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審決分類 審判 一部無効 特29条の2 無効としない H03H
管理番号 1125197
審判番号 無効2003-35237  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-02-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-06-09 
確定日 2005-10-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2036779号発明「水晶振動子及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第2036779号の特許請求の範囲第1項に係る発明は、昭和60年8月7日に特願昭60-173701号として特許出願され、平成6年11月14日に出願公告(特公平6-91404号公報)がなされ、平成8年3月28日に特許の設定登録(発明の数2)がなされたものである。
これに対して、平成15年6月9日に請求人シチズン株式会社より、本件特許請求の範囲第1項(請求項1)に係る発明についての特許を無効とする、との審決を求める本件審判の請求がなされ、平成15年8月25日付で被請求人(特許権者)株式会社明電舎より、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める答弁書が提出され、また平成15年9月29日付で請求人より答弁書に対する弁駁書が提出されたものである。

【2】本件特許発明
本件無効審判が請求された特許請求の範囲第1項(請求項1)に係る発明は、前記出願公告がなされた後、平成7年10月6日付け手続補正書により補正された以下のとおりのものである。
「(1) リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて、
前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け、
前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に、前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子としたことを特徴とする水晶振動子。」

なお、請求人及び被請求人の主張・反論において、便宜上、本件特許発明の構成を分説し、符号a〜eを付した構成要件a〜eは、以下のとおりである。
「a.リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて、
b.前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、
c.前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け、
d.前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に、
e.前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子としたことを特徴とする水晶振動子。」

【3】審判請求人の主張
(3-1)無効とすべき理由の概要
本件審判請求人は、以下のような証拠方法を提出するとともに、本件特許の特許請求の範囲第1項(請求項1)に係る発明についての特許を無効とすべき理由について、概要、以下のとおり主張している。
「本件特許の特許請求の範囲第1項に係る発明は、本件特許出願前の実用新案登録出願に係る願書に最初に添付した明細書・図面に記載された考案である甲第1号証に、甲第2号証ないし甲第7号証の2に開示されている本件出願時の周知・慣用技術を付加したものにすぎず、したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲第1項に係る発明は、甲第1号証に記載された考案と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができず、同法第123条第1項2号(本件出願時に適用されていた同法第123条第1項1号)の規定によって無効とすべきである。」
<証拠方法>
・甲第1号証…実願昭59-125839号(実開昭61-40032号)のマイクロフィルム
・甲第2号証…実願昭57-197184号(実開昭59-107135号)のマイクロフィルム
・甲第3号証…実願昭58-157605号(実開昭60-66022号)のマイクロフィルム
・甲第4号証…特開昭59-149406号公報
・甲第5号証の1…実願昭52-170474号(実開昭54-96171号)のマイクロフィルム
・甲第5号証の2…実開昭54-96171号公報
・甲第6号証の1…実願昭51-11048号(実開昭52-103730号)のマイクロフィルム
・甲第6号証の2…実開昭52-103730号公報
・甲第7号証の1…実願昭52-78586号(実開昭54-6561号)のマイクロフィルム
・甲第7号証の2…実開昭54-6561号公報
(3-2)具体的理由の要点
本件審判請求人は、審判請求書等において、具体的理由を概要、以下のとおり主張している。
(3-2-1)審判請求書において
(i)「○2 証拠の説明
イ.甲第1号証
甲第1号証は、実願昭59-125839号(実開昭61-40032号)のマイクロフィルムであって、本件特許出願前の昭和59年8月18日に出願され、本件特許出願後の昭和61年3月13日に出願公開されものである。
また、本件特許出願の発明者は、甲第1号証の考案者と同一ではないので、特許法第29条の2本文かっこ書きの適用はない。
さらに、本件特許出願の出願人は、甲第1号証の出願人と同一ではないので、特許法第29条の2ただし書きの適用はない。
したがって、甲第1号証は、特許法第29条の2に規定する「他の特許出願又は実用新案登録出願」に該当する。
ロ.甲第2号証
甲第2号証は、実願昭57-197184号(実開昭59-107135号)のマイクロフィルムであって、昭和57年12月30日に出願され、昭和59年7月19日に出願公開された、本件特許出願前に公知の刊行物である。
本件第1項に係る発明のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明するためのものである。
ハ.甲第3号証
甲第3号証は、実願昭58-157605号(実開昭60-66022号)のマイクロフィルムであって、昭和58年10月12日に出願され、昭和60年5月10日に出願公開された、本件特許出願前に公知の刊行物である。
本件第1項に係る発明のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明するためのものである。
ニ.甲第4号証
甲第4号証は、特開昭59-149406号公報であって、昭和58年2月16日に出願され、昭和59年8月27日に出願公開された、本件特許出願前に公知の刊行物である。
本件第1項に係る発明のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明するためのものである。
ホ.甲第5号証の1
甲第5号証の1は、実願昭52-170474号(実開昭54-96171号)のマイクロフィルムであって、昭和52年12月16日に出願され、昭和54年7月7日に出願公開された、本件特許出願前に公知の刊行物である。
本件第1項に係る発明のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明するためのものである。
へ.甲第5号証の2は、実開昭54-96171号公報であって、実願昭52-170474号の公開日を証明するためのものである。
ト.甲第6号証の1
甲第6号証の1は、実願昭51-11048号(実開昭52-103730号)のマイクロフィルムであって、昭和51年2月4日に出願され、昭和52年8月6日に出願公開されたものであって、本件出願前に公知の刊行物である。
本件第1項に係る発明のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明するためのものである。
チ.甲第6号証の2
甲第6号証の2は、実開昭52-103730号公報であって、実願昭51-11048号の公開日を証明するためのものである。
リ.甲第7号証の1
甲第7号証は、実願昭52-78586号(実開昭54-6561号)のマイクロフィルムであって、昭和52年6月17日に出願され、昭和54年1月17日に出願公開されたものであって、本件出願前に公知の刊行物である。
本件第1項に係る発明のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明するためのものである。
ヌ.甲第7号証の2
甲第7号証は、実開昭54-6561号公報であって、実願昭52-78586号の公開日を証明するためのものである。」(審判請求書第3頁第16行〜同第6頁第1行)
(ii)「○3 本件第1項に係る発明と、甲第1号証に記載された発明の対比
本件第1項に係る発明は、構成要件a、c、dおよびeを備えているという点で、甲第1号証に記載された考案と共通する。
以下、両者が共通する理由について、その根拠を明示しつつ、詳細に説明する。
イ.本件第1項に係る発明の構成要件aとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件aは、「リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)第6行から第11行には、「第2図に示す断面図のように、既に気密封止されている円筒形状の圧電振動子11のリード線12をリードフレーム13に、ハンダ14で固着し、リードフレームの一部を残して圧電体10全体を金型に入れ樹脂等の物質15でモールドすることが出来る。」と記載されている。
ここで、本件第1項に係る発明の構成要件aのなかで、甲第1号証の第2図の12が「リード端子」に該当し、同11が「金属ケースよりなる保持容器」に該当し、同13が「外部端子」に該当し、同10が「モールド」に該当する。
したがって、構成要件aは、甲第1号証において、実用新案登録出願に係る考案の従来技術として記載されている。
ロ.本件第1項に係る発明の構成要件bとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件bは、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)の最後から2行目より最終行には、「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものである」と記載されている。
さらに、第2図を見れば、他のリードフレーム13’が、「保持容器外周面位置決め用片」が記載されていることは明らかである。
したがって、構成要件bのうちの「保持容器外周面位置決め用片と」は、甲第1号証において、実用新案登録出願に係る考案の従来技術として記載されている。
そうすると、構成要件bのうち、甲第1号証に記載されていないのは、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する」ことのみである。
ハ.本件第1項に係る発明の構成要件cとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件cは、「前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)の最後から2行目より最終行には、「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものである」と記載されている。
さらに、第2図を見れば、保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片を設けていることは、明らかである。
したがって、構成要件cは、甲第1号証において、実用新案登録出願に係る考案の従来技術として記載されている。
ニ.本件第1項に係る発明の構成要件dとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件dは、「前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)第6行から第11行には、「第2図に示す断面図のように、既に気密封止されている円筒形状の圧電振動子11のリード線12をリードフレーム13に、ハンダ14で固着し、リードフレームの一部を残して圧電体10全体を金型に入れ樹脂等の物質15でモールドすることが出来る。」と記載されている。
さらに、第2図を見れば、水晶振動子本体を位置決めしてモールドしていることは、明らかである。
したがって、構成要件dは、甲第1号証において、実用新案登録出願に係る考案の従来技術として記載されている。
ホ.本件第1項に係る発明の構成要件eとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件eは、「前記外周位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子としたことを特徴とする水晶振動子」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第7頁(当該明細書の第6頁)第4行から第8行には、「圧電振動子と他のリードフレームとの固着部材としては、導電性、絶縁性のどちらのものでも良い。もし、導電性のものを使用した場合圧電振動子のケースとリードフレームが導通するためシールドのための端子として使用出来る。」と記載されている。
このように、「圧電振動子のケースとリードフレームが導適するためシールドのための端子として使用出来る」とあることから、水晶振動子本体アース用外部端子とすることが記載されている。
したがって、構成要件eは、甲第1号証に記載されている。
へ.本件第1項に係る発明と、甲第1号証に記載された考案との関係
本件第1項に係る発明は、構成要件a、c、d、eおよび構成要件bのうちの「保持容器外周面位置決め用片と」を備えているという点で、甲第1号証に記載された考案と共通する。
しかし、本件第1項に係る発明は、構成要件bのうちの「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する」を備えているという点で、これを備えていない甲第1号証に記載された考案と相違する。
そこで、次に、かかる相違点「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する」を含め、本件第1項に係る発明の構成要件b全体が、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを説明する。
○4 構成要件bが周知・慣用技術であることの説明
構成要件bは、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」を要件とするものである。かかる構成要件bが、電子部品の分野において一般的に知られている技術であって、相当多数の公知文献が存在する技術に該当することを説明する。
イ.甲第2号証、甲第3号証について
甲第2号証に記載された考案は、第4頁(当該明細書の第3頁)第17行から第19行に「この実施例では断面半円形状に形成されているとともに、一方の端面には側壁18が形成されている。」とあり、また、第3図の支持部16に示されているように、構成要件bが記載されている。しかも、第4頁(当該明細書の第3頁)最終行から第5頁第1行に「第4図は部品本体2を支持し外装12を施した電子部品を示し」とあるように、外装12によって部品本体2を樹脂モールドしている。
また、甲第3号証に記載された考案は、第6頁(当該明細書の第5頁)第8行から第12行に「第5図は本考案の第2の実施例の陰極端子の斜視図であり、陰極端子26に設ける切欠き部の断面形状を、円柱状をなす素子の外周の円弧面に合せて断面を円弧状の面取りした切欠き部26aを形成する。」とあり、また、第5図の切欠き部26aに示されているように、構成要件bが記載されている。しかも、第3図(b)に外装樹脂8が記載されている。
上述のごとく、甲第2号証、甲第3号証から、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片」を設けることが、電子部品本体を樹脂モールドするという技術分野も含めて、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明することができる。
なお、「前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」という構成要件cについても、甲第2号証では第3図の側壁18に、甲第3号証では第3図(a)に、それぞれ記載されている。すなわち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件bと、「前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」という構成要件cを併有した樹脂モールド型電子部品は、本件特許出願前にすでに公知となっているのである。
ロ.甲第4号証、甲第5号証の1について
甲第4号証に記載された発明は、第2頁右上欄第7行から第8行に「一部を欠いた円筒の中へ水晶振動子ケースを差し込む形となる。」とあり、また、第4図の金属板15に示されているように、構成要件bが記載されている。
甲第5号証の1に記載された考案は、第4頁(当該明細書の第3頁)第7行から第12行に「この考案は、上述のような構造を有し、組立してる際は、プリント基板11の案内穴11bに固定枠5の差込片51aを挿入しながら固定片51で水晶2をかかえ込み、かつ度当り片52に押し当てる。次にプリント基板11の反対側に突出した差込片51aを折曲げることにより固定する。」とあり、また、第2図(b)の固定片51に示されているように、構成要件bが記載されている。
上述のごとく、甲第4号証、甲第5号証の1から、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片」を設けることが、水晶という技術分野においても、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明することができる。
ハ.甲第6号証の1、甲第7号証の1
甲第6号証の1の第4図には、ヒューズホルダー3が記載されており、ヒューズホルダー3は湾曲部を有していることから、構成要件bが開示されている。
また、甲第7号証の1の第1図には、ヒューズホルダー1が記載されており、ヒューズホルダー1は湾曲しているヒューズ保持部1Bを有していることから、構成要件bが開示されている。
上述のごとく、甲第6号証の1、甲第7号証の1から、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片」を設けることが、電子部品一般の広い技術分野においても、本件特許出願時の周知・慣用技術であることを証明することができる。
○5 本件第1項に係る発明における構成要件bの位置づけ
本件第1項に係る発明は、甲第1号証に記載された考案に、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片」という周知・慣用技術のうち、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する」ことを付加したものであって、何ら新たな効果を奏するものではない。
したがって、本件第1項に係る発明は、甲第1号証に記載された考案と実質的に同一である。
本件第1項に係る発明は、甲第1号証が出願公開される前に出願された後願であっても、その内容が先願である甲第1号証の明細書に記載された発明と同一内容の発明である以上、新しい技術を何ら開示するものではない。このような発明に特許権を付与することは、新規発明公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨に反するものである。」(同書第6頁第2行〜同第11頁第12行)

(3-2-2)答弁書に対する弁駁書(以下、単に「弁駁書」という。)において
(i)「(4)答弁書第2頁第16行から始まる「7.1(2)本件特許発明の作用効果について」の欄の主張が失当である理由
本件第1項に係る発明の作用効果についての被請求人の主張は、出願経緯参酌の原則に基づく技術的範囲の解釈に反し、失当である。出願経緯参酌の原則は、立法の過程が法令解釈上の有力な参考となるのと同様の趣旨から容認されるべきであると同時に、判断の公正かつ慎重を期する上において必要な原則だからである。
出願経緯参酌の原則に基づき、本件第1項に係る発明の技術的範囲を解釈すれば、答弁書第2頁第16行から始まる「7.1(2)本件特許発明の作用効果について」の欄における○1、○2および、○4から○8の効果は、いずれも本件第1項に係る発明の奏する特有の効果とはなりえない。
以下、その理由を本特許出願の審査・審判手続に沿って説明する。
まず、平成3年6月11日付の拒絶理由通知に対して、被請求人は平成3年9月7日に意見書を提出したが、当該意見書の第2頁第8行から第3頁第1行において、引用例との差異について、「底部から1対のリードがでている水晶振動子をモールドするに際して、金属フレームに対し位置決めが容易にできると共にモールド時の高注入圧による樹脂の流れにより水晶振動子本体の保持容器が傾いてリードの溶接が外れたり、保持容器が樹脂外部へ飛び出したりすることのないように保持容器の周面及び頂部を同時に位置決めしうる金属フレームを作っている点にあります。」と主張している。
しかし、審査官は、金属フレームが保持容器の周面及び頂部を同時に位置決めしうるという点について、発明の進歩性を認めず、平成4年1月21日付で拒絶査定がなされた。ここで注目すべきは、審査官が、拒絶査定をした理由について、拒絶査定謄本の備考欄に「水晶振動子(物)の発明として見た場合、請求の範囲の第1〜3項に記載されるような、製造工程は、何等意味がなく、単に、リード線を有しモールドされた水晶振動子であれば良いのであり、先の引例のものと格別相違するものとは認められない。また、仮に、製造方法の発明としてみても、先の引例から当業者が容易に想到し得る程度の発明と認められる。従って、出願人の主張は採用できない。」と記載している点にある。
被請求人は、拒絶査定不服審判を請求し、出願公告後に特許異議の申立を受けたが、審判官合議体により異議理由なしの決定がなされた。ここで注目すべきは、池田英治の異議申立についての平成7年11月9日付特許異議決定書の第8頁第16行から第9頁第7行において、「本願の第1発明、第2発明と甲第1〜甲第3号証のものとを対比すると、甲第1〜甲第3号証には、第1発明の位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子と兼用させる点、及び第2発明の水晶振動子本体の2本のリード端子と接続する接続用外部端子とは異なる位置決め用片を、水晶振動子本体アース用外部端子とする金属フレームを形成する点は何も記載されていない。本願の第1発明、第2発明は、それぞれ上記の点を具備することにより、ノイズに強い水晶振動子がえられるという格別の効果を奏するものと認められる。」(下線は、請求人が付加したものである。)と記載されている。そうすると、かかる審判官合議体の認定によれば、位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子と兼用させることによりノイズに強い水晶振動子がえられるという格別の効果を奏する点を根拠として、本件第1項に記載された発明の進歩性が肯定されたものと考えるのが妥当であり、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」という構成要件bは、本件第1項に係る発明の主要部とはなりえないものである。
したがって、出願経緯参酌の原則に基づき、本件第1項の技術的範囲を解釈すれば、答弁書第2頁第16行から始まる「7.1(2)本件特許発明の作用効果について」の欄における○1、○2および、○4から○8の効果は、いずれも本件第1項に係る発明の奏する特有の効果とはなりえないものである。」(第7頁第18行〜第9頁第11行)
(ii)「(5)答弁書の「7.1(3)本件請求項1に係わる特許発明と甲第1号証との対比」の欄における記載に対する反論
○1 本件第1項に係る発明の構成要件aとの対比
被請求人は、答弁書第3頁第21行に、「甲第1号証にも構成要件aは存在している」と記載してあるように、構成要件aは、甲第1号証に記載されている事項である。
○2 本件第1項に係る発明の構成要件bとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件bは、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)の最後から2行目より最終行には、「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものである」と記載されている。
さらに、第2図を見れば、他のリードフレーム13’が、「保持容器外周面位置決め用片」として記載されていることは明らかである。
したがって、構成要件bのうちの「保持容器外周面位置決め用片と」の部分は、甲第1号証において、実用新案登録出願に係る考案の従来技術として記載されている。
一方、被請求人は、答弁書第3頁の最後から3行目より最終行に「しかし、甲第1号証における「…位置合わせ…」と「保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片」とは、課題を解決するための技術的思想が全く異なるものである。」と記載しているが、仮にかかる記載を認めたとしても、本弁駁書の「7.弁駁の理由(3)○2」の欄で詳述したように、そもそも構成要件b自体が周知・慣用技術である。
したがって、構成要件bのうちの「保持容器外周面位置決め用片と」の部分が、仮に甲第1号証に記載されていないとしても、構成要件b自体が周知・慣用技術であることから、上記被請求人の主張は、特許法第29条の2の適用に関して影響を与えるものではない。
○3 本件第1項に係る発明の構成要件cとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件cは、「前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)の最後から2行目より最終行には、「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものである」と記載されている。さらに、第2図にその具体的態様が明示されていることから、当業者であれば、圧電振動子の頂面がリードフレームに当接しているものと明確に把握することができる。
そうすると、甲第1号証における「位置合わせ」と、本件第1項に係る発明の「位置決め」および「当接」とは、技術的意義として等価なものである。
したがって、構成要件cは、甲第1号証に記載されている事項に該当する。
○4 本件第1項に係る発明の構成要件dとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件dは、「前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)第6行から第11行には、「第2図に示す断面図のように、既に気密封止されている円筒形状の圧電振動子11のリード線12をリードフレーム13に、ハンダ14で固着し、リードフレームの一部を残して圧電体10全体を金型に入れ樹脂等の物質15でモールドすることが出来る。」と記載されている。
さらに、第2図を見れば、水晶振動子本体を位置決めしてモールドしていることは、明らかである。
したがって、構成要件dは、甲第1号証において、実用新案登録出願に係る考案の従来技術として記載されている事項である。
一方、被請求人は、答弁書第6頁第17行から第20行に「本件特許の構成要件dは、甲第1号証が備えていない構成要件b,cによって位置決めされた水晶振動子本体をモールドしたものであって、このように構成することにより前記(2)項で記載した効果のうち、特に○1,○2のような顕著な効果が得られるものである。」と記載しているが、かかる請求人の主張は2つの点で失当である。
すなわち、第一に、上述したごとく、構成要件bは周知・慣用技術であり、構成要件cは甲第1号証に記載されている事項であるから、「甲第1号証が備えていない構成要件b,cによって位置決めされた水晶振動子本体をモールドしたもの」と記載している点が失当である。
また、第二に、本弁駁書の「7.弁駁の理由(4)」の欄で詳述したとおり、答弁書第6頁第19行から第27行に記載した事項は、本件第1項に係る発明の顕著な効果とはなり得ないにもかかわらず、「このように構成することにより、前記(2)項で記載した効果のうち、特に○1,○2のような顕著な効果が得られるものである。」と記載している点が失当である。
○5 本件第1項に係る発明の構成要件eとの対比
本件第1項に係る発明の構成要件eは、「前記外周位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子としたことを特徴とする水晶振動子」を要件としている。
これに対して、甲第1号証第7頁(当該明細書の第6頁)第4行から第8行には、「圧電振動子と他のリードフレームとの固着部材としては、導電性、絶縁性のどちらのものでも良い。もし、導電性のものを使用した場合圧電振動子のケースとリードフレームが導通するためシールドのための端子として使用出来る。」と記載されている。
このように、「圧電振動子のケースとリードフレームが導通するためシールドのための端子として使用出来る」とあることから、水晶振動子本体アース用外部端子とすることが記載されている。
したがって、構成要件eは、甲第1号証に記載されている事項である。
一方、被請求人は、答弁書第7頁第4行から第6行に「これに対して甲第1号証のものは、圧電振動子とり一ドフレームとを固着する固着部材を意図的に導電性のものとした場合に限り、シールド効果が得られるもので、この点からも構成が異なることは明らかである。」と記載しているが、かかる被請求人の主張は失当である。
すなわち、被請求人は、答弁書の第5頁第4行から第9行に「上記審査基準に「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案とは、他の出願の当初明細書に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明又は考案をいう(答弁書では、ここに「。」が欠落していると思われる。)『記載されているに等しい事項』とは、記載されている事項から他の出願の出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるものをいう。」(下線加入)と説明されている。」と記載しておきながら、本件第1項に係る発明の構成要件eと甲第1号証との対比となるやいなや、きわめて恣意的かつ限定的に、甲第1号証第7頁(当該明細書の第6頁)第4行から第8行の記載(「圧電振動子と他のり一ドフレームとの固着部材としては、導電性、絶縁性のどちらのものでも良い。もし、導電性のものを使用した場合圧電振動子のケースとり一ドフレームが導通するためシールドのための端子として使用出来る。」)を解釈している。
圧電振動子とリードフレームとを固着する固着部材を導電性のものとした場合にシールド効果が得られることが明確に記載されているのであるから、構成要件eは甲第1号証に「記載されている事項」と評価するのが妥当である。
仮に、構成要件eが甲第1号証に「記載されている事項」に該当しないとしても、構成要件eは、甲第1号証に記載されている事項から、甲第1号証の出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるものであるから、構成要件eは、甲第1号証に「記載されているに等しい事項」に該当することは明らかである。」(第9頁第15行〜第13頁第7行)
(iii)「(6)答弁書の「7.1(4)対比結果について」の欄の記載に対する反論
本弁駁書の「7.弁駁の理由(5)」の欄で詳述したように、甲第1号証に構成要件a、構成要件bのうちの「保持容器外周面位置決め用片と」の部分、および構成要件cから構成要件eが記載されている。本件第1項に係る発明と甲第1号証に記載された事項を対比すると、甲第1号証に構成要件bのうちの「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する」ことが記載されていないという相違があるが、それが課題解決のための具体化手段における微差(周知・慣用技術の付加であって、新たな効果を奏するものではないもの)に該当することから、本件第1項に係る発明は、甲第1号証に記載された考案と実質的に同一である。」(第13頁第8〜17行)

【4】被請求人の主張
(4-1)答弁の概要
被請求人(特許権者)は、答弁書において、概要、以下のとおり答弁している。
「特許第2036779号の特許請求の範囲第1項に係わる発明は、甲第1号証に記載された考案とは同一ではなく、特許は無効とはならない。」
(4-2)具体的理由の要点
被請求人(特許権者)は、答弁書において、具体的理由を概要、以下のとおり主張している。
(i)「(2)本件特許発明の作用効果について
上記(1)項記載のように構成することにより、本件特許発明は次のような作用効果を奏するものである。
○1 位置決め用端子ないしアース用の外部端子の湾曲した部分で水晶振動子の保持容器の上部外周面を保持すると共に、頂面位置と当接する連結片又はアース用外部端子等により保持容器の頂面位置を決めているので、金属フレーム上への水晶振動子の位置決めが確実で且つ容易なものになり、リードを所定位置で確実に溶接することができる。
○2 モールドする場合、可塑性樹脂のように注入圧が高い場合であっても保持容器の位置決めが確実になされているので、樹脂の流れによって水晶振動子本体が傾いて溶接されているリードが外れたり、水晶振動子本体が樹脂外へ露出したりすることがない。
○3 アース用外部端子は水晶振動子の保持容器は接触しているので、アース用外部端子をアースすることによりシールド効果が得られ、ノイズに強い水晶振動子として使用できる。
○4 この水晶振動子は外部端子をハンダまたは接着剤によりプリント基板に効率よく実装作業ができる。そして自動実装が可能になることから、IC等の一般電子部品と同等の部品として取り扱うことができ、取り扱い上便利になる。
○5 保持容器を横にした状態でプリント基板に取り付けることかできるから、水晶振動子の高さが低くなり、プリント板の厚さを小さくすることができるので、結果小型機器にも好適に用いることができる。
○6 保持容器内に水晶振動子片を気密に封入した水晶振動子を更に樹脂材でモールド形成により覆っているから、気密性が完全であり、周波数精度が高くなる等信頼性の高いものになる。
○7 モールド時に水晶振動子本体が動くことがないので、リードは0.3mm程度以下と極めて細いものを使用できる。このため水晶振動子片に対する溶接時の熱負荷を非常に少なくできるので、周波数精度が損なわれることがない。
○8 金属板や樹脂材が非常に安価であること及び構造が量産向であることからコストアップを抑えることができる。
(3)本件請求項1に係わる特許発明と甲第1号証との対比
イ.本件請求項1の構成要件aについて
前記(1)項で示す構成要件aは、発明の前提となる従来のモールドされた水晶振動子を示したものであり、したがって、甲第1号証の各部材の呼称名は異なるが、甲第1号証にも構成要件aは存在している。
ロ.本件請求項1の構成要件bについて
甲第1号証にはこの構成要件bは存在しない。
請求人は、甲第1号証第3頁(当該明細書第2頁)の最後から2行目より最終行に記載された「圧電振動子11は他のり一ドフレーム13’に位置合わせされているものである」をもって「保持容器外周面位置決め片」が記載されていると主張している。
しかし、甲第1号証における「…位置合わせ…」と「保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片」とは、課題を解決するための技術的思想が全く異なるものである。
すなわち、甲第1号証における「…位置合わせ…」は、上記2頁最終行の続きとして「…位置合わせされているものであるが、モールドの際の高圧により移動してしまいモールド後に圧電振動子がモールド表面より浮き出る恐れが生じていた。」と記載されているように、リードフレームが積極的に圧電振動子を支持しながら位置決めするという思想はないものである。このことは、圧電振動子がモールド表面より浮き出ることの問題点を解決するために、圧電振動子とリードフレームとの間に固着部材を挿入して両者間を固定していることからも明らかである。更に、「保持容器外周面位置決め用片」は曲面を有するものであるのに、甲第1号証はそれを示唆すらしていない。
また、前述した甲第1号証の明細書2頁最後から2行目より最終行の説明で引用している第2図を見ても、構成要件bをうかがわせるような記載は一切なく、示唆するようなこともない。
これに対して、本件特許の保持容器外周面位置決め用片は、形成されたその湾曲面に保持容器を支持しながら位置決めし、例えば第2図(b)でいえば、図面上下方向の位置決めを確実に行うためのものであって、甲第1号証のり一ドフレームとは意図するところが全く異なるものである。
なお、請求人は、本件特許の構成要件bに対し、本件発明第1項に係わる発明の属する技術分野において本件特許出願時に一般的に知られている技術であって、相当多数の公知文献が存在する技術に該当するとして甲第2号証〜甲第7号を挙げて主張している。しかし、かかる主張も以下で述べる理由により失当である。
そもそも、特許法第29条の2の趣旨は、審査基準の第3章特許法第29条の2によれば、「明細書又は図面に記載されている発明は、特許請求の範囲以外に記載されていても、特許掲載公報の発行又は出願公開により一般にその内容は公表される。したがって、たとえ先願の特許掲載公報の発行又は出願公開前に出願された後願であっても、その発明が先願の明細書又は図面に記載された発明と同一である場合には、特許掲載公報の発行又は出願公開をしても新しい技術を何ら公開するものではない。このような発明に特許を付与することは、新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当ではないので、後願を拒絶すべきものとした。」としており、拒絶の対象となるものは先願の明細書又は図面に記載された発明と同一の発明である。先願の明細書等に記載された発明は、上記審査基準に「他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案とは、他の出願の当初明細書に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明又は考案をいう『記載されているに等しい事項』とは、記載されている事項から他の出願の出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるものをいう。」(下線加入)と説明されている。つまり、あくまでも先の出願の明細書に記載されている事項をベースとするものであり、それから技術常識を勘案すれば導きだせるものも含むということである。記載されている事項と離れて、他の技術文献を持ってきて組み合わせるものは該当しないことは明かである。
したがって、請求人の主張のように甲第2号証乃至甲第7号証を公知文献として引用することは、特許法上根拠がなく失当である。甲第1号証について見ると、その記載に基づき如何に技術常識を参酌したとしても、圧電振動子11の外周面に適合する曲面を有する突片が記載されているとすることは到底できない。
なお、これら甲第1号証乃至甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証は本件特許発明とはそもそも対象が異なり、水晶振動子の技術分野における公知技術の証明ではない。
また、甲第5号証は水晶(振動子)に関連する考案ではあるが、本件特許の構成要件bや甲第1号証におけるリードフレームとは全く異質な、水晶(振動子)そのものをプリント基板に取付けるための技術を開示するものであり、甲第1号証に記載されている事項から把握される発明を導き出すにあたり、技術常識として参酌されるべき周知技術、慣用技術等に該当するものではない。
ハ.本件請求項1の構成要件cについて
甲第1号証にはこの構成要件cは存在しない。
構成要件cにおける保持容器頂面位置決め用片は、文字どおり保持容器の頂面をこの位置決め用片に当接させて保持容器の軸方向を位置決めするためのもので、この軸方向の位置決めが確実となることによってリードを外部端子の所定位置に確実に溶接することを可能としたものである。すなわち、保持容器を金属フレームに位置決めするとき、保持容器の下面側より構成要件bにおける保持容器外周面位置決め用片で支え、保持容器の軸方向に対しては保持容器頂面位置決め用片で位置決めしている。この2つの位置決め用片の作用が相僕って、より精確なる位置決めが可能となり、前記(2)項の効果、特に○1,○2,○7のような効果が得られるものである。
これに対して請求人は、甲第1号証第3頁(当該明細書第2頁)の最後から2行目より最終行に記載された「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものである」と、第2図をもとに構成要件cを備えていると主張している。
しかし、甲第1号証におけるリードフレームと圧電振動子との関係は、モールド注入時に浮き出るような関係であって、圧電振動子の頂面がリードフレームに当接しているとは記載されていない。
ニ.本件請求項1の構成要件dについて
甲第1号証にはこの構成要件dは存在しない。
本件特許の構成要件dは、甲第1号証が備えていない構成要件b,cによって位置決めされた水晶振動子本体をモールドしたものであって、このように構成することにより前記(2)項で記載した効果のうち、特に○1,○2のような顕著な効果が得られるものである。
これに対して甲第1号証では、明細書の[本考案の効果](5頁3行〜6頁8行目)に記載のような効果は得られるが、その内容は、圧電振動子とリードフレームとを固着部材26を介して固着することによって、モールドの際の高温高圧による不具合が改善されること、及び、モールドの際の高圧によって圧電振動子とリードフレームとに位置ずれを起こすことがなくモールドさせることができる効果が一応は得られるものであって、この場合においても、本件発明のように金属フレーム上への水晶振動子の位置決めを確実に、且つ、容易にできるという効果は得られないものである。
ホ.本件請求項1の構成要件eについて
甲第1号証にはこの構成要件eは存在しない。
構成要件eは、甲第1号証が備えていない構成要件b,c,dが前提となっているものであり、位置決め用片を単にアースするだけでシールド効果を持たせ、ノイズに強い水晶振動子を得られるものである。
これに対して甲第1号証のものは、圧電振動子とリードフレームとを固着する固着部材を意図的に導電性のものとした場合に限り、シールド効果が得られるもので、この点からも構成が異なることは明らかである。
(4)対比結果について
(3)項での各構成要件毎の対比で明らかなように、保持容器を金属フレームに位置決めするとき、保持容器の下面側より曲面を有する保持容器外周面位置決め用片にて支え、また、保持容器の軸方向に対しては保持容器の頂面に当接して保持容器頂面位置決め用片で位置決めすることにより金属フレーム上への保持容器の位置決めを容易に、しかも確実に行うことができる。このため、後のモールド樹脂注入時にもその高圧に耐えて水晶振動子本体が傾いたり、リードが外れる現象は生じないものである。
甲第1号証は、リードフレームと圧電振動子とを固定部材によって固着しなければモールド注入時には圧電振動子は移動するものであり、固定部材による固定手段を採ると、固定部材による固定工程、及び乾燥工程が増え、これら製造工程が増えるばかりでなく、固定部材費及び温度管理を含む固定部材そのものの管理が必要となってコストアップ要因となり、(2)項○8の本件特許発明の効果は望めない。また、シールド効果を得るためには、予め固定部材を特別に導電性のものとしなければならない。
このような差異は単なる表現上の差異ではなく、また、設計上の微差でもなく、製品としてのトータル効果に大きく影響するもので、両者は技術的思想を大きく異にする。
したがって、本件特許の請求項1に係わる発明と甲第1号証に記載された考案とは実質同一ではない。」(答弁書第2頁第16行〜第7頁第26行)

【5】当審の判断
(5-1)本件特許発明
本件特許発明は、前記【2】の特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのものである。

(5-2)証拠方法
(5-2-1)甲第1号証(実願昭59-125839号(実開昭61-40032号)のマイクロフィルム)について
前記甲第1号証(実願昭59-125839号(実開昭61-40032号)のマイクロフィルム)には、従来技術と実施例及び図面に係わる記載を参酌すると、以下のとおりの記載が認められる。
(i)「圧電振動子のリード線をリードフレームに固着し該リードフレームの一部を残して全体を物質でモールドする圧電体において、該リード線を熱硬化性の導電性固着部材で固着し、かつ該圧電振動子を他のリードフレームに固着部材で固着したことを特徴とする圧電体。」(実用新案登録請求の範囲)
(ii)「第2図に示す断面図のように、既に気密封止されている円筒形状の圧電振動子11のリード線12をリードフレーム13に、ハンダ14で固着し、リードフレームの一部を残して圧電体10全体を金型に入れ樹脂等の物質15でモールドすることが出来る。
これにより、IC基板の形状となり自動装着等に便利な形状となっているものである。
しかし、モールドする際、高温高圧が加わるために圧電振動子11のリード線12とリードフレーム13とのハンダ付け14部分がハンダであり、ハンダは熱可塑性のために熱くなりはずれてしまうおそれがある。
また、圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものであるが、モールドの際の高圧により移動してしまいモールド後に圧電振動子がモールドした表面より浮き出る恐れも生じていた。」(出願公開明細書第2頁第6行〜第3頁第3行)
(iii)「[実施例の説明]
第1図は、本考案の実施例を示す断面図である。
圧電振動子11は、内部に励振電極を施された圧電振動板が支持具により固着され、真空雰囲気かN2封止された気密構造であり、リード線12が引き出されリードフレーム13に載置されている。これに高温にも堪えられるようポリイミド系やエポキシ系の熱硬化性の導電性固着部材24により導通を保たせてある。これによって物質1によるモールドの熱が加わっても、導電性固着部材24は熱硬化性であるため熱可塑性のハンダのように溶触することかないため、モールドの際に固着部分のはずれを起こすことかない。
一方、リード線12を固着したリードフレーム13とは反対側にあるリードフレーム13’は圧電振動子11の位置合わせに使われているものであるが、物質15によるモールドの際の高圧により位置がズレてしまい、最悪の場合には圧電振動子の一部がモールドの表面から浮き出てしまう等の不具合があった。そこで、リードフレーム13’に圧電振動子11を位置合わせした後、固着部材26により圧電振動子11を固着する。これにより圧電振動子11は物質15によるモールドの際の高圧が加わっても13’リードフレーム13’との位置ズレを起こすことなくモールドさせることができる。」(同明細書第3頁第17行〜第5頁第2行)
(iv)「[本考案の効果]
本考案は、圧電振動子をリードフレームに固着した後、リードフレームの一部を残して全体を物質でモールドした圧電体が、モールドの際の高温高圧により生じる不具合を改善したものであって、リード線をハンダ等の熱可塑性のもので固着した場合にモールドの際の熱が再度加わることによりハンダが溶融するためにリード線のハンダはずれが生じていたが、本考案により、熱硬化性の導電性固着部材であるエポキシ系やポリイミド系の樹脂等を使用することにより高温まで耐えられ、また、熱硬化性のものであるからモールドの際の熱が再度加わっても影響がない。
また、圧電振動子は他のリードフレームに位置合わせがなされて固着部材で固着されているため、モールドの際の高圧によって圧電振動子とリードフレームとに位置ズレを起こすことがなく、モールドさせることが出来る。
本考案では、圧電体として圧電振動子を例に取ったが、圧電振動子を使用する圧電発振器においても同様に行うことができる。
圧電振動子と他のフレームとの固着部材としては、導電性、絶縁性のどちらのものでも良い。もし、導電性のものを使用した場合圧電振動子のケースとリードフレームが導通するためシールドのための端子として使用できる。
また、圧電振動子としては、水晶振動子の他に、圧電セラミックやタンタル酸リチウム等が挙げられる。」(同明細書第5頁第3行〜第6頁第11行)
(v)以上の記載によれば、圧電振動子(11)として水晶振動子を用いるものが例示されており、また「圧電振動子のケースとリードフレームが導通するためシールドのための端子として使用できる」等からケースは金属ケースであり、リードフレーム(13’)はアース用外部端子となることが開示されており、さらに該圧電振動子(11)は「円筒形状」であること等から、この甲第1号証には、以下のような考案が記載されている。
「リード線(12)を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる円筒形状の保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード線(12)にリードフレーム(13)を熱硬化性の導電性固着部材(24)で固着して接続し、樹脂等の物質(15)でモールドするものにおいて、
前記リードフレーム(13)とは反対側にあるリードフレーム(13’)に圧電振動子(11)を位置合わせした後、導電性の固着部材(26)により圧電振動子(11)を固着し、
モールド時に、圧電振動子(11)は物質(15)によるモールドの際の高圧でも該リードフレーム(13’)と位置ズレを起こすことなくモールドさせ、
該リードフレーム(13’)を水晶振動子本体アース用外部端子とした水晶振動子。」

(5-2-2)周知・慣用技術について
本件特許発明の出願時における周知・慣用技術として、以下のような技術的事項が認められる。
(i)実願昭57-197184号(実開昭59-107135号)マイクロフィルム(甲第2号証)は電子部品の「リードフレーム」であって、その第3、4図等を参酌すると、以下の技術的事項の記載が認められる。
「この実施例では断面半円形状に形成されているとともに、一方の端面には側壁18が形成されている。」(出願公開明細書第3頁第17〜19行)との記載あり、また第3図には支持部(16)が示されている。また、「第4図は部品本体2を支持し外装12を施した電子部品を示し」(同明細書第3頁末〜第5頁第1行)と記載されているように、外装(12)によって部品本体(2)が樹脂モールドされている。
(ii)実願昭61-127215号(実開昭63-33520号)マイクロフィルム(甲第3号証)は「チップ型固体電解コンデンサ」であって、その第3、5図等を参酌すると、以下の技術的事項の記載が認められる。
「第5図は本考案の第2の実施例の陰極端子の斜視図であり、陰極端子26に設ける切欠き部の断面形状を、円柱状をなす素子の外周の円弧面に合せて断面を円弧状の面取りした切欠き部26aを形成する。」(出願公開明細書第5頁第8〜12行)との記載があり、また第5図に切欠き部(26a)が示されている。また、第3図(b)に外装樹脂(8)が記載されている。
(iii)特開昭59-149406号公報(甲第4号証)は圧電振動子と温度センサ内蔵ICを配した「回路実装構造」であって、その第4図等を参酌すると、以下の技術的事項の記載が認められる。
「金属板が形成した一部を欠いた円筒の中へ水晶振動子ケースを差し込む形となる。」(第2頁右上欄第6〜8行)との記載があり、また、第4図に金属板(15)が示されている。
(iv)実願昭52-170474号(実開昭54-96171号)のマイクロフィルム(甲第5号証)は「水晶の取付け構造」であって、その第2図等を参酌すると、以下の記載が認められる。
「この考案は、上述のような構造を有し、組立してる際は、プリント基板11の案内穴11bに固定枠5の差込片51aを挿入しながら固定片51で水晶2をかかえ込み、かつ度当り片52に押し当てる。次にプリント基板11の反対側に突出した差込片51aを折曲げることにより固定する。」(出願公開明細書第3頁第7〜12行)との記載があり、また、第2図(b)に固定片(51)が示されている。
(v)実願昭51-11048号(実開昭52-103730号)のマイクロフィルム(甲第6号証)は「管ヒューズのホルダー」であって、その第4図等を参酌すると、「ヒューズホルダー(3)」が記載されており、このヒューズホルダー(3)は管ヒューズ金具(2)に沿った湾曲部を有している。
(vi)実願昭52-78586号(実開昭54-6561号)のマイクロフィルム(甲第7号証)は「プリント配線キバン装置」であって、その第1図等を参酌すると、「ヒューズホルダー(1)」が記載されており、このヒューズホルダー(1)は湾曲したヒューズ保持部1Bを有している。

(5-3)対比・判断
特許請求の範囲第1項に係る発明(以下「本願発明」という。)と本願発明の出願の日前の出願である前記実願昭59-125839号(実開昭61-40032号)のマイクロフィルムの出願公開明細書及び図面(甲第1号証。以下、図面を含め単に「先願明細書」という。)に記載された前記考案(以下「先願考案」という。)とを対比する。
(対比)
前記先願明細書には、前記のとおり圧電振動子(11)として水晶振動子が例示されており、上記先願考案における「リード線(12)」「リードフレーム(13)」は、それぞれ本願発明における「リード端子」「外部端子」に相当するものと認められる。また、先願考案における「リードフレーム(13’)」は、圧電振動子(11)を位置合わせした後、位置ズレを起こすことなくモールドされてアース用外部端子となるものであるから、本願発明における「外周面位置決め用片及び保持容器頂面位置決め用片」に対応させることができる。
そして、先願明細書及び図面第1、2図とこれに係わる記載を参酌すると、先願明細書におけるリードフレーム(13’)は、圧電振動子(11)を位置合わせした後、モールド時の位置ズレを起こすことがない構成となるものであり、該圧電振動子(11)ケースは円筒形状であることから、本願発明における「外周面位置決め用片」として「保持容器の外周面の形状に適合する」構成を有するものと認められるものの、外周面の形状に適合する「曲面」を具備するものとの記載は認められない。さらに、図面第1図とこれに係わる記載を参酌すると、該リードフレーム(13’)は、圧電振動子(11)ケースの頂面と導電性の固着部材(26)で固着されるものの、ケースの「頂面に当接する」との記載は認められない。
したがって、本願発明と先願考案とは、以下のとおりの一致点及び相違点(i)を有するものと認められる。
(一致点)
「リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し、保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて、
前記保持容器の外周面の形状に適合する保持容器外周面位置決め用片と、
保持容器頂面位置決め用片とを設け、
前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に、
前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした水晶振動子。」
(相違点)
(i)本願発明にあっては、保持容器外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片が、「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片」であり、水晶振動子本体の位置決めを、「前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片」により行うものであるのに対して、先願考案にあっては、保持容器外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片に相当する「リードフレーム(13’)」が、保持容器の外周面の形状に適合する「曲面を有する」ものであるか明らかでなく、また「保持容器の頂面に当接する」ものであるかも明らかではなく、さらに水晶振動子本体の位置決めを、「リードフレーム(13’)と導電性の固着部材(26)」により行うものである点。
(検討)
請求人は、この相違点(i)について、周知・慣用技術を参酌すると、先願明細書(甲第1号証)に実質的に開示されている旨主張している。
そこで、前記相違点(i)について、周知・慣用技術を参酌することによりこれが単なる相違点であって実質的な相違点といえないものであるか、すなわち先願明細書(甲第1号証)に実質的に開示されているものといえるか否かについて、以下に検討する。
本願発明において、前記相違点(i)に係わる個々の構成自体、すなわち、「位置決め用片」に係る構成として、保持容器の外周面の形状に適合する「曲面を有する」構成となすこと、及び「保持容器の頂面に当接する」構成となすことは、電子部品に関する点で共通の技術分野である前記甲第2乃至7号証に開示されているように従来より周知の技術的事項であると認められる。そして、前記相違点(i)についての保持容器の外周面の形状に適合する「曲面を有する」構成とすることは、的確な位置合わせと保持を行うことを要する「位置決め」における技術常識、さらには、先願考案においても位置合わせ乃至位置決めを行うものであって当該ケースの形状が「円筒形状」であることを勘案すると、その形状を円筒形状ケースの外周面の形状に適合する「曲面を有する」形状として構成されていると見るのが自然であるから、この「曲面を有する」構成とすることは当業者に周知・慣用の技術的事項乃至自明の事項として先願明細書(甲第1号証)に実質的に開示されているものと認められる。
しかしながら、前記相違点(i)の「保持容器頂面位置決め用片」に係わる「保持容器の頂面に当接する」構成とすること、及びこれに基づく水晶振動子本体の位置決めを、「前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片」により行う構成にあっては、前記周知・慣用の技術的事項乃至当業者における技術常識を斟酌しても、先願明細書(甲第1号証)に実質的に開示されているものとは認められない。
すなわち、本願発明は、その特許明細書及び特許請求の範囲の記載からも明らかなように、前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドするものであって、この「位置決め」に係わる構成は「前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と、前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片と」により構成されるものであり、その他に何らの部品・部材などからなる位置決め用の構成(要素)を必要とするものではない。そして、この構成による作用効果として、「頂面位置と当接する連結片又はアース用外部端子等により保持容器の頂面位置を決めているので、金属フレーム上への水晶振動子の位置決めが確実で且つ容易」(公告公報第4頁左欄第21〜24行)、「モールド時に水晶振動子本体が動くことがないので、リードは0.3mm程度以下と極めて細いものを使用できる」(同公報第4頁右欄第12〜14行)という、作用効果を奏するものである。
他方、先願明細書(甲第1号証)には、前記摘記(ii)した従来技術として「モールドする際、高温高圧が加わるために圧電振動子11のリード線12とリードフレーム13とのハンダ付け14部分がハンダであり、ハンダは熱可塑性のために熱くなりはずれてしまうおそれがある。また、圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものであるが、モールドの際の高圧により移動してしまいモールド後に圧電振動子がモールドした表面より浮き出る恐れも生じていた。」(出願公開明細書第2頁第14行〜第3頁第3行)旨記載され、これを解決するための構成として、前記摘記(iii)した「リード線12が引き出されリードフレーム13に載置されている。これに高温にも堪えられるようポリイミド系やエポキシ系の熱硬化性の導電性固着部材24により導通を保たせてある。」(同明細書第4頁第1〜5行)とともに、「リード線12を固着したリードフレーム13とは反対側にあるリードフレーム13’は圧電振動子11の位置合わせに使われているものであるが、物質15によるモールドの際の高圧により位置がズレてしまい、最悪の場合には圧電振動子の一部がモールドの表面から浮き出てしまう等の不具合があった。そこで、リードフレーム13’に圧電振動子11を位置合わせした後、固着部材26により圧電振動子11を固着する。これにより圧電振動子11は物質15によるモールドの際の高圧が加わっても13’リードフレーム13’との位置ズレを起こすことなくモールドさせることができる。」(同明細書第4頁第10行〜第5頁第2行)というものであり、また前記摘記(iv)した「圧電振動子は他のリードフレームに位置合わせがなされて固着部材で固着されているため、モールドの際の高圧によって圧電振動子とリードフレームとに位置ズレを起こすことがなく、モールドさせることが出来る。」(同明細書第5頁第16〜20行)との作用効果を奏するものとして記載されている。
これらの記載によれば、先願考案における「固着部材(26)」は、圧電振動子(11)を固着するために必須の構成部材として記載されており、また前記したようにリードフレーム(13’)は、圧電振動子(11)ケースの「頂面に当接する」との記載が有るものとも認められないことから、この「固着部材(26)」は先願考案に必須のものでこれを省略することは先願考案の所期の目的・課題を逸脱するものとなり、さらに先願考案は本願発明の作用効果を潜脱するものであるから、モールドする際にこの「固着部材(26)」を省略する構成、及び固着乃至位置合わせのためにリードフレーム(13’)を圧電振動子(11)ケースの「頂面に当接する」構成は、当業者に自明の技術的事項として先願明細書に実質的に開示されているものとは認められない。
また、先願明細書のその余の記載においても、本願発明における具体的な位置決めに係る関連構成が、当業者に自明の技術的事項として実質的に開示されているものとも認められない。
したがって、本願発明と先願考案との相違点とした前記相違点(i)に係る構成は実質的な相違点といえるものであり、当該相違点(i)に係る構成は、先願明細書において当業者に自明の技術的事項として実質的に開示されているとはいえないから、本願発明と先願発明とは実質的に同一の発明であるとは認められない。

(5-4)請求人の主張について
請求人は、弁駁書において『甲第1号証第3頁(当該明細書の第2頁)の最後から2行目より最終行には、「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされているものである」と記載されている。さらに、第2図にその具体的態様が明示されていることから、当業者であれば、圧電振動子の頂面がリードフレームに当接しているものと明確に把握することができる。そうすると、甲第1号証における「位置合わせ」と、本件第1項に係る発明の「位置決め」および「当接」とは、技術的意義として等価なものである。したがって、構成要件cは、甲第1号証に記載されている事項に該当する。』(弁駁書第10頁第17〜26行)旨主張するとともに、『上述したごとく、構成要件bは周知・慣用技術であり、構成要件cは甲第1号証に記載されている事項であるから、「甲第1号証が備えていない構成要件b,cによって位置決めされた水晶振動子本体をモールドしたもの」と記載している点が失当である。』(弁駁書第11頁第17〜20行)としている。
しかしながら、前記したように、前記先願明細書(甲第1号証)には、リードフレーム(13’)を圧電振動子(11)ケースの「頂面に当接する」構成となすこと及び「固着部材(26)を省略する」構成となすことは何ら記載されておらず、逆に、第2図に係る従来技術での「固着部材(26)」を欠くことによる欠点乃至課題、さらには「固着部材(26)」が導電性であることを条件としてリードフレーム(13’)が「シールドのための端子として使用できる」旨の記載からは、リードフレーム(13’)は圧電振動子(11)ケースの「頂面に当接していない」構成であることを示唆しているものといえる。そして、前記位置決めについて、甲第1号証(先願明細書)に開示されている技術的事項は、前記したように、従来技術として「圧電振動子11は他のリードフレーム13’に位置合わせされている」、及び先願考案として「リードフレーム13’に圧電振動子11を位置合わせした後、固着部材26により圧電振動子11を固着する」というに留まるものであるから、仮にこのケースの「頂面に当接する」構成自体が、請求人が主張するように周知の技術的事項であるとしても、モールドの際に固着部材(26)を省略してケースの「頂面に当接する」構成を組み合わせて採用することにより、「位置決めが確実で且つ容易」等を図ることに係わる技術的意義及び作用効果についての記載乃至示唆は、先願明細書(甲第1号証)から認めることができない。
したがって、請求人の当該主張は採用することができない。
なお、請求人は、本件特許の出願経緯を参酌(殊に、異議の決定)して、本件特許に関する作用効果の不当を種々主張する(弁駁書第7頁第18行〜第9頁第11行)が、本件無効審判の無効理由及び証拠と異議申立に係る理由及び証拠とは異なるものであって、作用効果に係る判断の前提とするところも当該異議申立における認定・判断の内容と異なるものであるから、作用効果に係わる請求人の主張も採用することができない。

(5-5)まとめ
以上のとおりであって、本件特許請求の範囲第1項に係る発明は、本件特許出願当時の周知・慣用技術及び当業者の技術常識を勘案しても、本件特許出願の日前の実用新案登録出願であって本件特許出願後に出願公開された実願昭59-125839号(実開昭61-40032号のマイクロフィルム、甲第1号証)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された考案と同一であるとは認められないから、本件特許請求の範囲第1項に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものとすることはできない。

【6】まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許請求の範囲第1項に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-29 
結審通知日 2003-11-04 
審決日 2003-11-26 
出願番号 特願昭60-173701
審決分類 P 1 122・ 16- Y (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 嘉昭  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 下野 和行
治田 義孝
登録日 1996-03-28 
登録番号 特許第2036779号(P2036779)
発明の名称 水晶振動子及びその製造方法  
代理人 橋本 剛  
代理人 志賀 富士弥  
代理人 宮島 明  
代理人 高宗 寛暁  

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