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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1122852
異議申立番号 異議2003-72026  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-08 
確定日 2005-06-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3376753号「熱可塑性樹脂組成物」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3376753号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 [1].手続きの経緯
本件特許第3376753号に係る発明は、平成7年4月28日(優先日 平成6年4月28日 日本)に特許出願され、平成14年12月6日に特許権の設定登録がなされ、その後、岩田 直子(以下、「特許異議申立人A」という。)及び石川 増和(以下、「特許異議申立人B」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成16年6月29日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年9月6日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、平成17年5月12日付けで再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年5月23日に訂正請求書が提出されるとともに、先の訂正請求が取り下げられたものである。

[2].訂正請求についての判断
訂正事項a
請求項1を削除する。
訂正事項b
請求項2〜14の項番を繰り上げて請求項1〜13とする。
訂正事項c
訂正後の請求項1(訂正前の請求項2)の
「(イ)樹脂組成物が、(A)(a)芳香族ポリカ-ボネ-トと(b)芳香族ポリエステルとからなる樹脂混合物が50〜95重量%、(B)グラフト共重合体が50〜5重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。」を
「(A)(a)芳香族ポリカ-ボネ-ト10〜95重量%と(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物50〜95重量%および(B)芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜5重量%からなる(イ)樹脂組成物100重量部に対し、(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーン0.01〜5重量部および(D)下記一般式(I)のリン酸エステル化合物1〜40重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。」と訂正する。
訂正事項d
訂正後の請求項2〜6(訂正前の請求項3〜7)の「請求項1または2記載の」を「請求項1記載の」と、
訂正後の請求項7及び8(訂正前の請求項8及び9)の「「請求項7記載の」を「請求項6記載の」と、
訂正後の請求項9(訂正前の請求項10)の「請求項7〜9のいずれか1項に記載の」を「請求項6〜8のいずれか1項に記載の」と、及び
訂正後の請求項10〜13(訂正前の請求項11〜14)の「請求項1または2記載の」を「請求項1記載の」と訂正する。
訂正事項e
段落【0009】の
「【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は(1)「(A)(a)芳香族ポリカ-ボネ-ト10〜95重量%と(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物50〜100重量%および(B)芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜0重量%からなる(イ)樹脂組成物100重量部に対し、(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーン0.01〜5重量部および(D)下記一般式(I)のリン酸エステル化合物1〜40重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
-化学式省略-
(式中、Xは2価の芳香族基。R1 ,R2 ,R3 ,R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)」および
(2)「(1)の熱可塑性樹脂組成物の(イ)樹脂組成物が、(A)(a)芳香族ポリカ-ボネ-トと(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物が50〜95重量%、(B)グラフト共重合体が50〜5重量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」からなる。」を
「すなわち、本発明は(1)「(A)(a)芳香族ポリカ-ボネ-ト10〜95重量%と(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物50〜95重量%および(B)芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜5重量%からなる(イ)樹脂組成物100重量部に対し、(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーン0.01〜5重量部および(D)下記一般式(I)のリン酸エステル化合物1〜40重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
-化学式省略-
(式中、Xは2価の芳香族基。R1 ,R2 ,R3 ,R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)」からなる。」と訂正する。
訂正事項f
段落【0019】の「本発明においては、(B)グラフト共重合体が好ましく配合される。」を「本発明においては、(B)グラフト共重合体が配合される。」と訂正する。
訂正事項g
段落【0035】の
「本発明においては、(a)芳香族ポリカ-ボネ-トと(b)芳香族ポリエステルからなる樹脂混合物(A)が50〜100重量%で、好ましくは50〜95重量%さらに好ましくは55〜90重量%、グラフト共重合体(B)50〜0重量%、好ましくは50〜5重量%、さらに好ましくは45〜10重量%となるように配合して樹脂組成物(イ)とすることが必要である。」を
「本発明においては、(a)芳香族ポリカ-ボネ-トと(b)芳香族ポリエステルからなる樹脂混合物(A)が50〜95重量%、好ましくは55〜90重量%、グラフト共重合体(B)50〜5重量%、好ましくは45〜10重量%となるように配合して樹脂組成物(イ)とすることが必要である。」と訂正する。
訂正事項h
段落【0058】の表1、及び段落【0059】の表2の「比較例3」を削除する。
訂正事項i
段落【0062】の「、5重量%未満の場合(比較例3)は耐衝撃性が劣り」を削除する。
訂正事項j
段落【0062】の「(比較例2,10)」を「(比較例2)」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項bは、訂正事項aによる請求項1の削除に伴って、それ以降の請求項を繰り上げ、項番を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(3)訂正事項cは、訂正事項bによる項番の繰り上げによって新たな請求項1となった訂正前の請求項2の記載を、従属形式から独立形式に改めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(4)訂正事項dは、訂正事項bによる項番整理後の請求項2〜13において、引用されている請求項の項番を整理後のものとする訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(5)訂正事項e〜gは、訂正事項a〜dによる特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の項の記載をこの訂正と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(6)訂正事項h及びiは、比較例のデータを明りょうにしようとして訂正前の比較例3に係る記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(7)訂正事項jは、審査段階の手続補正により削除された比較例10に係る記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、これらの訂正事項a〜jはいずれも、明細書に記載された事項の範囲内においてされたものであり、これらの訂正はいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成16年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3].本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜13に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明13」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】(A)(a)芳香族ポリカーボネート10〜95重量%と(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物50〜95重量%および(B)芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜5重量%からなる(イ)樹脂組成物100重量部に対し、(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーン0.01〜5重量部および(D)下記一般式(I)のリン酸エステル化合物1〜40重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。

(式中、Xは2価の芳香族基。R1 ,R2 ,R3 ,R4 のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)
【請求項2】リン酸エステル化合物(D)が、一般式(I)であり、R1 ,R2 ,R3 ,R4 が炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】リン酸エステル化合物(D)が、一般式(I)であり、R1 ,R2 ,R3 ,R4 が炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】(B)グラフト共重合体を与えるゴム質重合体が、ジエン系ゴムであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】(B)グラフト共重合体を与えるゴム質重合体の数平均粒子径が0.15〜0.6μmであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物における芳香族ビニル系単量体以外の単量体が、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体のうち少なくとも1種類の単量体であることを特徴とする請求項1の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物における(メタ)アクリル酸エステル系単量体が80重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物におけるシアン化ビニル系単量体が50重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物における芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびシアン化ビニル系単量体の配合量の総和が50重量%以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】(B)グラフト共重合体のグラフト率が20〜120重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物.
【請求項11】(C)フッ素系樹脂が二次粒子径10〜600μmの大きさのものであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】(a)ポリカーボネートが、30℃テトラヒドロフラン溶媒で測定の極限粘度が0.35〜0.55dl/gであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】(b)芳香族ポリエステルの25℃o-クロロフェノール溶媒で0.5g/dl溶液における比粘度が1.2〜2.5であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。」

[4].特許異議の申立てについての判断
[4-1].特許異議申立人の主張
(i)特許異議申立人Aの主張
特許異議申立人Aは、甲第1〜7号証及び参考資料1、2を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1〜14に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件請求項1〜14に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

(ii)特許異議申立人Bの主張
特許異議申立人Bは、甲第1〜3号証を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1〜14に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜14に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、訂正前の本件請求項1〜14に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。(なお、特許異議申立人Bは「特許法第36条第6項第2号違反」としているが、本件は平成7年4月28日の出願であるから、実質的に「特許法(平成5年法)第36条第5項第2号違反」を主張するものと認められる。)

[4-2].合議体の判断
[4-2-1].取消理由
当審において平成16年6月29日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりであり、以下の刊行物等を引用した。
(1)訂正前の本件請求項1、3及び4に係る発明は刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件請求項1〜14に係る発明は、刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(3)訂正前の明細書の記載には不備があるから、訂正前の請求項1〜14に係る特許は、特許法第36条第5項第2号に規定された要件を満たしていない出願についてされたものである。

<刊行物等>
刊行物1:国際公開92/11314号パンフレット(特許異議申立人Aが提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平6-116459号公報(同、甲第2号証)
刊行物3:特開平5-70671号公報(同、甲第3号証)
刊行物4:特開平5-1079号公報(同、甲第4号証、特許異議申立人Bが提出した甲第2号証)
刊行物5:特開昭64-70555号公報(特許異議申立人Aが提出した甲第5号証)
刊行物6:特開平4-337353号公報(同、甲第6号証)
刊行物7:特開平5-179123号公報(同、甲第7号証)
刊行物8:特開平4-226151号公報(特許異議申立人Bが提出した甲第1号証)
参考資料1:特表平6-504563号公報(特許異議申立人Aが提出した参考資料1)

<刊行物等の記載内容>
刊行物1
(1-1)「1.(1) ポリブチレンテレフタレートと芳香族ポリカーボネートのブレンドまたはポリブチレンテレフタレートとポリエーテルイミドのブレンド、及び(2) 式

(式中nは0.5〜4の平均値を有し、mは0又は1であり、かつフェニル核は低級アルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい)を有する少なくとも1種の難燃剤を含有する重合体組成物。
-中略-
3.成分(1)が2種の重合体を合わせて100重量部に対して、ポリブチレンテレフタレート40〜90重量部及び芳香族ポリカーボネート60〜10重量部のブレンドであることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項記載の重合体組成物。
-中略-
9.組成物が、更に弗素化ポリアルキレンを含有する請求の範囲第1項記載の重合体組成物。」(特許請求の範囲)
(1-2)「実施例1
以下のような材料が用いられた。・・・ポリブチレンテレフタレート(PBT)・・・ポリカーボネート(PC)・・・ポリフェニレンオキサイド(PPE)ならびに請求の範囲第1項に表示したような式を有する難燃剤。式中、nは平均1.3を有し、かつ、m=1である。この主成分はレゾルシノールジホスフェートであり、従ってこの薬剤は以後、RDPと略記され、実際には各種のn値を有する上記式の化合物の混合物であることが理解される。-中略-
4種の組成物を調製し、かつ、UL-94テストに従って、それらの難燃挙動についてテストした。各組成物と、得られた特性を下記の表Aに示す。

-中略-
1)ポリカーボネート中、ポリテトラフルオロエチレン20%(IV=0.55)」(第4頁第21行〜第5頁第35行)
(1-3)「実施例4
式中、nが平均値として1を有する式の

テトラキシリル-レゾルシニルジホスフェート(RDPX)をRDPに対する代替物として試験を実施した。本実施例においては、PBTは、実施例2及び3の場合と同じであり、かつ、PCは実施例3の場合と同じであった。難燃特性のみならず、これら組成物の殆どの重要な物理特性についてもテストした。結果を、以下に、表Dに示してある。

表Dから明らかなように、両難燃剤は、所望の素晴らしい難燃効果を有し、かつ、期待通りに多様な物理特性の組成物を得る可能性を提供する。したがって、組成IIは加熱ひずみ温度と剛性のかなりの向上を示す。」(第9頁第1行〜第10頁第20行)

刊行物2
(2-1)「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)5〜95重量%と下記のスチレン系樹脂(B)95〜5重量%からなる樹脂100重量部に対し、難燃剤(C)1〜40重量部及び(D)ポリテトラフルオロエチレン0.05〜5重量部からなる難燃性樹脂組成物。
スチレン系樹脂(B):共重合体(Xa)5〜100重量%と共重合体(Xb)95〜0重量%からなる共重合体(X)、及びグラフト共重合体(Ya)5〜100重量%とグラフト共重合体(Yb)95〜0重量%からなるグラフト共重合体(Y)から構成される。
(Xa):芳香族ビニル化合物5〜80重量%、シアン化ビニル化合物15〜55重量%、N-置換マレイミド化合物5〜40重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体0〜20重量%より得られ、かつ該共重合体のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度がジメチルフォルムアミド溶液中、30℃で0.15〜2.0dl/gの範囲である共重合体。
(Xb):芳香族ビニル化合物40〜90重量%、シアン化ビニル化合物10〜60重量%、アルキルメタクリレート0〜30重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体0〜20重量%より得られ、かつ該共重合体のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度がジメチルフォルムアミド溶液中、30℃で0.15〜2.0dl/gの範囲である共重合体。
(Ya):ゴム状重合体30〜90重量%に、芳香族ビニル化合物5〜80重量%、シアン化ビニル化合物15〜55重量%、N-置換マレイミド化合物5〜40重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体0〜20重量%からなる単量体混合物70〜10重量%を重合してなるグラフト共重合体。
(Yb):ゴム状重合体30〜90重量%に、下記の式群からなる単量体混合物70〜10重量%を重合してなるグラフト共重合体。
10≦e+(f/4)≦40、h=100-e-f-g、e≧0、f≧0、0≦g≦90、及び0≦h≦20〔但し、式中、e、f、g、及びhは、それぞれシアン化ビニル化合物(e)、アルキルメタクリレート(f)、芳香族ビニル化合物(g)、及びこれらと共重合可能な他のビニルモノマー(h)の、単量体混合物中の重量比率(%)を示す。〕」(特許請求の範囲の請求項1)
(2-2)「【表1】

」(段落【0023】)
(2-3)「【表2】

」(段落【0025】)
(2-4)「【表3】

」(段落【0029】)
(2-5)「尚、表1〜表2に用いられた省略名は、それぞれ下記の物質を表す。
AN:アクリロニトリル
PMI:N-フェニルマレイミド
PMS:p-メチルスチレン
・・・
PBD:ポリブタジエンゴム
・・・」(段落【0031】)

刊行物3
(3-1)「下記の成分(A)、(B)、(C)及び(D)並びに組成からなるポリアルキレンテレフタレート系難燃性樹脂組成物。
(A)固有粘度が0.3〜1.5dl/gのポリアルキレンテレフタレート100重量部(B)強化充填材 30〜250重量部(C)メラミン・シアヌル酸付加物 5〜50重量部(D)式(I)

(式中、R1 〜R9 及びR′5 〜R′9 はそれぞれ水素原子又はアルキル基を表す)で示されるリン系難燃剤 5〜50重量部」(特許請求の範囲)
(3-2)
「成分(D)の式(I)のリン系難燃剤としては、レゾルシノール ビス(ジフェニルホスフェート)やレゾルシノール ビス(ジ-p-メチルフェニルホスフェート)が好適である。」(段落【0019】)

刊行物4
(4-1)「【請求項1】・・・芳香族ジホスフェートの製造方法。
-中略-
【請求項4】熱可塑性樹脂(但し、ポリエステルを除く)または熱硬化性樹脂100重量部に対して請求項1に記載の方法で製造される化合物が0.1〜100重量部の割合で含有される、請求項3に記載の難燃性熱安定性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
(4-2)「熱可塑性樹脂としては、塩素化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、スチレン系樹脂、耐衝撃性ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ACS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、変性ポリフェニレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルニトリル、ポリチオエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリカルボジイミド、液晶ポリマー、複合化プラスチックなどがある。熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂などがある。上記樹脂は1種または2種以上が混合されて用いられてもよい。」(段落【0034】)
(4-3)「実施例5
・・・得られた結晶の純度は98.5%であり、下記式に示す構造を有している(これを化合物1とする)。・・・

」(段落【0045】〜【0046】)
(4-4)「実施例9
ポリカーボネート樹脂100部に実施例5〜7で得た難燃剤10部を添加し、ミキサーで混合後、280℃に保持した押し出し機を通してコンパウディングペレットを得た。このペレットを射出成形機にいれ、260〜280℃で成形し、試験片を得た。」(段落【0057】)

刊行物5
(5-1)「A.45〜95重量%の芳香族ポリカーボネート、
B.5〜55重量%のポリアルキレンテレフタレート、
C.0.1〜30重量%のグラフト重合体、
D.0.05〜5重量%のフツ素化ポリオレフイン及び
E.1〜20重量部の式
-省略-
に対応するリン化合物からなり、ここで上記%はすべて成分A+Bの合計に対する熱可塑性成形材料。」(特許請求の範囲)
(5-2)
「好適なグラフト重合体Cには
C.1.
C.1.1.スチレン、α-メチルスチレン、核においてハロゲンまたはメチルで置換されたスチレン、メチルメタクリレート或いはこれらの化合物の混合物50〜95重量部、及び
C.1.2.アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルメタクリレート、無水マレイン酸、C1 〜C4 -アルキル-置換されるか、またはフエニル-N-置換されたマレイミド或いはこれらの化合物の混合物5-50重量部の混合物5〜90重量部、好ましくは30〜80重量部の、
C.2.-10℃以下のガラス転移温度を有する重合体10〜95重量%、好ましくは20〜70重量部上のグラフト重合体が含まれる。
好適なグラフト重合体Cの例にはスチレン及び/またはアクリロニトリル及び/または(メタ)アクリル酸アルキルエステルとグラフト化されたポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体及びアクリレートゴム;・・・が含まれる。」(第5頁左下欄第7行〜同頁右下欄第17行)
(5-3)「表:成形材料の組成及び特性」には、E成分(トリフエニルホスフエート)を含有しない比較例7及び8の組成物は、UL 94試験において、「試験に合格せず」及び「V2」であったことが示されている。(第10頁下段)

刊行物6
(6-1)「A. 芳香族ポリカーボネート、・・・よりなる群から選ばれた少なくとも1つの樹脂10〜95重量部
B. B.1. B.1.1.スチレン、・・・よりなる群から選ばれる少なくとも1つの員50〜99重量部並びにB.1.2.グラフトシエルとしての(メタ)アクリルニトリル、メタクリル酸メチル、・・・よりなる群から選ばれる少なくとも1つの員1〜50重量部、の重合された混合物5〜95重量部、B.2.・・・粒状ゴム5〜95重量部、のグラフト重合体5〜70重量部、
C. C.1. C.1.1.スチレン、・・・よりなる群から選ばれる少なくとも1つの員50〜99重量部並びにC.1.2.アクリロニトリル、・・・よりなる群から選ばれる少なくとも1つの員1〜50重量部、の共重合体、またはC.2.ポリアルキレンテレフタレート、である熱可塑性樹脂1〜50重量部、
D. A.、B.、及びC.の混合物100重量部をベースとして0.5〜20重量部の式(I)-省略-
式中、R1 ,R2 ,及びR3 は相互に独立してC1 〜C8 -アルキルまたはC6 〜C20-アリールを表わし、m及びnは独立して0または1である、に対応するリン化合物、
E. A.、B.、及びC.の混合物100重量部をベースとして0.05〜5重量部の、・・・フツ素化されたポリオレフイン、
F. ポリアリーレンスルフイド1〜50重量部、
からなる熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)

刊行物7
(7-1)「請求項2記載の難燃性樹脂組成物が、(A’)ポリカーボネート系樹脂50〜95重量%及びポリカーボネート系樹脂以外の樹脂5〜50重量%のポリマーブレンド100重量部、(B’)燐酸エステル及び/又は亜燐酸エステル5〜50重量部、及び硼酸亜鉛5〜20重量部、(c’)ポリオルガノシロキサン0.1〜5重量部及び/又はポリテトラフルオロエチレン0.01〜2重量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項3)
(7-2)「本発明で使用されるポリカーボネート系樹脂以外の樹脂としては熱可塑性樹脂であれば特に制限無く有効に利用できる。それらの中の代表的なものを例示すれば、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂をはじめとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢ビ共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシメチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等が挙げられ、また、これらの樹脂の2種以上を組み合わせて使用することも可能である。次に、これらの中のいくつかについて、更に詳しく説明する。」(段落【0012】)
(7-3)「本発明で用いられるABS系樹脂は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体を含有するビニル系単量体をグラフト重合することにより得られるグラフト重合体であり、さらには、芳香族ビニル系単量体を含有するビニル系単量体を重合して得られる重合体と該グラフト重合体とのブレンド物をも包含するものである。グラフト重合体は、ガラス転移点温度が10℃以下であるゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体および(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド系単量体、不飽和ジカルボン酸無水系単量体などから選ばれる1種以上の単量体をグラフト重合することにより得られる。」(段落【0014】)

刊行物8
(8-1)「(A)熱可塑性芳香族ポリカーボネート40〜90重量部、
(B) (B.1)スチレン、・・・から成る群から選ばれる化合物の少なくとも1種50〜95重量%およびアクリロニトリル、メタクリロニトリル、・・・から成る群から選ばれる化合物の少なくとも1種5〜50重量%から成る熱可塑性共重合体0〜50重量部、および(B.2)熱可塑性ポリアルキレンテレフタレート0〜80重量部からなる群から選ばれる1種の随時加えられる成分、
(C) (C.1)(C.1.1)スチレン、・・・から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物50〜95重量%と、(C.1.2)(メタ)アクリロニトリル、・・・から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物5〜50重量%との混合物5〜70重量部を、(C.2)ガラス転移温度TGが10℃以下のゴム30〜95重量部上にグラフト重合させてつくられたグラフト重合体1〜25重量部、
(D) (A)、(C)および随時(B)の全量100重量部に関し1〜25重量部、好ましくは2〜20重量部の燐化合物、および
(E) (E.1)(A)、(C)および随時(B)の全量100重量部に関し・・・のテトラフルオロエチレン0.05〜5重量部、および(E.2)(A)、(C)および随時(B)の全量100重量部に関し、式(VII)・・・シリコーン樹脂0.1〜10重量部から成る群から選ばれる少なくとも1種のドリップ防止剤から成り、
該燐化合物(D)として式(I)-省略-
・・・に対応する化合物であることを特徴とする熱可塑性成形用組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
(8-2)「本発明においては驚くべきことには、リン酸のノボラック/フェノールエステルはポリカーボネート成形用組成物に対し厚さ1.6mmの試験片に関するUL-94試験でV-Oに相当する耐焔性を賦与すると共に・・・」(段落【0020】)

[4-2-3].特許法第29条第1項(第3号に該当)違反について
刊行物1の特許請求の範囲(摘示記載(1-1))には、(1)ポリブチレンテレフタレートと芳香族ポリカーボネートのブレンド及び(2)式

(式中nは0.5〜4の平均値を有し、mは0又は1であり、かつフェニル核は低級アルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい)を有する少なくとも1種の難燃剤を含有する重合体組成物(請求項1)が記載されており、成分(1)がポリブチレンテレフタレート40〜90重量部及び芳香族ポリカーボネート60〜10重量部(合計100重量部)のブレンドであること(請求項3)及び更に弗素化ポリアルキレンを含有すること(請求項9)も記載されている。また、実施例1には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキサイド(PPE)ならびに請求の範囲第1項に表示したような式を有する難燃剤(式中、nは平均1.3を有し、かつ、m=1。主成分はレゾルシノールジホスフェート(RDP))から成る組成物について難燃挙動テストをしたことが記載されており、表Aには、PBT 69.4部、PC 15部、ヒンダードフェノール 0.15部、RDP 15部及び滴下防止剤 0.5部を配合した例(IV)が示され、滴下防止剤について「ポリカーボネート中、ポリテトラフルオロエチレン20%(IV=0.55)」との脚注が付されている(摘示記載(1-2))。更に、実施例4には、式中、nが平均値として1を有する式

のテトラキシリル-レゾルシニルジホスフェート(RDPX)をRDPに対する代替物とする組成物について試験したことが記載されており、表Dには、PBT 43.85部、PC 40部、ヒンダードフェノール 0.15部、RDPX 15部及び滴下防止剤 1部を配合した例(II)が示され、「表Dから明らかなように、両難燃剤は、所望の素晴らしい難燃効果を有し、かつ、期待通りに多様な物理特性の組成物を得る可能性を提供する。したがって、組成IIは加熱ひずみ温度と剛性のかなりの向上を示す。」と記載されている(摘示記載(1-3))。
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された「ポリブチレンテレフタレート」及び「弗素化ポリアルキレン(実施例では、ポリテトラフルオロエチレン)」は、それぞれ本件発明1における「芳香族ポリエステル」及び「フッ素系樹脂」に相当するものであり、刊行物1に記載された成分(2)はその構造から「リン酸エステル系成分」と称し得るものである。
そうすると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、ともに、
「芳香族ポリカーボネートと芳香族ポリエステルとを含む樹脂混合物にフッ素系樹脂およびリン酸エステル系成分を配合してなる熱可塑性樹脂組成物」である点で一致しており、刊行物1の実施例1、4の記載からみて、芳香族ポリカーボネートと芳香族ポリエステルとの配合比、及び、樹脂混合物に対するフッ素系樹脂およびリン酸エステル系成分の配合量についても、重複一致している。
しかしながら、本件発明1における以下の構成について刊行物1には記載されていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)リン酸エステル系成分として「一般式(I)のリン酸エステル化合物

(式中、Xは2価の芳香族基。R1 ,R2 ,R3 ,R4 のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)」を用いる点、及び
(い)(芳香族ポリカーボネートと芳香族ポリエステルからなる樹脂混合物50〜95重量%に対して)「芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜5重量%」を配合する点

これらの内、まず(あ)の点についてみると、刊行物1の特許請求の範囲の請求項1には、式

で表されるリン酸エステル成分が記載されており、「式中nは0.5〜4の平均値を有し、mは0又は1であり、かつフェニル核は低級アルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい」とされている。また、実施例1及び4には当該成分について、それぞれ、「請求の範囲第1項に表示したような式を有する難燃剤。式中、nは平均1.3を有し、かつ、m=1である。この主成分はレゾルシノールジホスフェートであり、従ってこの薬剤は以後、RDPと略記され、実際には、各種のn値を有する上記式の化合物の混合物であることが理解される」(摘示記載(1-2))および「nが平均値として1を有する式の

テトラキシリル-レゾルシニルジホスフェート(RDPX)」(摘示記載(1-3))と記載されている。
そうすると、刊行物1の請求項1に記載された式においてm=1でかつn=1の場合には、表現上、本件発明1における(I)式の化合物と一致するが、刊行物1の特許請求の範囲及び実施例1、4に繰り返し記載されているように、この「n」はあくまでも平均値であり、平均値としてのn=1の式が表すものとは、nが1未満(実質的にはn=0)の化合物も1を越える化合物もともに含んだ組成物であると解するのが相当である。
これに対して、本件発明1における(I)式には繰り返し単位が含まれておらず、「一般式(I)のリン酸エステル化合物」とは単一の分子量を有する化合物と解されるから、平均値n=1の場合であっても広範な分子量分布を持ち得る刊行物1に記載されたリン酸エステル成分とは、同一のものとすることができない。
それに加えて、刊行物1には(い)の点も記載されていない以上、本件発明1は刊行物1に記載された発明であるとは到底いえない。

また、本件発明2〜13は、本件発明1に更に技術的限定を付加したものであり、上記のように本件発明1が刊行物1に記載された発明でない以上、同様の理由により、本件発明2〜13もまた刊行物1に記載された発明ではない。

[4-2-4].特許法第29条第2項違反について
本件発明1が刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かを次に検討する。
刊行物2〜8の内、刊行物2〜4には、以下のように本件発明1における「一般式(I)のリン酸エステル化合物」に該当する化合物を含む組成物が記載されている。
(i)刊行物2には、特許請求の範囲に、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)5〜95重量%とスチレン系樹脂(B)95〜5重量%からなる樹脂100重量部に対し、難燃剤(C)1〜40重量部及び(D)ポリテトラフルオロエチレン0.05〜5重量部からなる難燃性樹脂組成物(摘示記載(2-1))が記載されており、実施例4には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)60部、スチレン系樹脂(B)の共重合体XとしてXa-1(アクリロニトリル30/N-フェニルアマイド30/p-メチルスチレン40)35部、グラフト共重合体YとしてYb-1(ポリブタジエン65/アクリロニトリル10/スチレン25)5部、難燃剤(C)として縮合リン酸エステル(大八化学株式会社製PX-201、融点169℃)15部及びポリテトラフルオロエチレン(D)0.2部を用いること(摘示記載(2-3)〜(2-5))が記載されている。この「大八化学株式会社製PX-201」は本件訂正明細書の実施例でリン酸エステルD-1として用いられている「1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル(PX201、大八化学工業(株)製)」と同じものと解される。
(ii)刊行物3には、特許請求の範囲に、(A)固有粘度が0.3〜1.5dl/gのポリアルキレンテレフタレート100重量部(B)強化充填材 30〜250重量部(C)メラミン・シアヌル酸付加物 5〜50重量部(D)式(I)

(式中、R1 〜R9 及びR′5 〜R′9 はそれぞれ水素原子又はアルキル基を表す)で示されるリン系難燃剤 5〜50重量部からなるポリアルキレンテレフタレート系難燃性樹脂組成物(摘示記載(3-1))が記載されており、(D)成分のリン系難燃剤としてはレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)等が好適であること(摘示記載(3-2))が記載されている。
(iii)刊行物4には、特許請求の範囲の請求項4に、熱可塑性樹脂(但し、ポリエステルを除く)100重量部に対して請求項1に記載の方法で製造される化合物(芳香族ジホスフェート)が0.1〜100重量部の割合で含有される、請求項3に記載の難燃性熱安定性樹脂組成物(摘示記載(4-1))が記載されており、実施例9には、ポリカーボネート樹脂100部に実施例5で得られた

に示す構造を有する芳香族ジホスフェート難燃剤10部を添加したもの(摘示記載(4-3)〜(4-4))が記載されている。
一方、刊行物5及び8には、以下のように、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステルおよび芳香族ビニル系単量体を含有する単量体混合物をゴム質重合体にグラフト共重合してなるグラフト共重合体からなる樹脂組成物に対し、フッ素系樹脂および/またはシリコーンおよびリン化合物を配合してなる熱可塑性樹脂組成物である点で本件発明1と一致する発明が記載されている。
(iv)刊行物5には、特許請求の範囲に、A.45〜95重量%の芳香族ポリカーボネート、B.5〜55重量%のポリアルキレンテレフタレート、
C.0.1〜30重量%のグラフト重合体、D.0.05〜5重量%のフツ素化ポリオレフイン及びE.1〜20重量部のリン化合物からなる熱可塑性成形材料(摘示記載(5-1))が記載されており、C.グラフト重合体として、スチレン50〜95重量部、アクリロニトリルなどの単量体5〜90重量部を、ポリブタジエンなどの-10℃以下のガラス転移温度を有する重合体20〜70重量部上にグラフトしたものが用いられること(摘示記載(5-2))、及びE.リン化合物(トリフエニルホスフエート)が難燃性向上に寄与する成分であること(摘示記載(5-3))も記載されている。
(v)刊行物8には、特許請求の範囲に、(A).芳香族ポリカーボネート等の樹脂10〜95重量部、(B)(B.1)スチレン等50〜95重量部および(B.2)熱可塑性ポリアルキレンテレフタレート等0〜80重量部、(C)(C.1)(C.1.1)スチレン等50〜95重量%と、(C.1.2)(メタ)アクリロニトリル等1〜50重量%との混合物5〜70部を、(C.2)ガラス転移温度TGが10℃以下のゴム30〜95重量部上にグラフト重合させてつくられたグラフト重合体1〜25重量部、(D)(A)、(C)および随時(B)の全量100重量部に関し1〜25重量部、好ましくは2〜20重量部の燐化合物、および(E)(E.1)(A)、(C)および随時(B)の全量100重量部に関しテトラフルオロエチレン0.05〜5重量部、および(E.2)(A)、(C)および随時(B)の全量100重量部に関しシリコーン樹脂0.1〜10重量部から成る群から選ばれる少なくとも1種のドリップ防止剤から成る熱可塑性成形用組成物(摘示記載(8-1))が記載されており(摘示記載(8-1))、(D)の燐化合物として用いられるリン酸のノボラック/フェノールエステルがポリカーボネート成形用組成物に対して耐焔性を賦与すること(摘示記載(8-2))も記載されている。
そこで、刊行物2〜4に記載されたリン酸エステル化合物を刊行物5、8に記載された樹脂組成物におけるリン化合物として転用することの困難性について検討すると、刊行物2〜4に記載された樹脂組成物は、それぞれ、「芳香族ポリカーボネート、スチレン系樹脂-共重合体X、スチレン系樹脂-グラフト共重合体Y、ポリテトラフルオロエチレン」、「ポリアルキレンテレフタレート」及び「ポリカーボネート」に対してリン酸エステル化合物が配合されたものであり、芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、グラフト共重合体、フッ素系樹脂および/またはシリコーン及びリン酸エステル化合物からなる本件発明1とは、リン酸エステル化合物を配合する樹脂組成物の成分が大きく異なるものである。
一方、刊行物5及び8にそれぞれ記載されたリン化合物は、トリフェニルホスフェート等及びリン酸のノボラック/フェノールエステル等であり、いずれも本件発明1における「一般式(I)のリン酸エステル」とは全く構造の異なる化合物群である。
そして、一般に、樹脂組成物の各成分はそれぞれ発現すべき機能を有しつつ組成物全体として調和した物性を保つように配合されているものであることを勘案すれば、刊行物5及び8に記載された樹脂組成物において、難燃剤として用いられているリン化合物を、刊行物2〜4に記載されたような組成を異にする樹脂組成物に配合された構造上非類似のリン酸エステル化合物と置換すべき積極的な理由はないものというべきである。
また、刊行物1、6及び7にも、このような置換を教示する記載は見いだせない。
そして、本件発明1はこの点により、難燃性、耐衝撃性、剛性、耐熱性及び流動性において総合的に優れているという、訂正明細書に記載された顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1が、刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、本件発明2〜13は、本件発明1に更に技術的限定を付加したものであり、上記のように本件発明1が刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、同様の理由により、本件発明2〜13もまた刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

[4-2-5].特許法第36条第5項第2号違反について
平成16年6月29日付け取消理由通知において指摘した訂正前の明細書の記載不備は、グラフト共重合体を2重量%含む比較例3が、訂正前の請求項1に記載された要件を満たすにもかかわらず「比較例」とされており、特許請求の範囲の記載からはグラフト共重合体の配合量が不明りょうであるというものであるが、上記訂正により、請求項1のグラフト共重合体の配合量範囲の下限が5重量%とされた結果、この記載不備は解消された。

[5].むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由によっては本件発明1〜13についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜13についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱可塑性樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)(a)芳香族ポリカーボネート10〜95重量%と(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物50〜95重量%および(B)芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜5重量%からなる(イ)樹脂組成物100重量部に対し、(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーン0.01〜5重量部および(D)下記一般式(I)のリン酸エステル化合物1〜40重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xは2価の芳香族基。R1,R2,R3,R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)
【請求項2】リン酸エステル化合物(D)が、一般式(I)であり、R1,R2,R3,R4が炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】リン酸エステル化合物(D)が、一般式(I)であり、R1,R2,R3,R4が炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】(B)グラフト共重合体を与えるゴム質重合体が、ジエン系ゴムであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】(B)グラフト共重合体を与えるゴム質重合体の数平均粒子径が0.15〜0.6μmであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物における芳香族ビニル系単量体以外の単量体が、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体のうち少なくとも1種類の単量体であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物における(メタ)アクリル酸エステル系単量体が80重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物におけるシアン化ビニル系単量体が50重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】(B)グラフト共重合体を与える単量体混合物における芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびシアン化ビニル系単量体の配合量の総和が50重量%以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】(B)グラフト共重合体のグラフト率が20〜120重量%であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】(C)フッ素系樹脂が二次粒子径10〜600μmの大きさのものであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】(a)ポリカーボネートが、30℃テトラヒドロフラン溶媒で測定の極限粘度が0.35〜0.55dl/gであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】(b)芳香族ポリエステルの25℃o-クロロフェノール溶媒で0.5g/dl溶液における比粘度が1.2〜2.5であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は難燃性にすぐれ、かつ耐衝撃性、剛性、成形加工性が均衡して優れた塩素および臭素化合物を含有しない熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】プラスチックスはすぐれた機械的性質、成形加工性、電気絶縁性によって家庭電気機器、OA機器、自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。しかしながら、プラスチックスの大半は易燃性であり、安全性の問題で難燃化に対し種々の技術が案出されてきた。
【0003】一般的には、難燃化効率の高い臭素化合物などのハロゲン系難燃剤と酸化アンチモンを樹脂に配合して難燃化する方法が採用されている。
【0004】また、近年の環境問題に関連し、塩素および臭素系難燃剤を含有しない難燃性樹脂として、芳香族ポリカーボネート、ABSなどのスチレン含有グラフトポリマ、およびリン酸トリフェニル等のモノリン酸エステルを配合する方法(欧州公開特許第0174493号明細書)、芳香族ポリカーボネート、スチレン含有共重合体及び/又はスチレン含有グラフト重合体およびオリゴマー性リン酸エステル難燃剤を配合する方法(特開平2-115262号公報)、芳香族ポリカーボネートに1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステルを配合する方法(米国特許5,122,556号公報)および芳香族ポリカーボネートにレゾルシンポリホスフェート難燃剤を配合する方法(特開昭59-45351号公報)などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ハロゲン系難燃剤を使用する方法は、燃焼時の火種の落下(ドリップ)防止に難燃剤を増量添加するので、樹脂組成物の機械的性質や耐熱性が悪化する欠点があり、さらに成形時や燃焼時にハロゲン化合物の分解により有毒ガスが発生する問題を有していた。
【0006】また、欧州公開特許第0174493号公報記載の組成物はモノリン酸エステルが易揮発性のため、成形時の金型汚染の問題を有する。特開平2-115262号公報記載の組成物は難燃剤が液状であり、またそれを多量に含有するので、耐熱性が劣り、米国特許5,122,556号公報記載の組成物は難燃性、耐衝撃性が劣っており、また特開昭59-45351号公報記載の組成物は耐衝撃性、成形加工性が劣る。このようにこれらのものは各種特性を満足できるものではなかった。
【0007】本発明は難燃性にすぐれ、かつ耐衝撃性、剛性、成形加工性が均衡して優れた塩素および臭素化合物を含有しない樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネートおよび芳香族ポリエステルを特定比率で混合した樹脂混合物とABS樹脂との樹脂組成物にポリテトラフルオロエチレンおよび特定のリン酸エステルを配合することにより、上記目的が効率的に達成されることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は(1)「(A)(a)芳香族ポリカーボネート10〜95重量%と(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%とからなる樹脂混合物50〜95重量%および(B)芳香族ビニル系単量体を20〜90重量%含有する単量体混合物70〜20重量部を、ゴム質重合体30〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体50〜5重量%からなる(イ)樹脂組成物100重量部に対し、(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーン0.01〜5重量部および(D)下記一般式(I)のリン酸エステル化合物1〜40重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【化2】

(式中、Xは2価の芳香族基。R1,R2,R3,R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)」からなる。
【0010】以下、本発明を具体的に説明する。本発明における樹脂混合物(A)を構成する(a)芳香族ポリカーボネートとしては、一般には2,2-ビス(4-オキシフェニル)アルカン系、ビス(4-オキシフェニル)エーテル系、ビス(4-オキシフェニル)スルホン、スルフィドまたはスルホキサイド系などのビスフェノール類からなる重合体、もしくは共重合体である。芳香族ポリカーボネートは任意の方法によって製造される。例えば、4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパン(通称ビスフェノールA)のポリカーボネートの製造には、ジオキシ化合物として4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパンを用いて、苛性アルカリ水溶液および溶剤存在下にホスゲンを吹き込んで製造するホスゲン法、または4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパンと炭酸ジエステルとを触媒存在下でエステル交換させて製造する方法を利用することができる。
【0011】芳香族ポリカーボネートの分子量は特に制限されないが、テトラヒドロフラン溶媒で30℃測定の極限粘度が0.35〜0.55dl/g、特に0.40〜0.50dl/gの範囲のものが、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と流動性のバランスに優れ好ましい。
【0012】樹脂混合物(A)のもうひとつの構成成分である(b)芳香族ポリエステルとしては芳香環を重合体の連鎖単位に有するポリエステルで、芳香族ジカルボン酸とジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。
【0013】ここでいう芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸などがあり、特にテレフタル酸が好ましく使用できる。
【0014】これらの芳香族ジカルボン酸は二種以上を混合して使用してもよい。なお少量であれば、これらの芳香族ジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を一種以上混合使用することができる。
【0015】また、ジオール成分としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオールなど、およびそれらの混合物などが挙げられる。なお、少量であれば分子量400〜6000の長鎖ジオールすなわちポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを一種以上共重合せしめてもよい。
【0016】具体的な芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどのような共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、機械的性質、成形性などのバランスのとれたポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。芳香族ポリエステル(b)の製造法は特に制限がなく、公知の製造法を用いることができる。
【0017】芳香族ポリエステル(b)の分子量は特に制限されないが、オルトクロルフェノール溶媒で0.5g/dl溶液の25℃における比粘度が1.2〜2.5、特に1.5〜2.0の範囲のものが耐衝撃性、靭性に優れ好ましい。
【0018】樹脂混合物(A)において(a)芳香族ポリカーボネート10〜95重量%、好ましくは30〜90量%、(b)芳香族ポリエステル90〜5重量%、好ましくは70〜10重量%となるように配合することが必要である。芳香族ポリカーボネート(a)の配合が10重量%未満の場合は難燃性が悪くなり、95重量%を越える場合は剛性が劣り好ましくない。
【0019】本発明においては、(B)グラフト共重合体が配合される。(B)グラフト共重合体とはゴム質重合体30〜80重量部に芳香族ビニル系単量体を含有する単量体混合物をグラフト重合して得られるグラフト共重合体である。ここでいう(B)グラフト共重合体とは、ゴム質重合体にグラフトした構造をとった材料の他に、グラフトしていない共重合体を含むものである。
【0020】上記ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、ジエン系ゴムが好ましく用いられる。具体的にはポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエンのブロック共重合体、アクリル酸ブチル-ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン系三元共重合体などが挙げられる。なかでもポリブタジエンまたはブタジエン共重合体が好ましい。
【0021】ゴム質重合体のゴム粒子径は特に制限されないが、ゴム粒子の平均粒子径が0.15〜0.60μm、特に0.18〜0.40μmのものが耐衝撃性、色調に優れ好ましい。
【0022】芳香族ビニル系単量体としてはスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、o-エチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましい。
【0023】芳香族ビニル系単量体以外の単量体としては、靭性、色調の向上の目的で、(メタ)アクリル酸エステル系単量体および/または一層の耐衝撃性向上の目的で、シアン化ビニル系単量体が好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としてはアクリル酸およびメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n-ブチルおよびi-ブチルによるエステル化物などが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。シアン化ビニル系単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0024】また必要に応じて、他のビニル系単量体、例えばマレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β-不飽和カルボン酸およびその無水物、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリジシルエステルなどを使用することもできる。
【0025】(B)グラフト共重合体において用いる単量体混合物は、芳香族ビニル系単量体20〜90重量%を含有することが必要であり、好ましくは20〜80重量%のものである。また(メタ)アクリル酸エステル系単量体を混合する場合には、80重量%以下が好ましく、さらに75重量%以下が好ましく用いられる。またシアン化ビニル系単量体を混合する場合には、60重量%以下、さらに50重量%以下が好ましく用いられる。また単量体混合物における芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびシアン化ビニル系単量体の配合量の総和が50重量%以上、さらに60重量%であることが好ましい。
【0026】芳香族ビニル系単量体の割合が20〜90重量%の範囲をはずれた場合は、樹脂組成物の耐衝撃性が劣り好ましくない。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量が80重量%を超えると靭性が悪くなり好ましくない。シアン化ビニル系単量体の割合が60重量%を超える場合は、グラフト共重合体の熱安定性が著しく低下し、色調の悪い樹脂組成物となり好ましくない。
【0027】(B)グラフト共重合体を得る際のゴム質重合体と単量体混合物との割合は、全グラフト共重合体100重量部中、ゴム質重合体30重量部以上、好ましくは40重量部以上、また80重量部以下、好ましくは70重量部以下が用いられる。また単量体混合物は70重量部以下、好ましくは60重量部以下、また20重量部以上、好ましくは30重量部以上である。ゴム質重合体の割合が30重量部未満では樹脂組成物の耐衝撃性が劣り、80重量部を越える場合はゴム質重合体が分散不良となり、樹脂組成物の成形品の外観を損なうため好ましくない。
【0028】(B)グラフト共重合体は公知の重合法で得ることができる。例えばゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液を連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
【0029】(B)グラフト共重合体は、ゴム質重合体にグラフトした構造をとった材料の他に、グラフトしていない共重合体を含有する。(B)グラフト共重合体のグラフト率は特に制限がないが、耐衝撃性および光沢が均衡して優れる樹脂組成物を得るために20〜120重量%、さらに30〜70重量%が好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される。
グラフト率(%)=<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>×100
【0030】グラフトしていない共重合体の特性としては特に制限されないが、(B)グラフト共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、0.25〜0.6dl/g、特に0.30〜0.55dl/gの範囲が、優れた耐衝撃性の樹脂組成物が得られるため、好ましく用いられる。
【0031】本発明の樹脂組成物は、その目標とする物性への制御のために、ビニル系単量体から得られる、別の種類の重合体を配合することができる。なかでも芳香族ビニル系単量体を必須とするものが好ましく用いられる。
【0032】芳香族ビニル系単量体としてはスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエン、o-エチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0033】具体的には、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メチルメタクリレート共重合体、スチレン-メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合体、α-メチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、α-メチルスチレン-メチルメタクリレート共重合体、α-メチルスチレン-メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合体、スチレン-N-フェニリマレイミド共重合体、スチレン-メチルメタクリレート-N-フェニリマレイミド共重合体、スチレン-アクリロニトリル-N-フェニリマレイミド共重合体などが挙げられる。配合される芳香族ビニル系単量体から得られる構造が、重合体のなかで20〜90重量%の重合体であることが、得られる樹脂組成物の耐衝撃性に優れ好ましい。
【0034】その重合体の特性に制限はないが、極限粘度[η](N,N-ジメチルホルムアミド溶媒、30℃測定)が、0.35〜0.85dl/g、特に0.45〜0.70dl/gの範囲のものが、優れた耐衝撃性、成形加工性の樹脂組成物が得られ、好ましい。
【0035】本発明においては、(a)芳香族ポリカーボネートと(b)芳香族ポリエステルからなる樹脂混合物(A)が50〜95重量%、好ましくは55〜90重量%、グラフト共重合体(B)50〜5重量%、好ましくは45〜10重量%となるように配合して樹脂組成物(イ)とすることが必要である。
【0036】本発明では、(C)成分としてフッ素樹脂またはシリコーンが配合される。また両者を併用することもできる。フッ素系樹脂とは、テトラフルオロエチレン構造を含有する重合体であり、好ましくはフッ素含量65〜76重量%、さらに好ましくは70〜76重量%を有するものである。例えばテトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびテトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン性不飽和モノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0037】(C)フッ素系樹脂の製造方法は特に制限がなく、例えば水性媒体中で、触媒ペルオキシ二硫酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムを用いて、7〜71kg/cm2の圧力下、0〜200□の温度において、テトラフルオロエチレン等の重合を行うなどの公知の方法を用いることができる。
【0038】(C)フッ素系樹脂は、通常比重2.0〜2.5g/cm3、融点310〜350℃の粉末状のものが用いられるが、特に制限されない。またフッ素系樹脂の形状は任意であるが、好ましくはASTM D1457で測定された粒子径(二次)10〜600μmである粉末状のものが用いられる。
【0039】もうひとつの(C)成分であるシリコーンとは、オルガノポリシロキサンであり、ジメチルシロキサンの重合体、フェニルメチルシロキサンの重合体、これらの共重合体などが挙げられる。さらに分子構造の末端または側鎖が、エポキシ基,水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基、エーテルなどによって置換された変性シリコーンも有用である。シリコーンの数平均分子量としては特に制限されないが、その下限としては200、さらに1000であることが好ましく、また上限としては、5,000,000の範囲が好ましい。シリコーンの形状としては、オイル、ガム、ワニス、粉体、ペレットなど任意のものが使用できる。
【0040】次ぎに、本発明で用いられる(D)リン酸エステル化合物とは、下記一般式(I)で表されるものである。
【化3】

(式(I)中、Xは2価の芳香族基。R1,R2,R3,R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。)
【0041】2価の芳香族基、すなわちアリーレン基としては、o-フェニレン基,m-フェニレン基、p-フェニレン基、ビフェニレン基、フェニレンオキシフェニレン基などが例示され、なかでもm-フェニレン基、p-フェニレン基、ビフェニレン基が好ましく用いられる。
【0042】またR1,R2,R3,R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であるが、「R1,R2,R3,R4が炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基」、さらに「R1,R2,R3,R4が炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基」の構造を有するものが好ましく用いられ、さらにアルキル基の炭素数として1〜3のものが好ましく用いられる。
【0043】具体的には、1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(3,5-ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(3,5-ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(3,5-ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(3,5-ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(2,6-ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(3,5-ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(2,6-ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(3,5-ジプロピルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(3,5-ジメチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2,6-ジエチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(3,5-ジエチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2,6-ジプロピルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニリン-テトラキス(3,5-ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(2-メチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(3-メチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(4-メチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(5-メチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(6-メチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(2-メチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(3-メチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(4-メチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(5-メチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(6-メチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2-メチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(3-メチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(4-メチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(5-メチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(6-メチルフェニル)リン酸エステル、などが挙げられ、特に1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,4-フェニレン-テトラキス(3-メチルフェニル)リン酸エステル、1,3-フェニレン-テトラキス(3-メチルフェニル)リン酸エステル、4,4’-ビフェニレン-テトラキス(3-メチルフェニル)リン酸エステルが剛性、難燃性に優れ好ましい。
【0044】(D)リン酸エステル化合物の製造法は特に制限がなく、例えば溶媒中で、オキシ塩化リンとハイドロキノンを実質的に2:1のモル比で反応させた後、2,6-ジメチルフェノールを適量加えて反応させることにより1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステルを得ることができる。
【0045】本発明における(C)フッ素系樹脂および/またはシリコーンの配合量は(A)(a)芳香族ポリカーボネートと(b)芳香族ポリエステルからなる樹脂混合物と(B)グラフト共重合体の合計量100重量部に対し、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部である。(C)フッ素系樹脂の配合量が0.01重量部未満では樹脂組成物の難燃性が悪くなり、5重量%を越える場合は樹脂組成物の耐衝撃性が悪くなり好ましくない。
【0046】本発明における(D)リン酸エステル化合物の配合量は「(A)(a)芳香族ポリカーボネートと(b)芳香族ポリエステルからなる樹脂混合物」と(B)グラフト共重合体とからなる樹脂組成物(イ)100重量部に対し、1〜40重量部、好ましくは4〜30重量部である。(D)リン酸エステル化合物の配合量が1重量部未満では難燃性が悪くなり、40重量%を越える場合は樹脂組成物の耐衝撃性が悪くなり好ましくない。
【0047】本発明の樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、例えば(a)芳香族ポリカーボネート、(b)芳香族ポリエステル、(B)グラフト共重合体、(C)フッ素系樹脂および(D)リン酸エステル化合物を混合してバンバリーミキサー、ロール、エクストルーダー、ニーダーなどで溶融混練することによって製品化される。
【0048】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これと相溶性のある他の熱可塑性樹脂を配合することができる。例えばポリフェニレンエーテル、ポリグルタルイミドなどを混合して耐衝撃性、耐熱性の改良を、またポリオレフィン、ポリアミドなどを混合して、耐薬品性を改良することができる。さらに必要に応じて、ガラス繊維、硼酸金属塩、タルク、チタン酸カリウイスカなどの充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの各種安定剤、顔料、染料、滑剤および可塑剤などを添加することもできる。
【0049】本発明の熱可塑性樹脂組成物は溶融成形されて、樹脂成形品となり用いられる。この樹脂成形品は、その難燃性をはじめとする特徴からOA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類に有用である。
【0050】
【実施例】本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明する。なお、実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0051】参考例1(a)芳香族ポリカーボネートの調製4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパンを用いて、苛性アルカリ水溶液および溶剤存在下にホスゲンを吹き込んで芳香族ポリカーボネートを調製した。得られたポリマはテトラヒドロフラン溶媒で30℃測定の極限粘度が0.48dl/gであった。
【0052】参考例2(b)芳香族ポリエステルの調製オルトクロロフェノール溶媒で25℃測定の比粘度が1.58であるポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製PBT-1200S)を使用した。
【0053】参考例3(B)グラフト共重合体の調製以下にグラフト共重合体の調製方法を示す。なおグラフト率は次の方法で求めたものである。グラフト共重合体の所定量(m)にアセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(10,000G)30分遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。
グラフト率=[(n)-(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率を意味する。
<B-1>ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.32μm、ゲル含率88%)60部(固形分換算)の存在下でスチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体(B-1)を調製した。得られたグラフト共重合体はグラフト率が38%であった。このグラフト共重合体は、スチレン構造単位70%およびアクリロニトリル構造単位30%からなる非グラフト性の共重合体を17%含有するものであった。またメチルエチルケトン可溶分の極限粘度が0.36dl/gであった。
<B-2>ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.24μm、ゲル含率80%)45部(固形分換算)の存在下で、スチレン24%、メチルメタクリレート72%およびアクリロニトリル4%からなる単量体混合物55部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体をB-1と同様の方法でパウダー状のグラフト共重合体(B-2)を調製した。得られたグラフト共重合体はグラフト率が45%であった。このグラフト共重合体は、スチレン構造単位24%、メチルメタクリレート構造単位72%およびアクリロニトリル構造単位4%からなる非グラフト性の共重合体を34%含有するものであった。メチルエチルケトン可溶分の極限粘度が0.26dl/gであった。
【0054】参考例4
<C-1>フッ素系樹脂ポリテトラフルオロエチレンであるポリフロンF104(ダイキン工業(株)製)(ASTM D1457で測定の粒子径(二次)が0.5mm、融点340℃)を使用した。
<C-2>シリコーンエポキシ基変性シリコーンである“トレフィル”E-601(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を使用した。
【0055】参考例5(D)リン酸エステル
D-1:1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル(PX201、大八化学工業(株)製)を使用した。
D-2:1,3-フェレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステルを使用した。
D-3:4,4’-ビフェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステルを使用した。
D-4:レゾルシノール-ビス(フェニル)ホスフェートオリゴマー(CR733S,大八化学工業製)を使用した。(比較例に使用)
【0056】実施例1〜11
参考例で準備した(a)芳香族ポリカーボネート、(b)芳香族ポリエステル、(B)グラフト共重合体、(C)ポリテトラフルオロエチレン、および(D)リン酸エステルを表1に示した配合比で混合し、ベント付30mmφ2軸押出機で樹脂温度240℃で溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状のポリマを製造した。次いで射出成形機により、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で試験片を成形し、次の条件で物性を測定した。
1/4”アイゾット衝撃強さ:ASTM D256-56A
1/8”アイゾット衝撃強さ:ASTM D256-56A
曲げ弾性率:ASTM D790
耐熱性:ASTM D648(試験片厚み1/4”、18.56kg/cm2荷重)
MFR:JIS K7207(250□、荷重:2160g)大きい値を示す方が成形時の流動性良好であることを意味する。
難燃性:UL94規格に従い、垂直型燃焼テストを1/16”×1/2”×5”の燃焼試験片で行った。
【0057】測定結果を表2に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】比較例1〜11
参考例で準備した(a)芳香族ポリカーボネート、(b)芳香族ポリエステル、(B)グラフト共重合体、(C)ポリテトラフルオロエチレン、および(D)リン酸エステルを表1に示した配合比で混合し、実施例と同様の方法で各物性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0061】表2の結果から次のことが明らかである。本発明の樹脂組成物(実施例1〜11)はいずれも耐衝撃性、剛性、流動性(MFR値)および難燃性が均衡してすぐれる。
【0062】一方、樹脂混合物(A)中の芳香族ポリカーボネート(a)の配合量が95重量%を越える場合(比較例1,9)は剛性が劣り、10重量%未満の場合(比較例2)は耐衝撃性、難燃性が劣り好ましくない。グラフト共重合体(B)の配合量が50重量%を越える場合(比較例4)は難燃性が劣り好ましくない。フッ素系樹脂(C)の配合量が0.01重量部未満の場合(比較例5)は難燃性が劣り、5重量部を越える場合(比較例6)は耐衝撃性、流動性が悪くなるので好ましくない。リン酸エステル化合物(D)の配合量が1重量部未満の場合(比較例7)は難燃性が劣り、40重量部を越える場合(比較例8)は耐衝撃性が悪くなり好ましくない。リン酸エステルとしてオリゴマーを用いた場合(比較例11)は、本発明のリン酸エステルを用いた実施例2に比較して、曲げ弾性率および耐熱性の面で劣る。
【0063】実施例12〜22
参考例で準備した(a)芳香族ポリカーボネート、(b)芳香族ポリエステル、(C)ポリテトラフルオロエチレンまたはシリコーン、ならびに(D)リン酸エステルを表3に示した配合比で混合し、ベント付30mmφ2軸押出機で樹脂温度250℃で溶融混練、押出を行うことによって、ペレット状のポリマを製造した。次いで、射出成形機により、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で試験片を成形し、実施例1と同じの条件で物性を測定した。得られた試験片の測定結果を表4に示した。
【0064】比較例12〜18
参考例で準備した(a)芳香族ポリカーボネート、(b)芳香族ポリエステル、(C)ポリテトラフルオロエチレンおよび(D)リン酸エステルを表3に示した配合比で混合し、実施例11と同様に試験片を作成し、得られた試験片の物性の測定を行った。測定結果を表4に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】表4の結果から次のことが明らかである。本発明の樹脂組成物12〜22はいずれも耐衝撃性と剛性のバランスおよび難燃性が優れる。
【0068】一方、芳香族ポリカーボネート(A)の配合量が95重量%を越える場合(比較例12)は剛性が劣り、10重量%未満の場合(比較例13)は耐衝撃性、剛性、難燃性が劣り好ましくない。フッ素樹脂(C)の配合量が0.01重量部以下の場合(比較例14)は難燃性が劣り、5重量部を越える場合(比較例15)は耐衝撃性が悪くなるので好ましくない。リン酸エステル化合物(D)の配合量が1重量部未満の場合(比較例16)は、難燃性が劣り、40重量部を越える場合(比較例17)は耐衝撃性が悪く好ましくない。また、本発明で特定されないリン酸エステル化合物を使用した場合(比較例18)には耐熱性が悪くなり好ましくない。リン酸エステルとしてオリゴマーを用いた場合(比較例18)は、本発明のリン酸エステルを用いた実施例14に比較して、曲げ弾性率および耐熱性の面で劣る。
【0069】
【発明の効果】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、臭素および塩素化合物を必要とせず、すぐれた難燃性、耐衝撃性、剛性、耐熱性、流動性を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-31 
出願番号 特願平7-104506
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 534- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 大熊 幸治
船岡 嘉彦
登録日 2002-12-06 
登録番号 特許第3376753号(P3376753)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物  

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