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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効としない B65D
審判 全部無効 特174条1項 無効としない B65D
管理番号 1124012
審判番号 無効2004-35047  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-01-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-01-27 
確定日 2005-09-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3394728号発明「ケース」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3394728号に係る発明についての出願は、平成11年6月21日に特許出願されたものであって、平成15年1月31日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成16年1月27日に請求人株式会社ジャストコーポレーションより無効審判の請求がなされ、平成16年4月19日に被請求人より答弁書が提出され、その後平成16年6月12日及び平成16年7月12日に請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成16年7月15日に被請求人より口頭審理陳述要領書(第1回及び第2回)が提出され、平成16年7月15日に口頭審理が行われたものである。

II.本件明細書の特許請求の範囲の記載
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は次のとおりのものである。
「【請求項1】側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝とからなるケース。
【請求項2】前記係合溝或いは箱体と、蓋体のいずれかに差し込んだスライダの抜け止め係止手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のケース。【請求項3】側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝とからなるケースにおいて、前記係合溝に連結板を介し対向する両側板の上縁部を前記ケースの閉鎖状態維持の係合状態に、かつ抜き差し自在に差し込むケース用スライダ。
【請求項4】側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝とで構成したケースと、前記係合溝に連結板を介し対向する両側板の上縁部を前記ケースの閉鎖状態維持の係合状態に、かつ抜き差し自在に差し込んだスライダとからなり、上記スライダと上記ケース或いは係合溝との対向面に前記スライダの差し込みにともない押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるような係止手段を設けたことを特徴とするケース。
【請求項5】前記スライダの側板に盗難防止用のタグを設けたことを特徴とする請求項3に記載のケース用スライダ。」

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
請求人の主張は、以下の通りである。
(i)本件請求項1ないし請求項5に係る発明(以下それぞれ「本件特許発明1」、ないし「本件特許発明5」という)は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件特許1ないし5は特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。
(ii)本件特許発明4について、拒絶理由通知に伴って平成14年7月30日と平成14年10月31日の2回にわたり明細書の補正を行っているが、特許発明4の補正は特許法第17条の2第3項の規定を満たしていないので、特許法第123条第1項第1号によって無効とすべきである。
(iii)本件特許発明1、2及び4は、特許法第36条第4項第1号第36条第6項の規定を満たしていないので、特許法第123条第1項第4号によって無効とすべきである。
〈証拠方法〉
甲第1号証 実開平7-29692号公報
甲第2号証 1994年AV総合カタログ写し
甲第3号証 特開平10-218273号公報

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
(i)本件特許発明1ないし5は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ii)本件特許発明4の補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしている。
(iii)本件特許発明1,2及び4は、特許法第36条第4項第1号第36条第6項の規定を満たしている。
よって、請求人の主張は失当である。

IV.当審の判断
1.請求人の主張(iii)について
まず、本件特許発明1、2及び4は、特許法第36条第4項第1号第36条第6項の規定を満たしていないので、特許法第123条第1項第4号によって無効とすべきである、との請求人の主張(iii)について検討する。

請求人は請求書中では未完成発明であるとの文言を用いて、主張を展開しているが、請求書中に記載している条文及びその趣旨から見て、いわゆる特許法第29条柱書きでいう発明未完成ではなく、特許法第36条の明細書の記載不備を主張するものと認められる。

(本件特許発明1について)
請求人は、「請求項1記載のケースはスライダを差し込んでいない状態のケースである。しかし、本件特許発明が所期の機能を発揮して目的を達成するには、該ケースを閉じた際に蓋体が開かないようにロックするスライダが差し込まれるように構成されたケースでなくてはならない。しかし、この請求項1に記載している要件で構成されるケースは、7字状に屈曲した屈曲壁で構成される並列係合溝を備えたケースであるが、並列係合溝だけでは本発明の目的を達成することは出来ず、その効果を得ることは不可能である。」と主張している。
しかし、本件特許発明1でいう並列係合溝は、並列して設けられた係合するための溝であるから、並列することにより、係合されるための構成が記載されており、何らかの係合のための部材(本件明細書の実施例でいうスライダ)が7字状に屈曲した屈曲壁で構成される並列係合溝で構成される空間内で係合することはその記載により特定される事項と認められる。そして、その係合のための部材が同係合を可能とする以上に必要な構成がない場合には請求項中に係合部材について記載がないからといって直ちに明細書の記載に不備があるということはできない。
そして、本件特許発明1は、蓋体と箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって構成される空間内で、係合溝と係合部材との係合が行われるというべきであり、係合部が外部より見えにくいことによって万引きを躊躇させる等本件発明の目的及び効果が達成できるものである。
なお、請求人は本件明細書の【0002】に「例えば、レンタルショップでレンタル商品であるビデオテープやディスクなどの収納ケースを並べて陳列した際、ケースの収納商品の盗難防止機能、すなわちケースを開放して収納商品の抜き取りを防止する手段がないため、商品の不正な持ち出し(盗難)が発生する。」と従来技術及びその課題が記載されることをもって、本件請求項1の記載では本件特許発明が解決しようとする課題が達成できない旨主張するが、本件特許発明1では、何らかの係合のための部材が7字状に屈曲した屈曲壁で構成される並列係合溝で構成される空間内で係合することが特定されているものであり、そのことにより万引き等商品の不正な持ち出しを躊躇させる等本件特許発明の目的及び効果が達成できるものである。

(本件特許発明2について)
請求人は「上記請求項1にはケースが開かないようにロックするスライダの構成要件を備えていない。それにも関わらず、請求項2に「前記係合溝或いは箱体と、蓋体のいずれかに差し込んだスライダの抜け止め係止手段を設けたことを特徴とする請求項1記載のケース。」のように請求項1の引用形式とすることは不適当である」と主張している。
しかし、本件特許発明1は、並列係合溝を有することにより、これへのスライダの差し込みを予定するものであり、係合部材すなわち本件発明でいうスライダと組み合わせての使用が意図されるものであるから、本件発明2において、スライダの抜け止め係止手段を設けることを記載して請求項1を引用しても特許請求の範囲の記載が不明確となるものとはいえない。

(本件特許発明4について)
請求人は「この請求項4に記載しているケースは、該ケースが閉鎖状態に維持されるようにスライダを組み込んで構成している。そして、該スライダを抜き取ることが出来ないように、係合溝に差し込んだスライダは係合することが出来る係止手段を備えている。従って、スライダが抜けないように差込み終了にともなって係合関係になる係止手段を設けているが、係止手段を解除して抜き取り、ケースを開口する際には、係合解除用解除具を必要とする。しかし、この請求項4には係合解除用解除具、及び該係合解除用解除具を差し込む間隙が構成要件として含まれていない。
出願当初の【請求項4】には、「・・・係止手段を設け、この係止手段を挟んで対向する面間に前記係止手段の係合解除用解除具の差込間隙を設けたことを特徴とするケース。」と記載してあった。【請求項4】にはこの要件が必要である。」と主張している。
しかし、本件特許発明4は、請求項4に記載された「側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝とで構成したケースと、前記係合溝に連結板を介し対向する両側板の上縁部を前記ケースの閉鎖状態維持の係合状態に、かつ抜き差し自在に差し込んだスライダとからなり、上記スライダと上記ケース或いは係合溝との対向面に前記スライダの差し込みにともない押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるような係止手段を設けたことを特徴とするケース。」という構成のみで一定の技術思想が把握できるものであって、発明の詳細な説明に係合解除用解除具を用いて係合を解除することが記載されているとしても、解除手段には種々の形式があって任意である場合は、請求項に係合解除用解除具及び該係合解除用解除具を差し込む間隙を発明特定事項として記載しないからといって発明が不明確になるとはいえない。
よって、本件特許発明1、2及び4は、特許法第36条第4項第1号第36条第6項の規定を満たしていないとの請求人の主張(iii)は採用できない。

以上のとおりであるから、本件請求項1ないし請求項5に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものである。

2.請求人の主張(ii)について
次に請求人の主張(ii)について検討する。
請求人は、本件請求項4について、「係合解除用解除具を差し込む為の差込間隙がなくてはならず、出願当初にあったこの要件を削除した補正は権利範囲の拡大であり、違法でもある。」と主張し、また、「この係止手段を挟んで対向する面間に前記係止手段の係合解除用解除具の差込間隙を設けた」という構成を有しない発明は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていないと主張している。

しかし、この補正は平成14年7月30日付けで、最初の拒絶理由通知に対する意見書と同時に提出された補正書による補正であり、本件特許の出願当初の明細書の【0037】段落に、「ただし、係合解除具22は、上記の構成に限定されず」と記載されているように、本件特許発明では、係合解除具の構成を特に限定しているものではないから、差込間隙が必要となる特定の解除具を前提とした「この係止手段を挟んで対向する面間に前記係止手段の係合解除用解除具の差込間隙を設けた」という構成を削除する補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされた補正である。
また、スライダーが抜き差し自在であることは願書に最初に添付した明細書に記載されているのであるから、本件請求項4に記載された発明は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されたものである。
よって、請求人の主張(ii)は採用できない。

3.請求人の主張(i)について
各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証(実開平7-29692号公報及び実願平5-60879号のCD-ROM)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】外部から容易に取出せないように商品を収納すると共に、電波式、磁気式等の万引き防犯装置に適用される万引き防犯タグが取付けられる万引き防犯ケースであって、第1の端部をヒンジにより回動可能に連結され、該ヒンジを中心に開閉可能にされた一対のケース本体と、該一対のケース本体の第2の端部に装着され、前記一対のケース本体を閉じた状態に係止する係止部材と、該係止部材を係止状態にロックするロック部材であって、所定の工具を使用することによりロック状態を解除可能にされたロック部材とを具備し、前記係止部材の内側に、前記万引き防犯タグを取り付けたことを特徴とする万引き防犯ケース。
【請求項2】前記一対のケース本体の夫々の第2の端部には、一対の凸部が形成されていると共に、前記係止部材には、前記一対の凸部の双方に係合する一対の凹部が形成されており、前記一対の凸部と前記一対の凹部とを係合させることにより、前記係止部材が前記一対のケース本体に装着され、該一対のケース本体を閉じた状態に保持することを特徴とする請求項1記載の万引き防犯ケース。
【請求項3】前記一対の凸部は、前記一対のケース本体の長手方向に沿って延出しており、前記係止部材は、前記一対の凹部を前記一対の凸部の延出方向端部からスライド挿入することにより前記一対のケース本体に装着されることを特徴とする請求項2記載の万引き防犯ケース。
【請求項4】前記ロック部材は、前記係止部材の前記一対のケース本体に対するスライドを禁止することにより、前記係止部材を係止状態にロックすることを特徴とする請求項3記載の万引き防犯ケース。
【請求項5】外部から容易に取出せないように商品を収納すると共に、電波式、磁気式等の万引き防犯装置に適用される万引き防犯タグが取付けられる万引き防犯ケースであって、内部に商品を収納する空間を有し、一端部が開放された中空状ケース本体と、該ケース本体の前記一端部を閉鎖するように装着される蓋体と、該蓋体を容易に開かない状態にロックするロック手段であって、所定の工具を使用することによってロック状態を解除可能にされたロック手段とを具備し、前記蓋体の内面に前記防犯タグを取付けたことを特徴とする万引き防犯ケース。」

b)「【産業上の利用分野】本考案は、主に小物商品の販売店またはレンタル店などにおいて使用される電波式、磁気式等の万引き防止装置に適用される防犯タグを取付けてなる万引き防犯ケースに関するものである。」

c)「【考案が解決しようとする課題】【0004】販売店における場合のように、商品の包装紙にタグを貼る場合には、タグの再利用が出来ず多大なランニングコストを必要とするし、簡単にタグを剥したり損傷を与えたりすることも出来るので、万引きを誘発するという問題があった。
【0005】レンタル店における場合のように商品ケースに直接タグを貼り付けたり、商品ケースの内部にタグを入れる場合にも、上記と同様の問題点があった。又特にレンタル店においては、商品が包装されていないため、ケースから商品を取出して、商品のみを万引きされる場合があった。
【0008】従って、本考案は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防犯タグが簡単に取外されたり損傷を与えられることなく、商品も簡単に抜き取られることがなく、更にタグの再利用が出来る万引き防犯ケースを提供することにある。」

d)「【0013】以上の様に、この考案に係る万引き防犯ケースは構成されているので、開閉可能なケース本体の内部に商品を収納して、ケース本体を係止部材で閉じた状態に係止し、所定の工具を使用しなければ解除できないロック部材でロックすることにより、ケース本体から商品を容易に取出すことができないようにすることができる。そして、このロック状態では、係止部材の内側に取り付けられた防犯タグが商品と一体化しており、収納ケースから商品を取出すこともできないし、防犯タグをケースから取外すこともできない。従って、商品の万引きを確実に防止することができる。また、商品に直接タグを貼ったり剥したりする訳でないのでタグの再利用も可能になる。」

e)「【0031】以上説明した様に、本考案の万引き防止ケースによれば、開閉可能なケース本体の内部に商品を収納して、ケース本体を係止部材で閉じた状態に係止し、所定の工具を使用しなければ解除できないロック部材でロックすることにより、ケース本体から商品を容易に取出すことができない様にすることができる。そして、このロック状態では、係止部材の内側に取り付けられた防犯タグが商品と一体化しており、収納ケースから商品を取出すこともできないし、防犯タグをケースから取外すこともできない。従って、商品の万引きを確実に防止することができる。また、商品に直接タグを貼ったり剥したりする訳でないのでタグの再利用も可能になる。」

(2)甲第2号証(1994年AV総合カタログ写し)
甲第2号証は、甲第1号証に係る万引き防犯ケースの具体的な製品カタログである。

(3)甲第3号証(特開平10-218273号公報)
a)「【請求項3】請求項2において、前記ケース本体に、前記収納部の一側辺に沿った膨出部が一体形成され、この膨出部の一端部に、前記弾性ロック片が前記収納部に向かって延びる配置で支持され、前記膨出部の他端側に、前記ロックバーを摺動自在に保持するほぼ筒状の装着部が形成されているとともに、この装着部の内壁面に前記第1および第2の凹部が形成されているCD等の盗難防止用ケース体。」

b)「【0022】ケース本体10における収納部19の一辺側には膨出部20が一体に突設されており、この膨出部20の一方側には弾性ロック片21がその先端の押圧部22を収納部19に僅かに臨ませて片持式に支持されている。膨出部20の他方側には、ロックバー11を摺動自在に保持する装着部23が形成されている。この装着部23はほぼ角筒形状になっているが、合成樹脂で一体成形するために、複数の型抜き孔24が設けられている。なお、ケース本体10の床面にも取出防止片13,14を形成するための型抜き孔27および弾性ロック片21を形成するための型抜き孔28が形成されている。」

c)「【0025】ケース本体10およびロックバー11は個別に製作されたのちに合体される。すなわち、ロックバー11は、抜け止め用爪部29側からケース本体10における角筒状の装着部23の内部に挿入される。このとき、抜け止め用爪部29およびバネ片30は撓みながら進入していき、抜け止め用爪部29が第1の凹部37に、且つバネ片30の係合爪31が第2の凹部38に位置するまで押し込まれる。ロックバー11は、上記位置まで一旦押し込まれると、抜け止め用爪部29が第1の凹部37に摺動可能な範囲内で移動できるが、その場合、係合爪31の係止突部39に対する係合を解除する必要がある。また、抜け止め用爪部29がストッパー面40に当接した時点でそれ以上の移動を阻止されるので、ロックバー11がケース本体10に一体的に取り付けられた盗難防止用ケース体となる。」

d)「【0032】つぎに、ロック解除装置44による盗難防止用ケース体のロック解除について説明する。ロック解除装置44は、例えばCD販売店やCDレンタル店のカウンタに設置されており、所望のCDが収納されているロック状態の盗難防止用ケース体を陳列棚などから取り出した顧客は、その盗難防止用ケース体をカウンタで店員に手渡す。店員は、図9示すように、受け取った盗難防止用ケース体を凹所47内に挿入する。このとき、盗難防止用ケース体は、ロックバー11をロック解除キー48に対向する向きに位置決めして凹所47に挿入される。」

(対比判断)
本件特許発明1と甲第1号証記載のものとを比較する。
甲第1号証に記載されたケースは、記載a)の請求項1によれば、「商品を収納すると共に、電波式、磁気式等の万引き防犯装置に適用される万引き防犯タグが取付けられる万引き防犯ケース」で、「ヒンジを中心に開閉可能にされた一対のケース本体」であり、記載a)の請求項2によれば「一対のケース本体の夫々の第2の端部には、一対の凸部が形成されている」。
そして、両者は本件特許発明の用語を用いて表現すると、
「側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体のそれぞれの端部に上方に突出する並列係合溝とからなるケース。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点:本件特許発明1は、「蓋体と箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝」を有しているのに対し、甲第1号証記載のものは、「蓋体と箱体のそれぞれの端部に凸部が形成された並列係合部」を有する点。

上記相違点について検討する。
請求人が審判請求書中で引用している甲第1号証の記載b)、c)、d)、e)には、ビデオテープ等のレンタル店等において盗難防止をするという発明の利用分野や解決しようとする課題が記載されているのみで、本件発明1の蓋体と箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝の具体的構成が記載されたり、示唆されてない。
また、同じく請求人が審判請求書中で引用している甲第3号証の記載a)には、CD等の盗難防止用ケース体に膨出部が一体成形され、膨出部の中にロックバーが摺動自在に保持されることは記載されているが、ケースから膨出した部分は、本件発明1でいう並列係合溝を構成するものではないし、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁を示唆するものでもない。
さらに、請求人が重点的に審理すべきと主張する甲第3号証の記載b)、c)、d)にも、ケースに膨出部を設ける点、ケース本体及びロックバーの構造、盗難防止用ケース体のロック解除については記載されているが、これらは本件発明1の蓋体と箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝の具体的構成を記載したり、示唆するものではない。
なお、甲第2号証は甲第1号証に係る万引き防犯ケースの具体的な製品カタログであり、甲第1号証に記載された以上の立証事項は無いものと認められる。
以上のとおり、本件特許発明1の延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝の具体的構造は、請求人が提出した甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
本件特許発明1では、係合溝に係合する部材(本件発明でいうスライダ)が屈曲壁内部に挿入されるため、係合溝とスライダの係合部が表面に露出せず、箱体と蓋体内に隠れる構造となっている。
そのことにより、開放を阻止する部材すなわちスライダの構造が分かり難く万引きを躊躇させる効果があるものと認められる。
してみれば、本件特許発明1における並列係合溝の形状は単なる係合部の形状の相違ではなく特有の機能を奏させることに基づく形状の違いというべきであるから、屈曲壁を7字状の形状とすることは単なる設計上の事項とすることはできないし、また同形状が周知または公知であったとする客観的証拠があるものとも認められない。
よって、本件特許発明1は甲第1ないし3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件特許発明2は、「前記係合溝或いは箱体と、蓋体のいずれかに差し込んだスライダの抜け止め係止手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のケース」というものであって、本件特許発明1の構成を引用するものである。
本件特許発明3は、「側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝とからなるケースにおいて、前記係合溝に連結板を介し対向する両側板の上縁部を前記ケースの閉鎖状態維持の係合状態に、かつ抜き差し自在に差し込むケース用スライダ。」というものであり、本件特許発明1のケースにおけるケース用スライダである。
本件特許発明4は「側面に商品の出し入れ用の開口を有する箱体と、この箱体の下縁側に適宜のヒンジを介し前記開口を開閉するように設けた蓋体と、この蓋体と前記箱体とのそれぞれの側壁の上縁から連なって上方に突出すると共に、延長を内方に7字状に屈曲した屈曲壁によって設けた並列係合溝とで構成したケースと、前記係合溝に連結板を介し対向する両側板の上縁部を前記ケースの閉鎖状態維持の係合状態に、かつ抜き差し自在に差し込んだスライダとからなり、上記スライダと上記ケース或いは係合溝との対向面に前記スライダの差し込みにともない押し戻され、かつ差し込み終了にともない係合関係になるような係止手段を設けたことを特徴とするケース。」というものであり、本件発明1の構成をその構成の一部とするものである。
本件特許発明5は「前記スライダの側板に盗難防止用のタグを設けたことを特徴とする請求項3に記載のケース用スライダ。」であって本件発明1のケースにおけるケース用スライダである本件請求項3を引用するものである。
以上のように、本件特許発明2ないし5は本件特許発明1の構成をその構成の一部とする発明であって、本件特許発明2ないし5についても上記と同様の理由により、甲第1ないし3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許の請求項1ないし5に係る発明の特許を無効にすることはできない。
他に本件特許発明1ないし5を無効とすべき理由は発見できない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2004-08-06 
出願番号 特願平11-212589
審決分類 P 1 112・ 55- Y (B65D)
P 1 112・ 537- Y (B65D)
P 1 112・ 121- Y (B65D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 寺本 光生
山崎 豊
登録日 2003-01-31 
登録番号 特許第3394728号(P3394728)
発明の名称 ケース  
代理人 平崎 彦治  
代理人 鎌田 文二  
代理人 安原 正之  
代理人 佐藤 治隆  
代理人 鳥居 和久  
代理人 東尾 正博  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 小林 邦夫  

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