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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1122902
異議申立番号 異議2002-73092  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-08-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-24 
確定日 2005-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3296174号「海苔の処理方法」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3296174号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3296174号に係る発明についての出願は、平成8年1月26日に特願平8-11779号として出願され、平成14年4月12日にその特許の設定登録がなされ、その後、第一製網株式会社より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、訂正請求(取下げたものとみなす。)がなされた後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年12月14日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求(平成16年12月14日付のもの)
1.訂正の内容
(1)請求項1を「海水に、無機塩類として塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムと、酸として乳酸とを加えて比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整した海苔用処理液に、海苔または海苔が付着した養殖具を浸漬する海苔の処理方法であって、前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であって、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔の処理方法。」と訂正する。
(2)請求項2ないし7を削除する。
(3)請求項8を請求項2とし、「海水と無機塩類として塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムと、酸として乳酸とを含み、比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整してなることを特徴とする海苔用処理液であって、前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であり、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔用処理液。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、訂正前の「無機塩類」を「塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウム」に、及び同「酸」を「乳酸」に限定し、これらの濃度を「前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であり、前記酸の濃度が0.25%以上である」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、同(2)は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、同(3)は、(1)と同旨のものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、上記訂正事項(1)ないし(3)は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の4、2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.本件請求項1ないし2に係る発明
上記「II.」で示したように、上記訂正は認められるから、本件の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1ないし2」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】海水に、無機塩類として塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムと、酸として乳酸とを加えて比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整した海苔用処理液に、海苔または海苔が付着した養殖具を浸漬する海苔の処理方法であって、前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であって、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔の処理方法。
【請求項2】海水と無機塩類として塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムと、酸として乳酸とを含み、比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整してなることを特徴とする海苔用処理液であって、前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であり、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔用処理液。」

2.引用例
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(特開平5-139913号公報)には、「【請求項1】乳酸0.1〜2.0重量%とPH調整剤とを含み、PHを1.5〜2.0に調節してなることを特徴とする殺藻剤。」(特許請求の範囲の項)、「【請求項3】乳酸を含む処理液のPHを1.5〜2.0に調整し、海苔または海苔を付着させた養殖具を前記処理液に10秒〜3分以内の時間で浸漬することにより、海苔に発生する雑藻、病害の駆除、予防を行うことを特徴とする海苔養殖法。」(特許請求の範囲の項)、「本発明は上記の点に鑑み、海苔の養殖において、人体および環境へ悪影響をおよぼすことなく、安全に、かつ短時間で、しかも連続作業で効率よく雑藻や病害の駆除、予防処理をすることを可能とした殺藻剤および海苔養殖法を提供せんとするものである。」(3頁3欄3行〜7行)、「乳酸の濃度が0.1重量%より少ないと、例え処理液のPHを前記範囲内に調整しても短時間で処理するための速効性はなく、初期の目的を達成できない。・・・・・・また、乳酸以外の酸を用いた場合には、処理液のPHを前記のような範囲に調整したとしても同様の効果を得ることができない。」(3頁3欄13行〜25行)、「(実験2)乳酸を下記表2に示す濃度で海水に溶解した処理液をPH1.8に調整し、この処理液に赤腐れ病に感染した海苔葉体と健全な海苔葉体を各10秒間または3分間浸漬した後、各葉体を顕微鏡にて観察し、病斑細胞と海苔細胞の壊死度合いを比較した。結果を表2に合わせて示した。表2の結果から明らかなように、乳酸の濃度が0.05重量%の場合には処理液のPHを1.8に調整しても少なくとも3分は浸漬しなければならないが、PHが1.8で、かつ乳酸の濃度を0.1重量%以上とすれば、10秒間の浸漬時間で病斑は壊死し、しかも海苔に対するダメージは全く認められない。」(4頁段落【0012】〜5頁段落【0014】)、及び「(実験3)乳酸、クエン酸、リンゴ酸、および塩酸を海水中に0.3重量%の濃度で溶解した処理液をPH1.8に調整し、この処理液に赤腐れ病に感染した海苔葉体と健全な海苔葉体を各10秒間浸漬した後、各葉体を顕微鏡にて観察し、病斑細胞と海苔細胞の壊死度合いを比較した。結果を表3に示した。 表3の結果から明らかなように、乳酸以外の酸を用いた場合には、その濃度を0.3重量%とし、かつ処理液のPHを1.8に調整したとしても10秒間程度の処理時間では病斑に対する効果は全く認められず、乳酸を用いた場合のような速効性はない。」(5頁段落【0015】〜段落【0017】)と記載されている。
上記の記載によると、刊行物1には、海水に、乳酸の濃度が0.1〜2.0重量%となるように乳酸を加え、かつPHを1.5〜2.0に調整した海苔用処理液に、海苔または海苔を付着させた養殖具を浸漬することにより、海苔に発生する雑藻、病害の駆除、予防を行うことが記載されているものと認める。
同刊行物2(「私達の海苔研究」第42巻、第50〜59頁)は、「あかぐされ病による生産被害回避を目指して(パートII)」に係り、「自然食品としてのノリ作りに、環境にやさしい高塩分処理の実用化が必要と考え、再度実用化試験に取り組みましたので、ここにその結果を発表いたします。」(51頁右欄)、「表1に示すように、1日目の1回目は、約300Lの海水に原塩60kgを入れ、溶解させるためにオールで5分間撹拌し、20%の処理液を作りました。この処理液の濃度は24%となり、10間の網1枚を1分6秒で処理しました。処理後の液量は、約300Lで濃度は19.7%となりました。この試験でのあかぐされ菌は、10検体中7検体が死滅し駆除率は70%となりました。」(55頁左欄〜右欄)、及び「表2に示すように、1回目は25%の処理液を作るため、約300Lの海水に原塩75kgを入れ、この処理液の濃度は25.2%となりました。10間の網1枚を3分で処理し、処理後の液量は、約300Lで濃度24.3%でした。あかぐされ菌は、12検体中12検体が死滅し駆除率は100%となりました。2回目は、新たに20%の処理液を作るため約300Lの海水に原塩60kgを入れ、この処理液の濃度は23.3%となりました。網1枚を5分で処理し、処理後の液量は、約300Lで濃度は20%でした。あかぐされ菌は、15検体中15検体が死滅し駆除率は100%となりました。」(55頁右欄〜56頁左欄)が記載されている。
同刊行物3(特開平2-271985号公報)には、「藻類の育成に供せられる塩および酸を有することを特徴とする藻類の健全育成促進物。」(特許請求の範囲の項)、「本発明によれば、投与された塩および酸が藻類の育成に対して相剰的に作用して、藻類の葉体の巨大細胞内の余分な水分を吸い出して活性化させ、藻類を健全性を保持しながら成長させ、食しておいしく、病気にかかり難い藻類を提供するとともに、・・・・・」(2頁右上欄)、「本発明の藻類の健全育成促進物は、藻類の育成に供せられる塩および酸をもって形成されている。塩としては、塩化カルシウム、酸化カルシウムやマグネシウム、カリウム、ナトリウム等の化合物を用いることができる。・・・・・酸としては、有機酸、無機酸を共に用いることができ、クエン酸、リンゴ酸、フマール酸、グルコン酸、スルホン酸、スルファミン酸、リン酸等が挙げられる。」(2頁左下欄)、「また、酸と塩との組合わせにより溶液のPHの低下が著しくなって、従来の酸処理と同等量の酸を投与すると従来より低いPH値の溶液が得られる。また、本実施例の藻類の健全育成促進物を含む溶液と従来の酸を含む溶液とを希釈した場合、図面の実線で示す本実施例の方が、破線で示す従来例よりPHを低く維持することができる。従って、従来より少量の酸により、溶液の十分なPHの低下を得ることができ、これにより藻類の病気を確実に防止できるとともに、しかもコストは低廉となる。」(2頁右下欄〜3頁左上欄)、「大きさが5尺×10間の海苔網を冷凍出庫後1度摘採した後の海苔網(第1資料)および2度摘採した後の海苔網(第2資料)を、下述する本発明の溶液、従来例の溶液に10分間浸漬し、再び海中に張設した。その後、各海苔網を、1反の海苔網から摘採した海苔の原藻により乾海苔を800枚程度生産することができるような葉体になるまで成芽を養殖し、その後、成芽を摘採し、ミンチ加工を施し、抄製、脱水した後に、後述する条件下で乾燥を行って、乾海苔を生産した。・・・・・本発明の溶液は、塩を20容量%、酸を20容量%、栄養物を20容量%、水を40容量%としたものであり、これを適宜希釈して使用する。」(3頁左上欄〜右上欄)、及び「このように本発明は構成され作用するものであるから、藻類に十分な活力を付与するとともに、その葉体を健全に育成させることができ、食しておいしく、かつ藻類が病気にかかるのを確実に防止することができ、葉体の成長速度も大きくすることができる等の効果を奏する。」(3頁左下欄〜右下欄)と記載されている。

3.当審の判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載の発明を対比すると、両者は、海水に酸として乳酸を加え、且つpHを1.5〜2に調整した海苔用処理液に、海苔又は海苔が付着した養殖具を浸漬する海苔の処理方法であって、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔の処理方法の点で一致し、(A)前者は、さらに無機塩類として塩化ナトリウム又は塩化マグネシウムを前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下となるように加えるのに対して、後者には、この点について記載されていない点、及び(B)前者は、海苔用処理液の比重を1.03〜1.13に調整するのに対して、後者には、この点について記載されていない点、で両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(A)について
海水に原塩(本件発明1における「塩化ナトリウム」に相当。)を20%濃度になるように加えた処理液に海苔網(本件発明1における「海苔が付着した養殖具」に相当。)を浸漬処理して、網に付着する海苔の赤腐れ病等の病害を駆除、予防することが刊行物2に記載され、かつ、酸と無機塩を組み合わせた処理液を用いて養殖中の海苔が病気にかかるのを防止するという技術思想が刊行物3に開示されていることからすれば、刊行物1に記載の海苔用処理液にさらに塩化ナトリウムを加えることは当業者において容易に想到し得ることである。
そして、海苔の赤腐れ病等の病害を駆除、予防する上で、刊行物1に記載の海苔用処理液を単独で用いた場合でも効果が奏されることを考慮すると、刊行物1に記載の海苔用処理液に塩化ナトリウムを加えるにあたって、塩化ナトリウムのみを20%濃度になるように添加する刊行物2に記載の方法に比べて、塩化ナトリウムの使用量(濃度)をより少なくできることは当業者ならば当然に予想できることであるから、刊行物1に記載の海苔用処理液にさらに無機塩類として塩化ナトリウムをその濃度が1%以上で5%以下となるように加えることは、当業者において格別困難なことではない。
なお、特許権者は、平成16年12月13日付で実験成績証明書を提出しているが、食塩濃度が0.75%と1.0%とにおいて、格段の効果の差違があるとはいえず、また、5.0%以上に係る実験結果が示されていないことに照らし、上記の数値範囲には臨界的意義があるとはいえず、当業者が適宜決定し得た数値であるといわざるを得ない。
相違点(B)について
本件明細書の段落【0009】に記載されているように、海水の比重は通常1.018〜1.025の範囲にあるところ、本件発明1においては、本件明細書の実施例7ないし9の記載から明らかなように(表4参照)、食塩をその濃度が1%、3%、5%となるよう添加すると、海苔用処理液の比重は「1.03〜1.13」の範囲内に調整されるものと認められる。
そうすると、上記のとおり、塩化ナトリウム(食塩)の濃度を1%以上で5%以下に設定することが当業者において容易になし得る以上、海苔用処理液の比重を1.03〜1.13に調整することは、当業者において格別困難なことではない。
そして、本件発明1は、刊行物1に記載の乳酸を用いた海苔の処理方法によって奏される海苔の赤腐れ病等の病害の駆除、予防効果と、刊行物2に記載の原塩(塩化ナトリウム)を用いた海苔の処理方法によって奏される海苔の赤腐れ病等の病害の駆除、予防効果との総和を超えた格別の効果を奏するものではない。
したがって、本件発明1は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に係る「海苔の処理方法」という「方法」の発明を「海苔用処理液」という「物」の発明として表現したものであるから、本件発明1に係る上記判断と同じ理由により、本件発明2は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
海苔の処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】海水に、無機塩類として塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムと、酸として乳酸とを加えて比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整した海苔用処理液に、海苔または海苔が付着した養殖具を浸漬する海苔の処理方法であって、前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であって、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔の処理方法。
【請求項2】海水と無機塩類として塩化ナトリウムまたは塩化マグネシウムと、酸として乳酸とを含み、
比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整してなることを特徴とする海苔用処理液であって、
前記無機塩類の濃度が1%以上で5%以下であり、前記酸の濃度が0.25%以上であることを特徴とする海苔用処理液。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海苔の養殖に関し、詳しくは養殖の過程で発生する、海苔以外の藻類や赤腐れ病、白腐れ病等の病害を駆除もしくは予防する海苔の処理方法及び海苔用処理液に関する。
【0002】
【従来技術】従来、この種の海苔の養殖における海苔の処理方法や海苔用処理液としては、例えば特公昭56-12601号公報には炭素数1ないし4の飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数2ないし4の飽和または不飽和ジカルボン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸から成る群から選ばれた有機カルボン酸の1種または2種以上を有効成分とし、これらの有機カルボン酸を0.03〜1.0%の濃度となるように海水に溶解したものを干出した藻類群落に直接散布するか、あるいはこれに浸漬することが記載されている。さらに特公昭60-31451号の海苔養殖法には、海苔を付着した海苔養殖具をシュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、マロン酸、および安息香酸から選ばれた有機酸を海水に0.3〜5重量%溶解しPH1.0〜4.0に調整された処理液に5〜60分浸漬させることが、特公昭60-31647号の海苔養殖法には、海苔を付着した養殖具をクエン酸0.3〜5.0重量%を含み、PHが1.0〜6.0の処理液に60分以内の間浸漬することが、夫々記載されている。また、特開昭50-10233号公報には塩化アンモニウムを0.7〜4重量%を含有するアマノリを浸漬することにより、選択的に良質海苔を育成させる海苔の養殖方法が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、前記のような従来の殺藻剤あるいは海苔養殖法においては、あおのり、ケイソウ等の雑藻や、赤腐れ病、白腐れ病等の病害を駆除、予防するためには処理時間が5〜60分、短いものでも3〜30分と比較的長時間を要する。前記の処理は、具体的には海苔網を船上に引き上げて船内に殺藻剤を含む処理液槽に浸漬したのち、海苔網を再び海中に戻すのであるが、前記のように従来はこの処理液槽中に海苔網を5〜30分間以上も浸漬しておかなければならず、その間の待ち時間が必要となり、バッチ処理のため作業の効率は極めて悪いものであった。ところが、海苔の養殖時期は冬季が主であって、特に関東、東海地方の漁場は冬季になると海が荒れることがおおく、処理できる時間が限られており、また、有明海の漁場等では、潮の干満の差が大きく船の出せる時間帯が限られていることから、上記のような比較的長時間を要する従来の方法では1日に処理できる海苔網の枚数はせいぜい50枚位が限度であって、とても処理し切れないという問題があった。さらに、海苔網の下に船を潜らせて前記のような処理液を網の下に素通ししながら処理をする、モグリ船といわれる専用の船が開発され使用されている漁場もあるが、この場合には海苔網が処理液に浸漬されている時間が僅かに30秒〜120秒と極めて短く、前記のような雑藻や病害の駆除、予防に3〜30分あるいは60分といった長時間を要する従来の殺藻剤では目的とする殺藻、病害予防効果は全く期待できないものであった。
【0004】そこで、上記のような雑藻や病害の駆除、予防を短時間で行う方法として、特開昭59-159725号公報には、塩化水素剤およびマラカイトグリーン製剤を同時に用いる方法が提案されており、この方法によれば比較的短時間で前記の処理を行うことができる。しかしながら、ここで用いられるマラカイトグリーンは食品添加物ではなく天然食品のイメージを大切にする海苔製品に使用するには抵抗があるばかりでなく、このマラカイトグリーンは農薬としても使用されているが、人体に対する影響も否定できず、また、環境汚染といった問題も残っている。
【0005】さらに、特開平5-139913号公報では、前記開示されている技術の問題点を解決するものの、乳酸だけではコストがかかり、またpHを2.0以下にまで下げなければならず、広い範囲のpHで短時間処理するだけで効果のあるものがなかった。
【0006】そこで、本発明は上記の点に鑑み、海苔の養殖において、人体および環境へ悪影響をおよぼすことなく、低コストで、広いpH領域で使用でき、人体に安全に、かつ短時間で、しかも連続作業で効率よく雑藻や病害の駆除、予防処理をすることを可能とした海苔の処理方法及び海苔用処理液を提供せんとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記従来技術における問題点を解決する目的で鋭意検討した結果、この目的を達成しうる新たな海苔の処理方法を得るに至った。即ち、海水に、無機塩類と酸とを加えて、比重を1.03〜1.13に調整し、且つpHを0.5〜5.0に調整した海苔用処理液に、海苔または海苔が付着した養殖具を浸漬することを特徴とする海苔の処理方法である。この処理方法において、海水に無機塩類を加えて、比重を1.03〜1.13に調整し、さらに酸によりそのpHを0.5〜5.0にすることで、従来の酸を用いた処理方法で得られる効果を短時間で得ることができる。このとき無機塩類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム塩類、鉄塩類を用いることができる。その具体的な無機塩類としては塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄の中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。本発明に係る酸としては、無機酸、カルボン酸、有機リン酸を用いることができる。そして、その具体的な無機酸は、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸の中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。カルボン酸としては、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、乳酸、フマール酸、グルコン酸、マレイン酸、マロン酸、蟻酸、酒石酸、アクリル酸、クロトン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸の中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。さらに有機リン酸としては、フィチン酸、メタリン酸、ポリリン酸の中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。
【0008】このとき、海苔または海苔が付着した養殖具を浸漬するには、前記処理液を船内の処理液槽等の容器に収容することにより行なわれるものである。また、モグリ船等のように、海苔の養殖網の下に船を潜らせて、処理液を網の下に素通ししながら処理をすることもできる。そして、その処理液に浸漬している時間としては、海苔の成育状態や雑藻等の付着状況にもよるが、10秒〜10分以内で処理することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明のおける海水としては、通常外洋、内海を問わず、海苔の養殖できる海水であり、その性質は瀬戸内海、有明海、東京湾等の場所によっては異るが、その比重は1.018〜1.025の値の範囲に含まれているものが多く、本発明ではこのような比重の海水に前記無機塩類と酸とを加えて海苔用処理液として、海苔の処理に使用するものである。そして、無機塩類としては、無機化合物を含み、その塩の状態で存在しているものを用いることができ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム塩類、鉄塩類が例示できる。また、具体的な無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄の中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。
【0010】酸としては、海苔用処理液のpHを調整するpH調整剤の役割を担うものである。そのような具体的な酸は、硫酸、塩酸、硝酸、りん酸等の無機酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、乳酸、フマール酸、グルコン酸、マレイン酸、マロン酸、蟻酸、酒石酸、アクリル酸、クロトン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸等のカルボン酸、フィチン酸、メタリン酸、ポリリン酸等の有機リン酸等を用いることが可能である。そして、好ましくは、カルボン酸、無機酸を用いることが望ましい。
【0011】そこで、このような海苔を処理する海苔用処理液としては、比重を1.03〜1.20に調整したものであり、好ましくは比重を1.03〜1.13に調整したものを用いることが望ましい。即ち、比重が1.03未満のものであると、従来の処理と比較して、海苔以外の藻類や赤腐れ病、白腐れ病の病害との防除効果が同程度であり、また、1.20より大きい値では、比重が高すぎて正常な海苔も傷めることとなる場合があるので前記範囲にするのが望ましい。
【0012】そして、この海苔用処理液に含ませる無機塩類の量としては0.25%〜飽和量を、酸としては、処理液pHを0.5〜5.0に調整する量であれば適当量添加することができ、好ましくは無機酸としては0.005〜5.0%を、有機酸としては0.01〜5.0%を含ませることができる。
【0013】
【実施例】本発明の詳細を具体的な実施例に基づき説明する。各表に示す、実施例及び比較例の海苔用処理液を作製し、海苔を処理液に浸漬して、赤グサレ病、壺状菌病及びケイソウについての防除効果の実験を行い、あわせて、海苔への傷害度をエリスロシンによる染色率と検鏡による細胞の傷み具合について判定した。尚、各表における、細胞の傷み具合、赤グサレへの効果、壺状病菌への効果、葉体の染色率、ケイソウの染色率についての数値もしくは○、□、×の判断は、次のようにした。即ち、細胞の傷み具合、または海苔への影響での芽傷みについては、○、□、×で表し、○は傷みなし、□はやや傷み有り、×は傷み有りとした。さらに赤グサレ病または壺状病菌への効果については、-〜100%の間で示し、-が全く効果なしとし、その%の値が高い程効果があるものとした。海苔への影響における葉体の染色率は-〜100%とし、-は染色しなかった海苔であり、その%の値が高い程、染色されて海苔がより傷害を受けていることを示すものである。ケイソウへの染色率は、-が全く効果がなく、その%の値が高い程効果があるものとした。
【0014】(実験1)実験1としては、下記表1に示すように、食塩とリンゴ酸とを併用した実施例1、2と、酸単独または食塩単独で用いた比較例1〜5に関し赤グサレ病への防除効果の実験を行った。
【0015】

【表1】
【0016】その結果、表1から明らかなように実施例1、2においてはその防除効果は短時間で優れたものとなり、ほぼ完全に病気を防ぐことがができるが、一方、比較例1〜5の防除効果は完全なものではなかった。また、このとき実施例1、2は細胞の傷み具合もなかった。
【0017】(実験2)実験2としては、下記表2に示すように、塩化マグネシウムとリンゴ酸を併用した実施例3、4と、塩化マグネシウムを単独で用いた比較例6〜9とで、実験1と同様に赤グサレ病への防除効果の実験を行った。
【0018】
【表2】

【0019】その結果、表2から明らかなように実施例3、4においてはその防除効果は短時間で優れたものとなり、ほぼ完全に防除効果があるが、比較例6〜9は、病気を完全には防ぐことが出来なかった。また、このとき実施例3、4は細胞の傷み具合もなかった。
【0020】(実験3)実験3としては、下記表3にしめすように食塩と海苔用酸性処理剤(商品名:WクリーンソフトB型、扶桑化学株式会社製)を併用した実施例5、6と、海苔用酸性処理剤(商品名:WクリーンソフトB型、扶桑化学株式会社製)単独または食塩単独で用いた比較例10〜12とで、壺状菌病への防除効果の実験を行った。
【0021】
【表3】

【0022】その結果、表3から明らかなように、実施例5、6は葉体への影響も少なく、壺状菌病へ防除効果は短時間で優れたものになるが、比較例10〜12はその防除効果は劣るものであった。また、このとき実施例5、6は細胞の傷み具合もなかった。
【0023】(実験4)実験4としては、下記表4に示すように乳酸と食塩または塩化マグネシウムを併用した実施例7〜12と、乳酸単独、食塩単独、塩化マグネシウム単独で使用した比較例13〜15を用いて、赤グサレ病への防除効果の実験を行った。
【0024】【表4】

【0025】その結果、表4より明らかなように、実施例7〜12は、30秒以内に100%赤グサレ病を駆除しているが、一方30秒以内では比較例13〜15は防ぐことが出来なかった。また、このとき実施例7〜12は細胞の傷み具合もなかった。
【0026】(実験5)実験5としては、下記表5に示すように、海苔用酸性処理剤(商品名:Wダッシュ、扶桑化学株式会社製)と食塩とを併用した実施例13〜18と、海苔用酸性処理剤(商品名:Wダッシュ、扶桑化学株式会社製)を単独で用いた比較例16〜18により、ケイソウへの防除効果を確認した。
【0027】
【表5】

【0028】その結果、表5より明らかなように、実施例13〜18は、ケイソウを駆除しているが、30秒以内では比較例16〜18は防ぐことが出来なかった。また、このとき実施例13〜18は細胞の傷み具合もなかった。
【0029】
【発明の効果】以上のように、本発明の海苔の処理方法及び海苔用処理液によれば、極めて短時間の処理で、雑藻や赤グサレ病、壺状菌病に対して駆除または予防することが可能となり、船の処理液槽で処理する場合には、短時間で済むことから、冬季の荒れた海などでは、効率良く処理することができる。また、成分も無機塩類や酸を併用しているのでpHの使用域が広く、人体への悪影響も懸念することなく取り扱うことができる。また、マカライトグリーンや農薬等を使用していないので、食品としての海苔の品質に問題はなく、消費者へ安心した海苔を提供することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-10 
出願番号 特願平8-11779
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A23L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 鵜飼 健
種村 慈樹
登録日 2002-04-12 
登録番号 特許第3296174号(P3296174)
権利者 扶桑化学工業株式会社
発明の名称 海苔の処理方法  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 藤本 英介  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 神田 正義  

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