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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E05F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 E05F
管理番号 1125022
審判番号 不服2004-24048  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-06-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-25 
確定日 2005-10-18 
事件の表示 平成11年特許願第335804号「制動遅延装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年6月13日出願公開、特開2000-160926〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、イタリア国からドイツ国に出願された第29821364.8号[出願日:1998(平成10)年11月30日]、第29907931.7号[出願日:1999(平成11)年5月4日]、及び第29910626.8号[出願日:1999(平成11)年6月17日]の各特許出願をパリ条約における優先権主張出願の基礎として、イタリア国から日本国に平成11年11月26日に出願された特願平11-335804号の特許出願であって、平成14年3月6日付の原審における拒絶理由通知に対し平成14年10月2日付で意見書及び手続補正書が提出され、その後の平成15年9月26日付の原審における最後の拒絶理由通知に対し平成16年1月21日付で意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成16年9月30日付で前記平成16年1月21日付手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに同日付で拒絶査定がなされたものであり、これに対して、前記拒絶査定を不服として、平成16年11月25日に拒絶査定不服審判が請求され、その後の平成16年12月24日付の明細書についての手続補正書が提出されたものである。

第2 平成16年12月24日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成16年12月24日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の発明
平成16年12月24日付の手続補正は、特許法第17条の2第1項第3号の規定に基づく手続補正であり、該手続補正は、平成14年10月2日付の手続補正に基いて補正された願書に添付した明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】 制動力または吸収力に抗して、ハウジングまたはシリンダー内に押し込むことのできる押しロッドを備えたドア、窓または引き出しなどの可動家具部品の制動遅延装置において、
前記押しロッド7、18、19が、前記ハウジング8内に取り付けられ、ギアラック19よりなり、前記ハウジング8内に取り付けられたロータリーショックアブソーバー25のピニオン26と噛み合う部分を有し、前記ハウジングまたはシリンダー51が、食器棚51のトップパネルまたはサイドパネルのレール57などのフレームの前側部に取り付けられ、伸長状態においては、嵌められたヘッド56を備えた前記押しロッドによって、伸ばされていることを特徴とする制動遅延装置。
【請求項2】 制動力または吸収力に抗して、ハウジングまたはシリンダー内に押し込むことのできる押しロッドを備えたドア、窓または引き出しなどの可動家具部品の制動遅延装置において、
前記押しロッドが、シリンダー30内で、移動可能にガイドされたピストンのピストンロッド31によって構成され、前記シリンダーが、オイルなどの流体によって満たされ、前記ピストンが、前記ピストンの伸長に対しては、低い抵抗で抗し、前記ピストンの挿入に対しては、大きな抵抗で抗する通路バルブを備え、前記ピストンと前記シリンダー30の底部との間に、圧縮スプリングがクランプされ、前記ピストンロッド31に、ヘッド32が嵌められ、前記ハウジングまたはシリンダー51が、食器棚51のトップパネルまたはサイドパネルのレール57などのフレームの前側部に取り付けられ、伸長状態においては、嵌められたヘッド56を備えた前記押しロッドによって、伸ばされていることを特徴とする制動遅延装置。」
の記載を、
「【請求項1】 制動力または吸収力に抗して、ハウジングまたはシリンダー内に押し込むことのできる押しロッドを備えたドア、窓または引き出しなどの可動家具部品の制動遅延装置において、
前記押しロッドが、シリンダー30内で、移動可能にガイドされたピストンのピストンロッド31によって構成され、前記シリンダーが、オイルなどの流体によって満たされ、前記ピストンが、前記ピストンの伸長に対しては、低い抵抗で抗し、前記ピストンの挿入に対しては、大きな抵抗で抗する通路バルブを備え、前記ピストンと前記シリンダー30の底部との間に、圧縮スプリングがクランプされ、前記ピストンロッド31に、ヘッド32が嵌められ、前記ハウジングまたはシリンダー51が、食器棚51のトップパネルまたはサイドパネルのレール57などのフレームの前側部に取り付けられ、伸長状態においては、嵌められたヘッド56を備えた前記押しロッドによって、伸ばされていることを特徴とする制動遅延装置。
【請求項2】 前記ヘッド32が、エラストマー材料のクッションによって構成されたことを特徴とする請求項1に記載の制動遅延装置。
【請求項3】 前記シリンダーが、食器棚のトップパネルの前側上などのめくら孔に嵌め込まれ、前記めくら孔の底部に配置されたスリーブのねじ山にねじ込まれたねじのヘッドによって支持されたことを特徴とする請求項1または2に記載の制動遅延装置。
【請求項4】 フランジ42を備えたスリーブ41が前記めくら孔37内に嵌め込まれたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の制動遅延装置。」
と補正する(以下、これを「本件補正」という。)ことを含むものである。

2.補正の内容
上記本件補正の内容を整理して要約すれば、以下のとおりである。
[補正1]:本件補正前の旧請求項1を、削除する。
[補正2]:本件補正前の旧請求項2を繰り上げて、本件補正後の新請求項1とする。
[補正3]:特許出願時の当初明細書の特許請求の範囲に記載の請求項7ないし請求項9を、本件補正後の新請求項2ないし新請求項4として、特許請求の範囲に追加する。

しかして、上記本件補正の[補正1]は、特許法第17条の2第4項第1号の「請求項の削除」を目的とする補正に該当し、また、[補正2]は、同条第4項第4号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする補正に該当する。
しかしながら、[補正3]は、特許請求の範囲の請求項の項数を増加させる補正であり、その結果として新請求項2ないし新請求項4に係る新たな発明を特許請求の範囲に追加する補正であるので、前記[補正3]は、同条第4項第1号ないし第4号に掲げるいずれかの事項を目的とする補正であるということができない。
上記のとおり、本件補正が、特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げるいずれかの事項を目的とする補正に該当しない補正を含んでいるので、本件補正における特許請求の範囲についてする補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合しない。
よって、平成16年12月24日付の手続補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成16年12月24日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成14年10月2日付の手続補正に基いて補正された、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特にその請求項2に係る発明(以下、これを「本願発明2」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項2】 制動力または吸収力に抗して、ハウジングまたはシリンダー内に押し込むことのできる押しロッドを備えたドア、窓または引き出しなどの可動家具部品の制動遅延装置において、
前記押しロッドが、シリンダー30内で、移動可能にガイドされたピストンのピストンロッド31によって構成され、前記シリンダーが、オイルなどの流体によって満たされ、前記ピストンが、前記ピストンの伸長に対しては、低い抵抗で抗し、前記ピストンの挿入に対しては、大きな抵抗で抗する通路バルブを備え、前記ピストンと前記シリンダー30の底部との間に、圧縮スプリングがクランプされ、前記ピストンロッド31に、ヘッド32が嵌められ、前記ハウジングまたはシリンダー51が、食器棚51のトップパネルまたはサイドパネルのレール57などのフレームの前側部に取り付けられ、伸長状態においては、嵌められたヘッド56を備えた前記押しロッドによって、伸ばされていることを特徴とする制動遅延装置。」

2.引用刊行物及び該引用刊行物の記載事項並びに引用発明1
(1)原審における拒絶査定の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された実公昭58-17895号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「緩衝具」に関し、次の事項が記載されている。
「本考案は緩衝具に係り、たとえば、扉付き家具などにおいて扉閉合時に生じる騒音を吸収して消音するものに関する。」(1頁1欄30〜32行)
「1は前面を開口した家具本体で、この家具本体1の前面開口縁2の一側に図示しないヒンジを介して外部部材としての扉3が開閉自在に取付けられ、かつこの扉3は図示しないキヤツチ具によって所定の角度まで閉じると自動的に閉塞されるようになっている。また、上記家具本体1の前面開口縁2における開閉側の縁部4に緩衝具5が埋設されている。この緩衝具5は、第2図および第3図に示すように、中空の筒状に形成された埋込み本体6の一端部に係止部としての栓状の係止体7が嵌着係止されているとともに、この埋込み本体6の他端部に円筒状の案内孔8が形成され、この案内孔8に埋込み本体6の中心軸と直交する方向から嵌挿された制動子9の先端部10が突出され、さらに上記埋込み本体6の外周に埋込み方向では埋込み易く抜け方向では喰込むように形成された係止突縁11が多段多列に形成されている。また、上記埋込み本体6内および案内孔8内に円柱状に形成された応動子12が進退自在かつ回動自在に配設され、この応動子12の外周軸方向に上記制動子9の先端部10を挿入した制動子9より大きい巾の螺旋状の案内溝13が形成され、この案内溝13は両側に上記制動子9が係合する壁面13a,13bが形成されている。また、上記応動子12の外端部には当接部14が外部部材としての扉3と点接触するよう円錐形状に形成されているとともに内端部には上記埋込み本体6の係止段部15に係止する大径のフランジ16が一体に形成されている。また、上記応動子12のフランジ16の内端部と上記埋込み本体6の係止体7の内端部との間にはスプリングたとえばコイルスプリング17が介装され、このコイルスプリング17によって応動子12を常時外方に附勢して当接部14を外方に突出し、案内溝13の内端部に制動子9が位置するようになっている。
このように構成されたものにおいて、扉3を閉じる方向に回動するとともにこれが所定の位置に至るとキャッチ具によって比較的強く家具本体1の開口縁2に閉合される。この場合、扉3の内側面が緩衝具5の応動子12の当接部14に当接するとともに、扉3の閉合方向への回動で応動子I2がわずかに内側に押動されると、案内溝13における一方の壁面13aが制動子9の先端部に係合するとともに、この応動子12がさらに扉3によつて押動されることに伴い、応動子12は案内溝13の一方の壁面13aに係合した制動子9の摩擦力にコイルスプリング17の反発力も加わり大きい制動作用によつて制動されながら回転することにより、扉3の閉合作用を緩衝しつつ埋込み本体6内に押し戻されるので扉3は騒音を発することなく家具本体lの開口縁2に閉合される。
この扉3を閉じた状態では、コイルスプリング17に対して応動子12と制動子9との摩擦力が制動作用をなし、かつ扉3のキヤツチ具による閉止力が働き、扉3を閉じた状態に保持する。
つぎに、扉3をキヤツチ具に抗して開く方向に回動すると、応動子12はコイルスプリング17の復帰力と案内溝13の他方の壁面13bに係合した制動子9の案内作用とによって回動しながら円滑に押し出され、扉3のつぎの閉合に備える。
本考案によれば、緩衝具において、一端部にスプリングのための係止部を有するとともに他端部に応動子のための案内孔を有しかつこの案内孔に上記応動子のための制動子を突出した中空の埋込み本体と、この埋込み本体内および上記案内孔内に進退自在かつ回動自在に配設され外周軸方向に上記制動子の先端部と係合する螺旋状の案内溝を有するとともに外端部に扉のような外部部材と接触する当接部を有する応動子と、上記埋込み本体内において上記応動子の内端部と上記埋込み本体の係止部との間に介装されて応動子の当縁部を常時外方に突出するように附勢するスプリングとを有する構造としたので、応動子の当接部が押動されると、応動子は案内溝に対する制動子の制動作用とスプリングの制動作用によって押動力を確実に緩衝しつつ回動後退するので、応動子を押動した部材が埋込み本体の案内孔における開口縁に衝接し、不快な衝接音などの騒音を発することがない。
また油圧と油の流動を利用する公知の緩衝具では、油が漏洩しないためのシール装置および油の流入流出のための弁装置等を必要とし、構造が複雑となりコスト高となるのを免れないが、本考案では応動子に設けた案内溝に対する制動子の制動作用を利用する構造であるからそのような欠点がない。
さらに本考案は、埋込み本体を扉付き家具の開口縁に埋設し、かつ埋込み本体の案内孔の閉口縁と家具の開口縁とを面一に設定すれば、家具と扉との間に隙間が生じることなく扉を閉合することができるので、扉閉合時の騒音を吸収して確実に消音することができ、したがって実用性の高い緩衝具を提供することができる。」(1頁2欄21行〜2頁4欄33行)
そして、引用刊行物1の添付図面の第1図には、緩衝具を扉付き家具に取付けた状態を示す家具の斜視図が示され、また第2図には、緩衝具の断面図が示されている。
そうすると、上記引用刊行物1における前記摘記事項及び添付図面における記載からみて、引用刊行物1には、「キヤツチ具によって所定の角度まで閉じると自動的に閉塞されるようになっている扉3が家具本体1の前面開口縁2一側にヒンジを介して開閉自在に取付けられる家具本体1の前面開口縁2における開閉側の縁部4に埋設される緩衝具5であって、中空の筒状に形成された埋込み本体6の一端部に係止部としての栓状の係止体7が嵌着係止されているとともに、この埋込み本体6の他端部に円筒状の案内孔8が形成され、この案内孔8に埋込み本体6の中心軸と直交する方向から嵌挿された制動子9の先端部10が突出され、上記埋込み本体6内および案内孔8内に円柱状に形成された応動子12が進退自在かつ回動自在に配設されるとともに、この応動子12の外周軸方向に上記制動子9の先端部10を挿入した制動子9より大きい巾の螺旋状の案内溝13が形成され、また、上記応動子12の外端部には当接部14が扉3と点接触するよう円錐形状に形成されているとともに内端部には上記埋込み本体6の係止段部15に係止する大径のフランジ16が一体に形成されていて、さらに上記応動子12のフランジ16の内端部と上記埋込み本体6の係止体7の内端部との間にコイルスプリング17が介装され、このコイルスプリング17によって応動子12を常時外方に附勢して当接部14を外方に突出し、案内溝13の内端部に制動子9が位置するようになっている緩衝具」の発明(以下、これを「引用発明1」という。)が記載されている。

(2)原審における拒絶査定の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された実願昭58-5740号(実開昭59-111279号公報)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物2」という。)には、「開き戸の緩衝装置」に関し、次の事項が記載されている。
「本考案は、開き戸の蝶番取付け面に取付けて開き戸の閉鎖音を解消するための緩衝装置に関するものである。
従来の開き戸の緩衝装置は大型にしてかつ高価であり、これが取付け後は大型のために目立つて外観を損う欠点があった。
本考案は極めて小型でしかも目立たなく取付けできて、この種開き戸の緩衝装置として必要かつ十分な機能を発揮し得る安価な緩衝装置を提供することを目的とするもので、開き戸の蝶番取付け面の一方の面に取付ける取付部を備えたシリンダ、このシリンダに密封された液体とスプリングとの協働圧に抗して滑動する流路付きピストン及びこのピストンに一端が固定され他端頭部が前記蝶番取付け面外部に常時突出せしめられているピストン棒を備えた緩衝体と、該緩衝体に対向配置して前記蝶番取付け面の他方の面に取付ける取付部を有する基板に、内周部を前記ピストン棒頭部の案内用テーパ面に一連に形成した凹部を設けてなる受け部材とよりなり、前記緩衝体のピストン棒頭部が受け部材の凹部内においてその定位置で静止した時開き戸が完全閉鎖するようにした点に特徴がある。
以下本考案の緩衝装置の実施例を図面を参照しつつ説明する。第1図は本考案の緩衝装置を開き戸に取付けた状態を示した斜視図である。1は開き戸、2は蝶番、3は開き戸1の框、4は柱である。框3と柱4とで蝶番取付け面を構成しており、この取付け面3、4の一方の面(框)3に緩衝体Aが、他方の面(柱)4に緩衝体Aに対向配置された受け部材Bが、開き戸1の閉鎖時取付け面3、4が面当接するよう埋設されて取付け固定されている。緩衝体Aを柱4に、受け部材Bを框3に取付けることもできる。これら緩衝体Aと受け部材Bとが一対になつて本考案の緩衝装置を構成している。
第2図(a)は緩衝体Aの一実施例を示す斜視図、第3図(a)はその縦断面図である。5は取付部、6は内部に油等の液体7とスプリング8とが密封されたシリンダ、9は液体7の液圧とスプリング8のスプリング圧との協働圧に抗して滑動するピストンで、このピストン9には液体7の流路9aが穿設されている。10はピストン棒で、このピストン棒10の一端はピストン9に固定され、他端頭部10aは前記取付け部5の面外部、すなわち蝶番取付け面外部に常時突出せしめられている。頭部10aには発音防止や摩擦抵抗を少なくするため例えば硬質合成樹脂等の冠帽体が回動自在に嵌着してある。図中、11は液密用パッキングである。
取付部5は、この実施例では、ビス孔12aを有する鍔12b付きケース12で構成してある。つまり、ケース12の内部に形成した段部12cに、シリンダ6の段付き頭部6aを係合せしめ、シリンダ6の他端部外周面に刻設した螺子6bに噛合するナット13を介して、シリンダ6をケース12に挿入螺着せしめてある。」(明細書1頁18行〜4頁14行)
「本案装置は上述の構成から成るものであるから、緩衝体Aと受け部材Bとを第1図に示す如く、蝶番取付け面3、4に面一に取付けて、開き戸1を閉鎖した場合、先ず緩衝体Aのピストン捧頭部10aが受け部材Bの凹部16のテーパ面16a上部に接触し開き戸1の閉鎖エネルギによる衝撃を受ける。この衝撃エネルギはピストン9によつて吸収され、同時に開き戸1の閉鎖速度が減速される。さらに開き戸1の閉鎖エネルギによつてこのピストン棒頭部10aは受け部材Bのテーパ面16aに沿って、その上部から漸次下部に向って液圧とスプリング圧との協働圧に抗しながら摺動移動する。この間同時に開き戸1の閉鎖速度も漸次減速する。ピストン棒頭部10aが受け部材Bの凹部16底部付近に達すると、開き戸1の閉鎖エネルギもほとんどなくなり、今度は逆に液圧とスプリング8の復帰力によつて、開き戸1は閉鎖方向に呼び込まれる如く微動し、一方ピストン棒頭部10aは元の位置(定位置)方向に押出され凹部16底部のほぼ中央位置に選定した定位置に達して静止する。ここで開き戸1の閉鎖動も静止し開き戸1は完全に閉鎖する。」(明細書5頁19行〜6頁20行)

(3)原審における拒絶査定の理由に引用された本願の優先権主張日前に頒布された特開平9-256729号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、「引戸の閉鎖装置」に関し、次の事項が記載されている。
「【0014】 図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、引戸1の縦框11の閉鎖端面12側の上端部に、シリンダ2が内蔵されている。そして、シリンダ2の中には、例えば空気や油等の流体10が充填されているとともに、閉鎖端面方向へ向かって延びるシャフト21を有するピストン22が滑動自在に嵌装されている。また、引戸1の開閉方向へ動いて端面12に出没するシャフト21の先端部には、磁力吸着部材24が取り付けられている。
【0015】 遅延弁4は、ピストン22に設けた弁孔42と細通路43、シャフト21の反対側へピストン22から延びる案内25に沿って動き弁孔42を開閉する硬質板状の弁体41、弁体41と案内25の先端のばね受け26との間に装入した閉弁ばね44からなり、図2に示すように、ピストン22の中心付近に円周方向複数個の弁孔42、外側周縁部に小さい溝からなる円周方向複数個の細通路43を有している。細通路43は、一個または複数個のいずれでもよいが、その数や大きさは、流体10の流量による引戸1の制動効果を考慮して適宜に設定される。また、細通路43の形状は溝形には限らないが、弁体41によって塞がれないような位置に設けられることが必要である。
【0016】 シリンダ2は、その開口部を塞ぐロッドカバー13によって縦框11に内蔵固定されている。ロッドカバー13は、例えば皿ビス5によって表面を端面12と同一面上に揃えて取り付けられており、磁力吸着部材14を表面に露出させて嵌め込み保持している。
【0017】 シリンダ2の大きさは、概ね径が20mm乃至40mm程度、長さが50mm乃至100mm程度とされ、引戸1の重量等に応じて適宜決定されるが、縦框11内に埋め込むことができる大きさで十分な効果が期待できる。
【0018】 一方、建物の開口枠3には、その戸当り面31と面一に磁力吸着部材34が皿ビス5によって取り付けられている。
【0019】 引戸1を図1(a)のA方向へ動かして閉鎖するとき、シャフト21の先端23が磁力吸着部材34に接した後はピストン22がシリンダ2に押し込まれるようになり、弁体41がピストン22に密着することによって弁孔42を塞ぎ、流体10はピストン22の外周縁に設けられた小さな細通路43のみを通過するため、その流量が少量となるが、引戸1を図1(b)のB方向へ動かして開くときには、流体10が弁孔42を通過して弁体41を押すことによって弁体41がピストン22から離れ、弁孔42が開放されるので流体10は大量に流れる。このような構造の遅延弁4は、従来より流体の流れ制御に用いられている遅延弁と同様であり、上記の例の他にも、例えば図3に示すように、弾性体による傘形の弁体51をもつ遅延弁等、さまざまな構造のものがある。本発明に用いられる遅延弁は、いずれのタイプのものでも用いることができ、流体の種類や引戸の重量等に応じた形状や構造のものを選択して用いるとよい。
【0020】 引戸1が閉まる際には、縦框11の端面12が戸当り面31に近づき、端面12から突出しているシャフト21の先端23が戸当り面31に突き当たった後、シャフト21を伝ってピストン22がシリンダ2内を滑動することによって、図1(a)に示すように、流体10が細通路43のみを通過する。従って、遅延弁を通過する流体10の流量は少なく、引戸1は緩やかに閉まるようになる。
【0021】 そして、引戸1が全閉位置の直前になり、端面12と戸当り面31とが接近すると、縦框11および戸当り面31に着設されたそれぞれの磁力吸着部材14,34が引き合うので、引戸1は完全に閉鎖される。
【0022】 一方、引戸1が開くときには、ピストン22がシリンダ2内を滑動し、図1(b)に示すように、流体10が細通路43に加えて弁孔42も通過するので、遅延弁を通過する流体10の流量は多くなり、軽い力で且つ高速度で引戸1を開くことができる。
【0023】 このとき、シャフト21の先端部には磁力吸着部材24が取り付けられているので、シャフト21がシリンダ2内に引き込まれたままになることがなく、シャフト21が最大に突出するまでは、先端23は常に戸当り面31に磁力によて当接されている。従って、次に引戸1を閉めるときには、再び遅延弁4によって閉鎖速度を制動することができる。
【0024】 上記のような引戸の閉鎖装置は、シャフト21が人や荷物の出入りを邪魔しないように、また、外観上問題とならないように、通常は、引戸1の上端部に取り付けられる。」

3.対比及び一致点・相違点
ここで、本願発明2と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「中空の筒状に形成された埋込み本体6」、「キヤツチ具によって所定の角度まで閉じると自動的に閉塞されるようになっている扉3が家具本体1の前面開口縁2一側にヒンジを介して開閉自在に取付けられる家具本体1」、「コイルスプリング17」、「当接部14」、「家具本体1の前面開口縁2における開閉側の縁部4」及び「緩衝具5」のそれぞれが、本願発明2の「シリンダー30又は51」、「ドア、窓または引き出しなどの可動家具部品」、「圧縮スプリング」、「ヘッド32又は56」、「食器棚51のサイドパネル」及び「制動遅延装置」に対応する。
また、引用発明1における埋込み本体6内および案内孔8内に進退自在かつ回動自在に配設される円柱状に形成された応動子12と、本願発明2の押しロッド又はシリンダー30内で移動可能にガイドされるピストンロッド31とは、それぞれ、制動力または吸収力に抗して、埋込み本体6又はシリンダー内に押し込むことができ、また伸長状態においては、当接部14又はヘッド56を備えた応動子12又は押しロッドによって伸ばされているようになっている点で、いずれも共通するから、引用発明1の応動子12と本願発明2の押しロッド又はピストンロッド31とは、ともに埋込み本体6又はシリンダーの内外における「往復移動体」であるといえる。
さらに、引用発明1における緩衝具5の埋込み本体6が埋設される個所と、本願発明2の制動遅延装置のシリンダー30又は51が取り付けられる個所は、ともに「家具本体の前面開口縁における開閉側の縁部」である点で、両者は共通する。
してみると、本願発明2と引用発明1とは、「制動力または吸収力に抗して、シリンダー内に押し込むことのできる往復移動体を備えたドア、窓または引き出しなどの可動家具部品の制動遅延装置において、前記往復移動体が、シリンダー内で、移動可能にガイドされた往復移動体によって構成され、前記往復移動体と前記シリンダーの底部との間に、圧縮スプリングがクランプされ、前記シリンダーが、家具本体の前面開口縁における開閉側の縁部に取り付けられ、伸長状態においては、ヘッドを備えた前記往復移動体によって、伸ばされている制動遅延装置」である点で、両者の構成が一致し、次の点で相違する。
相違点1:本願発明2の往復移動体が、「シリンダー内で、移動可能にガイドされたピストンのピストンロッドによって構成され」るのに対し、引用発明1の往復移動体は、埋込み本体内および案内孔内に進退自在かつ回動自在に配設される円柱状に形成された応動子であり、ピストンのピストンロッドによって構成されるものではない点。
相違点2:本願発明2が、「前記シリンダーが、オイルなどの流体によって満たされ、前記ピストンが、前記ピストンの伸長に対しては、低い抵抗で抗し、前記ピストンの挿入に対しては、大きな抵抗で抗する通路バルブを備え」るのに対し、引用発明1は、前記構成を有していない点。
相違点3:本願発明2の往復移動体が、「ヘッドが嵌められ」或いは「嵌められたヘッドを備え」るのに対し、引用発明1の往復移動体は、単に外端部に扉と点接触するよう円錐形状に形成されている当接部である点。
相違点4:制動遅延装置が取り付けられるべき家具本体での取付位置が、本願発明2では、「食器棚のトップパネルまたはサイドパネルのレールなどのフレームの前側部」であるのに対し、引用発明1では、「家具本体の前面開口縁における開閉側の縁部」である点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用刊行物2に「開き戸の蝶番取付け面の一方の面に取付ける取付部を備えたシリンダ、このシリンダに密封された液体とスプリングとの協働圧に抗して滑動する流路付きピストン及びこのピストンに一端が固定され他端頭部が前記蝶番取付け面外部に常時突出せしめられているピストン棒を備えた緩衝体と、該緩衝体に対向配置して前記蝶番取付け面の他方の面に取付ける取付部を有する基板に、内周部を前記ピストン棒頭部の案内用テーパ面に一連に形成した凹部を設けてなる受け部材とよりなり、前記緩衝体のピストン棒頭部が受け部材の凹部内においてその定位置で静止した時開き戸が完全閉鎖するようにした緩衝装置」が記載されている。
そして、前記緩衝装置が、本願発明2の「制動遅延装置」に対応するものであることを参酌すると、緩衝装置における「往復移動体」の構成を、「ピストンのピストンロッド」により構成することは、本願特許出願前の公知技術である。
そうすると、引用発明1の埋込み本体内および案内孔内に進退自在かつ回動自在に配設される円柱状に形成された応動子に代えて、上記公知技術の「ピストンのピストンロッド」を適用することにより、本願発明2の相違点1に係る「シリンダー内で、移動可能にガイドされたピストンのピストンロッドによって構成され」る構成を得ることは、当業者が引用刊行物2に記載された発明に基いて容易に想到できることである。

(2)相違点2について
引用刊行物3に「引戸1の戸当り側端部に内蔵設置され戸当り側端面に出没するシャフト21を有するピストン22を嵌装したシリンダ2の中に、例えば空気や油等の流体10が充填されていて、閉鎖端面方向へ向かって延びるシャフト21を有するピストン22が滑動自在に嵌装されているシリンダ2と、建物の開口枠3の戸当り面31およびこれと対向する引戸1の端面12とシャフト21の先端部とに設けられた磁力吸着部材34,14,24と、ピストン22に設けられてシャフト21の引き出し方向の動きを高速とし引き込み方向の動きを低速とする遅延弁4とを備え、引戸1閉鎖時にシャフト21の先端23が戸当り面31に当たった後はシャフト21を引き込ませながら低速度で閉鎖して磁力により閉鎖状態を保持し、引戸1開放時にシャフト21は最大に突出するまで引き出されてから戸当り面31から離れる構成となっている引戸の閉鎖装置」が記載されている。
そして、引用刊行物3の上記記載によれば、「シリンダーがオイルなどの流体によって満たされ、ピストンが、前記ピストンの伸長に対しては低い抵抗で抗し、前記ピストンの挿入に対しては大きな抵抗で抗するように、ピストンに通路バルブを備えたもの」は、本願特許出願前の公知技術である。
そうすると、上記公知技術を引用発明1に適用することにより、本願発明2の相違点2に係る「前記シリンダーが、オイルなどの流体によって満たされ、前記ピストンが、前記ピストンの伸長に対しては、低い抵抗で抗し、前記ピストンの挿入に対しては、大きな抵抗で抗する通路バルブを備え」る構成を得ることは、当業者が引用刊行物3に記載された発明に基いて容易に想到できることである。

(3)相違点3について
引用刊行物2に「10はピストン棒で、このピストン棒10の一端はピストン9に固定され、他端頭部10aは前記取付け部5の面外部、すなわち蝶番取付け面外部に常時突出せしめられている。頭部10aには発音防止や摩擦抵抗を少なくするため例えば硬質合成樹脂等の冠帽体が回動自在に嵌着してある。」が記載されている。
そして、前記硬質合成樹脂等の冠帽体が、本願発明2の「ヘッド32」又は「ヘッド56」に対応するものであることを参酌すれば、蝶番取付け面外部に常時突出せしめられているピストン棒10の他端頭部10aに、発音防止や摩擦抵抗を少なくするため例えば硬質合成樹脂等の冠帽体を嵌着させる技術は、本願特許出願前の公知技術である。
そうすると、上記公知技術を引用発明1に適用することにより、本願発明2の相違点3に係る「ヘッドが嵌められ」或いは「嵌められたヘッドを備え」る往復移動体の構成を得ることは、当業者が引用刊行物2に記載された発明に基いて容易に想到できることである。

(4)相違点4について
引用刊行物3に「【0024】上記のような引戸の閉鎖装置は、シャフト21が人や荷物の出入りを邪魔しないように、また、外観上問題とならないように、通常は、引戸1の上端部に取り付けられる。」と記載されているように、制動遅延装置が取り付けられるべき家具本体での取付位置を、本願発明2のような「レールなどのフレーム」を介して食器棚のトップパネルまたはサイドパネルの前側部に設定することは、当業者が必要に応じて適宜採用できる設計事項にすぎないことである。
そうすると、上記公知技術を引用発明1に適用することにより、本願発明2の相違点4に係る「前記ハウジングまたはシリンダーが、食器棚のトップパネルまたはサイドパネルのレールなどのフレームの前側部に取り付けられ」る構成を得ることは、当業者が引用刊行物3に記載された発明に基いて容易に想到できることである。

そして、本願発明2の奏する作用・効果は、上記引用発明1、引用刊行物2及び引用刊行物3にそれぞれ記載された発明から予測できる範囲内のものであり、格別のものということができない。

(5)まとめ
したがって、本願発明2は、引用発明1、引用刊行物2及び引用刊行物3にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明2は、上記引用発明1、引用刊行物2及び引用刊行物3にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明2が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の請求項1に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-05 
結審通知日 2005-04-26 
審決日 2005-05-13 
出願番号 特願平11-335804
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E05F)
P 1 8・ 572- Z (E05F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 新井 夕起子
佐藤 昭喜
発明の名称 制動遅延装置  
代理人 大石 皓一  

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