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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61H |
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管理番号 | 1126402 |
審判番号 | 無効2001-35508 |
総通号数 | 73 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-04-09 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-11-16 |
確定日 | 2005-09-12 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3012780号「エアーマッサージ機」の特許無効審判事件についてされた平成14年7月31日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第460号、平成16年3月23日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3012780号の請求項2ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第3012780号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成7年3月23日に出願され、平成11年12月10日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。 (2)これに対し、請求人は、平成13年11月16日に請求項1ないし4に係る発明の特許について無効審判(無効2001-35508号)を請求した。 (3)被請求人は、平成14年2月18日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。 (4)平成14年7月31日付けで、「訂正を認める。特許第3012780号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3012780号の請求項2乃至4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決がなされた。 (5)これに対し、東芝テック株式会社(本件無効審判事件の被請求人)は、上記審決中、「特許第3012780号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消すことを求めた審決取消訴訟を提起したところ、東京高等裁判所において、「原告の請求を棄却する。」との判決[平成14年(行ケ)第458号、平成16年3月23日判決言渡、以下「判決A」という。]があり、上告受理の申し立て[平成16年(行ノ)第62号]がなされたが、最高裁判所より上告審として受理しない旨の決定(平成16年6月3日)がなされたため、判決Aが確定し、これにより本件の請求項1に係る特許については無効が確定した。 (6)一方、ファミリー株式会社(本件無効審判事件の請求人)は、上記審決中、第3項の部分を取り消すことを求めた審決取消訴訟を提起したところ、東京高等裁判所において、『特許庁が無効2001-35508号事件について、平成14年7月31日にした審決の第3項「特許第3012780号の請求項2乃至4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」を取り消す。』との判決[平成14年(行ケ)第460号、平成16年3月23日判決言渡、以下「判決B」という。]があり、上告受理の申し立て[平成16年(行ノ)第64号]がなされたが、最高裁判所より上告審として受理しない旨の決定(平成16年9月9日)がなされたため、判決Bが確定し、これにより上記審決中、第3項の部分の取消が確定した。 (7)そこで、本件の請求項2ないし4に係る発明の特許についてさらに審理することとする。 2.訂正の可否に対する判断 訂正の可否に対する判断については、上記審決中で以下のように検討されているところであり、その判断内容に変更はない。 (1)平成14年2月18日付けの訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである。 【特許請求の範囲】の【請求項3】において、 「底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置した」を、 「底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置し、前記各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した」 と訂正する。 (2)上記訂正事項は、各空気袋の動作態様を限定するものであり、本件特許明細書の段落【0033】の「分岐供給管55bの先端はさらに分岐されて弁手段としての電磁開閉弁42、43に個別に接続されている。」及び同【0040】の「脚用第2空気袋37a、37b用の電磁開閉弁43を、脚用第1空気袋35a、35b、36a、36b用の電磁開閉弁42よりも遅れて開くように制御する。」の各記載に基づくものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。 そして、上記訂正事項は、容易に取扱うことができ、マッサージ効果を向上できるエアーマッサージ機を得るという課題に変更を及ぼすものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)したがって、平成14年2月18日付けの訂正は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定及び同条第5項において準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。) 【請求項1】 座部及び背凭れ部を有した椅子本体と、前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ、かつ、両側壁及び中間壁を有し、これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部が形成され、前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに、前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた脚載置部と、前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置と、を具備した椅子式のエアーマッサージ機。(本件発明1) 【請求項2】 前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が、前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機。(本件発明2) 【請求項3】 底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置し、前記各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した前記請求項1又は2に記載のエアーマッサージ機。(本件発明3) 【請求項4】 前記脚用空気袋の膨脹完了時期よりも遅く前記底部空気袋の膨脹が完了するようにした前記請求項3に記載のエアーマッサージ機。(本件発明4) 4.請求人の主張 請求人は、以下の(c)ないし(h)の理由を挙げて、本件発明2ないし4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張している。 (c)本件発明2は、平成6年10月17日に株式会社フジ医療器が大阪で主催した新商品発表会(以下、「フジ医療器新商品発表会」という。)において公然実施された発明(以下、「フジ発明」という。)及び甲第5号証(実願昭57-121347号[実開昭59-100410号]のマイクロフィルム)に記載された発明(以下、「甲第5号証発明」という。)若しくは甲第14号証(特公昭52-28517号公報)に記載された発明(以下、「甲第14号証発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明できたものである(本件発明2は、本件特許の基礎出願に添付された明細書に記載された発明ではないから、国内優先権(優先権主張日平成6年7月29日)主張の効果はなく、フジ発明は先行技術となる。)。(以下、「無効理由c」という。) (d)本件発明2は、甲第12号証(意匠登録第296760号公報、甲第13号証は、この公報に係る意匠の登録証及びそれに添付された図面代用写真である。)に記載された発明(以下、「甲第12号証発明」という。)及び甲第5号証発明若しくは甲第14号証発明に基づき、当業者が容易に発明できたものである。(以下、「無効理由d」という。) (e)本件発明3は、フジ発明及び甲第5号証発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである(前記のとおり、フジ発明は先行技術となる。)。(以下、「無効理由e」という。) (f)本件発明3は、甲第12号証発明及び甲第5号証発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。(以下、「無効理由f」という。) (g)本件発明4は、フジ発明及び甲第5号証発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである(同じく、フジ発明は先行技術となる。)。(以下、「無効理由g」という。) (h)本件発明4は、甲第12号証発明及び甲第5号証発明に基づき、当業者が容易に発明できたものである。(以下、「無効理由h」という。) なお、請求人は、本件発明1については、次のように主張していた。 (a)本件発明1は、フジ医療器新商品発表会において公然実施されたフジ発明である(同じく、フジ発明は先行技術となる。)。 (b)本件発明1は、甲第12号証発明であって、又は、甲第12号証発明に周知技術を適用することによって当業者が容易に発明できたものである。 5.被請求人の主張 一方、被請求人は、概ね次のように主張している。 (1)少なくとも本件発明2については、前記基礎出願に基づく国内優先権主張によって、その記載の範囲で当該優先権の適用利益を享受できるものであり、いずれも審判請求人が提出した甲第9ないし13号証によって、公然実施され、または記載された発明ではなく、また、これらの甲各号証の発明に基づいて容易に発明できたものでもない。 (2)万一、本件発明2が、前記国内優先権主張の利益を享受できない場合であっても、これらは、前記甲各号証によって、公然実施され、または記載された発明とは異なり、さらにこれらの発明に基づいて容易に発明できたものではないから、本件発明2の特許は無効とされるべきものではない。 (3)本件発明3及び4は、前記甲第5、9ないし14号証によって公然実施され、または記載された発明に基づいて容易に発明できたものでもないから、本件発明3及び4の特許は無効とされるべきものではない。 6.甲各号証 (1)甲第5号証(実願昭57-121347号[実開昭59-100410号]のマイクロフィルム)には、次の事項が記載されている。 (a)「第4図は圧迫治療器の本体5の概略構成図を示している。11は十分な風量をもつ大型のエアコンプレッサであり、本体5とは別に設置される。治療器の本体5内には、エアコンプレッサ11からの空気供給管路に、圧力調整機構をもつレギュレータ12,異常高圧を検出して圧迫動作を停止させる圧力スイッチ13、風量調整器14、及び電磁弁6が設けられ、図示しない制御回路により電磁弁6を設定された開時間と閉時間で開閉動作させる構造である。16は本体5からの空気供給用のホース6の一部に接続された圧力調整排気弁であり、各エアーバッグ4a〜4fの圧力が設定圧に達した際弁を閉じてエアーバッグ4a〜4bへの空気の供給を停止すると共に、本体5の電磁弁15が閉鎖され、空気圧が低下した際排気弁を開いてエアーバッグ4a〜4f内の空気を排気するように動作する。」(明細書4頁3〜19行) (b)「一方、上記の実施例では複数のエアーバッグに対し一度に空気を供給したが、順次供給を行って、複数のエアーバッグを順次膨らませて要所を圧迫することも可能である。」(同書7頁8〜11行) (c) また、第1図〜第3図には、人体の肩部を包囲する殻体1の内側に、複数のエアーバッグ4a〜4fが配置され、特に、エアーバッグ4fの最大圧迫部は、施療凹部(殻体1)の上面側に位置する肩部の表側部分に接するように配置され、また、特に、エアーバッグ4a、4bは、施療凹部(殻体1)の底面に配置されている状態が示されており、さらに、第4図には、圧迫治療器の本体の概略構成が示されている。 (2)甲第12号証(意匠登録第296760号公報)の図面には、「座部及び背凭れ部を有した椅子本体と、前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ、かつ、両側壁及び中間壁を有し、これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の凹部が形成された脚載置部と、を具備した指圧椅子」が示されている。 (3)甲第13号証(意匠登録第296760号公報に係る意匠の登録証及びそれに添付された図面代用写真)の図面代用写真には、甲第12号証の公報の図面と同様の「指圧椅子」が示されている。 (4)甲第14号証(特公昭52-28517号公報)には、次の事項が記載されている。 (a)「従来の指圧装置にあつては単に指圧頭を身体に向けて間歇的に押圧するようにしているだけなので、身体が指圧力の作用方向に逃げてしまい指圧効果が損われ、特に腕部、脚部のように体重をかけにくい部分ではその傾向が大きく、実質的な指圧効果が得られない欠点があつた。」(1頁1欄34行〜2欄2行) (b)「指圧筒28,29にはそれぞれ図示しない空気圧生成装置によつて生成された空気圧が導管32を介して給排できるようになつており、指圧筒28,29を伸縮作動させることができる。」(2頁3欄23〜27行) (c)「本発明によれば、固定枠24とこれに蝶着26される可動枠25とによつて身体の脚部、腕部等の筒状をなす被指圧部を抱持し、それらの内面に設けた指圧筒28,29によつて前記指圧部を両側より指圧することができ、しかも太つた人、痩せた人の場合でも前記指圧筒28,29を略相対向させることができ、従来の指圧装置では指圧が困難であつた脚部、腕部等も恰も指圧師が指先で抱持して指圧する場合と同じように指圧することができ」(3頁5欄7行〜6欄1行) (d) また、第2図及び第3図には、下腿部を略対向する方向から挟み付け、押圧する一対の指圧筒(28,29)が開示されている(ただし、押圧個所は、脚部のやや斜め上方(表側)の側部及び斜め下方(裏側)の側部である。押圧方向は、厳密に180度対向する方向というわけではない。)。 7.判断 (1)本件発明2について 本件発明2に関し、判決Bにおいて次のような判示がなされている。 『2 原告の主張1(本件発明2の容易推考性)について (1) 審決は,(本訴の対象となっていない)本件発明1について,その容易推考性を肯定してこれを無効としつつ,本件発明2については, 「本件発明2は,本件発明1にさらに,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した」という構成を限定付加したものである。・・・ 上記フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明(判決注・フジ発明),上記甲第13号証の発明及び甲第5,12,14号証(判決注・順に,甲6文書,甲4公報,甲5公報,甲7公報)に記載された発明のいずれにも,少なくとも,本件発明2の上記限定付加された構成は存在しない。 そして,この構成は,「施療凹部に収容された使用者の下肢を,各脚用空気袋で下肢が施療凹部の開放上面側に押出されないように保持して,側面方向から空気袋で確実に圧迫できるので,マッサージ効果を向上できる」(判決注・甲第2号証6頁左欄8行目〜11行目)との格別の効果を奏する。 そうすると,本件発明2について,仮に,国内優先権主張の効果が認められないとしても,本件発明2が,上記公然実施された発明或いは上記甲各号証に記載された発明であるとも,また,それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。」(審決書11頁15行目〜12頁1行目) と述べて,原告主張の無効理由c及びdのいずれも排斥している。 (2) 甲7発明の理解について ア 原告は,甲7発明には,施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように施療凹部側面に対し脚用空気袋を配置した構成はない,との審決の認定を争っている。 イ 甲7公報には,次のような記載がある。 ・・・(中略)・・・ ウ 上記のとおり,甲7発明は,(蛇腹状で給排気により)伸縮する指圧筒28,29(及びその先端に固設された指圧頭30,31。指圧筒と指圧頭を併せて「指圧筒・頭」ということがある。)が,被指圧部を指圧するものであり,指圧に当たり,被指圧部を抱持した上,両側から挟み付けるように指圧することにより,指圧する方向に,人体が逃げることを防止して,「恰も指圧師が指先で抱持して指圧する場合と同じように指圧する」ための装置である。 甲7公報の固定枠24及び可動枠25からなる凹状枠も,「凹部」であることは間違いない。また,それは,伸縮作動して人体を押圧する指圧筒を備えているから,指圧という施療を行うものである(別紙2,3参照)。これが,「施療凹部」であるとした審決(審決書8頁22行目〜24行目)の認定に,誤りはない。 他方,甲7発明には,その開放上面側に人体が逃げていくことを防止しようという直接の意図も発想もない。また,甲7公報に開示されている指圧筒は,点接触的に人体に当接し,これを圧迫するものであるから,最大圧迫部とそれ以外の部分を持つと認めることはできない。 したがって,「施療凹部に収容された使用者の下肢に対する脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した」構成が,甲7発明にはない,とした審決の認定自体に誤りはない (3) 以上に基づき,本件発明2の「前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機」という構成につき,容易推考性は認められないとした,審決の判断について検討する。 ア 前記のとおり,甲7発明は,指圧筒・頭により指圧するものであり,指圧に当たり,被指圧部を抱持した上,これを両側から挟み付けるようにして指圧することにより,指圧する方向に人体が逃げることを防止して,「恰も指圧師が指先で抱持して指圧する場合と同じように指圧する」ことを目的とするものである。 人体の脚部を挟み付けて押圧しようとする場合,その態様は,大きくいえば,脚部の略中心点に対する点対称の位置から押圧するか,押圧の位置をそこから偏らせるか,の2通りしかない。また,人体を左右対称に押圧するという態様は,普通の,ごくありふれたものであると認められ,この態様を採用するときは,脚部を真横から挟み付けるか,押圧の位置を脚部の表側に偏らせるか,裏側に偏らせるかの3通りしかないことになる。そして,押圧方向として,真横から,あるいは脚部の裏側からのみを採用しなければならない理由は見いだし難い。そうだとすれば,甲7発明の上記開示内容を参酌しつつ,甲5発明の凹状の脚載置部(別紙7,8参照)に設けられて脚部を挟み付けて押圧する空気袋(指圧子を用いるものと空気袋を用いるもののいずれを採用するかが,当業者が必要に応じて適宜選定し得る事項であることは,審決自体,本件発明1についての判断において明言している。本件発明2についての判断も,これを当然の前提とするものであることは,いうまでもないところである。)の押圧位置を,脚部の表側にすることに想到することは,当業者にとってむしろ極めて容易なことというべきである(このような押圧態様を採用すれば,脚部は底部に押しつけられ,押圧する方向に逃げることがなくなることは明らかである。この態様は,正に甲7発明の目的に適うものである。)。 イ 「最大圧迫部」を,下肢の表側部分に接するようにすることの容易推考性について述べる。 およそ空気袋を押圧部材として,これを膨張させる場合,部分的に平面の状態を保ったまま膨張する態様のものも考えられるものの,略球状に膨張するもの,すなわち人体に当接させた場合,最大圧迫部が生じるものが,ごく一般的であると認められる。すなわち,膨縮する空気袋の最大圧迫部を観念することは,極めて容易なことである。 空気袋における最大圧迫部は,多くの場合,押圧による施療効果を最も高く発揮できる箇所であると思われる。したがって,わざわざ脚部の表側を選んで圧迫する以上,その「最大圧迫部」を,脚部の表側に当接させることは,むしろ自然なことであり,当業者が容易に想到できることと認められる。 ウ 被告が主張するとおり,甲5発明,甲7発明のいずれにおいても,本件発明2の有する,空気袋の押圧により,下肢を施療凹部の底面側に押し付け,保持するという思想は見いだし得ない。また,これらを組み合わせても,そのような思想自体が出てくるとは認められない。 しかし,被告が主張する上記効果は,本件発明2の構成の自明の効果というべきものである。上記効果がこのようなものである以上,それを発揮させるという思想がない,あるいは,そのような思想に想到できない,ということだけをもって,構成自体については容易推考性の認められる発明の容易推考性が否定されるものではない(発明の進歩性は,原則として客観的な構成により判断されるべきである。その構成により特定の課題を解決しようとすること自体は,つまるところ,発明者の主観的な意図にすぎず,そのような意図の存在をもって特許性を肯定することは,結局,客観的には同じ構成の特許を複数認める結果を招来するものであって,採用することができない。ただし,当該構成のものとしても,当業者が容易に予想も発見もし得ないような効果を発見したときなどに,例外的に,構成自体は容易に推考できる発明にも,特許を認める余地はあろう。しかし,本件発明2については,このようなことはおよそ問題とならない。)。 エ 審決は,甲7発明など原告の挙げる発明のいずれにも,本件発明2の「前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が,前記施療凹部の開放上面部に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機」という構成が含まれていないことを根拠に,本件発明2の容易推考性を否定している。しかし,本件発明2の上記構成そのものを含むものが引用発明中に見られないからといって,常に同構成の容易推考性が否定されることになるわけではない。これは,当然のことである。審決は,引用発明中に,上記構成を含むものが存在しないことを認定した後にも,そのことを前提に同構成の容易推考性につき更に検討すべきであったのに,これを怠っているという以外にない。 (4) 以上のとおりであるから,上記理由により,本件発明2の容易推考性を否定して無効理由dは理由がないとした審決の判断は誤りである。』 そして、本件発明2の進歩性に関する当審の判断は、かかる判示内容に拘束されるものである。 そうすると、本件発明2は、甲第12号証発明(注:判決Bにおける甲5発明)及び甲第14号証発明(注:判決Bにおける甲7発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであり、無効理由dには理由があると判断せざるをえない。 (2)本件発明3について 本件発明3に関し、上記判決Bにおいて、次のような判示がなされている。 『(1) 本件発明3は,本件発明1又は2に,[1]施療凹部の底面に底部空気袋を配置し,[2]底部空気袋用の弁手段を,一対の脚用空気袋の弁手段よりも遅れて開くようにした,ものである。 脚部を押圧するマッサージ装置において,足の両側面を押圧する一対の空気袋に加え,底部に押圧する空気袋を備えた装置が従来知られていたことは,本件明細書自体に記載されているところである(甲第2号証)。 (2) 原告が主張するとおり,甲4発明には,複数の空気袋に,順次空気を供給する構成が開示されている。 そうすると,施療凹部の複数の空気袋に空気を順次供給すること自体は,容易に推考できる。そして,その順序は,一対の脚用空気袋には同時に空気を供給するとの前提に立った場合,底部空気袋に先に供給する(弁手段を開く。),一対の空気袋に先に空気を供給する,すべての空気袋に同時に空気を供給する,の3通りしかない。 3通りしかない構成のうちの一つである,一対の脚用空気袋に空気を供給する弁手段を,底部空気袋のそれより先に開くようにして,一対の脚用空気袋を先に膨張させるようにする構成に想到することは,当業者にとって容易であり,かつ,これを選択することに,格別阻害要因があると認めることもできない。むしろ,このような構成を採れば,先に脚部を施療凹部内部に向けて押し込んで確実に保持することにより,底部空気袋による押圧がより効果的なものとなることは明らかであり,かつ,このことも当業者が容易に想到できるものであると認められる(前記のとおり,甲5発明,甲7発明を組み合わせた結果を当業者がみれば,脚部を施療凹部の底面側に押し込んで保持するという働きを容易に認識できる。) 審決は,「・・・フジ医療器新商品発表会において公然実施された発明(判決注・フジ発明),上記甲第13号証(判決注・本訴甲第6号証)の発明及び甲第5(判決注・甲4公報),12号証(判決注・甲5公報)に記載された発明のいずれにも,少なくとも,本件発明3の上記限定付加された構成は存在しない。」(審決書12頁22行目〜24行目),「甲第5号証には,「複数のエアーバッグを順次膨らませて」と記載されているだけであり,「複数のエアーバッグ」として施療凹部の「底部空気袋」と「両内側面部の脚用空気袋」という2種類の空気袋の間の動作タイミングについて言及したものではない。」(同13頁3行目〜6行目),としている。 しかし,2(3)エについて述べたところと同じく,本件発明3の上記構成そのものを含むものが引用発明中に見られないからといって,常に同構成の容易推考性が否定されることになるわけではない。審決は,ここでも,上記構成を含むものが存在しないことを認定した後にも,そのことを前提に同構成の容易推考性につき更に検討すべきであった。審決はこれを怠っている。 上記のとおり,甲5発明と,甲4発明とを組み合わせると,本件発明3の構成に容易に想到することができる,と認められる。上記の検討をしないままに,無効理由fを排斥した審決の判断には,誤りがある。』 そして、本件発明3の進歩性に関する当審の判断は、かかる判示内容に拘束されるものである。 そうすると、本件発明3は、甲第12号証発明及び甲第5号証発明(注:判決Bにおける甲4発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであり、無効理由fには理由があると判断せざるをえない。 (3)本件発明4について 本件発明4は、本件発明3にさらに、「前記脚用空気袋の膨脹完了時期よりも遅く前記底部空気袋の膨脹が完了するようにした」という構成を限定付加したものである。 ところで、本件発明3における「前記各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した」構成により、底部空気袋の膨脹完了時期が脚用空気袋の膨脹完了時期よりも遅れることになるのは明らかというべきである。 そうすると、本件発明4において限定付加された上記の構成は、本件発明3において実質的に包含されているものと解することができる。 したがって、上記(2)での検討内容を踏まえれば、本件発明4も、本件発明3と同様に、甲第12号証発明及び甲第5号証発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、無効理由hには理由があると判断せざるをえない。 8.むすび 以上のとおり、他の無効理由c、e及びgについて判断するまでもなく、本件発明2は甲第12号証発明及び甲第14号証発明に基づいて、本件発明3及び4は甲第12号証発明及び甲第5号証発明に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 エアーマッサージ機 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】座部及び背凭れ部を有した椅子本体と、前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ、かつ、両側壁及び中間壁を有し、これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部が形成され、前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに、前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた脚載置部と、前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置と、を具備した椅子式のエアーマッサージ機。 【請求項2】前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が、前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置した前記請求項1に記載のエアーマッサージ機。 【請求項3】底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置し、前記各空気袋による下肢に対する圧迫動作において前記底部空気袋用の弁手段を前記脚用空気袋用の弁手段よりも遅れて開くように制御した前記請求項1又は2に記載のエアーマッサージ機。 【請求項4】前記脚用空気袋の膨脹完了時期よりも遅く前記底部空気袋の膨脹が完了するようにした前記請求項3に記載のエアーマッサージ機。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、空気袋の膨脹・収縮によって椅子本体に座った使用者の下肢に対するマッサージを行うエアーマッサージ機に関する。 【0002】 【従来の技術】 例えば足をマッサージするエアーマッサージ機として図6〜図9に示されるブーツタイプのものが従来知られている。このものは、脚の足Aが入れられる足収納部1aに、脚の下腿Bが入れられる下腿収納部1bを連ねて側面から見た形状が略L字状をなす本体1を備えている。足収納部1aの先端と下腿収納部1bの上端とは夫々開口されている。本体1にはその下腿収納部1bの上端開口を通して脚が出し入れされる。 【0003】 図7および図8に示されるように足収納部1aの内面には、底部に配置される第1空気袋2と、側部に配置される一対の第2空気袋3とが取付けられている。図7および図9に示されるように下腿収納部1bの内面には、この内面を略一回りするように第3空気袋4が取付けられている。各空気袋2〜4は足収納部1aの先端開口を通るチューブ5(図6参照)を介してエアー給排気装置6に接続されている。エアー給排気装置6は空気袋2〜4に対してエアーを給排気して、これら空気袋2〜4を膨脹・収縮させるものである。 【0004】 このようなブーツタイプのエアーマッサージ機を使用する時には、その内部に図7中2点鎖線に示されるように脚を挿入してから、エアー給排気装置6を動作させて、空気袋2〜4を膨脹・収縮させればよい。それにより第1、第2の空気袋2、3で足Aの裏および甲をマッサージできるとともに、第3空気袋4で下腿Bのふくらはぎ回りをマッサージすることができる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、従来のものはブーツタイプであるために、筒状をなす本体1に対して脚を出し入れしなければならないから、取扱いが面倒であるという問題がある。特に、足Aをマッサージするのに、第1空気袋2で押される足Aを本体1の足収納部1aの上側の壁で支持し、それにより第1空気袋2でのマッサージを可能としているので、仮に下腿収納部1bを省略できるとしても本体1への足Aの出し入れが面倒であるという問題がある。 【0006】 本発明の第1の目的は、容易に取扱うことができるエアーマッサージ機を得ることにある。 【0007】 本発明の第2の目的は、前記第1の目的に加えて、マッサージ効果を向上できるエアーマッサージ機を得ることにある。 【0008】 本発明の第3の目的は、前記第1の目的に加えて、より多くの方向からマッサージができるエアーマッサージ機を得ることにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】 前記第1の目的を達成するために、請求項1の発明に係るエアーマッサージ機は、座部及び背凭れ部を有した椅子本体と、前記座部前側に配置して前記椅子本体に取付けられ、かつ、両側壁及び中間壁を有し、これら側壁と中間壁との間に上面及び前後両端を開放して前記椅子本体に座った使用者の下肢を収容し得る一対の施療凹部が形成され、前記中間壁の両側面に脚用空気袋が夫々取付けられるとともに、前記両側壁の内側面にも脚用空気袋が夫々取付けられた脚載置部と、前記各脚用空気袋に連通して設けられこれら脚用空気袋に対してエアーを給排気するエアー給排気装置と、を具備したものである。 【0010】 また、前記第2の目的を達成するために、請求項2の発明に係るエアーマッサージ機は、前記施療凹部に収容された使用者の下肢に対する前記脚用空気袋の最大圧迫部が、前記施療凹部の開放上面側に位置する前記下肢の表側部分に接するように前記凹部側面に対し前記脚用空気袋を配置したものである。 【0011】 また、前記第3の目的を達成するために、請求項3の発明に係るエアーマッサージ機は、底部空気袋を前記施療凹部の底面に配置したものであり、そして、この発明を実施するにあたり請求項4の発明のように前記脚用空気袋の膨脹完了時期よりも遅く前記底部空気袋の膨脹が完了するようにするとよい。 【0012】 【作用】 前記請求項1の構成においては、座部の前側に配置された脚載置部が、両側壁及び中間壁を有していて、これら各壁間の一対の施療凹部はその上面および前後両端が開放されているから、椅子本体に座った使用者の両方の下肢を脚載置部の上方から下肢を施療凹部に容易に収容できるとともに、同様の理由から施療凹部より下肢を容易に出すことができる。そして、脚載置部の中間壁の両側面および両側壁の内側面に夫々取付けられた脚用空気袋を、施療凹部に下肢を収容した状態で、エアー給排気装置の動作により繰り返し膨脹・収縮させて、両方の下肢を側方から同時に圧迫および弛緩させる。それにより、マッサージをすることができる。また、前記請求項2の構成において、両側壁及び中間壁に夫々取付けられた脚用空気袋が膨脹した際には、その最大圧迫部が施療凹部に収容された使用者の下肢における前記施療凹部の開放上面側に位置する表側部分に圧接する。それにより、脚用空気袋は、その膨脹力で下肢を施療凹部の底面側に押付けて、下肢が施療凹部の開放上面側に持ち上げられることを防止し、施療凹部内に下肢を確実に保持すると共に、この下肢をその側面方向から圧迫する。 【0013】 また、前記請求項3の構成において、中間壁および両側壁に夫々取付けられた脚用空気袋は、施療凹部に収容された下肢をその側面方向から圧迫し、施療凹部の底面に取付けられた底部空気袋は、施療凹部に収容された下肢の裏側部分を施療凹部の底面側から圧迫する。このような圧迫動作において、前記請求項4の構成とする場合には、各脚用空気袋の方が底部空気袋よりも早く膨脹を完了する。それにより、中間壁および両側壁に夫々取付けられた脚用空気袋は、底部空気袋の膨脹に伴い施療凹部に収容された下肢が施療凹部の開放上端方向へ押出されることを妨げる。 【0014】 【実施例】 以下、図1〜図5を参照して本発明の一実施例を説明する。 【0015】 この実施例に係る椅子式エアーマッサージ機の全体構成を示す図1中符号21で示すマッサージ機本体としての椅子本体は、座部22と、背凭れ部23とを有している。 【0016】 座部22は、椅子本体21の支持枠21aで下端を連結された左右一対(一方のみ図示)の板状をなす支持脚21bの上端間に渡って略水平に設けられていて、その幅方向両側には肘掛部22aが設けられている。背凭れ部23は、座部22の後端部において、この座部22に対して所定の角度傾斜して設けられている。なお、本発明において、肘掛部22aは省略してもよいし、また、背凭れ部23はリクライニング動作等座部22の後方において起倒可能に設けてもよい。 【0017】 座部22の前部には椅子本体21に座った使用者の腿部をマッサージするための腿用空気袋24が設けられ、座部22の後部には前記使用者の尻部をマッサージするための尻用空気袋25が設けられている。これら空気袋24、25は、気密性を有するとともに軟質材料を用いて細長い偏平な袋に形成されていて、夫々座部22の幅方向に延びて配設されている。これら空気袋24、25に対する後述の圧縮空気の給排気に伴い空気袋24、25は膨脹・収縮をする。 【0018】 背凭れ部23の下端部には前記使用者の腰部をマッサージするための腰用空気袋26a、26bが配設され、背凭れ部23の上端部には前記使用者の首部および肩部をマッサージする首肩用空気袋28a、28bが配設されている。さらに、背凭れ部23には、首肩用空気袋28a、28bの下方に位置して前記使用者の背中部をマッサージする背中用空気袋27a、27bが配設されているとともに、この背中用空気袋27a、27bと腰用空気袋26a、26bとの間に位置して前記使用者の背筋をマッサージする背筋用空気袋29が配設されている。 【0019】 一対の腰用空気袋26a、26b、一対の首肩用空気袋28a、28b、および一対の背中用空気袋27a、27bは、夫々背凭れ部23の幅方向に並設されている。背筋用空気袋29は背凭れ部23の幅方向中央において、この背凭れ部23の長手方向(縦方向)に延びていて、前記使用者の背筋位置に対応するように設けられている。 【0020】 これら各空気袋26a、26b、27a、27b、28a、28b、および29は、前記空気袋24、25と同様に気密性を有するとともに軟質材料を用いて偏平な袋に形成されていて、圧縮空気の給排気に伴い膨脹・収縮をする。なお、以上のように各空気袋が配設された椅子本体21は、柔軟性を有した表布30aによりカバーされているとともに、この表布30aで覆われた支持脚21bの外側面にはポケット状をなす収納部31が設けられている。この収納部31には入力手段としての後述のリモートコントローラ56が挿脱可能に差し込み保持される。 【0021】 椅子本体21の前端部には脚載置部32が連結されている。この載置部32は、椅子本体21の両肘掛部22aの前端部直下に位置して一対の支持脚21bに渡って横架された枢軸34に取付けられていて、座部22の前端部に連なって設けられている。 【0022】 脚載置部32は、例えば枢軸34を中心として回動可能に設けられているとともに、図示しないラチェット機構等からなる位置決め手段により複数の傾斜角度に位置決めされるように設けられている。それにより、脚載置部32を図示しないが座部22の前端に連なってその前方下側に傾斜した状態にして前方に突出させて位置決めし、この位置で固定でき、使用者が座部22に腰掛けたとき、脚を傾斜配置の脚載置部32上に載置できるようになっている。なお、図1は脚載置部32を椅子本体21の前端部下部に収納配置した状態である。 【0023】 脚載置部32は、その幅方向両側に夫々側壁32a、32bを有しているとともに、幅方向中央位置に中間壁32cを有している。これら各壁32a〜32cは平行であって、隣接する側壁32a、32c間に略U字状の施療凹部32dと、隣接する側壁32b、32c間に略U字状の施療凹部32eとを夫々形成している。施療凹部36d、36eは、その上面および長手方向両端(前後両端)が夫々開放された構成であって、その内部に使用者の下肢fを収納支持するのに使用される。なお、施療凹部36d、36eは、下肢fの任意部分での太さ方向の断面の大きさの略全体を収納できる大きさに形成されている(図4参照)。 【0024】 側壁32aと中間壁32cの互いに対向する凹部側面、および側壁32bと中間壁32cの互いに対向する凹部側面とには、夫々施療凹部36d、36eに収納載置された下肢fをマッサージするための脚用第1空気袋35a、35b、および36a、36bが配設されている。これら空気袋35a、35b、36a、36bは、前記空気袋24、25と同様に気密性を有するとともに軟質材料を用いて偏平な袋に形成されていて、圧縮空気の給排気に伴い膨脹・収縮をするものであり、膨脹したとき下肢fを両側から包み込むような大きさに形成されている。 【0025】 これら脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bは、それが最大に膨脹された時において施療凹部36d、36eに収納された使用者の下肢f(図4参照)に与える最大圧迫部D(図3参照)が、前記下肢fの表側部分(図4に符号faで範囲を示す)に接するように配置されている。 【0026】 本実施例の各空気袋35a、35b、36a、36bは、例えばその四隅、もしくは上下両縁を凹部側面に固定して設けられているので、最大圧迫部Dは各空気袋35a、35b、36a、36bの前記凹部側面の高さ寸法の略1/2の高さ位置においてあらわれるものである。一方、既述のように施療凹部36d、36eの大きさは、下肢fの太さ方向の断面の大きさの略全体を収納できる大きさに形成されている。 【0027】 そして、このような条件下において前記配置を実現するために、前記最大圧迫部Dが施療凹部36d、36eの開放上面側に位置されるように各空気袋35a、35b、36a、36bは配置されている。こうした施療凹部36d、36eへの各空気袋35a、35b、36a、36bの配置に当たり、これら空気袋の最大圧迫部Dが、施療凹部36d、36eの深さの1/2の深さの位置よりも施療凹部36d、36eの開放上端側に位置されるように設ければ、下肢fの太さのいかんを問わずほとんどの場合に、各空気袋35a、35b、36a、36bの最大膨脹時にその最大圧迫部Dを、施療凹部36d、36eに収納された使用者の下肢fの表側部分faに圧接させることができる。 【0028】 しかし、実際上は、脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの配置に当たり、施療凹部36d、36eに収容し得る最大の太さの下肢を想定した時に、この仮想下肢と前記凹部側面との接点相当部よりも施療凹部36d、36eの開放上端側に最大圧迫部Dが位置されるように設定すればよい。そうすることで、各空気袋35a、35b、36a、36bの最大膨脹時にその最大圧迫部Dを、施療凹部36d、36eに収納された使用者の下肢fの表側部分faに圧接させることができる。 【0029】 また、施療凹部36d、36eの底面には、これら凹部36d、36eに収納載置された下肢をその裏側からマッサージするための底部空気袋としての脚用第2空気袋37a、37bが個別に取付けられている。これら空気袋37a、37bは、施療凹部36d、36eの長手方向に延びて設けられ、その膨脹は脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの膨脹完了時期よりも遅く完了するようになっている。この膨脹完了時期のタイミングをずらすために、脚用第2空気袋37a、37bの容積を脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの容積より大きくしてもよいが、本実施例においては後述のエアー給排気装置により給気タイミングを制御することで実現している。 【0030】 なお、脚載置部32は、以上のように配置された各空気袋35a、35b、36a、36b、37a、37bを覆い隠す柔軟性を有した表布30bよりカバーされている。 【0031】 脚用空気袋35a、35b、36a、36b、37a、37bおよびそれ以外の非脚用空気袋は図示しないが給排気口を有し、これらには夫々対応する給排気管45〜52(図5参照)が後述のように接続されている。これらの管45〜52は軟質ビニル管等の可撓性を有するエアーチューブ等からなる。 【0032】 前記椅子本体21の下部、つまり座部22の下側空間にはユニット化されたエアー給排気装置53が配置されている。この装置53は、図5に示されるようにエアーコンプレッサー38、フィルタータンク39、分配切換器41、電磁開閉弁42、43および制御装置44を備えて形成されている。 【0033】 詳しくは、エアーコンプレッサー38は圧縮空気供給手段として用いられるものであって、その圧縮空気吐出口には供給管54を介してフィルタータンク39が接続されている。フィルタータンク39は、エアーコンプレッサー38から供給された圧縮空気の脈動を吸収して圧縮空気流を平滑にするために使用されている。このタンク39の出口には供給管55が接続されており、この供給管55は2本の分岐供給管55a、55bに分岐されている。一方の分岐供給管55aの先端は空気分配手段としての分配切換器41に接続され、他方の分岐供給管55bの先端はさらに分岐されて弁手段としての電磁開閉弁42、43に個別に接続されている。 【0034】 分配切換器41は、この種エアー式マッサージ機に用いられている周知のモータ等により駆動されるロータリー弁であって、分岐供給管55aが接続される一つの吸気ポートと、各給排気管45〜50が個別に接続される複数の分配ポートと、一つの排気ポートとを有しており、その流路切換用のロータの回転により、任意に選択された分配ポートと吸気ポートとを連通するとともに、選択されなかった分配ポートを排気ポートに連通させて、非脚用の各空気袋についての選択的給気と選択的排気とができるように形成されている。 【0035】 給排気管45は前記腿用空気袋24に接続され、給排気管46は前記尻用空気袋25に接続され、給排気管47はさらに分岐されて前記腰用空気袋26a、26bに個別に接続され、給排気管48は前記背筋用空気袋29に接続され、給排気管49はさらに分岐されて前記背中用空気袋27a、27bに個別に接続され、給排気管50はさらに分岐されて前記首肩用空気袋28a、28bに個別に接続されている。 【0036】 電磁開閉弁42には脚用の給排気管51が接続され、この管51は一対の分岐給排気管51a、51bに分岐されている。一方の分岐給排気管51aはさらに分岐されて前記脚用第1空気袋35a、35bに個別に接続され、他方の分岐給排気管51bはさらに分岐されて前記脚用第1空気袋36a、36bに個別に接続されている。この電磁開閉弁42は流路を閉じた時に各第1空気袋35a、35b、36a、36bのみを大気中に連通させる排気ポ-トを有している。 【0037】 同様に、電磁開閉弁43には脚用の給排気管52が接続され、この管52は一対の分岐給排気管52a、52bに分岐されている。一方の分岐給排気管52aは前記脚用第2空気袋37aに接続され、他方の分岐給排気管52bは前記脚用第2空気袋37bに接続されている。この電磁開閉弁43も流路を閉じた時に各第2空気袋37a、37bのみを大気中に連通させる排気ポ-トを有している。 【0038】 制御手段としての前記制御装置44は、図示しない中央演算処理装置CPU、リードオンメモリROM、ランダムアクセスメモリROM等を備える周知のマイクロコンピュータからなるものである。この制御装置44には各種の動作モードを実行させるプログラムが格納されており、その選択された動作モードにしたがってエアーコンプレッサー38、分配切換器41、および電磁開閉弁42、43の動作を制御して、各空気袋に対する選択的給排気を行わせるように構成されている。 【0039】 なお、各種動作モードとしては、全身マッサージコース、上半身マッサージコース、および下半身マッサージコースのコース別動作モードと、首肩、背中、背筋、腰、尻、腿、および脚の各身体部分を単独にマッサージするポイントマッサージ動作モード、および前記コース別動作モードと脚用ポイントマッサージ動作モード以外の各ポイントマッサージ動作モードに対して脚用ポイントマッサージ動作モードを同時に実施させる脚同期動作モードとが設定されている。前記各動作モードは、リモートコントローラ56により入力される。 【0040】 前記構成の椅子式マッサージ機において、脚同期動作モードがリモートコントローラ56により指定されたときには、電磁開閉弁42、43が制御装置44により開かれた状態とされる。しかも、この場合制御装置44は、脚用第2空気袋37a、37b用の電磁開閉弁43を、脚用第1空気袋35a、35b、36a、36b用の電磁開閉弁42よりも遅れて開くように制御する。 【0041】 そして、この状態下における脚載置部32の各空気袋35a、35b、36a、36b、37a、37bの膨脹・収縮により椅子に腰掛けた使用者の脚(下肢)に対するマッサージの他に、座部22の空気袋24または25、および背凭れ部23の空気袋26a、26b、27a、27b、28a、28b、および29のうちの少なくとも一つ(一種類)の空気袋の膨脹・収縮動作が同時に営まれて、その選択された空気袋の位置に対応する身体部分に対するマッサージが施される。 【0042】 このマッサージ動作においてエアーコンプレッサー38は断続運転されるものであって、その運転時には選択された各空気袋が膨脹され、運転停止時には前記選択された各空気袋が収縮される。したがって、脚載置部32の各空気袋35a、35b、36a、36b、37a、37bと選択された他の非脚用空気袋とは、同時に膨脹されるとともに、身体の重さを受けて同時に収縮を開始する。 【0043】 ところで、脚載置部32を単独、もしくは前記脚同期動作モードで使用する時において、施療凹部36d、36eの凹部側面に取付けられた脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bが膨脹した際には、これらの最大圧迫部Dが施療凹部36d、36eに収容された使用者の下肢fの施療凹部36d、36eの開放上面側に位置された表側部分faに圧接して、下肢fを圧迫する。そのため、これらの空気袋35a、35b、36a、36bは、その膨脹力で下肢fを施療凹部36d、36eの底面側に押付ける。 【0044】 それにより、脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの膨脹に伴い下肢fが施療凹部36d、36eの開放上面側に持ち上げられるように押し出されることが防止される。こうして施療凹部36d、36e内に確実に保持される下肢fに対して、その側面方向から圧迫を加えることができる。このように下肢fが逃げることがないので、確実かつ効果的なマッサージを行うことができる。 【0045】 また、施療凹部36d、36eの凹部側面に取付けられた脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの膨脹で、施療凹部36d、36e内の下肢fをその側面方向から圧迫できることに加えて、施療凹部36d、36eの底面に取付けられた脚用第2空気袋37a、37bの膨脹で、施療凹部36d、36e内の下肢fのふくらはぎ部分を施療凹部36d、36eの底面側から圧迫できる。このように、本実施例のエアーマッサージ機が備える脚載置部32においては、多方面から確実に下肢fを圧迫してマッサージすることができる。 【0046】 しかも、脚用の各空気袋35a、35b、36a、36b、37a、37bによる下肢fに対する圧迫動作において、制御装置44は、電磁開閉弁42を開放時期を電磁開閉弁43の開放時期よりも速めて、脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bの膨脹完了を脚用第2空気袋37a、37bの膨脹完了よりも早くする。 【0047】 そのため、脚用第2空気袋37a、37bの膨脹に伴い、施療凹部36d、36eに収容された下肢fが施療凹部36d、36eの開放上端方向へ押出し力を受けるにも拘らず、施療凹部36d、36e内の下肢fを側面から圧迫する脚用第1空気袋35a、35b、36a、36bを、前記押出しを妨げるストッパとして利用でき、それにより、下肢fが施療凹部36d、36eの開放上面側に押出されないように保持できる。したがって、施療凹部36d、36e内の下肢fを多方面から確実に圧迫して確実かつ効果的なマッサージすることができる。 【0048】 【発明の効果】 以上詳記したように請求項1に係る発明によれば、椅子本体の座部の前側に配置された脚載置部がその両側壁及び中間壁を有して、これら側壁と中間壁との間に上面および前後両端が開放された施療凹部を夫々設け、前記中間壁の両側面および両側壁の内側面に夫々脚用空気袋を取付けた構成であるから、これらの施療凹部に対して椅子本体に座った使用者の下肢を容易に出し入れでき、取扱いが容易であるとともに、エアー給排気装置の動作に基づき膨脹・収縮を繰り返す前記脚用空気袋により、一対の施療凹部内に収められた両方の下肢を側方から同時にマッサージできる。また、請求項2に係る発明によれば、前記第1の目的を達成できることに加えて、施療凹部に収容された使用者の下肢を、各脚用空気袋で下肢が施療凹部の開放上面側に押出されないように保持して、側面方向から空気袋で確実に圧迫できるので、マッサージ効果を向上できる。 【0049】 また、請求項3に係る発明によれば、前記第1の目的を達成できることに加えて、施療凹部に収容された下肢をその側面方向および施療凹部の底面側から圧迫できるとともに、請求項4に係る発明のようにする場合には、各脚用空気袋のストッパ作用で、施療凹部に収容された下肢が底部空気袋の膨脹に伴い施療凹部の開放上端方向へ押出されることを防止できるので、多方面から確実に下肢を圧迫してマッサージすることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の一実施例に係る椅子式エアーマッサージ機の構成を示す斜視図。 【図2】 一実施例に係る椅子式エアーマッサージ機が備える脚載置部の構成を示す斜視図。 【図3】図2に示された脚載置部の構成を示す正面図。 【図4】図2に示された脚載置部の構成をその施療凹部に収納された下肢を圧迫した状態を示す正面図。 【図5】一実施例に係るマッサージ機の各空気袋に対する圧縮空気の給排気系統を示すブロック図。 【図6】従来例に係るエアーマッサージ機を示す側面図。 【図7】同従来例に係るエアーマッサージ機の使用状態を示す断面図。 【図8】図6中Z-Z線に沿う断面図。 【図9】図6中Y-Y線に沿う断面図。 【符号の説明】 11…本体、 12…空気袋、 13…エアー給排気装置、 14…側壁、 15…中間壁、 14a、15a…側面、 16…施療凹部、 21…椅子本体 22…座部、 23…背凭れ部、 32…脚載置部、 32a、32c…側壁、 32b…中間壁、 35a、35b、36a、36b…脚用空気袋、 36d、36e…施療凹部、 37a、37b…底部空気袋、 44…制御装置(制御手段)、 53…エアー給排気装置、 D…脚用第1空気袋の最大圧迫部、 F…使用者の下肢、 fa…下肢の表側部分。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2002-07-05 |
結審通知日 | 2002-07-10 |
審決日 | 2002-07-31 |
出願番号 | 特願平7-64103 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZA
(A61H)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 元人 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
安池 一貴 佐々木 芳枝 |
登録日 | 1999-12-10 |
登録番号 | 特許第3012780号(P3012780) |
発明の名称 | エアーマッサージ機 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 尾崎 英男 |
代理人 | 角田 嘉宏 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 尾崎 英男 |