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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1127396
異議申立番号 異議2003-70728  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-20 
確定日 2005-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第3327423号「偏光フイルムの製造法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3327423号の請求項に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3327423号の請求項1乃至3に係る発明についての出願は、平成5年10月21日に特許出願され、平成14年7月12日にそれらの発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、株式会社クラレより特許異議申立てがなされ、これを受けて平成15年9月1日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年11月10日に意見書が提出され、さらに、平成16年6月8日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月11日に意見書が提出されたものである。

2.本件特許発明
本件の請求項1乃至3に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件発明1」乃至「本件発明3」という。)。
「【請求項1】 ポリビニルアルコール系原反フィルムを一軸延伸して偏光フィルムを製造するに当たり、原反フィルムとして厚みが30〜100μmであり、かつ、熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係が下式で示される範囲であるポリビニルアルコール系フィルムを用い、かつ染色処理工程で1.2〜2倍に、さらにホウ素化合物処理工程で2〜6倍にそれぞれ一軸延伸することを特徴とする偏光フィルムの製造法。
Y>-0.0667X+6.73 ・・・・(I)
X≧65 ・・・・(II)
但し、X:2cm×2cmのフィルム片の熱水中での完溶温度(℃)
Y:20℃の恒温水槽中に、10cm×10cmのフィルム片を15分間浸漬し膨潤させた後、105℃で2時間乾燥を行った時に下式浸漬後のフィルムの重量/乾燥後のフィルムの重量より算出される平衡膨潤度(重量分率)
【請求項2】 完溶温度が65〜90℃であるポリビニルアルコール系原反フィルムを用いることを特徴とする請求項1記載の製造法。
【請求項3】 平均重合度が2600以上のポリビニルアルコール系原反フィルムを用いることを特徴とする請求項1記載の製造法。」

3.平成16年6月8日付け取消理由通知の概要
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。

(1)本件特許明細書の段落【0008】には、「【課題を解決するための手段】しかるに、本発明者等はかかる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系原反フィルムを一軸延伸して偏光フィルムを製造するに当たり、原反フィルムとして厚みが30〜100μmであり、かつ熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係が下式で示される範囲であるポリビニルアルコール系フィルム、特に平均重合度が2600以上のポリビニルアルコール系フィルムを用いる場合、上記の目的が達成できることを見出し、本発明を完成した。
Y>-0.0667X+6.73 ・・・・(I)
X≧65 ・・・・(II)」との記載があり、また、実施例には、実施例1として完溶温度71.6℃、平衡膨潤度2.4、実施例2として完溶温度72.0℃、平衡膨潤度2.2であるデータが示されている。
しかしながら、本件特許発明の所期の目的を達成するデータはこの2つの実施例に示されたデータのみであるところ、何故、この2つのデータから本件特許請求の範囲の請求項1にも規定される上記二つの式が導きだされるのか、その根拠が不明である。
要するに、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとは認められず、また、特許を受ける発明が明確でもない。
さらに、請求項1に規定する上記二つの式が満たす範囲は広範囲に及ぶところ、本件明細書の実施例は上述したように二例しかないものであり、前記請求項1に規定する範囲の一部しか満たさないものである。したがって、本件特許明細書は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されたものとも認められない。
(2)実施例の補足として追加のデータを提出される場合には、実験日、実験場所、実験者、実験条件(乾燥条件、熱処理温度、完溶温度、平衡膨潤度、水中退色温度、等)を明確にされたし。
また、追加のデータの実験条件が、本件特許明細書の実施例に示された実験条件と大きく異なる場合は、単なる実施例の補足ではなく、異なる実施例を提示するものであり、その場合は、追加のデータを参酌することはできないこともあるので、その点に留意されたし。

4.当審の判断
(1)特許法36条第5項違反について
本件発明1は、その構成要件として、原反フィルムが「熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係が、Y>-0.0667X+6.73((I)式)及びX≧65((II)式)で示される範囲であるポリビニルアルコール系フィルムを用い」るものである。
一方、本件特許明細書の段落【0008】には、「【課題を解決するための手段】しかるに、本発明者等はかかる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系原反フィルムを一軸延伸して偏光フィルムを製造するに当たり、原反フィルムとして厚みが30〜100μmであり、かつ熱水中での完溶温度(X)と平衡膨潤度(Y)との関係が下式で示される範囲であるポリビニルアルコール系フィルム、特に平均重合度が2600以上のポリビニルアルコール系フィルムを用いる場合、上記の目的が達成できることを見出し、本発明を完成した。
Y>-0.0667X+6.73 ・・・(I)
X≧65 ・・・・(II)」との記載がある。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば、本件発明の実施例として、二つの実施例が記載され、実施例1は、乾燥温度が30℃、乾燥時間が24時間であって、得られたフィルムの完溶温度が71.6℃、平衡膨潤度が1.95であり、実施例2は、乾燥温度が40℃、乾燥時間が24時間であって、得られたフィルムの完溶温度が72℃、平衡膨潤度が2.2であり、いずれの実施例も上記二式を満たすもので、かつ、偏光性能及び耐久性能に優れているものである。
しかしながら、Y>-0.0667X+6.73及びX≧65の二式が規定する範囲は、広範囲に及ぶものであり、この数式を満たすものが全て偏光性能及び耐久性能が優れた効果を奏するとの心証を得るには、実施例が十分ではなく、また、他に、本件特許明細書の記載及び当該分野の技術常識に照らして上記二式を満足するものが前述の優れた効果を奏するとの確証を得られるものではない。してみれば、上記取消理由通知でも述べたように、本件発明1に記載の二式が、どのようにして導き出されたのか、その根拠、理由が依然として不明であるから、結局、特許を受けようする発明が、すなわち本件発明1並びに本件発明1を引用する本件発明2及び3が、発明の詳細な説明に記載されたものとは認めることはできず、したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項第1号の規定に違反するものである。
(2)特許法第36条第4項違反について
上記取消理由通知で述べたように、請求項1に規定する上記二つの式が満たす範囲は広範囲に及ぶところ、どのような製造条件(PVAの重合度、乾燥基材、乾燥温度、乾燥時間、等)であれば、上記二式を満たし、かつ、偏光性能及び耐久性能が優れたフィルムが得られるのか、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌しても不明瞭である。したがって、本件特許明細書は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されたものとも認められない。
(3)特許権者の主張について
特許権者は、上記取消理由通知に対して、意見書及び実験成績証明書を提出し、概略以下のような主張をしている。
(a)本件特許明細書の実施例1〜2および比較例1〜2、ならびに実験成績証明書に示した実験1〜8および比較実験1〜2の結果から明らかなように、得られた偏光フィルムの特性は、ポリビニルアルコール系フィルムの作製条件など、様々な要因が組み合わさって決定されるものであり、耐久性能および偏光性能の優れた偏光フィルムを製造するために、フィルム作製時の乾燥条件や熱処理条件、乾燥基材の種類などを、特定の値または特定の基材に限定することは困難である。
(b)耐久性能および偏光性能の安定性に優れた偏光フィルムの製造を目的とする本件発明において、ポリビニルアルコール系フィルムの作製条件を特定することは無意味である。
(c)式(I)および(II)は、様々な条件下で作製された種々の物性を有するポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造した偏光フィルムの物性を検討することによって導き出されたものであり、実験成績証明書に示した実験1〜8および比較実験1〜2を参照すれば、式(I)および(II)の導出根拠は不明ではない。
上記特許権者の主張について検討する。
特許権者は、「本件特許明細書の実施例1〜2および比較例1〜2、ならびに実験成績証明書に示した実験1〜8および比較実験1〜2の結果から、得られた偏光フィルムの特性は、様々な要因が組み合わさって決定されるものであり、耐久性能および偏光性能の優れた偏光フィルムを製造するために、フィルム作製時の乾燥条件や熱処理条件、乾燥基材の種類などを、特定の値または特定の基材に限定することは困難である。」と主張するが、そうであれば、本件特許明細書に接した第三者は、どのようにして耐久性能および偏光性能の優れた偏光フィルムを製造すればよいのか、理解できないものであり、せいぜい、実施例とほぼ同じ実験条件で製造するしかないものである。してみれば、式(I)および(II)の要件を有する本件発明1について、その作製条件が特定できない以上、当業者は再現実験、追試、等をおこなうことはできず、結局、本件特許明細書は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されたものと認めることはできない。
次に、実験成績証明書をみるに、当該証明書で追加された実験は、実験1〜8、比較実験1〜2であり、その実験条件は、本件特許明細書に記載の実施例1〜2の実験条件と、乾燥時間、乾燥温度、及び乾燥基材(実験4〜8)の点で、大きく異なるものである。したがって、上記取消理由通知で述べたとおり、実験条件の大きく異なる実験の追加は、本件発明の実施例を補足するものではなく、新たな実施例の追加となり、本件事件の審理にあたってそれらの実験結果を参酌することはできないものである。したがって、このような実験成績証明書に基づく特許権者の主張は理由がない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
したがって、本件発明1乃至3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-11-26 
出願番号 特願平5-287608
審決分類 P 1 651・ 537- Z (G02B)
P 1 651・ 536- Z (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 鹿股 俊雄
特許庁審判官 末政 清滋
辻 徹二
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3327423号(P3327423)
権利者 日本合成化学工業株式会社
発明の名称 偏光フイルムの製造法  
代理人 辻 良子  
代理人 秋山 文男  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 辻 邦夫  

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