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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1127391
異議申立番号 異議2003-73175  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-17 
確定日 2005-11-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3421952号「不飽和ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いる成形品」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3421952号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3421952号に係る出願は、平成3年6月21日に出願され、平成15年4月25日に特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1〜3に係る特許について、特許異議申立人ジャパンコンポジット株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立がなされ、平成16年6月1日付の取消理由が通知され、その指定期間内に特許異議意見書が提出されたものである。

2 本件発明
本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(A)水素化ビスフェノールAを20〜70モル%、ネオペンチルグリコール30〜80モル%とからなる多価アルコール成分と不飽和二塩基酸またはその無水物35〜65モル%、芳香族二塩基酸又はその無水物35〜65モル%を含有する酸成分を必須成分とする不飽和ポリエステル
(B)重合性不飽和単量体
(C)充填剤
とからなることを特徴とする人工大理石用途、住設機器用途の成形用不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】(A)/(B)が、50〜90/50〜10(重量比)である請求項1の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】請求項1の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いることを特徴とする人工大理石用途、住設機器用途の成形品。」

3 特許異議申立についての判断
(1)取消理由の概要
当審は、平成16年6月1日付で以下の取消理由を特許権者に通知した。
「本件出願の請求項1〜3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

刊行物1:特開昭64-69545号公報(申立人の甲第1号証)
刊行物2:特開昭52-28589号公報(同甲第2号証)
刊行物3:「熱硬化性高分子の精密化-成形材料の低収縮化・低応力化-」
遠藤剛監修、株式会社シーエムシー(1986年12月1日)
121〜126頁(同甲第3号証)
刊行物4:「ポリエステル樹脂ハンドブック」滝山栄一郎著、
日刊工業新聞社(昭和63年6月30日)
29〜37頁(同甲第4号証)」

(2)各刊行物等の記載事項
ア 刊行物1
「(2)(A)無水マレイン酸、フマル酸の何れか1種又は2種の不飽和多塩基酸と、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸の何れか1種又は2種以上の飽和多塩基酸と、プロピレングリコール、エチレングリコールの何れか1種又は2種の多価アルコールと、更にこれにネオペンチルグリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加体、水素化ビスフェノールの3種のグリコールの何れか1種又は2種以上とをエステル化して得られる不飽和ポリエステル及び
(B)重合性単量体からなる不飽和ポリエステル樹脂100重量部に、
(C)グリシジルメタクリレート0.1〜20重量部
を配合してなる…人工大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。
(3)(A)不飽和ポリエステル40〜80重量%及び
(B)重合性単量体20〜60重量%からなる不飽和ポリエステル樹脂の100重量部に、
(C)グリシジルメタクリレート0.1〜20重量部
及び
(D)水酸化アルミニウム、ガラス質フリットまたはガラス粉から選ばれた少くとも1種の、屈折率1.55〜1.58で且つ平均粒径が0.5〜400ミクロンである無機充填剤100〜200重量部を配合してなる人工大理石用不飽和ポリエステル樹脂組成物。」(特許請求の範囲、摘示事項a)
「重合性単量体としては、例えばスチレン…などが挙げられる。…本発明の不飽和ポリエステル樹脂中の不飽和ポリエステルと重合性単量体との混合割合は前者40〜80重量%に対して、後者20〜60重量%の範囲で総量が100重量部として用いられる。」(3頁左上欄8行〜右上欄2行、摘示事項b)

イ 刊行物2
「二重結合1個当たりの分子量が220〜350で、かつネオペンチルグリコール,水素化ビスフエノールA,2,2’-ジ(4-ヒドロキシプロポキシフエニル)プロパンまたは2,2’-ジ(4-ヒドロキシエトキシフエニル)プロパンをグリコール成分の10モル%以上使用したα,β-エチレン不飽和ポリエステル20〜80重量%,エチレン不飽和単量体20〜80重量%および酸価が3〜40のスチレン系共重合体を1〜25重量%含有してなる不飽和ポリエステル樹脂組成物。」(特許請求の範囲、摘示事項c)
「本発明に用いられるα,β-エチレン不飽和ポリエステルは、α,β-不飽和二塩基酸類とグリコール類またはそれらの(機能的)誘導体とから公知の方法で製造される。…
上記のα,β-不飽和二塩基酸類は、その一部を飽和二塩基酸に置きかえてもよい。
飽和二塩基酸としては、例えばフタル酸,無水フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,…などが用いられる。」(2頁右上欄9行〜右下欄6行、摘示事項d)
「エチレン不飽和単量体としては、たとえばスチレン,…などがあげられる。」(2頁右下欄8〜15行、摘示事項e)
「本発明の成形物は、たとえばバスタブ,建材,電気部品,自動車部品などの極めて広い分野に用いることができる。」(3頁右上欄19行〜左下欄1行、摘示事項f)
実施例6及び7では、多価アルコール成分としてネオペンチルグリコール及び水素化ビスフェノールAをモル比63:40で用いることが記載されている。(摘示事項g)

ウ 刊行物3
「不飽和酸,飽和酸および多価アルコールの種類と量が異なると,…収縮率が異なってくる。…表2.3.1および表2.3.2の結果から,グリコールの種類と収縮率の関係では水素添加ビスフェノールA(HBP)が小さく,次いでネオペンチルグリコール(NPG),エチレングリコール(EG),プロピレングリコール(PG),ジエチレングリコール(DEG)の順に大きくなる。」(121頁下から5行〜123頁下から11行、摘示事項h)
「酸成分の化学構造の相違と収縮率の関係を表2.3.3に示す。…飽和酸ではコハク酸(SA),アジピン酸(ADA)のような脂肪族二塩基酸の収縮率が大きく,無水フタル酸,イソフタル酸(IPA),…の順に収縮率は小さくなり」(123頁下から7〜3行、摘示事項i)
表2.3.1(123頁)には、スチレンモノマを30重量%含む不飽和ポリエステル樹脂において、HBPとNPGの両者を多価アルコール成分に用いた実験番号9及び10は、これらを用いないものと比較して収縮率は小さく、芳香族二塩基酸またはその無水物である無水フタル酸(PA)またはIPAを40〜60モル%、不飽和二塩基酸の無水物である無水マレイン酸(MA)を60〜40モル%を酸成分に用いた実験番号3及び5〜8は芳香族に塩基酸またはその無水物を用いない実験番号1と比較して、収縮率が大きいとされるDEGを用いた場合(実験番号5及び8)ですら収縮率は小さくなることが示されている。(摘示事項j)

エ 刊行物4
「ポリエステル樹脂の構成原料は,(1)不飽和ポリエステルのそれとして,(i)不飽和多塩基酸,(ii)飽和多塩基酸,(iii)グリコール類があり,(2)溶解して樹脂を形成させ,架橋剤を兼ねるモノマー類,(3)重合防止剤,促進剤,ならびにその他の添加剤,に大別される.」(29頁2〜5行、摘示事項k)
「飽和酸のなかでは,…耐熱水性,機械的物性,中程度の耐薬品性を要求される分野では,…イソフタル酸の使用が定着している.
テレフタル酸を用いた樹脂は優れた耐熱水性,耐薬品性を示し,そのような物性の要求が等一である方面に用途がある.」(30頁6〜12行、摘示事項l)
「ネオペンチルグリコールを用いた樹脂は物性がよく,耐水性,耐薬品性,耐候性,などが向上し,…水素化ビスフェノールA,…は、高度な耐熱水性,耐薬品性の要求される分野に重用されている.」(34頁下から14行〜末行、摘示事項m)
表2.2(31頁)には、飽和酸としてイソフタル酸を用いたものの特徴として耐熱性が挙げられている。(摘示事項n)

(3)対比・判断
ア 本件発明1
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は以下の点で一致する。
「(A)多価アルコール成分と、不飽和二塩基酸またはその無水物及び芳香族二塩基酸又はその無水物を含有する酸成分を必須成分とする不飽和ポリエステル
(B)重合性不飽和単量体
(C)充填剤
とからなることを特徴とする人工大理石用途、住設機器用途の成形用不飽和ポリエステル樹脂組成物。」
そして、両者は以下の点で相違する。
(相違点1)本件発明1は、不飽和ポリエステルの多価アルコール成分が水素化ビスフェノールAを20〜70モル%、ネオペンチルグリコール30〜80モル%からなり、酸成分が不飽和二塩基酸またはその無水物35〜65モル%、芳香族二塩基酸又はその無水物35〜65モル%からなるのに対し、刊行物1に記載の発明は、不飽和ポリエステルの多価アルコール成分がプロピレングリコール又はエチレングリコールの何れか1種又は2種と、水素化ビスフェノールやネオペンチルグリコール等の何れか1種又は2種とからなり、その組成比は確定していないこと、酸成分が不飽和二塩基酸またはその無水物及び芳香族二塩基酸又はその無水物からなるが、その組成比は確定していないこと。
(相違点2)本件発明1は、グリシジルメタクリレートを必須としていないのに対し、刊行物1に記載された発明は、これを必須としていること。
相違点1に関し、刊行物2には、不飽和ポリエステルの多価アルコール成分を水素化ビスフェノールA39モル%(本件発明1の20〜70モル%に相当)、ネオペンチルグリコール61モル%(本件発明1の30〜80モル%に相当)とすること(摘示事項g)が、刊行物3には不飽和ポリエステルの酸成分を不飽和二塩基酸またはその無水物40〜60モル%(本件発明1の35〜65モル%に相当)、芳香族二塩基酸又はその無水物40〜60モル%(本件発明1の35〜65モル%に相当)とすること(摘示事項j)が、それぞれ記載されている。そして、芳香族二塩基酸またはその無水物、水素化ビスフェノールA、及び、ネオペンチルグリコールを用いて耐クラック性(収縮率の小さいものは耐クラック性に優れるものと認められる)を向上させることは刊行物3(摘示事項h〜j)に、不飽和ポリエステルにおいて、芳香族二塩基酸の一種であるイソフタル酸やテレフタル酸、水素化ビスフェノールAを用いて耐煮沸性(耐熱水性がこれに相当する)を向上させることは刊行物4(摘示事項l〜m)に、芳香族二塩基酸の一種であるイソフタル酸を用いて耐熱性を向上させることは刊行物4(摘示事項n)に、それぞれ記載されている。
そして、刊行物1に記載の発明において、「耐クラック性、耐煮沸性、耐熱性」といった効果を奏することを目的として刊行物2及び3に記載のように不飽和ポリエステルの多価アルコール成分及び酸成分を選択することは、当業者が容易に想到しうることと認められる。特許権者が、本件発明1による効果として主張する「透明感」は、本件明細書の実施例と比較例の記載からみて格別のものは見出せない。
相違点2に関し、特許権者は、「グリシジルメタクリレートを添加しない同一の不飽和ポリエステル樹脂である比較例…では、硬化線収縮率、耐候性及び耐熱性の点が著しく劣るものであること、即ち『耐汚染性、耐候性、耐熱性、機械的強度等諸性質』の劣るものであることを示しています。…特に耐汚染性の改善のため、『不飽和ポリエステル樹脂を製造する時点に於いて添加剤としてグリシジルメタクリレートを配合することを特徴とするものである』…と記載されているものです。…刊行物1は、本件発明の目的…、構成、効果について全く開示も示唆もしていないと言うべき」(特許異議意見書7頁下から5行〜8頁9行)と主張する。
しかし、本件明細書段落【0011】には、(B)重合性不飽和単量体としてグリシジルメタクリレートを添加しうることが記載されており、本件発明はグリシジルメタクリレートの使用を排除するものではない。また、不飽和ポリエステル樹脂に「耐クラック性」を与えるには、刊行物3(摘示事項h〜j)に記載されたように、芳香族二塩基酸またはその無水物、水素化ビスフェノールA、及び、ネオペンチルグリコールを、「耐煮沸性」を与えるには、刊行物4(摘示事項l〜m)に記載されたように、芳香族二塩基酸、水素化ビスフェノールAを、「耐熱性」を与えるには、刊行物4(摘示事項n)に記載されたように、芳香族二塩基酸を、それぞれ不飽和ポリエステルの原料成分として用いることにより奏されるものである。グリシジルメタクリレートを含有しない比較例において所望の硬化線収縮率、耐候性及び耐熱性がより劣るとしても、不飽和ポリエステル樹脂に「耐クラック性、耐煮沸性、耐熱性」といった効果を奏させることを目的として、ジオール成分として水素化ビスフェノールA及びネオペンチルグリコールを用いること、酸成分として芳香族二塩基酸を不飽和二塩基酸と併用することが公知であったことからみて、グリシジルメタクリレートを含有せずに「耐クラック性、耐煮沸性、耐熱性」といった効果を奏させることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
また、特許権者は、「刊行物2第5頁右上欄比較例は、実施例6の『フマール酸、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA(モル比100:63:40)』の不飽和ポリエステル樹脂を使用する記載があり、これは実施例6のスチレン-アクリル酸共重合体の代わりに市販のポリスチレンの33%スチレン溶液を用いたことで、SMC作業性、金型汚れ、均一着色性、表面平滑性及び収縮率が悪く、刊行物2の目的『低収縮性、着色性、表面平滑性』を達成することができないことを示している…当業者が、刊行物2第5頁表4の実施例6・比較例を見れば、特定の『スチレン-アクリル酸共重合体』の添加効果を見い出すだけであって、刊行物2の実施例6・比較例の『ネオペンチルグリコールと水素化ビスフェノールA』を使用した不飽和ポリエステル樹脂に着目するべき論理的根拠がない」(特許異議意見書11頁13〜25行)と主張する。
この点についても、不飽和ポリエステル樹脂に「耐クラック性」を与えるには、刊行物3(摘示事項h〜j)に記載されたように、芳香族二塩基酸またはその無水物、水素化ビスフェノールA、及び、ネオペンチルグリコールを、「耐煮沸性」を与えるには、刊行物4(摘示事項l〜m)に記載されたように、芳香族二塩基酸、水素化ビスフェノールAを、「耐熱性」を与えるには、刊行物4(摘示事項n)に記載されたように、芳香族二塩基酸を、それぞれ不飽和ポリエステルの原料成分として用いることにより奏されることである。スチレン-アクリル酸共重合体を用いない比較例において所望の低収縮性、着色性、表面平滑性を達成することができないとしても、不飽和ポリエステル樹脂に「耐クラック性、耐煮沸性、耐熱性」といった効果を奏させることを目的として、ジオール成分として水素化ビスフェノールA及びネオペンチルグリコールを用いること、酸成分として芳香族二塩基酸を不飽和二塩基酸と併用することが公知であったことからみて、グリシジルメタクリレートを特に含有せずに「耐クラック性、耐煮沸性、耐熱性」といった効果を奏させることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
さらに、特許異議意見書における特許権者の主張について検討する。
特許権者は、「刊行物3には、『35〜65モル%』といった具体的記載は全くない」(特許異議意見書13頁18〜19行)と主張する。
しかし、刊行物3表2.3.1には、不飽和二塩基酸の無水物である無水マレイン酸(MA)と、芳香族二塩基酸またはその無水物であるイソフタル酸(IPA)或いは無水フタル酸(PA)を、モル比でMA:IPA=0.60:0.40(実験番号5)、0.40:0.60(実験番号6)、MA:PA=0.50:0.50(実験番号3)、0.40:0.60(実験番号7)、0.60:0.40(実験番号8)と記載されている。すなわち、刊行物3表2.3.1には、「35〜65モル%」との数値範囲を満たす実験例が記載されている。
特許権者は、「表2.3.1…には、…本件発明の酸成分範囲を外れる実験番号2及び4より収縮率の悪いものであることが示されることからすれば、『刊行物3が本件発明の酸成分の範囲を開示している』とする認定には、到底承伏できるものではありません。」(特許異議意見書15頁1〜8行)と主張する。
しかし、当審が取消理由通知で示したことは、PAまたはIPAを40〜60モル%、MAを60〜40モル%を酸成分に用いた実験番号3及び5〜8が、芳香族二塩基酸またはその無水物を用いない実験番号1と比較して、収縮率が小さくなることであり、実験番号2及び4において収縮率が小さくとも、実験番号3及び5〜8自体が収縮率を小さくする実験例であることは明らかであるから、酸成分が本件発明1の不飽和二塩基酸またはその無水物35〜65モル%、芳香族二塩基酸又はその無水物35〜65モル%の要件を満たすものであって、その不飽和ポリエステル樹脂の収縮率の低下、すなわち耐クラック性の向上を達成することは明らかである。したがって、刊行物3は、本件発明の酸成分の範囲を開示しているといえる。
特許権者は、「本件発明の『片面煮沸試験』を『耐煮沸性』と認定されるのは誤りであり、両者は異なる試験方法であり、耐熱水性試験ともその試験内容を異にするものです。」(特許異議意見書16頁5〜7行)と主張する。
しかし、耐熱水性に優れた不飽和ポリエステル樹脂が、耐煮沸性に優れ、片面煮沸性試験でも優れた性能を示しうることは、当業者が予想しうるものである。そして、そもそも本件明細書において片面煮沸試験によって確認しているのは「耐煮沸性」であり、耐熱水性に優れた不飽和ポリエステルが耐煮沸性に優れたものであることも、当業者が予想しうるものである。このため、本件発明による耐煮沸性が、格別特異なものであるとすることはできない。
特許権者は、「刊行物4表2.2に芳香族二塩基酸の1種であるイソフタル酸の欄に『耐熱性』と記載されていますが、これを『芳香族二塩基酸』の全てに広げて認定されることは刊行物4のどこにも根拠がないことから失当」(特許異議意見書16頁9〜12行)と主張する。
しかし、イソフタル酸は芳香族二塩基酸の一種である。芳香族二塩基酸としてイソフタル酸を選択すれば、本件発明のように耐熱性を奏することは、摘示事項nより理解できる。
特許権者は、「刊行物1、刊行物2、刊行物3及び刊行物4は、目的がそれぞれバラバラであり、刊行物1〜4を組合わせるべき必然性、動機が全くないものである」(特許異議意見書19頁5〜7行)と主張する。
しかし、刊行物1〜4に記載された発明は、いずれも不飽和ポリエステル樹脂に係るものである。このような技術的共通点がある以上、刊行物1〜4に記載された技術を組合わせてみることは、当業者が容易になし得ることであり、この主張は失当である。
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1〜4に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものと認められる。

イ 本件発明2
本件発明2は、本件発明1において、(A)成分である不飽和ポリエステル樹脂と(B)成分である重合性不飽和単量体を「(A)/(B)が、50〜90/50〜10(重量比)」に限定したものであるが、刊行物1〜3に記載された発明では、不飽和ポリエステル樹脂と重合性不飽和単量体の配合比において、該条件を満たしうること(摘示事項a〜c及びj)が記載されている。
したがって、本件発明1が刊行物1〜4に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものである以上、本件発明2は、刊行物1〜4に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものと認められる。

ウ 本件発明3
本件発明3は、本件発明1に係る成形用不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いた人工大理石用途、住設機器用途の成形品に係るものであるが、刊行物1及び2に記載された不飽和ポリエステル樹脂組成物は、人工大理石用途、住設機器用途の成形品の製造に用いうるものである(摘示事項a及びf)。
したがって、本件発明1が刊行物1〜4に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものである以上、本件発明3は、刊行物1〜4に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものと認められる。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3は、本件出願前に頒布された刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1〜3についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-26 
出願番号 特願平3-150389
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 大熊 幸治
佐野 整博
登録日 2003-04-25 
登録番号 特許第3421952号(P3421952)
権利者 大日本インキ化学工業株式会社
発明の名称 不飽和ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いる成形品  
代理人 河野 通洋  
代理人 松本 武彦  

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