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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1124283
異議申立番号 異議2003-71866  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-22 
確定日 2005-07-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3370189号「農業用合成樹脂フィルム」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3370189号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続の経緯

本件特許第3370189号は、出願日が平成6年8月11日であって、平成14年11月15日に特許権の設定登録がなされ、その後、シーアイ化成株式会社(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由を通知したところ、訂正請求がなされるとともに特許異議意見書が提出されたものである。

[2]訂正の適否

1.訂正事項
本件訂正請求における訂正事項は、次のとおりである。
訂正事項1:請求項1の「樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなることを特徴とする農業用合成樹脂フィルム。」を、
「樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなり、合成樹脂フィルムに、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有することを特徴とする農業用合成樹脂フィルム。」と訂正する。
訂正事項2:請求項3の「合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を0〜3重量部含有する塩化ビニル系樹脂フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。」を、
「合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有する塩化ビニル系樹脂フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。」と訂正する。
訂正事項3:請求項4の「合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を0〜3重量部含有するポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルムまたはこれらの積層フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。」を、
「合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有するポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルムまたはこれらの積層フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。」と訂正する。
訂正事項4:段落【0006】の「【課題を解決するための手段】本発明の農業用合成樹脂フィルムは、樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなることを特徴とする。」を、
「【課題を解決するための手段】本発明の農業用合成樹脂フィルムは、樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなり、合成樹脂フィルムに、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有することを特徴とする。」と訂正する。

2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、段落【0011】の記載に基づいて合成樹脂フィルムを限定する訂正であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものである。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は「非イオン系界面活性剤を0〜3重量部含有する」を段落【0011】の記載に基づいて「非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有する」と訂正し、0重量部含有する場合(すなわち、非イオン界面活性剤を含まない場合)を除いたものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものである。
(3)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが整合しなくなったことを解消するためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(4)訂正事項1〜4は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び、同条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明

本件の訂正後の請求項1〜4に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明4」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなり、合成樹脂フィルムに、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有することを特徴とする農業用合成樹脂フィルム。
【請求項2】合成樹脂フィルムの防滴性被膜を形成していない側の面に、防塵性被膜を形成してなる請求項1記載の農業用合成樹脂フィルム。
【請求項3】合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有する塩化ビニル系樹脂フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。
【請求項4】合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有するポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルムまたはこれらの積層フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。」

[4]取消理由の概要

当審において通知した取消理由のうち理由2の概要は、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件の出願前に国内において頒布された下記の刊行物1〜9に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、取り消すべきものであるというものである。
刊行物1:特開平6-122851号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
刊行物2:特公平1-33492号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
刊行物3:特開平5-24160号公報
刊行物4:特開平5-1162号公報
刊行物5:特公昭60-44148号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証)
刊行物6:特開昭63-149148号公報
刊行物7:特開平1-200957号公報
刊行物8:特開平4-272946号公報
刊行物9:特開平2-279733号公報

[5]取消理由に対する判断

1.刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の記載事項がある。
記載事項a:「(A)ポリエステル系及びポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンエマルションの中から選ばれた少なくとも1種と、(B)平均粒径が5〜70mμのコロイド状シリカ粒子及びコロイド状アルミナ粒子の中から選ばれた少なくとも1種とを、固形分換算重量比3:7ないし7:3の割合で含有して成る防曇性塗膜形成用組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
記載事項b:「軟質塩化ビニル系樹脂フイルムの片面に、請求項1記載の防曇性塗膜形成用組成物の塗膜層を有する農業用防曇性塩化ビニル系樹脂フイルム。」(特許請求の範囲の請求項2)
記載事項c:「従来、農業用塩化ビニル系樹脂フイルムには、ハウスなどに展張した際、内面の水滴付着による曇りを防止する目的で、通常防曇処理が施されている。」(段落【0002】)
記載事項d:「前記ウレタンプレポリマーにアニオン性基を有する鎖延長剤を、有機溶媒中で反応させたのち、水を加え、該有機溶媒を留去させるか、あるいは水性媒体中で反応させることにより、アニオン性ポリウレタンエマルションを製造する。」(段落【0014】)
記載事項e:「本発明組成物においては、所望に応じ防曇性及びその持続性をさらに向上させる目的でシリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を含有させることができる。シリコーン系界面活性剤としては、例えばポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましく用いられ、またフッ素系界面活性剤としては、例えば・・・が用いられる。これらの界面活性剤の配合量は、通常組成物全量に対し、0.01〜1重量%の範囲で選ばれる。」(段落【0027】)
記載事項f:「本発明の農業用防曇性塩化ビニル系樹脂フイルムの外面には、所望に応じ、防塵処理などの慣用の処理を施すことができる。」(段落【0039】)

2.対比・判断
(1)本件発明1について
刊行物1の記載事項aには、防曇性塗膜形成用組成物が記載されている。該組成物は、ポリウレタンエマルションを成分とすることから樹脂を含有し、且つ、水系であることは明らかであるが、この点は、記載事項dをみればより明らかである。また、記載事項bには、軟質塩化ビニル樹脂系フィルムの片面に、該組成物の塗膜層を有する農業用防曇性塩化ビニル樹脂系フィルムが記載されており、軟質塩化ビニル樹脂系フィルムは合成樹脂フィルムの一種である。さらに、記載事項eには、該組成物にシリコーン系界面活性剤を、通常該組成物全量に対し、0.01〜1重量%配合することが記載されており、シリコーン系界面活性剤はシリコン系界面活性剤の一種である。
以上の点からみて、刊行物1には「「シリコン系界面活性剤を組成物全量に対し0.01〜1重量%配合してなる、樹脂を含有する水系防曇性塗膜形成用組成物」による防曇性塗膜を合成樹脂フィルムに形成してなる農業用合成樹脂フィルム」の発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。
そして、刊行物1の発明でいう「塗膜」は本件発明1でいう「被膜」に相当し、また、刊行物1の発明でいう「防曇」は刊行物1の記載事項cからみて、水滴付着による曇を防ぐことであるから本件発明1でいう「防滴」と同義である(本件発明1でいう「防滴」の意味は、訂正明細書の段落【0003】を参照。)。
そこで、本件発明1と刊行物1の発明を対比すると、両者は「樹脂を含有する水系防滴処理剤に対し、シリコン系界面活性剤を添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなる農業用合成樹脂フィルム」の発明である点で一致し、両者のシリコン系界面活性剤の添加量も重複、一致している。
そして、両者は、以下の点でのみ相違している。
相違点1:前者の合成樹脂フィルム(防滴性被膜を形成する基材としてのフィルム)が、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有するものであるのに対して、後者の合成樹脂フィルムにそのような特定がなされていない点。
そこで相違点1について検討する。
刊行物2の特許請求の範囲の請求項1には「塩化ビニル系樹脂100重量部当り、界面活性剤を0〜2重量部配合してフイルム化し、このフイルムの片面に防塵用塗料にもとづく被膜を形成し、フイルムの残りの面に防曇用塗料にもとづく被膜を形成したことを特徴とする、耐久性の優れた農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルム。」(以下「記載事項2-a」という。)と記載されている。また、刊行物2の第3頁第5欄第13〜36行には「本発明に係る農業用軟質塩化ビニルフイルムには、界面活性剤(防曇剤とも呼称される)を少量配合することができる。界面活性剤を配合すると、防塵性能が著しく低下するので、配合しない方が好ましが、基体フイルムの表裏に被膜を形成する際に被膜形成用塗料の塗付性を改良する目的で、基体フイルムに少量配合することができる。添加する場合は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、2重量部までとする。特に好ましいのは、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0〜0.5重量部である。基体の塩化ビニル系樹脂に配合しうる界面活性剤としては、ソルビタンラウレート、・・・などの脂肪酸のソルビタンエステル類、・・・などがあげられる。」(以下「記載事項2-b」という。)と記載されており、記載事項2-bのソルビタンラウレートなどの脂肪酸のソルビタンエステル類は非イオン系界面活性剤の一種である。以上の点からみて、刊行物2には、農業用塩化ビニル系樹脂フィルムに非イオン系界面活性剤を含有せしめることが記載されていると認められ、また、記載事項2-bの「界面活性剤(防曇剤とも呼称される)」(第3頁第5欄第14行を参照)との記載から、非イオン系界面活性剤が防曇剤として作用することも記載されていると認められる。記載事項2-bには、該界面活性剤が基体フィルムの表裏に被膜を形成する際に被膜形成用塗料の塗布性を改良する作用があることも記載されている。
刊行物3には、非イオン系界面活性剤が農業用塩化ビニルフィルムに通常配合される防曇剤であることが記載され(特に段落【0010】を参照。)、刊行物4にも塩化ビニル系樹脂フィルム100重量部当たり非イオン系界面活性剤0.5〜5重量部を防曇性の為に添加することが記載されている(特に段落【0009】を参照。)。
以上の刊行物2〜4の記載をまとめると、塩化ビニル系樹脂フィルムに非イオン系界面活性剤を配合することは通常のことであり、非イオン系界面活性剤により被膜形成用塗料の塗布性や防曇性が向上することが理解できる。
また、刊行物2、4には、本件発明1における非イオン系界面活性剤の配合量と重複、一致する配合量も記載されている。
してみれば、刊行物1の発明において、合成樹脂フィルムに非イオン系界面活性剤を含有せしめ、その配合量を、本件発明1における量とすることは刊行物2〜4の記載に基づいて、当業者が容易になしうることと認められる。
この点につき、特許権者は『本発明の明細書の【0011】に「防滴剤として公知の非イオン系界面活性剤を添加することによって、防滴効果が相乗的に向上するのでより好ましい。」と記載されているが、これは単に防滴剤をフィルムに添加することで、防滴効果のみを向上させているのではなく、実施例で評価している塗布時の「ハジキの有無」を改良する事も含めた結果を相乗的に向上するとしているのである。』と主張し、塗布性の相乗効果は、意見書に添付したテスト結果報告書で確認され、防滴性の持続性は今回実証されていないが向上するから、合成樹脂フィルムに非イオン系界面活性剤を添加することは容易ではない旨の主張をしている。
しかし、段落【0011】に記載されているのは、防滴効果の相乗効果であって、塗布性の相乗効果ではない。防滴効果の相乗効果が、塗布性の相乗効果を当然に意味するものでもない。したがって、上記の塗布性に関する効果を本件発明1の効果として認めることはできない。しかも、本件発明1は、フィルム自体の発明であるから、該フィルムを作成する途中の段階の塗布性をもって、本件発明1の効果(フィルム自体の効果)ということもできない。段落【0011】には防滴効果の相乗効果について記載されているが、これを確認できる記載がないから、該効果の存在は認められない。
したがって、上記特許権者の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(2)本件発明2について
刊行物1には、上記(1)で示したとおりの発明(刊行物1の発明)が記載されている。
さらに、刊行物1の記載事項fには「本発明の農業用防曇性塩化ビニル系樹脂フイルムの外面には、所望に応じ、防塵処理などの慣用の処理を施すことができる。」と記載され、ここでいう「外面」とは、記載事項cでいう「内面」(防曇処理が施される面)に対する「外面」、すなわち、防曇塗膜を形成していない面をいうものと認められる。
そうすると、刊行物1には、刊行物1の発明において、合成樹脂フィルムの防滴性被膜を形成していない側の面に、防塵処理をする発明(以下「刊行物1の発明(防塵処理)」という。)も記載されていると認められる。
本件発明2と、刊行物1の発明(防塵処理)を対比すると、両者は、下記の点で相違するが、その他の点での相違は認められない。
相違点1:前者の合成樹脂フィルム(防滴性被膜を形成する基材としてのフィルム)が、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有するものであるのに対して、後者の合成樹脂フィルムにそのような特定がなされていない点。
相違点2:防塵処理として、前者では防塵性皮膜の形成がなされているが、後者ではそのような特定がなされていない点
そこで、これらの相違点について判断する。
a.相違点1について
相違点1に対する判断は上記(1)に示したものと同様である。
b.相違点2について、
刊行物2の記載事項2-aに防塵用塗料に基づく被膜の形成が記載され、刊行物3の特許請求の範囲の請求項1には防塵性皮膜が記載されている。
してみれば、刊行物1の発明(防塵処理)において、防塵処理として、防塵性皮膜の形成を採用することは容易である。
以上のとおり、相違点1、2に係る構成を採用することは容易であり、これらを共に採用することにも困難はない。
したがって、本件発明2は、刊行物1〜4にされた発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1、2において、合成樹脂フィルムを塩化ビニル系樹脂フィルムに特定する発明であるが、刊行物1の発明、および、刊行物1の発明(防塵処理)における合成樹脂フィルムとしては塩化ビニル系樹脂フィルムが使用されているから、本件発明3も、上記(1)、(2)に示した理由と同様の理由により、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
刊行物8の請求項1には「ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部のフッ素含有化合物と、0.5〜5重量部の非イオン系界面活性剤と、0.05〜5重量部のヒンダードアミン系化合物とを配合してなることを特徴とする農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム。」と記載され、刊行物8の段落【0008】には「本発明において使用しうるポリオレフィン系樹脂としては、α-オレフィンの単独重合体、α-オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体であり、例えばポリエチレン、・・・エチレン-酢酸ビニル共重合体、・・・等が挙げられる。」と記載されているから、刊行物8には「ポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂100重量部に対して0.5〜5重量部の非イオン系界面活性剤を配合してなる農業用合成樹脂フィルム」の発明(以下「刊行物8の発明」という。)が記載されていると認められる。
本件発明4と刊行物8の発明を対比すると、まず、本件発明4における合成樹脂フィルム(防滴性被膜を形成する基材としての合成樹脂フィルム)と刊行物8の発明の合成樹脂フィルムとは、互いにフィルムを構成する樹脂がポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である点で一致し、また、非イオン系界面活性剤の配合量も樹脂100重量部に対して0.5〜3重量部の範囲で重複しているから、これらのフィルムに相違はない。
そうすると、本件発明4と刊行物8の発明は、前者のフィルムが「樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜」(以下「本件発明4の防滴性被膜」という。)を形成してなるものであるのに対して、後者のフィルムには、該被膜が形成されていない点で相違するが、その他の点での相違は認められない。
そこで、この相違点について検討する。
本件発明4の防滴性被膜は、本件発明1における防滴性被膜と同一であるが、これが、刊行物1に記載されていることは上記(1)で示したとおりである。
刊行物1には、該被膜を形成する基材として、塩化ビニル系樹脂フィルムだけが記載され、ポリエチレン、または、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂からなるフィルムは記載されていないが、各種の農業用合成樹脂フィルムに防滴性被膜を形成することは、刊行物5(特に、特許請求の範囲、第1頁第1欄第14〜17行、第1頁第2欄第23行〜第2頁第3欄第3行を参照。)や、刊行物9(特に第1〜2頁の(従来の技術)を参照。)に記載されているし、刊行物1に記載された被膜それ自体が基材に防滴性を与えることは自明である。また、刊行物8の発明が防曇性(防滴性と同義と認める。)を目的とし、非イオン系界面活性剤の配合により防曇性を高めていることは刊行物8の段落【0006】、及び、段落【0014】の記載から明らかである。
してみれば、刊行物8の発明において、防曇性をさらに高める為に、刊行物1に記載された被膜を形成してみることは当業者にとって容易なものと認められる。
すなわち、本件発明4は、刊行物1、5、8、9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[5]むすび

以上のとおりであるから、本件発明1〜4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜4についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
農業用合成樹脂フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなり、合成樹脂フィルムに、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有することを特徴とする農業用合成樹脂フィルム。
【請求項2】合成樹脂フィルムの防滴性被膜を形成していない側の面に、防塵性被膜を形成してなる請求項1記載の農業用合成樹脂フィルム。
【請求項3】合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有する塩化ビニル系樹脂フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。
【請求項4】合成樹脂フィルムが、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有するポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルムまたはこれらの積層フィルムである請求項1または2記載の農業用合成樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、農業用合成樹脂フィルムに関し、詳しくは表面に均一な防滴性被膜を有する農業用合成樹脂フィルムに関する。また、本発明は、防滴性被膜を形成する防滴処理剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ハウスやトンネル等の農業施設の被覆資材として、ポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、塩化ビニル系樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルム等の合成樹脂フィルムあるいはこれらの積層フィルムが使用されているが、このような合成樹脂フィルムをハウスやトンネル等に使用すると、フィルム内表面に結露を生じて、太陽光線の透過を妨げるという問題がある。
【0003】上記の問題を解決するために、界面活性剤の1種である防滴剤を含有させ、フィルム表面の親水性を高めることにより、表面の濡れ性を良好にし表面が均一に濡れるようにするとともに、表面に生じた水滴を速やかに流れ落ちるようにしてフィルム内表面への結露を防止した農業用合成樹脂フィルムや、合成樹脂フィルムの表面に、必要に応じてシランカップリング剤で処理したコロイダルシリカやコロイダルアルミナ等とバインダーとからなる組成物に由来する塗膜を設けた農業用合成樹脂フィルム、または、アクリル系樹脂やセルロース系樹脂からなる親水性塗膜を設けた農業用合成樹脂フィルム等が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のような防滴剤を含有させ、フィルム表面の親水性を高めた農業用合成樹脂フィルムでは、防滴持続性が充分でなく、比較的短期間のうちに防滴性が消失してしまうという問題があった。また、親水性塗膜を設ける方法では、防滴持続性は防滴剤を含有させたものに比して優れるものの、合成樹脂フィルム表面に塗布する際に、フィルム表面で塗布液がはじかれて、均一な塗膜を形成することが難しく、その結果として均一な防滴性能が得られないといった欠点があった。
【0005】本発明者等は、上記の欠点を解消するために鋭意研究した結果、水系防滴処理剤に特定の界面活性剤を含有させることによって、塗布時にフィルム表面で塗布液がはじかれることなく均一な塗膜を形成することができ、その結果として均一な防滴性能が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の農業用合成樹脂フィルムは、樹脂を含有する水系防滴処理剤100重量部に対し、シリコン系界面活性剤を0.1重量部以上添加した水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなり、合成樹脂フィルムに、樹脂100重量部に対し非イオン系界面活性剤を3重量部以下含有することを特徴とする。
【0007】本発明に使用される合成樹脂フィルムとしては、塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、フッ素樹脂フィルム、またはこれらの積層フィルム等の従来より農業用合成樹脂フィルムとして使用されているものであれば、特に限定はされない。
【0008】塩化ビニル系樹脂フィルムに使用される塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルの他、塩化ビニルと他のモノマー、例えば塩化ビニリデン、アクリロニトリル、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、マレイン酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、高級ビニルエーテルなどとの共重合樹脂、もしくはこれらのブレンド物等が使用できる。
【0009】上記の合成樹脂フィルムは、必要に応じて可塑剤が添加されていても良い。可塑剤としては、フタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等が使用できる。フタル酸エステル系可塑剤として具体的には、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート等が挙げられ、リン酸エステル系可塑剤として具体的には、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等が挙げられる。また、エポキシ系可塑剤としては、植物油のエポキシ化物、エポキシ樹脂等が使用でき、植物油のエポキシ化物としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等が挙げられ、エポキシ樹脂としては、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシステアリン酸メチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシステアリン酸エチルヘキシル、トリス(エポキシプロピル)イソシアヌレート、3-(2-キセノキシ)-1,2-エポキシプロパン、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビニルジシクロヘキセンジエポキサイド、2,2-ビス(4-ヒドロキフェニル)プロパンとエピクロルヒドリンの重縮合物等が挙げられる。また、上記のフタル酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤の他、ジ-2-エチルヘキシルアジペート等アジピン酸エステル系可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート等のアゼラインエステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等のポリエステル系可塑剤、塩素化パラフィン等の可塑剤も使用できる。上記の可塑剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0010】上記の可塑剤の好ましい添加量としては、樹脂100重量部に対し、フタル酸エステル系可塑剤で20〜70重量部、リン酸エステル系可塑剤で1〜7重量部、エポキシ系可塑剤で0.5〜7重量部で、可塑剤全体としての好ましい添加量は樹脂100重量部に対し、20〜70重量部であって、用いられる合成樹脂フィルムの素材等によって適宜決定される。
【0011】本発明の農業用合成樹脂フィルムには、必要に応じて防滴剤として公知の非イオン系界面活性剤を添加することによって、防滴効果が相乗的に向上するのでより好ましい。非イオン系界面活性剤として具体的には、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸・二塩基酸エステル、ソルビトール脂肪酸・二塩基酸エステル、グリセリン脂肪酸・二塩基酸エステル、ジグリセリン脂肪酸・二塩基酸エステル等の多価アルコールと脂肪酸とのエステル、多価アルコールと脂肪酸及び二塩基酸とのエステル、或いはこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加された化合物等が挙げられ、具体的には、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート、ソルビタンステアレート・エチレンオキサイド2モル付加物、ソルビタンステアレート・プロピレンオキサイド3モル付加物、ソルビトールステアレート、ソルビトールステアレート・エチレンオキサイド3モル付加物、ジグリセリンパルミテート、ジグリセリンステアレート、グリセリンステアレート、グリセリンパルミテート・エチレンオキサイド2モル付加物、ソルビタンステアレートアジペート・エチレンオキサイド3モル付加物、ソルビトールステアレートアジペート・エチレンオキサイド2モル付加物、ジグリセリンパルミテートセバケート・プロピレンオキサイド3モル付加物、ソルビトールパルミテートアジペート・エチレンオキサイド3モル付加物等が挙げられる。これらの非イオン系界面活性剤は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記の非イオン系界面活性剤の添加量は樹脂100重量部に対し、3重量部以下である。3重量部を超えると、フィルム表面への吹き出しが多くなり好ましくない。
【0012】本発明の合成樹脂フィルム中には、上記の可塑剤、非イオン系界面活性剤の他に、必要に応じて防霧剤としての含フッ素化合物、安定剤、滑剤または粘着防止剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、光安定剤、無機充填剤等の添加剤を添加することもできる。
【0013】本発明の用いられる上記含フッ素化合物としては、1分子中にフッ素基と水酸基またはアルキレンオキサイド基の少なくとも1種を有する化合物であり、前記フッ素基としては、パーフルオロアルキル基(CnF2n+1基)、パーフルオロアルコキシ基(CnF2n+1O基)、ポリフルオロアルキル基(HmCnF2n+1-m基)、パーフルオロアルケニル基(CnF2n-1基)、ポリフルオロアルケニル基(HmCnF2n-1-m基)、パーフルオロアルキレン基(CnF2n基)等がある(式中m=1〜3、n=3〜20の整数)。また、アルキレンオキサイド基としては(C2H4O)n、(C3H6O)n等が挙げられる(式中n=1〜30の整数)。上記のフッ素系化合物として具体的には化1の(1)〜(13)に示す式で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化1】

上記の含フッ素化合物は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。また、含フッ素化合物の添加量は、樹脂100重量部に対し、0.01〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部である。
【0014】安定剤としては、金属石鹸、有機ホスファイト系安定剤等の通常使用される安定剤が使用できる。金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸バリウム、ラウリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、オクトイン酸亜鉛等が挙げられ、有機ホスファイト系安定剤としては、ジフェニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト等が挙げられる。また、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート等の錫系安定剤なども用いることができる。上記の安定剤は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。また、これらの安定剤の添加量は、樹脂100重量部に対し、0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。
【0015】滑剤または粘着防止剤としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸系滑剤、ステアリン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等の飽和脂肪酸アミド系滑剤、ブチルパルミテート、ブチルステアレート等の有機リン酸金属塩系滑剤、ポリエチレンワックス、流動パラフィン等が挙げられる。上記の滑剤または粘着防止剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0016】紫外線吸収剤としては、一般に使用されているベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤が挙げられる。上記の紫外線吸収剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0017】光安定剤としては、ヒンダードアミン等の一般に使用されている光安定剤を単独もしくは2種以上を混合して使用することができる。
【0018】無機充填剤としては、炭酸マグネシウム、マグネシウム珪酸塩、酸化珪素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト類の1種以上を用いることができる。上記の無機充填剤の粒径は20μm以下が好ましい。
【0019】本発明に使用される水系防滴処理剤としては、アクリル系樹脂やセルロース系樹脂のエマルジョンや水溶液等の水系型塗料や、必要に応じてシランカップリング剤で処理したコロイダルシリカやコロイダルアルミナ等を含有するものなど、従来より農業用合成樹脂フィルム表面に塗膜を形成するために使用されていた水系防滴処理剤であれば特に限定はされない。
【0020】上記の水系型塗料としては、樹脂を水やアルコールに乳化、分散または溶解させたもので、樹脂として具体的にはアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、セロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、或いはこれらの共重合樹脂などが挙げられる。また、上記の塗料を混合して用いることもできる。
【0021】上記のコロイダルシリカやコロイダルアルミナは、必要に応じて上記の水系型塗料等のバインダーが添加される。また、上記のコロイダルシリカやコロイダルアルミナは、平均粒径が1nm〜100nmの範囲のものが好ましい。平均粒径が100nmを超えると形成された塗膜が白く失透することがあり、また1nm未満では、コロイダルシリカやコロイダルアルミナとバインダーからなる組成物の安定性に欠けることがある。
【0022】また本発明に使用されるシリコン系界面活性剤としては、下記化2に示す一般式で表される非加水分解性シロキサン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体型、または化3に示す一般式で表される加水分解性シロキサン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体型に代表されるものが主に使用される。
【0023】
【化2】

(式中Rは、低級アルキル基、R’は水素または低級アルキル基、Yは2価の有機基、a、b、c、nは正の整数を示す。またRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0024】
【化3】

(式中R、R’は、低級アルキル基、R”は水素または低級アルキル基、a、b、c、nは正の整数を示す。またRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
上記シリコン系界面活性剤の配合量は、使用する水系防滴処理剤の種類によって適宜選択されるが、水系防滴処理剤100重量部に対し、0.1重量部以上であればよい。シリコン系界面活性剤の配合量が少ないと、防滴処理剤を合成樹脂フィルム表面に均一に塗布することが困難となり、また多過ぎるとコストが高くなる。
【0025】上記の防滴処理剤の塗布方法としては、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、リバースロールコート、ディップコート等や、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知の方法を採用することができる。また、防滴処理剤による塗膜の厚みは0.01〜10μmが好ましい。更に、本発明の防滴処理剤は、ハウス等に展張した後であっても、スプレーコート等の手段にて合成樹脂フィルム表面へ塗布することができる。
【0026】本発明の農業用合成樹脂フィルムは、防滴性被膜を形成していない側の面に防塵性被膜を形成するのが望ましい。防塵性被膜の形成は、合成樹脂フィルムの表面に、溶剤型、水系型、あるいは紫外線硬化型の塗料よりなる被膜を形成させることにより行なわれる。溶剤型の塗料としては、アクリル系樹脂、セルローズ系樹脂などの樹脂を溶剤に溶解したものが挙げられる。溶剤に溶解させる樹脂としては、単独であってもよいし、複数種であってもよいが、性能上アクリル系樹脂を溶解したものが好ましい。水系型塗料としては、アクリル系樹脂エマルジョン等が使用できる。紫外線硬化型塗料としては、アクリル系、アクリル変成ウレタン系、アクリル変成エポキシ系、メルカプト誘導体系、エポキシ樹脂系などが使用できる。
【0027】上記塗料を合成樹脂表面に塗布する方法としては、防滴処理剤の塗布方法と同様、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、リバースロールコート、ディップコート等や、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知の方法を採用することができる。
【0028】
【作用】本発明の農業用合成樹脂フィルムは、シリコン系界面活性剤を含有する水系防滴処理剤を用いているので、防滴性塗膜が均一に形成され、従って、均一な防滴性能を有する農業用合成樹脂フィルムを得ることができる。
【0029】
【実施例】以下具体的な実施例を挙げ本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】〔実施例1〕表1に示す配合物をヘンシェルミキサーに仕込み、10分間攪拌混合した後、175℃に加熱溶融してロール混練りし、次いでカレンダー装置によって厚さ0.1mmのフィルムを形成した。
【0031】
【表1】
塩化ビニル系樹脂(平均重合度 1300) 100重量部
ジ-2-エチルヘキシルフタレート 45重量部
トリクレジルホスフェート 3重量部
エポキシ樹脂 2重量部
Ca-Zn系安定剤 3重量部
防滴剤*1 2重量部
含フッ素化合物*2 0.2重量部
紫外線吸収剤*3 0.2重量部
メチレンビスステアロアミド 0.3重量部
*1 ソルビタンモノステアレート
*2 C8F17CH2CH(OH)CH2O(C2H4O)H
*3 バイオソープ #550:共同薬品社製
【0032】得られたフィルムの片面に、表2に示す樹脂を溶剤(イソプロピルアルコール/酢酸エチル/トルオール=80/10/10)に溶解させて固形分10%とした塗料をグラビアコーター(150メッシュ)にて塗工した。
【0033】
【表2】
メタクリル酸メチル 25重量部
メタクリル酸ブチル 28重量部
アクリル酸メチル 16重量部
アクリル酸ブチル 5重量部
メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル 25重量部
メタクリル酸 1重量部
【0034】得られた上記フィルムの他面にアクリル系エマルジョン(NeoCryl A614、楠本化成社製)3重量部、コロイダルシリカ(カタロイドSI-30、触媒化成社製)4重量部、水93重量部からなる水系防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤(SILWET L-77、日本ユニカー社製)を0.2重量部添加した防滴処理剤をスプレーコートにより塗布し、塗布時のハジキの有無を目視によって観察すると共に、得られた合成樹脂フィルムを農業用ハウスに展張した直後、展張後6ケ月、12ケ月の防滴性能を下記基準にて評価した。結果を表3に示す。
<評価基準
◎・・・フィルムの内表面に殆ど水滴が見られない。
○・・・フィルムの内表面に僅かに水滴が見られる。
△・・・フィルムの内表面に水滴が見られる。
×・・・フィルムの内表面に多くの水滴が見られる。
【0035】〔実施例2〕防滴処理剤を、コロイダルシリカ(カタロイドSI-30、触媒化成社製)1重量部、水99重量部からなる水系防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤(SILWET L-77、日本ユニカー社製)を0.2重量部添加したものに代える以外は実施例1と同様にして得られた農業用合成樹脂フィルムについて、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0036】〔実施例3〕防滴処理剤を、コロイダルシリカ(カタロイドSI-30、触媒化成社製)1重量部、水溶性セルロース(メトローズ65 SH50、信越化学工業社製)0.1重量部、水98.9重量部からなる水系防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤(SILWET L-77、日本ユニカー社製)を0.2重量部添加したものに代える以外は実施例1と同様にして得られた農業用合成樹脂フィルムについて、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0037】〔比較例1〕防滴処理剤を、アクリル系エマルジョン(NeoCryl A614、楠本化成社製)3重量部、コロイダルシリカ(カタロイドSI-30、触媒化成社製)4重量部、水/エタノール=3/1溶液93重量部からなる水系防滴処理剤にする以外は実施例1と同様にして得られた農業用合成樹脂フィルムについて、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0038】〔比較例2〕防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤を添加しない以外は実施例1と同様にして得られた農業用合成樹脂フィルムについて、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0039】〔比較例3〕防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤を添加しない以外は実施例2と同様にして得られた農業用合成樹脂フィルムについて、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0040】〔比較例4〕防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤を添加しない以外は実施例3と同様にして得られた農業用合成樹脂フィルムについて、実施例1と同じ試験を行なった。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【発明の効果】本発明の農業用合成樹脂フィルムは、均一な防滴性塗膜を形成させてなるので、優れた防滴性能が得られるばかりか、その効果が長期間にわたって持続する。従って、本発明の農業用フィルムをハウスやトンネル等の農業用施設に使用した場合、太陽光線の透過が良く、しかも栽培作物が濡れることないため、病害の発生が抑制され、作物の収穫が高いという効果も有するものである。また、本発明の防滴処理剤は、農業用合成樹脂フィルムをハウス等に展張した後でも、スプレーコート等の手段により、簡単にフィルム表面に塗布することができるので、長期間使用し防滴性能が落ちてきた農業用合成樹脂フィルムの防滴性を回復させることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-31 
出願番号 特願平6-210637
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 大熊 幸治
石井 あき子
登録日 2002-11-15 
登録番号 特許第3370189号(P3370189)
権利者 アキレス株式会社
発明の名称 農業用合成樹脂フィルム  

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