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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H03H
管理番号 1125128
審判番号 無効2004-80019  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-02-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-20 
確定日 2005-10-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2036779号発明「水晶振動子及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第2036779号の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、昭和60年8月7日に特許出願(特願昭60-173701号)され、平成6年11月14日に出願公告(特公平6-91404号)がなされ、平成8年3月28日に特許の設定登録(発明の数2)がなされたものである。
これに対して、平成16年4月20日に請求人シチズン時計株式会社より、本件特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明についての特許を無効とする、との審決を求める本件審判の請求がなされ、平成16年8月9日付けで被請求人(特許権者)株式会社明電舎より、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める答弁書及び上申書(平成16年8月20日付)が提出され、また、これに対して同請求人より平成16年9月30日付けで弁駁書が提出されたものである。

【2】本件特許発明
本件無効審判が請求された特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、前記出願公告がなされた後、平成7年10月6日付け手続補正書により補正された以下のとおりのものである。
「(1)リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて、
前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け、
前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に、前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子としたことを特徴とする水晶振動子。
(2)金属板から、一対の連結帯間に、水晶振動子本体の金属ケースよりなる保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子と接続するリード端子接続用外部端子と、前記保持容器の外周面に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とが連ながった金属フレームであって、前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程と、
前記金属フレームの保持容器外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片に前記保持容器の外周面と頂面を当接して金属フレーム上に水晶振動子本体を位置決めする位置決め工程と、
前記リード端子接続用外部端子に水晶振動子本体のリードを溶接する溶接工程と、
前記連結帯と、外部端子及び各位置決め用片の外端側の一部を除いて樹脂材にてモールドするモールド工程と、
前記連結帯を切り離す切断工程と、
からなることを特徴とした水晶振動子の製造方法。」

【3】審判請求人の主張
(3-1)無効とすべき理由の概要
本件審判請求人は、以下のような証拠方法を提出するとともに、本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明についての特許を無効とすべき理由について、概要、以下のとおり主張している。
「本件特許は、その特許請求の範囲第1項に係る発明(以下「第1発明」という。)及び同第2項に係る発明(以下「第2発明」という。)に関する補正事項が明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされる(特許法第40条)。」ことを前提に、
「本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、前記の如く、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、また、本件特許の特許請求の範囲第1項の補正事項が当業者に自明であるとすると、甲第9号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、特許法第123条第1項1号(現行特許法第123条第1項2号)の規定によっていずれも無効とすべきものである。
また、本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、特許法第36条第5項の要件を満たしていないから、同法第123条第1項3号(現行特許法第123条第1項4号)の規定によっていずれも無効とすべきものである。」
<証拠方法>
・甲第1号証 本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面
・甲第2号証 特開昭62-34410号公報
・甲第3号証 平成3年9月6日提出の手続補正書(全文補正)
・甲第4号証 平成4年4月23日提出の手続補正書(全文補正)
・甲第5号証 平成6年6月8日提出の手続補正書
・甲第6号証 特公平6-91404号公報
・甲第7号証 平成7年8月11日提出の特許異議答弁書(申立人株式会社大真空の特許異議申立に対するもの)
・甲第8号証 平成7年10月6日提出の手続補正書
・甲第9号証 特開昭59-139712号公報
(3-2)具体的理由の要点
本件審判請求人は、審判請求書と平成16年6月11日付け手続補正書、及び弁駁書において、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
(3-2-1)審判請求書において
(i)「(1)特許を無効とすべき理由の要点
特許第2036779号の特許請求の範囲第1項及び第2項の各項について、以下のように、それぞれ4個の無効理由が存在し、そのいずれの理由によっても本件特許の各項を無効とすべきものである。
(イ)第1項
○1 無効理由1-要旨の変更(その1)-出願当初の明細書に記載のない事項の補正
本件特許の特許請求の範囲第1項に係る発明に関する補正事項「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」(甲第5号証、提出日平成6年6月8日)は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項(甲第1号証)の範囲内にないものであって、かつ、そのための保持容器と外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続については、何らの示唆もなく、自明な事項でもないことから、明細書の要旨を変更するものである(出願当時適用の昭和34年特許法(以下単に「特許法」という。)第41条)。
○2 無効理由2-要旨の変更(その2)-発明の目的変更の補正
本件特許の発明の目的についての追加補正事項「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」(甲第4号証第9頁第10行乃至第14行、提出日平成4年4月23日)は、出願当初の明細書に記載された発明の目的を変更するものであるから、明細書の要旨を変更するものである(特許法第41条)。
○3 無効理由3-要旨の変更(その3)-目的変更のための解決手段の補正
本件特許の発明の目的変更のための解決手段である前項○1の補正事項(甲第5号証、提出日平成6年6月8日)は、出願当初の明細書に記載された発明の目的を変更するものであるから、明細書の要旨を変更するものである(特許法第41条)。
○4 無効理由4-本件特許の特許請求の範囲第1項における「必須構成要件」の欠缺
特許請求の範囲第1項の構成要件中「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」とするための「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)である「保持容器と外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」が記載されていないから、特許法第36条第5項の要件を満たしていない。
(ロ)第2項
○1 無効理由5-要旨の変更(その1)-出願当初の明細書に記載のない事項の補正
本件特許の特許請求の範囲第2項に係る発明に関する補正事項「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする(フレーム製造工程)」は、本件特許の出願公告決定後になされた補正(甲第8号証、手続補正書の提出日:平成7年10月6日)であるが、その補正事項は出願公告決定前に提出された手続補正書(甲第4号証、提出日:平成4年4月23日)による補正事項に基づくものであって、しかもその補正事項が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内にないものであり、かつ、そのための保持容器と外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続については、何らの示唆もなく、自明な事項でもないことから、明細書の要旨を変更するものである(特許法第41条)。
○2 無効理由6-要旨の変更(その2)-発明の目的変更の補正
本件特許の発明の目的についての追加補正事項「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」(甲第4号証第9頁第10行乃至第14行、提出日平成4年4月23日)は、出願当初の明細書に記載された発明の目的を変更するものであるから、明細書の要旨を変更するものである(特許法第41条)。
○3 無効理由7-要旨の変更(その3)-目的変更のための解決手段の補正
本件特許の発明の目的変更のための解決手段である前項○1の補正事項(甲第4号証(提出日平成4年4月23日)による補正事項に基づく補正)は、出願当初の明細書に記載された発明の目的を変更するものであるから、明細書の要旨を変更するものである(特許法第41条)。
○4 無効理由8-本件特許の特許請求の範囲第2項における「必須構成要件」の欠缺
特許請求の範囲第2項の構成要件「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする(フレーム製造工程)」とするための「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)である「保持容器と外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」が記載されていないから特許法第36条第5項の要件を満たしていない。
(ハ)出願日の繰り下がり(無効理由1〜3及び5〜7)
従って、本件特許の特許請求の範囲第1項に係る発明は、その出願公告決定前にした補正が明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、その補正について手続補正書を提出した時、即ち(イ)第1項○1の補正(無効理由1=要旨の変更(その1))については平成6年6月8日、(イ)第1項○2の補正(無効理由2=要旨の変更(その2))については平成4年4月23日、そして(イ)第1項○3の補正(無効理由3=要旨の変更(その3))については平成6年6月8日にしたものとみなされる(特許法第40条)。
また、本件特許の特許請求の範囲第2項に係る発明は、(ロ)第2項○1の補正(無効理由5=要旨の変更(その1))及び(ロ)第2項○3の補正(無効理由7=要旨の変更(その3)は出願公告決定後の補正であるが、出願公告決定前に提出された手続補正書(甲第4号証、提出日平成4年4月23日)による補正事項に基づいて明細書の要旨を変更するものであるから、(ロ)第2項○2の補正(無効理由6=要旨の変更(その2))によるものと同じく、本件特許出願は、平成4年4月23日にしたものとみなされる。
この結果、本件特許の公開特許公報(甲第2号証。特開昭62-34410号、公開日昭和62年2年14日)は本件特許出願日前に頒布された刊行物となるから(無効理由1〜3及び5〜7)、本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、前記刊行物に基いて容易に発明することができたものとなり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)の欠缺があるから(無効理由4及び8)、特許法第36条第5項の要件を満たしていない。
よって、本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、それぞれ特許法第123条第1項第1号又は第3号(現行特許法第123条第1項第2号又は第4号)の規定に該当し、無効とすべきものである。」(第2頁第6行〜第5頁第11行)
(3-2-2)手続補正書において
(i)「(iv)甲第9号証に記載された発明
甲第9号証に記載された発明は、円筒形の金属ケースに気密に収納した水晶振動子を金属帯上で端子をスポット溶接してモールドしたチップ型水晶振動子に関するもので、第1図〜第3図とその説明の記載によると、次の構成を有する。
a:リード端子(1,2,13,13)を有する水晶振動子片(4)を金属ケースよりなる保持容器(5)内に封入して水晶振動子(12)を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子(13,13)に外部端子を接続してモールドするものである(第2頁上右欄第3行〜第16行)。
従って、甲第9号証に記載された発明の前記構成は、構成要件Aと同一である。
b;水晶振動子(12)の外周面の形状に適合する孔(19)を穿設してその中に水晶振動子(12)を配置した金属帯(18)を有する。金属帯(18)は水晶振動子(12)の外周面の形状に適合する曲面を有していないが、孔(19)内に水晶振動子(12)を配置して位置決めしていることから、水晶振動子(12)の外周面側にある金属帯は水晶振動子(12)の外周面の形状に適合する保持容器外周面位置決め用片に相当する(第2頁下左欄第16行〜第20行)。
従って、甲第9号証に記載された発明の前記構成は、構成要件Bと曲面のみ相違するが、同じ保持容器外周面の形状に適合する保持容器外周面位置決め用片を有する。
c:水晶振動子(12)の頂面を位置決めされるよう孔(19)を穿設してその中に水晶振動子(12)を配置した金属帯(18)を有する。金属帯(18)は頂面と当接はしていないが、孔(19)内で水晶振動子(12)を位置決めしていることから、水晶振動子(12)の頂面側にある金属帯は保持容器頂面位置決め用片に相当する(第2頁下左欄第16行〜第20行)。
従って、甲第9号証に記載された発明の前記構成は、構成要件Cと当接のみ相違するが同じ保持容器頂面位置決め用片を有する。
d:金属帯(18)に孔(19)を穿設して水晶振動子(12)を配置してモールドしていることから、水晶振動子(12)の外周面側にある金属帯は保持容器外周面位置決め用片に相当し、水晶振動子(12)の頂面側にある金属帯は保持容器頂面位置決め用片に相当する。それ故、甲第9号証に記載された発明は水晶振動子外周面位置決め用片と水晶振動子頂面位置決め用片により水晶振動子を位置決めしてモールド(15)されている(第2頁下左欄第16行〜第20行)。
従って、甲第9号証に記載された発明の前記構成は、構成要件Dと同一である。
e:甲第9号証に記載された発明は、外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした構成になっていない。
従って、甲第9号証に記載された発明は、構成要件Eと相違する。
f:甲第9号証に記載された発明は、チップ型の水晶振動子に関するもので、構成要件Fと同一である(第1頁下左欄第12行〜第13行)。
(v)第1発明と甲第9号証に記載された発明との対比・判断
第1発明と甲第9号証に記載された発明とを対比すると、両者は、前記したように、構成要件A、D及びFにおいて共通し、両者は次の点で相違する。
○1 甲第9号証に記載された発明は、構成要件B中の保持容器外周面位置決め用片が保持容器の外周面の形状に適合する形状をしているが曲面の形状を有しない点。
○2 甲第9号証に記載された発明は、構成要件C中の保持容器頂面位置決め用片が保持容器の頂面に当接していない点。
○3 甲第9号証に記載された発明は、構成要件E「外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」構成を有していない 点。
しかしながら、○1「保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する位置決め用片」、○2「保持容器の頂面に当接する位置決め用片」を用いて電子部品の位置決めすることは、出願当時、既に周知・慣用技術(例えば、実開昭59-10735、実開昭60-66022、特開昭59-149406、実開昭54-96171など)であった。このことは、前記○1、○2が、平成3年9月6日提出の手続補正書(甲第3号証)で補正した特許請求の範囲の実質的構成要件として含んでいたにも拘わらず、拒絶査定され、拒絶査定不服審判の審理でも直ちに公告決定がなされず、最終的には、前記相違点○3を更に構成要件として付加する補正(甲第5号証)をしてようやく第1発明について公告決定がなされていることからも明らかである。
そこで、相違点○3「外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」が、仮に当業者に自明な事項であるとすると、第1発明は甲第9号証に記載された発明及び相違点○3の自明事項より容易に想到できた発明となる。
従って、第1発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」(第10頁第18行〜第12頁第24行)
(ii)「(iv)甲第9号証に記載された発明
甲第9号証に記載された発明は、円筒形の金属ケースに気密に収納した水晶振動子を金属帯上で端子をスポット溶接してモールドしたチップ型水晶振動子の製造方法に関するもので、第1図〜第3図とその説明の記載によると、次の構成を有する。
g:金属板(11、18)から,一対の連結帯間(11,11)に、水晶振動子本体の金属ケースよりなる保持容器(5)の底部から同じ側に導出された2本のリード端子(1,2,13,13)と接続するリード端子接続用外部端子(第3図に明記)と、前記保持容器(12)の外周面に適合する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面の位置決めをする保持容器頂面位置決め用片とが連ながった金属フレーム(11、18)を有する。
h:前記金属フレーム(11、18)の保持用外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片に前記保持容器を配置して金属フレーム(11、18)上に水晶振動子本体を位置決めする位置決め工程を有する。
i:前記リード端子接続用外部端子(第3図に明記)に水晶振動子本体のリードを溶接する溶接工程を有する(第2頁上右欄第4行〜第6行)。
j:前記連結帯と、外部端子及び各位置決め片の外端側の一部を除いて樹脂材にてモールドするモールド工程を有する(第2頁上右欄第11行〜第16行)。
k:前記連結帯を切り離す切断工程を有する(第2頁上右欄第20行〜同下左第2行)。
l:チップ型水晶振動子の製造方法に関するものである(特許請求の範囲)。
(v)第2発明と甲第9号証に記載された発明との対比・判断
第2発明と甲第9号証に記載された発明とを対比すると、両者は、前記したように、構成要件H、I、J、K及びLにおいて共通し、両者は構成要件Gにおいて、次の点で相違する。
○1 甲第9号証に記載された発明は、構成要件G中の保持容器外周面位置決め用片が保持容器の外周面の形状に適合する形状をしているが曲面の形状を有していない点。
○2 甲第9号証に記載された発明は、構成要件G中の保持容器頂面位置決め用片が保持容器の頂面に当接していない点。
○3 甲第9号証に記載された発明は、構成要件G中の「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする」フレーム製造工程を有していない点。
しかしながら、○1「保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する位置決め用片」、○2「保持容器の頂面に当接する位置決め用片」を用いて電子部品の位置決めすることは、出願当時、既に周知・慣用技術(例えば、実開昭59-10735、実開昭60-66022、特開昭59-149406、実開昭54-96171など)であった。このことは、前記○1、○2が、平成3年9月6日提出の手続補正書(甲第3号証)で補正した特許請求の範囲の実質的構成要件として含んでいたにも拘わらず、拒絶査定され、拒絶査定不服審判の審理において、最終的には、出願公告後の特許異議の申し立てに対し、前記相違点○3を更に構成要件として付加する補正(甲第8号証)によって異議理由なしと判断され、ようやく第2発明について特許審決がなされていることからも明らかである。
そこで、相違点○3「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする」フレーム製造工程が、仮に当業者に自明であるとすると、第2発明は甲第9号証に記載された発明及び前記相違点○3の自明事項より容易に想到できた発明となる。
従って、第2発明は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。」(第14頁第5行〜第15頁第20行)

(3-2-3)弁駁書において
(i)「7.2 特許請求の範囲第1項に係る発明(装置発明)について(答弁書第3頁〜第11頁)
(1)要旨変更(その1)について(答弁書第3頁〜第8頁)
(1.1)被請求人は、「出願当初の明細書(以下「当初明細書」という)には、第4図に示した実施例の説明として『このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。』(甲1 11頁下から2行〜12頁3行)、『従ってこの外部端子73、74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。』(甲1 12頁9〜14行)と記載され、『外部端子83、あるいは外部端子93、94を固定専用の固定用端子として用いているので、第2の例の場合と同様にシールド効果が得られる。』(甲1 16頁1〜3行)と記載されているように、アースすることができる外部端子が記載されている。」(答弁書第3頁下から第4行目〜第4頁第9行目)として、何ら明細書の要旨を変更するものではない旨主張する。
(イ)しかし、本件特許の特許請求の範囲第1項に係る発明に関する補正事項である「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」(甲第5号証、提出日平成6年6月8日)の部分は、当初明細書又は図面に記載した事項(甲第1号証)の範囲内にないものであることは、審判請求書7(4)(i)及び以下の理由から明らかである。
(ロ)実施例は、単に保持容器の機械的位置決めのみに過ぎない。
当初明細書には、上記の被請求人が引用した「甲1 11頁下から2行〜12頁3行」の文章に続いて、被請求人が敢えて引用していないが、「従ってこの例では位置決めが確実で且つ容易なものになり、リード71,72を所定位置で確実にスポット溶接ができるという利点がある。」(甲第1号証明細書第12頁第3行目〜第6行目、下線は請求人による)という記載があることから明らかなように、この実施例は、保持容器を所定位置で確実にスポット溶接するための位置決めのために、金属フレームからなる外部端子が保持容器の外周面を機械的に保持し、保持容器の頂面に機械的に当接させているだけのものである。
従って、「固定用端子」も保持容器の位置決めのための固定専用の端子というだけであって、「固定用端子」がアース用外部端子としての実施例が記載されているものでは全くない。実施例とは関係のない当初明細書の他の部分に、「この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になる」(甲第1号証 明細書第12頁第10行目〜第13行目、下線は請求人による。)と、単に仮定的・仮想的な可能性を示唆しているに過ぎない。具体的なアース用外部端子は記載されていないのである。
(ハ)当初明細書にはそもそも固定用端子の電気的接続の記載は必要なかった。
前記のように、当初明細書の実施例は、保持容器を所定位置で確実にスポット溶接するための位置決めについてのものであったから、「固定用端子」も保持容器の位置決めのための固定専用の端子としての実施例が記載されているに過ぎない。
また、前記した当初明細書の「この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になる」の記載も単に固定用端子自体のみについて示唆しているだけであって、実施例の記載ではない。位置決めに関する記載に過ぎないから、固定用端子をアース用端子として機能させる場合の必須構成要件である固定用端子と保持容器との電気的接続については全く記載がないということができる。固定用端子と保持容器との電気的接続がなければ固定用端子をアース用端子として使用できないからである。従って、電気的接続については全く記載しなかった以上、固定用端子をアース用端子として使用することについては具体的な記載がないものといわざるを得ない。そもそも、保持容器の機械的位置決めが目的であったから、固定用端子と保持容器との電気的接続については必要なかったのである。
(ニ)「水晶振動子本体アース用外部端子」は当初明細書に記載はない。
被請求人は、「水晶振動子本体アース用外部端子」と全く同じ用語は当初明細書では使っていないが、その機能を形容詞的に「外部端子」にかぶせて名付けただけであり、特定されている技術的事項は当初明細書に記載されているものと何ら変更はない旨主張する。
しかし、当初明細書には、前記したように、「この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になる」と示唆する記載はあるものの、これは実施例ではなく、何らの具体的な記載がないので、固定用端子を「水晶振動子本体アース用外部端子」と技術的事項に何ら変更はないとは云えない。被請求人の主張は、単なる示唆の記載から具体的な実施例として補正するものであって、要旨を変更するものである。
(1.2)当初明細書に保持容器との電気的接続の記載はない。
前記のように、固定用端子をアース用端子として使用する場合には、必須構成要件として、固定用端子と保持容器との間の電気的接続が必要である。しかし、当初明細書には、保持容器の位置決めが目的であったために、電気的接続については記載する必要もなく、全く記載もされていなかった。
被請求人は、このことを認識していたために、平成3年9月6日提出の全文補正の手続補正(甲第3号証))の際に、敢えて「G.発明の効果」の欄に「(3)位置決め用外部端子と水晶振動子の保持容器は接触しているので、位置決め用外部端子をアースすることによりシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子として使用できる。」(甲第3号証 明細書第22頁第1行目〜第4行目、下線は請求人による。)と補正をした。ここでは保持容器の位置決めの目的を超えて権利の内容を変更するために、当初明細書に記載のない「接触」なる用語を追加したものである。
この点、被請求人は、当初明細書の「このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。」(甲第1号証 明細書第11頁下から第2行目〜第12頁第3行目)の記載により、保持容器1は「保持」及び「当接」しているから、突片7A3,7A4及び連結片75は保持容器1の外周面に当然に当接するものであって、「接触」という用語を使用したのは、当初明細書における確かな技術的記載に基づくものである旨主張する。
(イ)しかし、保持容器1の「保持」及び「当接」は、前記したように、当初明細書に、「従ってこの例では位置決めが確実で且つ容易なものになり、リード71,72を所定位置で確実にスポット溶接ができるという利点がある。」(甲第1号証明細書第12頁第3行目〜第6行目)との記載があることから明らかなように、保持容器を所定位置で確実にスポット溶接するための位置決めのために、金属フレームからなる外部端子が保持容器の外周面を機械的に保持し、保持容器の頂面に機械的に当接させていることを目的としている。
従って、保持容器と外部端子の電気的接続については、機械的位置決めには必要な要件でもなかったが故に、被請求人は記載する必要もないと判断したものであって、それがため、そのような記載も全くなされていない。
(ロ)被請求人の主張に従えば、敢えて「接触」なる用語を補正する必要がないにもかかわらず「接触」を補正したことは、「接触」を根拠に電気的接続を主張せんが為であることは明らかである。
しかし、当初明細書には「接触」が記載されていなかったことは、被請求人が本答弁書で認めているとおりである(答弁書第7頁第9行目〜第11行目)。
(ハ)更に、被請求人は、「『機械的接触』があれば電気的に導通されることは当然の事理である。」(答弁書第7頁第15行目〜第16行目)とまで主張する。
しかし、外部端子で保持容器を機械的に位置決めしているのであるから、仮に機械的接触があったとしても、機械的接触から電気的接続の技術的思想が生ずる訳ではない。何となれば、例えば、発明の技術的思想が、外部端子による「保持」及び「当接」により保持容器の機械的位置決めをするというものであれば、これはあくまでも機械的位置決めが技術的思想であって、機械的接触があるからといって、電気的接続という発明の技術的思想は生じないのである。なぜなら発明の適用の事実問題になると、接触することも、しないことも生じ、また、接触したとしても、導通することも、しないことも生ずるからである。
従って、被請求人の議論は、発明において開示された技術的思想と、発明の適用の場合の単なる事実問題とを混同したものであり、失当である。
(ニ)本発明の実施例の外部端子と保持容器とでは、導通は得られない。
もともと外部端子で保持容器を機械的に位置決めすることを目的としていたものであるから、止むを得ないが、本発明の実施例の外部端子と保持容器の構造では導通の確保は不可能である。
例えば、保持容器に対し、外部端子をバネ圧で押圧しておかなければ、外部端子と保持容器との間の導通が図れないことは技術常識である。しかるに、当初明細書にはこのような導通の確保のための構造については全く記載も示唆もなかった。
それは、保持容器の機械的位置決めが目的であったから、外部端子のバネ圧押圧には言及していなかったのである。
従って、この点からも、当初明細書には、外部端子による保持容器の機械的位置決めの記載はあっても、電気的接続についての記載はないことが明らかである。
(ホ)成形樹脂圧力で外部端子を押付けて導通を取ることは、技術常識に反する。
被請求人は、本発明の「導通」即ち「電気的接続」に関して、株式会社大真空からの特許異議申立てに対する平成7年8月11日提出の答弁書(甲第7号証)第2頁第20行目乃至第24行目において、「本願発明は、このような水晶振動子において本体アース用外部端子を設けることにより水晶振動子本体の位置決めに溶接することなく樹脂注入により成形樹脂圧力で本体ケースがアース用外部振動子に押しつけられ、自動的にアース用外部端子との導通がとられて、アースによる性能の改善がされるようにしたものであります。」(「アース用外部振動子に押付けられ」は「アース用外部端子に押付けられ」の誤記と思われる。)と述べている。
即ち、被請求人は、本発明について、本体ケースと本体アース用外部端子との電気的導通即ち電気的接続は、成形樹脂圧力で本体ケースがアース用外部振動子に押しつけられて、自動的にアース用外部端子との「導通」がとられていると、ここにおいて初めて電気的接続の具体的手段について説明していたが、これらの内容については当初明細書には何らの記載も示唆もなく、かつ当業者に自明な事項でもない。しかも、本件特許出願の経過において唯一電気的接続に言及したのは、前記の甲第7号証の記載のみである。
仮に固定用端子をアース用外部端子としたいのであれば、保持容器と固定用端子との電気的接続に関する記載が必須であった。つまり、前記電気的接続の手段を特許請求の範囲に必須の構成要件として記載すべきものであったにもかかわらず、これを敢えて当初明細書には記載していなかったのである。
更に、被請求人は、「請求人の特許異議由立てに関する主張(11〜12頁)は無意味であり、失当である」と主張する。
しかしながら、被請求人は、当初明細書にも「導通」に関する記載が全くないために、苦し紛れに、前記のような主張をしたものと思われる。被請求人の前記電気的導通に関する主張は、技術常識に反し、現実には考えられないことである。何故ならば、保持容器に外部端子がバネ圧で押圧されていない状態で樹脂成形したら、保持容器と外部端子との間に樹脂が入り込んでしまい.その絶縁膜ができて「導通」が不可能となる可能性が大きいからである。又、樹脂の注入ゲートの位置によっては、本体ケース(保持容器)が押しつけられる方向が異なり、逆にアース用外部端子と離間することにもなってしまう。
従って、このような方法で「導通」即ち「電気的導通」を確保することは技術常識では考えられないことである。
(2)要旨変更(その2)について(答弁書第8頁〜第9頁)
(イ)被請求人は、平成4年4月23日提出の手続補正書(甲第4号証)で、本件特許発明の目的を「製造時に水晶振動子本体の位置決めが容易で、しかもモールド時の樹脂の流れにより水晶振動子本体が傾いてリードの溶接が外れたりすることがなくなると共にモールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」(甲第4号証明細書第9頁第7行目〜第14行目、下線は、請求人による。)と補正し、発明の目的を追加する補正をした。この補正について、被請求人は、「この目的の補正は、特許を請求する発明、つまり特許請求の範囲に記載する発明を明細書の記載に基づいて補正したことにより、それに合わせて補正したにすぎず、何ら明細書の要旨を変更するものではない。」(答弁書第8頁第22行目〜第25行目)と主張し、また、被請求人は、「『特許請求の範囲』に記載された発明が変更されたのであるから、目的も変わるのも当然」(答弁書第9頁第7行目〜第9行目)であると強弁する。
しかしながら、被請求人の主張は明らかに失当である。この補正、即ち○1目的の追加の補正(甲第4号証)及び○2その目的の解決手段である特許請求の範囲の補正(甲第5号証)の内容については、被請求人が認めているように、当初明細書には、前記○1の内容の記載も何らなく、その特許請求の範囲に前記○2の解決手段の記載もなかったものである。従って、このような変更は、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」でないことは明らかである。
また、一般審査基準「明細書の要旨変更」も「発明の目的、効果または用途を付加または変更する補正についても、その補正が要旨を変更するか否かについての判断は、その補正により特許請求の範囲に記載した技術的事項が実質的に変わるか否かによるものである。」としている。しかるに、この補正は、明細書の発明の目的を変更する補正をしただけではなく、その目的の解決手段である特許請求の範囲さえも変更する補正をしているのである。従って、この補正は、明細書の発明の目的を変更する補正によって、特許請求の範囲に記載した技術的事項が実質的に変わるどころか明文をもって変更する補正をしているのであるから、一般審査基準「明細書の要旨変更」にも違反していることは明らかである。
(ロ)以上から、発明の目的の追加補正事項「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」の部分は、出願当初の明細書に記載のない発明の目的を追加するもので、出願当初の発明の目的を変更するものであるから、明細書の要旨を変更するものである。
(3)要旨変更(その3)について(答弁書第9頁)
被請求人が、平成6年6月8日提出の手続補正書(甲第5号証)により、特許請求の範囲に「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」の構成要件を追加した補正は、前記7.2(1)(1.1)でも述べたように、当初明細書に全く記載がなく、また、この追加補正は前項で述べた発明の目的を変更するためのものであるから、明細書の要旨を変更するものである。」(第3頁第1行〜第9頁第17行)
(ii)「7.3 特許請求の範囲第2項に係る発明(製造方法の発明)について(答弁書第11頁〜第14頁)
(1)要旨変更(その1)について(答弁書第11頁〜第13頁)
(イ)被請求人は、当初明細書(甲第1号証)の第11頁第7行目〜第12頁第3行目の記載及び第12頁第9行目〜第14行目の記載と、組立て段階を示す第4図にも示されている、金属フレーム5の外部端子73,74が、アースすることができる端子であることが記載されている。従って、このような記載に基づき、特許請求の範囲を「アース用外部端子とするフレーム製造工程」と補正することは何ら明細書の要旨変更するものではない旨主張する。
(ロ)しかし、当初明細書には、被請求人が引用した「甲1 11頁下から2行〜12頁3行」の文章に続いて、「従ってこの例では位置決めが確実で且つ容易なものになり、リード71,72を所定位置で確実にスポット溶接ができるという利点がある。」(甲第1号証 明細書第12頁第3行目〜第6行目)との記載があることから明らかなように、保持容器を所定位置で確実にスポット溶接するための位置決めのために、金属フレームからなる外部端子が保持容器の外周面を機械的に保持し、保持容器の頂面に機械的に当接させているだけの実施例である。又、当初明細書の第12頁第9行目〜第14行目の記載においても、「固定用端子」は保持容器の位置決めのための固定専用の端子というだけであって、「固定用端子」がアース用外部端子としての実施例が記載されているものではない 従って、当初明細書には、金属フレームからなる位置決め用の外部端子のフレーム製造工程の記載はあるものの、「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」については全く記載がないことが明らかである。
(ハ)それ故、「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」の補正は要旨を変更するものである。
(2)要旨変更(その2)について(答弁書第13頁)
被請求人は、「答弁書7.2(2)で述べたように、本件における目的の補正は、明細書の要旨を変更しない。」(答弁書第13頁第10行目〜第11行目)と主張する。
しかし、前記7.2(2)において、発明の目的の追加補正事項「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」の部分は、出願当初の明細書に記載のない発明の目的を追加するもので、出願当初の発明の目的を変更するものであって、明細書の要旨を変更するものである。
(3)要旨変更(その3)について(答弁書第13頁)
被請求人は、答弁書の「7.2(3)で述べたのと同様の理由により、平成4年4月23日付けの手続補正書による手段の補正は、明細書の要旨を変更しない。」(答弁書第13頁第15行目〜第17行目)と主張する。
しかし、審判請求書7(5)(iii)及び前記7.2(1)でも述べたように、特許請求の範囲の追加補正事項である「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」の補正は、当初明細書に全く記載がなく、また、この追加補正は前項で述べた発明の目的を変更するためのものであるから、明細書の要旨を変更するものである。」(第11頁第3行〜第12頁第17行)

【4】被請求人の主張
(4-1)答弁の概要
被請求人(特許権者)は、答弁書において、概要、以下のとおり答弁している。
「請求人による本件特許発明の進歩性の否定及びいわゆる記載不備の主張は理由のないものであり、本件特許は無効理由を有しない。よって、本件審判請求は成り立たない、との審決を求める。」
(4-2)具体的理由の要点
被請求人(特許権者)は、答弁書及び上申書において、具体的理由を概要、以下のとおり主張している。
(i)「7.2 特許請求の範囲第1項に係る発明(装置発明)について
(1)要旨変更(その1)について
(1-1)請求人は、平成6年6月8日付けの手続補正書による、明細書の特許請求の範囲についての「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」という補正事項は、出願当初の明細書には記載されていないので明細書の要旨を変更するものだと主張する(8〜12頁)。
(1-1-1)しかし、出願当初の明細書(以下、「当初明細書」という)には、第4図に示した実施例の説明として「このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。」(甲1 11頁下から2行〜12頁3行)、「従ってこの外部端子73,74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(甲1 12頁9〜14行)と記載され、「外部端子83、あるいは外部端子93,94を固定専用の固定用端子として用いているので、第2の例の場合と同様にシールド効果が得られる。」(甲1 16頁1〜3行)と記載されているように、アースすることができる外部端子が記載されている。平成6年6月8日付けの手続補正書では、これらの記載に基づき、特許請求の範囲を補正したのであり、その補正は、法第41条(旧法)で規定する「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」における「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」での補正にほかならならず、何ら明細書の要旨を変更するものではない。また、請求人の指摘する一般審査基準(明細書)(9〜10頁)もすべて満たしている。
(1-1-2)請求人は、当初明細書に、前述の「従ってこの外部端子73,74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。」、「外部端子83、あるいは外部端子93,94を固定専用の固定用端子として用いているので、第2の例の場合と同様にシールド効果が得られる。」という記載があることを認めながらも(11頁15〜18行、同頁20〜21行)、何故これらの記載では「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」にならないのか実質的な理由を何ら述べていない。請求人は、「即ち、出願当初の明細書には、確かに保持容器を位置決めするための固定専用の端子については具体的に実施例が記載されてはいるものの、しかし、水晶振動子本体アース用外部端子についてはそのような文言は何ら記載されていない。」、「単に、仮定の話として、通電用端子と電気的に分離した固定専用の端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるとの記載があるだけである。」と述べているが(11頁下から7〜3行)、理由になっていない。「仮定の話として」云々は不可解である(後述)。
(1-1-3)「水晶振動子本体アース用外部端子」と全く同じ用語は当初明細書では使っていないが、補正された特許請求の範囲でこの用語を用いたのは、外部端子73、74が、保持容器(水晶振動子本体)をアースすることができる外部端子であるから、その機能を形容詞的に「外部端子」にかぶせて名付けただけであり、特定されている技術的事項は当初明細書に記載されていたものと何ら変更はない。なお、特許請求の範囲には、構成要件として別の「外部端子」もあり、それと区別する上でもこのように名付けることに意味がある。
請求人の「出願当初の明細書には、確かに保持容器を位置決めするための固定専用の端子については具体的に実施例が記載されてはいるものの、しかし、水晶振動子本体アース用外部端子についてはそのような文言は何ら記載されていない。」(11頁下から7〜5行)との主張は、平成6年6月8日付けの手続補正書による補正が、当初明細書等に記載された技術的事項を何ら変更するものでないにもかかわらず、技術的事項の同一性を見ず、単に表面的な文言の文字通りの異同のみを見て、全く同じ文言がなければ要旨変更となるとの主張である。請求人の主張が失当であることは、特許庁編一般審査基準「明細書の要旨変更」において、「要旨変更を判断する場合の注意事項」として「『記載した事項の範囲内』とは、一字一句同じことが記載されていることをいうのではなく、出願時において、その発明の属する技術分野において通常の知識を有する者(以下当業者という)が補正前の明細書からみて自明な事項も上記『記載した事項の範囲内』とみる。」と記述されていることからも明らかである。
(1-1-4)請求人は、「単に、仮定の話として、通電用端子と電気的に分離した固定専用の端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるとの記載があるだけである。」(11頁下から5〜3行)と主張するが、その意味するところは不明である。
第4図に示した実施例として記載されている「このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾価した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。」(甲1 11頁下から2行〜12頁3行)、「従ってこの外部端子73,74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(甲1 12頁9〜14行)ことが何故仮定の話なのか不可解である。
(1-1-5)なお、請求人の特許異議申立てに関する主張(11〜12頁)は、無意味であり、失当である。
(1-1-6)以上のように、平成6年6月8日付けの手続補正書による補正は、当初明細書等の記載に基づくものであり、何ら当初明細書の要旨を変更するものではない。
(1-2)請求人は、平成3年9月6日付け提出の手続補正書による明細書の全文補正について縷々述べているが(12〜15頁(ニ))、明細書の要旨変更を主張するものではなく、主張自体失当である。
(1-2-1)請求人は、当該補正において「接触」という用語を使用したことが、機械的位置決めを電気的接触にすり替えたものである如く主張する。しかし、前述したように、当初明細書には、「このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。」(甲1 11頁下から2行〜12頁3行)と記載されており、金属フレーム5に保持容器1をセットしたときに、保持容器1は、外部端子の一部である湾曲した突片7A3,7A4で保持され、かつその頂面には外部端子の一部である連結片75が当接するのであるから、突片7A3,7A4及び連結片75は保持容器1の外面に当然接触する。このように「接触」という用語を使用したのは、当初明細書における確かな技術的記載に基づくものであるにもかかわらず、請求人は、「これは、『接触』=『電気的接続』という拡張的な解釈を狙って『接触』を追加補正したとしても、それが位置決めのための機械的接触である限り、『接触』には電気的接続の技術的思想は存在しないのである。」(13頁最下行〜14頁2行)と意味不明の主張をする。「機械的接触」があれば電気的に導通されることは当然の事理である。
(1-2-2)請求人は、「出願当初明細書の第4図(b)及び第6図(b)(特許公報(甲第2号証)の第2図(b)及び第4図(b))の図面上でも、保持容器(1)と外部端子(73,74,84,85)の突片との間に隙間が存在している以上、両者は接触していないものといわざるをえない。」と主張する(14頁)。
しかし、明細書では「保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。」(当初明細書第11頁最下行〜第12第3行)と、明瞭に両者が接触していることが記載されている。図面上空間が見える例は、当業者の理解ないし単なる作図上の選択によるものである。
(1-3)請求人は、「(ホ)平成4年4月23日提出の全文補正の手続補正」と題して縷々述べるが(15〜17頁)、失当である。補正で追加されたと指摘する「アース用外部端子」については、その後の補正(平成6年6月8日付け手続補正書)で「水晶振動子本体アース用外部端子」と補正されている。そして、そのように補正することは、当初明細書に記載された範囲内のことであることは、すでに述べたとおりである。
請求人は、審査経過、補正の回数などについて述べて、被請求人が順次明細書の記載を不当に変更している如く主張するが、前述の如く、特許された発明の内容は、当初明細書に記載された事項であり、請求人の主張は根拠がない。
(2)要旨変更(その2)について
(2-1)請求人は、平成4年4月23日付け提出の手続補正書により補正した明細書に記載の目的の「製造時に水晶振動子本体の位置決めが容易で、しかもモールド時の樹脂の流れにより水晶振動子本体が傾いてリードの溶接が外れたりすることがなくなると共にモールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」における「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」が明細書の要旨変更であると主張する。
(2-2)しかし、この目的の補正は、特許を請求する発明、つまり特許請求の範囲に記載する発明を明細書の記載に基づいて補正したことにより、それに合わせて補正したにすぎず、何ら明細書の要旨を変更するものではない。法第41条は「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定するが、この「明細書の要旨の変更」とは、当初明細書に記載した技術的事項を変更することであり(審査基準)、明細書に記載された技術的事頃に基づき、その作用効果に対応させて目的を「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」と補正することは何ら明細書に記載の技術的事項を変更するものではない。請求人は、目的の記載が出願当初のものと異なったことを指摘するが、「特許請求の範囲」に記載の発明が変更されたのであるから、目的も変わるのも当然であり、そのような変更は「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の変更であり、明細書の要旨を変更しない。
(2-3)なお、一般審査基準「明細書の要旨変更」も、「発明の目的、効果または用途を付加または変更する補正についても、その補正が明細書の要旨を変更するか否かについての判断は、その補正により特許請求の範囲に記載した技術的事項が実質的に変わるか否かによるものである。」としている。
(2-4)そもそも請求人は、特許法が、目的の記載を認めていない意匠登録出願から特許出願への出願変更(法46条2項)を認めていることをどのように理解しているのであろうか。
(3)要旨変更(その3)について
請求人は、平成6年6月8日付け提出の手続補正書による解決手段の補正が要旨の変更であると主張する(20〜21頁)。しかし、7.2(1)で述べたのと全く同様の理由により、当該補正は明細書の要旨を変更しない。
(4)「必須構成要件」の欠缺について
(4-1)請求人は、平成6年6月8日付けの手続補正書による補正事項である「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」とするためには「前記保持容器と前記外周面位置決め用片及び保持容器頂面位直決め用片との間の電気的接続」が「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)であるが、それが特許請求の範囲には記載されていないから、必須構成要件を欠き、特許法36条5項の要件を満たしていないから、無効である旨主張する。その理由として「前記保持容器と前記外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」について全く記載されていないからと述べる(22〜24頁)。
しかし、特許請求の範囲第1項には、当初明細書の記載に基づき「前記保持容器の外周面に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」と、明らかにアースを取れる構成が特定されている。つまり、特許請求の範囲第1項には、必須構成要件は記載されている。請求人は、機械的位置決めの要件が記載されているだけで電気的接続については記載されていない如く主張するが、機械的接触があって電気的導通が図れないということはあり得ず、請求人の主張は理由がない。
(4-2)また、請求人は、「(ハ)出願当初の明細書の記載」(23〜24頁)において、出願時と特許請求の範囲に記載の発明が変わっているにもかかわらず、出願時の特許請求の範囲の記載を引き合いに出したり、当初明細書の記載の一部を抜き出してそれを曲解したりしているが、いずれの主張も失当である。
請求人は、「仮定の話として、固定専用の固定用端子を設ければ、保持容器を固定用端子を介してアースすることが可能になるのでそうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られるとの趣旨の記載はあるが、これは単に可能性に言及するだけであって、アース用外部端子と水晶振動子の保持容器との電気的接続の必須要件については何らの言及もなく、しかも、実施例として記載されたものではない。」(23頁)と主張するが、不可解である。この記載は、「この例のように固定用端子を設ければ」と、先に述べた実施例との対比で当該実施例の説明をしているのである。
(5)「本件特許を無効とすべき理由」について
(5-1)請求人は、本審判請求書における「7(6)本件特許を無効とすべき理由」の項を、平成16年6月11日付け提出の手統補正書(方式)で補正し、特許請求の範囲第1項に係る発明について、補正が要旨変更であるから出願日が繰り下がり、本件特許出願の出願公開公報である特開昭62-34410号公報により、進歩性がなく無効である旨主張するが、前述のとおり、本件特許には補正による要旨変更はなく、根拠のない主張である。従って、特許請求の範囲第1項記載の発明は特許法29条2項の規定に該当せず、特許無効の理由はない。
(5-2)同様に、請求人は、「必須構成要件」の欠缺を主張するが、前述のとおり特許請求の範囲第1項には「必須構成要件」は記載されており、法第36条5項の要件を満たしている。
7.3 特許請求の範囲第2項に係る発明(方法発明)について
(1)要旨変更(その1)について
請求人は、出願公告後である平成7年10月6日付けの手続補正書により補正されて特許となった特許請求の範囲第2項に記載の発明について、結局は出願公告前の平成4年4月23日付け提出の手続補正書による補正が明細書の要旨を変更するものであると主張する(25〜28頁)。
(1-1)請求人は、「アース用外部端子とするフレーム製造工程」に関する補正事項が、当初明細書に記載した事項の範囲内のものではないと主張する。そして、「なぜなら、出願当初の明細書(甲第1号証)第8頁第1行乃至同第6行の『先ず第1図に示す金属フレームの製造工程S1で第2図に示すような金属フレーム(多連外部端子フレーム)5を製造する。この金属フレーム5は、1枚の金属板から予めエッチング、プレス加工等で打ち抜かれることにより作られ、』の記載及び出願当初の明細書(甲第1号証)第11頁第7行乃至第12頁第3行の『この実施例で用いられる金属,フレーム5については、外部端子73,74の内端側は、保持容器1の頂面から底面側に若干変位した位置にて互いに離間して対向する突片7A3,7A4と、これら突片7A3,7A4の基部を互いに連結して前記頂面に沿って伸びる連結片75とが設けられ、前記突片7A3,7A4は保持容器1の外周面に適合するように湾曲している。このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾価した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。』の記載からから明らかである。」(27頁下から12〜最下行)と述べる。
(1-2)しかし、請求人の主張する理由は「明らか」ではなく、失当である。
請求人も引用するように、当初明細書には、「この実施例で用いられる金属フレーム5については、外部端子73,74,の内端側には、保持容器1の頂点から底面側に若干変位した位置にて互いに離間して対向する突片7A3,7A4と、これら突片7A3,7A4の基部を互いに連結して前記頂面に沿って伸びる連結片75とが設けられ、前記突片7A3,7A4は保持容器1の外周面に適合するように湾曲している。このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。」(甲1 11頁7行〜12頁3行)、「従ってこの外部端子73,74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(甲1 12頁9〜14行)と、組立て段階を示す第4図にも示されている、金属フレーム5の外部端子73,74が、アースすることができる端子であることが記載されている。従って、このような記載に基づき、特許請求の範囲を「アース用外部端子とするフレーム製造工程」と補正することは何ら明細書の要旨を変更するものではない。
(2)要旨変更(その2)について
請求人は、平成4年4月23日付けの手続補正書による目的の補正が、明細書の要旨の変更であると主張する(29〜31頁)。
しかし、7.2(2)で述べたように、本件における目的の補正は、明細書の要旨を変更しない。
(3)要旨変更(その3)について
請求人は、平成4年4月23日付けの手続補正書による手段の補正が、明細書の要旨の変更であると主張する(31〜33頁)。
しかし、7.2(3)で述べたのと同様の理由により、平成4年4月23日付けの手続補正書による手段の補正は、明細書の要旨を変更しない。
(4)「必須構成要件」の欠缺について
(4-1)請求人は、平成7年10月6日付けの手続補正書による補正事項である「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」とするためには「前記保持容器と前記外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」が「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)であるが、それが特許請求の範囲には記載されていないから、必須構成要件を欠き、特許法36条5項の要件を満たしていないから、無効である旨主張する(34頁)。その理由として「前記保持容器と前記外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」について全く記載されていないからと述べる(34〜36頁)。
しかし、特許請求の範囲第2項には、当初明細書の記載に基づき「前記金属フレームの保持容器外周面位置決め用片と前記保持容器頂面位置決め用片に前記保持容器の外周面と頂面を当接して金属フレーム上に水晶振動子本体を位置決めする位直決め工程と」と、明らかにアースを取れる工程についての構成が特定されている。つまり、特許請求の範囲第2項には、必須構成要件は記載されている。
請求人は、機械的位置決めの要件が記載されているだけで電気的接続については記載されていない如く主張するが、金属同士であれば機械的接触があって電気的導通が図れないということはあり得ず、請求人の主張は理由がない。
(4-2)その他の事項については、特許請求の範囲第1項について述べた7.2(4)(4-2)と同様である。
(5)「本件特許を無効とすべき理由」について
(5-1)請求人は、本審判請求書における「7(6)本件特許を無効とすべき理由」の項を、平成16年6月11日付け提出の手続補正書(方式)で補正し、特許請求の範囲第2項に係る発明について、補正が要旨変更であるから出願日が繰り下がり、本件特許出願の出願公開公報である特開昭62-34410号公報により進歩性がなく無効である旨主張するが、前述のとおり、本件特許には補正による要旨変更はなく、根拠のない主張である。従って、特許請求の範囲第2項記載の発明は特許法第29条第2項の規定に該当せず、特許無効の理由はない。
(5-2)同様に、請求人は、「必須構成要件」の欠缺を主張するが、前述のとおり特許請求の範囲第2項には「必須構成要件」は記載されており、法第36条5項の要件を満たしている。」(答弁書第3頁第16行〜第14頁末2行)
(ii)「答弁書の「7.2 特許請求の範囲第1項に係る発明(装置発明)について」における「(1)要旨変更(その1)について」(3〜6頁)に記載したように、平成6年6月8日付け提出の手続補正書による特許請求の範囲第1項における「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」という補正事項は明細書の要旨を変更するものではない。「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」という補正事項は、当初明細書の記載から自明の事項ではなく、当初明細書に記載されていた事項である。したがって、請求人提出の手続補正書(方式)の「(ニ)第1発明の甲第9号証に基づく進歩性欠如の理由」(9〜12頁)において、「仮に」として請求人が、主張する、甲第9号証及び上記補正事項を「当業者に自明な事項」として第1発明の進歩性を否定する主張は、そもそも前提において失当である。
同様に、答弁書の「7.3 特許請求の範囲第2項に係る発明(方法発明)について」における「(1)要旨変更(その1)について」(11〜13頁)に記載したように、特許請求の範囲第2項における「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」という補正事項は、明細書の要旨を変更するものではない。「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水品振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」という補正事項は、当初明細書の記載から自明の事項ではなく、当初明細書に記載されていた事項である。したがって、請求人提出の手続補正書(方式)の「(ホ)第2発明の甲第9号証に基づく進歩性欠如の理由」(12〜15頁)において、「仮に」として請求人が、主張する、甲第9号証及び上記補正事項を「当業者に自明な事項」として第2発明の進歩性を否定する主張は、そもそも前提において失当である。」(上申書第2頁第12行〜第3頁第11行)

【5】当審の判断
(5-1)本件特許発明
本件特許発明は、前記【2】の特許請求の範囲第1項及び第2項に記載されたとおりのものである。

(5-2)特許法第36条第5項の要件について
請求人は、『本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明に関する補正事項は、「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)を欠いている(無効理由4及び8)から、特許法第36条第5項の要件を満たしていない。』旨主張するので、はじめにこの点について検討する。
(5-2-1)当審の判断(特許請求の範囲第1項及び第2項について)
特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明について、請求人が主張する「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)は、いずれも『「保持容器と外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」が記載されていない』というものであるから、以下、第1項及び第2項について、併せて検討する。
(検討)
第1項に係る発明として、本件特許請求の範囲には、「電気的接続」との直截的な記載は認められないものの、これに関連する構成要件として「金属ケースよりなる保持容器」及び「前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」と明確に規定し、さらに「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」旨記載されており、また、第2項に係る発明としても、前記記載の外、「前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とが連ながった金属フレーム」との記載が認められる。そして、これらの記載は、「金属ケース」から「金属フレーム」「(水晶振動子本体アース用)外部端子」までの「電気的接続」が達成される構成を記載するものであり、かつこれらの記載からは「電気的接続」の構成が(必須のものとして)実質的に規定されていると認められる。
したがって、前記した各記載と併せて、請求人が主張する前記直截的な記載である「保持容器と外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片との間の電気的接続」をも、さらに特許請求の範囲に明示して記載することまで、要するものとはいえない。
なお、請求人は、本件明細書における記載について、機械的位置決めの要件が記載されているだけで電気的接続については記載されていないとの趣旨(請求書第13〜14頁、同23頁、同35〜36頁、及び弁駁書第3〜7頁参照)の種々の主張もするが、前記した理由により、金属ケースとアース用外部端子となす位置決め片(金属フレーム)との間に機械的接触があって電気的導通を図るものではないとは認められず、また当初明細書には「保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ」(甲第1号証、出願当初の明細書第12頁)との記載が認められ、機械的位置決め(保持容器の頂面に当接)と共に電気的な接続であるアースが達成されているのであるから、請求人の当該主張は採用することができない。
(まとめ)
以上のとおりであって、『「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)を欠いている(無効理由4及び8)から、特許法第36条第5項の要件を満たしていない。』旨の無効理由(4及び8)は、成り立たない。

(5-3)特許法第29条第2項について
(5-3-1)本件発明の出願日について
請求人は、「補正事項が明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされる(特許法第40条)。」として、本件発明に係る出願日を現実の日である昭和60年8月7日ではなく、手続補正書を提出した時(早くとも本件特許出願の公開公報発行日[昭和62年2月14日]より後である、平成3年9月6日)である旨主張しているので、まずこの出願の日(明細書の要旨変更の有無)について、検討する。
(ア)請求人の主張
請求人は、「明細書の要旨を変更する」補正事項について、特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明に共通して、出願当初の明細書に記載のない事項の補正(要旨の変更(その1))、発明の目的変更の補正(要旨の変更(その2))、目的変更のための解決手段の補正(要旨の変更(その3))を掲げ、当該手続補正に対してその具体的内容を摘示して、上記【3】(3-2-1)及び(3-2-3)のように主張している。
なお、請求人は種々の補正事項を指摘しているが、この補正事項についての主張の要点は、
・(i)「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項(甲第1号証)の範囲内にないものであって、何らの示唆もなく、自明な事項でもない。
・(ii)「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」補正事項は、出願当初の明細書に記載された発明の目的を変更する。
というものである。
(イ)手続補正の内容
平成4年4月23日付け全文補正明細書及び平成6年6月8日付け手続補正書により、少なくとも本件特許請求の範囲第1項は「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」、同じく特許請求の範囲第2項は「保持容器と接触したアース用外部端子を設け」(後に削除)の構成を具備するものとなし、さらに当該第2項は平成7年10月6日付け手続補正書により第2項に「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする」を付加して、その構成を限定している。
また、前記全文補正明細書等では、詳細な説明の欄において、その目的、作用効果として「アース用外部端子」「アース用の外部端子」に係わる記載を付加している。
(ウ)出願当初の明細書の記載内容
本件特許に係る出願当初の明細書には、請求人も主張し引用等するように、以下の記載が認められる。
・(i)「発明は水晶振動子片から1対のリードを導出させた水晶振動子を製造する方法において、水晶振動子片を保持容器内に気密に封入して成る水晶振動子本体を用い、そのリードを金属フレームに包有される外部端子にスポット溶接し、その後外部端子と水晶振動子本体とを樹脂モールド成形により一体化して水晶振動子を製造することによって、プリント板への実装が容易で且つ実装された機器の小型化に役立つ構造の水晶振動子を製造することができると共に、従来の製造工程を然程変更することなく、しかも水晶振動子片に熱影響を与えることのない製造方法を提供するものである。」(出願当初の明細書(甲第1号証)第2頁第8行〜第3頁第5行)
・(ii)「第4図(a),(b)は、第2の例に係る水晶振動子の組立て段階を示す図である。この実施例で用いられる金属フレーム5については、外部端子73,74の内端側には、保持容器1の頂面から底面側に若干変位した位置にて互に離間して対向する突片7A3,7A4と、これら突片7A3,7A4の基部を互に連結して前記頂面に沿って伸びる連結片75とが設けられ、前記突片7A3,7A4は保持容器1の外周面に適合するよう湾曲している。このような金属フレーム5を用いた場合には、保持容器1は、その外周面が湾曲した突片7A3,7A4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。従ってこの例では位置決めが確実で且つ容易なものになり、リード71,72を所定位置で確実にスポット溶接できるという利点がある。またこの例ではリード21,22に接続される外部端子71,72と保持容器1の頂部に配置される外部端子73,74とは分離した状態でモールド成形される。従ってこの外部端子73、74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(甲第1号証第11頁第6行〜第12頁第14行)
・(iii)「第6図(a),(b)は、第3の例に係る水晶振動子の組立て段階を示す図、第7図は組立後の完成品を示す図である。この例では、保持容器1の頂面からその軸方向に外部端子83が伸びると共にこの外部端子83の内端側が前記頂面に沿って折り曲げられている点、保持容器1の中央部を保持するように湾曲した位置決め用端子84,85が設けられていて、保持容器1の中央部を前記端子84,85により保持し且つ保持容器1の頂面を前記外部端子83に当接することにより位置決めを行う点、保持容器1として楕円筒状のものを用いる点等が上記の第2の例と異なる。81,82は通電用端子をなす外部端子である。」(甲第1号証第13頁第5行〜第14頁第2行)
・(iv)「第3の例及び第4の例に係る水晶振動子においては、外部端子83、あるいは外部端子93,94を固定専用の固定用端子として用いているので、第2の例の場合と同様にシールド効果が得られる。」(甲第1号証第15頁末行〜第16頁第3行)
・(v)「以上のように本発明は、水晶振動子本体を金属フレーム上に位置決めして配置し、リードと金属フレームに包有される外部端子とをスポット溶接してから外部端子と水晶振動子本体とを樹脂材でモールド成形することにより一体化して水晶振動子を製造するようにしている。従って本発明の製造方法によって得られた水晶振動子では、止めバンドや接着剤を用いずに外部端子をプリント基板に設けられたソケットに差し込む等して固定することにより実装できるから、保持容器の向きの如何にかかわらずプリント基板への実装が容易になって自動実装が可能になるため、効率よく実装作業ができる。」(甲第1号証第16頁第5行〜第17頁第2行)
(エ)検討
はじめに、請求人は、明細書の要旨変更(従前の特許法第40条)に関し、補正事項が明細書の要旨を変更するものとして、出願当初の明細書に記載のない事項の補正(要旨の変更(その1))、発明の目的変更の補正(要旨の変更(その2))、目的変更のための解決手段の補正(要旨の変更(その3))を掲げているが、このうち発明の目的変更の補正(要旨の変更(その2))は、これにより実質的に出願当初の明細書に記載のない解決手段等に係る構成を含むものとなった補正内容であることが必要であるから、この目的変更の補正(要旨の変更(その2))に対する判断は、出願当初の明細書に記載のない事項の補正(要旨の変更(その1))及び解決手段の補正(要旨の変更(その3))と併せて検討する。
・(i)出願当初の明細書に記載のない事項の補正(要旨の変更(その1))と解決手段の補正(要旨の変更(その3))について、この点が要旨変更であるとする請求人主張の補正内容は、「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」補正事項、及び「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」補正事項であるが、この補正事項のうち、「水晶振動子本体アース用外部端子」の語句自体は、本件出願当初の明細書中に記載がない。
しかしながら、この出願当初の明細書には、これに係わる記載として、前記(ウ)の(i)〜(v)に摘記したとおりの技術的事項が記載されている。そして、これらの記載、殊に「外部端子73、74は通電用端子ではなく、固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので、そうすることによってシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(前摘(ii))との記載からみて、「水晶振動子本体アース用外部端子」は出願当初の明細書に実質的に記載されていたものと認められる。さらに、この(水晶振動子本体アース用となる)外部端子は、本件出願当初の明細書添付の図面第5図及び第7図(本件特許の公告公報では第3図及び第5図)に係る外観斜視図にも、図示符号74(第5図)、83(第7図)として外部端子部分からの引出線により明確に記載されていることからも、認めることができる。また、目的、作用効果についても、前記構成として開示された「アース」「シールド効果」の記載から、これを明りょうなものとするために付加したものと認められ、出願当初の明細書及び図面に実質的に記載されていたものと認められる。
・(ii)請求人は、「出願当初の明細書には、確かに保持容器を位置決めするための固定専用の端子については具体的に実施例が記載されてはいるものの、しかし、水晶振動子本体アース用外部端子についてはそのような文言は何ら記載されていない。単に、仮定の話として、通電用端子と電気的に分離した固定専用の端子を設ければ、保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるとの記載があるだけである。」(請求書第11頁第23〜27行)旨主張するが、仮に「仮定の話」(すなわち、「固定用端子」を設ける条件付きの構成)としても、前記したとおり本件出願当初の明細書及び図面には、外部端子を固定専用の固定用端子とし、「固定用端子を介してアースすることが可能となる」と明確に記載されており、アース用とする外部端子を設ける際には、この語句による表現(すなわち、全体を短縮した「アース用外部端子」とする表現)での記載となることは普通のことであるから、請求人の当該主張は採用することができない。
また、請求人は、これに関連して、「本発明の実施例の外部端子と保持容器の構造では導通の確保は不可能である。例えば、保持容器に対し、外部端子をバネ圧で押圧しておかなければ、外部端子と保持容器との間の導通が図れないことは技術常識である。しかるに、当初明細書にはこのような導通の確保のための構造については全く記載も示唆もなかった。」(弁駁書第6頁第25〜29行)とも主張するが、本件発明は、出願当初の明細書の記載からみて、アース用となる外部端子を設けることでシールド効果を得ることができるものであればよい(大電流を流すものではない)のであるから、単に当接してアースされることでその目的・作用効果が得られるものでよく、さらに進んで請求人が主張する「バネ圧で押圧して」おく程の確実な導電接続でなければならないとの構成まで要するものとは認められないから、この主張も採用することができない。
さらに、請求人は、前記補正事項の外、種々の補正事項も指摘しているが、その指摘された内容はいずれも実質的に「前記外周面位置決め片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」構成に係わるものであって、同趣旨の補正事項に対する要旨変更の主張であるから、いずれも実質的に記載されているものであり、前記同様に採用することができない。
したがって、請求人が主張し指摘する目的、構成、効果の記載に関する前記補正事項に係る手続補正が、本件明細書の要旨を変更するものであるとは認めることができない。
・(iii)以上のとおりであるから、本件発明に係る特許出願の日は、現実の出願の日である昭和60年8月7日と認められる。
(5-3-2)引用刊行物
請求人が証拠方法として提出した引用刊行物は、前記した甲第2号証及び甲第9号証であり、その内容等は以下のとおりである。
(ア)甲第2号証(特開昭62-34410号公報)について
前記甲第2号証(特開昭62-34410号公報)は本件発明の出願公開公報であり、本件発明の出願日(前記認定のとおりであって、昭和60年8月7日である)より後に頒布されたものであるから、特許法第29条に規定する「特許出願前に……頒布された刊行物」に該当するものではない。
したがって、甲第2号証(特開昭62-34410号公報)は、本件発明の引用刊行物として採用することができない。
(イ)甲第9号証(特開昭59-139712号公報)について
前記甲第9号証(特開昭59-139712号公報)は、本件発明の出願前(昭和59年8月10日)に頒布された刊行物であって、「チップ形水晶振動子の製造方法」に関するもので、従来技術と実施例及び図面、殊に第1、3図に係わる記載を参酌すると、以下のような水晶振動子及びその製造方法に係る発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明1)
「端子を有する水晶振動子本体(4)を円筒形の金属ケース(5)よりなる保持容器内に収納して水晶振動子(12)を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本の端子(13)(13)に外部端子となる金属帯(18)を接続してモールドするものにおいて、
前記金属帯(18)の孔(19)に水晶振動子(12)を位置決めしてモールドする、チップ形水晶振動子。」
(引用発明2)
「金属帯(18)から、一対の連結帯間に、水晶振動子(12)の円筒形の金属ケース(5)よりなる保持容器の底部から同じ側に導出された2本の端子(13)(13)と接続する端子接続用外部端子と、金属フレームであって外部端子とする、フレーム製造工程と、
前記金属フレームに水晶振動子(12)を位置決めする位置決め工程と、
前記端子接続用外部端子に水晶振動子(12)の2本の端子(13)(13)を溶接する溶接工程と、
前記金属帯(18)と、外部端子を除いて樹脂材にてモールドするモールド工程と、
前記連結帯を切り離す切断工程と、
からなる、チップ形水晶振動子の製造方法。」
(5-3-3)対比・判断
(ア)特許請求の範囲第1項に係る発明について
特許請求の範囲第1項に係る発明(以下「第1発明」という。)と前記引用発明1とを対比する。
(対比)
前記引用発明1はチップ形水晶振動子に関するものであり、その「水晶振動子本体(4)」「水晶振動子(12)」「2本の端子(13)(13)」及び「外部端子となる金属帯(18)」は、本件第1発明における「水晶振動子片」「水晶振動子本体」「2本のリード端子」及び「外部端子」に相当するものと認められる。なお、図面第3図とこれに係わる記載を参酌しても、引用発明1の「外部端子となる金属帯(18)」は、金属ケース(5)よりなる保持容器の「頂面に当接する」との記載は認められず、また示唆もない。
したがって、本件第1発明と引用発明1とは、以下のとおりの一致点及び相違点を有するものと認められる。
(一致点)
「リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて、
水晶振動子本体を位置決めしてモールドした水晶振動子。」
(相違点)
(i)第1発明にあっては、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」るものであるのに対して、引用発明1にあっては、これに係わる構成を有しない点。
(ii)第1発明にあっては、「前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドする」ものであるのに対して、引用発明1にあっては、位置決め用片を有することなく、単に位置決めしてモールドするものである点。
(iii)第1発明にあっては、「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」ものであるのに対して、引用発明1にあっては、この構成を有しない点。
(検討)
そこで、前記相違点について、以下に検討する。
前記相違点(i)及び(ii)について、本件第1発明における相違点(i)(ii)に係わる構成、すなわち、「位置決め用片」に係る構成として、保持容器の外周面の形状に適合する形状(例えば「曲面形状」)となすことは電子部品の技術分野で従来より周知の技術的事項であると認められる。そして、この形状は、「位置決め」における技術常識さらにはケースの形状が「円筒形」であることを勘案すると、円筒形のケースの外周面の形状に適合する「曲面を有する」形状として構成することが自然なことであるから、引用発明1の水晶振動子においても、「位置決め用片」を設けて「曲面を有する」構成とすることは当業者に周知・慣用の技術的事項として当業者が適宜になし得るものと認められる。
しかしながら、前記相違点(i)の「保持容器の頂面に当接する」構成となすことが周知技術であると認める証拠はなく、また仮に周知技術であるとしてもこの構成と前記相違点(ii)の「モールド」構成との関連構成において、前記相違点(iii)の「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」構成は、前記周知・慣用の技術的事項乃至当業者における技術常識を斟酌しても、当業者が容易になし得るものとは認められない。
すなわち、本件第1発明は、その特許明細書及び特許請求の範囲の記載からも明らかなように、前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドするものであって、この「位置決め」に係わる構成は「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片と」により構成されるものであり、その他に何らの部品・部材などからなる位置決め用の構成(要素)を必要とするものではない。そして、この構成による作用効果として、特に、「頂面位置と当接する連結片又はアース用外部端子等により保持容器の頂面位置を決めているので、金属フレーム上への水晶振動子の位置決めが確実で且つ容易」(公告公報第4頁左欄第21〜24行)、「アース用外部端子は水晶振動子の保持容器は接触しているので、アース用外部端子をアースすることによりシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子として使用できる。」(同公報第4頁左欄第31〜34行)、「モールド時に水晶振動子本体が動くことがないので、リードは0.3mm程度以下と極めて細いものを使用できる」(同公報第4頁右欄第12〜14行)という、作用効果を奏するものである。
したがって、本件第1発明は引用発明1に基づいて当業者が容易になし得るものとは認められない。
なお、請求人は、前記相違点(iii)について、「仮に当業者に自明な事項であるとすると、第1発明は甲第9号証に記載された発明及び相違点(iii)の自明事項より容易に想到できた発明となる。」旨主張(審判請求書手続補正書第12頁第20〜22行)しているが、この相違点(iii)に係る構成は、前記したとおり本件出願当初の明細書に記載されていた構成であって、記載がないことを前提とした「自明の事項」とみる必要はないのであるから、請求人の主張はその前提において当を得ないものであり、採用することができない。
(イ)特許請求の範囲第2項に係る発明について
特許請求の範囲第2項に係る発明(以下「第2発明」という。)は、前記第1発明の「水晶振動子」について、これを「製造方法」とした発明であり、本件第2発明と引用発明2と対比すると、その相違点として、少なくとも前記第1発明と同様、実質的に前記相違点(i)〜(iii)を有するものと認められる。
したがって、本件第2発明も、前記第1発明と同様の理由により、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(5-4)まとめ
以上のとおり、本件特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、「発明の構成に欠くことができない事項」(必須構成要件)を欠いているものではなく、特許法第36条第5項の規定に違反してなされたものとすることはできない。
また、本件特許の明細書は、これに係る手続補正により明細書の要旨を変更するものではない(したがって、本件出願日は現実の出願の日である)から、その出願公開公報(甲第2号証)を引用刊行物とすることはできず、さらに、本件特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明は、本件特許出願当時の周知・慣用技術及び当業者の技術常識を勘案しても、本件特許出願の日前の特開昭59-139712号公報(甲第9号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないから、本件特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることもできない。

【6】まとめ
以上のとおりであって、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許請求の範囲第1項及び第2項に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-28 
結審通知日 2004-11-01 
審決日 2004-11-15 
出願番号 特願昭60-173701
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 嘉昭  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 治田 義孝
内田 正和
登録日 1996-03-28 
登録番号 特許第2036779号(P2036779)
発明の名称 水晶振動子及びその製造方法  
代理人 田中 康幸  
代理人 高宗 寛暁  
代理人 光石 俊郎  
代理人 宮島 明  
代理人 松元 洋  
代理人 光石 忠敬  

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