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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1125797 |
異議申立番号 | 異議2003-72680 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-11-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-11-06 |
確定日 | 2005-08-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3402754号「透明ポリプロピレン系樹脂製シートおよびその製造方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3402754号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
(1)手続の経緯 本件特許第3402754号は、平成6年5月18日に出願され、平成15年2月28日にその特許権の設定登録がなされ、その後、出光ユニテック株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、それに対し、その指定期間内である平成17年2月14日に、特許異議意見書とともに、訂正請求書が提出されたものである。 (2)訂正の適否についての判断 ア、訂正の内容 訂正事項a:特許請求の範囲の訂正 a-1:特許請求の範囲の請求項1を、 「【請求項1】 (1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、 を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シート。」と訂正する。 a-2:請求項2を、 「【請求項2】 前記組成物が、前記樹脂成分100重量部に対して、(4)酸吸収剤0.01〜0.5重量部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シート。」と訂正する a-3:請求項4及び5を削除する。 a-4:請求項6を、 「【請求項4】 (1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、 を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。」と訂正する。 a-5:請求項7〜11を、 「【請求項5】 前記組成物が、前記樹脂成分100重量部に対して、(4)酸吸収剤0.01〜0.5重量部をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項6】 前記透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法において、 (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、(B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧し、 (C)次いで冷却媒体で急冷して、 (e)スキン層の厚みが20%以下、(f)コアー層の構造を微細結晶構造に形成せしめたことを特徴とする請求項4または5に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項7】 前記キャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトの温度がポリプロピレン系樹脂組成物の軟化温度以下、ガラス転移温度以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン樹脂製シートの製造方法。 【請求項8】 前記円弧状挟圧部より送り出されるシートの温度が、ポリプロピレン系樹脂組成物の軟化温度以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項9】 前記キャストロールおよび/または無端ベルトの表面粗度が0.5μm以下であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。」と訂正する。 訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正 b-1:特許明細書の段落【0004】を、 「【課題を解決するための手段】本発明は上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、無端ベルトを用いるシート製造法に特定のポリプロピレン樹脂組成物を使用することにより、高速で、厚肉シートでも、格段に優れた光学特性と機械特性が得られることを発見し、本発明を完成するに至った。 本発明は、(1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シートである。 また、本発明は、(1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン樹脂製シートの製造方法である。」と訂正する。 イ、訂正の適否 訂正事項aは、特許請求の範囲の訂正であり、訂正a-1は、組成物の成分としての「ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分」を(1)とし、訂正前の組成物成分である(1)及び(2)を、それぞれ(2)、(3)とし、さらに、「ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分」を、訂正前の請求項4及び5で特定するものに限定し、酸化防止剤について、2種の酸化防止剤の併用に限定し、さらに、キャストロール及び無限ベルトとの間で挟圧とする点について、明細書の段落【0014】の記載に基づいて「表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 訂正a-2は、組成物の成分としての酸吸収剤について、訂正a-1に伴って、成分の番号表示を「(4)酸吸収剤」と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 訂正a-3は、請求項4及び5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 訂正a-4は、訂正a-3に伴い、明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項を繰り上げるとともに、訂正a-1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的として、ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分を、訂正前の請求項4及び5で特定するものに限定し、酸化防止剤について、2種の酸化防止剤の併用に限定し、さらに、挟圧を「表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて」と限定するものと認められる。 訂正a-5は、訂正a-3に伴い、請求項を繰り上げ、さらにそれぞれの引用する項を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 上記訂正事項b(b-1)は、発明の詳細な説明における訂正であり、特許請求の範囲の訂正である訂正事項a(a-1〜a-5)に伴い、特許請求の範囲との整合性をはかるための、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 そして、上記訂正事項a及びbは、願書に添付した明細書の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 (3)特許異議の申立てについての判断 ア、申立て理由の概要 特許異議申立人は、甲第1号証(特開平6-55613号公報)、甲第2号証(特開平5-43746号公報)、甲第3号証(特開昭62-132937号公報)、甲第4号証(特開昭62-283142号公報)、甲第5号証(特開平3-263446号公報)、甲第6号証(特開昭60-90238号公報)、甲第7号証(特開昭54-144462号公報)、甲第8号証(特開平5-286020号公報)、甲第9号証(特開昭62-86039号公報)、甲第10号証(特開昭58-185634号公報)及び甲第11号証(特開昭55-139445号公報)を提出し、訂正前の本件請求項1〜11に係る発明は、甲第1〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1〜11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、明細書の記載に不備があるから、特許法第36条第4項及び第6項第1号(平成6年5月の出願なので、特許法第36条第4項及び第5項と読み替える。)の規定を満たさない出願に対して特許されたものであり、本件特許は取り消されるべき旨主張している。 イ、訂正明細書の請求項1〜9に係る発明 訂正明細書の請求項1〜9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 (1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、 を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シート。 【請求項2】 前記組成物が、前記樹脂成分100重量部に対して、(4)酸吸収剤0.01〜0.5重量部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シート。 【請求項3】 前記透明ポリプロピレン系樹脂製シートが、スキン層とコアー層を形成したシートであって、(e)スキン層の厚みが20%以下、(f)コアー層の構造を微細結晶構造に形成せしめたことを特徴とする請求項1または2に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シート。 【請求項4】 (1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、 を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項5】 前記組成物が、前記樹脂成分100重量部に対して、(4)酸吸収剤0.01〜0.5重量部をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項6】 前記透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法において、 (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、(B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧し、 (C)次いで冷却媒体で急冷して、 (e)スキン層の厚みが20%以下、(f)コアー層の構造を微細結晶構造に形成せしめたことを特徴とする請求項4または5に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項7】 前記キャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトの温度がポリプロピレン系樹脂組成物の軟化温度以下、ガラス転移温度以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン樹脂製シートの製造方法。 【請求項8】 前記円弧状挟圧部より送り出されるシートの温度が、ポリプロピレン系樹脂組成物の軟化温度以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項9】 前記キャストロールおよび/または無端ベルトの表面粗度が0.5μm以下であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。」 ウ、刊行物に記載された事項 当審が平成16年12月6日付けで通知した取消理由に引用された刊行物1(特開平6-55613号公報、上記甲第1号証)、刊行物2(特開平5-43746号公報、同甲第2号証)、刊行物3(特開昭62-132937号公報、同甲第3号証)、刊行物4(特開昭62-283142号公報、同甲第4号証)、刊行物5(特開平3-263446号公報、同甲第5号証)、刊行物6(特開昭60-90238号公報、同甲第6号証)、刊行物7(特開昭54-144462号公報、同甲第7号証)、刊行物8(特開平5-286020号公報、同甲第8号証)、刊行物9(特開昭62-86039号公報、同甲第9号証)、刊行物10(特開昭58-185634号公報、同甲第10号証)及び刊行物11(特開昭55-139445号公報、同甲第11号証)には次の記載が認められる。 a、刊行物1 「【請求項1】 熱可塑性樹脂に、造核剤,高融点ポリマーの微粉末,石油樹脂,テルペン樹脂,有機過酸化物及び結晶性ポリプロピレン系コポリマーよりなる群から選ばれた1又は2以上の添加剤を加えた原料樹脂を、加熱溶融して樹脂膜とし、得られた加熱溶融樹脂膜のシート又はフィルムを、表面を鏡面処理された冷却ロールと、表面を鏡面処理された金属製無端ベルトとの中間に導入し、次いで前記冷却ロールと前記金属製無端ベルトとの間を前記冷却ロールの外周に接触させながら移動させると共に冷却し、その後、前記金属製無端ベルトの内側から加圧し、さらに前記冷却ロールとの接触を解き、前記金属製無端ベルトに密着させつつ移動させた後、剥離することを特徴とする熱可塑性樹脂シート又はフィルムの製造方法。」(特許請求の範囲) 「【産業上の利用分野】本発明は、食品,医薬品などの包装用等に好適な、超高透明無延伸熱可塑性樹脂シート又はフィルムを効率よく製造する方法に関する。」(段落【0001】) 「本発明において、シート又はフィルムの主原料として用いる熱可塑性樹脂としては特に限定はなく、ポリプロピレン……結晶性樹脂、特にポリプロピレン(プロピレン単独重合体又は1種或いは2種以上の結晶性プロピレン系コポリマー、及びこれらの混合物)が好適に用いられる。」(段落【0011】) 「ここで、増核剤としてはタルク,有機カルボン酸塩及びその金属塩,有機リン酸金属塩,ポリビニルシクロアルカン及び次の一般式(I)………で表わされるジベンジリデンソルビトール誘導体から選ばれる1種又は2種以上のものが用いられる。」(段落【0013】〜【0015】) 「本発明の方法においては、これらの増核剤は、熱可塑性樹脂に対して、0.5〜10000重量ppm、好ましくは100〜4000重量ppmの割合で配合する。ここで増核剤の配合割合が0.5重量ppm未満であると、透明性が不充分となり、一方、増核剤の配合割合が10000重量ppmを超えると、表面へのブリードが発生するため、いずれも好ましくない。」(段落【0016】) 「ここでシート又はフィルムの厚みが0.6mmを超えるような厚肉のものであっても比較的透明性の良好なものが得られるが、好ましくは1mm以下とする。シート又はフィルムの厚みが1mmを超えると、光沢は変わらないが、厚みのため内部ヘイズが悪化し、透明性が低下するので好ましくない。」(段落【0032】) 「さらに、金属製無端ベルト5としては、表面粗度が1.5μm以下、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.05μm以下と、鏡面処理されたものを用いる。」(段落【0038】) 「一方、冷却ロール4としては、上記金属製無端ベルト5と同様の鏡面処理を施したものが用いられる。」(段落【0039】) 「これら金属製無端ベルト5と冷却ロール4の温度は、通常、10〜50℃の範囲とされている。金属製無端ベルト5と冷却ロール4の温度が低いほど、透明性(内部ヘイズ)は良くなるが、温度が10℃未満になると結露が生じたり、急激な冷却によりバンクが発生し、これはシート又はフィルム3のバンクマークを発生する原因となる。逆に温度が高くなると、シート又はフィルム3が冷却固化されなくなり、透明性が低下する。」(段落【0040】) 「実施例1〜4 図1に示す如き装置を用いて、超高透明熱可塑性樹脂シートを製造した。まず、原料樹脂として、プロピレンホモポリマー(密度0.91g/cm3 ,メルトインデックス2.0g/10分,出光ポリプロF-205S)100重量部に、核剤としてDBS(1,3-2,4ジベンジリデンソルビトール)(商品名:ゲルオールMD,新日本理化学株式会社製)2000ppmを加えたものについて、樹脂温度280℃で、T-ダイ押出装置1(押出機直径90mm,L/D=32,ダイ幅500mm,ダイリップ間隔1mm)を用いて加熱溶融可塑化後、T-ダイ2より押出した。押出されたシート又はフィルム3(溶融樹脂膜)を、連続的に、金属製無端ベルト5(ステンレス製,ベルト厚み0.4mmであり、表面粗度0.2μmと鏡面処理されたもの)と、冷却ロール4(硬質クローム表面を有し、かつ、表面粗度0.2μmと鏡面処理されたもの)との中間に導入し、次いで前記冷却ロール4と前記金属製無端ベルト5との間を、前記冷却ロール4の外周に接触させながら移動させると共に、第1表に示す温度にて冷却ロール4を冷却し(なお、内部冷却ロール6と内部加圧・冷却ロール7の温度は、金属製無端ベルト5の温度として第1表に示した。)、その後、前記金属製無端ベルト5の内側から第1表に示す加圧圧力にて加圧した。しかる後、加圧処理されたシート又はフィルム3について、前記冷却ロール4との接触を解き(解放後のシート方向はベルト側とした。)、前記金属製無端ベルト5に密着させつつ移動させた後、内部補助冷却ロール8と外部補助冷却ロール9(温度は30℃)を用いて冷却して、厚み0.7mmのポリプロピレン樹脂シートを得た。操作条件と結果を第1表に示す。なお、製膜速度は、15m/minであった。」(段落【0040】) b、刊行物2 「【請求項1】 ポリオレフィン樹脂100重量部に、(a)次の化1で示される一般式(I)または(II)で表される有機リン酸エステルのアルカリ金属塩0.005〜5重量部、(b)ハイドロタルサイト化合物0.005〜5重量部および(c)炭素原子数8〜30の脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩0.005〜5重量部を添加してなる結晶性ポリオレフィン樹脂組成物。 ……(一般式(I)、(II)及びその説明を省略)……」(特許請求の範囲) 「【産業上の利用分野】本発明は、結晶性ポリオレフィン樹脂組成物に関し、詳しくは、有機リン酸エステルのアルカリ金属塩、ハイドロタルサイト化合物および脂肪族カルボン酸のアルカリ土類金属塩を添加することにより、透明性の改善された結晶性ポリオレフィン樹脂組成物に関する。」(段落【0001】) 「また、本発明のポリオレフィン樹脂組成物には、必要に応じて、フェノール系酸化防止剤、有機ホスファイトなどの有機含リン酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、紫外線吸収剤あるいはヒンダードアミン化合物などの光安定剤を加え、その酸化安定性および光安定性をさらに改善することができる。」(段落【0035】) 「上記フェノール系酸化防止剤の添加量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜3重量部である。」(段落【0037】) 「上記有機含リン酸化防止剤の添加量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜3重量部である。」(段落【0039】) 「〔実施例1〕 <配合> ポリプロピレンホモポリマー 100 テトラキス〔メチレン-β-(3,5-ジ第三ブ 0.1 チル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕 メタン トリス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)ホスフ 0.1 ァイト) 有機リン酸エステル金属塩(表-1) 0.2 ハイドロタルサイト(DHT-4A *) 0.05 ステアリン酸カルシウム 0.05 * 協和化学工業製合成ハイドロタルサイト」(段落【0049】) c、刊行物3 「(1)MIが0.3〜20g/10分のプロピレン-α-オレフィン共重合体100重量部に対して、 (a)一般式(I)……(式、及びその説明を省略)……で示される造核剤を0.05〜0.5重量部及び、 (b)減量開始温度が150℃以上の酸化防止剤0〜1.0重量部とを含有するシートを製造するにあたり、造粒工程からシート加工工程のうちの少なくとも一工程で該造核剤の融点以上から融点プラス30℃以下の温度範囲で加熱し、かつ他の工程では該造核剤の融点プラス30℃以上で加工することを特徴とする透明ポリプロピレンシートの製造法。」(特許請求の範囲第1項) d、刊行物4 「(1)ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物および有機リン系化合物をそれぞれ0.005〜1.0wt.%含み、霞度が10%以下であることを特徴とした耐放射線ポリプロピレン系樹脂シート。」(特許請求の範囲第1項) e、刊行物5 「1.1,2,4-トリクロロベンゼン溶液で測定した13C-NMRの吸収スペクトルにおいてテトラメチルシランを基準として約20.2ppmに観測されるピークの強度がプロピレン単位のメチル基に帰属されるピークの強度の総和の0.5以上である実質的にシンジオタクチック構造を有するポリプロピレンからなる耐放射線ポリプロピレン樹脂組成物。 2.前記ポリプロピレンが、0.8以上のシンジオタクチックペンタッド分率を有し、かつ20℃のn-ヘキサン可溶部分の含量が10wt.%以下のプロピレンホモポリマーである請求項1に記載の樹脂組成物。 3.リン系の酸化防止剤あるいはアミン系酸化防止剤を含有する請求項1記載のポリプロピレン樹脂組成物。 4.造核剤を含有する請求項1記載のポリプロピレン樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1〜4) f、刊行物6 「下記の成分(1)ないし(4)の各成分からなることを特徴とするプロピレン重合体組成物。 (1) ハロゲン含有マグネシウム化合物を触媒担体とするチーグラー型コンプレツクス触媒を用いて得られて、未だ実質的な触媒残留物除去工程を経ていない結晶性プロピレン重合体であつて、該触媒残留物の含有量が300重量ppm以下のプロピレン重合体100重量部 (2) 下記〔I〕式にて示されるソルビトール系化合物0.01〜1重量部……(〔I〕式及びその説明を省略)…… (3) フエノール系酸化防止剤又はそれらの亜リン酸エステル系酸化防止剤0.001〜0.5重量部 (4) 下記(i)〜(iii)にて示される化合物の少なくとも1種を、0.01〜1重量部 (i) 周期律表第I又は第II族の脂肪酸又はヒドロキシ脂肪酸金属塩 (ii) 周期律表第I又は第II族のアルキル化乳酸金属塩 (iii) ハイドロタルサイト」(特許請求の範囲) g、刊行物7 「(A)メルトフローインデックスが0.5〜3g/10分のプロピレン系樹脂100重量部に対し、(B)造核剤0.05〜1重量部、(C)ステアリン酸、オキシステアリン酸及びこれらの金属塩から選ばれた少なくとも1種の滑剤0.1〜0.4重量部、及び(D)2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.05〜0.3重量部を配合した組成物を………なる条件下で押出成形することを特徴とするプロピレン系樹脂製シートの製造方法。」(特許請求の範囲) 実施例には、沸騰n-ヘプタン抽出残97重量%及び同96重量%のプロピレン単独重合体が記載されている。 h、刊行物8 「【請求項1】 内部ヘイズの低い熱可塑性樹脂シート又はフィルムを、表面を鏡面処理された加熱ロールと、表面を鏡面処理された金属製無端ベルトとの中間に導入し、次いで前記加熱ロールと前記金属製無端ベルトとの間を前記加熱ロールの外周に接触させながら移動させると共に加熱し、その後、前記金属製無端ベルトの内側から加圧し、さらに前記加熱ロールとの接触を解き、前記金属製無端ベルトに密着させつつ移動させた後、冷却することを特徴とする熱可塑性樹脂シート又はフィルムの製造方法。 【請求項2】 内部ヘイズの低い熱可塑性樹脂シート又はフィルムとして、急冷処理した熱可塑性樹脂シート又はフィルム、造核剤を配合した熱可塑性樹脂シート又はフィルム、或いは石油樹脂を配合した熱可塑性樹脂シート又はフィルムを用いる請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 内部ヘイズの低い熱可塑性樹脂シート又はフィルムを、その熱変形温度から、融点より100℃高い温度までの温度範囲にて加熱する請求項1記載の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1〜3) 「【産業上の利用分野】本発明は、食品,医薬品などの包装用等に好適な、超高透明無延伸熱可塑性樹脂シート又はフィルムを効率よく製造する方法に関する。」(段落【0001】) i、刊行物9 「【請求項1】ポリプロピレン70〜100重量%とポリエチレン0〜30重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、有機フォスファイト化合物から選らばれた1種または2種以上の酸化防止剤0.02〜0.5重量部、及び一般式(I)……(式及びその説明を省略)……で表わされる化合物又はテトラキス-〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンから選ばれたフェノール系酸化防止剤0.02〜0.5重量部を含有するポリプロピレン樹脂組成物を押出成形してなることを特徴とする熱成形用ポリプロピレン樹脂シート。」(特許請求の範囲) j、刊行物10 「(1) (A)結晶性ポリプロピレン、(B)中密度ポリエチレン、(C)高密度ポリエチレンおよび(D)無定形エチレン―プロピレン共重合体よりなるポリプロピレン組成物において、(B)中密度ポリエチレンの配合量が3〜15重量%,(C)高密度ポリエチレンの配合量が2〜10重量%、(D)無定形エチレン―プロピレン共重合体の配合量が3〜15重量%であり、かつこれら(B),(C),(D)成分の合計配合量が8〜40重量%であり、残余が(A)結晶性ポリプロピレンであるように配合したことを特徴とする熱成形用ポリプロピレン組成物。」(特許請求の範囲第1項) k、刊行物11 「1.結晶性ポリプロピレン、中密度ポリエチレンおよび無定形エチレン・プロピレン共重合体よりなるポリプロピレン組成物において、中密度ポリエチレンの配合量が2〜20重量%、無定形エチレン・プロピレン共重合体の配合量が2〜20重量%であり、かつこれら両者の合計配合量が10〜22重量%であり、残余が結晶性ポリプロピレンであるように配合したことを特徴とするポリプロピレン組成物。」(特許請求の範囲第1項) エ、対比・判断 a、特許法第29条違反について 本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比する。 刊行物1に記載の増核剤は、本件発明1の造核剤に相当するものであり、刊行物1の実施例に記載の方法は、Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、該溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧して透明性を有するシートを得るものと認められるから、両者は、その配合割合において重複一致するプロピレン単独重合体及び造核剤を含む組成物を用いて、Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧して得られるシートであって、シートの厚みが重複一致する透明ポリプロピレン系樹脂製シートである点で一致し、以下の点で相違するものと認める。 相違点1:本件発明1では、プロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であるのに対し、刊行物1には、プロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分についての記載がない点、 相違点2:本件発明1では、組成物として、樹脂成分100重量部に対し、有機フォスファイト系化合物または4,4'-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部を含むとするのに対し、刊行物1には、酸化防止剤についての記載がない点、 相違点3:本件発明1では、表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧するのに対し、刊行物1には、そういったことの記載がない点、 相違点4:本件発明1では、該シートが、透明性(クラリティー)が65%以上、透明性(ヘイズ)が15%以下、曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2の性状を満足するのに対し、刊行物1には、そういったことの記載がない点。 これらの相違点のうち、上記相違点3について検討するに、刊行物2〜11には、表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧することの記載がなく、それを示唆する記載も認められない。 そして、本件発明1は、上記相違点3を含めた上記構成を有することによって、明細書記載の厚肉シートを熱劣化なく、色相が良く、高速で成形が可能であり、光学特性(透明性、光沢性)、外観特性(表面平滑性)および機械特性が格段に優れるポリプロピレン系樹脂シートが得られるという作用効果を奏するものと認められる。 したがって、他の相違点1、2及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件発明2〜3は、本件発明1を引用し、その構成にさらに限定を付すものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件発明4は、本件発明1と同じ構成を有する透明ポリプロピレン系樹脂シートの製造方法とするものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件発明5〜9は、本件発明4を引用し、さらにその構成を限定するものであるから、本件発明4と同様の理由により、刊行物1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 b、特許法第36条違反について、 特許異議申立人は、比較例5〜7は、訂正前の請求項1及び6に係る発明を満たすのに、効果上に問題があるから、明細書の記載に不備が認められるとする点について、訂正前の請求項1及び6に係る発明は、上記のとおり、本件発明1及び4として訂正されており、それによって、記載不備は解消したものと認める。 (4)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を取り消すことができない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 透明ポリプロピレン系樹脂製シートおよびその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シート。 【請求項2】前記組成物が、前記樹脂成分100重量部に対して、(4)酸吸収剤0.01〜0.5重量部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シート。 【請求項3】前記透明ポリプロピレン系樹脂製シートが、スキン層とコアー層を形成したシートであって、(e)スキン層の厚みが20%以下、(f)コアー層が微細結晶構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シート。 【請求項4】(1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項5】前記組成物が、前記樹脂成分100重量部に対して、(4)酸吸収剤0.01〜0.5重量部をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項6】前記透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法において、(A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、(B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧し、(C)次いで冷却媒体で急冷して、(e)スキン層の厚みが20%以下、(f)コアー層の構造を微細結晶構造に形成せしめたことを特徴とする請求項4または5に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項7】前記キャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトの温度がポリプロピレン系樹脂組成物の軟化温度以下、ガラス転移温度以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン樹脂製シートの製造方法。 【請求項8】前記円弧状挟圧部より送り出されるシートの温度が、ポリプロピレン系樹脂組成物の軟化温度以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【請求項9】前記キャストロールおよび/または無端ベルトの表面粗度が0.5μm以下であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は非常に優れた透明性を有するポリプロピレン系樹脂製シートおよびその製造方法に関する。詳しくは、食品向け熱成形容器・蓋・トレー、ブリスターパック、文具ファイル、折り曲げ加工品、PTP等の用途に使用するシートであって、光学特性・機械特性等に優れたシートおよび厚肉シートであっても高速で、光学特性、機械特性等に優れるシートの製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、ポリプロピレン製シートの透明性を改良する一般的な方法としては、ポリプロピレンシートを急冷する方法、造核剤を添加して結晶化を制御する方法等が知られている。例えば、結晶性ポリプロピレンに脂環族系石油樹脂等を配合し、急冷成形してスメチカ構造を有する透明性ポリプロピレンシートの製造方法(特開昭51-91955号公報、特開昭55-27203号公報)、結晶性ポリプロピレンにソルビトール系造核剤を添加したポリプロピレンの改質方法(特開昭56-45934号公報)、Tダイから溶融押出した配向促進剤を含むポリプロピレン原反を圧延する方法(特開昭58-185224号公報)等が提案されている。しかし、これらの方法ではシート厚が厚くなると均一な冷却が行われなくなり、光学特性が改良されないという問題点を有している。 また、ポリプロピレン製シートの成形方法としては、従来、エアーナイフ法、ポリシングロール法等がある。しかし、エアーナイフ法は、シートをエアー圧でロールに圧着しているだけであるので、シートの偏肉や平滑性を矯正できず、かつ急冷ができないので高透明性シートにはならない。また、成形速度も遅く、厚肉シートには不向きである。一方、ポリシングロール法は、Tダイから押出された膜状の溶融樹脂を一対の金属ロールの接線で挟圧してシート化する方法であり、光沢のあるシートが成形できるものの、一対の金属ロール間の接線部で挟圧しているのみであるため成形速度を上げることが難しく、かつ急冷ができず、高透明性シートを得ることができない。 さらに、透明性に優れたポリプロピレン製シートの成形方法としては、ポリプロピレン膜を特殊な水冷装置で急冷成形する方法(特開昭61-189920号公報)、金属製無端ベルトと冷却ロール間に導入し、透明性シートを製造する方法(特開平5-286020号公報、特開平6-55613号公報)等が提案されている。しかし、これらの方法では、光学特性は改良されるが、溶融樹脂を水冷する際、水中にシートを引き込むときの波打ちによりシートに横縞が発生する欠点がある。さらに、昨今の生産性の向上から、厚肉シートをより高速で、かつ機械的強度が高く、高透明なシートの製造という要望を充分に満足するものであるとはいえない。 【0003】 【発明が解決しようとしている課題】 すなわち本発明の目的は、厚肉シートを熱劣化なく、色相が良く、高速で成形が可能であり、光学特性(透明性、光沢性)、外観特性(表面平滑性)および機械特性が格段に優れるポリプロピレン系樹脂製シートおよびその製造方法を提供するものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】 本発明は上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、無端ベルトを用いるシート製造法に特定のポリプロピレン樹脂組成物を使用することにより、高速で、厚肉シートでも、格段に優れた光学特性と機械特性が得られることを発見し、本発明を完成するに至った。 本発明は、(1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シートである。 また、本発明は、(1)ポリプロピレン系重合体が、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはそれらの混合物100〜50重量%、ポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種であって、前記ポリプロピレン単独重合体の沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であり、前記ポリプロピレン系重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対して、 (2)有機フォスファイト系化合物または4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)酸化防止剤0.01〜0.5重量部およびフェノール系酸化防止剤0.01〜0.5重量部、 (3)造核剤0.02〜1.0重量部、を含む組成物を用いて、少なくとも (A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、 (B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で表面に55〜85度の硬度を有するエラストマーで被覆したロールを用いて挟圧して得られるシートであって、該シートが下記(a)〜(d): (a)厚み0.05〜2.0mm、 (b)透明性(クラリティー)が65%以上、 (c)透明性(ヘイズ)が15%以下、 (d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、 の性状を満足することを特徴とする透明ポリプロピレン系樹脂製シートの製造方法である。 【0005】 以下、本発明を詳述する。 本発明のポリプロピレン系重合体とは、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とするα-オレフインとの共重合体またはそれらの混合物であり、具体的にはプロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体またはこれらの混合物が挙げられる。該ポリプロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、0.2〜10g/10分、好ましくは0.3〜8g/10分、さらに好ましくは0.5〜5g/10分である。該MFRが、0.2g/10分未満であると押出加工が悪くなり、10g/10分を超えるものはシート成形時あるいはシートの熱成形時にドローダウンが発生し好ましくはない。 これらの中でも機械的強度に重点をおいた場合には、プロピレン単独重合体が好ましく、透明性に重点をおいた場合には、プロピレン-エチレンランダム共重合体が好ましい。該ポリプロピレン単独重合体は、その沸騰n-ヘプタン不溶部分が92〜99重量%であることが好ましい。さらに好ましくは94〜98重量%である。沸騰n-ヘプタン不溶分が92重量%未満では、結晶性が低く、シートの機械的特性、特に剛性が不足する傾向にある。一方、99重量%を超えるとシートの透明性が低下する傾向にある。また、プロピレン-エチレンランダム共重合体のエチレン含有量は、0.2〜10重量%、好ましくは1〜7重量%である。エチレン含有量が0.2重量%未満では充分な透明性が得られず、10重量%を超えるとシートが柔らかくなる傾向が生じる。 【0006】 本発明のポリエチレン系重合体とは高・中密度ポリエチレン(HDPE、MDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のエチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。これらのポリエチレン系重合体の密度は0.88〜0.97g/cm3、好ましくは0.89〜0.94g/cm3、メルトフローレート(MFR)は0.1〜10g/10分、好ましくは0.3〜0.7g/10分、さらに好ましくは0.3〜5.0g/10分である。これらの中でも、LDPE、LLDPE、VLDPEが好ましい。 【0007】 本発明の樹脂成分は、ポリプロピレン系重合体100〜50重量%およびポリエチレン系重合体50重量%までの混合組成物から選択された少なくとも1種である。 該ポリエチレン系重合体の配合量が、50重量%を超えるとシートの剛性が低下し、シートが軟くなり好ましくない。また、該樹脂成分のメルトフローレート(MFR)は0.2〜10g/10分、好ましくは0.5〜8g/10分の範囲で選択されることが望ましい。 MFRが0.2g/10分未満では押出加工性が悪く、MFRが10g/10分を超えるとシート成形時あるいはシートの熱成形時にドローダウンが発生し好ましくない。 【0008】 本発明で使用する有機フォスファイト系化合物酸化防止剤とは、リンがフォスファイト構造である有機化合物の酸化防止剤であれば特に限定するものではないが次のような化合物から選択された少なくとも1種であることが好ましい。 トリス(ジブチルフェニル)フォスファイト(商品名:イルガフォス168、チバガイギー社製)、サイクリックネオペンタテトライルビス(オクタデシルフォスファイト)(商品名:アデカスタブPEP-8M、旭電化工業社製)、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(商品名:アデカスタブPEPー24G、旭電化工業社製;商品名:ウルトラノックス626、ジェネラル・エレクトロニクス社製)、トリス(ミックスドモノおよびジ-ノニルフェニル)フォスファイト(商品名:アデカスタブ329K、旭電化工業社製)等が挙げられ、特にトリス(ジブチルフェニル)フォスファイトが好ましい。また本発明で使用する有機フォスフォナイト系化合物酸化防止剤は、4,4’-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)(商品名:サンドスタブP-EPQ、サンド社製)が好ましい。 該酸化防止剤の添加量は樹脂成分100重量部に対して、0.01〜0.5重量部、好ましくは0.03〜0.2重量部であり、該酸化防止剤の添加量が、0.01重量部未満では酸化防止効果が得られず、シートのMFRが増大し、熱成形時にシートのドローダウンが発生するので好ましくない。また、添加量を0.5重量部を超えて添加しても効果が向上せず、コスト高となる。 【0009】 本発明に用いられるフェノール系酸化防止剤は、特に限定するものではないが、次のような化合物から選択された少なくとも1種であることが好ましい。 具体的にはテトラキス(メチレンジブチルヒドロキアナイト)メタン(商品名:イルガノックス1010、チバガイギー社製)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシル)ベンゼン(商品名:イルガノックス1330、チバガイギー社製)、オクタデシルブチルヒドロキシハイジロシアナイト(商品名:イルガノックス1076、チバガイギー社製)、特にテトラキス(メチレンジブチルヒドロキアナイト)メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシル)ベンゼンが好ましい。 該酸化防止剤の添加量は樹脂成分100重量部に対して、0.01〜0.5重量部、好ましくは0.03〜0.2重量部であり、該酸化防止剤の添加量が0.01重量部未満では酸化防止効果が得られず、シートのMFRが増大し、熱成形時にシートのドローダウンが発生するので好ましくない。また、添加量を0.5重量部を超えて添加しても効果が向上せず、コスト高となる。 該有機フォスファイト系化合物酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤は各々単独で使用しても良いが併用することにより、酸化防止効果は増大する。 【0010】 本発明に使用する造核剤は、タルク、有機カルボン酸またはその金属塩、有機リン酸金属塩、ソルビトール系化合物の中から選択された少なくとも1種であることが好ましい。該有機カルボン酸の金属塩としては、ヒドロキシ-ジ(t-ブチル安息香酸)アルミニウム(商品名:Al-PTBBA、シェル化学社製)等が挙げられる。該有機リン酸金属塩としては、リン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム(商品名:アデカスタブNA-10、旭電化工業社製)、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム(商品名:アデカスタブNA-11、旭電化工業社製)等が挙げられる。また、ソルビトール系化合物としては、1・3または2・4-ジ(P-メチルベンジリデン)ソルビトール(商品名:ゲルオールMD,ゲルオールMDR、新日本理化社製)、1・3または2・4-ジベンジリデンソルビトール(商品名:EC-1、イーシー化学社製)、1・3または2・4-ジ(P-エチルベンジリデン)ソルビトール(商品名:NC-4、三井東圧化学社製)等が挙げられ、シートの透明性を優先する場合にはソルビトール系化合物、剛性を優先する場合には有機リン酸金属塩を使用するのが好ましい。 また、アデカスタブNA-21(商品名:旭電化工業社製)は透明性と剛性とがバランスされた造核剤であり、本発明に好適に使用される。 該造核剤の添加量は樹脂成分100重量部に対して、0.02〜1.0重量部、好ましくは0.05〜0.4重量部であり、該造核剤の添加量が0.01重量部未満では透明性が得られず、1.0重量部を超えて添加しても効果が向上せず、コスト高となる。 【0011】 本発明で使用する昨今のポリプロピレン系重合体およびポリエチレン系重合体は、触媒除去工程を経ていないので、一般的には酸性触媒成分が微量存在するので酸吸収剤を添加することが望まれる。該酸吸収剤としては、高級脂肪酸の周期律表第I族金属塩、高級脂肪酸の周期律表II族金属塩、ハイドロタルサイト類等が挙げられる。該高級脂肪酸の周期律表第I族金属塩としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられ、高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。また、ハイドロタルサイト類の具体的な例としては、DHT-4A(商品名:協和化学社製)が挙げられる。 該酸吸収剤の添加量は樹脂成分100重量部に対して、0.005〜0.5重量部、好ましくは0.05〜0.2重量部である。該酸吸収剤の添加量が0.005重量部未満では酸吸収効果が発揮されず、成形機の腐食をまねく虞を生ずる。また、添加量を0.5重量部を超えて添加しても、それ以上の効果の向上が望めず、コスト高になるため好ましくない。 【0012】 本発明の透明ポリプロピレン樹脂シートの製造は、上記組成物を用いて、少なくとも、(A)Tダイから膜状の溶融樹脂を押出し、(B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧することにより得ることができる。 【0013】 以下、本発明のシートの製造方法を図面に基づいて詳述する。 図1は、本発明のシートの一実施例の製造工程概略図を示したもので、主に(A)押出機に具備したTダイから膜状の溶融樹脂を押出す押出工程、(B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧する第1冷却工程、(C)水冷等のように冷却媒体で急冷する第2冷却工程、(D)アニール工程、(E)巻取り工程または(F)切断工程(図示せず)等から構成され、これらの工程を経て製品化される。 図2は、(B)該膜状の溶融樹脂をキャストロールと該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルトとの間で挟圧する第1冷却工程の拡大図を示したものである。 【0014】 この図2に示される第1冷却工程を以下に説明する。 図1の押出工程において、所定のポリプロピレン系樹脂を押出機原料投入口から供給し、押出機先端のTダイ1から押出された膜状の溶融樹脂2は、第1冷却工程のキャストロール3と該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルト4との間の円弧状挟圧部8で挟圧されシート9が形成される。該無端ベルト4をキャストロール3に円弧状に沿わせるために無端ベルト4はロール5、ロール6およびロール7に掛合され、テンションをコントロールすることができ、かつキャストロール3とロール5との間隔距離で得られるシート9の厚みが調整される。また、ロール6の位置を動かすことにより円弧状に沿わせる距離が調整できる。 前記キャストロール3と該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルト4の温度はポリプロピレン系樹脂の軟化温度以下、ガラス転移温度以上であり、好ましくは30〜110℃である。 すなわち、キャストロール3と無端ベルト4は加熱油等で内部から加熱された、もしくは必要により冷媒により冷却されたロール5、ロール7とによってポリプロピレン系樹脂の軟化温度以下、ガラス転移温度以上に保たれている。 次いで前記円弧状挟圧部8より送り出されるシート9は、ポリプロピレン系樹脂の軟化温度以下、好ましくはポリプロピレン系樹脂の熱変形温度から軟化温度の温度範囲に前記キャストロール3と無端ベルト4の温度設定により制御される。軟化温度を超える温度だとシートが軟らかすぎてキャストロール3や無端ベルト4からの剥離性が低下し、シート表面に微少な傷が多発したり、後の工程でしわが発生して良好なシートができなくなる虞が生じる。 前記キャストロール3および/または無端ベルト4の材質は、通例金属製ロールもしくは金属製無端ベルトで構成されるが、場合によってはフッ素樹脂等の樹脂コーテングしてもよい。該キャストロールもしくは無端ベルトの表面粗度は0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下のものが好適である。 表面粗度は0.5μm以下にすることによりキャストロール3および/または無端ベルト4の表面は鏡面状態になり、シートの透明性や表面平滑性が得られる。 また、キャストロール3と共に無端ベルト4を挟圧させるための金属製ロール5の表面は耐熱性のシリコンゴムないし弾性を有するエラストマーで被覆してもよい。使用するエラストマーの硬度は55〜85度が適当である。 前記円弧状挟圧部8で挟圧されたシート9は(C)冷却媒体で急冷する第2次冷却工程で直ちに冷却媒体で急冷される。 該冷却媒体は特に限定はないが、水を使用するのが簡便である。冷却媒体の温度は水の場合50℃以下、好ましくは25℃以下である。 また、(C)冷却媒体で急冷する第2次冷却工程の後、シートは必要に応じて(D)アニール工程へ導かれる。アニール工程でシートのカールの矯正が可能であると共に、ポリプロピレン系樹脂の結晶化が充分に進んでいないため、シートの剛性を改善できる。 アニール工程は加熱オーブンもしくは加熱金属ロールでよい。加熱温度は使用するポリプロピレン系樹脂の熱変形温度-40℃、好ましくは熱変形温度-30℃から熱変形温度+15℃、さらに好ましくは熱変形温度+5℃の温度範囲である。熱変形温度-40℃未満の温度ではカールの修正や剛性の改善効果が小さく、熱変形温度+15℃を超える温度だとシートが軟化状態になり透明性や光沢性等の外観を損ねるようになる。前記(D)アニール工程を経たシートは(E)巻取り工程で巻取られて製品にされる。また、場合により、前記(D)アニール工程を経たシートは(F)切断工程で所望の寸法に裁断され、スタッカー等に載置され、製品として出荷される。この巻取り工程または切断工程の前に、シートの両端はカッター等により切断される。この理由はシート両端に厚みムラが生じるためであり、切断されたシート片は原料として再利用される。 【0015】 本発明で使用するシート成形装置の成形速度(シート引取速度)は特に制限はないが、ベルト法成形法なので従来の速度より大幅に高速化が可能であり、好ましくは3〜30m/分である。 【0016】 このような工程を経て得られるシートは、(a)厚み0.05〜2.0mm、(b)透明性(クラリティー)が65%以上、(c)透明性(ヘイズ)が15%以下、(d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2の性状を満足することが肝要である。 すなわち、シート厚みが、(a)0.05〜2.0mmの範囲で(b)透明性(クラリティー)が65%以上、(c)透明性(ヘイズ)が15%以下、(d)曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2の性状を満足する本発明のシートは、従来法によるシートに比較して、非常に優位性を有するものである。 上記シートの厚みは0.05mm〜2mm、好ましくは、0.07〜1.8mm、さらに好ましくは0.1〜1.5mmの範囲で選択される。シートの厚みが0.05mm未満ではフイルムとなり、シートとしての機能が発揮されない。また、シートの厚みが2.0mmを超えるとシートが厚くなり、要望するシートの透明性が向上しない虞が生じる。 また、本発明シートの特徴は光学特性に優れており、透明性(クラリティー)は65%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。 透明性(ヘイズ)は15%以下、好ましくは10%以下、さらには7%以下が好ましい。 本発明のシートは機械特性、特にシートが硬くて腰があるのが特徴であり、曲げこわさが8000〜25000Kgf/cm2、好ましくは10000〜22000Kgf/cm2の範囲である。 この光学特性、機械特性は上述の本発明で規定する組成物とシート製造工程で初めて得られるものである。 【0017】 本発明のシートの他の特徴は、前記(B)キャストロールと無端ベルトの間で挟圧する第1冷却工程と(C)冷却媒体で急冷する第2次冷却工程で(e)スキン層の厚みが20%以下、(f)コアー層の構造を微細結晶構造に形成せしめることにより、透明性を保持しながら、機械的強度に優れるシートとすることができる。 すなわち、図2においてTダイ1から押し出された膜状の溶融樹脂2を鏡面仕上げのされたキャストロール3と該ロールに沿って円弧状に形成された無端ベルト4との間の円弧状挟圧部8で挟圧して、膜状の溶融樹脂2の両面に表面平滑なスキン層を形成させる。該各スキン層の厚さは全シート厚さの20%以下、特に10%以下がさらに好ましく、20%を超えるとシートの透明性が低下する虞を生じる。一方、シートのコアー層は円弧状挟圧部、および円弧状挟圧部出口近傍では完全には冷却固化しない状態で、(C)冷却媒体で急冷することによりコアー層を微細結晶構造とする。このような微細結晶構造は、透明性を阻害する球晶がないのが特徴である。本発明に使用する組成物以外、例えば造核剤無添加のポリプロピレン系樹脂を使用した場合、このコアー層は微細結晶構造ではなく、大きいものでは10μm程度の球晶がありシートの透明性は悪くなる。 該シートのスキン層およびコアー層は偏光光学顕微鏡で200倍程度で観察できる。 また、コアー層の微細結晶構造あるいは球晶は電子顕微鏡で3500倍程度で観察できる。 【0018】 【実施例】 以下、本発明を実施例、比較例で説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 【0019】 実施例1〜14および比較例1〜7 図1に示す装置にてポリプロピレン樹脂シートをそれぞれ製造した。使用したポリプロピレン系樹脂組成物およびシート製造条件は、各々表1〜6に示す通りである。またシート成形装置仕様は次の通りである。 [シート成形装置仕様] ▲1▼押出機スクリュー:直径=90mm、L/D=36 ▲2▼Tダイ:面長=1250mm、ダイリップ=1〜3mm ▲3▼金属製無端ベルト:SUS製、厚み0.8mm、表面粗度0.3mμ ▲4▼キャストロール:表面粗度0.3mμ ▲5▼冷却媒体で急冷工程:水槽(長さ4m、温度15℃) ▲6▼アニール工程:金属製ロール(100℃) 上記条件で得られたシートを評価した各物性を表1〜6に示した。なお、物性値は以下の試験法および測定法によった。 [試験法および測定法] ▲1▼メルトフローレート(MFR):JIS K 6758に準拠、230℃、2.16Kg荷重 ▲2▼透明性(クラリティー):(株)村上色彩研究所のクラリティーメーターTM-1D型によるシートの透過光量測定 ▲3▼透明性(ヘイズ):ASTM D 1003-61準拠 ▲4▼曲げこわさ:JIS K 7106準拠 ▲5▼熱変形温度:JIS K 7207準拠 ▲6▼軟化温度:JIS K 6758準拠 比較例8 図1に記載された金属製無端ベルト法シート成形装置を使用しないで、通常のエアーナイフ法にてシート成形した。すなわち、Tダイから溶融状態で押出された膜状の樹脂を上記実施例で使用したキャストロールと同じタイプのロールに円弧状に沿わせ、キャストロール反対側からエアーを吹き付けた。 使用した樹脂、シート成形条件および得られたシートの物性を表6に示した。 【0020】 【表1】 【0021】 【表2】 【0022】 【表3】 【0023】 【表4】 【0024】 【表5】 【0025】 【表6】 【0026】 【発明の効果】 本発明では、特定のポリプロピレン樹脂組成物と特定のシート成形方法を使用することにより、厚肉シートでも、光学特性(透明性、光沢性)、外観特性(表面平滑性)および機械特性が格段に優れるシートが得られる。また、本発明のシートの製造方法では、厚肉シートでも、高速で、格段に優れた光学特性と機械特性を有するシートが得られる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明のシートを製造するための製造工程概略図。 【図2】金属製無端ベルト法シート成形装置の第1冷却工程の拡大図。 【符号の説明】 1:Tダイ、2:溶融樹脂、3:キャストロール、4:無端ベルト、5,6,7:ロール、8:円弧状挾圧部、9:シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-07-29 |
出願番号 | 特願平6-127139 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(C08J)
P 1 651・ 531- YA (C08J) P 1 651・ 121- YA (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小野寺 務 |
特許庁審判長 |
宮坂 初男 |
特許庁審判官 |
藤原 浩子 佐野 整博 |
登録日 | 2003-02-28 |
登録番号 | 特許第3402754号(P3402754) |
権利者 | 中央化学株式会社 サンアロマー株式会社 |
発明の名称 | 透明ポリプロピレン系樹脂製シートおよびその製造方法 |
代理人 | 伊東 哲也 |
代理人 | 伊東 哲也 |
代理人 | 中山 寛二 |
代理人 | 伊東 哲也 |
代理人 | 木下 実三 |
代理人 | 石崎 剛 |