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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B62D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B62D
管理番号 1127366
異議申立番号 異議2003-73747  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-11-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-09-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3447658号「作業車」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3447658号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第3447658号に係る出願は、平成5年10月19日に出願した特願平5-260539号の一部を平成12年3月29日に新たな特許出願としたものであって、平成15年7月4日に設定登録(請求項の数;2)されたものであるが、本件特許の請求項1,2の発明に関して、ヤンマー農機株式会社より特許異議の申立てがあったので、当審において当該申立ての理由を検討の上、平成17年5月30日付けで当審より特許取消理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内の平成17年8月8日に、特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。

【2】訂正請求の可否
1.訂正の要旨
本件特許異議申立てに係る訂正請求における訂正の要旨は、次の(1)〜(8)のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1における「前記後部構造部(9)の重合部(B)に座席(10)を備え、」を、「前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備えるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1における「凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えて、前記ステップ(8)の前部に」を、「凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えるとともに、このステップ(8)の前部にも」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項2における「樹脂成形品で構成して、」の後に、「前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に前記座席(10)を位置させるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、」を加入する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項2における「凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えて、前記ステップ(8)の前部に」を、「凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えるとともに、このステップ(8)の前部にも」と訂正する。
(5)訂正事項e
【0005】の「後部構造部の・・・備えてある。」を、「前記後部構造部のうち、走行機体の支持部材に支持される前記重合部に座席を備えるとともに、前記座席の後部側における後部構造部に前記重合部よりも下方に延出される状態で前記中空部を形成し、
操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部を前記ステップの前部に備えるとともに、このステップの前部にも前記中空部を備えてある。」と訂正する。
(6)訂正事項f
【0006】の「ステップ及び・・・備えてある。」を、「前記後部構造部のうち、走行機体の支持部材に支持される前記重合部に前記座席を位置させるとともに、前記座席の後部側における後部構造部に前記重合部よりも下方に延出される状態で前記中空部を形成し、
ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部に中空部を備え、
操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部をステップの前部に備えるとともに、このステップの前部にも前記中空部を備えてある。」と訂正する。
(7)訂正事項g
【0013】の「後部構造部に・・・ことができる。」を、「そして、後部構造部における座席装着部位に相当させて、樹脂素材による上層形成部と下層形成部とが重なり合う重合部を配備しており、この重合部の下面を走行機体側の支持部材に支持させることにより、座席に運転者が着座した場合の直接的な荷重が重合部を介して、そのまま支持部材に掛かるようになっている。
また、座席の後部側における後部構造部に、重合部よりも下方に延出される状態で中空部を形成したことにより、座席の後部側および下方側に位置する部材が前記中空部である程度覆われる状態になる。」と訂正する。
(8)訂正事項h
【0019】の「「請求項1の・・・ようになった。」を、「請求項1(請求項2)の特徴によると、後部構造部の重合部に座席を備え、その重合部の下面を走行機体側の支持部材に支持させることにより、座席に運転者が着座した場合の直接的な荷重が重合部を介して、そのまま支持部材に掛かるようになっている。
したがって、後部構造部に作用すると予測される荷重のうちで最大のものに相当するところの、着座した運転者の体重を含めた座席の荷重は、重合部を介してそのまま支持部材で受け止められるものであり、重合部自体には、大きな荷重に抗するための保形強度を要さずに後部構造部を構成することができ、後部構造部全体の軽量化、小型化を図り得る利点がある。
また、座席の後部側における後部構造部に、重合部よりも下方に延出される状態で中空部を形成したことにより、座席の後部側に位置する部材をある程度保護することができるようになって、作業時での作業車の損傷を抑制できる利点がある。」と訂正する。

2.訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否
(1)訂正事項a,cについて
上記訂正事項a,cは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、この訂正事項a,cの「前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備える」については、願書に添付した明細書の【0027】に記載され、「前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、」については、願書に添付した明細書の図3,13に記載されているから、上記訂正事項a,cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項b,dについて
上記訂正事項b,dは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、この訂正事項b,dについては、願書に添付した明細書の【0026】、及び図2,3,11,13に記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項e〜hについて
上記訂正事項e〜hは、訂正事項a〜dの特許請求の範囲の訂正によって生じる特許明細書の発明の詳細な説明と特許請求の範囲との齟齬を解消しようとするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.訂正請求の認容について
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】本件特許発明の認定
上記のとおり、平成17年8月8日付けの訂正請求は認容されるので、本件特許の請求項1,2に係る発明は、平成17年8月8日付けの訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された次のとおりのものと認める(請求項1に係る発明を、以下「本件発明」という。)。
「【請求項1】 ステップ(8)と、前記ステップ(8)の後側に位置する後部構造部(9)とを備えると共に、
上層形成部(8a),(9a)と、下層形成部(8b),(9b)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)を接続する接続部(8c),(9c)と、前記上層形成部(8a),(9a)、下層形成部(8b),(9b)及び接続部(8c),(9c)による中空部(A)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)が重ね合わされる重合部(B)とを備えて、前記ステップ(8)及び後部構造部(9)をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備えるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、
操縦ハンドル(15)が配置される操縦部(7)が入り込む凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えるとともに、このステップ(8)の前部に前記中空部(A)を備えてある作業車。
【請求項2】 ステップ(8)と、前記ステップ(8)の後側に位置する後部構造部(9)とを備えて、前記後部構造部(9)の上側に座席(10)を配置すると共に、
上層形成部(8a),(9a)と、下層形成部(8b),(9b)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)を接続する接続部(8c),(9c)と、前記上層形成部(8a),(9a)、下層形成部(8b),(9b)及び接続部(8c),(9c)による中空部(A)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)が重ね合わされる重合部(B)とを備えて、前記ステップ(8)及び後部構造部(9)をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備えるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、
前記ステップ(8)及び後部構造部(9)の右及び左横外側部に前記中空部(A)を備え、
操縦ハンドル(15)が配置される操縦部(7)が入り込む凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えるとともに、このステップ(8)の前部に前記中空部(A)を備えてある作業車。」

【4】申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第6号証の3を提出して、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に甲第2〜6号証に記載された公知・周知技術を適用することにより、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に甲第2〜4号証、及び甲第6号証に記載された公知・周知技術を適用することにより、当業者がそれぞれ容易に発明をすることができたものである(理由1)。
また、本件明細書は取消理由2で後述する点において不備があり、特許法第36条第4,5項の規定を満たしていない(理由2)。
したがって、本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである、旨主張している。
〔証拠方法〕
甲第1号証:特開平5-185953号公報
甲第2号証の1:実願昭54-51775号(実開昭55-151120号)のマイクロフィルム
甲第2号証の2:実願昭63-83304号(実開平2-6416号)のマイクロフィルム
甲第3号証の1:実願昭56-19424号(実開昭57-133475号)のマイクロフィルム
甲第3号証の2:特開昭60-107463号公報
甲第3号証の3:特開平4-5183号公報
甲第4号証:特公昭56-11567号公報
甲第5号証の1:特開昭62-255120号公報
甲第5号証の2:実願昭63-168217号(実開平2-88881号)のマイクロフィルム
甲第6号証の1:実願平1-85319号(実開平3-24946号)のマイクロフィルム
甲第6号証の2:意匠登録第765201号公報
甲第6号証の3:特開昭58-156465号公報

【5】取消理由の概要
平成15年7月4日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1.取消理由1
本件特許の出願日前に頒布された刊行物として、
刊行物1:特開平5-185953号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開昭62-255120号公報(甲第5号証の1)
を引用し、
(1)上記刊行物1には、「前方足のせ台24と、前記前方足のせ台24の後側に位置する後方部分22とを備えると共に、
上部部材14と、下部部材12と、前記上下部材14,12を接続する接続部と、前記上部部材14、下部部材12及び接続部によるボックス状包囲体と、前記上下部材14,12が重ね合わされる重合表面とを備えて、前記前方足のせ台24及び後方部分22を中空の樹脂成形品で構成して、
前記後方部分22の上側に操縦者席152を備え、
舵とり機構150が配置される操縦部を前記前方足のせ台24の前部に備えて、前記前方足のせ台24の前部に前記ボックス状包囲体を備えてある作業車。」の発明(以下、「刊行物1の第1の発明」という。)と、
「前方足のせ台24と、前記前方足のせ台24の後側に位置する後方部分22とを備えて、前記後方部分22の上側に操縦者席152を配置すると共に、
上部部材14と、下部部材12と、前記上下部材14,12を接続する接続部と、前記上部部材14、下部部材12及び接続部によるボックス状包囲体と、前記上下部材14,12が重ね合わされる重合表面とを備えて、前記前方足のせ台24及び後方部分22を中空の樹脂成形品で構成して、
前記前方足のせ台24及び後方部分22の右及び左横外側部に前記ボックス状包囲体を備え、
舵とり機構150が配置される操縦部を前記前方足のせ台24の前部に備えて、前記前方足のせ台24の前部に前記ボックス状包囲体を備えてある作業車。」の発明(以下、「刊行物1の第2の発明」という。)が記載されているものと認める。
(2)本件発明と刊行物1の第1の発明とを対比すれば、本件発明は、刊行物1の第1の発明と、「ステップと、前記ステップの後側に位置する後部構造部とを備えると共に、
上層形成部と、下層形成部と、前記上層及び下層形成部を接続する接続部と、前記上層形成部、下層形成部及び接続部による中空部と、前記上層及び下層形成部が重ね合わされる重合部とを備えて、前記ステップ及び後部構造部をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記ステップの前部に前記中空部を備えてある作業車。」である点で一致し、
〈相違点〉
a)本件発明のステップと後部構造部は、ブロー成形による中空の樹脂成形品として形成されているのに対し、刊行物1の第1の発明の前方足のせ台24と後方部分22は、中空の樹脂成形品として形成されてはいるものの、それがブロー成形されたものではない点。
b)本件発明では、座席を後部構造部の重合部に備えているに対し、刊行物1の第1の発明では、操縦者席152を後方部分22の上側に備えてはいるものの、それを後部構造部の重合部に備えているものではない点。
c)本件発明では、ステップの前部に操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部を備えているのに対し、刊行物1の第1の発明では、舵とり機構150が配置される操縦部が前方足のせ台24の前部に直接備えられている点。
で相違しているものと認める。
(3)上記相違点について検討すれば、相違点a)に関しては、中空部と重合部を有する樹脂成形品をブロー成形によって形成することは刊行物2に記載されており、この発明を刊行物1の第1の発明に適用することに格別な困難性はない。
してみれば、中空部と重合部を有する樹脂成形品で形成された、刊行物1の第1の発明の前方足のせ台24と後方部分22を、ブロー成形によって形成するようにすることは、刊行物1の第1の発明に刊行物2の発明を適用することにより、当業者が容易に行うことができたものである。
相違点b)に関しては、作業車において、ステップ及び後部構造部を樹脂成形品で形成するとともに、後部構造部に座席を備えるようにすることは、実願昭56-19424号(実開昭57-133475号)のマイクロフィルム(甲第3号証の1),特開平4-5183号公報(甲第3号証の3)にみられるように従来周知技術である。してみれば、刊行物1の第1の発明において、ステップ及び後部構造部を樹脂成形品で形成するとともに、後部構造部に座席を備えるようにすることは、刊行物1の第1の発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に行い得たものである。
またこの場合、座席が強度を必要とする部材であることは自明であるから、刊行物1の第1の発明に上記周知技術と上記刊行物2の発明を適用するにあたり、該座席を、特に後部構造部の重合部に備えるようにすることもまた、当業者が容易に行い得たものである。
相違点c)に関しては、作業車において、ステップの前部に操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部を備えるようにすることは、実願平1-85319号(実開平3-24946号)のマイクロフィルム(甲第6号証の1),意匠登録第765201号公報(甲第6号証の2)にみられるように従来周知技術である。してみれば、刊行物1の第1の発明において、舵とり機構150(操縦ハンドル)が配置される操縦部を、前方足のせ台24(ステップ)の前部に直接形成する代わりに、前方足のせ台24の前部に舵とり機構150が配置される操縦部が入り込む凹部を備えるように構成することは、刊行物1の第1の発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に行い得たものである。
(4)請求項2の発明と刊行物1の第2の発明とを対比すれば、本件発明は刊行物1の第2の発明と、
「ステップと、前記ステップの後側に位置する後部構造部とを備えて、前記後部構造部)の上側に座席を配置すると共に、
上層形成部と、下層形成部と、前記上層及び下層形成部を接続する接続部と、前記上層形成部、下層形成部及び接続部による中空部と、前記上層及び下層形成部が重ね合わされる重合部とを備えて、前記ステップ及び後部構造部を中空の樹脂成形品で構成して、
前記ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部に前記中空部を備え、
前記ステップの前部に前記中空部を備えてある作業車。」で一致し、
〈相違点〉
a)本件発明のステップと後部構造部は、ブロー成形による中空の樹脂成形品として形成されているのに対し、刊行物1の第1の発明の前方足のせ台24と後方部分22は、中空の樹脂成形品として形成されてはいるものの、それがブロー成形されたものではない点。
b)本件発明では、ステップの前部に操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部を備えているのに対し、刊行物1の第1の発明では、舵とり機構150が配置される操縦部が前方足のせ台24の前部に直接備えられている点。
で、相違しているが、これらの点は、上記(3)で詳述したように刊行物2の発明と周知技術から、当業者が容易に行い得たものである。
(5)以上詳述したとおり、本件の請求項1,2に係る発明は、上記刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるであるから、本件の請求項1,2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべき特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2.取消理由2
本件明細書の【0019】には、請求項1の「後部構造部(9)の重合部(B)に座席(10)を備え」た点に対応する効果として、「請求項1の特徴によると、後部構造部の重合部に座席を備えることにより、座席の支持強度を確保することができるようになって、座席の安定した支持を行うことができるようになった。」と記載されているが、出願当初の明細書の【0011】には、「後輪フェンダー9における上面の左右中間部となる座席装着部位9Aに相当させて、樹脂素材同士が重なり合う樹脂素材重合部Bを配備しており、この樹脂素材重合部Bの下面を機体フレーム16側の支持部材16Aに支持させることにより、座席10に運転者が着座した場合の直接的な荷重が後輪フェンダー9に掛かることなく、そのまま支持部材16Aに掛かるようになっている。」と、「座席の支持強度を確保すること」が支持部材による効果である如くに記載されており、そのため、請求項1の「後部構造部(9)の重合部(B)に座席(10)を備え」た点に対応する効果が不明りょうなものとなっている。
したがって、本件明細書の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の効果が記載されているとはいえないから、請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

【6】取消理由に対する当審の判断
1.取消理由1に関して
刊行物1の第1の発明における後方部分22は、中空の樹脂成形品で構成されてはいるが、操縦者席152の備えられた部分の下面は一枚の板材で構成されており、該板材は、走行機体の支持部材に支持されるものでも、操縦者席152を直接支持しているものでもない。
一方刊行物2には、「樹脂成形品をブロー成形によって、上層形成部と、下層形成部と、前記上層及び下層形成部を接続する接続部と、前記上層形成部、下層形成部及び接続部による中空部と、前記上層及び下層形成部が重ね合わされる重合部とを備えるように形成し、該重合部に強度を必要とする部材を配置できるようにした」発明が記載されているが、刊行物1の第1の発明の後方部分22が、上述のように、操縦者席152の備えられた部分の下面が一枚の板材で構成され、該板材が走行機体の支持部材に支持されるものでも、操縦者席152を直接支持しているものでない以上、刊行物1の第1の発明に刊行物2の発明を適用しても、本願発明の「前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備えるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、」の構成を得ることはできない。
そして、本件発明は、前記構成により、「後部構造部に作用すると予測される荷重のうちで最大のものに相当するところの、着座した運転者の体重を含めた座席の荷重は、重合部を介してそのまま支持部材で受け止められるものであり、重合部自体には、大きな荷重に抗するための保形強度を要さずに後部構造部を構成することができ、後部構造部全体の軽量化、小型化を図り得る」、「座席の後部側における後部構造部に、重合部よりも下方に延出される状態で中空部を形成したことにより、座席の後部側に位置する部材をある程度保護することができるようになって、作業時での作業車の損傷を抑制できる」という特有の効果を奏するものと認められる。
なお、ステップ及び後部構造部を樹脂成形品で形成するとともに、後部構造部に座席を備えるようにすることは従来周知技術であり、また、後部構造部に設けた座席の下面に機体フレームの支持部材を形成すること自体も、例えば特開平2-231276号公報に記載されているように周知技術といえるが、刊行物1の第1の発明の操縦者席152は、板材上に直接設けられたものでないばかりでなく、中空部である包囲体68,70の間に収納されているものであるから、刊行物1の第1の発明にこれらの周知技術を適用することは、当業者において容易であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明は、上記刊行物1の第1の発明に上記刊行物2の発明を適用することによって当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
また、本件の訂正後の請求項2に係る発明は、本件発明を実質的に更に限定したものであるから、本件発明についての判断と同様の理由により、刊行物1の第2の発明と刊行物2の発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、平成15年7月4日付けで通知した取消理由1によっては本件の請求項1,2に係る発明の特許を取り消すことはできない。

2.取消理由2に関して
上記のとおり、平成15年9月12日付けの訂正請求は認容されたから、これにより取消理由2は解消された。

3.むすび
以上のとおりであるから、平成15年7月4日付けで通知した取消理由によっては本件の請求項1,2に係る発明の特許を取り消すことはできない。

【7】特許異議申立人が提出した上記以外の証拠方法について
特許異議申立人が提出した上記以外の証拠方法を検討しても、本願発明の「前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備えるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、」の構成を得ることはできない。

【8】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては本件の請求項1ないし2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
作業車
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ステップ(8)と、前記ステップ(8)の後側に位置する後部構造部(9)とを備えると共に、
上層形成部(8a),(9a)と、下層形成部(8b),(9b)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)を接続する接続部(8c),(9c)と、前記上層形成部(8a),(9a)、下層形成部(8b),(9b)及び接続部(8c),(9c)による中空部(A)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)が重ね合わされる重合部(B)とを備えて、前記ステップ(8)及び後部構造部(9)をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に座席(10)を備えるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、
操縦ハンドル(15)が配置される操縦部(7)が入り込む凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えるとともに、このステップ(8)の前部にも前記中空部(A)を備えてある作業車。
【請求項2】ステップ(8)と、前記ステップ(8)の後側に位置する後部構造部(9)とを備えて、前記後部構造部(9)の上側に座席(10)を配置すると共に、
上層形成部(8a),(9a)と、下層形成部(8b),(9b)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)を接続する接続部(8c),(9c)と、前記上層形成部(8a),(9a)、下層形成部(8b),(9b)及び接続部(8c),(9c)による中空部(A)と、前記上層及び下層形成部(8a),(9a),(8b),(9b)が重ね合わされる重合部(B)とを備えて、前記ステップ(8)及び後部構造部(9)をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記後部構造部(9)のうち、走行機体(1)の支持部材(16A)に支持される前記重合部(B)に前記座席(10)を位置させるとともに、前記座席(10)の後部側における後部構造部(9)に前記重合部(B)よりも下方に延出される状態で前記中空部(A)を形成し、
前記ステップ(8)及び後部構造部(9)の右及び左横外側部に前記中空部(A)を備え、
操縦ハンドル(15)が配置される操縦部(7)が入り込む凹部(8d)を前記ステップ(8)の前部に備えるとともに、このステップ(8)の前部にも前記中空部(A)を備えてある作業車。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、乗用型芝刈機、乗用型田植機、あるいは、トラクタ、などの作業車に係り、特には、搭乗部に配置されるステップの構造、及びステップの後側に位置する後部構造部の構造に特徴を有する作業機に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、作業車のステップや後部構造部には板金プレス加工品が利用されているのであるが、軽量化のためにステップや後部構造部に樹脂成形品を用いることも試みられている・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ステップや後部構造部を樹脂化する場合に最も重要となるのは、板金プレス加工品に匹敵する強度をいかにして確保するかという点であり、例えば射出成形品を利用する場合には、補強リブを一体形成して強度を確保する必要がある。しかし、射出成形の場合、局部的に肉厚を大きくすることは成形精度の面で好ましくないので、どうしても多くの補強リブ、あるいは、複雑な形状の補強リブを利用せざるを得ず、その分、金型コストが高くなるものであった。そのため、従来では、ステップや後部構造部の一部分のみを樹脂化する程度にとどまっていた。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、ステップ、あるいは、ステップと後部構造部の樹脂化を促進する上での前述の課題を解消して、機体全体の軽量化、及び生産コストの低減を図ることができる作業機を提供することを主たる目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の特徴は作業車において、次のように構成することにある。
[1]
ステップと、ステップの後側に位置する後部構造部とを備えると共に、
上層形成部と、下層形成部と、上層及び下層形成部を接続する接続部と、上層形成部、下層形成部及び接続部による中空部と、上層及び下層形成部が重ね合わされる重合部とを備えて、ステップ及び後部構造部をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記後部構造部のうち、走行機体の支持部材に支持される前記重合部に座席を備えるとともに、前記座席の後部側における後部構造部に前記重合部よりも下方に延出される状態で前記中空部を形成し、
操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部を前記ステップの前部に備えるとともに、このステップの前部にも前記中空部を備えてある。
【0006】
[2]
ステップと、ステップの後側に位置する後部構造部とを備えて、後部構造部の上側に座席を配置すると共に、
上層形成部と、下層形成部と、上層及び下層形成部を接続する接続部と、上層形成部、下層形成部及び接続部による中空部と、上層及び下層形成部が重ね合わされる重合部とを備えて、ステップ及び後部構造部をブロー成形による中空の樹脂成形品で構成して、
前記後部構造部のうち、走行機体の支持部材に支持される前記重合部に前記座席を位置させるとともに、前記座席の後部側における後部構造部に前記重合部よりも下方に延出される状態で前記中空部を形成し、
ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部に中空部を備え、
操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部をステップの前部に備えるとともに、このステップの前部にも前記中空部を備えてある。
【0007】
【作用】
[I]
請求項1(請求項2)の特徴によると、作業車において走行機体にステップ及び後部構造部を備える場合、上層形成部、下層形成部、接続部、中空部及び重合部を備えてステップ及び後部構造部が構成され、ステップ及び後部構造部が中空の樹脂成形品で構成されている。
このようにステップ及び後部構造部を中空の樹脂成形品で構成することによって、従来の技術に記載のように板金材でステップ及び後部構造部を構成する場合に比べて、ステップ及び後部構造部の重量を軽いものにすることができる。
【0008】
請求項1(請求項2)の特徴によると、ステップ及び後部構造部が中空の樹脂成形品で構成されているので、成形後にステップ及び後部構造部に行う加工が比較的少ない。これによって、従来の技術に記載のように板金材のプレス加工や、プレス加工された複数の板金材の連結と言うような多数の生産工程を設定しなくても、比較的少ない生産工程で、ステップ及び後部構造部を生産することができる。
【0009】
[II]
請求項1(請求項2)の特徴によるとステップ及び後部構造部は上層形成部、下層形成部及び接続部により中空部が備えられるのに加え、上層及び下層形成部が重ね合わされる重合部が備えられているので、中空部と重合部との間の接続部が、ステップ及び後部構造部に比較的多く配置される状態となる。これにより、比較的多くの接続部が補強のリブとして機能することになって、ステップ及び後部構造部の剛性が確保されている。
【0010】
[III]
請求項1(請求項2)の特徴によると、上層形成部、下層形成部、接続部、中空部及び重合部を備えたステップ及び後部構造部がブロー成形によって構成されているので、ステップ及び後部構造部全体の形状を比較的自由に設定することができるのであり、ステップ及び後部構造部に凸状や凹状の形状を比較的自由に備えることができる。又、上層形成部と接続部及び下層形成部と接続部を、ブロー成形時に一体的に成形することができるので、成形後に上層形成部と接続部との接着工程や、下層形成部と接続部との接着工程を行う必要がない。
【0011】
[IV]
作業車では操縦ハンドルが配置される操縦部が、搭乗部の前部に配置されており、請求項1(請求項2)の特徴によると、操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部が、ステップの前部に備えられている。
これにより、請求項1(請求項2)の特徴によると、ステップの前部の凹部に操縦部が入り込んだ状態で、操縦部の右及び左横側にもステップの前部が位置する状態となるので、座席に着座する運転者が操縦部の右及び左横側に足を延ばすことができるのであり、ステップの右横外側部(左横外側部)に足を掛けての乗降が行い易くなる。
【0012】
請求項1(請求項2)の特徴によると、ステップの前部に中空部を備えているので、ステップの前部の剛性が確保されて、操縦部とステップの前部の凹部との位置関係が安定し、ステップの前部の凹部の位置が決まり易い。ステップの右横外側部(左横外側部)に足を掛けての乗降が繰り返されても、ステップの剛性が確保される。
【0013】
[V]
そして、後部構造部における座席装着部位に相当させて、樹脂素材による上層形成部と下層形成部とが重なり合う重合部を配備しており、この重合部の下面を走行機体側の支持部材に支持させることにより、座席に運転者が着座した場合の直接的な荷重が重合部を介して、そのまま支持部材に掛かるようになっている。
また、座席の後部側における後部構造部に、重合部よりも下方に延出される状態で中空部を形成したことにより、座席の後部側および下方側に位置する部材が前記中空部である程度覆われる状態になる。
【0014】
[VI]
例えば狭い作業地での作業時に走行機体を旋回させた場合、ステップ及び後部構造部の右横外側部(左横外側部)を、他物に衝突させてしまうことがある。
この場合、中空部には衝突時の衝撃をある程度吸収するクッション的な機能が期待できるので、請求項2の特徴のように、ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部に中空部を備えることによって、ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部を他物に衝突させても、衝突の衝撃を中空部によって緩和することができる。
【0015】
【発明の効果】
請求項1(請求項2)の特徴によると作業車において走行機体にステップ及び後部構造部を備える場合、ステップ及び後部構造部を上層形成部、下層形成部、接続部、中空部及び重合部を備えた中空の樹脂成形品で構成することにより、ステップ及び後部構造部の剛性を確保しながら、ステップ及び後部構造部の軽量化及び生産工程の簡素化を図ることができて、作業車の軽量化及び生産コストの低減を図ることができた。
【0016】
請求項1(請求項2)の特徴によると、上層形成部、下層形成部、接続部、中空部、及び重合部を備えたステップ及び後部構造部がブロー成形によって構成されているので、ステップ及び後部構造部全体の形状を比較的自由に設定することができ、ステップ及び後部構造部に凸状や凹状の形状を比較的自由に備えることができる点、並びに成形後に上層形成部と接続部との接着工程や、下層形成部と接続部との接着工程を行う必要がない点により、生産性の向上を図ることができた。
【0017】
請求項1(請求項2)の特徴によると操縦ハンドルが配置される操縦部が入り込む凹部をステップの前部に備えて、ステップの前部の凹部に操縦部が入り込んだ状態で、操縦部の右及び左横側にもステップの前部が位置する状態とすることによって、作業車の居住性及び乗降性を向上させることができた。
【0018】
請求項1(請求項2)の特徴によると、ステップの前部に中空部を備えることにより、ステップの前部の凹部の位置が決まり易くなって、ステップの位置決め精度を向上させることができるのであり、ステップの右横外側部(左横外側部)に足を掛けての乗降に対して、ステップの耐久性を向上させることができた。
【0019】
請求項1(請求項2)の特徴によると、後部構造部の重合部に座席を備え、その重合部の下面を走行機体側の支持部材に支持させることにより、座席に運転者が着座した場合の直接的な荷重が重合部を介して、そのまま支持部材に掛かるようになっている。
したがって、後部構造部に作用すると予測される荷重のうちで最大のものに相当するところの、着座した運転者の体重を含めた座席の荷重は、重合部を介してそのまま支持部材で受け止められるものであり、重合部自体には、大きな荷重に抗するための保形強度を要さずに後部構造部を構成することができ、後部構造部全体の軽量化、小型化を図り得る利点がある。
また、座席の後部側における後部構造部に、重合部よりも下方に延出される状態で中空部を形成したことにより、座席の後部側に位置する部材をある程度保護することができるようになって、作業時での作業車の損傷を抑制できる利点がある。
【0020】
請求項2の特徴によると、ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部に中空部を備えることにより、ステップ及び後部構造部の右及び左横外側部を他物に衝突させても、衝突の衝撃を中空部によって緩和することができるので、作業時での作業車の損傷を少なくすることができた。
【0021】
【実施例】
以下、本発明をミッドマウント式の乗用型芝刈機に適用した実施例を図面に基づいて説明する。
【0022】
[第1実施例]
この乗用型芝刈機は、図1に示すように、走行機体1の前部にエンジンルームを形成するボンネット2、エンジンルーム内に搭載された縦軸型のエンジン3、走行機体1の前部に備えられた前輪4、走行機体1の後部に備えられた後輪5、前輪4と後輪5との間に位置する搭乗部6の前部を形成する操縦部7、搭乗部6の足場を形成するステップ8、左右の後輪5の上方を一連に覆うとともに搭乗部6の後部を形成する後部構造部9、後部構造部9における上面の左右中間部に取り付けられた座席10、及び、前輪4と後輪5との間でリンク機構11を介して走行機体1の下腹部に昇降自在に連結されたモーア12、操縦部7に配置された操縦ハンドル15、などにより構成されている。
【0023】
エンジン3からの動力は、二系統に構成されたベルト伝動機構13を介して、モーア12と、後輪5を駆動するミッションケース14とに伝達されるようになっている。
【0024】
ボンネット2、操縦部7、ステップ8、及び、後部構造部9の夫々は樹脂材により形成されており、走行機体1の軽量化や製造工程の簡略化などを図るようにしている。図1に示すように、ボンネット2は、走行機体1に固定状態で取り付けられた下部ボンネット2Aと、この下部ボンネット2Aに前部横軸芯周りで揺動開閉自在に取り付けられた上部ボンネット2Bにより構成されている。
【0025】
図2〜図7に示すように、ステップ8の後部につながってステップ8よりも高い位置に位置するように、後部構造部9が構成されている。ステップ8及び後部構造部9は、上層形成部8a,9aと、下層形成部8b,9bと、上層及び下層形成部8a,9a,8b,9bを接続する接続部8c,9cと、上層形成部8a,9a、下層形成部8b,9b及び接続部8c,9cによる中空部Aと、上層及び下層形成部8a,9a,8b,9bが重ね合わされる樹脂素材の重合部Bとを備えて構成されており、ブロー成形による中空の樹脂成形品で一体的にステップ8及び後部構造部9が構成されている。このように、ステップ8及び後部構造部9に中空部A及び重合部Bを形成することにより、ステップ8及び後部構造部9の強度が高められている。
【0026】
図2及び図3に示すように、ステップ8の前部に、操縦部7が入り込む凹部8dが形成され、ステップ8の前部に中空部Aが備えられている。図2に示すように、ステップ8及び後部構造部9の右及び左横外側部に、中空部Aが位置している。
【0027】
図2及び図3に示すように、後部構造部9における上面の左右中間部の座席装着部位9Aにおいて、上層及び下層形成部9a,9bが重ね合わされる樹脂素材の重合部Bが形成されており、後輪フェンダー9の重合部Bの下面が機体フレーム16の支持部材16Aに支持されている。これにより、座席10に運転者が着座した場合の直接的な荷重が、後輪フェンダー9に掛かることなく支持部材16Aに掛かるように構成されている。
【0028】
図2及び図3に示すように、ステップ8及び後部構造部9の中空部Aに注水するための注水口A1が備えられ、ステップ8の中空部Aに、ステップ8及び後部構造部9の中空部Aから排水するための排水口A2が備えられている。これにより、注水口A1からステップ8及び後部構造部9の中空部Aに注水することによって、走行機体1の後部側の重量を重くして後輪5の接地荷重を大きくして、傾斜地で作業を行う場合の登坂性能の向上を図ることができる。又、排水口A2から排水して走行機体1の重量を軽くすることによって、平地で作業を行う場合の操縦性能の向上を図ることができる。
【0029】
図8,9,10に示すように、操縦部7は射出成形による樹脂成形品で構成されている。操縦部7を射出成形する場合、樹脂材を射出する射出ゲート7Aから操縦部7の基本骨格を成す部分へ高圧ガスを送り込むことによって、引けによる外観品質の低下を抑えながら中空リブ7Bを形成して操縦パネル7の強度を高めるようにしている。又、材質の強度を高めるためにフィラーなどのガラス繊維を樹脂材に含有させた場合の流動特性の低下をも補えるようにしている。尚、図中17は、高圧ガスを送り込むために形成された射出ゲート7Aを塞ぐプラグである。
【0030】
[第2実施例]
図11〜図13に示すように、ステップ8を、上層形成部8aと、下層形成部8bと、上層及び下層形成部8a,8bを接続する接続部8cと、上層形成部8a、下層形成部8b及び接続部8cによる中空部Aと、上層及び下層形成部8a,8bが重ね合わされる樹脂素材の重合部Bとを備えて構成し、ブロー成形による中空の樹脂成形品で一体的にステップ8を構成している。
【0031】
後部構造部9も同様に、上層形成部9aと、下層形成部9bと、上層及び下層形成部9a,9bを接続する接続部9cと、上層形成部9a、下層形成部9b及び接続部9cによる中空部Aとを備えて構成し、ブロー成形による中空の樹脂成形品で一体的に、ステップ8とは別に後部構造部9を構成している。このようにステップ8及び後部構造部9に中空部A及び重合部Bを形成することによって、ステップ8及び後部構造部9の強度を高めている。
【0032】
前述の[第1実施例]と同様に、後部構造部9における上面の左右中間部位の座席装着部位9Aにおいて、上層及び下層形成部9a,9bが重ね合わされる樹脂素材の重合部Bが形成されている。又、後輪フェンダー9の中空部Aの上方部位には、後輪フェンダー9の中空部Aに注水するための注水口A1が形成されるとともに、後部構造部9の中空部Aの下方部位には、中空部Aから排水するための排水口A2が形成されている。
【0033】
[変形例]
本発明は、前述の[第1実施例][第2実施例]に限定されるものではなく、例えば、本発明における作業車としては、乗用型田植機やトラクタなどであってもよい。
又、ブロー成形による中空の樹脂成形品としては、中空部Aに注水するための注水口A1、及び、中空部Aから排水させるための排水口A2を形成しないものであってもよい。
【0034】
尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
第1実施例における乗用型芝刈機の全体側面図
【図2】
第1実施例におけるステップ及び後部構造部の平面図
【図3】
第1実施例における図2におけるa-a断面図
【図4】
第1実施例における図2におけるb-b断面図
【図5】
第1実施例における図2におけるc-c断面図
【図6】
第1実施例における図2におけるd-d断面図
【図7】
第1実施例における図2におけるe-e断面図
【図8】
第1実施例における操縦パネルの一部切り欠き側面図
【図9】
第1実施例における操縦パネルの一部切り欠き背面図
【図10】
第1実施例における操縦パネルの横断平面図
【図11】
第2実施例におけるステップの平面図
【図12】
第2実施例における後部構造部の平面図
【図13】
第2実施例におけるステップと後部構造部の縦断側面図
【符号の説明】
7 操縦部
8 ステップ
8a 上層形成部
8b 下層形成部
8c 接続部
8d 凹部
9 後部構造部
9a 上層形成部
9b 下層形成部
9c 接続部
15 操縦ハンドル
A 中空部
B 重合部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-24 
出願番号 特願2000-90102(P2000-90102)
審決分類 P 1 651・ 531- YA (B62D)
P 1 651・ 121- YA (B62D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 島田 信一  
特許庁審判長 大野 覚美
特許庁審判官 ぬで島 慎二
増岡 亘
登録日 2003-07-04 
登録番号 特許第3447658号(P3447658)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 作業車  
代理人 北村 修一郎  
代理人 伴 正昭  
代理人 北村 修一郎  

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