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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61M
審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61M
審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61M
管理番号 1126398
審判番号 無効2002-35497  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-11-13 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-11-21 
確定日 2005-09-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2979234号発明「血液透析装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2979234号の請求項1、3に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2979234号に係る発明は、平成2年3月5日に特許出願され、平成11年9月17日に特許権の設定登録がされ、その後の平成14年11月21日にニプロ株式会社及び澁谷工業株式会社より本件の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に係る特許について特許無効の審判が請求され、これに対して被請求人より平成15年3月7日に訂正請求がされたが、平成15年11月20日付で当審による無効の理由が通知されたので、その指定期間内である平成16年1月23日に再度の訂正請求がなされたものである。
なお、平成15年3月7日の訂正請求は、取り下げられた。

2.訂正請求について
(2-1)訂正事項
本件特許の出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)は、平成16年1月23日付け訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)によると、次の事項をその訂正の要旨とするものである。
(訂正事項1)
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1につき、「中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、前記透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段と、前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させることによって前記血液透析器を洗浄するための供給手段を有することを特徴とする血液透析装置。」を、
「中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、前記透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段と、治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し、プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されていることを特徴とする血液透析装置。」と訂正する。
(訂正事項2)
本件特許明細書の特許請求の範囲の第2項(請求項2)を削除する。
(訂正事項3)
本件特許明細書の特許請求の範囲の第3項(請求項3)及び第4項(請求項4)の項番号を、それぞれ第2項及び第3項に繰り上げる。
(訂正事項4)
本件特許明細書の第3頁第19〜21行(特許公報第2頁4欄第22〜26行)の「前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させることによって前記血液透析器を洗浄するための供給手段を有する」という記載を、
「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し、プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」と訂正する。
(訂正事項5)
本件特許明細書の第3頁第22〜24行(特許公報第2頁4欄第27〜30行)の次の記載を削除する。
「2.前記供給手段が、前記血液循環用チューブの途中に設けた血液ポンプを逆回転させて、前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を中空糸内側に移動させる機構からなる、請求項1に記載の血液透析装置。」
(訂正事項6)
本件特許明細書の第3頁第25行(特許公報第2頁4欄第31行)の「3」という記載を、「2」と訂正する。
(訂正事項7)
本件特許明細書の第3頁第28行(特許公報第2頁4欄第36行)の「4」という記載を、「3」と訂正する。
(訂正事項8)
本件特許明細書の第5頁第2行と第3行(特許公報第3頁5欄第33行と34行)の間に次の記載を挿入する。
「また、本発明の血液透析装置はプライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている。」
(訂正事項9)
特許明細書の第6頁第11〜13行(特許公報第3頁6欄第33〜35行)の次の記載を削除する。
「また、本発明の血液透析装置はプライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化することができる。」

(2-2)訂正の適否について
(2-2-1)訂正事項1について
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1における「前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させることによって前記血液透析器を洗浄するための供給手段」を、「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」と訂正(以下、「訂正事項a」という。)するとともに、
同上請求項1に「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」という事項を付加(以下、「訂正事項b」という。)するものである。
最初に、訂正事項aにつき、検討する。
ところで、「プライミング」という用語につき、本件特許明細書を参酌すると、発明の詳細な説明中の冒頭部分である「(従来の技術)」の欄において、「中空糸膜型血液透析器を用いた血液浄化療法においては、治療開始前に必ず血液が接触する部分、つまり中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内を洗浄し且つエアー抜きをする為にプライミングと呼ばれる操作を行わなければならない。このプライミングは中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内に残存している滅菌剤や異物を洗い流すと同時にエアーを追い出して、体外循環治療中に血液中に異物や空気が混入したり溶血が起こるのを防ぐことを目的としている。」(特許公報第2頁3欄2〜10行)と説示されている。
このことから、本件特許明細書における「プライミング」という用語は、治療開始前に中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内を洗浄し且つエアー抜きをする操作を意味するものと理解することができるし、本件特許明細書の記載中に当該理解と矛盾する他の記載も見当たらない。
してみると、上記訂正事項aは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前に洗浄するための「供給手段」とされていたものを、プライミングするための「供給手段」と訂正するもの、いいかえれば、治療開始前に中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内を洗浄し且つエアー抜きをするための「供給手段」と訂正するものいえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
次に、訂正事項bにつき検討する。
訂正事項bは、「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」という事項を訂正前の請求項1に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明における「(効果)」の項には、「また、本発明の血液透析装置はプライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化することができる。」という記載がある(注:当該記載は、本件訂正の訂正事項9により削除されている)。
しかしながら、上記記載は、「プライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化することができる」という発明の効果について説示したものであるといえるから、当該記載から直ちに、上記「自動化されている」という構成、いいかえれば、「自動化することができる」という構成までが本件特許明細書に記載されていたということはできない。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明における「(実施例)」の項を参酌してみると、次の記載がある。
「回路の接続が完了したらプライミング用水溶液の通液を開始する。ピンチバルブ(17)は閉としたまま、ピンチバルブ(19)を閉じ、ピンチバルブ(7)を開いた状態で…(中略)…透析液を中空糸膜外側(5)へ供給する。…(中略)…中空糸膜外側(5)に予め充填されていた滅菌水は中空糸膜壁(6)を通過し、中空糸膜内側(4)へ移行し、更に、血液循環用チューブ(2)側へ流れ込む。この時、血液ポンプ(11)は逆転(即ち図において時計廻り)させても良いし、…(中略)…はずしておいても良い。例えば、タイマー等で設定された時間が経過すると、ピンチバルブ(7、21)が閉じピンチバルブ(19、20)が開き、中空糸膜内側の液は血液循環用チューブ(3)側へ流れ込み静脈側チャンバー(18)に達するようにしておく。静脈側チャンバー(18)には非接液型の液面検知器(22)を設けておき、この液面検知器(22)で液面を検知したら、ピンチバルブ(20)を閉じ、ピンチバルブ(21)を開とし、更に流し続ける。終了の時期を判断する手段としては、例えばタイマーにて概ね、その所要時間を設定しておく方法でも良い。終了するとピンチバルブ(7、19)は閉となる。」
(特許公報第3頁5欄第44行〜6欄第19行参照)
上記記載内容によれば、回路の接続が完了後に開始されるプライミング用水溶液の通液により透析液は中空糸膜外側(5)へ供給されることになるが、当該通液ないし供給のための動作が自動化された構成により行われるか否かは必ずしも明らかでないものの、中空糸膜内側の液を、血液循環用チューブ(3)及び静脈側チャンバー(18)へ流し込み、さらに、静脈側チャンバー(18)よりピンチバルブ(21)を超えて流し続けて終了するまでの動作を行う際に、「タイマー」や「液面検知器(22)」を用いることが例示されているといえる。
そして、上記例示された「タイマー」や「液面検知器(22)」は、従来より、自動化のために一般的に採用されている技術手段であるといえるし、また、審判請求人が提出した平成15年10月30日付上申書に添付された資料Cである特開平2-5967号公報の「(従来の技術)」の項にも示されているように、血漿分離器や血液透析器を用いた装置において、自動的にプライミング操作を行うことができる構成を備えたものは、従来より当業者において周知であったということができる。
ところで、訂正事項bにおける「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」という事項は、プライミング操作として必要な操作を、当業者にとって自明な範囲内での一般的な自動化技術を用いて行わせるようにした構成を規定したものであって、当該一般的な自動化技術以上の格別の工夫を要するような自動化のための技術を用いた構成を規定したものでないことは、その記載表現から見て、明らかである。
そうとすると、訂正事項bは、本件特許明細書に記載された事項から、当業者にとって従来より周知の自動化技術として自明な事項の範囲内のものということができる。
以上のことから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

(2-2-2)訂正事項2及び3について
訂正事項2は、特許請求の範囲の第2項を削除するものであり、また、訂正事項3は、同上第2項の削除に伴い、特許請求の範囲の項番号を単に繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、いずれも、特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合するものといえる。

(2-2-3)訂正事項4〜7について
訂正事項4〜7は、上記訂正事項1〜3の訂正によって特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合するものといえる。
また、上記訂正事項4〜7が、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは、上記(2-2-1)における訂正事項1につき説示したとおりである。

(2-2-4)訂正事項8及び9について
同様に、訂正事項8及び9は、上記訂正事項1〜3の訂正によって特許請求の範囲が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合するものといえる。
また同様に、上記訂正事項8及び9が、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは、上記(2-2-1)における訂正事項1の訂正事項bにつき説示したとおりである。

以上のことから、上記訂正事項1〜9は、いずれも、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、平成15年改正前特許法第134条第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するものといえる。

(2-3)独立特許要件について
ところで、本件訂正に伴い、無効審判が請求されていなかったところの訂正前の請求項3に係る発明に実質的に対応する訂正後の請求項2に係る発明も、訂正後の請求項1を引用することから、実質的に訂正されたことになる。
そこで、訂正後の請求項2に係る発明が、特許法第134条第5項で準用する同法第126条第3項に規定する独立特許要件を備えているか否かにつき検討すると、当該請求項2に記載された「前記透析液廃液チューブの一部に設けた中空糸外側の圧をより高めるような絞り機構によって、前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を中空糸内側に移動させる機構」が、本件特許出願前に公知であったといえる証拠を見出すことができない。
以上のことから、訂正後の請求項2に係る発明は、本件特許出願前に公知である刊行物らに基いて、当業者が容易に発明することができたものということができない。
また、他に、訂正後の請求項2に係る発明が独立して特許を受けることができない発明であるとすべき理由も見出し得ない。
したがって、本件訂正は、平成15年改正前特許法第134条第5項で読み替えて準用する特許法第126条第3項の規定にも適合するものといえる。

(2-4)まとめ
以上検討したことから、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、平成15年改正前特許法第134条第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項ないし第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張
審判請求人は、下記の証拠及び理由から、請求項1、2及び4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、請求項1、2及び4に係る発明の特許は、特許法123条第1項第2号により無効にすべきものであると主張する。
(証拠)
甲第1号証:特開昭61-25564号公報
甲第2号証:特開昭63-154181号公報
甲第3号証:特開平1-232969号公報
甲第4号証:特開昭57-75658号公報
甲第5号証:特開昭59-22558号公報

なお、審判請求人は、他の証拠として、平成15年10月1日付口頭審理陳述要領書において資料1〜2を、また、平成15年10月30日付上申書において資料A〜Kを提出している。

4.被請求人の主張
(1)審判請求人による無効とすべき主張に対して
被請求人は、平成15年3月7日に訂正請求をするとともに、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)、主たる引用例である甲第1号証に記載の発明は、プライミング操作を目的としない点で本件発明と異なるから、請求項1、2及び4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない旨主張する。

(2)当審により通知した無効の理由に対して
被請求人は、本件訂正をするとともに、同日付意見書において、次のような理由から、本件発明の特許は無効とされるべきものではない旨を主張する。
(理由1)進歩性(特許法第29条第2項違反)について
(イ)当審による無効の理由に引用した刊行物1(後記(5-3)の(ii)参照)に記載の発明は、血漿交換器におけるプライミング方法に関するものであって、本件発明の血液透析装置とはそのプライミング操作が異なるものであるから、当該方法を血液透析装置へ適用して本件発明の構成に想到することはできない。
(ロ)本件訂正により限定された「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」(上記訂正事項b)構成については、同じく引用した刊行物1〜6に示されていない。
(理由2)記載不備(特許法第36条第4項第2号違反)について
本件訂正によって訂正前の請求項2を削除したので記載不備は解消された。

なお、被請求人は、平成15年10月1日付口頭審理陳述要領書において技術説明資料を、また、平成15年10月1日付証拠提出書により乙第1〜3号証を提出している。

5.訂正後の発明に係る特許の無効理由の存否について
上記2.のとおり本件訂正は認められるので、無効審判の請求の対象となっていた補正前の請求項1及び4に係る発明に実質的に対応するといえるところの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された発明(以下順に、「本件発明1」、「本件発明3」という。)は、それぞれ、次に記載したとおりのものであり、以下、本件発明1及び3に係る特許つき、無効理由(特許法第29条第2項違反)の存否について検討する。

(本件発明1)
「中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、前記透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段と、治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し、プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されていることを特徴とする血液透析装置。」
(本件発明3)
「前記エンドトキシン除去手段が、中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式である、請求項1に記載の血液透析装置。」

(5-1)当審により通知した無効の理由(特許法第29条第2項違反)の概要
当審により通知した無効の理由は、本件発明1、3が、後述するところの従来発明及び引用発明、並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきというものである。

(5-2)本件発明1及び本件発明3について
ところで、訂正後の請求項1は、「血液透析装置」という物の発明を規定したものであるといえるが、その記載事項の一部に作用的表現を用いて記載された「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」という事項が含まれている。
そして、その作用的記載部分を見ると、透析装置における透析器内の通常の使用時における透析液の流れ作用と異なるところの中空糸膜に対する透析液の流れ作用が記載されているといえるから、当該作用的記載部分は透析装置に通常の透析操作時の流れ作用以外の付加的流れ作用を行わせるための手段を、その作用を用いて規定したものということができる。
すなわち、本件発明1は血液透析装置に関する発明であるので、血液透析装置として本来行うところの血液透析操作のための「透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段を備え」ていることは自明の事項であるといえるから、上記作用的記載部分は、血液透析装置が本来備えているところの透析液の通常の供給手段に加えて、通常の血液透析操作の時とは異なる流れ作用であるところの中空糸膜の外側から内側へ透析液を移動させるという付加的流れ作用を、治療開始前にプライミングするために、行わせるための供給手段を備えさせたことを意味するものということができる。
そこで、上記したところの付加的流れ作用を行わせるための供給手段を規定したことを前提として、本件発明1及び3につき、以下に検討する。

(5-3)従来より周知の技術及び刊行物記載事項について
(i)従来より周知の技術について
平成15年10月8日の第1回口頭審理において、当事者双方が、「被請求人提出の口頭審理陳述要領書第5頁に記載された構成要件A〜Fの内、「A〜C及び透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段とを備えた透析装置」ないし「口頭審理陳述要領書に添付された技術説明資料の1枚目の『1.透析装置の構成と基本動作』における『透析器の構造』に示された透析器及び『透析装置の基本構成』を備えた血液透析装置」は、本件特許出願日前に周知である。」(第1回口頭審理調書参照)ことに合意しているように、「中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段とを備えた血液透析装置。」(以下、「従来発明」という。)は、本件特許出願日前に周知であったといえる。
(ii)刊行物記載事項について
本件特許の審査過程における拒絶理由通知書で引用されるとともに、本件特許の異議事件(異議2000-71850事件)の証拠としても提出された本件特許の出願日前に公知の刊行物である特開平1-113064号公報(以下、「刊行物1」という。注:請求人による平成15年10月30日付上申書における資料Bである。)には、次の事項が記載されている。
(イ)(発明の詳細な説明における[従来技術]の項)
「人工腎臓、血漿交換器等を使用する際、血漿交換器等モジュール内の中空糸中への血液導入をスムースに行い、且つ中空糸内の気泡を取り除くことを目的として、使用前に生理食塩液等で中空糸内部を充填する操作、いわゆるプライミング操作が行われている。このプライミング操作のやり方としては、従来より、血液の流れる側、すなわち中空糸内側に、この中空糸束の一方から生理食塩液を導入することが行われている。」
(ロ)(発明の詳細な説明における[発明が解決しようとする問題点]の項)
「しかしながら、上記従来方法にあっては、生理食塩液の回路に空気が存在しているため、中空糸内部に空気が残存したり、新たに外部より空気が入る恐れがあった。さらには中空糸内の気泡除去に時間を要する、という問題もあった。」
(ハ)(発明の詳細な説明における[問題点を解決するための手段]の項)
「そこで、本発明者は、上記従来の問題点に鑑み、種々検討を行なった結果、多孔質中空糸の外側より生理食塩液を導入し、中空糸外側より内側へ生理食塩液を導くことにより、前記従来の問題点を解決できることを見出し、本発明に至った。 即ち、本発明によれば、中空糸型血漿交換器へ生理食塩液をプライミングするに際し、該生理食塩液を該血漿交換器内の中空糸外側に導入し、次いで中空糸外側より中空糸内側へ生理食塩液を浸透させプライミングを行うことを特徴とする、血漿交換器のプライミング方法、が提供される。」
(ニ)(発明の詳細な説明における[発明の効果]の項)
「以上説明したように、本発明のプライミング方法によれば、中空糸外側より内側へ生理食塩液を導いているため、中空糸内部に気泡が残ることなく、プライミング時間を短縮することができるという効果を奏する。」
上記記載事項(イ)〜(ニ)によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載ないし示唆されていると認められる。
(引用発明)
「人工腎臓、血漿交換器等を使用する際のプライミング操作において、人工腎臓、血漿交換器等に使用されるモジュール内の多孔質中空糸の外側よりプライミング用の液体を導入し、次いで中空糸外側より中空糸内側へプライミング用の液体を浸透させることによりプライミングを行うことを特徴とするプライミング方法。」

なお、被請求人は、平成16年1月23日付け意見書において、刊行物1は、血液回路、中空糸膜内部のみならず、中空糸膜外側等もプライミングをする必要があるところの血漿交換器に関するプライミング方法を開示したものであって、中空糸膜内部のみをプライミングすればよいところの血液透析器のプライミング方法を開示したものではなく、両者のプライミング操作は大きく異なる旨を主張している。
しかしながら、血漿交換器に関するプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とは、共に中空糸膜内部をプライミングする必要性がある点で共通するものであることが当業者にとって自明な事項であるといえるから、刊行物1における上記した「発明が解決しようとする問題点」、「問題点を解決するための手段」及び「発明の効果」の各項における一連の記載事項の文脈を通じて、刊行物1に記載されたプライミング方法は、上述した血漿交換器のみならず、人工腎臓(血液透析器)にも適用できることが、当業者にとって自明な事項として把握できるといえるので、上記のように認定した。

(5-4)本件発明1について
(i)対比・判断
本件発明1と従来発明とを対比すると、上述したように、本件発明1の透析装置が透析装置として本来行う透析操作のための「透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段を備え」ていることは自明の事項であるといえるから、両者は、「中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、透析液を透析器の中空糸膜外側へ供給する供給手段とを備えた透析装置。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、
(A)前者が、透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段を備えているのに対して、後者が、このような構成を備えていない点(以下、「相違点A」という。)、
(B)前者が、プライミング用水溶液として透析液を用いるのに対して、後者が、生理食塩水等のプライミング用の液体を用いる点(以下、「相違点B」という。)、
(C)前者が、「治療開始前にプライミングするために」プライミング用水溶液としての透析液を「前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」を備えているのに対して、後者が、このような構成を備えていない点(以下、「相違点C」という。)、
(D)前者が、「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」構成を備えているのに対して、後者が、このような構成を備えていない点(以下、「相違点D」という。)、で相違するものといえる。
そこで、上記相違点A〜Dにつき、以下に検討する。
(相違点Aについて)
ところで、血液透析装置における透析液の除菌を目的として、透析器への透析液供給手段と該透析器との供給路中に、例えば、パイロゲン(Pyrogen発熱性物質)を補足する除菌フィルタ等の除菌手段を介在させることは、従来より周知の手段であったといえる(必要ならば、甲第2号証及び甲第3号証参照)し、また、上記パイロゲン(Pyrogen発熱性物質)の代表的なものが、エンドトキシンであることも従来より周知であったといえる(必要ならば、甲第5号証である特開昭59-22558号公報の第1頁右欄参照)。
してみると、相違点Aは、従来発明である血液透析装置の構成に、透析液の供給手段と透析液との間にエンドキシン除去手段を介在させるという従来より周知の手段を採用することにより、当業者が適宜採用し得た設計事項であるといえる。
(相違点Bについて)
プライミング操作時に使用される液体であって、血液透析装置の通常の透析操作時に使用されるものではないところのプライミング用の液体として何を用いるかという特定事項が、そもそも血液透析装置自体の構成を特定するための事項と成り得るのかという疑問が残るものであるが、ここでは、そのような特定が一応成り立つものとして検討する。
ところで、血液透析装置のプライミング用の液体として何を用いるかを想定する場合、それが明らかに使用不可能な液体であると認識されない限り、当該技術分野において良く知られている液体を、プライミング用液の一つとして選択しようと試みることは、当業者が容易に想起し得る選択的事項であるということができる。
そして、当業者において「透析液」がプライミング用の液体の一つとして従来より想定し難いものであったと解されるような特別の事情を見出すことができない(ちなみに、本件発明の出願当初の明細書(第8頁の13〜17行参照)には、無菌化されたプライミング用液の幾つかの例とともに無菌化された「透析液」がこれらの例と等価的なものとして提示されており、さらに、審判請求人が提出したところの平成15年10月1日付け口頭審理陳述要領書に添付された資料1である「The International Journal of Artificial Organs/Vol 6」(1968年発行)に、清浄な透析液をプライミングに使用できる旨が示されていることを考慮すると、従来より「透析液」がプライミング用液の対象として当業者により想定し難いものであったと解することもできない)。
してみると、プライミング用の液体として、無菌化され、使用可能である「透析液」を選択することは、当業者が容易に想起し得た選択的事項であるといわざるを得ない。
(相違点Cについて)
上記(5-2)で説示したように、本件発明1における「治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段」は、血液透析装置が本来備えているところの透析液の通常の供給手段に加えて、通常の血液透析操作の時とは異なる流れ作用であるところの中空糸膜の外側から内側へ透析液を移動させるという付加的流れ作用を、治療開始前にプライミングするために、行わせるための供給手段を備えさせたことを意味するものといえる。
ところで、「人工腎臓、血漿交換器等を使用する際のプライミング操作において、人工腎臓、血漿交換器等に使用されるモジュール内の多孔質中空糸の外側よりプライミング用の液体を導入し、次いで中空糸外側より中空糸内側へプライミング用の液体を浸透させることによりプライミングを行うことを特徴とするプライミング方法」は、引用発明により本件特許出願日前に公知であったといえる。
そして、従来発明の血液透析装置における「透析器」が、上記引用発明における人工腎臓に使用されるモジュールに相当することは明らかである。
してみると、相違点Cは、従来発明の血液透析装置に、そのプライミング操作をする目的で、上記引用発明のプライミング方法を適用するための供給手段を単に付加することにより、当業者が容易に想到し得た設計上の変更であるといえる。
(仮に、刊行物1が血漿交換器のためのプライミング方法のみを開示したものとしても、上記(5-3)の(ii)のなお書きで説示したように、血漿交換器に関するプライミング方法と血液透析器のプライミング方法とは、共に中空糸膜内部をプライミングする必要性がある点で共通するものであることが当業者にとって自明な事項であるといえるから、刊行物1に記載されたプライミング方法を従来発明の血液透析器に適用することに格別の困難性があったものということはできない。)
また、当該設計上の変更をする際に、従来発明が備えるプライミング操作のための構成であるところの透析装置における生理食塩水を中空糸内側に導入するために採用されていた構成(例えば、このためのプライミング用水溶液用の専用回路や生理食塩水入りバッグの懸架冶具等)を単に省略することは、同上引用発明のプライミング方法(中空糸の外側から入れて内側へ移動させる方法)を適用する際に、中空糸内側に導入するための上記構成が不要となることは明らかであるから、当業者が当然配慮して採用する設計的事項であるといえる。
(相違点Dについて)
ところで、上記(2-2-1)の訂正事項1における訂正事項bにつき説示したように、血漿分離器や血液透析器を用いた装置において、自動的にプライミング操作を行うことができる構成を備えたものは従来より当業者において周知であったということができるし、かつまた、本件発明1の「プライミング水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている」という構成は、プライミング操作として必要な操作を、当業者にとって自明な範囲内での一般的な自動化技術を用いて行わせるようにした構成であるということができる。
してみると、相違点Dは、従来発明の血液透析装置に、従来より周知であるところの一般的な自動化技術を単に適用することにより、当業者が適宜採用し得た設計事項であるといわざるを得ない。

(ii)まとめ
以上検討したことから、他の理由及び証拠について検討するまでもなく、本件発明1は、従来発明及び引用発明、並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるといえる。

(5-5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の構成を全て含むとともに、さらに、「前記エンドトキシン除去手段が、中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式である」という限定事項を加えたものといえるから、本件発明3と従来発明とを対比すると、上記(5-4)に記載した一致点で一致し、相違点A〜Dで相違するとともに、さらに、次の点(以下、「相違点E」という。)で相違する。
(相違点E)
前者が、エンドトキシン除去手段として、中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式を用いるものであるのに対して、後者が、このような構成を備えていない点。
(相違点A〜Dについて)
本件発明1を引用する部分の相違点A〜Dについては、上記(5-4)で説示したとおりである。
(相違点Eについて)
除菌手段として、中空糸膜等に依る濾過方式や吸着剤による吸着方式を用いたものは、例を示すまでもなく、従来より周知の手段であったといえる。
してみると、相違点Eは、上記(5-4)の相違点Aで指摘したところのエンドトキシン除去手段を採用するに際して、除菌手段として従来より周知のものを単に選択することにより、当業者が適宜採用し得た設計的事項であるといえる。
以上のことから、本件発明3は、他の理由及び証拠について検討するまでもなく、従来発明及び引用発明、並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるといえる。

なお、訂正後の請求項2に係る発明の特許は、無効審判が請求されていなかったところの訂正前の請求項3に係る発明の特許に実質的に対応するものであり、かつまた、無効とすべき理由がないことは、上記(2-3)で説示したとおりである。

6.むすび
したがって、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
血液透析装置
(57)【特許請求の範囲】
1.中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、前記透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段と、治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し、プライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されていることを特徴とする血液透析装置。
2.前記供給手段が、前記透析液廃液チューブの一部に設けた中空糸外側の圧をより高めるような絞り機構によって、前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を中空糸内側に移動させる機構からなる、請求項1に記載の血液透析装置。
3.前記エンドトキシン除去手段が、中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式である、請求項1に記載の血液透析装置。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、プライミング操作が技術的に簡便で、血液側にエアーの混入の心配がなく、且つ、エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング液として利用可能な血液透析装置に関する。
(従来の技術)
中空糸膜型血液透析器を用いた血液浄化療法においては、治療開始前に必ず血液が接触する部分、つまり中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内を洗浄し且つエアー抜きをする為にプライミングと呼ばれる操作を行なわなければならない。このプライミングは中空糸膜内側及び血液循環用チューブ内に残存している滅菌剤や異物を洗い流すと同時にエアーを追い出して、体外循環治療中に血液中に異物や空気が混入したり溶血が起こるのを防ぐことを目的としている。
従来よりプライミング操作には、血液透析器の滅菌法に応じて大別して2通りの方法が採用されている。
エチレンオキサイドガス或いは高圧蒸気等で滅菌された、中空糸膜内外が実質的に乾燥した状態にある、いわゆるドライタイプの血液透析器では、共に乾燥状態にある血液透析器と血液循環チューブとを接続した後、血液透析器を鉛直にした状態で下方の血液側入口に接続されている血液循環チューブ側から、プライミング用水溶液を徐々に供給して中空糸膜内側のエアーを該プライミング用水溶液で上方へ押し上げて行き、血液側出口、延いては血液循環チューブ外へ追い出し、同時に中空糸膜内側及び血液循環チューブ内の洗浄を行っている。
(発明が解決しようとする問題点)
しかし、このプライミング操作には、中空糸膜内側のエアーをプライミング用水溶液と完全に置換する点に技術的な難しさがあり、通常は熟練の専門技術者が血液透析器に外側から振動を与える等して、中空糸膜内側のエアーを血液側出口へ追い出しているのが実情である。しかもこの様な人的操作に頼ったプライミング操作は、操作完了迄にかなりの時間を要する。
又、中空糸膜の内外両側に滅菌水或は蒸留水が満たされた状態で供給される、いわゆるウェットタイプの血液透析器のプライミング操作では、中空糸膜内側のエアーが予め抜かれた状態にあるので、前述の様な中空糸膜内側のエアー抜きに関する困難性は無いが、代わりに乾燥状態で供給される血液循環チューブと血液透析器を接続する前に、先ず、血液循環チューブ内にプライミング用水溶液を通液してチューブ端部ぎりぎり迄水溶液を満たしておき、この端部と血液透析器の血液側入口の端部とをエアーが入らない様に注意しながら、且つ、中空糸膜内側に予め充填されている滅菌水或いは蒸留水を漏らさない様にしながら、接続するという煩雑さがある。即ち、従来より行なわれているプライミング操作は、ドライタイプ、ウェットタイプの何れの血液透析器を含んだ体外循環回路について行なう場合も、専門技術者の熟練した腕に依存したものである。
従って、同一時間帯に多数の患者に施療することの多い、血液透析等の為のプライミング操作には、多数の専門技術者の確保が必要となる上、各技術者には操作の確実性、迅速性が要求され精神的、肉体的疲労が多大である等の問題がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、本発明の課題は、技術的・経済的及び安全性の観点から、▲1▼一回のプライミング操作に要する手間が少なく、プライミング操作が技術的に簡便で、▲2▼血液透析器の血液側にエアー混入のない、▲3▼比較的費用のかかる生理食塩液をプライミング液として用いるのではなく、エンドトキシン除去手段を通過した安全な透析液をプライミング液として利用可能な中空糸膜型血液透析装置を提供することである。
(問題点を解決するための手段)
本発明は、中空糸膜型血液透析装置のプライミング操作が技術的に簡便で、血液側にエアーの混入の心配がなく、且つ、エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング液として利用可能な透析装置に関する。
即ち、本発明の要旨は下記のとおりのものである。
1.中空糸膜型血液透析器と、前記透析器の血液入口及び血液出口に中空糸膜内側に連通する様に接続された血液循環用チューブと、前記透析器の透析液入口及び透析液出口に透析液を流通させる様に接続された透析液供給チューブ及び透析液廃液チューブと、前記透析液供給チューブ中に介在させたエンドトキシン除去手段と、治療開始前にプライミングするために前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液をプライミング用水溶液として前記透析器の中空糸膜外側から中空糸膜壁を通過させ中空糸膜内側へ移動させる供給手段とを有し、プライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されていることを特徴とする血液透析装置。
2.前記供給手段が、前記透析液廃液チューブの一部に設けた中空糸外側の圧をより高めるような絞り機構によって、前記エンドトキシン除去手段を通過した透析液を中空糸内側に移動させる機構からなる、請求項1に記載の血液透析装置。
3.前記エンドトキシン除去手段が、中空糸膜等に依る濾過方式又は/及び吸着剤による吸着方式である、請求項1に記載の血液透析装置。
(作用)
本発明の血液透析装置では、プライミング用水溶液を血液透析器の中空糸膜内側と、それに連通する血液透析器の血液側入口及び血液側出口に接続された血液循環用チューブとで構成される、いわゆる血液側回路のみに通液していた従来法と異なり、中空糸膜外側すなわち血液透析器でいう透析液回路側からプライミング用水溶液を供給し、該プライミング用水溶液を中空糸膜壁を通過させて中空糸膜内側へ送り込む為、プライミング用水溶液にエアーが混入していてもエアーが中空糸膜壁を通過できないので、血液側回路にはプライミング用水溶液のみが流れ込みエアーが混入しない。
従って、プライミング用水溶液の導入に、従来法の様にエアーの混入に関して細心の注意を払う必要が無く、操作を行なう者に熟練度が要求されない上、一回のプライミング操作に要する手間も激減する。
特に、ウェットタイプの血液透析器の場合は、血液透析器と血液循環用チューブとの接続時に予め中空糸膜内側に充填されている滅菌水を流出させない点だけ注意すれば、熟練者でなくても簡単にプライミング操作を行うことができる。即ち、治療用の体外循環回路を組み立ててしまい、透析液供給源と血液透析器の透析液入口とをつなぐ回路に透析液中のエンドトキシンを除去する手段を介在させて治療時と同様に透析液を血液透析器へ供給する操作を行えば、血液透析器の透析液入口にはエンドトキシンフリーの透析液が供給され、これが中空糸膜を介して中空糸膜内側へ流れ込み、エンドトキシンフリーの透析液によるプライミング操作が実現できる。この場合、予め血液透析器の透析液側に充填されていた滅菌水も中空糸膜内側へ流れ込み、プライミング用水溶液の一部として利用される。
本発明ではプライミング用水溶液として、従来より使用されている生理食塩水の代わりに特に、エンドトキシンフリーの透析液を使用する。
なお、プライミング用水溶液を中空糸膜外側へ供給し、それを更に中空糸膜壁を通過させて中空糸膜内側、続いて血液循環チューブへと移動させる駆動方法としては、プライミング用水溶液の供給源と血液透析器との間に落差を設けて落差圧により供給する方法や、プライミング用水溶液の供給源と血液透析器の中空糸膜外側とを結ぶチューブにしごきポンプ等を設けて送り出す方法、或は中空糸膜内側に連通する血液循環チューブに設けられている、いわゆる血液ポンプを利用してプライミング用水溶液を中空糸膜内側へ引っぱる方法等が挙げられる。
また、本発明の血液透析装置はプライミング用水溶液の通液開始からプライミング終了までの操作が自動化されている。
(実施例)
本発明の実施例の1例として、ウェットタイプの血液透析器の場合について説明する。
第1図はプライミング用水溶液にエンドトキシンフリーの透析液を使用する本発明装置の構成図である。
まず、第1図の様に透析器(1)と血液循環用チューブ(2、3)及び透析液廃液チューブ(12)、透析液供給チューブ(14)を接続する。回路を接続する前にピンチバルブ(17)を中空糸膜内側(4)の滅菌水が血液循環用チューブ(3)側へ流出、落下するのを防ぐ為閉としておく。回路の接続が完了したらプライミング用水溶液の通液を開始する。ピンチバルブ(17)は閉としたまま、ピンチバルブ(19)を閉じ、ピンチバルブ(7)を開いた状態で透析液供給チューブ(14)中に介在させたエンドトキシン除去手段(15)を経てエンドトキシフリーとなった透析液を中空糸膜外側(5)へ供給する。この時中空糸膜外側(5)の圧をより高める為に透析液廃液チューブ(12)の一部に絞り機構(23)を用いても良い。
中空糸膜外側(5)に予め充填されていた滅菌水は中空糸膜壁(6)を通過し、中空糸膜内側(4)へ移行し、更に、血液循環用チューブ(2)側へ流れ込む。この時、血液ポンプ(11)は逆転(即ち図において時計廻り)させても良いし、或いは血液循環用チューブ(2)のポンプしごき部(10)を血液ポンプ(11)からはずしておいても良い。例えば、タイマー等で設定された時間が経過すると、ピンチバルブ(7、21)が閉じピンチバルブ(19、20)が開き、中空糸膜内側の液は血液循環チューブ(3)側へ流れ込み静脈側チャンバー(18)に達するようにしておく。静脈側チャンバー(18)には非接液型の液面検知器(22)を設けておき、この液面検知器(22)で液面を検知したら、ピンチバルブ(20)を閉じ、ピンチバルブ(21)を開とし、更に流し続ける。終了の時期を判断する手段としては、例えばタイマーにて概ね、その所要時間を設定しておく方法でも良い。終了するとピンチバルブ(7、19)は閉となる。なお、エンドトキシン除去手段(15)のエンドトキシン除去の手段としては、中空糸膜等に依る濾過方式でも良いし、或いは吸着剤に依る吸着方式でも良い。
(効果)
本発明の血液透析装置では、プライミング用水溶液を中空糸膜型血液透析器の中空糸膜外側から供給するので、プライミング用水溶液にエアーが混入していてもエアーは全て中空糸膜壁でシャットアウトされ、中空糸膜内側には常にエアーの混入しないプライミング用水溶液が供給される。
本発明の血液透析装置は従来、回路の接続の点で特に熟練が要求されたウェットタイプの血液透析器を接続する体外循環回路に適用する時に操作の簡便性、プライミングの確実性の両面で効果が顕著である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明装置をプライミングする際の説明図である。
1…中空糸膜型血液透析器
2、3…血液循環用チューブ
4…中空糸膜内側
5…中空糸膜外側
6…中空糸膜
8…動脈側チャンバー
10…ポンプしごき部
11…血液ポンプ
12…透析液廃液チューブ
14…透析液供給チューブ
15…エンドトキシン除去手段
7、17、19、20、21…ピンチバルブ
18…静脈側チャンバー
22…液面検知器
23…絞り機構
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-06-22 
結審通知日 2004-06-23 
審決日 2004-07-06 
出願番号 特願平2-51739
審決分類 P 1 122・ 832- ZA (A61M)
P 1 122・ 856- ZA (A61M)
P 1 122・ 121- ZA (A61M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 貢稲村 正義  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 岡田 孝博
増山 剛
登録日 1999-09-17 
登録番号 特許第2979234号(P2979234)
発明の名称 血液透析装置  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 旭 宏  
代理人 小松 秀岳  
代理人 旭 宏  
代理人 小松 純  
代理人 神崎 真一郎  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  
代理人 酒井 正己  
代理人 神崎 真一郎  
代理人 小松 純  
代理人 小松 秀岳  

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