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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1127389
異議申立番号 異議2003-73355  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2005-11-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3460005号「水添重合体」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3460005号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 同請求項4、5に係る特許を維持する。 
理由 【I】手続の経緯
特許第3460005号の請求項1〜5に係る発明は、平成6年10月11日に出願され、平成15年8月15日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、JSR株式会社(以下「特許異議申立人」という。)より、請求項1〜5に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、平成17年3月14日付けで取消理由が通知されるとともに特許異議申立人に対して審尋がなされ、取消理由通知の指定期間内である平成17年5月23日に特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、審尋に対する回答書が提出され、平成17年6月7日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成17年8月10日に意見書が提出され、平成17年6月7日付けで特許権者と特許異議申立人の双方に審尋がなされ、平成17年8月16日に特許異議申立人から回答書が、また、平成17年8月10日に特許権者から回答書が提出されたものである。

【II】訂正の適否
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正には、下記の訂正事項が含まれている。
(訂正事項b)
特許明細書の請求項1中の「GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が30、000〜1、000、000の水添重合体。」を、「GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が60,000〜1,000,000の水添重合体。」とする訂正。
(訂正事項c)
特許明細書の請求項1の
「 【式1】

〔式中、Mwは数平均分子量を、Sはビニル芳香族炭化水素含有量を表す。〕 」を、
「【式1】
90≦H≦98.4」とする訂正。
(訂正事項d)
特許明細書の段落【0005】中の「GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量が30、000〜1、000、000の水添重合体、」を、「GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量が60,000〜1,000,000の水添重合体、」とする訂正。
(訂正事項e)
特許明細書の段落【0006】中の
「【式2】

〔式中、Mwは数平均分子量を、Sはビニル芳香族炭化水素含有量を表す。〕 」を、
「【式2】
90≦H≦98.4」とする訂正。

2.訂正拒絶理由の内容
訂正拒絶理由の概要は以下のとおりである。
(訂正事項b,dについて)
本件特許明細書には、重量平均分子量の下限が60,000であることは記載されておらず、また、訂正事項c,dにおける平均水添率が98.4%であることが直ちに重量平均分子量の下限が60,000であることを意味するものではないので、重量平均分子量の下限が60,000であることは、願書に添付された明細書に記載されていたとはいえず、また、当業者にとって自明であるともいえない。
したがって、訂正事項b,dは、願書に添付した明細書に記載した範囲内でしたものとはいえない。

3.判断
当審が通知した訂正拒絶理由に対して、特許権者は、平成17年8月10日の意見書において、「実施例3に記載された平均水添率98.4%と近似する数値である平均水添率98.5%を重量平均分子量の下限を60,000とすることの根拠としているから、訂正事項b,dは新規事項ではない。」旨を主張しているが、平均水添率98.5%という数値は願書に添付した明細書に記載していたものではないので、重量平均分子量の下限を60,000とすることは願書に添付した明細書に記載していたものとはいえず、また、当業者にとって自明であるともいえない。
したがって、訂正拒絶理由は妥当なものであるから、当該訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

【III】本件発明
当業界においてMwは重量平均分子量を意味する記号であり、請求項1に「重量平均分子量(Mw)」の記載もあることから、請求項1に記載された式1の説明中の「式中、Mwは数平均分子量」は、「式中、Mwは重量平均分子量」の明らかな誤記であると認められる。
したがって、本件特許明細書の記載からみて、本件の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項において、「式中、Mwは数平均分子量」を「式中、Mwは重量平均分子量」と読み替えたものにより特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】アニオン重合で得られる共役ジエン重合体、またはビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体、およびそれらの混合物からなる重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法により得られる重合体中の主として共役ジエンに基づく脂肪族2重結合を水素添加してなる水添重合体であって、
1.(註:原文では丸囲の1)該水添重合体の正規化したGPC曲線(A)におけるピークの最大分子量成分のピークの頂点からベースラインに引いた垂線Lの長さをL1とし、
2.(註:原文では丸囲の2)該水添重合体をオゾン分解した分解物の正規化したGPC曲線(B)を溶出時間を一致させてGPC曲線(A)に重ね合わせたときにGPC曲線(B)が垂線Lと交差する交点とベースラインとの垂線L上の距離をL2とするとき、
3.(註:原文では丸囲の3)L2/L1が0.02以上、1.0未満であることを特徴とする、
共役ジエンに基づく2重結合の平均水添率(H)(%)が下記の一般式(1)を満足する値であり、GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が30、000〜1、000、000の水添重合体。
【式1】

〔式中、Mwは重量平均分子量を、Sはビニル芳香族炭化水素含有量を表す。〕
【請求項2】アニオン重合で得られる共役ジエン重合体、またはビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体、およびそれらの混合物からなる重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法において、水添反応槽から脱ガス槽に移送する配管内に3分間以上保持することを特徴とする連続水添方法により得られる請求項1記載の水添重合体。
【請求項3】アニオン重合で得られる共役ジエン重合体、またはビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体、およびそれらの混合物からなる重合体溶液と水素ガス、下記一般式(2)で表される化合物を還元して得られる水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法において、水添反応槽から脱ガス槽に移送する配管内に3分間以上保持することを特徴とする連続水添方法により得られる請求項1記載の水添重合体。
【化1】
Cp2 MRR’ ・・・ (2)
〔式中、Cpはアルキル基で置換されていてもよいシクロペンタジエニル基を、Mはチタニウム、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれる金属を、R、R’はハロゲン、炭素数が1〜12のアルキル、アリールから選ばれる基を表し、R、R’は同一でも異なっていてもよい。〕
【請求項4】アニオン重合で得られる共役ジエン重合体、またはビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体、およびそれらの混合物からなる重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法において、水添反応槽から脱ガス槽に移送する配管内に3分間以上保持する連続水添方法により得ることを特徴とする請求項1記載の水添重合体の製造方法。
【請求項5】水添触媒が下記一般式(2)で表される化合物を還元して得られる水添触媒であることを特徴とする請求項4記載の水添重合体の製造方法。
【化1】
Cp2 MRR’ ・・・ (2)
〔式中、Cpはアルキル基で置換されていてもよいシクロペンタジエニル基を、Mはチタニウム、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれる金属を、R、R’はハロゲン、炭素数が1〜12のアルキル、アリールから選ばれる基を表し、R、R’は同一でも異なっていてもよい。〕」

【IV】特許異議申立ての概要
特許異議申立人は、甲第1〜8号証を提示し、請求項1〜5に係る特許は下記の理由により取り消されるべきである旨を主張している。
(理由1)請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(理由2)請求項1〜5に係る発明は、甲第1、6及び7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(理由3)請求項1〜5に係る特許は、明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第5項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。

【V】対比・判断
1.取消理由について
取消理由の概要は下記のとおりである。
(理由1)請求項1〜3に係る発明は、刊行物3〜4及び参考資料1〜2を参酌すると、刊行物1〜2に記載された発明であるから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(理由2)請求項4〜5に係る発明は、参考資料1〜2を参酌すると、刊行物1〜4(刊行物1〜6の誤記である。)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4〜5に係る特許は、第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用刊行物等]
刊行物1:特開平3-72512号公報(特許異議申立人提出の甲第1号証)
刊行物2:シェル化学株式会社「Shell Elastomers Cariflex TR(註:登録商標)/Kraton G(註:登録商標)」のパンフレット,1990年3月発行(同甲第2号証)
刊行物3:”日本プラスチック工業連盟誌 プラスチックス”,vol.38,No.9(1987),p.14-16(同甲第3号証)
刊行物4:”THERMOPLASTIC ELASTOMERS”, SRI社のReport No.104,1976年11月発行,p.3-4(同甲第4号証)
刊行物5:特開昭59-133203号公報(同甲第6号証)
刊行物6:特開平5-222115号公報(同甲第7号証)
参考資料1:JSR株式会社プロセス開発センター石化チーム研究員 山田雅英が作成した実験報告書(同甲第5号証)
参考資料2:KRATON Polymers社から入手したロット表(同甲第8号証)

2.刊行物等に記載された事項
(刊行物1)
(1-ア)「実施例1(水添ジエン系共重合体Q-1の製造)
内容積10lのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン5,000g、1,3-ブタジエン950gを仕込み、テトラヒドロフラン200g、n-ブチルリチウム0.3gを加えて、10℃からの断熱重合を行った。45分後に、スチレン50gを加え、さらに重合を行った。
次いで、反応液を70℃にし、n-ブチルリチウム1.5gと2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール1.5gを加え、さらにビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライド0.5g、ジエチルアルミニウムクロライド2gを加え、水素圧10kg/cm2で1時間水添した。
反応液を常温、常圧に戻してオートクレーブより抜き出し、水中に攪拌投入したのち、溶媒を水蒸気蒸留除去することによって、水添ポリマーを得た。」(12頁右上欄13行〜左下欄9行)
(1-イ)「実施例7(水添ジエン系共重合体Q-7の製造)
内容積10lのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン5,000g、スチレン150gを仕込み、テトラヒドロフラン200g、n-ブチルリチウム0.8gを加えて、50℃からの断熱重合を30分行った。反応液を10℃としたのち、1,3-ブタジエン700gを加えて重合を行い、さらにスチレン150gを加えて重合を行った。次いで、実施例1と同様にして水素化反応を行った。
得られた水添ポリマーの水素添加率は99%、数平均分子量は110,000、230℃、12.5kgの荷重で測定したメルトフローレートは2.5g/10分であった。
また、水添前のポリマーのブタジエン部分のビニル結合含量は、85%であった。」(13頁左下欄16行〜右下欄11行)
(1-ウ)「比較例4(水添ジエン系共重合体Q-11の製造)
内容積10lのオートクレーブに、脱気・脱水したシクロヘキサン5,000g、スチレン150gを仕込み、テトラヒドロフラン17g、n-ブチルリチウム0.8gを加えて、50℃からの断熱重合を30分行ったのち、1,3-ブタジエン700gを加え重合を行い、さらにスチレン150gを加え重合を行った。次いで、実施例1と同様にして水素化反応を行った。
得られた水添ポリマーの水素添加率は99%、数平均分子量は100,000、230℃、12.5kgの荷重で測定したメルトフローレートは0.38g/10分であった。
また、水添前のポリマーのブタジエン部分のビニル結合含量は、40%であった。」(14頁右上欄14行〜左下欄9行)
(1-エ)「本発明の水添ジエン系共重合体は、ブロック(B)の共役ジエン部分の二重結合の少なくと80%、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95〜100%が水添されて飽和されていることが必要であり、80%未満では耐熱性、耐候性、耐オゾン性に劣るものとなる。」(4頁左上欄13〜18行)

(刊行物5)
「本発明の水添反応はバツチ式、連続式等のいかなる方法で実施しても良い。・・・。
本発明の方法によつて、・・・共役ジエンとビニル置換芳香族炭化水素との共重合体を水添した場合、共役ジエン単位の不飽和二重結合の水添率が・・・好ましくは90%以上、かつ芳香核部分の水添率が10%以下の選択的に水添された水添共重合体を得ることができる。」(7頁左上欄9行〜右上欄1行」

(刊行物6)
「【請求項1】(a)下記式(1)(化学式省略)で表わされるビス(シクロペンタジエニル)遷移金属化合物、
(b)ケトン化合物 および
(c)有機リチウム化合物
からなり且つケトン化合物(b)のケトン性カルボニル基1当量当り有機リチウム化合物(c)のリチウム原子が1当量より少ない割合からなる水素添加触媒の存在下、オレフィン性不飽和重合体を水素と接触せしめて該オレフィン性不飽和重合体のオレフィン性不飽和結合を選択的に水素化せしめることを特徴とするオレフィン性不飽和重合体の水素化方法。」
「【0057】・・・・
本発明の水素添加反応は、バッチ式、連続式のいずれの方法でも実施できる。
本発明の水素添加反応によって、オレフィン性不飽和二重結合の80%以上、好ましくは90%以上が水素化された重合体が得られる。しかしながら、存在する場合の芳香核の二重結合の水素化は5%以下であり、実質的にほとんど水素化されない。また、本発明の水素添加反応においては、重合体の分子切断をほとんど引き起こさない。」

(参考資料1)
「2.実験方法
(i)クレイトンG1652の手持ち市販品は2000年8月に入手したLot.01.WBL1.520(1996年1月製造)である。
(ii)特開平3-72512号公報に記載の実施例7および比較例5の追試は下記のとおりに行った。
追試実験1(同実施例7の追試)
内容積10Lのオートクレーブに脱気・脱水したシクロヘキサン5,000g、スチレン150gを仕込み、テトラヒドロフラン200g、n-ブチルリチウム0.8gを加えて、50℃からの断熱重合を30分行った。反応液を10℃にした後、1,3-ブタジエン700gを加え重合を行い、さらにスチレン150gを加え重合を行った。次いで、反応液を70℃にし、n-ブチルリチウム1.5gと2,6-ジ-ブチル-p-クレゾール1.5gを加え、さらにビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライド0.5g、ジエチルアルミニウムクロライド2gを加え、水素圧10kg/cm2で1時間水添した。
反応液を常温、常圧に戻してオートクレーブより抜き出し、水中に攪拌投入したのち、溶媒を水蒸気蒸留除去することによって、水添ポリマーを得た。この水添ポリマーの試料名はバッチNo.50-1-336である。
追試実験2(同比較例5(註:比較例4の誤記と認められる。)の追試)
内容積10Lのオートクレーブに脱気・脱水したシクロヘキサン5,000g、スチレン150gを仕込み、テトラヒドロフラン17g、n-ブチルリチウム0.8gを加えて、50℃からの断熱重合を30分行ったのち、1,3-ブタジエン700gを加え重合を行い、さらにスチレン150gを加え重合を行った。次いで、反応液を70℃にし、n-ブチルリチウム1.5gと2,6-ジ-ブチル-p-クレゾール1.5gを加え、さらにビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライド0.5g、ジエチルアルミニウムクロライド2gを加えて、水素圧10kg/cm2で1時間水添した。
以下、追試実験1と同様にして水添ポリマーを得た。この水添ポリマーの試料名はバッチNo.50-1-337である。
(iii)水添ポリマーの分析
オゾン分解
オゾン分解はY.Tanaka, H.Sato, Y.Nakafutami, Y.Kashiwazaki, Macromolecules,16(12), 1925 (1983) に記載の方法に基づいて、100mgのポリマーを50mlのクロロホルムに溶解し、-30℃でオゾン1.5%を含む酸素ガスを150ml/minの流量で導入して行った。終了はヨウ化カリウム溶液が黄色に変色してから1分後とした。
GPC測定、L1/L2
JSR株式会社プロセス開発センター内のGPC測定装置[東ソー(株) 高速GPC装置:HLC-8120GPC]で上記水添ポリマーのオゾン分解処理前後のGPC分析を実施して正規化したGPC曲線を得、特許第3460005号の記載に従ってL1/L2 を求めた。測定結果を特開平8-109219号に記載されている計算方式で評価した。
水添率の測定
JSR株式会社プロセス開発センター内のプロトンNMR装置[日本電子(株)JOEL EX-270]を用い、270MHzで上記ポリマーのプロトンNMRを測定して、水添率(%)を算出した。
1,2-ビニル結合含有量の測定
1,2-ビニル結合含有量は赤外吸収スペクトル(日本分光(株)製 A102型赤外分光光度計)を用い、ハンプトン法(R.R.Hampton,Anal.Chem.29巻,9,23頁(1949年))によって算出した。

3.実験結果
結果を下記表に示す。

(註:上記表中の比較例5は比較例4の誤記であると認められる。)
オゾン分解GPC欄の丸囲数字は正規化したオゾン分解GPC曲線を示す添付図の番号である。

なお、上記オゾン分解GPCの結果の客観的評価を担保すべく、特許第3460005号の実施例1および2を同様に追試して得られた水添ポリマーについて測定したところ、L1/L2の値は実施例1の追試では0.033(特許第3460005号では0.04)、実施例2の追試では0.036、0.055(特許第3460005号では0.03)であった。これらの追試実験の正規化したオゾン分解曲線はそれぞれ添付図面の1(註:原文では丸囲の1)および2(註:原文では丸囲の2)に示されている。」(1頁下から16行〜3頁下から2行)


」(5〜11頁)

3.特許法第29条第1項第3号違反について
刊行物1の実施例1には水添方法について「反応液を70℃にし、n-ブチルリチウム1.5gと2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール1.5gを加え、さらにビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライド0.5g、ジエチルアルミニウムクロライド2gを加え、水素圧10kg/cm2で1時間水添した。」と記載され(摘示記載1-ア)、刊行物1の実施例7又は比較例4には、スチレン300g(150g+150g)と1,3-ブタジエン700gを、溶媒とn-ブチルリチウムの存在下で重合させた共重合体を含む溶液を実施例1と同様に水素添加した水添ポリマーであって、水素添加率99%、数平均分子量は110,000である水添ポリマー(実施例7)又は水素添加率99%、数平均分子量100,000である水添ポリマー(比較例4)が記載されている(摘示記載1-イ、1-ウ。以下、実施例7と比較例4の水添ポリマーを合わせて「刊行物1物発明」という。)

(本件発明1について)
本件発明1と刊行物1物発明とを対比すると、刊行物1物発明はn-ブチルリチウムの存在下で重合させていることから、本件発明1のアニオン重合を行っているものと認められる。また、刊行物1物発明の「スチレン」及び「1,3-ブタジエン」は、それぞれ本件発明1の「ビニル芳香族炭化水素」及び「共役ジエン」に相当し、刊行物1物発明の共重合体のビニル芳香族炭化水素含量は30重量%(300g÷(300g+700g))であるから、刊行物1物発明の水添前の共重合体は、本件発明1の「ビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体」に相当する。
すると、本件発明1と刊行物1物発明とは、「アニオン重合で得られるビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体からなる重合体溶液を、得られる重合体中の主として共役ジエンに基づく脂肪族2重結合を水素添加してなる水添重合体」である点で一致するが、下記の点において一応相違している。
(相違点1)本件発明1は、水添重合体が下記の条件1〜2を満足するものであるのに対し、刊行物1には当該条件1〜2に対応する記載はない点。
条件1:L2/L1が0.02以上、1.0未満であること。
条件2:共役ジエンに基づく2重結合の平均水添率(H)(%)が下記の一般式(1)を満足する値であり、GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が30、000〜1、000、000であること。

〔式中、Mwは重量平均分子量を、Sはビニル芳香族炭化水素含有量を表す。〕
(相違点2)本件発明1は、水添重合体が、重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法により得られるものであるのに対して、刊行物1に記載された水添方法は、連続式ではないバッチ式によるものである点。

そこで、上記相違点について検討すると、JSR株式会社プロセス開発センター石化チームの山田雅英による実験報告書である参考資料1(当該資料1中の比較例5は比較例4の誤記であると認められる。)には、刊行物1の実施例7と比較例4を正確に再現したところ、実施例7の追試の結果得られた水添重合体は、L2/L1=0.025であり本件発明1の条件1を満たすこと、及び、Mw(重量平均分子量)11万、S=30、水添率98.9%であり、本願発明1の式(1)の右辺にこのMwとSの値を代入すると99.96となるから、本件発明1の条件2も満たすことが示されている。また、参考資料1には、刊行物1の比較例4の追試の結果得られた水添重合体は、L2/L1=0.097であり本件発明1の条件1を満たすこと、及び、Mw(重量平均分子量)10万、S=30、水添率99.3%であり、本願発明1の式(1)の右辺にこのMwとSの値を代入すると99.61となるから、本件発明1の条件2も満たすことが示されている。
すると、刊行物1物発明は、条件1と条件2の両方を満たすことから、相違点1は、本件発明1と刊行物1物発明との実質的な相違点とはいえない。
次に、相違点2について検討すると、相違点2は物の発明である水添重合体を水添方法により特定するものであるが、相違点2の連続水添方法により得られる本件発明1の水添重合体と、バッチ式水添方法により得られる刊行物1物発明の水添重合体は、相違点1に係る本件発明1の構成を両方とも具備しており、水添方法の違いにより水添重合体の構造や物性が異なるものとはいえず、両者は物として区別することはできない。
したがって、相違点2も、実質的な相違点とはいえない。
よって、本件発明1と刊行物1物発明との間に相違点は見出せず、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるということができる。

(本件発明2について)
本件発明2と刊行物1物発明とは、「アニオン重合で得られるビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体からなる重合体溶液を、得られる重合体中の主として共役ジエンに基づく脂肪族2重結合を水素添加してなる水添重合体」である点で一致するが、下記の点において一応相違している。
(相違点1)本件発明2は、水添重合体が下記の条件1〜2を満足するものであるのに対し、刊行物1には当該条件1〜2に対応する記載はない点。
条件1:L2/L1が0.02以上、1.0未満であること。
条件2:共役ジエンに基づく2重結合の平均水添率(H)(%)が下記の一般式(1)を満足する値であり、GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が30、000〜1、000、000であること。

〔式中、Mwは重量平均分子量を、Sはビニル芳香族炭化水素含有量を表す。〕
(相違点2)本件発明2は、水添重合体が、重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法において、水添反応槽から脱ガス槽に移動する配管内に3分間以上保持する連続水添方法により得られるものであるのに対して、刊行物1に記載された水添方法は、連続式ではないバッチ式によるものである点。

まず、相違点1について検討すると、上記の本件発明1についての項で記載したとおり、刊行物1物発明も相違点1に係る本件発明2の構成を具備しているので、相違点1は実質的な相違点ではない。
次に、相違点2について検討すると、相違点2は物の発明である水添重合体を水添方法により特定するものであるが、相違点2の水添反応槽から脱ガス槽に移動する配管内に3分間以上保持する連続水添方法により得られる本件発明2の水添重合体と、バッチ式水添方法により得られる刊行物1物発明の水添重合体は、相違点1に係る本件発明2の構成を両方とも具備しており、水添方法の違いにより水添重合体の構造や物性が異なるものとはいえず、両者は物として区別することはできない。
したがって、相違点2も実質的な相違点とはいえない。
よって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明であるということができる。

(本件発明3について)
刊行物1発明の水添触媒は、ビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライドであり、これはビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライドの誤記であると認められるが、この水添触媒は、本件発明3の「一般式(2)で表わされる化合物を還元して得られる水添触媒」に相当する。
すると、本件発明3と刊行物1物発明とを対比すると、「アニオン重合で得られるビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体からなる重合体溶液を下記一般式(2)で表わされる化合物を還元して得られる水添触媒を用いて、得られる重合体中の主として共役ジエンに基づく脂肪族2重結合を水素添加してなる水添重合体」である点で一致するが、下記の点において一応相違している。
(相違点1)本件発明3は、水添重合体が下記の条件1〜2を満足するものであるのに対し、刊行物1には当該条件1〜2に対応する記載はない点。
条件1:L2/L1が0.02以上、1.0未満であること。
条件2:共役ジエンに基づく2重結合の平均水添率(H)(%)が下記の一般式(1)を満足する値であり、GPCで得られるスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が30、000〜1、000、000であること。

〔式中、Mwは重量平均分子量を、Sはビニル芳香族炭化水素含有量を表す。〕
(相違点2)本件発明3は、水添重合体が、重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法において、水添反応槽から脱ガス槽に移動する配管内に3分間以上保持する連続水添方法により得られるものであるのに対して、刊行物1に記載された水添方法は、連続式ではないバッチ式によるものである点。
しかしながら、上記本件発明2についての項で記載したとおり、相違点1〜2は実質的な相違点とはいえない。
よって、本件発明3は、刊行物1に記載された発明であるということができる。

4.特許法第29条第2項違反について
刊行物1の実施例1には、水素化反応として「反応液を70℃にし、n-ブチルリチウム1.5gと2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール1.5gを加え、さらにビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライド0.5g、ジエチルアルミニウムクロライド2gを加え、水素圧10kg/cm2で1時間水添した」ことが記載され、刊行物1の実施例7又は比較例4には、溶媒中でスチレンを合計300g(150g+150g:共重合体中のスチレン含量は30重量%(300g÷(300g+700g))、1,3-ブタジエン700gをn-ブチルリチウムの存在下で重合させた共重合体を実施例1と同様にして水素化反応を行った水添ポリマーであって、当該水添ポリマーの水素添加率は99%、数平均分子量は110,000であるもの(実施例7)又は水素添加率は99.3%、数平均分子量は100,000であるもの(比較例4)が記載されている。
すると、刊行物1には、スチレン含有量30重量%のスチレンと1,3-ブタジエンの共重合体を含む溶液にビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライドを加え、水素圧10kg/cm2で水添して、水素添加率99%、数平均分子量110,000である水添ポリマー又は水素添加率99.3%、数平均分子量100,000である水添ポリマーを製造する方法(以下「刊行物1方法発明」という。)が記載されている。

(本件発明4について)
本件発明4と刊行物1方法発明とを対比すると、刊行物1方法発明はn-ブチルリチウムの存在下で重合させていることから、本件発明4のアニオン重合を行っているものと認められる。また、刊行物1方法発明の「スチレン」及び「1,3-ブタジエン」は、それぞれ本件発明4の「ビニル芳香族炭化水素」及び「共役ジエン」に相当するから、刊行物1方法発明の水添前の共重合体は、本件発明4の「ビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体」に相当する。また、刊行物1方法発明の「ビス(シクロペンジエニル)チタニウムジクロライド(ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライドの誤記と認められる。)は、本件発明4の「水添触媒」に相当する。
したがって、本件発明4と刊行物1方法発明とは、「アニオン重合で得られる共役ジエン重合体、またはビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体、およびそれらの混合物からなる重合体溶液を水素ガスと水添触媒を用いて水添する水添重合体の製造方法」である点で一致し、下記の点で相違している。
(相違点1)本件発明4は、本件の請求項1記載の水添重合体の製造方法であるのに対して、刊行物1には、本件の請求項1に記載された水添重合体の物性については何ら記載されていない点。
(相違点2)本件発明4の水添方法は、水添前の重合体溶液と水素ガス、水添触媒とを連続的に撹拌機付きの水添反応槽に添加し、連続的に反応生成物を取り出す連続水添方法において、水添反応槽から脱ガス槽に移送する配管内に3分間以上保持する連続水添方法であるのに対して、刊行物1発明の水添方法は、実施例1の記載からみて連続水添方法ではなくバッチ式水添方法である点。

そこで、上記相違点について検討すると、上記の3.の項で記載したように、刊行物1方法発明において得られる水添重合体は、本件の請求項1に記載された水添重合体の物性(条件1〜2)を満たすことは、参考資料1において示されている。
しかしながら、刊行物5〜6に記載されるように、水添方法として連続水添方法とバッチ式水添方法がともに周知ではあるが、水添方法が違っても同じ分子量や水添率の水添重合体が得られるとはいえず、刊行物1方法発明において、バッチ式水添方法に代えて連続水添方法を採用した場合にも、本件の請求項1に記載された物性を有する水添重合体が得られるかは定かではないので、刊行物1方法発明において連続水添方法を採用することが容易であるとまではいうことはできない。
また、特許異議申立人が提出した他の証拠(参考資料2及び刊行物2〜4)をみても、上記相違点1〜2の構成を示唆する記載はない。
そして、本件発明4は、相違点1〜2の構成を有することにより、耐候性に優れた水添重合体を安定的に得ることができるという効果を奏する。
したがって、本件発明4は、参考資料1〜2を参酌しても、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(本件発明5について)
本件発明5は、本件発明4の構成を全て含み、さらに水添触媒を限定したものであるから、上記したように本件発明4が、参考資料1〜2を参酌しても刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本件発明5も、参考資料1〜2を参酌しても刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5.取消理由で取上げなかった特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「本件の請求項1には、「アニオン重合で得られる共役ジエン重合体(以下「(i)」という。)、またはビニル芳香族炭化水素含有量(S)が70重量%以下の共役ジエンとビニル芳香族炭化水素の共重合体(以下「(ii)」という。)、およびそれらの混合物(以下「(i+ii)」という。)からなる重合体溶液」とは、「(i)と(i+ii)からなるかあるいは(ii)と(i+ii)からなる重合体溶液」であることなり、これは、「(i)、または(ii)、あるいは(i+ii)からなる重合体溶液」(段落【0005】、【0013】)が記載されている発明の詳細な説明と異なるものであるから、本件特許には、特許法第36条第5項の規定に違反する記載不備がある。」旨を主張している。
しかしながら、請求項1の「(i)、または(ii)、および(i+ii)からなる重合体溶液」の記載は、「(i)、または(ii)、あるいは(i+ii)からなる重合体溶液」を意味していることは当業者には明らかであるから、本件特許明細書の記載が不備であるとまではいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、本件発明1〜3の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める制令(平成7年制令第205号)第4条第2項の規定により、取り消されるべきものである。
また、本件発明4〜5の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができず、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-26 
出願番号 特願平6-270175
審決分類 P 1 651・ 121- ZE (C08F)
P 1 651・ 113- ZE (C08F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 佐藤 邦彦  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 藤原 浩子
佐野 整博
登録日 2003-08-15 
登録番号 特許第3460005号(P3460005)
権利者 旭化成ケミカルズ株式会社
発明の名称 水添重合体  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 伊藤 穣  
代理人 清水 猛  
代理人 大島 正孝  
代理人 武井 英夫  

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