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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 発明同一  C08F
管理番号 1124285
異議申立番号 異議2003-71179  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-08 
確定日 2005-07-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3343399号「連鎖移動剤の有効利用方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3343399号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3343399号の請求項1〜5に係る発明は、平成5年6月25日(優先権主張 1993年3月29日 米国)に特許出願され、平成14年8月23日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、株式会社日本触媒より、請求項1〜5に係る発明の特許に対し、特許異議の申立がなされ、請求項1〜5に係る発明の特許に対し取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年9月21日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、特許権者及び特許異議申立人に対し審尋がなされ、両当事者から回答書が提出され、その後再度、請求項1に係る発明の特許に対し取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年6月6日付けで平成16年9月21日付けの訂正請求書が取り下げられるとともに、同日付けで新たに訂正請求書が提出されたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
訂正事項a
請求項1に記載の「52-65重量%」を「58-65重量%」と訂正する。
訂正事項b
請求項1に記載の「最終ポリマー固体レベルを得る方法であり、前記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩が」を「最終ポリマー固体レベルを得る方法であり、前記方法により得られるポリマー生成物の重量平均分子量が20,000より小さく、前記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩が」と訂正する。
訂正事項c
明細書段落【0046】に記載されている表2中の例番号の数値「5、6、7、8、9、10、11、12、13、14」を、それぞれ「6、7、8、9、10、11、12、13、14、15」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1に記載された最終ポリマー固体レベルを、明細書段落【0038】表1中の例3の記載に基づいて限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項bは、請求項1に記載されたポリマー生成物の重量平均分子量を、明細書段落【0026】の記載に基づいて限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項cは、明細書段落【0039】〜【0044】に記載された例に対応するように表2中の例番号の記載を訂正するものであり、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項a〜cは明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件発明
訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、訂正明細書の請求項1〜5に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】 次亜リン酸またはその塩を連鎖移動剤として有効利用する方法であって、
一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、
(a)水
(b)一種または二種以上の水溶性開始剤、および
(c)次亜リン酸またはその塩
の存在の下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、58-65重量%の最終ポリマー固体レベルを得る方法であり、
前記方法により得られるポリマー生成物の重量平均分子量が20,000より小さく、前記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩が、アクリル酸、メタアクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはそれらの塩であり、前記一種または二種以上のモノマーの80重量%までが、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、イソブチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アリルアルコール、ホスホエチルメタアクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルイミダゾール、酢酸ビニル、およびスチレンからなる群から選ばれる、酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーである、方法。
【請求項2】 上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩を、水および次亜リン酸またはその塩20-80%を含有する重合反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 上記一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の実質的に全部を、反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】 上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、5分間-5時間の期間にわたって重合反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、1時間-3時間の期間にわたって重合反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。」
IV.特許異議申立について
1.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人 株式会社日本触媒は、甲第1号証(特開平6-263803号公報)、甲第2号証(特開平3-121101号公報)を提出して、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、特願平5-51873号(甲第1号証:特開平6-263803号公報に対応する特許出願)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第2号証(特開平3-121101号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、さらに、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であり、特許法第36条の規定を満たさない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべき旨主張している。
2.当審の平成16年3月10日付けの取消理由の概要
訂正前の請求項1〜5に係る発明は、特願平5-51873号(特開平6-263803号公報:特許異議申立人 株式会社日本触媒が提出した甲第1号証に対応する特許出願)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、刊行物1(同 特開平3-121101号公報:甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、さらに、訂正前の請求項1〜5に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であり、特許法第36条の規定を満たさない特許出願に対してされたものである。
3.特許異議申立人の主張及び取消理由についての判断
(ア)特許法第29条の2の規定違反について
(1)先願明細書に記載された事項
特願平5-51873号の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。甲第1号証:特開平6-263803号公報参照)には、以下の事項について記載されている。
「【請求項1】 (メタ)アクリル酸系水溶性単量体を水溶液重合して(メタ)アクリル酸系重合体を製造するに際し、重合後の反応液中の重合体の単量体換算濃度が38〜72重量%となるのに必要な(メタ)アクリル酸系水溶性単量体、重合開始剤及び次亜リン酸(塩)を水性媒体中に逐次導入して重合することを特徴とする(メタ)アクリル酸系水溶性重合体の製造方法。」
「【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明は、水性媒体中に、重合後液中の重合体の単量体換算濃度が38〜72重量%となるのに必要な(メタ)アクリル酸系単量体、重合開始剤及び次亜リン酸(塩)を逐次導入して重合することを特徴とする(メタ)アクリル酸系水溶性重合体の製造方法並びに該製造方法により得られた(メタ)アクリル酸系水溶性重合体の無機顔料分散剤、スケール防止剤及び金属の腐蝕抑制剤としての用途に関する。
【0009】本発明では、(メタ)アクリル酸系単量体、重合開始剤及び次亜リン酸(塩)(以下添加成分と称す。)を水性媒体中に逐次導入する。
【0010】添加成分のいずれか一つの成分あるいは全ての成分を全量初期仕込みとした場合、本願発明のような(メタ)アクリル酸系水溶性重合体は得られないものである。」
「【0013】本発明で用いられる(メタ)アクリル酸系単量体とはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸塩及びメタクリル酸塩を50wt%以上、好ましくは70wt%以上含有する重合性単量体を意味する。・・・」
「【0014】・・・これら次亜リン酸(塩)は(メタ)アクリル酸系水溶性系単量体1モル当り0.01〜0.5モル用いるのが好ましい。・・・」
「【0015】本発明では、重合後液中の重合体の単量体換算濃度が38〜72重量%とすることが必要である。好ましくは40〜60重量%である。38重量%未満の低い単量体換算濃度で反応しても、本願発明のように高純度、低コスト且つ安全性の高い(メタ)アクリル酸系水溶性重合体は得られないものである。
【0016】又、38重量%未満の低い単量体換算濃度で反応しても、本願発明品のように無機顔料分散剤、スケール防止剤及び金属腐蝕抑制剤として格段に優れた効果を奏する(メタ)アクリル酸系水溶性重合体は得られないものである。72重量%を超える高い単量体換算濃度での製造は、重合系の粘度が著しく高くなり、実質上製造は困難となる。尚、本発明における重合後液中の重合体単量体換算濃度とは実質上重合が完結した時点における液中の重合した(メタ)アクリル酸系水溶性単量体分を重量%で表記したものである。また、発明の効果を損わない範囲で(メタ)アクリル酸系水溶性単量体、重合開始剤及び次亜リン酸(塩)のうち少くとも1つあるいはすべての成分の少量を初期仕込として重合することは勿論可能である。」
「【0026】実施例1
容量5lのSUS316製セパラブルフラスコにイオン交換水321.9部を仕込み、100℃に昇温し、窒素置換後、80%アクリル酸水溶液587.5部、15%過硫酸ナトリウム水溶液68.7部(0.0066モル/アクリル酸1モル)及び30%次亜リン酸ナトリウム水溶液21.9部(0.0095モル/アクリル酸1モル)を各々、別々の滴下口より2時間かけて滴下した。この間、系の温度は終始系の沸点を維持した。更に同温度で10分間の熟成を行い重合を完結し、重合後の液中のアクリル酸換算の濃度が47%である(メタ)アクリル酸系水溶性重合体(1)を得た。(メタ)アクリル酸系水溶性重合体(1)を48%水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和(pH=8)し、該して得た中和物の性能を以下のようにして評価した。」
「【0043】尚、(メタ)アクリル酸系水溶性重合体(1)〜(7)及び比較用(メタ)アクリル酸系水溶性重合体(1)〜(5)の分子量はいずれも2〜6万の範囲内にあり、ほぼ同等の分子量と見なせるものであった。」
(2)対比・判断
【1】本件発明1について
本件発明1は、請求項1に記載された構成から成るものであり、特に「一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、
(a)水
(b)一種または二種以上の水溶性開始剤、および
(c)次亜リン酸またはその塩
の存在の下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、58-65重量%の最終ポリマー固体レベルを得る方法であり、前記方法により得られるポリマー生成物の重量平均分子量が20,000より小さく」することを必須の構成要件とするものである。
一方、先願明細書の前記摘記事項を参酌すると、先願明細書には、一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、水、水溶性開始剤、および次亜リン酸またはその塩の存在下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に導入して、重合後液中の重合体の単量体換算濃度が38〜72重量%であるポリマーを得る方法が記載され、得られる(メタ)アクリル酸系水溶性重合体の分子量はいずれも2〜6万の範囲であることが記載されている。
そして、得られた(メタ)アクリル酸系水溶性重合体は無機顔料分散剤、スケール防止剤及び金属の腐蝕抑制剤としての用途を有していることも記載されている。
そこで、本件発明1と先願明細書に記載された発明とを対比すると、両者は、「一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、水、水溶性開始剤、および次亜リン酸またはその塩の存在下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に導入して、(メタ)アクリル酸系水溶性重合体を製造する」という点で一致し、
得られるポリマーについて、本件発明1は「得られるポリマー生成物の重量平均分子量が20,000より小さい」ものであるのに対し、先願明細書に記載された発明では、その点について記載がされていない点で相違し、また、本件発明1は「58-65重量%の最終ポリマー固体レベルを得る」ものであるのに対し、先願明細書に記載された発明では、「重合後液中の重合体の単量体換算濃度が38〜72重量%であるポリマーを得る」点で相違している。
この相違点について検討すると、
先願明細書(特に、明細書段落【0043】参照)には、(メタ)アクリル酸系水溶性重合体からなるポリマーは、その分子量について、実施例(1)〜(7)および比較例(1)〜(5)で得られたポリマーの分子量は2〜6万の範囲内にあることが記載されているが、この分子量がいかなる分子量を意味するのか明らかではなく、これが重量平均分子量であるとする根拠もないし、仮にそうであったとしてもその範囲は2〜6万であり、いずれにしても、先願明細書には、重量平均分子量が2万より小さいものを示唆する記載はない。したがって、本件発明1によって得られる重量平均分子量が2万より小さいポリマーの発明と、先願明細書に記載されたポリマーの発明とは同一のものとはいえない。
ところで、先願明細書には、発明の詳細な説明中に次亜リン酸(塩)は(メタ)アクリル酸系水溶性系単量体1モル当り0.01〜0.5モル用いるのが好ましいとのことが記載されており、実施例1においては、30%次亜リン酸ナトリウム水溶液21.9部(0.0095モル/アクリル酸1モル)を使用したことが記載されている。そして、実施例1、2、4〜6、比較例1〜5において、同じ量の30%次亜リン酸ナトリウム水溶液を使用し、その結果として、(メタ)アクリル酸系水溶性重合体(1)(2)(4)〜(6)及び比較用(メタ)アクリル酸系水溶性重合体(1)〜(5)の分子量はいずれも2〜6万の範囲内にあり、ほぼ同等の分子量と見なせるものであった、というものである。そうすると、実施例1において使用された次亜リン酸ナトリウム(0.0095モル/アクリル酸1モル)を用いることにより、得られるポリマーの分子量はいずれも2〜6万の範囲内にあるものの、次亜リン酸塩を同じ量を使用しているにもかかわらず、異なる分子量のものが得られていることとなり、次亜リン酸塩の使用量から直ちに分子量が決定できるともいえない。
また、先願明細書に記載されたモノエチレン性不飽和酸からなるポリマーについては、その使用分野が分散剤、スケール防止剤であることが記載されているから、本件発明1のポリマーと共通する使用分野を有するポリマーではあるが、分散剤、スケール防止剤に使用されるモノエチレン性不飽和酸からなるポリマーは、常に重量平均分子量が20,000より小さいものであるということを示す資料はないから、先願明細書に記載されたモノエチレン性不飽和酸からなるポリマーが、重量平均分子量が20,000より小さいものであると直ちにいうことはできない。しかも、先願明細書には、分子量が20,000以上のものが分散剤、スケール防止剤に使用されることが記載されているのである。
そうすると、本件発明1の重量平均分子量が20,000より小さいモノエチレン性不飽和酸からなるポリマーは、先願明細書には記載されているとはいえないし、また、記載されているに等しいということもできない。
また、先願明細書に記載されている「重合後液中の重合体の単量体換算濃度」の値から、本件発明1における「最終ポリマーの固体レベル」の値が直ちに導き出せるものともいえないから、先願明細書に記載されている「重合後液中の重合体の単量体換算濃度が38〜72重量%であるポリマーを得る」ことが、本件発明1の「58-65重量%の最終ポリマー固体レベルを得る」ことに直ちに相当するものということはできない。
したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるということはできない。
【2】本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の重合反応器への導入法をそれぞれ限定するもので、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1が、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることができない以上、本件発明1を引用する本件発明2〜5も、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
(イ)特許法第29条第2項の規定違反について
(1)刊行物に記載の事項
刊行物1(特開平3-121101号公報:甲第2号証)には、以下の事項について記載がされている。
「(1)アクリレート単量体を含有する加熱、攪拌した水性重合性混合物の中に、重合開始剤、水、および任意的な重合活性剤と共に、次亜燐酸連鎖移動剤を使用して、アクリレート単量体を重合または共重合させて低分子量水溶性アクリレート重合体を生成させる方法において、アルカリ性中和剤を、存在するカルボン酸の酸基の少なくとも20%を中和するのに充分な量において、もし全てでないとしても、重合の少なくとも大抵の間存在させるように、単量体の重合性混合物に、次亜燐酸連鎖移動剤およびアルカリ性中和剤を同時に供給することから成る、アクリレート単量体の重合または共重合方法。」(請求項1)
「次亜燐酸を連鎖移動剤として用いる従来の使用の全てに共通している問題は、非能率なことである。連鎖移動剤の多くのものは、特に、連鎖移動プロセスの部分とはならない。連鎖移動剤の有意な部分が重合体の中に導入されないで、未反応のまま残り、または燐酸またはその塩のような他の無機種に変換されることである。その結果として、次亜燐酸の多量が低分子量重合体を得るのに必要とされる。次亜燐酸は比較的高価な物質であるので、それは低分子量重合体にはコストのかかる手段となる。非常に低分子量の重合体を製造する場合には、必要とする次亜燐酸の量は費用がかかるのを避けることである。
非能率からくる第2の不利益は、反応生成物中に存在する未反応の次亜燐酸塩の有意量またはその他の無機残留物の有意量である。これらの塩は、性能に貢献しないし、それにより反応生成物の活性を希釈する。ある場合には、例えば、濃厚なクレースラリーの製造のような場合には、これらの塩は分散プロセスにじゃまをする。
次亜燐酸の従来の使用における他の不利益は、生成した重合体種の混合物の中に残留することである。」(2頁左下欄17〜右下欄19行)
「本発明の目的は、連鎖移動剤として次亜燐酸の有効な使用による低分子量ポリカルボキシレート重合体の改良製造方法である。この高価な連鎖移動剤を有意に減少させた量が低分子量を達成させるのに必要である。」(3頁左上欄9〜13行)
「本発明の目的は、重合体鎖の中に導入されたホスフィネート部分またはホスホネート部分を含有する低分子量水溶性カルボン酸をベースとした重合体を製造することである。低分子量は、50,000以下、好ましくは20,000以下、更に好ましくは10,000以下の重量平均分子量(Mw)を指示する。
本発明の方法は、水をベースとしており、かつバッチ式または連続式または半連続式の態様で実施することができる。
使用する単量体は、主としてモノエチレン性不飽和カルボン酸およびジカルボン酸である。
本発明に有用なモノカルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、・・・がある。・・・更に、非カルボン酸単量体も・・・存在させることができる。どのような場合においても、仕込まれた単量体の全重量%の80%以下、好ましくは50%以下である。」(3頁左下欄4〜右下欄8行)
「本発明による連鎖移動剤または連鎖調節剤は、次亜燐酸またはその塩例えば次亜燐酸ナトリウム1水和物である。使用する量は所望する分子量によって変える。生成する分子量は、連鎖移動剤の量に逆比例する。1〜75重量%またはそれ以上の量(単量体に基づいた重量%)を使用することができる。
適当な水溶性重合開始剤には次の化合物が包含されるが、しかしこれらに限定されない:過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、または過硫酸アンモニウム、過燐酸ナトリウム、過燐酸カリウム、または過燐酸アンモニウム、および2,2-アゾビス(シアノバレリアン酸)。これらは、通常、(単量体の重量に基づいて)0.05〜5%の量で使用される。好ましい範囲は0.1〜2%である。また、金属塩活性剤または促進剤を開始剤システムの1部として加えてもよい。これらの例には、コバルト、鉄、銅、ニッケル、亜鉛、タングステン、セリウム、モリブデン、チタン、およびジルコニウムの水溶性塩が包含される。金属塩の好ましい量は、単量体の重量に基づいて0〜100ppmである。
アルカリ性中和剤は、任意の無機塩基または有機塩基を使用できる。使用できる好ましい塩基の中には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、およびトリメチルヒドロキシルエチルアンモニウムハイドロオキサイドがある。中和剤の量は、反応混合物の酸または酸無水物の単量体含量に基づいて20〜100%当量である。中和剤の好ましい量は50〜95%当量である。」(4頁左上欄5〜右上欄17行)
「通常、重合は20%以上の固体(水性重合生成物中の非揮発性固体)および30〜80%固体範囲において行う。重合温度としては、60〜150℃、好ましくは75〜100℃を使用する。最初に水の1部を反応器に仕込み、次いで、反応体のそれぞれを同時供給した。すなわち、単量体、連鎖移動剤、重合開始剤、およびアルカリ性中和剤を別々にかつ線状速度(linear rate)で、0.5〜10時間かけて撹拌されている仕込み水に加えた。」(4頁左下欄5〜14行)
「実施例1
機械的撹拌機、冷却器、温度計、および単量体、アルカリ性中和剤、重合開始剤および次亜燐酸ナトリウムの溶液を徐々に添加するための入口を備えた2lの4ツ口フラスコに、脱イオン水(DI)566gを加えた。この水を90℃に加熱した。氷のように冷たいアクリル酸500gの単量体仕込み物を造った。50%水酸化ナトリウムの528g(アクリル酸単量体に基づいて95当量%)の中和剤同時供給仕込み物を造った。DI水の40gに、次亜燐酸ナトリウム1水和物36.8gを溶解させることにより、連鎖調節剤同時供給溶液を造った。DI水58gに、過硫酸ナトリウム5gを溶解させることにより、重合開始剤溶液を造った。
前述のアクリル酸、水酸化ナトリウム、過硫酸ナトリウム、および次亜燐酸ナトリウム仕込み物を、線状にかつ別々に、3時間かけて撹拌しながら水仕込み物に加えた。温度は90±2℃に維持した。
得られた重合体溶液は、固体含量41%、pH6.7、粘度210センチポイズ、および残留単量体含量0.01%以下を有していた。GPCにより測定した分子量はMwは2700であった。
NMR分析により、得られた組成物は、水中におけるジアルキルホスフィネート重合体、モノアルキルホスフィネート重合体、モノアルキルホスホネート重合体、次亜燐酸ナトリウム、および亜燐酸ナトリウムの混合物であり、燐の72%が前記ジアルキル種の中に、燐の18%が前記モノアルキル種の中に、そして燐の10%が前記無機塩の中に、それぞれ導入されていることを示した。」(6頁左上欄18行〜左下欄9行)
そして、得られた固体ポリマーの量について、実施例1は41%、実施例2は43%、実施例3は42%、実施例4は42%、実施例5は41%、実施例6は42%、実施例7は42%、実施例8は46%、実施例10は42%、実施例12は45%であることが記載されている。
また、ポリマー中に導入された燐の量については、実施例1は90%、実施例3は70%、実施例4は97%、実施例5は65%であることが記載されている。
(2)対比・判断
【1】本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「次亜リン酸またはその塩を連鎖移動剤として有効利用する方法であって、
一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、
(a)水
(b)一種または二種以上の水溶性開始剤、および
(c)次亜リン酸またはその塩
の存在の下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、前記方法により得られるポリマー生成物の重量平均分子量が20,000より小さく、前記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩が、アクリル酸である、方法」において一致し、次の点で相違している。
(ア)本件発明1が、58-65重量%の最終ポリマー固体レベルを得る方法であるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、そのような記載をしていない点
この相違点について検討する。
刊行物1には、通常、重合は20%以上の固体(水性重合生成物中の非揮発性固体)、好ましくは、30〜80%固体範囲において行う、との記載がされているが、実際に行われた範囲は、実施例1においては41%、実施例2では43%、実施例3では42%、実施例4では42%、実施例5では41%、実施例6では42%、実施例7では42%、実施例8では46%、実施例10では42%、実施例12では45%であり、いずれも50%以下の範囲の固体量である。
また、ポリマー中に導入された燐の量については、実施例1によれば90%であり、実施例3によれば70%で、実施例4によれば97%、実施例5によれば65%であることが記載されている。
そして、実施例1においては、固体量が41%のときポリマー中に導入された燐の量は90%であり、実施例3においては、固体量が42%のときポリマー中に導入された燐の量は70%であり、実施例4においては、固体量が42%のときポリマー中に導入された燐の量は97%、実施例5においては、固体量が41%のときポリマー中に導入された燐の量は65%であるから、ポリマーの固体量がほぼ同じ範囲にあっても、ポリマー中に導入される燐の量には大きなばらつきが見られる。
また、重合を30〜80%固体範囲で行う、との記載がされているとしても、実施例においては、すべての例が固体量は50%以下であるから、固体量が50%を超えた場合に、ポリマー中に導入される燐の量が必ずしも大きくなるともいえない。
一方、本件発明1は、最終ポリマー固体レベルを58-65重量%とすることにより、リンの導入量を97%以上とすることができるものである。
そうすると、本件発明1は、最終ポリマー固体レベルを58-65重量%と、刊行物1に記載された発明におけるポリマー固体濃度より高い特定の固体濃度範囲とすることにより、ポリマー中に導入されるリンの含有量を97%以上の高効率とすることができるものであるから、本件発明1は、当業者であっても、刊行物1に記載された発明から容易に想到し得ないことというべきである。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【2】本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の重合反応器への導入法をそれぞれ限定するもので、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1が、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえない以上、本件発明1を引用する本件発明2〜5も、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
(ハ)特許法第36条の規定違反について
(1)特許異議申立人の主張の概要
(i)発明の詳細な説明中には、2-ビニルピリジンが10重量%使用されたものが示されているのみで、2-ビニルピリジン以外の酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーを重合する具体例が記載されていないから、当業者が容易に本件特許発明1〜5を実施することができない。
(ii)請求項1の記載において、「上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、」と記載されているが、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、まず初めに分離した供給物として、重合反応器に導入することを意味するのか、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の0-20%を、重合反応器に存在させ、その後に、その他の80-100%を反応器に計量して添加することを意味するのか、技術的に明りょうではない。また、「水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する」との記載においては、0を含む数値限定がなされていることから、この点においても技術的に明りょうではない。
(2)判断
(i)について
本件発明1〜5は、次亜リン酸またはその塩を連鎖移動剤として有効利用する方法に関するものである。そして、例4においては、酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーとして2-ビニルピリジンを10重量%採用された方法が示されている。
そして、明細書の記載をみても2-ビニルピリジンを10重量%採用した方法が他の例に比較し格別複雑な方法を採用しているというものでもないから、訂正後の請求項1に記載された2-ビニルピリジン以外の酸を含まないモノエチレン性モノマーを採用した場合であっても、当業者であれば2-ビニルピリジンについての方法と同様に発明を実施することができるものといえる。
また、訂正後の請求項1に記載されたすべての化合物について実施例が示されていないと、当業者が容易に発明の実施をすることができないものともいえない。
したがって、当業者であれば、2-ビニルピリジンと同様に他の酸を含まないモノエチレン性モノマーを採用した場合でも、格別困難無く本件発明を実施することができるものといえるから、明細書には、当業者が容易に本件特許発明1〜5を実施することができる程度に記載がされていないとまではいえない。
(ii)について
重合反応成分の供給について、明細書段落【0020】には、「同様に、任意の成分、例えば金属類を含む、重合反応に使用する他の成分は反応容器に存在させてもよく、あるいは計算して添加してもよく、あるいはまたその組み合せであってもよい。好ましくは、モノエチレン性不飽和酸またはその塩の約80-100%を反応器に供給し、最も好ましくは、一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸またはその塩および一種または二種以上の水溶性レドックス開始剤の実質的に全部を反応器に供給する。反応器に供給される成分は、分離した供給流として、または一つまたは二つ以上の別の供給流と組み合わせて、供給することができる。」と記載され、明細書段落【0021】には、「これらの供給流は好ましくは、直線状で、換言すれば一定の速度で、反応器に供給する。これらの供給は一般に、好ましくは約5分-約5時間、さらに好ましくは、30分-4時間、最も好ましくは、1時間-3時間、の期間にわたって行う。」と記載されている。また、実施例においては、100%の場合ではあるが、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩を、後から計量して導入する場合についてのみ示されている。
そうすると、訂正後の請求項1に記載されている「上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、」との構成は、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、まず初めに分離した供給物として、重合反応器に導入することを意味するものではなく、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の0-20%を、重合反応器に存在させ、その後に、その他の80-100%を反応器に計量して導入することを意味するものであることは明らかである。
また、「水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する」についても、実施例1〜15で示された方法においては、あらかじめ重合反応器中に水のみを含有する場合と、重合反応器中に水と次亜リン酸またはその塩を含有する場合とが記載されていることから、水のみの場合は、「水および0%の次亜リン酸またはその塩を含有する」に相当することになり、「0-100%」の表示が技術的に特に不明りょうであるともいえない。
したがって、訂正後の請求項1に記載された発明が明りょうでないとはいえないから、訂正後の明細書には記載の不備があるとまではいえない。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠ならびに取消理由によっては、本件発明1〜5についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜5についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
連鎖移動剤の有効利用方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】次亜リン酸またはその塩を連鎖移動剤として有効利用する方法であって、
一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、
(a)水
(b)一種または二種以上の水溶性開始剤、および
(c)次亜リン酸またはその塩
の存在の下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、58-65重量%の最終ポリマー固体レベルを得る方法であり、
前記方法により得られるポリマー生成物の重量平均分子量が20,000より小さく、前記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩が、アクリル酸、メタアクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸またはそれらの塩であり、前記一種または二種以上のモノマーの80重量%までが、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、イソブチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アリルアルコール、ホスホエチルメタアクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルイミダゾール、酢酸ビニル、およびスチレンからなる群から選ばれる、酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーである、方法。
【請求項2】上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩を、水および次亜リン酸またはその塩20-80%を含有する重合反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】上記一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の実質的に全部を、反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、5分間-5時間の期間にわたって重合反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の80-100%を、1時間-3時間の期間にわたって重合反応器中に計量して導入する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、連鎖移動剤の有効利用方法に関するものである。特に本発明は次亜リン酸またはその塩を、水性重合における連鎖移動剤として、有効に利用する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
低分子量ポリカルボン酸ポリマーおよびそれらの塩は、分散剤、スケーリング防止剤、洗剤添加剤、金属イオン封鎖剤などとして有用である。一般に、効果的な挙動には50,000以下の分子量が必要であり、多くの場合に、10,000以下の非常に小さい分子量が最も有効である。小さい、特に非常に小さい分子量を有するポリマーの生成には、通常、連鎖移動剤が使用される。次亜リン酸またはその塩(通常、次亜リン酸ナトリウム)は特に望ましい連鎖移動剤であり、これらの化合物がホスフィネート官能性基およびホスホネート官能性基を水溶性ポリマー分子中に導入し、これらの基がかなりの用途における優れた挙動に寄与することから、主として選択される。本明細書および特許請求の範囲の記載において使用されているものとして、「次亜リン酸」の用語は、明確に異なる意味が示されていないがぎり、その塩を包含するものとする。
【0003】
次亜リン酸を連鎖移動剤として使用する公知の方法の大部分に共通する問題点は、その効果を失うことにある。連鎖移動剤のほとんどが連鎖移動反応に明確に参加しなくなる。かなりの部分がポリマー中に取り込まれず、未反応のまま残されるか、または亜リン酸またはその塩などの別種の無機化合物に変換される。その結果として、低分子量を得るためには、高レベルの次亜リン酸が要求される。次亜リン酸は比較的高価なものであるから、これが有効に使用されないと、低分子量ポリマー生成が高価なものとなる。非常に小さい分子量のポリマーを生成する場合に、必要とされる次亜リン酸のレベルは、当該次亜リン酸が効果的に使用されない限り、禁止的に高価なものになる。
【0004】
この効果の消失から生じる第二の欠点は、かなりの量の未反応次亜リン酸化合物またはその他の無機残留物が反応生成物中に残ることにある。これらの塩は、生成物の性能に関与しないので、反応生成物の活性を薄めることになる。若干の場合、例えば濃縮クレイ スラリー製造の場合には、これらの塩は分散プロセスを妨害することもある。
【0005】
次亜リン酸の連鎖移動剤としての効果を増大させる方法の一つが、Hughes等に対する米国特許No.5,077,361に記載されている。Hughesらによって開示された方法は、当該カルボン酸モノマーの20-100%を中和する途中の操作を必要とする。この方法は次亜リン酸の有効性化に関して格別の改良を示すが、別の意味で充分ではない。すなわち、途中の中和操作を必要とすることから、中和剤の取扱いおよび中和剤それ自体の取扱いが伴なう費用による害を受ける。さらにまた、この方法はカルボン酸モノマーの中和熱を除去しなければならないという挑戦を受けることになる。さらにまた、操作途中の中和は、カルボン酸ポリマーの塩の生成をもたらす。
【0006】
【発明の開示】
本発明の目的はこれらの従来技術が伴う問題を解決することにある。本発明の第一の態様に従い、次亜リン酸またはその塩を、連鎖移動剤として有効に利用する方法が提供される。この方法は、一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%が、モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩である一種または二種以上のモノマーを、
(a)水
(b)一種または二種以上の水溶性開始剤、および
(c)次亜リン酸またはその塩
の存在の下に重合させることからなり、上記モノエチレン性不飽和酸あるいはその塩の約80-100%を、水および0-100%の次亜リン酸またはその塩を含有する重合反応器中に計量して導入して、少なくとも50重量%の最終ポリマー固体含有レベルを得る方法である。
【0007】
本発明の方法で使用される連鎖移動剤、すなわち連鎖調整剤は、次亜リン酸またはその塩、例えば次亜リン酸ナトリウム-水和物または次亜リン酸アンモニウムである。連鎖移動剤は好ましくは、総モノマー重量に基づいて約20重量%までのレベル、最も好ましくは、総モノマー重量に基づいて約2-約10重量%までのレベルで使用する。
【0008】
驚くべきことに、次亜リン酸を、連鎖移動剤として使用する場合に、その最終ポリマー固体レベルが連鎖移動効率に対して主要効果を有することが見出された。この最終ポリマー固体レベルとは、重合の終了時点に反応器中に存在する、ポリマーおよび水の重量に対するポリマーの重量である。少なくとも約50重量%の最終固体含有レベルにまで重合を行うことによって、当該連鎖移動プロセスに参加し、ポリマー中に、特にジアルキルホスホネート ポリマ一中に、取り込まれる次亜リン酸のパーセンテージ(%)は格別に増加する。
【0009】
好ましくは、重合は約50-約70重量%、最も好ましくは、約52-約65重量%の最終ポリマー固体レベルまで行う。約70重量%以上の最終ポリマー固体レベルにおいて、このポリマー溶液の粘度は、混合が困難になる点にまで増加する。ポリマー溶液を充分に混合しないと、ゲル生成またはその他の不純物が見出されることがある。約50重量%以下の最終ポリマー固体レベルにおいては、この連鎖移動剤の効率は減少される。約50-約70重量%の最終ポリマー固体レベルまで重合を行うことによって、ポリマー中に取り込まれる次亜リン酸連鎖移動剤の相対量は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%になることが見出された。
【0010】
本発明のポリマー製造方法は、実質的に有機溶媒を含有しない水性方法である。先ず初めに分離した供給物として、水を重合反応器に導入する。この水は反応混合物の他の成分の一種または二種以上、あるいはそのうちのいくつかの組み合わせのための溶剤として作用する。この水の総量は最終ポリマー固体レベルを約50-約70重量%の好ましいレベルが得られるように選択する。
【0011】
本発明の方法では、一種または二種以上のモノマーの少なくとも20重量%がモノエチレン性不飽和酸である、一種または二種以上のモノマー重合用の連鎖移動剤として次亜リン酸化合物を使用する。モノエチレン性不飽和酸は、モノ-酸、ジ-酸またはポリ-酸であることができ、これらの酸はカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、その塩またはその組み合わせであることができる。適当なモノエチレン性不飽和酸の例には、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびそのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩である。
【0012】
適当なモノエチレン性不飽和ジカルボン酸およびシス-ジカルボン酸の無水物の例には、マレイン酸、無水マレイン酸、無水1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、無水3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、無水5-ノルボ-ネン-2,3-ジカルボン酸、無水ビシクロ[2.2.2]-5-オクテン-2,3-ジカルボン酸、無水3-メチル-1,2,6-テトラヒドロフタル酸、無水2-メチル-1,3,6-テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、メサコン酸、フマル酸、シトラコン酸およびそのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩がある。その他の適当なモノエチレン性不飽和酸の例には、アリルスルホン酸、アリルホスホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-(2-プロペニルオキシ)プロパンスルホン酸、イソプロペニルホスホン酸、ビニルホスホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、およびそのアリカリ金属塩およびアンモニウム塩がある。
【0013】
最も好ましくは、一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸は、アクリル酸、メタアクリル酸、または2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸である。これらの一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸は、モノマー総重量の少なくとも約20重量%、好ましくはモノマー総重量の少なくとも約40重量%を構成する。
これらの一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸は、それらの酸の形態で、あるいは部分的に中和された形態で使用する。一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸の塩が使用される場合には、これらは好ましくは、重合中ではなく、重合の前に中和する。一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸を重合中に中和する場合には、中和溶液は別に、または一緒に、または他の供給物と一緒に、装入することができる。この中和溶液は無機または有機塩基のいづれであることもできる。一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸の部分的中和に好適な塩基の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、およびトリメチルヒドロキシエチルアンモニウム水酸化物がある。
【0014】
さらにまた、本発明の方法は、酸を含まないモノエチレン性不飽和の、一種または二種以上のモノマーの共重合に使用することができる。適当な酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーの例は、アクリル酸およびメタアクリル酸のC1-C4アルキルエステル、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、およびイソブチルメタアクリレート;アクリル酸およびメタアクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えばヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、およびヒドロキシプロピルメタアクリレートを包含する。他の酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーには、アクリルアミドおよびアルキル置換アクリルアミド類、例えばアクリルアミド、メタアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、およびN,N-ジメチルアクリルアミドが包含される。
【0015】
別種の酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーの例には、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アリルアルコール、ホスホエチルメタアクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルイミダゾール、酢酸ビニル、およびスチレンがある。使用される場合に、一種または二種以上の酸を含まないモノエチレン性不飽和モノマーは、総モノマー重量の約80重量%より少ない量、好ましくは総モノマー重量の約60重量%より少ない量を構成するようにする。
所望により、多エチレン性不飽和化合物をこの重合プロセスに配合することができる。多エチレン性不飽和化合物は、交差結合剤として機能し、高分子量ポリマーの生成をもたらす。
【0016】
本発明の方法の適当な開始剤は、慣用の水溶性開始剤のいずれであってもよい。適当な開始剤の一種には、熱性開始剤、例えば過酸化水素、或る種のアルキル ヒドロパーオキサイド、ジアルキル パーオキサイド、過硫酸塩、過エステル、過炭酸塩、ケトン パーオキサイドおよびアゾ開始剤がある。適当なフリーラジカル開始剤の特別の例には、過酸化水素、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、tert-アミルヒドロパーオキサイドおよびメチルエチルケトンパーオキサイドがある。これらのフリーラジカル開始剤は、総モノマー重量に基づき約1%-約20%、最も好ましくは、総モノマー重量に基づき約2%-約10%の量で使用する。
【0017】
水溶性レドックス開始剤もまた使用することができる。これらの開始剤は、これらに制限されないものとして、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、過硫酸塩、次亜リン酸塩、イソアスコルビン酸、ナトリウム ホルムアミド-スルホキシレートなどを包含する。これらは、適当な酸化剤、例えば上記の熱性開始剤などとともに使用する。レドックス開始剤は代表的に、総モノマー重量に基づき約0.05%-約10%の量で使用する。好適範囲は、総モノマー重量に基づき約0.5%-約5%である。開始剤は組み合わせて使用することもできる。
【0018】
好ましくは、重合を促進させるために、およびまた重合中に分子量を制御するために、一種または二種以上の水溶性金属塩を使用する。銅、鉄、コバルトおよびマンガンのような水溶性金属塩を、総モノマー重量に基づき金属イオン約1-200部/百万(ppm)、最も好ましくは、約5-100ppmのレベルで使用する。好適な金属塩は、銅塩および鉄塩であり、これらには、水性溶液中で銅イオンまたは鉄イオンを発生する全ての無機および有機化合物が含まれる。適当な塩は硫酸塩、硝酸塩、クロライド、ならびにアセテートおよびグルトネートを包含する。
【0019】
本発明の方法は、コフィード(共供給)法またはヒール(初期供給)法として行うことができ、好ましい方法は、その組み合せ方法である。ヒール法は、一種または二種以上の反応剤の全部を重合反応器中に存在させる方法であり、残りの反応剤は経過時間にわたり計量して添加するかまたは供給する。コフィード法は、反応剤の全部を反応器中に経過時間にわたり計量して添加するかまたは供給する方法である。コフィード法とヒール法との組み合わせ方法では、一種または二種以上の反応剤の一部を重合反応器中に存在させ、残りの一種または二種以上の反応剤は経過時間にわたり計量して添加するかまたは供給する。連続方式では、反応器の内容物の連続的取り出しを、反応剤の一部分を添加した後に、例えば約30分後に開始する。残りの反応剤の添加速度は排出速度と等しい速度で継続する。
【0020】
好ましくは、本発明の方法は、コフィード法とヒール法との組み合わせ方法によって行い、この場合には、連鎖移動剤の一部分を重合反応器中に存在させ、残りの連鎖移動剤およびその他の反応剤は次いで、反応器に計量して添加する。好ましくは、連鎖移動剤の総量の約20-約80%を反応容器中に存在させ、その他の反応剤は反応器に計量して添加する。同様に、任意の成分、例えば金属類を含む、重合反応に使用する他の成分は反応容器に存在させてもよく、あるいは計量して添加してもよく、あるいはまたその組み合わせであってもよい。好ましくは、モノエチレン性不飽和酸またはその塩の約80-100%を反応器に供給し、最も好ましくは、一種または二種以上のモノエチレン性不飽和酸またはその塩および一種または二種以上の水溶性レドックス開始剤の実質的に全部を反応器に供給する。反応器に供給される成分は、分離した供給流として、または一つまたは二つ以上の別の供給流と組み合わせて、供給することができる。開始剤と一種または二種以上のモノマーとは、別の供給流として供給すると好ましい。
【0021】
これらの供給流は好ましくは、直線状で、換言すれば一定の速度で、反応器に供給する。これらの供給は一般に、好ましくは約5分-約5時間、さらに好ましくは、30分-4時間、最も好ましくは、1時間-3時間、の期間にわたって行う。所望により、これらの供給流は一つまたは二つ以上の供給流を一緒に供給し始めるか、および(または)一方の供給は他方の供給が前に完了するようにして段階的に行うことができる。好ましくは、連鎖移動剤供給を一種または二種以上のモノマーの供給と同時に、開始する。さらに好ましくは、連鎖移動剤供給を一種または二種以上のモノマーの供給が完了した時点またはその前に完了させる。
重合反応の温度は開始剤の選択、および目標分子量によって変わる。一般に、重合の温度は、該当系の沸点までであるが、重合は加圧の下に行うこともでき、この場合には、さらに高温が使用される。好ましくは、重合温度は、約45-約110℃、最も好ましくは、約60-約105℃である。
【0022】
高レベルのポリマー状リン化合物および低無機レベルの無機リン化合物を含有する組成物は、塗料組成物用の分散剤、ランドリイおよび食器洗浄機用の添加剤、鉱物分散剤、カオリン クレイスラリー用の分散剤、およびスケーリング防止剤、水処理およびオイル製造用の分散剤および腐食防止剤を包含する最終使用用途においてさらに有用である。この重合プロセスにおける次亜リン酸の宿命的特徴はこの種の混合物として存在することにある。NMR分析は、下記の組成を示した:
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
ポリマー生成物中に存在するこれらの種の割合は、採用されたプロセスの関数である。例によって示されているように、重合プロセスを、少なくとも50%の最終ポリマー固体レベルまで行った場合には、連鎖移動剤としての次亜リン酸の最も効果的な利用が得られる。換言すれば、この方法は他のさらに費用がかかる手段に頼ることなく、未配合無機化合物の量を減少させ、およびまた種々のポリマーを増加する結果をもたらす。
【0026】
ポリマー生成物の分子量および狭い多分散度の制御はまた、連鎖移動剤の有効利用を示唆する。本発明の方法は、ポリマー鎖中に取り込まれたホスフィネートまたはホスホネートを含有する低分子量の水溶性ポリマーをもたらす。低分子量の用語は、重量平均分子量(Mw)が20,000より小さいこと、好ましくは10,000より小さいことを意味する。さらに、本発明の方法は、狭い多分散度を有するポリマーをもたらす。多分散度(D)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比を表わす。これらの分子量は4,500のMwを有するポリ(アクリル酸)標準に対して水性ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)によって測定される。
【0027】
【実施例】
下記の特定の例は、本発明の種々の態様を説明しようとするものであり、本発明のさらに広い態様の範囲を制限しようとするものではない。
例1
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた5ガロン反応器に、脱イオン水6450グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液107.5グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水600グラムに溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物322.5グラムの溶液を加えた。氷状アクリル酸10,750グラムからなるモノマー供給物を調製する。次亜リン酸ナトリウム1水和物322.5グラムを脱イオン水600.0グラムに溶解することによって、連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム107.5グラムを脱イオン水600.0グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給流を添加する。この添加は同時的に初め、次いでそれぞれ120分間、95分間および120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0028】
例2
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマーおよび開始剤の漸次的添加用の導入口を備えた1リットル、四頸フラスコに、脱イオン水180グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液3.0グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水40.0グラムに溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物22.20グラムの溶液を加えた。氷状アクリル酸300グラムからなるモノマー供給物を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム3.0グラムを脱イオン水10.0グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物および開始剤溶液の別々の供給流を加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に始め、次いでそれぞれ120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0029】
例3
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤、次亜リン酸ナトリウム溶液および中和溶液の漸次的添加用の導入口を備えた2リットル、四頸フラスコに、脱イオン水70グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱する。氷状アクリル酸600グラムからなるモノマー供給物を調製する。次亜リン酸ナトリウム1水和物33.4グラムを脱イオン水43.0グラムに溶解し、次いで0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液6.0グラムを添加することによって、連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム6.0グラムを脱イオン水20.0グラムに溶解することによって調製する。50重量%水酸化ナトリウム水溶液636.0グラムの中和剤共供給物を調製する。モノマー供給物、中和剤共供給物および開始剤溶液の別々の供給流を加熱し、攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いでそれぞれ120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。これらの供給を開始して5分の時点で、連鎖調整剤溶液を反応器中に、115分間にわたって直線状に、別に供給する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0030】
例4
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた500ミリリットル、四頸フラスコに、脱イオン水140グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水10.0グラムに溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物3.50グラムの溶液を加えた。氷状アクリル酸180グラムからなるモノマー供給物を調製し、また2-ビニルピリジン20.0グラムからなる第二のモノマー供給物を調製する。次亜リン酸ナトリウム1水和物3.5グラムを脱イオン水28.4グラムに溶解することによって、連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム2.0グラムを脱イオン水10.0グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、第二のモノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給流を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いでそれぞれ120分間、95分間、120分間、および120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0031】
例5
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた1リットル、四頸フラスコに、脱イオン水110グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液3.0グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱する。氷状アクリル酸160グラムおよびナトリウム2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホネートの50%水溶液88.5グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水20.0グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物9.4グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム2.0グラムを脱イオン水10.0グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給流を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いでそれぞれ120分間、90分間、および120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0032】
比較例1
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた1リットル、四頸フラスコに、脱イオン水364グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液3.0グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水20.0グラムに溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物9.00グラムの溶液を加えた。氷状アクリル酸500グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水20.0グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物9.0グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム3.0グラムを脱イオン水10.0グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給流を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いでそれぞれ120分間、95分間、および120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0033】
比較例2
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた2リットル、四頸フラスコに、脱イオン水566グラムを添加する。この水を90℃に加熱する。氷状アクリル酸500グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水40グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物36.8グラムを溶解することによって連鎖調整剤共供給物を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム5グラムを脱イオン水58グラムに溶解することによって調製する。
【0034】
上記アクリル酸、過硫酸ナトリウムおよび次亜リン酸ナトリウムの供給は、攪拌されている水中に、3時間にわたって、直線状に、別々に添加する。温度は90(±)2℃に維持する。重合が完了した後に、このポリマー溶液に、50%水酸化ナトリウム溶液528グラムを添加して、ポリマー溶液を中和する。
重合は、約45%の最終ポリマー固体レベルまで行う。水酸化ナトリウム溶液の添加後に生成するポリマー溶液は42%の固体含有量、pH4.5、0.01%以下の残留モノマーおよびMw=4320を有した。
NMR分析は、この組成が種として例1と同一のものであるが、比率が異なることを示した。存在した総リンのうちの45%がジアルキルホスフィネートポリマー中に、25%がモノアルキルホスフィネートポリマーおよびホスホネートポリマー中に、取り込まれており、そして30%はポリマー中に取り込まれていなかった。
【0035】
比較例3
比較例1の方法を反復するが、次亜リン酸ナトリウム・1水和物添加量を、脱イオン水80グラムに溶解した73.6グラムに増加した。
生成するポリマー溶液は41%の固体含有量、pH6.5、残留モノマー<0.01%およびMw=2300を有した。
NMR分析は、生成物中のリン%は、ジアルキルホスホネートポリマー中に約40%、モノアルキルホスフィネートポリマーおよびホスホネートポリマー中に25%が取り込まれており、約35%はポリマー中に取り込まれていないことを示した。
【0036】
比較例4
機械攪拌機、窒素導入口を先端に有するコンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた1リットル、四頸フラスコに、脱イオン水250グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液10.0グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで窒素導入を開始する。氷状アクリル酸250グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水70.0グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物18.4グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム2.50グラムを脱イオン水50.0グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給流、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いでそれぞれ120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90-92℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90-92℃に、30分間維持する。このデータを下記の表Iに示す。
【0037】
下記の表Iに示されているデータは、重量%として示されている最終ポリマー「固体」含有量;総モノマー重量に基づく重量%として示されている、連鎖移動剤である次亜リン酸ナトリウム1水和物の量、「NaHP」;コフィードした連鎖移動剤の相対量に対するヒール供給物中の連鎖移動剤の相対量の比「ヒール:コフィード」;NMRによって示された、ポリマー中に取り込まれた連鎖移動剤の%で示されている、「効率」;Mw;およびMn;であり、データが測定されなかったことは「n,m」で示されている。
【0038】
【表1】

【0039】
例6
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた2リットル、四頸フラスコに、脱イオン水366.7グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液9.1グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水69.25グラム中に溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物27.6グラムの溶液を添加する。氷状アクリル酸921.2グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水69.25グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物27.6グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム9.21グラムを脱イオン水70.7グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給流を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いで180分間にわたり、直線状に、別々に添加を継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90(±)1℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90(±)1℃に、30分間維持する。リンの94.0%がポリマー中に取り込まれた。このデータを下記の表IIに示す。
【0040】
例7
例6の方法に従うが、供給は120分間にわたり直線状に、別々に継続する。リンの91.5%がポリマー中に取り込まれた。このデータを下記の表IIに示す。
例8
例6の方法に従うが、供給は120分間にわたり直線状に、別々に継続する。リンの94.0%がポリマー中に取り込まれた。このデータを下記の表IIに示す。
【0041】
例9
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた2リットル、四頸フラスコに、脱イオン水418.6グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液9.1グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水17.3グラム中に溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物13.8グラムの溶液を添加する。氷状アクリル酸921.2グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水69.25グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物41.4グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム9.21グラムを脱イオン水69.25グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給物を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いで120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90(±)1℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90(±)1℃に、30分間維持する。このデータを下記の表IIに示す。
【0042】
例10
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた2リットル、四頸フラスコに、脱イオン水418.6グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液9.1グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水17.3グラム中に溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物9.2グラムの溶液を添加する。氷状アクリル酸921.2グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水70.7グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物27.64グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム9.21グラムを脱イオン水69.25グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給物を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いで120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90(±)1℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90(±)1℃に、30分間維持する。このデータを下記の表IIに示す。
【0043】
例11
機械攪拌機、コンデンサー、温度計およびモノマー、開始剤および次亜リン酸ナトリウム溶液の漸次的添加用の導入口を備えた2リットル、四頸フラスコに、脱イオン水418.6グラムおよび0.15重量%FeSO4・7H2O水溶液9.1グラムを添加する。このフラスコの内容物を90℃に加熱し、次いで脱イオン水17.3グラム中に溶解した次亜リン酸ナトリウム1水和物17.0グラムの溶液を添加する。氷状アクリル酸921.2グラムからなるモノマー供給物を調製する。脱イオン水70.7グラム中に次亜リン酸ナトリウム1水和物51.1グラムを溶解することによって連鎖調整剤溶液を調製する。開始剤溶液は、過硫酸ナトリウム9.2グラムを脱イオン水69.25グラムに溶解することによって調製する。モノマー供給物、連鎖調整剤溶液、および開始剤溶液の別々の供給物を、加熱した攪拌されているフラスコに添加する。この添加は同時的に初め、次いで120分間にわたり、直線状に、別々に継続する。この添加期間中は、フラスコの内容物を90(±)1℃に維持する。この供給が完了した後に、フラスコの内容物を90(±)1℃に、30分間維持する。このデータを下記の表IIに示す。
【0044】
例12
例8の方法に従うが、フラスコの内容物は95(±)1℃に維持する。このデータを下記の表IIに示す。
例13
例8の方法に従うが、連鎖調整剤溶液は、30分間にわたり、直線状に、別に供給する。このデータを下記の表IIに示す。
例14
例8の方法に従うが、連鎖調整剤溶液は、60分間にわたり、直線状に、別に供給する。このデータを下記の表IIに示す。
例15
例8の方法に従うが、連鎖調整剤溶液は、100分間にわたり、直線状に、別に供給する。このデータを下記の表IIに示す。
【0045】
下記の表IIに示されている例はいずれも、54重量%の最終ポリマー固体レベルまで行った。連鎖移動剤、「CTA」のレベルは総モノマー重量に基づく重量%で示されている;「ヒール」は初期供給物中の連鎖移動剤の相対量を示すものである;「コフィード」は共供給物中の連鎖移動剤の相対量を示すものである;示されている「温度」は℃による重合温度である;「時間」は分による連鎖移動剤の供給時間である;そしてMwが示されている。
【0046】
【表2】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-28 
出願番号 特願平5-155523
審決分類 P 1 651・ 531- YA (C08F)
P 1 651・ 161- YA (C08F)
P 1 651・ 121- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3343399号(P3343399)
権利者 ローム アンド ハース カンパニー
発明の名称 連鎖移動剤の有効利用方法  
代理人 野田 慎二  
代理人 千田 稔  
代理人 安富 康男  
代理人 佐藤 明子  
代理人 千田 稔  
代理人 渡辺 みのり  
代理人 玉井 敬憲  
代理人 橋本 幸治  
代理人 橋本 幸治  

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