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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B05D
管理番号 1127331
異議申立番号 異議2003-70408  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2006-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-12 
確定日 2005-09-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3314198号「塗装方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3314198号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3314198号の請求項1ないし6に係る発明についての出願は、平成 7年 6月 1日(優先権主張:平成 6年 6月 3日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成14年 6月 7日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、日本油脂BASFコーティングス株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、審尋(特許権者及び申立人)がされ、回答書(特許権者及び申立人)が提出され、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月21日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
a.特許査定時の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項5を削除する。
b.本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項6を削除する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a.及びb.は、訂正前の請求項5及び6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記の平成16年12月21日付け訂正請求に係る訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成 6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記2.に記載のとおり、上記訂正が認められることから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に、「本件発明1」、「本件発明2」等という。)は、上記訂正請求に係る訂正請求に添付された訂正明細書(以下、単に「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】 アミン中和型水性中塗塗料及びアミン中和型水性上塗塗料を順次塗装するに当たり、アミン中和型水性中塗塗料として(A)水酸基価が30〜150KOHmg/gであり且つ酸価が15〜50KOHmg/gであるアミン中和基体樹脂、(B)アミノ樹脂並びに(C)有機スルホン酸アミン塩を主成分として含有する塗料組成物を使用することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】 (A)成分のアミン中和基体樹脂が水酸基価60〜120KOHmg/g、酸価20〜40KOHmg/gのポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂又はアルキド樹脂をアミンで部分中和もしくは完全中和したものである請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】 (B)成分のアミノ樹脂がメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂又はこれらのメチロール化物である請求項1に記載の塗装方法。
【請求項4】 (C)成分の有機スルホン酸アミン塩がドデシルベンゼンスルホン酸のジメチルエタノールアミン塩である請求項1に記載の塗装方法。

4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立て理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証(特開平5-86324号公報)、甲第2号証(「Paint & Resin」 March/April,1982,第26〜28頁)、甲第3号証(特開平5-263035号公報)、甲第4号証(特開平5-138115号公報)、甲第5号証(「コーティングレジン」、三井東圧化学株式会社、1991年、第26頁)及び甲第6号証(特開平5-285444号公報)を提出し、本件特許の訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の訂正前の請求項1ないし6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。

4-2.甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開平5-86324号公報)
(1-a)「(A)水溶性ポリエステル樹脂及び(B)アミノプラスト樹脂を主成分とする熱硬化性水系塗料組成物において、補助架橋剤として(C)水溶性エチレン尿素系樹脂を、該(A)成分100重量部に対し3〜30重量部の割合で含有させたことを特徴とする水系塗料組成物。」(特許請求の範囲、請求項1)
(1-b)「(A)成分の水溶性ポリエステル樹脂が、一般式
【化1】(略)
で表される酸無水物から形成される単位5〜50重量%を含有する、酸価25〜100KOHmg/g、水酸基価50〜200KOHmg/g及び数平均分子量500〜5,000の水溶性ポリエステル樹脂である請求項1記載の水系塗料組成物。」(特許請求の範囲、請求項2)
(1-c)「(B)成分のアミノプラスト樹脂がメトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル及びブトキシメチルの中から選ばれた少なくとも1種のアルコキシメチル基で変性されたアルコキシメチルメラミン樹脂である請求項1又は2記載の水系塗料組成物。」(特許請求の範囲、請求項3)
(1-d)「本発明は新規な水系塗料組成物、さらに詳しくは、良好な外観品質と優れた耐チッピング性を有する硬化塗膜を与える水溶性ポリエステル樹脂とアミノプラスト樹脂と水溶性エチレン尿素系樹脂とを含有する水系塗料組成物に関するものである。」(段落【0001】)
(1-e)「このようにして得られた水溶性ポリエステル樹脂は通常塩基性物質で中和される。この際、塩基性物質は、水溶性ポリエステル樹脂に含まれているカルボキシ基の40〜100モル%を中和するのに必要な量を用いるのが好ましく、」(段落【0013】抜粋)
(1-f)「本発明の水系塗料組成物の調製方法については特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、まず水性媒体中において、(A)成分の水溶性ポリエステル樹脂を所要量の塩基性物質を用いて中和したのち、これに所要量の(B)成分のアミノプラスト樹脂を加えて均質に混合し、水系樹脂溶液を調製し、次いで、これに所要量の(C)成分である水溶性エチレン尿素系樹脂を加え、均質に混合し、さらに必要に応じ、硬化促進剤、他の硬化剤、他の水溶性樹脂、塗面調整剤などを加え、公知の手段を用い、均質に混合することにより、所望の水系塗料組成物が得られる。」(段落【0018】抜粋)
(1-g)「実施例1〜6 製造例1で得られた水溶性ポリエステル樹脂A-1、製造例2で得られた水溶性ポリエステル樹脂A-2の温度を60℃まで下げ、ホモディスパーで撹拌しながら、樹脂中のカルボキシル基0.75モル当量に相当するジメチルエタノールアミンを加えて均一に中和したのち、これにヘキサメトキシメチルメラミン樹脂・・・(略)・・・及びブチルセロソルブを加え混合した。同温度を維持しながら、脱イオン水を徐々に加え、強い青味を呈した加熱残分40重量%の水系樹脂溶液[1]及び[2]を得た。これらの水系樹脂溶液の配合組成を第1表に示す。」(段落【0022】)
(1-h)「次いで、前記水系樹脂溶液[1]及び[2]それぞれ30重量部、酸化チタン60重量部、脱イオン水10重量部をサンドミルで1時間混合分散し、白色ペースト[1]及び[2]を調製した。この白色ペーストそれぞれに、前記の水系樹脂溶液[1]又は[2]、N,N’-ジメチロールエチレン尿素樹脂「SUMITEX RESIN901」又はN-モノエタノールエチレン尿素樹脂「RD65-2」、硬化触媒としてのキャタリスト6000[三井東圧化学(株)製、商品名]及び水性塗料用添加剤「アジトールXV329」(ヘキスト社製、商品名)を第3表に示す割合で加え、均一になるまでよく撹拌し、白色の水系塗料を調製した。」(段落【0024】)
(1-i)「試験例1 リン酸亜鉛処理を施した厚さ0.8mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料[アクアNo.4200、日本油脂(株)製、商品名]を乾燥膜厚20μmとなるように電着塗装し、175℃で25分間焼付けしたのち、実施例1〜6及び比較例1〜5で調製した白色水系塗料を脱イオン水で希釈してフォードカップ#4による秒数を20℃で30秒に粘度調整した希釈塗料を、温度25℃、湿度75%の条件でエアロベル(デビルビス社製、商品名)にて乾燥塗膜厚が35μmになるように塗装して、25℃で10分間セッティングし、160℃で30分間焼付けた。この塗膜の上に上塗り塗料[メラミNo.2000、日本油脂(株)製、商品名]を同様にエアロベルを用いて乾燥塗膜厚が35μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼付けした。なお、水性塗料も、上塗り塗料も、水平部は水平塗装/水平セット/水平焼付け、垂直部は垂直塗装/垂直セット/垂直焼付けにて行った。」(段落【0030】抜粋)
(1-j)「【発明の効果】本発明の水系塗料組成物は、・・・(略)・・・このため、硬化塗膜は上塗り塗料中の溶剤により侵されることがなく、良好な外観品質、光沢、硬度、付着性、耐湿性を有する上、耐チッピング性に優れている。本発明の水系塗料組成物は、例えば自動車用中塗り塗料などとして好適に用いられる。」(段落【0034】)
(2)甲第2号証(「Paint & Resin」,March/April,1982,第26〜28頁)(なお、翻訳文が添付されていないが、申立ての理由に該当箇所の翻訳文に該当する記載がされているので、記載事項は申立人の該当箇所の記載を引用した。)
(2-a)「ハイソリッド及び水系塗料に対する酸触媒」(標題)
(2-b)「水系塗料においては、触媒は添加前にアミンで中和されるべきである。中性または弱塩基性の水系ディスパージョンに対して、強い酸を加えるとポリマーの沈殿が生じることになる。」(第27頁「触媒添加」の欄、左上欄第14〜19行)
(2-c)表III HSポリエステル/HMM塗膜における各種スルホン酸触媒の影響の比較において、「DDBSA=ドデシルベンゼンスルホン酸」と記載されている。(第27頁、右上表脚注中)
(2-d)「アミンでブロックされた触媒を用いる場合、seedingが特にやっかいな問題となる。(略)Nacure5225、ブロックされたDDBSA、が溶剤が少ないブレンドのための最適な選択である」(第28頁、中上欄7〜13行)
(3)甲第3号証(特開平5-263035号公報)
(3-a)「【請求項1】被塗面に顔料を含有する熱硬化性塗料を塗装した後、この上にクリヤー塗料を塗り重ねて得られる2層の未硬化塗膜を同時に加熱硬化せしめる2コート1ベーク塗装仕上げに用いるトップクリヤー塗料であって、
(A)一般式(I)(略)で表わされる化合物であるアルコキシシラン基含有ビニル単量体を5〜40重量%、水酸基含有ビニル単量体を5〜50重量%及びその他の共重合可能なビニル単量体を10〜90重量%含有するモノマー成分を重合して得られるアクリル系共重合体、
(B)(略)低分子量ポリオール、
(C)(略)非水ディスパージョン型アクリル樹脂、並びに
(D)アミノ樹脂
を主成分とし、(略)であることを特徴とする2コート1ベーク塗装仕上げ用トップクリヤー塗料組成物。」(特許請求の範囲、請求項1)
(3-b)「この硬化触媒について、特に興味深いことであるが、(D)のアミノ樹脂で、ヘキサメトキシメチルメラミンやそのメトキシ基の1部又は全部をC4以上のアルコールで置換したエーテル化メラミン樹脂を用いる場合、水酸基との硬化触媒にパラトルエンスルフォン酸、ドデシルベンゼンスルフォン酸等の様な強酸触媒を用いるのが一般的であり、かつ、その強酸触媒は、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール等のアミン化合物で中和(ブロック)することにより、1液型塗料としての貯蔵安定性を付与させて用いられるが、この中和(ブロック)強酸触媒が、アルコキシシラン基の硬化触媒にもなる。つまり、中和(ブロック)強酸触媒が100℃以上の焼付温度においては樹脂の反応とアルコキシシランの反応の共通触媒になる。」(段落【0080】)
(4)甲第4号証(特開平5-138115号公報)
(4-a)「【請求項1】被塗装面に顔料を含有する熱硬化性ベースコート塗料を塗装したのち、焼付けることなく着色クリヤーコート塗料を塗装焼付硬化させ、次いでさらにクリヤートップコート塗料を塗装焼付硬化させて塗膜を形成させるに当たり、前記着色クリヤーコート塗料が、
(A)水酸基末端カプロラクトン鎖5〜45重量%を含有し、かつ水酸基価が50〜180mgKOH/gであるアクリル系重合体60〜90重量%と(B)完全アルキル化メラミン樹脂40〜10重量%との混合物から成る樹脂成分と、該樹脂成分100重量部当たり、(C)芳香族スルホン酸類0.1〜5重量部及び(D)着色顔料0.1〜10重量部とを含有するものであることを特徴とする三層系着色塗膜の形成方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(4-b)「一方、(C)成分として用いられる芳香族スルホン酸類は芳香環にスルホン酸基が直接結合したものであって、このようなものとしては、例えばp-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などが挙げられる。これらの芳香族スルホン酸類は遊離の形で用いてもよいし、アミン類でブロック化して用いてもよい。・・・この(C)成分の芳香族スルホン酸類は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」(段落【0012】)
(5)甲第5号証(「コーティングレジン」,三井東圧化学株式会社、1991年,第26頁
該甲第5号証(第26頁)には、「塗料用各種添加剤及び硬化促進剤」との標題が記載されており、そして、「キャタリスト(硬化促進剤)」として、「メラミン系塗料用樹脂の硬化促進剤です。」との説明とともに、銘柄の欄に「6000」、酸価の欄に「70〜80」、特徴の欄に「相溶性、安定性、塗膜性能等良好、バランスのとれた触媒」である旨が、また、銘柄の欄に「6003B」、特徴の欄に「6000の酸をアミンでブロックしたタイプ 120℃で解離、貯蔵安定性良好」である旨が、記載されている。
(6)甲第6号証(特開平5-285444号公報)の記載事項
(6-a)「【請求項1】被塗物表面にカチオン電着塗料を第一層として電着塗装し、その上に少なくとも一層の以後の水性塗料層をウエット・オン・ウエット方式によって塗装し、形成した複合塗膜を同時に焼付硬化させることよりなる複合塗膜形成方法において、前記少なくとも一層の以後の水性塗料の塗装前第一層の前電着塗装層を遠赤外線ヒーターによって予備加熱することを特徴とする複合塗膜形成方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
(6-b)「本発明において使用する中塗り塗料および/または上塗り塗料、および場合により使用するチッピングシーラーはすべて水性でなければならない。」(段落【0011】抜粋)
(6-c)「中塗り塗料の製造: 水性アルキド樹脂ワニス(酸価60,水酸価60,樹脂固形分35%,分子量1,500,油長20,水含有量56%,ジメチルエタノールアミンで中和率70%に中和,pH=7.0)48部、ルチル型二酸化チタン36部、沈降性硫酸バリウム15部を混合攪拌し、5μ以下に分散して顔料ペーストを調製した。」(段落【0015】)
(6-d)「別に、大日本インキ社製ポリエステル樹脂(ファインディックBP442)12.0部、東都化成社製エポキシ樹脂(エポトートNT114)10.4部、沈降性硫酸バリウム11.2部を溶融混合し、冷却して粒度100μ以下に粉砕して樹脂微粉末を調製した。この樹脂微粉末13部、前出の水性アルキド樹脂ワニス16部を仕込み、10分間攪拌後70℃に加熱してさらに10分間攪拌し、攪拌下室温まで冷却して粒度10μ以下のパウダーペーストを調製した。」(段落【0016】
(6-e)「前出の水性アルキド樹脂ワニス50部、顔料ペースト99部、パウダーペースト29部、メラミン樹脂(三井サイアナミド社製サイメル325)12部を混合し、水性中塗り塗料を調製した。」(段落【0017】)
(6-f)「上塗り塗料の製造: 日本エステル社製ポリエステル樹脂(ESTER RESIN ER-6610)60部、ヒュールス社製ブロックイソシアネート硬化剤(ADDUCT B 1530)10部、二酸化チタン(石原産業製CR-80)30部を溶融混合し、冷却粉砕して100μ以下とし、樹脂微粉末を製造した。この微粉末と先の水性アルキド樹脂ワニスとより同様にしてパウダーペーストを調製した。」(段落【0018】)
(6-g)「先に調製した顔料ペースト99部、上のパウダーペースト29部、水性アルキド樹脂ワニス50部、メラミン樹脂(三井サイアナミド社製サイメル303)10部、芳香族スルホン酸系硬化触媒(KING社製NACURE X49-110)3部を混一に混合して水性上塗り塗料を調製した。」(段落【0019】)

5.取消理由について
当審が通知した取消理由の概要は、本件特許の特許請求の範囲の請求項5及び6の記載が不備であるため、本件特許は、特許法第36条第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものである。

6.当審の判断
6-1.取消理由についての判断
上記2.に記載のとおり、上記訂正が認められ(訂正前の)請求項5及び6が削除されたので、該請求項5及び6に関する取消理由は既に解消した。

6-2.特許異議申立て理由についての判断
(1)本件発明1について
(1-1)甲第1号証に記載の発明について
甲第1号証には、上記摘示記載(1-a)及び(1-b)のとおり、(A)成分として、「酸価25〜100KOHmg/g、水酸基価50〜200KOHmg/gの水溶性ポリエステル樹脂を含有する水系塗料組成物」が記載されている。そして、上記摘示記載(1-e)ないし(1-g)のとおり、該水溶性ポリエステル樹脂は塩基性物質、具体的には、ジメチルエタノールアミンで中和して用いられることも記載されている。
また、上記水系塗料組成物は、上記摘示記載(1-a)及び(1-b)のとおり、上記(A)成分に加えて、(B)成分として、アルコキシメチルメラミン樹脂等のアミノプラスト樹脂を含有することが記載されている。
次に、上記水系塗料組成物は、上記摘示記載(1-a)のとおり、上記(A)成分及び(B)成分に加えて、更に、補助架橋剤を含有すること、具体的には、摘示記載(1-f)のとおり、「N,N’-ジメチロールエチレン尿素樹脂」又は「N-モノエタノールエチレン尿素樹脂」を加えることが記載されている。
そして、上記摘示記載(1-f)のとおり、必要に応じ、硬化促進剤、他の硬化剤を配合してもよいことが記載されており、上記摘示記載(1-h)のとおり具体的には、)硬化触媒としてのキャタリスト6000[三井東圧化学(株)製、商品名](但し、前記「キャタリスト6000[三井東圧化学(株)製、商品名]」の化学構造等については具体的に記載されていない。)を用いることが記載されている。
更に、上記摘示記載(1-i)及び(1-j)のとおり、上記水系塗料組成物を塗装・焼付けして得た塗膜上に、「上塗り塗料[メラミNo.2000、日本油脂(株)製、商品名]」を塗装することが記載されている。
以上のことから、甲第1号証には、「酸価25〜100KOHmg/g、水酸基価50〜200KOHmg/gの、ジメチルエタノールアミン等の塩基性物質で中和した水溶性ポリエステル樹脂、アルコキシメチルメラミン樹脂等のアミノプラスト樹脂、さらに加えて、N,N’-ジメチロールエチレン尿素樹脂又はN-モノエタノールエチレン尿素樹脂の補助架橋剤、硬化触媒としてのキャタリスト6000を含有する水系塗料組成物を塗装・焼付けして得た塗膜上に、上塗り塗料[メラミNo.2000、日本油脂(株)製、商品名]を塗装する塗装方法の発明が記載されているものと認められる。
(1-2)対比・判断
(i)先ず、甲第1号証に記載の上記「酸価25〜100KOHmg/g、水酸基価50〜200KOHmg/gである水溶性ポリエステル樹脂をジメチルエタノールアミンにより中和したものについて、その中和物の酸価及び水酸基価は、ジメチルエタノールアミンが弱塩基であることから、中和前の水溶性ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価と同じであると認められる。
この点に関連して、特許権者は、当審の審尋に対して、平成16年11月 5日付けで提出した回答書において、「本願で用いる中塗塗料の(A)成分は、本件特許公報第2頁第3欄31〜32行に記載されている通り、「水酸基価が30〜150mgKOH/gであり且つ酸価が15〜50mgKOH/gである基体樹脂をアミンで中和した樹脂」であります。上記アミン中和は、基体樹脂のカルボキシル基をイオン化して、該樹脂を水性化するための工程であり、基体樹脂の水酸基価及び酸価自体は、アミン中和の前後で変化せず、基体樹脂自体もそのアミン中和物も、いずれも同じ値であります」と認めている。
補助架橋剤である「N,N’-ジメチロールエチレン尿素樹脂」又は「N-モノエタノールエチレン尿素樹脂」は、前者の水溶性エチレン尿素系樹脂と解され、また、硬化触媒としてのキャタリスト6000[三井東圧化学(株)製、商品名]を用いることが記載されているが、キャタリスト6000の具体的な化学構造等については明らかにされておらず、前者に係る前記(C)有機スルホン酸アミン塩に相当するものかは不明である。また、後者において、水系塗料組成物(即ち、中塗塗料である)と「上塗り塗料」とは区別されて記載されており、且つ、「硬化塗膜は上塗り塗料中の溶剤により侵されることがなく」と明記されている。
そこで、上記認定に基づいて、本件発明1(前者)と甲第1号証に記載の発明(後者)とを対比するに、
両者は、アミン中和型水性中塗塗料及び上塗塗料を順次塗装するに当たり、アミン中和型水性中塗塗料として、(A)水酸基価50〜150KOHmg/g、及び酸価25〜50KOHmg/gであり、ジメチルエタノールアミンによって中和されている水溶性ポリエステル樹脂であるアミン中和基体樹脂、及び(B)アルコキシメチルメラミン樹脂等のアミノプラスト樹脂であるアミノ樹脂を含有する塗料組成物を使用する塗装方法である点において一致し、以下の点で相違している。
相違点a:上塗り塗料として、前者が、アミン中和型水性上塗塗料を用いるのに対して、後者が、アミン中和型の水性塗料ではない点
相違点b:塗料組成物として、前者が(C)有機スルホン酸アミン塩を含有するものであるのに対して、後者が、補助架橋剤として水溶性エチレン尿素系樹脂を含有するものであって、その化学構造において異なり、さらに硬化促進剤、他の硬化剤を配合していてもよく、硬化触媒としてキャタリスト6000[三井東圧化学(株)製、商品名]」を用いるものである点
(ii)以下、上記各相違点について検討する。

甲第2号証には、上記摘示記載(2-a)ないし(2-d)のとおり、水系塗料に用いる酸触媒についての概説的説明とみられる記載があり、アミンでブロックされた触媒、「ブロックされたDDBSA」(ドデシルベンゼンスルホン酸)等が断片的に記載されているが、特定の水系塗料と酸触媒との組み合わせ、その作用・効果等について、具体的には、特段の記載はない。
甲第3号証には、上記摘示記載(3-a)及び(3-b)のとおり、2コート1ベーク塗装仕上げに用いるトップクリヤー塗料について記載され、前記トップクリヤー塗料として、アルコキシシラン基含有ビニル単量体のアクリル系共重合体、アミノ樹脂等を含有するものを用いること、また、例えば、アミン化合物で中和(ブロック)した強酸を塗料用硬化触媒として用いることが記載されているが、アルコキシシラン基含有ビニル単量体の共重合体の架橋・硬化反応は、アルコキシシラン基に基づくと解されるから、前記トップクリヤー塗料は、中塗塗料でも、水性塗料でもなく、本件発明1に係るアミン中和型水性中塗塗料とは、全く異質なものである。。
甲第4号証には、上記摘示記載(4-a)ないし(4-b)のとおり、「三層系着色塗膜の形成方法」について記載され、水酸基価が50〜180mgKOH/gであるアクリル系重合体、完全アルキル化メラミン樹脂及び芳香族スルホン酸類、例えば、p-トルエンスルホン酸等をアミン類でブロック化したもの、を含有する着色クリヤーコート塗料を用いることが記載されているが、前記「着色クリヤーコート塗料」は、水性塗料ではない。
甲第5号証には、メラミン系塗料用樹脂の硬化促進剤として、甲第1号証に記載の上記「キャタリスト6000[三井東圧化学(株)製、商品名]」が酸価70〜80の触媒である旨が記載されていると解され、また、前記触媒の他に、別途、製品として「6003B」(商品名)が上市されており、これは6000の酸をアミンでブロックしたタイプである旨記載されていると認められるが、前記商品名が「キャタリスト6000」等と標記されているものが、いかなる化合物名又は化学構造を有するものかについては何ら記載されていない。
甲第6号証には、上記摘示記載(6-a)ないし(6-g)のとおり、「水性アルキド樹脂ワニス(酸価60,水酸価60,樹脂固形分35%,分子量1,500,油長20,水含有量56%,ジメチルエタノールアミンで中和率70%に中和,pH=7.0)」及びメラミン樹脂を含む水性中塗り塗料と、前記水性アルキド樹脂ワニス及びメラミン樹脂を含む水性上塗り塗料とを、ウエット・オン・ウエット方式で順次塗装する方法が記載されていると認められるが、前記水性中塗り塗料に、本件発明1に係る上記(C)有機スルホン酸アミン塩を配合する点については、何ら記載もされておらず、示唆もない。
ここで、上記相違点aについて検討するに、上記相違点aに係る本件発明1の構成要件に、即ち、アミン中和型水性中塗塗料及びアミン中和型水性上塗塗料を順次塗装すること自体については、甲第6号証の記載事項により示唆されるといえなくはない。
次に、上記相違点bについて検討するに、後者に記載の発明は、あくまでも補助架橋剤として(C)の水溶性エチレン尿素系樹脂を含有する水系塗料組成物を用いるものであって、前記補助架橋剤に加えて、さらに必要に応じ、硬化促進剤、他の硬化剤を配合してもよいものである。即ち、甲第1号証に係る前記水系塗料組成物の架橋剤系ないし硬化剤系は、前記(C)水溶性エチレン尿素系樹脂を必須成分として含むものである。更に、前記硬化剤等として、有機スルホン酸アミン塩を用いることは、後者に記載がない。
一方、本件発明1は、上記のとおり、(C)成分として有機スルホン酸アミン塩を含有する塗料組成物を用いるものであって、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載内容を参酌しても、前記塗料組成物が後者の水溶性エチレン尿素系樹脂を更に含有する態様を包含するものではないものと認められる。
そして、甲第3号証及び甲第4号証は、水性塗料について記載するものではないから、当該甲各号証の塗料は、本件発明1で用いるアミン中和型水性中塗塗料とは基本的に相違するものである。
次に、甲第2号証ないし甲第5号証の記載事項を総合して検討しても、甲第1号証に記載の水系塗料組成物から必須成分である補助架橋剤として(C)水溶性エチレン尿素系樹脂を排除し、且つ、該水溶性エチレン尿素系樹脂に代えて有機スルホン酸アミン塩を配合して、本件発明1に係る上記塗料組成物の構成となすことは、記載も示唆もされていないとともに、そのようにすることは、架橋剤ないし硬化剤の種別・系統を基本的に変更することであるから、甲第2号証ないし甲第5号証の記載事項から、当業者が容易に想到し得るとする合理的根拠又は積極的動機付けがあるとは到底いえない。
更に、本件発明1は、訂正明細書の実施例1〜3及び比較例1及び第2表の記載からみて、有機スルホン酸アミン塩、具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸のジメチルエタノールアミン塩の配合により、耐チッピング性のみならず、中塗塗膜と上塗塗膜との層間付着性が向上するとの優れた作用・効果を奏するものと認められる。そして、特に、前記層間付着性に係る作用・効果については、甲各号証には、何ら記載されておらず、示唆もない。
したがって、本件発明1が、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、何れも請求項1を引用する「塗装方法」に係るものである。
したがって、本件発明2ないし4についても、本件発明1について上記(1)に記載した理由と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第6号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願にたいしてされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塗装方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】アミン中和型水性中塗塗料及びアミン中和型水性上塗塗料を順次塗装するに当たり、アミン中和型水性中塗塗料として(A)水酸基価が30〜150KOHmg/gであり且つ酸価が15〜50KOHmg/gであるアミン中和基体樹脂、(B)アミノ樹脂並びに(C)有機スルホン酸アミン塩を主成分として含有する塗料組成物を使用することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】(A)成分のアミン中和基体樹脂が水酸基価60〜120KOHmg/g、酸価20〜40KOHmg/gのポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂又はアルキド樹脂をアミンで部分中和もしくは完全中和したものである請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】(B)成分のアミノ樹脂がメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂又はこれらのメチロール化物である請求項1に記載の塗装方法。
【請求項4】(C)成分の有機スルホン酸アミン塩がドデシルベンゼンスルホン酸のジメチルエタノールアミン塩である請求項1に記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、塗装方法に関し、水性塗料による複層塗膜の層間付着性及び耐チッピング性等を改善することを目的とする。
背景技術
自動車の外板部を、カチオン電着塗料、水性中塗塗料及び水性上塗塗料を順次塗装して仕上げる技術は既に知られている。そしてこの塗装系において、水性中塗塗料及び水性上塗塗料として(A)水酸基及びカルボキシル基を有するアミン中和基体樹脂及び(B)アミノ樹脂を主成分とする熱硬化性水性塗料が使用されている。しかしながら、上記水性塗料を使用して得られる塗膜の層間付着性及びチッピング性等が不充分であるという問題を有している。
発明の開示
本発明の1つの目的は、水性塗料による複層塗膜の層間付着性を改善し得る塗装方法を提供することにある。
本発明の他の1つの目的は、水性塗料による塗膜の耐チッピング性を改善し得る塗装方法を提供することにある。
本発明のその他の特徴は以下の記載により明らかにする。
本発明の塗装方法は、アミン中和型水性中塗塗料及びアミン中和型水性上塗塗料を順次塗装するに当たり、アミン中和型水性中塗塗料として(A)水酸基価が30〜150KOHmg/gであり且つ酸価が15〜50KOHmg/gであるアミン中和基体樹脂、(B)アミノ樹脂並びに(C)有機スルホン酸アミン塩を主成分として含有する塗料組成物を使用することを特徴とするものである。
本発明で用いられるアミン中和型水性中塗塗料は、(A)水酸基価が30〜150KOHmg/gであり且つ酸価が15〜50KOHmg/gである基体樹脂をアミンで中和した樹脂、(B)アミノ樹脂並びに(C)有機スルホン酸アミン塩を主成分として含有するものであり、これら(A)成分、(B)成分及び(C)成分を水と混合し分散させることにより容易に調製される。
(A)成分の基体樹脂は、水酸基及びカルボキシル基を含有するポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等であって、水酸基価30〜150KOHmg/g、好ましくは60〜120KOHmg/g、酸価15〜50KOHmg/g、好ましくは20〜40KOHmg/gの樹脂である。基体樹脂の水酸基価が30KOHmg/gより小さくなると、得られる塗膜の硬化性が低下し、一方水酸基価が150KOHmg/gより大きくなると、得られる塗膜の撓み性や耐チッピング性等が低下するので、いずれも好ましくない。また基体樹脂の酸価が15KOHmg/gより小さくなると、中塗塗料自体の水分散安定性が低下し、逆に酸価が50KOHmg/gより大きくなると、得られる塗膜の耐水性や耐薬品性等が低下するので、いずれも好ましくない。
本発明では、基体樹脂として上記特性値を有している限り、従来公知の樹脂をいずれも使用することができ、樹脂を構成する原料成分の組成や樹脂の分子量等は特に制限されるものではない。本発明で用いられる基体樹脂の数平均分子量は、通常1000〜50000程度、好ましくは5000〜30000程度が適している。
本発明で用いられる(A)成分は、上記基体樹脂中のカルボキシル基の一部又は全部をアミンで中和することにより得られるアミン中和基体樹脂である。ここで使用されるアミンとしては従来公知のものを広く使用でき、例えばメチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2-アミノプロパノール、3-アミノプロパノール、2-アミノ-2-メチルプロパノール等の第1級モノアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ジ-n-プロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、ブチルエタノールアミン等の第2級モノアミン;トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級モノアミン;ジエチレントリアミン、メチルアミノプロピルアミン等のポリアミン等を挙げることができる。本発明では、これらアミンは1種単独で又は2種以上混合して使用される。上記アミンの中でも2-アミノ-2-メチルプロパノール、N-メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミンが好ましい。アミンの使用量は、基体樹脂中の中和すべきカルボキシル基の量に応じて適宜選択すればよい。
上記基体樹脂とアミンとの中和反応は、常法に従い、室温下又は加熱下に行われる。
本発明において、(B)成分のアミノ樹脂は、(A)成分の架橋剤として使用される。アミノ樹脂としては、具体的にはメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等やこれらのメチロール化物、該メチロール化物の一部又は全部を炭素数1〜8のモノアルコールでエーテル化したエーテル化アミノ樹脂等を例示できる。これらの中でも部分又は完全にエーテル化されたエーテル化メラミン樹脂が好適である。これらアミノ樹脂の数平均分子量は、特に制限されるものではないが、約300〜5000程度、特に約500〜2000程度であるのが好ましい。
本発明において、(C)として用いられる有機スルホン酸アミン塩は、有機スルホン酸にアミンを反応せしめた化合物である。ここで有機スルホン酸としては、従来公知のものを広く使用でき、例えばパラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、特にドデシルベンゼンスルホン酸が好適である。またアミンとしては、上記(A)成分を調製する際に中和剤として用いられる各種アミンを広く使用することができる。ここでもアミンは1種単独で又は2種以上混合して使用され得る。使用されるアミンとしては、2-アミノ-2-メチルプロパノール、N-メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミンが好適である。有機スルホン酸とアミンとの反応は中和反応であり、アミンを過剰に用いて反応を行うのが望ましい。
本発明では、上記(A)成分及び(B)成分の構成比率は特に制限されないが、両成分の合計重量に基づいて、(A)成分が50〜90%、特に60〜80%、(B)成分が50〜10%、特に40〜20%となるように両成分を配合するのがよい。
また(C)成分の配合比率も特に制限されるものではなく、広い範囲内から適宜選択すればよいが、上記(A)成分及び(B)成分の合計100重量部当たり、0.1〜10重量部、特に1〜5重量部が適している。
本発明で用いられるアミン中和型水性中塗塗料は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を水と混合し分散させることにより容易に調製される。上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分と水との混合割合も特に限定されるものではないが、塗装時での固形分含有率が30〜70重量%、特に40〜60重量%になるように両者を混合するのがよい。
本発明においては、上記アミン中和水性中塗塗料に、更に必要に応じて着色顔料、体質顔料、紫外線吸収剤等を適宜配合することもできる。顔料の配合量は、上記(A)成分と(B)成分との合計100重量部当たり、10〜150重量部とするのが好ましい。
本発明の塗装方法を実施するに当たっては、被塗物に上記アミン中和型水性中塗塗料を塗装し、次いでアミン中和型水性上塗塗料を塗装する。
アミン中和型水性上塗塗料としては、従来公知のものを広く使用できるが、下記に示すようなアミン中和型水性上塗塗料を使用するのが好ましい。
本発明で用いられる好ましいアミン中和型水性上塗塗料は、(D)水酸基及びカルボキシル基を含有する基体樹脂をアミンで中和した樹脂及び(E)アミノ樹脂を主成分として含有するものであり、これら(D)成分及び(E)成分を水と混合し分散させることにより容易に調製される。
(D)成分の基体樹脂は、水酸基及びカルボキシル基を含有する限り従来公知のものを広く使用でき、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、珪素含有樹脂等等が挙げられる。(D)成分として使用される基体樹脂の水酸基価及び酸価は特に制限されるものではないが、水酸基価が30〜200KOHmg/g、特に50〜150KOHmg/g、酸価が10〜100KOHmg/g、特に15〜75KOHmg/gであるのが望ましい。また基体樹脂の数平均分子量は、通常1000〜100000程度、好ましくは5000〜50000程度が適している。
本発明で用いられる(D)成分は、上記基体樹脂中のカルボキシル基の一部又は全部をアミンで中和することにより得られるアミン中和基体樹脂である。ここで使用されるアミンとしては、上記(A)成分を調製する際に用いられる各種アミンを広く使用することができる。ここでもアミンは1種単独で又は2種以上混合して使用され得る。アミンの使用量は、基体樹脂中の中和すべきカルボキシル基の量に応じて適宜選択すればよい。上記基体樹脂とアミンとの中和反応も、常法に従い、室温下又は加熱下に行われる。
本発明において、(E)成分のアミノ樹脂は、(D)成分の架橋剤として使用される。アミノ樹脂としては、具体的にはメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等やこれらのメチロール化物等を例示できる。更に本発明では、上記メチロール化物の一部又は全部を炭素数1〜8のモノアルコールでエーテル化したエーテル化アミノ樹脂を使用することもできる。特に本発明では、上記メチロール化を部分的に行ってイミノ基(-NH)を残存させたイミノ基含有メラミン樹脂を(D)成分のアミノ樹脂として使用することが好ましい。これらアミノ樹脂の数平均分子量は、特に制限されるものではないが、約300〜5000程度、特に約400〜2000程度であるのが好ましい。
本発明では、上記(D)成分及び(E)成分の構成比率は特に制限されないが、両成分の合計重量に基づいて、(D)成分が50〜90%、特に60〜80%、(E)成分が50〜10%、特に40〜20%となるように両成分を配合するのがよい。
本発明で用いられるアミン中和型水性上塗塗料は、上記(D)成分及び(E)成分を水と混合し分散させることにより容易に調製される。上記(D)成分及び(E)成分と水との混合割合も特に限定されるものではないが、塗装時の固形分含有率が15〜60重量%となるように両者を混合するのがよい。
本発明においては、上記アミン中和水性上塗塗料に、更に必要に応じて着色顔料、メタリック顔料、体質顔料、紫外線吸収剤等を適宜配合することもできる。
本発明の塗装方法によれば、被塗物に上記アミン中和型水性中塗塗料及びアミン中和型水性上塗塗料を順次塗装する。
被塗物としては、特に限定がなく、自動車外板等の金属性被塗物、プラスチック性被塗物等の各種被塗物を例示できる。
本発明では、アミン中和型水性中塗塗料を被塗物に直接塗装することもできるが、予め被塗物にカチオン電着塗料等の下塗塗料(プライマー)を塗装し、硬化させてなる塗面に上記中塗塗料を塗装するのが好ましい。塗装方法は、特に限定がなく従来公知の方法を広く適用することができるが、スプレー塗装や静電塗装によるのが好ましい。塗装時における上記中塗塗料の粘度は10〜150秒/フォードカップ#4/20℃が好ましく、また中塗塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づいて10〜60μが適している。
本発明では、次に上記中塗塗料の塗膜を加熱により架橋硬化させてから、又は架橋硬化させることなしに、中塗塗料を塗装した面に上記上塗塗料を塗装する。中塗塗料の架橋硬化は、通常100〜180℃の温度下、10〜30分程度加熱することにより行われる。
上記上塗塗料を上記硬化又は未硬化の中塗塗面に塗装する際の塗装方法は、特に限定がなく従来公知の方法を広く適用することができるが、スプレー塗装や静電塗装によるのが好ましい。塗装時における上記上塗塗料の粘度は10〜150秒/フォードカップ#4/20℃が好ましく、また上塗塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づいて20〜100μが適している。
本発明では、次に上記上塗塗料の塗膜を加熱により架橋硬化させる。中塗塗料の塗膜が未硬化の場合には、上塗塗膜及び中塗塗膜の硬化を同時に行うのがよい。上塗塗料の架橋硬化は、通常100〜180℃の温度下、10〜30分程度加熱することにより行われる。
更に本発明では、この上塗塗膜面にクリアー塗料を必要に応じて塗装できる。
本発明の塗装方法に従えば、水性塗料による複層塗膜の層間付着性(特に中塗塗膜と上塗塗膜との層間付着性)及び耐チッピング性を改善し得る。
発明を実施するための最良の形態
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明をより一層明らかにする。
製造例1(アミン中和型水性中塗塗料の調製)
下記第1表に示す各成分を所定量(固形分重量で表示)混合し、粘度が30秒/フォードカップ#4/20℃になるように水を適量加えて分散せしめ、アミン中和型水性中塗塗料を得た。中塗塗料A-1、A-2及びA-3はそれぞれ実施例1〜3に使用し、中塗塗料A-4は比較例に使用した。

上記第1表において使用した各種樹脂の詳細は次の通りである。
アミン中和PE樹脂a:水酸基価85KOHmg/g、酸価40KOHmg/gのポリエステル樹脂(数平均分子量10000、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、アジピン酸及び無水フタル酸を反応させ、次いで無水トリメリット酸を付加したもの)をジメチルエタノールアミンで中和した樹脂
アミン中和PE樹脂b:水酸基価85KOHmg/g、酸価25KOHmg/gのポリエステル樹脂(数平均分子量10000、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、アジピン酸及び無水フタル酸を反応させ、次いで無水トリメリット酸を付加したもの)をジメチルエタノールアミンで中和した樹脂
アミン中和PE樹脂c:水酸基価100KOHmg/g、酸価25KOHmg/gのポリエステル樹脂(数平均分子量12000、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、アジピン酸及び無水フタル酸を反応させ、次いで無水トリメリット酸を付加したもの)をジメチルエタノールアミンで中和した樹脂
メラミン樹脂:商品名サイメル350、数平均分子量450、三井サイテック社製
製造例2(アミン中和型水性上塗塗料の調製)
アクリル樹脂(水酸基価60KOHmg/g、酸価35KOHmg/g、中和剤としてジメチルエタノールアミンを使用、数平均分子量6000、(D)成分)70重量部、ブチルエーテル化メラミン((E)成分)30重量部を)及びチタン白顔料60重量部混合し、粘度が40秒/フォードカップ#4/20℃になるように水を適量加えて分散せしめ、アミン中和型水性上塗白色塗料を得た。
実施例1〜3及び比較例1
カチオン電着塗料を加熱硬化せしめてなる鋼板に、製造例1で得られた各種アミン中和型水性中塗塗料を膜厚が35μになるようにスプレー塗装し、140℃で30分間加熱処理し、次いで製造例2で得られたアミン中和型水性上塗白色塗料を膜厚が45μになるようにスプレー塗装し、140℃で30分間加熱処理した。
斯くして得られた複層塗膜の各種性能を、以下に示す方法により調べた。
層間付着性:素地に達するようにカッターナイフで、直交する縦横11本ずつの平行線を1mmの間隔で引き、1cm2の中に100個のます目ができるようにゴバン目状に切り傷をつけ、その塗面に粘着セロハンテープを貼り付け、それを急激に剥がした後のゴバン目塗面を評価した。Aは塗膜の剥離が全く認められない、Bは中塗塗膜と上塗塗膜との層間で剥離が少し認められる、Cは中塗塗膜と上塗塗膜との層間で剥離が顕著に認められる、を示す。
耐チッピング性:Q-G-Rグラペロメーター(Qパネル社製、商品名)を用い、7号砕石0.1kgを4kg/cm2のエア圧、20℃の温度条件で試験板に吹き付け、角度30度の塗膜に衝撃を与えた後、塗面を観察した。Aは上塗塗膜の一部に衝撃による傷が僅かに認められる、Bは上塗塗膜に衝撃による剥離が少し認められる、Cは上塗塗膜に衝撃による剥離が多く認められる、を示す。
結果を第2表に示す。

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-30 
出願番号 特願平8-500662
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村山 禎恒  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 野村 康秀
滝口 尚良
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3314198号(P3314198)
権利者 関西ペイント株式会社
発明の名称 塗装方法  
代理人 関 仁士  
代理人 小原 健志  
代理人 関 仁士  
代理人 小原 健志  
代理人 齋藤 健治  
代理人 中川 博司  
代理人 中川 博司  
代理人 斉藤 健治  
代理人 藤井 淳  
代理人 三枝 英二  
代理人 舘 泰光  
代理人 舘 泰光  
代理人 内山 充  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 中野 睦子  
代理人 藤井 淳  
代理人 中野 睦子  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  

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