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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1125729
審判番号 不服2003-9097  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-22 
確定日 2005-11-04 
事件の表示 平成 9年特許願第151346号「エンジンのEGR制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月22日出願公開、特開平10-339215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、平成9年6月9日の出願であって、平成14年8月9日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成14年10月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成15年4月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年5月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、特許法第17条の2第1項3号の規定により、平成15年6月23日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされた。

[2]平成15年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成15年6月23日付けの手続補正を却下する。
〔理由〕
1.本件補正の内容
平成15年6月23日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の、すなわち平成14年10月21日付けの手続補正書により手続補正された(以下、「補正前の」という。)特許請求の範囲の下記の(a)に示す請求項1,2の記載を、下記の(b)に示す請求項1,2と補正するものである。

(a)補正前の請求項
「【請求項1】 均質燃焼と成層燃焼とを切り換えるエンジンの排気系と吸気系とを結ぶEGR通路にEGR弁を介装し、前記各燃焼に応じた目標EGR率が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置において、前記均質燃焼と成層燃焼との切り換えに応じた目標EGR率の切換タイミングを、成層燃焼から均質燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた成層燃焼から均質燃焼への切換の要求があったときに設定し、均質燃焼から成層燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた均質燃焼から成層燃焼への切換の要求があった後に実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときに設定する目標EGR率切換タイミング制御手段を設けたことを特徴とするエンジンのEGR制御装置。
【請求項2】 前記目標EGR率切換タイミング制御手段は、目標EGR率をエンジン運転状態に応じた要求が成層燃焼で、かつ、実際の燃焼も成層燃焼に切り換えられているときのみ成層燃焼用の開度とし、それ以外のときは均質燃焼用の目標EGR率とすることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのEGR制御装置。」

(b)本件補正の請求項
「【請求項1】 均質燃焼と成層燃焼とを切り換えるエンジンの排気系と吸気系とを結ぶEGR通路にEGR弁を介装し、前記各燃焼に応じた目標EGR率が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置において、前記均質燃焼と成層燃焼との切り換えに応じた目標EGR率の切換を、成層燃焼から均質燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた目標EGR率の切換の要求があったときに均質燃焼に応じた目標EGR率を設定し、均質燃焼から成層燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた均質燃焼から成層燃焼への切換の要求があった後は、切換前の均質燃焼に応じた目標EGR率を維持し、実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときに成層燃焼に応じた目標EGR率を設定する目標EGR率切換タイミング制御手段を設けたことを特徴とするエンジンのEGR制御装置。
【請求項2】 前記目標EGR率切換タイミング制御手段は、目標EGR率をエンジン運転状態に応じた要求が成層燃焼で、かつ、実際の燃焼も成層燃焼に切り換えられているときのみ成層燃焼用の開度とし、それ以外のときは均質燃焼用の目標EGR率とすることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのEGR制御装置。」

2.補正の適否の判断
上記本件補正が、審判請求時における特許請求の範囲の補正についての特許法第17条の2第3項、第4項の規定に適合するかについて、検討する。

(1)本件補正の請求項1についての検討
本件補正の請求項1の「エンジン運転状態に応じた目標EGR率の切換の要求があったときに均質燃焼に応じた目標EGR率を設定し」なる記載は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲にない。また、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、均質燃焼に応じた目標EGR率を設定するのは、現在の燃焼状態が成層燃焼であるか否かを第2目標燃焼状態フラグFSTR2が1であるか否かを判定するステップ4にて、均質燃焼と判定された場合であって、「エンジン運転状態に応じた目標EGR率の切換の要求があったときに」されるものではない。よって、「エンジン運転状態に応じた目標EGR率の切換の要求があったときに均質燃焼に応じた目標EGR率を設定し」なる構成は、当業者が、出願時の技術常識に照らして、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲に記載されていたのと同然と理解するものでもない。
したがって、請求項1に関する本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてなされたものではない。
また、「均質燃焼と成層燃焼との切り換えに応じた目標EGR率の切換を」なる記載は、当該記載以後の記載とどのように関連するのか、明りょうでなく、当該記載以下の文意を明らかに不明にするものであるといえるから、このような事項を含む補正は、特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、第2号の特許請求の範囲の減縮、第3号の誤記の訂正、第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものの何れにも該当しないことは明らかである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

[3]本願発明について
1.平成15年6月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1,2に係る発明は、平成14年10月21日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1,2にそれぞれ記載された事項により特定されるものであり、本願の請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、下記のように、上記[2]1.(a)に記載したとおりである。

「【請求項1】 均質燃焼と成層燃焼とを切り換えるエンジンの排気系と吸気系とを結ぶEGR通路にEGR弁を介装し、前記各燃焼に応じた目標EGR率が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置において、前記均質燃焼と成層燃焼との切り換えに応じた目標EGR率の切換タイミングを、成層燃焼から均質燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた成層燃焼から均質燃焼への切換の要求があったときに設定し、均質燃焼から成層燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた均質燃焼から成層燃焼への切換の要求があった後に実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときに設定する目標EGR率切換タイミング制御手段を設けたことを特徴とするエンジンのEGR制御装置。」

2.引用文献
(1)原査定の拒絶理由に引用された特開平8-312396号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「【産業上の利用分野】本発明は、自動車等に搭載される筒内噴射型火花点火式内燃エンジンの出力等を制御する制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車等に搭載される燃料噴射火花点火式内燃エンジンから排出される有害ガス成分の低減や同エンジンの燃費の向上等を図るため、内燃エンジンに燃料を供給する方法として、旧来の吸気管噴射型に代えて燃焼室に直接燃料を噴射する筒内噴射型のものを採用したエンジン(以下、筒内噴射ガソリンエンジン)が種々提案されている。
【0003】筒内噴射ガソリンエンジンは、点火プラグの周囲やピストンに設けたキャビティ内に局所的に理論空燃比に近い空燃比の混合気を層状に供給することにより、全体として燃料希薄(リーン)な空燃比でも着火が可能となり、COやHCの排出量が減少すると共に、アイドル運転時や定常走行時の燃費を大幅に向上させることができるという長所を有している。・・・負荷に応じて適切なタイミングで燃料噴射を行うと共に、燃焼室の形状をこれに合わせて設計したものもが、例えば、特開平5-79370号公報に提案されている。より詳しくは、負荷に応じ、圧縮行程時に燃料を噴射させる後期噴射モードと、吸気行程時に燃料噴射を行う前期噴射モードとに切り換える方法が提案されている。・・・上述の提案の筒内噴射ガソリンエンジンを用いると、後期噴射モードと前期噴射モードとを切り換えることによって、後期噴射モードでは、全体空燃比を極めて大きい値、例えば25〜40に設定することも可能であり、スロットル弁をバイパスする通路から大量の新気を供給したり、排気ガスを大量に再循環させること(以下、EGRという)によって、アイドル等の低負荷運転時におけるリーン燃焼を可能にし、有害排気ガス成分の排出量の低減と燃費向上を図ることが可能になる。・・・一方、前記噴射モードにおいても、エンジン運転領域に応じて、全体空燃比を略理論空燃比状態で制御するモード・・・理論空燃比制御モード(S-F/Bモード)・・・。後期噴射モードでは、大量のバイパス空気やEGRを導入するために、後期噴射モードから前期噴射モードへのモード切換時に、燃料噴射量、噴射時期および点火時期等の制御は勿論であるが、バイパス空気量やEGR量の制御も加わり、種々のエンジン運転状態におけるモード間の切り換えを全てスムーズに行わせることが極めて難しかった。
【0009】本発明は上述の問題に鑑みなされたもので、後期噴射モードと前期噴射モードのモード間の切り換えや、前期噴射モードでも、リーンモードやS-F/Bモード等のモード間の切り換え時に、失火やスモークを生じさせることなく、また、排気ガス特性や燃費を悪化させることなく、切換ショックを防止するようにした筒内噴射型火花点火式内燃エンジンの制御装置を提供することを目的とする。」(第5頁第8欄第32行から第6頁第10欄第37行。「前記噴射モード」は「前期噴射モード」の誤り。)

イ.「排気ポート14には、・・・排気管43が接続している。また、EGRポート15は、大径のEGRパイプ44を介して、スロットルバルブ28の下流、且つ、吸気マニホールド21の上流に接続されており、その管路にはステッパモータ式のEGRバルブ45が設けられている。」(第13頁第24欄第38〜45行。)

ウ.「ECU70は、・・・各種センサ類及びスイッチ類からの入力信号に基づき、燃料噴射モードや燃料噴射量を始めとして、点火時期やEGRガスの導入量等を決定し、燃料噴射弁4、点火コイル19,EGRバルブ45等を駆動制御する。」(第14頁第25欄第37〜41行。)

エ.「例えば、アイドル運転時等の低負荷・低回転運転時には図3中の後期噴射リーン域となるため、ECU70は、後期噴射モード(これを後期リーンモードともいう)を選択すると共にABV27及びEGRバルブ40を運転状態に応じて開弁し、リーンな空燃比(本実施例では、20〜40程度)となるように燃料を噴射する。この時点では燃料の気化率が上昇すると共に、図4に示したように吸気ポート13から流入した吸気流が矢印で示す逆タンブル流80を形成するため、燃料噴霧81がピストン7のキャビティ8内に保存される。その結果、点火時点において点火プラグ3の周囲には理論空燃比近傍の混合気が形成されることになり、全体として極めてリーンな空燃比(例えば、全体空燃比で40程度)でも着火が可能となる。」(第14頁第26欄第42行から第15頁第27欄第5行。)

オ.「次に、本発明に係わり、目標平均有効圧情報によって設定されるエンジン燃焼室内の燃焼状態に影響を与えるパラメータ値、すなわち、燃料噴射弁4の開弁時間Tinj 、点火時期Tig、EGRバルブ45の開弁量Legr 等の設定手順を説明すると共に、後期リーンモードとS-F/Bモード間、前期リーンモードとS-F/Bモード間、および前期リーンモードと後期リーンモード間のモード切換を例に、それらのモード切換時の制御手順について説明する。・・・【0067】先ず、ECU70は、図14に示すステップS1ないしステップS8において、制御モードの判定と設定を行う。実行すべき制御モードでの制御内容については図3を参照してその概略を説明したのでその詳細説明は省略するが、各種センサやスイッチ類からの検出情報に基づいて実行すべき制御モードが判別される。そして、例えば、ステップS1において後期リーンモードが判別されると(ステップS1の判別結果が肯定(Yes)の場合)、ステップS2において後期リーンモードによる制御を実行すべく各種制御フラグや制御変数が設定される。・・・ステップS4において判別結果が肯定であり、エンジン1が加速中であると判別されると、ステップS8に進み、S-F/Bモードにより加速制御を強制的に実行すべく、設定していた各種制御フラグや制御変数をS-F/Bモードによるものに変更される。・・・そして、上述の加速条件が成立している限りは、繰り返しこのステップS8が実行されて加速制御が行われる。このS-F/Bモードによる加速制御方法については、特に限定されず従来の加速制御方法を用いることができる。なお、加速が一旦判別されると、所定の期間はS-F/Bモードによる制御を実行し、所定期間中に加速解除の条件が成立してもS-F/Bモード制御を継続させることもできる。このようにすると制御が安定し、ドライバビリティも向上する。・・・【0070】ステップS4の判別結果が否定(No)の場合、すなわちエンジン1の加速状態が検出されないか、加速終了と判別された場合、ステップS2またはステップS6で設定された制御フラグ等は変更されることなく、判別された通りのモードで制御が行われる。後期リーンモードでもなく前期リーンモードでもない場合(ステップS1およびステップS5がいずれもNoの場合には前期S-F/Bモードと判定し、前述のステップS8に進んで、S-F/Bモードの各種制御フラグや制御変数を設定する。・・・先ず、説明の都合上、後期リーンモードが実行されている場合(テーリング係数値K1が値1.0 に設定されていると仮定する)から説明すると(図27のt0時点以前)、ECU70は、ステップS10に進み、制御すべきモードが後期モードか前期モードかを判別する。後期モードは後期リーンモードを意味し、前期モードは、前期リーンモードとS-F/Bモードが含まれる。現在のエンジン1の運転モードが上述した通り後期リーンモードであるから、ステップS12に進み、エンジン制御に必要な各種パラメータ値Pe ,Kaf,Tig,Tend ,Legr ,Ev 等を演算する。」(第15頁第28欄第17行から第16頁第30欄第19行。)

カ.「噴射終了時期Tend の設定について説明すると、ECU70は、図6に示す噴射終了時期設定手段(燃焼パラメータ設定手段)70mにおいて、目標平均有効圧Peとエンジン回転数Neとに応じ、当該制御モードに好適な噴射終了時期Tend を設定している。・・・この噴射終了時期Tend は、制御モード毎に、あるいはEGR等の有無に応じてそれぞれ予め実験的に最適値に設定されてマッピングされている。目標平均有効圧Pe等に応じて設定された噴射終了時期Tend は、更にエンジン水温等による補正が行われて前述のインジェクタ駆動回路に供給される。インジェクタ駆動回路では、供給された噴射終了時期Tend と開弁時間Tinj とに基づいて噴射開始時期を演算し、演算した噴射開始時期になると噴射すべき気筒の燃料噴射弁4に開弁時間Tinj に応じた期間に亘って駆動信号を出力する。・・・EGRバルブ45の弁開度Legr は、図6のEGR量設定手段(燃焼パラメータ設定手段)70pにおいて算出される。図13は、EGR量設定手段70pの構成の概略を示し、排気ガスを再循環させるべき運転モード毎に、また、変速装置の選択位置(DレンジかNレンジ)等に応じて複数枚のEGR弁開度マップを有している。弁開度Legr の算出においては、前述した目標平均有効圧マップ70cでスロットル弁開度θthに応じて設定された目標平均有効圧Peに一次遅れフィルタリング処理をせず、設定された目標平均有効圧Peを単にローパスフィルタ70q を介してEGR量設定手段70pに供給し、この目標平均有効圧Peとエンジン回転数Neとに応じた弁開度Legr が、後期リーンモード用マップから算出される。
【0085】排気ガスがEGRバルブ45を介してエンジン1に供給されるとき、変更された弁開度に見合うEGR量がエンジン1に供給されるには大きなタイムラグが生じる。このようなタイムラグを考慮すると逸早く運転状態に最適なEGR量を演算した方がよいので、目標平均有効圧マップ70cで設定した目標平均有効圧Peを遅れなくEGR量設定手段70pに供給される。
【0086】上述のようにして算出された弁開度Legr は、エンジン水温補正等の補正を行った後、EGR駆動回路(図示せず)に供給され、弁開度Legr に対応する弁駆動信号をEGRバルブ45に出力するように構成されている。・・・ステップS21での制御変数等の初期値の設定が終わると、ステップS22に進み、後期噴射セットルーチンを実行し、前述した燃料噴射制御、点火時期制御、EGR量制御等の各種制御を行う。次に、エンジン1の運転状態が変化し、後期リーンモードからS-F/Bモードに移行したと判断された場合を想定する・・・(図27のt0時点)。このような場合、ECU70は図15のステップS10で前期モードを判定した後、ステップS14を実行し、前述したステップS12と同じようにして各種燃焼パラメータ値Pe ,Kaf,Tig,Tend ,Legr ,Ev 等を演算する。」(第17頁第32欄第28行から第18頁第34欄第33行。)

キ.「仮目標空燃比補正係数値Kaft が値Xafに到達するまで(図27(c) に示すt3時点まで)、・・・後期リーンモード制御を引き続き実行するために、・・・燃料噴射終了期間Tend も、後期リーンモードで設定した最後の値Tend'に保持される(ステップS65)。・・・【0101】テーリング係数値K2が増加して、仮目標空燃比補正係数値Kaft が判別値Xafを超えると、・・・目標空燃比補正係数値Kafおよび燃料噴射終了期間Tend は、最早仮目標空燃比補正係数値Kaft および後期リーンモードにより算出した最後の値Tend'にそれぞれ書き換えられることはなく、S-F/Bモードによって算出した値がそのまま使用される。この場合、図27(c) のt3時点に示す補正係数値の変化から判るように、・・・この時点でS-F/Bモードに移行する。すなわち、後期リーンモード制御で空燃比がリッチ失火限界のXaf値に対応する値(略20)に到達すると、・・・燃料噴射終了期間Tend もS-F/Bモード制御に好適な値に変化させている(図27(d)のt3時点)。」(第20頁第38欄第1〜37行。「噴射終了期間Tend 」は「噴射終了時期Tend 」の誤り。)

ク.「次に、現在のS-F/Bモードから再び後期リーンモードに移行する場合の移行制御について説明する。図14のステップS1においてS-F/Bモード制御中に後期リーンモードが判別されると(図27(a) のt6時点)・・・。【0109】従って、係数値K1が値0である期間(図27に示すt6時点からt7時点の無効期間)は、仮目標空燃比補正係数値Kaft および体積効率値Evは前回値、すなわちS-F/Bモード制御時に最後に設定した値に保持されるが、係数値K1の値が0 から1.0 に向かって増加するとK1値に応じた重み付けで設定される値に、係数値K1が値1.0 に到達すると、後期リーンモードによって算出される値にそれぞれ設定されることになる。・・・モード移行時の目標空燃比補正係数値Kafは、後述するように、体積効率Evは、図27(g) のt7時点からt10 時点間に示すように線形的に徐々にその値を変化させ、t10 時点以降は後期リーンモードによって算出される値に保持されることになる。
【0110】次に、ECU70は、図17のステップS31に進み、EGR遅延カウンタCNT1が値0までカンウトダウンしたか否かを判別する。このカウンタCNT1は、後期リーンモードにおけるEGR制御を遅らせる目的で設けられたもので、S-F/Bモードから大量のEGRを導入する後期リーンモードへの移行制御中のEGR過多状態を防ぐ。EGR遅延カウンタ値CNT1が未だ値0にカンウトダウンされていない場合には、ステップS32を実行してEGRバルブ45の弁開度Legr を値Legr'に書換え、S-F/Bモード制御時に最後に設定した値を所定期間(カウンタの初期値XN1に対応する期間であり、図27(h) に示すt6時点からt9時点までの期間)に亘って保持する。初期値XN1に対応する期間は、EGR量を後期リーンモードに適合する値に移行させるのを遅らせることを考慮して設定されている。
【0111】ステップS31の判別結果が肯定の場合(EGR遅延期間が経過した場合)、前述のステップS32はスキップされ、以後の後期リーンモード制御には図6のEGR量設定手段70pにより算出した値が使用されることになる(図27のt9時点以降)。・・・【0112】ECU70は,ステップS34の判別結果が否定である期間、すなわち仮目標空燃比補正係数値Kaft が値Xafに到達するまで(図27(c) に示すt7時点からt8時点まで)、図18のステップS40に進み、噴射終了期間Tend をS-F/Bモードにより算出した最後の値Tend'に書換え、この値に保持する。・・・図27(c) のt8時点に示す補正係数値の変化から判るように、・・・この時点で制御が後期リーンモードに移行する。・・・これに伴って、噴射終了期間Tend および点火時期Tigも後期リーンモード制御に好適な値に変化させている(図27(d),(e) のt8時点)。」(第21頁第40欄第4行から第23頁第43欄第12行。「噴射終了期間Tend 」は「噴射終了時期Tend 」の誤り。)

ケ.第27図において、上から第9行目のタイミングチャートには、「(i)時間」と示されており、左側から順に「t0」、「t3」、「t4」、「t6」、「t8」と表示されている。
上から第1行目のタイミングチャートには、「(a)モード」と示されており、パルス信号のハイ側に「S-F/B-」、ロー側に「後期リーン」と示されている。そして、上から第1行目のパルス信号の前端縁、後端縁が、それぞれ、上から第9行目の「t0」、「t6」と線で結ばれている。
上から第4行目のタイミングチャートには、「(d)Tend 」と示されており、そのパルス信号の前端縁に「t3」と表示されており、パルス信号の後端縁には「t8」と表示されている。そして、上から第4行目の信号表示のパルス信号の前端縁、後端縁が、それぞれ、上から第9行目のタイミングチャートの「t3」、「t8」と線で結ばれている。
上から第8行目のタイミングチャートには「(h)Legr (EGR開度)」と示されており、信号がローからハイに立ち上がる箇所に「t9」と示されている。そして、上から第8行目のタイミングチャートのパルス信号がハイ側からロー側に下がる箇所と、上から第9行目のタイミングチャートの「t0」とが線で結ばれている。また、上から第9行目のタイミングチャートの「t6」からの垂線と上から第8行目のタイミングチャートの交点から、「t9」で示されているパルス信号の立ち上がりの前端縁との間隔が、「XN1」と表示されている。

(2)ここで、上記記載事項2.(1)ア.ないしケ.及び、第1〜29図から、つぎのことがわかる。

ア.(S-F/Bモード、後期リーンモードと均質燃焼、成層燃焼との関係について)
上記記載事項2.(1)ア.「圧縮行程時に燃料を噴射させる後期噴射モードと、吸気行程時に燃料噴射を行う前期噴射モード」、「前期噴射モードにおいても、エンジン運転領域に応じて、全体空燃比を略理論空燃比状態で制御するモード・・・理論空燃比制御モード(S-F/Bモード)」、及び、上記記載事項2.(1)エ.「ECU70は、後期噴射モード(これを後期リーンモードともいう)を選択する・・・点火時点において点火プラグ3の周囲には理論空燃比近傍の混合気が形成されることになり、全体として極めてリーンな空燃比(例えば、全体空燃比で40程度)でも着火が可能となる。」から、「S-F/Bモード」とは、理論空燃比制御とした前期噴射モードであり、「後期リーンモード」は後期噴射モードであること、そして、S-F/Bモードでは、吸気行程時に燃料噴射が行われることから、均質燃焼となること、後期リーンモードでは、圧縮行程時に燃料が噴射されることから、成層燃焼となることがわかる。

イ.上記記載事項2.(1)ア.「本発明は上述の問題に鑑みなされたもので、後期噴射モードと前期噴射モードのモード間の切り換え・・・時に、失火やスモークを生じさせることなく、また、排気ガス特性や燃費を悪化させることなく、切換ショックを防止するようにした筒内噴射型火花点火式内燃エンジンの制御装置を提供することを目的とする。」、及び、上記記載事項2.(2)ア.から、引用文献記載の本発明は、S-F/Bモードと後期リーンモードの切り換え時に、排気ガス特性や燃費を悪化させることなく、切換ショックを防止するようにしたことを目的とするものであることがわかる。

ウ.上記記載事項2.(1)イ.「排気ポート14には、・・・排気管43が接続している。また、EGRポート15は、大径のEGRパイプ44を介して、スロットルバルブ28の下流、且つ、吸気マニホールド21の上流に接続されており、その管路にはステッパモータ式のEGRバルブ45が設けられている。」から、EGRポート15と吸気マニホールド21の上流とを結ぶEGRパイプ44にステッパモータ式のEGRバルブ45が設けられていること、がわかる。

上記記載事項2.(1)ウ.「ECU70は、・・・各種センサ類及びスイッチ類からの入力信号に基づき、燃料噴射モードや燃料噴射量を始めとして、点火時期やEGRガスの導入量等を決定し、燃料噴射弁4、点火コイル19,EGRバルブ45等を駆動制御する。」から、各種センサやスイッチ類からの検出情報に基づいて実行すべき制御モード(S-F/Bモード、後期リーンモードなど)が判別されることがわかる。

上記記載事項2.(1)カ.及び、図13から、EGRバルブ45の弁開度Legr は、EGR量設定手段(燃焼パラメータ設定手段)70pにおいて算出される、EGR量設定手段70pは、排気ガスを再循環させるべき運転モード毎に、EGR弁開度マップを有し、後期リーンモードとS-F/Bモードに応じたEGR弁開度Legrを算出すること、算出された弁開度Legr は、エンジン水温補正等の補正を行った後、EGR駆動回路に供給され、弁開度Legr に対応する弁駆動信号をEGRバルブ45に出力するように構成されていることがわかる。

したがって、後期リーンモードとS-F/Bモードとを切り換えるエンジン1のEGRポート15と吸気マニホールド21の上流とを結ぶEGRパイプ44にEGRバルブ45が設けられ、後期リーンモードとS-F/Bモードに応じたEGR量が得られるようにEGRバルブ45の開度を切換制御するエンジン1のEGR制御装置であることがわかる。

エ.(制御モードの移行の判別時期について)
上記記載事項2.(1)カ.「エンジン1の運転状態が変化し、後期リーンモードからS-F/Bモードに移行したと判断された場合を想定する・・・(図27のt0時点)。」、上記記載事項2.(1)ク.「現在のS-F/Bモードから再び後期リーンモードに移行する場合の移行制御について説明する。図14のステップS1においてS-F/Bモード制御中に後期リーンモードが判別されると(図27(a) のt6時点)・・・。」から、t0時点において後期リーンモードからS-F/Bモードへの移行が判別され、t6時点において、S-F/Bモード制御中に後期リーンモードへの移行が判別されることがわかる。

オ.(噴射終了時期Tend の切換時期について)
上記記載事項2.(1)カ.「ECU70は、・・・噴射終了時期設定手段(燃焼パラメータ設定手段)70mにおいて、目標平均有効圧Peとエンジン回転数Neとに応じ、当該制御モードに好適な噴射終了時期Tend を設定している。・・・この噴射終了時期Tend は、制御モード毎に、あるいはEGR等の有無に応じてそれぞれ予め実験的に最適値に設定されてマッピングされている。・・・インジェクタ駆動回路では、供給された噴射終了時期Tend と開弁時間Tinj とに基づいて噴射開始時期を演算し、演算した噴射開始時期になると噴射すべき気筒の燃料噴射弁4に開弁時間Tinj に応じた期間に亘って駆動信号を出力する。」
上記記載事項2.(1)キ.「(図27(c) に示すt3時点まで)、・・・後期リーンモード制御を引き続き実行するために、・・・燃料噴射終了時期Tend も、後期リーンモードで設定した最後の値Tend'に保持される・・・。」、「燃料噴射終了時期Tend もS-F/Bモード制御に好適な値に変化させている(図27(d)のt3時点)。」から、燃料噴射終了時期は、t3時点で後期リーンモード制御時の値からS-F/Bモード制御時の値に切り換えられることがわかる。また、上記記載事項2.(1)ク.「(図27(c) に示すt7時点からt8時点まで)、・・・噴射終了時期Tend をS-F/Bモードにより算出した最後の値Tend'に書換え、この値に保持する。・・・図27(c) のt8時点・・・で制御が後期リーンモードに移行する。・・・これに伴って、噴射終了時期Tend ・・・も後期リーンモード制御に好適な値に変化させている(図27(d),(e) のt8時点)。」から、燃料噴射終了時期は、t8時点において、S-F/Bモード制御時の値から後期リーンモード制御時の値に切り換えられることがわかる。

カ.(EGRバルブの弁開度Legr の切換時期について)
上記記載事項2.(1)オ.「後期リーンモードが実行されている場合・・・(図27のt0時点以前)、・・・現在のエンジン1の運転モードが上述した通り後期リーンモードであるから、ステップS12に進み、エンジン制御に必要な各種パラメータ値Pe ,Kaf,Tig,Tend ,Legr ,Ev 等を演算する。」から、EGRバルブ45の弁開度Legr は、t0時点以前では、後期リーンモード制御時の値であることがわかる。

上記記載事項2.(1)ク.「ECU70は、図17のステップS31に進み、EGR遅延カウンタCNT1が値0までカンウトダウンしたか否かを判別する。このカウンタCNT1は、後期リーンモードにおけるEGR制御を遅らせる目的で設けられたもので、S-F/Bモードから大量のEGRを導入する後期リーンモードへの移行制御中のEGR過多状態を防ぐ。・・・S-F/Bモード制御時に最後に設定した値を所定期間(カウンタの初期値XN1に対応する期間であり、図27(h) に示すt6時点からt9時点までの期間)に亘って保持する。初期値XN1に対応する期間は、EGR量を後期リーンモードに適合する値に移行させるのを遅らせることを考慮して設定されている。・・・(EGR遅延期間が経過した場合)・・・、以後の後期リーンモード制御には図6のEGR量設定手段70pにより算出した値が使用されることになる(図27のt9時点以降)。」から、EGRバルブ45の弁開度Legr は、t9時点においてS-F/Bモード制御時の値から後期リーンモード制御時の値に切り換えられることがわかる。

また、EGRバルブ45の弁開度Legr は、t0時点以前では、後期リーンモード制御時の値であり、t9時点においてS-F/Bモード制御時の値から後期リーンモード制御時の値に切り換えられること、上記記載事項2.(1)ケ.「上から第8行目のタイミングチャートには「(h)Legr (EGR開度)」と示されており、信号がローからハイに立ち上がる箇所に「t9」と示されている。そして、上から第8行目のタイミングチャートのパルス信号がハイ側からロー側に下がる箇所と、上から第9行目のタイミングチャートの「t0」とが線で結ばれている。」から、t0時点からt9時点は信号がローのままで変更しておらず、また、上記記載事項2.(1)カ.「EGRバルブ45の弁開度Legr は、・・・EGR量設定手段(燃焼パラメータ設定手段)70pにおいて算出される。・・・排気ガスを再循環させるべき運転モード毎に、・・・複数枚のEGR弁開度マップを有している。」の記載から、EGRバルブ45の弁開度Legr は、t0時点において後期リーンモード制御時の値からS-F/Bモード制御時の値に切り換えられることがわかる。

キ.上記記載事項2.(1)ケ.及び、2.(2)エ.ないしカ.から、後期リーンモードとS-F/Bモード間のモード切換時の制御手順は次のようなものであることがわかる。
上記記載事項2.(2)オ.及びカ.から、図27の、後期リーンモードが実行されている、t0以前において、噴射終了時期Tend 、EGR開度Legr は、それぞれ後期リーンモードに対応した値とされている。
上記記載事項2.(2)オ.及びカ.から、後期リーンモードからS-F/Bモードに切換を判断したt0時点において、EGR開度Legr はS-F/Bモードに対応する値に切り換えられるが、噴射終了時期Tend は、t3時点においてS-F/Bモードに対応する値に切り換えられる。
つぎに、t6時点でS-F/Bモードから後期リーンモードに切換が判断されると、t6時点からEGR遅延カウンタ値CNT1がXN1からカウントダウンされ、EGR遅延カウンタ値CNT1が未だ値0にならない間であるt6からt9までは、EGR開度Legr はS-F/Bモードに対応する値が保持される。一方、噴射終了時期Tend は、t6からt8までの期間はS-F/Bモードに対応する値が保持され、t8時点において後期リーンモードに対応した値に切り換えられる。
EGR遅延カウンタCNT1は、後期リーンモードにおけるEGR制御を遅らせる目的で設けられたもので、S-F/Bモードから大量のEGRを導入する後期リーンモードへの移行制御中のEGR過多状態を防ぐ、カウンタの初期値XN1に対応する期間は、EGR量を後期リーンモードに適合する値に移行させるのを遅らせることを考慮して設定されている。

ク.上記記載事項2.(1)オ.ないしク.および2.(2)ウ.から、ECU70はEGR弁開度Legr の切換タイミングを制御しているので、EGR開度Legr の切換タイミング設定手段として機能していることがわかる。

ケ.上記記載事項2.(1)カ.「噴射終了時期Tend の設定について説明する・・・噴射終了時期設定手段(燃焼パラメータ設定手段)70mにおいて、・・・当該制御モードに好適な噴射終了時期Tend を設定している。・・・この噴射終了時期Tend は、制御モード毎に、・・・それぞれ予め実験的に最適値に設定されてマッピングされている。・・・設定された噴射終了時期Tend は、・・・インジェクタ駆動回路に供給される。インジェクタ駆動回路では、供給された噴射終了時期Tend と開弁時間Tinj とに基づいて噴射開始時期を演算し、演算した噴射開始時期になると噴射すべき気筒の燃料噴射弁4に開弁時間Tinj に応じた期間に亘って駆動信号を出力する。」、上記記載事項2.(2)ア.「S-F/Bモード」とは、理論空燃比制御とした前期噴射モードであり、「後期リーンモード」は後期噴射モードであること、そして、S-F/Bモードでは、吸気行程時に燃料噴射が行われることから、均質燃焼となること、後期リーンモードでは、圧縮行程時に燃料が噴射されることから、成層燃焼となることがわかる、から、噴射終了時期Tend は、後期リーンモードでは、圧縮行程時に燃料が噴射可能となる時期に設定され、S-F/Bモードでは、吸気行程時に燃料が噴射可能となる時期に設定されていることがわかる。

したがって、S-F/Bモードに対応した噴射終了時期Tend から後期リーンモード噴射終了時期Tend に切り換えられた時点(t8)で、燃料噴射時期は吸気行程時噴射から圧縮行程時噴射に切り換えられ、実際の燃焼は均質燃焼から成層燃焼に切り換えられることがわかる。

(3)引用文献記載の発明
上記(2)により、引用文献には次の発明が記載されていると認められる。

「後期リーンモードとS-F/Bモードとを切り換えるエンジン1のEGRポート15と吸気マニホールド21の上流とを結ぶEGRパイプ44にEGRバルブ45が設けられ、前記後期リーンモードとS-F/Bモードに応じたEGR量が得られるように前記EGRバルブ45の開度を切換制御するエンジン1のEGR制御装置において、EGRバルブ45の開度の切換を、前記S-F/Bモードから後期リーンモードへの切換時にはエンジン運転状態に応じた後期リーンモードからS-F/Bモードへの切換の判別があったとき(t0)に設定し、S-F/Bモードから後期リーンモードへの切換時にはエンジン運転状態に応じたS-F/Bモードから後期リーンモードへの切換の判別があった(t6)後に噴射終了時期が後期リーンモードの噴射終了時期に切り換えられた(t8)後の(t9)時期に設定するEGR開度Legr の切換タイミング設定手段を設けたエンジンのEGR制御装置。」

3.対比
本願発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「後期リーンモード」、「S-F/Bモード」、「エンジン1のEGRポート15と吸気マニホールド21の上流とを結ぶEGRパイプ44」、「EGRバルブ45」が、本願発明における「成層燃焼」、「均質燃焼」、「エンジンの排気系と吸気系とを結ぶEGR通路」、「EGR弁」にそれぞれ相当するものである。
よって、引用文献記載の発明における「エンジン1のEGRポート15と吸気マニホールド21の上流とを結ぶEGRパイプ44にEGRバルブ45が設けられ」なる構成は、本願発明の「エンジンの排気系と吸気系とを結ぶEGR通路にEGR弁を介装し」なる構成に相当する。
また、引用文献記載の発明の「エンジン運転状態に応じた後期リーンモードからS-F/Bモードへの切換の判別」、「エンジン運転状態に応じたS-F/Bモードから後期リーンモードへの切換の判別」は、それぞれ、本願発明における「エンジン運転状態に応じた成層燃焼から均質燃焼への切換の要求」、「エンジン運転状態に応じた均質燃焼から成層燃焼への切換の要求」に相当する。
また、引用文献記載の発明の「後期リーンモードとS-F/Bモードに応じたEGR量が得られるように前記EGRバルブ45の開度を切換制御するエンジン1のEGR制御装置」は、成層燃焼と均質燃焼に応じてEGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置であるかぎりにおいて、本願発明の「成層燃焼と均質燃焼に応じたEGR率が得られるようにEGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置」に相当し、引用文献記載の発明の「EGR開度Legr の切換タイミング」は、EGR弁開度の切換タイミングであるかぎりにおいて、本願発明の「目標EGR率切換タイミング」に相当する。

したがって、両発明は、
「均質燃焼と成層燃焼とを切り換えるエンジンの排気系と吸気系とを結ぶEGR通路にEGR弁を介装し、前記各燃焼に応じて前記EGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置において、前記均質燃焼と成層燃焼との切り換えに応じたEGR弁開度の切換タイミングを、成層燃焼から均質燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた成層燃焼から均質燃焼への切換の要求があったときに設定し、均質燃焼から成層燃焼への切換時にはエンジン運転状態に応じた均質燃焼から成層燃焼への切換の要求があった後に設定する、EGR弁開度の切換タイミング制御手段を設けたことを特徴とするエンジンのEGR制御装置。」
である点で一致し、次の点において相違している。

(1)相違点1
本願発明においては、EGR弁の開度を切換制御するエンジンのEGR制御装置が、各燃焼に応じた目標EGR率が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御するのに対し、引用文献記載の発明においては、各燃焼に応じたEGR量が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御するものである点。

(2)相違点2
「EGR弁開度の切換タイミング」について、本願発明においては「目標EGR率切換タイミング」であるのに対し、引用文献記載の発明においては「EGR開度Legr の切換タイミング」である点。

(3)相違点3
本願発明においては、「実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときに」目標EGR率の切り換えタイミングを設定しているのに対し、引用文献記載の発明においては、噴射終了時期が後期リーンモードの噴射終了時期に切り換えられた(t8)後の(t9)時期にEGR弁開度Legr の切り換えタイミングを設定している点。

4.判断
上記相違点について、検討する。
(1)相違点1
EGR制御装置において、目標値をEGR率としてEGR弁開度を制御することは本願出願前に周知の技術的事項であり(特開平6-74100号公報、特開平9-137752号公報、特開平8-303309号公報、特開平7-208272号公報、特開平9-88649号公報)、引用文献記載の発明において、各燃焼に応じたEGR量が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御する構成に代えて、各燃焼に応じた目標EGR率が得られるように前記EGR弁の開度を切換制御する構成とすることは、上記周知技術の単なる適用にすぎないものである。
以上のことから、引用文献記載の発明を、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点2
引用文献記載の発明においては、「算出された弁開度Legr は、エンジン水温補正等の補正を行った後、EGR駆動回路に供給され、弁開度Legr に対応する弁駆動信号をEGRバルブ45に出力するように構成されている。」ことから、算出された弁開度Legrは、EGR弁を駆動する際の駆動信号に対応するものである。よって、「EGR開度Legr の切換タイミング」とは、EGR弁の駆動信号が切り換えられるタイミングに相当するものである。
一方、本願発明においては、「EGR弁14の開度をステップモータ等により電子制御するEGR制御装置15が備えられている」、「目標EGR率 (EGRガス量/吸入空気量) が得られるように、前記EGR制御装置15に駆動信号を出力してEGR弁14の開度を制御する。」(ともに明細書段落【0023】)ことから、「目標EGR率切換タイミング」とはEGR弁14の開度を制御する駆動信号を切り換えるタイミングのことであることがわかる。よって、「目標EGR率切換タイミング」も、「EGR開度Legrの切換タイミング」もタイミングとして同じものを示すものである。よって、相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)相違点3
上記記載事項2.(2)ケ.S-F/Bモードに対応した噴射終了時期Tend から後期リーンモード噴射終了時期Tend に切り換えられた時点(t8)で、・・・実際の燃焼は均質燃焼から成層燃焼に切り換えられる、から、引用文献記載の発明の「噴射終了時期が後期リーンモードの噴射終了時期に切り換えられた(t8)」ときが、実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときに相当するものである。してみれば、上記相違点3は、本願発明においては、「実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときに」目標EGR率の切り換えタイミングを設定しているのに対し、引用文献記載の発明においては、実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられた後にEGR弁開度Legr の切り換えタイミングを設定している点と言い換えることができる。
次に、引用文献記載の発明における相違点3に係る構成の技術的意義について検討する。
引用文献の「排気ガスがEGRバルブ45を介してエンジン1に供給されるとき、変更された弁開度に見合うEGR量がエンジン1に供給されるには大きなタイムラグが生じる。このようなタイムラグを考慮すると逸早く運転状態に最適なEGR量を演算した方がよい」(【0085】)、「EGR遅延カウンタCNT1が値0までカンウトダウンしたか否かを判別する。このカウンタCNT1は、後期リーンモードにおけるEGR制御を遅らせる目的で設けられたもので、S-F/Bモードから大量のEGRを導入する後期リーンモードへの移行制御中のEGR過多状態を防ぐ。・・・初期値XN1に対応する期間は、EGR量を後期リーンモードに適合する値に移行させるのを遅らせることを考慮して設定されている。」(【0110】)なる記載を参酌すると、成層燃焼から均質燃焼への切換時と違って、均質燃焼から成層燃焼への切換時には、目標とするEGR量がエンジンに供給されるまでのタイムラグよりも、EGR過多による不具合への対策を優先しているものであることがわかる。そして、均質燃焼においてEGR過多は燃焼が悪化してしまうという不具合は、周知の技術的事項である(例えば、原査定の拒絶理由に引用された特開平9-32651号公報の段落【0008】を参照)。
してみれば、引用文献記載の発明において、実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられた後にEGR弁開度Legr の切り換えタイミングを設定している点は、少なくとも均質燃焼が継続している状態ではEGR過多を防ごうという技術思想であって、また、後期リーンモードの噴射終了時期に切り換えられた(t8)時期が上記EGR過多を防ぐために最も早期に設定できる時期であることは明らかだから、この技術思想に基づき、タイマカウンタを使わずに、実際の燃焼が成層燃焼に切り換えられるときにEGR率の切換タイミングを設定することは、当業者が容易に想到し得るものである。
以上のことから、引用文献記載の発明を、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明、引用文献記載の技術思想及び上記周知の技術的事項から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明、引用文献記載の技術思想及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2005-08-25 
結審通知日 2005-08-30 
審決日 2005-09-12 
出願番号 特願平9-151346
審決分類 P 1 8・ 561- Z (F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 豊博  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 関 義彦
清田 栄章
発明の名称 エンジンのEGR制御装置  
代理人 笹島 富二雄  

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