バーコード23部分は無色として、この無色のバーコード23の本数によりパイプ22の肉厚を表わす。例えば、バーコード23の本数が一本ならばスケジュール40、二本ならスケジュール80のように表示する。
【0035】
上記方法でデジタル部品としてのパイプを作製することにより、以下の利点が生じる。パイプは、その中に流れる流体の種類や圧力等により、パイプの厚み(肉厚)を選定して使用されることが実際の工場現場で一般に行なわれている。三次元CADシステムで、パイプ類の配管設計を行なう場合、デジタル部品としてのパイプの肉厚を確認するためには、その都度CADシステムが有する計測操作を利用してパイプの寸法確認を行なわなければならない。しかし、本発明方法でパイプを作製すると、一か所にサイズの異なったパイプが並んでも色分けとバーコードの本数により、その寸法確認が視覚的にできる。
【0036】
三次元CAD画面上取り扱われるデジタル部品の中には、内部構造を主な相違点とする部品がある。そのような例としてベアリング類が挙げられる。ベアリング類は外輪と内輪との間に玉やころなどの転動体が保持されて、ころがり接触により摩擦を軽減するころがり軸受で、転動体の形状、外輪と内輪の形状、荷重の方向などにより種々の種類がある。例えば、深溝玉軸受、アンギュラ軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受等がある。しかし、ベアリング類は実部品であっても外見だけでは区別がつかない場合が多いため、デジタル部品として作製しても内部構造まで判別することは困難である。例えば、深溝玉軸受の直径方向断面を断面図として表示する場合でも、玉の中心の断面と、玉と玉との間の断面では異なった断面図となる。
【0037】
本発明は、上記のように内部構造に主な相違点がある部品をデジタル部品として作製する方法にも適用でき、その一例を図10に示す。図10(a)はデジタルベアリング類を作製する場合の斜視図であり、図10(b)は、その断面図を示す。
ベアリング24は孔開きの円盤状で示され、二つの同心円24a、24bが円盤面に刻印されている。刻印する代わりに、それぞれの同心円で区画される領域を色分けしてもよい。同心円24a、24bは、複数の転動体が外輪および内輪に接する面を示している。また、このベアリング24の直径方向の断面図を作製した場合、転動体の種類に応じて、例えば図10(b)に示す形状となるように、内部構造を作製する。図10(b)は深溝玉軸受の例である。具体的には、内部構造となるベアリングの玉部分をチューブ状に作製しデータ化しておく。ベアリングの玉部分をチューブ状とすることにより、深溝玉軸受を径方向にどの部分を切断しても図10(b)に示す形状となり、外輪の直径D4、外輪が玉に接する内径D5、内輪が玉に接する外径D6、内輪の内径D7を容易に三次元CAD画面上で認識できる。この場合、玉の数は不明となるが、機械設計において、軸受の玉やころがいくつ使用されているかはデジタル部品を取り扱う上で必要ないため、シミュレーション等にも問題が生じない。軸受に必要な要素は外径、内径、および種類である。
【0038】
デジタル部品の重量を上述した方法で部品の表面に刻印しておくこともできるが、他の方法として、このデジタル部品の体積に現実の部品を構成する材料の密度の値を乗じたときに現実の部品の重量となるように内部に空間部を設けることができる。これはデジタル部品であっても現実の部品と同じように重量が必要になる場合があるためである。例えばモータを例にとれば、実際のモータ内部には回転部分があり、コイルがあり、ファンなどの多くの部品で構成されている。このため、モータをデジタル部品として作製し、三次元CADの機能を用いて、その体積に比重を乗じて重量を算出しようとしても、現実の重量から異なったモータ重量が得られてしまう。そこで、本発明においては、あらかじめ、計算された空間部をモータ内部に設けることにより、三次元CADの機能を用いて重量を容易に計算できる。
【0039】
上記方法で記載されたデジタル部品は、実際の部品を用いて現実にモデル等を工場などで組み立てる場合は必須となるが、三次元CADシステムのアッセンブリ機能においては不要となる要素を簡易形状とすることで、メモリー容量を少なくできる。例えば、図2に示すねじの場合は21Kバイトであるが、図6の場合は62Kバイトである。本発明の方法で記載することにより、メモリー容量を約1/3に減らすことができる。メモリー容量が少なくなることにより、記録媒体へ保存する際に必要となる容量を減らすとともに、三次元CADシステム内における画面の切替えや格納に要する時間を短縮できる。
【0040】
また、簡易形状を取り入れたデジタル部品は、三次元CADシステムにおける部品のサイズを変更する場合、例えばボルトの長さを伸ばす場合などに生じる不具合を解消できる。例えば、ねじ部の長さが50mmあるボルトを、パラメトリック機能を用いて70mmに伸ばすと、図6に示す従来のデジタル部品の場合、伸ばされた20mmは軸部と同じ直線状となる現象が生じるため、ねじ部分が正確に生成しない。しかし、本発明によるデジタル部品は、簡易形状部分が伸長するのみであるので、要求どおりの作図ができる。
【0041】
上記デジタル部品は、製品のモデリング用途、シミュレーション用のモデルおよびデジタルモックアップの構成部品用等に用いることができる。
デジタル部品を例示すれば、ボルト、ナット、座金などの機械要素部品、フランジや継手などの配管部品、フランジ弁や油圧シリンダー、モータなど工場を構成するFA機器部品、シャンクやガイドポスト、ガイドブッシュ、パンチなどのプレス型抜き部品、ガイドピンやロケートリング、エジェクターピンなどのプラスチック成形金型部品、フライスやバイトなどの切削工具、スパナーやレンチなどの組み立て工具、フライスやバイトなどの切削工具、等が挙げられる。組み立て工具は実際の組み立て性や作業性の検証に用いるシミュレーション用部品として、切削工具は加工シミュレーション用部品として、それぞれ用いられる。
【0042】
本発明によるデジタル部品は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、例えばCD-ROM、CD-R、フロッピーディスク、ハードディスク、MO、ZIP、DVD、テープ媒体等に記録されて供給される。また、インターネットなどのコンピュータを介する通信によっても供給できる。
記録媒体としては随時書き込みが可能なCD-RがJIS規格改正などに伴って追加することができるため、好ましい媒体である。
また、フロッピーディスクは、殆どのパソコンで利用できる媒体であるので、このフロッピーディスク1枚に1種類の部品を記録させることにより、ボルトやナットなど工具箱と同じ感覚でデジタル仮想空間で使用でき、利用価値が高まる。
【0043】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたデジタル部品は、図5に示すように、三次元CADシステム上で使用される。図5は本発明のデジタル部品が用いられる三次元CADシステムのハードウエア構成図の一例である。
三次元CADシステムは、CADプログラムを統括する主制御部(CPU)7に記憶装置8が接続され、さらに入出力制御部11を介してキーボード、マウスなどの入力装置12、CRTなどの表示装置13、プリンターなどの出力装置14が接続されている。
記憶装置8はCADプログラムおよび必要な内部メモリーが格納された内部記憶装置9と、フロッピーディスク装置やCD-ROM装置などからなる外部記憶装置10とから構成される。
【0044】
本発明によるデジタル部品は、フロッピーディスク装置などの外部記憶装置10を介して三次元CADシステム上で、三次元CAD部品データライブラリーとして使用できる。また、メンテナンスや組み立て検証などのシミュレーションに使用できる。
【0045】
【発明の効果】
本発明に係るデジタル部品の作製方法は、三次元CAD画面上で取り扱われるデジタル部品が実部品形状の一部を簡易形状として記載するので、デジタル部品を作製するに必要とされるメモリー容量を少なくすることができる。その結果、STEPやIGESを使用している三次元CADソフト間でデータ変換を容易にする。
【0046】
また、三次元CAD画面上で該部品を取り扱うために必要とされる要素および実部品を表わす要素の少なくとも一つの要素を、単純化されたバーチャルデータとして記載するので、三次元CAD部品としてデータ化が実現困難であった公差や材質等の相違も表現できるようになる。
【0047】
さらに、上記を組み合わせるので、三次元CADシステム内での使い勝手に優れ、かつ製品設計やモデルシミュレーションにおいてデジタル部品として必要十分な性能を備える。
【0048】
削除
【0049】
また、該デジタル部品に公差が定められている部分は、その公差の最大許容値と最小許容値の中間値を用いて作製するので、デジタル部品のデータを用いることにより加工の誤差を吸収でき、実際の加工データとして利用できる。
【0050】
本発明に係るデジタル部品を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、該デジタル部品を上記方法で記録するので、三次元CADシステム内での製品試作・モデリングを行なうときの三次元デジタル部品を容易に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
三次元CADシステム内で画面表示されるボルトの斜視図である。
【図2】
三次元CADシステム内で画面表示される他のボルトの斜視図である。
【図3】
デジタル部品としての雌ねじを示す例である。
【図4】
デジタル部品としての配管継手を示す例である。
【図5】
三次元CADシステムのハードウエア構成図の一例である。
【図6】
従来のデジタル部品の一例である。
【図7】
デジタル歯車の斜視図である。
【図8】
他のデジタル歯車の斜視図である。
【図9】
パイプ類のモデリングを示す図である。
【図10】
デジタルベアリングの斜視図である。
【符号の説明】
1 ボルト
2 ねじ部
3 軸部
4 頭部
5 溝
6 軸
7 主制御部
8 記憶装置
9 内部記憶装置
10 外部記憶装置
11 入出力制御部
12 入力装置
13 表示装置
14 出力装置
19 歯車
20 表示部分
21 簡略化した歯車
22 パイプ
23 バーコード
24 ベアリング
【図面】










 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-31 
出願番号 特願2000-159375(P2000-159375)
審決分類 P 1 651・ 111- YA (G06F)
P 1 651・ 161- YA (G06F)
P 1 651・ 851- YA (G06F)
P 1 651・ 536- YA (G06F)
P 1 651・ 121- YA (G06F)
P 1 651・ 537- YA (G06F)
P 1 651・ 55- YA (G06F)
P 1 651・ 113- YA (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 幸雄  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 深沢 正志
田口 英雄
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3349693号(P3349693)
権利者 有限会社日本エンジニアリング
発明の名称 デジタル部品の作製方法およびそのデジタル部品を記録した読み取り可能な記録媒体  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 和気 操  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 横山 淳一  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 恩田 誠  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 恩田 博宣  
代理人 和気 操  

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