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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特174条1項 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 発明同一 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1125799 |
異議申立番号 | 異議2003-73539 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-25 |
確定日 | 2005-08-29 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3457132号「フィルター」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3457132号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第3457132号に係る発明は、平成8年11月14日に特許出願され、平成15年8月1日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 金房征人(以下、「申立人1」という。)及び東洋紡績株式会社(以下、「申立人2」という。)より特許異議の申立がなされ、平成16年8月11日付で取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年10月19日に意見書及び訂正請求書が提出され、平成16年11月26日に特許権者より上申書が提出され、平成17年2月28日に申立人2より上申書が提出され、平成17年7月27日付で取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年8月4日に先の訂正請求が取り下げられると共に、意見書及び訂正請求書が提出されたものである。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 ア 訂正事項a 請求項1を削除する。 イ 訂正事項b 請求項2の「透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤が0.001〜0.5重量部配合されていることを特徴とする請求項1に記載のフィルター。」を、「透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成り、色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であることを特徴とする、近赤外線遮断性に優れたフィルター。」と訂正し、請求項1とする。 ウ 訂正事項c 請求項3〜7の「【請求項3】透明樹脂がポリカーボネート樹脂又はポリ(メタ)アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項4】窓ガラス用であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルター。 【請求項5】退色保護シート用であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルター。 【請求項6】画像表示装置用であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフィルター。 【請求項7】厚さが10μm〜5mmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のフィルター。」を、 「【請求項2】透明樹脂がポリカーボネート樹脂又はポリ(メタ)アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1記載のフィルター。 【請求項3】窓ガラス用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項4】退色保護シート用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項5】画像表示装置用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項6】厚さが10μm〜5mmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のフィルター。」と訂正する。 エ 訂正事項d 明細書の段落【0001】の「本発明は近赤外線を吸収する近赤外線吸収性透明樹脂組成物に関する。…近赤外線吸収性透明樹脂組成物である。」を、「本発明は近赤外線を吸収する近赤外線吸収性透明樹脂組成物のフィルターに関する。…近赤外線吸収性透明樹脂組成物のフィルターである。」と訂正する。 オ 訂正事項e 明細書の段落【0003】の「近赤外線吸収性能に優れた近赤外線吸収透明樹脂組成物を提供することである。」を、「近赤外線吸収性能に優れた近赤外線吸収透明樹脂組成物のフィルターを提供することである。」と訂正する。 カ 訂正事項f 明細書の段落【0004】の「本発明に係る近赤外線遮断性に優れたフィルターは、透明樹脂に近赤外線吸収剤を配合して成り、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であることを特徴とするものである。その代表的なものは、透明樹脂100重量部に下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤が0.001〜0.5重量部配合されている。」を、「本発明に係る近赤外線遮断性に優れたフィルターは、透明樹脂100重量部に下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成り、色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、かつ400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であることを特徴とするものである。」と訂正する。 キ 訂正事項g 明細書の段落【0047】の「また、該組成物は」を、「また、該組成物のフィルターは」と訂正する。 ク 訂正事項h 明細書の段落【0058】の「本発明の少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を配合した透明性樹脂は」を、「本発明の少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を配合した透明性樹脂組成物のフィルターは」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項bは、訂正事項aに伴い、訂正前の請求項2に削除された訂正前の請求項1の構成を取り込み、さらに、明細書の段落【0003】の「本発明は、色相が透明なグレーまたは透明な茶色で、…近赤外線吸収透明樹脂組成物」、及び、同【0047】の「本発明の近赤外線吸収透明樹脂成形体組成物は、通常色相が透明なグレー又は透明な茶色」との記載に基づき、「色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、」との文言を追加してフィルターを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項cは、訂正事項aに伴い、請求項の項番及び引用される請求項を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項d〜hは、訂正後の請求項1に係る発明がフィルターに係るものであることによる訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 また、いずれの訂正事項も、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (3)むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3 特許異議申立についての判断 (1)特許異議申立の理由及び取消理由通知の概要 ア 申立人1の特許異議申立の理由の概要 申立人1は、訂正前の請求項1、3及び6に係る特許発明は下記甲第1号証に係る出願の願書に添付された明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1、3、4、6及び7に係る特許発明は下記甲第2〜4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、上記各発明に係る特許はいずれも特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:特願平7-304604号(特開平9-145919号) 甲第2号証:特開平6-166708号公報 甲第3号証:特開平8-127763号公報 甲第4号証:特開平8-179112号公報 イ 申立人2の特許異議申立の理由の概要 申立人2は、特許権者が平成15年6月26日付でした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、本件特許は特許法第113条第1項第1号に該当し、取り消すべきものであり、本件特許明細書は、特許法第36条第4項または同第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本件特許は特許法第113条第1項第4号に該当し、取り消すべきものであり、訂正前の請求項1、3及び7に係る特許発明は、下記甲第1または2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、訂正前の請求項1及び3〜7に係る特許発明は、下記甲第1または2号証に記載された発明或いは下記甲第1または2号証と下記甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、訂正前の請求項1、3、6及び7に係る特許発明は、下記甲第4または6号証に係る出願の願書に添付された明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、上記各発明に係る特許はいずれも特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:特公昭62-54143号公報 甲第2号証:特開平6-118228号公報 甲第3号証:「工業材料1996年10月号」平成8年10月1日発行、 第44巻、第11号、15頁 甲第4号証:特願平8-114821号の願書に添付された明細書 甲第6号証:特願平8-261356号の願書に添付された明細書 ウ 平成16年8月11日付取消理由通知の概要 当審において平成16年8月11日付で概要以下のとおりの取消理由を通知した。 「1)本件出願に関し、本件特許権者が平成15年6月26日付でした手続補正は願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、特許法第17条の2第3項に違反して特許されたものである。 2)本件出願は、明細書の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件に違反して特許されたものである。」 エ 平成17年7月27日付取消理由通知の概要 当審において平成17年7月27日付で概要以下のとおりの取消理由を通知した。 「本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 (2)本件の訂正後の請求項1〜6に係る発明 上記のとおり訂正が認められるので、訂正後の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。なお、本件明細書中○内に数字で記載されたものは、以後<>内に数字で記載する。 「【請求項1】透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成り、色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であることを特徴とする、近赤外線遮断性に優れたフィルター。 <1>含フッ素フタロシアニン構造を有する化合物 <2>2個のベンゾピラン構造を有する化合物 <3>2個のキノリン構造を有する化合物 【請求項2】透明樹脂がポリカーボネート樹脂又はポリ(メタ)アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1記載のフィルター。 【請求項3】窓ガラス用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項4】退色保護シート用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項5】画像表示装置用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項6】厚さが10μm〜5mmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のフィルター。」 (3)甲各号証及び参考資料に記載された事項 ア 申立人1の甲第1号証 「【請求項1】プラズマ表示パネルと該プラズマ表示パネルの前面に配置されたフィルタ板とを有するプラズマ表示装置において、 前記フィルタ板は近赤外領域の波長の赤外線を透過しにくくし、その他の光を透過可能としたものであることを特徴とするプラズマ表示装置。 【請求項4】上記フィルタ板は波長領域が800nm〜1100nmの近赤外線を透過しにくくするとともに、380nm〜780nmの可視光線の透過率の最小値を60.0±5.0%としたものであることを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。 【請求項5】上記フィルタ板は波長領域が800nm〜1100nmの近赤外線の透過率の最大値を3%としたものであることを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。 【請求項6】上記フィルタ板は近赤外領域の赤外線を透過しにくくし、可視光線を所要の透過率で透過するアクリル樹脂で構成したことを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。 【請求項8】上記フィルタ板は近赤外領域の赤外線を透過しにくくし、可視光線を所要の透過率で透過するポリカーボネイト樹脂で構成したことを特徴とする請求項1記載のプラズマ表示装置。」(請求項1、4〜6、8、摘示事項a) 「本発明は…、近赤外線の外部への放射が少なく、かつ、広い視野角において画像が高画質に表示できるプラズマ表示装置を提供することを目的とする。」(段落【0006】、摘示事項b) 「先ず、図2のフィルタ板の透過・減衰特性を説明する。透過域は可視光範囲を包含する波長が200〜約780nmで、透過率の最低値は60±5%である。阻止域は波長が800〜約1100nmで、透過率の最大値は3%である。 PDPの本体1が出力した画像を表示する可視光線3はフィルタ板2によって設定されている所要の透過率で透過する。例えば、図2に示すように、可視光線(波長:380〜780nm)の全ての波長範囲で設定された透過率は60±5%以上で均一な透過を行う。一方、前記PDPの本体1が放射した近赤外線4については、図2の阻止域に示すように、同フィルタ板2の設定された透過率は最大3%である。従って、近赤外線4を透過エネルギーが3%以下となるように透過(減衰)する。」(段落【0010】、摘示事項c) 「図4は、本発明によるプラズマ表示装置のフィルタ板の断面図であり、…(ロ)は基材内部に所要部材を均一化して分散させた構造を…示す。 …また、図4(ロ)は、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの基材11に、電磁波を吸収して上記の所要の透過特性…を実現する部材12を、例えば、均一に分散させる方法、又は、混合する方法…により構成する。」(段落【0012】、摘示事項d) イ 申立人1の甲第2号証 「【請求項1】メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチル50重量%以上とこれと共重合可能な少なくとも一種の単量体50重量%以下とからなる単量体混合物100重量部、アミニウム系赤外線吸収染料0.01〜5重量部およびパーオキシエステル系過酸化物触媒0.01〜5重量部との重合硬化物からなる赤外線吸収板。」(請求項1、摘示事項e) 「このようにして得られた赤外線吸収板は光学フィルターや熱線遮蔽板として用いることができ、例えば熱線吸収グレージング材料、肉眼保護フィルター、半導体受光素子用赤外吸収フィルター等に好適である。」(段落【0012】、摘示事項f) 「実施例5 メタクリル酸メチル100部にIRG-002を0.055部を添加溶解した。これにTinuvin Pを0.03部、Zelec UNを0.2部、t-ブチルパーオキシイソブチレートを0.1部添加混合した後、実施例1と同様にして重合を行い板厚3mmの樹脂板を得た。 この樹脂板の透過スペクトルを図3中のDに示す。」(段落【0017】〜【0018】、摘示事項g) 「 」(図3、摘示事項h) ウ 申立人1の甲第3号証 「【請求項1】一般式(1)で表されるビスチオウレア化合物と銅化合物から成る近赤外線吸収剤用組成物。… 【請求項6】(メタ)アクリル酸系樹脂 100重量部に対して…ビスチオウレア化合物と銅化合物を0.05〜5重量部含有している近赤外線吸収性(メタ)アクリル酸系樹脂組成物。 【請求項7】ポリカ-ボネ-ト系樹脂 100重量部に対して…ビスチオウレア化合物と銅化合物を0.05〜5重量部含有している近赤外線吸収性ポリカ-ボネ-ト系樹脂組成物。 【請求項9】請求項5、請求項6、請求項7、あるいは請求項8記載の近赤外線吸収性樹脂組成物の成形体。」(請求項1、6、7及び9、摘示事項i) 「本発明の近赤外線吸収性樹脂(あるいはその成形体)は、熱線吸収性グレ-ジング材料として有用である。例えば、…外窓材など…に用いれば、…。」(段落【0099】、摘示事項j) 「本発明の…近赤外線吸収性樹脂(あるいはその成形体)は、光学材料(例えば、近赤外線カットフィルタ-など)…に利用することができ…。」(段落【0101】、摘示事項k) エ 申立人1の甲第4号証 「【請求項1】下記一般式(1)(化1)で表されるフタロシアニン色素。 … 【請求項3】請求項1又は2に記載の色素を含有してなるフィルター用組成物。」(請求項1及び3、摘示事項l) 「本発明は、液晶テレビなどの表示素子…に用いる色分解フィルターに重要な役割を果たすフタロシアニン色素に関する。」(段落【0001】、摘示事項m) 「本発明者らは、…置換基としてα位にフッ素を含むアルキル基を有するビスフェノール基を導入したフタロシアニン色素が、溶剤およびバインダー樹脂への溶解性に優れ、この色素を使用することにより、透過率特性、耐熱性、耐光性等の耐久性にも優れたカラーフィルターが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0004】、摘示事項n) オ 申立人2の甲第1号証 「本発明者らは…、可視部の光の透過を阻止することなく700〜1100nmの近赤外部の全域にわたつて光透過率25%以下の吸収を有し、…SPD用近赤外線吸収プラスチツクフイルムを提供するべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するにいたつた。」(2頁4欄13〜20行、摘示事項o) 「本発明の近赤外線吸収プラスチツクフイルムにあつては、吸収極大の異なる2種以上の近赤外線吸収剤を併用することにより700〜1100nmの近赤外部の全域の光を吸収するようにされている。」(3頁6欄7〜10行、摘示事項p) 「本発明の近赤外線吸収プラスチツクフイルムは、可視部の光に透明で、かつ機械的にすぐれたフイルムを形成するプラスチツク、たとえばポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの合成樹脂を溶解した溶液に…化合物(すなわち近赤外線吸収剤)…などを溶解させ、常法によりフイルム化する」(4頁7欄8〜18行、摘示事項q) 「実施例 2 実施例1で調製したポリメチルメタクリレート溶液に、第1表に示す化合物(A)0.15gおよび化合物(F)0.5gを加えて溶解させた。この混合溶液を用い、かつ実施例1と同様にして厚さ0.05mmの近赤外線を吸収するポリアクリルフイルム〔以下、フイルムBという〕を製造した。 えられたフイルムBの500〜1100nmの波長領域における光透過率を実施例1と同様にして測定した。その測定結果の光透過曲線を第4図に示す。」(5頁9欄13〜22行、摘示事項r) 「 」(第4図、摘示事項s) カ 申立人2の甲第2号証 「本発明の光学フィルターは、特定のリン酸基含有単量体および共重合性単量体よりなる混合単量体の共重合体中に、銅塩を主成分とする金属塩が添加含有されてなる合成樹脂製の光学フィルターである。」(段落【0009】、摘示事項s) 「これらの共重合性単量体の具体例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、…ペンタエリトリットトリメタクリレート、ペンタエリトリットテトラメタクリレート等の多官能アクリレート…を挙げることができる。これらの化合物は、単独で、或いは2種以上混合して共重合性単量体を構成してもよい。」(段落【0016】、摘示事項t) 「本発明の光学フィルターは、混合単量体を共重合して得られる上記の共重合体と、銅塩を主成分とする金属塩とを含有してなるものである。この金属塩は、前記共重合体中に含有されたリン酸基との相互作用により近赤外領域の波長光を効率よく吸収する作用を有するものである。」(段落【0019】、摘示事項u) 「〔実施例1〕…特定のリン酸基含有単量体10部と、…特定のリン酸基含有単量体10部と、メチルメタクリレート58.5部と、ジエチレングリコールジメタクリレート20部と、α-メチルスチレン1.5部とを良く混合して混合単量体を調製した。この混合単量体に、無水安息香酸銅14部(混合単量体100部に対する銅金属の含有量が2.9部)を添加し、60℃で攪拌混合することによって十分に溶解させ、無水安息香酸銅が混合単量体中に溶解されてなる単量体混合物を得た。 …以上のようにして調製された単量体混合物に、t-ブチルパーオキシピバレート2.0部を添加し、45℃で16時間、60℃で8時間、90℃で3時間と順次異なる温度で加熱して注型重合を行うことにより、銅塩が含有された架橋共重合体よりなる光学フィルター材料を得た。この光学フィルター材料を切削して厚み1mmの板状体を作製し、次いで、表面研磨を行って本発明の光学フィルターを製造した。 …この光学フィルターについて、分光光度計を用いて分光透過率曲線を測定した。結果を図1に示す。図1の実線1に示すように、本実施例の光学フィルターは、近赤外領域(700〜1000nm)の波長光を効率よく吸収していることが理解される。… 〔実施例2〕…特定のリン酸基含有単量体15部と、…特定のリン酸基含有単量体15部と、メチルメタクリレート45部と、1,4ブタンジオールジアクリレート20部と、メタクリル酸5部とを良く混合して混合単量体を調製した。この混合単量体に、無水酢酸銅15部(混合単量体100部に対する銅金属の含有量が5.3部)と、シュウ酸鉄(II)2水和物(FeC2O4・2H2O)1部(全金属に対する鉄の含有割合が5.4重量%)とを添加し、60℃で攪拌混合することによって十分に溶解させ、無水酢酸銅およびシュウ酸鉄が混合単量体中に溶解されてなる単量体混合物を得た。以上のようにして調製された単量体混合物を用い、実施例1と同様にして…本発明の光学フィルターを製造した。 …この光学フィルターについて、分光光度計を用いて分光透過率曲線を測定した。結果を図1に示す。図1の破線2に示すように、本実施例の光学フィルターは、近赤外領域(700〜1000nm)の波長光を効率よく吸収していることが理解される。」(段落【0038】〜【0044】、摘示事項v) 「 」(図1、摘示事項w) キ 申立人2の甲第3号証 「近紫外線カットフィルター(UCF…)に続き,CCDカメラ向け,プラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)用などの…. 同社が開発したプラスチック製光学フィルターは,リン酸基をもつアクリル系樹脂中に,金属(銅)イオンを分散させることにより特定の波長の光をカットする機能をもたせたもの.」(15頁左欄6〜17行、摘示事項x) 「それに続くPDP向けのフィルターは,UCFの近赤外線カット機能を用いてパネルから放出される近赤外線を抑え,周囲の電子機器の誤作動問題を解決する.」(15頁中欄13行〜右欄2行、摘示事項y) ク 申立人2の甲第4号証 「【請求項1】450nmから650nmの平均光線透過率が50%以上、800nmから1000nmの平均光線透過率が30%以下であるディスプレイ前面板。」(請求項1、摘示事項z) 「本発明の前面板はプラズマディスプレイ、ELディスプレイ、液晶ディスプレイなどのディスプレイ装置の前面に設置するフィルムまたはシート状物である。 前面板の…厚みも任意に選択できるが、概ね0.01〜10mm程度である。 前面板の450nmから650nmの平均光線透過率は50%以上、好ましくは60%以上である。…800nmから1000nmの平均光線透過率は30%以下、好ましくは20%以下である。… 本発明の前面板の基材となるものは、透明樹脂…からなる。その形状としてはフィルムまたはシート状物である。なかでも透明樹脂が耐衝撃性に優れ、好ましい。 透明樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂…である。中でも光透過性、耐候性などの点からアクリル系樹脂が適している。… 本発明の前面板は、基材そのものが近赤外吸収能を有している樹脂組成物から形成されていても良いし、近赤外吸収能を有さない基材に近赤外吸収能を有する樹脂組成物からなる層を形成させても良い。 …不飽和二重結合を有する単量体、リン原子含有単量体を共重合してなる共重合体、銅原子を含有する化合物を含有する樹脂組成物が可視光域の透過率、また前面板にした際の強度、耐久性に優れており好ましい。」(段落【0006】〜【0010】、摘示事項aa) ケ 申立人2の甲第5号証 申立人2の甲第5号証には、申立人2の甲第4号証に係る出願が、申立人2の甲第5号証に係る出願の優先権主張の基礎となる出願であることが記載されている。 コ 申立人2の甲第6号証 「本発明は、ディスプレーからでる近赤外線光(800〜1000nm)をカットし、周辺電子機器の誤動作を防止するフィルターに関する。 更に詳しくは、近赤外線吸収剤…を含有し、可視光線透過率が高く、かつ近赤外線光のカット効率の高いディスプレー用フィルターに関する。」(段落【0001】、摘示事項ab) 「本発明者らは、…ある種のジチオール錯体化合物を用いることにより、…近赤外線光を効率よくカットし、しかも、ディスプレーの鮮明度を阻害しない高い可視光線透過率を持つ実用的なディスプレー用フィルターができることを見出して、本発明を完成するに至った。」(段落【0004】、摘示事項ac) 「本発明のディスプレー用フィルターは、前記のジチオール錯体化合物を基材に含有してなるもので、…基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、…が挙げられる。 上記ジチオール錯体化合物を用いて、本願のディスプレー用フィルターを作製する方法としては、… (1)樹脂にジチオール化合物を混練し、加熱成形して樹脂板或いはフィルムを作製する方法、 … まず、樹脂にジチオール化合物を混練し、加熱成形する(1)の方法において、樹脂材料としては、樹脂板または樹脂フィルムにした場合にできるだけ透明性の高いものが好ましく、具体例として、…ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、…ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、…ポリカーボネート、…を挙げることが出来るが、これらの樹脂に限定されるものではない。」(段落【0017】〜【0018】、摘示事項ad) 「フィルターの厚みは…通常0.1〜10mm程度である。…フィルターの可視光線の透過率は高い程良く、少なくとも40%以上、好ましくは50%以上必要である。 また、近赤外線光のカット領域は800〜900nm、好ましくは、800〜1000nmであり、その領域の平均光線透過率が10%以下になるように設計する。」(段落【0022】〜【0023】、摘示事項ae) サ 申立人2の甲第7号証 申立人2の甲第7号証には、申立人2の甲第6号証に係る出願が、申立人2の甲第7号証に係る出願の優先権主張の基礎となる出願であることが記載されている。 シ 申立人2の参考証1 申立人2の参考証1には、UCFが近赤外線カットフィルターであることが記載されている。(摘示事項af) ス 申立人2の参考証2 申立人2の参考証2には、摘示事項sの図を基に、申立人2の甲第1号証の実施例2は、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であると読み取れることが記載されている。(摘示事項ag) セ 申立人2の参考証3 申立人2の参考証3には、摘示事項wの図を基に、申立人2の甲第2号証の実施例1は、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であると読み取れることが記載されている。(摘示事項ah) ソ 申立人2の参考証4 申立人2の参考証4には、摘示事項wの図を基に、申立人2の甲第2号証の実施例2は、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上であり、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であると読み取れることが記載されている。(摘示事項ah) (4)特許法第17条の2違反について 本件発明1〜6は、上記3(2)に記載されたとおりのものであり、これは上記2(2)で述べたとおり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 よって、本件出願における特許法第17条の2違反は解消した。 (5)特許法第36条違反について ア 近赤外線吸収剤の種類や量について 申立人2は、「上記構成要件Aでは、近赤外線吸収剤の種類や量…については一切特定されておらず、例えば、どのような種類の近赤外線吸収剤を、どの程度の量比で配合すれば良いかは全く不明である。」(申立人2の特許異議申立書(以下、「申立書2」という。)15頁(4-2-5)(I))と主張する。しかし、本件発明1〜6は、上記3(2)に記載されたとおりのもの、すなわち、近赤外線吸収剤の種類や量が特定された。よって、この主張は成り立たない。 イ 透過率の規定について 申立人2は、「『透過率』とは、各波長の範囲における『平均値』を指すのか、『絶対値』を指すのかが不明であり、特許を受けようとする発明が明確でない。」(申立書2 16頁(4-2-5)(II))と主張する。しかし、本件発明の実施例1において、近赤外線透過率が「平均透過率」として示されており、可視光線透過率は「平均値」を指すのか、「絶対値」を指すのかは不明であるものの、近赤外線透過率を平均透過率で示した記載と並んで記載されていることからみて、可視光線透過率も「平均透過率」で求められたものと解するのが相当である。よって、この主張は成り立たない。 ウ フィルターの色相について 申立人2は、「そもそも『色相』には、『透明なグレー』や『透明な茶色』というものは存在しません。…その上、『透明な』という要件が、どの程度の彩度で、どの程度の明度を意味しているのか、本件特許明細書を精査しても全く記載されていません。従って、今回の訂正で追加された『透明な』という要件は、本件特許発明の外延を不明確にしています。」(申立人2の上申書6頁3)<1>(○内に1と記載されているが、<1>と記載する。以下同じ。)b))と主張する。しかし、本件発明1〜6は、上記3(2)に記載されたとおりのもの、すなわち、近赤外線吸収剤の種類や量、並びに、可視光線透過率や近赤外線透過率が特定されたものであることからみて、本件発明1〜6に係るフィルターの構成は不明りょうなものということはできず、「色相」には「透明なグレー」や「透明な茶色」というものは存在しないとしても、これをもって、本件特許発明の外延が不明確であるということはできない。よって、この主張は成り立たない。 エ 本件発明の厚みと近赤外線吸収剤、可視光線透過率、近赤外線透過率の関係について 申立人2は、「同一組成物からなるシート状成形体であっても、該シート状成形体の厚さや近赤外線吸収剤の配合量が変化すれば、厚さ方向に見て該吸収剤の存在量や存在比率が変化しますから、該吸収剤の存在に依存する近赤外線透過率や可視光線透過率が変化することは、当然予測されるところであります。…また、本件特許明細書には、シート状成形体の厚さや近赤外線吸収剤の配合量を変えたときに、本件請求項1で規定する夫々の透過率を達成させるための具体的な手段について全く開示されていません。即ち、シート状成形体の厚みと近赤外線吸収剤の配合量をどのようなバランスで調整すれば、近赤外線透過率と可視光線透過率を適切に制御できるかは本件特許明細書に一切開示も示唆もされていません。」(申立人2の上申書)7〜8頁3)<1>c))と主張する。しかし、本件発明1〜6は、上記3(2)に記載されたとおりのもの、すなわち、近赤外線吸収剤の種類や量、並びに、可視光線透過率や近赤外線透過率が特定されたものであり、さらに本件発明6は、併せてフィルターの厚みが特定されたものであり、この特定された数値群を満たすものについてのみ本件発明を構成しうるものであり、この数値群の条件を全て満たすことができないとする合理的理由は存在しないので、本件発明の厚みと近赤外線吸収剤、可視光線透過率、近赤外線透過率の関係は、本件発明を実施する際に当業者が適宜調整しうることと認められる。よって、この主張は成り立たない。 オ 平成17年7月27日付取消理由通知での指摘事項について 当審において平成17年7月27日付取消理由通知にて指摘した事項については、特許権者が平成17年8月4日付でした訂正請求により解消した。 カ むすび 本件訂正明細書において、上記のとおり指摘した点の他に、記載不備の点は見いだせない。 したがって、本件出願において、特許法第36条違反が存在するとはいえない。 (6)特許法第29条違反について ア 本件発明1 本件発明1は、上記3(2)に記載されたとおりのもの、すなわち、訂正前の請求項2に係る発明に、「色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、」との文言が追加されたものである。これに対し、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人1の甲第2〜4号証及び申立人2の甲第1〜3号証のいずれにも、「透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成るフィルター。 <1>含フッ素フタロシアニン構造を有する化合物 <2>2個のベンゾピラン構造を有する化合物 <3>2個のキノリン構造を有する化合物」との構成は記載されておらず、示唆もない。また、該甲各号証の他に、上記の近赤外線吸収剤のうち少なくとも2種類を選択して透明樹脂に配合し、フィルターを構成することが公知であったことを示す証拠も存在しない。 このため、本件発明1は、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人2の甲第1または2号証に記載された発明とはいえず、また、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人1の甲第2〜4号証及び申立人2の甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものとはいえない。 イ 本件発明2〜6 本件発明2〜6は、本件発明1のフィルターに関し、その材料である樹脂を限定したもの(本件発明2)、用途を限定したもの(本件発明3〜5)、厚さを限定したもの(本件発明6)である。そして、3(6)アで検討したとおり、本件発明1は、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人2の甲第1または2号証に記載された発明とはいえず、また、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人1及び2が提示した甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものとはいえない以上、本件発明2〜6は、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人2の甲第1または2号証に記載された発明とはいえず、また、申立人2の参考証1〜4を参酌しても、申立人1の甲第2〜4号証及び申立人2の甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものとはいえない。 (7)特許法第29条の2違反について ア 本件発明1 本件発明1は、上記3(2)に記載されたとおりのもの、すなわち、訂正前の請求項2に係る発明に、「色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、」との構成が追加されたものである。これに対し、申立人1の甲第1号証並びに申立人2の甲第4及び6号証のいずれにも、「透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成るフィルター。 <1>含フッ素フタロシアニン構造を有する化合物 <2>2個のベンゾピラン構造を有する化合物 <3>2個のキノリン構造を有する化合物」との構成は記載されておらず、示唆もない。 このため、本件発明1は、申立人1の甲第1号証並びに申立人2の甲第4及び6号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 イ 本件発明2〜6 本件発明2〜6は、本件発明1のフィルターに関し、その材料である樹脂を限定したもの(本件発明2)、用途を限定したもの(本件発明3〜5)、厚さを限定したもの(本件発明6)である。そして、3(7)アで検討したとおり、本件発明1は、申立人1の甲第1号証並びに申立人2の甲第4及び6号証に記載された発明と同一であるとはいえない以上、本件発明2〜6は、申立人1の甲第1号証並びに申立人2の甲第4及び6号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 4 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては、本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜6についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 フィルター (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成り、色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、かつ400〜700nmの可視光線透過率が40%以上、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であることを特徴とする、近赤外線遮断性に優れたフィルター。 ▲1▼含フッ素フタロシアニン構造を有する化合物 ▲2▼2個のベンゾピラン構造を有する化合物 ▲3▼2個のキノリン構造を有する化合物 【請求項2】透明樹脂がポリカーボネート樹脂又はポリ(メタ)アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1記載のフィルター。 【請求項3】窓ガラス用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項4】退色保護シート用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項5】画像表示装置用であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター。 【請求項6】厚さが10μm〜5mmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のフィルター。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は近赤外線を吸収する近赤外線吸収性透明樹脂組成物のフィルターに関する。詳しくは、近赤外線吸収能、可視光線透過性に優れていることより、近赤外線を遮断するフィルター、具体的には窓ガラス、退色保護シート、画像表示装置のフィルター等に好適に使用することができる近赤外線吸収性透明樹脂組成物のフィルターである。 【0002】 【従来の技術】透明樹脂に近赤外線吸収能を持つ物質を配合してなる近赤外線吸収透明樹脂組成物に関する発明は種々のものが知られている。例えば、特開平6-240146号公報には、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂等の透明樹脂にフタロシアニン化合物0.0005〜0.1重量%配合した組成物が知られているが、該組成物はその最大吸収波長が800〜950nmの波長領域の近赤外線しか吸収能がなく、950〜1200nmの波長の近赤外線の吸収は期待できない。また特開平6-256541号公報には、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の透明樹脂にアントラキノン系化合物を0.01〜10重量%配合した組成物から成る成形フィルムが700〜1200nmの近赤外線の吸収について記載されているが、700〜800nm以外の近赤外線の吸収においては吸収性能が不十分であった。更に、特開平7-179656号公報には、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン等の透明樹脂に、硫化鉛、チオ尿素誘導体を配合した組成物が知られている。該組成物は幅広い近赤外線波長域において吸収することができるが、その成形体は透明な青色を呈するため、用途によっては色相及びコントラストに悪影響を与える。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、色相が透明なグレーまたは透明な茶色で、かつ可視光線透過性に優れていると共に、800〜1100nmの近赤外線吸収性能に優れた近赤外線吸収透明樹脂組成物のフィルターを提供することである。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明に係る近赤外線遮断性に優れたフィルターは、透明樹脂100重量部に、下記から選ばれた少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を0.001〜0.5重量部配合して成り、色相が透明なグレーまたは透明な茶色であり、かつ400〜700nmの可視光線透過率が40%以上、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下であることを特徴とするものである。 ▲1▼含フッ素フタロシアニン構造を有する化合物 ▲2▼2個のベンゾピラン構造を有する化合物 ▲3▼2個のキノリン構造を有する化合物 【0005】 【発明の実施の形態】 [I]構成成分 (1)透明樹脂 本発明の近赤外線吸収性透明樹脂組成物を構成する透明樹脂としては、実質的に透明であって、吸収、散乱が大きくない樹脂であれば良く、特に制限はないが、その具体的なものとしては、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等を挙げることができる。 (a)ポリカーボネート系樹脂 上記ポリカーボネート系樹脂としては、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法または溶融法で反応させて製造されるものである。2価フェノールの代表的な例として以下のものが挙げられる。2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等である。好ましい2価のフェノールはビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、特にビスフェノールを主成分とするものである。 【0006】(b)ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂 上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂としては、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂であり、具体的にはメタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを50%以上含む重合性不飽和単量体混合物の重合体または共重合体である。メタクリル酸メチルと共重合可能な重合性不飽和単量体としては、例えば以下のものが挙げられる。アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル(アクリル酸メチルあるいはメタクリル酸メチルの意味。以下同じ)、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロキシフルフリール、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレートなどである。 【0007】(c)脂環式ポリオレフィン系樹脂 上記脂環式ポリオレフィン系樹脂としては、下記式(I)または、下記式(II)で表される環状オレフィン成分を開環重合してなる重合体、共重合体およびその水素添加物、および/または下記式(I)または、下記式(II)で表される環状オレフィン成分とエチレン成分とを付加重合してなる共重合体である。 【0008】 【化1】 【0009】上記式(1)で示される環状オレフィンとしては、ピシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン誘導体、テトラシクロ[4,4,0,13.5,17.10]-3-ドデセン誘導体、ヘキサシクロ[6,6,1,13.6,110.13,02.7,09.14]-4-ヘプタデンセン誘導体、オクタシクロ[8,8,0,12.6,14.7,111.10,113.10,03.8,012.17]-5-ドコセン誘導体、ペンタシクロ[6,6,1,13.6,02.7,09.14]-4-ヘキサデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-イコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、トリシクロ[4,3,0,12.5]-3-デセン誘導体、トリシクロ[4,3,0,12.5]-3-ウンデセン誘導体、ペンタシクロ[6,5,1,13.8,02.7,09.13]-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ[4,7,0,12.5,08.7,19.12]-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ[7,8,0,13.6,08.7,110.17,011.16,112.15]-4-エイコセン誘導体、およびノナシクロ[9,10,1,1,4,7,03.6,02.10,012.21,113.20,014.9,115.18]-5-ペンタコセン誘導体、あるいは1,4,5,8,-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンの他に2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-エチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-プロピル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-ヘキシル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2,3-ジメチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-メチル-3-エチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-クロロ-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-ブロム-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-フルオロ-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2,3-ジクロロ-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-シクロヘキシル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-n-ブチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレン、2-イソブチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンなどのオクタヒドロナフタレンなどが挙げられる。 【0010】また上記式(II)で示される環状オレフィンとしては、具体的には下記のような化合物が挙げられる。5-フェニル-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、5-メチル-5-フェニル-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、5-ベンジル-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、5-トリル-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、5-(エチルフェニル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、5-(イソプロピルフェニル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、1,4-メタノ-1,1a,4,4a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、5-(α-ナフチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン、5-(アセトラセニル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン等を挙げることができる。 【0011】(2)近赤外線吸収剤 本発明の近赤外線吸収性透明樹脂組成物を構成する近赤外線吸収剤としては、下記▲1▼、▲2▼及び▲3▼の種類の化合物を挙げることができ、本発明においてはこれら▲1▼、▲2▼及び▲3▼の種類の中から、少なくとも2種類の化合物を用いることが重要である。 (a)種類 ▲1▼含弗素、フタロシアニン構造を有する化合物 含弗素フタロシアニン構造を有する化合物としては、下記一般式(I)で表わされるフタロシアニン化合物を挙げることができる。 一般式(I) 【0012】 【化2】 【0013】[式中のaは0〜4の整数であり、Wは-S-Y又は-O-Z(Y,Zは直鎖又は分岐アルキル基、アルコキシアルキル基、アシルオキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、シアノアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルキル基又はアルコキシ基又はアミノ基又はスルホン酸基又はカルボン酸基又はハロゲン置換若しくは非置換フェニル基、同置換若しくは非置換シクロアルキル基、同置換若しくは非置換ベンジル基、同置換若しくは非置換ナフチル基(但し、a=4のときは、Y,Zのいずれかは、Fは置換フェニル基、同置換シクロアルキル基、同置換ベンジル基、同置換ナフチル基である。)である。)Mは金属、酸化金属、ハロゲン化金属を表わす。]上記一般式(I)中のaが0〜4の場合の骨格は以下に示す一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)に示すものを挙げることができる。 a=0 一般式(IIa) 【0014】 【化3】 【0015】a=1 一般式(IIb) 【0016】 【化4】 【0017】a=2 一般式(IIc) 【0018】 【化5】 【0019】a=3 一般式(IId) 【0020】 【化6】 【0021】a=4 一般式(IIe) 【0022】 【化7】 【0023】上記一般式(I)及び一般式(IIb)〜(IIe)中の-S-Yの具体例としては、下記▲1▼〜▲9▼を挙げることができる。 ▲1▼直鎖または分岐のアルキルチオ基の具体例としては、例えばメチルチオ、エチルチオ、n-プロピルチオ、iso-プロピルチオ、n-ブチルチオ、iso-ブチルチオ、tert-ブチルチオ、n-ペンチルチオ、1,2-ジメチルプロピルチオ、n-ヘキシルチオ、n-ヘプチルチオ、n-オクチルチオ、n-ノニルチオ、n-ドデシルチオ等の炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキルチオ基等が挙げられる。 ▲2▼アルコキシアルキルチオ基の具体例としては、例えばメトキシメチルチオ、エトキシメチルチオ、メトキシエチルチオ、エトキシエチルチオ、プロポキシエチルチオ、ブトキシエチルチオ、ヘキシルオキシエチルチオ、3-メトキシブチルチオ、フェノキシエチルチオ等が挙げられる。 ▲3▼アシルオキシアルキルチオ基としては、例えばアセチルオキシエチルチオ、プロピオニルオキシエチルチオ等が挙げられる。 ▲4▼ヒドロキシアルキルチオ基の具体例としては、例えばヒドロキシメチルチオ、2-ヒドロキシプロピルチオ等が挙げられる。 ▲5▼アミノアルキルチオ基の具体例としては、例えばアミノメチルチオ、2-アミノエチルチオ、3-アミノブチルチオ等が挙げられる。 ▲6▼シアノアルキルチオ基の具体例としては、例えばシアノメチルチオ、シアノエチルチオ等が挙げられる。 ▲7▼アルコキシカルボニルアルキルチオ基の具体例としては、例えばメトキシカルボニルメチルチオ、エトキシカルボニルエチルチオ、ブトキシカルボニルプロピルチオ等が挙げられる。 ▲8▼ハロゲン化アルキルチオ基の具体例としては、例えばトリフルオロメチルチオ等が挙げられる。 ▲9▼アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、スルホン酸基、カルボン酸基、若しくはハロゲンで置換されていてもよいフェニルチオ基、シクロアルキルチオ基、ベンジルチオ基、または、ナフチルチオ基の具体例としては、例えばフェニルチオ、o-メチルフェニルチオ、m-メチルフェニルチオ、p-メチルフェニルチオ、2,4-ジメチルフェニルチオ、2,3-ジメチルフェニルチオ、2,6-ジメチルフェニルチオ、o-メトキシフェニル、p-メトキシフェニルチオ、p-エトキシフェニルチオ、o-アミノフェニルチオ、p-アミノフェニルチオ、o-ジメチルアミノフェニルチオ、p-ジメチルアミノフェニルチオ、p-スルフォニルフェニルチオ、o-メトキシカルボニルフェニルチオ、p-メトキシカルボニルフェニルチオ、m-メトキシカルボニルフェニルチオ、o-エトキシカルボニルフェニルチオ、p-エトキシカルボニルフェニルチオ、m-エトキシカルボニルフェニルチオ、o-ブトキシカルボニルフェニルチオ、p-ブトキシカルボニルフェニルチオ、m-ブトキシカルボニルフェニルチオ、o-メチル-p-メトキシカルボニルフェニルチオ、o-メトキシ-p-メトキシカルボニルフェニルチオ、o-フルオロ-p-メトキシカルボニルフェニルチオ、テトラフルオロ-p-エトキシカルボニルフェニルチオ、o-エトキシカルボニル-p-メチルフェニルチオ、o-ブトキシカルボニル-p-メチルフェニルチオ、o-ブトキシカルボニル-p-フルオロフェニルチオ、p-メチル-m-ブトキシカルボニルフェニルチオ、o-フルオロフェニルチオ、p-フルオロフェニルチオ、2,3,5,6-テトラフルオロフェニルチオ、o-クロロフェニルチオ、p-クロロフェニルチオ、2,4-ジクロロフェニルチオ、2,6-ジクロロフェニルチオ、シクロヘキシルチオ、2-シクロヘキシルエチルチオ、3-シクロヘキシルプロピルチオ、3-シクロヘキシル-2メチルプロピルチオ、ベンジルチオ、ナフチルチオ等が挙げられる。 【0024】また、上記一般式(I)及び一般式(IIb)〜(IIe)中の-O-Zの具体例としては、下記▲1▼〜▲9▼を挙げることができる。 ▲1▼直鎖または分岐のアルコキシ基の具体例としては、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、iso-プロピルオキシ、n-ブチルオキシ、iso-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、n-ペンチルオキシ、1,2-ジメチルプロピルオキシ、n-ヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-ドデシルオキシ等の炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコキシ基等が挙げられる。 ▲2▼アルコキシアルキルオキシ基の具体例としては、例えばメトキシメチルオキシ、エトキシメチルオキシ、メトキシエチルオキシ、エトキシエチルオキシ、プロポキシエチルオキシ、ブトキシエチルオキシ、ヘキシルオキシエチルオキシ、3-メトキシブチルオキシ、フェノキシエチルオキシ等が挙げられる。 ▲3▼アシルオキシアルキルオキシ基としては、例えばアセチルオキシエチルオキシ、プロピオニルオキシエチルオキシ等が挙げられる。 ▲4▼ヒドロキシアルキルオキシ基の具体例としては、例えばヒドロキシメチルオキシ、2-ヒドロキシエチルオキシ、2-ヒドロキシプロピルオキシ等が挙げられる。 ▲5▼アミノアルコキシ基の具体例としては、例えばアミノメトキシ、2-アミノエトキシ、3-アミノブトキシ等が挙げられる。 ▲6▼シアノアルキルオキシ基の具体例としては、例えばシアノメチルオキシ、シアノエチルオキシ等が挙げられる。 ▲7▼アルコキシカルボニルアルキルオキシ基の具体例としては、例えばメトキシカルボニルメチルオキシ、エトキシカルボニルエチルオキシ、ブトキシカルボニルプロピルオキシ等が挙げられる。 ▲8▼ハロゲン化アルキルオキシ基の具体例としては、例えばトリフルオロメチルオキシ等が挙げられる。 ▲9▼アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、スルホン酸基、若しくはハロゲンで置換されていてもよいフェノキシ基、シクロアルキルオキシ基、ベンジルオキシ基、および、ナフチルオキシ基の具体例としては、例えばフェノキシ、o-メチルフェノキシ、m-メチルフェノキシ、p-メチルフェノキシ、2,4-ジメチルフェノキシ、2,3-ジメチルフェノキシ、2,6-ジメチルフェノキシ、o-メトキシフェノキシ、p-メトキシフェノキシ、p-エトキシフェノキシ、o-アミノフェノキシ、p-アミノフェノキシ、o-ジメチルアミノフェノキシ、p-ジメチルアミノフェノキシ、p-スルフォニルフェノキシ、o-メトキシカルボニルフェノキシ、p-メトキシカルボニルフェノキシ、m-メトキシカルボニルフェノキシ、o-エトキシカルボニルフェノキシ、p-エトキシカルボニルフェノキシ、m-エトキシカルボニルフェノキシ、o-ブトキシカルボニルフェノキシ、p-ブトキシカルボニルフェノキシ、m-ブトキシカルボニルフェノキシ、o-メチル-p-メトキシカルボニルフェノキシ、o-メトキシ-p-メトキシカルボニルフェノキシ、o-フルオロ-p-メトキシカルボニルフェノキシ、テトラフルオロ-p-エトキシカルボニルフェノキシ、o-エトキシカルボニル-p-メチルフェノキシ、o-ブトキシカルボニル-p-メチルフェノキシ、o-ブトキシカルボニル-p-フルオロフェノキシ、p-メチル-m-ブトキシカルボニルフェノキシ、o-フルオロフェノキシ、p-フルオロフェノキシ、2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ、o-クロロフェノキシ、p-クロロフェノキシ、2,4-ジクロロフェノキシ、2,6-ジクロロフェノキシ、シクロヘキシルオキシ、2-シクロヘキシルエチルオキシ、3-シクロヘキシル-2メチルプロピルオキシ、ベンジルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられる。上記一般式(I)中のMで示されるフタロシアニン化合物の中心金属としては、例えば、Cu、Zn、Pb、Fe、Ni、Co、Pd、AlCl、AlI、InCl、InI、GaCl、GaI、TiCl2、TiO、VCl2、VO、SnCl2及びGeCl2等を挙げることができる。これら含弗素フタロシアニン構造を有するフタロシアニン化合物としては市場で、「日本触媒社製イーエクスカラー803K」、「日本触媒社製イーエクスカラー901B」として市販されているので容易に入手することができる。 【0025】▲2▼2個のベンゾピラン構造を有する化合物 上記の2個のベンゾピラン構造を有する化合物(本明細書においては、以下これを縮合ベンゾピラン構造を有する化合物という)としては、例えば下記一般式(IIIa)〜(IIIc)で表わされるものを挙げることができる。一般式(IIIa) 【0026】 【化8】 【0027】8-[(6,7-ジヒドロ-2,4-ジフェニル-5H-1-ベンゾピラン-8-イル)メチレン]5,6,7,8-テトラヒドロ-2,4-ジフェニル-1-ベンゾピリリウムパークロエート、一般式(IIIb) 【0028】 【化9】 【0029】8-[3-(6,7-ジヒドロ-2,4-ジフェニル-5H-1-ベンゾピラン-8-イル)-2-プロペニリデン]-5,6,7,8-テトラヒドロ-2,4-ジフェニル-1-ベンゾピリリウムパークロエート、一般式(IIIc) 【0030】 【化10】 【0031】8-[5-(6,7-ジヒドロ-2,4-ジフェニル-5H-1-ベンゾピラン-8-イル)-2,-ペンタジエニリデン]-5,6,7,8-テトラヒドロ-2,4-ジフェニル-1-ベンゾピリリウムパークロエート、これら縮合ベンゾピラン構造を有する化合物としては、市場で「日本感光色素研究所社製NK-3508」として市販されているので容易に入手することができる。 【0032】▲3▼2個のキノリン構造を有する化合物 上記の2個のキノリン構造を有する化合物(本明細書においては、以下これを縮合キノリン構造を有する化合物という)としては、例えば、下記一般式(IVa)〜(IVe)で表わされるものを挙げることができる。一般式(IVa) 【0033】 【化11】 【0034】1-エチル-4-[3-(1-エチル-4(1H)-キノリニデン)-1-プロペニル]キノリニウムアイオダイト、一般式(IVb) 【0035】 【化12】 【0036】1-エチル-4-[5-(1-エチル-4(1H)-キノリニデン)-1,3-ペンタジエニル]キノリニウムアイオダイト、一般式(IVc) 【0037】 【化13】 【0038】1-エチル-4-[7-(1-エチル-4(1H)-キノリニデン)-1,3,5-ヘプタトリエニル]キノリニウムアイオダイト、一般式(IVc) 【0039】 【化14】 【0040】1-エチル-2-[5-(1-エチル)キノリニデン-1,3-ペンタジエチル]キノリニウムアイオダイト、一般式 【0041】 【化15】 【0042】1-エチル-2-[7-(1-エチル-2(1H)-キノリニデン)-1,3,5-ヘプタトリエニルキノリニウムアイオダイト、これら縮合キノリン構造を有する化合物としては、市場で「日本感光色素研究所社製NK-124」として市販されているので容易に入手することができる。 【0043】(b)併用 上記▲1▼、▲2▼及び▲3▼の種類の化合物近赤外線吸収剤を少なくとも2種類併用することが重要で、単独で用いるだけでは本発明の効果が得られないし、1種類の化合物のみを複数で用いても本発明の効果を得ることができない。従って、上記▲1▼、▲2▼及び▲3▼の種類の化合物の近赤外線吸収剤の中から少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を一般に2:9〜5:2、又は3:5:10〜4:5:2の割合、好ましくは3:7〜3:2、又は5:8:10〜3:4:2の割合で用いるのが良い。 【0044】(3)量比 上記近赤外線吸収剤の配合量は、樹脂100重量部に対する合計量で0.001〜0.5重量部、好ましくは0.002〜0.3重量部である。上記範囲未満であると可視光線の透過性は良くなるが、近赤外線吸収能は低下する。一方、上記範囲超過であると近赤外線吸収能は良好となるが可視光線透過率は低下する。 【0045】(4)その他の配合剤 上記透明樹脂成分及び近赤外線吸収剤成分の他に一般的に公知である添加剤、例えばフェノール系、リン系などの酸化防止剤、ハロゲン系、リン酸系などの難燃剤、耐熱老化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を透明樹脂に配合することもできる。 【0046】[II]配合 上記透明樹脂に近赤外線吸収剤を配合して本発明の近赤外線吸収性樹脂組成物を得るには単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することにより容易に製造することができる。 【0047】[III]近赤外線吸収性樹脂組成物 上記溶融混練によって得られた本発明の近赤外線吸収透明樹脂成形体組成物は、通常色相が透明なグレー又は透明な茶色であり、これら色相をした樹脂組成物の成形体を人間の目と画像表示装置等との間に置いた場合、画像の色相に悪影響を与えることがない。また、該組成物のフィルターは、400〜700nmの可視光線透過率が40%以上、好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上であり、かつ、800〜1100nmの近赤外線透過率が10%以下、好ましくは8%以下、特に好ましくは5%以下を示すものである。 【0048】[IV]成形体の製造 上記本発明の近赤外線吸収性透明樹脂組成物を用いてフィルム、またはシート(板)に成形する方法としては、公知の射出成形、Tダイ成形、カレンダー成形、圧縮成形などの方法や、有機溶剤に溶解させキャスティングする方法などを用いることができる。成形体の厚みとしては目的に応じて10μm〜5mmの範囲が望ましい。また上記の成形法以外に可視光線透過性を阻害しない程度に1軸あるいは2軸に延伸することによって高強度にしたり、表面を粗にして蛍光灯などの光の写り込みを防止したりすることもできる。さらに、この成形体は単独はもちろん透明のガラス板や他の透明樹脂板等に貼り付けた積層体として用いることもできる。 【0049】 【実施例】以下に実施例により、本発明を説明するが本発明はこれにより何ら制限されるものではない。 実施例1 三菱レーヨン社製ポリメタクリル酸メチルアクリペット「VH5」100重量部に含フッ素フタロシアニン構造を有する近赤外線吸収剤(日本触媒社製イーエクスカラー803K)0.01重量部、縮合ベンゾピラン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-3508)0.01重量部、縮合キノリン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-124)0.01重量部を40mm径の単軸押出機で混練し組成物を得た。得られた組成物を射出成形機(日本製鋼所J-150)にて成形し、茶色透明の100mm□×2mmtのシート状成形体を得た。得られた成形品の近赤外線透過率は分光光度計(BIO-RAD社製FTS-60A型)で測定した結果、800nm〜1100nmの平均透過率は8%であった。可視光線透過率は分光光度計(島津社製UV-2200型)で測定した結果50%であった。その結果を表1に示す。 【0050】実施例2 近赤外線吸収剤として含フッ素フタロシアニン構造を有する近赤外線吸収剤(日本触媒社製イーエクスカラー803K及び901Bをそれぞれ0.01重量部)0.02重量部、縮合ベンゾピラン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-3508)0.01重量部を配合した以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0051】実施例3 含フッ素フタロシアニン構造を有する近赤外線吸収剤(日本触媒社製イーエクスカラー803K)0.015重量部、縮合キノリン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-124)0.015重量部を配合した以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0052】実施例4 縮合ベンゾピラン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-3508、NK3027それぞれ0.01重量部)0.02重量部、縮合キノリン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-124)0.01重量部を配合した以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0053】比較例1 近赤外線吸収剤として含フッ素フタロシアニン構造を有する近赤外線吸収剤(日本触媒社製イーエクスカラー803K)0.03重量部のみを用いた以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0054】比較例2 近赤外線吸収剤として縮合ベンゾピラン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-3508)0.03重量部のみを用いた以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0055】比較例3 近赤外線吸収剤として縮合キノリン構造を有する近赤外線吸収剤(日本感光色素研究所社製NK-124)0.03重量部のみを用いた以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0056】実施例5 三菱レーヨン社製ポリメタクリル酸メチルアクリペット「VH5」のかわりに三菱エンプラ社製ポリカーボネート樹脂「ユーピロンS-3000」を用いた以外は実施例1と同様に実施した。その結果を表1に示す。 【0057】 【表1】 【0058】 【発明の効果】本発明の少なくとも2種類の近赤外線吸収剤を配合した透明性樹脂組成物のフィルターは、可視光線透過率が40%以上、800〜1100mmの近赤外線透過率が10%以下であることから、コンピューター端末機ディスプレイ、サングラス、コンタクトレンズ、保護眼鏡、リモコン受光器等の幅広い用途に使用することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-08-11 |
出願番号 | 特願平8-302977 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YA
(C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L) P 1 651・ 536- YA (C08L) P 1 651・ 537- YA (C08L) P 1 651・ 121- YA (C08L) P 1 651・ 55- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
佐野 整博 大熊 幸治 |
登録日 | 2003-08-01 |
登録番号 | 特許第3457132号(P3457132) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | フィルター |
復代理人 | 花田 吉秋 |
復代理人 | 花田 吉秋 |
代理人 | 長谷川 曉司 |
代理人 | 長谷川 曉司 |
代理人 | 植木 久一 |