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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C21D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C21D
管理番号 1127370
異議申立番号 異議2003-73224  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2005-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3434936号「超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3434936号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3434936号は、平成7年6月16日の特許出願に係るものであって、平成15年5月30日に請求項1〜4に係る発明について特許権の設定の登録がされたものであり、その後、請求項1〜4に係る特許についてJFEスチール株式会社より特許異議の申立てがなされた。
そこで、当審より特許取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年2月1日付で訂正請求がなされ、当審より特許異議申立人に対して審尋がなされ、回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(1)訂正事項a
本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜4のそれぞれにおいて、「Bi:0.0005〜0.02%」とあるを、「Bi:0.001〜0.01%」に訂正する。
(2)訂正事項b
同じく請求項1において、「B8≧1.92T」とあるを、「B8≧1.949T」に訂正するとともに、「雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧0.5Nm3/(h・m3)」とあるを、「20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)」に訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0008】〜【0011】のそれぞれの段落において、「Bi:0.0005〜0.02%」とあるを、「Bi:0.001〜0.01%」に訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0008】及び【0021】において、「B8≧1.92T」とあるを、「B8≧1.949T」に訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0008】、【0024】及び【0031】において、「雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧0.5Nm3/(h・m3)」とあるを、「20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)」に訂正する。
(6)訂正事項f
明細書の段落【0027】において、「図から明らかなように、Bi含有量が5ppm未満の場合は、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)<0.5Nm3/(h・m3)でも、磁束密度は0.5Nm3/(h・m3)以上とした場合のそれと差異が認められない。しかしBi含有量が5ppm以上の場合、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)<1.0Nm3/(h・m3)とした場合では、B8<1.92Tであるのに対して、0.5Nm3/(h・m3)以上とした場合ではB8≧1.92Tとなっている。」とあるを、「図から明らかなように、Bi含有量が5ppm未満の場合は、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)<1.0Nm3/(h・m3)でも、磁束密度は1.0Nm3/(h・m3)以上とした場合のそれと差異が認められない。しかしBi含有量が10ppm以上の場合、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)<1.0Nm3/(h・m3)とした場合では、B8=1.95Tもあるが殆どは1.94T以下であるのに対して、1.0Nm3/(h・m3)以上とした場合では全てがB8≧1.949Tとなっている。」に訂正する。
(7)訂正事項g
明細書の段落【0043】〜【0050】を削除する。

2-2、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1〜4において、明細書の段落【0032】の「このような考えに基づいて、図1においてもっとも好ましい範囲を表示した。Biの含有量は0.001〜0.01%、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)は1.0以上20以下(Nm3/(h・m3))である。」という記載に基づいて、Biの含有範囲を狭めるものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の滅縮に該当するものであって、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1において、明細書の段落【0041】【表2】の本発明例の磁束密度B8の値に基づいて、B8の下限値を繰り上げるとともに、上記段落【0032】の記載に基づいて雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)の値の範囲を狭めるものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の滅縮に該当するものであって、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項c〜gは、上記訂正事項a、bにより特許請求の範囲を訂正したことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るものであるから、これらの訂正は、明りようでない記載の釈明に該当するものであって、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.異議申立て及び取消理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1〜7号証を提出し、訂正前の本件特許の請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張するとともに、本件特許の明細書には記載不備が存在するから、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである、というものである。
また、当審において通知した取消理由は、上記申立理由と同趣旨のものである。

3-2.本件発明
本件特許の明細書の特許請求の範囲は、訂正明細書のとおりに訂正されることとなり、その請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 重量%で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N :0.0030〜0.0150%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材として加熱した後熱延し、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数の冷延によって製品板厚に仕上げた後に、脱炭焼鈍し、焼鈍分離材を塗布後、仕上焼鈍をする超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法において、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を以下に示す範囲とすることを特徴とするB8≧1.949Tの超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)
【請求項2】 重量%で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】 重量%で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%、Cu:0.01〜0.10%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】 重量%で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N :0.0030〜0.0150%、SbおよびMo:0.0030〜0.3%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。」
(以下、請求項1〜4に係る発明を、それぞれ順に、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)

3-3.甲第1〜7号証及び各甲号証に記載される事項
(1)甲第1号証:特開平6-88174号公報
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。
【請求項2】 重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。
【請求項3】 重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%、Cu:0.01〜0.10%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、トランス等の鉄心に用いられる{110}〈001〉方位即ちゴス方位を高度に発達させた高磁束密度一方向性電磁鋼板を製造するのに好適な素材に関する。
ここで、素材とは鋼塊、スラブ或いは熱延板を指す。」
「【0014】
以下本発明の詳細について説明する。
本発明者は・・・、窒化アルミニウムを主インヒビターとする一方向性電磁鋼板用の素材にBiを添加含有せしめることにより現在市販されている高磁束密度一方向性電磁鋼板の磁束密度B8=1.93T程度をはるかに超える1.95T以上、2Tにもおよぶ超高磁束密度一方向性電磁鋼板を製造することに成功した。」
「【0026】
次に製造プロセス条件について説明する。
上記の如く成分を調整した超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材は通常の如何なる溶解法、造塊法を用いた場合でも本発明の素材とすることができる。次いでこの電磁鋼板用素材は通常の熱間圧延により熱延コイルに圧延される。
【0027】
引き続いて1ステージの冷間圧延または中間焼鈍を含む複数ステージの冷間圧延によって最終板厚とする・・・。最終冷延前には950〜1200℃で30秒〜30分間の焼鈍を行い、急冷によりAlNの析出制御を行う。
最終成品板厚に圧延した冷延板を続いて通常の方法で脱炭焼鈍を行う。脱炭焼鈍の条件は特に規定しないが、好ましくは700〜900℃の温度範囲で30秒〜30分間湿潤な水素または水素、窒素の混合雰囲気で行うのがよい。
【0028】
脱炭焼鈍後の鋼板表面には2次再結晶焼鈍における焼き付き防止およびグラス被膜生成のため通常の方法で通常の組成の焼鈍分離剤を塗布する。
2次再結晶焼鈍は1000℃以上の温度で5時間以上、水素または窒素またはそれらの混合雰囲気で行う。
【0029】
引き続き余分の焼鈍分離剤を除去後、コイル巻ぐせを矯正するための連続焼鈍を行い、同時に絶縁被膜を塗布、焼き付けする。
更に必要に応じてレーザー照射等の磁区細分化処理を施す。磁区細分化の方法は特に限定する必要はない。」

(2)甲第2号証:特開平6-184640号公報
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、C:0.015〜0.100%、Si:2.0〜4.0%、Mn:0.03〜0.12%、Sol.Al:0.010〜0.065%、N:0.0040〜0.0100%、SおよびSeのうちから選んだ1種または2種合計:0.005〜0.050%、更にSb、Sn、Cu、Mo、Ge、B、Te、AsおよびBiから選ばれる1種または2種以上を0.003〜0.3%含有し、残部は実質的にFeの組成になる連続鋳造スラブにスラブ加熱を施した後、熱延し、予備冷延を施し、析出焼鈍し、81〜95%の圧下率の最終強冷延により0.25mm以下の最終板厚とし、脱炭・一次再結晶焼鈍、最終仕上焼鈍、コーティング塗布によって高磁束密度一方向性電磁鋼板を製造する方法において、予備冷延をワークロール径/熱延板厚≧60の冷延機で20〜50%の圧下率で行うことを特徴とする高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。」
「【0011】Sb、Sn、Cu、Mo、Ge、B、Te、AsおよびBiは粒界に偏析させ、二次再結晶を安定化させるが、これらから選ばれる1種または2種以上の含有量が下限0.003%未満では偏析量が不足し、上限0.3%は経済的理由と脱炭性の悪化によるものである。」

(3)甲第3号証:特開平2-125815号公報
(3a)「1.重量%にて、C:0.020〜0.080%,Si:2.5〜4.0%,Mn:0.03〜0.15%、さらにS及び/又はSeを合計で0.008〜0.100%含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる珪素鋼スラブを熱間圧延し、ついで1回又は中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延を、最終冷間圧延の圧下率が40〜80%の範囲にて施し、最終板厚に仕上げた後、脱炭焼鈍についで焼鈍分離剤を塗布し最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる一方向性珪素鋼板の製造方法において、該最終仕上げ焼鈍のガス流量を2cc/分・kg以上とすることを特徴とする磁気特性の優れた一方向性珪素鋼板の製造方法。」(第1頁左欄特許請求の範囲)
(3b)「本発明は・・・、通常の製造方法において、容易に不純物元素の排除を促進して薄手一方向性珪素鋼の磁気特性をさらに改善する製造方法を提供するものである。」(第2頁右下欄6〜9行)
(3c)「仕上げ焼鈍のガス流量が2cc/分・kg以上の範囲を満足する場合に、2次再結晶が十分に発達して2次再結晶率が改善し、かつ地鉄とフォルステライト中のS,Se,N成分が著しく減少してB10値が向上し、鉄損W17/50値が低下して優れた一方向性珪素鋼が得られている。
仕上げ焼鈍のガス流量が2cc/分・kg未満の場合は、2次再結晶およびS,Se,Nの純化が著しく阻害されて磁気特性の改善は望み得ない。」(第3頁左下欄12行〜右下欄1行)
(3d)「他にインヒビターとしてAs,Bi,Pb,Sn,Cn,Te,Mo,Wを単独または複合で0.010〜0.20%程度含有されることは本発明の効果を何ら阻害しない。」(第4頁右上欄5〜8行)
(3e)「仕上げ焼鈍におけるガス流量として2cc/分・kg以上と限定した理由は次のとおりである。
脱炭焼鈍後にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布後100〜200℃で乾燥するが、まず箱焼鈍で常温から昇熱される際にMgO中の結晶水が400℃前後で放出される訳であるが、この時点でN2ガス流量が2cc/分・kg未満であれば、箱内の雰囲気が著しく酸化性となって露点が0℃以上となり鋼板表面を著しく酸化させて、鋼中のインヒビターMnS,MnSeの表面濃化を助長して抑制力機能が著しく低下する。・・・故に、2次再結晶完了までに箱内の雰囲気を低酸化性に保つために、2cc/分・kg以上のガス流量が必要である。・・・純化では前述したごとくやはり2cc/分・kg以上のガス流量にして雰囲気露点を0℃以下に制御することが必要である。何故なら、たとえ2次再結晶が十分でも、純化時ガス流量が2cc/分・kg未満であると純化不十分による磁性劣化が生じるからである。
このようにN2ガスとH2ガス流量を増やすことにより、十分な2次再結晶化と十分な純化が達成でき、本発明の目的を達成することができる。以上の理由から仕上げ焼鈍におけるガス流量は2cc/分・kg以上に限定した。」(第5頁右上欄11〜左下欄18行)
(3f)「実施例6
C:0.050%,Si:3.35%,Mn:0.086%とインヒビターとしてS:0.025%,Se:0.015%のほかにSb:0.020%,Mo:0.015%,Bi:0.017%,Te:0.019%を含み残部実質的にFeより成る220mm厚の連鋳スラブをいずれも1410℃に1時間加熱後、2.2mm厚に熱延し、960℃で1.5minの焼鈍後酸洗して0.64mm厚に中間冷延し、950℃で2minの中間焼鈍後圧下率66%で最終冷延して0.22mm厚に仕上げた。
次いで・・・脱炭焼鈍を施したのち、MgOを主体とする分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す。この際にドライN2雰囲気中で・・・2次再結晶を完了させた後、ドライH2雰囲気に変更して・・・10時間保定後、35℃/hで冷却して500℃に到達した後ドライN2雰囲気に切換えた。この仕上げ焼鈍の際の2次再結晶完了までのN2雰囲気のガス流量を4水準に純化焼鈍の領域のH2雰囲気のガス流量を4水準に変更した。なおN2雰囲気の露点(DP)は400℃に昇温された時点で測定した。
仕上げ焼鈍後にMgOを除去して張力コーティングを施し、フラットニング焼鈍した後・・歪取焼鈍後0.5kg重さで磁気特性B10(T),W17/50(W/kg)を測定した。また仕上げ焼鈍後MgOを除去したままのフォルステライト被膜付のS,Se,N成分の分析及び2次再結晶率の測定を行ない、第6表に3成分の合計含有量と2次再結晶率,磁気特性を示す。
同表から明らかなように、ガス流量がN2,H2ガスともに本発明の範囲を満たしているものは、高い磁束密度と低い鉄損値が得られている。」(第8頁右下欄11行〜第9頁右上欄5行)

(4)甲第4号証:「川崎製鉄技報」第15巻(昭和58年)第4号、56〜60頁
珪素鋼用回転焼鈍炉に関し、56頁右欄には、炉の設備仕様が記載され、57頁のFig.2には、炉の構造図が示されている。

(5)甲第5号証:日本鉄鋼協会編「改訂5版 鋼の熱処理」丸善発行、274〜275頁
274頁の図5・116には、ベル型コイル焼なまし炉の構造図と設備仕様が記載されている。

(6)甲第6号証:「The Making,Shaping and Treating of Steel」1113〜1116頁(1985)
「箱焼鈍設備-箱焼鈍設備は、鋼内容物(コイル)を載置するベースと、熱を付与する炉と、通常、該鋼内容物をぴったり覆い、かつ鋼の酸化を防止する保護雰囲気を内蔵するインナーカバーからなっている。」(1113頁左欄下から3行〜右欄下から11行)

(7)甲第7号証:特開平5-171284号公報
「【0008】
【実施例】 Si 3.3%,C 0.060%, Mn 0.070%, Al 0.025%, N 0.0070%, Se 0.020%残部は実質上Feから成る板厚 2.2mmの方向性珪素鋼板用熱延鋼板を中間焼鈍をはさむ2回の冷延により、0.23mmに圧延した。この冷延鋼を水素気流中 840℃で実質 120秒の均熱処理の脱炭焼鈍を行った。この時の炉内酸化度は 0.6〜 0.7の間に保定した。脱炭焼鈍後、 MgOを塗布し仕上焼鈍を図1(a)のパターンAで行った。実験条件は次の3通りを行った。
(1)仕上焼鈍の 800℃までの加熱中の雰囲気ガスをN2/H2を 70/30の比率で用い0.2Nm3/ hr・tの流量で吹き込んだ。この時の酸化度は0.11以下であった。
(2)・・・」
「【0012】
【発明の効果】本発明では、脱炭焼鈍を一定範囲の雰囲気中で、その後、仕上焼鈍雰囲気の酸化度を0.20以下にすることにより、磁気特性, 被膜特性に優れた方向性珪素鋼を製造することができるようになった。」

3-4.当審の判断
3-4-1.特許法第29条違反について
(1)本件発明1について
本件発明1は、Biを含む一方向性電磁鋼板用素材を用い、仕上げ焼鈍をコイル状で行う場合、二次再結晶不良や、二次再結晶しても{110}<001>方位集積度の低下が生じて、B8≧1.92Tの励磁特性が得られない場合が少なくないという課題を解決し、磁束密度の高い一方向性電磁鋼板を安定的に製造することを目的とするものであり(本件特許明細書段落【0007】、【0029】)、仕上げ焼鈍中に生じている脱Bi挙動が、二次再結晶開始前の結晶粒成長や、インヒビターの分解に影響を及ぼしており、かつ、脱Bi挙動は、仕上げ焼鈍中の雰囲気ガス流れに大きく影響されるという知見(【0028】)に基づき、素材のBi含有量と雰囲気ガス流れとしての「雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)」の値とを請求項1に記載の範囲とすることにより上記目的を達成できるようにしたものである。
これに対し、甲第1号証には、「重量で、C :0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、S :0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.010〜0.065%、N :0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%を含有し更に、Bi:0.0005〜0.05%、残部:Feおよび不可避的不純物からなる超高磁束密度一方向性電磁鋼板用素材」(特許請求の範囲の請求項2)を用い、「その素材からなるスラブを出発材として加熱した後熱延し、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数の冷延によって製品板厚に仕上げた後に、脱炭焼鈍し、焼鈍分離材を塗布後、仕上焼鈍をする超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法」(段落【0026】〜【0029】)の発明が記載されており、この甲第1号証に記載の発明と本件発明1とを対比すると、両者は、素材の成分組成が重複し、かつ、その素材の加工や処理の工程が共通する超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法である点で一致している。
しかしながら、本件発明1が、スラブ中のBiの含有範囲を0.001〜0.01%とするとともに、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を、20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)、に示す範囲としたのに対し、甲第1号証に記載の発明では、スラブ中のBiの含有範囲は0.0005〜0.05%と本件発明1の発明の範囲より広く、かつ、雰囲気ガス流量が不明である点で、両者は相違している。
そこで、この相違点について検討する。
甲第3号証には、「一連の工程からなる一方向性珪素鋼板の製造方法において、該最終仕上げ焼鈍のガス流量を2cc/分・kg以上とすることを特徴とする磁気特性の優れた一方向性珪素鋼板の製造方法」(3a)について記載され、さらに、インヒビターとしてスラブ中にBiを0.010〜0.20%程度含有できること(3d)や、実施例6にインヒビターとしてS:0.025%,Se:0.015%のほかにSb:0.020%,Mo:0.015%,Bi:0.017%,Te:0.019%を含むこと(3f)が記載されている。そして、本件発明1の実施例1の雰囲気ガス流量は、鋼板重量当たりに換算すると3.27cc/分・kgと計算できるから(炉内容積=1m3と鋼板体積(スラブ体積)=0.4m3から、雰囲気ガス流量は0.6Nm3/h=0.01Nm3/分=104cc/分と計算でき、鋼の密度7650kg/m3より鋼板重量を3060kgとすると、雰囲気ガス流量は10000/3060=3.27cc/分・kgとなる)、単にガス流量だけをみれば、本件発明1の「20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)」を満たす流量と、甲第3号証に記載された「2cc/分・kg以上」の流量とは、炉内容積と鋼板体積の組合せによっては重複する場合があるといえる。
しかしながら、本件発明1は、図1に示されるように、0.001〜0.01%という特定のBi範囲において、20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)を満たす雰囲気ガス流量とすることにより、二次再結晶不良や、二次再結晶粒の{110}<001>方位集積度の低下が生じることなく、安定してB8が1.949T以上の超高磁束密度一方向性電磁鋼板が製造できるものであるのに対し、甲第3号証に記載の発明が2cc/分・kg以上の雰囲気ガス流量で仕上焼鈍するのは、2次再結晶完了までは雰囲気を低酸化性に保ち、純化では雰囲気露点を0℃以下に制御することにより、十分な2次再結晶化と十分な純化を達成して、薄手一方向性珪素鋼の磁気特性をさらに改善するためであり(3b、3c)、上記本件発明1のような脱Bi挙動を制御するものではなく、かつ、Biの含有範囲も0.01%以上であるから、甲第3号証に上記のような仕上焼鈍の雰囲気ガス流量が示されていても、Bi含有範囲0.001〜0.01%において、本件発明1の範囲のガス流量にすることにより安定的に2次再結晶が行われることを示唆するものではない。
さらに、仕上焼鈍のガス流量について、甲第7号証には、「仕上焼鈍の 800℃までの加熱中の雰囲気ガスをN2/H2を 70/30の比率で用い0.2Nm3/ hr・tの流量で吹き込んだ。」ことが記載されているが、仕上焼鈍全体のガス流量については何ら記載されておらず、しかも、その流量が仕上焼鈍の際の一般的なガス流量であるとも認められない。
その他、甲第2号証や甲第4〜6号証にも、仕上焼鈍のガス流量については何ら記載されていない。
そうすると、甲第1号証には、素材にBiを含有する場合の上記本件発明1の課題については何ら記載されておらず、コイル状で仕上焼鈍した場合に高磁束密度一方向性電磁鋼板が安定して得られるかどうかについては何ら記載されていないから、甲第3号証や甲第7号証に仕上焼鈍の際のガスの流量が記載されていても、甲第1号証に記載の発明において、本件発明1に係る相違点は当業者が容易に想到できることではない。
したがって、本件発明1は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、出発材としてのスラブの成分組成にさらに、Sn,Cu,SbおよびMoを所定量添加した発明である。
そうすると、本件発明2〜4も、本件発明1と同様に甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-4-2.特許法第36条違反について
明細書の記載不備の理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「Bi:0.0005〜0.02%」は、数値限定の技術的根拠が見出せないというものであるが、Biの含有範囲は、上記のように、明細書の段落【0032】の記載に基づいて「0.001〜0.01%」に訂正されたので、本件特許の明細書の記載不備は解消された。

3-4-3、当審の判断のまとめ
よって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできず、かつ、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとすることもできない。

4、むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N:0.0030〜0.0150%、
Bi:0.001〜0.01%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材として加熱した後熱延し、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数の冷延によって製品板厚に仕上げた後に、脱炭焼鈍し、焼鈍分離材を塗布後、仕上焼鈍をする超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法において、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を以下に示す範囲とすることを特徴とするB8≧1.949Tの超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)
【請求項2】重量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N:0.0030〜0.0150%、
Sn:0.05〜0.50%、
Bi:0.001〜0.01%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】重量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N:0.0030〜0.0150%、
Sn:0.05〜0.50%、
Cu:0.01〜0.10%、
Bi:0.001〜0.01%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】重量%で、
C:0.03〜0.15%、
Si:2.5〜4.0%、
Mn:0.02〜0.30%、
Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N:0.0030〜0.0150%、
SbおよびMo:0.0030〜0.3%、
Bi:0.001〜0.01%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした請求項1記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、トランス等の鉄心として用いられる{110}<001>方位集積度を高度に発達させた超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一方向性電磁鋼板は、主にトランスその他の電気機器の鉄心材料として使用されており、励磁特性、鉄損特性等の磁気特性が優れていることが要求されている。励磁特性を表す数値としては、通常800A/mの磁場における磁束密度B(これをB8と以下示す)が使用される。また鉄損特性を表す代表数値としては、W17/50(周波数50Hzにおいて1.7Tまで磁化させた時の単位1kgあたりの鉄損)が用いられる。
【0003】
磁束密度は鉄損特性の重要支配因子であり、一般的にいって磁束密度が高いほど鉄損はよい。ただしあまり磁束密度が高くなると、二次再結晶粒が大きくなることに起因して異常渦電流損失が大きくなり鉄損を悪くすることがある。これに対しては、磁区制御することによって二次再結晶粒に関係なく鉄損を改善することができる。
【0004】
一方向性電磁鋼板は製造工程の仕上焼鈍において、二次再結晶を起こさせて鋼板面に{110}、圧延方向に<001>を有するいわゆるGoss組織を発達させることによって得られる。そのなかでB8≧1.88Tの優れた励磁特性を持つものは高磁束密度一方向性電磁鋼板と呼ばれている。
【0005】
高磁束密度一方向性電磁鋼板の代表的製造方法としては、特公昭40-15644号公報、および特公昭51-13469号公報が挙げられる。Goss組織の二次再結晶を起こさせる主なインヒビターとして前者においてはMnSおよびAlNを、後者においてはMnS、MnSe、Sb等を用いている。これらの製造方法による製品は、現在世界的に生産されている。
特公昭40-15644号公報によればその製造方法は、熱延板焼鈍をした後、冷延率80〜95%の一回冷延を行うことを特徴としている。
【0006】
ところで最近、B8≧1.92Tの極めて優れた励磁特性を持つ超高磁束密度一方向性電磁鋼板が報告されている。その代表的例としては特開平6-88174号公報が挙げられる。またその製造方法の代表的例としては特開平6-88171号公報が挙げられる。いずれもスラブ中にBiを含むことを特徴としているが、その他は特公昭40-15644号公報で述べられている製造方法と変わりなく、大きな制約もない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、鋼中にBiを含むと、これによると考えられる二次再結晶不良や、二次再結晶しても{110}<001>方位集積度の低下が生じて、B8≧1.92Tの励磁特性が得られない場合が少なくない。
本発明は、かかる問題を回避し、極めて磁束密度の高い一方向性電磁鋼板を安定的に製造することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の特徴とするところは、次の通りである。
1)重量%で、C:0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N:0.0030〜0.0150%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材として加熱した後熱延し、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数の冷延によって製品板厚に仕上げた後に、脱炭焼鈍し、焼鈍分離材を塗布後、仕上焼鈍をする超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法において、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を以下に示す範囲とすることを特徴とするB8≧1.949Tの超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)
【0009】
2)重量%で、C:0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N:0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした前記1)記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
3)重量%で、C:0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N:0.0030〜0.0150%、Sn:0.05〜0.50%、Cu:0.01〜0.10%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした前記1)記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【0011】
4)重量%で、C:0.03〜0.15%、Si:2.5〜4.0%、Mn:0.02〜0.30%、Sおよび、またはSe:0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N:0.0030〜0.0150%、SbおよびMo:0.0030〜0.3%、Bi:0.001〜0.01%、残部:Feおよび不可避的不純物からなるスラブを出発材とした前記1)記載の超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法。
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。まず本発明の成分条件について説明する。
Cは0.03%未満では、熱延に先立つスラブ加熱時において結晶粒が異常粒成長し、製品において線状細粒と呼ばれる二次再結晶不良を起こすので好ましくない。一方0.15%を超えた場合では、冷延後の脱炭焼鈍において脱炭時間が長時間必要となり経済的でないばかりでなく、脱炭が不完全となりやすく、製品での磁気時効と呼ばれる磁性不良を起こすので好ましくない。
【0013】
Siは鋼の電気抵抗を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減するのに極めて有効な元素であるが、2.5%未満では製品の渦電流損失を抑制できない。また4.0%を超えた場合では、加工性が著しく劣化して常温での冷延が困難になるので好ましくない。
【0014】
Mnは二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれるMnSおよび、またはMnSeを形成する重要な元素である。0.02%未満では二次再結晶を生じさせるのに必要なMnSの絶対量が不足するので好ましくない。一方0.30%を超えた場合は、スラブ加熱時の固溶が困難になるばかりでなく、熱延時の析出サイズが粗大化しやすくインヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれて好ましくない。
【0015】
Sおよび、またはSeは上掲したMnとMnSおよび、またはMnSeを形成する重要な元素である。上記範囲を逸脱すると十分なインヒビター効果が得られないので0.005〜0.040%に限定する必要がある。
【0016】
酸可溶性Alは、高磁束密度一方向性電磁鋼板のための主要インヒビター構成元素であり、0.015%未満では量的に不足してインヒビター強度が不足するので好ましくない。一方0.040%超ではインヒビターとして析出させるAlNが粗大化し、結果としてインヒビター強度を低下させるので好ましくない。
【0017】
Nは上掲した酸可溶性AlとAlNを形成する重要な元素である。上記範囲を逸脱すると十分なインヒビター効果が得られないので0.0030〜0.0150%に限定する必要がある。
【0018】
更にSnについては薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効であり、また二次再結晶粒を小さくする作用もある。この効果を得るためには、0.05%以上の添加が必要であり、0.50%を超えた場合にはその作用が飽和するのでコストアップの点から0.50%以下に限定する。
【0019】
CuについてはSn添加鋼の一次被膜向上元素として有効である。0.01%未満では効果が少なく、0.10%を超えると製品の磁束密度が低下するので好ましくない。
【0020】
SbおよびMoについては薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効である。この効果を得るためには、それぞれ0.0030%以上の添加が必要であり、0.30%を超えた場合にはその作用が飽和するのでコストアップの点から0.30%以下に限定する。
【0021】
Biは本発明であるB8≧1.949Tの超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造において、そのスラブ中に必須の元素である。すなわち磁束密度向上効果がある0.001%未満ではその効果が充分に得られず、また0.01%を超えた場合は磁束密度向上効果が飽和するだけでなく、熱延コイルの端部に割れが発生するので好ましくない。
【0022】
次に本発明の製造工程について説明する。
上記のごとく成分を調整した超高磁束密度一方向性電磁鋼板製造用溶鋼は、通常の方法で鋳造する。特に鋳造方法に限定はない。次いで通常の熱間圧延によって熱延コイルに圧延される。
【0023】
引き続いて、熱延板焼鈍後仕上げ冷延、あるいは中間焼鈍を含む複数の冷延、あるいは熱延板焼鈍後中間焼鈍を含む複数の冷延によって製品板厚に仕上げるわけであるが、仕上げ冷延前の焼鈍では結晶組織の均質化と、AlNの析出制御を行う。
【0024】
冷延後に連続脱炭焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布後、仕上げ焼鈍をするわけであるが、この時の雰囲気ガス流量を以下に示す範囲とすることを本発明は特徴としている。
20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)
仕上げ焼鈍後には、連続歪取り焼鈍・二次被膜塗布および焼き付けを行う。更に必要に応じてレーザ照射、溝等の磁区細分化処理を施す。
【0025】
以下に、仕上げ焼鈍時の雰囲気ガス流量を上記の範囲にした理由を述べる。
本発明者らは、超高磁束密度一方向性電磁鋼板を安定して製造するために、仕上げ焼鈍時の雰囲気ガス流量に注目して以下の実験を行った。
【0026】
[実験1]
C:0.079%、Si:3.26%、
Mn:0.08%、S:0.025%、
酸可溶性Al:0.025%、N:0.0086%、
Bi:0〜0.0200%
以上を含有する0.5m3のスラブを通常工程でMgOを主成分とする焼鈍分離材塗布まで行った。その後、炉内容積が1m3の仕上げ焼鈍炉に挿入し、窒素:水素=1:3で構成される雰囲気ガスの流量を0.1〜10Nm3として仕上げ焼鈍し、さらに後工程処理を行い、得られた鋼板のB8値を測定した。
図1にBi含有量と、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)の値と、得られた鋼板のB8値を示す。
【0027】
図から明らかなように、Bi含有量が5ppm未満の場合は、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)<1.0Nm3/(h・m3)でも、磁束密度は1.0Nm3/(h・m3)以上とした場合のそれと差異が認められない。しかしBi含有量が10ppm以上の場合、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)<1.0Nm3/(h・m3)とした場合では、B8 =1.95Tもあるが殆どは1.94T以下であるのに対して、1.0Nm3/(h・m3)以上とした場合では全てがB8≧1.949Tとなっている。
【0028】
これは、仕上げ焼鈍中に生じている脱Bi挙動が仕上げ焼鈍中の雰囲気ガス流れに大きく影響しており、このことが二次再結晶開始前の結晶粒成長や、インヒビターの分解にも影響を及ぼして、{110}<001>方位集積度の低い状態や二次再結晶不良を引き起こしていると考えられる。
【0029】
仕上げ焼鈍は一般的にコイル状で行われる。そのためコイルの内外周部、上下部では雰囲気ガスとの接触状態が大きく違うことは容易に想像できる。この接触状態の差異は、コイル各部での脱Bi挙動の差異を生むと考えられる。Biが必要以上に地鉄中、あるいは表面酸化層中に滞在すると、二次再結晶開始前の結晶粒成長を抑制すると考えられる。これによって二次再結晶開始がより低温側で生じて{110}<001>方位以外の結晶粒が二次再結晶し、集積度の低い製品になると考えられる。
【0030】
またBiの必要以上の地鉄中、あるいは表面酸化層中での滞在は、インヒビターの分解を遅延させ、それによって二次再結晶開始温度が上昇するとも考えられる。このことは{110}<001>方位以外の結晶粒を正常粒成長が生じやすくなるため、二次再結晶不良の原因になると考えられる。
【0031】
以上の実験1の結果から、仕上げ焼鈍時の雰囲気ガス流量を以下に示す範囲とすることが、{110}<001>方位集積度の極めて優れた超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造に極めて重要であることが判明した。
20≧雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)≧1.0Nm3/(h・m3)
なお雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)の上限値は、特に限定されるものではないが、コストの観点から20Nm3/(h・m3)以下とすることが望ましい。また雰囲気ガスについては窒素と水素の混合ガスが望ましいが、その混合比は特に限定されるものではない。
【0032】
このような考えに基づいて、図1においてもっとも好ましい範囲を表示した。Biの含有量は0.001〜0.01%、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)は1.0以上20以下(Nm3/(h・m3))である。
【0033】
高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造において、仕上げ焼鈍中のガス流量を制御することは、これまでにも述べられている。例えば、特開平2-125815号公報が挙げられる。
これは仕上げ焼鈍中のガス流量を2cc/分・kg以上とすることによって、地鉄中とフォルステライト中のS、Se、Nの純化が著しく改善されて、磁束密度や鉄損特性が向上するとしている。
【0034】
これに対し本発明は、地鉄中のBiの仕上げ焼鈍における挙動が二次再結晶挙動に多大な影響を及ぼすと考え、その挙動を仕上げ焼鈍中のガス流量によって制御しようとするものであり、従来技術とはまったく異なる。
【0035】
【実施例】
[実施例1]
C:0.078%、Si:3.23%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.025%、N:0.0084%、Bi:0.0026%を含有する0.4m3のスラブを1350℃で加熱後直ちに熱延して2.4mm厚の熱延コイルとした。
【0036】
熱延コイルに1100℃の焼鈍を施し、一回冷延で0.220mm厚とした後、850℃で脱炭焼鈍を行った。
次にMgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、炉内容積が1m3の仕上げ焼鈍炉に挿入し、窒素:水素=1:1で構成された雰囲気ガスの流量を0.2Nm3/hと0.6Nm3/hとして焼鈍した。その後、二次被膜塗布を行った。
【0037】
雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)と磁束密度B8を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より明らかなように、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)を1.00Nm3/(h・m3)とすることで極めて優れた磁束密度が得られている。
【0040】
表1に示す試料にレーザ照射による磁区制御を行った後の鉄損値W17/50を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2より明らかなように、磁区細分処理後の鉄損特性も極めて優れており、工業的に非常に価値の高い有益なものといえる。
【0043】(削除)
【0044】(削除)
【0045】(削除)
【0046】(削除)
【0047】(削除)
【0048】(削除)
【0049】(削除)
【0050】(削除)
【0051】
[実施例4]
C:0.078%、Si:3.30%、Mn:0.08%、Se:0.025%、酸可溶性Al:0.025%、N:0.0084%、Sb:0.022%、Mo:0.014%、Bi:0.0080%を含有する0.5m3のスラブを1330℃で加熱後直ちに熱延して2.3mm厚の熱延コイルとした。
1000℃の中間焼鈍を挟む二回冷延で0.220mm厚とした後、860℃で脱炭焼鈍を行った。
【0052】
次にMgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、炉内容積が1.0m3の仕上げ焼鈍炉に挿入し、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガスの流量を0.1Nm3/hと10.0Nm3/hとして焼鈍した。その後、二次被膜塗布を行った。
雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)と磁束密度B8を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
表5より明らかなように、雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)を20.0Nm3/(h・m3)とすることで極めて優れた磁束密度が得られている。
【0055】
【発明の効果】
以上説明した通り本発明は、Biを添加含有した一方向性電磁鋼板の製造方法において、仕上げ焼鈍における雰囲気ガス流量を調整することによって、超高磁束密度一方向性電磁鋼板が得られるとともに、磁区細分化処理後の鉄損特性も極めて優れており、工業的に非常に価値の高いものといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
Bi含有量と雰囲気ガス流量/(炉内容積-鋼板体積)と磁束密度B8の相関を示す図表である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-22 
出願番号 特願平7-150423
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C21D)
P 1 651・ 121- YA (C21D)
P 1 651・ 531- YA (C21D)
最終処分 維持  
特許庁審判長 中村 朝幸
特許庁審判官 綿谷 晶廣
酒井 美知子
登録日 2003-05-30 
登録番号 特許第3434936号(P3434936)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 超高磁束密度一方向性電磁鋼板の製造方法  
代理人 田村 弘明  
代理人 田村 弘明  
代理人 矢葺 知之  
代理人 津波古 繁夫  
代理人 津波古 繁夫  
代理人 杉村 興作  
代理人 矢葺 知之  

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