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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1122917
異議申立番号 異議2003-73774  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-08-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2005-06-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3452172号「扁平形電池」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3452172号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3452172号の請求項1、2に係る発明は、平成9年1月28日に特許出願され、平成15年7月18日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、全請求項に係る特許について水谷京子より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年10月19日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(a)特許請求の範囲の請求項1の
「破断点伸びが500〜1000%であることを特徴とする扁平形電池。」を、
「破断点伸びが500〜1000%であり、かつ、前記金属箔は、鉄を0.6質量%以上含有するアルミニウム合金箔であることを特徴とする扁平形電池。」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項2の
「前記金属箔は、鉄を0.6質量%以上含有するアルミニウム合金箔であり、前記融着性樹脂フィルムは、α,β-不飽和カルボン酸がグラフト重合された、変性ポリプロピレンまたはその共重合体フィルムであることを特徴とする請求項1記載の扁平形電池。」を、
「前記融着性樹脂フィルムは、α,β-不飽和カルボン酸がグラフト重合された、変性ポリプロピレンまたはその共重合体フィルムであることを特徴とする請求項1記載の扁平形電池。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記(a)の訂正は、特許請求の範囲の新請求項1において、「金属箔」に関し、旧請求項2の「前記金属箔は、鉄を0.6質量%以上含有するアルミニウム合金箔である」という記載に基づき、その記載のとおりに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、しかも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記(b)の訂正は、上記(a)の訂正により特許請求の範囲の旧請求項2の一部の記載事項が新請求項1に取り込まれたことに伴い、新請求項1を引用する新請求項2において、前記取り込まれた記載事項を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、しかも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2-3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第120条の4第3項で準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は、本件請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。

3-2.本件発明
上記2.で述べたとおり訂正が認められるから、本件請求項1、2に係る発明は、平成16年10月19日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1、2」という)。
「【請求項1】 金属箔の内面に融着性樹脂フィルムを配したラミネートフィルム製パッケージ内に発電要素が収納され、該パッケージの周縁部が融着封止され、該金属箔と融着性樹脂フィルムが熱によって直接接着された扁平形電池において、前記融着性樹脂フィルムの引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%であり、かつ、前記金属箔は、鉄を0.6質量%以上含有するアルミニウム合金箔であることを特徴とする扁平形電池。
【請求項2】 前記融着性樹脂フィルムは、α,β-不飽和カルボン酸がグラフト重合された、変性ポリプロピレンまたはその共重合体フィルムであることを特徴とする請求項1記載の扁平形電池。」

3-3.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1:特公平4-58146号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
(1a)「外側から、耐熱性フィルム、アルミニウム箔、及び多層構造の内面接着層から成る外被包材で扁平な発電要素を外装した電池であって、・・・しかもこの内面接着層が熱融着によって積層されていることを特徴とする扁平薄型非水電解液リチウム電池。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「予想される扁平薄型リチウム電池の大略断面図は、例えば第3図に示すようなものである。すなわち、二枚あるいは二つに折り込んだ外被包材30には正極集電体31及び負極集電体35がそれぞれ熱融着されている。この正極集電体31と負極集電体35の間に、順に、正極合剤32、有機電解液の含浸したセパレーター33、リチウム又はリチウム系合金から成る負極34がはさまれている。」(第2頁左欄第28行〜第36行)
(1c)「例えば、接着剤を用いて内面接着性樹脂を積層した従来の外被包材10をそのまま使用すると、有機電解液が浸透して、耐熱性樹脂フィルム25と金属接着性樹脂27の間、及び耐熱性樹脂フィルム25とアルミニウム箔23の間で剥離してしまった。」(第2頁右欄第2行〜第7行)
(1d)「本発明者等は、外被包材30のアルミニウム箔より内側に接着剤を使用せず、熱融着性樹脂のみを用いて外被包材を試作した。これは第4図の断面図に示すもので、外側から順に耐熱性フィルム40/接着剤42/アルミニウム箔43/熱融着性樹脂44の層構成を有する積層材料40である。」(第2頁右欄第15行〜第21行)
(1e)「ここで、熱融着性樹脂44としては、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸誘導体共重合体、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレート-ビニルアセテート三元共重合体、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィンなどであり、中でもその熱融着強度とその経時的な安定性から、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィンが優れており、特に不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレンが優れていた。」(第2頁右欄第25行〜第34行)
(1f)「こうして、第4図に示す積層材料40を外被包材30に用いることによって、集電体31,35と外被包材30との接着性及び有機電解液の浸透による接着強度の劣化の問題は解決した・・・」(第2頁右欄第35行〜第38行)
(1g)「本発明によれば、・・・外被包材同志の熱融着の際に、・・・」(第4頁左欄第40行〜第42行)
(1h)正極、負極、セパレータ等からなる発電要素は、一方の外被包材に形成されたくぼみに収納されている(第1図、第3図参照)。
(2)刊行物2:三菱化学(株)の接着性ポリマー「MODIC・AP(モディック・AP)」の1996年版カタログ(同第2号証)
(2a)「MODIC-APとは
MODIC-APは、三菱化学の伝統あるポリオレフィン重合技術を背景に開発された、ポリオレフィン系の高接着性樹脂です。
無極性ポリマーであるポリオレフィンに、特殊な官能基を付加する事により異種材料(ナイロン・EVOH・PET・他樹脂、各種金属等)との高接着性を付与すると共に、ポリオレフィンと同等の物性、成形性を備えることに成功した樹脂です。
MODIC-APの特長
●強固な接着性
「MODIC-AP」は、異種材料(ナイロン・EVOH・PET・他樹脂、各種金属等)に対して溶融状態で強固に接着します。
●安定な接着性
「MODIC-AP」の接着性は、内容物や各種後処理加工に対して安定した接着性を維持します。
●良好な物性、成形性
「MODIC-AP」は各種ベースポリオレフィンに官能基が付与されており、従ってポリオレフィンの優れた光学的性質、機械的性質、耐熱性、成形性等と同等の性質を備えています。
●広範囲な用途
「MODIC-AP」は、共押出しフィルム、シート、ブロー、チューブ、押出ラミネート、接着性フィルムなど多層分野の接着材として、広範囲に御使用いただけます。
●食品衛生性
「MODIC-AP」はポリオレフィン等衛生協議会の自主規制基準への適合性を確認しております。」(2枚目左欄)
(2b)ポリプロタイプP502〜P523の全ては、引張降伏強さが12〜18MPaの範囲であり、引張破壊伸びが750〜870%の範囲である(3枚目の「MODIC-AP物性・用途一覧表」参照)。
(3)刊行物3:三井石油化学工業(株)の接着性ポリオレフィン「ADMER(アドマー)」の1993年版カタログ(同第3号証)
(3a)「アドマーは三井石化が世界に先駆けて開発し、1975年上市した接着性ポリオレフィンです。
従来、ポリオレフィンは無極性のため、異種材料に接着させることは非常に困難でしたが、三井石化ではこのポリオレフィンに特殊な官能基を導入することで、非常に強力な接着性を付与することに成功しました。
アドマーは熱反応によってガスバリヤー性樹脂や金属に強力に接着し、複合ボトル、複合チューブ、複合シート、複合フィルム、鋼管ライニング、アルミラミネート、金属パウダーコーティングなどの幅広い分野で使用されています。
アドマーは現在日本、アメリカ、西ドイツで生産販売されており、接着性樹脂のトップブランドとして世界30ヶ国300社を超えるお客様の信頼を得ています。
アドマーは種々の用途で接着層として使用されています。
ナイロン及びEVOHと共押出しすることにより、酸素バリアー性、保香性、耐油性、水蒸気バリアー性、ヒートシール性などに優れた多層容器の成形が可能となります。
最近、アドマーの技術進歩により、アルミや紙、各種フィルムに、AC剤を使用せず直接アドマーと共にPE、EVOH、PETなどを共押出しコーティングする技術が確立されるなど、食品包装の高機能化に大きく貢献しています。
また、工業用途では自動車・家電材料、各種金属管やケーブルなどに幅広く使用されています。」(第2頁第1行〜第3頁末行)
(3b)「アドマーの特長
1.強力な接着性
アドマーは、ナイロンやEVOHなどのガスバリヤー性樹脂、金属、ガラス、セラミックスなどの基材に溶融下、強力に接着します。
2.耐久接着性
アドマーと基材との接着力は、エージング、温水処理、レトルト処理に対しても優れた耐久性を示します。
3.ポリオレフィンの特性保持
アドマーは、ポリオレフィンの優れた機械特性、耐熱性、耐薬品性、耐候性などの一般特性を完全に保持しています。
4.良好な成形加工性
アドマーは、ポリオレフィンと同様優れた成形加工性を保持しており、異種材料との接着には次の成形法が採用できます。
●共押出インフレーション法 ●丸ダイコーティング法
●共押出Tダイ法 ●流動浸漬法(パウダー銘柄)
●共押出ブロー法 ●静電塗装法(パウダー銘柄)
●共押出ラミネーション法 ●接着フィルム法
●Tダイコーティング法
5.食品衛生性
本カタログに記載されているアドマー銘柄は、ポリオレフィン等衛生協議会より確認証明書を得ておりますので、食品包装材として安心して使用できます。」(第5頁左欄第1行〜末行)
(3c)「PP‐タイプアドマー」の銘柄QF305、QF500、QF551、QB540、QB550の物性は、降伏点応力(試験方法:ASTM D638)が150〜280kg/cm2であり、破断点伸び(試験方法:ASTM D638)が>500%である(第10頁「2.銘柄の物性」参照)。
(4)刊行物4:特開平6-2062号公報(同第4号証)
(4a)「Fe;0.5〜2.0wt%、Cr;0.1〜1.0wt%が含有されるとともに、Si;0.4wt%以下、Cu;0.2wt%以下に規制され、残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなることを特徴とする絞り加工用アルミニウム合金。」(特許請求の範囲の請求項1)
(4b)「前記絞り加工用アルミニウム合金において、Feは硫酸等による陽極酸化処理により酸化皮膜を形成し乳白色または灰色乃至黒灰色の色調を得るために必要である。このようなFeは、0.5wt%未満では発色の効果に乏しく、2.0wt%を超えると合金組織中にAl-Fe系およびAl-Fe-Si系の粗大粒子化合物が生成して塑性変形性を阻害し、加工成形性を悪化させる。好ましいFeの含有範囲は0.8〜1.5wt%であり、特に1.0〜1.5wt%が良い。」(段落【0009】)
(4c)「【実施例】先ず、通常のDC鋳造法により、表1に示すような合金組成で実施例1〜6および、合金組成が本発明の範囲を逸脱する従来例1〜2のスラブを製造した。次いで、これらのスラブを予備加熱500℃にて熱間圧延後さらに厚さ1mmまで冷間圧延し、350℃で2時間最終焼鈍してアルミニウム合金素板を得た。このアルミニウム合金素板を絞り加工し、図1に示されているような直径35mmφ、深さ約24mmφのカップ形の加工品を得、これらの加工品に通常の硫酸による陽極酸化処理を施して厚さ15μmの酸化皮膜を形成し、自然発色させた。」(段落【0013】)
(4d)「本発明の絞り加工用アルミニウム合金は、前述のように合金組成の調整のみにより成形加工性を改善することができ、優れた成形加工性により絞り加工品の絞り耳率を低くすることができる。しかも、絞り加工用の素板を製造するに際しては、通常の一般的な方法で行えば良く特別な条件設定や追加工程等を要しない。」(段落【0012】)
(5)刊行物5:特開昭61-206159号公報(同参考資料)
(5a)「フィルム状の電そう材料で正極板、負極板、及びセパレータからなる極板群を包み込んだ密閉形鉛蓄電池において、電そうの片側もしくは両側壁が、ポリオレフィン系樹脂層よりなる内側層の外側に金属層を積層し、更にその外側に・・・等の熱可塑性合成樹脂の1層以上が積層されてなる電そう材料により構成されていることを特徴とする密閉形鉛蓄電池。」(特許請求の範囲)
(5b)「金属層としてはアルミニウム、銅、スズ、鉛等の圧延による箔や蒸着層などを適用することができる。」(第2頁左下欄下から第3行〜末行)
(5c)「さらに本発明において、電そうの片側壁を熱成形、冷間プレス等の方法により極板群と略相似形に絞り成形しても良い。」(第2頁右下欄下から第3行〜末行)
(5d)「電そう材料として、内側層に、低密度ポリエチレン(LDPE)、低温での熱溶着性に優れ強度の高いエチレンーアクリル酸共重合体(EAA)、強靭性と低温シール性及び柔軟性を有するエチレンーメチルメタアクリレート共重合体(EMMA)又はアイオノマー樹脂を使用し、この内側層に9〜30μのアルミニウム箔を積層すること」(第3頁右下欄第6行〜第4頁左上欄第9行)

3-4.当審の判断
(1)本件発明1について
(1-1)刊行物1記載の発明
刊行物1の上記(1a)には、「外側から、耐熱性フィルム、アルミニウム箔、及び多層構造の内面接着層から成る外被包材で扁平な発電要素を外装した電池であって、・・・しかもこの内面接着層が熱融着によって積層されていることを特徴とする扁平薄型非水電解液リチウム電池。」と記載され、また、上記(1g)には、「外被包材同志の熱融着の際に・・・」と記載され、発電要素を外装する際に外被包材同志を熱融着することが明らかであるから、刊行物1には、「外側から、耐熱性フィルム、アルミニウム箔、及び多層構造の内面接着層から成る外被包材で扁平な発電要素を外装し、外被包材同志を熱融着した電池であって、この内面接着層が熱融着によって積層されている扁平薄型非水電解液リチウム電池。」が記載されていると云える。そして、上記(1d)には、従来技術における外被包材について、「本発明者等は、外被包材30のアルミニウム箔より内側に接着剤を使用せず、熱融着性樹脂のみを用いて外被包材を試作した。これは第4図の断面図に示すもので、外側から順に耐熱性フィルム40/接着剤42/アルミニウム箔43/熱融着性樹脂44の層構成を有する積層材料40である。」と記載され、また、その熱融着性樹脂について、上記(1e)には、「ここで、熱融着性樹脂44としては、例えば、・・・不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィンなどであり、中でもその熱融着強度とその経時的な安定性から、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィンが優れており、特に不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレンが優れていた。」と記載されているから、上記(1d)に示された「外側から順に耐熱性フィルム/接着剤/アルミニウム箔/熱融着性樹脂の層構成を有する積層材料」の外皮包材を用い、その熱融着性樹脂として、優れていたとされる「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」を用いた場合について整理すると、刊行物1には、
「外側から、耐熱性フィルム、接着剤、アルミニウム箔、熱融着性樹脂の層構成を有する積層材料の外被包材で扁平な発電要素を外装し、外被包材同志を熱融着した電池であって、熱融着性樹脂が、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレンであり、接着剤を使用せず、熱融着によって積層されている扁平薄型非水電解液リチウム電池。」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると認められる。

(1-2)本件発明1と刊行物1発明との対比
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「熱融着性樹脂」、「積層材料の外被包材」、「外被包材同志を熱融着」、「扁平薄型非水電解液リチウム電池」、「アルミニウム箔」は、それぞれ、本件発明1における「融着性樹脂フィルム」、「ラミネートフィルム製パッケージ」、「パッケージの周縁部が融着封止」、「扁平形電池」、「金属箔」に相当する(以下、後者の用語に代えて、それに相当する前者の用語を使用することがある)。また、刊行物1発明における、アルミニウム箔とその内面の熱融着性樹脂とは、「接着剤を使用せず、熱融着によって積層されている」ことからみて、「熱によって直接接着されている」と云える。さらに、本件発明1におけるアルミニウム合金箔の「アルミニウム合金」と刊行物1発明のアルミニウム箔の「アルミニウム」は、どちらも、「アルミニウム系金属」と云えるから、両者は、
「金属箔の内面に融着性樹脂フィルムを配したラミネートフィルム製パッケージ内に発電要素が収納され、該パッケージの周縁部が融着封止され、該金属箔と融着性樹脂フィルムが熱によって直接接着された扁平形電池において、前記金属箔は、アルミニウム系金属箔である扁平形電池。」である点で一致し、次の(イ)(ロ)の点で相違する。
相違点:
(イ)金属箔のアルミニウム系金属が、本件発明1では、『鉄を0.6質量%以上含有する合金』であるのに対して、刊行物1発明では、『鉄を0.6質量%以上含有する合金』であるか否か明りょうでない点。
(ロ)融着性樹脂フィルムが、本件発明1では、「引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%」であるのに対して、刊行物1発明では、「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」であるものの、その物性が明りょうでない点。

(1-3)相違点の検討
(i)相違点(イ)について
(i-a)本件発明1の相違点(イ)についての技術的意義について
本件発明1は、本件明細書の「金属箔はFeを0.6%以上含有するAl合金箔とする。該合金箔は樹脂との接着性に優れると同時に、展伸性に富み、鋭角な折れ曲がりが加わる絞り加工を受けても、亀裂やピンホールが発生することが無い。さらに前記従来のAl材質では不可能であった約10mm深さの深絞りが可能になった。」(段落【0012】)、「発電要素がピッタリ納まるよう、冷間絞り加工によって、少なくとも1方のフィルムに形が付けられている。発電要素をこのくぼみに挿入することにより、位置ずれを防止することができる。該材質のパッケージフィルムでは、従来とても達成できなかった約10mm深さの加工が可能である。」(段落【0015】)、「表2よりFeの含有率が0.6%以上であれば不良の発生は0であることがわかる。これは、Feの比率が0.6%以上であれば、Al合金箔が形付け加工に耐える延展性を有するため、金属箔が損傷を受けない為と推定される。」(段落【0022】)等の記載からみて、金属箔のアルミニウム系金属について、樹脂との接着性に優れ、展延性に富み、しかも、発電要素が収納されるくぼみをパッケージに形成する際に、亀裂やピンホールが発生しない良好な絞り加工性を具備するように、『鉄を0.6%以上含有する合金』と限定したものと認められる。

(i-b)刊行物の記載事項及び周知事項について
これに対し、刊行物5の上記(5c)には、極板群を包み込むための鉛蓄電池のフィルム状電そう(「パッケージ」に相当)について、「電そうの片側壁を熱成形、冷間プレス等の方法により極板群と略相似形に絞り成形しても良い。」と記載されており、発電要素が収納されるパッケージ(電そう)を絞り加工することは公知であると云える。また、刊行物1発明においても、発電要素収納用のくぼみがパッケージ(外被包材)に形成されていることからみて(上記(1h)参照)、外被包材、乃至、その層を形成する金属箔は、くぼみ形成に伴って絞り加工されていると云える。しかも、リチウム電池等のパッケージ(外被包材)の層を構成する金属箔においては、電解液の外部への蒸発及び外部からの湿気の侵入を防ぐために、ピンホールの発生を防止しなければならないことは、本件明細書に記載された先行文献・実公平3-39883号公報(第3頁左欄第3〜22行)にみられるように、本件特許の出願前において周知の事項である。
そして、刊行物4には、上記(4a)に記載された「Fe;0.5〜2.0wt%・・・が含有されるとともに、・・・残部がアルミニウムおよび不可避不純物からなることを特徴とする絞り加工用アルミニウム合金」について、上記(4d)に、「本発明の絞り加工用アルミニウム合金は、前述のように合金組成の調整のみにより成形加工性を改善することができ、優れた成形加工性により絞り加工品の絞り耳率を低くすることができる。しかも、絞り加工用の素板を製造するに際しては、通常の一般的な方法で行えば良く特別な条件設定や追加工程等を要しない。」と記載されていることからみて、鉄0.6〜2.0質量%等を含む絞り加工用アルミニウム合金は、絞り加工性が優れていることが明らかである。また、樹脂フィルムとラミネートしたりして用い、ピンホールの発生が防止できる優れた成形性を有する包装用金属箔のアルミニウム系金属として、『鉄を0.6質量%以上含む合金』は、特開昭60-131957号公報、特開昭60-238458号公報、特開昭63-26322号公報、特開平1-279725号公報、特開平2-50932号公報にみられるように、本件特許の出願前において周知のものである。

(i-c)相違点(イ)の容易性について
してみれば、刊行物1発明における、発電要素収納用のくぼみが形成されるパッケージの層を構成する金属箔は、前示のとおり、ピンホールが発生しないように絞り加工される必要があるものと云えるから、その金属箔のアルミニウム系金属を、刊行物4に記載された絞り加工性が優れている『鉄を0.6〜2.0質量%含む合金』とすること、または、樹脂フィルムとラミネートしたりして用い、ピンホールの発生が防止できる優れた成形性を有する包装用金属箔のアルミニウム系金属として周知の『鉄を0.6質量%以上含む合金』とすることは、刊行物4、5記載の発明や前示の周知事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。

(ii)相違点(ロ)について
(ii-a)本件発明1の相違点(ロ)についての技術的意義について
本件発明1は、本件明細書の「扁平形電池において、融着性樹脂フィルムの引っ張り降伏点応力と破断点伸びの値を特定する。これにより、ラミネート工程でる金属箔に加わるテンションの値を金属箔が損傷を受けずに耐える範囲内に抑える。具体的には、融着性樹脂フィルムの降伏点応力をJIS K6758に規定された測定による降伏点応力を100〜300kg/cm2、破断点伸びを500〜1000%とする。両方の値がこの範囲内であれば、ラミネート工程でAl箔に損傷が生じることが無い。封止工程で2〜3mmの深さの絞り加工が加えられても樹脂フィルム層に損傷が生じることも無い。前記の範囲に比べ、降伏点応力が大きいか、破断点伸びが大きい場合は、ラミネート工程で金属箔に加わるテンションが大きくなり、金属箔に損傷が生じる。逆に小さい場合には封止工程で絞りが加わった時に樹脂フィルムの層に裂け等の損傷が生じる。」(段落【0011】)という記載からみて、ラミネート工程で金属箔に加わるテンションが大きくなって金属箔に損傷が生じないように、しかも、封止工程での絞り時に樹脂フィルムに損傷が生じないように、融着性樹脂フィルムについて、「引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%」と限定したものと一応云うことができる。
しかしながら、ラミネート工程で金属箔に加わるテンションや絞り時に樹脂フィルムに加わる応力は、金属箔と樹脂フィルムとの両方の膜厚等によって大きく変化すると認められるところ、本件発明1における「引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%」は、段落【0017】、【0018】に記載された特定の条件で実験をした結果によるものであって、そのような膜厚等と無関係に規定された数値自体には格別の臨界的な意義は存在しないと認められる。

(ii-b)刊行物の記載事項及び周知事項について
一方、刊行物1に記載された熱融着性樹脂の「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」としては、「アドマー」、「モディック」、「ポリタック」という商品名のものが一般的なものであることは、本件明細書の「65は融着性樹脂で、具体的には商品名アドマー、モディック、ポリタックなどのマレイン酸やアクリル酸がグラフト重合された変性PPである。」(段落【0015】)という記載にもみられるように、本件特許の出願前において周知のことである。
しかも、刊行物2の上記(2b)には、前記モディックのポリプロタイプ(すなわち、ベースポリオレフィンがポリプロピレンのもの)P502〜P523の全ては、引張降伏強さが12〜18MPa(すなわち、122〜184kg/cm2)の範囲であり、引張破壊伸びが750〜870%の範囲であることが示され、本件発明1において規定された範囲内の「引っ張り降伏点応力」及び「破断点伸び」を有することが明らかである。
また、刊行物3の上記(3c)には、前記アドマーのPP-タイプ(すなわち、ベースポリオレフィンがポリプロピレンのもの)QF305,QF500,QF551、QB540,QB550の全ては、引っ張り降伏点応力が本件発明1の規定範囲内である150〜280kg/cm2であり、破断点伸びは、1000%以下であるか否かは不明であるものの、500%を超えることが記載されている。そして、「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」は、無極性のベースポリマーであるポリプロピレンを極性を有する不飽和カルボン酸でグラフト変性することにより極性を有する側鎖を形成し、金属等の極性材料に対する高接着性を付与したものであって、破断点伸びは、ベースポリマーと大差がないと認められるところ、「プラスチック辞典」〔(株)朝倉書店(1992年3月1日初版第1刷発行)第354〜355頁〕や「プラスチック性能便覧」〔(株)工業調査会(1968年10月25日発行)第292〜302頁〕などにみられるように、通常のポリプロピレンの破断点伸びが550〜800程度であることは周知であるから、「アドマー」も、本件発明1において規定された範囲内の「引っ張り降伏点応力」及び「破断点伸び」を有するものと認められる。
なお、「ポリタック」や少数存在するかもしれない他の「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」は、その「引っ張り降伏点応力」及び「破断点伸び」が明りょうでないが、前示のとおり、無極性のベースポリマーであるポリプロピレンを極性を有する不飽和カルボン酸でグラフト変性することにより極性を有する側鎖を形成し、金属等の極性材料に対する高接着性を付与したものであって、「引っ張り降伏点応力」及び「破断点伸び」等の物性は、ベースポリマーと大差がないと認められるし、また、それらの物性は、被着物に応じて設定されるものであって、しかも、商品によって主要な用途の被着物が格別に異なるわけでもないから、これらの事項を総合的に勘案すると、「ポリタック」や他の「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」も、少なくとも大部分は、本件発明1において規定された範囲内の「引っ張り降伏点応力」及び「破断点伸び」を有するものと認められる。

(ii-c)相違点(ロ)の容易性について
してみれば、「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」として、その少なくとも大部分が刊行物2,3に記載されたような、「引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%」であるものを採用することは、ほぼ当然になされる選択に過ぎない。
しかも、前記(i-b)で述べたように、リチウム電池等のパッケージ(外被包材)の層を構成する金属箔においては、電解液の外部への蒸発及び外部からの湿気の侵入を防ぐために、その加工時等においてピンホールの発生を防止しなければならないことは、本件特許の出願前において周知の事項であるし、また、ピンホールの発生が金属箔に加わる応力に関係し、樹脂フィルムとのラミネートにおける金属箔の応力が、樹脂フィルムの強度特性や伸び特性に関係することは、当業者に自明のことであるから、ラミネート工程や封止工程での絞り時においても、金属箔にピンホールが発生せず、かつ、それ自身も損傷しない強度特性や伸び特性を具備する融着性樹脂フィルムを選択することは、当業者が当然配慮する程度のことと云える。
そして、前示のとおり、本件発明1における降伏点応力の値「100〜300kg/cm2」と破断点伸びの値「500〜1000%」に格別の臨界的な意義が認められないことを考慮すると、刊行物1発明における「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」として、その少なくとも大部分が刊行物2,3に記載されたような、「引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%」であるものを採用することは、刊行物2,3の記載事項や前示の周知事項に基づき、当業者が容易に想到し得たことと云うべきである。

(iii)相違点の検討についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1〜5に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに、「前記融着性樹脂フィルムは、α,β-不飽和カルボン酸がグラフト重合された、変性ポリプロピレンまたはその共重合体フィルムである」ことを限定したものである。
しかしながら、刊行物1発明の融着性樹脂フィルムが「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」からなることは、前記(1-1)、(1-2)で述べたとおりである。しかも、「不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン」として、刊行物2,3に記載された「モディック」、「アドマー」等の商品名で知られている『マレイン酸やアクリル酸(すなわち、α,β-不飽和カルボン酸)でグラフト重合された変性ポリプロピレン』が一般的なものであることは、前記(ii-b)で述べたとおりであるから、この限定に基づく発明特定事項は、上記(1)(ii)で述べた相違点(ロ)と同様に、当業者が容易に想到し得たものと云うべきである。
よって、本件発明2は、本件発明1と同様に、刊行物1〜5に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
扁平形電池
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】金属箔の内面に融着性樹脂フィルムを配したラミネートフィルム製パッケージ内に発電要素が収納され、該パッケージの周縁部が融着封止され、該金属箔と融着性樹脂フィルムが熱によって直接接着された扁平形電池において、前記融着性樹脂フィルムの引っ張り降伏点応力が100〜300kg/cm2、破断点伸びが500〜1000%であり、かつ、前記金属箔は、鉄を0.6質量%以上含有するアルミニウム合金箔であることを特徴とする扁平形電池。
【請求項2】前記融着性樹脂フィルムは、α,βー不飽和カルボン酸がグラフト重合された、変性ポリプロピレンまたはその共重合体フィルムであることを特徴とする請求項1記載の扁平形電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は正極、負極、セパレータおよび電解質から成る発電要素が、金属箔と樹脂フィルムのラミネートフィルムから成るパッケージ内に収納密閉された扁平形電池に関するものである。特に、そのパッケージフィルムの構成に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、携帯機器の小型化が益々進むに伴い、その電源として使用される電池に対しても小型軽量化の要求が高まっている。また機器の高機能化が進むに伴い、消費電力が増大し電池に対して益々高容量化の要求が高まっている。さらには、使用期間も数年〜10年と長期間使用する用途が増える傾向にあり、これに適応可能な信頼性の高い封口機能も要求されている。
【0003】前記機器側の要求を満たす為に、電池に於いては無論のこと、電極の材料やセパレータ、電解液等で様々な改良が成されてきている。一方、電池のパッケージにおいても薄型化、軽量化の提案が出されている。その1つは従来一般的であった絞り加工によって作製された厚手の金属や成形によって作製された合成樹脂製パッケージに替えて、金属箔や合成樹脂フィルムを採用しようとするものがある。
【0004】具体例を図4、図5の断面図で示す。図4で1は正極、2は例えばアルミニウム(Al)箔製の正極集電体、3は負極、4は例えば銅箔製の負極集電体、5は電解液を含むセパレータまたは高分子固体電解質のフィルムである。これらで構成される発電要素はパッケージフィルム6内に収納されている。パッケージフィルム6は、フィルムを通して水分や酸素等の物質の透過が起きないような材質構成が選定される。一般的には、合成樹脂と金属箔のラミネートフィルムが使用される。ラミネートフィルム6の構成は、図5に示すようにAl等の金属箔61を芯にして、外面には、パッケージフィルムの機械的強度を保ち、中のAl箔を保護するためにナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)などの機械的強度の強い樹脂62、内面には変性ポリプロピレン(PP)やポリエチレン等の融着性に富み、水分の透過しにくい樹脂63が配置され、接着剤64で前記金属箔61と接着されている。
【0005】また、実公平3-39883号公報にはAl箔とα,βー不飽和カルボン酸がグラフト重合されたオレフィン系樹脂が直接熱融着により積層されて成る電池用外被包材が開示されている。この提案にある如く、有機溶媒を含む非水電解液を内包する電池においては、接着剤を用いずに金属と樹脂を直接熱融着するのが、長期の使用中での金属と樹脂の剥離を防止するのに有効である。従って、金属箔と樹脂フィルムを重ねて、加熱してラミネートする必要がある。従来の提案においては、パッケージフィルムを構成するAl箔や樹脂の物性について規定されていない。一般的に、金属箔には、純AlまたはJIS H4160で合金番号1100、3003、もしくは3004で規定された組成のAl合金箔が使用される。内面に配される融着性樹脂フィルムには、不飽和カルボン酸がグラフト重合された、変性PEやPPが使用される。外面に配される機械的強度を維持するための樹脂フィルムには、ナイロンやPETが常用される。外面の樹脂フィルムと金属箔は、ウレタン系の接着材を介してラミネートされる。
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】前記に図示した、従来のパッケージの欠点を述べることによって、本発明が解決しようとする課題を説明する。従来電池は、パッケージの厚さを小さくできる点においては、小型化、軽量化に有効なものである。ある種の電池、例えばリチウム電池に於いては、外部からの水分や酸素の侵入を極端に嫌う、また、外部に向かって電解液が逸散してはならない。パッケージは、電池の内と外の間の物質の透過を阻止し得る十分な機能を有していなければならない。また、使用期間中、前記パッケージに要求される機能が失われてはならない。
【0007】Al箔とその内面に配した融着性樹脂フィルムとを接着剤を介して接着したものは、Al箔と樹脂フィルムの剥離が生じたり、さらに進行するとAl箔の腐食が生じ、パッケージの機能が失われる場合があった。リチウム電池に於いては、電解液のソルベントを構成するのは、一般的にプロピレンカーボネイト(PC)やジメチルカーボネイト(DMC)などの炭酸エステルやジエトキシエタン(DEE)などのエーテルである。これらソルベントの分子はゆっくりではあるがポリオレフィンフィルムを透過する。透過したソルベント分子は前記接着材をおかす。このためにAl箔とポリオレフィンフィルムの剥離が生じる。剥離がフィルムのエッジに到達すると、Alが外の腐食性雰囲気にさらされるために、腐食が発生する。このように従来の構成のフィルムでは、徐々にパッケージの封止機能が失われる欠点があった。この欠点を改良するため、前記実公平3ー39883号公報が提案されていた。
【0008】しかし、従来電池に於いては、パッケージフィルムの金属箔に目視では確認出来ない微細な亀裂やピンホールが存在し、封止が不完全であるために、使用中や保管中に特性不良が発生した。その原因の第1は、封止工程で発生する。封止工程において、パッケージフィルムは、電池の厚さに相当する深さの絞り加工を受ける。従来の電池では、前記封止工程でパッケージフィルムが折れ曲がる部分、すなわち図4の9、10や、テンションの加わるサイド部分11で金属箔に微細な亀裂やピンホールが発生し、封止が破壊される問題があった。前記の如く従来電池では、金属箔に純AlまたはJIS H4160の合金番号1100、3003、3004を使用していたが、これらは展伸性が乏しく、絞り加工工程でのテンションに適応できなかった。従来電池では、この問題を回避するために、金属箔の厚さを大きくするか、折れ曲がりの角度を図4の如く、鈍角にしていた。しかし、このような構成はパッケージの厚さが厚くなったり、図4の12のような空隙が生じるので、同一寸法の電池では内容積が小さくなり、電池容量を犠牲にするものであった。従って、このような構成を採用した電池の厚さは、1〜2mm以下に限定されていた。
【0009】原因の第2は、金属箔と融着性樹脂フィルムのラミネート工程で発生する。接着剤を介しないで直接熱融着によるラミネートは、接着剤方式と比べ、ラミネート工程での樹脂フィルムの伸びが大きい。それに伴って、金属箔に加わるテンションが大きくなる傾向にある。このテンションに耐えきれずに金属箔に損傷が発生する場合がある。樹脂の材質としてPEよりもPPのほうが伸びが小さいが、それでも従来の金属箔では、耐えない場合が生じた。これらの損傷は微細であり、量産の場で損傷の有無を検査するための簡便で有力な方法が無いのが現状である。従って、損傷しないラミネートフィルムが求められていた。
【0010】この種の電池の製造において、パッケージフィルム内に発電要素を収納するに際して、発電要素が正しい位置に置かれなければならない。従来の方法では平面状のパッケージフィルムの上に、発電要素を載置していた。このため、ささいな衝撃でも位置ずれを生じることがあった。従って簡便な位置決めの方法が求められていた。本発明は、封口機能を維持する信頼性が高く、容量の大きな扁平形電池を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】金属箔と樹脂フィルムで構成されるラミネートフィルムをパッケージフィルムとし、内面の融着性樹脂フィルムと金属箔を接着剤を使用すること無く熱によって直接ラミネートされた扁平形電池において、融着性樹脂フィルムの引っ張り降伏点応力と破断点伸びの値を特定する。これにより、ラミネート工程でる金属箔に加わるテンションの値を金属箔が損傷を受けずに耐える範囲内に抑える。具体的には、融着性樹脂フィルムの降伏点応力をJIS K6758に規定された測定による降伏点応力を100〜300kg/cm2、破断点伸びを500〜1000%とする。両方の値がこの範囲内であれば、ラミネート工程でAl箔に損傷が生じることが無い。封止工程で2〜3mmの深さの絞り加工が加えられても樹脂フィルム層に損傷が生じることも無い。前記の範囲に比べ、降伏点応力が大きいか、破断点伸びが大きい場合は、ラミネート工程で金属箔に加わるテンションが大きくなり、金属箔に損傷が生じる。逆に小さい場合には封止工程で絞りが加わった時に樹脂フィルムの層に裂け等の損傷が生じる。
【0012】金属箔はFeを0.6%以上含有するAl合金箔とする。該合金箔は樹脂との接着性に優れると同時に、展伸性に富み、鋭角な折れ曲がりが加わる絞り加工を受けても、亀裂やピンホールが発生することが無い。さらに前記従来のAl材質では不可能であった約10mm深さの深絞りが可能になった。このため高い信頼性の封止機能が得られると同時に従来この種のパッケージ方式では実現出来なかった厚手で大きい容量の電池が実現可能になった。
【0013】ポリオレフィン系樹脂フィルムは、PPフィルムとする。該樹脂はPEに熱変形が小さく、金属箔とラミネートする過程での伸びが小さい。従って、ラミネート工程で金属箔の伸びが小さく、金属箔に亀裂やピンホールが生じないばかりでなく、寸法精度の高く、反りやしわの無いフィルムが得られる。また、PEにくらべ耐熱性に優れ、高温でも前記金属箔との接着性が良いので、本発明電池は耐熱性に優れる。
【0014】製造の場で発電要素の位置決めは、パッケージフィルムに発電要素が納まるよう、予めフィルムに型付けをしておくことで達成できた。本発明にかかるフィルムでは、約10mmの深さまで型付け加工することが可能で、位置決めの手段として有効である他、従来のこの種電池では達成出来なかった厚さの電池の製作が可能になった。従来の電池に於いては、融着性樹脂の物性やAlの材質に関して規定が無く、封止の信頼性が不十分であった。本発明は樹脂の物性、Alの材質とラミネート工程、封止工程で生じるパッケージの損傷との相関に着目して成されたもので、封止の信頼性が高く、かつ従来より厚手の大きな容量の電池を実現しようとするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】図1の(A)は本発明に係る扁平形電池の一実施形態を示す断面図であり、(B)は理解を容易にするための同平面図である。図1に於て、6はパッケージフィルムである。パッケージフィルムの材料構成を図2に示す。図2で61はAl合金箔で、該Al合金はFeを0.6%以上含有することを特徴とする。ピンホールが無いこと、および強度を満足することを考慮して、厚さは20〜50μmが適当である。65は融着性樹脂で、具体的には商品名アドマー、モデイック、ポリタックなどのマレイン酸やアクリル酸がグラフト重合された変性PPである。封止工程での融着の信頼性を高くするため、樹脂の厚さは30〜100μmが適当である。金属箔61と融着性樹脂65は接着剤を使用せず、熱によってラミネートされる。一般的に接着剤を用いるラミネートに比べ、熱によるラミネートは樹脂の伸びが大きく、金属箔に対して大きなテンションが加わるのであるが、展伸性の高い金属と伸びの小さい樹脂の組み合せで、テンションを最小限に抑えることができ、金属の損傷発生を無くすことができた。62は厚さ5〜20μmのPET製のフィルムで、ウレタン系の接着剤64を介して、Al合金箔61にラミネートされている。接着層64の厚さは5〜10μmである。図3は予め形付け加工を施したパッケージフィルム6の断面を示す図である。発電要素がピッタリ納まるよう、冷間絞り加工によって、少なくとも1方のフィルムに形が付けられている。発電要素をこのくぼみに挿入することにより、位置ずれを防止することができる。該材質のパッケージフィルムでは、従来とても達成できなかった約10mm深さの加工が可能である。
【0016】図1に於て、正極1、負極3、セパレータ5を主構成要素とする発電要素がパッケージ6内に収納され、パッケージの周辺部7が融着されて電池が封止される。図1に示す如く本発明電池では、パッケージフィルム6は9および10においておよそ直角に折り曲げられるが、金属箔61に損傷は認めれられなかった。また、電池のサイド部分10にも金属の損傷は認められなかった。タイトな絞り加工が可能になったため、図4と比較して明かなようにサイド部分のデッドスペース12を無くすことができる。このため発電要素が入る有効内容積が大きく、電池容量が向上した。また、PPはPEに比べて耐熱性に優れ、PEの場合上限温度が約100℃であったのに比べ、120〜130℃になり、電池の耐熱性が向上した。なお、8は正極または負極集電体2、4から延びて、パッケージ6の外へ露出した正極または負極端子である。
【0017】以下に実施例により本発明の詳細を記述するが、形状、発電要素の構成は以下の例に限定されるものでは無い。
(実施例1)図1において、1はコバルト酸リチウム(LiCoO2)を主構成物質とする厚さ約0.2mmの正極、2は厚さ約30μmの純Al箔製の正極集電体で、3は炭素粒子を構成物質とする厚さ約0.2mmの負極、4は厚さ約20μmの銅箔製の負極集電体である。5はLiPF6等のリチウム塩をPCやDMCなどの溶媒に溶解させた非水系電解液を含むPPもしくはPEの微孔膜製のセパレータである。セパレータ5としてはリチウム塩をPEOなどの高分子に溶解させた高分子固体電解質も適用できる。図の如く正極1、セパレータ5、負極3の積層体は折り畳まれ、大きさが42×30mm、厚さが約8mmの発電要素が形成される。該発電要素は図3で示した予め冷間加工によって型付けされたパッケージ6に収納される。型付けの寸法は内包される電池の構成要素のサイズに等しくされる。パッケージフィルム6の厚さは100μmでその構成は外面が10μmのPETフィルム62、内面が50μmの熱融着性PPフィルム65でその降伏点応力は150kg/cm2、破断点伸びが700%である。芯はFeの含有比率が1.0%の厚さ40μmのAl合金箔61である。2枚のパッケージフィルムの融着性樹脂同士が周辺部分7で融着され、電池が密閉される。封止は外から型で加圧しながら行うか、もしくは減圧下で行う。
【0018】実施例1と同一のサイズの電池を試作して、パッケージフィルムを構成する融着性樹脂フィルムの物性およびAl合金箔中に含まれるFeの比率とシールの良否の関係を調べた。評価は充電した電池各20個を温度45℃、湿度90%RH中に10日間放置して、重量変化および開路電圧の低下を生じたものを不良とした。表1は融着性樹脂の物理的物性と電池のシールの不良発生頻度の関係を調べた結果である。芯材は何れもFeを1.0%含むAl合金箔である。
【0019】
【表1】

【0020】表1より降伏点応力が100〜300kg/cm2で、且つ破点伸びが500〜1000%であれば、不良の発生が0であることがわかる。これは、融着性樹脂の物性が上記の範囲内であれば、型付け加工時にAlに加わるテンションが小さく、金属箔が損傷を受けないためと推定される。表2はラミネートフィルムを構成する、Al合金箔のFe含有比率と電池(20個)のシールの不良発生頻度の関係を示すものである。
【0021】
【表2】

【0022】表2よりFeの含有率が0.6%以上であれば不良の発生は0であることがわかる。これは、Feの比率が0.6%以上であれば、Al合金箔が形付け加工に耐える延展性を有するため、金属箔が損傷を受けない為と推定される。
【0023】パッケージフィルムを予め形付けしておくことにより、パッケージフィルムに発電要素を載置する工程で常時一定の位置決めが可能である。また、載置後シールに移る工程で位置ずれを生じることが無い。
【0024】
【発明の効果】以上詳述した如く本発明は、ラミネートフィルムによりパッケージした電池において、従来電池厚さが最大1〜2mmであったものを約20mmまで可能にし、放電容量の大きな電池に対応出来るものである。また、フィルムの直角の絞り加工を可能にしたことで電池内のデッドスペース低減に有効である。また、密閉化の信頼性が高く、長期の使用や保存に耐える。従って、放電容量が大きく、耐熱性に優れる、長寿命の扁平形電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明に係る扁平形電池の一実施形態を示す断面図、(B)は同平面図である。
【図2】図1のパッケージフィルムを示す一部拡大断面図である。
【図3】(A)は本発明に係るパッケージフィルムに絞り加工を加えた時の一実施形態を示す断面図であり、(B)は同じく他の実施形態を示す断面図である。
【図4】従来の扁平形電池の一実施形態を示す断面図である。
【図5】図4のパッケージフィルムを示す一部拡大断面図である。
【符号の説明】
6 パッケージ
61 金属箔
65 融着性樹脂フィルム
7 周縁部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-04-11 
出願番号 特願平9-13823
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H01M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 寺本 光生  
特許庁審判長 中村 朝幸
特許庁審判官 酒井 美知子
綿谷 晶廣
登録日 2003-07-18 
登録番号 特許第3452172号(P3452172)
権利者 株式会社ユアサコーポレーション
発明の名称 扁平形電池  
代理人 松本 悟  
代理人 松本 悟  

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