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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1122887
異議申立番号 異議2003-73306  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2005-06-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3450080号「プロシアニジンを配合した健康食品および医薬品」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3450080号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3450080号に係る発明についての出願は、平成7年2月1日に特願平7-37523号として出願され、平成15年7月11日にその特許の設定登録がなされ、その後、大塚博明、羽鳥修、及び大和田百合子より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年12月25日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)特許請求の範囲の請求項2を
「【請求項1】プロシアニジンB-1を主成分として含有することを特徴とする抗アレルギー剤。」と訂正する。
(3)【発明の名称】を「プロシアニジンB-1を配合した医薬品」と訂正する。
(4)明細書の段落【0003】を「【発明が解決しようとする課題】これまで我々は、茶葉中の抗アレルギー成分についてヒスタミン遊離抑制作用を指標に検討してきたが、上記カテキン類に加え、(+)カテキンの8位と(-)エピカテキンの4位が結合したカテキン重合体であるプロシアニジンB-1に強いヒスタミン遊離抑制作用を見い出した。
さらにプロシアニジンB-1はエピガロカテキンガレートなどの他のカテキンよりも安定性に優れていることから、プロシアニジンB-1の抗アレルギー剤としての本発明をなすに至ったものである。」と訂正する。
(5)同段落【0004】の「本発明は、プロシアニジンを含有することを特徴とする抗アレルギー剤である。プロシアニジンは(+)カテキンあるいは(-)エピカテキンの重合体であり、プロシアニジンB-1,B-2,B-3,B-4、B-5,B-6,B-7及びB-8などが挙げられ、」を
「本発明は、プロシアニジンB-1を含有することを特徴とする抗アレルギー剤である。プロシアニジンB-1は(+)カテキンと(-)エピカテキンの重合体であり、」と訂正する。
(6)同段落【0006】及び【0007】の「プロシアニジン」を「プロシアニジンB-1」と訂正する。
(7)同段落【0008】ないし【0022】の記載を削除する。
(8)同段落【0038】の「プロシアニジン」を「プロシアニジンB-1」と訂正する(2ヶ所)。
(9)同段落【0039】の「結果は表1に示すとおり、プロシアニジンは強いヒスタミン遊離抑制作用を示し、特に、プロシアニジンB-1はエピガロカテキンガレートよりも高い抑制率を示した。」を「結果は表1に示すとおり、プロシアニジンB-1はエピガロカテキンガレートよりも高い抑制率を示した。」と訂正する。
(10)同段落【0040】の「実施例-16」を「実施例-1」と訂正する(4ヶ所)。
(11)同段落【0041】の「実施例-25」を「実施例-10」と訂正する(4ヶ所)。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項(1)は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、同(2)は、「含有する」の前に「主成分として」という語句を直列的に加入するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、同(3)乃至(11)は、同(1)及び(2)の訂正と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、上記訂正事項(1)ないし(11)は、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の4,2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.本件発明
上記のとおり、上記訂正が認められるから、訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 プロシアニジンB-1を主成分として含有することを特徴とする抗アレルギー剤。」

2.大塚博明よりの特許異議申立
A.申立ての理由の概要
特許異議申立人 大塚博明は、甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、(1)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証或いは甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである、(2)訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張している。

B.甲各号証の記載内容
甲第1号証(Chem.Pharm.Bull.,vol.33(11),pp.5079-5082(1985))は、タンニン類のヒアルロニダーゼ活性化抑制効果及びラット腸間膜の肥満細胞からの非肉芽形成抑制効果について開示するもので、「タンニン類の不活性ヒアルロニダーゼの活性化抑制効果及び化合物48/80により誘発されるラット腸間膜の肥満細胞からの非肉芽形成の抑制効果を調査し、その結果をそれぞれ図1及び図2に示した。」(5079頁下から5〜3行)、「プロシアニジンB-2は、ヒアルロニダーゼの活性化抑制効果を有する。」(図1)及び「タンニン類は、新規な抗炎症剤及び抗アレルギー剤の開発のために有用な出発物質である。」(5081頁2〜3行)が記載されている。
甲第2号証(OPC in practice(bioflavanols and their application),Bert Schwitters著Alfa Omega Publishers発行,pp.48-53)には、「バイオフラボノール(OPC)は、上記活性化剤を阻止し、ヒアルロニダーゼを放出させない。このようにして、OPCは、間接的ではあるが基礎的な機構により、その抗ヒスタミン活性を発揮する。(図・・・省略)上記は、OPCが他の抗アレルギー物質と共に分類されている理由を明瞭に示している。ヒアルロニダーゼがヒスタミン放出過程に参加していることは、以下によっても確認される:『48/80』と称される化学物質は、多くの実験においてヒスタミンを刺激するために用いられる。『48/80』は、ヒアルロニダーゼの活性化剤として知られており、そのことは、ヒアルロニダーゼとヒスタミンの関係を説明している。」(51頁本文5〜末行)及び「プロシアニジン性のオリゴマー自体がHD酵素の活性をも阻害しうることを示すために、Masquelierはブドウ種子から得られたOPCについてもう1つの抗HD試験を行った。当該抽出物は、HDの阻害を通じて、ヒスタミン生産を、実に86%に及ぶまでにも低下させることが認められた。」(52頁下から5〜末行)と記載されている。
なお、甲第3号証及び甲第4号証は、本件出願後に頒布されたものであって、「『OPC』とは、フラバン-3-オ-ルまたはフラバン3,4-ジオ-ルの重合体が2〜4程度であるプロアントシアニジン類化合物を指す。」ことを立証するために提出した証拠である。

C.判断
(1)について
訂正前の本件請求項1に係る発明は、上記訂正により削除されたので、もはや理由がない。
(2)について
甲第1号証には、プロシアニジンB-2が、ヒアルロニダーゼの活性化抑制効果、すなわち、アレルギー発症に関係するヒスタミンの遊離抑制効果を有することが記載されている。しかし、このプロシアニジンB-2は、本件発明に係るプロシアニジンB-1とは別異の物質であり、しかも、特許権者が提出した平成16年12月25日付意見書に記載の「実験成績証明書」によると、プロシアニジンB-1は、B-2或いはB-4に比べ、3倍以上強いヒスタミン遊離抑制作用を示すものと認められるが、このような作用効果を甲第1号証の記載から当業者が予測することは困難であり、甲第1号証の記載を根拠に、本件発明が容易に想到し得たとはいえない。
また、甲第2号証には、OPCが抗ヒスタミン活性を有すること、及びプロシアニジン性のオリゴマーがヒスタミンの生産を低下させることが記載されているが、プロシアニジンB-1について具体的に言及するところは全くない。
そして、プロシアニジンB-1が、他のプロシアニジンより、顕著なヒスタミン遊離抑制効果を有することは、上述のとおりであるから、結局、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3.羽鳥修よりの特許異議申立
A.申立ての理由の概要
特許異議申立人 羽鳥修は、甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、(1)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明である、又は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同条第2項の規定により、特許を受けることができない、(2)訂正前の請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、同法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない、或いは、(3)訂正前の本件特許明細書の記載には不備があり、本件の請求項2に係る特許は、同法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである、
と主張している。

B.甲各号証の記載内容
甲第1号証は、異議申立人 大塚博明の提出した上記甲第1号証と同じであり、上記したとおりのことが記載されている。
甲第2号証(特開平6-113791号公報)は、「ウーロン茎茶抽出物を配合した健康食品および医薬品」に係り、「ウーロン茎茶の抽出物を含有することを特徴とする抗アレルギー剤。」(特許請求の範囲の項「請求項2」)、「ウーロン茎茶抽出物の抽出方法としては、例えば細切した茎を溶媒で抽出する方法が挙げられる。溶媒としては水、エタノール、プロピレングリコール、n-ブタノール、酢酸エチルおよびクロロホルムなどの1種または2種以上の単独あるいは混合溶媒などが挙げられる。抽出は室温で抽出したものでも、加熱抽出したものでもよい。また、溶媒抽出物は必要に応じて濃縮あるいは濃縮乾固することができる。」(段落【0004】)、「実施例-1 ウーロン茎茶の熱水抽出物 ウーロン茎茶を細切し、その20gに蒸留水1000mlを加え100度で5分間煮出すことにより成分を抽出し、得られた抽出液を濾過した後に減圧濃縮し、続いて、凍結乾燥してウーロン茎茶熱水抽出物を得た。凍結乾燥品として、約 12gの抽出物を得た。」(段落【0007】)、及び「実施例-2 ウーロン茎茶のエタノール抽出物 ウーロン茎茶を細切し、その20gに30%エタノール溶液1000mlを加え100度で5分間煮出すことにより成分を抽出し、得られた抽出液を濾過した後に減圧濃縮し、続いて凍結乾燥してウーロン茎茶エタノール抽出物を得た。凍結乾燥品として、約7gの抽出物を得た。」(段落【0008】が記載されている。
甲第3号証(「茶の科学」(1991年10月20日朝倉書店発行)116〜118頁、表4.22)には、茶にはプロシアニジンB-2,3,3´-ジガレート、プロシアニジンB-3などのプロアントシアニジン類が含まれていることが記載されている。

C.判断
(1)について
訂正前の本件請求項1に係る発明は、上記訂正により削除されたので、もはや理由がない。
(2)について
甲第2号証には、ウーロン茎茶の抽出物を含有することを特徴とする抗アレルギー剤が記載されているが、これらは単にウーロン茎茶の抽出物にとどまり、その中に含まれる個々の成分(化合物)について、また、抗アレルギー作用との関連について具体的に言及する記載は何もない。
本件発明は、プロシアニジンB-1という特定の化合物が顕著なヒスタミン遊離抑制作用を有するとの知見に基づき、ウーロン茎茶の熱水抽出物からプロシアニジンB-1を単離精製し、該プロシアニジンB-1を主成分とする抗アレルギー剤としたものであるから、ウーロン茎茶の抽出物を含有する抗アレルギー剤とは、別異の発明を構成しているというべきである。
そうすると、本件発明は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
(3)について
特許異議申立人は、訂正前の請求項2(訂正後の請求項1)に係る「プロシアニジンB-1」としては、茶の抽出物から単離精製されたプロシアニジンB-1しか記載されておらず、また、茶の抽出物から単離精製されたプロシアニジンB-1を含有する抗アレルギー剤の効果しか記載されていないので、請求項に係る「プロシアニジンB-1」は、「茶の抽出物から単離精製されたプロシアニジンB-1」と限定すべきであると主張している。
しかし、本件明細書の「製造例-1」によると、プロシアニジンB-1は、ウーロン茎茶から調製しているが、最終生成物に関し、「カテキン類の溶出は、TLC分析(プレート:シリカゲル60、展開溶媒:ベンゼン・ギ酸エチル・ギ酸(2:7:1)、発色薬:アニスアルデヒドあるいは塩化第二鉄)により確認し、1スポットを与える画分を集め、濃縮および凍結乾燥して(+)カテキンの8位と(-)エピカテキンの4位が結合したプロシアニジンB-1を250mg得た。・・・(略)・・・それぞれの構造は、比旋光度及びNMRスペクトルを測定し、文献値と比較することにより同定した。」と記載され、この記載によると、プロシアニジンB-1は、十分に純化された単一の物質として得られていると解することができる。
そうすると、本件明細書において、「プロシアニジンB-1」を「茶の抽出物から単離精製された」と限定して記載すべき必要性は全くないというべきである。
したがって、上記特許異議申立人の主張は失当である。

4.大和田百合子よりの特許異議申立
A.申立ての理由の概要
特許異議申立人 大和田百合子は、甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、(1)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、(2)訂正前の請求項2に係る発明は、甲第3号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と主張している。
B.甲各号証の記載内容
甲第1号証は、特許異議申立人 羽鳥修が提出した甲第2号証と同じであり、上記したとおりのことが記載されている。
甲第2号証(Chem.Pharm.Bull.,vol.37(12),pp.3255-3263(1989))には、ウーロン茶抽出物中のウーロン茶ポリフェノール類に関し「商用のウーロン茶(商品名;shiraore)は、80%の含水アセトンで抽出され、その抽出物は、チャート1に示すセファデックスLH-20デキストランと逆相ゲルとで繰り返しクロマトグラフにかけられ、32の化合物(1-22、26、27、29-36)が得られた。それら化合物のうち、化合物1-21は、それぞれ、プロシアニジンB-2(1)、プロシアニジンB-2 3,3’-ジ-O-ガレート(2)、・・・プロシアニジンB-3(7)、プロシアニジンB-4(8)、・・・プロシアニジンB-5 3,3’-ジ-O-ガレート(12)・・・と同定された。」(3255頁)と記載されている。
甲第3号証(PYCNOGENOL Keats Publishing,Inc.(1994)翻訳本 株式会社トレードピア(平成8年8月30日発行))には、「ピクノジェノールは、単にカテキンやエピカテキン等の生体フラボノイド類を含有するというだけでなく、有機酸と共にカテキンやエピカテキンの二量体及び低重合体を含有するので、特別に重要なものです。」(26頁)、「米国では、特に、アレルギーについてはしばしば抗ヒスタミン剤で治療を行います。・・・(略)・・・ピクノジェノールといくつかの他の生体フラボノイド類はその作用において、初期段階でヒスタミンの遊離を阻止し、その結果ヒスタミンの有害影響を抑制します。・・・(略)・・・ピクノジェノールは、ヒスタミンの利用能を抑制する作用がありますが、これは顆粒中へのヒスタミン取り込みと貯蔵を増加させることによるのです。」(54頁)、及び「1985年、カケガワ博士(・・・)と共同研究者達は、カテキン及び二量体プロアントシアニジンはマスト細胞の脱顆粒を阻止すると報告しています。」(54〜55頁)と記載されている。
甲第4号証(Bull.Soc.Pharm.Bordeaux,1990,129,pp.51-65)には、プロアントシアニジン-二量体として、(+)-カテキン、(-)-エピカテキンの組み合わせにより、B1、B2、B3、B4等があること、及び松樹皮中のプロシアニドール(二量体)の割合は、E-C、すなわち、プロアントシアニジンB1が最大であることが記載されている。

C.判断
(1)について
訂正前の請求項1に係る発明は、上記訂正により削除されたので、もはや理由がない。
(2)について
甲第3号証には、二量体プロアントシアニジンはマスト細胞の脱顆粒を阻止する、すなわち、ヒスタミンの遊離を防止すること、及び、甲第4号証には、松樹皮中のプロシアニドール(二量体)の割合は、プロアントシアニジンB1(プロシアニジンB-1)が最大であることが記載されているが、プロシアニジンB-1が、抗アレルギー作用を有すること、しかも、その作用は、他のプロシアニジン、例えば、「B-4」に比べ顕著であることについて開示するところはない。
そうすると、本件発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人 大塚博明、羽鳥修及び大和田百合子の主張する理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プロシアニジンB-1を配合した医薬品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】プロシアニジンB-1を主成分として含有することを特徴とする抗アレルギー剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アレルギー疾患の治療改善を目的とする抗アレルギー剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
抗アレルギー作用を示す茶葉抽出成分としてはエピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレートおよびエピカテキンなどが知られている。このうち、カテキン類の抗アレルギー剤としての利用は、特開平3-157330でエピガロカテキンガレートが示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これまで我々は、茶葉中の抗アレルギー成分についてヒスタミン遊離抑制作用を指標に検討してきたが、上記カテキン類に加え、(+)カテキンの8位と(-)エピカテキンの4位が結合したカテキン重合体であるプロシアニジンB-1に強いヒスタミン遊離抑制作用を見い出した。
さらにプロシアニジンB-1はエピガロカテキンガレートなどの他のカテキンよりも安定性に優れていることから、プロシアニジンB-1の抗アレルギー剤としての本発明をなすに至ったものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、プロシアニジンB-1を含有することを特徴とする抗アレルギー剤である。プロシアニジンB-1は(+)カテキンと(-)エピカテキンの重合体であり、ウーロン茎茶をはじめ緑茶、ウーロン茶、紅茶の葉などより単離精製されるものを利用することができる。その精製法に関しては、Chemical & Pharmaceutical Bulletin、31、3906-3914、(1983)を参考にすることができる。すなわち、緑茶、ウーロン茎茶、ウーロン茶、紅茶などに溶媒を加え抽出し、その抽出物をクロマトグラフィーに供することによりプロシアニジンを得ることができる。その抽出に用いる溶媒としては、水、エタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル、n-ブタノールあるいはそれらの混合溶媒などが挙げられ、抽出は室温でも加熱してもよい。得られた抽出物は、そのまま、クロマトグラフィーに供してもよいが、水に溶解後、酢酸エチルやn-ブタノールなどで分配抽出して得られる画分を供してもよい。そのクロマトグラフィーとしては、液体クロマトグラフィーがよく用いられ、その充填剤としてはイオン交換樹脂、シリカゲル、オクタデシルシリカゲルなどが挙げられる。
【0005】
本発明で言う抗アレルギー剤にはキャンディー、ドロップ、錠菓、チューイングガム、カプセル、飲料などが含まれる。また、本発明で言う抗アレルギー剤は、経口投与もしくは筋肉内、皮内、皮下、静脈内、下部体腔、皮膚などの非経口投与により投与される。さらに、本発明の抗アレルギー剤を製剤化するためには、製剤の技術分野における通常の方法で錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、点眼剤、トローチ剤、注射剤、坐剤、軟膏などの剤型が採用されうる。すなわち、経口用固型製剤を調製する場合は主薬に賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、トローチ剤などとする。
【0006】
プロシアニジンB-1は本発明の抗アレルギー剤の全量中、0.005〜1重量%、好ましくは、0.01〜0.5重量%の割合になるように添加される。0.005重量%未満では効果に乏しく、1重量%を越えて配合しても効果の増加は望めない。抗アレルギー剤としての投与量は疾患の症状、患者の年齢などにより異なるが、通常、成人1日あたり30〜100mg、好ましくは約50mgである。マウスを用いた急性毒性試験では、経口投与、皮下投与および静脈内投与とも2g/kgで死亡例は認められなかった。また、剖検所見においても、全ての臓器で異常は認められなかった。
【0007】
【実施例】
次に本発明を詳細に説明するため代表的な実施例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。また、部とは重量部を示す。
製造例-1 プロシアニジンB-1の精製
ウーロン茎茶に50倍量の水を加え、90〜95°Cで1時間加熱後濾過し、濾液を濃縮および凍結乾燥して熱水抽出物を得た。この熱水抽出物1Kgを5Lの水に溶解し、2倍量の酢酸エチルで3回分配抽出し、酢酸エチル画分を40g得た。この酢酸エチル画分を水に溶解し、セファデックスLH-20(ファルマシア社製)カラムクロマトグラフィー(溶出液:0-100%メタノール水溶液)に供した。得られたカテキン画分を凍結乾燥後、再度水に溶解しMCIゲル(三菱化成(株)製)カラムクロマトグラフィー(溶出液:0-100%メタノール水溶液)に供した。カテキン類の溶出は、TLC分析(プレート:シリカゲル60、展開溶媒:ベンゼン・ギ酸エチル・ギ酸(2:7:1)、発色薬:アニスアルデヒドあるいは塩化第二鉄)により確認し、1スポットを与える画分を集め、濃縮および凍結乾燥して(+)カテキンの8位と(-)エピカテキンの4位が結合したプロシアニジンB-1を250mg得た。また、同様にして、(+)カテキンの4位と(-)エピカテキンの8位が結合したプロシアニジンB-4を825mg得た。それぞれの構造は、比旋光度及びNMRスペクトルを測定し、文献値と比較することにより同定した。
【0008】
実施例-1 キャンディー
マルチトール 48.0部
デンプン糖化物 20.0
プロシアニジンB-1 0.1
[製法]120〜170°Cで原料を加熱溶解し、金型にて固化させる。
【0009】
実施例-2 ドロップ
砂糖 81.0部
D-グルコース 16.5
クエン酸 1.1
香料 適量
色素 適量
プロシアニジンB-1 0.1
[製法]100〜120°Cで原料を加熱溶解し、金型にて固化させる。
【0010】
実施例-3 錠菓
白糖(微粉末) 100.0部
アラビアゴム(微粉末) 7.0
プロシアニジンB-1 0.2
ハッカエキス 0.1
水 適量
[製法]原料をよく混合し、圧縮して製造する。
【0011】
実施例-4 チューイングガム
ガムベース 20.0部
砂糖 78.5
プロシアニジンB-1 0.1
ハッカエキス 1.0
水 適量
[製法]原料をよく混合し、常法にて製造する。
【0012】
実施例-5 飲料
プロシアニジンB-1 0.1部
安息香酸ナトリウム 0.1
果糖 1.0
香料 適量
色素 適量
精製水 全100.0
[製法]精製水に原料を加えて溶かし、精製水を加えて全量を100.0部とする。
【0013】
実施例-6 錠剤
プロシアニジンB-1 1.0部
乳糖 99.0
乾燥コーンスターチ 2.0
タルク 1.8
ステアリン酸カルシウム 0.2
以上混和 200錠とする。一錠の重量0.52g
[製法]プロシアニジンB-1に乳糖、乾燥コーンスターチを加えて整粒し、タルク、ステアリン酸カルシウムなどの滑沢剤を加えて混和し、打錠する。混合機は10分間運転する。
【0014】
実施例-7 顆粒剤
プロシアニジンB-1 0.1部
乳糖 5.0
アラビアゴム末 1.0
単シロップ 適量
以上混和 顆粒剤200粒とする。
[製法]プロシアニジンB-1を乳鉢にとり、少量の水に溶かし、これにただちに乳糖を加えて、均密に研磨し、ついでアラビアゴム末、最後に適量のシロップ液を少量ずつ滴下し、乳棒で練り合わせて硬い可塑性の塊とし、これを顆粒器にかけて整粒する。
【0015】
実施例-8 散剤
プロシアニジンB-1 0.1部
乳糖 9.0
以上混和 分12包散剤とする。
[製法]プロシアニジンB-1を乳鉢にとり、少量の水に溶かした後、乳糖を加えて均等になるまで研和し、乾燥後粉砕して細末とする。
【0016】
実施例-9 カプセル剤
プロシアニジンB-1 0.1部
微結晶セルロース 8.5
コーンスターチ 2.0
乳糖 2.2
ポリビニルピロリドン 0.3
以上混和 カプセル30個とする。
[製法]プロシアニジンB-1、微結晶セルロース、コーンスターチおよび乳糖を混和し、ポリビニルピロリドンを結合剤として加えて常法により顆粒化した後、ゼラチン硬カプセルに充填した。
【0017】
実施例-10 トローチ剤
プロシアニジンB-1 0.1部
ブドウ糖 100.0
炭酸水素ナトリウム 2.0
白糖末 4.0
アラビアゴム 3.0
デキストリン 1.0
以上混和 トローチ20個とする。
[製法]薬物をすべて研和して細末とし、水または単シロップを少量ずつ加え、これを型に注入して20個に分割する。白糖末を剤衣とする。
【0018】
実施例-11 点眼剤
プロシアニジンB-1 0.1部
クロロブタノール 0.1
塩化ナトリウム 適量
精製水 全30.0
[製法]プロシアニジンB-1、クロロブタノール、塩化ナトリウムをそれぞれ秤量し、適量の精製水に溶解して全量30部とする。
【0019】
実施例-12 シロップ剤
プロシアニジンB-1 1.0部
カルボキシメチルセルロース 2.0
単シロップ 全100.0
[製法]まずカルボキシメチルセルロースを秤量し、乳鉢内で均等の細末となるまで磨砕する。つぎに単シロップの一部をとり、少量ずつ加えてよく研和して均等にする。これにプロシアニジンB-1を徐々に加えて研和し、最後に残余の単シロップを加え、均等の粘稠液とする。
【0020】
実施例-13 注射剤
プロシアニジンB-1 0.5部
クロロブタノール 0.5
塩化ナトリウム 0.9
注射用蒸留水 全100.0
[製法]蒸留水をあたためてクロロブタノールを溶かし、これに塩化ナトリウムおよびプロシアニジンB-1を加えて溶かし、蒸留水を加えて全量を100.0部とする。濾過してバイアルビンに入れ熔閉した後、121°Cで15分間滅菌する。
【0021】
実施例-14 坐剤
プロシアニジンB-1 1.0部
カーボワックス4000 20.0
カーボワックス1500 90.0
以上坐剤70個とする。
[製法]プロシアニジンB-1を乳鉢にとり細末とし、これに溶融して混合したカーボワックスを少量ずつ加えながら研和し、坐剤型に流し込む。
【0022】
実施例-15 軟膏
プロシアニジンB-1 1.0部
流動パラフィン 10.0
白色ワセリン 全100.0
[製法]プロシアニジンB-1を流動パラフィンと研和して泥状とし、白色ワセリンを混和練り合わせて均質として製する。
【0023】
本発明によれば、プロシアニジンB-1を主成分とする強い効果を有する抗アレルギー剤を提供することが可能となる。本成分はおもに茶から得られ、日常常用しているものであるので、安全性も高い。また、プロシアニジンB-1は他のカテキン類に比べ、安定性に優れており製剤化が容易であった。つぎに、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【0024】
実験例-1 ヒスタミン遊離抑制作用
Sprague-Dawley系雄性ラットの腹腔内から採取した肥満細胞を用いてヒスタミン遊離抑制作用を検討した。すなわち、単離した肥満細胞をIgE抗体で感作させ、卵白アルブミン刺激により遊離するヒスタミン量を測定した。肥満細胞はSullivanらの方法(J.Immunology,114(5),1473-1479,1975)で採取し、ヒスタミンの定量はMayらの方法(J.Allergy,46,12-20,1970)で行った。結果は表1に示すとおり、プロシアニジンB-1はエピガロカテキンガレートよりも高い抑制率を示した。
【0025】
【表1】

【0026】
実験例-2 使用試験
アレルギー性鼻炎あるいは花粉症に悩む被験者52名に対して、実施例-1のキャンディーの使用試験を行った。被験者には実施例-1のキャンディーを、これとは別の8名に実施例-1からプロシアニジンB-1を除いたキャンディー(比較例-1)をそれぞれ1日に3〜5個食し、2ヶ月後に改善度について調べた。その結果、比較例-1では8名中1名(12.5%)に改善が認められたのに対して、実施例-1においては52名中38名(73.1%)に症状の改善が認められた。
【0027】
実験例-3 使用試験
アレルギー性鼻炎あるいは花粉症に悩む被験者61名に対して、実施例-10のトローチの使用試験を行った。被検者には実施例-10のトローチを、これとは別の8名に実施例-10からプロシアニジンB-1を除いたトローチ(比較例-2)をそれぞれ1日に3〜5個食し、2カ月後に改善度について調べた。その結果、比較例-2では改善が認められなかったのに対して、実施例-10においては61名中43名(70.5%)に症状の改善が認められた。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-07 
出願番号 特願平7-37523
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A23L)
P 1 651・ 121- YA (A23L)
P 1 651・ 534- YA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 河野 直樹
種村 慈樹
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3450080号(P3450080)
権利者 日本メナード化粧品株式会社
発明の名称 プロシアニジンB-1を配合した医薬品  

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