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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  D01D
審判 一部申し立て 2項進歩性  D01D
管理番号 1127313
異議申立番号 異議2003-72376  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-22 
確定日 2005-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3389722号「織編物用多孔型中空繊維及びその製造方法」の請求項1ないし6、8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3389722号の請求項1ないし5、7に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯

本件特許第3389722号は、平成7年2月22日の出願であって、平成15年1月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対して特許異議申立人 株式会社クラレから特許異議の申立てがなされ、平成16年8月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年10月19日に、特許異議意見書が提出されるとともに訂正請求(後日取下げ)がされた後、再度、平成17年3月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年5月26日に訂正請求がされ、平成17年6月30日付けで特許異議申立人から上申書が提出され、平成17年9月1日付けで訂正拒絶理由が通知され、訂正請求に関する手続補正書が平成17年9月1日に提出されたものである。


II.訂正(平成17年5月26日付け)の適否についての判断

1.訂正請求に対する補正の適否について

当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書第2頁第21〜27行記載の訂正事項(b-5)を削除する補正をするものであり、訂正請求書の要旨を変更するものでなく、特許法第131条第2項の規定に適合するので、これを認める。


2.訂正の内容

本件訂正は、平成17年9月1日付け手続補正書によって補正された、平成17年5月26日付け訂正請求書の記載からして、以下の訂正事項からなるものと認める。
訂正事項(a):特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】 ポリエステルからなり、繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4デニール以上5デニール未満の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする織編物用多孔型中空繊維。」

訂正事項(b-1):特許明細書段落番号【0001】の記載「本発明は織編物用多孔型中空繊維に関するものである。」を、「本発明は繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする織編物用多孔型中空繊維に関するものである。」と訂正する。

訂正事項(b-2):特許明細書段落番号【0001】の記載「細繊度の織編物用多孔型中空繊維」を、「細繊度の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とした織編物用多孔型中空繊維」と訂正する。

訂正事項(b-3):特許明細書段落番号【0006】の記載「細繊度の織編物用多孔型中空繊維」を、「細繊度の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とした織編物用多孔型中空繊維」と訂正する。

訂正事項(b-4):特許明細書段落番号【0008】の記載「単糸繊度が0.4以上5デニール未満であることを特徴とする」を、「単糸繊度が0.4以上5デニール未満である、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする」と訂正する。

訂正事項(b-6):特許明細書段落番号【0021】の記載「例えば図1〜6に」を、「例えば図1〜5に」と訂正する。

訂正事項(b-7):特許明細書【図面の簡単な説明】の記載「【図6】本発明の多孔型中空繊維の横断面図の一例である。」を削除する。

訂正事項(b-8):図面の【図6】を削除する。

訂正事項(c):特許請求の範囲の請求項6ないし8の記載を次のとおりに訂正する。
「【請求項6】 海成分と島成分からなる海島複合繊維において、該海島複合繊維の島成分を熱水またはアルカリに可溶な軟化点が100℃以上の、主たる酸成分がテレフタル酸であって、10mol%を超えて15mol%以下の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5〜40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルとし、海成分をポリエステルとし、該島成分を構成するポリマのみを溶解または分解除去する繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4デニール以上5デニール未満の織編物用多孔型中空繊維の製造方法。
【請求項7】 海成分が5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6mol%共重合したポリエステルであることを特徴とする請求項6記載の織編物用多孔型中空繊維の製造方法」

訂正事項(d-1):特許明細書段落番号【0021】の記載「熱水またはアルカリに可溶な軟化点が100℃以上のポリマ成分を島成分とする」を、「熱水またはアルカリに可溶な、主たる酸成分がテレフタル酸であって、10mol%を超えて15mol%以下の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5〜40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルを島成分とする」と訂正する。

訂正事項(d-2):特許明細書段落番号【0023】の記載「用いることが好ましい。」を、「用いる。」に訂正する。

訂正事項(d-3):特許明細書段落番号【0025】の記載「5-ナトリウムスルホイソフタル酸は8〜15mol%、好ましくは10mol%を超えて12.5mol%以下とすることが良い。8mol%未満では」を、「5-ナトリウムスルホイソフタル酸は10mol%を超えて15mol%以下である。好ましくは10mol%を超えて12.5mol%以下とすることが良い。10mol%以下では」に訂正する。

訂正事項(d-4):特許明細書段落番号【0026】の記載「共重合させることが好ましい。」を、「共重合させることが必要である。」と訂正する。


3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

3-1.訂正事項(a)について

訂正事項(a)は、請求項1において、「繊維の断面形状が円形または楕円であること」をさらに規定して、繊維の形状を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、上記事項は、願書に添付した明細書又は図面の段落【0017】に「中空繊維の断面形状のみならず、上記中空部の形状についても特に限定されず、必要に応じて楕円や三角形などの任意の形状を選択できる。ただ、繊維の断面形状は高次工程の通過性を考慮すると円形断面とするのが好ましい。」と記載され、【図1】〜【図5】に本発明の多孔型中空繊維の横断面図として円形、楕円のものが記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3-2.訂正事項(b-1)〜(b-8)(決定注;(b-5)は欠番である。)について

訂正事項(b-1)〜(b-8)(決定注;(b-5)は欠番である。)は、上記訂正事項1により訂正された請求項1の記載と、明細書段落【0001】、【0006】、【0008】、【0021】、【図面の簡単な説明】、及び図面の記載の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書又は図面の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3-3.訂正事項(c)について

訂正事項(c)は、訂正前の請求項6を削除し、訂正前の請求項6を引用していた請求項7を独立形式にして請求項6に繰り上げ、かつ、訂正前の請求項6、7を引用していた請求項8を、訂正後の請求項6のみを引用する形式に減縮して請求項7に繰り上げたものである。
そして、請求項6を削除する訂正及び請求項8を訂正後の請求項6のみを引用する形式とする訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、訂正前の請求項7を独立形式にして、訂正前の請求項7、8を請求項6、7に繰り上げる訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3-4.訂正事項(d-1)〜(d-4)について

訂正事項(d-1)〜(d-4)は、上記訂正事項(c)により訂正された請求項6、7の記載と、明細書段落【0021】、【0023】、【0025】及び【0026】の記載の整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。


4.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


III.特許異議の申立てについての判断

1.特許異議の申立ての概要

特許異議申立人 株式会社クラレは、以下の甲第1〜10号証を提出して、以下の主張をしている。

甲第1号証:特開平4-24209号公報
甲第2号証:特開平6-33319号公報
甲第3号証:特開平5-106111号公報
甲第4号証:日本繊維機械学会繊維工学刊行委員会編,「繊維工学(II)繊維の製造・構造及び物性」,社団法人日本繊維機械学会,昭和58年4月20日発行,p.179-181
甲第5号証:特開昭62-149999号公報
甲第6号証:特開平3-124807号公報
甲第7号証:特願平6-106417号の願書に最初に添付した明細書(特開平7-316977号公報)
甲第8号証:株式会社クラレくらしき研究所 主任研究員 田中和彦氏および平川清司氏が作成した実験報告書
甲第9号証:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典6」,共立出版株式会社,1989年8月15日発行,第172頁右欄「デニール」の項
甲第10号証:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典8」,共立出版株式会社,1989年8月15日発行,第744〜746頁右欄「ポリエチレンテレフタラート」の項
なお、甲第8号証は、理由5を根拠づけるための証拠である。
甲第9号証及び甲第10号証は、理由1、2及び理由4において技術常識を明らかにする証拠である。

理由1:本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由2:本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1〜5の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由3:本件請求項6に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第7号証に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時においてその出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、上記請求項6に係る発明の特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべきものである。

理由4:本件請求項6、8に係る発明は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項6、8の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由5:本件特許明細書特許請求の範囲の請求項6の記載に不備があり、本件特許は、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由6:平成14年11月22日付けの手続補正書による補正(請求項6および発明の詳細な説明)は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、本件特許は、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


2.取消理由の概略

平成16年8月11日付けで通知した取消理由の概略は、以下のとおりである。
「理由1)平成14年11月22日付けの手続補正書による補正において、少なくとも請求項6の記載について「島成分を熱水またはアルカリに可溶な軟化点が100℃以上のポリマ成分とし」た点の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとはいえないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願について、特許されたものである。
理由2)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物A:特開平4-24209号公報(特許異議申立人(株)クラレの提示した甲第1号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、本件の請求項1〜6、8に係る特許は取り消すべきものである。」

平成17年3月23日付けで通知した取消理由の概略は、以下のとおりである。
「平成16年10月19日付けの訂正請求の訂正を認めることはできない。
理由1)本件特許は、特許法第17条の2第2項で準用する第17条第2項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願について、特許されたものである。
理由2)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、本件の請求項1〜6、8に係る特許は取り消すべきものである。」
平成17年3月23日付けで通知した取消理由1)、2)の具体的理由は、平成16年8月11日付けで通知した取消理由と同じである。


3.当審の判断

3-1.特許法第36条の申立て(上記理由5)について

異議申立人は、特許請求の範囲の請求項6の記載に不備があることを主張しているが、上記II.で述べたように訂正(平成17年5月26日付け)が認められ、訂正前の請求項6は削除されたから、異議申立ての上記理由5の対象が存在しない。
したがって、上記理由5については判断を要しない。


3-2.特許法第29条第1項第3号、第2項、第29条の2の申立て(上記理由1〜4)について

3-2-1.本件請求項1〜7に係る発明

上記II.で述べたように訂正(平成17年5月26日付け)が認められるから、本件請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 ポリエステルからなり、繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4デニール以上5デニール未満の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする織編物用多孔型中空繊維。
【請求項2】 中空率が下式を満足する請求項1記載の織編物用多孔型中空繊維。
中空率(%):5<(A/B×100)<70
式中、Aは中空部面積、Bは繊維断面積
【請求項3】 ポリエステルが5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6モル%共重合したポリエステルである請求項1または2記載の織編物用多孔型中空繊維。
【請求項4】 マルチフィラメントからなる請求項1〜3のいずれか1項記載の織編物用多孔型中空繊維。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項記載の織編物用多孔型中空繊維を少なくとも一部に用いたことを特徴とする衣料。
【請求項6】 海成分と島成分からなる海島複合繊維において、該海島複合繊維の島成分を熱水またはアルカリに可溶な軟化点が100℃以上の、主たる酸成分がテレフタル酸であって、10mol%を超えて15mol%以下の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5〜40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルとし、海成分をポリエステルとし、該島成分を構成するポリマのみを溶解または分解除去する繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4デニール以上5デニール未満の織編物用多孔型中空繊維の製造方法。
【請求項7】 海成分が5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6mol%共重合したポリエステルであることを特徴とする請求項6記載の織編物用多孔型中空繊維の製造方法」

3-2-2.甲各号証の記載

甲第1号証(取消理由に引用した刊行物A)には、以下の事項が記載されている。
(1-a)「(1)単繊維の横断面が,下記式(I),(II)及び(III)を満足する略矩形の外観形状を有しており,かつ,繊維の長さ方向に沿って連続した中空部を5個以上有することを特徴とする異形断面多孔中空繊維。
0.6≦L2/L1≦1.1 (I)
0.6≦l2/l1≦1.1 (II)
0.25≦L1/l1≦4 (III)
L1:相対する2辺の辺端部間の長さ
L2:相対する2辺の辺央部間の長さ
l1:相対する他の2辺の辺端部間の長さ
l2:相対する他の2辺の辺央部間の長さ
(2)前記単繊維の横断面の総中空率が10〜65%である請求項1記載の異形断面多孔中空繊維。」(特許請求の範囲)
(1-b)「本発明は,衣料用織編物,・・・・等に用いた場合に,優れた軽量性、光沢性、嵩高性・・・等を呈し得る異形断面多孔中空繊維に関するものである。」(第1頁右欄1〜5行)
(1-c)「また,L2/L1あるいはl2/l1が1.1以上の場合,繊維の横断面形状が丸くなりすぎるため,このような繊維を布帛にしたときには繊維の曲げ応力が低下し,布帛に腰がなくなり,ヘタリが発生し,光沢性,タッチ感及び風合いも劣ったものとなる。・・・・L1/l1がこの範囲を超える場合は,・・・繊維横断面形状が偏平となりすぎるため,製織編,捲縮加工段階で外圧による中空部の潰れ,偏平化が起き易くなり、軽量性,風合い,嵩高性及び捲縮堅牢性が劣るものとなるからである。」(第2頁右下欄第5〜18行)
(1-d)「なお、本発明における繊維とは,・・・特に溶融紡糸可能な重合体が好適に用いられる。かかる重合体の例としては,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類,・・・が挙げられる。例えば,前記ポリエステルにおいては,15モル%未満の他の成分,例えば5-ナトリウムスルホイソフタル酸,イソフタル酸・・・等の成分が共重合されていてもよい。」(第3頁左上欄第13行〜右上欄6行)
(1-e)「実施例1及び比較例
第2図に示す形状を基本とするオリフィス36孔を有する紡糸口金を用いて,・・ポリエチレンテレフタレートを・・・溶融紡糸し,・・横断面形状,中空率の異なる未延伸糸を採取した。・・・75デニール/36フィラメントの糸条を得た。この時点での糸条の横断面形状の変形及び中空部の潰れはほとんどなかった。
次いで,得られた糸条を経糸及び緯糸とし,・・・無地染織物を得た。
この織物について・・・評価した結果を第1表に示す。」(第3頁右上欄第15行〜左下欄最終行)
(1-f)第1表の試験No.「1-1」の列において、「L2/L1」が0.9、「l2/l1」が0.9、「L1/l1」が1、「中空部数(個)」が17、「総中空率(%)」が34であることが記載されている。
(1-g)「(発明の効果)
本発明の異形断面多孔中空繊維は,横断面が前記式(I),(II)及び(III)を満足する略矩形の外観形状を有するため・・・。さらには,繊維内に多孔中空部が繊維の長さ方向に連続して存在する」(第4頁左下欄第10〜15行)
(1-h)本発明に係る異形断面多孔中空繊維の例を示す横断面模式図と、第1図(a)〜(f)の異形断面多孔中空繊維を製造する紡糸口金に穿孔されたオリフィスの例を示す平面図、及び従来の異形断面多孔中空繊維の横断面模式図(第1図(a)〜(f)、第2図(a)〜(f)、第3図(a)〜(c))

甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2-a)「【請求項1】無機微粒子を含有するポリエステル系ポリマ-部を、該ポリエステル系ポリマ-よりもアルカリ分解速度が遅いかまたはアルカリに分解しない繊維形成性ポリマ-部が完全に包囲した横断面形状を有し、ポリエステル系ポリマ-部と繊維形成性ポリマ-部との間に中空部が存在し、かつ芯が2個以上の多芯芯鞘型複合繊維であって、下記式(I)および式(II)を満足することを特徴とする中空複合繊維。
0.3×T≦B≦0.9×T (I)
20≦100-{B/(T-A)}×100<100 (II)
上記式(I)および式(II)において、
T: 中空部をも含めた複合繊維の横断面積
A: 複合繊維の横断面積に占める繊維形成性ポリマ-部の面積
B: 複合繊維の横断面積に占めるポリエステル系ポリマ-部の面積
【請求項2】繊維形成性ポリマ-を鞘成分としポリエステル系ポリマ-を芯成分とする多芯芯鞘型複合繊維をアルカリ減量処理して複合繊維中のポリエステル系ポリマ-の一部を除去することを特徴とする請求項1の中空複合繊維の製造方法。」(【特許請求の範囲】)
(2-b)「本発明の中空複合繊維は図2に示すものに限定されず、減量された芯成分の数、位置、形状、繊維の外側輪郭等は、上記の多芯芯鞘型複合繊維における芯成分の数、位置、形状、繊維の外側輪郭等を適宜変えることによって、任意のものとすることができる。」(段落【0035】)
(2-c)本発明の中空複合繊維の繊維横断面を示した図(【図2】)

甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3-a)「【請求項1】 繊維横断面に占める中空部の面積割合が30%以上で、且つ繊維繊度が3デニール以下であることを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体中空繊維、該中空繊維を構成成分とする糸および繊維製品。
【請求項2】 繊維軸方向に連通する中空部を1つまたは2つ以上有している請求項1の中空繊維、糸および繊維製品。
【請求項3】 エチレン-ビニルアルコール系共重合体を鞘成分としポリエステル系重合体を芯成分とする芯鞘型複合繊維、エチレン-ビニルアルコール系共重合体を海成分としポリエステル系重合体を島成分とする海島型複合繊維、或いはそれらの複合繊維の少なくとも一方を構成成分とする糸または繊維製品を、アルカリで処理して複合繊維中のポリエステル系重合体の芯成分または島成分を除去することを特徴とする、請求項1または2のエチレン-ビニルアルコール系共重合体中空繊維、糸および繊維製品の製造方法。」(【特許請求の範囲】)
(3-b)本発明の中空繊維の繊維横断面を示した図(【図5】〜【図8】)

甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4-a)「一般に衣料には1〜2dのものが用いられる。」(第179頁下から3〜2行)

甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5-a)「(1)単糸繊度が0.5〜15デニール、単糸の長さが3〜25mmであり、繊維軸方向に連続する中空部を有すると共に、90℃の水中で不可逆的に自発伸長するポリエステル短繊維を含むことを特徴とするポリエステル繊維紙。」(特許請求の範囲第1項)
(5-b)「本発明で用いられるポリエステル短繊維の横断面形状は、丸、三角、四角等の任意の形状とすることができ、更に、中空部の数は1個のみに限らず複数個としてもよい。特に多孔中空にすると、風合がよりソフトになり、隠蔽性も更に向上する。」(第2頁左下欄下より2行〜右下欄3行)

甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(6-a)「(1)中空断面糸において、糸断面の外周形状が、曲率半径2μ以下の頂点部により構成される三角形以上五角形以下の多角形であって、となり合う頂点部間の周形状の変動率が10%以下であり、単糸繊度が1デニール以上である多角形中空断面糸。」(特許請求の範囲第1項)

甲第7号証、甲第8号証の記載は省略する。

甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
(9-a)「デニ-ル・・・・標準長さ450mのものが単位重量0.05gの何倍の重量であるかを表わす数をいう。・・・また繊維の比重をS,太さをDデニールとすれば,横断面積Acm2は次式により表わされる。 A=1/9×10-5D/S・・・」

甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
(10-a)「ポリエチレン テレフタラート・・・・性質・・・d 1.38」

3-2-3.理由1について

3-2-3-1.本件発明1について
甲第1号証の摘示(1-a)、(1-g)より、単繊維の横断面が特定の式を満足する略矩形の外観形状を有しており、かつ、繊維の長さ方向に沿って連続した中空部を5個以上有する異形断面多孔中空繊維が記載されており、摘示(1-b)より、上記繊維を衣料用織編物に用いること、摘示(1-d)より、上記繊維はポリエチレンテレフタレート等のポリエステルからなることが記載されている。
そして、より具体的な実施例として、中空部数が17個、総中空率が34%で、75デニール/36フィラメント、すなわち単糸繊度が2.08デニールの、ポリエチレンテレフタレートからなる、単繊維の横断面が特定の式を満足する略矩形の異形断面多孔中空繊維が記載されている(摘示(1-e)、(1-f)、(1-h))。
したがって、甲第1号証には、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。
「ポリエチレンテレフタレートからなり、繊維の長さ方向に沿って連続した中空部を17個有し、総中空率が34%、単糸繊度が2.08デニール、単繊維の横断面が特定の式を満足する略矩形の、衣料用織編物用異形断面多孔中空繊維。」
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、次の点で少なくとも相違する。
「本件発明1においては、繊維の断面形状が円形または楕円であるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、単繊維の横断面が特定の式を満足する略矩形である点」(以下、「相違点」という。)
上記相違点は実質的な差異であるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

なお、異議申立人は、平成17年6月30日付け上申書において、上記相違点について、甲第1号証には、摘示(1-c)からみて、丸に近い断面形状を有する繊維や偏平な断面形状を有する繊維が開示されている旨主張しているが、摘示(1-a)、(1-h)の記載からみても明らかなように、摘示(1-c)の記載は、規定の式の値が範囲外となると、略矩形の断面形状が多少丸みを帯びたり、偏平になることを意味しているのであって、円形や楕円形状となることを意味しているものとは到底いえないから、上記主張は採用できない。

3-2-3-2.本件発明2〜5について
本件発明2〜4は、本件発明1を引用して記載し、技術的な限定を加えたものであり、本件発明5は、本件発明1〜4の織編物用多孔型中空繊維を少なくとも一部に用いた衣料についての発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により(上記3-2-3-1.参照)、甲第1号証に記載された発明とはいえない。


3-2-4.理由2について

3-2-4-1.本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明との相違点(「本件発明1においては、繊維の断面形状が円形または楕円であるのに対し、甲第1号証に記載された発明においては、単繊維の横断面が特定の式を満足する略矩形である点」)について検討する。
異議申立人が主張するように、確かに、多孔型中空繊維の断面形状を円形とすることは、本件出願前において周知事項である(摘示(2-a)〜(2-c)、(3-a)〜(3-b)、(5-b))。
しかしながら、甲第1号証記載の発明においては、単繊維の横断面が特定の式を満足する略矩形であり、繊維横断面が略矩形であることが必須の要件となっており、円形等の他の形状とすることは想定していない。
仮に円形等の形状とすることができたとしても、なおかつ、本件発明1で規定された中空部の孔径、個数を満たすという理由は見当たらない。
したがって、上記相違点は、当業者にとって容易になし得ることでないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2〜6号証に記載された発明又は周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、他に甲第1〜6号証をみても、本件発明1を当業者が容易になし得るという理由は見当たらない。

したがって、本件発明1は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-2-4-2.本件発明2〜5について
本件発明2〜4は、本件発明1を引用して記載し、技術的な限定を加えたものであり、本件発明5は、本件発明1〜4の織編物用多孔型中空繊維を少なくとも一部に用いた衣料についての発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により(上記3-2-4-1.参照)、本件発明2〜5は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


3-2-5.理由3について

上記II.で述べたように訂正(平成17年5月26日付け)が認められ、訂正前の請求項6は削除されたから、異議申立ての上記理由3の対象が存在しない。
したがって、上記理由3については判断を要しない。


3-2-6.理由4について

上記II.で述べたように訂正(平成17年5月26日付け)が認められ、異議申立ての上記理由4の対象である、訂正前の請求項6は削除されたから、訂正後の請求項7(訂正前の請求項8に相当)についてのみ判断する。

甲第1〜6号証のいずれを検討しても、本件発明7の要件である「海成分と島成分からなる海島複合繊維において、該海島複合繊維の島成分を熱水またはアルカリに可溶な軟化点が100℃以上の、主たる酸成分がテレフタル酸であって、10mol%を超えて15mol%以下の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5〜40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルとし、海成分をポリエステルと」する点が記載されておらず、その点について当業者が容易になし得ることとはいえない。
したがって、本件発明7は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


3-3.特許法第17条第2項の申立て(上記理由6)について

異議申立人は、平成14年11月22日付けの手続補正書によりした、請求項7、段落【0013】及び【0015】(本件特許明細書の請求項6、段落【0023】及び【0026】)についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない旨主張しているが、上記II.で述べたように訂正(平成17年5月26日付け)が認められ、請求項6が削除され、段落【0023】及び【0026】の記載も願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内となるように訂正されたから、上記理由6は解消した。


3-4.当審の通知した取消理由について

上記3-3.の項で述べたように、新規事項を追加する補正がされたとする請求項6が訂正により削除され、上記3-2-3.の項で述べたように、本件発明1〜5は刊行物A(甲第1号証)に記載された発明ではなく、本件発明1〜5の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえないから、平成16年8月11日付け、及び平成17年3月23日付けで通知した取消理由は解消した。


4.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜5、7に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1〜5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
織編物用多孔型中空繊維及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリエステルからなり、繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4デニール以上5デニール未満の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする織編物用多孔型中空繊維。
【請求項2】中空率が下式を満足する請求項1記載の織編物用多孔型中空繊維。
中空率(%):5<(A/B×100)<70
式中、Aは中空部面積、Bは繊維断面積
【請求項3】ポリエステルが5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6モル%共重合したポリエステルである請求項1または2記載の織編物用多孔型中空繊維。
【請求項4】マルチフィラメントからなる請求項1〜3のいずれか1項記載の織編物用多孔型中空繊維。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1項記載の織編物用多孔型中空繊維を少なくとも一部に用いたことを特徴とする衣料。
【請求項6】海成分と島成分からなる海島複合繊維において、該海島複合繊維の島成分を熱水またはアルカリに可溶な軟化点が100℃以上の、主たる酸成分がテレフタル酸であって、10mol%を超えて15mol%以下の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5〜40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルとし、海成分をポリエステルとし、該島成分を構成するポリマのみを溶解または分解除去する繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4デニール以上5デニール未満の織編物用多孔型中空繊維の製造方法。
【請求項7】海成分が5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6mol%共重合したポリエステルであることを特徴とする請求項6記載の織編物用多孔型中空繊維の製造方法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする織編物用多孔型中空繊維に関するものである。さらに詳しくは繊維の長さ方向に沿って連続した複数の中空部を形成させることにより、スケ防止性に優れ軽量で、しかも繊維の高次加工においてつぶれることなく高い中空率を維持できる細繊度の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とした織編物用多孔型中空繊維および製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、繊維内部に空気層をもつ中空繊維は、保温性や軽量性に優れているため、この特性を活かして、インナーウェア、スポーツウェアをはじめ種々の用途に利用するために、各種の提案がなされている。
【0003】
例えば特開昭53-106848号公報では、単糸の半径方向に外周からの距離が一定の位置に3から10の中空部を有する多孔型中空繊維が開示されている。この多孔型中空繊維は、単糸に物理的あるいは熱的手段を加えることにより、中空部を繊維側面に連通し開口させ繊維表面に凹凸を付与することで、繊維にシャリ味と光沢を与えるものであって、複数に分割された空気層を積極的に利用するものではなく、多孔型中空繊維とは言いがたいものである。
【0004】
また、特開平3-269114号公報に開示された多孔型中空繊維は、溶融紡糸において、紡糸口金に設けられた連結した弧状のスリットからポリマを吐出し融着させることにより、繊維の長さ方向に沿って連続した複数の空隙をもつ多孔型中空の充填材料用ポリエステル繊維である。しかしながら、溶融紡糸で弧状のスリットを持つ口金を用い、吐出ポリマの流動接合を利用して製造される多孔型中空繊維であるため、複数の中空部を付与するためには、繊維径を大きくすることが必要であり、充填材料用途など単糸繊度が5デニールを越える太い繊維のみにおいて可能であった。
【0005】
さらに、特開平4-24209号公報に開示された多孔型中空繊維は、溶融紡糸において、紡糸口金に設けられた矩形のスリット群からポリマを吐出し融着させることによって得られる、繊維の長さ方向に沿って連続した複数の空隙をもつ異形断面多孔中空繊維である。しかしながら、溶融紡糸で矩形のスリットを持つ口金を用い、吐出ポリマの流動接合を利用して製造される多孔型中空繊維であるため、断面形状が異形で、中空部の数にも限界のあるものであって、衣料用途に適した細繊度の多孔型中空繊維を得ることは困難であり、繊維のしなやかさを必要とするインナーウェア、スポーツウェアなど衣料用途に展開出来ない物であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消し、衣料用途に適した、軽量でスケ防止性に優れ、しかも繊維の高次加工においてつぶれることなく高い中空率を維持できる細繊度の、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とした織編物用多孔型中空繊維を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、従来、保温性や軽量性の向上のために利用されていた中空部を多孔に細分化することにより、繊維に、スケ防止性を与えられることを見出だし本発明に到達した。
【0008】
すなわち、上記した本発明の目的は、ポリエステルからなり、繊維の長さ方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個有し、かつ単糸繊度が0.4以上5デニール未満である、繊維の断面形状が円形または楕円であることを特徴とする織編物用多孔型中空繊維とその製造方法によって達成できる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
まず、本発明は、ポリエステルからなる多孔型中空繊維である。ポリエステルとは、主鎖にエステル結合を持つポリマーである。一般にはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられ、その中でポリエチレンテレフタレートが最も有用である。これらポリエステルの中で通常、衣料用として用いられる好適なポリエステル系ポリマとしては5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6mol%共重合したポリエステルを用いることが容易に中空部の形成が可能であるので好ましい。むろん、これらのポリエステルは単一ポリマのみならず2成分以上の混合物としたものでもよく、公知の共重合物、粒子を含むものであってもよい。
【0011】
次に、本発明における織編物用多孔型中空繊維は、繊維方向に沿って連続した孔径0.14μ以上の中空部を11〜100個とすることが必要である。中空部の孔径が0.14μ未満では透過光を屈折させる境界面として小さく、スケ防止性の劣るものとなる。好ましくは孔径0.16μ以上の中空部がよい。
【0012】
ここでいう中空繊維の中空部の孔径とは、繊維軸方向に対して直角に切断して得られる繊維断面の中から任意に選び出した単糸の中空部の直径または、最大幅をいう。
【0013】
中空繊維において、その中空部が例えば1つの場合、いかに高中空率の繊維であっても、延伸、捲縮付与などの加工工程や織編み立て工程など繊維に加えられる外力によって、中空部の潰れが生じ、中空率の低下は避けられなかった。これに対して、本発明の織編物用多孔型中空繊維は11〜100個と、数多くの中空部を形成させることによって、繊維に外力が加えられた際に、ごく一部の中空部が潰れることで外力が吸収され、大部分の中空部が潰れることなく高中空率に維持できるばかりか、その繊維のスケ防止性を著しく向上させることができる。すなわち、繊維にスケ防止性を持たせるためには、繊維内部に光を屈折させる境界面部を広い分布で持たせ光を乱反射させることが重要である。中空部の数が単糸あたり11個未満では、繊維内部の境界面部の分布が小さく、スケ防止性の劣るものとなる。むろん、単糸あたりの中空部の数が増える程、繊維内部の光を屈折させる境界面部の分布は広くなりスケ防止性は向上するが、中空部の数があまり多くなると中空部の間隔が接近しすぎるため、外力によって繊維の変形が生じ易い傾向にある。かかる観点から中空繊維における中空部の数は、100個以下である必要があり、好ましくは16〜80個より好ましくは18〜76個の多孔型とすることがよい。
【0014】
また、本発明の織編物用多孔型中空繊維は、それを構成する単糸の繊度が0.4デニール以上5デニール未満とすることが好ましい。この単糸の繊度が0.4デニール未満では得られる中空繊維の強度が低くなりすぎ布帛類としては不向きである。一方、単糸の繊度が5デニール以上になると得られる中空繊維の強度は大きくなるが、得られる布帛類に粗硬感が生じ、いずれの場合も衣料用途として不適当なものしか得られない。かかる観点から本発明繊維の単糸の繊度は0.5デニール以上4デニール以下とすることがより好ましい。
【0015】
本発明における織編物用多孔型中空繊維は、以下の定義による中空率を5〜70%の範囲とすることが好ましい。この中空率が5%未満ではスケ防止性、軽量性や保温性に劣る傾向がある。一方、中空率が70%を越えるようになると繊維の軽量性や保温性の点では優れている反面、中空部を包む繊維部分が薄くなるため、外力によって、繊維に変形が容易に発生じ易くなる。かかる観点から本発明繊維の中空率は5〜60%とすることがより好ましい。
【0016】
ここでいう中空繊維の中空率とは、次のように定義される。
A:繊維軸方向に対して直角に切断して得られた繊維断面の中から任意に選び出した単糸の中空部の全面積
B:繊維軸方向に対して直角に切断して得られた繊維断面の中から任意に選び出した単糸の中空部を含んだ全面積から下式によって算出して得られる値である。
【0017】
中空率=A/B×100 (%)
ただし、A:中空部面積、B:繊維断面積
なお、中空繊維の断面形状のみならず、上記中空部の形状についても特に限定されず、必要に応じて楕円や三角形などの任意の形状を選択できる。ただ、繊維の断面形状は高次工程の通過性を考慮すると円形断面とするのが好ましい。
【0018】
本発明の多孔型中空繊維は織編物用である。織編物としては長繊維あるいは短繊維からなるものである。例えば長繊維としては、マルチフィラメントあるいはモノフィラメントなどが挙げられるものの、マルチフィラメントが工程安定性に優れることから好ましい。マルチフィラメントの場合、特に制限されるものではないものの、フィラメント数は2〜5000本が好ましく、より好ましくは4〜1000本である。また短繊維としては、通常の長さ数cm〜数十cm程度の長さの繊維であり、捲縮が付与されて、例えば紡績することなどによって利用される。
【0019】
本発明における織編物用多孔型中空繊維は、保温性や軽量性、スケ防止性に優れているため、この特性を生かして、例えばインナーウェア、スポーツウェアをはじめとする種々の衣料用途に好適である。
【0020】
次に本発明の織編物用多孔型中空繊維の製造方法について述べる。
【0021】
すなわち、本発明の多孔型中空繊維は、ポリエステルを海成分とし熱水またはアルカリに可溶な、主たる酸成分がテレフタル酸であって、10mol%を超えて15mol%以下の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5〜40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルを島成分とする海島複合繊維を得た後、実質的に島成分を構成するポリマのみを溶解または分解除去することよって例えば図1〜5に示すような多孔型中空繊維が得られる。
【0022】
なおここで、島数や島の太さを選択すれば、任意の中空部の数、中空率をもつ細繊度の多孔型中空繊維となる。
【0023】
本発明の織編物用多孔型中空繊維の島成分は、主たる酸成分がテレフタル酸であって、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステルを用いる。
【0024】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、他の酸成分や他のジオール成分などが含まれていてもよい。
【0025】
共重合成分の5-ナトリウムスルホイソフタル酸は10mol%を超えて15mol%以下である。好ましくは10mol%を超えて12.5mol%以下とすることが良い。10mol%以下では熱水またはアルカリによりポリマを十分に溶解または分解除去させることが困難である。また、15mol%を越えると熱水可溶であっても冷水で一部溶出されるようになるので、製造ポリマの乾燥や溶融紡糸における取扱いなどが難しくなり、工業生産には適さなくなる。
【0026】
さらに、上記した5-ナトリウムスルホイソフタル酸と共に、イソフタル酸を5〜40mol%共重合させることが必要である。5mol%未満では熱水またはアルカリによりポリマを十分に溶解または分解除去させることが困難である。また、40mol%を越えると製造ポリマの軟化点が100℃以下となり溶融紡糸前の乾燥が十分に行えなくなったり、高温時の溶融粘度が高いものが得られなくなるなど、実用上の弊害がでてくる。
【0027】
次に本発明の織編物用多孔型中空繊維の海成分について述べる。海成分に用いるポリマは、ポリエステルである。これらポリエステル系ポリマとしては5-ナトリウムスルホイソフタル酸を0.5〜6mol%共重合したポリエステルを用いることが好適である。むろん、これらのポリエステルは単一ポリマのみならず2成分以上の混合物としたものでもよく、公知の共重合物、粒子を含むものであってもよい。
【0028】
海成分に5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエステル用いた場合は、島成分の溶解または分解除去において、アルカリ水溶液を用いた場合、表1に示したとおり生産可能な時間での多孔中空化が可能であるため工業的に好ましい。すなわち、本発明の多孔型中空繊維の海成分に5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエステル用いた場合は共重合物のないポリエステルに比べ、島成分の被覆層である海成分側の繊維構造がルーズとなるため、島成分の溶解または分解除去において、短時間での多孔中空化が可能となるのである。この5-ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量が6mol%より多くなると島成分の溶解または分解除去において、多孔中空化の時間は短縮されるが、海成分も一部溶解されるため好ましくない。かかる観点から本発明繊維に用いるポリエステル系ポリマとしては5-ナトリウムスルホイソフタル酸を1〜6mol%共重合したポリエステルがより好ましい。
【0029】
【表1】

【0030】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
比較例1
熱可塑性ポリマとしてナイロン6を海成分とし、島成分を12mol%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および25mol%のイソフタル酸、そして酸化チタン0.05重量%を含んだ共重合ポリエステルとし、各成分のポリマを270℃で溶融した後、おのおの個別の280℃に保温されたギアポンプで計量し、1フィラメントあたりの島数を8とした24ホールの海島型複合紡糸口金を用い、複合紡糸した。海成分のポリマは22.40g/分で、島成分のポリマは5.25g/分の吐出量で送り紡糸し、冷却固化後、給油して1200m/分で巻き取った。得られた未延伸糸を90℃の熱ロールおよび130℃の熱板を通過させて延伸し、70デニール24フィラメントの延伸糸を得た。単糸繊度は2.9デニールである。この海島複合繊維を用いて筒編み地を得た後、カセイソーダ(固形)1g/l水溶液で130℃で60分間処理し、1フィラメントあたり独立した中空部を8個持つ、表2に記載した水準5の多孔型中空繊維を得た。この水準5の多孔型中空繊維は、スケ防止性、保温性、軽量性が不十分で、本発明の目的を達成するものではなかった。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例1
海成分を表3に示した、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートとして、島成分を12mol%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および25mol%のイソフタル酸、そして酸化チタン0.05重量%を含んだ共重合ポリエステルとし、1フィラメントあたりの島数を36とした24ホールの海島型複合紡糸口金を用い、海成分のポリマの溶融温度を280℃として、島成分のポリマを270℃で溶融し、おのおの個別の280℃に保温されたギアポンプで海成分のポリマは22.40g/分で、島成分のポリマは5.25g/分の吐出量でそれぞれ計量し海島型複合口金に送り複合紡糸し、冷却固化後、給油して1200m/分で巻き取った。得られた未延伸糸を90℃の熱ロールおよび130℃の熱板を通過させて延伸し、70デニール24フィラメントの延伸糸を得た。単糸繊度は2.9デニールである。この海島複合繊維を用いて筒編み地を得た後、カセイソーダ(固形)1g/l水溶液で130℃で60分間処理し、1フィラメントあたり独立した中空部を36個持つ、水準1〜4の多孔型中空繊維を得た。表3に記載したこの水準1〜4の多孔型中空繊維は、スケ防止性、保温性、軽量性に優れ、しかも織り編み立て後も高い中空率を維持できるものであった。
【0033】
【表3】
【実施例1】

【0034】
【発明の効果】
本発明の多孔型中空繊維とその製造方法について、その効果をまとめると次のとおりである。
(1)複数の中空部を持つことにより、延伸、捲縮付与などの加工工程や織編み立て工程でもクッションとして一部の中空部が潰れることで外力が吸収され、全ての中空部が潰れることなく高中空率を保つことができる。
(2)また、複数の中空部を持つことにより、繊維内部を通過する光を屈折し散乱させることによりスケ防止性が高い。
(3)さらに、空気層を細分化することで保温性が高く、軽量性に優れ、インナー用途や衣料用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多孔型中空繊維の横断面図の一例である。
【図2】本発明の多孔型中空繊維の横断面図の一例である。
【図3】本発明の多孔型中空繊維の横断面図の一例である。
【図4】本発明の多孔型中空繊維の横断面図の一例である。
【図5】本発明の多孔型中空繊維の横断面図の一例である。
【符号の説明】
A:熱可塑性ポリマ
B:中空部
【図面】





 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-08 
出願番号 特願平7-33354
審決分類 P 1 652・ 113- YA (D01D)
P 1 652・ 121- YA (D01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 鴨野 研一
芦原 ゆりか
登録日 2003-01-17 
登録番号 特許第3389722号(P3389722)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 織編物用多孔型中空繊維及びその製造方法  
代理人 辻 良子  
代理人 辻 邦夫  

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