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審決分類 審判 全部無効 発明同一 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C07C
管理番号 1124797
審判番号 無効2003-35418  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-10-07 
確定日 2005-05-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3236282号発明「プラバスタチンを精製する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3236282号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3236282号に係る発明についての出願は、平成12年10月16日に特許出願され、平成13年9月28日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して請求人より平成15年10月7日に本件無効審判の請求がなされた。その後においてなされた手続の経緯は以下のとおりである。

上申書(請求人) 平成15年12月26日
答弁書・訂正請求書 平成16年 3月 8日
上申書(請求人) 平成16年 5月14日
口頭審理陳述要領書(請求人)平成16年 9月16日
上申書(請求人) 平成16年 9月16日
口頭審理 平成16年 9月16日
上申書(請求人) 平成16年10月18日
上申書(被請求人) 平成16年10月18日

2.訂正の適否
(イ)訂正の内容
訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次の(a)、(b)のとおりである。
(a)特許請求の範囲請求項1〜4に、「Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。」とあるのを、「Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。」と訂正する。
(b)特許請求の範囲請求項7に、「Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、」とあるのを、「Rがn-ブチル基である、」と訂正する。

(ロ)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)は、「炭素数3又は4のアルキル基」のうち、炭素数4のアルキル基に含まれるイソブチル基を除くものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、先願の明細書に記載された事項を除外しようとするものであるから、発明に新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。また、訂正事項(b)は、「n-プロピル基又はn-ブチル基」とあるを、n-ブチル基に限定するものであるから、同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、そして、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(ハ)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項及び同条第5項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
訂正後の本件請求項1〜7に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次の事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用することを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項2】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機酸を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項3】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項4】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用し、並びに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項5】
無機酸が、リン酸である、請求項2又は請求項4記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項6】
無機酸を用いて分解する工程のpHが、2乃至5である、請求項2、請求項4又は請求項5に記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項7】
Rがn-ブチル基である、請求項1乃至6より選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。」
(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)

4.請求人の主張
(1)無効理由の概要
審判請求人は、本件特許第3236282号を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする旨の審決を求める無効審判を請求し、証拠方法として後記の書証をもって大略以下に示す理由により無効にされるべきであると主張している。

本件特許に係る出願は、平成12年(2000年)10月16日になされたものであるところ、その出願に係る本件発明は、
(イ)本件出願前の1999年(平成11年)11月30日に出願された米国仮出願(60/168056;甲第2号証)に基づく優先権を主張して2000年(平成12年)11月28日に出願された国際出願[PCT/US00/32391(国際公開WO0l/039768;甲第5号証)]に基づく特許出願[特願2001-541501号(特表2003-515334号公報;甲第1号証)]の、出願当初の明細書及び米国仮出願明細書の両方に記載された発明と同一であり、あるいは、
(ロ)本件出願前の2000年(平成12年)10月5日に出願された米国仮出願(60/238278;甲第4号証)に基づく優先権を主張して2001年(平成13年)10月5日に出願された国際出願[PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415;甲第6号証)]に基づく特許出願[特願2002-533858号(特表2004-510817号公報;甲第3号証)]の、出願当初の明細書及び米国仮出願明細書の両方に記載された発明と同一であり、
そして、本件出願の発明者がその出願前の出願に係る発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記出願の出願人と同一でもないので、本件発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきである。

(2)証拠方法
請求人は、審判請求書とともに甲第1号証〜甲第6号証、甲第8号証〜甲第10号証を、平成15年12月26日付け上申書とともに甲第7号証を、口頭審理陳述要領書とともに甲第11号証、甲第12号証を、さらに、平成16年10月18日付け上申書とともに甲第13号証、甲第14号証を提出している。
なお、上記理由の(ロ)に係る特願2002-533858号の国内公表公報(特表2004-510817号公報;甲第3号証)は、審判請求時未発行であったため、甲第3号証の2として出願翻訳文の写しが提出され、その後平成16年5月14日付け上申書とともに提出された。

各甲号証は以下のとおりである。
(A)甲第1号証 特表2003-515334号公報
(B)甲第2号証 米国仮出願(60/168056)に係る
優先権証明書
(C)甲第3号証 特表2004-510817号公報
(D)甲第4号証 米国仮出願(60/238278)に係る
優先権証明書
(E)甲第5号証 国際公開第01/039768号パンフレット
(2001年(平成13年)6月7日国際公開)
(F)甲第6号証 国際公開第02/030415号パンフレット
(2002年(平成14年)4月18日国際公開)
(G)甲第7号証 中西香爾博士の鑑定書
(H)甲第8号証 特許第3236282号公報
(I)甲第9号証 米国特許第4346227号明細書
(J)甲第10号証 国際公開第00/46175号パンフレット
(K)甲第11号証 Vilmos Keri博士、Ilona Forgacsによる報告書
(報告書番号:KPRAV-2004/6)
(L)甲第12号証 Vilmos Keri博士、Ilona Forgacsによる報告書
(報告書番号:KPRAV-2004/7)
(M)甲第13号証 Vilmos Keri博士、Ilona Forgacsによる報告書
(報告書番号:KPRAV-2004/8)
(N)甲第14号証 Vilmos Keri博士、Ilona Forgacsによる報告書
(報告書番号:KPRAV-2004/9)

そして、各甲号証の記載内容は以下のとおりである。
(A)甲第1号証(特表2003-515334号公報)
甲第1号証には、発酵ブロスからスタチン化合物を回収するための方法に関し、「本発明の方法は、プラバスタチンの濃縮溶液を形成するステップ、上記濃縮溶液からプラバスタチンの塩を得るステップ、上記プラバスタチンの塩を精製するステップ、プラバスタチン塩をプラバスタチンナトリウム塩に塩転換させるステップ、およびプラバスタチンナトリウム塩を単離するステップを含んでいる。」(段落【0025】)と記載されている。
第1のステップについて、「第1のステップにおいて、プラバスタチンは、一連の抽出、逆抽出の操作によって、水溶性醗酵ブロスから比較的濃く濃縮された溶液で得られる。」こと、及び「C2-C4アルキル・フォルメイトおよびC2-C4カルボン酸のC1からC4のアルキルエステルは、高効率で水溶性醗酵ブロスからプラバスタチンの抽出で可能であることを、本発明当事者が見出した。」こと、さらに、「好ましいエステルは、エチルフォルメイト、・・・酢酸エチル、n-プロピルアセテート、i-プロピルアセテート、n-ブチルアセテート、s-ブチルアセテート、i-ブチルアセテート、t-ブチルアセテート、・・・を含んでいる。これら好ましい有機溶媒のうち、酢酸エチル、i-ブチルアセテートおよびギ酸エチルが有為的に十分に適したものであることを見出した。最も好ましい抽出溶媒は、i-ブチルアセテートである。」ことが記載されている(段落【0026】)。
実施例1において、硫酸を付加することで約2.5から約5.0のpHに酸性化された醗酵ブロスをイソブチルアセテートで抽出することから出発して、プラバスタチンアンモニウム塩を経て、最終的にプラバスタチンナトリウムを、99.3%の純度で、全収率65%の収率で得ている(段落【0061】〜【0068】)。
また、実施例3-6として、有機溶媒を、CH2Cl2、酢酸エチル、エチルフォルメイト、ブチルメチルケトンに代え、実施例1の方法に従って行った結果の収率(それぞれ63%、58%、51%、61%)、純度(96.6%、99.5%、99.6%、99.5%)が示されている(段落【0070】、【0071】表1)。
(B)甲第2号証(米国仮出願(60/168056)に係る優先権証明書)
甲第2号証には、「プラバスタチンナトリウム塩の単雛方法であって、プラバスタチンが発酵ブロスからpH2.0〜5.0で水不混和性有機溶媒により抽出され、さらなる抽出の後に塩析されるか又はアンモニアガスにより沈殿され、又はさらなる抽出の後アンモニアガスにより沈殿され、塩の形態で精製され、プラバスタチンナトリウム塩に転換され、そして結晶化されるか又は凍結乾燥されることを特徴とする方法。」(請求の範囲第1項)が記載され、水不混和性有機溶媒について、「前記水不混和性有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、蟻酸エチル、トルエン、ベンゼン、ブチルメチルケトンである」(請求の範囲第2項)と記載されている。
例-1において、「100Lの体積の発酵ブロスを、pH2.5〜5.0で酢酸イソブチルにより3回抽出する」ことにより活性物質を抽出することから出発して、プラバスタチンアンモニウム塩を経て、最終的に生成物を、99.8%の純度及び65%の収率で得ている(第1頁2行〜第2頁15行)。
また、例-3として、「例-1に記載される同じ方法を採用し、そして酢酸イソブチルの代わりに他の溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、酢酸エチル、酢酸tert、n-ブチル、酢酸プロピル、蟻酸エチル、トルエン、ベンゼン、ブチルメチルケトン)を適用することにより、生成物を、98〜99.5%の純度及び50〜68%の収率で得る。」(第2頁19〜24行)と記載されている。
(C)甲第3号証(特表2004-510817号公報)
甲第3号証には、「実質的に純粋なプラバスタチンナトリウムを製造するための、工業的な規模で実施され得る方法」(段落【0007】)について記載されている。
その方法における工程の概略は以下のとおりである。
(a)第一段階において、プラバスタチンを培養液から有機溶媒により抽出する(段落【0012】)。
(b)プラバスタチンを、約8.0〜約9.5のpHの塩基性水溶液中に逆抽出する(段落【0013】)。
(c)水溶液を、酸を用いて約1.0〜約6.5、好ましくは約2.0〜約3.7のpHに酸性化する(段落【0014】)。
(d)プラバスタチンを、有機溶媒へ再抽出する(段落【0015】)。
(e)プラバスタチンを、アンモニア又はアミンを用いて濃縮有機溶液から結晶化する(段落【0016】〜【0019】)。
(f)結晶を再結晶により精製する(段落【0020】〜【0022】)。
(g)プラバスタチンアンモニウム塩を、水性溶媒中で溶解し、約2〜約4、好ましくは約3.1のpHに酸性化し、有機溶媒を用いてプラバスタチンを抽出することによって遊離させる。有機層を、約7.4〜約13.0のpHの水性水酸化ナトリウム溶液を用いて逆抽出する(段落【0023】)。
(h)抽出した水溶液を陽イオン交換樹脂と接触させた後、プラバスタチンナトリウムを、結晶化または凍結乾燥によって単離する(段落【0024】〜【0030】)。
そして、上記各工程の詳細は以下のとおりである。
(a)工程について
第一段階の培養液からの抽出溶媒について、「第一段階において、プラバスタチンが培養液から抽出される。C2-C4アルキルのギ酸塩及びC2-C4カルボン酸のC1-C4アルキルエステルは、水性溶媒液からプラバスタチンの効率的な抽出を行うことができる。アルキル基は直鎖、分枝鎖又は環状であってもよい。好ましいエステルはギ酸エチル、ギ酸n-プロピル、ギ酸i-プロピル、ギ酸n-ブチル、ギ酸s-ブチル、ギ酸i-ブチル、ギ酸t-ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸i-プロピル、プロピオン酸i-プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸i-プロピル、酪酸ブチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル及びイソ酪酸ブチルを含む。これらの好ましい有機溶媒の中でも、我々は酢酸エチル、酢酸i-ブチル、酢酸プロピル及びギ酸エチルが特によく適していることを発見した。最も好ましい抽出溶媒は酢酸i-ブチルである。」(段落【0012】)と記載されている。
具体的には、例1において、「培養液(100L)を硫酸の添加によって約2.5〜約5.0に酸性化した。酸性化した培養液を酢酸i-ブチル(3×50L)で抽出した。酢酸i-ブチル抽出物の収率は、培養液の内部標準に対して校正したHPLC解析によって95%であることが明らかとなった。」(段落【0039】)と記載されている。
(b)工程について
「塩基は、好ましくはNaOH、NH4OH又は、KOHであり」、「逆抽出は、有機性抽出液の量の1/3未満、・・・の量の塩基性水溶液と接触される」と記載されている(段落【0013】)。
例1には、「一緒にした酢酸i-ブチル層を、続いて濃水酸化アンモニウムの添加によって約pH7.5〜約pH11.0となった水(35L)を用いて抽出した。」(段落【0039】)とある。
(c)工程について
「水溶液は、好ましくは酸、好ましくはトリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸、酢酸、又はリン酸、・・・を用いて、約1.0〜約6.5、更に好ましくは約2.0〜約3.7のpHに酸性化される。」(段落【0014】)と記載されている。
例1において、続く(d)工程とともに、「生じたプラバスタチン水溶液は、続いて5M硫酸の添加によって約2.0〜約4.0のpHに再酸性化され、そして酢酸i-ブチル(8L)で逆抽出された。生じたプラバスタチンの酢酸i-ブチル溶液は、パーライト及びNa2SO4 上で部分的に乾燥された。プラバスタチン溶液をデカンテーションし、そして次に乾燥剤から濾過され、そして活性炭(1.7g)で脱色された。溶液を続いて濾過し、活性炭を除いてガス注入口を備えたフラスコに移した。」(段落【0039】)と記載されている。
(d)工程について
「有機溶媒は、必ずしもではないが、培養液からプラバスタチンを抽出するのに使用した同一の溶媒であってもよい。」(段落【0015】)と記載され、具体的には上記のように、酢酸i-ブチルが用いられている。
(e)工程について
例1において、「アンモニアガスを、素速く撹拌した前記溶液の上のヘッドスペースに導入した。プラバスタチンの炭酸アンモニウム塩の沈澱した結晶を濾過によって回収し、そして酢酸i-ブチル、次にアセトンで洗浄し、それにより、・・・約94%の純度のプラバスタチンアンモニウム塩が生成された。」(段落【0040】)と記載されている。
(f)工程について
例1において、「プラバスタチンアンモニウム塩は、以下の様に飽和塩化アンモニウム溶液から結晶によって更に精製された。・・・プラバスタチンアンモニウム塩の結晶(155.5g)が、・・・約98%の純度で得られた。」(段落【0041】)と、また、他の結晶化方法として、「プラバスタチンアンモニウム塩(155.5gの活性物質)を水(900ml)に溶解した。イソブタノール(2ml)を加え、そしてpHを濃水酸化ナトリウム溶液の添加によって約pH10〜約pH13.7に上げ、そしてこの溶液を周囲温度で30分間撹拌した。この溶液を硫酸の添加によって約7のpHへと中性化し、プラバスタチンアンモニウムの結晶化を固体のNH4Clの添加によって誘導した。結晶(150g)は濾過によって回収され、そしてアセトンで洗浄した。プラバスタチンアンモニウムは、・・・約99.3%であることが明らかとなった。」(段落【0042】)と記載されている。
(g)工程について
「プラバスタチンアンモニウム塩の精製後、プラバスタチンアンモニウム塩は、好ましくはプラバスタチンナトリウムに置き換えられる。プラバスタチンは、好ましくは水性溶媒中で溶解し、任意なプロトン性の酸、しかし、好ましくは硫酸を用いて、約2〜約4、更に好ましくは約3.1のpHに酸性化し、そして有機溶媒を用いてプラバスタチンを抽出することによって、アンモニウム塩から遊離される。上文で列記した有機溶媒のいずれでもよいが、好ましくは酢酸i-ブチルである有機溶媒が、プラバスタチンが実質的に完全に有機層へと移るまで、酸性化した溶液と任意に接触される。有機層は、好ましくは水層から分離され、そしてアンモニウムの残査を除去するために水で任意に洗浄した後、プラバスタチンは、好ましくは約7.4〜約13.0のpHの水性水酸化ナトリウム溶液を用いて逆抽出される。逆抽出は、好ましくは約8〜約10℃の低温で実施される。」(段落【0023】)と記載されている。
例1において、「プラバスタチンアンモニウムは、続いて、以下の様にナトリウム塩へと置き換えられた。プラバスタチンアンモニウム塩の結晶を水(1800ml)に溶解した。酢酸i-ブチル(10.5L)を添加した。この溶液を硫酸の添加によって約pH2〜約pH4の間のpHに酸性化し、これにより、プラバスタチンをその遊離酸へと戻した。プラバスタチンを含む酢酸i-ブチル層を水(5×10ml)で洗浄した。プラバスタチンは、続いてそのナトリウム塩へと変換され、そして約pH7.4〜約pH13のpHに達するまで8MのNaOHを途中添加しながら、約900〜2700mlの水の中で酢酸i-ブチル溶液を撹拌することによって別の水層の中に逆抽出した。」(段落【0043】)と記載されている。
(h)工程について
例1において、「プラバスタチンナトリウム塩溶液は、続いて過剰なナトリウムカチオンを捕捉するために、イオン交換樹脂で処理された。分離後、水層をH+イオン交換樹脂のIRC上で30分間撹拌した。撹拌は、約pH7.4〜約pH7.8のpHに達するまで続けられた。この溶液は、樹脂を除くために続いて濾過され、そして減圧下で508gの重さに部分的に濃縮された。アセトニトリル(480ml)を加え、そしてこの溶液を脱色するために活性炭(5g)上で撹拌した。プラバスタチンナトリウムが、約-10〜約0℃に冷却しながら、1/3/12の水/アセトン/アセトニトリル混合物(5.9L)を形成するためにアセトン及びアセトニトリルを添加した後に、結晶化によって90%の収率で結晶として得られた。プラバスタチンナトリウムは、・・・出発時の培養によって生成した活性物質から、65%の全収率、約99.8%の純度で得られた。」(段落【0044】〜【0045】)と記載されている。
(D)甲第4号証(米国仮出願(60/238278)に係る優先権証明書)
甲第4号証は、甲第3号証の段落【0001】(関連出願に対するクロスリファレンス)と段落【0054】〜【0077】(例8〜例12)に対応する記載がなされていない以外は、実質的に甲第3号証と同様の事項が記載されている。
(E)甲第5号証(国際公開第01/039768号パンフレット)
甲第5号証は、1999年(平成11年)11月30日に出願された米国仮出願(60/168056;甲第2号証)に基づく優先権を主張して2000年(平成12年)11月28日に出願され、2001年(平成13年)6月7日に国際公開された国際出願(PCT/US00/32391)のパンフレットであり、実質的に甲第1号証と同様の事項が記載されている。
(F)甲第6号証(国際公開第02/030415号パンフレット)
甲第6号証は、2000年(平成12年)10月5日に出願された米国仮出願(60/238278;甲第4号証)に基づく優先権を主張して2001年(平成13年)10月5日に出願され、2002年(平成14年)4月18日に国際公開された国際出願(PCT/US01/31230)のパンフレットであり、実質的に甲第3号証と同様の事項が記載されている。
(G)甲第7号証(中西香爾博士の鑑定書)
甲第7号証には、「プラバスタチンを含有する発酵液からのプラバスタチンの抽出のために、当業者は、酢酸イソブチルが好結果に使用されている実施例を含めての開示に基づいて、更なる実験を伴わないで、酢酸n-プロピル及び酢酸イソプロピルを含めての酢酸プロピル類並びに酢酸n-ブチル及び酢酸tert-ブチルを含めての酢酸ブチル類を容易に使用するであろうと、私は信じます。」(第1頁目20〜27行)との中西香爾博士の意見が記載されている。
(H)甲第8号証(特許第3236282号公報)
本件特許公報である。
(I)甲第9号証(米国特許第4346227号明細書)
甲第9号証は、甲第4号証第4頁2〜4行及び甲第3号証段落【0010】に、「プラバスタチンが単離される酵素的ヒドロキシル化培養液は、コンパクチンの工業的規模での培養について知られている任意な水性の培養液であってもよく、そのような方法は米国特許第5,942,423号及び第4,346,227号に記載されている。」との記載における米国特許第4346227号の明細書であり、その実施例1には、「培養の完了の後、反応液を濾過し、そして濾液をトリフルオロ酢酸によりpH3に調整した。得られた混合物を1リットルの酢酸エチルにより3回抽出し、M-4を含有する抽出物を得た。」(第10欄52〜56行目)と記載されている。
(J)甲第10号証(国際公開第00/46175号パンフレット)
甲第10号証には、発酵液の処理について、「発酵の終了後、630μg/mlのプラバスタチンを含有する5.1リットルのブロスをろ布上でろ過した。分離された菌糸に2リットルの水を添加し、そしてこの菌糸懸濁液を1時間攪拌しそしてろ過した。これら2つのろ液を一緒にし、そして138g(250ml)のダウェックスA1400樹脂を収容したカラム(カラム直径3.4cm、樹脂床の高さ28cm)に500ml/時の流速で通し、そして樹脂床を300mlの脱イオン水で洗浄した。次に、l0gの塩化ナトリウムを含む1リットルのアセトン-水(1:1)混合物により樹脂からの溶出を行なった。画分の体積は100mlづつであった。・・・生成物を含有する画分を一緒にし、そしてアセトンを真空留去した。400mlの濃縮物のpHを15%硫酸により3.5〜4.0に調整し、そして次にこれを150mlの酢酸エチルにより3回抽出した。」(第19頁7〜19行)と記載されている。
(K)甲第11号証[Vilmos Keri博士らによる報告書(報告書番号:KPRAV-2004/6)]
甲第11号証は、特許第3236282号の実施例1の追試実験に係る報告書であり、4種類の溶媒(酢酸i-ブチル、酢酸n-ブチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル)を使用して抽出実験を行い、純度と収率のデータを得ている。HPLCによる、最終的に得られた水相における純度は、各溶媒に対応して、それぞれ85.3面積%、84.5面積%、83.4面積%、85.6面積%である(第6頁下から4行〜末行)。
実施した実験の評価の中で、「相分離に関するコメント」として、「採用した分離時間は、相分離を効果的に行なうのに適切であった。最悪の相分離は、酢酸エチルを用いた実験で観察された。」と記載されている(第5頁下から5行〜3行)。
(L)甲第12号証[Vilmos Keri博士らによる報告書(報告書番号:KPRAV-2004/7)]
甲第12号証は、国際公開第02/030415号パンフレットの実施例1の抽出段階の追試実験に係る報告書であり、4種類の溶媒(酢酸i-ブチル、酢酸n-ブチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル)を使用して抽出実験を行い、純度と収率のデータを得ている。HPLCによる、最終的な酸性抽出後の溶媒層に含まれるプラバスタチンの純度は、各溶媒に対応して、それぞれ82.5面積%、81.0面積%、80.1面積%、81.6面積%である(第4頁表2)。
(M)甲第13号証[Vilmos Keri博士らによる報告書(報告書番号:KPRAV-2004/8)]
甲第13号証は、上記甲第11号証の実験を繰り返した結果の報告書であり、発酵ブロスの有機溶媒による酸性抽出での水相-有機相の分離の経時変化が写真により示されている。酢酸エチルを使用した場合は、酢酸i-ブチル、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピルに比べて、沈降時間が長いことが示されている。
(N)甲第14号証[Vilmos Keri博士らによる報告書(報告書番号:KPRAV-2004/9)]
甲第14号証は、上記甲第11号証の実験を、発酵ブロスの酸性抽出段階でのpHを5.7から5.0に変えて繰り返した結果の報告書であり、pHの変更により収率が高まることが示されている。

5.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、審判請求人が無効理由であるとする上記「4.(1)無効理由の概要」における(イ)、(ロ)の点に対して大略以下のように主張している。

(イ)について
甲第2号証には、例-1として、プラバスタチンを含有する発酵ブロスをpH2.5〜5.0で酢酸イソブチルにより抽出する旨が記載され(同号証訳文第1頁3〜4行)、例-3として、例-1に記載される同じ方法を採用し酢酸イソブチルの代わりに他の溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、酢酸エチル、酢酸tert、n-ブチル、酢酸プロピル、蟻酸エチル、トルエン、ベンゼン、ブチルメチルケトン)を適用することにより、生成物を98〜99.5%の純度及び50〜68%の収率で得る旨が記載されている(同第3頁4〜8行照)。これに対して、甲第1号証には、甲第2号証の上記記載に対応するものとして、実施例1に、発酵ブロスを約pH2.5〜5.0でイソブチルアセテートにより抽出する旨が記載されている((段落【0061】)ものの、甲第1号証には、甲第2号証の例-3における「酢酸イソブチルの代わりに他の溶媒・・・を適用する」旨の記載はなく、甲第1号証の実施例3-6として、酢酸イソブチルの代わりにCH2Cl2、酢酸エチル、エチルフオルメイト及びブチルメチルケトンを使用すると、生成物を96.6〜99.6%の純度及び51〜63%の収率で得る旨が記載されている(段落【0070】〜【0071】)。
更に、甲第1号証には、抽出溶媒について、「C2-C4アルキル・フオルメイトおよびC2-C4カルボン酸のC1からC4のアルキルエステルは、高効率で水溶性醗酵ブロスからプラバスタチンの抽出で可能である・・・好ましいエステルは、エチルフォルメイト、n-プロピルフオルメイト、・・・i-ブチルフオルメイト、t-ブチルフオルメイト、酢酸メチル、酢酸エチル、n-プロピルアセテート、i-プロピルアセテート、n-ブチルアセテート、s-ブチルアセテート、i-ブチルアセテート、t-ブチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、n-プロピルプロピオネート、i-プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、メチルブチレート、・・・およびブチルイソブチレートを含んでいる。これら好ましい有機溶媒のうち、酢酸エチル、i-ブチルアセテートおよびギ酸エチルが有為的に十分に適したものであることを見出した。最も好ましい抽出溶媒は、i-ブチルアセテートである。」(段落【0026】)と記載されているが、甲第2号証には、上記記載に対応するものは全く記載されていない。
そうしてみると、培養濃縮液からプラバスタチンを抽出する有機溶媒として、特定の極めて限定された有機溶媒である、CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)を用いて抽出することは、甲第1号証及び甲第2号証の両方に重複して記載されていない。
(答弁書第6頁目3行〜第7頁目下から2行参照)

(ロ)について
甲第4号証には、プラバスタチンナトリウムを高純度で培養液から単離する方法の第一段階、即ち、培養液からプラバスタチンを抽出する段階において、「C2-C4アルキルのギ酸塩及びC2-C4カルボン酸のC1-C4アルキルエステルは、水性溶媒液からプラバスタチンの効率的な抽出を行うことができる。・・・好ましいエステルはギ酸エチル、ギ酸n-プロピル、ギ酸i-プロピル、ギ酸n-ブチル、・・・ギ酸t-ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸t-ブチル、フロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、・・・プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、・・・イソ酪酸メチル、・・・及びイソ酪酸ブチルを含む。これらの好ましい有機溶媒の中でも、我々は酢酸エチル、酢酸i-ブチル、酢酸プロピルおよびギ酸エチルが特によく適していることを発見した。最も好ましい抽出溶媒は、酢酸i-ブチルである。他の有機溶媒も当該エステルと交換されてもよい。ハロゲン化ハロカーボン、芳香族化合物、ケトン及びエーテル、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、ベンゼン、ブチルメチルケトン、ジエチルエーテルおよびメチルt-ブチルエーテルも使用され得る。」(同号証訳文第4頁1〜18行)と記載され、さらに、例1として、「培養液(100L)を硫酸の添加によって約(PH)2.5〜約5.0に酸性化した。酸性化した培養液を酢酸i-ブチル(3×50L)で抽出した。」(同第12頁2〜3行)ことが記載されている。
また、甲第3号証には、甲第4号証の上記記載に対応するものとして、同一の事項が記載されている(段落【0012】、【0039】)。
しかしながら、甲第3号証には多数の抽出溶媒が列挙されているのに対し,本件発明では極めて限定された有機溶媒、即ち、「CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)」であり、その中には、酢酸エチルように本件発明の課題を達成することが不明な溶媒も多数存在すると思われるので、当業者は甲第3号証の記載及び技術常識に基づいて、本件特許発明の精製方法を使用できることが明らかとはならないので、本件特許発明は特許法第29条の2にいう、「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案」には該当しない。
(答弁書第8頁目25行〜第10頁目12行、同第14頁14〜30行、上申書第5頁17行〜第6頁14行参照)

6.当審の判断
請求人が無効理由において主張する(ロ)の点について検討する。
(1)本件発明1について
(その1)
甲第3号証には、プラバスタチンナトリウムの製造方法について記載されており、その第一段階として、プラバスタチンを含む培養液から、プラバスタチンが溶媒により抽出される。用いられる抽出溶媒について、「C2-C4アルキルのギ酸塩及びC2-C4カルボン酸のC1-C4アルキルエステルは、水性溶媒液からプラバスタチンの効率的な抽出を行うことができる。アルキル基は直鎖、分枝鎖又は環状であってもよい。好ましいエステルはギ酸エチル、・・・酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸t-ブチル、・・・及びイソ酪酸ブチルを含む。これらの好ましい有機溶媒の中でも、我々は酢酸エチル、酢酸i-ブチル、酢酸プロピル及びギ酸エチルが特によく適していることを発見した。最も好ましい抽出溶媒は酢酸i-ブチルである。」(段落【0012】)と記載されている。
例1においては、酸性化された培養液は、酢酸i-ブチルで抽出され(抽出物の収率は95%)、この有機溶媒抽出液は、塩基性水溶液により抽出され、抽出水溶液は酸により酸性化され、酢酸i-ブチルにより逆抽出され、アンモニアガスが導入されることによりアンモニウム塩として沈殿させられ、約94%の純度のプラバスタチンアンモニウム塩が得られている(段落【0039】〜【0040】)。
ここでいう、「効率的な抽出を行うことができる」は、明細書の記載、特に実施例の記載からみて、培養液(水相)から有機溶媒による抽出において目的物の有機相への移行の高い量比、及び、高い純度の目的物の抽出を意味していると考えられる。
したがって、甲第3号証には、培養液からプラバスタチンを抽出するにあたり、「最も好ましい抽出溶媒は酢酸i-ブチル」であり、これが実施例において使用されているが、「酢酸エチル、酢酸i-ブチル、酢酸プロピル及びギ酸エチルが特によく適していることを発見した。」とあるように、少なくともこの4種の溶媒により多少の程度の差はあれ、同等の「効率的な抽出を行うことができる」、すなわち、培養液から高い純度の目的物が抽出できる発明が記載されているといえる。そして、「発見した」との記載からすれば、この4種の溶媒が同等であることが何らかの手段で確認されているというべきである。

ところで、本件発明においては、実施例1、2、比較例1として、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸エチルを使用して培養液を抽出し、その後の処理により、それぞれ純度90%以上、85%以上、約70%のプラバスタチンナトリウムを得ている。すなわち、酢酸エチルと酢酸n-プロピルは、同等の効率的な抽出を行うことができるものでないとされる。
この点について検討するに、培養液の溶媒による抽出、及びその後の処理に関して、本件発明と甲第3号証記載の発明とでは、培養液として組成が同じものが使用されているわけではなく、また、抽出後の処理が異なり、得られたプラバスタチンがナトリウム塩とアンモニウム塩であるなど、多くの相違点があるが、培養液からの抽出という本質的な部分では両発明において差異がないこと、そして、本件発明1の追試である甲第11号証によれば、酢酸エチルと酢酸n-プロピルとでは、ほぼ同じ純度(83.4面積%、85.6面積%)が達成されており、同じくWO02/30415(甲第6号証;実質的に甲第3号証と同じ内容が記載されている。)の追試である甲第12号証によれば、酢酸エチルと酢酸n-プロピルとで、やはりほぼ同じ純度(80.1面積%、81.6面積%)が達成されていることから、酢酸エチルと酢酸n-プロピルとは同等の「効率的な抽出を行うことができる」ものであるとするのが妥当といえる。
つまり、本件発明において、酢酸エチルと酢酸n-プロピルとで目的物の純度が異なっているが、甲第3号証における酢酸エチルと酢酸プロピル(酢酸n-プロピル)が「特によく適していることを発見した。」との記載、及び甲第11号証、甲第12号証の追試の結果としてほぼ同じ純度のものが得られていることからすれば、溶媒の効率的な抽出以外の何らかの要因(例えば、甲第11号証で指摘されている酢酸エチルの相分離の悪さによることも全く否定し得るものではない。)によると考えざるを得ない。

そうしてみると、甲第3号証には、酢酸i-ブチルと酢酸n-プロピルが同等の「効率的な抽出を行うことができる」有機溶媒であることが記載されており、さらには、該有機溶媒を使用する培養液からプラバスタチンのナトリウム塩を単離・精製する方法の発明が記載されているのであるから、本件発明1は、有機溶媒としてCH3CO2RにおいてRが炭素数3であるn-プロピル基を使用する点において、甲第3号証に記載された発明と同一である。また、甲第4号証にも同じ発明が記載されているので、本件発明1は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

なお、被請求人は、プラバスタチンの純度について、甲11号証及び甲12号証において、プラバスタチンの純度を計算するためにクロマトグラムのピーク面積を用いているが、溶出時間の早いピークを無視しているので、プラバスタチン純度が正確に示されているとはいえない旨を主張している(上申書第6頁15〜22行参照)。確かに、そのようなピークを無視するとプラバスタチン純度の絶対的な値は計算し得ないが、各溶媒間の相対的な純度の比較は可能であり、それによりそれぞれの純度はほぼ同等ということができる。

(その2)
甲第3号証には、水性培養液からプラバスタチンを効率的に抽出を行うことができる好ましいエステルとして、多くの溶媒となる化合物が記載され、それに続いて、「これらの好ましい有機溶媒の中でも、我々は酢酸エチル、酢酸i-ブチル、酢酸プロピル及びギ酸エチルが特によく適していることを発見した。最も好ましい抽出溶媒は酢酸i-ブチルである。」と記載されている。このことことからすれば、酢酸i-ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルを代表的な溶媒として、これらと同等、もしくは同等程度の効率でプラバスタチンを抽出する発明が甲第3号証に記載されているとすることができる。
そして、好ましいエステルの中には、酢酸n-ブチルが含まれており、実質的に甲第3号証の追試である甲第12号証によれば、酢酸n-ブチルは酢酸i-ブチルとほぼ同等の純度(82.5面積%、81.0面積%)を達成するものであるから、甲第3号証には、酢酸i-ブチルと同等の「効率的な抽出を行うことができる」有機溶媒による培養液からのプラバスタチンを抽出する発明が記載されており、少なくとも酢酸n-ブチルについてはその確認がなされているのである。
さらに、同様に好ましい有機溶媒に挙げられている酢酸i-プロピル、酢酸s-ブチル、酢酸t-ブチルについても、酢酸i-ブチル、酢酸n-ブチルと同等の作用効果を有するものであることを否定する格別の根拠もないことから、これらの有機溶媒も含めて「効率的な抽出を行うことができる」発明が記載されているとすることができるというべきである。
そうしてみると、甲第3号証には、有機溶媒としてRが炭素数3又は4のアルキル基であるCH3CO2Rを使用するプラバスタチンの塩を単離・精製する方法の発明が記載されているのであるから、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明と同一であり、また、甲第4号証にも同じ発明が記載されているので、本件発明1は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

(2)本件発明2について
甲第3号証には、前記(c)工程に関して、培養液の有機溶媒抽出液を塩基性水溶液で抽出し、これを「水溶液は、好ましくは酸、好ましくはトリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸、酢酸、又はリン酸、・・・を用いて、約1.0〜約6.5、更に好ましくは約2.0〜約3.7のpHに酸性化」(段落【0014】)することが記載されている。そして、これに対応する例1の工程においては、「5M硫酸の添加によって約2.0〜約4.0のpHに再酸性化」(段落【0039】)が行われている。
また、前記(g)工程に関して、「プラバスタチンは、好ましくは水性溶媒中で溶解し、任意なプロトン性の酸、しかし、好ましくは硫酸を用いて、約2〜約4、更に好ましくは約3.1のpHに酸性化し」(段落【0023】)と記載され、例1において、「プラバスタチンアンモニウム塩の結晶を水(1800ml)に溶解した。・・・この溶液を硫酸の添加によって約pH2〜約pH4の間のpHに酸性化」(段落【0043】)している。
これらについては、甲第4号証にも同様の記載がある。
甲第3号証では上記工程について、「不純物を無機酸を用いて分解する工程」とは記載されていないが、本件発明2における当該工程が、「pH2乃至5を付与する条件(好適にはpH3乃至4)で行われる。」(本件特許明細書段落【0067】)とあることから、甲第3号証における上記工程も、実質的に「不純物を無機酸を用いて分解する工程」に該当するものである。
そうしてみると、本件発明1の抽出工程と不純物を無機酸を用いて分解する工程を併せ行う本件発明2は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

(3)本件発明3について
甲第3号証には、前記(f)工程のプラバスタチンアンモニウム塩を精製する工程において、「プラバスタチンアンモニウム塩(155.5gの活性物質)を水(900ml)に溶解した。イソブタノール(2ml)を加え、そしてpHを濃水酸化ナトリウム溶液の添加によって約pH10〜約pH13.7に上げ、そしてこの溶液を周囲温度で30分間撹拌」(段落【0042】)することが記載されている。また、甲第4号証にも同様の記載がある。
甲第3号証では上記工程について、「不純物を無機塩基を用いて分解する工程」とはされていないが、本件発明3における当該工程が、「pH10〜14を付与する条件(好適にはpH11〜13)で行われる」(本件特許明細書段落【0072】)とあることから、甲第3号証における上記工程も、実質的に「不純物を無機塩基を用いて分解する工程」に該当するものである。
よって、本件発明1の抽出工程と不純物を無機塩基を用いて分解する工程を併せ行う本件発明3は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

(4)本件発明4について
甲第3号証には、上記「(2)本件発明2について」、「(3)本件発明3について」に記載のとおり、培養液の有機溶媒による抽出工程に続く工程として、実質的に「不純物を無機酸を用いて分解する工程」及び「不純物を無機塩基を用いて分解する工程」を行うことが記載されており、抽出工程並びに不純物を無機酸を用いて分解する工程及び不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行う本件発明4は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

(5)本件発明5、6について
プラバスタチン塩を含む水溶液を酸性化するにあたり、無機酸として「リン酸」を用いること、及び、「約1.0〜約6.5、更に好ましくは約2.0〜約3.7のpH」とすることが甲第3号証に記載されている(段落【0014】)。
したがって、「不純物を無機酸を用いて分解する工程」において、リン酸を使用する本件発明5、また、pHを2乃至5とする本件発明6は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

(6)本件発明7について
上記「(1)本件発明1について」の「(その2)」において記載したように、甲第3号証には、有機溶媒としてRが炭素数4のn-ブチル基であるCH3CO2Rを使用する発明が記載されており、本件発明7は、甲第3号証と甲第4号証の双方に記載された発明と同一である。

(7)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜7は、本件特許出願前に出願された米国仮出願(60/238278;甲第4号証)に基づく優先権を主張して出願された国際出願[PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415;甲第6号証)]に基づく特許出願[特願2002-533858号(特表2004-510817号公報;甲第3号証)]であって本件特許出願後に出願公開されたものの出願当初の明細書及び上記米国仮出願の明細書の両方に記載された発明と同一であり、そして、本件特許出願の発明者がその出願前の出願に係る発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲請求項1ないし7に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プラバスタチンを精製する方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用することを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項2】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機酸を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項3】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項4】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。但しイソブチル基を除く。)
を有する溶媒を使用し、並びに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項5】
無機酸が、リン酸である、請求項2又は請求項4記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項6】
無機酸を用いて分解する工程のpHが、2乃至5である、請求項2、請求項4又は請求項5に記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【請求項7】
Rがn-ブチル基である、請求項1乃至6より選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を単離・精製する工程に関する。
【0002】
また、本発明は、不純物を無機酸を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法に関する。
【0003】
更に、本発明は、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法に関する。
【0004】
また、本発明は、上記3工程から選択される2以上の工程を含有することを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法に関する。
【0005】
更に、本発明は、式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
を有する化合物を、工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量まで除去することに関連する発明に関する。
【0008】
【従来の技術】
プラバスタチンは、特開昭57-2240号公報(USP4346227)にHMG-CoAリダクターゼ阻害剤として開示されている化合物であり、下記式(II)
【0009】
【化2】

【0010】
を有し、現在、プラバスタチンナトリウムが高脂血症治療剤として発売されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
HMG-CoAリダクターゼ阻害剤として、プラバスタチンの他に多くの化合物が知られているが、例えば、アトロバスタチン、フルバスタチン、イタバスタチン等は、全て合成により製造される化合物である。
【0012】
一方、ロバスタチン及びシンバスタチンは、プラバスタチンと同様に発酵により製造されるものの、一段階の発酵により生成され、この点、プラバスタチンの二段階発酵と相違する。すなわち、プラバスタチンナトリウムは、下記式に示すとおり、二段階にわたって菌により変換培養することにより生成されるものである。
【0013】
【化3】

【0014】
そもそも、菌を発酵させた場合、化学反応で合成を行うよりも、予想し得ない多くの不純物が生成してしまうものである。各工程毎に精製を行ったとしても不純物を除去しきれるものではなく、特に工業的生産を目的とした大量培養における、各工程の生成物についてはなおさらである。
【0015】
一方、「安全で有効な医薬を製造するための重要な因子の一つが、高純度の生成物を得ることである。化学物質は、原料物質から化学合成、生物により生産された当該物質を単離・精製する又は遺伝子組換え細胞等を利用した生産で生成された当該物質を単離・精製する等の製法により取得される。一般的に、遺伝子組換法を含めいかなる製法を採用しようが、原料の純度、反応の不完全性、単離・精製過程での分解等により、製造される化学物質は100%の純度のものを得ることは困難なことが多い。また、医薬の分野において、診断薬、治療薬は、不純物を含むと診断や治療に好ましくない影響を及ぼす可能性を否定することができないのは、本願発明の属する技術分野における技術常識に属することは明らかであり、できる限り高純度の生成物を得る事が重要とされている。」(東京高裁平成9年(行ケ)第302号事件(12年2月17日判決))のである。
【0016】
そして、HMG-CoAリダクターゼ阻害剤は、血中コレステロールを有効に低下させるために、投与期間が長期にわたるような薬剤であるため、特に高純度であることが必要とされる。
【0017】
従って、上記のとおり、二段階発酵により生成されるプラバスタチン類は、一段階発酵により生成されるシンバスタチン及びロバスタチンに比べて、不純物もより多く含有するため、精製工程が特に重要であり、不純物を除去し高純度のプラバスタチンを単離・精製する方法を見出すための研究が続けられていた。
【0018】
本発明者等は、特に、プラバスタチンを二段階発酵して生成する際に、下記一般式(I)
【0019】
【化4】

【0020】
を有する化合物が必ず生成され、しかも上記化合物(I)の生産量が、プラバスタチンに変換培養する際に生成される不純物の中で最も多いことを見出した。しかしながら、このように、高純度のプラバスタチンを得るためには、医薬を製造するにあたり不純物とされる化合物の中でも、上記化合物(I)を確実に除去することが重要な課題であることがわかったものの、上記化合物(I)は、プラバスタチンの一つの不斉炭素上の水酸基にかかる光学異性体であるため、他の不純物に比べて除去することが非常に困難であった。
【0021】
従って、クロマトグラフィーのような煩雑なものではなく、工程生産性を損なわず、しかもクロマトグラフィーで精製される程度の高純度で、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を単離・精製する方法、更に上記化合物(I)を除去し高純度のプラバスタチンを得ることができるような、簡便な単離・精製方法が望まれていた。
【0022】
一方、HMG-CoAリダクターゼ阻害剤の精製方法としては、以下のものが知られている。
(1)WO92/16276号公報(特表平6-506210号公報)
本公報は、「高性能液体クロマトグラフィーを使用することを特徴とするHMG-CoAリダクターゼ阻害剤の精製方法、及び、該精製方法により得られたHMG-CoAリダクターゼ阻害剤」に関する。
【0023】
本公報の精製方法は、HMG-CoAリダクターゼ阻害剤の精製工程において、高性能液体クロマトグラフィーを用いることを特徴とする。一方、本発明の単離・精製方法は、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチルのような式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用することにより、プラバスタチンの不純物を除去するか、及び/又は、無機酸及び/又は無機塩基を用いて分解することにより不純物を除去し、高性能液体クロマトグラフィーを用いずに、高純度のプラバスタチンを得られることを特徴としている点で、本公報の精製方法とは相違する。
【0024】
また、本発明の「上記化合物(I)をプラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下まで除去することを特徴とする」単離・精製方法については記載も示唆もされていない。
【0025】
ところで、高性能液体クロマトグラフィーは、大量の溶媒を要し、それらに少量の不揮発性不純物が含まれ得るが故に、大規模生産の場合にはより深刻になる。溶媒の除去に際し、これらの不純物は試料に混入する。加えて、このように多量の溶媒を用いることにより、深刻な環境汚染や多額の蒸溜費用を招くことになる。
【0026】
従って、高性能液体クロマトグラフィーは、煩雑であり、工業的なプラバスタチンの単離・精製に用いられる操作であるとは考えられない。
【0027】
そして、プラバスタチンの工業生産にあたって、高性能液体クロマトグラフィーを用いたとしても、プラバスタチンの光学異性体である上記化合物(I)を除去し所望の純度のプラバスタチンを得ることは困難である。
(2)WO99/42601号公報
本公報は、「HMG-CoAリダクターゼ阻害剤の濃縮培養液を、酸でpH4.5乃至7.5に調節した後、酢酸エチルでHMG-CoAリダクターゼ阻害剤を抽出し、所望によりラクトン化させた後結晶化することにより、99.6%以上の純度を有するHMG-CoAリダクターゼ阻害剤を得る単離・精製方法」に関する。
【0028】
本公報の精製方法は、菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、酢酸エチルを使用していることに対して、本発明の精製方法は、酢酸n-プルピル、酢酸n-ブチルのような式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用している点で、本発明の単離・精製方法とは相違する。
【0029】
更に、本発明の単離・精製方法は、プラバスタチンの不純物を、無機酸及び/又は無機塩基を用いて分解する工程を行うことにより高純度のプラバスタチンを得ることも特徴としているが、本公報では、無機酸及び/又は無機塩基を用いてHMG-CoAリダクターゼ阻害剤の不純物を分解する工程については、記載も示唆もされていない。
【0030】
また、本発明の「上記化合物(I)をプラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下まで除去することを特徴とする」単離・精製方法については、記載も示唆もされていない。
【0031】
確かに、本公報の実施例3では、プラバスタチンの単離・精製方法が記載されているが、本実施例では、酢酸エチルで抽出されたプラバスタチンの純度が70.3%足らずに留まっており、その後本発明の単離・精製方法とは相違するクロマトグラフィーを用いて精製する記載はあるものの、最終的に得られたプラバスタチンの純度については全く記載されていない。従って、最終的に高純度のプラバスタチンが得られているのか否かはそもそも不明であるし、加えて上記化合物(I)がプラバスタチンに対して、0.1重量%以下まで精製されているかどうかについても記載も示唆もされていない。
【0032】
また、本公報の実施例において、99.6%以上の高純度で得られるとされているロバスタチンでさえ、最終生成物のHPLCのチャート(Fig.4)を見る限り、純度が99.6%以上のロバスタチンが得られているとは考えにくく、信憑性がない。
(3)WO00/17182号公報
本公報は、「置換クロマトグラフィーを使用することを特徴とするHMG-CoAリダクターゼ阻害剤の精製方法、及び、該精製方法により得られたHMG-CoAリダクターゼ阻害剤」に関する。
【0033】
本公報の精製方法は、HMG-CoAリダクターゼ阻害剤の精製工程において、置換クロマトグラフィーを用いることを特徴とする。一方、本発明の単離・精製方法は、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチルのような式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用して、プラバスタチンの不純物を除去するか、及び/又は、無機酸及び/又は無機塩基を用いて分解することにより不純物を除去し、置換クロマトグラフィーを含む一切のクロマトグラフィーを用いずに、高純度のプラバスタチンが得られることを特徴としている点で、本公報の精製方法とは相違する。
【0034】
また、本発明の「上記化合物(I)をプラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下まで除去することを特徴とする」単離・精製方法については、記載も示唆もされていない。
【0035】
そして、プラバスタチンの工業的生産にあたって、置換クロマトグラフィーを用いたとしても、煩雑であり、また、プラバスタチンの光学異性体である上記化合物(I)を除去することは困難である。
【0036】
なお、上記精製方法の他に、通常、当業者が採用する単離・精製方法としては、例えば、分析用高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を挙げることができるが、分析用HPLCは、プラバスタチンの単離・精製方法としては実用的手段ではない。分析用HPLCは、非常に細い直経の充填カラム(直径4.6mm×長さ25cm)を用い、一回の分析毎に高圧にあるカラムに約10μg(1×10-2mg)の試料を添加するものであり、一回の分析は、約30分を要する。試料はいずれはカラムから流出するものの、極端に稀釈された溶液状であり、分析系では成分検出は可能であるが、収集は実用的でない。更に、分析用HPLCには収集系は付属しておらず、それを設置するにしても、固体試料を得たい場合には溶媒除去を要する。プラバスタチンの単離・精製に分析用HPLCを使うとすると、僅か1個の5mg錠を作るに必要なプラバスタチンを単離・精製するのに、500回の分析と250時間を要することとなり、分析用HPLCはプラバスタチンの単離・精製の目的には非現実的な操作であるかが明らかである。
【0037】
また、分取用HPLCも、前述の理由により、商業規模のプラバスタチンの単離・精製に適した手法とはいえない。
【0038】
シリカゲルクロマトグラフィーは、シリカゲル粒子の大きさに基づき、カラムクロマトグラフィーとフラッシュクロマトグラフィーに大別できるが、商業規模の単離・精製に使うに適した手法であるとは期待されなかった。
【0039】
実際に、各種クロマトグラフィーを用いて、上記化合物(I)及びその他の不純物の分離を試みたが、上記化合物(I)はプラバスタチンの立体異性体であるため、該化合物をプラバスタチンから分離できなかった。
【0040】
再結晶は、医薬品分野で広く用いられている単離・精製操作である。しかしながら、再結晶を使用しても、構造的にプラバスタチンと類似する上記化合物(I)をプラバスタチンから選択的に分離し、組成物中のプラバスタチンの純度を所望の水準まで改善するには効果的でなかった。
【0041】
ガスクロマトグラフィーや蒸溜といった、他の単離・精製法も考慮したが、いずれも試料分子の大きさの差異に準拠した分離に基づいており、両者とも試料の加熱を要する。しかしながら、プラバスタチンはその融点では分解する傾向があるため、これらを単離・精製法とすることができない。
【0042】
また、上記化合物(I)を除去するため前記単離・精製方法のいずれかを繰り返し行ったとしても逆にプラバスタチンの収率をも減少させてしまう。
【0043】
更に、上述されているような、従来知られているいかなる単離・精製方法を組み合わせても、上記化合物(I)を0.1%以下の量まで除去し、プラバスタチンの工業的生産に適用することはできなかった。
【0044】
従って、工程生産性を損なうこともなく、高純度のプラバスタチン、特に、プラバスタチンの類縁物質である上記一般式(I)を有する化合物を除去することにより高純度であるプラバスタチンを得る事ができる単離・精製方法は、今まで全く知られていない。
【0045】
本発明者らは、プラバスタチンを含有する医薬組成物について鋭意研究を行った結果、高純度のプラバスタチンを得る単離・精製方法、更にプラバスタチンの類縁物質である上記化合物(I)を含めた不純物を該医薬組成物から除去する単離・精製方法、特に上記化合物(I)をプラバスタチンを含有する医薬組成物全量に対して0.1%以下の量まで除去する単離・精製方法を見出し、本発明を完成した。
【0046】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用することを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(2)プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を単離・精製する工程において、不純物を無機酸を用いて、分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(3)プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を単離・精製する工程において、不純物を無機塩基を用いて、分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法
に関する。
【0047】
好適には、
(4)Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、(1)記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(5)無機酸が、リン酸である、(2)記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(6)無機酸を用いて分解する工程のpHが、2乃至5である、(2)又は(5)に記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法
を挙げることができる。
【0048】
更に本発明は、
(7)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機酸を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(8)プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を単離・精製する工程において、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(9)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、並びに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法
に関し、好適には、
(10)Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、(7)又は(9)記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(11)無機酸が、リン酸である、(7)乃至(10)から選択されるいずれか一項に記載にのプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(12)無機酸を用いて分解する工程のpHが、2乃至5である、(7)乃至(11)から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法
を挙げることができる。
また、本発明は、
(13)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法に関し、好適には、
(14)Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、(13)記載のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法
を挙げることができる。
【0049】
また、本発明は、
(15)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機酸を用いて分解する工程を行うことにより、一般式(I)
【0050】
【化5】

【0051】
を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量まで除去することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムの単離・精製方法、
(16)プラバスタチンナトリウムを単離・精製する工程においてに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことにより、
一般式(I)
【0052】
【化6】

【0053】
を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量まで除去することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムの単離・精製方法、
(17)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、並びに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことにより、
一般式(I)
【0054】
【化7】

【0055】
を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量まで除去することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムの単離・精製方法に関し、好適には、
(18)Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、(15)又は(17)記載のプラバスタチンナトリウムの単離・精製方法、
(19)無機酸が、リン酸である、(15)乃至(18)から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムの単離・精製方法、
(20)無機酸を用いて分解する工程のpHが、2乃至5である、(15)乃至(19)から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムの単離・精製方法
を挙げることができる。
【0056】
更に本発明は、
(21)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことにより、
一般式(I)
【0057】
【化8】

【0058】
を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量まで除去することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムの単離・精製方法に関し、好適には、
(22)一般式(I)
【0059】
【化9】

【0060】
を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする、工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物、
(23)Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、(21)記載のプラバスタチンナトリウムの単離・精製方法
を挙げることができる。
【0061】
また、本発明は、
(24)(1)乃至(23)のいずれか一項に記載の単離・精製方法により得られ、一般式(I)
【0062】
【化10】

【0063】
を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して、0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムを含有する組成物に関する。
【0064】
本発明において、「プラバスタチン類」とは、下記式(II)
【0065】
【化11】

【0066】
を有するプラバスタチン又はその薬理上許容される塩、及び、上記式(II)と類似の構造を有する化合物、即ちプラバスタチンの類縁物質(例えば、上記化合物(I)を挙げることができる。)をいう。
【0067】
プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製は、通常、以下に記載する単離・精製方法によって達成される。
【0068】
まず、変換培養を終えたプラバスタチンを含む培養液を、常法に従って、ろ過及び/又は遠心法により、菌体を分離し、その後濃縮して培養濃縮液を得る。
【0069】
得られた培養濃縮液は、所望により、酸を用いてpHを調節した後、酢酸エチルのような水と混和しにくい有機溶媒を用いてプラバスタチン類を抽出する。例えば、WO99/42601号公報では、HMG-CoAリダクターゼ阻害剤を含む培養濃縮液を、酸を用いてpHを4.5〜7.5(好適には5.5〜7.5)に調節した後、酢酸エチルを用いて抽出している。
【0070】
そのようにして得られたプラバスタチン類は常法に従って、上記抽出液から採取される。例えば、上記抽出液を、水、飽和食塩水等で洗浄後、水酸化ナトリウムを加え、抽出分液し、逆抽出水層としてプラバスタチン塩の水溶液を得る事ができる。得られたプラバスタチン塩は、所望により結晶化することもできる。
【0071】
所望により行なわれる結晶化は、一般に有機合成化学の技術において周知の方法、例えば、Ullmann’s,Encyclopedia of Industrial Chemistry″Vol.A24,5th edition(1993),pp.437-505に記載の方法により以下のように行うことができる。
【0072】
結晶化の方法としては、例えば、得られたプラバスタチン又はその薬理上許容される塩の組成物に、有機溶媒及び水を加え、加温溶解し、接種することにより、結晶体としてプラバスタチンを得る事ができる。
【0073】
結晶化に使用される有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチルのようなエステル類;酢酸のような有機酸類;メタノ-ル、エタノ-ル、n-プロパノ-ル、イソプロパノ-ル、n-ブタノ-ル、イソブタノ-ル、t-ブタノ-ル、イソアミルアルコ-ル、ジエチレングリコール、グリセリン、オクタノールのようなアルコ-ル類;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなエ-テル類;ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類;ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類;水と1種類以上の上記有機溶媒との混合溶媒;であり、好適には、水と1種類以上の上記有機溶媒との混合溶媒であり、更に好適には、水と、アルコ-ル類、エステル類及びケトン類から選択される1種類以上の有機溶媒との混合溶媒であり、最も好適には、水、アルコール類及びエステル類の混合溶媒である。
【0074】
本発明の単離・精製方法は、上述のように常法に従って、培養濃縮液を得た後、酢酸エチルではなく、式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)を有する有機溶媒を用いて抽出することを特徴とする。
【0075】
上記式中、Rの定義における「炭素数3以上のアルキル基」は、例えば、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、2-メチルブチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、4-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-メチルペンチル、1-メチルペンチル、3,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル基のような基であり、好適には、炭素数3乃至6個の直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、好適にはC3-C4アルキル基であり、最も好適には、n-プロピル又はn-ブチル基である。
【0076】
また、本発明の単離・精製方法は、上述のようなプラバスタチンの単離・精製方法において、プラバスタチンの不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び/又は、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする。
【0077】
プラバスタチンの不純物を無機酸を用いて分解する工程及び不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行う場合は、順不同で希望する工程を、単離・精製方法において適宜実施することができる。そのような単離・精製方法の具体例としては、例えば、
(a)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機酸を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(b)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、かつ、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(c)プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を単離・精製する工程において、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を順不同で行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法、
(d)菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3以上のアルキル基を示す。)
を有する溶媒を使用し、並びに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、及び、不純物を無機塩基を用いて分解する工程を行うことを特徴とする、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の単離・精製方法
を挙げることができる。
【0078】
プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の不純物を無機酸により分解する工程は、不活性溶媒の存在下又は非存在下(好適には、存在下)、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を、pH2乃至5を付与する条件(好適にはpH3乃至4)で行われる。
【0079】
不純物の無機酸分解で使用される「無機酸」とは、通常、酸として用いられる無機物質であれば特に限定はないが、例えば、臭化水素酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、リン酸、硝酸のような無機酸を挙げることができ、好適には、リン酸又は硫酸である。
【0080】
反応温度及び反応時間は、pH値にも依存するが、基本的には、反応温度が低ければ反応時間は長くする必要があり、反応温度が高ければ反応時間は短くする必要があるが、例えば、20℃〜80℃(好適には、40℃〜60℃)にて、1分間乃至6時間(好適には、5分間乃至20分間)、処理することにより行なわれる。
【0081】
不純物の無機酸分解で使用される「不活性溶媒」は、通常、溶媒として使用されるものであれば特に限定はないが、例えば、メタノ-ル、エタノ-ル、n-プロパノ-ル、イソプロパノ-ル、n-ブタノ-ル、イソブタノ-ル、t-ブタノ-ル、イソアミルアルコ-ル、ジエチレングリコール、グリセリン、オクタノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブのようなアルコ-ル類;水;水と上記有機溶媒との混合溶媒;であり、好適には、水又は水と上記有機溶媒との混合溶媒であり、最も好適には、水又は水とエタノ-ルとの混合溶媒である。
【0082】
反応終了後、目的化合物であるプラバスタチンは常法に従って、反応液から採取される。例えば、酢酸エチルのような水と混和しない有機溶媒を加え、目的化合物を含む有機層を分離し、水等で洗浄して、溶剤を留去することによって得られる。更に必要ならば、活性炭を加えて脱色し、ろ過して活性炭を除去した後、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドのような塩を形成する試薬を加え、ロータリエバポレーター等により減圧下濃縮して、プラバスタチンの塩を得ることができる。
【0083】
プラバスタチン又はその薬理上許容される塩の不純物を無機塩基で分解する工程は、不活性溶媒の存在下又は非存在下(好適には、存在下)に、プラバスタチン又はその薬理上許容される塩を、pH10〜14を付与する条件(好適には、pH11〜13)で行われる。
【0084】
不純物の無機塩基分解で使用される「無機塩基」とは、通常の反応において塩基として使用される無機物質であれば特に限定はないが、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩類;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムのようなアルカリ金属重炭酸塩類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムのようなアルカリ金属水素化物類;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物類;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドのようなアルカリ金属アルコキシド類を挙げることができ、好適には、アルカリ金属水酸化物類であり、最も好適には、水酸化ナトリウムである。
【0085】
反応温度及び反応時間は、pH値にも依存するが、基本的には、反応温度が低ければ反応時間は長くする必要があり、反応温度が高ければ反応時間は短くする必要があるが、例えば、-10℃〜110℃(好適には、0℃〜100℃)にて、15分乃至60時間(好適には、30分間乃至72時間)、処理することにより行なわれ、より好適には、0℃付近で、30時間前後である。
【0086】
不純物の無機塩基分解で使用される「不活性溶媒」は、本反応に不活性なものであれば特に限定はないが、不純物の無機酸分解で使用される不活性溶媒と同様のものを挙げることができる。
【0087】
反応終了後、目的化合物であるプラバスタチンは常法に従って、上記反応液から採取される。例えば、硫酸水溶液のような酸を加え、酢酸エチルのような水と混和しない有機溶媒を加え、目的化合物を含む有機層を分離し、水等で洗浄して、溶剤を留去することによって得られる。更に必要ならば、活性炭を加えて脱色し、ろ過して活性炭を除去した後、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウムのような塩を形成する試薬を加え、ロータリエバポレーター等により減圧下濃縮して、プラバスタチンの塩を得ることができる。
【0088】
更に、本発明の単離・精製方法は、得られたプラバスタチン塩を結晶化する工程を含んでいてもよく、結晶化する方法は、上述のように常法に従って行うことができる。
【0089】
なお、本発明の精製度の分析は、、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を介して行うことができる。HPLCの測定条件は、
A:移動相:20%アセトニトリル、30%メタノール、50%TEAP緩衝液(0.3%Triethylamine-H3PO4(pH3.2));
検出波長:UV238nm;
カラム:Waters社製逆相カラムSymmetry C18 3.5μm,φ4.6mm×15cm;
流量:1ml/min
B:移動相:メタノール:水:酢酸(100):トリエチルアミン混液(600:400:1:1);
検出波長:UV238nm;
カラム:エルマ光学製カラムERC-ODS-1262 φ6mm×10cm;
カラム温度:30℃;
流量:1ml/min
C:移動相:メタノール:水:酢酸(100):トリエチルアミン混液(450:550:1:1);
検出波長:UV238nm;
カラム:BECKMAN社製カラムULTRASPHERE ODS φ4.6mm×15cm 5μm;
カラム温度:25℃;
流量:1.3ml/min
である。
【0090】
以下に、実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0091】
【実施例】
実施例1 培養濃縮液より酢酸n-ブチルを用いた抽出
(1a)培養液の濃縮
変換培養を終えたプラバスタチン培養液10Lを水酸化ナトリウムでpH12としたのち、50℃に加温し30分間撹拌した。培養液を室温に冷却後、ろ過助剤として500gのセライト545(商標)(セライト コーポレーション社製)を加えてろ過した。分離した菌体に水を3L加え、再度懸濁させた後ろ過した。得られた2つの濃縮液を合併し10Lの培養濃縮液を得た。
(1b)酢酸n-ブチルを用いた抽出
得られた培養濃縮液を25%硫酸でpH5.7とした後、5Lの酢酸n-ブチルを加え撹拌してプラバスタチンを抽出した。分離した水層を75%硫酸でpH5.7とした後、5Lの酢酸n-ブチルを加えて撹拌し抽出した。得られた2つの酢酸n-ブチル層を合併し、これに2Lの飽和食塩水を加えて撹拌して洗浄した。上層を分離して得た8Lの抽出液に1Lの水を加え、撹拌しながら25%水酸化ナトリウムを加えてpH9.5とした後、水層を分離してプラバスタチンのナトリウム塩水溶液1Lを得た。HPLC(条件A)によるプラバスタチンナトリウムの純度は、90%以上であった。本実施例の結果より、酢酸n-ブチルを用いることにより、高純度のプラバスタチンナトリウムが得られていることが明らかである。
【0092】
実施例2 培養濃縮液より酢酸n-プロピルを用いた抽出
酢酸n-ブチルのかわりに酢酸n-プロピルを用いて、実施例1と同様に処理をし、プラバスタチンのナトリウム塩水溶液を得た。HPLC(条件A)によるプラバスタチンナトリウムの純度は、85%以上であった。本実施例の結果より、酢酸n-プロピルを用いることにより、高純度のプラバスタチンナトリウムが得られていることが明らかである。
【0093】
実施例3 リン酸による不純物の分解
実施例1で得られた水溶液[HPLC(条件A)による化合物(I)/プラバスタチンナトリウムは9.3%]に350mlのエタノールを加え、リン酸でpH3.0に調整した後50℃で10分間撹拌した。HPLC(条件A)による化合物(I)/プラバスタチンナトリウムは0.9%であった。本実施例の結果より、リン酸を用いることにより、化合物(I)が顕著に除去されていることが明らかである。
【0094】
実施例4 硫酸による不純物の分解
リン酸のかわりに硫酸を用いて、実施例3と同様に処理をした。HPLC(条件A)による化合物(I)/プラバスタチンナトリウムは3%であった。本実施例の結果より、硫酸を用いることにより、化合物(I)が顕著に除去されていることが明らかである。
【0095】
実施例5 水酸化ナトリウムによる不純物の分解、抽出及び結晶化
(5a)水酸化ナトリウムによる不純物の分解
プラバスタチンの培養濃縮液500ml[HPLC(条件B)による化合物(I)/プラバスタチンナトリウムは12.1%]を100℃まで加熱した後、2当量分の水酸化ナトリウムを水溶液として添加した(pH11.3)。100℃で3時間攪拌後冷却し、室温にて20%硫酸水溶液でpH8.5に調整し、水酸化ナトリウムによるアルカリ処理液を得た(プラバスタチンナトリウムの含有量:56.6g)。HPLC(条件B)による化合物(I)/プラバスタチンナトリウムは0.41%であった。本実施例の結果より、水酸化ナトリウムを用いることにより、化合物(I)が顕著に除去されていることが明らかである。
(5b)水酸化ナトリウムによる不純物の分解後の抽出及び結晶化
(5a)で得られた水酸化ナトリウムによるアルカリ処理液260g(プラバスタチンナトリウムの含有量:19g)に酢酸n-ブチルを用いて、実施例(1b)と同様にして水層を分離してプラバスタチンのナトリウム塩水溶液を得た。
【0096】
得られたプラバスタチンのナトリウム塩水溶液を約1/2量まで減圧濃縮した後、水77mlを加え再び減圧濃縮した。濃縮液をプラバスタチンのフリー体に対して6倍量となるように水で液量を調整して0〜5℃まで冷却し、20%硫酸水溶液を滴下しpH4.6でプラバスタチンのフリー体結晶を析出し、1晩攪拌した後にろ過した。結晶を冷希硫酸(pH4)で洗浄し、プラバスタチンのフリー体湿品結晶を得た。
【0097】
プラバスタチンのフリー体湿品に酢酸エチル63mlを加え室温で溶解した後、室温で攪拌しながら20%硫酸水溶液でpH4.5に調整し、攪拌抽出分液後酢酸エチル層に水21mlを加え抽出洗浄後分液した。抽出洗浄した酢酸エチル層にエタノール25mlを加えた後、室温で攪拌しながら6%水酸化ナトリウム・エタノール溶液でpH8.7に調整しナトリウム塩化液を得た。この後、常法に従って結晶化し、プラバスタチンナトリウム塩の結晶8.95gを得た。この方法で得られたプラバスタチンナトリウム塩のHPLC(条件C)による純度は99.67%であり、化合物(I)/プラバスタチンナトリウム=0.1%であった。
【0098】
本実施例の結果より、水酸化ナトリムによる不純物の分解工程及び酢酸n-ブチルを用いた抽出工程によって、化合物(I)が顕著に除去されていることが明らかである。
【0099】
実施例6 酢酸n-ブチルによる抽出、リン酸による不純物の分解、及び結晶化
実施例3で得られた酸処理液に、25%水酸化ナトリウムを加えてpH12としさらに50℃で30分撹拌を続けた。溶液を減圧下ロータリーエバポレーターで1Lまで濃縮し、プラバスタチンナトリウム塩を含有する濃縮液を得た。得られた濃縮液を硫酸でpH4.0に調整した後、プラバスタチンを0.5Lの酢酸エチルで抽出し、抽出液を水0.2Lで洗浄した。抽出液に5gの活性炭を加え10分間放置した後、ろ紙でろ過し、ろ液を25%水酸化ナトリウムでpH8.7に調整したのち、減圧下ロータリーエバポレーターで乾固して50gのプラバスタチンナトリウム塩を得た。常法に従って結晶化し、34gのプラバスタチンナトリウム塩の粗結晶を得た。粗結晶を同じ組成の溶媒を用いて再結晶してプラバスタチンナトリウム塩の純粋な結晶32gを得た。
【0100】
この方法で得られたプラバスタチンナトリウム塩のHPLC(条件A)による純度は99.7%以上であり、化合物(I)/プラバスタチンナトリウム=0.1%であった。
【0101】
本実施例より、酢酸n-ブチルによる抽出及びリン酸による不純物の分解工程によって、化合物(I)が0.1%以下まで除去され、高純度のプラバスタチンナトリウムが得られたことが明らかである。
【0102】
更に、酢酸n-ブチルによる抽出及びリン酸による不純物の分解工程に、水酸化ナトリウムによる不純物の分解工程を加えることにより、化合物(I)が更に除去され、高純度のプラバスタチンナトリウムが得られたことが明らかである。
【0103】
実施例7 水酸化ナトリウムによる不純物の分解、硫酸による分解及び結晶化
実施例(5a)で得られた水酸化ナトリウムによるアルカリ処理液から、酢酸エチルを用いて、実施例(5b)と同様にして抽出し、プラバスタチンのナトリウム塩水溶液を得た。得られた水溶液に350mlのエタノールを加え、硫酸でpH1.5に調整した後20℃で1時間撹拌した。常法に従って結晶化し、プラバスタチンナトリウム塩の純粋な結晶を得た。HPLC(条件C)による化合物(I)/プラバスタチンナトリウム=0.1%以下であった。
【0104】
本実施例より、硫酸による不純物の分解及び水酸化ナトリウムによる不純物の分解工程によって、化合物(I)が0.1%以下まで除去され、高純度のプラバスタチンナトリウムが得られた。
【0105】
比較例1
酢酸エチルによるプラバスタチンの抽出
酢酸n-ブチルのかわりに酢酸エチルを用いて、実施例(1a)と同様に処理をし、プラバスタチンのナトリウム塩水溶液を得た。HPLC(条件A)によるプラバスタチンナトリウムの純度は、約70%であった。
【0106】
培養濃縮液から、プラバスタチン類を抽出する有機溶媒が、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、及び酢酸n-ブチルである場合の、化合物(I)/プラバスタチンナトリウム(%)は、以下のとおりである。下記結果より、酢酸エチルで抽出するよりも、酢酸n-プロピル及び酢酸n-ブチルにより抽出することによって、高純度のプラバスタチンが得られていることが明らかである。
【0107】
【表1】

【0108】
【発明の効果】
本発明の精製方法は、カラムクロマトグラフィーのような煩雑かつ生産性の低く、工業的生産に向かない方法を使用することなく、従って、工程生産性及びプラバスタチンの純度を損なうことなく、高純度のプラバスタチン又はその薬理上許容される塩を得ることができた。
【0109】
また、本発明の単離・精製方法により上記化合物(I)をプラバスタチンに対して0.1%以下の量まで除去された。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-03-24 
結審通知日 2005-03-25 
審決日 2005-04-08 
出願番号 特願2000-315256(P2000-315256)
審決分類 P 1 112・ 161- ZA (C07C)
最終処分 成立  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 唐木 以知良
後藤 圭次
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3236282号(P3236282)
発明の名称 プラバスタチンを精製する方法  
代理人 大野 彰夫  
代理人 岩出 昌利  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 大野 彰夫  

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