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審決分類 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  H01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01J
管理番号 1125774
異議申立番号 異議2003-72864  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-26 
確定日 2005-08-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3409468号「粒子放出装置、電界放出型装置及びこれらの製造方法」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3409468号の請求項1、4ないし12に係る特許を取り消す。 同請求項2、3に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続きの経緯
本件特許第3409468号は、平成6年9月28日に特許出願され、平成15年3月20日にその特許の設定登録がなされ、その後、キャノン株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年2月1日に訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
・訂正事項1
本件特許明細書の発明の名称を「粒子放出装置及び電界放出型装置」と訂正する。
・訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載を次のように訂正する。
「【請求項1】 互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、かつ前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され、
前記微小孔が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置。
【請求項2】 互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設けられ、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出していることを特徴とする粒子放出装置。
【請求項3】 第1の電極が格子状パターンに形成されている、請求項1又は2に記載した粒子放出装置。
【請求項4】 互いに交差するカソード電極ラインとゲート電極ラインとが絶縁層を介して基体上に積層され、前記ゲート電極ライン及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成されていると共に、前記カソード電極ラインの構成材料よりも仕事関数が小さい電子放出物質からなる薄膜状の冷陰極が、前記カソード電極ラインと接した状態で、少なくとも、前記カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って設けられ、電子放出源として構成された、請求項1〜3のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項5】 粒子放出物質からなる薄膜が、絶縁層の2分の1以下の厚みに設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項6】 粒子放出物質の仕事関数が3.0eV以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項7】 粒子放出物質がダイヤモンドである、請求項6に記載した粒子放出装置。
【請求項8】 微小孔がほぼ円形である、請求項1〜7のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項9】 微小孔がスリット状である、請求項1〜7のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1項に記載した粒子放出装置を具備する電界放出型装置。
【請求項11】 カソード電極ライン、ゲート電極ライン、微小孔付きの絶縁層及び薄膜状の冷陰極からなる第1のパネルと、複数色の発光体及びこれらの発光体がそれぞれ被着された電極からなる第2のパネルとによって電界放出型発光装置として構成された、請求項10に記載した電界放出型装置。
【請求項12】 発光体が蛍光体である電界放出型ディスプレイ装置として構成された、請求項11に記載した電界放出型装置。」
・訂正事項3
本件特許明細書の段落番号【0001】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0001】
【産業状の利用分野】
本発明は、粒子放出装置(例えば、極薄型のディスプレイ装置に使用して好適な電子放出源)及び電界放出型装置(例えば、前記電子放出源を有するディスプレイ装置)に関するものである。」
・訂正事項4
本件特許明細書の段落番号【0015】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0015】
このFEDによりカラー表示を行う方法としては、選択された交差部122の各カソードと一色の蛍光体とを対応させる方法と、各カソードと複数の色の蛍光体とを対応させるいわゆる色選別方法がある。この場合の色選別の動作を図18及び図19を用いて説明する。」
・訂正事項5
本件特許明細書の段落番号【0016】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0016】
図18において、蛍光面パネル114の内面の複数のストライプ状の透明電極100上には各色に対応するR、G、Bの蛍光体が順次配列されて形成され、各色の電極はそれぞれ赤色は3R、緑色は3G、青色は3Bの端子に集約されて導出されている。」
・訂正事項6
本件特許明細書の段落番号【0030】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0030】
次いで、図24に示すように剥離層124を溶解することにより、剥離層124上のモリブデン106を剥離し、除去(リフトオフ)し、図17に示した如き構造を作製する。」
・訂正事項7
本件特許明細書の段落番号【0033】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0033】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記したような従来技術の欠点を解決し、電子等の放出能力とその方向性を良好とし、低電圧駆動を可能にして、放出される電流量の均質化を図り、しかも、高信頼性、長寿命であり、高精細、大型の極薄型ディスプレイ装置にも十分対応可能であり、製造が容易な粒子放出装置及び電界放出型装置を提供することにある。」
・訂正事項8
本件特許明細書の段落番号【0034】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0034】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、互いに部分的に重なり合うように第1の電極(例えば、後述のカソード電極13;以下、同様)と第2の電極(例えば、後述のゲート電極14;以下、同様)とが絶縁層(例えば、後述のSiO2層15;以下、同様)を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔(例えば、後述のほぼ円形又はスリット状の微細孔又はカソードホール20;以下、同様)が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子(特に電子;以下、同様)が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置(例えば、電界放出型カソード;以下、同様)において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜(例えば、後述のダイヤモンド薄膜16)が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、かつ前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置(以下、本発明の第1の粒子放出装置と称する。)に係り、また、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設けられ、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置(以下、本発明の第2の粒子放出装置と称する。)にも係るものである。」
・訂正事項9
本件特許明細書の段落番号【0035】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0035】
本発明の第1及び第2の粒子放出装置は、電子の如きエネルギー粒子を放出するための微小孔内において、第1の電極と接して仕事関数の小さい粒子放出物質を薄膜に設けているので、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加した際に等電位面が上記薄膜に沿って平坦に形成されることになる。従って、この平坦な等電位面に対して直交して進行する粒子は、上記微小孔から対象物(例えば蛍光体面)へかなり揃った方向性を持って進行するため、常に目的とする対象物に到達することができ、ミスランディングを大きく減少させることができ、高精細化が可能となる。」

・訂正事項10
本件特許明細書の段落番号【0039】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0039】
本発明の第1の粒子放出装置においては、少なくとも、第1及び第2の電極の重なり合う領域であって微小孔の存在しない領域において、粒子放出物質からなる薄膜が第1の電極と絶縁層との間にあって第1の電極を被覆していることが重要である。」
・訂正事項11
本件特許明細書の段落番号【0040】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0040】
また、本発明の第2の粒子放出装置においては、少なくとも、第1及び第2の電極の重なり合う領域であって微小孔の存在しない領域において、第1の電極を微小孔には露出しないように粒子放出物質からなる薄膜と絶縁層との間に設けることが重要である。また、本発明のいずれの粒子放出装置でも、第1の電極を微小孔の存在領域の周囲に格子状パターンで形成してもよい。」
・訂正事項12
本件特許明細書の段落番号【0041】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0041】
本発明の第1及び第2の粒子放出装置は、具体的には、互いに交差する(交差領域は画素領域となる)カソード電極ラインとゲート電極ラインとが絶縁層を介して基体上に積層され、前記ゲート電極ライン及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成されていると共に、前記カソード電極ラインの構成材料よりも仕事関数が小さい電子放出物質からなる薄膜状の冷陰極が、前記カソード電極ラインと接した状態で、少なくとも、前記カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って設けられ、電子放出源として構成されているのが望ましい。」
・訂正事項13
本件特許明細書の段落番号【0050】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0050】
本発明による粒子放出装置及び電界放出型装置は、基体(例えば、後述のガラス基板11)上に第1の電極(例えば、後述のカソード電極13’)を形成する工程と、前記基体上に粒子放出物質(例えば、ダイヤモンド)からなる薄膜を形成する工程と、前記第1の電極及び前記薄膜を含む領域上に絶縁層(例えば、後述のSiO2層15)を形成する工程と、この絶縁層上に第2の電極(例えば、後述のゲート電極14)を形成する工程と、この第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔(例えば、後述のほぼ円形又はスリット状の微細孔又はカソードホール20)を形成する工程とを有する方法を経て製造するのが望ましい。」
・訂正事項14
本件特許明細書の段落番号【0053】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0053】
まず、図1〜図7について、本発明の参考例による電子放出源(電界放出型カソードを含む電極構体)及び極薄型のディスプレイ装置(FED)を説明する。」
・訂正事項15
本件特許明細書の段落番号【0054】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0054】
この参考例によるディスプレイ装置は、図15に示したものと同様に、図1に示す電子放出源(電界放出型カソードを含む電極構体25)と、真空部を介して電子放出源に対向したアノードとなる螢光面パネルとの組み合わせによって構成され、既述したようにしてディスプレイ動作を行うものである。」
・訂正事項16
本件特許明細書の段落番号【0069】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0069】
次に、この例によるディスプレイ装置を構成する電子放出源(電界放出型カソードを含む電極構体25)の製造方法の一例を図4〜図7について説明する。」
・訂正事項17
本件特許明細書の段落番号【0073】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0073】
次いで、図6に示すように、絶縁層15、例えば二酸化珪素(SiO2)をスパッタリング又は化学蒸着法(CVD)により冷陰極薄膜16を含む面上に厚さ1μm程度に成膜し、更に、絶縁層15上にゲート電極材料14、例えばニオブ又はモリブデンを厚さ2000Å程度に成膜する。」
・訂正事項18
本件特許明細書の段落番号【0078】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0078】
図8及び図9は、本発明の第1の粒子放出装置の実施例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。」
・訂正事項19
本件特許明細書の段落番号【0079】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0079】
この実施例による電子放出源は、上記の参考例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、カソード電極ライン13’が格子状構造であることが異なる。この格子のメッシュは任意の形にすることができるが、好ましくは長方形、もしくは正方形がよい。但し、ゲート電極ラインは図9では図示省略している。」
・訂正事項20
本件特許明細書の段落番号【0081】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0081】
冷陰極薄膜16によって、動作時に等電位面がフラットとなり、電子が安定して所定の方向に放出されること、冷陰極薄膜16がアモルファスダイヤモンド薄膜である場合、低電圧駆動が可能であると共に、冷陰極薄膜自体が抵抗体であるために各微細孔20の冷陰極薄膜16から放出される電流量が均質化されること、また、アモルファスダイヤモンド薄膜は化学的に不活性であって、スパッタリングされにくく、安定なエミッションを長い時間維持できることは、上述した参考例と同様である。」
・訂正事項21
本件特許明細書の段落番号【0083】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0083】
図10及び図11は、本発明の第2の粒子放出装置の実施例による電子放出源(電極構体25)をそれぞれ示すものである。」
・訂正事項22
本件特許明細書の段落番号【0084】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0084】
この実施例による電子放出源は、図8及び図9に示した実施例による電子放出源とほぼ同様のパターン構成を有するが、冷陰極薄膜16が基板11とカソード電極ライン13’との間に設けられている点で異なる。この格子のメッシュは任意の形にすることができるが、好ましくは長方形、もしくは正方形がよい。但し、ゲート電極ラインは図11では図示省略している。」
・訂正事項23
本件特許明細書の段落番号【0086】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0086】
冷陰極薄膜16によって、動作時に等電位面がフラットとなり、電子が安定して所定の方向に放出されること、冷陰極薄膜16がアモルファスダイヤモンド薄膜である場合、低電圧駆動が可能であると共に、冷陰極薄膜自体が抵抗体であるために各微細孔20の冷陰極薄膜16から放出される電流量が均質化されること、また、アモルファスダイヤモンド薄膜は化学的に不活性であって、スパッタリングされにくく、安定なエミッションを長い時間維持できることは、上述した参考例と同様である。」
・訂正事項24
本件特許明細書の段落番号【0088】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0088】
図12は、本発明の他の参考例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。」
・訂正事項25
本件特許明細書の段落番号【0089】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0089】
この例による電子放出源は、上記の図1〜図7に示した参考例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通する円形の微細孔20がスリット(溝)状の微細孔で形成されている点が異なる。」
・訂正事項26
本件特許明細書の段落番号【0092】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0092】
この例では、微細孔20がスリット状であるが、微小冷陰極の薄膜16の表面での電界強度は上述した例による円形の微細孔の場合とほとんど等しいので、ほぼ同一電圧で駆動できる。このスリット状の微細孔20は、円形の微細孔の場合と比較して、エミッション領域(電子放出面積)が大きいので、同一電圧で駆動しても、より大きな電流密度を得ることができる。」
・訂正事項27
本件特許明細書の段落番号【0093】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0093】
図13は、本発明の他の実施例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。」
・訂正事項28
本件特許明細書の段落番号【0094】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0094】
この実施例による電子放出源は、図8及び図9に示した実施例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、カソード電極ライン13’が格子状構造であってゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通するスリット(溝)状の微細孔20が形成されている点で異なる。」
・訂正事項29
本件特許明細書の段落番号【0095】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0095】
従って、この実施例によって、図8及び図9に示した実施例で述べたと同様の効果と、図12に示した他の参考例で述べたスリット状微細孔20による効果とを併せて得ることができる。」
・訂正事項30
本件特許明細書の段落番号【0096】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0096】
図14は、本発明の更に他の実施例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。」
・訂正事項31
本件特許明細書の段落番号【0097】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0097】
この実施例による電子放出源は、図10及び図11に示した実施例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、カソード電極ライン13’が格子状構造であってゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通するスリット(溝)状の微細孔20が形成されている点で異なる。」
・訂正事項32
本件特許明細書の段落番号【0098】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0098】
従って、この実施例によって、図10及び図11に示した実施例で述べたと同様の効果と、図12に示した他の参考例で述べたスリット状微細孔20による効果とを併せて得ることができる。」
・訂正事項33
本件特許明細書の段落番号【0100】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0100】
例えば、上述した冷陰極薄膜16の形成領域は、カソード電極ラインとゲート電極ラインとの交差領域のみであってよいし、これ以外の領域にも薄膜16が存在していてもよく、場合によっては基板11の全面にあってもよい。」
・訂正事項34
本件特許明細書の段落番号【0104】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0104】
【発明の作用効果】
本発明によれば、上述した如く、互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記第1の電極側から前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられているとともに、前記薄膜が前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆されるか、或いは、前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記薄膜との間に設けられており、更に前記微小孔が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記薄膜が露出しているので、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加した際に等電位面が前記薄膜に沿って平坦に形成されることになる。従って、この平坦な等電位面に対して直交して進行する粒子は、前記微小孔から対象物(例えば蛍光体面)へかなり揃った方向性を以て進行するため、常に目的とする対象物に到達することができ、ミスランディングを大きく減少させることができ、高精細化が可能となる。」
・訂正事項35
本件特許明細書の段落番号【0106】の記載を下記の通りに訂正する。
「【0106】
また、粒子を放出する部分を上記の薄膜とし、この薄膜を少なくとも第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けているので、この薄膜は、既述したようにマイクロホール120の形成後の蒸着によらずに、予め成膜した後に絶縁層の形成→第2の電極及び微小孔の形成といった工程を経ることができる。従って、この薄膜は容易に形成できる上に、既述したような蒸着後のリフトオフは全く不要となり、薄膜と第2の電極との間の金属片の付着による短絡が生じることがなく、しかも、たとえ別の原因で金属片が生じても薄膜と第2の電極とは十分に離れているために、やはり短絡は生じない。この結果、印加電圧を上昇させた場合に電極が溶断されることはなく、信頼性の良い動作を行わせることができる。そして、前記第2の電極と前記第1の電極との間(即ち、前記微小孔と前記第1の電極との間)に前記薄膜が十分な長さ分存在し、この薄膜部分による電圧降下が生じて電界が緩和され、金属粒子の侵入により両電極間が短絡しても、前記薄膜の抵抗破壊を防ぐことができる。」
・訂正事項36
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図1】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図1】
本発明の参考例による電子放出源の概略断面図である。」
・訂正事項37
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図8】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図8】
本発明の実施例による電子放出源の概略断面図である。」
・訂正事項38
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図10】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図10】
本発明の他の実施例による電子放出源の概略断面図である。」
・訂正事項39
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図12】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図12】
本発明の他の参考例による電子放出源の一部分の平面図である。」
・訂正事項40
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図13】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図13】
本発明の他の実施例による電子放出源の一部分の平面図である。」
・訂正事項41
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図14】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図14】
本発明の更に他の実施例による電子放出源の一部分の平面図である。」
・訂正事項42
本件特許明細書の図面の簡単な説明の【図25】の記載を下記の通りに訂正する。
「【図25】
同電子放出源において溶断が生じる状況を示す概略断面図である。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
・訂正事項1について、
訂正事項1は、本件特許明細書の発明の名称「粒子放出装置、電界放出型装置及びこれらの製造方法」を「粒子放出装置及び電界放出型装置」と訂正するものである。この訂正は、本件特許請求の範囲の訂正によって製造方法に係る訂正前の請求項14を削除したこととの整合性を図るための訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

・訂正事項2について、
訂正事項2は、
(a)特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記第1の電極を被覆するように設けられ、」と「前記微小孔が」との間に、「前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され、」を加入し、
(b)同請求項1に記載された「前記薄膜(2箇所)」を「前記粒子放出物質からなる薄膜」とそれぞれ訂正し、
(c)同請求項2に記載された「前記薄膜(3箇所)」を「前記粒子放出物質からなる薄膜」とそれぞれ訂正し、
(d)同請求項3を削除し、これに続く請求項4、5、6、7、8、9、10、11、12及び13を請求項3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12とそれぞれ請求項に付す番号を訂正し、
(e)同請求項14を削除したものである。
(a)〜(e)は、いずれも特許請求の範囲の記載に技術的限定を付加したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるか、或いは明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項3について、
訂正事項3は特許請求の範囲の請求項14を削除したこととの整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項4〜6について、
訂正事項4〜6は、いずれも誤記の訂正を目的としたものである。
・訂正事項7について、
訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項14を削除したこととの整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項8について、
訂正事項8は、請求項1及び2の訂正に対応して「前記薄膜」の構成物質を明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項9について、
本件特許明細書の段落番号【0034】に記載された「本発明の第1の粒子放出装置」及び「本発明の第2の粒子放出装置」との対応を明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項10について、
訂正事項10は、請求項1の訂正に対応して「第1の電極が、微小孔の存在しない領域において、粒子放出物質からなる薄膜によって被覆されていること」を明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項11について、
訂正事項11は、請求項2の訂正に対応して「第1の電極が、微小孔の存在しない領域において、粒子放出物質からなる薄膜と絶縁層との間に設けられていること」を明確にし、かつ請求項1及び2の訂正に対応して「格子状パターンの第1の電極がいずれの粒子放出装置でも微小孔の存在領域の周囲に形成されてよいこと」を明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項12について、
訂正事項12は、本件特許明細書の段落番号【0034】に記載された「本発明の第1の粒子放出装置」及び「本発明の第2の粒子放出装置」との対応を明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項13について、
誤記の訂正を目的としたものである。
・訂正事項14〜16について、
訂正事項14〜16は、いずれも請求項1及び2の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項17について、
誤記の訂正を目的としたものである。
・訂正事項18について、
訂正事項18は、請求項1の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項19について、
訂正事項19は、請求項1及び2の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項20について、
訂正事項20は、請求項1の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項21について、
訂正事項21は、請求項1及び2の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項22について、
訂正事項22は、請求項2の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項23〜36について、
訂正事項23〜36は、いずれも請求項1及び2の訂正との整合性を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項37〜41について、
訂正事項37〜41は、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
・訂正事項42について、
訂正事項42は、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
そして、前記訂正事項1〜42は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内におけるものであり、かつ、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、前記訂正(訂正事項1〜42)は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】特許異議の申立てについての判断(取消理由についての判断)
1.申立ての理由の概要
特許異議申立人キャノン株式会社は、
甲第1号証(国際公開第94/15352号パンフレット)
甲第2号証(特開平4-229922号公報)
甲第3号証(特開平5-190080号公報)
及び
参考資料1(特表平8-505259号公報)を提出し、
・請求項1,3,5,6,9,11〜14に係る発明は、前記甲第1号証と同一であること、
・請求項1,3,5〜9,12〜14に係る発明は、甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること、
・請求項2〜4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること、
・請求項10に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること、
・請求項9及び11に係る発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること、
を主張し、いずれも特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべきであると主張している。
また、請求項1,2,5に係る発明は特許法第36条第4項及び第5項の規定を満足しないものであって、特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべきであると主張している。

2.本件発明
前記【2】で示したように訂正が認められるから、本件の請求項1〜12に係る発明は、前記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、かつ前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され、
前記微小孔が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置。
【請求項2】 互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設けられ、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出していることを特徴とする粒子放出装置。
【請求項3】 第1の電極が格子状パターンに形成されている、請求項1又は2に記載した粒子放出装置。
【請求項4】 互いに交差するカソード電極ラインとゲート電極ラインとが絶縁層を介して基体上に積層され、前記ゲート電極ライン及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成されていると共に、前記カソード電極ラインの構成材料よりも仕事関数が小さい電子放出物質からなる薄膜状の冷陰極が、前記カソード電極ラインと接した状態で、少なくとも、前記カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って設けられ、電子放出源として構成された、請求項1〜3のいずれか1項 に記載した粒子放出装置。
【請求項5】 粒子放出物質からなる薄膜が、絶縁層の2分の1以下の厚みに設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項6】 粒子放出物質の仕事関数が3.0eV以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項7】 粒子放出物質がダイヤモンドである、請求項6に記載した粒子放出装置。
【請求項8】 微小孔がほぼ円形である、請求項1〜7のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項9】 微小孔がスリット状である、請求項1〜7のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項10】 請求項1〜9のいずれか1項に記載した粒子放出装置を具備する電界放出型装置。
【請求項11】 カソード電極ライン、ゲート電極ライン、微小孔付きの絶縁層及び薄膜状の冷陰極からなる第1のパネルと、複数色の発光体及びこれらの発光体がそれぞれ被着された電極からなる第2のパネルとによって電界放出型発光装置として構成された、請求項10に記載した電界放出型装置。
【請求項12】 発光体が蛍光体である電界放出型ディスプレイ装置として構成された、請求項11に記載した電界放出型装置。」

3.取消理由通知の概要
(引用刊行物)
1.国際公開第94/15352号パンフレット(甲第1号証)
2.特開平4-229922号公報(甲第2号証)

平成16年11月25日付取消理由通知は、前記引用刊行物1〜2を提示し、請求項1〜14に係る発明は前記引用刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜14に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、という内容である。

4.刊行物等
4-1.刊行物1
異議申立人の提出した甲第1号証(国際公開第94/15352号パンフレット、以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、翻訳文は参考資料1として提出された甲第1号証に対応する公表特許公報(特表平8-505259号公報)の記載に依った。
a.“The field strength required to initiate emission of electrons from the surface of a particular material depends upon that material's "work function." Many materials have a positive work function and thus require a relatively intense electric field to bring about field emission. Some materials do, in fact, have a low, or even negative, work function and thus do not require intense fields for emission to occur. Such materials may be deposited as a thin film onto a conductor, resulting in a cathode with a relatively low threshold voltage required to produce electron emissions.”(2頁17行〜28行)(「特定材料の表面から電子の放出を開始させるのに必要な電界強度(field strength)は、その材料の「仕事関数(work function)」に依存する。多くの材料は、正の仕事関数を有しており、電界放出をもたらすために比較的強い電界を必要とする。実際、材料によっては、仕事関数は低く、負のものすらあり、放出を起こすために強い電界を必要としない。このような材料は、導電体(conductor)の上に薄膜として形成されてもよく、その結果、カソードは、電子の放出を作り出すのに必要なスレッショルド電圧が比較的低くなる。」)
前記記載a.から、
・カソード導電体上に形成された、該導電体よりも仕事関数の小さい薄膜を有する構成、
が読みとれる。
b.“In Serial No. 07/851,701, which was filed on March 16, 1992, and entitled "Flat Panel Display Based on Diamond Thin Films," an alternative cathode structure was first disclosed. Serial No. 07/851,701 discloses a cathode having a relatively flat emission surface. The cathode, in its preferred embodiment, employs an emission material having a relatively low effective work function. The material is deposited over a conductive layer and forms a plurality of emission sites, each of which can field-emit electrons in the presence of a relatively low intensity electric field.
・・・・・
A relatively recent development in the field of materials science has been the discovery of amorphic diamond. The structure and characteristics of amorphic diamond are discussed at length in "Thin-Film Diamond," published in the Texas Journal of Science, vol. 41, no. 4, 1989, by C. Collins et al., the entirety of which is incorporated herein by reference. Collins et al. describe a method of producing amorphic diamond film by a laser deposition technique. As described therein, amorphic diamond comprises a plurality of micro-crystallites, each of which has a particular structure dependent upon the method of preparation of the film. The manner in which these micro-crystallites are formed and their particular properties are not entirely understood.
Diamond has a negative electron affinity in the (111) direction. Thus n-type diamond has a negative work function. That is, only a relatively low electric field is required to distort the potential barrier present at the surface of diamond. Thus, diamond is a very desirable material for use in conjunction with field emission cathodes. In fact, the prior art has employed diamond films to advantage as an emission surface on micro-tip cathodes. However, the prior art has failed to recognize that amorphic diamond, which has physical qualities which differ substantially from other forms of diamond, makes a particularly good emission material. Serial No. 07/851,701 was the first to disclose use of amorphic diamond film as an emission material. In fact, in the preferred embodiment of the invention described therein, amorphic diamond film was used in conjunction with a flat cathode structure to result in a radically different field emission cathode design. The micro-crystallites present in the amorphic diamond film are more or less disposed to function as electron emission sites, depending upon their individual structure. Therefore, over the surface of a relatively flat cathode emission surface, amorphic diamond micro-crystallites will be distributed about the surface, a percentage of which will act as localized electron emission sites.”(7頁3行〜8頁28行)(「1992年3月16日に出願された特許出願第07/851,701号「Flat Panel Display Based on Diamond This Films(ダイヤモンドの薄膜をベースにしたフラットパネルディスプレイ)」では、他のカソード構造が初めて開示された。特許出願第07/851,701号は、比較的平らな電子放出面を有するカソードを開示している。その望ましい実施例において、カソードは、有効仕事関数が比較的低いエミッション材料を使用している。材料は導電層の上に堆積形成され、複数のエミッションサイトを形成しており、各サイトは、強度が比較的低い電界の存在下で電子を電界放出することができる。・・・比較的最近では、材料科学の分野において、アモルフィックダイヤモンド(amorphic diamond)が発見されている。アモルフィックダイヤモンドの構造と特徴は、Texas Journal of Sciennce,Vol.41,NO.4,1989に掲載されたコリンズら(C,Collins et al.)による“Thin-Film Diamond”の中で詳細に論じられており、この文献の引用を以て、その全体を本願への記載加入とする。コリンズらは、レーザ積層技術を用いて、アモルフィックダイヤモンド膜を作る方法を記載している。そこに記載されているように、アモルフィックダイヤモンドは複数の微小結晶(micro-crystallites)を有しており、その各々は膜の作製方法に応じて、特有の構造を有している。これら微小結晶の形成方法及びそれら特有の特性は完全に理解されているわけではない。ダイヤモンドは、(111)方向に負電子の親和力を有している。このようにn型ダイヤモンドは負の仕事関数を有している。即ち、ダイヤモンドの表面に存在するポテンシャル障壁を歪ませるのに、比較的低い電界を必要とするだけである。従って、ダイヤモンドは、電界放出カソードと共に使用するのに非常に望ましい材料である。実際、マイクロチップカソードの電子放出表面としてダイヤモンド膜がこれまで使用されてきた。しかし、アモルフイックダイヤモンドは物理的特性が他の形態のダイヤモンドとは実質的に異なり、特に放出材料として良好であることは認識されていなかった。特許出願第07/851,701号は、放出材料としてアモルフィックダイヤモンド膜を使用することを初めて開示した。実際、その特許出願に記載された発明の望ましい実施例において、アモルフィックダイヤモンド膜がフラットカソード構造と共に使用されており、その結果、電界放出カソード構造は根本的に相違する。アモルフィックダイヤモンド膜に存在する微小結晶は、個々の構造に応じて、電子放出サイトとして機能させるために多少なりとも配備されている。それゆえ、比較的平らなカソード放出表面の上では、アモルフィックダイヤモンドの微小結晶は、その表面の回りに分配され、その何割かは局部的な電子放出サイトとして作用する。」)
前記記載b.から、
・導電層上に形成された仕事関数が比較的低いアモルフィックダイヤモンド薄膜からなるカソード、
が読みとれる。

c.“The present invention relates to a flat panel display arrangement which employs the advantages of a luminescent phosphor of the type used in CRTs, while maintaining a physically thin profile. Specifically, the present invention provides for a flat panel display comprising (1) a plurality of corresponding light-emitting anodes and field-emission cathodes, each of the anodes emitting light in response to emission from each of the corresponding cathodes, each of the cathodes including a layer of low work function material having a relatively flat emission surface comprising a plurality of distributed localized electron emission sites and (2) a grid assembly interspersed between the corresponding anodes and cathodes to thereby control emission levels to the anodes from the corresponding cathodes, the grid assembly having apertures therein, the apertures having diameters equal to that of corresponding cathodes, such that the cathodes do not lie under the grid assembly.
In other words, the flat panel display is of a field emission type using a triode (three terminal) pixel structure. The display is matrix-addressable by using grid and cathode assemblies arranged in strips in a perpendicular relationship whereby each grid strip and each cathode strip are individually addressable by grid and cathode voltage drivers, respectively. ”(10頁2行〜27行)(「本発明は、フラットパネルディスプレイ装置に関し、物理的に薄い形状を維持しつつ、CRTに用いられるタイプの発光蛍光体(luminescent phosphor)の利点を採用するものである。特に、本発明はフラットパネルディスプレイを提供するもので、該ディスプレイは、(1)対応する複数の発光アノードと電界放出カソードを具え、各アノードは、対応する各カソードからの放出に応答して光を発光し、各カソードは、仕事関数が低い材料の層を含んでおり、比較的平坦な放出表面を有し、分配されて局在化された複数の電子放出サイトを具えており、(2)対応するアノードとカソードの間に散在されたグリッド装置を具え、これによって、対応するカソードからアノードへの放出レベルを制御できるようにしており、グリッド装置はその中に孔(apertures)を有し、孔の直径は対応するカソードに等しくしており、カソードはグリッド装置の下に位置しないようにしている。換言すれば、フラットパネルディスプレイはトライオード(3端子)の画素構造を用いた電界放出型である。ディスプレイは、細片状のグリッド装置とカソード装置を互いに直交するように配置することにより、マトリックスアドレス可能であり、これによって、各グリッド片と各カソード片は、夫々、グリッドとカソード電圧ドライバーにより個々にアドレス可能である。」)
前記記載c.から、
・対応する複数の発光アノードと電界放出カソードを備えたフラットパネルディスプレイ、
が読みとれる。
d.“The anode assembly consists of a conductive material (such as indium-tin oxide in the preferred embodiment) deposited over a substrate with a low energy phosphor (such as zinc oxide in the preferred embodiment), deposited over the conductive layer. In an alternative embodiment of the present invention, a plurality of red, green and blue phosphors can be deposited over the conductive layer to provide a color display.”(11頁20行〜28行)(「アノード装置は、基板の上に導電材料(望ましい実施例ではインジウム-錫酸化物)が堆積形成され、低エネルギーの蛍光体(望ましい実施例では酸化亜鉛)が導電層の上に堆積形成されている。本発明の他の実施例では、カラーディスプレイを提供するために、赤、緑及び青の蛍光体を導電層の上に積層することもできる。」)
前記記載d.から、
・アノードには発光体として赤、緑及び青の蛍光体が導電層上に形成されていること、
が読みとれる。
e.“Turning now to FIGURE 8, shown is an ineffective grid structure. The structure, generally designated 801, comprises a cathode substrate 802, upon which is deposited a cathode conductive layer 803 and strips of a cathode emission material layer 804. A dielectric layer 805 is deposited on the material layer 804 to form strips which are oriented so as to be perpendicular to the strips of cathode emission material and etched to form apertures which define individual cathode-anode pairs. A grid layer 806 of conductive material is next deposited on the dielectric layer 805, the grid layer 806 formed in strips corresponding to those of the dielectric layer 805 and having corresponding apertures therein. An anode assembly 807 comprising a phosphor layer is placed above the grid layer 806 and held a controlled distance from the grid layer by a plurality of fibrous dielectric spacers 808.
・・・ In the preferred embodiment of the present invention, the size of the apertures is approximately 1 to 20 micrometers in diameter.”(20頁27行〜21頁29行)(「図8は、効果的でないグリッド構造体を示している。この構造体は、その全体を符号801で示しており、カソード基板802を具え、その上にカソード導電層803と、カソード放出材料層804の細片が堆積形成されている。誘電層805は、材料層804の上に積層され、カソード放出材料の細片に直交する向きの細片を形成し、エッチングされて孔を形成し、個々にカソード・アノード対を構成する。導電材料からなるグリッド層806は、次に誘電層805の上に堆積形成される。グリッド層806は、誘電層805の細片に対応する細片に形成され、その中に対応する孔が設けられている。蛍光層を具えるアノード装置807は、グリッド層806の上方に配置され、複数の繊維質の誘電性スペーサ808により、グリッド層から所定間隔が存するように保持される。・・・本発明の望ましい実施例において、孔の大きさは、直径約1〜20μmである。」)
前記記載e.から、
・カソード基板802上にカソード導電層803を形成する工程、その上にカソード放出材料層804を形成する工程、カソード放出材料層804の上に誘電層805を形成する工程、誘電層805にエッチングにより孔を形成する工程、誘電層805の上にグリッド層806を形成する工程、グリッド層806に対応する孔を形成する工程、
が読みとれる。
また、このことから、
・カソード放出材料層804は、カソード導電層803と誘電層805の間にあって前記カソード導電層803上に堆積形成されていること、
が読みとれる。

f.“Turning now to FIGURE 9, shown is a perspective view of the joined cathode and extraction grid assemblies with an intervening dielectric layer. Shown is a substrate 901 upon which is deposited a conductive layer 902, as described before. The conductive layer 902 is deposited in strips, as shown. A dielectric layer 903 is deposited in a blanket layer over the conductive layer 902 and portions of the substrate 901. Next, a control grid layer 904 is deposited on the dielectric layer 903 in the form of strips oriented perpendicularly with respect to the conductive layer 902 strips and provided with a plurality of apertures corresponding to those in the dielectric layer 903. A plurality of apertures 906 are formed in the dielectric layer 903 which correspond to cathodes created or to be created in the conductive layer 902. The grid layer 904 terminates in a plurality of end conductors 905 which can be coupled to drive circuitry allowing the grid layer 904 to be selectively potentially separated from the conductive layer 902. For purposes of FIGURE 9, the anode layer and fibrous spacing material have not been shown although, if shown, would reside over the grid layer 904.”(22頁31行〜23頁19行)(「図9は、誘電層を介在して接合されたカソードと引出しグリッド装置の斜視図である。前述したように、基板(901)の上に、導電層(902)が堆積形成される。導電層(902)は、図示の如く、細片状に形成される。誘電層(903)は、導電層(902)と基板(901)の部分の上に被覆層として堆積形成される。次に、制御グリッド層(904)は、細片の形態にて、導電層(902)の細片に関して直交する方向に、誘電層(903)の上に堆積形成され、誘電層(903)の孔に対応する複数の孔が形成される。複数の孔(906)は誘電層(903)の中に形成され、導電層(902)に形成された又は形成されるべきカソードに対応している。グリッド層(904)は駆動回路に連結されることのできる複数の端部導電体(905)で終端しており、グリッド層(904)は選択的かつ潜在的に導電層(902)から分離されることができる。図9では、アノード層と繊維状の離間材料を図示していないが、もし図示するとすれば、グリッド層(904)の上である。」)
前記記載e.f.から、
カソード導電層803、カソード放出材料層804、カソード誘電層805及びグリッド層806は共に細片で構成され、かつ、カソード誘電層805及びグリッド層806は、カソード導電層803、カソード放出材料層804に直交していること、そしてこのことから、
・カソード導電層803とグリッド層806は互いに部分的に重なり合うようにカソード誘電層805を介し互いに対向してカソード基板802上に設けられていること、
・グリッド層806、誘電層805に設けられた複数の孔906はそれぞれの層を貫通し、カソード放出材料層804の表面に達しており、該表面が孔に露出していること、
・グリッド層806には電圧が印加され、電子が複数の孔906を通して放出されること、
が読みとれる。

g.“Effectively, a "pixel" is formed at each intersection of a grid strip and a cathode strip. ”(10頁28行〜29行)(「「画素(pixel)」は、グリッド片とカソード片の各交差部に形成するのが効果的である。」)

h.“Because a plurality of gate apertures corresponding to a particular pixel are closely spaced in the region of the pixel・・・ ”(18頁21行〜23行)(「特定の画素に対応する複数のゲート孔は、画素の領域に密に開設されているから、・・・」)
前記記載e.f.に依れば、ゲート孔、すなわち複数の孔はカソード放出材料層804表面に達しているのであるから、このことを考慮すると、前記記載g.h.から、
・カソード放出材料層804は複数の孔906に対応してグリッド片とカソード片の各交差部の領域に亘って設けられている構成、
が読みとれる。
以上のことから、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
(刊行物1に記載された発明1)
互いに部分的に重なり合うようにカソード導電層803とグリッド層806とが誘電層805を介し互いに対向して設けられ、前記グリッド層806及び前記誘電層805をそれぞれ貫通する複数の孔906が形成され、前記カソード導電層803と前記グリッド層806との間に電圧を印加することによって電子が前記複数の孔906を通して放出されるように構成されているフラットカソードエミッタにおいて、
前記カソード導電層803の構成材料よりも仕事関数が小さいアモルフィックダイヤモンドからなる薄膜が、前記カソード導電層803及びグリッド層806の重なり合う領域中複数の孔906が存在する領域に亘って設けられ、かつ前記カソード導電層803と前記誘電層805との間にあって前記カソード導電層803上に堆積形成され、
前記複数の孔906が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記複数の孔906に前記薄膜が露出しているフラットカソードエミッタ(以下、「刊行物1に記載された発明1」という。)。
また、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
(刊行物1に記載された発明2)
互いに交差するカソード導電層803とグリッド層806とが誘電層805を介してカソード基板802上に積層され、前記グリッド層806及び前記誘電層805をそれぞれ貫通する複数の孔906が形成されていると共に、前記カソード導電層803の構成材料よりも仕事関数が小さいアモルフィックダイヤモンドからなる薄膜が、前記カソード導電層803と接した状態で、前記カソード導電層803と前記グリッド導電層806との交差領域に亘って設けられ、電子放出源として構成された、刊行物1に記載された発明1におけるフラットカソードエミッタ(以下、「刊行物1に記載された発明2」という。)。
また、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
(刊行物1に記載された発明3)
刊行物1に記載された発明1におけるフラットカソードエミッタを具備するフラットパネルディスプレイ。
また、刊行物1には、「カラーディスプレイを提供するために、赤、緑及び青の蛍光体を導電層の上に積層する」構成が記載されており(【3】4-1.d.参照)、該「導電層」は赤、緑及び青の蛍光体に入射する電子の量を独立に制御する必要から、複数の導電層に各色の蛍光体がそれぞれ被着されて第2のパネルを形成しているものと解される。
この点を考慮すると、刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。
(刊行物1に記載された発明4)
刊行物1に記載された発明1における粒子放出装置を具備し、カソード導電層803とグリッド層806、誘電層805及びアモルフィックダイヤモンドからなる薄膜と、赤、緑及び青の蛍光体がそれぞれ被着された複数の導電層とからなるフラットパネルディスプレイ。

4-2.刊行物2
同じく特許異議申立人の提出した甲第2号証(特開平4-229922号公報、以下、「刊行物2」という。)は、マイクロドット放出カソード付電子放出源に関するものであり、次の事項が記載されている。
a.「【0013】【課題を解決するための手段】この目的を達する為、本発明は陰極とこれに関連した抵抗被覆材がほぼ同一面になるように格子状の陰極(例えば、カソード導体)を使用することを薦める。この構成においては、破壊抵抗は主として抵抗被覆材の厚さに依存せず、かわってカソード導体とマイクロドット間の距離に依存する。故に抵抗破壊を防ぐ為にはカソード導体とマイクロドットとの間に十分な距離を維持することで足り、一方、抵抗被覆材の設置により電子放出の均一効果が保たれている。」
前記記載a.から、
・カソード導体が格子状に形成されていること、
が読みとれる。
b.「【0014】もっと具体的に言うと、本発明は電子放出源に関するものであり、該電子放出源は絶縁支持体の上でカソード導体として機能し電子放出物質からできた複数のマイクロドットを維持する第1の一連の並列の電極と、グリッドとして機能し電気的にカソード導体と絶縁しカソード導体とグリッドとの交差領域を定義するカソード導体と一定の角度を形成する第2の一連の並列電極とからなり、該グリッドはそれぞれのマイクロドットに面して孔を有する。」
c.「【0019】本実施例の場合、有利なことに、マイクロドットは格子メッシュの中心部分を占有する。この構成により、カソード導体とマイクロドットの間に十分な間隔を与えることができ、抵抗破壊(breakdown)を防ぐことが可能となる。」
d.「【0044】図6に概略して示された実施例によれば、カソード導体5は抵抗被覆材7に載置されて格子状構造を有する。この構成において、抵抗被覆材7は絶縁支持体(さらに具体的には被覆材4)と各カソード導体5の間に連結して置かれる。」
前記記載a.〜d.及び図6より、刊行物2には次の発明が記載されているものと認められる。
(刊行物2に記載された発明)
「カソード導体5とグリッド10との交差領域でマイクロドット12の存在しない領域において、絶縁層8と抵抗被覆材7との間にカソード導体5を設けることにより、カソード導体5とマイクロドット12との間に十分な距離を維持し、抵抗破壊を防ぐようにした電子放出源」。

5.対比・判断
5-1.特許法第29条第2項に対する判断
イ.請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明1とを対比すると、
刊行物1に記載された発明1における
「カソード導電層803」、「グリッド層806」、「誘電層805」、「複数の孔906」、「電子」、「フラットカソードエミッタ」、「アモルフィックダイヤモンド」、「カソード導電層803上に堆積形成され」
は、それぞれ、請求項1に係る発明における
「第1の電極」、「第2の電極」、「絶縁層」、「微小孔」、「所定の粒子」、「粒子放出装置」、「粒子放出物質」、「第1の電極を被覆するように設けられ」
に相当し、両者は、
(一致点)
互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域に亘って設けられ、かつ前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、
前記微小孔が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記薄膜が露出している粒子放出装置、
で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
相違点1:粒子放出物質からなる薄膜について、
本件の請求項1に係る発明では、「粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ」る構成を有するのに対し、刊行物1に記載された発明1では、粒子放出物質からなる薄膜が、前記第1の電極及び第2の電極の重なり合う領域中、微小孔が存在する領域に亘って設けられているものの、「第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ」ているのか否か、明記されていない点。
相違点2:第1の電極について、
本件の請求項1に係る発明では、「第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され」る構成を有するのに対し、刊行物1に記載された発明1では、第1の電極が第1と第2の電極が重なり合う領域であって微小孔の存在する領域において粒子放出物質からなる薄膜によって被覆される構成を有するとは言えるものの、微小孔が存在しない領域において、第1の電極が粒子放出物質からなる薄膜によって被覆される構成を有するか否か、明記されていない点。

前記相違点1〜2について検討する。
相違点1について、
刊行物1に記載された発明1においても、粒子放出物質からなる薄膜は、第1の電極と第2の電極の重なり合う領域中、複数の微小孔が存在する領域に亘って設けられていることは明白であり、この点で請求項1に係る発明との間に差異はない。
請求項1に係る発明では、それに加えて、粒子放出物質からなる薄膜を「少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設け」る構成を有するが、薄膜の設ける領域を拡大して第1の電極と第2の電極の重なり合う領域全体にまで拡張することに、特段の阻害要因も存在しない以上、前記第1の電極と第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って薄膜を設ける構成とすることは、当業者が実施の際適宜なし得る設計的事項に過ぎない。

相違点2について、
請求項1に係る発明において、「第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され」るのであるから、請求項1に係る発明は、微小孔の存在しない領域に加えて微小孔の存在する領域においても、第1と第2の電極が重なり合う領域において第1の電極が粒子放出物質からなる薄膜によって被覆される構成を有するものを包含することは明白である。
そうすると、請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明1とは、微小孔の存在する領域においては、両者の構成に差異はなく、ただ、請求項1に係る発明では、微小孔の存在しない領域を有し、該領域で「第1の電極が・・・粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され」る構成を有する点で相違することになる。
ところで、電界放出型装置において、第1の電極と第2の電極の重なり合う領域に粒子放出用の複数の孔を設ける領域と該孔を設けない領域が共に存在するように形成したものは周知である(例えば、特開平4-229922号公報参照)から、刊行物1に記載された発明1において、第1の電極と第2の電極の重なり合う領域中に、微小孔の存在しない領域を形成することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、相違点1について、で述べたように、粒子放出物質からなる薄膜を、第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けることが、容易になし得る設計的事項であることを併せ勘案すると、刊行物1に記載された発明1において、微小孔の存在しない領域を形成し、該領域で「第1の電極が・・・粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され」るようにして請求項1に係る発明の構成とすることは、当業者が容易になし得るところと言うことができる。

ロ.請求項4に係る発明
請求項4に係る発明と刊行物1に記載された発明2とを対比すると、刊行物1に記載された発明2における
「カソード導電層803」、「グリッド層806」、「カソード基板802」、「アモルフィックダイヤモンドからなる薄膜」
は、それぞれ、請求項4に係る発明における
「カソード電極ライン」、「ゲート電極ライン」、「基体」、「電子放出物質からなる薄膜状の冷陰極」
に相当し、両者は、前記相違点1〜2に加えて、
相違点3.
本件の請求項4に係る発明では、薄膜状の冷陰極が「少なくとも、前記カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って設けられ」ている構成を有するのに対し、刊行物1に記載された発明2では、薄膜状の冷陰極が「前記カソード導電層803と前記グリッド導電層806との交差領域に亘って設けられ」ているが、「カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って」設けられているのか否か、明記されていない点、 で相違するが、相違点1〜2に対する判断は既述のとおりであり、相違点3に対する判断は【3】5-1.イ.中の、相違点1.において述べた判断と同様である。

ハ.請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明と刊行物1に記載された発明1とを対比すると、両者は前記相違点1〜2に加えて、
相違点4.
請求項5に係る発明では、「粒子放出物質からなる薄膜が、絶縁層の2分の1以下の厚みに設けられ」ているのに対し、刊行物1に記載された発明1では、薄膜の厚みについて特に明記されていない点、
で相違する。
そこで前記相違点4について検討すると、粒子放出物質からなる薄膜は、ダイヤモンド薄膜等であるため、そもそも極めて薄いものであること、一方、絶縁層は絶縁破壊を起こさない程度に厚くする必要のあることを考慮すると、「粒子放出物質からなる薄膜が、絶縁層の2分の1以下の厚みに設けられ」ることは、当業者が実施の際、普通に選定する範囲の厚み関係に過ぎない。
そして、相違点1〜2に対する判断は、既述のとおりである。

ニ.請求項6に係る発明について
請求項6に係る発明と刊行物1に記載された発明1とを対比すると、両者は前記相違点1〜2に加えて、
相違点5
請求項6に係る発明では、粒子放出物質の仕事関数が3.0eV以下であるのに対し、刊行物1に記載された発明1では、アモルフィックダイヤモンドの仕事関数について明記されていない点、で一応相違する。
前記相違点について、検討する。
本件特許明細書段落番号【0044】の記載に依れば、アモルフィックダイヤモンドの仕事関数は1ev以下である。そうすると、刊行物1に記載された発明1におけるアモルフィックダイヤモンドは請求項6に係る発明における「粒子放出物質」に含まれることになり、相違点5は実質的なものではない。
そして、相違点1〜2に対する判断は既述のとおりである。

ホ.請求項7に係る発明について
請求項7に係る発明と刊行物1に記載された発明1とを対比すると、刊行物1に記載された発明1における「アモルフィックダイヤモンド」は、請求項7に係る発明における「ダイヤモンド」に相当し、両者の間には、前記相違点1〜2以外に差異は見いだし得ない。
そして、相違点1〜2に対する判断は既述のとおりである。

ヘ.請求項8に係る発明について
刊行物1に記載された発明1における「複数の孔906」について、特にその形状についての記載は刊行物1中には見あたらないが、刊行物1中、「本発明の望ましい実施例において、孔の大きさは、直径約1〜20μmである。」(【3】4-1.e.参照)との記載が認められ、孔の大きさをその直径で指定していること、さらに、電界放出型粒子放出装置において、円形の粒子放出開口を有するものは周知である(例えば、特開平5-190080号公報参照)ことを併せ考慮すると、前記記載から孔の形状を円形と解するのは自然である。
そうすると、この点で、請求項9に係る発明と刊行物1に記載された発明1との間に差異は見いだし得ないことになる。
その他の相違点に対する判断は、既述のとおりである。

ト.請求項9に係る発明について
電界放出型粒子放出装置において、粒子放出開口形状を円形に代えて矩形状とすることは周知である(例えば、特開平5-190080号公報参照)。したがって、刊行物1に記載された発明1に記載された発明において、微小孔の形状をスリット状にすることに格別の創意を要したものとは認められない。 その他の相違点に対する判断は、既述のとおりである。

チ.請求項10に係る発明について
請求項10に係る発明と刊行物1に記載された発明3とを対比すると、刊行物1に記載された発明3における「フラットパネルディスプレイ」は請求項10に係る発明における「電界放出型装置」 に相当し、両者の間には、前記相違点1〜2以外に差異は見いだし得ない。
そして、相違点1〜2に対する判断は既述のとおりである。

リ.請求項11に係る発明について
請求項11に係る発明と刊行物1に記載された発明4とを対比すると、刊行物1に記載された発明4における「カソード導電層803とグリッド層806、誘電層805及びアモルフィックダイヤモンドからなる薄膜」、「赤、緑及び青の蛍光体がそれぞれ被着された複数の導電層」は、それぞれ、請求項11に係る発明における「カソード電極ライン、ゲート電極ライン、微小孔付きの絶縁層及び薄膜状の冷陰極からなる第1のパネル」、「複数色の発光体及びこれらの発光体がそれぞれ被着された電極からなる第2のパネル」 に相当し、両者の間には、前記相違点1〜2以外に差異は見いだし得ない。
そして、相違点1〜2に対する判断は既述のとおりである。

ヌ.請求項12に係る発明について
請求項12に係る発明と刊行物1に記載された発明4とを対比すると、両者の間には、前記相違点1〜2以外に差異は見いだし得ない。
そして、相違点1〜2に対する判断は既述のとおりである。
以上のとおり、請求項1、4〜12に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ル.請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明と刊行物1〜2に記載された発明とを対比すると、刊行物1〜2に記載された発明のいずれにも、請求項2の構成要件である「第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設けられ」る構成が記載されていない。
すなわち、刊行物1には、第1の電極を粒子放出物質からなる薄膜の上に(すなわち絶縁層と薄膜との間に)設けたものは記載されておらず、専ら粒子放出物質からなる薄膜の下に第1の電極を設ける構成が記載されているのみである。
一方、刊行物2には、カソード導体5(「第1の電極」に相当)を絶縁層8(「絶縁層」に相当)と抵抗被覆材7との間に設けたものは記載されているものの、刊行物2に記載の発明はそもそも粒子放出物質からなる薄膜を有しないものである。
そうしてみると、刊行物1〜2に記載された発明のいずれにも、請求項2の構成要件である前記構成について記載されていないと言えることになる。
(組合せ容易性について)
次に、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明との組合せ容易性について、検討するが、それに先立ち、刊行物1及び2に記載された発明、及び請求項2に係る発明のそれぞれにおいて、粒子がどのような経路を通って放出されるのか、粒子の通る電気経路について検討する。
刊行物1に記載された発明では、粒子放出物質からなる薄膜が微小孔が存在する領域に亘って、第1の電極の上に堆積形成されているのであるから、粒子は、第1の電極から粒子放出物質からなる薄膜を膜厚方向に通過して該薄膜表面から放出されると解し得る。
一方、刊行物2に記載された発明では、「カソード導体5とグリッド10との交差領域でマイクロドット12の存在しない領域において、絶縁層8と抵抗被覆材7との間にカソード導体5を設け」る構成を有するのであるから、粒子は、カソード電極5(第1の電極)から抵抗被覆材7をその膜面方向に通過してマイクロドット12に至り放出されると解することができる。
そこで、請求項2に係る発明における粒子の電気経路について検討する。
先ず、請求項2に係る発明において、第1の電極は「微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設け」る構成を有するとは記載されているものの、微小孔の存在する領域においては第1の電極が設けられているのか否か、明記されていないので、この点について明らかにする必要がある。
微小孔の存在する領域では、粒子放出物質からなる薄膜が微小孔を通して粒子を放出する必要から、第1の電極を微小孔の存在しない領域と同じく「絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設け」る構成を採用していると解することは技術的に見て無理がある。この点を考慮すると、微小孔の存在する領域では、第1の電極は設けられていないと解するのが自然であり、また、本件明細書の記載もそれを裏付けている(本件明細書段落番号【0079】〜【0080】の記載参照)。
そうしてみると、請求項2に係る発明では、粒子は微小孔の存在しない領域に設けられた第1の電極から粒子放出物質からなる薄膜をその膜面方向に通過して微小孔の存在する領域に至り放出されると解し得ることになる。
以上のことを念頭において刊行物1乃至2に記載された発明を組み合わせることにより請求項2に係る発明に至るか否かを検討する。
刊行物1乃至2に記載された発明を組み合わせた結果、得られるものにおける粒子の電気経路は、粒子放出物質からなる薄膜を膜厚方向に通過する経路(刊行物1に記載された発明の場合)か、抵抗被覆材をその膜面方向に通過する電気経路(刊行物2に記載された発明の場合)のいずれかであって、いずれの発明にも、請求項2に係る発明における粒子放出物質からなる薄膜をその膜面方向に通過して微小孔の存在する領域に至る電気経路を有しない。
すなわち、刊行物1乃至刊行物2に記載された発明には、粒子放出物質からなる薄膜の膜面方向を電気経路に用いるという技術思想が存在しない。また、粒子放出物質からなる薄膜のような高抵抗膜を膜面方向に電流を流して電気経路として用いるという技術思想が周知であるとも言えない以上、刊行物1乃至2に記載された発明を組み合わせて請求項2に係る発明に至ることはできない。
そして、本件請求項2に係る発明は、前記構成により、「カソード導体13’と微細孔20との間に十分な距離をとることができ、仮に金属粒子等が微細孔20に入り込んでカソード電極ライン13’とゲート電極ライン14とが短絡したとしても、冷陰極薄膜16の抵抗破壊を防ぐことができる」という明細書に記載の顕著な効果(以下、「明細書に記載の効果」と言う)を奏するものであるから、本件請求項2に係る発明が前記刊行物1乃至2のいずれにも記載されているものであるとは言えず、かつ、前記刊行物に記載されたものから容易に発明をすることができたものであるとも言えない。

オ.請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明中、「第1の電極が格子状パターンに形成されている、請求項1に記載した粒子放出装置」と刊行物1〜2に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明は、「第1の電極が格子状パターンに形成されている」構成を有しない。
一方、刊行物2には、カソード導体5(「第1の電極」)が抵抗被覆材7に載置されて格子状構造を有するものが記載されている(【3】4-2.d.)が、該カソード導体5は抵抗被覆材7に載置されているものであって、「粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され」(請求項1)るものではない。
次に刊行物1乃至2に記載された発明の組合せ容易性について検討する。
先ず、請求項3に係る発明中、「第1の電極が格子状パターンに形成されている請求項1に記載した粒子放出装置」の場合の粒子の電気経路について検討する。
この場合、
・「粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられていること(請求項1の記載)、
・「第1の電極が格子状パターンに形成されている」こと(請求項3の記載)、及び、
・「第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され」(請求項1の記載)ていること。
以上のことから、格子状パターンの中央部の第1の電極が形成されていない領域にも粒子放出物質からなる薄膜が形成されていると解され、該領域における粒子放出物質に粒子を供給する電気経路は、粒子放出物質の膜面方向と解するのが自然である。
ところで、既述したように刊行物1乃至2に記載された発明のいずれにも、「粒子放出物質からなる薄膜をその膜面方向に通過して微小孔の存在する領域に至る」電気経路を有しない。
したがって、刊行物1乃至2に記載された発明を組み合わせたところで、請求項3に係る発明に至ることはできない。
そして、本件請求項3に係る発明は、前記構成により、明細書に記載の効果を奏するものである。
次に、請求項3に係る発明中、「第1の電極が格子状パターンに形成されている、請求項2に記載した粒子放出装置」についての判断は、ル.請求項2に係る発明について、における判断と同様である。
以上のとおり、本件請求項3に係る発明は前記刊行物1乃至2のいずれにも記載されているものであるとは言えず、かつ、前記刊行物に記載されたものから容易に発明をすることができたものであるとも言えない。

(その他の刊行物)
異議申立人は前記した刊行物1、2、参考資料の他に、甲第3号証(特開平5-190080号公報、以下「刊行物3」という。)を提出しているが、刊行物3は、粒子を放出する微小孔の開口形状が、円形の場合と矩形状の場合とをそれぞれ有する電界放出装置が開示されるに止まり、刊行物3を考慮しても、請求項2、3に係る発明が刊行物1〜3に記載された発明と同一、或いはそれらから容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

5-2.特許法第36条第4項乃至第5項に対する判断
異議申立人は、(訂正後の)請求項1、2,4(訂正前の請求項1,2,5)における「ほぼ全域」とは、具体的にどの程度を意味するのか不明瞭であるから、請求項1,2,4に係る発明は特許法第36条第4項及び第5項の規定を満足しない旨主張しているので、この点について検討する。
確かに、異議申立人の主張するように、請求項1,2,4の記載は字句のみから解釈する限り「第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域」(請求項1,2)或いは「カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域」(請求項4)がどの程度を意味するか、必ずしも明確ではないとも言えるが、他方、請求項1,2,4に係る発明において、粒子放出物質からなる薄膜を「第1及び第2の電極の重なり合う領域」の「全域に亘って設け」る必要性のないことは明らかであり、「第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域」の内、第1の電極が存在する領域に粒子放出物質からなる薄膜を設ければ足りることは、技術常識に照らして明白である。
このことに留意して請求項1,2,4を見れば、それらの記載は(字句通りの意味はともかくとして)全体としてみれば技術的に不明確であるとまでは言えない。

6.むすび
以上のとおり、請求項1、4〜12に係る発明は刊行物1に記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、請求項1、4〜12に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1、4〜12に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第9条第4項及び第7項並びに第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、取り消されるべきものである。
また、請求項2、3に係る発明の特許については、他に取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粒子放出装置及び電界放出型装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、かつ前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され、
前記微小孔が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置。
【請求項2】互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物からなる薄膜との間に設けられ、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置。
【請求項3】第1の電極が格子状パターンに形成されている、請求項1又は2に記載した粒子放出装置。
【請求項4】互いに交差するカソード電極ラインとゲート電極ラインとが絶縁層を介して基体上に積層され、前記ゲート電極ライン及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成されていると共に、前記カソード電極ラインの構成材料よりも仕事関数が小さい電子放出物質からなる薄膜状の冷陰極が、前記カソード電極ラインと接した状態で、少なくとも、前記カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って設けられ、電子放出源として構成された、請求項1〜3のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項5】粒子放出物質からなる薄膜が、絶縁層の2分の1以下の厚みに設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項6】粒子放出物質の仕事関数が3.0eV以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項7】粒子放出物質がダイヤモンドである、請求項6に記載した粒子放出装置。
【請求項8】微小孔がほぼ円形である、請求項1〜7のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項9】微小孔がスリット状である、請求項1〜7のいずれか1項に記載した粒子放出装置。
【請求項10】請求項1〜9のいずれか1項に記載した粒子放出装置を具備する電界放出型装置。
【請求項11】カソード電極ライン、ゲート電極ライン、微小孔付きの絶縁層及び薄膜状の冷陰極からなる第1のパネルと、複数色の発光体及びこれらの発光体がそれぞれ被着された電極からなる第2のパネルとによって電界放出型発光装置として構成された、請求項10に記載した電界放出型装置。
【請求項12】発光体が蛍光体である電界放出型ディスプレイ装置として構成された、請求項11に記載した電界放出型装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、粒子放出装置(例えば、極薄型のディスプレイ装置に使用して好適な電子放出源)及び電界放出型装置(例えば、前記電子放出源を有するディスプレイ装置)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば極薄型のディスプレイ装置としては、電界放出型カソードを電子放出源とする電界放出型ディスプレイ(FED:Field Emission Display)が知られている。
【0003】
公知のFEDでは、スクリーン内部に電子放出源を設け、その各画素領域内に電子放出材料からなる多数のマイクロチップを形成し、所定の電気信号に応じて対応する画素領域のマイクロチップを励起することにより、スクリーンの蛍光面を発光させている。
【0004】
上記の電子放出源においては、帯状に形成された複数本のカソード電極ラインと、このカソード電極ラインの上部においてカソード電極ラインと交差して帯状に形成された複数本のゲート電極ラインとが設けられ、上記カソード電極ラインの上記ゲート電極ラインとの各交差領域がそれぞれ1画素領域として形成されている。
【0005】
従来の電子放出源によれば、具体的には図15〜図17に示すように、例えばガラス材からなる下部基板101の表面上に帯状の複数本のカソード電極ライン103が形成されている。
【0006】
これらのカソード電極ライン103には各接続部103aを除いて絶縁層105が成膜され、この上に各カソード電極ライン103と交差して帯状に複数本のゲート電極ライン104が形成されていて、各カソード電極ライン103と共にマトリクス構造を構成している。
【0007】
さらに、各カソード電極ライン103の接続端部103a及び各ゲート電極ライン104の接続端部104aが制御手段107にそれぞれ接続され、電気的に導通している。
【0008】
ここで、各カソード電極ライン103の各ゲート電極ライン104との各交差領域122において、絶縁層105には、カソード電極ライン103からゲート電極ライン104へ通じる孔径wの多数の円形の微細(小)孔120がカソードホールとして形成され、これらの各孔内に電界放出型カソードとしてのマイクロチップ106が数μm以下の微小サイズに設けられている。
【0009】
これらの各マイクロチップ106は、電子放出材料、例えばモリブデンからなっていて、ほぼ円錐体に形成され、それぞれカソード電極ライン103上に配されている。そして、各マイクロチップ106の円錐体の先端部は、ゲート電極ライン104に形成されている電子通過用のゲート部104bにほぼ位置している。
【0010】
このように、各カソード電極ライン103の各ゲート電極ライン104との各交差領域122には、多数のマイクロチップ106が設けられて画素領域が形成され、個々の画素領域が1つの画素(ピクセル)に対応している。
【0011】
上記のように構成された電子放出源(電界放出型カソード)においては、制御手段107により所定のカソード電極ライン103及びゲート電極ライン104を選択し、これらの間に所定の電圧を印加することによって、この印加電圧を対応する画素領域内の各マイクロチップ106に印加すると、各マイクロチップ106の先端からトンネル効果によって電子が放出される。なお、この所定の印加電圧値は、各マイクロチップ106がモリブデンからなっている場合、各マイクロチップ106の円錐体の先端部付近の電界の強さが108〜1010V/mとなる程度のものである。
【0012】
このとき、この電子放出源が内蔵されたディスプレイ装置(FED)においては、所定の画素領域を励起することによって各マイクロチップ106から放出された電子が、制御手段107によりカソード電極ライン103とアノード(蛍光面パネルの透明電極)との間に印加された電圧によって更に加速され、ゲート電極ライン104とアノードとの間に形成された真空部を通って蛍光面に到達する。そして、この電子線により蛍光面から可視光が放出される。
【0013】
ここで、図15においてこのディスプレイ装置の構成を説明すると、例えばR(赤)、G(緑)、B(青)の三原色の各蛍光体素子がITO(Indium Tin Oxide:In及びSnの混合酸化物)等からなる透明電極100R、100G、100Bを介してストライプ状に配列されてカラー蛍光面123が形成された光透過性の蛍光面パネル114と、電界放出型カソードを有する電極構体115(電子放出源)が形成された背面パネル101とがシール材等により気密に封止され、所定の真空度に保持される。
【0014】
蛍光面パネル114と背面パネル101とは、その間隔を一定に保持するために所定の高さの柱(いわゆるピラー)110を介して封止される。
【0015】
このFEDによりカラー表示を行う方法としては、選択された交差部122の各カソードと一色の蛍光体とを対応させる方法と、各カソードと複数の色の蛍光体とを対応させるいわゆる色選別方法がある。この場合の色選別の動作を図18及び図19を用いて説明する。
【0016】
図18において、蛍光面パネル114の内面の複数のストライプ状の透明電極100上には各色に対応するR、G、Bの蛍光体が順次配列されて形成され、各色の電極はそれぞれ赤色は3R、緑色は3G、青色は3Bの端子に集約されて導出されている。
【0017】
対向する背面パネル101上には、上記したようにカソード電極103及びゲート電極104が直交してストライプ状に設けられ、マイクロチップ先端に108〜1010V/mの電界がかかるようにカソード電極103-ゲート電極104間に電圧を印加すると、各電極の交差部122に形成されたマイクロチップ(電界放出型カソード)106から電子が放出される。
【0018】
一方、透明電極100(即ち、アノード電極)とカソード電極103との間には100〜1000Vの電圧を印加して、電子を加速し、蛍光体を発光させる。図18の例においては、赤色蛍光体Rにのみ電圧を印加して、電子を矢印eで示すように加速させた場合を示している。
【0019】
このように、三端子化された各色R、G、Bを時系列で選択することによってカラー表示を行うことができる。各カソード電極列上のある一点のカソード、ゲート及びアノード(蛍光体ストライプ)のNTSC方式での色選別タイミングチャートを図19に示す。
【0020】
各カソード電極103を1Hの周期で線順次駆動させるときに、各色蛍光体R、G、Bに対しそれぞれ周期HのうちH/3ずつ+hVの信号を与える一方、ゲート信号及びカソード信号をH/3周期でゲート信号として+αV、カソード信号として-αV〜-βVを同期してそれぞれ与え、ゲートカソード間電圧VPP=+2αVのときに電子を放出して、H/3毎に選択されるR、G、Bの各蛍光体を発光させて色選別を行うことができ、これによりフルカラー表示を行うことができる。
【0021】
しかしながら、本発明者が上記した電子放出源について検討を加えた結果、以下に述べるような欠点が存在することを突き止めた。
【0022】
まず、図20に示すように、カソード電極103上の微細孔120内に配したマイクロチップ106がほぼ絶縁層105の厚みに亘ってほぼ円錐体に形成されているために、ゲート電極104-カソード電極103間に電圧を印加した際に等電位面Ecはマイクロチップ106の円錐面に沿って微細孔120内に形成されることになる。
【0023】
ところが、マイクロチップ106から放出される電子eは等電位面Ecと直交して進行するので、孔120から放出される電子eの進路は大きく振れ、その振れ角θは±30度にもなってしまう。この結果、蛍光面では、電子ビームeが所定の蛍光体(例えば赤色蛍光体)に到達せず、不所望な蛍光体(例えば、隣接する緑色蛍光体)に到達し、ミスランディングを起こし易くなる。これでは、目的とする色の発光が得られず、ディスプレイの性能が損なわれ、その精細化において問題となる。
【0024】
しかも、上記した電子放出源においては、各マイクロチップ106から放出される電子の量(即ち、電流量)がばらつき、不均質なものとなり易い。このため、このようなディスプレイ装置はスクリーン上に生じる光輝点が不均質となり、非常に目障りなものとなる。
【0025】
また、上記した電子放出源は、金属粒子等により、マイクロチップ106とゲート電極ライン104とが接続されてカソード電極ライン103とゲート電極ライン104とが短絡し、マイクロチップ106が破壊される場合があることが分かった。これに加えて、ゲート電極ライン104と蛍光面114との間の高真空領域130に存在するイオンがマイクロチップ106をスパッタし、ディスプレイとしての寿命を縮めることもある。
【0026】
上記の短絡によるマイクロチップ106の破壊について、図21〜図25に示す製造工程で説明すると、まず図21に示すように、ガラス等からなる下部基板101上にニオブ等を材料として厚さ約2000Å程度の導体膜を成膜し、その後、写真製版法及び反応性イオンエッチング法により、この導体膜をライン形状にパターニングしてカソード電極103とする。
【0027】
そして、絶縁層105(例えば、二酸化珪素)をスパッタリング又は化学蒸着法により上記導体膜上に成膜し、この絶縁層105上にゲート電極材料(例えば、ニオブ)を成膜し、その後、写真製版法及び反応性イオンエッチング法によりこの導体膜をカソード電極ライン103と交差するようなゲート電極ライン104に加工する。しかる後、ゲート電極ライン104及び絶縁層105を貫通する円形の微細孔120を写真製版法及び反応性イオンエッチング法により形成する。
【0028】
その後、図22に示すように、剥離層124(例えば、アルミニウム)を電子放出源の主面部に対して斜め方向から真空蒸着により成膜する。
【0029】
そして、図23に示すように、微細孔120中のカソード電極103上にモリブデンを円錐形に蒸着法により堆積させ、マイクロチップ106を形成する。このとき、剥離層124上にモリブデン106が堆積するが、この堆積の進行に伴って孔120の上方が堆積モリブデンにより徐々に閉じられ、これと同時にマイクロチップ106が円錐状に堆積する。
【0030】
次いで、図24に示すように剥離層124を溶解することにより、剥離層124上のモリブデン106を剥離し、除去(リフトオフ)し、図17に示した如き構造を作製する。
【0031】
しかし、このリフトオフ時等に生じた金属片125等がマイクロチップ106とゲート電極ライン104との間に付着し、これらを短絡する。このため、作動時にカソード103-ゲート104間に電圧を印加し、この電圧を上げていった場合に、マイクロチップ106は非常に高温になり、ついには耐えきれないほどの温度となる。
【0032】
この結果、図25に示すように、マイクロチッブ106自体と、その周りの半径数十μmに亘る領域のゲート104やカソード103までも矢印126のように溶断され、破壊を生じてしまう。これでは、かなりの領域が動作しなくなり、有効な領域が減少してしまう。
【0033】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記したような従来技術の欠点を解決し、電子等の放出能力とその方向性を良好とし、低電圧駆動を可能にして、放出される電流量の均質化を図り、しかも、高信頼性、長寿命であり、高精細、大型の極薄型ディスプレイ装置にも十分対応可能であり、製造が容易な粒子放出装置及び電界放出型装置を提供することにある。
【0034】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、互いに部分的に重なり合うように第1の電極(例えば、後述のカソード電極13;以下、同様)と第2の電極(例えば、後述のゲート電極14;以下、同様)とが絶縁層(例えば、後述のSiO2層15;以下、同様)を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔(例えば、後述のほぼ円形又はスリット状の微細孔又はカソードホール20;以下、同様)が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子(特に電子;以下、同様)が前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置(例えば、電界放出型カソード;以下、同様)において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜(例えば、後述のダイヤモンド薄膜16)が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、かつ前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆され、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置(以下、本発明の第1の粒子放出装置と称する。)に係り、また、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられ、
前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記粒子放出物質からなる薄膜との間に設けられ、
前記微小孔が前記粒子放出物質からなる薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記粒子放出物質からなる薄膜が露出している
ことを特徴とする粒子放出装置(以下、本発明の第2の粒子放出装置と称する。)にも係るものである。
【0035】
本発明の第1及び第2の粒子放出装置は、電子の如きエネルギー粒子を放出するための微小孔内において、第1の電極と接して仕事関数の小さい粒子放出物質を薄膜に設けているので、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加した際に等電位面が上記薄膜に沿って平坦に形成されることになる。従って、この平坦な等電位面に対して直交して進行する粒子は、上記微小孔から対象物(例えば蛍光体面)へかなり揃った方向性を以て進行するため、常に目的とする対象物に到達することができ、ミスランディングを大きく減少させることができ、高精細化が可能となる。
【0036】
また、上記薄膜を構成する粒子放出物質の仕事関数が第1の電極の構成材料よりも小さいので、粒子の放出のために第1の電極と第2の電極との間に印加する電圧を低減することができ、低電圧駆動で必要な放出量を安定して得ることができる。
【0037】
また、粒子を放出する部分を上記の薄膜とし、この薄膜を少なくとも第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けているので、この薄膜は、既述したようなマイクロホール120の形成後の蒸着によらずに、予め成膜した後に絶縁層の形成→第2の電極及び微小孔の形成といった工程を経ることができる。従って、この薄膜は容易に形成できる上に、既述したような蒸着後のリフトオフは全く不要となり、薄膜と第2の電極との間の金属片の付着による短絡が生じることがなく、しかも、たとえ別の原因で金属片が生じても薄膜と第2の電極とは十分に離れているために、やはり短絡は生じない。この結果、印加電圧を上昇させた場合に電極が溶断されることはなく、信頼性の良い動作を行わせることができる。
【0038】
更に、粒子を放出する部分が上記薄膜であるため、マイクロチップ先端のように1点にイオンが集中することがなく、高真空領域に存在するイオンが薄膜に到達してこれをスパッタする割合が激減するから、装置の長寿命化が可能である。
【0039】
本発明の第1の粒子放出装置においては、少なくとも、第1及び第2の電極の重なり合う領域であって微小孔の存在しない領域において、粒子放出物質からなる薄膜が第1の電極と絶縁層との間にあって第1の電極を被覆していることが重要である。
【0040】
また、本発明の第2の粒子放出装置においては、少なくとも、第1及び第2の電極の重なり合う領域であって微小孔の存在しない領域において、第1の電極を微小孔には露出しないように粒子放出物質からなる薄膜と絶縁層との間に設けることが重要である。また、本発明のいずれの粒子放出装置でも、第1の電極を微小孔の存在領域の周囲に格子状パターンで形成してもよい。
【0041】
本発明の第1及び第2の粒子放出装置は、具体的には、互いに交差する(交差領域は画素領域となる)カソード電極ラインとゲート電極ラインとが絶縁層を介して基体上に積層され、前記ゲート電極ライン及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成されていると共に、前記カソード電極ラインの構成材料よりも仕事関数が小さい電子放出物質からなる薄膜状の冷陰極が、前記カソード電極ラインと接した状態で、少なくとも、前記カソード電極ラインと前記ゲート電極ラインとの交差領域のほぼ全域に亘って設けられ、電子放出源として構成されているのが望ましい。
【0042】
また、上記した粒子放出物質からなる薄膜が、絶縁層の2分の1以下の厚みに設けられているのがよく、例えば、絶縁層が1μm厚であれば、薄膜は5000Å以下の厚みを有している。この薄膜の厚みは、上記した本発明の作用効果を有効に発揮できるように設定するのがよく、また、成膜時の蒸着量等によって制御可能である。
【0043】
上記した粒子放出物質の仕事関数は、第1の電極の構成材料の仕事関数よりも小さいことが必須不可欠であり、3.0eV以下であることが望ましく、2.0eV以下が更によい。これは、両電極(第1の電極及び第2の電極)間の印加電圧を低くし、特に数10Vでも必要な電流量を得、例えばディスプレイ用として十分に動作可能となるからである。なお、第1の電極の構成材料としては、Nb(仕事関数4.02〜4.87eV)、Mo(仕事関数4.53〜4.95eV)、Cr(仕事関数4.5eV)等が挙げられる。
【0044】
こうした粒子放出物質としては、ダイヤモンド(特にアモルファスダイヤモンド:仕事関数1.0eV以下)がよい。薄膜がアモルファスダイヤモンド薄膜である場合には、5×107V/m以下の電界の強さでディスプレイとして必要な電流量を得ることができるので、一層の低電圧駆動が可能となる。
【0045】
また、こうしたアモルファスダイヤモンド薄膜は電気的に抵抗体であるから、各微小孔内の薄膜から放出される電流量の均質化を図ることができる。そして、アモルファスダイヤモンド薄膜は化学的に不活性であり、イオンによりスパッタリングされにくいので、安定なエミッションを長い時間維持できる。
【0046】
ダイヤモンド以外に使用可能な粒子放出物質としては、LaB6(仕事関数2.66〜2.76eV)、BaO(仕事関数1.6〜2.7eV)、SrO(仕事関数1.25〜1.6eV)、Y2O3(仕事関数2.0eV)、CaO(仕事関数1.6〜1.86eV)、BaS(仕事関数2.05eV)、TiN(仕事関数2.92eV)、ZrN(仕事関数2.92eV)等が挙げられる。
【0047】
こうした粒子放出物質は、既述したマイクロチップ106の構成材料であるモリブデン(仕事関数4.6eV)等に比べて仕事関数がかなり小さいことが特徴的である。なお、この仕事関数は3.0eV以下とするのが望ましいが、これは両電極間の印加電圧との相関性で決めることができ、仕事関数が小さめである場合は印加電圧を低くでき(例えば、仕事関数を2.0eV以下とすれば印加電圧は100V以下にでき)、或いは仕事関数が大きめである場合は印加電圧を高くすればよい。
【0048】
本発明はまた、上記した電界放出型カソード等の電子放出源の如き粒子放出装置を具備する電界放出型装置、例えば、そうした粒子放出装置と、上記した蛍光面パネルの如く粒子が入射する発光用等の装置との組み合わせで構成される電界放出型装置も提供するものである。また、放出される粒子は通常は電子であるが、必ずしも電子に限られるものではなく、他の素粒子も対象としてよい。
【0049】
こうした電界放出型装置としては、カソード電極ライン、ゲート電極ライン、微小孔付きの絶縁層及び薄膜状の冷陰極からなる第1のパネルと、複数色の発光体及びこれらの発光体がそれぞれ被着された電極からなる第2のパネルとによって構成された電界放出型発光装置が挙げられる。この場合、発光体が蛍光体である電界放出型ディスプレイ装置(FED)として構成することができる。
【0050】
本発明による粒子放出装置及び電界放出型装置は、基体(例えば、後述のガラス基板11)上に第1の電極(例えば、後述のカソード電極13’)を形成する工程と、前記基体上に粒子放出物質(例えば、ダイヤモンド)からなる薄膜を形成する工程と、前記第1の電極及び前記薄膜を含む領域上に絶縁層(例えば、後述のSiO2層15)を形成する工程と、この絶縁層上に第2の電極(例えば、後述のゲート電極14)を形成する工程と、この第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔(例えば、後述のほぼ円形又はスリット状の微細孔又はカソードホール20)を形成する工程とを有する方法を経て製造するのが望ましい。
【0051】
この製造方法によれば、粒子放出物質の薄膜を成膜するに際し、その薄膜の厚み分(望ましくは、絶縁層の厚みの1/2以下)だけ堆積させればよいので、既述したマイクロチップのように高さや形状を高精度にして形成する必要はなく、また、絶縁層の形成前に予め成膜しておけるため、薄膜の形成が容易となり、既述したリフトオフは全く不要であってカソード-ゲート間が金属片で短絡することはなく、仮に金属片が生じても薄膜が薄いために金属片による短絡はやはり生じない。
【0052】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0053】
まず、図1〜図7について、本発明の参考例による電子放出源(電界放出型カソードを含む電極構体)及び極薄型のディスプレイ装置(FED)を説明する。
【0054】
この参考例によるディスプレイ装置は、図15に示したものと同様に、図1に示す電子放出源(電界放出型カソードを含む電極構体25)と、真空部を介して電子放出源に対向したアノードとなる蛍光面パネルとの組み合わせによって構成され、既述したようにしてディスプレイ動作を行うものである。
【0055】
電子放出源においては、その要部を縦断面で表す図1(更には、画素領域を平面的に表す図2)に示すように、例えばガラス材からなる下部基板11の表面上に帯状の複数本のカソード電極ライン13が形成されている。
【0056】
これらのカソード電極ライン13上には、各接続端部13aを除いて冷陰極薄膜16が成膜され、その上に絶縁層15と各カソード電極ライン13に対し領域22で交差した帯状の複数本のゲート電極ライン14とが形成され、これらのゲート電極ラインは各カソード電極ライン13と共にマトリクス構造を構成している。
【0057】
さらに、各カソード電極ライン13の接続端部13a及び各ゲート電極ライン14の接続端部14aが制御手段(図17の107と同様のもの)にそれぞれ接続され、電気的に導通している。
【0058】
ここで、絶縁層15にはカソード電極ライン13から冷陰極薄膜16に達する孔径wの多数の円形の微細(小)孔20がカソードホールとして形成され、これらの各孔内に部分的に露出するように電界放出型カソードとしての薄膜16が5000Å以下(例えば2000Å)の厚みに設けられている。
【0059】
これらの各薄膜16は、仕事関数がカソード電極ライン13よりも小さい電子放出材料、例えばアモルファスダイヤモンドの薄膜からなっていて、後述の方法によって、微細孔16内に部分的に露出するようにカソード電極ライン13の全域上にほぼ同一パターンに(接続端部13aを除いて)或いは上記交差領域22を含めてカソード電極ライン13を被覆するようにして、容易に成膜できる。
【0060】
なお、蛍光面パネル側の基板は、その一主面である下面部において上記真空部を介して上記電子放出源の主面部と対向して設けられている。この上部基板の下面部には、蛍光面が塗布され、各カソード電極ライン13とそれぞれ平行な帯状の蛍光面が形成されている。
【0061】
上記電子放出源においては、上記制御手段により所定のカソード電極ライン13及びゲート電極ライン14を選択し、これらの間に所定の電圧を印加することによって、対応する画素領域内の各微細孔20内の薄膜16に所定の電界がかかると、各微細孔20内の薄膜16からトンネル効果によって電子が放出される。
【0062】
このとき、上記電子放出源が内蔵されたディスプレイ装置において、所定の画素領域を励起することによって各微細孔20内の薄膜16から放出された電子が上記制御手段によりカソード電極ライン13とアノードである上部基板との間に印加された電圧によって更に加速され、ゲート電極ライン14と上記上部基板との間に形成された真空部30を通って蛍光面に到達する。そして、この電子線により蛍光面から可視光が放出される。
【0063】
ここで、図3に示すように、カソード電極13上の微細孔20内に露出した薄膜16が非常に薄い膜厚に形成されていてその上面16Aがフラットであるために、ゲート電極14-カソード電極13間に電圧を印加した際に等電位面Emは薄膜16の面に沿ってほぼフラットに微細孔20内に形成されることになる。
【0064】
従って、薄膜16から放出される電子eは等電位面Emと直交して進行するので、孔20から放出される電子eは進路があまり振れることなく、真空部(高真空領域)30を通して所定の蛍光体(例えば赤色蛍光体)に到達し、ミスランディングを起こすことはない。この結果、常に目的とする色の発光が得られ、ディスプレイの性能が向上し、高精細化が可能になる。
【0065】
しかも、上記した電子放出源においては、ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通する多数の円形の微細孔20内に薄膜16の微小冷陰極が露出して形成され、これがカソード電極ライン13と電気的に接続されている構成を有し、薄膜16がアモルファスダイヤモンド等の如く仕事関数がカソード電極13よりも小さい材料からなっているので、カソード電極13-ゲート電極14間に印加する電圧を低くしても(数10V以下でも)放出される電子の量(即ち、電流量)が安定して得られる。
【0066】
この場合、カソード電極ライン13が冷陰極薄膜16の微小冷陰極に被覆され、ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通する円形の微細孔20が形成されているが、薄膜16が特にアモルファスダイヤモンドである場合、冷陰極自体が抵抗体であるため、各微細孔20内の薄膜16から放出される電流量が均質化される。この結果、ディスプレイ装置のスクリーン上に生じる光輝点が均質となり、見栄えが非常に良好なものとなる。
【0067】
更に、アモルファスダイヤモンド薄膜は化学的に不活性であり、真空部30に生じるイオンによってもスパッタリングされ難いので、安定なエミッションを長い時間維持できる。こうしたスパッタリングについては、薄膜16自体が薄くて微細孔20の底面に存在しているために、薄膜16はスパッタリングされ難い構造となっている。
【0068】
更に、電子を放出する部分を上記の薄膜16としているので、この薄膜16とゲート電極14との間が十分離れており、これらの間に金属片が付着して短絡が生じることがない。しかも、後述の製造方法から明らかなように、薄膜16は既述したリフトオフではなく、予め基板11上に成膜しておけるから、リフトオフ時に生じる金属片の問題もなくなる。この結果、印加電圧を上昇させた場合に電極が溶断されることはなく、信頼性の良い動作を行わせることができる。
【0069】
次に、この例によるディスプレイ装置を構成する電子放出源(電界放出型カソードを含む電極構体25)の製造方法の一例を図4〜図7について説明する。
【0070】
まず、図4に示すように、ガラス等からなる下部基板11上にニオブ、モリブデン又はクロム等の導体材料を厚さ約2000Å程度に成膜し、その後、写真製版法及び反応性イオンエッチング法(例えばCl2とO2との混合ガス使用)によりこの導体膜をライン形状に加工し、カソード電極ライン13を形成する。
【0071】
次いで、図5に示すように、冷陰極薄膜16、例えばダイヤモンド薄膜を化学蒸着法(CVD)等によりカソード電極ライン13上に厚さ2000Å程度に成膜する。このCVDで使用する反応ガスはCH4とH2との混合ガス、又はCOとH2との混合ガスであり、この反応ガスの熱分解によってダイヤモンド薄膜16を堆積させる。
【0072】
その後、写真製版法及び反応性イオンエッチング法により、冷陰極薄膜16をパターニングし、カソード電極ライン13の接続端部13aを除いて冷陰極薄膜16がカソード電極ライン13を被覆するライン形状にする。或いは、この冷陰極薄膜16は、カソード電極ライン13とゲート電極ライン14との交差領域22、即ち画素領域のみにおいてカソード電極ライン13を被覆するように形成してもよい。
【0073】
次いで、図6に示すように、絶縁層15、例えば二酸化珪素(SiO2)をスパッタリング又は化学蒸着法(CVD)により冷陰極薄膜16を含む面上に厚さ1μm程度に成膜し、更に、絶縁層15上にゲート電極材料14、例えばニオブ又はモリブデンを厚さ2000Å程度に成膜する。
【0074】
次いで、図7に示すように、写真製版法及び反応性イオンエッチング法により、このゲート電極材料膜をカソード電極ライン13と交差するようなライン形状のゲート電極ライン14に加工する。そして、ゲート電極ライン14と絶縁層15を貫通する円形の微細孔20を写真製版法及び反応性イオンエッチング法(例えば、CHF3とCH2F2との混合ガス使用)により形成する(図中の30はフォトレジストマスクである)。
【0075】
次いで、フォトレジスト30を除去し、図1に示した如く、カソード電極ライン13を被覆し、微細孔20内に露出した微小冷陰極16を有する電極構体25(電子放出源)を完成する。
【0076】
このように、上記した製造方法によって、電子放出物質の薄膜16を成膜するに際し、その薄膜16の厚み分だけ堆積させればよいので、既述したマイクロチップのように高さや形状を高精度にして形成する必要はなく、また、絶縁層15の形成前に予め成膜しておけるため、薄膜の形成が容易となり、既述したリフトオフは全く不要であってカソード-ゲート間が金属片で短絡することはなく、仮に金属片が生じても薄膜が薄いためにカソード13-ゲート14間が十分離れており、これらの間に金属片が接触して短絡を生じることはない(但し、上記に例示したダイヤモンド等の仕事関数の小さい物質はいずれも絶縁体であって短絡を生じることはない)。この結果、カソード13-ゲート14間の印加電圧を上昇させた場合に電極が溶断されることはなく、信頼性の良い動作を行わせることができる。
【0077】
また、薄膜16は、既述したマイクロチップ106のように微小孔120内への蒸着によることなしに通常の成膜技術で形成できるので、その工程が容易となり、カソード13-ゲート14間の絶縁分離も良好となる。
【0078】
図8及び図9は、本発明の第1の粒子放出装置の実施例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。
【0079】
この実施例による電子放出源は、上記の参考例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、カソード電極ライン13’が格子状構造であることが異なる。この格子のメッシュは任意の形にすることができるが、好ましくは長方形、もしくは正方形がよい。但し、ゲート電極ラインは図9では図示省略している。
【0080】
この実施例による電子放出源においては、格子状構造を有するカソード電極ライン13’が微細孔20の存在領域31を囲むようにその周囲に設けられていて、冷陰極薄膜16によって被覆されている。この被覆によって、カソードの格子状パターンが保護される。ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通して円形の微細孔20が形成されており、この微細孔20に薄膜16が露出している点は、上述したものと同様である。
【0081】
冷陰極薄膜16によって、動作時に等電位面がフラットとなり、電子が安定して所定の方向に放出されること、冷陰極薄膜16がアモルファスダイヤモンド薄膜である場合、低電圧駆動が可能であると共に、冷陰極薄膜自体が抵抗体であるために各微細孔20の冷陰極薄膜16から放出される電流量が均質化されること、また、アモルファスダイヤモンド薄膜は化学的に不活性であって、スパッタリングされにくく、安定なエミッションを長い時間維持できることは、上述した参考例と同様である。
【0082】
しかも、この実施例では、カソード電極ライン13’が格子状構造であるため、カソード導体13’と微細孔20との間に十分な距離をとることができ、仮に金属粒子等が微細孔20に入り込んでカソード電極ライン13’とゲート電極ライン14とが短絡したとしても、冷陰極薄膜16の抵抗破壊を防ぐことができる。これは、ゲート電極ライン14とカソード電極ライン13’との間に冷陰極薄膜16が十分な長さ分存在し、この薄膜部分による電圧降下が生じて電界が緩和されるからである。
【0083】
図10及び図11は、本発明の第2の粒子放出装置の実施例による電子放出源(電極構体25)をそれぞれ示すものである。
【0084】
この実施例による電子放出源は、図8及び図9に示した実施例による電子放出源とほぼ同様のパターン構成を有するが、冷陰極薄膜16が基板11とカソード電極ライン13’との間に設けられている点で異なる。この格子のメッシュは任意の形にすることができるが、好ましくは長方形、もしくは正方形がよい。但し、ゲート電極ラインは図11では図示省略している。
【0085】
即ち、この電子放出源によれば、格子状構造を有するカソード電極ライン13’と基板11との間に冷陰極薄膜16が挿入され、微細孔20の存在領域31を囲むようにその周囲に設けられている。そして、ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通して円形の微細孔20が形成されており、この微細孔20に薄膜16が露出している点は、上述したものと同様である。
【0086】
冷陰極薄膜16によって、動作時に等電位面がフラットとなり、電子が安定して所定の方向に放出されること、冷陰極薄膜16がアモルファスダイヤモンド薄膜である場合、低電圧駆動が可能であると共に、冷陰極薄膜自体が抵抗体であるために各微細孔20の冷陰極薄膜16から放出される電流量が均質化されること、また、アモルファスダイヤモンド薄膜は化学的に不活性であって、スパッタリングされにくく、安定なエミッションを長い時間維持できることは、上述した参考例と同様である。
【0087】
しかも、この実施例では、カソード電極ライン13’が格子状構造であるため、カソード導体13’と微細孔20との間に十分な距離をとることができ、仮に金属粒子等が微細孔20に入り込んでカソード電極ライン13’とゲート電極ライン14とが短絡したとしても、冷陰極薄膜16の抵抗破壊を防ぐことができる。これは、ゲート電極ライン14とカソード電極ライン13’との間に冷陰極薄膜16が十分な長さ分存在し、この薄膜部分による電圧降下が生じて電界が緩和されるからである。
【0088】
図12は、本発明の他の参考例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。
【0089】
この例による電子放出源は、上記の図1〜図7に示した参考例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通する円形の微細孔20がスリット(溝)状の微細孔で形成されている点が異なる。
【0090】
即ち、カソード電極ライン13が冷陰極薄膜16の微小冷陰極に被覆され、ゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通するスリット(溝)状の微細孔20内に薄膜16が露出している。
【0091】
この冷陰極薄膜16がアモルファスダイヤモンドからなる場合、上述したように低電圧駆動が可能である。また、冷陰極自体が抵抗体であるから、各微細孔20の冷陰極薄膜16から放出される電流量が均質化される。更に、アモルファスダイヤモンド薄膜16は化学的に不活性であり、スパッタリングされにくいので、安定なエミッションを長い時間維持できる。
【0092】
この例では、微細孔20がスリット状であるが、微小冷陰極の薄膜16の表面での電界強度は上述した例による円形の微細孔の場合とほとんど等しいので、ほぼ同一電圧で駆動できる。このスリット状の微細孔20は、円形の微細孔の場合と比較して、エミッション領域(電子放出面積)が大きいので、同一電圧で駆動しても、より大きな電流密度を得ることができる。
【0093】
図13は、本発明の他の実施例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。
【0094】
この実施例による電子放出源は、図8及び図9に示した実施例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、カソード電極ライン13’が格子状構造であってゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通するスリット(溝)状の微細孔20が形成されている点で異なる。
【0095】
従って、この実施例によって、図8及び図9に示した実施例で述べたと同様の効果と、図12に示した他の参考例で述べたスリット状微細孔20による効果とを併せて得ることができる。
【0096】
図14は、本発明の更に他の実施例による電子放出源(電極構体25)を示すものである。
【0097】
この実施例による電子放出源は、図10及び図11に示した実施例による電子放出源とほぼ同様の構成を有するが、カソード電極ライン13’が格子状構造であってゲート電極ライン14及び絶縁層15を貫通するスリット(溝)状の微細孔20が形成されている点で異なる。
【0098】
従って、この実施例によって、図10及び図11に示した実施例で述べたと同様の効果と、図12に示した他の参考例で述べたスリット状微細孔20による効果とを併せて得ることができる。
【0099】
以上、本発明の実施例を説明したが、上述の実施例は本発明の技術的思想に基いて更に変形が可能である。
【0100】
例えば、上述した冷陰極薄膜16の形成領域は、カソード電極ラインとゲート電極ラインとの交差領域のみであってよいし、これ以外の領域にも薄膜16が存在していてもよく、場合によっては基板11の全面にあってもよい。
【0101】
薄膜16、カソード電極13、13’等の材質や厚み、その成膜方法等は種々変化させてよい。成膜方法には、上述したCVDだけでなく、レーザアブレーション法(レーザ光照射によるエッチング現象を利用した堆積法:ダイヤモンド薄膜の場合はターゲットはグラファイトが使用可能)、スパッタ法(例えばArガスを用いたスパッタリング:ダイヤモンド薄膜の場合はターゲットはグラファイトが使用可能)等がある。
【0102】
また、上述した電子放出源は、FEDに好適であるが、対向する蛍光面パネルの構造や各部のパターン及び材質等は上述したものに限られず、また、その作製方法も種々採用できる。
【0103】
なお、上述した電子放出源の用途は、FED又はそれ以外のディスプレイ装置に限定されることはなく、真空管(即ち、カソードから放出される電子流をゲート電極(グリッド)によって制御し、増幅又は整流する電子管)に使用したり、或いは、カソードから放出される電子を信号電流として取り出すための回路素子(これには、上述したFEDの蛍光面パネルに光電変換素子を取付け、蛍光面パネルの発光パターンを光電変換素子で電気信号に変換する光通信用の素子も含まれる。)等にも応用可能である。
【0104】
【発明の作用効果】
本発明によれば、上述した如く、互いに部分的に重なり合うように第1の電極と第2の電極とが絶縁層を介し互いに対向して設けられ、前記第2の電極及び前記絶縁層をそれぞれ貫通する微小孔が形成され、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加することによって所定の粒子が前記第1の電極側から前記微小孔を通して放出されるように構成されている粒子放出装置において、
前記第1の電極の構成材料よりも仕事関数が小さい粒子放出物質からなる薄膜が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けられているとともに、前記薄膜が前記第1の電極と前記絶縁層との間にあって前記第1の電極を被覆するように設けられ、前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記粒子放出物質からなる薄膜によって被覆されるか、或いは、前記第1の電極が、少なくとも、前記第1及び第2の電極の重なり合う領域であって前記微小孔の存在しない領域において、前記微小孔には露出しない状態で前記絶縁層と前記薄膜との間に設けられており、更に前記微小孔が前記薄膜の表面まで形成され、この表面において前記微小孔に前記薄膜が露出している
ので、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加した際に等電位面が前記薄膜に沿って平坦に形成されることになる。従って、この平坦な等電位面に対して直交して進行する粒子は、前記微小孔から対象物(例えば蛍光体面)へかなり揃った方向性を以て進行するため、常に目的とする対象物に到達することができ、ミスランディングを大きく減少させることができ、高精細化が可能となる。
【0105】
また、前記薄膜を構成する粒子放出物質の仕事関数が前記第1の電極の構成材料よりも小さいので、粒子の放出のために前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加する電圧を低減することができ、低電圧駆動で必要な放出量を安定して得ることができる。この場合、前記微小孔の薄膜が抵抗体であると、微小孔内の薄膜から放出される粒子量を均質化できる。
【0106】
また、粒子を放出する部分を上記の薄膜とし、この薄膜を少なくとも第1及び第2の電極の重なり合う領域のほぼ全域に亘って設けているので、この薄膜は、既述したようにマイクロホール120の形成後の蒸着によらずに、予め成膜した後に絶縁層の形成→第2の電極及び微小孔の形成といった工程を経ることができる。従って、この薄膜は容易に形成できる上に、既述したような蒸着後のリフトオフは全く不要となり、薄膜と第2の電極との間の金属片の付着による短絡が生じることがなく、しかも、たとえ別の原因で金属片が生じても薄膜と第2の電極とは十分に離れているために、やはり短絡は生じない。この結果、印加電圧を上昇させた場合に電極が溶断されることはなく、信頼性の良い動作を行わせることができる。そして、前記第2の電極と前記第1の電極との間(即ち、前記微小孔と前記第1の電極との間)に前記薄膜が十分な長さ分存在し、この薄膜部分による電圧降下が生じて電界が緩和され、金属粒子の侵入により両電極間が短絡しても、前記薄膜の抵抗破壊を防ぐことができる。
【0107】
更に、粒子を放出する部分が前記薄膜であるため、マイクロチップ先端のように1点にイオンが集中することはなく、高真空領域に存在するイオンが薄膜に到達してこれをスパッタする割合が激減するから、装置の長寿命化が可能である。この場合、微小孔の薄膜は化学的に不活性であってスパッタリングされにくい材質で形成すれば、一層安定なエミッションを長い時間維持できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の参考例による電子放出源の概略断面図である。
【図2】
同電子放出源の一部分の拡大平面図である。
【図3】
同電子放出源の電子放出性能を説明するための概略断面斜視図である。
【図4】
同電子放出源の製造工程の一段階を示す概略断面図である。
【図5】
同電子放出源の製造工程の他の一段階を示す概略断面図である。
【図6】
同電子放出源の製造工程の他の一段階を示す概略断面図である。
【図7】
同電子放出源の製造工程の更に他の一段階を示す概略断面図である。
【図8】
本発明の実施例による電子放出源の概略断面図である。
【図9】
同電子放出源の一部分の平面図である。
【図10】
本発明の他の実施例による電子放出源の概略断面図である。
【図11】
同電子放出源の一部分の平面図である。
【図12】
本発明の他の参考例による電子放出源の一部分の平面図である。
【図13】
本発明の他の実施例による電子放出源の一部分の平面図である。
【図14】
本発明の更に他の実施例による電子放出源の一部分の平面図である。
【図15】
従来の電子放出源を適用したディスプレイ装置の一部分の分解断面斜視図である。
【図16】
同電子放出源の一部分の拡大断面斜視図である。
【図17】
同電子放出源の概略断面図である。
【図18】
同ディスプレイ装置におけるR、G、B三端子の切り換えによる色選別を説明するための一部分の概略断面図である。
【図19】
同色選別時のタイミングチャートである。
【図20】
同電子放出源の電子放出性能を説明するための概略断面斜視図である。
【図21】
同電子放出源の製造工程の一段階を示す概略断面図である。
【図22】
同電子放出源の製造工程の他の一段階を示す概略断面図である。
【図23】
同電子放出源の製造工程の他の一段階を示す概略断面図である。
【図24】
同電子放出源の製造工程の更に他の一段階を示す概略断面図である。
【図25】
同電子放出源において溶断が生じる状況を示す概略断面図である。
【符号の説明】
11・・・下部基板
13、13’・・・カソード電極ライン
14・・・ゲート電極ライン
15・・・絶縁層
16・・・薄膜
20・・・微細孔(カソードホール)
22・・・交差領域
25・・・電子放出源(電極構体)
30・・・真空部
e・・・電子
Em・・・等電位面
R、G、B・・・各色の蛍光体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-28 
出願番号 特願平6-259124
審決分類 P 1 651・ 534- ZD (H01J)
P 1 651・ 121- ZD (H01J)
P 1 651・ 832- ZD (H01J)
最終処分 一部取消  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 後藤 時男
尾崎 淳史
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3409468号(P3409468)
権利者 ソニー株式会社
発明の名称 粒子放出装置及び電界放出型装置  
代理人 逢坂 宏  
代理人 逢坂 宏  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 山口 芳広  

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