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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) H01B
管理番号 1127889
審判番号 無効2003-35490  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-08-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-27 
確定日 2005-10-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2756548号発明「導電性樹脂混合物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2756548号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
出願 平成 1年 1月31日
設定登録 平成10年 3月13日
(特許第2756548号)
無効審判請求 平成15年11月27日
答弁書 平成16年 3月 5日
訂正請求書 平成16年 3月 5日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成16年 5月28日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成16年 6月 4日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成16年 6月 4日
上申書(請求人) 平成16年 7月 5日
上申書(被請求人) 平成16年 8月 4日

II.訂正の適否についての判断
II-1.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項1及び2の
「【請求項1】ポリフェニレンエーテル、ポリアミド及びカーボンブラックを含む導電性樹脂混合物において、カーボンブラックが主にポリアミド相中に含有されることを特徴とする導電性樹脂混合物。
【請求項2】ポリフェニレンエーテル、ポリアミド及びカーボンブラックを含む導電性樹脂混合物を作る方法において、予めカーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合することを特徴とする方法。」を、
「【請求項1】ポリフェニレンエーテル、ポリアミド及び導電性カーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物において、導電性カーボンブラックが主にポリアミド相中に含有されることを特徴とする導電性樹脂混合物。
【請求項2】ポリフェニレンエーテル、ポリアミド及び導電性カーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物を作る方法において、予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合することを特徴とする方法。」と訂正する。
b.明細書第2頁第19行(特許公報第3欄第2行)の「カーボンブラック」を、「導電性カーボンブラック(以下では、単にカーボンブラックと言うことがある)」と訂正する。
c.明細書第3頁第4行及び第9行(特許公報第3欄第7行及び第4欄第2行)の「カーボンブラックを含む」を、「導電性カーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している」と訂正する。
d.明細書第3頁第5行及び第10行(特許公報第3欄第8行及び第4欄第3行)の「カーボンブラック」を「導電性カーボンブラック」と訂正する。
e.明細書第17頁(特許公報第8欄)の表1の末行の「表面抵抗(Ω・cm)」を「表面抵抗(Ω)」と訂正する。

II-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
aの訂正は、訂正前の請求項1,2に係る「カーボンブラック」を「導電性カーボンブラック」と限定するとともに、「導電性樹脂混合物」における「ポリフェニレンエーテル」と「ポリアミド」とのモルフォロジーの関係を「ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している」と限定するためのものであるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「導電性カーボンブラック」と限定する訂正は、明細書第3頁第15行、第9頁第16行、第10頁第1行、第14頁第18行及び第16頁第4行(特許公報第4欄第6〜7行、第5欄第32行、同欄第37行、第7欄第24行及び第8欄第11行)記載の「導電性カーボンブラック」、並びに第2頁第13行及び第15行(特許公報第2欄第11行及び第13行)記載の「導電性粒子」を根拠とし、「ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している」と限定する訂正は、明細書第8頁第12〜14行(特許公報第5欄第11〜13行)に記載の「ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している」を根拠としているから、aの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
b〜dの訂正は、aの訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1,2の記載と、それらに対応する発明の詳細な説明の記載とを整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
eの訂正は、表面抵抗の単位の明らかな誤記を訂正することを目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

II-3.訂正の適否についての結論
したがって、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、平成15年改正前特許法第134条第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件訂正発明
本件請求項1及び2に係る発明は、上記II.のとおり上記訂正が認められるから、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認める(上記II.II-1.a参照。以下、これらの発明を、それぞれ「本件訂正発明1,2」といい、訂正前の特許明細書の請求項1,2に記載された発明を、単に「本件発明1,2」という。)。

IV.請求人の主張
請求人は、本件請求項1及び2に係る発明(本件発明1及び2)についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1〜4を主張し、証拠方法として甲第1〜12号証を提出している。

無効理由1:本件発明1の特許について;特許法第29条第1項柱書違反
本件明細書には、本件発明1の構成に対応する効果が実験結果等の具体的裏付けをもって示されておらず、また、本件発明1の技術内容は、当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果をあげることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないとするべきであるから、本件発明1は、未完成発明であり、特許法第29条第1項柱書に規定する発明に該当しない。

無効理由2:本件発明1,2の特許について;特許法第29条第1項違反
本件発明1は、本件出願前に頒布された甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、また、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

無効理由3:本件発明1,2の特許について;特許法第29条第2項違反
本件発明1,2は、本件出願前に頒布された甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1,2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

無効理由4:本件発明1の特許について;特許法第36条第3,4項違反
本件発明2の特許について;特許法第36条第3項違反
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には、「ポリアミドが連続相を形成し、ポリエーテルが分散相を形成している」という本件発明1の必須の構成が記載されていないから、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されていない発明をも含むものであり、本件発明1の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件をみたさない出願に対してされたものである。
また、本件発明1,2の「カーボンブラックが主にポリアミド相中に含有される」点について、発明の詳細な説明の記載からは、測定方法が不明であり、「主に」の範囲を特定することが不可能であるから、発明の詳細な説明は、本件発明1,2を当業者が容易に実施できる程度に記載されたものでなく、本件発明1,2の特許は、特許法第36条第3項に規定する要件をみたさない出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開昭62-151456号公報
甲第2号証:特開昭62-4749号公報
甲第3号証:特開昭61-296061号公報
甲第4号証:特開昭61-207465号公報
甲第5号証:電学論A,108巻7号,昭63 P279-286
甲第6号証:旭化成ケミカルズ ザイロン技術開発部 野田和弥作成の「実験成績証明書1」
甲第7号証:USP4559164号公報
甲第8号証:高分子学会編「高分子新素材One Point 12ポリマーアロイ」共立出版1988年6月20日
甲第9号証:高分子論文集,Vol.40,No.4,pp.203-210
甲第10号証:Journal of Materials Science 17(1982)1610-1616
甲第11号証:旭化成ケミカルズ ザイロン技術開発部 野田和弥作成の「実験成績証明書2」
甲第12号証:旭化成ケミカルズ ザイロン技術開発部 野田和弥作成の「シミュレーション結果」と題する報告書

[参考資料]
参考資料1:吉藤幸朔著「特許法概説第 10版」有斐閣(1994年12月10日)第60頁
参考資料2:被請求人が出願経過において提出した平成7年11月13日付意見書差出書
参考資料3:東京高裁昭和59年7月17日判決・昭和54(ネ)2813
参考資料4:東京高裁平成15年3月13日判決・平成13(行ケ)209
参考資料5: 高分子論文集Vol.40,No.10,pp.633-659(Oct.,1983)
参考資料6: Makromol.Chem.,Suppl.8,101-108(1984)
参考資料7: 特開昭57-36151号公報
参考資料8: 特開昭57-168938号公報
参考資料9: 特開昭56-107013号公報
参考資料10:特開昭58-91715号公報
参考資料11:秋山、井上、西,「ポリマーブレンド」,シーエムシー(1981)
参考資料12:Polymer Handbook 3rd edition,Chapter VII(1989)
参考資料13:R.F.Blanks, J.M.Prausnitz,Ind.Eng.Chem.Fund.,3(1),1(1964)
参考資料14:D.W.Van Krevelen, “Properties of Polymers, Second, completely
revised edition”,Elsevier(1976)
参考資料15:Y.-W.Mai, J.Mat.Sci.,21,904(1986)
(なお、甲第4〜12号証及び参考資料5〜15は平成16年5月28日付け口頭審理陳述要領書と共に提出されたものである。)

V.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求め、証拠方法として答弁書に添付して、以下の乙第1〜7号証を、また平成16年8月4日付け上申書に添付して、以下の乙第8〜21号証を提出している。

[証拠方法]
乙第1号証:特公昭53-3416号公報
乙第2号証:Polymer Testing 5 (1985) p.11-25
乙第3号証:Polymer News, 1978年 Vol.4, pp200-203
乙第4号証:Declaration of James Ross Fishburn
乙第5号証:WO 01/81473 A1 パンフレット
乙第6号証:POLYMER, 1986, Vol.27,October, p1497
乙第7号証:Declaration of James Ross Fishburn
乙第8号証:「リアクティブプロセッシング技術による高性能高分子材料の構造制御と構造解析」住友化学 2003-II
乙第9号証の1:特開昭56-26913号公報
乙第9号証の2:特開昭56-47432号公報
乙第9号証の3:特開昭56-49753号公報
乙第10号証:「Y.Suzuki, International Plastics Rubber Planning Conference, 1989, p469」
乙第11号証:特開昭63-183954号公報
乙第12号証:特開昭63-309555号公報
乙第13号証:特開昭63-253652号公報
乙第14号証:特開昭63-66249号公報
乙第15号証:特開昭63-118365号公報
乙第16号証:特開昭63-230767号公報
乙第17号証:プラスチックエージ、Vol.32, 1986, No.2, 第160〜163頁
乙第18号証:高分子学会の講演要旨集「マテリアル キャラクタリゼーションと材料設計」1987年、第53〜58頁
乙第19号証:2004年7月30日付け Declaration of James Ross Fishburn
乙第20号証の1:2004年7月30日付けDeclaration of James Ross Fishburn
乙第20号証の2:2004年7月24日付けDeclaration of Nisha Preschilla
乙第21号証:「Carbon Black-Polymer Composition」(カーボンブラック-ポリマー組成物) Enid Keil Sichel 編、Marcel Dekker 出版、1982年

VI.甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開昭62-151456号公報)
(1-1)(第2頁左下欄第1〜17行)
「本発明者らは前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及び補強剤としてのゴム状物質を所定の割合で含有して成る組成物において、これら3成分の分散状態を特定の状態に制御することにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(A)ポリアミド25〜70重量%、(B)ポリフェニレンエーテル25〜70重量%及び(C)ゴム状物質2〜25重量%から実質上構成され、かつ該ポリアミドが連続相を形成し、この連続相中に該ポリフェニレンエーテルが分散して平均粒子径2〜10μmの分散相を形成し、さらに該ゴム状物質のすべてが実質上分散相のポリフェニレンエーテル中にミクロ分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。」
(1-2)(第4頁左上欄第15行〜同頁右上欄第4行)
「次に、本発明組成物の一般的な製造方法について説明するが、もちろん前記の各条件が満足されておれば、他の製造方法を用いることもできる。すなわち、本発明組成物は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びゴム状物質を、これらの合計量に対し、それぞれ25〜70重量%、25〜70重量%及び2〜25重量%の割合で溶融混練することにより得られるが、その際分散形態調節剤として、マレイン酸化合物と特定のアミン系化合物を併用することが実質的に必要である。」
(1-3)(第4頁左下欄第18行〜同頁右下欄第2行)
「本発明組成物には、所望に応じ他のポリマー、可塑剤、難燃剤、あるいはガラス繊維、カーボン繊維、カーボンブラック、シリカ、クレーなどの充てん剤などを、本発明の目的を損わない範囲内で添加することができる。」
(1-4)(第5頁左上欄第13行〜同頁右上欄第2行)
「実施例1〜3、比較例1〜6
固有粘度が0.62(・・・)であるポリ(2,6-ジメチルフェニレン-1,4-エーテル)、6,6-ナイロン、結合スチレン40%のSBブロックポリマー、無水マレイン酸、フエノチアジンを、第1表に示した配合処方に従い、30φ2軸押出機に供給し、300℃の温度で押出混練し、ペレット化した。次いで射出成形機で試験片を作成し、下記試験法に従って特性を評価した。」

(2)甲第2号証(特開昭62-4749号公報)
(2-1)(第1頁左下欄第17行〜同頁右下欄第1行)
「静電防止、電磁波遮蔽等に用いられる導電性物質充填複合材料としては、例えば、炭素繊維、カーボンブラックや金属繊維を合成樹脂に均一に練込んだものが、その成型性の容易さから広く用いられている。」
(2-2)(第1頁右下欄第10〜13行)
「本発明は、少ない導電性物質の充填率で、導電性を著しく低下させることなく、見かけの充填率を増やすことにより、発生する種々の制約の少ない複合材料を提供することを目的とする。」
(2-3)(第1頁右下欄下から第2行〜第2頁左上欄第4行)
「本発明は、電気絶縁性マトリックス(A)に導電性物質(B)を含有させた複合材(α)と、複合材(α)との実質的な接着性を有する材料(β)とのブレンド物からなり、複合材(α)相が連続相(海構造)になっていることを特徴とする、ブレンド型導電性複合材料である。」
(2-4)(第2頁左上欄第15行〜同頁右上欄第1行)
「本発明者は更にこの接触確率を高める手段を、導電性物質を一相に凝縮せしめ、さらにこの相を海構造にすることにより、全体の濃度は低いが、電気導通路相においての濃度が高く、従って接触確率が高くなるため、同じ充填率ならば、格段に改良された導電性能を示す複合材料を得られたものと考えられる。」
(2-5)(第2頁右上欄第2行〜同頁左下欄第7行)
「本発明に用いられる電気絶縁性マトリックス(A)はその体積固有抵抗率が、導電性物質(B)の体積固有抵抗率より104倍、好ましくは、1010倍以上高く、導電性物質をその中に取り込むことができ、さらに材料(β)と複合化した場合に少なくとも海構造になることが可能ならば何でもよい。例えば、…(中略)…ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂、…(中略)…、ポリフェニレンエーテル…(中略)…の1種または2種以上の混合物を使用することができる。」
(2-6)(第2頁左下欄第12行〜同頁右下欄第8行)
「本発明に用いる導電性物質は、…(中略)…この物質の例としては、公知の炭素繊維、カーボンブラック、…(中略)…の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。」
(2-7)(第2頁右下欄第9行〜第3頁左上欄第5行)
「本発明に用いる材料(β)は、複合材(α)と接着できるものであれば何でもよく、複合材料(α)を補完するような材料であれば更に好ましい。この材料(β)は、(α)と相分離せしめた状態でブレンドすることにより、(α)と(β)が均一に分散し、導電性物質が均一に分散した状態と比べ、結果的に(α)相に導電性物質が濃縮されるものであるから、β相は2相以上の材料であっても問題なく、海構造でも島構造でもよいが、ブレンド物全体の機械物性のためには(β)相も海構造であるのが好ましい。具体的な例を挙げれば、セラミックス、天然ゴム等も考えられるが、好ましくは、電気絶縁性マトリックス(A)に挙げたような材質の中に、複合材αとの接着性強化、流動性改質、機械物性強化、その他公知の機械付与のため、公知の強化材、添加剤を目的に応じて含有した複合材を用いることができる。」
(2-8)(第3頁左上欄第19行〜同頁右上欄第13行)
「本発明のブレンド型導電性複合材料を得る方法としては、まず電気絶縁性マトリックス(A)に、公知の導電性フィラーを含有させる方法、例えば、押出機を用いて導電性繊維もしくは粒子を電気絶縁性マトリックス(A)に練り込んだペレット(複合材α)を作る。次に、電気絶縁性マトリックス(A)に必要に応じて強化剤、流動性改良剤、接着改良剤、添加剤等を公知の方法で含有させて複合材(α)と同程度の形状のペレット(材料β)を作る。そして、このペレット同士をドライブレンドし、プレス成形をして作成するのが最も簡便な方法であるが、上記方法に限定されるものではなく、結果として、複合材(α)相が少なくとも連続相になっていれば本発明の目的は達せられる。」
(2-9)(第3頁右上欄第16行〜同頁左下欄第17行)
「実施例1 単糸の体積固有抵抗率が1.5×10-3Ω・cmのPAN系炭素繊維チョップ(以下CFチョップと略す)20重量部と、ナイロン-6,6ペレット(旭化成株式会社製レオナ1300)80重量部V型ミキサーでドライブレンドした。このドライブレンド物を2軸押出機で溶融押出しして得られたストランドをペレタイズして、直径約2mm、長さ2mmの円柱状ペレットである複合材(α)を得た。次に流動性を同程度にするためにガラス繊維チョップ(以下GFチョップと略す。)20重量部及びナイロン-6,6ペレット80重量部を同様にドライブレンドして、2軸押出機を用い、同様の大きさにペレタイズして、材料(β)とした。この(α)と(β)のペレットを等重量でドライブレンドした後、300℃で加熱したプレスで成形して成形板を得た(炭素繊維含有率:10重量%)。このようにして得られた成形板をスライスして各断面を観察してみると、確かに(α)は連続相になっていた。」

VII.当審の判断
VII-1.本件訂正発明1について
以下、甲第1号証を主引用例とした場合の無効理由3(進歩性)について検討する。

(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及び補強剤としてのゴム状物質を所定の割合で含有して成る組成物において、・・・(A)ポリアミド25〜70重量%、(B)ポリフェニレンエーテル25〜70重量%及び(C)ゴム状物質2〜25重量%から実質上構成され、かつ該ポリアミドが連続相を形成し、この連続相中に該ポリフェニレンエーテルが分散して平均粒子径2〜10μmの分散相を形成し、さらに該ゴム状物質のすべてが実質上分散相のポリフェニレンエーテル中にミクロ分散していることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物」(1-1)に関し、当該組成物に「所望に応じ・・・カーボンブラック・・・などを、本発明の目的を損わない範囲内で添加することができる。」(1-3)ことが記載されているから、甲第1号証には、
「ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、補強剤であるゴム状物質、及びカーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは2〜10μmの粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している樹脂組成物」の発明が記載されているといえる。

(2)対比
そこで、本件訂正発明1(前者)と、甲第1号証発明(後者)とを対比すると、本件訂正明細書【0015】には、「本発明において樹脂混合物は、更に慣用の添加物を含むことができる。特に耐衝撃性の向上のためにゴム状重合体をポリフェニレンエーテル及びポリアミドの合計100重量部に対して好ましくは20重量部以下の量で含むことができる」と記載されており、「耐衝撃性の向上」は、「補強」ともいえるから、本件訂正発明1は、「補強のためのゴム状物質」を含むことを許容するものであるから、後者が「補強剤であるゴム状物質」を含む点は、両者の相違点にはなり得ず、また、後者のポリフェニレンエーテルが「2〜10μmの粒子相」である点は、前者の「小さな粒子相」の概念に入り得るから、両者は、
「ポリフェニレンエーテル、ポリアミド及びカーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している樹脂混合物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:前者は、カーボンブラックが導電性であり、カーボンブラックを含む樹脂混合物が導電性であるのに対して、後者はカーボンブラックが導電性であるかどうか不明であり、樹脂混合物が導電性であるかどうかも不明である点。
相違点2:前者は、導電性カーボンブラックが主にポリアミド相中に含有されるのに対して、後者は、カーボンブラックがどの相にどのように存在するのか不明である点。

(3)判断
(i)相違点1について
樹脂混合物に導電性を付与し、導電性樹脂混合物として使用しようとすることは、周知の課題であり、そのためにカーボンブラックを導電性充填材として樹脂混合物に充填することも、周知・慣用の技術である(乙第1号証第2欄第1〜4行、甲第2号証(2-1)、(2-5)等参照)。
してみれば、甲第1号証発明における「カーボンブラック」を「導電性カーボンブラック」として、樹脂混合物に導電性を付与することは、上記周知の技術に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(ii)相違点2について
まず、本件訂正発明1において、相違点2における構成の技術的意義について考察する。
本件訂正明細書には、「ポリフェニレンエーテルとポリアミドを含む樹脂組成物に導電性粒子を混入して、成形品の表面抵抗を下げて静電塗装を適するようにするにおいて、より少い量の導電性粒子で目的を達成しようとする」(訂正明細書【0003】)ことを課題とし、「(導電性)カーボンブラックを特定の相、即ちポリアミド相に主に含有せしめることにより、上記課題が解決されることを見出した」(同【0004】)という知見に基づき、「ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物において、導電性カーボンブラックが主にポリアミド相中に含有される」(同【0005】)ことを課題解決の手段とすることが記載されているから、本件訂正発明1の「導電性カーボンブラックが主にポリアミド相中に含有される」構成の技術的意義は、「ポリアミドが海、ポリフェニレンエーテルが島である樹脂混合物に、より少い量の導電性カーボンブラックで低い表面抵抗を得る」ことにあるといえる。
これに対して、甲第2号証には、「電気絶縁性マトリックス(A)に導電性物質(B)を含有させた複合材(α)と、・・・材料(β)とのブレンド物からなり、複合材(α)相が連続相(海構造)になっている・・・ブレンド型導電性複合材料」(2-3)に関し、「少ない導電性物質の充填率で、導電性を著しく低下させることなく、見かけの充填率を増やすことにより、発生する種々の制約の少ない複合材料を提供することを目的」とし(2-2)、「導電性物質を一相に凝縮せしめ、さらにこの相を海構造にすることにより、全体の濃度は低いが、電気導通路相においての濃度が高く、従って接触確率が高くなるため、同じ充填率ならば、格段に改良された導電性能を示す複合材料を得られた」(2-4)こと、「β相は・・・海構造でも島構造でもよい」(2-7)ことが記載されているから、「海-島構造である樹脂混合物の海(連続相)に主に導電性物質を凝縮させることにより、より少ない導電性物質の充填率で格段に改良された導電性能(低い表面抵抗)を得る」ことは、本件出願前、公知の技術であったといえる。
してみれば、甲第1号証発明において、樹脂混合物に導電性を付与するという周知の課題を解決するに当たり、より少ない量の導電性粒子の混入により低い表面抵抗を得るために、連続相であるポリアミドマトリックス相に主に導電性カーボンブラックを含有するようにすることは、甲第2号証記載の上記公知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことといえる。

VII-2.本件訂正発明2について
以下、甲第1号証を主引用例とした場合の無効理由3(進歩性)について検討する。
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、VII-1.(1)に示したとおり、「ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、補強剤であるゴム状物質、及びカーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは2〜10μmの粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している樹脂組成物」が記載されており、さらに、その製造方法として、「ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びゴム状物質を・・・溶融混練する」(1-2)こと、「本発明組成物には・・・カーボンブラックを添加する」(1-3)こと、具体的な実施例として、「ポリ(2,6-ジメチルフェニレン-1,4-エーテル)、6,6-ナイロン、結合スチレン40%のSBブロックポリマー・・・を、第1表に示した配合処方に従い、30φ2軸押出機に供給し、300℃の温度で押出混練し、ペレット化した」(1-4)ことが記載されている。ここで、上記(1-4)に記載の「押出機に供給し」とは、樹脂材料が通常ペレットの形態で供給されることであり、そしてこのペレットの供給によりペレット同士が混ぜ合わされることである。また上記「300℃の温度で押出混練し」とは、これらペレットの混合物がその後300℃で加熱・押し出しにより溶融混練されることであるといえる。さらに上記(1-3)に記載のカーボンブラックについても、これが溶融混練時に添加されていないと組成物に混入されないこととなるから、ペレット同士の混ぜ合わせ工程ではカーボンブラックは既に添加され、混合されているといえる。
そうすると、甲第1号証には、「ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、補強剤であるゴム状物質、及びカーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは2〜10μmの粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している樹脂組成物を作る方法において、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ゴム状物質及びカーボンブラックを混ぜ合わせた後、これらを溶融混練する方法。」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「甲第1号証方法発明」という)。

(2)対比
本件訂正発明2(前者)と甲第1号証方法発明(後者)とを対比する前に、まず、本件訂正発明2の「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合する」構成の「これ」の示すものを明確化し、「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これと」及び「これとポリフェニレンエーテルとを混合する」の具体的な意味を明らかにするために、以下検討する。
本件訂正明細書【0022】には、実施例として、「92重量部のナイロンペレット6と8重量部のケッチェンブラックを均一に溶融混練し、押し出し、マスターペレットを作った。次に該ペレットを表1に示す重量比で他の成分(注:ポリフェニレンエーテルを含む)と予め均一にドライブレンドした後に、シリンダー温度300℃に設定した二軸押出機を用いて押出し、ペレットを作った。」工程が記載されているから、本件訂正発明2の「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これと」に記載の「これ」とは、具体的には、導電性カーボンブラックをポリアミド中に均一分散させた「マスターペレット」を意味することは明らかである。また、本件訂正発明2の「これとポリフェニレンエーテルとを混合する」についても、具体的には、上記マスターペレットとポリフェニレンエーテルのペレットとをドライブレンドした後、これらペレットのブレンド物を300℃に加熱された押出機を用いて押出すことによって「導電性樹脂混合物のペレット」を作るものであるといえる。そして、この「ドライブレンド」は、通常樹脂ペレット同士を混ぜ合わせる工程であり、また「300℃に加熱された押出機を用いて押出す」ことは、ペレットのブレンド物を「溶融混練」する工程であるといえるから、本件訂正発明2の導電性樹脂混合物を作るための上記「混合」とは、具体的にはマスターペレット(導電性物質を含有した海となる樹脂ペレット)と他の樹脂ペレットとをドライブレンドによって「混ぜ合わせる工程」(以下、「樹脂ペレット同士を混ぜ合わせる」ことを、便宜上「第1の混合」という)と、その後これらペレットを「溶融混練する工程」(以下、便宜上「第2の混合」という)とを意味するというべきである。
以上の点を踏まえ、本件訂正発明2(前者)と甲第1号証方法発明(後者)とを対比すると、後者が「補強剤であるゴム状物質」を含む点は、実質的な相違点となり得ないこと、また、後者の「(ポリフェニレンエーテルは)2〜10μmの粒子相」である点が、前者の「小さな粒子相」の概念に入り得ることは、VII-1.(2)に示したとおりである。さらに、甲第1号証発明の「ポリアミドとポリフェニレンエーテル、及びカーボンブラックを混ぜ合わせた後、これらを溶融混練する」ことは、前示のとおり、具体的には、海となるポリアミドのペレットとポリフェニレンエーテルのペレットを混ぜ合わせ、これにカーボンブラックをも混合する「第1の混合」後に、これら混合物を溶融混練する「第2の混合」とを行うことであるといえるから、本件訂正発明2の上記「混合」の具体的な解釈に照らせば、本件訂正発明2の「海となる樹脂ペレットと他の樹脂ペレットとをドライブレンドによって混ぜ合わせる第1の混合と、その後、これらブレンド物を溶融混練する第2の混合」とを行うことに相当するといえる。
そうすると、両者は、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとを混ぜ合わせた後これらを溶融混練するという上記「混合」の点では、実質的な差異はないといえるから、「ポリフェニレンエーテル、ポリアミド及びカーボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している樹脂混合物を作る方法において、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとを混合する方法。」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:前者は、カーボンブラックが導電性であり、カーボンブラックを含む樹脂混合物が導電性であるのに対して、後者はカーボンブラックが導電性であるかどうか、また樹脂混合物が導電性であるかどうか不明である点。
相違点2-2:前者は、「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合する」点、すなわち前者は、予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた樹脂(具体例では上記「マスターペレット」)を用意した後、この樹脂とポリフェニレンエーテルとを混合するのに対して、後者は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びカーボンブラックを用意した後、これらを混合しているだけであるから、本件訂正発明2のようなマスターペレットを用意しない点。

(3)判断
(i)相違点2-1について
相違点2-1における本件訂正発明2の構成は、VII-1.(3)(i)において、相違点1について検討した理由と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものである。

(ii)相違点2-2について
まず、相違点2-2における本件訂正発明2の構成の技術的意義について検討すると、本件訂正明細書には、「ポリフェニレンエーテルとポリアミドを含む樹脂組成物に導電性粒子を混入して、成形品の表面抵抗を下げて静電塗装を適するようにするにおいて、より少い量の導電性粒子で目的を達成しようとする」(訂正明細書【0003】)ことを課題とし、「(導電性)カーボンブラックを特定の相、即ちポリアミド相に主に含有せしめることにより、上記課題が解決されることを見出した」(同【0004】)という知見に基づき、「ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物を作る方法において、予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合する」(同【0006】)ことを課題解決手段とすることが記載されているから、相違点2-2における本件訂正発明2の構成の技術的意義は、ポリフェニレンエーテルを海、ポリアミドを島とする樹脂混合物において、より少い量の導電性カーボンブラックで低い表面抵抗を得るという課題を解決するために、「導電性カーボンブラックをポリアミドマトリックス相(海)に主に含有せしめる」点、そして、そのために「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合する」点にあるといえるところ、上記課題を解決するために「導電性カーボンブラックをポリアミドマトリックス相(海)に主に含有せしめる」点については、本件訂正発明1に係る上記VII-1.(3)において検討したとおり、甲第1,2号証の記載に基づいて当業者が容易になし得たことであるといえる。
そうすると、本件訂正発明2の進歩性の有無は、上記相違点2-2の具体的な構成である「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合する」点によって判断して差し支えないといえる。
そこで検討すると、本件訂正発明2の「これとポリフェニレンエーテルとを混合する」とは、前示のとおり、具体的には導電性物質を含有した海となる樹脂ペレット(上記「マスターペレット」)と他のポリフェニレンエーテル樹脂ペレットとを混ぜ合わせる「第1の混合」と、その後これら樹脂のブレンド物を溶融混練する「第2の混合」を意味すると解することができる(なお、この解釈については調書参照)から、本件訂正発明2と甲第1号証方法発明とは、樹脂原料(ペレット)同士のブレンド物を溶融混練するという「第2の混合」の点では共通しているといえるが、第2の混合以前の「第1の混合」において、どのような樹脂ペレットを混合するかという点、具体的には、本件訂正発明2では、予め導電性物質を海となるポリアミドに均一分散するように含有させた原料(上記マスターペレット)を用意し、これとポリフェニレンエーテルを混合するのに対し、甲第1号証方法発明では、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル及びカーボンブラックを混合しているだけであるから、両者は、導電性カーボンブラックを添加するための上記「第1の混合」において、本件訂正発明2の具体例でいうところの「マスターペレット」を用意したか否かの点で相違しているといえる。
そこで、本件訂正発明2の上記「第1の混合」における「マスターペレット」の点について検討すると、甲第2号証には、海(連続相)に導電性物質を主に含有せしめた樹脂混合物を作る方法において、「押出機を用いて導電性繊維もしくは粒子を電気絶縁性マトリックス(A)に練り込んだペレット(複合材α)を作る。次に、・・・ペレット(材料β)を作る。そして、このペレット同士をドライブレンドし、プレス成形をして作成する」(上記(2-8)参照)という記載から明らかなように、予め導電性物質を海となる樹脂に均一分散するように含有させたペレット(α)(本件訂正発明2でいう上記「マスターペレット」に相当)を用意し、このペレットと他の樹脂ペレット(β)とを混ぜ合わせる「第1の混合」の後、プレス成形により少なくとも海を含む2相構造の樹脂混合物を製造する方法が記載されているといえるから、本件訂正発明2でいう第1の混合の段階において、予め海となる樹脂に導電性物質を均一分散するように含有させた原料、すなわち上記「マスターペレット」を用意しこれと他の樹脂を混ぜ合わせること、換言すれば、導電性カーボンブラックを海となるポリアミドに添加させるために、本件訂正発明2でいう上記「マスターペレット」を用意することは、既に甲第2号証によって公知の手段であったといえる。
次に、導電性カーボンブラックを海となるポリアミドに添加させるための上記「マスターペレット」という公知の手段を甲第1号証方法発明に適用することができるか否かについて、さらに検討する。
甲第1号証方法発明において混合する2種の樹脂(ポリアミドとポリフェニレンエーテル)は、「非相溶」の関係にあり、これに対し、甲第2号証に記載の上記2種の樹脂は、(2-3)、(2-7)に記載されているように、実質的に接着性を有する、すなわち「相溶」の関係にあるから、甲第1号証に記載の樹脂混合物と甲第2号証に記載の樹脂混合物とは、その2種の樹脂の組み合わせの点で相違するものであるといえる。
しかしながら、少なくとも海を含む「海-島」の2相構造の樹脂混合物を作る際に、「非相溶系」か「相溶系」かという樹脂の組み合わせの相違は、原料である2種の樹脂ペレットを溶融混練する上記「第2の混合」を行った後にはじめて発現することであって、それ以前の原料(各樹脂ペレット)を混ぜ合わせるだけの「第1の混合」段階では、非相溶か相溶かの樹脂の違いによってその樹脂を混ぜ合わせることができないというわけではなく、しかも両者の混ぜ合わせ手段が相違するものでもない(例えば、ドライブレンドという共通の混ぜ合わせ手段を採用することができる)から、「非相溶」か「相溶」かという2種の樹脂の組み合わせの相違は、原料の2種の樹脂を混ぜ合わせる「第1の混合」の段階には特段の影響を及ぼすものではないといえる。この点に関し、この「非相溶」か「相溶」かの樹脂の組み合わせの違いによって、甲第1号証方法発明と甲第2号証に記載の製造方法において影響されることといえば、「第1の混合」の後の混合段階においてどのような混合手段を採用するかという点である。すなわち、海-島の2相構造の樹脂混合物を作るためには、甲第1号証方法発明では、その原料が「非相溶系」の樹脂の組み合わせであるから、「第2の混合」である「溶融混練」という手段によって「小さな粒子相(島)がマトリックス相(海)中に分散している」という「海-島」の2相構造を得ることができるが、これに対して、甲第2号証に記載の製造方法では、その原料が「相溶系」の樹脂の組み合わせであるが故に、「溶融混練」を採用すれば樹脂同士が「溶融」により互いに相溶しかつ「混練」により樹脂相が混ざり合って少なくとも海を含む「海-島」の2相構造を得ることができないことになるから、甲第2号証の具体例に示される「熱プレス成形」という非溶融・非混練の混合手段を採用せざるを得なかったという点だけであると解される。
以上のとおり、甲第1号証方法発明と甲第2号証に記載の樹脂混合物の製造方法は、その取り扱う2種の樹脂の組み合わせの点で相違しているものの、その樹脂の組み合わせの相違は、「第1の混合」後の混合段階で溶融混練を採用するか熱プレス成形を採用するかという点に影響を及ぼすだけであって、それ以前の樹脂原料(樹脂ペレット)を用意してこれらを混ぜ合わせるだけの「第1の混合」の段階には特段影響を及ぼすものでないことは、前示のとおりであるから、海(連続相)に導電性物質を主に含有せしめるために、甲第2号証に記載の上記公知の手段(マスターペレット)を甲第1号証方法発明の「第1の混合」の段階に適用して差し支えないと云うべきである。
したがって、本件訂正発明2の相違点2-2の「予め導電性カーボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエーテルとを混合する」という点も、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたというべきである。

VII-3.被請求人の主張に対する判断
(1)被請求人の主張
被請求人は答弁書、口頭審理陳述要領書、及び上申書において、本件訂正発明1,2の進歩性に関し、甲第2号証と甲第1号証を結びつけるには阻害要因があるとして、大略、下記の主張をしている。
(i)甲第2号証には、導電性物質の局在化の手段として、具体的には、「複合材(α)と樹脂(β)のペレット同士を、ドライブレンドし、プレス成形をして作成する」方法しか記載されていない。
一方、甲第1号証に記載の「ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している樹脂混合物」を製造するためには、「溶融混練」工程が必要である。
ところが、甲第2号証における複合材(α)と樹脂(β)との混合工程として、甲第1号証に記載の「溶融混練」工程を採用すると、複合材(α)と、それと接着性を有する樹脂(β)とは、海-島構造とならず、均一構造となり、導電性物質も均一分散してしまうから、海に導電性物質を凝縮するという目的に反することになる。
したがって、甲第2号証記載の導電性物質局在化の手段を甲第1号証記載の樹脂混合物に適用するには、阻害要因がある。

(ii)甲第2号証記載の「導電性樹脂混合物」では、「樹脂(β)」は、「複合材(α)と実質的な接着性を有する」ものでなければならないが、複合材(α)の電気絶縁性マトリックス(A)が「ポリアミド」である場合、ポリアミドに対して非相溶である「ポリフェニレンエーテル」が複合材(α)と接着性を有するはずがないし、「ポリアミド-ポリフェニレンエーテル」に「相溶化剤」を添加したとしても、接着強化は全くなされないから、甲第2号証においては、甲第1号証記載の「ポリアミド」に「ポリフェニレンエーテル」との組み合わせは避けられているはずである。

(2)当審の判断
(i)に対して
被請求人の「甲第2号証における複合材(α)と樹脂(β)との混合工程として、甲第1号証に記載の「溶融混練」工程を採用すると、・・・海に導電性物質を凝縮するという目的に反することになる。」という主張に対しては、本件訂正発明2の進歩性を否定する理由は、前示のとおり、甲第2号証に記載の「混合工程」に替えて甲第1号証に記載の「溶融混練」を採用するというものではない。甲第1号証方法発明の「第1の混合」において、甲第2号証に記載の導電性物質を海となる樹脂に添加させるための上記「マスターペレット」を適用するというものであるから、被請求人の上記主張は、その前提において失当である。
また、甲第1号証方法発明の「非相溶系」の樹脂混合物の製造方法に、甲第2号証に記載の上記「マスターペレット」を適用した場合でも、樹脂の組み合わせが非相溶であるが故に「第2の混合」である溶融混練によって海-島構造が保たれ、導電性物質の局在化も保たれることは明らかであるから、「第2の混合」として「溶融混練」を採用する甲第1号証方法発明の場合でも、その「第1の混合」において甲第2号証に記載の上記「マスターペレット」を適用しても構わないことはいうまでもないことである。
したがって、被請求人の上記「甲第2号証記載の導電性物質局在化の手段を甲第1号証記載の樹脂混合物に適用するには、阻害要因がある。」という主張も、採用することができない。

(ii)に対して
被請求人の「甲第2号証においては、甲第1号証記載の「ポリアミド」に「ポリフェニレンエーテル」との組み合わせは避けられているはずである。」という主張に対しては、本件訂正発明2の進歩性を否定する証拠は、その主要な証拠が甲第1号証であるから、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとの樹脂の組み合わせは、甲第1号証の記載から導き出せる事実関係であり、したがって、甲第2号証に記載の樹脂の組み合わせ(相溶系)を甲第1号証のポリアミドとポリフェニレンエーテルとの樹脂の組み合わせ(非相溶系)によって置き換える必要がないことは当然である。また、甲第2号証に記載の樹脂の組み合わせは「相溶系」であるとはいえ、甲第2号証に記載された製造方法の「第1の混合」において採用されている上記公知の手段(マスターペレット)を甲第1号証方法発明に適用することを阻害する要因が存在しないことも、前示のとおりである。
したがって、被請求人の上記主張も、採用することができない。

VIII.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1,2は、甲第1,2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1,2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電性樹脂混合物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリフェニレンエ-テル、ポリアミド及び導電性カ-ボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物において、導電性カ-ボンブラックが主にポリアミド相中に含有されることを特徴とする導電性樹脂混合物。
【請求項2】ポリフェニレンエ-テル、ポリアミド及び導電性カ-ボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物を作る方法において、予め導電性カ-ボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエ-テルとを混合することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カ-ボンブラックを含有して表面抵抗を低下されている、ポリフェニレンエ-テル及びポリアミドより成る樹脂混合物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂の多くは非導電性であり、従って熱可塑性樹脂の成形品を静電塗装するためには導電性プライマ-を下塗するか、導電性粒子・フレ-ク、特に導電性カ-ボンブラックを混入している。ポリフェニレンエ-テルとポリアミドとを含む樹脂組成物は、バランスのとれた物性の故に多用されつつあり、成形品を静電塗装する要求がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリフェニレンエ-テルとポリアミドを含む樹脂組成物に導電性粒子を混入して、成形品の表面抵抗を下げて静電塗装を適するようにするにおいて、より少い量の導電性粒子で目的を達成しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、ポリフェニレンエ-テルとポリアミドを含む樹脂組成物に導電性カ-ボンブラック(以下では、単にカーボンブラックと言うことがある)を混入するにおいて、カ-ボンブラックを特定の相、即ちポリアミド相に主に含有せしめることにより、上記課題が解決されることを見出した。
【0005】
すなわち本発明は、ポリフェニレンエ-テル、ポリアミド及び導電性カ-ボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物において、導電性カ-ボンブラックが主にポリアミド相中に含有されることを特徴とする導電性樹脂混合物である。
【0006】
また本発明は、ポリフェニレンエ-テル、ポリアミド及び導電性カ-ボンブラックを含み、ポリフェニレンエーテルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している導電性樹脂混合物を作る方法において、予め導電性カ-ボンブラックをポリアミド中へ均一分散させた後、これとポリフェニレンエ-テルとを混合することを特徴とする方法である。
【0007】
カ-ボンブラックは、微細粒子が連なっている導電性カ-ボンブラックが好ましい。
【0008】
本発明においてポリフェニレンエ-テルとは、それ自体公知であり、たとえば一般式(A)
【化1】

(式中R1,R2,R3,並びにR4は水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子とフェニル環との間に少くとも2個の炭素原子を有するハロアルキル基及びハロアルコキシ基で第3級α-炭素を含まないものから選んだ一価置換基を示し、nは重合度を表わす整数である)
で表わされる重合体の総称であって、上記一般式で表わされる重合体の一種単独であっても、二種以上が組合わされた共重合体であってもよい。好ましい具体例ではR1及びR2は炭素原子数1〜4のアルキル基であり、R3,R4は水素もしくは炭素原子数1〜4のアルキル基である。例えばポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エ-テル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エ-テル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エ-テル、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エ-テル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エ-テル、ポリ(2-エチル-6-プロピル-1,4-フェニレン)エ-テル、などが挙げられる。特に好ましいポリフェニレンエ-テル樹脂はポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エ-テルである。またポリフェニレンエ-テル共重合体としては上記ポリフェニレンエ-テル繰返し単位中にアルキル三置換フェノ-ルたとえば2,3,6-トリメチルフェノ-ルを一部含有する共重合体を挙げることができる。またこれらのポリフェニレンエ-テルに、スチレン系化合物がグラフトした共重合体であってもよい。スチレン系化合物グラフト化ポリフェニレンエ-テルとしては上記ポリフェニレンエ-テルに、スチレン系化合物として、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレンなどをグラフト重合して得られる共重合体である。
【0009】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。構成成分の具体例を挙げるとε-カプロラクタム、エナントラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、ε-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノ酸、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス-p-アミノシクロヘキシルメタン、ビス-p-アミノシクロヘキシルプロパン、イソホロンジアミンなどのジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマ-酸などのジカルボン酸がある。これらの構成成分は単独あるいは二種以上の混合物の形で重合に供され、そうして得られるポリアミドホモポリマ-、コポリマ-いずれも本発明で用いることができる。特に本発明で有用に用いられるポリアミドはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、そしてこれらポリアミドの共重合体及び混合物である。ここで用いられるポリアミドの重合度については特に制限がなく、1%濃硫酸溶液の25℃における相対粘度がたとえば1.5〜5.0の範囲内にあるものを任意に用いることができる。
【0010】
これらのポリアミドの末端基は、通常、溶融粘度調整、熱安定性の向上のため、末端封鎖等が行なわれており、末端アミノ基対末端カルボキシル基のモル比(以下、末端基比という)は1以下に抑えられている。本発明で用いるポリアミドとしては、末端基比が1より大きいことが好ましい(しかし、これに限定されない)。このようなポリアミドは、ポリアミドの重合の際にたとえばカルボキシル基と反応する基を持つ化合物たとえばジアミンを余分に添加することによって得ることができる。あるいは、ポリアミドの重合の後に、たとえばカルボキシル基と反応する基を有する化合物と反応させることによっても得ることができる。末端基比が1より大きいポリアミドを用いると、末端基比が1以下のポリアミドを用いた場合に比べて成形品の外観及び機械的強度が飛躍的に良くなる。末端基比は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3以上である。
【0011】
本発明において好ましくは、ポリフェニレンエ-テルの量は5〜80重量部、特に30〜70重量部、ポリアミドの量は95〜20重量部、特に70〜30重量部である。この量範囲から成る成形品中では、ポリフェニレンエ-テルは小さな粒子相としてポリアミドマトリックス相中に分散している。両樹脂間の相溶性を改善するために、公知の相溶化剤たとえばクエン酸、リンゴ酸等のようなポリカルボン酸及びその誘導体、無水マレイン酸のような分子内に(a)二重結合又は三重結合及び(b)カルボン酸基、酸無水物基、酸アミド基、イミド基、カルボン酸エステル基又はエポシキ基を有する化合物、無水トリメリット酸クロライド等を挙げることができる。これらの相溶化剤は1種又は2種以上の組合せにおいて、場合によってはパ-オキサイドと共に使用することができる。該相溶化剤は、本発明の樹脂組成物中に0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい。
【0012】
ポリフェニレンエ-テルとポリアミドを相溶化する方法としては、単に相溶化剤を添加混合する方法あるいは予じめポリフェニレンエ-テルをクエン酸、無水マレイン酸等と反応させて変性した後にポリアミドと混練する方法等のいずれの方法を使用することもできる。なお無水トリメリット酸クロライドを用いてポリフェニレンエ-テルを変性する場合には、塩素受容体、例えば金属酸化物を添加することが好ましい。
【0013】
本発明において好ましく用いられる導電性カ-ボンブラックは、ペイント等に着色目的で加える顔料用カ-ボンブラックとは違って、微細な粒子が連なった形態をしているものであり、ケッチェンブラックとして市販されている。
【0014】
導電性カ-ボンブラックの量は好ましくは、ポリフェニンエ-テル及びポリアミドの合計100重量部に対して1〜20重量部、特に2〜10重量部である。
【0015】
本発明において樹脂混合物は、更に慣用の添加物を含むことができる。特に耐衝撃性の向上のためにゴム状重合体をポリフェニレンエ-テル及びポリアミドの合計100重量部に対して好ましくは20重量部以下の量で含むことができる。ゴム状重合体としてはスチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体を挙げることができる。
【0016】
これらのゴム状重合体は水素化、部分水素化あるいは無水マレイン酸等により酸変性されたものであることができる。耐熱老化性を考慮した場合、水素化されたものであることが好ましい。
【0017】
又、公知の如く加工性を向上するためにポリスチレン系樹脂を添加することもできる。ポリスチレン系樹脂としては、一般式
【化2】

(式中Rは水素または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、Zはハロゲンまたは炭素原子数1〜4のアルキル基である置換基を示し、pは0〜5の整数である)
で示されるビニル芳香族化合物から誘導された繰返し構造単位を、その重合体中に少くとも25重量%以上有するものでなければならない。
【0018】
かかるポリスチレン系樹脂としては例えばスチレンもしくはその誘導体(たとえばα-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルビニルキシレン、ビニルナフタレン及びこれらの混合物)の重合体並びに例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、EPDMゴム、エチレン-プロピレン共重合体、天然ゴム、ポリスルフィドゴム、ポリウレタンゴム、エピクロロヒドリンのごとき、天然又は合成エラストマ-物質の混合あるいは相互作用によって変性されたスチレン重合体、更には、スチレン含有共重合体、例えば、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエンタ-ポリマ-(ABS)、ポリ-α-メチル-スチレン、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼンの共重合体などが挙げられる。更に、本発明のために好ましい樹脂はポリスチレンホモポリマ-、又はポリブタジエンゴムもしくはEPDMゴムの3〜30重量%、好ましくは4〜12重量%と混合、又はそれでグラフト化したゴム変性ポリスチレンである。スチレン系樹脂の混合比率はポリフェニレンエ-テル樹脂及びポリアミドの優れた特性を損なわない範囲にあるのが望ましく、従ってポリフェニレンエ-テルとポリアミドの合計5〜100重量部に対しスチレン系樹脂95〜0重量部の比であることが好ましい。
【0019】
さらに本発明の樹脂組成物にはその物性を損なわない限りにおいて樹脂の混合時、成形時に他の添加剤、たとえば顔料、染料、補強剤、充填剤、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、難燃剤、流動性改良剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0020】
本発明においてカ-ボンブラックを主にポリアミド相中に含有せしめるためには、カ-ボンブラックをポリアミド中に予め均一分散させた後に、ポリフェニレンエ-テルと混合する。こうすることによって、カ-ボンブラックの過半、好ましくは70重量%以上、特に90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上がポリアミド相中に含まれることになる。カ-ボンブラックをポリアミド中に均一分散させるには、ポリアミドを溶融し、慣用の混合手段で混合することができる。このために押出機、ニ-ダ-、ロ-ルミキサ-、バンバリ-ミキサ-などを使用できる。続くポリフェニレンエ-テルとの混合においてもこれら慣用の手段を使用できる。
【0021】
本発明における導電性樹脂混合物とは、上記のような混合物及び成形品を包含するものとする。
【0022】
【実施例】
【実施例1】
実施例で用いたポリフェニレンエ-テルは、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエ-テル(Noryl:商標、エンジニアリングプラスチックス株式会社、クロロホルム中25℃での固有粘度0.48dl/g)である。
ポリアミドは、ナイロン6(商標、ユニチカナイロン樹脂A8030A)である。
また、ポリスチレン(商標、ディックスチレンCR3500、大日本インキ化学工業株式会社も添加した。
導電性カ-ボンブラックとしては、ケッチエンブラックEC 600JD(ライオン株式会社)を用いた。
シリンダ-温度270℃に設定した二軸押出機を用いて、92重量部のナイロン6と8量部のケッチエンブラックを均一に溶融混練し、押し出し、マスタ-ペレットを作った。
次に該ペレットを表1に示す重量比で他の成分と予め均一にドライブレンドした後に、シリンダ-温度300℃に設定した二軸押出機を用いて押出し、ペレットを作った。得たペレットを120℃で4時間乾燥した後、シリンダ-温度280℃、金型温度80℃に設定した射出成形機を用いて50×50×3mmの試験片を作成した。
得た試験片の表面抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【比較例】
200℃に設定したバンバリ-ミキサ-を用いて80重量部の溶融したポリスチレン中に20重量部の導電性カ-ボンブラックを均一に練り込み次に200℃に設定した二軸押出機を用いてマスタ-ペレットを作った。
該マスタ-ペレットを表1に示す重量比の他の成分と予め均一にドライブレンドした。以下、実施例と同様に押出し、ペレットを作り、同様に試験片を作った。
用いた夫々の樹脂の量及び導電性カ-ボンブラックの量は、実施例と比較例とで同じである。
【表1】

【0023】
上記表より、実施例と比較例とでは全く同じ組成であるにも拘らず、実施例においては成形品の表面抵抗が著しく低いことが判る。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-10-08 
結審通知日 2004-10-13 
審決日 2004-10-27 
出願番号 特願平1-19630
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長 由紀子辻 徹二  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 吉水 純子
中田 とし子
登録日 1998-03-13 
登録番号 特許第2756548号(P2756548)
発明の名称 導電性樹脂混合物  
代理人 花岡 巌  
代理人 松井 光夫  
代理人 酒井 正己  
代理人 増井 和夫  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 久保田 穣  
代理人 村田 真一  
代理人 松井 光夫  
代理人 増井 和夫  
代理人 五十嵐 裕子  
代理人 久保田 穣  
代理人 五十嵐 裕子  
代理人 橋口 尚幸  

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