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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1125857
異議申立番号 異議2003-72708  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-06 
確定日 2005-09-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3403828号「水性複合樹脂分散液およびその製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3403828号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第3403828号の請求項1ないし9に係る発明は、平成6年9月19日に特許出願され、平成15年2月28日にその特許権の設定登録がなされ、その後、天野景昭、梅田敏之より特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成17年3月18日に訂正請求がなされたものである。(以下、特許異議申立人天野景昭、梅田敏之を、それぞれ「申立人1」、「申立人2」という。)

2 訂正の適否についての判断
ア 訂正の内容
訂正請求は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書(平成17年4月21日付け手続補正書参照)のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次の(a)〜(n)のとおりである。
(a)特許請求の範囲の請求項1において、
(i)「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを混合して」とあるのを、
「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して」と訂正し、
(ii)「前記第1の混合物と水性媒体とを混合して第2の混合物を得る混合工程」とあるのを、
「前記第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る混合工程」と訂正し、
(iii)「前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含む水性複合樹脂分散液の製造方法。」とあるのを、
「前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含み、
前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い第2流路と、前記第2流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第3流路と、前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む
水性複合樹脂分散液の製造方法。」と訂正する。
(b)特許請求の範囲請求項2を削除する。
(c)特許請求の範囲の請求項3に、
「前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い複数の第2流路と、前記各第2流路から折曲し、下流側で合流しかつ前記第1流路よりも細い複数の第3流路と、合流した前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む、
請求項1に記載の製造方法。」とあるのを、
「水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程と、
前記第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る混合工程と、
前記第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、前記第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を前記水性媒体中に分散する分散工程と、
前記水性媒体中に分散された前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含み、
前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い複数の第2流路と、前記各第2流路から折曲し、下流側で合流しかつ前記第1流路よりも細い複数の第3流路と、合流した前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む
水性複合樹脂分散液の製造方法。」と訂正し、項番号の「請求項3」を「請求項2」と訂正する。
(d)特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1から3までのいずれかに記載の製造方法。」とあるのを、「請求項1から2までのいずれかに記載の製造方法。」と訂正し、項番号の「請求項4」を「請求項3」と訂正する。
(e)特許請求の範囲請求項5、6を削除する。
(f)特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1から6までのいずれかに記載の製造方法」とあるのを、「請求項1から3までのいずれかに記載の製造方法」と、「前記複合樹脂粒子が分散されている水性媒体と、を含む水性複合樹脂分散液。」とあるのを、「前記複合樹脂粒子が分散されている水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体と、を含む水性複合樹脂分散液。」と訂正し、項番号の「請求項7」を「請求項4」と訂正する。
(g)特許請求の範囲請求項8、9を削除する。
(h)明細書段落番号【0008】に、「本発明の」とあるのを、「本発明にかかる」と、「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを混合」とあるのを、「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」と、さらに、「第1の混合物と水性媒体とを混合して第2の混合物を得る」とあるのを、「第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る」と訂正する。
(i)明細書段落番号【0011】に、「本発明の第2の水性複合樹脂分散液の製造方法」とあるのを、「本発明の技術的範囲からは外れる第2の水性複合樹脂分散液の製造方法」と訂正する。
(j)明細書段落番号【0012】、【0037】、【0046】に、「本発明の第2の製造方法」とあるのを、「前記第2の製造方法」と訂正する。
(k)明細書段落番号【0035】に、「本発明の第2の製造方法」とあるのを、「前記第2の製造方法」と、「本発明の製造方法」とあるのを、「この製造方法」と訂正する。
(l)明細書段落番号【0060】に、「本発明の、第1または第2の製造方法」とあるのを、「本発明の製造方法」と訂正する。
(m)明細書段落番号【0092】、【0093】に、「本発明の第1の」とあるのを、「本発明にかかる」と訂正する。
(n)明細書段落番号【0093】に、「本発明の第2の水性複合樹脂分散液の製造方法」とあるのを、「なお、本発明の技術的範囲を外れる前記第2の水性複合樹脂分散液の製造方法」と訂正する。

イ 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)において、
(i)は、重合体と重合性不飽和単量体とを混合するにあたり、両者が「均一になるまで撹拌混合」すると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、均一になるまで撹拌混合することは、実施例1、9、11、14(段落【0067】、【0075】、【0077】、【0080】)の記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(ii)は、第1の混合物と水性媒体とを混合することにより得られる第2の混合物が、「第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された」ものであると限定するのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「高圧ホモジナイザーの分散部では、・・・第2の混合物に関して・・・、第1の混合物の液滴が分散・破砕されて微細化する。」(段落【0045】)、「混合工程で得られた第2の混合物(分散している液滴の容積平均粒子径は1μmよりも大きい)」(段落【0046】)及び「高圧ホモジナイザーで第2の混合物を処理して液滴の粒子径を微細化する」(同)との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、(iii)は、分散工程において使用される高圧ホモジナイザーを特定の流路をもつものに限定し、第2の混合物をその流路を順次通し処理すると特定するのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、このことは訂正前の請求項2の記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項(b)、(e)、(g)は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項(c)は、訂正前の請求項1の引用形式で記載されていた訂正前の請求項3を独立形式に改め、上記訂正事項(a)の(i)、(ii)と同様の訂正を行い、さらに、先行する請求項の削除に伴い項番号を繰り上げたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項(d)は、請求項の削除による引用する請求項の訂正及び請求項削除に伴う項番号の繰上げであるから、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項(f)における引用する請求項の訂正及び項番号の繰上げは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、水性複合樹脂分散液に「界面活性重合体」をさらに含有させることは、特許請求の範囲の減縮を目的とするもので、訂正前の請求項9に記載されていた事項に基づくものである。したがって、いずれも新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項(h)〜(n)は、発明の詳細な説明の記載を訂正された特許請求の範囲に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、いずれも新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 特許異議の申立てについての判断
ア 本件発明
前述のように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし4に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程と、
前記第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る混合工程と、
前記第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、前記第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を前記水性媒体中に分散する分散工程と、
前記水性媒体中に分散された前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含み、
前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い第2流路と、前記第2流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第3流路と、前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む
水性複合樹脂分散液の製造方法。
【請求項2】
水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程と、
前記第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る混合工程と、
前記第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、前記第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を前記水性媒体中に分散する分散工程と、
前記水性媒体中に分散された前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含み、
前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い複数の第2流路と、前記各第2流路から折曲し、下流側で合流しかつ前記第1流路よりも細い複数の第3流路と、合流した前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む
水性複合樹脂分散液の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程が、前記第1の混合物と、前記水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体とを混合する工程である、請求項1から2までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載の製造方法によって製造されるものであり、
エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、前記第1の重合体と混合された第2の重合体とを含む複合樹脂から構成され、1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する複合樹脂粒子と、
前記複合樹脂粒子が分散されている水性媒体と、
親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体と、
を含む水性複合樹脂分散液。」
(以下、それぞれを「本件発明1」〜「本件発明4」という。)

イ 申立ての理由の概要
申立人1は、甲第1号証〜甲第3号証及び参考資料を提出し、本件の訂正前の請求項1、6〜8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する旨、また、訂正前の請求項1〜9に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである旨を主張している。
また、申立人2は、甲第1号証及び参考資料1〜6を提出し、本件の訂正前の請求項1、4、5、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである旨を主張している。

ウ 取消しの理由の概要
当審では、申立人1、2の提出した甲第1号証を刊行物1、申立人1の提出した甲第2号証でもある申立人2の提出した参考資料6を刊行物2、申立人1の提出した甲第3号証を刊行物3として、申立人1の申立ての理由と同趣旨の取消しの理由を通知した。
なお、申立人2の提出した参考資料5を参考にすれば、高圧ホモジナイザーにより繰り返し処理することにより粒子径が均質化すること、すなわち本件発明でいう粒子径分布の変動係数が小さくなることは技術常識といえる事項である旨を付記した。

エ 刊行物等及びその記載内容
(a)刊行物1:特開平5-310857号公報(申立人1、2の提出した甲第1号証)
刊行物1には、重合性シリコンと非重合性シリコンを含むシリコン成分と、アクリレート及び/またはメタクリレートからなる単量体組成物を、反応性官能基を持つノニオン及び/またはアニオン性乳化剤の存在下に重合するアクリル酸エステル共重合体エマルジョンの製造法及び該エマルジョンを含む水性撥水加工用コーティング剤が記載されている(特許請求の範囲請求項1、2、4参照)。
実施例として、以下の記載がなされている(段落【0030】)。
「(実施例1)シリコン成分として重合性シリコン(FM-0711、チッソ(株)製)5重量部、非重合性シリコン(SH200-100,000、x+y+z=900、東レ・ダウコーニング・シリコン(株)製)5重量部にアクリルモノマーとしてメチルメタクリレート10重量部、2-エチルヘキシルアクリレート38重量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部、更にそれらと共重合するモノマーとしてスチレン38重量部、メタクリル酸2重量部の混合物に重合触媒としてアゾビスイソブチロニトリル0.2重量部を加えて溶解せしめ、これに水を加えて濃度32重量%の液を調整した。乳化剤としてアニオン性で共重合性のあるアデカリアソープSE-10N(旭電化工業(株)製)0.8重量%(対エマルジョン)を上記モノマー水溶液へ加え高圧ホモジナイザー(マントンゴーリン)によって高速乳化を行い、平均粒子径0.350μmのエマルジョンとした。重合反応は該乳化液滴下方式を用い、下記条件で行った。
窒素置換 30分
プレーチャージ モノマー乳化液の5重量%
反応温度 80±1℃
モノマー乳濁液滴下時間 4時間
熟成時間 2時間
得られた共重合体エマルジョンの性状は次のとおりであった。
固形分濃度 31.8重量%
粘度 10cps(30℃ BM型60rpm)
pH 9.9
粒子径(平均) 0.18μm
MFT 0℃ 」
(b)刊行物2:特開平6-192307号公報(申立人1の提出した甲第2号証、申立人2の提出した参考資料6)
刊行物2には、特定の重合性単量体成分を、容積平均粒子径が1μm未満であり、3μm以上の粒子径を有する粒子が全粒子の容積に対して5%以下である微細液滴の状態で水性媒体中に分散させ、この分散状態を保ちつつ単量体成分をラジカル重合する水性樹脂分散体の製造方法が記載されている(特許請求の範囲請求項1)。また、水性媒体中に分散させるにあたり、重合性単量体成分をアルキルメルカプタンの存在下に重合して得られる炭素数が6以上の末端アルキル基を有する水溶性もしくは水分散性の重合体からなる分散安定剤を用いること(同請求項3)、水性媒体中への分散が、単量体成分と分散安定剤と水性媒体との予備分散混合液を高圧ホモジナイザーに導入し、前記高圧ホモジナイザー内において100〜5000kgf/cm2の圧力により1回以上圧送することにより行われること(同請求項4)が記載されている。
実施例の参考例1には、アクリル酸とn-ドデシルメルカプタンとを反応させて数平均分子量1200の「分散安定剤(1)」を製造する方法が(段落【0065】)、また、実施例7では、単量体成分、水、重合開始剤及び「分散安定剤(1)」の混合物を、「(株)イズミフードマシナリ製高圧ホモゲナイザー(HV-0H-07型)」を用いて600kgf/cm2の圧力で5回処理し、平均粒子径0.14μmの水性樹脂分散体を得たことが記載されている(段落【0078】)。
(c)刊行物3:特開平6-16997号公報(申立人1の提出した甲第3号証)
刊行物3には、特定の片末端ポリヒドロキシマクロモノマー(A)と、ポリイソシアネート(B)とを必須成分として反応せしめたポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散した水性コーティング剤が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、該水性ポリウレタン樹脂は、「そのまま単独で、あるいは他の水分散体、例えば・・・ポリオレフィン系等のアイオノマー;ポリウレタン、ポリエステル、・・・エポキシ系の水分散体と任意の割合で配合して本発明の水性コーティング剤として使用することができる。」(段落【0035】)と記載されている。

上記以外の申立人1の提出した参考資料、申立人2の提出した参考資料1〜5及びその記載内容は以下のとおりである。
(d)参考資料:大木道則他編「化学辞典」(1998年3月2日
東京化学同人発行)、第31頁、「α,α´-アゾビス
イソブチロニトリル」の項
α,α´-アゾビスイソブチロニトリルが、重合その他のラジカル反応開始剤として用いられることが記載されている。
(e)参考資料1:カタログ「SILICON CHEMICALS」、チッソ株式会社、
第17頁
刊行物1に記載される重合性シリコン「FM-0711」の構造式、物性等が示されている。
(f)参考資料2:カタログ「樹脂改質用シリコーン」、東レ・ダウコー
ニング・シリコーン株式会社、1996年9月発行、
第7頁
刊行物1に記載される非重合性シリコン「SH200」の構造式、物性等が示されている。
(g)参考資料3:室井宗一著「高分子ラテックスの化学」(昭和62年
11月10日 高分子刊行会発行)、第119頁、
第177〜178頁
ラテックスの平均粒子径と粒子径分布について、「単分散ラテックスの場合には、第4・4表に示した平均値は完全に一致する」(第119頁下から7行)と記載され、「第4・4表 平均方法と測定法との関係」には、数平均、重量(体積)平均等の平均方法とその算出式及び測定方法が示されている。
また、凝集による粒子径分布の変化について、粒子径分布の変化を引き起こす因子として、等大粒子間と非等大粒子間の相対的衝突確率の相違があること、等大粒子間よりも非等大粒子間の衝突が起きやすいことが記載されている(第177頁下から2行〜第178頁6行参照)。
(h)参考資料4:特開平5-178913号公報
均一粒径重合体微粒子の製造方法が記載されており、「以上のようにして本発明の製造方法により、均一粒径重合微粒子が得られる。得られる粒子の粒子径は、・・・特に1〜30μm、粒径分布の標準偏差が平均粒子径の10%以下の均一粒径重合体微粒子を得る場合に有用である。」(段落【0024】)と記載されている。
(i)参考資料5:カタログ「HIGH PRESSURE HOMOGENIZER 超高圧式
ホモジナイザ-」、株式会社エスエムテー、第4頁
均質効果について、マルチパス均質化として、1000barで1、3、5、7パスの場合の粒子径分布を示す図とともに、「水/油の乳化として図の様にパス回数を増す事により微細な粒子が作ることが出来ます。」と記載されている。

オ 当審の判断
(ア)特許法第29条第1項第3号について
(本件発明1)
刊行物1には、重合性シリコンと非重合性シリコンを含むシリコン成分、アクリルモノマー類とそれらと共重合するモノマー混合物に重合触媒としてアゾビスイソブチロニトリルを加えて溶解させ、水を加えて液を調製し、乳化剤を加え、高圧ホモジナイザーによって高速乳化を行い平均粒子径0.350μmエマルジョンとし、これを重合させることにより平均粒子径0.18μmの共重合体エマルジョンの製造方法が記載されている(段落【0030】実施例1参照)。ここで、シリコン成分中の非重合性シリコンは、本件発明1におけるシリコーン樹脂(第1の重合体)に相当し、重合性シリコン、アクリルモノマー類とそれらと共重合するモノマーは、本件発明1における第1の重合性不飽和単量体に相当する。
そうしてみると、刊行物1には水性複合樹脂分散液の製造方法が記載されており、その工程の一部として、「水性媒体の不存在下に、シリコーン樹脂からなる第1の重合体と第1の重合性不飽和単量体に水性媒体を混合し液を調製する工程」(以下、「引例工程」という。)が記載されているものと認められ、この工程は、本件発明1における、「準備工程」及び「混合工程」に相当するものといえる。
そして、本件発明1の「準備工程」、「混合工程」と上記引例工程を比較すると、本件発明1では準備工程において、「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」しているのに対し、引例工程では、第1の重合体と第1の重合性不飽和単量体がどのように処理され、どのような状態にあるのか明確でない点で両者は相違する。

この相違点について検討する。
本件特許明細書には、本件発明1における「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」することに関連して、「本発明の製造方法では、第1の混合物からなる液滴粒子と複合樹脂粒子との容積平均粒子径および変動係数は実質的に等しい。これは、各複合樹脂粒子中の第1の重合体の含有量比が等しいことを意味しており、水性複合樹脂分散液の水を揮散させると、第1の重合体と第2の重合体とが均一に混合された均質な皮膜が得られる。」(段落【0056】)との記載がある。ここで、第1の混合物とは、「前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された」(特許請求の範囲請求項1)混合物であり、第2の重合体とは、「上記第1の重合性不飽和単量体のラジカル重合体」(段落【0057】)である。
そこで、刊行物1と本件発明1における第1の混合物からなる液滴粒子と複合樹脂粒子との平均粒子径を比較すると、刊行物1では「0.350μm」、「0.18μm」と大きく異なっているのに対し、本件発明の実施例1では、「0.17μm」、「0.18μm」とほぼ等しくなっている。このことは、刊行物1記載の方法により製造された複合樹脂粒子中の第1の重合体の含有量比が等しくないこと、すなわち、引例工程において「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」されることなく水性媒体と混合され、液滴粒子中の第1の重合体の含有量比が等しくないまま、続く工程で高圧ホモジナイザーにより乳化され、重合されたことを意味し、刊行物1記載の製造方法においては、「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」されていないといえるのである。

したがって、刊行物1記載の製造方法は、本件発明1の必須の構成を欠くものであるから、他の構成を検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

(本件発明2〜4)
本件発明2は、高圧ホモジナイザーの構造以外の点は本件発明1と同じであり、本件発明3、4はいずれも本件発明1又は2を引用するものであるから、上記の理由と同じ理由により、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

(イ)特許法第29条第2項について
(本件発明1)
本件発明1と刊行物1記載の発明を比較すると、上記のとおり、刊行物1記載の発明においては、本件発明1の「準備工程」における「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」することがなされていない点で相違している。
刊行物2には、特定の重合性単量体成分を微細液滴の状態で水性媒体中に分散させ、単量体成分をラジカル重合する水性樹脂分散体の製造方法が記載されているが、本件発明1における第1の重合性不飽和単量体のみを用いるものであり、第1の重合体と第1の重合性不飽和単量体とを併用して水性複合樹脂分散液とするものではなく、刊行物3には、特定のポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散した水性コーティング剤に、本件発明1における第1の重合体に相当する重合体を配合することができることが記載されているにすぎず、いずれの刊行物にも、水性複合樹脂分散液の製造方法における工程として「第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合」することが記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、この構成を採用することにより、「水性複合樹脂分散液の水を揮散させると、第1の重合体と第2の重合体とが均一に混合された均質な皮膜が得られる。」(本件特許明細書段落【0056】)という、上記刊行物1〜3の記載からは予測し得ない格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1〜3に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、他の申立人1の提出した参考資料、申立人2の提出した参考資料1〜5を参照しても上記判断が変わるものではない。

(本件発明2〜4)
本件発明2は、高圧ホモジナイザーの構造以外の点は本件発明1と同じであり、本件発明3、4はいずれも本件発明1又は2を引用するものであるから、上記の理由と同じ理由により、上記刊行物1〜3に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明1〜4についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水性複合樹脂分散液およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程と、
前記第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る混合工程と、
前記第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、前記第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を前記水性媒体中に分散する分散工程と、
前記水性媒体中に分散された前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含み、
前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い第2流路と、前記第2流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第3流路と、前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む
水性複合樹脂分散液の製造方法。
【請求項2】
水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程と、
前記第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る混合工程と、
前記第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、前記第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を前記水性媒体中に分散する分散工程と、
前記水性媒体中に分散された前記第1の混合物中の前記第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程と、
を含み、
前記高圧ホモジナイザーが、第1流路と、前記第1流路に続き前記第1流路よりも細い複数の第2流路と、前記各第2流路から折曲し、下流側で合流しかつ前記第1流路よりも細い複数の第3流路と、合流した前記第3流路から折曲しかつ前記第1流路よりも細い第4流路とを備え、
前記分散工程が、前記第2の混合物を前記第1流路に圧入することで前記第2流路と前記第3流路と前記第4流路とに順次通す処理工程を含む
水性複合樹脂分散液の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程が、前記第1の混合物と、前記水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体とを混合する工程である、請求項1から2までのいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載の製造方法によって製造されるものであり、
エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、前記第1の重合体と混合された第2の重合体とを含む複合樹脂から構成され、1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する複合樹脂粒子と、
前記複合樹脂粒子が分散されている水性媒体と、
親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体と、
を含む水性複合樹脂分散液。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、水性複合樹脂分散液およびその製造方法、特に、ラジカル重合により製造される水性複合樹脂分散液およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水性樹脂分散液(樹脂エマルジョン)は、一般に、ビニル化合物のような重合性不飽和単量体を水性媒体中で乳化ラジカル重合することで作られる。得られた水性樹脂分散液は、無公害性、良作業性、省資源性といった利点を有しているので、塗料、インキ、接着剤、紙加工助剤、繊維加工助剤、モルタル改質剤などとして広範囲に使用される。
【0003】
乳化重合により得られた水性樹脂分散液は、比較的小さな樹脂粒子を有しているため、一般に安定した分散性を有する。しかし、そのような水性樹脂分散液に含まれている樹脂粒子は、重合性不飽和単量体の組成に由来する限られた物性しか持たない。そこで、重合性不飽和単量体のラジカル重合体と、このラジカル重合体とは異なる重合体とを含む水性複合樹脂分散液の製造方法が提案されている。
【0004】
特開平5-98192号公報の実施例3には、ラジカル重合体の有機溶剤溶液とアミノ樹脂の有機溶剤溶液とネオゲンR(第一工業株式会社製)と水との混合液を、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディック社製)にコンプレッサーで導入し、500kg/cm2の圧力で分散乳化して水性複合樹脂分散液を得る方法が示されている。また、同公報の実施例6には、ラジカル重合体の有機溶剤溶液と、アミノ樹脂およびエポキシ樹脂の有機溶剤溶液と、水との混合液を、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディック社製)にコンプレッサーで導入し、2600kg/cm2の圧力で分散乳化して水性複合樹脂分散液を得る方法が示されている。これらの製造方法では、ラジカル重合体と他の樹脂とを溶解するために有機溶剤を用いないと、ラジカル重合体と他の樹脂とを均一に混合することができないので、有機溶剤を用いる必要がある。このため、得られた水性複合樹脂分散液を用いて皮膜を形成する時には、有機溶剤が蒸発するという問題が生じる。
【0005】
特公昭57-30841号公報では、変性剤と界面活性剤の存在下に重合性不飽和単量体を水中で重合し、水性複合樹脂分散液を作る方法が開示されている。この方法では、変性剤(エポキシ樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、重合体エステルなど)が、重合性不飽和単量体の溶解性に匹敵する程度まで水性相に溶解する必要がある。このため、高分子量の変性剤(たとえば、数平均分子量5000以上の変性剤)や疎水性の変性剤を用いた場合には、重合中に多量の凝集物が発生したり、分散安定性が悪くなったり、優れた光沢を有する皮膜が得られなかったりする。
【0006】
特公昭59-17123号公報には、重合性不飽和単量体と、5000よりも大きい平均分子量を有しかつ重合性不飽和単量体に可溶の重合体と、界面活性剤と、水とを実験室ミルを用いて混合分散し、重合体-重合性不飽和単量体粒子の水中分散液を生成させ、ついで、ラジカル重合を行い、水性複合樹脂分散液を製造する方法が示されている。この方法では平均粒子径1μm以下の複合樹脂粒子を生成させるために多量の界面活性剤を使用するので、得られた水性複合樹脂分散液は、優れた光沢と耐水性とを有する均質な皮膜を形成することができない。界面活性剤の量を減らすと、長時間の混合分散処理でなければ平均粒子径1μm以下の複合樹脂粒子が生成しないので生産性が悪い。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた光沢と耐水性とを有する均質な皮膜を形成することができ、分散安定性と成膜性とに優れた水性複合樹脂分散液を、有機溶剤を使わずに生産性良く製造することである。本発明の別の目的は、優れた光沢と耐水性とを有する均質な皮膜を形成することができ、分散安定性と成膜性とに優れた水性複合樹脂分散液を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる第1の水性複合樹脂分散液の製造方法は、準備工程(1A)と混合工程(1B)と分散工程(1C)と重合工程(1D)とを含む。準備工程(1A)は、水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを均一になるまで撹拌混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する工程である。混合工程(1B)は、第1の混合物と水性媒体とを混合して、第1の混合物からなる液滴が水性媒体に分散された第2の混合物を得る工程である。分散工程(1C)は、第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を水性媒体中に分散する工程である。重合工程(1D)は、水性媒体中に分散された第1の混合物中の第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する工程である。
【0009】
第1の製造方法の第1の態様によれば、高圧ホモジナイザーは、第1流路と第2流路と第3流路と第4流路とを備えていて、分散工程(1C)は、第2の混合物を第1流路に圧入することで第2流路と第3流路と第4流路とに順次通す処理工程を含む。第2流路は、第1流路に続いており、第1流路よりも細い。第3流路は、第2流路から折曲しかつ第1流路よりも細い。第4流路は、第3流路から折曲しかつ第1流路よりも細い。
【0010】
第1の製造方法の第2の態様によれば、高圧ホモジナイザーは、第1流路と第2流路と第3流路と第4流路とを備えていて、分散工程(1C)は、第2の混合物を第1流路に圧入することで第2流路と第3流路と第4流路とに順次通す処理工程を含む。第2流路は、第1流路に続いている複数の流路であり、第1流路よりも細い。第3流路は、各第2流路から折曲し、下流側で合流しかつ第1流路よりも細い複数の流路である。第4流路は、合流した第3流路から折曲しかつ第1流路よりも細い。
【0011】
本発明の第1の製造方法では、第1の態様であるか、第2の態様であるか、第1の態様でも第2の態様でもないかに関わらず、混合工程は、第1の混合物と、水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体とを混合する工程であってもよい。
本発明の技術的範囲からは外れる第2の水性複合樹脂分散液の製造方法は、準備工程(2A)と混合工程(2B)と分散工程(2C)と重合工程(2D)とを含む。準備工程(2A)は、水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを混合して、前記第1の重合体が前記第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する工程である。混合工程(2B)は、第1の混合物と、水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体とを混合して第2の混合物を得る工程である。分散工程(2C)は、第2の混合物を分散機で処理することで、第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を水性媒体中に分散する工程である。重合工程(2D)は、水性媒体中に分散された第1の混合物中の第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する工程である。
【0012】
本発明の第1の製造方法において、界面活性重合体を混合するか混合しないかに関わらず、第2の混合物は油溶性重合開始剤をさらに含むことができる。
前記第2の製造方法において、第2の混合物は油溶性重合開始剤をさらに含むことができる。
【0013】
本発明の水性複合樹脂分散液は、本発明の製造方法によって製造されるものであり、1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する複合樹脂粒子と複合樹脂粒子が分散されている水性媒体とを含む。複合樹脂粒子は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合体と混合された第2の重合体とを含む複合樹脂から構成される。
【0014】
本発明の水性複合樹脂分散液では、第2の重合体は、好ましくは、アクリル樹脂を含む。
【0015】
本発明の水性複合樹脂分散液では、第2の重合体がどのような樹脂を含むかに関わらず、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体をさらに含むことが好ましい。
【0016】
【手段の説明】
本発明に用いられる第1の重合体は、第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散可能な重合体であり、たとえば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アミノ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、石油系樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられるが、その設計を行いやすいという理由で、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが必要である。
【0017】
エポキシ樹脂は、分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であり、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、長鎖脂肪族系エポキシ樹脂および複素環式エポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つである。第1の重合体としてエポキシ樹脂を用いると、たとえば、金属に対する密着性、耐薬品性および強靱性が複合樹脂に付与される。
【0018】
ポリウレタン樹脂は、分子中にウレタン結合を含む樹脂であり、ポリイソシアネートとポリオールと、場合によっては鎖伸長剤との重付加反応によって得られる。ポリイソシアネートは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する、芳香族、脂肪族および脂環族系のイソシアネート類であり、たとえば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネートなどである。ポリオールは、分子中に2個以上の水酸基を有するアルコールであり、たとえば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオールなどである。鎖伸長剤は、たとえば、N-メチルジエタノールアミン、エチレングリコール、エチレンジアミン、水など、イソシアネート基と反応しうる基および/または活性水素を2個以上有する低分子量化合物である。第1の重合体としてポリウレタン樹脂を用いると、たとえば、低温での伸びが良好になるという性能、耐摩耗性、密着性が複合樹脂に付与されるので、たとえば、建築外装材の上塗り塗料に利用できる分散液が得られる。
【0019】
ポリオレフィン樹脂は、オレフィン類の単独重合体または共重合体、オレフィン類と他の重合性不飽和単量体(たとえばビニル単量体)との共重合体、それらの変性物などであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。第1の重合体としてポリオレフィン樹脂を用いると、たとえば、ガスバリヤー性およびポリオレフィン基材への密着性に優れた複合樹脂が得られる。
【0020】
ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの重縮合反応により生成する樹脂であり、アルキド樹脂、線状飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などである。第1の重合体としてポリエステル樹脂を用いると、たとえば、空気乾燥性および可撓性に優れた複合樹脂が得られる。ポリアミド樹脂は、多塩基酸と多価アミンとの重縮合やカプロラクタムの開環重合により生成する酸アミド結合を主鎖中に有する樹脂であり、重合脂肪酸ダイマーとポリアミンの重縮合物、カプロラクタムと66アミノ酸との共重合物などが挙げられる。第1の重合体としてポリアミド樹脂を用いると、たとえば、プラスチックに対する密着性および可撓性に優れた複合樹脂が得られる。
【0021】
アミノ樹脂は、ユリア、メラミン、それらの誘導体とホルムアルデヒドとの付加縮合反応によって得られる樹脂であり、ユリア樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂などが挙げられる。第1の重合体としてアミノ樹脂を用いると、たとえば、熱硬化性および耐熱性に優れた複合樹脂が得られる。シリコーン樹脂は、シロキサン結合により主鎖結合を形成している樹脂である。第1の重合体としてシリコーン樹脂を用いると、たとえば、撥水性および離型性に優れた複合樹脂が得られる。
【0022】
フッ素樹脂は、主鎖にフッ素原子が結合した樹脂であり、たとえば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。第1の重合体としてフッ素樹脂を用いると、たとえば、耐熱性、耐候性および耐薬品性に優れた複合樹脂が得られる。セルロース系樹脂は、セルロースの誘導体であり、ニトロセルロース、セルロースアセテートなどが挙げられる。第1の重合体としてセルロース系樹脂を用いると、たとえば、木材との密着性に優れた複合樹脂が得られる。
【0023】
石油系樹脂は、石油精製において得られる特定留分中の重合可能な物質を混合物のまま重合した炭化水素樹脂である。第1の重合体として石油系樹脂を用いると、たとえば、耐水性に優れた複合樹脂が得られる。フェノール樹脂は、フェノール類とホルムアルデヒドとの反応により得られる樹脂である。第1の重合体としてフェノール樹脂を用いると、たとえば、熱硬化性および耐久性に優れた複合樹脂が得られる。
【0024】
本発明に用いられる第1の重合体は、たとえば1000〜20万、好ましくは3000〜5万の数平均分子量を有する。前記範囲を下回ると上記の性能を複合樹脂に付与できないおそれがある。ただし、アミノ樹脂やフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂は前記範囲を下回ってもよい。また、第1の重合体は、第1の重合性不飽和単量体に溶解または分散するものであればよく、水性媒体に全く溶解しないものでもよい。前記範囲を上回る数平均分子量を有する重合体は第1の重合性不飽和単量体に溶解および分散しないか、または、しにくいおそれがあり分散時間が長くなることがある。
【0025】
本発明に用いられる第1の重合体および第2の重合体のうちのいずれか一方または両方は、優れた耐候性と透明性とを有するという理由から、アクリル樹脂を含むことが好ましい。アクリル樹脂は、後述する(メタ)アクリル酸エステル類を含む重合性不飽和単量体のラジカル重合により得られたものである。本発明に用いられる第1の重合性不飽和単量体は、少なくとも1個の重合性不飽和結合基を有する化合物であれば特に制限はなく、たとえば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルメチルスチレン等のスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のモノアルコールとのエステル化により合成される(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、これらの塩などの不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、これらの半エステル、これらの塩などの不飽和ジカルボン酸類;(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、これらの塩、これらの4級化合物等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールとのモノエステル等のヒドロキシル基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸-2-スルフォン酸エチル、ビニルスルフォン酸、スチレンスルフォン酸、および、これらの塩等のスルフォン酸基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン等の塩基性不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸と多価アルコール(エチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど)とのエステルなど、分子内に重合性不飽和結合基を2個以上有する多官能(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルプロピルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミン等の有機珪素基含有不飽和単量体類;2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-ビニルオキサゾリン等のオキサゾリン基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有不飽和単量体類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化不飽和単量体;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-クロロプロピレンなどのハロヒドリン基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸-2-アジリジニルエチル等のアジリジニル基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸-2-イソシアナートエチルとエチルアルコールとの反応付加物などのブロック化イソシアネート基含有不飽和単量体類;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートなどのエチレン性不飽和基を2個有する不飽和単量体類;酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸のビニルエステル類;(メタ)アクリロニトリル;および、アクロレインなどを挙げることができ、いずれか1つを単独で使用したり、2つ以上を混合して使用することができる。
【0026】
本発明に用いられる水性媒体は、水のみ、水と親水性有機溶媒との混合物などが挙げられるが、有機溶媒の量がゼロであるという点で水のみが好ましい。親水性有機溶媒は、水性複合樹脂分散液を作るときの分散液の重合安定性、得られた水性複合樹脂分散液の形成する皮膜の物性、分散液の製造時、取扱時または使用時に悪影響を及ぼさない範囲で用いられる。
【0027】
第1の混合物は、水性媒体の不存在下に第1の重合体と第1の重合性不飽和単量体とを混合して、第1の重合体を第1の重合性不飽和単量体に溶解および/または分散することにより作られる。溶解および/または分散を行うためには、パドル翼付攪拌機、TKホモミクサー(特殊機化工業(株))などの装置が使用される。第1の混合物は、第1の重合体をたとえば20〜80重量%、好ましくは20〜60重量%含む。残部は第1の重合性不飽和単量体である。第1の重合体の量が前記範囲を下回ると、第1の重合体の影響が小さくなるため水性複合樹脂分散液の乾燥皮膜に所望の物性を与えられないおそれがある。第1の重合体の量が前記範囲を上回ると、第1の重合性不飽和単量体から生成する重合体の影響が小さくなったり、第1の重合体の溶解および/または分散に時間がかかるおそれがある。
【0028】
第1の混合物は、さらに、第1の重合性不飽和単量体に対して、重合開始剤をたとえば0.01〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%含むことができる。前記範囲を下回ると第1の重合性不飽和単量体が重合しないおそれがある。前記範囲を上回ると第1の重合性不飽和単量体から生成する重合体の分子量が小さくなり所望する物性が発現しないおそれがある。
【0029】
本発明の製造方法に使用されうる重合開始剤は、水溶性でもまたは油溶性でも良く、たとえば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水溶性重合開始剤と、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1′-アゾビス-(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス-(2-アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4′-アゾビス-(4-シアノペンタン酸)などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物類などの油溶性重合開始剤とからなる群から選ばれる少なくとも1つである。過酸化物などの酸化剤型の重合開始剤は必要に応じて還元剤(亜硫酸水素ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、硫酸第1鉄など)と組み合わせてレドックス系開始剤として使用することもできる。好ましい重合開始剤は、懸濁重合が起こりやすく、第1の混合物中の第1の重合体の比率とラジカル重合後の各複合樹脂粒子中の第1の重合体の比率が同じになる、すなわち、第1の重合体の含有量比が均一な複合樹脂粒子が得られるという理由で、上述した、アゾ化合物および有機過酸化物類からなる群から選ばれる少なくとも1つの油溶性重合開始剤である。
【0030】
第1の混合物は、重合開始剤を含むか含まないかに関わらず、第1の重合体と第1の重合性不飽和単量体との合計量に対して、さらに、ワックス、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤などの他の添加剤を合計でたとえば0.01〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%含むことができる。前記範囲を下回ると添加剤の添加効果が得られないおそれがある。前記範囲を上回ると皮膜物性(光沢、耐水性など)が低下するおそれがある。
【0031】
第1の混合物と水性媒体とを混合して第2の混合物が得られる。混合を行うためには、パドル翼付攪拌機、TKホモミクサー(特殊機化工業(株))などの装置が使用される。第2の混合物は、第1の混合物をたとえば10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%含む。残部は水性媒体である。前記範囲を下回ると第1の混合物中の第1の重合性不飽和単量体を重合して得られる複合樹脂の濃度が低くなり固形分あたりのコストが上昇し生産性に劣るおそれがある。前記範囲を上回ると第1の混合物が水性媒体中に分散されず逆相(ウォーター・イン・オイル)になるおそれがある。
【0032】
本発明では、混合工程および分散工程は、たとえば、室温から100℃までの温度で行われる。ただし、50℃以上の温度で混合または分散を行う場合、単量体の重合を防ぐために、第1の混合物が重合禁止剤を含んでいることが好ましい。重合禁止剤としては、たとえば、ヒドロキノン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、ベンゾキノンなどからなる群から選ばれる少なくとも1つが、第1の重合性不飽和単量体に対して、0.001〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%の量で使用される。
【0033】
第2の混合物を分散機で処理することで、第1の混合物からなる液滴が水性媒体中に分散される。本発明の製造方法において、第1の混合物からなり水性媒体中に分散された液滴は、たとえば1.0μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有し、好ましくは0.4μm以下の容積平均粒子径と30%以下の粒子径分布の変動係数とを有し、より好ましくは0.3μm以下の容積平均粒子径と20%以下の粒子径分布の変動係数とを有する。容積平均粒子径が前記範囲を上回ると分散安定性が劣ったり第1の重合体の含有量比が均一な複合樹脂粒子が得られなかったりするおそれがある。粒子径分布の変動係数が前記範囲を上回ると表面平滑性が劣るおそれがある。
【0034】
本発明において容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数とは、レーザー回折式粒度分布測定装置による測定値である。変動係数とは容積平均粒子径を粒子径分布の標準偏差で割った商を百分率で表示した数値である。この数値が小さいほど、粒子径分布の広がりが狭いことを示す。本発明の第1の製造方法では、第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、第1の混合物からなる液滴が水性媒体中に分散される。高圧ホモジナイザーでの処理条件は、第1の混合物からなる液滴が上記範囲内の容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数とを有するように、設定される。
【0035】
前記第2の製造方法では、界面活性重合体を含む第2の混合物を分散機で処理することで、第1の混合物からなる液滴が水性媒体中に分散される。分散機での処理条件は、第1の混合物からなる液滴が上記範囲内の容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数とを有するように、設定される。この製造方法では、上記好ましい第1の重合体を含む第2の混合物を分散機で処理することで、第1の混合物からなる液滴が水性媒体中に分散されてもよい。分散機での処理条件は、第1の混合物からなる液滴が上記範囲内の容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数とを有するように、設定される。
【0036】
本発明の製造方法では、上記好ましい第1の重合体と油溶性重合開始剤とを含む第2の混合物を分散機で処理することで、第1の混合物からなる液滴が水性媒体中に分散されてもよい。分散機での処理条件は、第1の混合物からなる液滴が上記範囲内の容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数とを有するように、設定される。
【0037】
分散機としては、第2の混合物に高エネルギーを加え第1の混合物を液滴(たとえば1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴、好ましくは0.4μm以下の容積平均粒子径と30%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴、より好ましくは0.3μm以下の容積平均粒子径と20%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴)の状態で水性媒体中に分散することができる装置が使用される。ここで高エネルギーとは、第1の混合物を剪断力、衝突力、キャビテーション、乱流、超音波により引きちぎり、液滴の状態になるまで細かくするに足るエネルギーである。高エネルギーを与えられる分散機としては、たとえば、ホモジナイザー・ポリトロン((株)セントラル科学貿易)、ホモジナイザー・ヒストロン((株)日音医理科器機製作所)、ターボ型攪拌機((株)小平製作所)、バイオミキサー((株)日本精機製作所)、ウルトラディスパー(浅田鉄鋼(株))、エバラマイルダー(荏原製作所(株))、TKホモミクサー、TKラボディスパー、TKパイプラインミクサー、TKホモミックラインミル、TKホモジェッター、TKユニミキサー、TKホモミックラインフロー、TKアヂホモディスパー(以上、特殊機化工業(株))、クレアミックス(エム・テクニック(株))、ケイディミル(キネティック・ディスパージョン社)等の高速剪断混合機;高圧ホモゲナイザー((株)イズミフードマシナリ)、高圧ホモジナイザー(Rannie製)、マイクロフルイダイザー(Microfluidics製)、ナノマイザー(ナノマイザー(株))等の高圧ホモジナイザー;超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所)等の超音波ホモジナイザー;スタティックミキサー((株)ノリタケカンパニーリミテッド)、スルーザーミキサー(住友重機械工業(株))、静止型管内混合器(東レ(株))、スケアミキサー((株)桜製作所)、バイブロミキサー(冷化工業(株))、TK-ROSS LPDミキサー(特殊機化工業(株))等の管内混合器が挙げられる。好ましい分散機は、効率良く短時間で上記液滴の状態を作りうるという理由により、高圧ホモジナイザーである。本発明の第1の製造方法では、分散工程において高圧ホモジナイザーを使用することが必須である。前記第2の製造方法では、分散工程において使用する分散機は特に限定されない。
【0038】
本発明の製造方法において高圧ホモジナイザーを用いるときには、第1流路への第2の混合物の圧入は、第2流路以降の流路において、たとえば100〜5000kgf/cm2、好ましくは300〜2000kgf/cm2の圧力が達成されるように行われる。第2流路以降の流路における圧力が前記範囲を下回ると短時間で、1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴、好ましくは0.4μm以下の容積平均粒子径と30%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴、より好ましくは0.3μm以下の容積平均粒子径と20%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を得られないおそれがある。第2流路以降の流路における圧力が前記範囲を上回ると分散工程を実施する装置の部品が消耗しやすい。第2の混合物(被処理物)は、分散工程を実施する装置で1回処理されるか、または、2〜5回繰り返し処理されることにより、1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴、好ましくは0.4μm以下の容積平均粒子径と30%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴、より好ましくは0.3μm以下の容積平均粒子径と20%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴が得られる。処理回数が5回を超えると分散工程を実施するのに時間がかかるおそれがある。
【0039】
高圧ホモジナイザーの分散部の一例を示す図1において、この高圧ホモジナイザーは、第1流路1と第2流路2と第3流路3と第4流路4とを備えている。第2流路2は、第1流路1の末端から同一方向に続いており、第1流路1よりも細い。第3流路3は、第2流路2の末端から直角に折れ曲がっており、第1流路1よりも細い。第4流路4は、第3流路3の末端から直角に折れ曲がって第2流路2と平行に延びており、第1流路1よりも細い。第4流路4の末端は、第1流路1と同心・同径の導出路6に連通している。
【0040】
第2の混合物は、第1流路1に圧入されることで第2流路2に入って加圧され、第2流路2の末端の壁に衝突して第3流路3に入る。第3流路3に入った第2の混合物は、第3流路3の末端で壁に衝突し、第4流路4に入り、導出路6を通って外部に取り出される。なお、第1流路1、第2流路2、第3流路3、第4流路4の断面積は上記範囲の圧力が達成されるように適宜設定される。
【0041】
高圧ホモジナイザーの分散部の別の例を示す図2において、この高圧ホモジナイザーは、第1流路11と第2流路12と第3流路13と第4流路14とを備えている。第2流路12は、第1流路11の末端から同一方向に延びる複数の流路であり、第1流路11よりも細い。第3流路13は、各第2流路12の末端から互いに向き合う方向に直角に曲がって合流する複数の流路であり、第1流路11よりも細い。第4流路14は、合流した第3流路13の末端から直角方向に折れ曲がって第2流路12と平行に延びており、第1流路11よりも細い。第4流路14の末端は、第1流路11と同心・同径の導出路16に連通している。
【0042】
第2の混合物は、第1流路11に圧入されることで第2流路12に入って加圧され、第2流路12の壁に衝突して第3流路13に入る。第3流路13に入った第2の混合物は、第3流路13を通り、その末端で合流することで互いに衝突する。衝突した第2の混合物は、合流した第3流路13の末端から折れ曲がって第4流路14に入り、導出路16を通って外部に取り出される。なお、第1流路11、第2流路12、第3流路13、第4流路14の断面積は上記範囲の圧力が達成されるように適宜設定される。
【0043】
高圧モホジナイザーの分散部のさらに別の例を示す図3において、この高圧ホモジナイザーは、第1流路21と第2流路22と第3流路23と第4流路24と第5流路25とを備えている。第2流路22は、第1流路21の末端から同一方向に延びる複数の流路であり、第1流路21よりも細い。第3流路23は、複数の第2流路22の末端から直角に折れ曲がって互いに合流する複数の流路であり、第1流路21よりも細い。第4流路24は、合流した第3流路23の末端から第1流路21の半径方向で第3流路23に対して直交する方向に折れ曲がっている複数の流路であり、第1流路21よりも細い。第5流路25は、各第4流路24の末端から直角に折れ曲がって第2流路22と平行に延びている複数の流路であり、第1流路21よりも細い。第5流路25の末端は、第1流路21と同心・同径の導出路26に連通している。なお、図3において、図(B)は図(A)のα-α断面図である。
【0044】
第2の混合物は、第1流路21に圧入されることで第2流路22に入って加圧され、第2流路22の末端で壁に衝突して第3流路23に入る。第3流路23に入った第2の混合物は、第3流路23を通ってその末端で合流することで互いに衝突する。衝突した第2の混合物は、合流した第3流路23の末端から折れ曲がって第4流路24に入る。第4流路24に入った第2の混合物は、第4流路24を通って壁に衝突して第5流路25に入り、導出路26を通って外部に取り出される。なお、第1流路21、第2流路22、第3流路23、第4流路24、第5流路25の断面積は上記範囲の圧力が達成されるように適宜設定される。
【0045】
図1〜3にそれぞれ示す高圧ホモジナイザーの分散部では、第2の混合物が流路の壁に衝突したり互いに衝突したり排出されたりすることにより、第2の混合物に関してキャビテーション、乱流、剪断力、衝撃力などの少なくとも1つが生じ、第1の混合物の液滴が分散・破砕されて微細化する。これにより、上記範囲内の容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数とを持つ第1の混合物の液滴が、水性媒体中に分散する。
【0046】
図1〜3に示される分散部を持つ高圧ホモジナイザーの市販品としては、高圧ホモゲナイザー((株)イズミフードマシナリ)、高圧ホモジナイザー(Rannie製)、マイクロフルイダイザー(Microfluidics製)、ナノマイザー(ナノマイザー(株))が挙げられる。なお、混合工程で得られた第2の混合物(分散している液滴の容積平均粒子径は1μmよりも大きい)を高圧ホモジナイザーで処理せずにラジカル重合を行うことにより得られた水性樹脂分散液を高圧ホモジナイザーで処理しても、樹脂粒子の粒子径を小さくすることはできない。このため、本発明では、ラジカル重合を行う前に高圧ホモジナイザーで第2の混合物を処理して液滴の粒子径を微細化するのである。本発明では、公知のアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤および保護コロイドを分散安定剤として全く使わずに、あるいは、従来に比べて少ない量で使用して、第1の混合物または複合樹脂粒子を水性媒体に分散することができる。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ラウリル硫酸ソーダ、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、アルキルフェニルポリオキシエチレンサルフェートソーダ塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体などが挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルベタインなどが挙げられる。保護コロイドとしては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。これらの分散安定剤は単独で使用しても2種以上併用してもよい。これらの界面活性剤のうち、アニオン性、カチオン性、両性界面活性剤のようなイオン性界面活性剤を用いると、粒子径の細かい分散安定性の良い水性樹脂分散液が得られるので好ましい。より好ましい分散安定剤は、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体である。本発明の第1の製造方法では、混合工程において分散安定剤を使用しても良いし使用しなくても良い。また使用する場合にも分散安定剤の種類は特に限定されない。前記第2の製造方法では、混合工程において分散安定剤として上記界面活性重合体を使用することが必須である。
【0047】
本発明で使用される分散安定剤の量は、第1の混合物100重量部に対して、たとえば0〜5重量部、好ましくは1〜3重量部であり、従来よりも少ない。分散安定剤の量が前記範囲を下回ると長期の分散安定性が低下するおそれがあり、上回ると、得られた分散液から形成される乾燥皮膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0048】
本発明に用いられる界面活性重合体は、たとえば、重合性不飽和結合基を有する水溶性単量体を含む第2の重合性不飽和単量体を炭素数6以上のアルキルメルカプタンの存在下に重合して得られたものであり、親水性基と炭素数6以上の末端アルキル基とを有しており、水溶性または水分散性を有する。界面活性重合体は、たとえば200〜800、好ましくは500〜700の酸価を有する。界面活性重合体の酸価が前記範囲を外れると、第1の混合物の液滴または複合樹脂粒子の分散安定性が悪くなることがある。界面活性重合体は、たとえば300〜7000、好ましくは400〜4000の数平均分子量を有する。界面活性重合体の数平均分子量が前記範囲を外れると、第1の混合物の液滴または複合樹脂粒子の分散安定性が悪くなったり、あるいは、耐水性や外観に優れた樹脂皮膜が得られなかったりする。
【0049】
第2の重合性不飽和単量体は、たとえば、第1の重合性不飽和単量体として使用されうる化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つである。ただし、第2の重合性不飽和単量体は、水溶性単量体を、たとえば30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%含む。残部は、水溶性単量体以外の重合性不飽和単量体である。水溶性単量体の量が前記範囲を下回るとラジカル重合体が分散剤として働かなくなるおそれがある。
【0050】
水溶性単量体は、界面活性重合体に、カルボキシル基、アミド基、スルフォン酸基などの親水性基を導入して界面活性重合体に親水性を付与するために使用され、たとえば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、これらの塩などの不飽和モノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、これらの半エステル、これらの塩などの不飽和ジカルボン酸類;(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、これらの塩、これらの4級化合物等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールとのモノエステル等のヒドロキシル基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸-2-スルフォン酸エチル、ビニルスルフォン酸、スチレンスルフォン酸、および、これらの塩等のスルフォン酸基含有不飽和単量体類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。好ましい水溶性単量体は、分散安定性に優れるという理由で、不飽和モノカルボン酸類、不飽和ジカルボン酸類およびスルフォン酸基含有不飽和単量体類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0051】
アルキルメルカプタンは、界面活性重合体の末端に炭素数6以上のアルキル基を導入して界面活性能を付与するために使用される。界面活性重合体を作るのに用いられるアルキルメルカプタンは、炭素数6以上のアルキル基を有するメルカプタンであれば特に限定されないが、たとえば、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、セチルメルカプタン、ステアリルメルカプタンからなる群から選ばれる少なくとも1つである。好ましいアルキルメルカプタンは、界面活性能に優れるという理由で、n-ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタンからなる群から選ばれる少なくとも1つである。使用されるアルキルメルカプタンの量は、第2の重合性不飽和単量体100重量部に対して、たとえば2〜300重量部、好ましくは2〜100重量部である。前記範囲を下回っても上回っても界面活性能が低下するおそれがある。
【0052】
界面活性重合体は、その性状により、塊状重合、溶液重合、懸濁重合のいずれの方法でも製造することができる。重合温度と重合時間は、たとえば、50〜150℃、1〜8時間である。溶液重合の溶剤としては、第2の重合性不飽和単量体とアルキルメルカプタンとが溶解し、ラジカル重合を阻害しないものであるならば何でも使用することができる。界面活性重合体を得るための第2の重合性不飽和単量体の重合に用いる重合開始剤は、周知の油溶性または水溶性の重合開始剤(たとえば、上述の、第1の重合性不飽和単量体の重合に用いる重合開始剤である)が使用できる。界面活性重合体を作るために使用される重合開始剤の量は、末端アルキル基を有する界面活性重合体を効率良く製造するために、アルキルメルカプタン1モルに対して、たとえば1モル以下、好ましくは0.1モル以下の割合である。
【0053】
界面活性重合体は、それ自身十分な界面活性能を有するが、分散液の重合時の安定性および貯蔵安定性をより良くするために、界面活性重合体の親水性基の一部もしくは全部を中和した塩の形で使用されるのが好ましい。界面活性重合体の中和に用いる中和剤としては、親水性基が酸基である場合には、酸の中和に通常用いられるもの、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジメチルプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどの水溶性有機アミン類からなる群から選ばれる少なくとも1つが使用される。より耐水性の向上した皮膜を形成するためには、アンモニア、モノエチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミンなどの低沸点アミン類を使用することが好ましい。これは、低沸点アミン類が常温あるいは加熱で容易に飛散するからである。
【0054】
本発明において、界面活性重合体を用いる場合には、第1の重合性不飽和単量体が、界面活性重合体の有する親水性基と反応しうる基を有する単量体を含むことが好ましい。第1の重合性不飽和単量体が重合して生成する重合体と界面活性重合体とが反応して共有結合を形成して一体化するため、耐水性が一層優れた皮膜を形成しうる。親水性基と反応しうる基を有する単量体としては、前記の不飽和カルボン酸、ヒドロキシル基含有不飽和単量体、スルフォン酸基含有ビニル化合物、有機珪素基含有不飽和単量体、オキサゾリン基含有不飽和単量体、エポキシ基含有不飽和単量体、ハロヒドリン基含有不飽和単量体、アジリジニル基含有不飽和単量体、および、ブロック化イソシアネート基含有不飽和単量体などを、第1の重合性不飽和単量体中、たとえば0.1〜50重量%、より好ましくは0.5〜10重量%の量で用いることができる。
【0055】
本発明の水性複合樹脂分散液の製造方法において、重合工程(1D)および(2D)は、たとえば0〜100℃、好ましくは50〜80℃の温度で、たとえば1〜15時間重合を行う。重合に使用する装置は、従来公知のものを適用することができる。本発明では円滑な重合の促進のためにラジカル重合開始剤を用いる。ラジカル重合開始剤は従来公知のものであれば何でも使用できる。ラジカル重合開始剤は、予め第1の混合物に溶解しても良く、または、第1の混合物とは別に重合系に加えても良い。
【0056】
重合により得られた反応混合物を水性複合樹脂分散液としたり、あるいは、重合後、必要に応じて中和、増粘などの工程を行って水性複合樹脂分散液を得る。本発明の製造方法では、第1の混合物からなる液滴粒子と複合樹脂粒子との容積平均粒子径および変動係数は実質的に等しい。これは、各複合樹脂粒子中の第1の重合体の含有量比が等しいことを意味しており、水性複合樹脂分散液の水を揮散させると、第1の重合体と第2の重合体とが均一に混合された均質な皮膜が得られる。
【0057】
本発明の水性複合樹脂分散液は、容積平均粒子径1μm以下で粒子径分布の変動係数50%以下、好ましくは容積平均粒子径0.4μm以下で粒子径分布の変動係数30%以下、より好ましくは容積平均粒子径0.3μm以下で粒子径分布の変動係数20%以下の複合樹脂粒子と複合樹脂粒子が分散されている水性媒体とを含む。複合樹脂粒子の容積平均粒子径または粒子径分布の変動係数が前記範囲を超えると、分散液は分散安定性が悪く、外観に劣る皮膜を形成するという問題がある。複合樹脂粒子は、第1の重合体と、第1の重合体と混合した第2の重合体とを含む複合樹脂から構成される。第1の重合体は、上述したとおり、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むものである。第2の重合体は、上記第1の重合性不飽和単量体のラジカル重合体である。
【0058】
本発明の水性複合樹脂分散液では、複合樹脂は、第1の重合体を、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは20〜60重量%含む。前記範囲を下回ると乾燥皮膜に第1の重合体に由来する所望の物性を与えられないおそれがある。前記範囲を上回ると乾燥皮膜に第2の重合体に由来する所望の物性を与えられないおそれがある。
【0059】
本発明の水性複合樹脂分散液では、複合樹脂粒子の量が、分散液全体に対して、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%である。前記範囲を下回ると所望の膜厚の乾燥皮膜が得られないおそれがある。前記範囲を上回ると分散安定性が悪いおそれがある。本発明の水性複合樹脂分散液では、複合樹脂は、たとえば、第1の重合体と第2の重合体との混合物である。ここで、第1の重合体と第2の重合体との混合物とは、第2の重合体が第1の重合体にグラフトしたものであってもよいし、第1の重合体と第2の重合体とが相互混入網目構造を形成したものでもよい。
【0060】
本発明の水性複合樹脂分散液は、上記界面活性重合体1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%をさらに含むことができる。前記範囲を下回ると長期の分散安定性が低下するおそれがある。前記範囲を上回ると乾燥皮膜の耐水性が低下するおそれがある。本発明の水性複合樹脂分散液は、上述した本発明の製造方法により作られる。
【0061】
本発明の製造方法により得られた水性複合樹脂分散液、および、本発明の水性複合樹脂分散液は、優れた貯蔵安定性と成膜性とを有し、水を飛散させて形成した皮膜は、優れた光沢と耐水性とを有していて均一である。このため、それらの分散液は、たとえば、インキ、塗料、接着剤、繊維処理剤、皮革処理剤、木材処理剤などの主剤または添加剤として用いることができる。それらの分散液から乾燥皮膜を形成するためには、たとえば、分散液を合成皮革、木製床板などの被塗物にスプレー、ロール、刷毛、フローコーターなどの塗装装置や塗装器具によって塗布し、常温あるいは熱風乾燥などにより乾燥する。
【0062】
【実施例】
以下に、本発明の実施例と、本発明の範囲を外れた比較例とを示すが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」である。
(参考例1)
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計および冷却器を備えたフラスコに、イソプロピルアルコール180部を仕込み、攪拌下ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら81℃に加熱した。次に、予め用意しておいた、アクリル酸174部、n-ドデシルメルカプタン36部および2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.42部からなる重合性単量体混合物を滴下ロートから1時間かけて滴下し81℃で重合した。滴下終了後、還流状態で1時間熟成を行い、固形分53.9%の重合体の溶液を得た。該重合体は、一般式:
【0063】
【化1】

【0064】
で代表される構造を有し、酸価645、数平均分子量1200の白色固形物であった。この重合体を界面活性重合体(1)と称する。
(参考例2)
参考例1と同様のフラスコに、イソプロピルアルコール180部を仕込み、攪拌下ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら81℃に加熱した。次に、予め用意しておいた、アクリル酸86部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル139部、n-ドデシルメルカプタン36部、イソプロピルアルコール30部および2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.30部からなる重合性単量体混合物を滴下ロートから1時間かけて滴下し81℃で重合した。滴下終了後、還流状態で1時間熟成を行い、固形分55.4%の重合体の溶液を得た。該重合体は、一般式:
【0065】
【化2】

【0066】
で代表される構造を有し、酸価256、数平均分子量1500の白色粘稠物であった。この重合体を界面活性重合体(2)と称する。
(参考例3)
参考例1と同様のフラスコに、メタクリル酸メチル272.7部、アクリル酸ブチル177.3部、ポリブチレンアジペート(分子量600)347部、ジブチル錫ジラウリレート0.1部およびベンゾキノン0.03部を仕込み、攪拌下ゆるやかに空気を吹き込みながら60℃に加熱した。次にイソホロンジイソシアネート147部を滴下ロートから2時間かけて滴下し60℃で重合した。滴下終了後、同じ温度で1時間熟成を行った。続いてエチレンジアミン10部およびジブチル錫ジラウレート0.1部を添加し、80℃で3時間反応させ、固形分52.4%のポリウレタン溶液(1)を得た。該ポリウレタンの数平均分子量は7500であった。
【0067】
(実施例1)
メタクリル酸メチル30部、アクリル酸ブチル19.5部、アクリル酸0.5部、油化シェルエポキシ(株)製エピコート1007(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量1950、数平均分子量2900)50部、ベンゾキノン0.01部および2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.5部をパドル翼付き攪拌機で均一になるまで攪拌した後、界面活性重合体(1)の中和物溶液(参考例1で得られた重合体の溶液5.6部に25%アンモニア水0.3部を加えて中和したもの)6.9部、および、水55部を加え、高速剪断混合機(特殊機化工業(株)製TKホモミクサー)を用いて10000rpmで10分間攪拌した。続いて、高圧ホモジナイザー((株)イズミフードマシナリ製高圧ホモゲナイザーHV-0H-07型)を用いて600kg/cm2の圧力で5回処理し、容積平均粒子径0.17μmで粒子径分布の変動係数30%の微粒子群が分散した微分散液を得た。高圧ホモジナイザーで処理する際、被処理物の温度は50℃以下になるように随時被処理物を冷却した。引き続いて、参考例1と同様のフラスコに、水100部を仕込み、攪拌下ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃に加熱した。次に、微分散液を滴下ロートから2時間かけて滴下した。滴下中は温度を75〜80℃に保持した。滴下終了後、同じ温度で1時間熟成を行い、固形分40.0%、容積平均粒子径0.18μm、粒子径分布の変動係数32%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0068】
(実施例2)
実施例1において、高圧ホモゲナイザーを用いて600kg/cm2の圧力で5回処理する代わりにマイクロフルイディクス(Microfluidics)社製マイクロフルイダイザー(HC-5000型)を用いて350kg/cm2の圧力で3回処理し、容積平均粒子径0.25μmで粒子径分布の変動係数30%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、固形分40.0%、容積平均粒子径0.25μm、粒子径分布の変動係数30%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0069】
(実施例3)
実施例2において、マイクロフルイディクス(Microfluidics)社製マイクロフルイダイザー(HC-5000型)を用いて350kg/cm2の圧力で3回処理する代わりに5回処理し、容積平均粒子径0.20μmで粒子径分布の変動係数19%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例2と同様の操作を繰り返して、固形分40.0%、容積平均粒子径0.21μm、粒子径分布の変動係数20%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0070】
(実施例4)
実施例1において、エピコート1007の量を70部に変えたこと、単量体混合物の成分を表1に示すものに変えたこと、高圧ホモゲナイザーを用いて600kg/cm2の圧力で5回処理する代わりにマイクロフルイディクス(Microfluidics)社製マイクロフルイダイザー(M-110-EH型)を用いて1000kg/cm2の圧力で2回処理し、容積平均粒子径0.33μmで粒子径分布の変動係数35%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、固形分39.8%、容積平均粒子径0.31μm、粒子径分布の変動係数40%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0071】
(実施例5)
実施例1において、エピコート1007の代わりに東洋紡績(株)製ポリエステル樹脂バイロン200(数平均分子量18000)を用いたこと、高圧ホモゲナイザーを用いて600kg/cm2の圧力で5回処理する代わりにマイクロフルイディクス(Microfluidics)社製マイクロフルイダイザー(M-110-EH型)を用いて1000kg/cm2の圧力で2回処理し、容積平均粒子径0.19μmで粒子径分布の変動係数29%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例1と同様の操作を繰り返して、固形分40.1%、容積平均粒子径0.19μm、粒子径分布の変動係数30%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0072】
(実施例6)
実施例5において、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.5部を用いなかったこと、参考例1と同様のフラスコに水100部とともに過硫酸カリウム0.5部を仕込んだこと以外は実施例5と同様の操作を繰り返して、固形分40.2%、容積平均粒子径0.17μm、粒子径分布の変動係数35%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0073】
(実施例7)
実施例5において、マイクロフルイディクス(Microfluidics)社製マイクロフルイダイザー(M-110-EH型)を用いて1000kg/cm2の圧力で2回処理する代わりに(株)日本精機製作所製高速剪断混合機(商品名バイオミキサーBM-4型)を用いて10000rpmで10分間処理し、容積平均粒子径0.33μmで粒子径分布の変動係数35%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例5と同様の操作を繰り返して、固形分40.0%、容積平均粒子径0.31μm、粒子径分布の変動係数38%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0074】
(実施例8)
実施例7において、バイロン200の代わりに三井サンアミッド(株)製メラミン樹脂(商品名サイメル1156、数平均分子量2000)を用いたこと、容積平均粒子径0.25μmで粒子径分布の変動係数34%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例7と同様の操作を繰り返して、固形分40.1%、容積平均粒子径0.28μm、粒子径分布の変動係数36%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0075】
(実施例9)
メタクリル酸メチル42部、アクリル酸ブチル27.3部、アクリル酸0.7部、山陽国策パルプ(株)製スーパークロン106L(塩素化ポリオレフィン樹脂、数平均分子量10,000)30部、ベンゾキノン0.01部、および、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.7部をパドル翼付き攪拌機で均一になるまで攪拌したのち、界面活性重合体(2)の中和物溶液(参考例2で得られた重合体の溶液5.4部に25%アンモニア水0.7部を加えて中和したもの)6.1部、および、水55部を加え、特殊機化工業(株)製高速剪断混合機(商品名TKホモミキサー)を用いて10000rpmで10分間の攪拌により混合した。続いて、(株)イズミフードマシナリ製高圧ホモジナイザー(商品名高圧ホモゲナイザーHV-0H-07型)を用いて600kg/cm2の圧力で5回処理し、容積平均粒子径0.45μmで粒子径分布の変動係数36%の微粒子群が分散した微分散液を得た。高圧ホモジナイザーで処理する際、被処理物の温度は50℃以下になるように随時被処理物を冷却した。引き続いて、参考例1と同様のフラスコに、水100部を仕込み、攪拌下ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃に加熱した。次に、微分散液を滴下ロートから2時間かけて滴下した。滴下中は温度を75〜80℃に保持した。滴下終了後、同じ温度で1時間熟成を行い、固形分39.9%、容積平均粒子径0.43μm、粒子径分布の変動係数38%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表4に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0076】
(実施例10)
実施例9において、スーパークロン106Lを30部用いる代わりに東レダウコーニングシリコーン(株))製シリコーン樹脂SH200(数平均分子量18000、粘度3,000cps(25℃))20部を用いたこと、界面活性重合体(2)の中和物溶液の代わりに(株)花王製ペレックスOTP(アニオン性界面活性剤の固形分70%水溶液)5.7部を用いたこと、メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル・アクリル酸の量を表2に示す量に変えたこと、容積平均粒子径0.12μmで粒子径分布の変動係数36%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例9と同様の操作を繰り返して、固形分40.2%、容積平均粒子径0.20μm、粒子径分布の変動係数38%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表5に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0077】
(実施例11)
メタクリル酸メチル37.1部、アクリル酸ブチル24.1部、アクリル酸0.8部、参考例3で得られたポリウレタン溶液(1)38.2部、および、ベンゾキノン0.005部をパドル翼付き攪拌機で均一になるまで攪拌したのち、(株)花王製ラテムルS-180A(アニオン性界面活性剤の固形分50%水溶液)8.0部を加え、特殊機化工業(株)製高速剪断混合機(商品名TKホモミキサー)を用いて10000rpmで10分間の攪拌により混合した。続いて、(株)イズミフードマシナリ製高圧ホモジナイザー(商品名高圧ホモゲナイザーHV-0H-07型)を用いて600kg/cm2の圧力で5回処理し、容積平均粒子径0.16μmで粒子径分布の変動係数19%の微粒子群が分散した微分散液を得た。高圧ホモジナイザーで処理する際、被処理物の温度は50℃以下になるように随時被処理物を冷却した。引き続いて、参考例1と同様のフラスコに、水100部を仕込み、攪拌下ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら75℃に加熱した。次に、微分散液とパーブチルO(日本油脂(株)製のt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート)0.8部とをそれぞれ別々の滴下ロートから2時間かけて滴下した。滴下中は温度を75℃に保持した。滴下終了後、同じ温度で1時間熟成を行い、固形分40.0%、容積平均粒子径0.16μm、粒子径分布の変動係数20%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表5に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0078】
(実施例12)
実施例11において、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとアクリル酸とポリウレタン溶液(1)とパーブチルOとの量を表2に示す量に変えたこと、ベンゾキノンの量を0.003部に変えたこと、高圧ホモゲナイザーを用いて600kg/cm2の圧力で5回処理する代わりにマイクロフルイディクス(Microfluidics)社製マイクロフルイダイザー(M-110-EH型)を用いて1000kg/cm2の圧力で2回処理し、容積平均粒子径0.38μmで粒子径分布の変動係数30%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例11と同様の操作を繰り返して、固形分40.0%、容積平均粒子径0.36μm、粒子径分布の変動係数30%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表5に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0079】
(実施例13)
実施例2において、50部のエピコート1007の代わりに30部のエピコート1007と20部のサイメル1156とを用いたこと、界面活性重合体(1)の中和物溶液の代わりに第一工業製薬(株)製ハイテノールN-08(アニオン性界面活性剤、固形分100%)3.0部と三洋化成工業(株)製ノニポール200(ノニオン性界面活性剤の固形分100%)1.0部とを用いたこと、容積平均粒子径0.25μmで粒子径分布の変動係数30%の微粒子群が分散した微分散液を得たこと以外は実施例2と同様の操作を繰り返して、固形分40.4%、容積平均粒子径0.25μm、粒子径分布の変動係数28%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表5に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0080】
(実施例14)
メタクリル酸メチル32.8部、アクリル酸2-エチルヘキシル21.8部、メタクリル酸1.0部、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.6部、および、p-メトキシフェノール0.02部の混合物をパドル翼付き攪拌機で均一になるまで攪拌したのち、予め用意しておいた、ニトロセルロース(含水量44.9%、窒素含量12%、数平均分子量20000)80.5部、ゼネラルアニリンアンドフィルム社製ガファックRE-610(アニオン性界面活性剤の固形分25%水溶液)4部、アルコ(Arco)社製ウルトラウエット42K(アニオン性界面活性剤の固形分42%水溶液)7.1部、NaHCO30.6部、および、水51.6部の混合物を添加し、特殊機化工業(株)製高速剪断混合機(商品名TKホモミキサー)を用いて10000rpmで10分間の攪拌により混合した。続いて、(株)イズミフードマシナリ製高圧ホモジナイザー(商品名高圧ホモゲナイザーHV-0H-07型)を用いて600kg/cm2の圧力で5回処理し、容積平均粒子径0.22μmで粒子径分布の変動係数31%の微粒子群が分散した微分散液を得た。高圧ホモジナイザーで処理する際、被処理物の温度は50℃以下になるように随時被処理物を冷却した。引き続いて、参考例1と同様のフラスコに移し、75℃で3時間重合を行い、固形分50.5%、容積平均粒子径0.22μm、粒子径分布の変動係数30%の水性複合樹脂分散液を得た。この水性複合樹脂分散液を分析した結果を表5に示した。得られた水性複合樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に優れた皮膜が得られた。
【0081】
(比較例1)
実施例12において、TKホモミクサーで得た分散液(容積平均粒子径0.97μmで粒子径分布の変動係数81%の微粒子群が分散した分散液)を高圧ホモジナイザーで処理せずそのまま重合に供したこと以外は実施例12と同様の操作を繰り返して水性樹脂分散液を得た。この水性樹脂分散液は凝集物を多量に含んでいた。得られた水性樹脂分散液の水を飛散させると、耐水性および外観に劣った皮膜が得られた。また、この水性樹脂分散液を1日放置すると表層に水相が生じた。
【0082】
(比較例2)
ジャケット付きステンレス製容器に、ニトロセルロース(含水量44.9%、窒素含量12%、数平均分子量20000)80.5部、8.1部のガファックRE-610、11.2部のウルトラウエット42K、NaHCO30.9部、水39.1部を仕込み、次に、予め用意しておいた、メタクリル酸メチル32.8部、アクリル酸2-エチルヘキシル21.8部、メタクリル酸1.0部、および、p-メトキシフェノール0.02部の混合物を添加し、キネティックヂスパージョン社製ケイディーミルL型装置中で45分間ミル処理し、容積平均粒子径0.92μmで粒子径分布の変動係数55%の微粒子群が分散した微分散液を得た。このミル処理中に水7部を添加した。ミル処理により得られた微分散液を参考例1と同様のフラスコに移し、75℃まで加熱した後、0.7%過硫酸カリウム水溶液11.8部と3%Na2SO3水溶液1.1部とをそれぞれ75分間かけて添加した。75℃で45分間熟成を行い、固形分48.9%、容積平均粒子径0.25μm、粒子径分布の変動係数71%の分散液を得た。得られた分散液の水を飛散させると、耐水性に劣った皮膜が得られた。
【0083】
実施例1〜14と比較例1〜2との第1の重合体の種類と量、単量体成分の種類と量、開始剤の種類と量、界面活性剤の種類と量、高圧ホモジナイザーの種類、第1の混合物の微細液滴の容積平均粒子径と粒子径分布の変動係数を表1〜3に示した。実施例1〜14と比較例1〜2とで得られた水性分散液の特性とその皮膜の特性について分析した結果を表4〜5に示した。
【0084】
貯蔵安定性は、水性複合樹脂分散液の試料500mlを透明のプラスチック容器に入れ、25℃の恒温機中に放置し、相分離が生じるまでの月数で評価した。光沢、平滑性、耐水性は、水性複合樹脂分散液をガラス板に乾燥時の膜厚が10μmとなるように塗布し、110℃で5分間加熱乾燥して作製した試験板で調べた。
【0085】
光沢は、試験板の塗装面を肉眼観察し、次の基準で評価した。
○:光沢あり△:光沢ややあり×:光沢なし
平滑性は、試験板の塗装面を肉眼観察し、次の基準で評価した。
○:表面が平滑である×:表面が荒れている
耐水性は、試験板を25℃の水中に48時間浸漬し、皮膜の状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。
○:変化なし△:やや膨潤した×:大きく膨潤した
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
表1〜5にみるように、比較例1〜2では高圧ホモジナイザーや界面活性重合体を使用していないため、分散液の変動係数が50%より大きく、実施例1〜14の分散液に比べて貯蔵安定性が劣っていた。同じ重合体・単量体を用い、ほぼ同様の操作を行った実施例5と6とでは、油溶性重合開始剤を用いた実施例5の分散液の方が、水溶性重合開始剤を用いた実施例6の分散液より均質な皮膜を形成した。実施例1〜8と10〜14で得られた複合樹脂粒子は容積平均粒子径が0.4μm以下であるので、容積平均粒子径が0.4μmよりも大きい実施例9のものに比べて貯蔵安定性がより優れていた。
【0092】
【発明の効果】
本発明にかかる水性複合樹脂分散液の製造方法は、水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを混合して、前記第1の重合体が前記重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程(1A)と、第1の混合物と水性媒体とを混合して第2の混合物を得る混合工程(1B)と、第2の混合物を高圧ホモジナイザーで処理することで、第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を水性媒体中に分散する分散工程(1C)と、水性媒体中に分散された第1の混合物中の第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程(1D)とを含むので、優れた光沢と耐水性とを有する均質な皮膜を形成することができ、分散安定性と成膜性とに優れた水性複合樹脂分散液を有機溶剤を使わずに生産性良く製造することができる。
【0093】
本発明にかかる製造方法は、混合工程(1B)が、第1の混合物と、水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体とを混合する方法であるときには、より分散安定性に優れる。
なお、本発明の技術的範囲を外れる前記第2の水性複合樹脂分散液の製造方法は、水性媒体の不存在下に、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と、第1の重合性不飽和単量体とを混合して、前記第1の重合体が前記重合性不飽和単量体に溶解および/または分散された第1の混合物を準備する準備工程(2A)と、第1の混合物と、水性媒体と、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体とを混合して第2の混合物を得る混合工程(2B)と、第2の混合物を分散機で処理することで、第1の混合物からなる1μm以下の容積平均粒子径と50%以下の粒子径分布の変動係数とを有する液滴を水性媒体中に分散する分散工程(2C)と、水性媒体中に分散された第1の混合物中の第1の重合性不飽和単量体をラジカル重合する重合工程(2D)とを含むので、優れた光沢と耐水性とを有する均質な皮膜を形成することができ、分散安定性と成膜性とに優れた水性複合樹脂分散液を有機溶剤を使わずに生産性良く製造することができる。
【0094】
本発明の製造方法は、第2の混合物が、油溶性重合開始剤をさらに含むときには、より粒子径が均一な複合樹脂粒子群が生成する。本発明の水性複合樹脂分散液は、本発明の製造方法によって製造されるものであり、(1)エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む第1の重合体と第1の重合体と混合された第2の重合体とを含む複合樹脂から構成され、容積平均粒子径1μm以下で粒子径分布の変動係数50%以下の複合樹脂粒子と、(2)複合樹脂粒子が分散されている水性媒体とを含むので、優れた光沢と耐水性とを有する均質な皮膜を形成することができ、分散安定性と成膜性とに優れている。
【0095】
本発明の水性複合樹脂分散液は、親水性基および炭素数6以上の末端アルキル基を有する界面活性重合体をさらに含むときには、より分散安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る高圧ホモジナイザーの要部の概略断面図。
【図2】
本発明に係る別の高圧ホモジナイザーの要部の概略断面図。
【図3】
本発明に係るさらに別の高圧ホモジナイザーの要部の概略断面図。
【符号の説明】
1 第1流路
2 第2流路
3 第3流路
4 第4流路
11 第1流路
12 第2流路
13 第3流路
14 第4流路
21 第1流路
22 第2流路
23 第3流路
24 第4流路
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-22 
出願番号 特願平6-223741
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C09D)
P 1 651・ 121- YA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 後藤 圭次
冨永 保
登録日 2003-02-28 
登録番号 特許第3403828号(P3403828)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 水性複合樹脂分散液およびその製造方法  
代理人 松本 武彦  
代理人 松本 武彦  

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