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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
管理番号 1122878
異議申立番号 異議2003-70754  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-08-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-17 
確定日 2005-07-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3330098号「黒原着ポリアミド繊維及びその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3330098号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3330098号は、平成11年2月2日に特許出願され、平成14年7月19日にその特許権の設定の登録がされ(請求項の数1)、その後、特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがされ、その後、平成16年10月15日付けで特許取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月22日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求の内容
この訂正請求は、明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、具体的には、以下の訂正事項a〜cを求めるものと認める。
(1)訂正事項a:
特許請求の範囲の請求項1について、
「チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0g/d以上、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維。」を、
「チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維。」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落0010について、
「 すなわち、本発明は、次の(A)、(B)を要旨とするものである。
(A)チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0g/d以上、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維。
(B)ポリアミドにチャンネルタイプのカーボンブラック、銅化合物、イミダゾール化合物を添加するに際して、下記(1)又は(2)の方法で添加、混合した後、溶融紡糸を行う(A)記載の黒原着ポリアミド繊維の製造方法。」を、
「 すなわち、本発明は、チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維を要旨とするものである。」と請求する。

(3)訂正事項c
明細書の段落0021について、
「 耐候試験後の強力保持率が90%未満であると、屋外で使用するうちに強度が低下し、産業資材用として十分な耐久性を有しないものとなる。さらに、本発明の黒原着ポリアミド繊維は、強度が8.0g/d以上であり、より産業資材用途に適するためには、強度が8.4〜10.0g/dであることが好ましい。伸度は19〜27%程度であることが好ましい。」を、
「 耐候試験後の強力保持率が90%未満であると、屋外で使用するうちに強度が低下し、産業資材用として十分な耐久性を有しないものとなる。さらに、本発明の黒原着ポリアミド繊維は、強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%であり、より産業資材用途に適するためには、強度が8.4〜10.0g/dであることが好ましい。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、黒原着ポリアミド繊維を特定するための組成以外の要件として、訂正前の「強度が8.0g/d以上、耐候試験後の強力保持率が90%以上」を、「強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%、耐候試験後の強力保持率が90%以上」と訂正し、強度の下限値及び耐候試験後の強力保持率の下限値に加えて、強度の上限値及び伸度の上下限値を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、訂正前の段落0021の「耐候試験後の強力保持率が90%未満であると、屋外で使用するうちに強度が低下し、産業資材用として十分な耐久性を有しないものとなる。
さらに、本発明の黒原着ポリアミド繊維は、強度が8.0g/d以上であり、より産業資材用途に適するためには、強度が8.4〜10.0g/dであることが好ましい。伸度は19〜27%程度であることが好ましい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、本件発明の要旨に関する記載において、訂正前の請求項1に係る発明の黒原着ポリアミド繊維に加えて、黒原着ポリアミド繊維の製造方法に関する記載があったものを、訂正事項aによる特許請求の範囲の減縮に伴って、訂正後の請求項1に係る発明の黒原着ポリアミド繊維に関する記載のみに記載を整理することにより、訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、「(1)訂正事項aについて」で述べたと同様の理由により、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、本件発明の黒原着ポリアミド繊維の強度及び伸度についての特定及び好ましい態様に関する記載を、訂正事項aによる特許請求の範囲の減縮に伴って、訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、「(1)訂正事項aについて」で述べたと同様の理由により、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
「2.訂正の適否についての判断」で述べたとおり、訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。」)は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のものと認める。
「チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議の申立て理由の概要及び取消理由通知の概要
4-1-1.特許異議の申立て理由の概要
申立人は、以下の甲第1〜3号証、及び参考資料1〜3を提出して、訂正前の本件発明は、甲第1及び第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反したものであって、特許法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきである旨を主張している。

甲第1号証: 特開平6-341016号公報
甲第2号証: 特開昭62-133108号公報
甲第3号証: 特開平9-78417号公報
参考資料1: 繊維学会編「繊維便覧 原料編」(丸善株式会社、昭和43年11月30日)第632ページ
参考資料2: 山田桜編「プラスチック配合剤-基礎と応用」(株式会社大成社、昭和46年7月10日初版第2刷)第263ページ
参考資料3:特開平2-169736号公報

4-1-2.取消理由通知の概要
平成14年4月12日付けの明細書の補正のうち、特許請求の範囲の請求項1、段落0010、及び段落0021についての補正は、願書に最初に添付した明細書の記載した事項の範囲内においてしたものではないから、当該明細書の補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号の規定に該当し、これを取り消すべきものである、というにある。

4-2.甲号各証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある。
ア: 「【請求項1】 ポリアミド繊維中に、300mμ以下に微分散されたカーボンブラック粒子を含有し、強度8.0g/d以上、伸度22%以上の特性を有することを特徴とする高タフネス黒原着ポリアミド繊維。
【請求項2】 カーボンブラック粒子が、チャンネル法で製造されたカーボンブラックであることを特徴とする請求項1記載の高タフネス黒原着ポリアミド繊維。
【請求項3】 カーボンブラック粒子を、0.2〜1.0重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の高タフネス黒原着ポリアミド繊維。」(特許請求の範囲の請求項1〜3)
イ: 「【実施例1〜3】 硫酸相対粘度3.4のナイロン6チップに、チャンネルタイプのカーボンブラック(" スペシャルブラック" )を20重量%、およびエチレンビスステアリルアミドを2重量%混合してマスターチップを製造した。
上記マスターチップ1重量部と、マスターチップに用いたと同じナイロン6チップ39重量部を…溶融し…紡糸した。…上記の方法により、840D-28filの黒原着ポリアミド繊維が得られた。
この黒原着ポリアミド繊維について、マスターチップ組成、黒原着ポリアミド繊維成分および5%ストレッチ時張力を表1に、また繊維物性およびカーボンブラックの分散性を表2に、それぞれ実施例1として示した。」(段落0051〜0059)
ウ: 「また、実施例1と同様チャンネルタイプカーボンブラックを用い、表1に示したように若干条件を変更したマスターチップを用い、同様に製糸した結果を、表1および表2に実施例2、実施例3として示した。
表2の結果から明らかなように、この実施例1および実施例2における黒原着ポリアミド繊維も、高タフネスで、かつカーボンブラックの分散性がよく、ロール摩耗を生じることかせなく、しかもすぐれた耐候性を有するものであった。」(段落0062〜0063)
エ: 「【表2】」において、「実施例1」〜「実施例3」の「繊維物性」の「耐候性強力保持率(%)」が「93.2」、「92.8」、「91.7」であることが記載されている。(段落0064の表2)

甲第2号証には、以下の記載がある。
オ: 「繊維自身の相対粘度…が2.3以上、切断強度が11g/d以上…のポリアミド繊維を収縮処理して、切断強度が11g/d以上、タフネスインデックスTIが55.0以上…のポリアミド繊維を得ることを特徴とする高強度高タフネスポリアミド繊維の製造方法。…で表す。」(特許請求の範囲の第1項)
カ: 「(産業上の利用分野)
本発明は、高強度、高タフネスポリアミド繊維の製造方法に関し、特にタイヤコード、ベルト等の産業資材用途の補強用繊維あるいは…テント用布帛に好適な繊維の製造方法である。」(第2ページ下左欄第17行〜上右欄第3行)
キ: 「これ等のポリアミドには必要に応じて艶消し剤、顔料、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤…を配合することができ、配合の如何によって本発明の特性に重大な悪影響を与えるもの以外は、全て利用できる。」(第3ページ下左欄第10〜15行)
ク: 「本発明のポリアミド繊維を産業用途に用いる場合は、熱、光、酸素等に対して十分な耐久性を付与する目的でポリアミドに酸化防止剤を加えることが好ましい。この酸化防止剤として銅塩、例えば酢酸銅…ステアリン酸銅、および各種銅塩と有機化合物との錯塩、例えば8-オキシキノリン銅、2-メルカプトベンゾイミダゾールの銅錯塩、好ましくは…、2-メルカプトベンゾイミダゾールの沃化第一銅錯塩等や、アルカリまたはアルカリ土金属のハロゲン化物…有機ハロゲン化物…リン化合物…およびフェノール系抗酸化剤…やアミン系抗酸化剤…、好ましくはヨウ化カリウム、2-メルカプトベンゾイミダゾール等がある。」(第3ページ下左欄第16行〜第4ページ上左欄第14行)
ケ: 「酸化防止剤の含有量は銅塩は銅として10〜300ppm、好ましくは50〜200ppm、他の酸化防止剤は0.01〜1%、好ましくは0.03〜0.5%の範囲である。酸化防止剤は好ましくは通常銅塩と他の酸化防止剤の1種または2種以上を組合せて使用することが好ましい。」(第4ページ上左欄第17行〜上右欄第2行)

甲第3号証には、以下の記載がある。
コ: 「【請求項1】 銅化合物とカーボンブラックまたはチタンブラックが微分散され、単糸繊度が3デニール〜10デニール、トータル繊度が420デニール〜2000デニール、固有粘度が0.95〜1.65、強度が8.0g/デニール〜10.5g/デニール、破断伸度が15%〜35%である、ポリアミド繊維で編成したネット。
【請求項2】 ポリアミド繊維の銅化合物の含有量が0.01〜0.10重量%でカーボンブラックまたはチタンブラックの含有量が0.3〜1.0重量%である、請求項1に記載されたネット。」(特許請求の範囲の請求項1〜2)
サ: 「本発明は長期間屋外で使用される建築、土木用ネット、スポーツネットに関するものである。さらに詳細にはポリアミド繊維素材より構成され防雪ネット、落石防止ネット、安全ネット、法面防護用ネット、護岸用吸い出し防止ネット等として用いるネットに関するものである。」(段落0001)

参考資料1には、以下の記載がある。
シ: 原液着色糸の着色剤としてはカーボンブラック等があること、が記載されている。(第632ページの「2・8・9 原液着色糸」の項)

参考資料2には、以下の記載がある。
ス: カーボンブラックには、ファーネスブラックとチャンネルブラックがあること。(第263ページの「4・2・6 カーボンブラック」の項)

参考資料3には、以下の記載がある。
セ: 「(1)ベースポリマーが銅化合物を含有するポリアミドポリマーで、且つ耐候性の良好なる着色剤を含有する事を特徴とする原着ポリアミド捲縮糸。
(3)ポリアミド原着糸において、弁柄系着色剤0.02〜0.20wt%、カーボンブラック着色剤0.01〜0.20wt%を含有しており、且つベースポリマーが銅化合物を含有するポリアミドポリマーであることを特徴とする淡褐色原着ポリアミド捲縮糸。」(特許請求の範囲の請求項1、3)

4-3.当審の判断
4-3-1.取消理由通知についての判断
「2.訂正の適否についての判断」で述べたように、特許請求の範囲の請求項1、段落0010、及び段落0021についての訂正が認められる結果、特許請求の範囲の請求項1、段落0010、及び段落0021の記載は、願書に最初に添付した明細書の記載した事項の範囲内のものとなったと認められるから、取消理由通知で指摘した取消理由はもはや存しない。

4-3-2.特許異議の申立て理由についての判断
4-3-2-1.甲第1号証に記載された発明、及び本件発明との対比
摘示ア〜エから、甲第1号証には、「ポリアミド繊維中に、300mμ以下に微分散されたチャンネル法で製造されたカーボンブラック粒子を0.2〜1.0重量%含有し、強度8.0g/d以上、伸度22%以上の特性を有し、耐候性強力保持率(%)が91.7〜93.2の耐候性である高タフネス黒原着ポリアミド繊維。」の発明が記載されているものと認められる。
本件発明(以下、「前者」という。)と甲第1号証に記載された発明(以下、「後者」という。)を対比すると、
後者における「耐候性強力保持率」は、前者における「耐候試験後の強力保持率」に相当するものと認められるから、
両者は、「チャンネルタイプのカーボンブラックを0.2〜1.0重量%含有し、かつ強度が8.0〜10.0g/d以上、伸度が22〜27%、耐候試験後の強力保持率が91.7〜93.2%である黒原着ポリアミド繊維。」で一致し、
前者が、さらに、「銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有」するのに対して、後者では、銅化合物やイミダゾール化合物を含有するかどうかが不明である点(以下、「相違点」という。)で相違する。

4-3-2-2.相違点についての検討
甲第2号証には、摘示オ〜ケ、特に、キ〜ケから、ポリアミド繊維において、顔料や酸化防止剤を必要に応じて配合することができること、並びに、産業用途のポリアミド繊維において、酸化防止剤として、銅として10〜300ppmの銅塩等の銅化合物と0.01〜1%の他の酸化防止剤とを含有させること、及び、他の酸化防止剤として、アルカリ又はアルカリ土金属のハロゲン化物、有機ハロゲン化物、リン化合物、フェノール系抗酸化剤、アミン系抗酸化剤等があり、好ましくはヨウ化カリウム、2-メルカプトベンゾイミダゾール等があることが、記載されている。
しかしながら、甲第2号証において、酸化防止剤としてのイミダゾール化合物は、多くの種類の酸化防止剤の一つとして、2-メルカプトベンゾイミダゾールが例示されているに留まり、顔料としてチャンネルタイプのカーボンブラックを含有するポリアミド繊維において、チャンネルタイプのカーボンブラックとともに、銅及びイミダゾール化合物の特定量を含有することについては記載も示唆もない。
したがって、当業者が、先の相違点を想到することが容易である、ということはできない。

また、甲第3号証には、摘示コ、サから、ポリアミド繊維に、銅化合物とカーボンブラックを配合することが記載されるものの、チャンネルタイプのカーボンブラックと、銅及びイミダゾール化合物の特定量を含有することについての示唆があるとは認められない。
さらに、参考資料1〜3には、摘示シ〜セから、原液着色糸の着色剤としてはカーボンブラック等があること、カーボンブラックには、ファーネスブラックとチャンネルブラックがあること、及び、銅化合物とカーボンブラックを含有するポリアミド繊維が、それぞれ記載されているものの、チャンネルタイプのカーボンブラックと、銅及びイミダゾール化合物の特定量を含有することについての示唆があるとは認められない。

そして、本件発明は、チャンネルタイプのカーボンブラックと、銅及びイミダゾール化合物の特定量を含有することによって、カーボンブラックの凝集やカーボンブラックと銅の凝集に起因する糸切れを生じることなく、高強度で、耐候性、耐久性に優れた黒原着ポリアミド繊維を提供するという、本件明細書記載の効果を奏するものと認められる。

4-3-2-3.まとめ
よって、本件発明は、甲第3号証及び参考資料1〜3を参照しても、甲第1及び第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
黒原着ポリアミド繊維及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐候性や耐久性に優れ、工事用ネット、漁網等の産業資材用途に適した黒原着ポリアミド繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】工事用ネット、漁網等の産業資材用途に用いられる黒原着ポリアミド繊維は、カーボンブラック粒子を含有させることにより得ることができる。特に、これらの用途に用いられる繊維としては、より高強度の繊維が求められている。このような、カーボンブラックを含有し、かつ高強度の繊維を得るためには、高い延伸倍率で延伸することが必要となるが、カーボンブラックは繊維の表面に露出しやすく、しかも、粒子が凝集しやすいため、製糸工程での糸切れを起こしたり、ガイドや延伸ローラ等が摩耗するという問題があり、高延伸倍率での延伸を行うほど、これらの問題が多発する。
【0003】一般に用いられているカーボンブラックは、ファーネスタイプのものであり、そこで、特開平6-341016号公報には、カーボンブラックとしてチャンネル法で製造されたものを使用することによって、上記のような問題を解決して得られた、高強度の黒原着ポリアミド繊維が提案されている。
【0004】この繊維は、チャンネルタイプのカーボンブラックを用いることによって、カーボンブラックの粒子が繊維表面に微分散された高強度の繊維となるものである。しかしながら、この繊維は、耐候性を有するが、カーボンブラック特有の耐候性に起因するものであって、十分ではなく、耐候試験後の強力保持率はせいぜい70%程度である。したがって、産業資材用途として用いる場合には、耐久性に劣るという問題がある。
【0005】また、特開平2-169736号公報には、銅化合物を含有するベースポリマーを用い、カーボンブラックとべんがら系着色剤とを含有する淡褐色原着ポリアミド捲縮糸が記載されている。この捲縮糸は、銅化合物を含有するベースポリマーと耐候性の良好な着色剤を組み合わせて用いることによって、鮮明な色相に着色され、かつ耐候性も向上した繊維となるものである。
【0006】このように、産業資材用途に用いられるポリアミド繊維に、耐候性を向上させるために銅化合物を添加することも知られているが、銅化合物は凝集しやすい性質を持ち、カーボンブラックと併用するとさらに凝集が起こりやすくなる。上記の捲縮糸は、銅化合物を含有するベースポリマーとカーボンブラックを含有するポリマーとを混合して紡糸して得られるものであるため、カーボンブラックと銅化合物とが紡糸パック内で凝集して濾圧が上昇し、紡糸時に糸切れが発生したり斑のある繊維となり、高強度の繊維が得られないという問題があった。
【0007】また、このようなカーボンブラックと銅化合物の凝集は、ポリアミドにカーボンブラックを分散させた時により微分散化するカーボンブラック種、例えばチャンネルタイプのカーボンブラックを用いる場合により顕著となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述した問題点を解決し、カーボンブラックの凝集によるガイドや延伸ローラ等の摩耗やこれに起因する製糸工程における糸切れ、及びカーボンブラックと銅化合物の凝集による紡糸時の糸切れを生じることがなく、高強度で、かつ耐候性、耐久性にも優れ、産業資材用途に好適な黒原着ポリアミド繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究の結果、チャンネルタイプのカーボンブラックを使用することによって、高延伸倍率での延伸が可能となり、かつイミダゾール化合物を銅化合物と併用することによって、チャンネルタイプのカーボンブラックにおいて特に顕著な銅化合物の凝集を防止することができ、さらには、カーボンブラックの分散性もより向上させることができ、強伸度及び耐候性に優れた繊維となるということを見出し、本発明に到達した。
【0010】すなわち、本発明は、チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有し、かつ強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%、耐候試験後の強力保持率が90%以上であることを特徴とする黒原着ポリアミド繊維を要旨とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】次に、本発明について詳細に説明する。本発明の黒原着ポリアミド繊維は、チャンネルタイプのカーボンブラックを0.1〜1.5重量%、銅化合物を0.01〜0.1重量%、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有するものである。チャンネルタイプのカーボンブラックとは、チャンネル法で製造されたカーボンブラックである。カーボンブラックにはチャンネルタイプとファーネスタイプのものがあり、従来、黒原着ポリアミド繊維用には、ファーネスタイプのカーボンブラックが用いられていた。
【0012】ファーネスタイプのカーボンブラックを含むポリアミド繊維を製造すると、製糸工程において糸条が接触する各種ローラやガイド、熱板等がカーボンブラックによって摩耗され、このように摩耗された部分に糸条が接触することによって、糸切れが多発する。本発明の黒原着ポリアミド繊維においてチャンネルタイプのカーボンブラックを用いると、その理由は明らかではないが、カーボンブラックが繊維中に均一に分散されやすいため、上記のようなカーボンブラックによる各種ローラやガイド、熱板等の摩耗がほとんどなく、操業性よく生産することができる。特に、カーボンブラックによる各種ローラやガイド、熱板等の摩耗の発生が多い直接紡糸延伸法において、チャンネルタイプのカーボンブラックを用いることは有効である。
【0013】本発明において用いるチャンネルタイプのカーボンブラックとしては、粒径が0.1〜0.5μm程度のものを用いることが好ましい。
【0014】チャンネルタイプのカーボンブラックは、0.1〜1.5重量%含有させる必要がある。含有量が0.1重量%未満であると、繊維が十分に黒に着色されず、含有量が1.5重量%を超えると、カーボンブラックが繊維中に良好に分散されないために、製糸工程においてローラやガイド等の摩耗を引き起こしたり、強度等の糸質性能が低い繊維となる。
【0015】さらに、本発明の黒原着ポリアミド繊維は、銅化合物を0.01〜0.1重量%含有するものである。銅化合物は、耐候性に優れた繊維とするために含有させるものであり、よう化銅や塩化銅等が好ましく用いられる。銅化合物の含有量が0.01重量%未満であると、繊維の耐候性が十分ではなく、含有量が0.1重量%を超えると、カーボンブラックと銅化合物が凝集し、糸切れの原因となったり、得られる繊維の強度等の性能が低くなる。
【0016】チャンネルタイプのカーボンブラックは、ファーネスタイプのカーボンブラックよりも銅化合物との凝集が生じやすい。したがって、本発明においては、銅化合物とカーボンブラックとの凝集を防ぐために、イミダゾール化合物を0.05〜0.5重量%含有させる必要がある。
【0017】従来提案されている産業資材用ポリアミド繊維において、銅化合物の分散性をよくするためにイミダゾール化合物を加えることは公知である。本発明においては、イミダゾール化合物を加えることによって、銅化合物の分散性を向上させるのみならず、銅化合物とカーボンブラックとの凝集を防ぐことができ、さらには、カーボンブラックの分散性をも向上させることができる。
【0018】これらの相乗効果によって、本発明のポリアミド繊維は、カーボンブラックと銅化合物がより微分散されて繊維中に含有されることとなり、チャンネルタイプのカーボンブラックと銅化合物を含有する繊維のみならず、チャンネルタイプのカーボンブラックのみを含有する繊維よりも強伸度に優れた繊維となる。
【0019】そこで、イミダゾール化合物の含有量が0.05重量%未満であると、上記のような効果を奏することができず、一方、イミダゾール化合物の含有量が0.5重量%を超えると、イミダゾール化合物と銅化合物とが反応して化合物を生成し、紡糸時に糸切れが多発したり、得られる繊維の性能が低下する。イミダゾール化合物としては、2-メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0020】本発明の黒原着ポリアミド繊維は、上記のようにチャンネルタイプのカーボンブラック、銅化合物及びイミダゾール化合物の3者を含有し、それによる相乗効果により強伸度が向上するとともに耐候試験後の強力保持率が90%以上、さらに好ましくは、保持率が94%以上のものとなる。本発明における耐候試験とは、JIS L-1013 7 17に基づき、サンシャインウエザーメーターを用いて、63℃で1000時間照射を行ったものである。
【0021】耐候試験後の強力保持率が90%未満であると、屋外で使用するうちに強度が低下し、産業資材用として十分な耐久性を有しないものとなる。さらに、本発明の黒原着ポリアミド繊維は、強度が8.0〜10.0g/d、伸度が19〜27%であり、より産業資材用途に適するためには、強度が8.4〜10.0g/dであることが好ましい。
【0022】次に、本発明の黒原着ポリアミド繊維の製造方法について説明する。本発明の方法においては、ポリアミドにチャンネルタイプのカーボンブラック、銅化合物、イミダゾール化合物を添加するに際して、下記(1)又は(2)の方法で混合した後、溶融紡糸を行う。
(1)カーボンブラック、銅化合物、イミダゾール化合物を同時にポリアミドに添加する。
(2)銅化合物とイミダゾール化合物を混合したものにカーボンブラックを加え、ポリアミドに添加する。
【0023】すなわち、上記(1)、(2)の添加方法においては、エクストルーダ内でポリアミドチップにこれらを直接加えて溶融混合する方法と、マスターチップを作成し、これにポリアミドチップを混合(ポリアミドチップで希釈)する方法があるが、これらの化合物の凝集をより少なくするには、後者の方が好ましい。
【0024】具体的には、(1)の方法では、ポリアミドにチャンネルタイプのカーボンブラックと銅化合物及びイミダゾール化合物を同時に添加しマスターチップとし、これにポリアミドチップを加えて溶融混合する。(2)の方法では、ポリアミドにチャンネルタイプのカーボンブラックを添加しマスターチップとしたものと、ポリアミドに銅化合物とイミダゾール化合物を添加しマスターチップとしたものを混合し、これにポリアミドチップを加えて溶融混合する。
【0025】これら以外の方法としては、ポリアミドにチャンネルタイプのカーボンブラックを添加しマスターチップとしたものと、ポリアミドに銅化合物を添加しマスターチップとしたものを、それぞれポリアミドで希釈しながら、イミダゾール化合物を添加する方法もあるが、銅化合物はもともと凝集しやすく、マスターチップ作成時の操業性が低下するため、銅化合物とイミダゾール化合物を同時に添加する上記(1)又は(2)の方法で行うことが好ましい。中でも、経済性を考慮した場合(1)の方法がより好ましい。
【0026】また、ポリアミドにチャンネルタイプのカーボンブラックと銅化合物を添加し、マスターチップを作成すると、カーボンブラックと銅化合物の凝集がマスターチップ内で生成しやすく、凝集が生じると、後にイミダゾール化合物を添加しても容易に凝集が解消しないため、紡糸時、紡糸ノズルでの濾圧上昇を回避することができず、操業性が著しく低下する。また、得られる繊維は、強伸度、耐候性ともに劣るものとなる。
【0027】以上のように3成分を混合させたポリアミドを溶融混合した後、溶融紡糸を行う。溶融紡糸の方法は特に限定されるものではなく、通常の溶融紡糸装置を用いて行えばよい。本発明のポリアミド繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、丸断面のみならず、三角や四角形等の異形断面のものでもよいため、異形断面形状の繊維とする場合は、そのような形のものが得られるような紡糸口金を用いて溶融紡糸を行う。
【0028】溶融紡糸された糸条は、冷却し、固化させた後、延伸や熱処理を行い、巻き取る。本発明の方法によれば、冷却、固化後の未延伸糸糸条を一旦巻き取った後、延伸、熱処理を行う二工程法でも、一旦巻き取ることなく連続して延伸、熱処理を行う一工程法のどちらを採用してもよい。
【0029】なお、本発明のポリアミド繊維は、カーボンブラック、銅化合物ともにポリマー中に微分散されているので、高速での引き取りが行われる一工程法でも、糸切れ等の発生がなく、操業性よく製造することができる。
【0030】一工程法の場合は、350〜800m/分程度で引き取り、ローラ間で4〜6倍に延伸し、巻き取ればよく、二工程法の場合は、400〜800m/分程度で一旦未延伸糸を巻き取った後、ローラ間で4〜6倍に延伸し、200〜500m/分程度で巻き取ればよい。
【0031】本発明で用いるポリアミドポリマーとしては、ナイロン6、ナイロン66及びナイロン46等が挙げられ、これらを組み合わせた共重合ポリマーやブレンドポリマーでもよい。また、結節強度を上げるために、長鎖アルキル基を有するビスアミド化合物(例えば、メタキシリレンビスステアリルアミド、メタキシリレンビスオレイルアミド、エチレンビスステアリルアミド)等の第3成分を加えてもよく、さらには、効果を損なわない範囲で艶消剤、難燃剤、顔料等の種々の添加物を添加してもよい。
【0032】
【実施例】次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値は、下記の方法で測定と評価を行った。
(1)強度、伸度
JIS L-1017に基づいて測定した。
(2)耐候試験後の強力保持率(%)
前記のような条件で耐候試験を行い、試験前後の繊維の強度を(1)の方法で測定し、算出した。
(3)ノズル交換回数
30日間連続して紡糸を行った間に、紡糸ノズルの濾圧が上昇したために糸切れが生じ、ノズルを交換した回数である。
【0033】実施例1〜3、比較例1〜3
相対粘度(96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。)3.5のナイロン6に、チャンネルタイプのカーボンブラック20重量%、よう化銅0.75重量%、2-メルカプトベンズイミダゾール2.5重量%を溶融混合してマスターチップを製造した。表1に示すような含有量のカーボンブラック、よう化銅、イミダゾール化合物を有する繊維となるように、マスターチップとナイロン6チップの混合量を種々変更して混合しながら、285℃で溶融を行なった。溶融ポリマーを紡糸パック内に配置した平均孔径20μm程度の金属不織布を通して濾過した後、孔径0.35mm、孔数210の口金を用いて紡糸した。紡糸した糸条を冷却固化させた後、非水系油剤を付与し、引取ローラ(速度520m/分)で引き取り、引き続き、加熱ローラ群で5.2倍に延伸した後、2700m/分の速度で巻き取り、1430d/210fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0034】実施例4〜5
表1に示すような含有量のカーボンブラック、よう化銅、イミダゾール化合物を有する繊維となるように、実施例1と同様のマスターチップとナイロン6チップの混合量を種々変更して混合し、また、湿結節強度を向上させるために、メタキシリレンビスステアリルアミドも混合(実施例4:0.2重量%、実施例5:0.5重量%)した後、270℃で溶融を行った。溶融ポリマーを紡糸パック内に配置した平均孔径20μm程度の金属不織布を通して濾過した後、孔径0.70mm、孔数42の口金を用いて紡糸した。紡糸した糸条を冷却固化させた後、非水系油剤を付与し、引取ローラ(速度520m/分)で引き取り、引き続き、加熱ローラ群で4.5倍に延伸した後、2330m/分の速度で巻き取り、1260d/42fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0035】比較例4
相対粘度3.5のナイロン6にチャンネルタイプのカーボンブラックを20重量%、よう化銅を0.75重量%溶融混合してマスターチップを製造した。表1に示すような含有量のカーボンブラック、よう化銅を有する繊維となるように、マスターチップとナイロン6チップを混合しながら、285℃で溶融を行なった。溶融ポリマーを実施例1と同様の条件で紡糸、延伸を行い、1430d/210fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0036】比較例5
相対粘度3.5のナイロン6にチャンネルタイプのカーボンブラックを20重量%溶融混合してマスターチップを製造した。表1に示すような含有量のカーボンブラックを有する繊維となるように、マスターチップとナイロン6チップを混合しながら、285℃で溶融を行なった。溶融ポリマーを実施例1と同様の条件で紡糸、延伸を行い、1430d/210fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0037】比較例6
相対粘度3.5のナイロン6にチャンネルタイプのカーボンブラックを20重量%、よう化銅を0.75重量%溶融混合してマスターチップを製造し、これにナイロン6チップとイミダゾール化合物を加え、表1に示すような含有量のカーボンブラック、よう化銅、イミダゾール化合物を有する繊維となるように混合しながら溶融を行なった以外は、実施例1と同様の条件で紡糸、延伸を行い、1430d/210fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0038】比較例7
相対粘度3.5のナイロン6にチャンネルタイプのカーボンブラックを20重量%、よう化銅を0.75重量%溶融混合してマスターチップを製造した。表1に示すような含有量のカーボンブラック、よう化銅を有する繊維となるように、マスターチップとナイロン6チップを混合しながら、285℃で溶融を行なった。溶融ポリマーを実施例4と同様の条件で紡糸、延伸を行い、1260d/42fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0039】比較例8
相対粘度3.5のナイロン6にチャンネルタイプのカーボンブラックを20重量%、よう化銅を0.75重量%溶融混合してマスターチップを製造し、これにナイロン6チップとイミダゾール化合物を加え、表1に示すような含有量のカーボンブラック、よう化銅、イミダゾール化合物を有する繊維となるように混合しながら溶融を行なった以外は、実施例4と同様の条件で紡糸、延伸を行い、1260d/42fの黒原着ポリアミド繊維を得た。
【0040】実施例1〜5、比較例1〜8で得られた繊維の強度、伸度、強力保持率、ノズル交換回数の評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】表1より明らかなように、実施例1〜5で得られた本発明の黒原着繊維は、強度が高く、耐候性試験後の強力保持率も高いものであり、耐久性にも優れたものであった。また、ローラやガイド等の摩耗もなく、ノズル交換回数も少なく操業性にも優れていた。一方、カーボンブラックの含有量が多過ぎた比較例1の繊維は、カーボンブラックが良好に分散されなかったため、ローラやガイド等の摩耗があり、強度の低い繊維となった。比較例2の繊維は、よう化銅の含有量が少な過ぎたため、耐候試験後の強力保持率が低いものであった。比較例3の繊維は、イミダゾール化合物の含有量が多過ぎたため、イミダゾール化合物とよう化銅が反応して化合物を生成し、紡糸時に糸切れが生じ、強度が低くなった。比較例4及び比較例7の繊維は、イミダゾール化合物を含有しない繊維であったため、カーボンブラックと銅化合物とが紡糸パック内で凝集して濾圧が上昇し、ノズル交換回数が多く、強度も低いものとなった。比較例5の繊維は、よう化銅とイミダゾール化合物ともに含有しない繊維であったため、耐候試験後の強力保持率が低いものであった。比較例6及び比較例8では、銅化合物とカーボンブラックとを混合したマスターチップを作成し、これにイミダゾール化合物を添加したため、銅化合物とカーボンブラックの凝集が解消されず、濾圧が上昇し、ノズル交換回数が多く、操業性が悪かった。また、得られた繊維は強度、強力保持率ともに低いものとなった。
【0043】
【発明の効果】本発明の黒原着ポリアミド繊維は、カーボンブラック及び銅化合物の分散性に優れているため、製糸工程において、ガイドや延伸ローラ等の摩耗やこれに起因する糸切れがなく、さらには、カーボンブラックと銅化合物の凝集も生じないので、強伸度特性に優れ、耐候性にも優れており、特に、耐候後の強力保持率が高いので、耐久性が要求される産業資材用途に好適に用いることができる。そして、本発明の黒原着ポリアミド繊維の製造方法によれば、カーボンブラックと銅化合物の凝集を防ぎ、紡糸ノズルの濾圧上昇によるノズル交換回数の増大にともなう操業性の低下の発生もなく、本発明のポリアミド繊維を得ることが可能となる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-20 
出願番号 特願平11-25023
審決分類 P 1 651・ 121- YA (D01F)
最終処分 維持  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 鴨野 研一
野村 康秀
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3330098号(P3330098)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 黒原着ポリアミド繊維及びその製造方法  

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