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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1124017 |
審判番号 | 不服2001-16047 |
総通号数 | 71 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-05-06 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-09-07 |
確定日 | 2005-09-29 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第507790号「無味の加水分解コラーゲンの使用及びそれを含む薬剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 2月29日国際公開、WO96/05851、平成10年 5月 6日国内公表、特表平10-504555〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成7年8月19日(パリ条約による優先権主張 1994年8月23日 独国)を国際出願日とする出願であって、その特許請求の範囲の請求項1〜5に係る発明のうち、請求項5に記載された事項により特定される発明は次のとおりのものである。 「【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかに記載の薬剤であって、当該薬剤がさらにカルシトニン、カルシウム塩、及び/又はプロゲステロンを含むことを特徴とする薬剤。」 ここで、請求項1は「平均分子量が1ないし40kDで無味の酵素的加水分解コラーゲンを含む閉経後骨粗鬆症治療用の薬剤。」であるから、上記請求項5において請求項1を引用した場合の発明は、 「平均分子量が1ないし40kDで無味の酵素的加水分解コラーゲンを含む閉経後骨粗鬆症治療用の薬剤であって、当該薬剤がさらにカルシトニン、カルシウム塩、及び/又はプロゲステロンを含むことを特徴とする薬剤。」である。以下これを本願発明という。 2.引用刊行物の記載の概要 刊行物1;英国特許第1227534号明細書(1971) コラーゲンを酸又はアルカリによって加水分解することによって、粘着性がなく、ゲル化力を失い遊離アミノ酸を4から15%を含む加水分解コラーゲンを製造すること、加水分解コラーゲンはリンやカルシウムイオンの供給源を吸収しうる同化可能な媒体として作用すること、加水分解コラーゲンにカルシウムイオン源を結合した組成物が骨粗鬆症、カルシウム同化が困難な場合の臨床試験で良好な結果を示し、さらに、関節炎などの治療においても有利な結果が得られたことが記載されている。 刊行物2;特開昭63ー39821号公報 コラーゲンの加水分解は、アルカリ加水分解、酸加水分解、与圧加水分解及び酵素的加水分解のいずれも基本的には有効であること、それぞれの分解処理においては、規定される分子量の範囲が得られるように加水分解の条件を選択することができること、酵素的に分解されたコラーゲンはゲリタ-ゾルの商品名で製品化され市販されていること、これらの酵素的に加水分解されたコラーゲンの多くは、30乃至45キロドルトンの平均分子量を有し、分子量の分布範囲は2乃至80キロダルトンで、5乃至40キロダルトンの範囲の分子量を有するものが大部分であること、酵素的に加水分解されたコラーゲンはほぼ無味無臭であるか、きわだった風味を有していず、冷水に可溶性であり、変性されたゼラチンのような多量の水を結合する能力は既に失われていること。(p3左上欄〜右上欄) 3.対比・判断 刊行物1には、酸或いはアルカリにより加水分解処理し、粘着性がなくゲル化せず、且つ4〜15%の遊離アミノ酸を含み、水に溶解する性質を有する分解されたコラーゲンとカルシウムイオン供給源とを結合した薬学的組成物の発明が記載され、かかる組成物は骨粗鬆症の臨床試験で良好な結果を示したことが記載されている。 上記刊行物1の薬学的組成物と本願発明とを対比すると、両者は、共に「加水分解コラーゲンを含む骨粗鬆症治療用の薬剤であって、当該薬剤がさらにカルシウム塩を含む薬剤。」である点で一致し、以下のA及びBの2点で相違が見られる。 以下相違点につき検討する。 A 本願発明の加水分解コラーゲンは平均分子量が1ないし40kDで無味の酵素的加水分解コラーゲンであるのに対し、刊行物1のものは酸又はアルカリによって加水分解されたものであり、平均分子量範囲や味については記載がない点 B 本願発明では閉経後骨粗鬆症治療用と特定されているのに対し、刊行物1では単に骨粗鬆症の治療とされている点 (Aについて) 刊行物1の分解されたコラーゲンは粘着性がなくゲル化せず水溶性という性質を示すが、刊行物2の加水分解コラーゲンも水溶性であり、多量の水と結合する能力(ゲル化能)がないという同じ物性を有している。そうすると両者の分子量はほぼ同程度と考えられるところ、刊行物2の加水分解コラーゲンの分子量は2乃至80キロダルトンであるから、刊行物1の分解されたコラーゲンの分子量も少なくともその範囲内のものであることは当業者が容易に理解することである。 また、酸やアルカリ分解されたコラーゲンは味や臭いの点で問題があることが周知であるところ、刊行物2(p3右上欄、p4左上欄)によれば、本出願前に酵素的加水分解により製造され、ほぼ無味無臭の食品や医薬用の製品(ゲリターゾル)も市販され、利用可能であったことが示されている。 そうすると、刊行物1の酸又はアルカリで加水分解することによって得られる加水分解コラーゲンに代えて、既に市販されている上、無味無臭というヒトが摂取する上で有利な性質をもつ刊行物2の酵素的に加水分解された水溶性コラーゲン(例えばゲリターゾル)を利用することは当業者が容易に行うことであり、さらに当該市販品は5乃至40キロダルトンの範囲の分子量を有するものが大部分であることからすれば、その分子量の範囲を1〜40kDとした点も当業者が通常選択する範囲であって格別の創意を認めることはできない。 請求人は、刊行物1に記載の加水分解コラーゲンは、酸またはアルカリによる特定の分解工程に付し、遊離アミノ酸含有量が4〜15%となるように解重合および部分加水分解されたものであって、生物同化に寄与させる目的で、所定量の遊離アミノ酸を意図的に含有させているから、遊離アミノ酸を含まない酵素的加水分解コラーゲンに置換することは、引用例1に記載の発明の目的を達成できなくなることを意味し、置換の動機付けを明らかに否定するものである旨主張している。 しかしながら、刊行物1には、「・・分解されたコラーゲンのポリペプチド鎖の横方向の塩基部分上にリンイオンが固定され、かつこのように固定されたリンイオンの残った酸部分がカルシウムイオンによって中和されうる」(p2 第35〜60行)「本発明によって得られたコラーゲンの分解生成物は、組成物を構成するアミノ酸の鎖が、カルシウムカチオンによって順番に中和され得るリンアニオンをかなりの割合で固定することができるので・・」(p2 第66〜77行)と記載されているところから、カルシウム及びリンイオンの供給源を吸収しうる同化可能な媒体として作用するのは分解されたコラーゲンであることは明らかであり、また、「本発明は、天然コラーゲンをその粘着性及びゲル化力を失うポイントまで、遊離アミノ酸含有量が4〜15%になるまで、原料の解重合及び部分的な加水分解を引き起こす効果を有する分解工程に付すことにある。」(p1 第64〜71行)の記載から、4〜15%の遊離アミノ酸は、コラーゲンが粘着性及びゲル化力を失う程度に分解する目安として設定された結果として存在するにすぎないと認められる。したがって、上記主張は理由がない。 (Bについて) 骨の主成分はカルシウム、無機質、骨コラーゲンであることは周知であるところ、刊行物1は加水分解コラーゲンがリンやカルシウムイオンの供給源を吸収しうる同化可能な媒体として作用するとされ、ヒトの骨粗鬆症の治療、及び他のカルシウム同化が困難な場合の臨床試験は良好な結果を示したとされているのであるから、これを骨の構成成分の骨基質量と骨塩量が減少する病気である骨粗鬆症の典型である閉経後の骨粗鬆症に対して適用することは当業者が容易に行いうることである。 請求人は、 刊行物1に記載の加水分解コラーゲンは「カルシウム同化を促進する補助剤」であり、刊行物1に記載の「骨粗鬆症」は、カルシウム同化が困難なため骨形成が良好に進行しないことに起因して生じる骨粗鬆症、即ち、「老人性骨粗鬆症」を意味し、過剰な骨破壊によって生じる「閉経後骨粗鬆症」を意味しないから、両者の治療に有効な薬剤が異なることを理解している当業者であれば、刊行物1のカルシウム同化を助ける治療用薬剤を閉経後骨粗鬆症の治療用薬剤に転用することはなし得ないとし、閉経後の骨粗鬆症を有する患者にコラーゲンペプチドを多く含む食品を与えた場合と、グルコン酸カルシウムを投与した場合を比較した実験から、コラーゲン治療グループでは、コリーズ骨折、脊髄骨折が少なく、脊椎及び関節の痛みの軽減や消失という効果や破骨細胞活性の低減が観察されたと主張している。 しかし、請求人が示した加水分解コラーゲン投与群とグルコン酸カルシウム投与群を比較した実験から両者の効果の相対的な比較をすることはできても、カルシウムそのものの治療効果の有無を判定することはできない。また、カルシウムが老人性骨粗鬆症に対しては有効であるが、閉経後骨粗鬆症に対してはそうでないとする技術常識が存在すると認めることもできないから、刊行物1の加水分解コラーゲンを閉経後骨粗鬆症の治療薬として使用することに困難性があるとする上記主張は採用できない。 したがって、本願発明は刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-06-04 |
結審通知日 | 2004-06-15 |
審決日 | 2004-06-29 |
出願番号 | 特願平8-507790 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 聖子 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
深津 弘 横尾 俊一 |
発明の名称 | 無味の加水分解コラーゲンの使用及びそれを含む薬剤 |
代理人 | 塩澤 寿夫 |