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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1128933
異議申立番号 異議2003-71046  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-05-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-25 
確定日 2005-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3338677号「ビニルピロリドン系重合体の製造方法」の請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3338677号の請求項1〜3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3338677号の請求項1〜3に係る発明は、平成11年10月29日に特許出願され、平成14年8月9日に特許権の設定登録がなされ、その後、ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成15年7月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年9月24日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、平成15年10月17日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成15年11月25日に特許権者より手続補正書(訂正請求書)が提出され、また、平成15年10月17日付けで、特許異議申立人に審尋がなされ、平成16年4月30日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、訂正請求書第2頁第1〜12行の訂正事項a〜cを削除し、同頁第13行、第18行及び第21行の訂正事項d〜fをそれぞれ訂正事項a〜cとする補正をするものであり、当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものでなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。

2-2.訂正の適否についての判断
上記手続補正は認められるので、訂正請求に係る訂正は、平成15年11月25日付けの手続補正書により補正された訂正請求書に記載された下記のとおりのものである。
訂正事項a
段落【0019】において「なお、実施例5は、製造される重合体のK値が50より大きく、重量平均分子量が300,000より大きいため、本発明の実施例には該当しない。」とあるを、削除する。
訂正事項b
段落【0024】において、「〔実施例5〕」とあるを「〔参考例〕」と訂正する。
訂正事項c
段落【0020】、段落【0021】(2箇所)、段落【0022】、段落【0023】、段落【0024】、段落【0025】及び段落【0026】における「・・・ポリビニルピロリドン水溶液のK値・・・」を「・・・ポリビニルピロリドンのK値・・・」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否および特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項a及びbは平成14年6月24日付け補正により、「実施例5」が実施例でなくなり、「参考例」となったことを明瞭にするための訂正であり、したがって、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、 訂正事項cは、すべての実施例、参考例及び比較例におけるK値と重量平均分子量が、ポリビニルピロリドン水溶液についての測定値ではなく、得られたポリビニルピロリドン自体についての測定値であることが、明細書全体の記載から自明であるので、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、これらの訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、訂正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 N-ビニルピロリドンを90重量%以上含有する重合性単量体成分を、水溶性開始剤を用いて、水溶液中で重合させて、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下である水溶性ビニルピロリドン系重合体を製造する方法であって、
前記重合反応を、反応開始時から反応終了時までの間、反応系内の圧力を0.025MPa〜0.2MPaの範囲、反応温度をTbpw-5(℃)〜Tbpw(℃)(但し、Tbpwは、重合時における反応系内の圧力下での水の沸点を示す)の範囲で行うことを特徴とする、ビニルピロリドン系重合体の製造方法。
【請求項2】 常圧下または減圧下で前記重合反応を行う、請求項1に記載のビニルピロリドン系重合体の製造方法。
【請求項3】 重合反応の際の全仕込み成分中の前記重合性単量体成分の割合を10〜50重量%とする、請求項1または2に記載のビニルピロリドン系重合体の製造方法。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1〜2号証を提出し、概略、次のように主張する。
(1)本件請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(2)本件請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(3)本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)本件明細書の記載には不備があり、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第36条第4項、第5項、第6項第2号の規定により特許を受けることができない。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において、平成15年7月11日付けで通知した取消理由は、概略、次のとおりである。
(1)本件請求項1及び2に係る発明は、刊行物2に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許を受けたものである。
(2)本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものである。
(3)本件請求項1〜3に係る発明の特許は、その明細書の記載が特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定の要件を満たさない特許出願に対してなされたものである。
また、引用した刊行物等は以下のとおりである。
<刊行物等>
刊行物1;米国特許第3,129,210号明細書(甲第1号証)
刊行物2;米国特許第3,459,720号明細書(甲第2号証)

4-2-2.取消理由(3)についての判断
当審は、上記取消理由において、「本件明細書(特許公報7欄27〜30行)には、実施例5は実施例には該当しないと記載されているが、重合工程において、単量体成分、圧力、温度、開始剤は本件発明の製造方法を満たしている(同公報8欄48行〜9欄11行)。
それにも拘わらず、製造されたポリビニルピロリドンのK-値は85…、重量平均分子量1,200,000であって、本件発明の目的物ではない。
このことは、次の2つのいずれかであるものと考えられる。
1.「単量体成分、圧力、温度、開始剤」を同一としても、本件発明の目的物が得られたり、得られない場合がある。すなわち、複数回同1条件で重合すると、重合毎にK-値、重量平均分子量が異なり、再現性がないことを示している。
2.請求項の記載の限定が不充分である。
上記したことを踏まえて、特許異議申立書第17頁第4行〜28行に記載されたとおりの理由で、明細書の記載要件を満たしていない。」と述べた。
本件発明1は、請求項1に記載されたとおりの「N-ビニルピロリドンを90重量%以上含有する重合性単量体成分を、水溶性開始剤を用いて、水溶液中で重合させて、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下である水溶性ビニルピロリドン系重合体を製造する方法であって、前記重合反応を、反応開始時から反応終了時までの間、反応系内の圧力を0.025MPa〜0.2MPaの範囲、反応温度をTbpw-5(℃)〜Tbpw(℃)(但し、Tbpwは、重合時における反応系内の圧力下での水の沸点を示す)の範囲で行うことを特徴とする、ビニルピロリドン系重合体の製造方法」の発明である。
しかしながら、本件明細書の参考例は、重合工程において、単量体成分、圧力、温度、開始剤が請求項1に記載された製造方法を満たしている(特許公報第8欄第48行〜第9欄第11行)にもかかわらず、製造されたポリビニルピロリドンのK値は85で、重量平均分子量は1,200,000であって、本件発明1の目的物である、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体ではない。
してみると、請求項1に記載された製造方法では、請求項1に規定された目的生成物であるK値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体が常に得られるものということができない。
この点に関し、特許権者は、平成15年9月24日付けの訂正請求書により、請求項1を訂正し、特許異議意見書において、「『K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下』なる文言は、『目的生成物』を規定するものでなく、…『分子量分布の狭いビニルピロリドン系重合を得させること』が特に顕著に現れる範囲を規定するための構成要件であり」(特許異議意見書7頁下から8〜5行)、「参考例…は、…本件発明の意図する『分子量分布を狭くすること』にそぐわない実施例では決してない」(特許異議意見書4頁11〜13行)旨主張する。
しかし、請求項1の訂正はもはや存在せず、本件発明1は、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体を製造する方法であり、上記のように、請求項1においては、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体が一義的に得られる製造条件が記載されている必要があるところ、そのような製造条件は示されていない。
したがって、請求項1には、目的生成物が一義的に得られる製造条件が記載されていないのであるから、その受けようとする発明が明確に記載されているとはいうことができない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1をさらに限定するものであるが、請求項2及び3のいずれも、請求項1と同様に、目的生成物が一義的に得られる製造条件が記載されていないのであるから、その受けようとする発明が明確に記載されているとはいうことができない。
よって、本件発明1〜3は、その記載が特許法第36条第6項第2号の規定の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

次に、本件発明の製造条件において、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体を得ることが、当業者にとって容易に実施できるものか否かについて、発明の詳細な説明の項の記載を検討する。
この点に関し、特許権者は、「本件明細書の記載全体から、特に、実施例の記載から、当業者が本件請求項1に記載するK値、重量平均分子量であって分子量分布の狭い水溶性ポリビニルピロリドン系重合体を容易に得ることができるが明らか…。因みに、重量平均分子量を低くしたり高くしたりすることが、例えば、重合開始剤の使用量を加減するなどして容易かつ確実に達成できることは、当業者に周知の技術事項」(特許異議意見書5頁16〜22行)と主張する。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、具体的にどのようにすれば、本件発明の製造条件において、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体が得られるか記載はなく、重合開始剤の使用量についても、段落【0014】において、「開始剤の使用量については特に限定されないが、重合性単量体成分に対して0.002〜15重量%が好ましく、0.01〜5重量%がさらに好ましい」旨記載されているだけであり、具体的にどのくらいの量の重合開始剤を用いれば、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体が得られるか記載はない。そして、実施例1〜4においては、重合性単量体成分に対して0.19または0.2重量%の重合開始剤を用いて、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体を得ており、参考例においては0.2重量%の重合開始剤を用いて、K値が85で、重量平均分子量が1,200,000であるポリビニルピロリドンを得ていることから分かるように、参考例では、実施例とほぼ同量の開始剤を用いても、K値及び重量平均分子量が本件発明の範囲外のポリビニルピロリドンが得られているのであるから、重合開始剤の使用量をどのように加減することにより、本件発明の製造条件において、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体を得ることができるのか、明細書の記載から明らかではない。
この点について、特許権者は、「実施例5で得られたポリビニルピロリドン系重合体のK値と重量平均分子量が他の実施例(比較例1)のそれらよりも大きくなっているのは、他の実施例(比較例1)における開始剤使用量が0.66mol%(対N-ビニルピロリドン)であるのに対し、実施例5での開始剤使用量が0.08mol%(対N-ビニルピロリドン)と極めて少ないことに起因し…開始剤使用量の単量体量に対するモル比で見て、開始剤使用量が少ない場合には、得られる重合体の平均分子量(K値)が大きくなることは、技術常識」(特許異議意見書4頁14〜21行)と主張する。
しかしながら、開始剤の使用量については、明細書には重量%で記載しているだけであって、モル比で、開始剤使用量を加減することについては何等記載がないし、たとえ、モル比で調節することが技術常識であったとしても、どの程度のモル比で用いた時に、本件発明の製造条件において、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体を得ることができるのか明らかではない。
また、実施例1〜4においては、過酸化水素を重合開始剤として用いているが、重合開始剤の量以外に、モノマーの濃度、温度、圧力等により、K値や重量平均分子量が影響を受けていることが読み取れ、実施例の結果から、重合開始剤の量以外の他のK値や重量平均分子量に影響を与える因子を考慮しながら、本件発明の製造条件において、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下であるポリビニルピロリドン系重合体を得るのに、当業者には過度の試行錯誤が必要であると考えられる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確且つ十分に記載されているものということができず、本件発明1〜3は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3は、特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜3についての特許は、特許法第113条第2項の規定に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ビニルピロリドン系重合体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルピロリドンを90重量%以上含有する重合性単量体成分を、水溶性開始剤を用いて、水溶液中で重合させて、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下である水溶性ビニルピロリドン系重合体を製造する方法であって、
前記重合反応を、反応開始時から反応終了時までの間、反応系内の圧力を0.025MPa〜0.2MPaの範囲、反応温度をTbpw-5(℃)〜Tbpw(℃)(但し、Tbpwは、重合時における反応系内の圧力下での水の沸点を示す)の範囲で行うことを特徴とする、ビニルピロリドン系重合体の製造方法。
【請求項2】
常圧下または減圧下で前記重合反応を行う、請求項1に記載のビニルピロリドン系重合体の製造方法。
【請求項3】
重合反応の際の全仕込み成分中の前記重合性単量体成分の割合を10〜50重量%とする、請求項1または2に記載のビニルピロリドン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に低分子量のビニルピロリドン系重合体を得るのに好適な、ビニルピロリドン系重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルピロリドンやビニルピロリドン共重合体などのビニルピロリドン系重合体は、生体適合性、安全性、親水性等の長所、利点があることから、医薬品、化粧品、粘接着剤、塗料、分散剤、インキ、電子部品等の種々の分野で広く用いられている。特に、フィケンチャー式により示されるK値が50以下であるような低分子量ポリビニルピロリドンは、化粧品や医薬品の分野で好適に用いられている。
【0003】
従来から、ビニルピロリドン系重合体を低分子量化するには、S化合物のような連鎖移動剤や連鎖移動定数の大きなイソプロピルアルコールを用いる方法等が知られており、なかでも、過酸化水素を用いることが最も簡便な方法として知られている。
このような従来の製造方法においては、通常、分子量を制御するため、60〜80℃の温度範囲で重合が行なわれている。例えば、特開平11-71414号公報に報告されている、過酸化水素を用いた低分子量ポリビニルピロリドンの製法においては、60〜85℃で重合反応を行っている。しかしながら、このような場合、N-ビニルピロリドンの供給速度や重合設備等によっては、重合熱の除熱が仕切れなくなって系内温度が所定の重合温度以上に上昇してしまい、副反応として架橋反応が起こり、所望の分子量のポリマーが得られなかったり、ポリマーの分子量分布が広くなったりした。また、発生する重合熱を抑制するためにモノマーの供給時間を長くすると、得られるポリマーの分子量分布が広くなるといった問題を生じることがあった。さらに、重合熱による重合温度の上昇度合いは一定でないため、実質的な重合温度が製造ロット毎に異なることとなり、ひいては得られるポリマーのK値に再現性が得られにくかった。
【0004】
一方、特開昭63-156810号公報には、有機過酸化物触媒とイソプロピルアルコールとを用いて100〜160℃で重合させるビニルピロリドン重合体の製法が報告されている。しかし、この製法においては、開始剤の分解促進および残存モノマーの低減のため、加圧下、130℃以上の高温で重合が行われているため、副反応が起こりやすくなり、得られるポリマーの分子量分布が広くなる傾向があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、所望の分子量で、かつ分子量分布の狭いビニルピロリドン系重合体を再現性よく得ることができる、ビニルピロリドン系重合体の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、系内の水を気化させながら、特に水の沸点下で重合反応を行うことにより、モノマーの供給速度を速くした場合でも、重合熱を水の蒸発潜熱で緩和し、常に一定温度で重合を進行させることができ、これによって、所望の分子量で、かつ分子量分布の狭いビニルピロリドン系重合体を再現性よく得ることができることを見いだした。さらに、水が沸騰状態となるだけの高温で反応を行うために、高濃度で重合させた場合にも、短時間で重合反応を終了することができ、副反応である架橋反応を抑制することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づき完成した。
【0007】
すなわち、本発明にかかるビニルピロリドン系重合体の製造方法は、N-ビニルピロリドンを90重量%以上含有する重合性単量体成分を、水溶性開始剤を用いて、水溶液中で重合させて、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下である水溶性ビニルピロリドン系重合体を製造する方法であって、前記重合反応を、反応開始時から反応終了時までの間、反応系内の圧力を0.025MPa〜0.2MPaの範囲、反応温度をTbpw-5(℃)〜Tbpw(℃)(但し、Tbpwは、重合時における反応系内の圧力下での水の沸点を示す)の範囲で行うことを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の一形態について詳しく説明する。
本発明においては、Tbpw-5(℃)〜Tbpw(℃)(但し、Tbpwは、重合時における反応系内の圧力下での水の沸点を示す)の温度範囲、好ましくは水の沸点下で重合反応を行うことが重要である。このような温度範囲、すなわち系中の少なくとも一部の水が沸騰する状態で、該水を気化させながら重合を行うことによって、重合熱を水の蒸発潜熱で緩和し、常に一定温度で重合を進行させることができ、これにより、副反応を抑制して、所望の分子量のビニルピロリドン系重合体を分子量分布にばらつきを生じることなく得ることができるのである。重合温度が前記温度範囲よりも低いと、一定の重合温度を保つためにモノマーの供給時間が長くなり、生成する重合体の分子量分布が広くなったり、また、モノマーの供給速度が速い場合には得られる重合体のK値が製造ロット間でばらつきやすくなる。
【0009】
本発明においては、常圧下または減圧下で重合反応を行うことが好ましい。また、加圧下で重合反応を行う際には、0.2MPa以下として、水の沸点、すなわち重合温度が120℃以下となるようにすることが好ましい。重合反応の際、系内の圧力が低ければ低いほど水の沸点が下がるため、前記重合温度を下げることができ、架橋等の副反応をより効果的に抑制し、分子量分布のばらつきを防ぐことができるのである。重合温度が120℃(反応系内の圧力が0.2MPa)を越えると、架橋反応が起こりやすくなるため好ましくない。
【0010】
本発明において用いられる重合性単量体成分は、少なくともN-ビニルピロリドンを含有するものである。重合性単量体成分としては、例えば、N-ビニルピロリドンを単独で用いてもよいし、N-ビニルピロリドンと共重合可能な任意の重合性単量体を併用してもよい。
N-ビニルピロリドンと共重合可能な重合性単量体としては、特に限定されることはなく、具体的には、例えば、1)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;2)(メタ)アクリルアミド、および、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体類;3)(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の塩基性不飽和単量体およびその塩または第4級化物;4)ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、ビニルオキサゾリドン等のビニルアミド類;5)(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体およびその塩;6)無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和無水物類;7)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;8)ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体;9)スチレンおよびその誘導体;10)(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチルおよびその誘導体;11)ビニルスルホン酸およびその誘導体;12)メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;13)エチレン、プロピレン、オクテン、ブタジエン等のオレフィン類;等が挙げられる。これらのうち、N-ビニルピロリドンとの共重合性等の点からは、1)〜8)が特に好適である。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合してN-ビニルピロリドンと共重合させてもよい。
【0011】
前記重合性単量体成分中のN-ビニルピロリドン含有量は90重量%以上である。本発明の製造方法においては、高濃度のN-ビニルピロリドンを重合させた場合であっても、短時間で反応を終了させることができるので、架橋等の副反応を抑制することができるのである。例えば、前記重合性単量体成分中のN-ビニルピロリドン含有量を90重量%以上とし、重合反応の際の全仕込み成分中の前記重合性単量体成分の割合を10〜50重量%として、高濃度の水溶液中で重合反応を行った場合にも、副反応を抑制し、分子量分布のばらつきを防ぐことができる。このような高濃度での反応は、得られたビニルピロリドン系重合体溶液の保管や移送に有利であり、生産性の点からも好ましい。また、ビニルピロリドン系重合体を粉末製品として得る場合にも、高濃度で反応させると有利である。
【0012】
本発明において、前記重合反応の方法は、水中で行うものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、沈殿重合等の従来公知の重合方法によって行うことができる。
前記重合反応に用いる溶媒としては、水が必須であるが、水に溶解する溶媒、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール類等から選ばれる単独あるいは2種類以上を水と混合して用いることもできる。特に、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等の溶媒を水と混合して使用すると、共沸作用により水の沸点、すなわち重合温度が低くなるので、副反応を抑制する点から好ましい。
【0013】
本発明において用いられる水溶性開始剤としては、室温で5重量%以上の濃度で水に均一に溶解するものであり、加熱等によってラジカルが発生するものであれば、特に限定されないが、例えば、過酸化水素、t-ブチルヒドロパーオキシド等の過酸化物;2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロリオンアミジン)2塩酸塩、2,2’-アゾビス〔2-(N-アリルアミジノ)プロパン〕2塩酸塩、2,2’-アゾビス〔2-(5-ヒドロキシ-3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン-2-イル)プロパン〕2塩酸塩、2,2’-アゾビス〔2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン〕2塩酸塩、2,2’-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類;アスコルビン酸と過酸化水素、スルホキシル酸ナトリウムとt-ブチルヒドロパーオキシド、過硫酸塩と金属塩等の、酸化剤と還元剤とを組み合わせてラジカルを発生させる酸化還元型開始剤;等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記開始剤の使用量については、特に限定されないが、重合性単量体成分に対して0.002〜15重量%が好ましく、0.01〜5重量%がさらに好ましい。
本発明においては、重合反応を行う際に、重合反応の促進あるいはN-ビニルピロリドンの加水分解を防止する目的で、従来公知の塩基性pH調節剤を使用することもできる。pH調節剤の添加は任意の方法で行うことができ、例えば、重合初期より系内に仕込んでおいてもよいし、重合中に逐次添加してもよい。pH調節剤としては、具体的には、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、これらの中でも特にアンモニアが好ましい。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。pH調節剤を用いる場合、その使用量については特に限定されないが、重合時の溶液が5〜10のpH領域、好ましくは7〜9のpH領域となるように使用するのがよい。
【0015】
本発明においては、重合反応を行う際に、重合反応の促進等の目的で、従来公知の遷移金属塩を使用することもできる。遷移金属塩としては、具体的には、銅、鉄、コバルト、ニッケル等のカルボン酸塩や塩化物等が挙げられ、これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。遷移金属塩を用いる場合、その使用量については特に限定されないが、重合性単量体成分に対して重量比で0.1〜20000ppbが好ましく、1〜5000ppbがさらに好ましい。
【0016】
本発明においては、重合反応を行う際に、前記開始剤および必要に応じて前記pH調節剤、前記遷移金属塩の他に、適宜必要に応じて、任意の連鎖移動剤、緩衝剤等を用いることもできる。
前記重合反応を行う際には、前述の各仕込み成分の添加方法は特に限定されず、回分式や連続式等の任意の方法で行うことができる。
【0017】
本発明の製造方法により、K値が50以下、重量平均分子量が300,000以下の低分子量の水溶性ビニルピロリドン系重合体を製造する。
なお、K値とは、ビニルピロリドン系重合体が溶解する任意の溶媒に10重量%以下の濃度で溶解させ、その溶液の粘度を25℃において毛細管粘度計によって測定し、この測定値を用いて次のフィケンチャー式から計算される値であり、この値が低いほど、分子量は低いと言える。
【0018】
(logηrel)/C=〔(75Ko2)/(1+1.5KoC)〕+Ko
K=1000Ko
(但し、Cは、溶液100ml中のg数を示し、ηrelは、溶媒に対する溶液の粘度を示す)
【0019】
【実施例】
以下、本発明にかかる実施例および比較例について説明するが、本発明は該実施例により何ら制限されるものではない。
実施例および比較例で得られた各ビニルピロリドン系重合体については、前述した方法により算出したK値(溶媒;水、濃度;1重量%で測定)、および以下の条件のGPCで測定した重量平均分子量、分散度(Mw/Mn)で評価した。
【0020】
(GPC測定条件)
カラム:昭和電工製「KD-806」「KD-804」各1本
溶媒:0.1重量%臭化リチウム-DMF溶液
温度:40℃
流量:0.8ml/min
〔実施例1〕
攪拌機、モノマー供給槽、温度計、冷却管および窒素ガス導入管を備えた500mlのフラスコに、水270gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温が100℃になるように加熱した。このフラスコ内に、2%アンモニア水3g、N-ビニルピロリドン21gおよび4%過酸化水素水1gを、それぞれ5分毎に6回供給し、重合させた。この間、系中のpHは8.0〜8.5、温度は100℃であった。そして、同温度で2時間攪拌して重合を完結させ、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドンのK値は29、重量平均分子量75,000、分散度1.5であった。
【0021】
なお、上記反応の再現性を観るため、同様の製造操作をさらに1回実施した。その結果、2回目に得られたポリビニルピロリドンのK値は29、重量平均分子量76,000、分散度1.5であり、製造ロット間にK値や分散度等のばらつきはなかった。
〔実施例2〕
実施例1と同一のフラスコに、水185gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、フラスコ内温が100℃になるように加熱した。このフラスコ内に、3%アンモニア水18g、N-ビニルピロリドン35gおよび7%過酸化水素水1gを、それぞれ5分毎に6回供給し、重合させた。この間、系中のpHは8.0〜8.5、温度は100℃であった。そして、同温度で2時間攪拌して重合を完結させ、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドンのK値は30、重量平均分子量81,000、分散度1.6であった。
【0022】
〔実施例3〕
実施例1と同一のフラスコに、水270gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、反応系内を48000Paに減圧し、フラスコ内温が80℃(48000Paにおける水の沸点)になるように加熱した。このフラスコ内に、2%アンモニア水3g、N-ビニルピロリドン21gおよび4%過酸化水素水1gを、それぞれ5分毎に6回供給し、重合させた。この間、系中のpHは8.0〜8.5、温度は80℃であった。そして、同温度で15分間保持した後、系内を窒素ガスで常圧に戻し、さらに100℃で2時間攪拌して重合を完結させ、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドンのK値は29、重量平均分子量79,000、分散度1.6であった。
【0023】
〔実施例4〕
攪拌機、モノマー供給管、温度計、圧力計および冷却設備を接続した圧力一定装置を備えた500mlのオートクレーブに、水135g、2%アンモニア水9gを入れ、窒素ガスを封入した。このとき系内のpHは8.0〜8.5であった。次いで、攪拌しながら、内温が100℃になるように加熱し、さらに、系内が0.17MPa、115℃(0.17MPaにおける水の沸点)となるようにした。オートクレーブ系内を同温、同圧に保ちながら、N-ビニルピロリドン63gおよび4%過酸化水素水3gを、30分間かけてポンプにて連続的に系内に供給し、重合させた。そして、同温度で2時間攪拌して重合を完結させ、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドンのK値は36、重量平均分子量105,000、分散度2.3であった。
【0024】
〔参考例〕
実施例1と同一のフラスコに、水320gを入れ、窒素ガスを導入し、攪拌しながら、反応系内を25000Paに減圧し、フラスコ内温が65℃(25000Paにおける水の沸点)になるように加熱した。このフラスコ内に、N-ビニルピロリドン80gおよび2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩0.16gを、30分間かけて系内に供給し、重合させた。この間、系中のpHは6.5、温度は65℃であった。そして、同温度で15分間保持した後、系内を窒素ガスで常圧に戻し、さらに100℃で2時間攪拌して重合を完結させ、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドンのK値は85、重量平均分子量1,200,000、分散度2.5であった。
【0025】
〔比較例1〕
重合開始時(アンモニア水、N-ビニルピロリドンおよび過酸化水素水の供給前)のフラスコ内温が70℃になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、アンモニア水、N-ビニルピロリドンおよび過酸化水素水をそれぞれ供給し、重合させた。この間に、フラスコ内温は85℃まで上昇した。また、この間、系中のpHは8.0〜8.5であった。さらに、85〜70℃で2時間攪拌して重合を完結させ、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。得られたポリビニルピロリドンのK値は31、重量平均分子量100,000、分散度2.4であり、K値、重量平均分子量ともに実施例1よりも高くなっており、しかも実施例1に比べて分散度が高く、分子量分布の広いものであった。
【0026】
なお、上記反応の再現性を観るため、同様の製造操作をさらに1回実施した。その結果、2回目に得られたポリビニルピロリドンのK値は33、重量平均分子量110,000、分散度2.7であり、製造ロット間にK値や分散度等のばらつきが観られた。
【0027】
【発明の効果】
本発明のビニルピロリドン系重合体の製造方法によれば、所望の分子量で、かつ分子量分布の狭いビニルピロリドン系重合体を再現性よく得ることができる。特に、本発明のビニルピロリドン系重合体の製造方法は、低分子量のビニルピロリドン系重合体を得るのに優れた効果を発揮する。また、高濃度で重合させた場合にも、架橋等の副反応を効果的に抑制し、分子量分布のばらつきを防止することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-06-02 
出願番号 特願平11-308940
審決分類 P 1 651・ 537- ZA (C08F)
P 1 651・ 536- ZA (C08F)
最終処分 取消  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 佐野 整博
大熊 幸治
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3338677号(P3338677)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 ビニルピロリドン系重合体の製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 松本 武彦  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 山崎 利臣  
代理人 松本 武彦  
代理人 久野 琢也  

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