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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1125803
異議申立番号 異議2003-71487  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-11-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-04 
確定日 2005-08-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3355986号「芳香族ポリイミドフィルム及び積層体」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3355986号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許3355986号の発明は、平成9年3月3日(優先権主張、平成8年3月1日、日本)に出願され、平成14年10月4日にその特許の設定登録がなされ、その後、太田謡子より特許異議の申立てがなされ、それに基づく取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成16年1月6日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出されるとともに、平成16年2月23日付で上申書が提出されたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
訂正a-1:請求項1の
「【請求項1】 少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜125μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルム。」を、
「【請求項1】 少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルム。」と訂正する。
訂正a-2:請求項8及び9を削除し、請求項10の
「【請求項10】 少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜125μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下である芳香族ポリイミドフィルムと導電体シートとが接着剤層を介して結合されてなる積層体。」を、
「【請求項8】 少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下である芳香族ポリイミドフィルムと導電体シートとが接着剤層を介して結合されてなる積層体。」と訂正する。
訂正a-3:請求項11〜14を、
「【請求項9】 導電体シートが厚さ8〜50μmの銅箔である請求項8に記載の積層体。
【請求項10】 接着剤層が、熱可塑性接着剤もしくは熱硬化性接着剤からなる請求項8もしくは9に記載の積層体。
【請求項11】 接着剤層が、ポリイミド系接着剤もしくはエポキシ樹脂系接着剤からなる請求項8もしくは9に記載の積層体。
【請求項12】 電子部品のリードフレーム用である請求項8もしくは9に記載の積層体。」と訂正する。
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
訂正b-1:特許明細書の段落【0007】を、
「【課題を解決するための手段】この発明は、少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%(好ましくは15モル%以上)のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルムにある。なお、本発明の芳香族ポリイミドフィルムの上記の比端裂抵抗値そして本明細書中に記載されている他の物性値は、全て、後記の実施例に際して記載されている測定方法と測定条件に従って測定した値を意味する。」と訂正する。
訂正b-2:特許明細書の段落【0008】を、
「この発明はまた、少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下である芳香族ポリイミドフィルムと導電体シートとが接着剤層を介して結合されてなる積層体にもある。」と訂正する。
訂正b-3:特許明細書の段落【0014】を、
「この発明において、芳香族ポリイミドフィルム(あるいは表面処理されたフィルム)は、厚みが10〜75μm、特に好ましくは25〜75μm、その中でも特に45〜55μmであることが好ましい。芳香族ポリイミドフィルムの厚みが、この下限以下であると自己支持性が低く、また上限以上であると製造に多大なコストがかかる。また、前記の揮発物含有量が0.4重量%より多いと接着性および寸法安定性に問題が発生する。芳香族ポリイミドフィルムの比端裂抵抗値が前記範囲外であると、この発明の目的を達成することができない。」と訂正する。
訂正b-4:特許明細書の段落【0022】を、
「前記の芳香族ポリイミドフィルムは、前述の製造時のキュア炉内のキュア前の加熱条件を前記の図1に示す範囲内にコントロールすること及びキュア条件を前記の温度および時間の範囲内にすることによって厚みが10〜75μmのものであって、揮発物含有量が0.4重量%以下で、かつ比端裂抵抗値が本発明で規定した値をとるようにすることができる。」と訂正する。
イ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲の訂正であり、訂正a-1は、特許請求の範囲の請求項1において、芳香族ポリイミドフィルムの厚みの上限を75μmと限定するものであり、明細書の段落【0013】の記載及び実施例の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認められる。
訂正a-2は、請求項8及び9を削除し、請求項10が請求項8に繰り上げられ、同時に訂正a-1と同様、芳香族ポリイミドフィルムの厚みの上限を75μmと限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正と認められる。
訂正a-3は、請求項8及び9の削除により、請求項11〜14が請求項9〜12と繰り上げられ、引用する請求項を整理するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正と認められる。
訂正事項b(b-1〜b-4)は、発明の詳細な説明の訂正であり、特許請求の範囲の訂正である訂正事項a(a-1〜a-3)に伴い、発明の詳細な説明において整合性を保つための訂正であり、明りょうでない記載の釈明と認められ、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認められる。
また、上記訂正事項a及びbは、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する特許法第126条第2項〜第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、訂正明細書の請求項1〜12に係る発明
訂正明細書の請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明12」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項2】 比端裂抵抗値が11〜15kg/20mm/10μmの範囲にある請求項1に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項3】 揮発物含有量が0.3重量%以下である請求項1もしくは2に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項4】 揮発物含有量が0.2重量%以下である請求項1もしくは2に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項5】 更に0.1〜3重量%の無機フィラーを含有する請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項6】 ポリアミック酸の溶液流延法により製造されたものである請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項7】 表面が、表面処理剤処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、グロー放電処理、もしくはプラズマ処理のうちの、いずれかひとつ以上の処理が施されている請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項8】 少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下である芳香族ポリイミドフィルムと導電体シートとが接着剤層を介して結合されてなる積層体。
【請求項9】 導電体シートが厚さ8〜50μmの銅箔である請求項8に記載の積層体。
【請求項10】 接着剤層が、熱可塑性接着剤もしくは熱硬化性接着剤からなる請求項8もしくは9に記載の積層体。
【請求項11】 接着剤層が、ポリイミド系接着剤もしくはエポキシ樹脂系接着剤からなる請求項8もしくは9に記載の積層体。
【請求項12】 電子部品のリードフレーム用である請求項8もしくは9に記載の積層体。」
イ、引用した刊行物に記載された事項
当審における取消理由通知に引用した刊行物は次のとおりである。
刊行物1:特開平2-102037号公報
(特許異議申立人提出甲第1号証)
刊行物2:特開昭61-264027号公報
(同甲第2号証)
刊行物3:特開平6-334110号公報
(同甲第3号証)
刊行物4:特開昭63-108038号公報
(同甲第4号証)
刊行物5:特公平5-88851号公報
(同甲第5号証)
刊行物6:特開昭59-164328号公報
(同甲第6号証)
刊行物7:特開平1-121364号公報
(同甲第7号証)
上記の刊行物1〜7には次のとおりの記載が認められる。
a、刊行物1
「(1)芳香族ポリイミド製基材上に金属薄層および高温超電導セラミックス層が積層されていることを特徴とする超電導セラミックス積層ポリイミド材料。
(2)芳香族ポリイミド製基材が、ビフェニルテトラカルボン酸類を50モル%以上含有する芳香族テトラカルボン酸成分と、ベンゼン環を1個有する芳香族ジアミン化合物を50モル%以上含有する芳香族ジアミン成分とから、重合およびイミド化によって得られた芳香族ポリイミドで形成されている請求項(1)記載の超電導セラミックス積層ポリイミド材料。」(特許請求の範囲請求項1及び2)
「実施例1
3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびパラフェニレンジアミンを等モル使用して、N-メチル-2-ピロリドン中、30℃で、2時間、重合して、対数粘度(濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒;N-メチル-2-ピロリドン、測定温度:30℃)3.5の芳香族ポリアミック酸を生成させた。
その重合液は、ポリマー濃度が約25重量%であり、100℃の溶液粘度が約3000ポアズであった。
そのポリアミック酸溶液を使用して、溶液流延法(製膜温度;90℃)で、支持体上に前記の溶液の薄膜を形成し、約110℃の温度で溶媒を徐々に蒸発して除去して、溶媒が約15重量%含有されている芳香族ポリアミック酸の固化膜を形成し、その固化膜を支持体から剥離して、約200℃の温度で30分間、約300℃で15分間、約450℃で15分間加熱して、イミド化を行って、厚さ50μmの芳香族ポリイミドフィルムを形成した。
……………
Cuの金属ターゲットおよび前記芳香族ポリイミドフィルム(基板)を使用して、下記のスパッタリング法で、前記フィルム基板上に銅の薄膜を形成した。
………厚さ約3000Åの銅の薄膜が形成された。」(第4頁)
b、刊行物2
「ビフェニルテトラカルボン酸類とフェニレンジアミン類とを有機極性溶媒中で重合して得られたポリマーの溶液を調製し、
次いで そのポリマー溶液を使用して、支持体表面に、前記溶液の薄膜を形成し、その薄膜を乾燥し、溶媒が約20〜60重量%の割合で残存する固化フィルムを形成し、
さらに、その固化フィルムを支持体から剥離し、その固化フィルムの少なくとも一対の両端縁を固定して、約200〜500℃の温度で乾燥・熱処理して、芳香族ポリイミドフィルムを形成し、
最後に、前述のようにして得られた芳香族ポリイミドフィルムを、400g/mm2以下の低張力下、および330〜500℃の温度で、再熱処理することを特徴とする寸法安定なポリイミドフィルムの製造法。」(特許請求の範囲)
「前記の芳香族ポリイミドフィルムは、通常、プリント配線基板などの電子部材のベースフィルムとして、極めて有用なものである。」(第1頁右下欄12〜14行)
「前記芳香族ポリイミドフィルムは、平均熱膨張係数が、無機材料、導電性金属の線膨張係数の値に近似していて、しかも、熱寸法安定性が極めて優れているので、セラミック、導電性金属などの薄膜(箔)を、本発明のフィルム上に形成したり、両者を貼り合わせたりする際に、高温に曝されても、カールなどの問題を生ずることが実質的になく、また、導電性金属と本発明のフィルム層とからなる複合材料(積層材料)が、金属層のエッチング、ハンダ付けなどの加工における高温での熱履歴を受けても、カールを生じたり、その加工製品の性能を悪化させたりすることがないのである。」(第2頁右下欄1〜12行)
「このポリイミドフィルムは、製膜用のドープ液中の有機極性溶媒を実質的にほとんど含有しておらず、その溶媒の含有率が約1重量%以下、特に0.5重量%以下であることが好ましく、また、そのフィルムの厚さが約1〜150μm程度ある柔軟なフィルムである。」(第4頁左下欄8〜13行)
第5頁左下欄の第1表には、揮発性成分の含有率として0.01以下(重量%)とすることが記載されている。
c、刊行物3
「【請求項1】 パンチ及びダイで打抜き加工が施され、半導体装置に使用される打抜きフィルムにおいて、
前記打抜きフィルムは、50〜70kgf/20mmの端裂抵抗を有することを特徴とする打抜き性に優れたフィルム。
【請求項2】 半導体チップを搭載するため、パンチ及びダイで打抜き加工が施された打抜きフィルムが貼り付けられたリードフレームにおいて、
前記打抜きフィルムは、50〜70kgf/20mmの端裂抵抗を有することを特徴とする打抜き性に優れたフィルムを用いたリードフレーム。
【請求項3】 前記打抜きフィルムは、ポリイミド系フィルムであって、片面又は両面に接着剤を塗布して所定の厚さの接着層が形成されている請求項1又は2記載の打抜き性に優れたフィルム又はこれを用いたリードフレーム。」(特許請求の範囲請求項1〜3)
「【産業上の利用分野】本発明は、打抜き性に優れたフィルム及びこれを用いたリードフレームに関し、特に、フィルムを打ち抜く際に発生するフィルム切断バリ及び切屑の発生を防止した打抜き性に優れたフィルム及びこれを用いたリードフレームに関する。」(段落【0001】)
「上記端裂抵抗とは、以下のようなものをいう。幅20mm、長さ約200mmの試験片(フィルム)を縦方向及び横方向から、それぞれ全幅にわたって平均するように5枚の試験片をとる。この試験片を試験金具に通し、フィルム面が接するように2つに折り合わせて試験機の下部のつかみにはさみ、1分間につき約200mmの速さで試験片を引張る。このときの試験片が引き裂けたときの力の平均値と最低値を求めるものである(JIS C2318 6.3.4参照)。」(段落【0020】)
「以下に、本発明の第1実施例を詳細に説明する。まず、本実施例の打抜きフィルムの製造過程を説明する。最初に、ポリアミド酸等の出発物質に溶媒を加え、これをワニスとする。次に、このワニスを金型やロール等に塗布し、これを加熱することによって乾燥させる。その後、金型やロール等から、イミド化されたフィルムを剥がすことによって、ポリイミド系フィルムを得る。そして、ポリイミド系フィルムの片面又は両面に熱可塑性接着剤又は熱硬化性接着剤を塗布し、接着層を有するポリイミド系フィルムが完成する。」(段落【0021】)
「図2に上記試験によって求めた端裂抵抗とフィルム切屑発生率との関係を示す。この図2に示されるように、フィルムの端裂抵抗が高い程、フィルム切屑の発生頻度が低くなることが確認された。具体的には、端裂抵抗が50kgf/20mm以上のポリイミド系フィルムを用いると、フィルム切屑発生率が0%に近づくことが確認された。
ただし、端裂抵抗を高くするためには、溶媒をフィルム基材中に多量に含ませる必要があり、端裂抵抗が70kgf/20mm以上であると、フィルム基材としてワニス状のものからシート状のものを作製することが著しく困難となることから、前記値が上限とされた。
一方、溶媒残存量を減少させると、フィルムの吸湿性が低下し、端裂抵抗を高く保つことができなくなる。
よって、打抜きフィルムの端裂抵抗は、50〜70kgf/20mmが最も適しているということが確認された。」(段落【0024】〜【0027】))
d、刊行物4
「1.平均粒子径が40〜1000Åの不活性無機物質粒子を0.02〜6.0重量%含有する15〜85モル%のビフェニルテトラカルボン酸類と15〜85モル%のピロメリット酸とを含む芳香族テトラカルボン酸成分と、フェニレンジアミン類を主成分として含む芳香族ジアミン成分とから得られる芳香族ポリイミドフィルムであって、該フィルムの少なくとも片面に、最大粗さが50〜500Åの範囲、平均突起径が50〜2000Åの範囲、そして突起数が2×105〜1×108個/mm2の範囲にある微小突起が形成されており、かつ突起径が平均突起径の1.5倍以上の突起の数が全突起数の5%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルム。」(特許請求の範囲請求項1)
e、刊行物5
「2 フイルム中の残揮発物量が0.45重量%以下のフイルムをコロナ放電処理する事を特徴とするポリイミドフイルムの製造法。」(特許請求の範囲請求項2)
「本発明は耐熱性ポリイミドフイルム及びその製造法に関し、更に詳しくはフイルム中の残揮発物量とフイルム表面酸素/炭素比を制御することによつて接着性を改善したポリイミドフイルムとその製造法に関するものである。」(第1頁第1欄11〜15行)
「従来の高分子フイルムにおける接着付与技術では火炎処理、コロナ処理、紫外線処理、アルカリ処理、プライマー処理、サンドブラスト処理等が行われている。ポリイミドフイルムもこのような一般的技術の中で耐熱性フイルムの目的を満足しうる方法を利用しており、サンドブラスト処理やアルカリ処理等が行われているのが現状である。」(第1頁第2欄4〜10行)
「本発明のポリイミドフイルムの厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは10〜125μm、更に好ましくは50〜125μmである。」(第2頁第4欄12〜14行)
実施例には、残存揮発物量0.05〜0.44wt%で、50又は75μmの厚さのポリイミドフィルムが記載されている。
f、刊行物6及び7(省略)
ウ、対比・判断
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる芳香族ポリイミドフィルムであって、フィルムの厚み及び揮発物含有量において重複している点で一致し、本件発明1では、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持つとするとするのに対し、刊行物2では、比端裂抵抗値についての記載がない点で相違するものと認められる。
しかしながら、刊行物3には、端裂抵抗値として50〜70kgf/20mmのポリイミドフィルムが記載されている。
刊行物3には、フィルムの厚さについての記載はなく、そのため、その比端裂抵抗値は不明ではあるが、刊行物2には、厚さが1〜150μmと記載され、特に刊行物1には、実施例において、50μmとの例示があり、さらに刊行物5でも、その実施例に50μmと、75μmの例示が記載されており、ポリイミドフィルムの厚さとして50μm程度が通常の厚さと認められ、刊行物3のフィルムの厚さを仮に50μmとするならば、その比端裂抵抗値は1.0〜1.4となり、本件発明1の比端裂抵抗値と重複するものとなる。
刊行物3は、打ち抜き性に優れるとしている点でも本件発明1の目的と同じであり、刊行物2のポリアミドフィルムがプリント配線基板などの電子部材のベースフィルムとするものであるから、そういったフィルムとして打ち抜き性が求められるものであるから、厚さとして50μm程度とし、さらに刊行物3に記載される端裂抵抗値となるようにすることによって、本件発明1の比端裂抵抗値とすることは当業者であれば容易になし得たところといえる。
その作用効果も、刊行物3から容易に想到し得たところといわざるを得ない。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜3及び5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらに比端裂抵抗値を限定するものであるが、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3及び5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3及び4は、本件発明1を引用し、さらに揮発物含有量を限定するものであるが、刊行物2及び5の実施例には、重複一致するものが記載されているから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3及び5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明5は、本件発明1を引用し、0.1〜3重量%の無機フィラーを含有するとするものであるが、ポリイミドフィルムにその程度の無機フィラーを含有させることは、刊行物4に記載されるとおりよく知られたことに過ぎないから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明6及び7は、ともに本件発明1を引用し、本件発明6で特定する溶液流延法は、刊行物1及び2に記載され、本件発明7で特定する処理方法も刊行物5に記載される通常の方法に過ぎないものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明8は、本件発明1のフィルムと導電体シートとが接着剤を介して結合されてなる積層体であるが、刊行物2及び3には、そういった積層材料が記載されており、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明9は、本件発明8を引用し、導電体シートを厚さが8〜50μmの銅箔とするものであるが、導電体シートとして厚さが8〜50μmの銅箔は、導電体シートとして通常のものに過ぎない(必要なら、特開平1-155632号公報、特開平2-14597号公報、特開平2-134239号公報、特開平2-186653号公報及び特開平2-230608号公報を参照)から、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明10及び11は、本件発明8を引用し、特定の接着剤層とするものであるが、刊行物3には、熱可塑性接着剤及び熱硬化性接着剤を使用することが記載され、また、本件発明11で特定するエポキシ樹脂系接着剤は熱硬化性接着剤の代表的なものに過ぎないから、本件発明8と同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明12は、本件発明8を引用し、電子部品のリードフレーム用とするものであるが、刊行物3には、リードフレームとする記載があるから、本件発明8と同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本件発明1〜12は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易にすることができたものであるから、本件発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
芳香族ポリイミドフィルム及び積層体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項2】比端裂抵抗値が11〜15kg/20mm/10μmの範囲にある請求項1に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項3】揮発物含有量が0.3重量%以下である請求項1もしくは2に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項4】揮発物含有量が0.2重量%以下である請求項1もしくは2に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項5】更に0.1〜3重量%の無機フィラーを含有する請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項6】ポリアミック酸の溶液流延法により製造されたものである請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項7】表面が、表面処理剤処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、グロー放電処理、もしくはプラズマ処理のうちの、いずれかひとつ以上の処理が施されている請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の芳香族ポリイミドフィルム。
【請求項8】少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下である芳香族ポリイミドフィルムと導電体シートとが接着剤層を介して結合されてなる積層体。
【請求項9】導電体シートが厚さ8〜50μmの銅箔である請求項8に記載の積層体。
【請求項10】接着剤層が、熱可塑性接着剤もしくは熱硬化性接着剤からなる請求項8もしくは9に記載の積層体。
【請求項11】接着剤層が、ポリイミド系接着剤もしくはエポキシ樹脂系接着剤からなる請求項8もしくは9に記載の積層体。
【請求項12】電子部品のリードフレーム用である請求項8もしくは9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、優れた切断性や打ち抜き性を示し、接着剤などの接着性組成物が容易に付着して、その接着剤組成物層との間の剥離に対して高い剥離抵抗値を示す芳香族ポリイミドフィルム、そしてその芳香族ポリイミドフィルムと導電性シートとの積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、高耐熱性の電子部品としては芳香族ポリイミドフィルムの片面あるいは両面に直接あるいは接着剤を介して銅箔等の導電体層を設けたものが一般的である。芳香族ポリイミドは、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分から製造されるポリアミック酸を高温に加熱して脱水環化することにより得られる耐熱性や機械的特性の優れたポリマーである。しかしながら、特に電子部品に用いられるポリイミドフィルムは更に様々な特性が要求される。
【0003】特開平6-334110号公報には、リードフレームの製造に適した樹脂材料フィルムとして、端裂抵抗が50〜70kgf/20mmのポリイミドフィルムが優れていることを明らかにしている。そして更に、そのポリイミドフィルムは何%程度の吸湿性溶媒が残存していなければならない旨述べられている。
【0004】電子部品としての耐熱性、電気絶縁性、機械的強度等の諸特性への高い要求を考慮すると、芳香族ポリイミドは、テトラカルボン酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸成分を含むものを利用し、また芳香族ジアミン成分としてフェニレンジアミン成分を含むものを利用して製造することが望ましい。また、銅箔などのような金属導電体シートと、接着剤層を用いて貼り合せた積層体として使用するためには、芳香族ポリイミドフィルムは、その公知のポリイミド系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤などの接着剤に対して高い接着性を示す必要がある。
【0005】しかしながら本発明者の研究によると、上記の特開平6-334110号公報に記載の技術は、テトラカルボン酸成分としてビフェニルテトラカルボン酸成分を含むものを利用し、また芳香族ジアミン成分としてフェニレンジアミン成分を含むものを利用して製造する芳香族ポリイミドフィルムに対しては充分満足できる特性を付与することができないことが判明した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明の目的は、積層体の基板フィルムとして、特にリードフレーム用途、半導体用途において要求される打ち抜き性が良好で、接着性および寸法安定性を保持した芳香族ポリイミドフィルムを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明は、少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%(好ましくは15モル%以上)のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下であることを特徴とする芳香族ポリイミドフィルムにある。なお、本発明の芳香族ポリイミドフィルムの上記の比端裂抵抗値そして本明細書中に記載されている他の物性値は、全て、後記の実施例に際して記載されている測定方法と測定条件に従って測定した値を意味する。
【0008】この発明はまた、少なくとも15モル%のビフェニルテトラカルボン酸もしくはその二無水物またはエステルを含むテトラカルボン酸成分と、少なくとも5モル%のフェニレンジアミンを含む芳香族ジアミン成分との反応によって製造されたポリイミドからなる、厚みが10〜75μmの芳香族ポリイミドフィルムであって、該芳香族ポリイミドフィルムが11〜22kg/20mm/10μmの比端裂抵抗値を持ち、かつ揮発物含有量が0.4重量%以下である芳香族ポリイミドフィルムと導電体シートとが接着剤層を介して結合されてなる積層体にもある。
【0009】この明細書において、端裂抵抗値(あるいは比端裂抵抗値)はJIS C2318に従って測定した試料(5個)の端裂抵抗(あるいは比端裂抵抗)の平均値を意味する。具体的には、定速緊張形引張試験機の上部厚さ1.00±0.05mmのV字形切り込み板試験金具の中心線を上部つかみの中心線に一致させ、切り込み頂点と下部つかみとの間隔を約30mmになるように柄を取りつける。幅約20mm、長さ約200mmの試験片を金具の穴部に通して二つに折り合わせて試験機の下部のつかみにはさみ、1分間につき約200mmの速さで引張り、引き裂けたときの力を端裂抵抗という。試験片を縦方向及び横方向からそれぞれ全幅にわたって5枚とり、端裂抵抗の平均値を求め、端裂抵抗値として示す。比端裂抵抗値はフィルム厚み当たり(10μm換算)の端裂抵抗値を示す。
【0010】
【発明の実施の形態】以下に本発明の好ましい態様を列記する。
1)比端裂抵抗値が、11〜15kg/20mm/10μmの範囲にある上記の芳香族ポリイミドフィルム。
2)揮発物含有量が0.05〜0.3重量%である上記の芳香族ポリイミドフィルム。
3)揮発物含有量が0.05〜0.2重量%である上記の芳香族ポリイミドフィルム。
4)更に0.1〜3重量%の無機フィラーを含有する上記の芳香族ポリイミドフィルム。
5)ポリアミック酸の溶液流延法により製造されたものである上記の芳香族ポリイミドフィルム。
6)表面が、表面処理剤処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、グロー放電処理、もしくはプラズマ処理のうちの、いずれかひとつ以上の処理が施されている上記の芳香族ポリイミドフィルム。
7)吸水率が1.8%以下、引張弾性率が450Kg/mm2以上そして線膨張係数(50〜200℃)が2.5×10-5cm/cm/℃以下である上記の芳香族ポリイミドフィルム。
8)絶縁破壊電圧が3KV以上であって、体積抵抗率(25℃)が2×1016Ω・cm以上である上記の芳香族ポリイミドフィルム。
9)導電体シートが厚さ8〜50μmの銅箔である上記の積層体。
10)接着剤層が、熱可塑性接着剤もしくは熱硬化性接着剤からなる上記の積層体。
11)接着剤層が、ポリイミド系接着剤もしくはエポキシ樹脂系接着剤からなる上記の積層体。
12)電子部品のリードフレーム用である上記の積層体。
【0011】本発明において、ビフェニルテトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、それらの二無水物、またはそれらのエステルが使用できるが、なかでも3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく用いられる。
【0012】ビフェニルテトラカルボン酸成分と併用が可能な芳香族テトラカルボン酸成分としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エ-テル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エ-テル二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物などを挙げることができる。
【0013】本発明で使用するフェニレンジアミンは、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、そしてp-フェニレンジアミンのいずれであってもよい。フェニレンジアミンと併用可能な芳香族ジアミン成分としては、ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2’-ビス〔4-(アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテルなどを挙げることができる。
【0014】この発明において、芳香族ポリイミドフィルム(あるいは表面処理されたフィルム)は、厚みが10〜75μm、特に好ましくは25〜75μm、その中でも特に45〜55μmであることが好ましい。芳香族ポリイミドフィルムの厚みが、この下限以下であると自己支持性が低く、また上限以上であると製造に多大なコストがかかる。また、前記の揮発物含有量が0.4重量%より多いと接着性および寸法安定性に問題が発生する。芳香族ポリイミドフィルムの比端裂抵抗値が前記範囲外であると、この発明の目的を達成することができない。
【0015】また、(1)吸水率および(3)線膨張係数(50〜200℃)が前記範囲内であると、種々の環境下(高温、エッチング等)においた場合の寸法安定性が良好である。さらに、(2)引張弾性率が前記範囲内であると、基板フィルムとしてハンドリングが良好である。
【0016】この発明の芳香族ポリイミドフィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。好適には先ず前記テトラカルボン酸二無水物、好適にはビフェニルテトラカルボン酸類とフェニレンジアミン、好適にはパラフェニレンジアミンとをN,N-ジメチルアセトアミドやN-メチル-2-ピロリドンなどのポリイミドの製造に通常使用される有機極性溶媒中で、好ましくは10〜80℃で1〜30時間重合して、ポリマ-の対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100mL溶媒、溶媒:N-メチル-2-ピロリドン)が0.1〜5、ポリマ-濃度が15〜25重量%であり、回転粘度(30℃)が500〜4500ポイズであるポリアミック酸(イミド化率:5%以下)溶液を得る。
【0017】次いで、好適にはこのポリアミック酸100重量部に対して0.01〜1重量%の(ポリ)リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルのアミン塩などの有機リン含有化合物あるいは無機リン化合物および、ポリアミック酸100重量部に対して0.1〜3重量部のコロイダルシリカ、窒化珪素、タルク、酸化チタン、燐酸カリウムなどの無機フィラ-(好適には平均粒径0.005〜5μm、特に0.005〜2μm)を添加してポリアミック酸溶液組成物を調製する。
【0018】このポリアミック酸溶液組成物を平滑な表面を有するガラスあるいは金属製の支持体表面に流延して前記溶液の薄膜を形成し、その薄膜を乾燥する際に、乾燥条件を調整して(好適な条件は温度:100〜160℃、時間:1〜60分間)乾燥することにより、固化フィルム中、前記溶媒及び生成水分からなる揮発分含有量が30〜50重量%、イミド化率が10〜60%である長尺状固化フィルムを形成し、上記固化フィルムを支持体表面から剥離する。
【0019】次いで、固化フィルムの片面または両面にアミノシラン系、エポキシシラン系あるいはチタネート系の表面処理剤を含有する表面処理液を塗布した後、さらに乾燥することもできる。表面処理剤としては、γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン、N-(アミノカルボニル)-γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン、N-〔β-(フェニルアミノ)-エチル〕-γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン、γ-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系や、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチル-トリメトキシシラン、γ-グリシリドキシプロピル-トリメトキシシランなどのエポキシシラン系や、イソプロピル-トリクミルフェニル-チタネート、ジクミルフェニル-オキシアセテート-チタネートなどのチタネ-ト系などの耐熱性表面処理剤が使用できる。表面処理液は前記の表面処理剤を0.5〜50重量%含む低級アルコール、アミド系溶媒などの有機極性溶媒溶液として使用できる。表面処理液はグラビアコート法、シルクスクリーン、浸漬法などを使用して均一に塗布して薄層を形成することが好ましい。
【0020】この発明の芳香族ポリイミドフィルムの製造法の一例の、キュア炉内におけるキュア前の好適な加熱条件を示す図1を使用して、以下に示す。すなわち、前記のようにして得られた固化フィルムを必要であればさらに乾燥して、好ましくは乾燥フィルムの揮発分含有量が10〜45重量%となるように調整した後、乾燥フィルムの幅方向の両端縁を把持した状態で、図1に示すキュア炉内におけるキュア炉入口における温度(℃)(100〜250℃)×滞留時間(分)が斜線の範囲内になるように乾燥後、最高加熱温度:400〜500℃の温度が0.5〜30分間となる条件で該乾燥フィルムを加熱して乾燥およびイミド化して、残揮発物量0.4重量%以下で、イミド化を完了することによって芳香族ポリイミドフィルムとして好適に製造することができる。また、前記キュアリング工程の後、芳香族ポリイミドフィルムの片面あるいは両面をアルカリ処理した(例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液浸漬後、水洗・乾燥)後、前記の表面処理液を塗布し乾燥することによっても、同様にフィルム表面を表面処理することができる。
【0021】上記のようにして得られた芳香族ポリイミドフィルムを、好適には低張力下あるいは無張力下に200〜400℃程度の温度で加熱して応力緩和処理し、巻き取る。
【0022】前記の芳香族ポリイミドフィルムは、前述の製造時のキュア炉内のキュア前の加熱条件を前記の図1に示す範囲内にコントロールすること及びキュア条件を前記の温度および時間の範囲内にすることによって厚みが10〜75μmのものであって、揮発物含有量が0.4重量%以下で、かつ比端裂抵抗値が本発明で規定した値をとるようにすることができる。
【0023】この発明における芳香族ポリイミドフィルムは、好適にはテトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミンとを重合する方法によって容易に得ることができるが、ポリアミック酸としては、前記フィルムの物性値を満足する範囲内であれば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとともに他の成分を重合してもよく、また、結合の種類はランダム重合、ブロック重合のいずれであってもよい。また、最終的に得られるポリイミドフィルム中の各成分の合計量が前記範囲内であれば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むポリアミック酸とパラフェニレンジアミンを含むポリアミック酸に他の成分からなるポリアミック酸成分を混合して使用してもよい。いずれの場合も前記と同様にして目的とする芳香族ポリイミドフィルムを得ることができる。また、この発明における芳香族ポリイミドフィルムは、上述の熱イミド化に限定されず、前記条件の範囲内であれば化学イミド化によっても同様に行うことができる。
【0024】この発明における芳香族ポリイミドフィルムは、そのまま、あるいは表面処理剤で処理していない場合は、好適にはコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、火炎処理で表面処理を施した後、接着剤を塗布あるいはこれら接着剤のフィルムを積層して接着剤層を設けることができる。
【0025】上記芳香族ポリイミドフィルム、好適にはフィルムの表面処理面に導電体層を積層する方法としては、蒸着法、スパッタ法、メッキ法で導電体層を直接積層してもよく、あるいは接着剤を介して導電体層を積層しても良い。接着剤を介して導電体層を積層する場合の接着剤は、熱硬化型でも熱可塑型でも良い。特に、ポリイミド接着剤、エポキシ樹脂接着剤、アクリル樹脂接着剤、ポリアミド樹脂系接着剤などが好適に使用される。
【0026】この発明における導電体は、金属、例えばアルミニウム、銅、銅合金等が挙げられ、銅箔が一般的に使用される。銅箔としては、電解銅箔、圧延銅箔であり、その引張強度が17Kg/mm2以上であるものが好ましい。また、その厚みは8〜50μmであることが好ましい。
【0027】この発明の芳香族ポリイミドフィルムには直接、あるいは好適には接着剤を介して導電体を積層したのち、回路を形成してもよい。導電体に回路を形成する場合は、芳香族ポリイミドフィルム上に直接あるいは接着剤を介して導電体を積層して導電基板を製造した後、その導電体表面に例えばエッチングレジストを回路パタ-ン状(配線パタ-ン状)に印刷して、配線パターンが形成される部分の導電体の表面を保護するエッチングレジストの配線パタ-ンを形成した後、それ自体公知の方法でエッチング液を使用して配線が形成されない部分の導電体をエッチングにより除去し、エッチングレジストを除去することによって行うことができる。回路パターン上面に直接あるいはシランカップリング剤のような表面処理剤で処理した後、コート材(液状物)を塗布した後加熱乾燥してコ-ト層を形成してもよい。
【0028】
【実施例】以下にこの発明の実施例を示す。以下の各例において、ポリイミドフィルムの物性測定は以下の方法によって行った。
吸水率:ASTM D570-63に従って測定(23℃×24時間)
引張弾性率:ASTM D882-64Tに従って測定(MD)
線膨張係数(50〜200℃):300℃で30分加熱して応力緩和したサンプルをTMA装置(引張りモ-ド、2g荷重、試料長10mm、20℃/分)で測定
【0029】イミド化率:FI-IR(ATR法)により1780cm-1と1510cm-1の吸光度の比から求めた。測定はフィルムのA面について行った。
揮発物含有量(固化フィルム):下記式により求めた。
揮発物含有量=〔(A-B)/A〕×100A:加熱前のフィルム重量B:420℃、20分加熱後のフィルム重量揮発物含有量(ポリイミドフィルム):下記式により求めた。
揮発物含有量=〔(A-B)/A〕×100A:150℃、10分加熱後のフィルム重量B:450℃、20分加熱後のフィルム重量
【0030】絶縁破壊電圧:ASTM D149-64に従って測定(25℃)
体積抵抗率:ASTM D257-61に従って測定(25℃)
誘電率:ASTM D150-64Tに従って測定(25℃、1KHz)
【0031】[実施例1]内容積100リットルの重合槽に、N,N-ジメチルアセトアミド54.6kgを加え、次いで,3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物8.826kgとパラフェニレンジアミン3.243kgとを加え、30℃で10時間重合反応させて、ポリマーの対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ミリリットル溶媒、溶媒:N,N-ジメチルアセトアミド)が1.60、ポリマ-濃度が18重量%であるポリアミック酸(イミド化率:5%以下)溶液を得た。このポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸100重量部に対して0.1重量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩および0.5重量部の割合(固形分基準)で平均粒径0.08μmのコロイダルシリカを添加して均一に混合してポリアミック酸溶液組成物を得た。このポリアミック酸溶液組成物の回転粘度は3000ポイズであった。このポリアミック酸溶液組成物をTダイ金型のスリットから連続的に、キャスティング・乾燥炉の平滑な支持体に押出して前記溶液の薄膜を形成し、平均温度:141℃で乾燥して長尺状固化フィルムを形成した。この支持体表面から剥離して長尺状固化フィルムを得た。次いで、N,N-ジメチルアセトアミドのアミノシラン表面処理液を長尺状固化フィルムの両面に均一に塗布した後乾燥して、表面処理した乾燥フィルムを得た。この乾燥フィルムは溶媒および生成水分からなる揮発分含有量は27重量%であった。次いで、該表面処理した乾燥フィルムの幅方向を把持した状態で、キュア炉内でキュアして(入口における温度×滞留時間=240℃×2分、最高温度×最高温度滞留時間=480℃×1分)、両面を表面処理剤で処理した厚み25μmの長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを連続的に製造した。この芳香族ポリイミドフィルムについて測定、評価した結果を表1に示す。
【0032】[実施例2]Tダイ金型のスリット巾を変えた他は実施例1と同様にして長尺状固化フィルムを得た。長尺状固化フィルムの両表面に表面処理液を塗布せず、実施例1と同様に加熱・乾燥して乾燥フィルムを得た。このフィルムは揮発物含有量が27重量%であった。次いで、該乾燥フィルムの幅方向を把持した状態で、キュア炉内でキュアして(入口における温度×滞留時間=200℃×4分、最高温度×最高温度滞留時間=480℃×3分)、厚み50μmの長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを連続的に製造した。この芳香族ポリイミドフィルムについて測定・評価した結果を表1に示す。
【0033】[実施例3]実施例2と同様にして長尺固化フィルムを製造した。次いで、実施例1と同様にして表面処理した乾燥フィルムを得た。このフィルムは揮発分含有量が28重量%であった。次いで、該乾燥フィルムの幅方向を把持した状態で、キュア炉内でキュアして(入口における温度×滞留時間=200℃×2.5分、最高温度×最高温度滞留時間=480℃×3分)、両面を表面処理剤で処理した厚み50μmの長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを連続的に製造した。この芳香族ポリイミドフィルムについて測定・評価した結果を表1に示す。
【0034】[実施例4]Tダイ金型のスリット巾を変えた他は実施例2と同様にして長尺状固化フィルムを得た。次いで、実施例2と同様にして表面処理しない乾燥フィルムを得た。このフィルムは揮発分含有量が30重量%であった。次いで、該乾燥フィルムの幅方向を把持した状態で、キュア炉内でキュアして(入口における温度×滞留時間=140℃×5分、最高温度×最高温度滞留時間=480℃×3分)、厚み75μmの長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを連続的に製造した。この芳香族ポリイミドフィルムの両面をアルカリ処理した(水酸化ナトリウム30%水溶液30分浸漬後、水洗・乾燥)後、実施例1と同様にして表面処理して、両面を表面処理剤で処理した厚み75μmの長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを連続的に製造した。この芳香族ポリイミドフィルムについて測定・評価した結果を表1に示す。
【0035】[実施例5]Tダイ金型のスリット巾を変えた他は実施例2と同様にして長尺状固化フィルムを得た。長尺状固化フィルムの両表面に表面処理液を塗布せず、実施例2と同様に加熱・乾燥して乾燥フィルムを得た。このフィルムは揮発物含有量が30重量%であった。次いで、該乾燥フィルムの幅方向を把持した状態で、キュア炉内でキュアして(入口における温度×滞留時間=105℃×9分、最高温度×最高温度滞留時間=450℃×15分)、厚み75μmの長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを連続的に製造した。この芳香族ポリイミドフィルムについて測定・評価した結果を表1に示す。
【0036】[評価例]実施例1〜5で得られた芳香族ポリイミドフィルムについて金型での切断面を観察したところ、直線性が保たれていた。さらに、実施例1〜5で得られた芳香族ポリイミドフィルムは、そのままあるいは(表面処理していない場合)プラズマ処理等した後、エポキシ樹脂系接着剤あるいは熱可塑性ポリイミド系接着剤を用いて、電解銅箔(35μm)と熱圧着(170℃、40kg/cm2、5分)したところ、剥離強度の大きい(剥離強度:2kg/cm以上、180度)積層体が得られた。また、実施例1〜5で得られた芳香族ポリイミドフィルムの加熱収縮率(25℃、2時間、JIS C2318)は、いずれも0.3%以下であった。
【0037】
【表1】

【0038】
【発明の効果】この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載のような効果を奏する。この発明の芳香族ポリイミドフィルムは、打ち抜き性が良好であり、しかも接着性を保持しており、高精度の加工が可能である。また、この発明の積層体は、良好な接着性とともに高精度の加工性を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の芳香族ポリイミドフィルムの製造法の一例の、キュア炉内におけるキュア前の好適な加熱条件の範囲を示す。
縦軸 キュア炉入口における温度(℃)×滞留時間(分)
横軸 フィルムの厚み(μm)
斜線 好ましい範囲
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-14 
出願番号 特願平9-63751
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 石井 あき子
佐野 整博
登録日 2002-10-04 
登録番号 特許第3355986号(P3355986)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 芳香族ポリイミドフィルム及び積層体  
代理人 柳川 泰男  
代理人 柳川 泰男  

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