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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1128063
審判番号 不服2003-24734  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-02-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-22 
確定日 2005-12-12 
事件の表示 平成 6年特許願第 81412号「磁気記録媒体用結合剤および磁気記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 2月21日出願公開、特開平 7- 50010〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年4月20日(優先権主張平成5年6月3日)の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成14年7月22日付けで手続補正がなされたが、平成15年11月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年12月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年1月21日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年1月21日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年1月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、少なくとも次の補正を含むものである。なお、下線は、便宜的に当審が付与した。
補正前の特許請求の範囲(平成14年7月22日付け手続補正で補正)の
「【請求項1】 ジオール及び/又はジアミンと有機ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなる磁性層、あるいは非磁性層を形成する磁気記録媒体用結合剤において、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、また前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤。
【請求項2】 前記ポリウレタン樹脂及び前記ポリウレタンウレア樹脂は、分子中に、-SO3M、-OSO3M、-COOM、-PO3M'2、-OPO3M'2、-NR2、-N+R3X-、-N+R2R'COO-(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンであり、M' は水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、炭素数1〜12のアルキル基であり、R、R' は炭素数1〜12のアルキル基であり、Xはハロゲン原子を示す)から選ばれた少なくとも1種の極性基を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用結合剤。
【請求項3】 非磁性支持体の少なくとも一面に強磁性粉末と結合剤を含む磁性層、あるいは非磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記結合剤がジオール及び/又はジアミンと有機ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなり、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、また前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】 非磁性支持体の少なくとも一面に下層磁性層又は下層非磁性層を設け、その上に上層磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層もしくは前記非磁性層の少なくとも一層は、強磁性粉末もしくは非磁性粉末を結合する結合剤がジオール及び/又はジアミンと有機ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなり、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、またまた前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体。」を、
補正後の特許請求の範囲の
「【請求項1】 ジオール及び/又はジアミンと芳香族ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなる磁性層、あるいは非磁性層を形成する磁気記録媒体用結合剤において、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜6.5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、また前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤。
【請求項2】 前記ポリウレタン樹脂及び前記ポリウレタンウレア樹脂は、分子中に、-SO3M、-OSO3M、-COOM、-PO3M'2、-OPO3M'2、-NR2、-N+R3X-(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンであり、M' は水素原子、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、炭素数1〜12のアルキル基であり、Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、Xはハロゲン原子を示す)から選ばれた少なくとも1種の極性基を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体用結合剤。
【請求項3】 非磁性支持体の少なくとも一面に強磁性粉末と結合剤を含む磁性層、あるいは非磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記結合剤がジオール及び/又はジアミンと芳香族ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなり、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜6.5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、また前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】 非磁性支持体の少なくとも一面に下層磁性層又は下層非磁性層を設け、その上に上層磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層もしくは前記非磁性層の少なくとも一層は、強磁性粉末もしくは非磁性粉末を結合する結合剤がジオール及び/又はジアミンと芳香族ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなり、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜6.5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、また前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体。」
とする補正。

この補正を検討すると、少なくとも、結合剤の発明に関する補正前の請求項1に係る発明を補正後の請求項1に係る発明に補正することを含むものと認められ、(A)ジイソシアネートに関し、「有機ジイソシアネート」を下位概念の「芳香族ジイソシアネート」と補正し、(B)長鎖ジオールの量に関して、「ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜5モル%」を「ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜6.5モル%」と補正し、(C)「ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールと」との規定を削除することを含むものである。

(2)(B)の補正について
「ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対」する長鎖ジオールの量を、「0〜5モル%」から「0〜6.5モル%」へ範囲を広げることは拡張であって、限定的減縮ではない。
また、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、単に「当初明細書」ともいう。)には、長鎖ジオールの量を「ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜6.5モル%」とする説明はなく、また、自明であるとも認められないから、(B)の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

この点に関し、請求人は、審判請求理由において直接の釈明を行っていないところ、ただ、拒絶査定時に付言された記載不備に関しての応答の箇所(審判請求理由の平成16年3月31日付け手続補正書参照)において、
「(12)について
段落番号0037の表1のポリウレタン樹脂A〜D中の長鎖ジオールの含有量は、表に記載の使用量に基づいて正しく計算すると、{3.7/(3.7+13+3.0+37.5)}×100=6.47との式から求められます。
そして、小数点2桁を四捨五入して各材料の使用量と同様の形態で表現すると6.5モル%となります。これらの正しい計算結果に基づいて、表1の長鎖ジオールの含有量を修正し、その結果に基づき請求項1、3、および4における長鎖ジオールの含有量を「0〜6.5モル%」としたものであって、適法なものと思料いたします。」
と主張している。
しかしながら、この計算式がどのような趣旨に基づくのか不明である。
ただ、当初明細書の段落【0037】及び表1(段落【0038】)に記載の数値から推測するに、3.7が長鎖ポリオール分子量2000の使用量(モル比、以下同様)、13が短鎖ジオール(1,6-ヘキサンジオール)の使用量,3.0がスルホイソフタル酸ジメチルエステルの使用量,37.5が4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量と解せられるところ、それら全量が過不足なく反応し、モル%の意味が「反応生成物であるポリウレタン樹脂」に占める各反応原料の反応した総モル数に対する長鎖ジオールの反応したモル数の割合(なお、モル数とは約6.023×1023個(アボガドロ定数)の原子の量・分子の量、即ち原子または分子の数であり、合成高分子となった反応原料数ではないけれども、誤用ではあってもそのような使い方がなされている場合がある)と解すれば、上記計算式は一応成り立つものと認められる可能性がある。
しかし、ジオール成分は総計16.7モル(=3.7+13)であるのに対し、ジイソシアネート成分は37.5モルであって、そして反応生成物であるポリウレタン樹脂が理論的にはジオールとジイソシアネートの当モル量(反応からみて、1モル:1モル)が反応したものと認められることから、ジオール成分16.7モルが全て反応しても、ジイソシアネートの20.8モル(=37.5-16.7)は未反応として残る(尚、反応系内の水分や湿気により反応することはある)ことになり、この量は誤差ないし通常使用される少過剰量といえる量ではない。そうであるから、特許請求の範囲に特定されている「反応生成物であるポリウレタン樹脂」に関して前記請求人の主張の主旨に沿って計算すると、約11.1モル%[=100×3.7/(3.7+13+16.7)]とする方が妥当といえる。 なお、スルホイソフタル酸ジメチルエステルがどのように反応するのか何ら説明もないので前記計算に考慮していないが、仮に加味したところで6.5モル%は導き出せない。ちなみに、未反応で残るジイソシアネートも「反応生成物であるポリウレタン樹脂」の一部と解すれば、請求人の主張の計算が成り立つ可能性はあるものの、本願明細書を検討してもそのような解釈が妥当であると解することはできない。
よって、前記請求人の主張は採用できない。
してみると、前記仮定をもとに複雑な計算をする必要がある現状に鑑みると、「0〜5モル%」は「0〜6.5モル%」の明らかな誤記であると解することは妥当とは云えない。

したがって、他の補正事項について検討するまでもなく、(B)の補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第2項において準用する第17条第2項の規定に違反し、乃至、特許法第17条の2第3項各号に掲げる事項を目的とするものではないから同法同条同項の規定に違反する。

(3)仮に(B)の補正が適正であるとしたところで、(A)の補正が、ジイソシアネートに関し、「有機ジイソシアネート」を当初明細書(段落【0017】参照)に好ましいと記載されていた「芳香族ジイソシアネート」に限定するものであって、特許法第17の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するところ、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、以下にその理由を示すように、原査定の拒絶の理由として引用された本願出願前(優先権主張日前)の刊行物である特開昭60-242516号公報に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められるので、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3-1)引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前(優先件主張日前)の刊行物である特開昭60-242516号公報(以下、引用例という。)には、次のように記載されている。なお、下線は、便宜的に当審が付与したものであり、また、2行以上に渡る式を1行で表現する際に誤解を招かないよう、必要な場合に変形し乃至は「()」などを追加した。
(i)「非磁性支持体上に、強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性材料を塗布した磁気記録媒体において、該結合剤の少なくとも1成分として、有機ジイソシアネート(A)、分子量500〜8000の長鎖ジオール(B)および分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物(C)を反応させた熱可塑性ポリウレタン樹脂であつて、分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物(C)が下記一般式(I)〜(III)で示される少なくとも1種のエステル基含有ジオールを含むポリウレタン樹脂を使用することを特徴とする磁気記録媒体。
HO-R1-O(CO)-R2-OH (I)
(HO)2R3-O(CO)-R4 (II)
HO-R5-O(CO)-R6-COO-R7-OH (III)
(式中、R1,R2,R5,R6,R7は2価の炭化水素基、R3は3価の炭化水素基、R4は1価の炭化水素基を示す。)」(特許請求の範囲参照)、及び、
(ii)「(発明の目的)
本発明者等は上記欠点を解消するために種々の熱可塑性ポリウレタン樹脂について鋭意検討した結果、原料の1成分として分子量500未満のエステル基含有ジオールを用いることにより、汎用有機溶剤に対する溶解性を低下することなくウレタン基濃度を高めることができることが判つた。この熱可塑性ポリウレタン樹脂を磁性層のバンダーとして使用した磁気記録媒体は、耐熱性、耐久性、耐摩耗性等の特性が非常に優れていることを見い出した。」(第2頁右上欄12行〜同頁左下欄2行参照)こと、
(iii)「 本発明で使用される有機ジイソシアネート(A)としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ビフェニレンジイソシアネート、2,4-ナフタレンジイソシアネート、3,3′-ジメチル-4,4′-ビフェニレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニレンジイソシアネート、4,4′-ジイソシアネート-ジフェニルエーテル、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、1,3-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、4,4′-ジイソシアネートジシクロヘキサン、4,4′-ジイソシアネートシクロヘキシルメタン、イソホロンジイソシアネート等があげられる。」(第2頁右下欄5行〜第3頁左上欄5行参照)こと、
(iv)「また、本発明で使用される長鎖ジオール(B)は、分子量が500〜8,000の範囲にあり、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネート・ジオール等があげられる。
ポリエステルジオールのカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、p-オキシ安息香酸、p-(ヒドロキシエトキシ)安息香酸などの芳香族オキシカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。特にテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましい。
またポリエステルジオールのグリコール成分としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフエノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフエノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどがある。上記以外のポリエステルジオールの原料成分としては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホテレフタル酸等のスルホン酸金属塩基を含有するジカルボン酸、および下記一般式〔I〕,〔II〕で示される燐含有のジカルボン酸およびコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
・・・(中略)・・・
スルホン酸金属塩基を含有するポリエステルジオール、一般式〔I〕,〔II〕で示される燐含有化合物を原料の少なくとも一成分として得られるポリエステルジオールを熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料の一成分として使用した場合、従来の熱可塑性ポリウレタン樹脂にみられる無機顔料、充填剤の分散能が低いという欠点を大巾に改善するのに有効であり、塗布型磁気記録媒体での磁性層のバインダーとして用いた場合、磁性粒子の分散性が改良されて磁気記録媒体の電磁変換特性等磁性粒子の分散性に起因する特性が大巾に向上する。
ポリエステルジオールとしては、他に、ε-カプロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られるラクトン系ポリエステルジオール類が挙げられる。
ポリエステルジオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類が挙げられる。
ポリカーボネートジオールとしては、一般式H(-O-R-OCO)n-ROHで表わされる長鎖ジオールであり、Rとしてはジエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ビスフエノールA等の残基がある。長鎖ジオール(B)は分子量が500〜8,000のものを使用する。分子量が500未満では、ウレタン基濃度が大きくなり、樹脂の柔軟性、溶剤溶解性が低下する。また分子量が8,000を越えると、ウレタン基濃度が低下し、ポリウレタン樹脂に特有な強靭性、耐摩耗性等が低下する。」(第3頁左上欄6行〜第4頁左上欄12行参照)こと、
(v)「本発明で用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂を特徴づける分子量500未満のエステル基含有ジオール(C)は一般式:
・・・(中略)・・・
で表わされ、各々、グリコールと水酸基含有モノカルボン酸の1対1エステル化合物、1分子中に三個の水酸基を有する化合物とモノカルボン酸との1対1エステル化合物あるいはグリコールと二塩基酸の2対エステル化合物である。
具体的な例としては、エチレングリコールとグリコール酸とのエステル、エチレングリコールと乳酸のエステル、エチレングリコールとε-ヒドロキシカプロン酸のエステル、ネオペンチルグリコールとヒドロキシヒバリン酸のエステル、ネオペンチルグリコールと乳酸のエステル、カプロン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ビス-(β-ヒドロキシエチル)アジペート、ビス-(β-ヒドロキシエチル)アジペート、ビス-(βヒドロキシエチル)テレフタレート等があげられる。特にネオペンチルグリコールとヒドロキシヒバリン酸のエステル化合物が望ましい。
分子量500未満のエステル基含有ジオール(C)以外の1分子中に活性水素を2個含む分子量500未満の化合物としては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-テトラメチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の直鎖グリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、等の分岐グリコール、モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等のアミノアルコール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピベラジン等のジアミンあるいは水等があげられる。
上記以外の活性水素を2個含む分子量500未満の化合物としては、下記一般式〔III〕で示される含燐化合物があげられる。
・・・(中略)・・・
熱可塑性ポリウレタン系樹脂の原料として一般式〔III〕で示される含燐化合物を使用した場合、従来のポリウレタン樹脂の欠点である無機顔料、充填剤の低分散能を改良するのに有効であり、塗布型磁気記録媒体での磁性層のバインダーとして用いた場合、磁性粒子の分散性が改善されて、磁気記録媒体の電磁変換特性等磁性粒子の分散性に起因する特性が大巾に向上する。
エステル基含有ジオール及び活性水素を2個含有する低分子量化合物の分子量が500を越えると、ポリウレタン樹脂に特有な優れた機械的強度が低下するため好ましくない。」(第4頁左上欄13〜第5頁左上欄3行参照)こと、
(vi)「本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン樹脂を製造する際用いる各原料の使用比率は、有機ジイソシアネートのモル数をa、長鎖ジオールのモル数をb、分子量500未満のエステル基含有ジオールのモル数をc1、エステル基含有ジオール以外の活性水素を2個含有する分子量500未満の化合物のモル数をc2とした場合、下記の範囲であらわされる。
1.1≧(b+c1+c2)/a≧0.9
2≦(c1+c2)/b≦50
0.25<c1/(c1+c2)<1
(b+c1+c2)/aは得られるポリウレタン樹脂の分子量を決定する。この値は熱可塑ポリウレタン樹脂の要求性能、長鎖ジオールの分子量等により変動するが、1.1以上では熱可塑性ポリウレタン樹脂の分子量が小さいため、磁性粒子のバインダーとしては耐熱性、耐久性、耐摩耗性等が劣る。製造時、反応系内の水分により有機ジイソシアネートの消費量が多くなり、(b+c1+c2)/aが1未満になることがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に未反応イソシアネート基が残存しないことが、保存性より望ましい。
(b+c1+c2)/aが0.9未満では未反応イソシアネート基が多量に残り、湿気により硬化するため望ましくない。
(c1+c2)/bはウレタン基濃度を決定する最大の因子でこの値が2未満ではウレタン基濃度が低く、機械的強度が低下する、一方50を越えるとウレタン基濃度が高くなりすぎ、伸度の低下、磁気記録媒体でのカールの発生等を生じ好ましくない。
c1/(c1+c2)は1分子中活性水素2個含有する分子量500未満の化合物中のエステル基含有ジオールの割合をあらわし、この値が0.25未満では汎用溶剤への溶解性の低下を生じ、本発明の目的に合わない。」(第5頁左上欄4行〜同頁左下欄2行参照)こと、
(vii)「(発明の効果)
本発明では熱可塑性ポリウレタン樹脂原料の1成分として分子量500未満のエステル基含有ジオールを用いることにより、汎用有機溶剤に対する溶解性を低下することなく、ウレタン基濃度を高めることができ、この熱可塑性ポリウレタン樹脂を磁性層のバインダーとすることにより、耐熱性、耐久性、耐摩耗性等の非常に優れた磁気記録媒体が得られる。」(第6頁左上欄9〜17行参照)こと、
(viii)「(実施例)
以下、本発明を実施例によつて具体的に説明する。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。
合成例 1
温度計、撹拌機、還流式冷却管を具備した反応容器中に、分子量2000のポリブチレンアジペート100部を入れ、70〜80℃で5mmHgの減圧下で脱水した後、常圧にもどし、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)85部及び反応触媒としてジブチル錫ジラウレート0.1部を仕込み80℃で1時間反応させた後、トルエン274部、メチルエチルケトン(MEK)274部を投入し、溶解し、更にネオペンチルグリコール10部、ネオペンチルヒドロキシピバレート40部を仕込み、更に80℃で15時間反応させた。得られたポリウレタン樹脂溶液は淡黄色透明で、固型分濃度30%、25℃での溶液粘度8ポイズ、またポリウレタン樹脂の数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフイーによる測定ではポリスチレン換算で25,000であつた。
合成例 2
温度計、撹拌機、還流式冷却管を具備した反応容器中に、トルエン261部、MEK261部及び第1表に記載したポリエステルジオール(A)100部、ネオペンチルヒドロキシピバレート50部を仕込み、60℃で溶解後、MDI74部、反応触媒としてジブチル錫ジラウレート0.1部を投入し、80℃で15時間反応させた。得られたポリウレタン樹脂溶液は淡黄色透明で、固型分濃度30%、25℃での溶液は260ボイズ、またポリウレタン樹脂の数平均分子量は30,000。
合成例3〜9、比較合成例1〜8
合成例1又は2と同様にして第1表-1および-2に記載した原料により、合成例3〜9、及び比較合成例1〜8のポリウレタン樹脂を得た。

表中、略号は以下のものを示す。
PBA:ポリブチレンアジペート(アジピン酸//1,4-ブタンジオール
ポリエステルジオールA:テレフタル酸/イソフタル酸/5-スルホナトリウムイソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/39/1//50/50(モル比)分子量2000
ポリエステルジオールB:テレフタル酸/アジピン酸/5-スルホナトリウムイソフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=50/48/2//50/50(モル比)分子量1500
MDI:4,4′-ジフエニルメタンジイソシアネート
TDI:2,4-トリレンジイソシアネート
IPDI:イソホロンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HPN:ネオペンチルヒドロキシピバレート
HCPN:ε-カプロン酸のネオペンチルグリコールエステル
BHET:ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート
NPG:ネオペンチルグリコール
DEG:ジエチレングリコール
BD:1,4-ブタンジオール
HD:1,6-ヘキサンジオール
MEK:メチルエチルケトン
実施例 1
合成例1で得られたポリウレタン樹脂を用いて、下記の配合割合の組成物をボールミルに入れて48時間分散してから、イソシアネート化合物、コロネート・2030(日本ポリウレタン工業(株)製)を硬化剤として5部加え、更に1時間混合して磁性塗料を得た。これを厚み12μのポリエチレンテレフタレートフイルム上に乾燥後の厚みが5μになるように2000ガウスの磁場を印加しつつ塗布した。50℃、2日間放置後1/2インチ巾にスリツトし、磁気テープを得た。
実施例2〜9、比較例1〜8
合成例1で得られたポリウレタン樹脂の代わりに、合成例2〜9及び比較合成例1〜8で得たポリウレタン樹脂溶液を用いて、実施例1と同様にして磁気テープを得た。各々合成例2〜9のものを実施例2〜9、比較合成例1〜8を比較例1〜8とする。
以上の実施例及び比較例の磁気テープの特性を第2表に示す。
第2表の結果より、本発明品は耐久性、耐摩耗性等の特性が優れたものである。

」(第6頁左上欄18行〜第9頁末行参照)こと、が記載されている。

これらの記載によれば、引用例には、
「非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性材料を塗布した磁気記録媒体に用いられる結合剤において、結合剤の少なくとも1成分として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどの有機ジイソシアネートA、分子量500〜8,000の長鎖ジオールBおよび分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物Cを反応させた熱可塑性ポリウレタン樹脂であつて、分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物Cが下記一般式(I)〜(III)で示される少なくとも1種のエステル基含有ジオールを含むポリウレタン樹脂を使用した磁気記録媒体用結合剤。
HO-R1-O(CO)-R2-OH (I)
(HO)2R3-O(CO)-R4 (II)
HO-R5-O(CO)-R6-COO-R7-OH (III)
(式中、R1,R2,R5,R6,R7は2価の炭化水素基、R3は3価の炭化水素基、R4は1価の炭化水素基を示す。)」
の発明(以下「引用例発明」という。)が記載されていることが認められる。

(3-2)対比、判断
本願補正発明は、その記載表現が複雑であるため、ポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤の部分のみを選択肢として抜き出し(ポリウレタンウレア樹脂とポリウレア樹脂に関連する箇所を省略し)た場合を想定すると、次のようになることに留意する。
「ジオールと芳香族ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂からなる磁性層、あるいは非磁性層を形成する磁気記録媒体用結合剤において、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂全体に対し0〜6.5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤。」

そこで、本願補正発明と引用例発明とを対比する。
(イ)引用例発明の「非磁性支持体上に強磁性粉末を結合剤中に分散させた磁性材料を塗布した磁気記録媒体に用いられる結合剤において、」は、結合剤が具体的にはジオールを含む「分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物C」と「4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどの有機ジイソシアネート」を反応させた「ポリウレタン樹脂」であり、(i)該化合物Cは、規定された(I)〜(III)のエステル基含有ジオールの他、エチレングリコールや1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのジオール類が多数例示されていて、実施例でも用いられている(摘示(v),(viii)参照)ので、ジオールといえることから、及び、(ii)該4,4’-ジフエニルメタンジイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートであって、本願補正発明の実施例でも用いられているものであるから、本願補正発明の「ジオールと芳香族ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂からなる磁性層を形成する磁気記録媒体用結合剤において、」に相当する。
(ロ)引用例発明の「分子量500〜8,000の長鎖ジオールBおよび分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物Cを反応させた熱可塑性ポリウレタン樹脂」は、本願補正発明の「前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂全体に対し0〜6.5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂」に対応する。
ところで、本願補正発明では、長鎖ジオールと短鎖ジオールは重量平均分子量500の点で重複し区別できないため不明瞭であるので、発明の詳細な説明を検討すると、短鎖ジオールは500未満との説明(本願明細書段落【0012】など,当初明細書の請求項5,7など)がなされているから、そのように理解する。また、ジオールで最小分子量のものは、エチレングリコールの分子量62であるから、そもそも本願補正発明の「50〜」との規定はあり得ないものであり、かつ、引用例発明でも分子量500未満の化合物Cは、エチレングリコールも例示(摘示(v)参照,)されていることから下限の規定はなくとも、分子量62以上で本願補正発明の短鎖ジオールの範囲と一致している。
それ故、引用例発明の「分子量500〜8,000の長鎖ジオールB」は、本願補正発明の「重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオール」に相当し、分子量500〜5,000で一致していて、引用例発明の「分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物C」(前記(イ)(i)も参照)は、本願補正発明の「重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオール」に相当し、分子量62以上500未満で一致している(なお、分子量が重量平均分子量か否かは相違点1としてその数値とあわせ検討する。)。

してみると、両発明は、
「ジオールと芳香族ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂からなる磁性層を形成する磁気記録媒体用結合剤において、
前記ジオールが分子量が62以上500未満である短鎖ジオールと分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤。」の発明で一致する。
しかし、次の相違点1,2の点で一応相違している。
<相違点1>
分子量に関し、本願補正発明では「重量平均分子量」と規定しているのに対し、引用例発明ではそのような表現での規定がない点。
<相違点2>
長鎖ジオールの割合に関し、本願補正発明では、「ポリウレタン樹脂全体に対し0〜6.5モル%」と規定しているのに対し、引用例発明ではそのような表現での規定がない点。

この一応の各相違点について検討する。
<相違点1>について
(1-1)引用例発明の「分子中、活性水素を2個含む分子量500未満の化合物C」として例示されているものは、一部を除きほとんどの例が低分子化合物(ポリマーではない)であり、その実施例に用いられているもの(例えば、ネオペンチルヒドロキシピバレート、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなど)も全てそうであるから、そして、本願補正発明においても「重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオール」として例示(段落【0012】)されているものも低分子化合物(ポリマーではない)がほとんどであり、その実施例に用いられているものも1,6-ヘキサンジオールのみであるから、そもそもそのようなポリマーでない化合物に対し重量平均分子量の概念を用いることは化学常識に反していて、むしろ単に分子量の用語が適切といえる。
そうであるから、そのような実施例で用いられているような低分子化合物(ポリマーではない)である場合の「重量平均分子量」と「分子量」とは本質的に相違しない。
(1-2)引用例発明の「分子量500〜8,000の長鎖ジオールB」は、分子量の異なる重合体の集合体である場合が多く、平均分子量で本来表示する方が適切と認められるが、特定する分子量が比較的小さいため、重量平均分子量で表そうと単に分子量で表そうと本質的な差異が生じるとは解せられない。更に、引用例発明の実施例で用いられている「分子量2,000のポリブチレンアジペート」が、重量平均分子量500〜5000の範囲から本質的にはずれる理由は見いだせない。
ちなみに、本願明細書の実施例(段落【0038】の表1など参照)においても、重量平均分子量では記載されておらず、「長鎖ジオール(当初、長鎖ポリオール)の分子量2000」と単に分子量で記載されているだけである。また、その具体例のポリエステルジオールは「ブタンジオールアジペート」(当初、ブタンジオールアジペートポリオール)、即ちポリブチレンアジペートであって、引用例発明の実施例の長鎖ジオールのPBAと全く同一物(分子量もともに2000)と認められることにも留意すべきであり、そればかりか、優先権主張の出願(特願平5-133148号)の明細書では、単に「分子量」の用語が用いられているだけで、「重量平均分子量」の用語は何ら用いられていなかったことにも留意すべきである。
そうであるから、そのような実施例で用いられているような場合の「重量平均分子量」と「分子量」とは本質的に相違しないし、少なくともその程度の重量平均分子量の範囲内のものを用いることは適宜と認められる。

<相違点2>について
引用例発明では、その発明の詳細な説明において、分子量500未満の化合物C(前記(イ)(i)も参照)即ちジオール(c1+c2)(c1:エステル基含有のジオール,c2:それら以外のジオール等)と長鎖ジオール(b)との使用割合(モル数の割合、以下同様)に関し、「2≦(c1+c2)/b≦50」と推奨されている(摘示(vi)参照)。また、全ジオール量とジイソシアネート(a)の使用割合に関し「1.1≧(b+c1+c2)/a≧0.9」との記載があり、両者はほぼ当モル量で使用されることが示されている(摘示(vi)参照)ことに鑑みると、ほぼ全量が反応していると解される。
そこで、(b+c1+c2)/a=1の全ジオール量とジイソシアネートaが当モル量の場合の長鎖ジオールの割合を検討すると、2=(c1+c2)/bの場合には、a=1モルのときに、(c1+c2)=(2/3)モル、b=(1/3)モルであるから、ポリウレタン樹脂中の長鎖ジオールのモル数は、16.7モル%[=100×(1/3)/(1+(1/3)+(2/3))]と算出でき、次に、(c1+c2)/b=50の場合には、a=1モルのときに、(c1+c2)=(50/51)モル、b=(1/51)モルであるから、ポリウレタン樹脂中の長鎖ジオールのモル数は、1.0モル%[=100×(1/51)/(1+(1/51)+(50/51))]と算出できるから、引用例発明において、ポリウレタン樹脂に対する長鎖ジオールの割合は、1.0〜16.7モル%が推奨されていることが理解できる(なお、前提の当モルは一割程度の巾があるから、前記モル%にそれに由来する巾があるけれども、以下の判断を左右し得るものではない。)。
しかも、引用例の第1表の合成例を検討すると、例えば、合成例6では、長鎖ジオールであるPBA(分子量2000,ポリブチレンアジペート)が100重量部(即ち、0.05モル(=100/2000);なお、100重量部を100gとして計算した。以下同様)、ジイソシアネートであるMDI(分子量250,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)が125重量部(即ち、0.50モル(=125/250))、短鎖ジオールに相当するHPN(分子量204,ネオペンチルヒドロキシピバレート)が100重量部(即ち、0.49モル(=100/204))使用されているから、長鎖ジオールの割合は4.8モル%(=100×(0.05/(0.50+0.49+0.05)))であることが分かる。同様に合成例7では、長鎖ジオールであるPBA(分子量2000)が100重量部(即ち、0.05モル(=100/2000))、ジイソシアネートであるMDI(分子量250)が134重量部(即ち、0.536モル(=134/250))、短鎖ジオールに相当するHPN(分子量204)が50重量部(即ち、0.245モル(=50/204))とNPG(分子量104,ネオペンチルグリコール)が25.6重量部(即ち、0.246モル(=25.6/104))使用されているから、長鎖ジオールの割合は4.6モル%(=100×(0.05/(0.536+0.245+0.246+0.05)))であることが分かる。
してみると、引用例発明で推奨されている長鎖ジオールの割合を本願補正発明の表現で表すと、ポリウレタン樹脂全体に対し1.0〜16.7モル%と言い換えることができ、実施例で4.6モル%や4.8モル%であるから、本願補正発明で特定する「ポリウレタン樹脂全体に対し0〜6.5モル%」の長鎖ジオールとは、1.0〜6.5モル%(乃至は、1.0〜5モル%)で重複し、その実施例レベルでも一致する場合が示されていることになる。
なお、平成14年7月22日付け意見書において、引用例に対し、「配合比を示す、第1表には、長鎖ジオールを約30%以上を含有することが記載されています。」(第8頁参照)と主張するが、そのような記載はなく上記のとおりであるから、その主張は失当である。また、同意見書第9頁及び審判請求理由の平成16年3月31日付け手続補正書において「本願の発明が要件とする分子量500〜5000の長鎖ジオールの配合割合を特定の範囲とする点については記載されていません。」と請求人は主張しているけれども、上記のとおり明らかに失当であり、表現は異なっても実質的に分子量500〜5000の長鎖ジオールの配合割合を本願補正発明と同程度にすることは言及されているというべきであるから、かかる主張も採用できない。
してみると、長鎖ジオール量を「ポリウレタン樹脂全体に対し0〜6.5モル%」(乃至は「ポリウレタン樹脂全体に対し0〜5モル%」)と規定する表現はなくとも、その程度の規定は単なる所望というべきであり、少なくとも当業者が容易に採用し得る程度のものという他ない。
そして、引用例発明において、長鎖ジオールと短鎖ジオール相当の比率を規定しているのは、「(c1+c2)/bはウレタン基濃度を決定する最大の因子でこの値が2未満ではウレタン基濃度が低く、機械的強度が低下する、一方50を越えるとウレタン基濃度が高くなりすぎ、伸度の低下、磁気記録媒体でのカールの発生等を生じ好ましくない。」(摘示(vi)参照)ためであり、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、走行耐久性などの改善が図れるためであるとされているところ、本願補正発明の短鎖ジオール成分を主要成分とした意図するところである「・・、ウレタン結合(-NHCOO-)の量が通常のポリウレタンでは1〜3ミリモル/g程度であるのに対して、約5〜50ミリモル/g、好ましくは・・・・含んでいるので濃厚状態での溶液粘度が高く、特に混練過程における混練物の粘度が高く、高剪断力が得られる。・・・高剪断ができ分散性が向上できる。」(段落【0011】参照)とは、ウレタン基濃度を適度に濃くしている点で軌を一にするものといえる。
本願補正発明の作用効果も、引用例から当業者が予測できる範囲のもの、乃至は単にその作用効果を確認したにすぎないものというべきである。
したがって、本願補正発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、少なくとも、特許法第17条の2第2項において準用する第17条第2項の規定に違反し、乃至、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、乃至、特許法第17条の2第4項で準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年1月21日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜4に係る発明は、平成14年7月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 ジオール及び/又はジアミンと有機ジイソシアネートとを原料とした反応生成物であるポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂からなる磁性層、あるいは非磁性層を形成する磁気記録媒体用結合剤において、前記ジオールが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジオールとポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなり、また前記ジアミンが重量平均分子量が50〜500である短鎖ジアミンとポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオールとからなる樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体用結合剤。」

(1)引用例
原査定の拒絶理由に引用される引用例、および、その記載事項は、前記「2.(3)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、(α)ジイソシアネートに関し、「芳香族ジイソシアネート」をその上位概念である「有機ジイソシアネート」に拡張し、(β)長鎖ジオールの量に関しての限定事項である「ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜6.5モル%」との構成を、「ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂全体に対し0〜5モル%」と限定したものである。そして、(γ)「とポリウレタンウレア樹脂及び/又はポリウレア樹脂全体に対し0〜5モル%の重量平均分子量が500〜5,000である長鎖ジオール」との追加された規定は、ポリウレタン樹脂を結合剤とする場合には、関係がない構成である。
そうすると、ポリウレタン樹脂を結合剤とする場合に関しては、「0〜5モル%」と限定されている点を除き本願補正発明の構成要件を全て含み、さらにその本願補正発明が前記「2.(3)」に記載したとおり、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、かつ、「0〜6.5モル%」を「0〜5モル%」と限定してもその判断を左右し得ないことが前記「2.(3)」の記載から明らかであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 それ故に、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-16 
結審通知日 2005-09-30 
審決日 2005-10-20 
出願番号 特願平6-81412
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G11B)
P 1 8・ 572- Z (G11B)
P 1 8・ 573- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 川上 美秀
相馬 多美子
発明の名称 磁気記録媒体用結合剤および磁気記録媒体  
代理人 菅井 英雄  
代理人 青木 健二  
代理人 内田 亘彦  
代理人 米澤 明  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 韮澤 弘  
代理人 蛭川 昌信  

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