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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B41J
審判 全部申し立て 発明同一  B41J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
管理番号 1127310
異議申立番号 異議2002-72572  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-05-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-22 
確定日 2005-09-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3275965号「インクジェット式記録ヘッドの駆動方法」の請求項1ないし29に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3275965号の請求項4、7、9、23、24に係る特許を取り消す。 同請求項5、6、8、1ないし3、10ないし22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本決定に至るまでの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
平成10年4月3日 セイコーエプソン株式会社(特許権者)より特願平10-91792号出願
同年9月4日 同じく特願平10-251098号出願
平成11年3月30日 同じく、上記2出願に基づく優先権を主張して本件出願
平成14年2月8日 特許第3275965号として設定登録(請求項1〜請求項29)
同年10月22日 特許異議申立人東芝テック株式会社(以下「東芝テック」という。)より、請求項1〜5、請求項7〜11、請求項16〜請求項28に係る特許に対して特許異議申立
同日 特許異議申立人松井弘三(以下「松井」という。)より、請求項1〜請求項9、請求項11〜請求項22、請求項24〜請求項29に係る特許に対して特許異議申立
同日 特許異議申立人山口雅行(以下「山口」という。)より請求項1、請求項2、請求項9〜請求項13、請求項18、請求項22、請求項23に係る特許に対して特許異議申立
平成15年1月7日付けで、当審において取消理由通知
同年3月18日 特許権者より、特許異議意見書及び訂正請求書提出

第2 訂正の可否の判断
1.訂正の内容
[訂正事項1-1]訂正前の請求項4,請求項5、請求項16、請求項17及び請求項23を削除し、訂正前の請求項6〜15を請求項4〜13に、訂正前の請求項18〜22を請求項14〜18に、訂正前の請求項24〜29を請求項19〜24にそれぞれ訂正する。
[訂正事項1-2]訂正後の請求項5〜9,11,12,14〜18,19〜22における、請求項引用部分を次のとおり訂正する。
請求項5(訂正前請求項7):「請求項5又は6において」を「請求項4において」と訂正する。
請求項6(訂正前請求項8):「請求項5又は6において」を「請求項4又は5において」と訂正する。
請求項7(訂正前請求項9):「請求項1〜8の何れかにおいて」を「請求項1〜6の何れかにおいて」と訂正する。
請求項8(訂正前請求項10):「請求項1〜9の何れかにおいて」を「請求項1〜7の何れかにおいて」と訂正する。
請求項9(訂正前請求項11):「請求項1〜10の何れかにおいて」を「請求項1〜8の何れかにおいて」と訂正する。
請求項11(訂正前請求項13):「請求項12において」を「請求項10において」と訂正する。
請求項12(訂正前請求項14):「請求項12又は13において」を「請求項10又は11において」と訂正する。
請求項14(訂正前請求項18):「請求項12〜17の何れかにおいて」を「請求項10〜13の何れかにおいて」と訂正する。
請求項15(訂正前請求項19):「請求項18において」を「請求項14において」と訂正する。
請求項16(訂正前請求項20):「請求項18又は19において」を「請求項14又は15において」と訂正する。
請求項17(訂正前請求項21):「請求項18〜20の何れかにおいて」を「請求項14〜16の何れかにおいて」と訂正する。
請求項18(訂正前請求項22):「請求項12〜21の何れかにおいて」を「請求項10〜17の何れかにおいて」と訂正する。
請求項19(訂正前請求項24):「請求項12〜23の何れかにおいて」を「請求項10〜18の何れかにおいて」と訂正する。
請求項20(訂正前請求項25):「請求項12〜24の何れかにおいて」を「請求項10〜19の何れかにおいて」と訂正する。
請求項21(訂正前請求項26):「請求項12〜25の何れかにおいて」を「請求項10〜20の何れかにおいて」と訂正する。
請求項22(訂正前請求項27):「請求項12〜26の何れかにおいて」を「請求項10〜21の何れかにおいて」と訂正する。
[訂正事項1-3]明細書の段落【0017】〜【0020】,【0041】〜【0044】,【0055】及び【0056】を削除する。
[訂正事項1-4]明細書の段落【0021】及び【0022】の「第6の態様」を「第4の態様」と、【0023】の「第7の態様は、第5又は第6の態様において」を「第5の態様は請求項4の態様において」と、【0024】の「第7の態様」を「第5の態様」と、【0025】の「第8の態様は、第5又は第6の態様において」を「第6の態様は、請求項4又は5において」と、【0026】の「第8の態様」を「第6の態様」と、【0027】の「第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において」を「第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において」と、【0028】の「第9の態様」を「第7の態様」と、【0029】の「第10の態様は、第1〜9の何れかの態様において」を「第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において」と、【0030】の「第10の態様」を「第8の態様」と、【0031】の「第11の態様は、第1〜10の何れかの態様において」を「第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において」と、【0032】の「第11の態様」を「第9の態様」と、【0033】及び【0034】の「第12の態様」を「第10の態様」と、【0035】の「第13の態様は、第12の態様において」を「第11の態様は、第10の態様において」と、【0036】の「第13の態様」を「第11の態様」と、【0037】の「第14の態様は、第12又は13の何れかの態様において」を「第12の態様は、請求項10又は11において」と、【0038】の「第14の態様」を「第12の態様」と、【0039】及び【0040】の「第15の態様」を「第13の態様」と、【0045】の「第18の態様は、第12〜17の何れかの態様において」を「第14の態様は、第10〜13の何れかの態様において」と、【0046】の「第18の態様」を「第14の態様」と、【0047】の「第19の態様は、第18の態様において」を「第15の態様は、第14の態様において」と、【0048】の「第19の態様」を「第15の態様」と、【0049】の「第20の態様は、第18又は19の態様において」を「第16の態様は、請求項14又は15において」と、【0050】の「第20の態様」を「第16の態様」と、【0051】の「第21の態様は、第18〜20の何れかの態様において」を「第17の態様は、第14〜16の何れかの態様において」と、【0052】の「第21の態様」を「第17の態様」と、【0053】の「第22の態様は、第12〜21の何れかの態様において」を「第18の態様は、第10〜17の何れかの態様において」と、【0054】の「第22の態様」を「第18の態様」と、【0057】の「第24の態様は、第12〜23の何れかの態様において」を「第19の態様は、第10〜18の何れかの態様において」と、【0058】の「第24の態様」を「第19の態様」と、【0059】の「第25の態様は、第12〜24の何れかの態様において」を「第20の態様は、第10〜19の何れかの態様において」と、【0060】の「第25の態様」を「第20の態様」と、【0061】の「第26の態様は、第12〜25の何れかの態様において」を「第21の態様は、第10〜20の何れかの態様において」と、【0062】の「第26の態様」を「第21の態様」と、【0063】の「第27の態様は、第12〜26の何れかの態様において」を「第22の態様は、第10〜21の何れかの態様において」と、【0064】の「第27の態様」、「第28の態様」(2箇所)及び「第29の態様」(2箇所)を「第22の態様」、「第23の態様」(2箇所)及び「第24の態様」(2箇所)と、それぞれ訂正する。
[訂正事項2-1]訂正前請求項1及び請求項12記載の「吐出され始めたインクの後端部の当該ノズル開口での速度が零になるまでに」を、(請求項12を請求項10と改めた上で)「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」と訂正する。
[訂正事項2-2]明細書段落【0011】及び段落【0033】中の「吐出され始めたインクの後端部の当該ノズル開口での速度が零になるまでに」を、「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」と訂正する。
[訂正事項3-1]訂正前請求項3及び請求項14記載の「膨張工程での膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下」を、(請求項14を請求項12と改めた上で)「膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下」と訂正する。
[訂正事項3-2]明細書の段落【0015】及び段落【0037】中の「膨張工程での膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下」を、「膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下」と訂正する。
[訂正事項4-1]訂正前請求項6記載の「収縮状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」及び「前記Tcの1/4以下の期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」を、(請求項6を請求項4と改めた上で)「収縮状態の電圧印加状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」及び「前記Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」とそれぞれ訂正する。
[訂正事項4-2]明細書の段落【0021】中の「収縮状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」及び「前記Tcの1/4以下の期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」を、「収縮状態の電圧印加状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」及び「前記Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」とそれぞれ訂正する。
[訂正事項5-1]訂正前請求項7記載の「収縮状態の保持期間が3マイクロ秒以下」を、(請求項7を請求項5と改めた上で)「収縮状態の電圧印加状態の保持期間が3マイクロ秒以下」と訂正する。
[訂正事項5-2]明細書の段落【0023】中の「収縮状態の保持期間が3マイクロ秒以下」を、「収縮状態の電圧印加状態の保持期間が3マイクロ秒以下」と訂正する。
[訂正事項6-1]訂正前請求項8記載の「収縮状態の保持期間が1マイクロ秒以下」を、(請求項8を請求項6と改めた上で)「収縮状態の電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下」と訂正する。
[訂正事項6-2]明細書の段落【0025】中の「収縮状態の保持期間が1マイクロ秒以下」を、「収縮状態の電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下」と訂正する。
[訂正事項7-1]訂正前請求項15記載の「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程」及び「吐出され始めたインクが吐出され終わらないうちに」を、(請求項15を請求項13と改めた上で)「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程」及び「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」とそれぞれ訂正する。
[訂正事項7-2]明細書の段落【0039】中の「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程」及び「吐出され始めたインクが吐出され終わらないうちに」を、「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程」と訂正する。
[訂正事項8-1]訂正前請求項20記載の「第2の膨張工程での膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下」を、(請求項20を請求項16と改めた上で)「第2の膨張工程での膨張期間の電圧印加期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下」と訂正する。
[訂正事項8-2]明細書の段落【0049】中の「第2の膨張工程での膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下」を、「第2の膨張工程での膨張期間の電圧印加期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下」と訂正する。
[訂正事項9-1]訂正前請求項26記載の「第1の収縮工程での収縮期間及び前記第2の収縮工程での収縮期間」を、(請求項26を請求項21と改めた上で)「第1の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間及び前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間」と訂正する。
[訂正事項9-2]明細書の段落【0061】中の「第1の収縮工程での収縮期間及び前記第2の収縮工程での収縮期間」を、「第1の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間及び前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間」と訂正する。
[訂正事項10-1]訂正前請求項27記載の「第2の収縮工程での収縮期間」を、(請求項27を請求項22と改めた上で)「第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間」と訂正する。
[訂正事項10-2]明細書の段落【0063】中の「第2の収縮工程での収縮期間」を、「第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間」と訂正する。
[訂正事項11-1]訂正前請求項28記載の「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の周期で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」を、(請求項28を請求項23と改めた上で)「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」と訂正する。
[訂正事項11-2]明細書の段落【0064】中の「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の周期で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」を、「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」と訂正する。
[訂正事項12]訂正前請求項29記載の「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」を、(請求項29を請求項24と改めた上で)「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程」と訂正する。

2.訂正の目的
(1)訂正事項1-1は、請求項4,請求項5、請求項16、請求項17及び請求項23を削除するとともに、残存する請求項番号を書き換えたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認める。訂正事項1-2(請求項6の被引用請求項を除く。)はこれに付随して引用請求番号を整理することを目的としたものである。請求項6の被引用請求項については、訂正前には請求項5又は6を択一的に引用していたところ、訂正前請求項5は削除されたから、訂正前請求項6に対応する請求項4だけを引用すべきところ、請求項4又は5を択一的に引用することが適切とはいえない。しかし、訂正後の請求項5,6の限定事項は「前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間」につき、請求項5では「3マイクロ秒以下」と、請求項6では「1マイクロ秒以下」と限定するものであるから、訂正後の請求項6において請求項4を引用した部分も、請求項5を引用した部分も「前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下」であることには変わりがない。すなわち、形式的には被引用請求項を増加しているが、実質的には請求項4だけを引用したのと異ならないから、訂正を拒絶するほどの重大な違法には当たらない。
訂正事項1-3及び1-4は、特許請求の範囲の訂正である訂正事項1-1及び1-2と整合をとるため、明細書の発明の詳細な説明に同様の訂正を施すものである。
したがって、訂正事項1-1〜1-4全体として、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認める。

(2)訂正事項2-1における訂正前の記載である「吐出され始めたインクの後端部の当該ノズル開口での速度が零になるまでに」は、「インクの後端部」の意味自体不明りょうであること並びに同用語及び「ノズル開口」がどちらも位置の限定であることから、「インクの後端部の当該ノズル開口での速度」の意味が明りょうでない。これを「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で」と訂正することは、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、「且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」との限定を追加することは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認める。
訂正事項2-2は訂正事項2-1との整合を図るものであるから、訂正事項2-1及び訂正事項2-2全体が、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認める。

(3)訂正事項11-1及び訂正事項11-2における訂正前の「1/4以下の周期」との記載が、「1/4以下の期間」の誤記であることは自明である。したがって、「周期」を「期間」と訂正すること自体は、誤記の訂正を目的とするものと認める。その「期間」を「電圧印加期間」とすることの是非は別途(5)で論ずる。

(4)訂正事項7-1及び訂正事項7-2のうち、「吐出され始めたインクが吐出され終わらないうちに」を「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」と訂正することは、訂正前の「吐出され終わらないうちに」との記載が明りょうでないため、これを「ノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間」と明りょうにするとともに、そのために「収縮状態の電圧印加状態」の期間を「前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」を具備する旨限定するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

(5)残余の訂正事項はすべて、「膨張期間」、「保持期間」又は「収縮期間」の「期間」という用語について、膨張工程、保持工程又は収縮工程の電圧印加期間または電圧印加状態の期間である旨訂正するとの趣旨である。例えば、訂正前の請求項1には「圧力発生室を収縮させて収縮状態として」と記載があり、これを引用する請求項5には「収縮状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」と記載があり、これを文言どおり解釈すれば、「ヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間」とは、圧力発生室の収縮状態が保持される期間であることになる。しかし、印加電圧と圧力発生室の状態が完全に1対1に対応することはなく、願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)には、「ノズル開口13のメニスカスを圧力発生室2側に最大限引き込む準備の膨張工程bを有し、この工程では、両電極間に印加していた電圧を最低電圧VLまで下げている。続いて、この状態を保持してインク滴の吐出のタイミングを図る第2のホールド工程cと、インク滴を吐出させるために再び電圧を最高電圧VHまで印加して圧力発生室2を収縮させる第1の収縮工程dとを有する。」(段落【0092】)との記載があり、同記載の「第2のホールド工程c」が訂正前請求項5記載の「保持工程」に当たることは明らかであって、同記載添付の【図4】からは、その期間が電圧印加状態を保持する期間とされていることが明らかである。また、「保持期間」のみならず、「膨張期間」や「収縮期間」も含めて、「期間」との用語はすべて電圧印加に関する期間であると解してこそ、訂正前の各請求項記載の発明を明確に理解できるものである。
そうであれば、訂正前の各請求項の「期間」についての記載は、電圧印加に関する期間であることを、圧力発生室の状態の期間であると誤記したものであるか、誤記でないとしても、圧力発生室の状態の期間であると誤認させかねないものである。残余の訂正事項はすべて、「期間」の意味を、正しく電圧印加に関する期間である旨規定するものであるから、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。

(6)したがって、訂正事項はすべて、特許法120条の4第2項1号〜3号のいずれかに該当するものであるから、本件訂正は同条同項の規定に適合する。

3.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1-1〜1-4に何の問題もないことは自明である。
訂正事項2-1及び訂正事項2-2、並びに訂正事項7-1及び訂正事項7-2のうち「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」は、特許明細書の段落【0095】及び段落【0097】に記載されており、特許明細書では「吐出され始めたインクの後端部の当該ノズル開口での速度が零になるまでに」と「ノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間」が実質的に相違しないものとして記載されている。
訂正事項3-1及び訂正事項3-2は、特許明細書の段落【0096】に記載されている。
特許明細書記載の「期間」が、電圧印加に関する期間であると解すべきであることは、2.(5)で述べたとおりである。
したがって、本件訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項及び3項の規定に適合する。

4.訂正の可否の判断の結論
よって、平成15年3月18日付け訂正請求書による訂正を認める。

第3 特許異議申立理由の概要
訂正が認められるため、訂正前後の請求項番号は一致しないが、ここでは、訂正前の各請求項に係る特許に対しての主張として、そのまま訂正前の請求項番号で記す。
以下、特許異議申立人をその名称で示し、それぞれの提出した証拠を「東芝テック甲1」などと略称することがある。

1.東芝テックの特許異議申立理由
理由1:請求項1に係る発明についての明細書の記載は特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。請求項1、これを引用する請求項2,3,5,9〜11、及び請求項5を引用する請求項7,8に係る特許は、特許法113条4号の規定により取り消されるべきである。東芝テックは、予備的に、この記載不備が存在しない場合には、請求項1に係る発明は特願平8-316082号(特開平10-157100号公報(東芝テック甲1、山口甲2)。以下この出願を「先願」といい、公開公報を「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、請求項1の特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである、と主張している。
理由2:請求項4の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。請求項4、これを引用する請求項5,9〜11、及び請求項5を引用する請求項7,8に係る特許は、特許法113条4号の規定により取り消されるべきである。
理由3:請求項16及び請求項17の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。請求項16,17、これらを引用する請求項18,22〜27、及び請求項18を引用する請求項19〜21に係る特許は、特許法113条4号の規定により取り消されるべきである。
理由4:請求項4及び請求項28に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるから、これら発明の特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。

2.松井の特許異議申立理由
理由5:請求項1〜4,9,12〜15,22,26〜29に係る発明は、特開昭63-71355号公報(松井甲1、以下「引用例2」という。)、特開昭64-9745号公報(松井甲2)又は特開平2-192947号公報(松井甲3、以下「引用例1」という。)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項18〜21に係る発明はこれら発明及び特開平4-64446号公報(松井甲5)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
理由6:請求項5,6,11,16,17,24,25に係る発明は、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
理由7:請求項7,8に係る発明は、引用例1及び特開昭59-133067号公報(松井甲4)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。

3.山口の特許異議申立理由
理由8:請求項1,2,9,11に係る発明は特開平10-81012号公報(山口甲1)記載の発明と同一であるか、同発明に基づいて当業者が容易に容易に発明をすることができたものであるから、これら発明の特許は特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
理由9:請求項1,2,9,12,13,18,22,23に係る発明は先願明細書(山口甲2、東芝テック甲1)に記載された発明と同一であるから、これら発明の特許は特許法29条の2の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
理由10:請求項10に係る発明は山口甲1及び国際公開パンフレットWO97/37852号(山口甲4)記載の発明に基づいて当業者が容易に容易に発明をすることができたものであるから、請求項10の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
理由11:請求項12,13,18に係る発明は山口甲1及び特開平9-254381号公報(山口甲5)記載の発明に基づいて当業者が容易に容易に発明をすることができたものであるから、請求項12,13,18の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
理由12:請求項1,12の特許は、特許法36条4項及び6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた特許であるから、特許法113条4号の規定により取り消されるべきである。

第4 特許異議申立についての当審の判断
1.本件の特許請求の範囲の記載及び本件発明の認定
訂正が認められるから、本件の特許請求の範囲は、訂正請求書に添付の訂正明細書に記載された特許請求の範囲であり、それは次のとおり記載されている(下線部が訂正箇所)。特許異議申立理由には請求項の記載不備も含まれているが、ここではその特許請求の範囲の【請求項1】から【請求項24】に記載された事項により特定される発明を、「本件発明1」〜「本件発明24」という。
【請求項1】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげて前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室を膨張させて前記収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項2】 請求項1において、前記収縮工程の後、前記膨張工程での膨張の開始は、吐出され始めたインク滴の先端がメニスカスに形成され始めた時点以降であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項3】 請求項1又は2において、前記膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項4】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項5】 請求項4において、前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が3マイクロ秒以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項6】 請求項4又は5において、前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項7】 請求項1〜6の何れかにおいて、前記収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項8】 請求項1〜7の何れかにおいて、前記収縮工程の収縮速度より、前記膨張工程の膨張速度の方が大きいことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項9】 請求項1〜8の何れかにおいて、前記収縮工程の収縮の変化量より、前記膨張工程の膨張の変化量の方が小さいことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項10】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげて前記ノズル開口からインクを吐出させ始める第1の収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室を膨張させて前記第1の収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる第1の膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させて前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退を低減させる第2の収縮工程とを具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項11】 請求項10において、前記第1の収縮工程の後、前記第1の膨張工程での膨張の開始は、吐出され始めたインク滴の先端がメニスカスに形成され始めた時点以降であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項12】 請求項10又は11において、前記第1の膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項13】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める第1の収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程と、この後のメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項14】 請求項10〜13の何れかにおいて、前記第2の収縮工程後、さらに、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第2の膨張工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項15】 請求項14において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の膨張工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項16】 請求項14又は15において、前記第2の膨張工程での膨張期間の電圧印加期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項17】 請求項14〜16の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加の開始から前記第2の膨張工程での駆動信号の印加の終了までの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項18】 請求項10〜17の何れかにおいて、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項19】 請求項10〜18の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項20】 請求項10〜19の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項21】 請求項10〜20の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間及び前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項22】 請求項10〜21の何れかにおいて、前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項23】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる収縮工程と、前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項24】 ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる第1の収縮工程と、前記第1の収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させて前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退の程度を低減させる第2の収縮工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。

なお、訂正前後の請求項の対応関係を整理すると次表のとおりである。
訂正前 訂正後 訂正前 訂正後
請求項1 請求項1 請求項16 (削除)
請求項2 請求項2 請求項17 (削除)
請求項3 請求項3 請求項18 請求項14
請求項4 (削除) 請求項19 請求項15
請求項5 (削除) 請求項20 請求項16
請求項6 請求項4 請求項21 請求項17
請求項7 請求項5 請求項22 請求項18
請求項8 請求項6 請求項23 (削除)
請求項9 請求項7 請求項24 請求項19
請求項10 請求項8 請求項25 請求項20
請求項11 請求項9 請求項26 請求項21
請求項12 請求項10 請求項27 請求項22
請求項13 請求項11 請求項28 請求項23
請求項14 請求項12 請求項29 請求項24
請求項15 請求項13

2.請求項4(訂正前請求項6)に係る特許について
取消理由に引用した特開平2-192947号公報(松井甲3、引用例1)には、次のア〜ウの記載又は図示がある。
ア.「インク加圧室と、このインク加圧室に連通するインクノズルと、前記インク加圧室の外側に配置され、かつ電圧パルスの印加により変形して前記インク加圧室の容積を変化させる電気機械変換素子とを備え、この電気機械変換素子の変形の際に生じる圧力波により・・・前記インクノズルから吐出させるオンデマンド型インクジェット記録ヘッドにおいて、
インク不吐出時には前記電気機械変換素子に予め電圧V1を印加して前記インク加圧室の容積を減少させておき、印字に当たっては前記インク加圧室の容積が急激に変化しないようにt1なる立ち下がり時間を経て前記電圧V1を除荷したままt2なる時間を保持し、その後t3なる立ち上がり時間を経て前記電圧V1より高い電圧V2を印加したままt4なる時間を保持することにより前記インク加圧室の容積を急激に減少させて前記インクノズルからインクを吐出させ、更にt5なる立ち下がり時間を経て前記電圧V1よりも低い電圧V3を印加したままt6なる時間を保持し、その後t7なる立ち上がり時間を経て前記電圧V1に復帰する電圧パルス波形を前記電気機械変換素子に印加することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動方法。」(1頁右下欄5行〜2頁左上欄10行)
イ.「インク体積速度の固有振動周期は、・・・120〜135μsecと求められた。」(8頁右上欄4〜8行)
ウ.9頁右上欄表2には、「電圧波形パターン2」として、t1〜t5及びV1〜V3がそれぞれ、t1=75(単位は明らかにμsec。以下省略。)、t2=10、t3=8、t4=50、t5=8、t6=20、t7=8及びV1=100、V2=150、V3=50とした例が示されており、同例ではサテライトの発生及びインク柱の曲がりについて「○」の評価が与えられている。
記載アの「インク加圧室」及び「インクノズル」は本件発明4の「圧力発生室」及び「ノズル」にそれぞれ相当し、「インク加圧室」が「インクノズル」と反対側でリザーバに連通していることは技術常識に属する。
引用例1の上記記載及び第9図によれば、「t3なる立ち上がり時間」、「電圧V2を印加したままt4なる時間を保持」及び「t5なる立ち下がり時間」が、本件発明4の「収縮工程」、「保持工程」及び「膨張工程」にそれぞれ相当する。そして、記載イの「インク体積速度の固有振動周期」と本件発明4の「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期」に相違はなく、これをTcとしたとき、記載イによればTcの最小値は120〜135μsecであり、記載ウによればt4=50μsec,t5=8μsecであるから、t4≦Tc/2かつt5≦Tc/4である。
したがって、本件発明4と引用例1記載の発明とは「ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。」である点で一致し、両者に相違点はない。
すなわち、請求項4の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされた特許である。

3.請求項7(訂正前請求項9)に係る特許について
本件発明7のうち、請求項4を引用するものは、本件発明4に「前記収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備する」との限定を加えたものである。
引用例1記載の発明では、予め電圧V1を印加して前記インク加圧室の容積を減少させておき、t1なる立ち下がり時間を経て電圧を除荷するのであるから、t1期間に予め減少しておいたインク加圧室の容積は元に復帰、すなわち、除荷前と比較すればインク加圧室は膨張する。したがって、このt1期間は本件発明7の準備工程に相当するから、上記限定があっても、本件発明7と引用例1記載の発明には相違点はない。
すなわち、請求項7の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされた特許である。

4.請求項9(訂正前請求項11)に係る特許について
本件発明9のうち、請求項4を引用するものは、本件発明4に「前記収縮工程の収縮の変化量より、前記膨張工程の膨張の変化量の方が小さい」との限定を加えたものである。
引用例1記載の発明では、収縮工程において電圧が0からV2に変化し、膨張工程では電圧がV2からV3に変化し、0<V3<V2である(第9図)から、(V2-V3)<(V2-0)であり、膨張工程の膨張の変化量は収縮工程の収縮の変化量より小さい。すなわち、請求項9の限定事項は引用例1記載の発明に備わっているから、同限定があっても、本件発明9と引用例1記載の発明には相違点はない。
したがって、請求項9の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされた特許である。

5.請求項23(訂正前請求項28)に係る特許について
(1)引用例1において、t3の期間の収縮工程において「ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる」ことは明らかであり、引用例1の「時間t4を経過した後、立ち下がり時間t5を経て前記電圧V1よりも低い電圧V3に立ち下げることとする。この電圧V3は、インクノズル14′内のメニスカスを瞬間的に後退させて吐出インク滴もしくはインク柱を作為的に切断」(8頁右下欄9〜14行)との記載からみて、時間t5(膨張工程)の開始時点においてインク柱は切断されておらず、他方本件発明23において「前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され」とは、膨張工程の開始時においてメニスカスの中央領域がもりあがっておればよく、もりあげられつつある状態とは解することができないから、引用例1でも「前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に」膨張工程が開始されていると認める。また、t5が「ヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間」であることは、2.で述べたとおりである。
したがって、本件発明23と引用例1記載の発明とは、「ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる収縮工程と、前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。」である点で一致し、両者に相違点はない。
すなわち、請求項23の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされた特許である。

(2)取消理由に引用した特開昭63-71355号公報(松井甲1、引用例2)には、次のエ,オの記載が図示とともにある。
エ.「一方にインク液滴を噴出するノズル(3)と他方にインク収容部(4)に連通しているインク室(2)を、前記インク収容部(4)からのインクで満たし、インク室(2)はその壁面の少なくとも一部を電気機械変換手段(1)により変形して内部容積を膨張、収縮せしめるように構成されてなるインクジエツトヘツドにおいて、
前記インク液滴の粘度を10〜30CPに設定すると共に、先ず前記電気機械変換手段(1)により前記インク室(2)の内部容積を膨張せしめることにより前記ノズル(3)の先端部のインクを吸引し、、(ママ)次に前記インク室(2)を収縮せしめることによりインク液滴を前記ノズル(3)から噴射せしめた後、再びインク室(2)を膨張せしめることにより前記噴射されたインク液滴の尾部を前記ノズル(3)側に吸収するようにしたことを特徴とするインクジエツトヘツドの駆動方法。」(1頁左下欄5行〜右下欄2行)
オ.「第1図に示すように、先ず前記圧電素子1に対してタイムt12で電圧+Vを零電位に変化させて前記インク室2の内部容積を膨張せしめることにより前記ノズル3の先端部のインクを吸引し、、(ママ)次にタイムt13にて電圧を復旧させて前記インク室2を収縮せしめることによりインク液滴を前記ノズル3から噴射せしめた後、再びタイムt14にてインク室2を膨張せしめることにより前記噴射されたインク液滴の尾部を第2図(d)に示すように、前記ノズル2側に吸収する」(3頁右上欄15行〜左下欄5行)
引用例2記載の駆動方法が「ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法」であることはいうまでもない。
引用例2記載の「タイムt13にて電圧を復旧させて前記インク室2を収縮せしめることによりインク液滴を前記ノズル3から噴射せしめ」る工程が本件発明23の「前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる収縮工程」に、同じく「再びインク室(2)を膨張せしめることにより前記噴射されたインク液滴の尾部を前記ノズル(3)側に吸収する」工程が本件発明23の「膨張工程」にそれぞれ相当する。本件発明23の「収縮工程」に相当するものは上記のとおり、「タイムt13にて電圧を復旧させ」る工程であるが、それに要する期間は第1図にみられるとおり極めて短時間であるから、「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下」である。また、本件発明23において「前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され」とは、膨張工程の開始時においてメニスカスの中央領域がもりあがっておればよく、もりあげられつつある状態とは解することができず、引用例2でも「前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に」膨張工程が開始されていると認める。
したがって、本件発明23と引用例2記載の発明とは「ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる収縮工程と、前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。」である点で一致し、両者に相違点はない。
すなわち、請求項23の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされた特許である。

6.請求項24に係る特許について
引用例2記載の「タイムt13にて電圧を復旧させて前記インク室2を収縮せしめることによりインク液滴を前記ノズル3から噴射せしめ」る工程が本件発明24の「第1の収縮工程」に、同じく第1図t15における復旧工程が「第2の収縮工程」に時間順序的に相当する。
したがって、本件発明24と引用例2記載の発明とは「ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる第1の収縮工程と、前記第1の収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させる第2の収縮工程とを具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。」である点で一致し、「第2の収縮工程」が「前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退の程度を低減させる」ものであるかどうかの点で相違する。
引用例2の第2図(d)には、膨張工程によりインク滴が切断された様子が図示されており、同図にはメニスカスの外縁部が中心部に比して後退した様子が図示されており、第2図(e)には外縁部が後退していない様子が図示されている。そうであれば、引用例2記載の第1図における復旧工程は「第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退の程度を低減させる」ものと解するのが自然であり、そのように解することができないとしても、第2図(d)から第2図(e)に至ることができるように、そのタイミングを調節し、上記相違点に係る本件発明24の構成に至ることは当業者であれば容易である。
すなわち、請求項24の特許は特許法29条1項3号又は2項の規定に違反してされた特許である。

7.特許異議申立理由についての判断
(1)理由1について
東芝テックの主張は、請求項1記載の「メニスカスの外縁部を引き込ませる」作用を実現するための具体的手段が、理由1の対象となる請求項の発明を実施可能な程度に、特許明細書に記載されていないというものである。
検討するに、訂正明細書には、
「メニスカスの外縁部201bは、第1の膨張工程fによって引き込まれ、中心部201aだけが第1の膨張工程fによって引き込まれることなくインク滴として吐出することになり、結果的に、径がノズル径よりも小さいインク滴を、・・・吐出させることができる。」(段落【0093】)、
「この現象は急峻な第1の膨張工程fでメニスカスの高次の振動を起こしてみられる現象である。つまり、これは中心部201aの速度をあまり変えることなく、外縁部201bの速度をインク滴吐出方向とは反対の方向へ大きく変える振動モードであり、3次振動モードと呼ばれる。」(段落【0094】)、
「第1の膨張工程fを実行する駆動信号の印加のタイミングは、第3のホールド工程eの時間で決定されるが、・・・ノズル開口13から突出しようとするインク滴202がメニスカスに形成し始め、その先端が現れてから、図5(b)のように、インク滴202がメニスカスから長く延びている段階で、ノズル表面近傍202aの吐出速度の平均が略零になるまでの間に印加すれば、インク滴を小さくする効果が得られる。」(段落【0095】)、
「このように小さな体積のインク滴を吐出するための条件は、吐出されるインク滴の体積を微小化可能なタイミングで第1の膨張工程fを実行し、この第1の膨張工程fでの膨張期間T1をヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下とすることが好ましい。」(段落【0096】)、
「第3のホールド工程eの期間T2は、ヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下とすることが望ましい。具体的には、第3のホールド工程eの時間を3マイクロ秒以下、さらに好適には1マイクロ秒以下、すなわち、略零とする。これより安定して微小ドットを吐出することができる。」(段落【0097】)及び
「このように小さな体積のインク滴を吐出するための条件は、第1の収縮工程dの収縮速度及び変化量と、第1の膨張工程fの膨張速度及び変化量とに関係する。第1の収縮工程dの速度より第1の膨張工程fの速度の方が大きい方が好ましい。第1の膨張工程fの変化量は、第1の収縮工程dの変化量と同等又は小さくすればよい。(段落【0098】)
との各記載があり、第1の膨張工程fでメニスカスの高次の振動(3次振動モード)を生起させること、そのための条件として、「インク滴202がメニスカスから長く延びている段階で、ノズル表面近傍202aの吐出速度の平均が略零になるまでの間に」「第1の膨張工程fを実行する駆動信号」を印加すること、「第1の膨張工程fでの膨張期間T1をヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下とすること」及び「第3のホールド工程eの期間T2は、ヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下とすること」が明確に記載されているから、当業者が実施するに困難性があると認めることはできない。
したがって、理由1には理由がない。
予備的主張については、山口の主張する理由9とあわせて、後記(8)で検討する。

(3)理由2〜4について
理由2のうち請求項4,5についての主張、及び理由3のうち請求項16,17についての主張は、削除された請求項を対象としての主張であるから検討の必要がない。理由2,3のうち、その余の請求項についての主張は、削除された請求項を引用していることが原因となっての記載不備の主張であるから、これも検討の必要がない。
理由4は、取り消すべく判断した請求項を対象としての主張であるから検討の必要がない。

(4)理由5について
松井異議のうち、独立形式で記載された請求項についてまず検討する(削除又は、取り消すべく判断済みの請求項を除く。)。
理由5のうち、独立形式のものは請求項1,10,13である。これら請求項は共通して「収縮工程」又は「第1の収縮工程」に引き続いて、「収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」を要件としている。
ところが、保持工程の終了時期、すなわち引き続く「膨張工程」又は「第1の膨張工程」の開始時期と「ノズル表面近傍の吐出速度の平均」との関係について、引用例2には何も記載されていない(2.で述べたように、メニスカスの中央領域がもりあがっているが、ノズル表面近傍の吐出速度がどうなっているかはわからない。)。甲第2号証(特開昭64-9745号公報)には「インクが吐出中の時間t3において再び第2の駆動パルスIIを印加する」(3頁右上欄5〜7行)とあるけれども、「吐出中」が「ノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間」を意味するとまでは認めることができない。甲第3号証(特開平2-192947号公報)には「インク体積速度の固有振動周期は、・・・120〜135μsecと求められた。」(8頁右上欄5〜8行)とあり、9頁右上欄の表2には「電圧波形パターン2」として、保持工程期間に相当するt4が50μsecであることが記載されているから、保持工程期間が「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間」の点では一致するとはいえるものの、ノズル表面近傍のインクの挙動は単純ではないから、保持工程終了時期が「ノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまで」とまでは認めることができない。
加えて、請求項1,10は、「膨張工程」又は「第1の膨張工程」が「メニスカスの外縁部を引き込ませる」工程である旨限定しているところ、松井甲1〜甲3記載の「膨張工程」又は「第1の膨張工程」がメニスカスの外縁部を引き込ませる工程かどうかも明らかでない。なぜなら、例えば引用例2第2図(d)ではメニスカスの外縁部が引き込んでいるが、t13時点での同図(c)でも引き込まれているから、「膨張工程」又は「第1の膨張工程」によって外縁部が引き込まれたとは限らないからである。
そして、これら松井甲1〜甲3に記載のない構成は、(2)でも述べたように、メニスカスの高次の振動(3次振動モード)を生起させる条件でもあるのだから、何の証拠もなく、当業者にとって想到容易ということはできない。
残余の請求項についての主張は、請求項1,10,13に係る発明の進歩性欠如を前提とする主張であるから、当然理由がない。

(5)理由6について
訂正前請求項5,6,11,16,17についての主張は検討の必要がない。訂正前請求項24,25は、それぞれ請求項19,20と項番が変更され、請求項10〜18又は請求項10〜19を引用している。引用される請求項のうち、独立形式で記載されたものは、請求項10,13のみであり、残りの請求項及び請求項19,20は請求項10又は請求項13に何らかの限定を加えたものである。
本件発明10,13が引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたといえないことは(4)で述べたとおりであるから、本件発明19,20も引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

(6)理由7について
松井は、特開昭59-133067号公報(松井甲4)に保持期間をゼロにすることが記載されていると主張している。しかし、保持工程とは有限の保持期間を有してこそ保持工程といえるのであって、請求項5(訂正前請求項7)の「電圧印加状態の保持期間が3マイクロ秒以下」及び請求項6(訂正前請求項8)の「電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下」との限定についても、保持期間がゼロを含むと解することはできない。
そればかりか、請求項5,6は請求項4を引用するから、膨張工程の電圧印加期間はヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であるが、松井甲4の膨脹期間とTcの関係は不明である。そして、保持工程、膨張工程がそれぞれ他の工程とは無関係にその期間を設定できると解すべき理由はない。上記文献から、保持期間を著しく短縮することが把握できるとしても、膨張工程の期間をTcの1/4以下とした際に、保持期間を3マイクロ秒以下又は1マイクロ秒以下とすることが直ちに想到容易ということはできない。
したがって、本件発明5,6が引用例1及び特開昭59-133067号公報記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

(7)理由8について
請求項7,9(訂正前請求項9,11)については検討の必要がない。
(4)で述べたとおり、本件発明1,2は「収縮工程」に引き続いて、「収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」を要件としている。
ところが、保持工程の終了時期、すなわち引き続く「膨張工程」の開始時期と「ノズル表面近傍の吐出速度の平均」との関係について、特開平10-81012号公報(山口甲1)には何も記載されていない(メニスカスの中央領域はもりあがっているが、ノズル表面近傍の吐出速度がどうなっているかはわからない。)だけでなく、保持期間(同文献【図4】のP15の期間)が「圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下」であるかどうかもわからない。
そうである以上、本件発明1,2が山口甲1記載の発明であるとも、山口甲1記載の発明に基づいて当業者が容易に容易に発明をすることができたともいうことができない。

(8)理由9(理由1の予備的主張を含む)について
訂正前請求項9,23についての主張は検討する必要がない。残る請求項は請求項1,2,10,11,14,18(訂正前請求項1,2,12,13,18,22)である。このうち独立形式で記載された請求項は請求項1,10のみであり、その余の請求項は請求項1又は請求項10に何らかの限定を加えたものである。
そこで、本件発明1,10についてまず検討する。
特開平10-157100号公報(東芝テック甲1,山口甲2,先願明細書)に記載の発明が、「収縮工程」若しくは「第1の収縮工程」、「収縮状態の電圧印加状態を保持する保持工程」、「膨張工程」及び「第2の収縮工程」をこの順に具備する「インクジェット式記録ヘッドの駆動方法」であることは認める。また、【図4】及び【図5】から、t1からt4までがほぼヘルムホルツ振動周期Tcに当たり、パルスP2において電圧がV2に保持されている期間(本件発明1,10の保持工程の期間に相当する。)がTcの1/2以下であることも認めることができる。
しかし、保持工程の期間が「ノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間」であるかどうか、及び保持工程終了時(膨張工程開始時)に「メニスカスの外縁部を引き込ませる」かどうかは、先願明細書の記載からはわからない。
したがって、本件発明1,10が先願明細書に記載された発明であると認めることはできず、請求項1,10を引用するその余の請求項に係る発明も同様である。

(9)理由10について
山口の主張は、理由8が成立することを前提として、訂正前請求項10(訂正後は請求項8)の限定事項が国際公開パンフレットWO97/37852号(山口甲4)に記載されているとして、訂正前請求項10に係る発明のうち訂正前請求項1,2,9(訂正後は1,2,7)を引用するものに進歩性がないとの主張である。
しかし、山口が前提とする理由8が成立しないことは既に述べたとおりである。そればかりか、山口は山口甲4【図3】のS11とS13の波形を比較し、前者が「膨張工程」に、後者が「収縮工程」に当たると主張している。しかし、本件発明10では、収縮工程、保持工程、膨張工程の順である(膨張工程が保持工程の後であることは直接明記はないが、「収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程」(【請求項1】)との文言から、収縮工程と保持工程が連続することが把握でき、「前記収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる膨張工程」(【請求項1】)との文言から、膨張工程が収縮工程の後と認定できるから、膨張工程は保持工程の後でなければならない。)。したがって、山口甲4に請求項8(訂正前請求項10)の限定事項が記載されている旨の主張も誤りである。
結局、理由10も誤りというよりない。

(10)理由11について
請求項10,11,14(訂正前請求項12,13,18)のうち、独立形式で記載された請求項は請求項10(訂正前請求項12)だけである。
本件発明10が、保持期間につき「収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間」と限定しており、この限定は(7)で述べた本件発明1,2の限定と異ならず、山口甲1に同限定が記載されていないことは(7)で述べたとおりである。
山口甲5は「第2の収縮工程」、「第2の膨張工程」を設けることの容易性を立証するために提出された文献であって、上記保持期間の限定とは何の関係もない。
したがって、理由11により本件発明10に進歩性がないということはできず、それを引用する本件発明11,14も同様である。

(11)理由12について
山口の主張は、訂正前請求項1,12に記載の「インクの後端部」が何を意味するか不明であり、液滴は内部に速度分布を有するところ、速度の測定方法が規定されていないから訂正前請求項1,12に係る発明の外延が不明確というものである。
なるほど、山口の主張には頷ける部分があるが、訂正により「吐出され始めたインクの後端部の当該ノズル開口での速度が零になるまでに」との記載は「この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、」と訂正され、「インクの後端部」が不明確であることは解消された。また、速度については「ノズル表面近傍の吐出速度の平均」に訂正され、局所的な吐出速度を測定するのであれば位置を違えた複数の測定値の平均であるし、平均的な吐出速度を直接測定するのであればその測定値を意味するから、速度分布があることや速度の測定方法が規定されていないことは「吐出速度の平均」が不明確である理由にはならない。
したがって、理由12には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項4,7,9,23,24の特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされた特許であるから、これら特許は同法(平成15年改正前)113条2号の規定により取り消されなければならない。
また、その余の請求項に係る特許については、特許異議申立人の主張する理由によっては取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット式記録ヘッドの駆動方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげて前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室を膨張させて前記収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項2】請求項1において、前記収縮工程の後、前記膨張工程での膨張の開始は、吐出され始めたインク滴の先端がメニスカスに形成され始めた時点以降であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項3】請求項1又は2において、前記膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項4】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項5】請求項4において、前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が3マイクロ秒以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項6】請求項4又は5において、前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項7】請求項1〜6の何れかにおいて、前記収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項8】請求項1〜7の何れかにおいて、前記収縮工程の収縮速度より、前記膨張工程の膨張速度の方が大きいことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項9】請求項1〜8の何れかにおいて、前記収縮工程の収縮の変化量より、前記膨張工程の膨張の変化量の方が小さいことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項10】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげて前記ノズル開口からインクを吐出させ始める第1の収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室を膨張させて前記第1の収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる第1の膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させて前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退を低減させる第2の収縮工程とを具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項11】請求項10において、前記第1の収縮工程の後、前記第1の膨張工程での膨張の開始は、吐出され始めたインク滴の先端がメニスカスに形成され始めた時点以降であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項12】請求項10又は11において、前記第1の膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項13】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める第1の収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程と、この後のメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項14】請求項10〜13の何れかにおいて、前記第2の収縮工程後、さらに、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第2の膨張工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項15】請求項14において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の膨張工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項16】請求項14又は15において、前記第2の膨張工程での膨張期間の電圧印加期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項17】請求項14〜16の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加の開始から前記第2の膨張工程での駆動信号の印加の終了までの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項18】請求項10〜17の何れかにおいて、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項19】請求項10〜18の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項20】請求項10〜19の何れかにおいて、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項21】請求項10〜20の何れかにおいて、前記第1の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間及び前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項22】請求項10〜21の何れかにおいて、前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項23】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる収縮工程と、前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【請求項24】ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる第1の収縮工程と、前記第1の収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させて前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退の程度を低減させる第2の収縮工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面の圧電体層を形成して、圧電体層の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて、圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子が軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるという利点を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、たわみモードの圧電アクチュエータは、縦振動モードの圧電アクチュエータと比較して大きな変位面積を必要として圧力発生室の容積が大きくなり、吐出するインク滴のインク量も多くなるため、グラフィック印刷等のように微小サイズのドット形成が困難であるという不都合を抱えている。
【0006】
一方、このような問題を解消するために、たわみ変位型圧電アクチュエータの変位を小さくしてインク量を少なくすると、吐出圧が低いために速度が低下して記録媒体への着弾位置に誤差が生じ、特に、グラフィック印刷のように正確なドット印刷が求められる印刷においては印刷品質の低下が目立つという問題がある。
【0007】
そこで、インク噴出後に圧力発生室を収縮せしめることによりインク滴をノズル開口から噴出せしめた後、再び、圧力発生室を膨張せしめることにより、インク滴の尾部を吸収して、二次的なインク滴を除去する駆動方法が提案されているが(特開昭63-71355号公報)、インク滴自体を微小化するものではない。
【0008】
また、圧力発生室を膨張させた後、第1の変化速度で収縮させ、続いて第1の変化速度より大きい第2の変化速度で収縮させることにより、インク滴の先頭と後尾の長さもしくは時間差を可及的に小さくして球状のドットを形成する方法も提案されている(特開平7-76087号公報)。
【0009】
しかしながら、近年の高精細画質の印刷の要望から、さらにできるだけ小さいインク滴を吐出することが望まれる一方、高速印刷のために大きな体積のインク滴も吐出できることが望まれ、しかも、高速で安定した駆動が要望される。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、インク滴の飛行速度を低下させることなく、インク滴を構成するインク量を可及的に少なくしてグラフィック印刷に適したドットを形成することができるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげて前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室を膨張させて前記収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0012】
かかる第1の態様では、収縮工程での圧力発生室の収縮により吐出され始めたインク滴が吐出され終わらないうちに、圧力発生室の膨張が開始され、それまでに吐出されかけたインク滴のみが吐出され、膨張を開始するタイミングでインク滴の体積を制御できる。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記収縮工程の後、前記膨張工程での膨張の開始は、吐出され始めたインク滴の先端がメニスカスに形成され始めた時点以降であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0014】
かかる第2の態様では、膨張工程で圧力発生室の膨張が開始した時点で、インク滴の先端の部分が吐出する。
【0015】
本発明の第3の態様は、請求項1又は2において、前記膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。にある。
【0016】
かかる第3の態様では、インク滴吐出後のメニスカスの引き込みを特に有効的に抑えることができる。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
本発明の第4の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態を前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0022】
かかる第4の態様では、収縮工程での圧力発生室の収縮により吐出され始めたインク滴が吐出され終わらないうちに、所定期間だけ圧力発生室を膨張させることによりインク滴の体積を制御できる。
【0023】
本発明の第5の態様は、請求項4の態様において、前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が3マイクロ秒以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0024】
かかる第5の態様では、駆動信号間の保持期間を短くすることにより、インク滴の体積を少なく制御することができる。
【0025】
本発明の第6の態様は、請求項4又は5において、前記保持工程での前記収縮状態の電圧印加状態の保持期間が1マイクロ秒以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
【0026】
かかる第6の態様では、駆動信号間の保持期間を著しく短くすることにより、安定性を向上することができ、インク滴の体積を微小にすることができる。
【0027】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0028】
かかる第7の態様では、収縮工程の前に圧力発生室を膨張させることにより、ノズル開口のメニスカスを下げて吐出の準備を行い、インク滴を高速且つ大きな体積で吐出させることができる。
【0029】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記収縮工程の収縮速度より、前記膨張工程の膨張速度の方が大きいことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0030】
かかる第8の態様では、膨張工程の膨張速度を大きくすることにより、吐出が開始されたインク滴の先端部のみが吐出され、より小さい体積のインク滴が形成できる。
【0031】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様において、前記収縮工程の収縮の変化量より、前記膨張工程の膨張の変化量の方が小さいことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0032】
かかる第9の態様では、収縮工程の収縮の変化量より小さい変化量で膨張させることにより、吐出が開始されたインク滴の先端部のみが吐出できる。
【0033】
本発明の第10の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげて前記ノズル開口からインクを吐出させ始める第1の収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室を膨張させて前記第1の収縮工程によって中央領域がもりあげられたメニスカスの外縁部を引き込ませる第1の膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させて前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退を低減させる第2の収縮工程とを具備するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0034】
かかる第10の態様では、小さい体積のインク滴を吐出できると共に、インク吐出後のメニスカスの振動を有効に抑えることができ、次のインク吐出に備えることができる。
【0035】
本発明の第11の態様は、第10の態様において、前記第1の収縮工程の後、前記第1の膨張工程での膨張の開始は、吐出され始めたインク滴の先端がメニスカスに形成され始めた時点以降であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0036】
かかる第11の態様では、第1の膨張工程で圧力発生室の膨張が開始した時点で、インク滴の先端の部分が吐出する。
【0037】
本発明の第12の態様は、請求項10又は11において、前記第1の膨張工程での電圧印加期間である膨張期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0038】
かかる第12の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを特に有効に抑えることができる。
【0039】
本発明の第13の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて収縮状態として前記ノズル開口からインクを吐出させ始める第1の収縮工程と、この収縮状態の電圧印加状態をノズル表面近傍の吐出速度の平均が略零になるまでの間で且つ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下の期間保持する保持工程と、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程と、この後のメニスカスの後退を低減するように前記圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0040】
かかる第13の態様では、小さな体積のインク滴を効果的に吐出することができ、且つインク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
本発明の第14の態様は、第10〜13の何れかの態様において、前記第2の収縮工程後、さらに、インク吐出後の振動を抑えるように前記圧力発生室を膨張させる第2の膨張工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0046】
かかる第14の態様では、インク吐出後のメニスカスの振動をさらに有効に抑えて次のインク吐出に備えることができる。
【0047】
本発明の第15の態様は、第14の態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の膨張工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0048】
かかる第15の態様では、小さな体積のインク滴を効果的に吐出することができる。
【0049】
本発明の第16の態様は、請求項14又は15において、前記第2の膨張工程での膨張期間の電圧印加期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期の1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0050】
かかる第16の態様では、小さな体積のインク滴をより効果的に吐出することができる。
【0051】
本発明の第17の態様は、第14〜16の何れかの態様において、前記第1の収縮工程での駆動信号の印加の開始から前記第2の膨張工程での駆動信号の印加の終了までの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0052】
かかる第17の態様では、小さな体積のインク滴を効果的に吐出することができる。
【0053】
本発明の第18の態様は、第10〜17の何れかの態様において、前記第1の収縮工程の前に、前記圧力発生室を膨張させてインク吐出の準備を行う準備工程を具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0054】
かかる第18の態様では、収縮工程の前に圧力発生室を膨張させることにより、ノズル開口のメニスカスを下げて吐出の準備を行い、インク滴を高速且つ大きく吐出させることができる。
【0055】
【0056】
【0057】
本発明の第19の態様は、第10〜18の何れかの態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0058】
かかる第19の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0059】
本発明の第20の態様は、第10〜19の何れかの態様において、前記第1の収縮工程が開始されてから前記第2の収縮工程が開始されるまでの期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4から3/4の間であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0060】
かかる第20の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを特に有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0061】
本発明の第21の態様は、請求項10〜20の何れかの態様において、前記第1の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間及び前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間が、それぞれ前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0062】
かかる第21の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
【0063】
本発明の第22の態様は、請求項10〜21の何れかの態様において、前記第2の収縮工程での電圧印加期間である収縮期間が、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
【0064】
かかる第22の態様では、インク吐出後のメニスカスの引き込みを特に有効に抑えることができ、高速安定駆動が実現できる。
本発明の第23の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる収縮工程と、前記収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
かかる第23の態様では、安定したインク吐出を実現できる。
本発明の第24の態様は、ノズル開口及びリザーバに連通する圧力発生室に付設された圧電素子を駆動することにより前記圧力発生室を膨張又は収縮させて前記ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、前記圧力発生室を収縮させて前記ノズル開口のメニスカスの中央領域をもりあげる第1の収縮工程と、前記第1の収縮工程によってメニスカスの中央領域がもりあげられている間に開始され、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下の電圧印加期間で前記圧力発生室を膨張させる膨張工程と、前記圧力発生室を再び収縮させて前記第1の膨張工程によるメニスカスの外縁部の後退の程度を低減させる第2の収縮工程とを具備することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にある。
かかる第24の態様では、小さい体積のインク滴を安定して吐出することができる。
【0065】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0066】
(実施形態1)
図1には、本実施形態のインクジェット式記録装置の概略構成を示す。図1に示すように、インクジェット式記録装置は、プリンタコントローラ101とプリントエンジン102とから概略構成してある。
【0067】
プリンタコントローラ101は、外部インターフェース103(以下、外部I/F103という)と、各種データを一時的に記憶するRAM104と、制御プログラム等を記憶したROM105と、CPU等を含んで構成した制御部106と、クロック信号を発生する発振回路107と、インクジェット式記録ヘッド108へ供給するための駆動信号を発生する駆動信号発生回路109と、駆動信号や印刷データに基づいて展開されたドットパターンデータ(ビットマップデータ)等をプリントエンジン102に送信する内部インターフェース110(以下、内部I/F110という)とを備えている。
【0068】
外部I/F103は、例えば、キャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータ等によって構成される印刷データを、図示しないホストコンピュータ等から受信する。また、この外部I/F103を通じてビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)が、ホストコンピュータ等に対して出力される。
【0069】
RAM104は、受信バッファ111、中間バッファ112、出力バッファ113及び図示しないワークメモリとして機能する。そして、受信バッファ111は外部I/F103によって受信された印刷データを一時的に記憶し、中間バッファ112は制御部106が変換した中間コードデータを記憶し、出力バッファ113はドットパターンデータを記憶する。なお、このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。なお、後述するように、本実施形態における印字データは4ビットの信号により構成してある。
【0070】
また、ROM105には、各種データ処理を行わせるための制御プログラム(制御ルーチン)の他に、フォントデータ、グラフィック関数等を記憶させてある。
【0071】
制御部106は、受信バッファ111内の印刷データを読み出すと共に、この印刷データを変換して得た中間コードデータを中間バッファ112に記憶させる。また、中間バッファ112から読み出した中間コードデータを解析し、ROM105に記憶させているフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して、中間コードデータをドットパターンデータに展開する。そして、制御部106は、必要な装飾処理を施した後に、この展開したドットパターンデータを出力バッファ113に記憶させる。
【0072】
そして、インクジェット式記録ヘッド108の1行分に相当するドットパターンデータが得られたならば、この1行分のドットパターンデータは、内部I/F110を通じてインクジェット式記録ヘッド108に出力される。また、出力バッファ113から1行分のドットパターンデータが出力されると、展開済みの中間コードデータは中間バッファ112から消去され、次の中間コードデータについての展開処理が行われる。
【0073】
プリントエンジン102は、インクジェット式記録ヘッド108と、紙送り機構114と、キャリッジ機構115とを含んで構成してある。
【0074】
紙送り機構114は、紙送りモータと紙送りローラ等から構成してあり、記録紙等の印刷記憶媒体をインクジェット式記録ヘッド108の記録動作に連動させて順次送り出す。即ち、この紙送り機構114は、印刷記憶媒体を副走査方向に相対移動させる。
【0075】
キャリッジ機構115は、インクジェット式記録ヘッド108を搭載可能なキャリッジと、このキャリッジを主走査方向に沿って走行させるキャリッジ駆動部とから構成してあり、キャリッジを走行させることによりインクジェット式記録ヘッド108を主走査方向に移動させる。なお、キャリッジ駆動部は、タイミングベルトを用いたもの等、キャリッジを走行させ得る機構であれば任意の構成を採り得る。
【0076】
インクジェット式記録ヘッド108は、副走査方向に沿って多数のノズル開口を有し、ドットパターンデータ等によって規定されるタイミングで各ノズル開口からインク滴を吐出する。
【0077】
以下、かかるインクジェット式記録ヘッド108について詳細に説明する。まず、要部断面を示す図3を参照して、インクジェット式記録ヘッド108の機械的構成について説明する。
【0078】
図示するように、圧力発生室を形成する基板となるスペーサ1は、例えば、150μm程度の厚みを有するジルコニア(ZrO2)などのセラミックス板で、圧力発生室2となる貫通孔を形成して構成される。
【0079】
スペーサ1の一方面は、例えば、厚さ10μmのジルコニアの薄板からなる弾性板3により封止され、弾性板3の表面には下電極4が形成されている。また、下電極4の上には、圧力発生室2毎に独立して圧電体層5が固定されている。この圧電体層5は、圧電材料からなるグリーンシートを貼付したり、圧電材料をスパッタリングする等の方法により形成される。さらに、各圧電体層5の表面には、それぞれ上電極6が形成されている。従って、下電極4と、各圧力発生室2毎に設けられた圧電体層5上の上電極6との間に、印刷データに基づいて電圧を印加することにより、各圧電体層5は弾性板3と共にたわみ変形する。
【0080】
スペーサ1の他方面は、厚さ150μmのジルコニアの薄板からなるインク供給口形成基板7により封止されている。インク供給口形成基板7は、ノズルプレートのノズル開口と圧力発生室2とを接続するノズル連通孔8と、後述するリザーバ11と圧力発生室2とを接続するインク供給口9を穿設して構成されている。
【0081】
一方、リザーバ形成基板10は、インク流路を構成するに適した、例えば、150μmのステンレス鋼などの耐食性を備えた板材に、外部のインクタンクからインクの供給を受けて圧力発生室2にインクを供給するリザーバ11と、圧力発生室2と後述するノズル開口13とを連通するノズル連通孔12とを有する。リザーバ形成基板10のスペーサ1の反対側は、圧力発生室2と同一の配列ピッチでノズル開口13が形成されたノズルプレート14により封止されている。
【0082】
ここで、上述したセラミックス製の各部材は積層された後焼結されて一体的に形成されており、リザーバ形成基板10及びノズルプレート14は、接着剤層15及び16を介して固着されている。なお、リザーバ形成基板10及びノズルプレート14もセラミックスとして一体的に形成することもできる。
【0083】
このように形成されたインクジェット式記録ヘッド108は、各圧力発生室12に対向してたわみ振動モードの圧電素子18を有する。また、この圧電素子18には、図示しないフレキシブルケーブルを介して電気信号、例えば、後述する駆動信号(COM)や印字データ(SI)等を供給する。
【0084】
そして、このような構成を有するインクジェット式記録ヘッド108では、充電されることにより圧電素子18は下に凸にたわみ変形して圧力発生室2が収縮する。この収縮に伴って圧力発生室2におけるインク圧力が高くなる。一方、放電することにより圧電素子18のたわみ変形が引き戻され、収縮した圧力発生室2が膨張する。この膨張に伴ってリザーバ11のインクがインク供給口9を通って圧力発生室31内に流入する。このように、圧電素子18を充放電させることにより圧力発生室2の容積が変化するので、各圧電素子18に対して充放電を制御することにより、所望のノズル開口13から所望の大きさのインク滴を吐出させることができる。
【0085】
次に、このインクジェット式記録ヘッド108の電気的構成について説明する。
【0086】
このインクジェット式記録ヘッド108は、図1に示すように、シフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143、スイッチ144及び圧電素子18等を備えている。さらに、図2に示すように、これらのシフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143、スイッチ144及び圧電素子18は、それぞれ、インクジェット式記録ヘッド108の各ノズル開口13毎に設けたシフトレジスタ素子141A〜141N、ラッチ素子142A〜142N、レベルシフタ素子143A〜143N、スイッチ素子144A〜144N、圧電素子18A〜18Nから構成してあり、シフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143、スイッチ144、圧電素子18の順で電気的に接続してある。
【0087】
なお、これらのシフトレジスタ141、ラッチ回路142、レベルシフタ143及びスイッチ144は、駆動信号発生回路109が発生した駆動信号から駆動パルスを生成する。ここで、駆動パルスとは実際に圧電素子18に印加される印加パルスのことであり、そして、駆動信号とは駆動パルスを生成するために必要な元波形により構成される一連のパルス信号(元駆動パルス)のことである。また、スイッチ144はスイッチ手段としても機能する。
【0088】
このような電気的構成を有するプリントヘッド108では、図4(a)に示すように、発振回路107からのクロック信号(CK)に同期して、ドットパターンデータを構成する印字データ(SI)が出力バッファ113からシフトレジスタ141へシリアル伝送され、順次セットされる。この場合、まず、全ノズル開口13の印字データにおける最上位ビットのデータがシリアル伝送され、この最上位ビットのデータシリアル伝送が終了したならば、上位から2番目のビットのデータがシリアル伝送される。以下同様に、下位ビットのデータが順次シリアル伝送される。
【0089】
そして、当該ビットの印字データが全ノズル分シフトレジスタ素子141A〜141Nにセットされたならば、制御部106は、所定のタイミングでラッチ回路142へラッチ信号(LAT)を出力させる。このラッチ信号により、ラッチ回路142は、シフトレジスタ141にセットされた印字データをラッチする。このラッチ回路142がラッチした印字データ(LATout)は、電圧増幅器であるレベルシフタ143に印加される。このレベルシフタ143は、印字データが例えば「1」の場合に、スイッチ144が駆動可能な電圧値、例えば、数十ボルトまでこの印字データを昇圧する。そして、この昇圧された印字データはスイッチ素子144A〜144Nに印加され、スイッチ素子144A〜144Nは、当該印字データにより接続状態になる。
【0090】
そして、各スイッチ素子144A〜144Nには、駆動信号発生回路109が発生した基本駆動信号(COM)も印加されており、スイッチ素子144A〜144Nが接続状態になると、このスイッチ素子144A〜144Nに接続された圧電素子18A〜18Nに駆動信号が印加される。
【0091】
このように、例示したインクジェット式記録ヘッド108では、印字データによって圧電素子18に駆動信号を印加するか否かを制御することができる。例えば、印字データが「1」の期間においてはラッチ信号(LAT)によりスイッチ144が接続状態となるので、駆動信号(COMout)を圧電素子18に供給することができ、この供給された駆動信号(COMout)により圧電素子18が変位(変形)する。また、印字データが「0」の期間においてはスイッチ144が非接続状態となるので、圧電素子18への駆動信号(COMout)の供給は遮断される。なお、この印字データが「0」の期間において、各圧電素子18は直前の電荷を保持するので、直前の変位状態が維持される。
【0092】
図4(b)に詳細を示す駆動信号(COMout)の波形の一例は、より少ない体積のインク滴を吐出させるのに適した駆動波形である。図4に示すように、この駆動信号は、圧力発生室2が最も収縮した状態を保持する第1のホールド工程aを有し、下電極4と上電極6との間の電圧を最高電圧VH、例えば、30V程度に維持して電界を印加する。次いで、ノズル開口13のメニスカスを圧力発生室2側に最大限引き込む準備の膨張工程bを有し、この工程では、両電極間に印加していた電圧を最低電圧VLまで下げている。続いて、この状態を保持してインク滴の吐出のタイミングを図る第2のホールド工程cと、インク滴を吐出させるために再び電圧を最高電圧VHまで印加して圧力発生室2を収縮させる第1の収縮工程dとを有する。
【0093】
そして、この収縮工程dの直後に第3のホールド工程eを略零として、第1の膨張工程fを有する。この第1の膨張工程fは、第1の収縮工程dでメニスカスの中央領域がもりあがっている間、特にインク滴先端の形状が形成され始める時点で行われる。これにより、メニスカスの外縁部201bは、第1の膨張工程fによって引き込まれ、中心部201aだけが第1の膨張工程fによって引き込まれることなくインク滴として吐出することになり、結果的に、径がノズル径よりも小さいインク滴を、時間の経過に伴って図5(a1)〜(a3)に示すように、吐出させることができる。
【0094】
この現象は急峻な第1の膨張工程fでメニスカスの高次の振動を起こしてみられる現象である。つまり、これは中心部201aの速度をあまり変えることなく、外縁部201bの速度をインク滴吐出方向とは反対の方向へ大きく変える振動モードであり、3次振動モードと呼ばれる。
【0095】
ここで、第1の膨張工程fを実行する駆動信号の印加のタイミングは、第3のホールド工程eの時間で決定されるが、第1の収縮工程dで、インク滴の吐出準備、すなわち、図5(a1)に示すように、ノズル開口13から突出しようとするインク滴202がメニスカスに形成し始め、その先端が現れてから、図5(b)のように、インク滴202がメニスカスから長く延びている段階で、ノズル表面近傍202aの吐出速度の平均が略零になるまでの間に印加すれば、インク滴を小さくする効果が得られる。
【0096】
また、このように小さな体積のインク滴を吐出するための条件は、吐出されるインク滴の体積を微小化可能なタイミングで第1の膨張工程fを実行し、この第1の膨張工程fでの膨張期間T1をヘルムホルツ振動周期Tcの1/4以下とすることが好ましい。
【0097】
ここで、第3のホールド工程eの期間T2は、ヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下とすることが望ましい。具体的には、第3のホールド工程eの時間を3マイクロ秒以下、さらに好適には1マイクロ秒以下、すなわち、略零とする。これより安定して微小ドットを吐出することができる。
【0098】
また、このように小さな体積のインク滴を吐出するための条件は、第1の収縮工程dの収縮速度及び変化量と、第1の膨張工程fの膨張速度及び変化量とに関係する。第1の収縮工程dの速度より第1の膨張工程fの速度の方が大きい方が好ましい。第1の膨張工程fの変化量は、第1の収縮工程dの変化量と同等又は小さくすればよい。
【0099】
また、第1の膨張工程fの後は、第4のホールド工程gと、第1の収縮工程dより小さい変化量、すなわち、中間電圧VMから最高電圧VHまで変化させる第2の収縮工程hとを有する。これにより、インク滴吐出後のメニスカスの大きな振動の減衰を調整している(メニスカスの外縁部の後退を抑えている)。なお、このようにメニスカスの振動を抑える収縮工程は、図6に示すように、二段階の収縮、すなわち、第4のホールド工程gの後、ホールド工程lを介して第2の収縮工程h及び第3の収縮工程mを実行するようにしてもよい。勿論、このような振動を抑える工程は必ずしも設ける必要はない。
【0100】
以上の駆動信号によると、非常に小さな体積のインク滴が吐出でき、その体積は、第1の膨張工程fを実行するタイミング及びその変化量等で決定される。
【0101】
また、このような駆動方法は、駆動信号の波形の種類を制限するものではなく、図示した台形波形の他、矩形の波形などでもよい。また、図4(b)に示したのは、本発明の第1の膨張工程fがない状態であっても比較的小さなインク滴を吐出することができる波形に採用したものであるが、勿論、このような駆動信号の種類にも限定されない。
【0102】
(実施形態2)
図7は、実施形態2にかかる駆動信号の波形である。
【0103】
実施形態2の駆動信号の波形は、実施形態1の駆動信号の波形(図4(b))と比較して大きな体積のインク滴を吐出するための駆動信号であり、図7は、第1のホールド工程a1での圧力発生室2の収縮した状態が図4(b)の場合と比較して小さいものである。従って、準備の膨張工程b1でのノズル開口13のメニスカスの引き込み量が図4(b)の場合と比較して小さく、第1の収縮工程dで吐出されるインク滴の体積が図4(b)の場合と比較してやや大きい。また、図8は、図4(b)の第1のホールド工程a及び準備の膨張工程bを省略して、さらに大きなインク滴を吐出するものである。
【0104】
しかしながら、何れも、第1の収縮工程dの後、第3のホールド工程eを介して第1の膨張工程fを有するものであり、これにより、これを実行しない状態よりは小さな体積のインク滴を高速で吐出することができる。
【0105】
(実施形態3)
図9は、実施形態3にかかる駆動信号の波形である。
【0106】
図9に示すように、実施形態3の駆動信号の波形の一例は、実施形態1と同様、より少ないインク滴を吐出させるのに適した駆動波形であり、第1のホールド工程aの前に、さらに、準備のホールド工程a0と準備の収縮工程d0とを有する。詳しく説明すると、本実施形態の駆動信号は、下電極4と上電極6との間の電圧を、印字状態に入る前に0Vから第2中間電圧VM2、例えば、15V程度にゆっくり立ち上げて維持して電界を印加して、圧力発生室2が最も収縮した状態と最も膨張した状態の略中間を保持する準備のホールド工程a0を有する。なお、この駆動信号は、この第2中間電圧VM2から始まり、後述するように印字中、必要に応じて所定の電圧を印加し、印字終了後に第2中間電圧VM2から0Vに電圧を下げる。
【0107】
次に、駆動波形は、両電極間の電圧を最高電圧VH、例えば、30V程度に上げる準備の収縮工程d0を経て、圧力発生室2が最も収縮した状態を保持する第1のホールド工程aを有する。
【0108】
次いで、駆動波形は、両電極間の電圧を最低電圧VLに下げて、ノズル開口13のメニスカスを圧力発生室2側に最大限引き込むインク吐出の準備の膨張工程bを有する。続いて、この状態を保持してインク滴の吐出のタイミングを図る第2のホールド工程cと、両電極間の電圧を第1中間電圧VM1、例えば25V程度に上げて、圧力発生室2を収縮させ、インク滴を吐出させる第1の収縮工程d1とを有する。ここで、第1中間電圧VM1は、第2中間電圧VM2と最高電圧VHの間の電圧である。
【0109】
そして、駆動波形は、その後、実施形態1と同様に、この第1の収縮工程d1の直後に第3のホールド工程eを略零として、第1の膨張工程fを有する。これにより、第1の収縮工程d1によってメニスカスの外縁部201b(図5参照)は、第2の膨張工程hにより引き込まれ、中心部201aだけが第2の膨張工程hに引き込まれることなくインク滴として吐出することになり、結果的に、径がノズル径よりも小さいインク滴を吐出させることができる。
【0110】
また、このように小さな体積のインク滴を吐出するための条件は、実施形態1で説明した通りである。なお、第1の膨張工程fの変化量は、第1の収縮工程d1の変化量と同等又は小さくすればよいので、本実施形態では、第1の膨張工程fで、両電極間の電圧を第2中間電圧VM2と最低電圧VLの間の第3中間電圧VM3、例えば5V程度に下げて、圧力発生室2を膨張させるようにした。
【0111】
さらに、本実施形態の駆動波形は、第1の膨張工程fの後に、第4のホールド工程gを略零として、第1の収縮工程d1より変化量の小さい第2の収縮工程hを有する。本実施形態では、これにより、インク滴吐出後のメニスカスの大きな引き込みを防止し、これに続く振動を減衰している。第2の収縮工程hの収縮期間T3は、圧力発生室2のヘルムホルツ振動周期Tcの1/3以下で行うと効果が大きい。また、第1の収縮工程d1が開始されてから第2の収縮工程hが開始されるまでの期間は、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であるのが好ましく、さらに好ましくは1/4から3/4の間である。
【0112】
第2の収縮工程hの後は、第5のホールド工程iと、第2の膨張工程jを有し、さらにインク滴吐出後のメニスカスの大きな振動を減衰している。第2の膨張工程jの膨張期間T4は、圧力発生室2のヘルムホルツ振動周期Tcの1/2以下とするのが好ましい。また、第1の収縮工程d1が開始された後、第2の膨張工程jが開始されるまでの期間は、前記圧力発生室のヘルムホルツ振動周期Tc以下であるのが好ましい。
【0113】
以上説明した駆動波形によっても、実施形態1と同様に、非常に小さな体積のインク滴が吐出できる。また、インク滴吐出後のメニスカスの大きな引き込みを防止し、これに続く振動を減衰することができる。
【0114】
(実施形態4)
図10は、実施形態4に係る駆動信号の波形である。この場合は、実施形態3と比較して大きな体積のインク滴を吐出することができる。
【0115】
この駆動信号は、準備のホールド工程a0の後の準備の収縮工程d0と第1のホールド工程aを省略して、ノズル開口13のメニスカスを圧力発生室2側に引き込むインク吐出の準備の膨張工程b1を実行する。準備の膨張工程b1の引き込み量は実施形態3の場合よりも小さくなり、第2のホールド工程c1の後、第1の収縮工程d2によってインク滴が吐出される。以後の工程は実施形態3と同様であり、第1の膨張工程fの後に、保持期間が略零の第4のホールド工程g及び第1の収縮工程d2より変化量の小さい第2の収縮工程hを有する。
【0116】
この実施形態でも、比較的小さな体積のインク滴を高速で吐出することができると共に、インク吐出後の大きなメニスカスの振動を防止することができることにかわりはない。
【0117】
(実施形態5)
図11は、実施形態5に係る駆動信号の波形である。
【0118】
この駆動波形は、第4のホールド工程gまでは実施形態3と同様であるが、第2の収縮工程h1の後の第5のホールド工程iと第2の膨張工程jを省略したものである。
【0119】
この実施形態では、比較的小さな体積のインク滴を高速で吐出することができると共に、インク吐出後のメニスカスの引き込みを抑えることができる。なお、本実施形態は、実施形態3に比べ駆動波形のカーブが少なく、始点から終点までの時間も短いが、インク粘度が高い場合には、この波形で振動抑えも十分である。
【0120】
(実施形態6)
図12は、実施形態6に係る駆動信号の波形である。
【0121】
この駆動波形は、実施形態3における準備の収縮工程d0、第1のホールド工程a、第2の収縮工程h2の後の第5のホールド工程i及び、第2の膨張工程jを省略し、さらに第3のホールド工程e1における電圧を小さくすることにより、第1の収縮工程d2での圧力発生室2の収縮量を実施形態3よりも小さくしたものである。
【0122】
この実施形態では、圧電素子の両電極間に印加する最大電圧が、前述の第2中間電圧VM2に設定されているため、両電極間に印加する電圧を、前述の最高電圧VHまで上げる必要がなくなるという利点を有する。
【0123】
(実施形態7)
図13は、実施形態7に係る駆動信号の波形である。
【0124】
この駆動波形は、実施形態3における準備の収縮工程d0と第1のホールド工程aを省略し、さらに第1の収縮工程d3の後の第3のホールド工程e2における電圧を小さくすることにより、第1の膨張工程f2での圧力発生室2の膨張量を実施形態3よりも小さくしたものである。
【0125】
この実施形態では、第2の収縮工程h3の後の第5のホールド工程iの保持電圧が、第1の収縮工程d3の後の第3のホールド工程e2での保持電圧より大きいため、より強い振動抑制効果が得られる。
【0126】
(実施形態8)
図14は、実施形態8に係る駆動信号の波形である。
【0127】
この駆動波形は、実施形態3における準備の収縮工程d0、第1のホールド工程a、準備の膨張工程b、第2のホールド工程cを省略し、さらに第4のホールド工程g1において両電極間に印加する電圧を第2中間電圧VM2より大きい第4中間電圧VM4と大きくすることにより、第1の膨張工程f3での圧力発生室2の膨張量を実施形態3よりも小さくしたものである。
【0128】
また、第2の収縮工程h4の後の第5のホールド工程iの保持電圧を第4中間電圧VM4より大きいが、第1中間電圧VM1より小さい第5中間電圧VM5としたものである。
【0129】
この実施形態では、最低電圧が上述した第2中間電圧VM2に設定されているため、吐出されるインク滴は、上述の実施形態よりも大きくなるが、サテライトインク滴が小さいという利点を有する。
【0130】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の駆動方法を実現できるインクジェット式記録ヘッドの構成は、特に限定されるものではない。例えば、セラミック基板の代わりに、シリコン基板に薄膜プロセスで圧電アクチュエータを形成すると共に異方性エッチングにより圧力発生室を形成したインクジェット式記録ヘッドにも適用できるし、また、ノズル開口の位置、リザーバの位置などのインク供給の構造なども特に限定されない。また、たわみ変形型圧電アクチュエータによるインクジェット式記録ヘッドに限定されず、縦変位型インクジェット式記録ヘッドの駆動にも適用できる。
【0131】
図15には、縦振動型圧電アクチュエータを有するインクジェット式記録ヘッドの一例を示す。図示するように、スペーサ21には、圧力発生室22が形成され、スペーサ21の両側は、ノズル開口23を有するノズルプレート24と、弾性板25とにより封止されている。また、スペーサ21には、圧力発生室22にインク供給口26を介して連通するリザーバ27が形成されており、リザーバ27には、図示しないインクタンクが接続される。
【0132】
一方、弾性板25の圧力発生室22とは反対側には、圧電素子28の先端が当接している。圧電素子28は、圧電材料29と、電極形成材料30及び31とを交互にサンドイッチ状に挟んで積層構造になるように構成され、振動に寄与しない不活性領域が固定基板32に固着されている。なお、固定基板32と、弾性板25、スペーサ21及びノズルプレート24とは、基台33を介して一体的に固定されている。
【0133】
このように構成されたインクジェット式記録ヘッドは、圧電素子28の電極形成材料30及び31に電圧が印加されると、圧電素子28がノズルプレート24側に伸張するから、弾性板25が変位し、圧力発生室22の容積が圧縮される。従って、例えば、予め電圧を除去した状態から電圧を30V程度印加し、その電圧を下げることによって圧電素子28を収縮させてインクをリザーバ27からインク供給口26を介して圧力発生室22に流れ込ませることができる。また、その後、電圧を印加することにより、圧電素子28を伸張させて弾性板25により圧力発生室22を収縮させ、ノズル開口23からインク滴を吐出させることができる。
【0134】
よって、かかるインクジェット式記録ヘッドを駆動する場合でも、上述した駆動方法を用いることにより、速度を低下させることなく、比較的小さな体積のインク滴を吐出することができる。
【0135】
また、以上説明したインクジェット式記録ヘッドでは、電圧を印加することにより、圧力発生室を収縮させるものを例示したが、電圧を印加することにより、圧力発生室を膨張させるインクジェット式記録ヘッドの駆動方法にも本発明の駆動方法を適用することができる。
【0136】
このような構造のインクジェット式記録ヘッドの一例を図16に示す。図16のインクジェット式記録ヘッドは、図15の圧電素子28の代わりに圧電素子28Aを有する以外は同様な構造を有する。圧電素子28Aは、圧電体材料29Aの中に電極形成材料30A及び31Aを交互に縦に配置して積層したものである。従って、両電極型性材料30A及び31Aに電圧を印加すると圧電素子28Aが収縮して圧力発生室22が膨張し、この状態から電圧の印加を解除すると圧力発生室22が収縮し、ノズル開口23からインク滴を吐出させることができる。上述した駆動方法の収縮及び膨張の際の電圧の印加及び解除を逆に行うことにより、同様な駆動方法を実施できる。
【0137】
図17〜図25には、かかるインクジェット式記録ヘッドでの駆動信号の例を示す。図17〜図25の各駆動信号は、図4(b)及び図7〜図14の各駆動信号に対応し、同様の作用を有する工程には同じ符号を付して説明は省略する。この場合に異なるのは、例えば、準備の膨張工程d0及び第1の膨張工程fでは、上述した場合と異なって電圧を印加し、逆に、例えば、第1の収縮工程dでは、電圧の印加を解除するという点であり、作用効果は上述した場合と同様である。
【0138】
【発明の効果】
以上説明したように本発明においては、圧力発生室を収縮させてノズル開口からインクを吐出させる第1の収縮工程と、吐出されたインクの後端部のノズル開口近傍での速度が略零になるまでに圧力発生室を膨張させる第1の膨張工程とを有することにより、第1の収縮工程での圧力発生室の収縮により吐出されはじめたインク滴が吐出され終わらないうちに、圧力発生室の膨張が開始され、それまでに吐出されかけたインク滴のみが吐出される。したがって、インク滴の飛行速度を低下させることなく、インク滴を構成するインク量を可及的に少なくしてグラフィック印刷に適したドットを形成することができ、また、大きな体積のインク滴も容易に吐出することができるという効果を奏する。
【0139】
また、第1の膨張工程の後に、再び圧力発生室を収縮させる第2の収縮工程を具備するようにすれば、インク滴吐出後のメニスカスの振動を抑えて次のインク吐出に備えることができ高速安定印刷を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの回路構成を示す回路図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図5】ノズル開口から吐出されるインク滴の形状を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る駆動信号の波形の他の例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態2に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る駆動信号の波形の変形例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態3に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態4に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態5に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態6に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態7に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図14】本発明の実施形態8に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの例を示す断面図である。
【図16】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの例を示す断面図である。
【図17】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図18】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図19】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図20】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図21】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図22】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図23】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図24】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【図25】本発明の他の実施形態に係る駆動信号の波形の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 スペーサ
2 圧力発生室
3 弾性板
5 圧電体層
7 インク供給口形成基板
11 リザーバ
13 ノズル開口
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-12 
出願番号 特願平11-90283
審決分類 P 1 651・ 161- ZD (B41J)
P 1 651・ 536- ZD (B41J)
P 1 651・ 121- ZD (B41J)
P 1 651・ 113- ZD (B41J)
P 1 651・ 537- ZD (B41J)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 谷山 稔男
酒井 進
登録日 2002-02-08 
登録番号 特許第3275965号(P3275965)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェット式記録ヘッドの駆動方法  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 栗原 浩之  
代理人 村松 貞男  
代理人 橋本 良郎  
代理人 栗原 浩之  
代理人 坪井 淳  

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