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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1125787
異議申立番号 異議2003-70861  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-04 
確定日 2005-09-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3332116号「ポリウレタン弾性糸」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3332116号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3332116号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成6年4月14日に特許出願され、平成14年7月26日に特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1〜3に係る特許について、特許異議申立人 東レ・デュポン株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成17年4月22日付で取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成17年7月8日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされたものである。

[2]訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである総繊度が140〜560デニール(d)のポリウレタン弾性糸。」を
「【請求項1】ポリウレタンが、少なくとも数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンから構成され、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物を加えて反応させて得られ、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである総繊度が140〜560デニール(d)のポリウレタン弾性糸。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)明細書段落【0004】の
「本発明は、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである140〜560デニールのポリウレタン弾性糸である。このような物性をもつ弾性糸を得るために特定の組成を有するポリウレン重合体が使用される。すなわち、数平均分子量1600から2500のポリエーテルグリコールあるいはポリエステルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、エチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物と第二級モノアミン、さらに好ましくはアセトンとエチレンジアミンを等モル反応させて得られるケトイミンアミンを下記式でしめされる割合で加えて反応させて得られるポリウレタン重合体をもちいて弾性糸がつくられる。
0.3≦(B+C)/(A+B+C)≦0.5
但し、Cが0の場合もある。またCが0でないときは、
0.8≦B/C≦1.6
ここでAはジアミンのモル数
Bは第二級モノアミンのモル数
Cはケトイミンアミンのモル数」を、
「本発明は、ポリウレタンが、少なくとも数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンから構成され、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物を加えて反応させて得られ、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである140〜560デニールのポリウレタン弾性糸である。このような物性をもつ弾性糸を得るために特定の組成を有するポリウレン重合体が使用される。すなわち、数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒
に溶解せしめたのち、エチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物と第二級モノアミン、さらに好ましくはアセトンとエチレンジアミンを等モル反応させて得られるケトイミンアミンを下記式でしめされる割合で加えて反応させて得られるポリウレタン重合体をもちいて弾性糸がつくられる。
0.3≦(B+C)/(A+B+C)≦0.5
但し、Cが0の場合もある。またCが0でないときは、
0.8≦B/C≦1.6
ここでAはジアミンのモル数Bは第二級モノアミンのモル数Cはケトイミンアミンのモル数」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項a(【請求項1】)
訂正前の請求項1に係る発明において、ポリウレタン弾性糸に用いるポリウレタンを「ポリウレタンが、少なくとも数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンから構成され、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物を加えて反応させて得られ」るものに限定するものである。そして、このポリウレタンの限定は、訂正前の請求項3、段落【0004】及び段落【0007】に記載されていた事項である。
よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項b及びc(請求項2及び請求項3の削除)
訂正事項b及びcは、いずれも請求項を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項d(明細書段落【0004】)
訂正事項dは、請求項1に係る発明が訂正事項aにより訂正されたことに伴い、その訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、訂正事項aと同様に、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
本件特許第3332116号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記〔2〕に記載のとおり訂正が認められるので、平成17年7月8日付け訂正請求書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ポリウレタンが、少なくとも数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンから構成され、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物を加えて反応させて得られ、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである総繊度が140〜560デニール(d)のポリウレタン弾性糸。」

[4]特許異議の申立ての理由及び取消しの理由の概要
(1)特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人は、以下の甲第1〜7号証を提出し、
1)訂正前の請求項1〜3に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であって、上記請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、
2)訂正前の請求項1〜3に係る発明は、いずれも甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、上記請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、
というものである。
甲第1号証:「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、1990年 7月25日、初版2刷、日刊工業新聞社発行)509〜534頁
甲第2号証:特開平4-100919号公報
甲第3号証:特開平1-284518号公報
甲第4号証:「繊維新素材・新製品データ集」(日本繊維機械学会 繊維デ ータ集編集委員会編、昭和63年3月31日 初版、日本繊維機械学会発 行)63頁
甲第5号証:特開昭58-194915号公報
甲第6号証:特開平3-279415号公報
甲第7号証:「ポリウレタン応用技術の新展開」(株式会社シーエムシー、1993年11月30日、第1刷発行)86〜95頁)

(2)平成17年4月22日付け取消しの理由は、明細書の記載不備に関するものである。

[5]刊行物の記載
甲第1号証:「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、1990年 7月25日、初版2刷、日刊工業新聞社発行)509〜534頁
(1-1)
ポリウレタン弾性繊維の物性に関して、「表13.4 PU弾性繊維と生ゴムの比較」に、「PU弾性繊維」の「切断伸度」が「400〜800」%であること、「伸張回復率」(伸張率100%,24h保持後の回復率)が「92〜94」%であることが記載されている。(529頁)
(1-2)
ポリウレタン弾性繊維の物性に関して、「図13.7は、PU弾性繊維の繰返し伸長回復曲線の一例を示す。R.A.Greggは、PU弾性繊維あるいはそれらを含む製品において、実用上の物性は最初の伸長応力により代表されるのではなく、一度伸長後(セット後)の伸長回復応力が実用物性を示すと強調している。」(529頁3〜6行)と記載され、「図13.7 PU弾性繊維の伸長回復曲線の一例」に、ポリウレタン弾性繊維の繰返し伸長回復曲線の一例が示されており、その図中には一度伸長後の伸長曲線b(伸長率約300%)と回復曲線c(伸張率150%時点の応力は0と0.1g/dの間の値)が示されている。(528頁)
(1-3)
ポリウレタン弾性繊維の用途に関して、「表13.5 PU弾性繊維のデニール別主用途」に、210デニール、300デニール、350デニール、400デニールの「主な用途」欄に「靴下口ゴム」が記載されている。(532頁)
(1-4)加工糸
「図13.8 PU裸糸と各種加工糸の形態」に、PU弾性繊維の上に他種のフィラメント糸または紡績糸をコイル状に巻き付けた種々のカバー糸が示され、「図13.9 FTY製造方法の概略図」に、PU弾性繊維にナイロン加工糸を巻き付けるFTY製造方法が示されている。(530〜531頁)
(1-5)ポリウレタン弾性繊維の主原料
「PU弾性繊維を形成するポリマーの主原料は、低融点・低ガラス転移点をもつ高MW(異議決定注:「分子量」を示すことは当業者に自明のことと認められる。以下同じ。)ジオール、ジイソシアネートおよび鎖伸長剤と呼ばれる低MWの二官能性活性水素化合物からなる」(514頁)ことが記載され、上記「高MWジオール」にはポリエステル系の高分子量ジオールとポリエーテル系の高分子量ジオールがあること、ポリエーテル系の高分子量ジオールにはポリ(テトラメチレンエーテル)があることが「表13.2 高分子量ジオールの融点(Tm)とガラス転移点(Tg)」(515頁)に示され、PTMGの数平均分子量について、「PU弾性繊維用には1000〜2000のものが利用されているようである。」との推測が記載されている。(515〜516頁)
上記「ジイソシアネート」については、「PUの安定化技術の進歩も相まって、コスト、反応性および得られたPU弾性繊維の物性上の有利さから4,4’-MDIが主として用いられている。」(517頁)と記載されている。
また、上記「鎖伸長剤」としては、多数の例示の中にEDA(エチレンジアミン)、1,2-プロピレンジアミンが記載されている。(517頁)

甲第2号証(特開平4-100919号公報)
甲第2号証には、ポリウレタン弾性糸の製造法について、以下の事項が記載されている。
(2-1)
「実施例1
ステンレス撹拌翼付ステンレス撹拌棒を備え、…数平均分子量1,800のポリテトラメチレングリコールエーテル(以下、PTMGと記す)500gを入れ、…、この中に…ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと記す)111gを投入し、…PTMGの水酸基を100%反応させ、プレポリマーを得る。…一方、エチレンジアミン5.92gとジエチルアミン1.08gとをDMAc524gに溶解し、濃度1.32重量%のアミン溶液を調製し、これを15℃に保ったプレポリマー溶液の入った丸底フラスコの中へ…圧入した。…アミン溶液の投入完了後も更に約15分間撹拌を続け、数平均分子量約57,000のポリウレタンポリマー(ウレタンウレアポリマー)30重量%溶液を得た。
このポリウレタン溶液1,500gにポリマーと等モルのジエチレントリアミン(0.811g)を加えて紡糸原液とした。…巻き取られた糸は、紙管のまま70℃の熱風乾燥機中に入れて10時間熱処理された。…
なお、熱処理前後の糸の引張特性をテンシロンで測定したところ、第1表に示した通り、いずれも弾性繊維としての優れた性質を保持し、熱処理糸は一層優れた回復応力を有していた。」(3頁右下欄末行〜4頁左下欄末行)
(2-2)
実施例1で得られた糸の「引張伸度(%)」は、熱処理系が「682」、未処理系が「703」であることが第1表に示されている。(4頁右下欄)
(2-3)
「(実施例3)
実施例1において、ジエチレントリアミンの添加量をポリウレタンポリマーに対して、各10、20、50、70、120、150、230モル添加混合して紡糸原液とした。これから実施例1と同じようにして得られた糸を加熱処理し、物性を測定した結果、第3表に示すように添加量20モル%以上で良好な結果が得られた。
しかし、本発明の特許請求の範囲外である添加量10モル%では、糸は加熱によっても溶媒不溶化しなかった。…」(5頁右下欄)
(2-4)
上記実施例3の結果が第3表に示され、該3表には「ジエチレントリアミン(対ポリマーモル%)」の各値に対応した「引張伸度(%)」及び「復時応力(g)」の値が示されている。(6頁左下欄)

甲第3号証:特開平1-284518号公報
甲第3号証には、セグメント化ポリウレタン組成物およびその製造方法について、以下の事項が記載されている。
(3-1)
「実施例1
ポリアルキレンエーテルグリコールの製造例
撹拌装置と還流冷却器を付けた容器に、テトラヒドロフラン500gとネオペンチルグリコール36gを仕込む。…上層から未反応のテトラヒドロフランとネオペンチルグリコールとを蒸留で除去し、透明で粘性のあるポリアルキレンエーテルグリコール124gを得た。

実施例2
実施例1で製造したジオールを用いて本発明のセグメント化ポリウレタンの製造

これを通常の方法で乾式紡糸し、280デニールのポリウレタン弾性糸を得た。その物性を測定した結果を第1表に示した。」(5頁左上欄〜左下欄)と記載され、実施例2のポリウレタン弾性糸の「伸度(%)」が750であることが第1表に示されている。(5頁右下欄)
(3-2)
「実施例3〜7
実施例2と同様の方法で製造した第2表に示す組成のセグメント化ポリウレタンから280デニールの弾性糸を得た。第3表にその物性の一覧を示す。」と記載され、実施例3〜7の「伸度(%)」が700〜710の範囲の値であることが第3表に示されている。(6頁左上欄〜左下欄)

甲第4号証:「繊維新素材・新製品データ集」(日本繊維機械学会 繊維デ ータ集編集委員会編、昭和63年3月31日 初版、日本繊維機械学会発 行)63頁
ポリウレタンを主たる素材とするフィラメント形態の市販商品ロイカ標準タイプとロイカCタイプのΔS-S曲線(280d)が記載されている。

甲第5号証:特開昭58-194915号公報
甲第5号証には、ポリウレタン弾性体の製造方法について、以下の事項が記載されている。
(5-1)
「特許請求の範囲
数平均分子量が1500〜4000で融点が60℃以下の高分子量ジオールに対し予め一般式(1)
HO-R-OH ……(1)(但し、…)
で示される低分子量ジオールを5〜40モル%添加し、全ジオールのモル数に対し130〜180モル%の有機ジイソシアネートを反応させ末端にイソシアネート基を有する中間体とした後、…エチレンジアミンに対し1,2-プロピレンジアミンを1〜30モル%の割合で使用してエチレンジアミン及び1,2-プロピレンジアミンにより鎖伸長させることを特徴とするポリウレタン重合体の製造方法。」

甲第6号証:特開平3-279415号公報
甲第6号証には、ポリウレタン弾性繊維について、以下の事項が記載されている。
(6-1)
「特許請求の範囲
(1)数平均分子量700以上の両末端に活性水素を有する線状重合体(A)と2官能有機ジイソシアネート(B)とを、NCO/活性水素のモル比が1.2以上で反応せしめた線状中間体(C)に、対称性低分子ジアミン(D)と非対称性低分子ジアミン(E)とを、(D)/(E)のモル比が7/3〜3/1となるように、(C)を(D)と(E)とで鎖延長せしめたポリウレタン系ポリマーを主成分とすることを特徴とするポリウレタン弾性繊維。」

甲第7号証:「ポリウレタン応用技術の新展開」(株式会社シーエムシー、 1993年11月30日、第1刷発行)86〜95頁)
甲第7号証には、スパンデックスの製造技術に関し、重合(原料、重合反応、添加剤)及び紡糸の各工程について記載されている。

[6]対比・判断
(1)同一性の判断について
(原材料組成について)
甲第1号証には、ポリウレタン弾性繊維の主原料が低融点・低ガラス転移点をもつ高MWジオール、ジイソシアネートおよび鎖伸長剤と呼ばれる低MWの二官能性活性水素化合物からなることが記載されている。
そして、上記高MWジオール成分にはポリエステルタイプとポリエーテルタイプがあり、ポリエーテルタイプの一つとして、ポリ(テトラメチレンエーテル)が示され、その数平均分子量はポリウレタン弾性繊維用には1000〜2000のものが利用されていることが示唆されている。
上記「ジイソシアネート」成分には、PUの安定化技術の進歩も相まって、コスト、反応性および得られたPU弾性繊維の物性上の有利さから4,4’-MDIが主として用いられることが記載されている。
また、上記「鎖伸長剤」成分としては、多数の例示の中にEDA(エチレンジアミン)、1,2-プロピレンジアミンが記載されている(摘示事項(1-5))。
しかし、甲第1号証には、上記主原料の各成分の中から、本件発明のポリウレタンの成分である、高MWジオールとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジイソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネート、鎖伸長剤としてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとからなる脂肪族ジアミンの混合物を選択使用することまでが記載されているとはいえないし、まして、それら各成分の配合割合までが記載または示唆されているとはいえない。
(物性について)
甲第1号証にはPU弾性繊維の「切断伸度」が「400〜800」%であること、「伸張回復率」(伸張率100%,24h保持後の回復率)が「92〜94」%であることが記載されている(摘示事項(1-1))。
しかし、上記物性の対象となるポリウレタン弾性繊維がどのような原料成分から製造されたものか不明であり、上記摘示事項のみからは、本件発明で特定される成分及び配合割合から製造されたポリウレタン弾性繊維についての物性値が示されているものとはいえない。
また、摘示事項(1-2)のPU弾性繊維の伸長回復曲線は一例であり、ポリウレタン弾性繊維の種類にかかわらず、この伸長回復曲線が適用できるとはいえないし、その図13.7のみからは、異議申立人が主張するように、4倍伸長後の2.5倍伸長時応力が0.022g/dとまでは明確に読み取ることもできないし、0.016〜0.022g/dであると認めることもできない。
同様に、摘示事項(1-3)に示されている総繊度も、種々の用途別の値が示されているだけであり、本件発明の原材料組成及び物性値を有するポリウレタン弾性糸の総繊度を示すものとはいえない。
したがって、本件発明は、原材料組成及び物性のいずれの点からも、甲第1号証に記載された発明に該当しない。
(2)容易性の判断について
上記(1)同一性の判断についてで検討したように、本件発明と甲第1号証の記載とはポリウレタン弾性糸に関するものである点では共通するものの、甲第1号証では本件発明のポリウレタン弾性糸の原材料組成及び物性範囲が特定されていない点で本件発明と相違する。
この点につき、特許異議申立人は、数平均分子量1600〜2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンを含むモノマー組成物から重合されたポリウレタンは、甲第1,2,5〜7号証に記載されているように、従来のポリウレタン弾性糸を構成するポリウレタンであり、グリコール成分とジイソシアネート成分とのモル比、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとを特定モル比で使用することは甲第5〜7号証から明らかなように従来のポリウレタン弾性糸の製造で採用されていた条件である旨主張するとともに、甲第1号証には一般的なポリウレタン弾性糸の伸度、弾性回復率が記載され、甲第2,3号証にはポリウレタン弾性糸の伸度が記載され、甲第1,2及び4号証からは2.5倍伸長時応力を図から読み取るか、表に記載された値から推測することができる旨主張する。
しかし、甲第1号証にポリウレタン弾性糸の具体的な原料成分及び物性値の組み合わせが記載されていないことは上記(1)で記載したとおりである。
甲第2号証のポリウレタン弾性糸は紡糸時に特定のアミン化合物を添加するものであり、甲第3号証のポリウレタン組成物は特定のポリアルキレンエーテルグリコールを使用するものであって、いずれも本件発明とは組成が異なる。
よって、それら甲号証に本件発明で規定される伸度範囲の値が記載されているとしても、その記載をもって、本件発明の伸度範囲が一般的な値であるとはいえないし、そこに記載のない弾性回復率の値を推測することもできない。
また、4倍伸長後の2.5倍伸長時応力についても、甲第1号証は、上記(1)で述べたとおり、その値を明確に読み取ることができないし、甲第2号証は、その根拠となる製造例は溶媒不溶化効果を有しない比較例に該当するもので一般的なポリウレタン弾性糸には不適なものであり、さらに、甲第4号証の図は4倍伸長後の2.5倍伸長時の応力が異議申立人の主張するような6.2の値を有するか否か不明である。
甲第5〜7号証にも、本件発明の物性値については、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明で規定されるポリウレタン弾性糸の各物性値については、甲第1〜7号証に記載されていないか、記載されていたとしても本件発明とは組成の異なるポリウレタン弾性糸に関するものであり、そこに記載された物性値を組成の異なる本件発明のポリウレタン弾性糸に直ちに適用できるものともいえない。
そして、本件発明は、訂正後の特許請求の範囲に記載されたとおりの、特定のウレタン組成及び特定の物性値からなる構成を採用することにより、明細書に記載された優れた効果を奏するものと認める。
以上のとおり、本件発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)明細書の記載要件について
本件は、[2]訂正の適否についての判断で検討したとおり、訂正が認められ、その結果、明細書の記載不備に基づく取消の理由は解消した。

[7]むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消しの理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリウレタン弾性糸
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリウレタンが、少なくとも数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンから構成され、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物を加えて反応させて得られ、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである総繊度が140〜560デニール(d)のポリウレタン弾性糸。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ソックス口ゴム用途に使用される、弾性回復率、伸長時の応力の優れた、ソックス口ゴム用途に適したポリウレタン弾性糸に関する。
【0002】
【従来の技術】従来からソックス口ゴム用途としてポリウレタン弾性糸が使用されてきた。しかしながら天然ゴムにくらべて弾性回復性、伸度が低いためその用途が限定されてきた。一方天然ゴムはポリウレン弾性糸にくらべて強度が低く、また耐久性におとるという欠点を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来ポリウレン弾性糸を口ゴムとして使用したソックスは足首にたいして締め付けがきつく、はきにくい等の評価があった。本発明の目的は、このポリウレタン弾性糸のきつい・はきにくいという問題を解決しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、ポリウレタンが、少なくとも数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジフェニルメタンジイソシアネート、脂肪族ジアミンから構成され、ポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、脂肪族ジアミンとしてエチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物を加えて反応させて得られ、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で、4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/dである総繊度が140〜560デニールのポリウレタン弾性糸である。このような物性をもつ弾性糸を得るために特定の組成を有するポリウレン重合体が使用される。すなわち、数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコールにモル比が1.45から1.60の範囲でジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、エチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比が95対5から80対20の混合物と第二級モノアミン、さらに好ましくはアセトンとエチレンジアミンを等モル反応させて得られるケトイミンアミンを下記式でしめされる割合で加えて反応させて得られるポリウレタン重合体をもちいて弾性糸がつくられる。
0.3≦(B+C)/(A+B+C)≦0.5
但し、Cが0の場合もある。またCが0でないときは、
0.8≦B/C≦1.6
ここでAはジアミンのモル数Bは第二級モノアミンのモル数Cはケトイミンアミンのモル数
【0005】該ポリウレタン重合体溶液は乾式紡糸され、捲き取り速度毎分350から600mで捲き取り140〜560デニールの弾性糸が得られる。また、捲き取られた弾性糸は必要に応じて熱処理等がほどこされることもある。このようにして得られた弾性糸は、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/デニールをしめし、このものはソックス口ゴム用途に適した物性をしめす。
【0006】弾性糸はナイロンもしくはポリエステルフィラメントで被覆されてソックス口ゴム用として供給される。本発明で使用されるポリエーテルグリコールとして、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール等が挙げられる。ポリエステルグリコールとしては、こはく酸、アジピン酸等の有機二塩基脂肪酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジールまたはヘキサンジオール等の有機グリコールとを重縮合して得られるものがある。ポリエステルグリコールはポリエーテルグリコールにくらべて加水分解をうけやすく、これを使ったソックス口ゴムが保存中に劣化したりすることがみられるが、短期間の保存であればとくに問題はない。しかし、好ましくは数平均分子量1600から2500のポリテトラメチレンエーテルグリコールが使用される。
【0007】ポリエーテルグリコールとジイソシアネートとのモル比が本発明の1.54から1.60の間で反応させるとき、ポリエーテルグリコールの数平均分子量1600以下になると伸度が低下しソックス口ゴムとしては締め付けがきつくなり、2500以上では弾性回復性が低下し適切な物性が得られない。本発明で使用される有機ジイソシアネート化合物はp,p’-ジフェニルメタンジイソシアネートである。さらに、ポリエーテルグリコールまたはポリエステルグリコールと有機ジイソシアネート化合物は、イソシアネート基と水酸基との比が1.45から1.60の間で使用される。このモル比で上記の数平均分子量のポリエーテルグリコールが使用されることにより本発明における物性が達成できる。有機ジアミンとしては、エチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとのモル比95対5から80対20の混合物が使用される。このモル比の範囲で用いられたときが好ましい弾性糸の物性を与える。エチレンジアミンがモル比で95以上になるとポリウレタン重合体溶液が不安定になり、安定な紡糸がしがたくなり得られる弾性糸の物性バラツキがおおきくなり、好ましいものではない。またエチレンジアミンがモル比で80以下になると得られる弾性糸の伸度の低下がみられる。
【0008】さらに好ましくはポリウレタンの重合反応時に第二級モノアミンもしくはアセトンとエチレンジアミンを等モル反応させて得られるケトイミンアミンを下記式でしめされる割合で加えて反応させてポリウレタン重合体が得られる。
0.3≦(B+C)/(A+B+C)≦0.5
かつ0.8≦B/C≦1.6
ここでAはジアミンのモル数
Bは第二級モノアミンのモル数
Cはケトイミンアミンのモル数
本発明で使用される第二級モノアミンは、炭素数が2〜6のアミノ化合物でジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等が挙げられる。好適にはジエチルアミンが推奨される。ケトイミンアミンはエチレンジアミンとアセトンとを等モル混合し室温で約1時間静置することで得ることができる。この第二級モノアミンもしくはケトイミンアミンの重合反応における添加時期はつぎのようである。ポリエーテルグリコールあるいはポリエステルグリコールに過剰モルのジフェニルメタンジイソシアネートを加えて中間重合体を得、不活性溶媒に溶解せしめたのち、エチレンジアミンと1,2-ジアミノプロパンとの混合物がくわえられ所定の粘度に到達したときに第二級モノアミンもしくはケトイミンアミンが加えられる。重合反応のときに使用される不活性溶媒としては、N,N-ジメチルフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’-テトラメチル尿素、N-メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド等の極性溶媒が挙げられる。これらから得られたポリウレタン重合体溶液は必要に応じて、ヒンダードフェノールのような抗酸化剤、紫外線吸収剤、酸化チタン等の顔料、第三級アミノ化合物等が加えられる。
【0009】また、ポリウレタン重合体溶液のポリマー濃度は35〜43重量%が推奨される。ポリウレタン弾性糸は通常1000〜3000ポアズの粘度で紡糸されるが、濃度が低い溶液ではポリウレタンの分子量が、濃度の高い溶液中のそれとくらべて同一粘度では大きいと考えられる。そのため、紡糸応力が大きくなり伸度が低くなることがみられる。また、濃度が高くなりすぎると紡糸応力の低下に起因すると思われる紡糸工程での不安定性が増大し好ましいものではない。すなわち、本発明によるポリウレタン溶液を紡糸する際には35〜43重量%のポリマー溶液をもちいることによって、本発明の目的を達成することができる。
【0010】こうして得られたポリウレタン溶液は細孔を通して熱風中に押し出され乾式紡糸され、捲き取られ弾性糸が得られる。捲き取られる前に弾性糸は油剤で処理される。油剤を付与された糸条は、毎分350から600mの速度で捲き取り140〜560デニールの弾性糸が得られる。また、捲き取られた弾性糸は必要に応じて熱処理等がほどこされることによりさらに物性が改善される。弾性糸の物性の評価は次のようにしておこなわれる。測定はJIS Z 8703 2類の状態で測定さる。デニールの測定は次のようである。試料に捲取ったときの設定デニールの千分の一のグラム数の初荷重をかけて正確に90cmの試験片を五本とり、その重さをはかる。そして、別に測定した石油エーテル抽出分をもって、つぎの式によりデニールを算出する。
デニール=9000×W/L×(100/(100+R))
ここにL:試料の長さの和(m)
W:試料の重さ(g)
R:石油エーテル抽出分(%)
【0011】石油エーテル抽出分は次のようにして測定される。試料約2gを正確にはかりとり、200mlの共栓付フラスコに入れる。100mlの石油エーテルを加え、室温で10分間はげしく攪拌しながら浸漬させる。試料を取り出し、再び同温、同容の新しい石油エーテルを用いて同じ操作を繰り返した後、風乾し105±2℃の乾燥機中に1時間放置し乾燥する。デシケーター中にて放冷した後重さをはかり、つぎの式により石油エーテル抽出分を求める。
石油エーテル抽出分(%)=(1-(W’/W))×100
ここにW:試料採取時の重さ(g)
W’:処理後の試料の乾燥重量(g)
伸度の測定は次のようである。
【0012】定速伸長型引張試験機を用い、試料に捲取ったときの設定デニールの千分の一のグラム数の初荷重をかけたときのつかみ間隔を5cmとし、引張速度を毎分50cmとして試験をおこない切断時の伸び(cm)を読み、つぎの式により伸度(%)を算出する。
伸度(%)=(E/5)×100ここにE:切断時の伸び(cm)
弾性回復率の測定は次のようにしておこなわれる。弾性糸試料い捲取ったときの設定デニールの千分の一のグラム数の初荷重を下げて弾性糸を拡げ100mmの間隔(L0)にしるしをつける。そして、その間隔が200mm(L1)になるまで伸長し、そのまま24時間固定する。24時間後、糸を無緊張状態にし10分間放置する。そののち、糸に初荷重を下げて最初につけたしるしの間隔を測る(L2)。そして弾性回復率を次のようにあらわす。
弾性回復率(%)=(L1-L2)/(L1-L0)×100
ここにL0:弾性糸の伸長前の長さ(100mm)
L1:伸長された弾性糸の長さ(200mm)
L2:張力が除かれたあとの弾性糸の長さ(mm)
伸長時応力の測定は次のようである。
【0013】定速伸長型引張試験機を用い、試料に捲取ったときの設定デニール(d)の千分の一のグラム数の初荷重をかけたときのつかみ間隔を5cmとし、引張速度毎分50cmで4倍に伸長しその後ただちに速度毎分50cmで弛緩させる。そして、2.5倍の伸長になったときの荷重(g)を読み、つぎの式により伸長時応力(g/デニール)を算出する。
伸長時応力(g/デニール)=S/d
ここにS:2.5倍の伸長時荷重(g)
d:試料のデニール(デニール)
また、弾性糸はソックスにして評価される。弾性糸チーズはカバリング機にかけられ5〜7倍に伸長されて、ナイロンあるいはポリエステルフィラメント加工糸でカバーされる。このカバーされた加工糸はくつ下編み機に仕掛けられ、綿糸、羊毛糸、合成繊維等とともに編みこまれる。そして、口ゴム部分を構成する。編み上がりの口ゴム部の巾は7〜9cmである。これを、手で引き延ばして最大の伸びのときの寸法を測定する。伸び倍率を次のようにして算出する。
伸び倍率=K/K0
ここにK0:編み上がりの口ゴム部の巾(cm)
K:最大の伸びのときのロゴム部の巾(cm)
このようにして求められた伸び率は、ソックス口ゴム用途としては3.00以上が好ましいものである。
【0014】本発明を以下の実施例において説明する。なお、これら実施例は本発明を例示するものであってなんらこれに限定されるものではない。実施例中、部は重量をしめす。
【実施例】
実施例1
数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテルグリコール12850部と、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート2766とを重合機にしこみ、かき混ぜなが90℃で3時間、窒素気流下で加熱した。ここに、N,N-ジメチルアセトアミド19800部を加え、冷却しながら反応混合物を溶解させた。内温が10℃に到達したところで、エチレンジアミン152部、1,2-ジアミノプロパン21部、N,N-ジエチルアミン46部をN,N-ジメチルアセトアミド2909部に溶解させた溶液をかき混ぜながら徐々に滴下した。反応混合物の粘度が2000ポアズ(30℃)に達した後、アセトン、エチレンジアミンを等モル反応させて得られたケトイミンアミン94部を加え10分間攪拌し、さらにN,N-ジエチルアミン36部を加えて10分間攪拌した。このようにして得られたポリウレタン溶液に1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチル-ベンジル)イソシアヌル酸200部、3-エチル-1,5-ジメチル-3-アザペンタン-1,5-ジオールと4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとの重合体の50重量%N,N-ジメチルアセトアミド溶液1000部、酸化チタン700部、N,N-ジメチルアセトアミド3667部を加え固形分濃度40重量%、溶液粘度1900ポアズ(30℃)のポリウレタン重合体溶液を得た。このようにして得られたポリウレタン重合体溶液を毎分38.8gの割合で28個の細孔を有する紡糸口金へ供給し細孔から熱風中へ押し出し溶媒を蒸発させた。乾燥された糸条は旋回する空気流を発生する仮撚り機にとおし、仮撚りを付与したのちオイリングローラーに接触させた。油剤の付着量は糸条にたいして4重量%になるようにローラーの表面速度を調節した。油剤を付与された弾性糸は毎分500mの速度でボビンに捲きとった。得られた弾性糸は、276デニール、伸度708%で、弾性回復率が92.0%であった。そして、2.5倍伸長応力は5.6gであった。
【0015】得られた弾性糸チーズをカバリング機に仕掛け、送り出し速度毎分9.4mで供給した。弾性糸は5.9倍に伸長され、75デニール/36フィラメントのポリエステル加工糸がカバーされる。そして、捲き上げられて加工糸チーズが得られる。この加工糸チーズをくつ下編み機い仕掛け、30番手のアクリル/綿の混紡糸とともに編み込みソックスを得た。このソックスの口ゴムの巾は7.7cmで伸び倍率は3.18であった。このようにして得られたソックスはやわらかくはきやすいもので、さらに足首からずり落ちることもなかった。
【0016】実施例2
実施例1において得られた弾性糸チーズを115℃で3時間水蒸気浴中で加熱した。得られた弾性糸は、268デニール、伸度730%で、弾性回復率が94.8%であった。そして、2.5倍伸長応力は5.4gであった。実施例1と同様にしてソックスを得た。このソックスの口ゴムの巾は7.8cmで伸び倍率は3.14であった。実施例1と同様に優れた物性のソックスが得られた。
【0017】比較例1
数平均分子量1800のポリテトラメチレンエーテル10119部と、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート2320部とを重合機にしこみ、かき混ぜながら90℃で3時間、窒素気流下で加熱した。ここに、N,N-ジメチルアセトアミド22440部を加え、冷却しながら反応混合物を溶解させた。内温が10℃に到達したところで、エチレンジアミン179部、N,N-ジエチルアミン18部をN,N-ジメチルアセトアミド2617部に溶解させた溶液をかき混ぜながら徐々に滴下した。反応混合物の粘度が2000ポアズ(30℃)に達した後、アセトンとエチレンジアミンを等モル反応させて得られたケトイミンアミン66部を加え10分間攪拌し、さらにN,N-ジエチルアミン39部を加えて10分間攪拌した。このようにして得られたポリウレタン溶液に実施例1と同様の割合で添加剤を加え、さらにN,N-ジメチルアセトアミドを加えてポリマー溶液を得た。固形分濃度30重量%、溶液粘度1920ポアズ(30℃)であった。このようにして得られたポリマー溶液を毎分20.7gの割合で28個の細孔を有する紡糸口金へ供給 し細孔から熱風中へ押し出し溶媒を蒸発させた。乾燥された糸条は旋回する空気流を発生する仮撚り機にとおし、仮撚りを付与したのちオイリングローラーに接触させた。油剤の付着量は糸条にたいして4重量%になるようにローラーの表面速度を調節した。油剤を付与された弾性糸は毎分200mの速度でボビンに捲きとった。得られた弾性糸は、272デニール、伸度655%で、弾性回復率84.0%であった。そして、2.5倍、伸長応力は6.5gであった。
【0018】このソックスの口ゴムの巾は8.2cmで伸び倍率は2.86であった。このようにして得られたソックスは編み上がりの寸法が大きく伸び倍率も低く、口ゴム部分がきついものであった。
【0019】
【発明の効果】本発明の、ポリウレタン重合体を用いて、特定のデニールのポリウレタン弾性糸を作成したとき、伸度が700%以上、2倍に伸長後の弾性回復率が90%以上で4倍に伸長したのち同じ速さで弛緩させたとき2.5倍伸長時応力が0.016〜0.022g/デニールをしめし、このものはソックス口ゴム用途に適した物性をしめすことが判った。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-17 
出願番号 特願平6-75835
審決分類 P 1 651・ 121- YA (D02G)
P 1 651・ 113- YA (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 野村 康秀
澤村 茂実
登録日 2002-07-26 
登録番号 特許第3332116号(P3332116)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 ポリウレタン弾性糸  
代理人 岩見 知典  

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