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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C01B 審判 全部申し立て 1項1号公知 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1127374 |
異議申立番号 | 異議2003-70195 |
総通号数 | 73 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-09-08 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-24 |
確定日 | 2005-10-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3305995号「リチウム二次電池負極用黒鉛粒子」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3305995号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3305995号(出願日:平成9年11月14日、優先日:平成 8年12月26日)の手続の経緯は次のとおりである。 設定登録 平成14年 5月10日 特許掲載公報発行 平成14年 7月24日 特許異議申立 平成15年 1月24日 (異議申立人:三菱化学株式会社) 取消理由通知 平成15年 6月17日付け 訂正請求 平成15年 8月21日 (平成17年9月21日取り下げ) 特許異議意見書 平成15年 8月21日 審尋 平成15年11月17日 回答書 平成16年 2月10日 取消理由通知 平成17年 8月24日付け 訂正請求 平成17年 9月21日 II.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求の内容は、特許明細書を平成17年9月 5 日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、次の(1)〜(8)のとおりに訂正するものである。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の「・・・であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子」を、「・・・であり、前記黒鉛粒子のアスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子」と訂正する。 (2)訂正事項b 特許請求の範囲の請求項2,5を削除し、請求項3,4,6をそれぞれ請求項2〜4に繰り上げるとともに、新請求項2,4の引用する項をそれぞれ「1」、「3」とし、新請求項3の「リチウム二次電池負極用黒鉛粒子」の前に「請求項1記載の」という文言を加入する。 (3)訂正事項c 段落【0001】を「【発明の属する技術分野】本発明は、新規な黒鉛粒子関する。さらに詳しくは、ポータブル機器、電気自動車、電力貯蔵等に用いるのに好適な、急速充放電特性、サイクル特性等に優れたリチウム二次電池を得るための黒鉛粒子に関する。」と訂正する。 (4)訂正事項d 段落【0004】を、「【発明が解決しようとする課題】請求項1及び3に記載の発明は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適な黒鉛粒子を提供するものである。」と訂正する。 (5)訂正事項e 段落【0005】を、「請求項2及び4に記載の発明は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れ、かつ第一サイクル目の不可逆容量が小さく、リチウム二次電池に好適な黒鉛粒子を提供するものである。」と訂正する。 (6)訂正事項f 段落【0006】を、「【課題を解決するための手段】本発明は、102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.4〜2.0cc/gであり、前記黒鉛粒子のアスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。また本発明は、1×102〜2×104Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.08〜0.4cc/gである上記リチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。」と訂正する。 (7)訂正事項g 段落【0007】を、「また本発明は、比表面積が8m2/g以下である上記いずれかのリチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。」と訂正する。 (8)訂正事項h 段落【0035】を、「【発明の効果】請求項1及び3に記載の黒鉛粒子は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適なものである。」と訂正する。 (9)訂正事項i 段落【0036】を、「請求項2及び4に記載の黒鉛粒子は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れ、かつ第一サイクル目の不可逆容量が小さく、リチウム二次電池に好適なものである。」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項aについて 訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「リチウム二次電池負極用黒鉛粒子」を、「前記黒鉛粒子のアスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にある」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項aは、特許明細書の請求項2、段落【0013】の「またアスペクト比が5以下である黒鉛粒子は、集電体上で粒子が配向し難い傾向があり、上記と同様にリチウムを吸蔵・放出し易くなるので好ましい。・・・」、段落【0010】の「黒鉛粒子は・・・扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた黒鉛粒子を用いることが好ましい。・・・複数の扁平状の粒子の配向面が非平行とは、それぞれの粒子の形状において有する扁平した面、換言すれば最も平らに近い面を配向面として、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合している状態をいう。」及び同【0011】の「この黒鉛粒子において扁平状の粒子は集合又は結合している・・・」という記載を根拠とするものであるから、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であって、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項bについて 訂正事項bは、請求項2,5を削除したことに伴い、請求項の項番の繰り上げ、当該削除及び繰り上げに伴い、新請求項2,4における引用項を整合し、かつ、独立項であった旧請求項4を「請求項1」を引用する新請求項3項に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的としてする訂正であって、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項c〜iについて 訂正事項c〜iは、上記訂正事項a,bと整合させるためのものであり、訂正事項fは、併せて明らかな誤記の訂正を行ったものであるから、明りょうでない記載の釈明、及び誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正であって、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する平成15年改正前の特許法第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議の申立てについての判断 1.特許異議の申立ての理由、取消理由の概要 特許異議の申立ての理由の概要は、次の理由1〜6のとおりである。 理由1:本件の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1,2,5号証に記載された発明、若しくは甲第6,7号証からその優先日前に日本国内において公然実施をされていたことが明らかな発明(以下「甲第6,7号証の公知・公用発明」という。)であるか、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1〜3,5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由2:本件の請求項2に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、若しくは甲第6,7号証の公知・公用発明であるか、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由3:本件の請求項3に係る発明は、甲第1,2,5号証に記載された発明、甲第6,7号証の公知・公用発明、若しくは、その出願の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第8〜11号証に記載された発明であるか、甲第1〜3,5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由4:本件の請求項4に係る発明は、甲第5,8〜11号証に記載された発明、又は甲第6,7号証の公知・公用発明であるか、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由5:本件の請求項5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明、又は甲第6,7号証の公知・公用発明であるか、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由6:本件の請求項6に係る発明は、甲第1,2,5,8〜11号証に記載された発明、又は甲第6,7号証の公知・公用発明であるか、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 平成15年6月17日付け取消理由の概要は、次の理由7〜10のとおりである。 理由7:本件の請求項1〜6に係る発明は、甲第6,7号証の公知・公用発明であるから、請求項1〜6に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由8:本件の請求項1,3に係る発明は、刊行物1,2(それぞれ甲第1,2号証と同じ)に記載された発明であるか、刊行物1〜3(刊行物は甲第3号証と同じ)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1,3に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由9:本件の請求項3〜6に係る発明は、刊行物4〜7(それぞれ甲第8〜11号証と同じ)に記載された発明であるか、刊行物4〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3〜6に係る発明の特許は特許法第29条第1項、第2項の規定に違反してされたものである。 理由10:本件の請求項1〜6に係る特許は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項若しくは第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2.本件訂正発明 本件の請求項1〜4に係る発明は、上記訂正が認容されるから、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された以下のとおりのものと認められる(以下、請求項1〜4に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1〜4」という。)。 「【請求項1】102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.4〜2.0cc/gであり、前記黒鉛粒子のアスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項2】比表面積が8m2/g以下である請求項1記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項3】1×102〜2×104Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.08〜0.4cc/gである請求項1記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項4】比表面積が8m2/g以下である請求項3記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。」 3.証拠方法とその記載内容 (1)甲第1号証:特開平5-307977号公報 以下の記載がされている。 (1-ア)「 再充電可能な正極と、再充電可能な負極と、電解質塩を溶解してなる非水電解液とを兼ね備えた二次電池の、前記負極用の電極材料であって、多相構造を有する炭素質物粒子(A)と、単相構造を有する炭素質物粒子(B)との混合物で、該炭素質物粒子(A)は、X線広角回折による(002)面の面間隔d002 が3.35Å以上3.39Å以下のピークを有し、波長5145Åのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、 R=IB /IA(ただし、IA はラマンスペクトルにおいて、1580〜1620cm-1の範囲に存在するピークPA の強度を、IB は1350〜1370cm-1の範囲に存在するピークPB の強度とする)で示されるR値が0.2以上である炭素質物の粒子であり、該炭素質物粒子(B)はX線広角回折による(002)面の面間隔(d002 )が3.36Å以上3.60Å以下のピークを有し、比表面積が7m2/g以下である炭素質物の粒子であることを特徴とする電極材料。」(特許請求の範囲の請求項1) (1-イ)「【産業上の利用分野】本発明は、非水溶媒二次電池(以下単に二次電池とする)に関し、特に高容量で充放電特性にすぐれ、かつ信頼性の高い二次電池及びその電極材料に関する。 【従来の技術】高容量の二次電池としてリチウム二次電池の開発が注目されており、電極材料として種々の物質が検討されている。・・・」(【0002】〜【0003】) (1-ウ)「本発明による電極材料は、多相構造を有する炭素質物粒子(A)と単相構造を有する炭素質物粒子(B)との混合物である。本発明の電極材料を構成する炭素質物粒子(A)は、核を形成する炭素質物(N)と、この核の表面に形成される表層の炭素質物(S)の少なくとも2相からなる多相構造を有する。」(【0010】) (1-エ)「さらに、本発明に用いられる炭素質物は、水銀ポロシメーターによる細孔容積が、好ましくは0.05ml/g以上2ml/g以下、より好ましくは0.10ml/g以上1.5ml/g以下、さらに好ましくは0.15〜1.0ml/g、とくに好ましくは0.20〜0.9ml/gである。前述のとおり、本発明の電極材料は多相構造を有する炭素質物粒子(A)と、単相構造を有する炭素質物粒子(B)の混合物からなる。」(【0032】) (1-オ)「また、炭素質物粒子(B)は、球状であることが好ましい。・・・」(【0036】) (1-カ)「核となる炭素質物(N)は、粒子状ないし繊維状であり、好ましくは粒子状である。・・・」(【0042】) (2)甲第2号証:特開平5-335016号公報 以下の記載がされている。 (2-ア)「【請求項1】下記(1)を満足する炭素質物からなる電極材料。 (1)多相構造を有する炭素質物粒子であって、該炭素質物粒子は、X線広角回折による(002)面の面間隔d002 が3.35Å以上3.37Å以下のピークを有し、波長5145Åのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、下記R値が0.11以上1.0以下であり、比表面積(Sm2/g)と真密度(ρg/cm3)とがS≦41-15ρを満たす炭素質物。 R=IB /IA (ラマンスペクトルにおいて、1580〜1620cm-1の範囲にピークPA を有し、1350〜1370cm-1の範囲にピークPB を有し、PA の強度をIA ,PB の強度をIBとする) 【請求項2】 再充電可能な正極と、再充電可能な負極と、電解質塩を溶解してなる非水電解液とを兼ね備えた二次電池であって、該負極が請求項1記載の炭素質物を50〜98重量%含み、電解液が下記(2)を満たす電解液であることを特徴とする二次電池 (2)・・・」(特許請求の範囲の請求項1,2) (2-イ)「【産業上の利用分野】本発明は、非水溶媒二次電池(以下単に二次電池とする)に関し、特に高容量で充放電特性にすぐれ、かつ信頼性の高い二次電池及びその電極材料に関する。 【従来の技術】高容量の二次電池としてリチウム二次電池の開発が注目されており、電極材料として種々の物質が検討されている。」(【0002】〜【0003】) (2-ウ)「【実施例】本発明の電極材料は、核を形成する炭素質物(N)と、この核の表面に形成される表層の炭素質物(S)の少なくとも2相の多相構造を有する炭素質物である。」(【0010】) (2-エ)「さらに、本発明に用いられる炭素質物は、水銀ポロシメーターによる細孔容積が、好ましくは0.02ml/g以上5ml/g以下、より好ましくは0.03ml/g以上4ml/g以下、さらに好ましくは0.04ml/g以上3ml/g以下、とくに好ましくは0.05ml/g以上2ml/g以下、最も好ましくは0.06ml/g以上1.8ml/g以下である。」(【0034】) (2-オ)「炭素質物(N)は、粒子状ないし繊維状であり、好ましくは粒子状である。・・・」(【0036】) (3)甲第3号証:持田勲著「炭素材の化学と工学」(1990)朝倉書店 第212頁 図9.4には、モレキュラーシーブカーボンの細孔分布を示すグラフが記載され、その横軸の細孔直径約102〜105Åの範囲に対応して、「水銀圧入法」と記載されている。 (4)甲第4号証:特願平8-348406号の願書に添付した明細書及び図面 本件特許発明の優先権主張の基礎となる出願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「優先権基礎明細書」という。)である。 (5)甲第5号証:特開平8-50897号公報 以下の記載がされている。 (5-ア)「次の工程からなる非水溶媒二次電池電極材料の製造方法。 (A)炭素質物と重質油とを混合し、混合物を得る工程。 (B)前記混合物を攪拌しながら100℃〜600℃に加熱し、中間物質を得る工程。 (C)前記中間物質を、不活性ガス雰囲気下で600℃〜2500℃に加熱し、炭素化物質を得る工程。 (D)前記炭素化物質を粉体加工する工程。」(特許請求の範囲の請求項1) (5-イ)「以下、本発明を詳細に説明する。 (1)混合原料の選択 本発明においては最終的に核を形成する黒鉛質、炭素質の粒子状炭素質物(以下、炭素質物(N)とする)は、d002が0.345nm以下、Lcが15nm以上、好ましくは、d002が0.340nm以下、Lcが50nm以上、より好ましくはLcが80nm以上であり、体積平均粒径にして30μm以下であることを満たすならば、炭素質物粒子をはじめ、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系、メソフェーズピッチ系、気相成長系それぞれの炭素繊維を粉末状に加工したものも用いることができる。・・・ 具体的な炭素質物(N)の調整方法としては、・・・(c)人造黒鉛、天然黒鉛、気相成長黒鉛ウィスカー、炭素繊維をそのままか、あるいは粒子径、繊維長の調整を行った後、粉末状にして用いる方法。などを用いることができる。 一方、最終的に炭素質物(N)を被覆する炭素質物(以下、炭素質物(S)とする)の原料には、重質油を用いる。重質油としては、軟ピッチ〜硬ピッチまでのコールタールピッチ、・・・エチレンタールピッチ、クレハピッチ、アシュランドピッチなど熱処理ピッチ等を用いることができる。・・・ A.混合工程 本発明における第1工程、即ち混合工程は回分式または連続式のいずれの装置で行っても良い。また、室温で行っても良いし、反応槽を加温して行っても良い。反応槽を加温することで混合物の粘度を低下させ、装置にかかる負荷を低減し、混合効率を高めることが出来る。更に混合時の槽内圧力を減圧状態にすることで、微小粉末からの脱泡効果を高め、分散性の向上を図ることも可能である。 B.中間物質を得る工程(脱揮・重縮合反応工程) ・・・炭素質物粒子(N)の細孔部分にも炭素質物(S)が充填された、品質の良好な非水溶媒二次電池負極材料を得ることができる。 C.炭素化物質を得る工程(炭素化工程) 脱揮・重縮合工程より得られた炭素質物粒子(N)と十分に芳香族化した(炭素前駆体化した)重質油からなる中間物質は本工程において窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等不活性ガス流通下で加熱される。本工程においては炭素前駆体の熱化学反応が進行し、前駆体の組成中に残留した酸素、窒素、水素が系外へ排出されるとともに、構造欠陥が加熱処理の度合いによって除去され、黒鉛化の度合いを高めていく。 本工程の加熱処理条件としては、・・・通常600℃以上、好ましくは600℃以上で・・・通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、更に好ましくは1500℃以下が好ましい範囲である。 D.粉体加工工程 こうして炭素化工程において炭素質物(S)が炭素化し、炭素質物(N)表面の一部あるいは全体を被覆した状態で複合化した生成物は本工程において、必要に応じて粉砕、解砕、分級処理など粉体加工処理を施され、非水溶媒二次電池用電極材料とする。・・・」(【0009】〜【0026】) (6)甲第6号証:分析証明書 1995年10月12日にTIMCAL LTD.から出荷され、三菱化学株式会社科学技術研究センター購買倉庫に保管された商品名SFG44(発注番号:6097、QC-UNIT番号:I-155I)なる黒鉛粒子についての分析証明書の複写物であり、この分析証明書には、当該SFG44の分析報告書、当該SFG44の似姿、当該SFG44の出荷時の分析証明の写し、当該SFG44の売り上げ記録の写し、当該SFG44の販売担当者の写しが添付されている。 この分析報告書には、当該SFG44の水銀圧入法による細孔体積が102〜106Åで1.4cc/g、102〜2×104で0.2cc/gであり、アスペクト比が1.6であり、比表面積が4.2m2/gであることが記載されている。 (7)甲第7号証:証明書 ティムカル・ジャパン株式会社の三浦一志氏による証明書であり、添付資料(1)の1992年にスイスで印刷されたLONZA G+T LTD.の標題「LONZA Carbons.」のカタログの写しには、市場として「リチウム二次電池」と、「ロンザ社の黒鉛は特に・・・リチウム一次電池、アルカリ二次電池に適している」と記載されている。添付資料(2)の販売記録の写しには、1995年11月に顧客名「三菱化学」に商品名「SFG44」を100kg販売したことが記載されている。添付資料(3)の1998年にスイスで印刷された「TIMCAL社の会社案内」には、「TIMCAL株式会社-古い歴史と新しい社名」の欄に、1989年に成立した「LONZA G+T LTD.」は、1995年に新社名「TIMCAL株式会社」となったことが記載されている。 (8)甲第8号証:米国特許第5,660,948号明細書 甲第9号証:米国特許第5,665,265号明細書 甲第10号証:米国特許第5,681,357号明細書 甲第11号証:国際公開第97/12409号パンフレット 甲第8〜11号証には、LONZA G+T LTD.又はTimcalから入手したSFG44で製造された負極を使用したリチウム二次電池が記載されている。 4.当審の判断 4-1.理由1〜9(特許法第29条第1項、第2項違反)について 本件訂正発明1〜4に対する理由1〜9は、以下のようにまとめることができる。 「本件訂正発明1〜4は、甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第5号証に記載された発明、甲第6,7号証の公知・公用発明、又は甲第8〜11号証に記載された発明と同一であるか、甲第1〜3,5号証に記載された発明、甲第6,7号証の公知・公用発明、又は甲第8〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 そこで、上記理由について、以下に検討する。 (1)本件訂正発明1について (1-1)甲第1,2,5号証に記載された発明 (i)甲1発明 甲第1号証には、「再充電可能な正極と、再充電可能な負極と、電解質塩を溶解してなる非水電解液とを兼ね備えた二次電池の、前記負極用の電極材料であって、多相構造を有する炭素質物粒子(A)と、単相構造を有する炭素質物粒子(B)との混合物」に関し(1-ア)、「二次電池」は「リチウム二次電池」であり(1-イ)、「炭素質物粒子(A)は、核を形成する炭素質物(N)と、この核の表面に形成される表層の炭素質物(S)の少なくとも2相からなる多相構造を有」し(1-ウ)、この「炭素質物」は、「水銀ポロシメーターによる細孔容積が、好ましくは0.05ml/g以上2ml/g以下」(1-エ)であり、「核となる炭素質物(N)は・・・好ましくは粒子状」であり(1-カ)、「炭素質物粒子(B)は、球状であることが好ましい」(1-オ)ことが記載されている。 ここで、水銀圧入法(水銀ポロシメーターによる測定方法)により測定できる細孔直径の範囲は、甲第3号証の記載によると102〜106Åであると認められるから、甲第1号証には、「102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、炭素質物粒子の混合物の重量当たり0.05〜2cc/gであり、粒子状の核(N)と表層(S)の多相構造を有する炭素質物粒子(A)と、単相構造を有する球状の炭素質物粒子(B)との混合物よりなるリチウム二次電池負極用炭素質物粒子の混合物。」の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。) (ii)甲2発明 甲第2号証には、「多相構造を有する炭素質物」からなる電極材料であって、「再充電可能な正極と、再充電可能な負極と、電解質塩を溶解してなる非水電解液とを兼ね備えた二次電池」用の負極材料に関し(2-ア)、この二次電池は「リチウム二次電池」であり(2-イ)、この「炭素質物」は、「核を形成する炭素質物(N)と、この核の表面に形成される表層の炭素質物(S)の少なくとも2相の多相構造を有」し(1-ウ)、「水銀ポロシメーターによる細孔容積が、好ましくは0.02ml/g以上5ml/g以下」(2-エ)であり、「炭素質物(N)は・・・好ましくは粒子状である」(2-オ)ことが記載されている。 以上の記載と、甲第3号証に記載の水銀ポロシメーターによる細孔容積の測定範囲を参酌すると、甲第2号証には、「102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、炭素質物重量当たり0.02〜5cc/gであり、粒子状である核(N)と表層(S)からなる多相構造であるリチウム二次電池負極用炭素質物。」の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。) (iii)甲5発明 甲第5号証には、「A.混合工程」、すなわち、「人造黒鉛、天然黒鉛」の粉末状物である「炭素質物(N)」と、「コールタールピッチ」等の「重質油」である「炭素質物(S)」とを混合する工程、「B.中間物質を得る工程(脱揮・重縮合反応工程)」、「C.炭素化物質を得る工程(炭素化工程)」、すなわち「窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等不活性ガス流通下」で「2500℃以下」で加熱される工程、「D.粉体加工工程」からなる(5-イ)「非水溶媒二次電池電極材料の製造方法」(5-ア)が記載されている。 上記記載から、甲第5号証には、「黒鉛とコールタールピッチ等の重質油触媒を混合し、窒素ガス、アルゴンガス等のガス流通下、2500℃以下で加熱した後、粉体加工することにより製造された非水溶媒二次電池電極材料粒子。」(以下、「甲5発明」という。)の発明が記載されているといえる。 (1-2)対比 (i)甲1発明との対比 本件訂正発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、後者の「核(N)と表層(S)の多相構造を有する炭素質物粒子(A)と、単相構造を有する炭素質物粒子(B)との混合物」は、リチウム二次電池負極用の炭素質物の粒子である点で、前者の「黒鉛粒子」と共通するから、両者は、「102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、炭素質物粒子重量当たり0.4〜2.0cc/gであるリチウム二次電池負極用炭素質物粒子。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点A:前者は、炭素質物粒子が、アスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にある黒鉛粒子であるのに対して、後者は、粒子状の核(N)と表層(S)の多相構造を有する炭素質物粒子(A)と、単相構造を有する球状の炭素質物粒子(B)との混合物である点。 (ii)甲2発明との対比 本件訂正発明1(前者)と甲2発明(後者)とを対比すると、後者の「炭素質物」は、リチウム二次電池負極用の炭素質物の粒子である点で前者の「黒鉛粒子」と共通するから、両者は、「102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、炭素質物粒子重量当たり0.4〜2.0cc/gであるリチウム二次電池負極用炭素質物粒子。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点B:前者は、炭素質物粒子が、アスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にある黒鉛粒子であるのに対して、後者は、粒子状である核(N)と表層(S)からなる多相構造の炭素質物粒子である点。 (iii)甲5発明との対比 本件訂正発明1(前者)と甲5発明(後者)とを対比すると、前者に係る「黒鉛粒子」は、本件訂正明細書【0017】〜【0022】の記載によると、「黒鉛」とタール、ピッチ等の「バインダ」に「黒鉛化触媒」を混合し、例えば「窒素雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中」、「2000℃以上」で焼成後、「粉砕」して得られるものであるから、本件訂正発明1に係る「黒鉛粒子」は、後者の「電極材料粒子」と類似の方法により製造されたものといえるが、両者は、その製造過程における「黒鉛化触媒」使用の有無において相違する。 (1-3)判断 上記相違点A,Bにおける本件訂正発明1の特定事項である「アスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にある黒鉛粒子」の技術的意義について検討すると、この事項は、本件訂正明細書【0003】に記載の「鱗状の黒鉛粒子は、アスペクト比が大きいために、バインダと混練して集電体に塗布して電極を作製したときに、鱗状の黒鉛粒子が集電体の面方向に配向し、その結果、黒鉛結晶へのリチウムの吸蔵・放出の繰り返しによって発生するc軸方向の歪みにより電極内部の破壊が生じ、サイクル特性が低下する問題がある」という従来技術における課題を解決するために特定されたものであり、同【0012】、【0013】の記載によると、「該黒鉛粒子を負極に使用すると、集電体上に黒鉛粒子が配向し難く、かつ、電解液との濡れ性が向上し、負極黒鉛にリチウムを吸蔵・放出し易くなるため、得られるリチウム二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができる。またアスペクト比が5以下である黒鉛粒子は、集電体上で粒子が配向し難い傾向があり、上記と同様にリチウムを吸蔵・放出し易くなるので好ましい。」という作用・効果を奏するものである。 これに対して、甲第1,2号証には、粒子状の核(N)と表層(S)よりなる多相構造の炭素質物(A)と球状の単相構造の炭素質物(B)との混合物、又は粒子状の核(N)と表層(S)よりなる多相構造の炭素質物(A)については記載されているものの、上記課題を解決するために炭素質物(A)と炭素質物(B)との混合物、又は炭素質物(A)のアスペクト比を5以下とすることや、複数の扁平状の粒子の集合又は結合物とすることについては、記載も示唆もされていない。 甲5発明に係る「電極材料粒子」は、黒鉛化触媒を用いずに製造されたものであり、製造過程における黒鉛化触媒の有無は、製造物である電極材料粒子の「黒鉛化度」、「アスペクト比」、「集合又は結合状態」等に影響するといえるから、製造方法を根拠として甲5発明に係る「電極材料粒子」が本件訂正発明1に係る「黒鉛粒子」と同一物であるとはいえないし、甲5発明は本件訂正発明1の「集電体上への黒鉛粒子の配向性」という課題を解決するために上記製造方法を採用したものでもないから、得られた電極材料粒子が上記課題を解決する「黒鉛化度」や「アスペクト比」、「集合又は結合状態」を有することが自明であるともいえない。 よって、本件訂正発明1は甲1,2,5発明であるといえないし、甲第1〜3,5号証の記載を組み合わせて、上記相違点A,Bにおける本件訂正発明の特定事項を導くことを当業者が容易になし得たものということもできない。 甲第6,7号証によれば、本件訂正発明の優先日前に日本国内において、TIMCAL LTD.(旧社名:LONZA G+T LTD)製のSFG44である黒鉛粒子はリチウム二次電池用負極の材料として公知・公用であり、SFG44の水銀圧入法による細孔体積は102〜106Åで1.4cc/gであると認められるから、「102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり1.4cc/gであるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。」の発明は公知・公用であったと認められる(以下、この発明を単に「公知・公用発明」という。)。 しかしながら、甲第6,7号証の記載内容から、当該SFG44が本件訂正発明1における黒鉛粒子と同じく「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態」であると認めるに足る根拠は見出せないし、SFG44が本件訂正発明1の課題に解決をもたらす配向面に関する状態を有することが自明であるとも認められないから、本件訂正発明1は、公知・公用発明であるとも、甲第1〜3,5号証に記載された発明、及び公知・公用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないものである。 甲第8〜11号証には、「TIMCAL LTD.(旧社名:LONZA G+T LTD)製のSFG44であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。」の発明が記載されているといえるが、甲第8〜11号証には、SFG44の配向面に関する状態を示唆する記載は一切されていないから、本件訂正発明1は、甲第8〜11号証に記載された発明であるとも、甲第1〜3,5号証に記載された発明、公知・公用発明、及び8〜11号証に記載された発明を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 なお、異議申立人が提出した上申書、及び審尋回答書に添付したいずれの参考資料にも、本件訂正発明1に係る「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にある黒鉛粒子」について、示唆する記載は見出せない。 (2)本件訂正発明2〜4について 本件訂正発明2〜4は、本件訂正発明1の特定事項を全て有し、さらに新たな特定事項を付加するものである。 そうすると、本件訂正発明1が、甲1,2,5発明、公知・公用発明、又は甲第8〜11号証に記載された発明であるとも、甲第1〜3,5号証に記載された発明、公知・公用発明、及び甲第8〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、本件訂正発明2〜4も、同様の理由により新規性、進歩性違反であるとはいえないものである。 4-2.理由10(特許法第36条違反)について 理由10は、訂正前の請求項4が独立請求項であることにより、「細孔体積」の意味するところが明確でないことに起因するものであったが、訂正により訂正前の請求項4は請求項1を引用する新請求項3に訂正されたから、上記理由10は解消した。 IV.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件訂正発明1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 リチウム二次電池負極用黒鉛粒子 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.4〜2.0cc/gであり、前記黒鉛粒子のアスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項2】比表面積が8m2/g以下である請求項1記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項3】1×102〜2×104Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.08〜0.4cc/gである請求項1記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項4】比表面積が8m2/g以下である請求項3記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、新規な黒鉛粒子に関する。さらに詳しくは、ポータブル機器、電気自動車、電力貯蔵等に用いるのに好適な、急速充放電特性、サイクル特性等に優れたリチウム二次電池を得るための黒鉛粒子に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来の黒鉛粒子としては、例えば天然黒鉛粒子、コークスを黒鉛化した人造黒鉛粒子、有機系高分子材料、ピッチ等を黒鉛化した人造黒鉛粒子、これらを粉砕した黒鉛粒子などがある。これらの黒鉛粒子は、有機系結着剤及び有機溶剤と混合して黒鉛ペーストとし、この黒鉛ペーストを銅箔の表面に塗布し、溶剤を乾燥させてリチウム二次電池用負極として使用されている。例えば、特公昭62-23433号公報に示されるように、負極に黒鉛を使用することでリチウムのデンドライトによる内部短絡の問題を解消し、サイクル特性の改良を図っている。 【0003】 しかしながら、黒鉛結晶が発達している天然黒鉛粒子及びコークスを黒鉛化した人造黒鉛粒子は、c軸方向の結晶の層間の結合力が、結晶の面方向の結合に比べて弱いため、粉砕により黒鉛層間の結合が切れ、アスペクト比が大きい、いわゆる鱗状の黒鉛粒子となる。この鱗状の黒鉛粒子は、アスペクト比が大きいために、バインダと混練して集電体に塗布して電極を作製したときに、鱗状の黒鉛粒子が集電体の面方向に配向し、その結果、黒鉛結晶へのリチウムの吸蔵・放出の繰り返しによって発生するc軸方向の歪みにより電極内部の破壊が生じ、サイクル特性が低下する問題がある。そこで、リチウム二次電池のサイクル特性が向上できる黒鉛粒子が要求されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 請求項1及び3に記載の発明は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適な黒鉛粒子を提供するものである。 【0005】 請求項2及び4に記載の発明は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れ、かつ第一サイクル目の不可逆容量が小さく、リチウム二次電池に好適な黒鉛粒子を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明は、102〜106Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.4〜2.0cc/gであり、前記黒鉛粒子のアスペクト比が5以下であり、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子黒鉛粒子に関する。また本発明は、1×102〜2×104Åの範囲の大きさの細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.08〜0.4cc/gである上記リチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。 【0007】 また本発明は、比表面積が8m2/g以下である上記いずれかのリチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。 【0008】 【発明の実施の形態】 本発明の黒鉛粒子は、2つの観点からその細孔体積に特徴を有するものである。第1には、102〜106Åの範囲の細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり、0.4〜2.0cc/gであることを特徴とする。該黒鉛粒子を負極に使用すると、充電・放電にともなう電極の膨張・収縮を黒鉛粒子の細孔が吸収するため、電極内部の破壊が抑えられ、その結果得られるリチウム二次電池のサイクル特性を向上させることができる。102〜106Åの範囲の細孔の細孔体積は、0.4〜1.5cc/gの範囲であることがより好ましく、0.6〜1.2cc/gの範囲であることがさらに好ましい。全細孔体積が、0.4cc/g未満ではサイクル特性が低下し、2.0cc/gを超えると黒鉛粒子と集電体とを一体化する際に使用する結着剤を多く必要となり、作成するリチウム二次電池の容量が低下する問題がある。前記細孔体積は、水銀圧入法による細孔径分布測定により求めることができる。細孔の大きさもまた水銀圧入法による細孔径分布測定により知ることができる。 【0009】 第2には、1×102〜2×104Åの範囲の細孔の細孔体積が、黒鉛粒子重量当たり0.08〜0.4cc/gであることを特徴とする。該黒鉛粒子を負極に使用すると、充電・放電にともなう電極の膨張・収縮を黒鉛粒子の細孔が吸収するため、電極内部の破壊が抑えられ、その結果得られるリチウム二次電池のサイクル特性を向上させることができる。1×102〜2×104Åの範囲の細孔体積は、0.1〜0.3cc/gであることがより好ましい。この大きさの範囲の細孔体積が、0.08cc/g未満ではサイクル特性が低下し0.4cc/gを超えると黒鉛粒子と集電体とを一体化する際に使用する結着剤を多く必要となり、作成するリチウム二次電池の容量が低下する問題がある。この範囲の細孔体積もまた水銀圧入法による細孔径分布測定により求めることができる。 【0010】 また、本発明の黒鉛粒子は、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させたものが好ましい。本発明において、扁平状の粒子とは、長軸と短軸を有する形状の粒子のことであり、完全な球状でないものをいう。例えば鱗状、鱗片状、一部の塊状等の形状のものがこれに含まれる。黒鉛粒子において、複数の扁平状の粒子の配向面が非平行とは、それぞれの粒子の形状において有する扁平した面、換言すれば最も平らに近い面を配向面として、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合している状態をいう。 【0011】 この黒鉛粒子において扁平状の粒子は集合又は結合しているが、結合とは互いの粒子が、タール、ピッチ等のバインダーを炭素化した炭素質を介して、化学的に結合している状態をいい、集合とは互いの粒子が化学的に結合してはないが、その形状等に起因して、その集合体としての形状を保っている状態をいう。機械的な強度の面から、結合しているものが好ましい。1つの黒鉛粒子において、扁平状の粒子の集合又は結合する数としては、3個以上であることが好ましい。個々の扁平状の粒子の大きさとしては、粒径で1〜100μmであることが好ましく、これらが集合又は結合した黒鉛粒子の平均粒径の2/3以下であることが好ましい。 【0012】 該黒鉛粒子を負極に使用すると、集電体上に黒鉛粒子が配向し難く、かつ、電解液との濡れ性が向上し、負極黒鉛にリチウムを吸蔵・放出し易くなるため、得られるリチウム二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができる。なお、図1に上記黒鉛粒子の一例の粒子構造の走査型電子顕微鏡写真を示す。図1において、(a)は本発明になる黒鉛粒子の外表面の走査型電子顕微鏡写真、(b)は黒鉛粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。(a)においては、細かな鱗片状の黒鉛粒子が数多く、それらの粒子の配向面を非平行にして結合し、黒鉛粒子を形成している様子が観察できる。 【0013】 またアスペクト比が5以下である黒鉛粒子は、集電体上で粒子が配向し難い傾向があり、上記と同様にリチウムを吸蔵・放出し易くなるので好ましい。アスペクト比は1,2〜5であることがより好ましい。アスペクト比が1.2未満では、粒子間の接触面積が減ることにより、導電性が低下する傾向にある。同様の理由で、さらに好ましい範囲の下限は1.3以上である。また、さらに好ましい範囲の上限は、3以下であり、アスペクト比がこれより大きくなると、急速充放電特性が低下し易くなる傾向がある。従って、特に好ましいアスペクト比は1.3〜3である。 【0014】 なお、アスペクト比は、黒鉛粒子の長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとしたとき、A/Bで表される。本発明におけるアスペクト比は、顕微鏡で黒鉛粒子を拡大し、任意に100個の黒鉛粒子を選択し、A/Bを測定し、その平均値をとったものである。また、アスペクト比が5以下である黒鉛粒子の構造としては、より小さい黒鉛粒子の集合体又は結合体であることが好ましく、前記の、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた黒鉛粒子を用いることがより好ましい。 【0015】 また、本発明の黒鉛粒子は、比表面積が8m2/g以下のものが好ましく、より好ましくは5m2/g以下とされる。該黒鉛粒子を負極に使用すると、得られるリチウム二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができ、また、第一サイクル目の不可逆容量を小さくすることができる。比表面積が、8m2/gを超えると、得られるリチウム二次電池の第一サイクル目の不可逆容量が大きくなる傾向にあり、エネルギー密度が小さく、さらに負極を作製する際多くの結着剤が必要になる傾向にある。得られるリチウム二次電池の急速充放電特性、サイクル特性等がさらに良好な点から、比表面積は、1.5〜5m2/gであることがさらに好ましく、2〜5m2/gであることが極めて好ましい。比表面積の測定は、BET法(窒素ガス吸着法)などの既知の方法をとることができる。 【0016】 さらに、本発明で用いる各黒鉛粒子のX線広角回折における結晶の層間距離d(002)は3.38Å以下が好ましく、3.37〜3.35Åの範囲がより好ましい。結晶の層間距離d(002)が3.38Åを超えると放電容量が小さくなる傾向がある。c軸方向の結晶子の大きさLc(002)は500Å以上が好ましく、1000〜100000Åであることがより好ましい。結晶の層間距離d(002)が小さくなるかc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が大きくなると、放電容量が大きくなる傾向がある。 【0017】 本発明の黒鉛粒子の製造法に特に制限はないが、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダに黒鉛化触媒を1〜50重量%添加して混合し、焼成した後粉砕することによりまず黒鉛粒子を得ることが好ましい。ついで、該黒鉛粒子に有機系結着剤及び溶剤を添加して混合し、粘度を調製した後、該混合物を集電体に塗布し、乾燥して溶剤を除去した後、加圧して一体化してリチウム二次電池用負極とすることができる。 【0018】 黒鉛化可能な骨材としては、例えば、コークス粉末、樹脂の炭化物等が使用できるが、黒鉛化できる粉末材料であれば特に制限はない。中でも、ニードルコークス等の黒鉛化しやすいコークス粉末が好ましい。また黒鉛としては、例えば天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末等が使用できるが粉末状であれば特に制限はない。黒鉛化可能な骨材又は黒鉛の粒径は、本発明で作製する黒鉛粒子の粒径より小さいことが好ましい。 【0019】 さらに黒鉛化触媒としては、例えば鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、硼素等の金属、これらの炭化物、酸化物などの黒鉛化触媒が使用できる。これらの中で、ケイ素または硼素の炭化物または酸化物が好ましい。これらの黒鉛化触媒の添加量は、得られる黒鉛粒子に対して好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜40重量%の範囲、さらに好ましくは5〜30重量%の範囲とされ、1重量%未満であると黒鉛粒子のアスペクト比及び比表面積が大きくなり黒鉛の結晶の発達が悪くなる傾向にあり、一方50重量%を超えると均一に混合することが困難で作業性が悪くなる傾向にある。 【0020】 バインダとしては、例えば、タール、ピッチの他、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の有機系材料が好ましい。バインダの配合量は、扁平状の黒鉛化可能な骨材又は黒鉛に対し、5〜80重量%添加することが好ましく、10〜80重量%添加することがより好ましく、15〜80重量%添加することがさらに好ましい。バインダの量が多すぎたり少なすぎると、作製する黒鉛粒子のアスペクト比及び比表面積が大きくなり易いという傾向がある。黒鉛化可能な骨材又は黒鉛とバインダの混合方法は、特に制限はなく、ニーダー等を用いて行われるが、バインダの軟化点以上の温度で混合することが好ましい。具体的にはバインダがピッチ、タール等の際には、50〜300℃が好ましく、熱硬化性樹脂の場合には、20〜100℃が好ましい。 【0021】 次に上記の混合物を焼成し、黒鉛化処理を行う。なお、この処理の前に上記混合物を所定形状に成形しても良い。さらに、成形後、黒鉛化前に粉砕し、粒径を調整した後、黒鉛化を行っても良い。焼成は前記混合物が酸化し難い条件で焼成することが好ましく、例えば窒素雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中、真空中で焼成する方法が挙げられる。黒鉛化の温度は、2000℃以上が好ましく、2500℃以上であることがより好ましく、2800℃〜3200℃であることがさらに好ましい。黒鉛化の温度が低いと、黒鉛の結晶の発達が悪く、放電容量が低くなる傾向があると共に添加した黒鉛化触媒が作製する黒鉛粒子に残存し易くなる傾向がある。黒鉛化触媒が、作製する黒鉛粒子中に残存すると、放電容量が低下する。黒鉛化の温度が高すぎると、黒鉛が昇華することがある。 【0022】 次に、得られた黒鉛化物を粉砕することが好ましい。黒鉛化物の粉砕方法は、特に制限はないが、例えばジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法をとることができる。粉砕後の粒径は、平均粒径が1〜100μmが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。平均粒径が大きくなりすぎる場合は作製する電極の表面に凹凸ができ易くなる傾向がある。なお、本発明において平均粒径は、レーザー回折粒度分布計により測定することができる。 【0023】 以上に示す工程を経ることにより、本発明の黒鉛粒子を得ることができる。得られた前記黒鉛粒子は、有機系結着剤及び溶剤を含む材料を混合して、シート状、ペレット状等の形状に成形される。有機系結着剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イオン伝導率の大きな高分子化合物等が使用できる。本発明においてイオン伝導率の大きな高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル等が使用できる。これらの中では、イオン伝導率の大きな高分子化合物が好ましく、ポリフッ化ビニリデンが特に好ましい。 【0024】 有機系結着剤の含有量は、黒鉛粉末と有機系結着剤との混合物に対して、3〜20重量%用いることが好ましい。溶剤としては特に制限はなく、N-メチル2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が用いられる。溶剤の量に特に制限はなく、所望の粘度に調整できればよいが、混合物に対して、30〜70重量%用いられることが好ましい。 【0025】 集電体としては、例えばニッケル、銅等の箔、メッシュなどの金属集電体が使用できる。なお一体化は、例えばロール、プレス等の成形法で行うことができ、またこれらを組み合わせて一体化してもよい。このようにして得られた負極はリチウムイオン二次電池やリチウムポリマ二次電池等のリチウム二次電池の負極として用いられる。例えば、リチウムイオン二次電池においては、セパレータを介して正極を対向して配置し、かつ電解液を注入する。本発明によれば、従来の炭素材料を負極に使用したリチウム二次電池に比較して、急速充放電特性及びサイクル特性に優れ、かつ不可逆容量が小さいリチウム二次電池を作製することができる。 【0026】 本発明におけるリチウム二次電池の正極に用いられる材料については特に制限はなく、LiNiO2、LiCoO2、LiMn2O4等を単独又は混合して使用することができる。電解液としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を例えばエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート等の非水系溶剤に、ポリフッ化ビニリデン等の高分子固体電解質に溶解又は含有させたいわゆる有機電解液を使用することができる。 【0027】 液体の電解液を使用する場合に用いられるセパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はこれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、図2に円筒型リチウム二次電池の一例の一部断面正面図を示す。図2に示す円筒型リチウム二次電池は、薄板状に加工された正極1と、同様に加工された負極2が、ポリエチレン製微孔膜等のセパレータ3を介して重ね合わせたものを捲回し、これを金属製等の電池缶7に挿入し、密閉化されている。正極1は正極タブ4を介して正極蓋6に接合され、負極2は負極タブ5を介して電池底部へ接合されている。正極蓋6はガスケット8にて電池缶7へ固定されている。 【0028】 【実施例】 実施例1 平均粒径が5μmのコークス粉末40重量部、タールピッチ25重量部、平均粒径が48μmの炭化ケイ素5重量部及びコールタール20重量部を混合し、200℃で1時間撹拌した。次いで、窒素雰囲気中で2800℃で焼成した後粉砕し、平均粒径が30μmの黒鉛粒子を作製した。得られた黒鉛粒子を水銀圧入法による細孔径分布測定(島津ポアサイザー9320形使用)を行った結果、102〜106Åの範囲に細孔を有し、黒鉛粒子重量当たりの全細孔体積は、0.6cc/gであった。また、1×102〜2×104Åの範囲の細孔体積は、黒鉛粒子重量当たり0.20cc/gであった。また得られた黒鉛粒子を100個任意に選び出し、アスペクト比の平均値を測定した結果、1.5であり、黒鉛粒子のBET法による比表面積は、1.5m2/gであり、黒鉛粒子のX線広角回折による結晶の層間距離d(002)は3.362Å及び結晶子の大きさLc(002)は1000Å以上であった。さらに、得られた黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)によれば、この黒鉛粒子は、扁平状の粒子が複数配向面が非平行となるように集合又は結合した構造をしていた。 【0029】 次いで得られた黒鉛粒子90重量%に、N-メチル-2-ピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて混練して黒鉛ペーストを作製した。この黒鉛ペーストを厚さが10μmの圧延銅箔に塗布し、さらに乾燥して、面圧490MPa(0.5トン/cm2)の圧力で圧縮成形し、試料電極とした。黒鉛粒子層の厚さは90μm及び密度は1.6g/cm3とした。作製した試料電極を3端子法による定電流充放電を行い、リチウム二次電池用負極としての評価を行った。図3はリチウム二次電池の概略図であり、試料電極の評価は図3に示すようにガラスセル9に、電解液10としてLiPF6をエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)(ECとDMCは体積比で1:1)の混合溶媒に1モル/リットルの濃度になるように溶解した溶液を入れ、試料電極11、セパレータ12及び対極13を積層して配置し、さらに参照極14を上部から吊るしてリチウム二次電池を作製して行った。なお、対極13及び参照極14には金属リチウムを使用し、セパレータ4にはポリエチレン微孔膜を使用した。得られたリチウム二次電池を用いて試料電極11と対極13の間に、試料電極の面積に対して、0.5mA/cm2の定電流で5mV(Vvs.Li/Li+)まで充電し、1V(Vvs.Li/Li+)まで放電する試験を繰り返した。表1にサイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの充電容量、放電容量及び30サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの放電容量を示す。 【0030】 実施例2 平均粒径が20μmのコークス粉末50重量部、ピッチ20重量部、平均粒径が48μmの炭化ケイ素7重量部及びコールタール10重量部を混合し、200℃で1時間撹拌した。次いで、窒素雰囲気中で2800℃で焼成した後粉砕し、平均粒径が30μmの黒鉛粒子を得た。得られた黒鉛粒子を水銀圧入法による細孔径分布測定(島津ポアサイザー9320形使用)を行った結果、102〜106Åの範囲に細孔を有し、黒鉛粒子重量当りの全細孔体積は、1.5cc/gであった。また、1×102〜2×104Åの範囲の細孔体積は、黒鉛粒子重量当たり0.13cc/gであった。また得られた黒鉛粒子を100個任意に選び出し、アスペクト比の平均値を測定した結果、2.3であり、黒鉛粒子のBET法による比表面積は、3.6m2/gであり、黒鉛粒子のX線広角回折による結晶の層間距離d(002)は3.361Å及び結晶子の大きさLc(002)は1000Å以上であった。さらに得られた黒鉛粒子は、扁平状の粒子が複数配向面が非平行となるように集合又は結合した構造をしていた。以下実施例1と同様の工程を経てリチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行った。表1に1サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの充電容量、放電容量及び30サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの放電容量を示す。 【0031】 比較例1 メソカーボンマイクロビーズ(川崎製鉄(株)製、商品名KMFC)を窒素雰囲気中で2800℃で焼成し、平均粒径が25μmの黒鉛粒子を得た。得られた黒鉛粒子を水銀圧入法による細孔径分布測定(島津ポアサイザー9320形使用)を行った結果、102〜106Åの範囲に細孔を有し、黒鉛粒子重量当りの全細孔体積は、0.35cc/gであった。また、1×102〜2×104Åの範囲の細孔体積は、黒鉛粒子重量当たり0.06cc/gであった。また得られた黒鉛粒子を100個任意に選び出し、アスペクト比の平均値を測定した結果、1であり、黒鉛粒子のBET法による比表面積は、1.4m2/gであり、黒鉛粒子のX線広角回折による結晶の層間距離d(002)は3.378Å及び結晶子の大きさLc(002)は500Åであった。以下実施例1と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行った。表1に1サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの充電容量、放電容量及び30サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの放電容量を示す。 【0032】 比較例2 平均粒径が5μmのコークス粉末50重量部、ピッチ10重量部、平均粒径が65μmの酸化鉄30重量部及びコールタール20重量部を混合し、200℃で1時間撹拌した。次いで、窒素雰囲気中で2800℃で焼成した後粉砕し、平均粒径が15μmの黒鉛粒子を得た。得られた黒鉛粒子を水銀圧入法による細孔径分布測定(島津ポアサイザー9320形使用)を行った結果、102〜106Åの範囲に細孔を有し、黒鉛粒子重量当りの全細孔体積は、2.1cc/gであった。また、1×102〜2×104Åの範囲の細孔体積は、黒鉛粒子重量当たり0.42cc/gであった。また得られた黒鉛粒子を100個任意に選び出し、アスペクト比の平均値を測定した結果、2.8であり、黒鉛粒子のBET法による比表面積は、8.3m2/gであり、黒鉛粒子のX線広角回折による結晶の層間距離d(002)は3.365Å及び結晶子の大きさLc(002)は1000Å以上であった。以下、実施例1と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行った。表1に1サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの充電容量、放電容量及び30サイクル目の黒鉛粒子の単位重量当りの放電容量を示す。 【0033】 【表1】 ![]() 【0034】 表1に示されるように、本発明の黒鉛粒子を用いて得られたリチウム二次電池は、高容量でサイクル特性に優れることが明らかである。 【0035】 【発明の効果】 請求項1及び3に記載の黒鉛粒子は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適なものである。 【0036】 請求項2及び4に記載の黒鉛粒子は、急速充放電特性及びサイクル特性に優れ、かつ第一サイクル目の不可逆容量が小さく、リチウム二次電池に好適なものである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-09-22 |
出願番号 | 特願平9-331007 |
審決分類 |
P
1
651・
111-
YA
(C01B)
P 1 651・ 112- YA (C01B) P 1 651・ 537- YA (C01B) P 1 651・ 536- YA (C01B) P 1 651・ 113- YA (C01B) P 1 651・ 121- YA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 安齋 美佐子 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
原 賢一 吉水 純子 |
登録日 | 2002-05-10 |
登録番号 | 特許第3305995号(P3305995) |
権利者 | 日立化成工業株式会社 |
発明の名称 | リチウム二次電池負極用黒鉛粒子 |
代理人 | 池田 幸弘 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 池田 幸弘 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 小堀 貞文 |
代理人 | 安藤 克則 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 安藤 克則 |
代理人 | 小堀 貞文 |
代理人 | 吉村 俊一 |