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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08L 審判 一部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1125808 |
異議申立番号 | 異議2003-73302 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-09-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-19 |
確定日 | 2005-09-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3449660号「高分子可溶化剤」の請求項1、3〜7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3449660号の請求項1、3〜7に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1] 手続きの経緯 本件特許第3449660号は、平成7年2月24日に出願され、平成15年7月11日にその特許権の設定登録がされたものであって、これに対して特許異議申立人:水島暁美より請求項1、3〜7に係る特許について特許異議の申立がなされ、平成16年9月16日付で取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月24日に特許異議意見書および訂正請求書が提出され、その後の平成17年2月4日付で審尋がなされ、これに対して同年4月14日に審尋回答書が提出され、同年7月20日に実験報告書の添付された上申書が提出されたものである。 [2] 訂正の適否についての判断 1.訂正の要旨 特許権者が求める訂正事項は下記の通りである。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、(イ)「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られる」という構成を付加すると共に、(ロ)「この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、」との構成を付加する。 すなわち、「【請求項1】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、前記アミノ基含有ポリマーはポリリシンであることを特徴とする高分子可溶化剤。」を、 「【請求項1】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーはポリリシンであることを特徴とする高分子可溶化剤。」に訂正する。 (2)訂正事項b 特許請求の範囲の請求項3の「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、(イ)「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られる」という構成を付加すると共に、(ロ)「この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、」との構成を付加する。 すなわち、「【請求項3】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、前記脂肪族カルボン酸は酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはステアリン酸のいずれか一種であることを特徴とする高分子可溶化剤。」を、 「【請求項3】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記脂肪族カルボン酸は酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはステアリン酸のいずれか一種であることを特徴とする高分子可溶化剤。」に訂正する。 (3)訂正事項c 特許請求の範囲の請求項4の「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、(イ)「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られる」という構成を付加すると共に、(ロ)「この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、」との構成を付加する。 すなわち、「【請求項4】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、前記脂肪族カルボン酸はカプロン酸であることを特徴とする高分子可溶化剤。」を、 「【請求項4】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記脂肪族カルボン酸はカプロン酸であることを特徴とする高分子可溶化剤。」に訂正する。 (4)訂正事項d 特許請求の範囲の請求項5の「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、(イ)「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られる」という構成を付加すると共に、(ロ)「この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、」との構成を付加する。 すなわち、「【請求項5】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、前記アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比は、10/2〜10/18(ポリアミンのアミノ基/脂肪族カルボン酸)であることを特徴とする高分子可溶化剤。」を、「【請求項5】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比は、10/2〜10/18(ポリアミンのアミノ基/脂肪族カルボン酸)であることを特徴とする高分子可溶化剤。」に訂正する。 (5)訂正事項e 特許請求の範囲の請求項7の「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、(イ)「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られる」という構成を付加すると共に、(ロ)「この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、」との構成を付加する。 すなわち、「【請求項7】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、前記アミノ基含有ポリマーの濃度は1(mmol/l)以上であることを特徴とする高分子可溶化剤。」を、 「【請求項7】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーの濃度は1(mmol/l)以上であることを特徴とする高分子可溶化剤。」に訂正する。 2.訂正の可否の判断 (1)訂正事項aについて 訂正事項aは実質的には2つの訂正(イ)及び(ロ)を含むので、その各々について以下検討する。 訂正事項(イ)について (イ)は「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られる」とその製造の方法を規定するものであるところ、そのことは願書に添付された明細書における「(可溶化方法)本発明における可溶化剤は、ポリアミンと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解すればよい。………」(段落【0025】)との記載に基づくものであり、ここでポリアミンとはその前に記載された「 (アミノ基含有ポリマー) アミノ基含有ポリマーとしては、例えば、下記の式1で示されるポリリシン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ジエチルアミノエチルセルロース、キトサン、式2で示されるアミノ化ポリエチレングリコール(アミノ化PEG)等が例示される。………」(段落【0007】)との記載及び段落【0010】の【式1】「 」や段落【0011】の【式2】「 」 を見れば、〔アミンの重合体のことではなく〕多数(ポリ)のアミノ基を含有するポリマーのことであることは直ちに了解されることである〔因みに、段落【0007】の(アミノ基含有ポリマー)は前審における補正の前は(ポリアミン)であり、願書に最初に添付された明細書の【請求項1】には「ポリアミン(アミノ基含有ポリマー)」と記載されていた。〕から、(イ)の訂正は願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でした訂正であると認められる。 そして、当該訂正は、アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とが水に溶解している点で特許請求の範囲を限定するものである。そして、それによって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正事項(ロ)について (ロ)は「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤」について、「この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり」とその使用の方法を規定するものであるところ、そのことは願書に添付された明細書の「(可溶化方法)本発明における可溶化剤は、ポリアミンと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解すればよい。この溶液(可溶化剤)中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する。」(段落【0025】)との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でした訂正であると認められる。 そして、高分子可溶化剤の使用方法(用途)を規定することは特許請求の範囲を減縮することに他ならない。そして、それによって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項b〜e 訂正事項b〜eはいずれも実質的には訂正事項aと同様に2つの訂正(イ)及び(ロ)を含むものであるところ、訂正(イ)及び(ロ)が容認できるものであることは(1)で述べたとおりであるから、訂正事項b〜eはいずれも願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でした訂正であり、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもはない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3] 本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1、3〜7に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、3〜7に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーはポリリシンであることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項3】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記脂肪族カルボン酸は酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはステアリン酸のいずれか一種であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項4】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記脂肪族カルボン酸はカプロン酸であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項5】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比は、10/2〜10/18(ポリアミンのアミノ基/脂肪族カルボン酸)であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項6】前記アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比は、10/5〜10/15(ポリアミンのアミノ基/脂肪族カルボン酸)であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項7】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーの濃度は1(mmol/l)以上であることを特徴とする高分子可溶化剤。」 [4] 特許異議申立の理由、及び、取消理由の概要 1.特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は甲第1〜6号証を提出し、おおよそ次のような主張をしている。 (1)本件請求項1、3、5〜7に係る発明は甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。 (2)本件請求項3及び4に係る発明は甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があり、本件請求項1、3〜7に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 2.当審が通知した取消理由の概要 当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 (1)取消理由1 1)本件請求項1及び3〜4に係る発明は刊行物1〜刊行物3に、本件請求項5〜6に記載された発明は刊行物3に、本件請求項7に係る発明は刊行物1に、それぞれ記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。 2)本件請求項3〜4に記載された発明は、刊行物1〜刊行物3に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2)取消理由2 本件明細書には記載の不備があり、本件請求項1、3〜7に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満足しない出願に対してなされたものである。 3.取消理由で引用した刊行物 刊行物1:特開昭62-221616号公報(異議申立人の提出した甲第1号証) 刊行物2:特開昭61-243010号公報(同甲第2号証) 刊行物3:特開昭62-286918号公報(同甲第3号証) 刊行物4:化学便覧 基礎編 改訂4版 (日本化学会編、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、平成13年6月15日第3刷発行 II-178〜II-179頁)(同甲第4号証) 刊行物5:「Chem.Rev.」(Vol.80,No.4,p.283〜p.299,1980)(同甲第5号証) 刊行物6:「J.Am.Chem.Sco.」(Vol.99,No.7,p.2039〜p.2044,1977)(同甲第6号証) 4.刊行物1〜6の記載事項 上記刊行物には以下に摘示した事項が記載されている。 1.刊行物1:特開昭62-221616号公報(異議申立人の提出した甲第1号証) (1-1) 「イプシロソ-ポリ-L-リジン及び/またはその塩を配合してなる頭髪化粧料。」(第1頁左欄特許請求の範囲 なお、イプシロソはイプシロンの誤記と認められる。) (1-2) 「本発明はイプシロン-ポリ-L-リジン(・・・以下ε-PLと略記する)及び/またはその塩を配合してなる、皮膚安全性、フケ防止効果及び官能特性に優れた頭髪化粧料に関する。」(第1頁左欄下から12行〜8行) (1-3) 「ε-PLの構造及び特性値は下記の通りである。 (1)構造 n=20〜30」(第2頁左上欄下から2行〜右上欄2行 なお、(1)は原文では○の中に数字の1である。) (1-4) 「実施例ST-3,4、比較例ST-1,2〔スカルプトリートメント〕 (2)調製法 成分(B)中に成分(A)を溶解或いは分散せしめ、次いでこの成分(A)(B)と成分(C)とを各々80℃に加熱して均一に溶解した後混合する。 更に成分(D)を加えて攪拌しながら温度を30℃まで冷却する。」(第5頁右上欄下から2行〜右下欄2行) (1-5) 第3表の実施例ST-4の欄に、抗菌性物質(配合量wt%)としてε-PL(0.5)、ε-PLクエン酸塩(0.5)を含むことが記載されており、そのフケ防止効果は4.6と記載されている。」(第6頁 第3表) 2.刊行物2:特開昭61-243010号公報(異議申立人の提出した甲第2号証) (2-1) 「streptomyces albulus No-346菌株の生産物より分離、精製したε-ポリリジン及びその塩酸塩を防腐・殺菌剤として配合したことを特徴とする化粧料。」(第1頁左欄特許請求の範囲) (2-2) 「本発明において使用するε-ポリリジン塩酸塩は・・・図1の構造式で示されるようにL-リジンに1分子の塩酸と1分子の水分子を含む基本骨格が、25〜30個重合したポリペプチドである。 」(第1頁右下欄下から2行〜第2頁左上欄下から8行) (2-3) 実施例2としてアクネクリームの処方が記載されており、その処方は、油相成分Aはステアリン酸4.0部、セチルアルコール3.0部、ステアリルアルコール1.0部、流動パラフィン6.5部、ワセリン10.0部、ソルビタンモノステアレート1.5部、ポリオキシエチレンモノステアレート3.0部であり、水相成分Bは1,3-ブチレングリコール5.0部、水酸化カリウム0.1部、ε-ポリリジン0.3部、コロイドイオウ2.0部、精製水63.6部、C成分として香料適量というものである。 (第4頁右下欄下から4行〜第5頁15行) 3.刊行物3:特開昭62-286918号公報(異議申立人の提出した甲第3号証) (3-1) 「(1)ポリリシンを有効成分とする皮膚防臭剤組成物。 (2)ポリリシンがε-ポリリシンである特許請求の範囲第1項記載の皮膚防臭剤組成物。 (3)ポリリシンがポリリシンの有機酸或いは無機酸の塩である特許請求の範囲第1項記載の皮膚防臭剤組成物。」(第1頁左下欄特許請求の範囲) (3-2) 「ポリリシンは、一つの構成アミノ酸分子中に、一個の遊離アミノ基を持つので、フリーの形のポリリシンとしても用いられるが、通常、無機酸もしくは有機酸の塩として用いられる。・・・塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、プロピオン酸塩、パルミチン酸塩等の有機酸塩等、いずれの形であっても本発明の目的に使用し得る。」(第2頁左下欄2行〜13行) (3-3) 「皮膚の防臭を達成するために、本発明のポリリシンは目的にふさわしい形状にして施される。・・・又、液に溶かし液体スプレー、クリーム、オイル、軟膏等にして用いることもできる。・・・ポリリシンを配合した皮膚防臭剤の形態は特に限定されなく、例えば、わきの下や股に施す場合は、スプレー、パウダー、クリーム及び軟膏等が望ましい。」(第2頁右下欄3行〜第3頁左上欄6行) (3-4) 「(実施例) 次に示す組成の皮膚防臭剤組成物を調製した。 (組成) ε-ポリリシン塩酸塩 2.0% ヒドロキシプロピルセルロース 0.5% タルク 97.5% 調製方法は次の如く行った。 ε-ポリリシン塩酸塩の水溶液をポリリシンがタルクに対して2%付着するようによく混合した後、減圧下で乾燥して水分を蒸発せしめた。・・・なお、前記実施例ではε-ポリリシン塩酸塩を用いたが、遊離のε-ポリリシン、α-ポリリシン臭化水素酸塩、ε-ポリリシンの硫酸塩、プロピオン酸塩、パルミチン酸塩等についても同様の実験を行った。」(第3頁左上欄14行〜左下欄9行) 4.刊行物4:化学便覧 基礎編 改訂4版 (日本化学会編、丸善株式会社、平成5年9月30日発行、平成13年6月15日第3刷発行 II-178〜II-179頁)(異議申立人の提出した甲第4号証) (4-1)表8.62に水に対する有機化合物の溶解度(室温付近)が記載されており、溶質がピレンの場合、溶解度は1.75×10-5質量% であることが記載されている。(II-178〜179頁) 5.刊行物5:「Chem.Rev.」(Vol.80,No.4,p.283〜p.299,1980)(異議申立人の提出した甲第5号証) (5-1) 「ピーク強度比III/I はピレンを取り巻く溶媒の環境を調べる役に立つ。」(第288頁右欄下から15行〜14行) 6.刊行物6:「J.Am.Chem.Sco.」(Vol.99,No.4,p.2039〜p.2044,1977)(異議申立人の提出した甲第6号証) (6-1) 「ピーク強度比3/1は溶媒の双極子モーメントとピレンの励起一重項との相互作用の大きさを調べるために使うことができる。」(第2042頁右欄35行〜37行) (6-2) 「 ……… ピレンは強く疎水的なプローブであり、その水中での溶解度はきわめて低い(2〜3μM)。 ……… FiG.2は、ラウリルスルホン酸ナトリウム塩(NaLS)の水溶液の臨界濃度(cmc)の上と下での濃度における典型的なピレンの蛍光スペクトルを示している。cmc以下ではミセルは存在しない。ピレン蛍光スペクトルは水中での3/1比として「〜0.066」までの値となる(水中でのピレンの3/1比は0.64である。)。とはいえ、洗剤の濃度がcmcの上に増加するにつれてピレンは3/1比の増大に見られるように疎水性の内部に溶解する。FIG.3はNaLSの濃度の果す役割について2μMピレンのバンドの強さの3/1比に変化があることを示している。このカーブはcmcにおける3/1比が鋭く変わることを示している。」(2042頁右欄45行〜2043頁左欄3行) [5]本件請求項1、3〜7に係る発明の特許に対する判断 1.特許法第29条第1項第3号及び同条第2項についての判断 (1)本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。本件請求項3以降に係る発明についても同様。)について 刊行物1に記載された発明と本件発明1を対比する。 刊行物1に記載された発明は、その特許請求の範囲に「イプシロン-ポリ-L-リジン及び/またはその塩を配合してなる頭髪化粧料。」と記載され(摘示事項(1-1))、また、発明の詳細な説明の(技術分野)の項に「本発明はイプシロン-ポリ-L-リジン(・・・以下ε-PLと略記する)及び/またはその塩を配合してなる、皮膚安全性、フケ防止効果及び官能特性に優れた頭髪化粧料に関する。」と記載されている(摘示事項(1-2))ように、イプシロン-ポリ-L-リジンを配合することによってフケ等の防止を意図するものである。 そして、そこで用いられるイプシロン-ポリ-L-リジンは、刊行物1に示された化学式;即ち n=20〜30 によれば(摘示事項(1-3))、多数のアミノ基を含有するポリマーであり、リシン(α,ε-ジアミノカプロン酸)の重合体に他ならないから、本件発明1のポリリシンと同じものである。 しかしながら、刊行物1には、イプシロン-ポリ-L-リジンが可溶化剤となることは記載も示唆もされていない。 刊行物1の実施例の〔スカルプトリートメント〕の処方には、ε-PL(イプシロン-ポリ-L-リジン)、ε-PLクエン酸塩からなる抗菌性物質とステアリン酸(これはいうまでもなく本件発明の脂肪族カルボン酸である。)、ミツロウ、ラノリン、スクワラン(これ等3者は本件発明の被可溶化物質である。)を含む水を媒体とする組成物が記載され、80℃で溶解した旨が記載されている(摘示事項(1-4)、(1-5))が、該処方には、これ以外に、ステアリルアルコール、ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E,O)、プロピレングリコール、メチルパラベン、香料、等の成分が配合されているのであるから、イプシロン-ポリ-L-リジンとステアリン酸がミツロウ、ラノリン、スクワラン等の被可溶化物質の水への溶解に専ら貢献しているとは直ちには認めらることはできない。 そして、イプシロン-ポリ-L-リジンとステアリン酸がミツロウ、ラノリン、スクワラン等の被可溶化物質を水へ溶解化するということは記載も示唆もされていない。 一方、本件発明1は「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーがポリリシンであることを特徴とする高分子可溶化剤。」に係るものであるが、本件発明1の骨子である(アミノ基含有ポリマーである)ポリリシンと脂肪族カルボン酸を含む組成物が可溶化剤となることは上述のように刊行物1には記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1は刊行物1に記載された発明でないことはもとより、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものでもない。 刊行物2に記載された発明と本件発明1を対比する。 刊行物2に記載された発明は、その特許請求の範囲に「streptomyces albulus No.-346菌株の生産物より分離、生成したε-ポリリジン及びその塩酸塩を防腐・殺菌剤として配合したことを特徴とする化粧料。」と記載されている(摘示事項(2-1))ように、ε-ポリリジンによって防腐・殺菌を意図するものである。 そして、そこで用いられるε-ポリリジンは刊行物2に示された化学式;即ち によれば(摘示事項(2-2))多数のアミノ基を含有するポリマーであり、リシン(α,ε-ジアミノカプロン酸)の重合体に他ならないから、本件発明1のポリリシンと同じものである。 しかしながら、刊行物2には、ε-ポリリジンが可溶化剤となることは記載も示唆もされていない。 刊行物2の実施例2の〔アクネクリ-ム〕の処方にはε-ポリリジンとステアリン酸(これはいうまでもなく本件発明の脂肪族カルボン酸である。)、流動パラフィン、ワセリン(これ等は本件発明の被可溶化物質である。)を含む水を媒体とする組成物が記載されている(摘示事項(2-3))が、その製造方法については「油相成分A及び水相成分Bをそれぞれ70〜75℃に加熱溶解した後、成分Aに成分Bを加えて乳化し、冷却途上で成分Cを加え混合し、30℃まで冷却し製品とする。」と記載されている(摘示事項(2-3))ように、「乳化」するのであって「溶解」するのではないから、本件発明の可溶化とは異なるものであるといわざるを得ない。 ましてや、刊行物2には、ε-ポリリジンとステアリン酸が流動パラフィン、ワセリン等の被可溶化物質を水へ溶解化するということは記載も示唆もされていない。 一方、本件発明1は「アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーがポリリシンであることを特徴とする高分子可溶化剤。」に係るものであるが、本件発明1の骨子である(アミノ基含有ポリマーである)ポリリシンと脂肪族カルボン酸を含む組成物が可溶化剤となることは上述のように刊行物2には記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1は刊行物2に記載された発明でないことはもとより、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものでもない。 刊行物3に記載された発明と本件発明1を対比する。 刊行物3に記載された発明はその特許請求の範囲に「(1)ポリリシンを有効成分とする皮膚防臭剤組成物。 (2)ポリリシンがε-ポリリシンである特許請求の範囲第1項記載の皮膚防臭剤組成物。 (3)ポリリシンがポリリシンの有機酸或いは無機酸の塩である特許請求の範囲第1項記載の皮膚防臭剤組成物。」と記載されている(摘示事項(3-1))ように、ポリリシンによって皮膚の防臭を計ろうとするものである。 そして、そこで用いられるポリリシンは多数のアミノ基を含有するポリマーであり、リシン(α,ε-ジアミノカプロン酸)の重合体に他ならないから、本件発明1のポリリシンと同じものである。また、刊行物3の発明ではこのポリリシンはプロピオン酸塩、パルミチン酸塩のような有機酸塩でもよい(摘示事項(3-1)、(3-2)、(3-4))ことが記載されている。 しかしながら、刊行物3には、ポリリシンやその有機酸塩が可溶化剤となることは記載も示唆もされていない。 刊行物3には「・・・本発明のポリリシンは・・・、担体と混合してパウダー状にして用いることもできる。又、液に溶かして液体スプレー、クリーム、オイル、軟膏にして用いるとこともできる。・・・」(摘示事項(3-3))と記載されており、ポリリシンが液に溶けることは示されているが、それによって被可溶化物を液に可溶化することは記載も示唆もされていない。ましてや、(ポリリシンの脂肪族カルボン酸塩でなく)ポリリシンと脂肪族カルボン酸塩の組成物を用いて被可溶化物質を液に可溶化することは記載も示唆もされていない。 したがって、本件発明1が刊行物3に記載された発明でないことはもとより、刊行物3に記載された発明に基づいて容易に当業者が発明し得るものでもない。 以上のとおり、刊行物1〜3には、いずれにもポリリシンと脂肪族カルボン酸の組成物が可溶化剤となることは記載も示唆もされていないから、刊行物1〜3に記載された発明を組み合わせてみても、本件発明1が当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 (2)本件発明3について 本件発明3は本件発明1に対し、本件発明1ではアミノ基含有ポリマーがポリリシンに限定されているのに対し、本件発明3ではアミノ基含有ポリマーとされている点、及び、本件発明1では単に脂肪族カルボン酸であるのに対し、本件発明3では脂肪族カルボン酸が酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸またはステアリン酸のいずれか一種であると限定されている点、で相違しているが、前者の点については、アミノ基含有ポリマーはポリリシンを包含する上位の概念であるから、この点で本件発明3は刊行物1〜3に記載された発明と相違するものではないし、後者の点については、本件発明3は本件発明1よりも更に限定されているのであるから、本件発明1が刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明し得るものではないと1.(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明3も刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明4について 本件発明4は本件発明1に対し、本件発明1ではアミノ基含有ポリマーがポリリシンに限定されているのに対し、本件発明4ではアミノ基含有ポリマーとされている点、及び、本件発明1では単に脂肪族カルボン酸であるのに対し、本件発明4では脂肪族カルボン酸がカプロン酸であると限定されている点、で相違しているが、前者の点については、アミノ基含有ポリマーはポリリシンを包含する上位の概念であるから、この点で本件発明4は刊行物1〜3に記載された発明と相違するものではないし、後者の点については、本件発明4は本件発明1よりも更に限定されているのであるから、本件発明1が刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明し得るものではないと1.(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明4も刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明5について 本件発明5は本件発明1に対し、本件発明1ではアミノ基含有ポリマーがポリリシンに限定されているのに対し、本件発明5ではアミノ基含有ポリマーとされている点、及び、本件発明1ではアミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比について何の数値的な限定をしていないのに対し、本件発明5ではアミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比についてそのモル比が10/2〜10/18(ポリアミンのアミノ基/脂肪族カルボン酸)と規定されている点、で相違しているが、前者の点については、アミノ基含有ポリマーはポリリシンを包含する上位の概念であるから、この点で本件発明4は刊行物1〜3記載の発明と相違するものではないし、後者の点については、本件発明5は本件発明1よりも更に限定されているのであるから、本件発明1が刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明し得るものではないと1.(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明5も刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)本件発明6について 本件発明6は本件発明5に対して、アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比についてそのモル比を更に10/5〜10/15(アミノ基含有ポリマーのアミノ基/脂肪族カルボン酸)と狭く限定している点で相違しているのであるから、本件発明5が刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明し得るものではないと1.(4)で述べたのと同様な理由により、本件発明6も刊行物1〜3に記載された発明と同一でなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。 (6)本件発明7について 本件発明7は本件発明1に対して、更にアミノ基含有ポリマーの濃度を1(mol/l)以上であると規定している点で相違しているのであるから、本件発明1が刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明し得るものではないのと1.(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明7も刊行物1〜3に記載された発明ではなく、またそれに基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。 2.特許法第36条第4項についての判断 1)異議申立人の主張(3)及び取消理由2 異議申立人の主張(3)は、おおよそ以下のとおりであり、異議申立書の記載を引用する取消理由2もこれと同趣旨のものである。 本件公報の【実施例】には、「室温とした可溶化剤中に、被可溶化物質としてピレンを3.×10-7Mの濃度で攪拌しながら添加した実施例1」が記載されている。 しかしながら、当該濃度はピレンの飽和溶解度以下の濃度であるから、実施例1で用いた3.0×10-7M濃度のピレンは、水に全溶解していることとなり、被可溶化物質の要件(水に不溶)を満たさない。すなわち本件公報の実施例では、水に不溶である被可溶化物質に対して、本件の高分子可溶化剤を用いて可溶化可能とした具体的方法は何ら記載されていない。 本件公報の第4頁右欄6行目〜11行目【0045】には、「上記可溶化後、蛍光プローブ法により可溶化特性を調査した。蛍光プローブ法に関しては、Chem.Rev.80,283(1980)に紹介されている。ピレンの場合、375nmにおける強度(I3 )と、384nmにおける強度(I3 )強との比により可溶化特性を評価できる。」との記載があるが、Chem.Rev.80,283(1980)(甲第5号証)には、蛍光プローブ法によりピレンの可溶化特性を評価できるとの記載は一切なく、第288頁右欄下から15行目〜14行目に「ピーク強度比III/Iはピレンを取り巻く溶媒の環境を調べる役に立つ。」との記述があるだけであり、甲第6号証を参酌してもこのピーク強度比3/1(ピーク強度比III/I)はピレン分子とその周囲の分子との相互作用を反映しているにすぎない。 さらに、甲第6号証第2043頁のFigure3には、ピレン水溶液に各種濃度のラウリル硫酸ナトリウムを添加した際のピーク強度比3/1が示されているが、これはラウリル硫酸ナトリウムの臨界ミセル濃度近傍でピーク強度比3/1が急激に増加していることを示しているだけであり、臨界ミセル濃度以下においてもピレンが溶解していることは自明であるから、このピーク強度比3/1がピレンの可溶化の指標となり得ないことは明らかである。 したがって、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていない。 2)当審の判断 本件特許明細書には次のような記載が存在する。 「【0039】 【実施例】以下、実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。 【0040】(実施例1) 本例では、アミノ基含有ポリマーとして市販されている食品添加物ポリリシン(チッソ株式会社製)を用い、脂肪族カルボン酸としてカプロン酸を用いた。 【0041】その組成は次の通りとした。 【0042】 ポリリシン 1(wt%) カプロン酸 0.3(wt%) (COOH基の数/NH2 基の数=1) 水 残余 上記組成となるように、ポリリシンとカプロン酸とを攪拌しながら水に添加し、溶解せしめることにより可溶化剤を作成した。 【0043】一方、被可溶化物質としてピレンを用いた。 【0044】上記可溶化剤中にピレンを3.0×10-7Mの濃度で攪拌しながら添加した。なお、可溶化剤は室温とした。 【0045】上記可溶化後、蛍光プローブ法により可溶化特性を調査した。蛍光プローブ法に関しては、Chem.Rev.,80,283(1980)に紹介されている。ピレンの場合、375nmにおける強度(I1 )と、384nmにおける強度(I3 )強との比により可溶化特性を評価できる。 【0046】蛍光プローブ法による結果を図1に示す。 【0047】後述する比較例1(可溶化剤がない場合)に比べると本例では、(I1 )/(I3 )は著しく小さくなっており、本実施例では可溶化特性が優れていることがわかる。 【0048】(比較例1)本例では、可溶化剤を用いない場合を調べた。 【0049】すなわち、水にピレンを攪拌しながら溶解した。溶解後実施例1と同様に、蛍光プローブ法により可溶化特性を調べた。 【0050】結果を図2に示す。図2からわかるように、(I1 )/(I3 )は1.85であった。 ・・・ 【0054】(実施例2)本例では、脂肪族カルボン酸としてラウリン酸を用いた。 【0055】他の点は実施例1と同様とした。 【0056】(I1 )/(I3 )は0.78であった。」 このような記載を見ると、実施例2と比較例1とは本件発明の可溶化剤を使用したものとそうでないものの関係にあるが、実施例2では(I1 )/(I3 )は0.78であるのに対し比較例1では(I1 )/(I3 )は1.85であり、両者の数値に大きな隔たりがあることが認められる。 これについては、上記の段落【0045】の「ピレンの場合、375nmにおける強度(I1 )と、384nmにおける強度(I3 )強との比により可溶化特性を評価できる。」と記載されているところ、同段落において引用されている文献である刊行物5(甲第5号証)には「ピーク強度比III/Iはピレンを取り巻く溶媒の環境を調べる役に立つ。」との記載があり、また、刊行物6(甲第6号証)には「ピーク強度比 3/1は溶媒の双極子モーメントとピレンの励起一重項との相互作用の大きさを調べるために使うことができる。」との記載があり、これ等の記載からはピーク強度比3/1乃至III/Iはピレンとそれを取り巻く溶媒の環境やピレンと溶媒の相互作用を反映するものであることが理解される。 そうであれば本件発明の実施例において可溶化剤を添加することにより無添加の比較例に較べて(I1 )/(I3 )の数値が大きく変化したことは、ピレンとそれを取り巻く溶媒の環境やピレンと溶媒の相互作用が大きく変化したことを物語るものであるといえる〔なお、ここで本件発明の(I1 )/(I3 )は刊行物5及び6の3/1乃至III/Iとは逆数の関係にあるが、両者の比であることには変わりがない。〕。そして、そのような変化は本件発明の可溶化剤(ポリリシンとラウリン酸)の添加によって生じたものであることは明らかである。 そして、平成17年7月20日付けの上申書に記載された実験結果によれば、ポリリシン1wt%、カプロン酸0.3wt%及び残部水の組成物で、ピレン濃度をその溶解度を上回る9×10-6mol/l及び9×10-5mol/lとした場合でも目視で完全に透明な状態に可溶化されていることが示されているのであるから、本件発明の可溶化剤によりピレンが可溶化されることがわかるのである。 そうすると、本件明細書には、上記のような実施例や比較例の実験結果が記載されているのであり、当該実験結果は可溶化剤による可溶化を窺わせるものであることを考慮すれば、実施例はピレンの溶解度を少し下回る濃度で実験したという不十分なものではあるが、可溶化剤としての効果がないとまではいうことができない。 したがって、発明の詳細な説明の記載が当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないとまではいえない。 [6].むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、3〜7に係る特許は、特許異議の申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、3〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 高分子可溶化剤 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーはポリリシンであることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項2】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、前記アミノ基含有ポリマーは、アミノ化ポリエチレングリコールであることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項3】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記脂肪族カルボン酸は酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸またはステアリン酸のいずれか一種であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項4】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記脂肪族カルボン酸はカプロン酸であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項5】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比は、10/2〜10/18(ポリアミンのアミノ基/脂肪族カルボン酸)であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【請求項6】前記アミノ基含有ポリマーのアミノ基と脂肪族カルボン酸とのモル比は、10/5〜10/15(アミノ基含有ポリマーのアミノ基/脂肪族カルボン酸)であることを特徴とする請求項5記載の高分子可溶化剤。 【請求項7】アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解して得られるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有する高分子可溶化剤であって、この溶液中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する高分子可溶化剤であり、前記アミノ基含有ポリマーの濃度は1(mmol/l)以上であることを特徴とする高分子可溶化剤。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、高分子可溶化剤に係り、より詳細には高分子量の被可溶化物質をも可溶化可能な高分子可溶化剤に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、可溶化剤としては界面活性剤が用いられたいた。しかしながら、界面活性剤を例えば化粧品に配合すると望ましくないべたついた使用感を与える他、大量に配合した場合、皮膚に対する安全性が低下することが懸念される。そこで、界面活性剤を用いずにサイクロデキストリン類を用いて可溶化する技術が知られている。 【0003】 しかし、この可溶化剤では可溶化される物質(被可溶化物質)の範囲が限定されている。すなわち、サイクロデキストリンの空隙にフィットする分子サイズのものしか可溶化できず、低分子(分子量約100以下)の疎水性物質やコレステロール、ピレン等立体的に大きな構造を持った物質に対しては可溶化能がなく実用的でない。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、被可溶化物の構造や分子量によらず可溶化可能な高分子可溶化剤を提供することを目的とする。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明は、アミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸とを含有することを骨子とする。 【0006】 【実施態様例】 以下に本発明の実施態様例を各構成要件ごとに分説する。 【0007】 (アミノ基含有ポリマー) アミノ基含有ポリマーとしては、例えば、下記の式1で示されるポリリシン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ジエチルアミノエチルセルロース、キトサン、式2で示されるアミノ化ポリエチレングリコール(アミノ化PEG)等が例示される。なお、アミノ化PEGについては、市販されている片末端アミノ化PEG、両末端アミノ化PEGを用いてもよい。 【0008】 さらに、次のものも用いられる。 【0009】 ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム、塩化ジメチルジアリルアンモニウムアクリルアミド共重合体、ポリエチレングリコール・エピクロルヒドリン・ヤシ油アルキルアミンジプロピレントリアミン縮合物、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、N-メタクリロイルオキシエチルN,N-ジメチルアンモニウムα-N-メチルカルボキシベタインメタクリル酸アルキルエステル共重合体、ビニルピロリドン・メタクリル酸N,N--ジメチルアミノエチルアクリル酸ステアリル・ジアクリル酸トリプロピレングリコール共重合体 【0010】 【式1】 【0011】 【式2】 本発明において使用されるアミノ化PEGとしては次のようにして作製したものが特に好ましい。 【0012】 まず、アリルグリシジルエーテル(AGE)をエチレンオキシド(EO)と共重合し、アリル側鎖を持つPEG誘導体を合成する。次に、コポリマー(Mw=2030、C=C:4.7個/ポリマー)のメタノール溶液を、2-アミノエタンチオール塩酸塩のメタノール溶液に室温で滴下する(SH/C=C=3.5)。さらに40℃で5時間反応させた後、メタノールを減圧除去し、残渣をクロロホルムに溶解して、NaOH水溶液、食塩水で洗浄する。溶媒を除去し、減圧乾燥後、無機塩を濾別し、シロップ状のポリマーを得る。 【0013】 なお、アミノ化PEGとして、特に、次の特性を有するものが好ましい。 【0014】 数平均分子量 1000〜10000 アミノ基 2〜200(個/ポリマー) (脂肪族カルボン酸)脂肪族カルボン酸としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等があげられる。特に酪酸、ラウリン酸が好ましい。 (ポリカルボン酸)ポリカルボン酸としては、例えば、式3で示されるカルボキシル化ポリエチレングリコールが好ましい。 【0015】 【式3】 なお、カルボキシル化PEGは、例えば、次のように作製したものが好ましい。 【0016】 エチレンオキサイドとアリルグリシジエーテルのコポリマー(分子量3990、アリルグリシジルエーテル含量7.0モル%)4.67gを75mlの水に溶かし、KMnO40.17g、NaIO414.27g、K2CO33.46g、水225mlの混合物に加え、室温で一晩攪拌する。塩酸で酸性にした後、ガラスフィルターで濾過し、濾液からポリマーをクロロホルムで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧除去し、白色ワックス状のポリマー3.50gが得られる。 【0017】 カルボキシル化PEGとしては次の特性を有するものが好ましい。 【0018】 数平均分子量 1000〜100000 カルボキシル基 2〜200(個/ポリマー) (脂肪族アミン)脂肪族アミンとしては、例えば、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチレンアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等があげられる。 【0019】 (組成割合)可溶化剤中における、ポリアミンのアミノ基と脂肪族カルボン酸との割合は、mol比で、10/2〜10/18(ポリアミンのアミノ基の数/脂肪族カルボン酸のカルボキシル基の数)が好ましく、10/5〜10/15がより好ましい。 【0020】 また、可溶化剤中における、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数と脂肪族アミンのアミノ基の数との割合は、mol比で、10/2〜10/18(ポリカルボン酸のカルボキシル基の数/脂肪族アミンのアミノ基の数)が好ましく、10/5〜10/15がより好ましい。 【0021】 10/2を以下において可溶化はより優れたものとなる。 【0022】 10/18未満では、不溶の脂肪族カルボン酸(あるいは脂肪族アミン)によるにごりが生じることがあり好ましくない。 【0023】 また、可溶化剤中におけるポリアミンの含有量は1(mmol/l)以上が好ましい。 【0024】 図4にも示されるように、1(mmol/l)以上では急激に可溶化特性が向上する。 【0025】 (可溶化方法)本発明における可溶化剤は、ポリアミンと脂肪族カルボン酸を水に攪拌しながら溶解すればよい。この溶液(可溶化剤)中に被可溶化物質を攪拌混合することにより被可溶化物質を溶解する。 【0026】 なお、溶けにくい場合は水に代え湯を使えばよい。 【0027】 また、ポリカルボン酸と脂肪族アミンを水に攪拌しながら溶解すればよい。 【0028】 (被可溶化物)本発明による高分子可溶化剤によれば、例えば、次のよな物質が可溶化可能である。 【0029】 液体油脂、固体油脂、ロウ類、エステル油、炭化水素油、紫外線吸収剤、抗菌剤、薬剤その他の物質等がある。 【0030】 より具体的には、次の通りである。 【0031】 液体油脂としては、例えば、アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、アボガド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、ホホバ油、ヒマワリ油、アルモンド油、ナタネ油、ゴマ油、大豆油、落花生油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパル、ミチン酸グリセリン等がある。 【0032】 固体油脂としては、例えば、カカオ脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、硬化油、硬化ヒマシ油、モクロウ、シアバター等がある。 【0033】 ロウ類としては、例えば、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ、セラツクロウ等がある。 【0034】 エステル油としては、例えば、オクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソパルミチン酸オクチル、オレイン酸イソデシル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、コハク酸2-エチルヘキシル、セバシン酸ジエチル等がある。 【0035】 炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、パラフィン、イソパラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワツクス等がある。 【0036】 紫外線吸収剤としては、バラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸オクチル、サリチル酸フェニル等のサリチル酸系紫外線吸収剤、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、等のケイ皮酸系紫外線吸収剤、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4-tert-ブチル-4‘-メトキシベンゾイルメタン等がある。 【0037】 抗菌剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、パラクロルメタクレゾール、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド等がある。 【0038】 薬剤としては、ビタミンA油、レチノール、パルミチン酸レチノール、イノシット、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酪DL-α-トコフェロール、ビタミンD2(エルゴカシフェロール)、dl-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール、パントテン酸、ビオチン等のビタミン類、エストラジオール、エチニルエストラジオール等のホルモン、L-メントール、カンフル等の清涼剤やイオウ、γ-オリザノール等がある。 【0039】 【実施例】以下、実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。 【0040】 (実施例1) 本例では、アミノ基含有ポリマーとして市販されている食品添加物ポリリシン(チッソ株式会社製)を用い、脂肪族カルボン酸としてカプロン酸を用いた。 【0041】 その組成は次の通りとした。 【0042】 ポリリシン 1(wt%) カプロン酸 0.3(wt%) (COOH基の数/NH2基の数=1) 水 残余 上記組成となるように、ポリリシンとカプロン酸とを攪拌しながら水に添加し、溶解せしめることにより可溶化剤を作成した。 【0043】 一方、被可溶化物質としてピレンを用いた。 【0044】 上記可溶化剤中にピレンを3.0×10-7Mの濃度で攪拌しながら添加した。なお、可溶化剤は室温とした。 【0045】 上記可溶化後、蛍光プローブ法により可溶化特性を調査した。蛍光プローブ法に関しては、Chem.Rev.,80,283(1980)に紹介されている。ピレンの場合、375nmにおける強度(I1)と、384nmにおける強度(I3)強との比により可溶化特性を評価できる。 【0046】 蛍光プローブ法による結果を図1に示す。 【0047】 後述する比較例1(可溶化剤がない場合)に比べると本例では、(I1)/(I3)は著しく小さくなっており、本実施例では可溶化特性が優れていることがわかる。 【0048】 (比較例1)本例では、可溶化剤を用いない場合を調べた。 【0049】 すなわち、水にピレンを攪拌しながら溶解した。溶解後実施例1と同様に、蛍光プローブ法により可溶化特性を調べた。 【0050】 結果を図2に示す。図2からわかるように、(I1)/(I3)は1.85であった。 【0051】 (比較例2)本例では、実施例1におけるポリリシンに代え、低分子のブチルアミンを用いた。 【0052】 他の点は実施例1と同様とした。 【0053】 蛍光プローブ法による結果を図3に示す。図3からわかるように、(I1)/(I3)は1.79であった。 【0054】 (実施例2)本例では、脂肪族カルボン酸としてラウリン酸を用いた。 【0055】 他の点は実施例1と同様とした。 【0056】 (I1)/(I3)は0.78であった。 【0057】 (実施例3) 本例では、アミノ基含有ポリマーとして式2に記載のアミノ化PEGを用い、脂肪族カルボン酸としてラウリン酸を用いた。 【0058】 アミノ化PEGの分子量等は次のものを用いた。 【0059】 数平均分子量 2390 アミノ基 4.65個/ポリマー 分子量分布 Mw/Mn=1.06 可溶化剤の組成は次の通りとした。 【0060】 アミノ化PEG 0.6(wt%) ラウリン酸 0.2(wt%) (COOH基の数/NH2基の数=1) 水 残余 上記組成となるように、アミノ化PEGとラウリン酸とを攪拌しながら水に溶解せしめた。被可溶化物質としては実施例1と同様にピレンを用いた。 【0061】 上記可溶化剤中にピロンを3.0×10-7Mの濃度で攪拌しながら添加した。なお、可溶化剤は室温とした。 【0062】 上記可溶化後、蛍光プローブ法により可溶化特性を調査した。 【0063】 (I1)/(I3)は0.95であった。 【0064】 (比較例3)本例では、実施例3において、可溶化剤中にアミノ化PEGのみを含有せしめた。すなわち、ラウリン酸は含有せしめなかった。 【0065】 アミノ化PEGの含有量は0.7(wt%)とし、他の点は実施例3と同様とした。 【0066】 (I1)/(I3)は1.55であった。 【0067】 (実施例4) 本例では可溶化剤中におけるアミノ基含有ポリマーと脂肪族カルボン酸の含有量について調べた。 【0068】 アミノ基含有ポリマーはアミノ化PEGを用い、脂肪族カルボン酸はラウリン酸を用いた。アミノ化PEGのアミノ基の数と脂肪族カルボン酸のカルボキシル基の数とは同じモル数含有せしめ、含有量を変化させて(I1)/(I3)を調べた。 【0069】 結果を図4に示す。 【0070】 図4において横軸は、アミノ化PEGのアミノ基の数であり、アミノ基が1個の場合アミノ化PEGは1molとしている。図4に示すように、アミノ化PEGの含有量が1(mmol/l)以上では急激に(I1)/(I3)は小さくなり、可溶化特性が良好になることがわかる。 【0071】 (実施例5)本例では、カルボキシル化PEGとラウリルアミンとを含有せしめた可溶化剤について調べた。 【0072】 カルボキシル化PEGとしては次の特性のものを用いた。 【0073】 数平均分子量 4090 カルボキシ基 5.71個/ポリマー 組成割合は次の通りとした。 【0074】 カルボキシル化PEG 1(wt%) ラウリルアミン 0.26(wt%) (COOH基の数/NH2基の数=1) 水 残余 被可溶化物質としては実施例1と同様にピレンを用いた。 【0075】 上記可溶化剤中にピロンを3.0×10-7Mの濃度で攪拌しながら添加した。なお、可溶化剤は室温とした。上記可溶化後、蛍光プローブ法により可溶化特性を調査した。 【0076】 (I1)/(I3)は0.99であった。 【0077】 さらに、24時間放置後再度(I1)/(I3)を測定したところ、(I1)/(I3)は0.76であった。 【0078】 【発明の効果】 本発明によれば、従来可溶化ができなかった高分子量の被可溶化物質あるいは分子が立体構造を有する被可溶化物質をも容易に可溶化可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】実施例1における蛍光プローブ法による結果を示すグラフである。 【図2】比較例1における蛍光プローブ法による結果を示すグラフである。 【図3】比較例2における蛍光プローブ法による結果を示すグラフである。 【図4】実施例3における蛍光プローブ法による結果を示すグラフである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-08-24 |
出願番号 | 特願平7-37092 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YA
(C08L)
P 1 652・ 531- YA (C08L) P 1 652・ 113- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中川 淳子 |
特許庁審判長 |
一色 由美子 |
特許庁審判官 |
石井 あき子 大熊 幸治 |
登録日 | 2003-07-11 |
登録番号 | 特許第3449660号(P3449660) |
権利者 | 小山 義之 株式会社資生堂 |
発明の名称 | 高分子可溶化剤 |
代理人 | 高野 俊彦 |
代理人 | 高野 俊彦 |
代理人 | 高野 俊彦 |