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審決分類 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  D06F
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06F
審判 全部申し立て 特39条先願  D06F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  D06F
管理番号 1128942
異議申立番号 異議2003-71542  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-11 
確定日 2005-10-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3357657号「全自動洗濯機及び全自動洗濯乾燥機」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3357657号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成17年7月26日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。、
ア.訂正事項a
訂正前の特許請求の範囲に記載された「【請求項1】洗い,脱水を行い、ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置によりモータを駆動する全自動洗濯機であって、
前記可変周波数制御装置により、脱水工程は洗い工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする全自動洗濯機。
【請求項2】洗い,脱水,乾燥を行い、ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置によりモータを駆動する全自動洗濯乾燥機であって、
前記可変周波数制御装置により、脱水工程は洗い及び乾燥工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする全自動洗濯乾燥機。
【請求項3】乾燥工程における熱風を循環させるダクトを有し、該ダクト内を通過する熱風に含まれる湿気を水冷式により凝縮捕集する請求項2記載の全自動洗濯乾燥機。」の内の請求項1を削除して、請求項2を請求項1に繰り上げ、請求項3を請求項2に繰り上げるとともに、訂正後の請求項1及び2を以下のように訂正する。
「【請求項1】洗い,脱水,乾燥を行い、モータ駆動の周波数をインバータで可変制御し且つモータの励磁電流成分の制御が可能なベクトル制御機能を有するベクトル制御インバータで構成される可変周波数制御装置により前記洗い、脱水、乾燥に用いるモータを駆動する全自動洗濯乾燥機であって、
前記可変周波数制御装置により、前記モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、 脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする全自動洗濯乾燥機。
【請求項2】乾燥工程における熱風を循環させるダクトを有し、該ダクト内を通過する熱風に含まれる湿気を水冷式により凝縮捕集する請求項1記載の全自動洗濯乾燥機。」

イ.訂正事項b
明細書の発明の名称を、「全自動洗濯乾燥機」と訂正する。

ウ.訂正事項c
明細書の段落【0001】および【0006】の記載「全自動洗濯機及び全自動洗濯乾燥機」を「全自動洗濯乾燥機」と訂正する。
エ.訂正事項d
明細書の段落【0007】の記載「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、洗い,脱水を行い、ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置によりモータを駆動する全自動洗濯機であって、前記可変周波数制御装置により、脱水工程は洗い工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする。
上記構成によれば、洗濯,脱水を行うモータにベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置により電力供給されて、洗濯,脱水などの各工程に適した回転速度になるようにモータ制御される。特に、脱水工程は、弱め界磁制御を行うことで、モータ電圧が最大(定格電圧)に至りそれ以上電圧を上げられない場合であっても、回転数増加のための周波数増加に対応した高速回転を可能にする。」を、
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、洗い,脱水,乾燥を行い、モータ駆動の周波数をインバータで可変制御し且つモータの励磁電流成分の制御が可能なベクトル制御機能を有するベクトル制御インバータで構成される可変周波数制御装置により前記洗い、脱水、乾燥に用いるモータを駆動する全自動洗濯乾燥機であって、前記可変周波数制御装置により、前記モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする。
上記構成によれば、洗濯,脱水,乾燥を行うモータにベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置により電力供給されて、洗濯,脱水,乾燥工程などの各工程に適した回転速度になるようにモータ制御される。特に、脱水工程は、弱め界磁制御を行うことで、モータ電圧が最大(定格電圧)に至りそれ以上電圧を上げられない場合であっても、回転数増加のための周波数増加に対応した高速回転を可能にする。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項aの内の訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、同じく訂正前の請求項2および請求項3の項番号を繰り上げるという訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。

イ.訂正事項aの内の訂正前の請求項2における「ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置」なる記載を、訂正後の請求項1において「モータ駆動の周波数をインバータで可変制御し且つモータの励磁電流成分の制御が可能なベクトル制御機能を有するベクトル制御インバータで構成される可変周波数制御装置」と訂正する点は、上記「ベクトル制御機能」及び「可変周波数制御装置」をそれぞれ限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえるし、また、上記限定する記載事項も、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)の段落【0030】、【0038】、【0039】、【0044】、【0046】、【0048】、【0049】に記載されていた事項であるから、新規事項の追加にも該当しない。

ウ.同様に、訂正事項aの内の訂正前の請求項2における「可変周波数制御装置によりモータを駆動する全自動洗濯機」なる記載を、訂正後の請求項1において「可変周波数制御装置により前記洗い、脱水、乾燥に用いるモータを駆動する全自動洗濯乾燥機」と訂正する点は、上記「全自動洗濯機」が「全自動洗濯乾燥機」であって、上記「モータ」が「洗い、脱水、乾燥に用いるモータ」であることを明確化ないし限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮ないし明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であるといえるし、また、上記の記載事項は、特許明細書の段落【0012】、【0015】に記載されていた事項であるから、新規事項の追加にも該当しない。

エ.同様に、訂正事項aの内の訂正前の請求項2における「前記可変周波数制御装置により、脱水工程は洗い及び乾燥工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御する」なる記載を、訂正後の請求項1において「前記可変周波数制御装置により、前記モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御する」と訂正する点は、訂正前において不明りょうであったところのモータの回転数の制御が如何なる制御によってなされるかを明確にするとともに、同訂正前のモータの回転数の制御について限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮ないし明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であるといえるし、また、上記の記載事項は、特許明細書の段落【0036】、【0037】、【0038】、【0048】、【0049】に記載されていた事項であるから、新規事項の追加にも該当しない。

オ.訂正事項aの内の訂正後の特許請求の範囲の請求項2における訂正は、項番号の訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであって、新規事項の追加にも該当しない。

カ.訂正事項b、c、dは、上記訂正事項aの訂正にともない、明細書の発明の名称並びに発明の詳細な説明の記載を整合させたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加にも該当しない。

そして、上記ア.〜カ.において説示したところのいずれの訂正も、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないといえる。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

〔2〕特許異議の申立
(1)特許異議の申立(その1)の理由の概要
異議申立人・戸張丈治は、本件の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張する。
(証拠)
甲第1号証:特開昭57-148589号公報
甲第2号証:特開昭56-157297号公報
甲第3号証:特開昭54-45729号公報
甲第4号証:特公昭61-41595号公報

(2)特許異議の申立(その2)の理由の概要
異議申立人・沖島和子は、本件特許の明細書は、当業者が容易に実施できる程度にその発明の目的、構成及び効果を記載していないし、また、特許請求の範囲の記載が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないので、特許法第36条第3、4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は取り消されるべきと主張する。

〔3〕取消理由の概要
(理由1)本件特許の請求項1〜3に係る発明は、下記刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同上発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

刊行物1:特開昭57-148589号公報(異議申立(その1)の甲第1号証)
刊行物2:特開昭56-157297号公報(異議申立(その1)の甲第2号証)
刊行物3:特開昭54-45729号公報(異議申立(その1)の甲第3号証)
刊行物4:特公昭61-41595号公報(異議申立(その1)の甲第4号証)

(理由2)本件特許の明細書の記載は、特許請求の範囲の記載が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないので、特許法第36条第3、4項に規定する要件を満たしていない。

(理由3)本件特許の請求項1、2に係る発明は、特許第3222838号(特願平10-237523号)の請求項2に係る発明と実質的に同一であり、しかも、協議することができないものであるから、特許法第39条第2項の規定により、その発明について特許を受けることができない。

〔4〕本件発明
上記〔1〕で示したように本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1〜2に係る発明(以下順に、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜2に記載されたとおりのものである。(上記〔1〕(1)ア.訂正事項a参照)

〔5〕当審の判断
(1) 取消理由の理由1(特許法第29条第2項)について
(a)刊行物に記載された発明
ア.刊行物1(特開昭57-148589号公報)には、誘導電動機の速度制御装置に関して、第1〜10図とともに以下の事項が記載されている。
(ア-1)「(3)遠心分離機や脱水付洗濯機のように始動トルクが非常に大きく、回転数が高くなるにつれて加速トルクが低下するものに大別することができる。従って、前述の如くV/fを一定で制御する方法は上記(1)、(2)の加速特性をもつ負荷の駆動に対しては適当であるが、(3)の加速特性の場合は、始動時に大きなトルクが必要であるため、V/fを一定に制御すると、高速時に必要以上の出力になり、能力過剰で無駄であると共に、始動時に大電流が流れるため、制御回路に要求される制御素子に容量の大きいものを使用せざるを得なかった。本発明の目的は、負荷に応じて誘導電動機の出力トルクを適正に制御して、制御回路および誘導電動機の容量の低減と小型化が可能な速度制御装置を提供することにある。」(公報第2頁右上欄第5〜20行)
(ア-2)「脱水時は、排水終了後、前記駆動モータ7の速度を切換えて回転ドラム1を800〜900RPMの高速にして回転ドラム1の周壁に設けた脱水孔15より外槽6内に遠心脱水して排水弁12、排水ホース14を介して機外に排水する。このような構成において、上記回転ドラム1は洗たく時は50〜55RPM、脱水時は800〜900RPMと複数の回転数の設定が必要であり、しかも両者の変速範囲はおよそ1:16と非常に大きいため駆動モータ7の制御は周波数変換方式が有利である。」(公報第3頁左上欄第6〜16行)

イ.刊行物2(特開昭56-157297号公報)には、プロセスライン制御方式に関して、第1〜4図とともに以下の事項が記載されている。
(イ-1)「従来方式は以上のように界磁が固定されておりこの為、本来所要動力としては(数式略)しか必要のないところに、過大な容量の電動機を選ばざるを得なく、電源設備としても必然的に大きくなるなどの欠点があった。この発明は上記のような従来のものの欠点を除去するためになされたもので、速度が処理材断面積によって決定される速度以上のときに自動的に全電動機の界磁を同一逆起電圧信号により同時に弱め界磁制御することにより、電動機容量を必要最小限のものとし、装置を経済的に設計することができるプロセスライン制御方式を提供することを目的としている。」(公報第2頁左下欄第7行〜右下欄第2行)
(イ-2)「以上のように、この発明によれば速度が処理機断面積によって決定される速度以上に達した時に弱め界磁制御することにより、電動機容量を必要最小限のものとし装置を経済的に設計することができる。」(公報第3頁右下欄第3〜7行)

ウ.刊行物3(特開昭54-45729号公報)には、誘導電動機の制御方法に関して、第1〜7図とともに以下の事項が記載されている。
(ウ-1)「このため誘導電動機の誘起電圧や磁束を、方向を持った量(ベクトル量)として検出し、これに基づき一次電流を振幅と周波数だけでなく位相も含めたベクトル量として制御したり、同様に一次電流をベクトル量として扱い、誘導電動機のトルクを変化させる場合、一次電流の振幅をかえるとともにあらかじめ位相も変化させるように制御する方法等が考えられている。このように一次電流を2つの成分に分ける等してベクトル量として扱って演算して制御することにより、不安定さの問題が解決され、誘導電動機においても直流電動機と同等な制御応答特性が得られるようになった。前者の誘起電圧又は磁束を検出して制御する方法によれば制御応答特性だけでなく、磁束を指令値と比較して制御することにより、磁束をも制御でき直流電動機における界磁制御と同様な制御が可能で誘導電動機の動作範囲を拡げることができる。」(公報第1頁右下欄13行〜第2頁左上欄第11行)
(ウ-2)「以上述べたようにこの発明は、誘導電動機の誘起電圧や磁束を検出して帰還することなしに磁束指令値に一致した磁束に制御することができる。さらにトルク指令と出力トルクの関係を線形化でき、トルク応答の早い制御と、磁束制御が両立できる。従って速度帰還回路,位置帰還回路を付加したり、自動弱め界磁制御回路により磁束を速度等に従って自動制御したり、従来直流電動機で行なわれている制御と同じ制御が誘導電動機にも適用できる。」(公報第3頁右下欄第17行〜第4頁左上欄第6行)

エ.刊行物4(特公昭61-41595号公報)には、ドラム型洗濯兼乾燥機に関して、第1図とともに以下の事項が記載されている。
(エ-1)「復水器が洗濯槽の外部に設けられており、水分を含む空気が水の霧に吸収されかつこれと攪拌されて渦を形成するので循環空気は極めて強力に冷却される。というのは、循環空気は攪拌作用により冷水との接触面が多くなるからであり、従って水の分離には極く僅かな冷水しか必要としない。排出通路の渦流区分に定常流区分が後接続されていることによって、空気流中に連行された水の粒子は確実に空気から分離され、従って吸込-吐出タービンによって吸込まれた循環空気は実質的に水粒子を持たない。」(公報第2頁第4欄第15〜25行)
(エ-2)「排出口15のすぐ後方には、渦流区分20と定常流区分21とから成る排出通路17が接続されている。この渦流区分20は、有利には波形パイプから構成されていて、或る適当な角度で斜め下方に延びている。波形パイプにおける上流側では、前記渦流区分20内に噴射ノズル22が開口しており、これによって渦流区分内には導管23を介して冷水が噴入せしめられるので、該区分20内には水の噴霧が生ずる。排出通路17の定常流区分21は、有利には真直ぐなやや下向きに傾斜して延びるパイプから成っていて、このパイプは波形パイプに対し90°を下回る角度で向き合って延在している。従って渦流区分20から定常流区分21へ移行する際に流れの偏向が生ずる。波形パイプと定常流区分パイプとの間には、有利にはこの両パイプより大きな横断面を有する糸屑漉取室24が接続されている。該漉取室24内には、これを横切って延びる糸屑シープ25が設けられており、この糸屑を漉しとるシープは手前に向って抜き取ることが出来る。漉取室24は該シープにより上下に仕切られる。定常流区分21を形成するパイプの端部は、一方で循環空気導管26に移行しており、この導管は上部で吸込-吐出タービン27に通じている。吸込-吐出タービン27からは、空気通路30が扇形ノズル31に向って延びており、扇形ノズルは、洗濯槽10の正面部分で、過圧の循環空気が装入口上縁部の下で洗濯ドラムの内部に吹き込まれるように、配置されている。」(公報第3頁第6欄第11〜40行)
(エ-3)「復水器それ自体は極めて能率的であって、最少限の冷却水で湿気を循環する空気から分離することが出来る。何となれば、排出口15を通って吸出された循環空気は渦流区分20内における水の霧と徹底的に混合せしめられ、復水熱ひいては水分を極めて迅速に霧の各小滴に引き渡すからである。波形パイプを間挿することによって、導管に集まりかつ波形パイプを介して流出する冷却水は、波形パイプの範囲でここを流過する空気により絶えず攪拌され新たに渦流化される。循環空気の割合は冷却水量と比較して大きく、この循環空気は渦流区分内を比較的高速で流動するので、過流並びに循環空気と霧との攪拌は糸屑漉取室内に達するまで継続し、ここで第一図の僅かな流れの定常化つまり安定化が行なわれる。然し、流れが糸屑シープを通過する際にはかなりのノズル作用が生じ、従ってシープ範囲においては空気と水との新なた攪拌が行なわれる。シープの下方に達してはじめて、シープ下方で生ずる循環空気流の応力緩和に基き、その下に位置する定常化室内で水が空気から分離される。糸屑漉取室24内に集まった廃水は、重力により定常流区分21を介して主排水路33に向って流れる。この際パイプ状の定常流区分21が比較的長いことに基いて、水は循環空気流から確実に分離して、このパイプの底辺を通って主排水路33に向う。定常流区分21内において著しい循環空気の層流が、空気流内に水滴の形で連行しようとすることはない。むしろ、この際観察されるのは、空気流が水をパイプ下縁に圧着し、均等にしづめられた排流が生ずることである。」(公報第4頁第7欄第38行〜第8欄第24行)

(b)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1に記載された発明が、本件発明1の「モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにした」構成を具備していない点で、両者は、少なくとも相違する。
ところで、刊行物2及び3は、ベクトル制御により弱め界磁制御を行う技術を開示しているといえるものの、上記した相違点の構成を開示するものではないし、また、刊行物4は弱め界磁制御を行う技術を開示するものではない。
そして、本件発明1は、上記した相違点の構成を備えることにより、「モータ電流が、洗い、脱水、乾燥の各工程で大きな差異とならないようにすることができ、モータの小形軽量化を図ることができる。」という明細書に記載の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいうことができない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を全て含むとともに、その乾燥工程をさらに限定するものであるといえる。
そうすると、本件発明1が上記ア.において説示したように、刊行物1〜4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2も、刊行物1〜4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(2)取消理由の理由2(特許法第36条第3、4項)について
当審による取消理由の理由2で指摘したところの明細書の記載不備は、本件訂正により解消されたものといえる。

なお、特許異議の申立(その2)において主張された点について付言すると、次のとおりである。
ア.訂正前の請求項2に記載された「脱水工程は洗い及び乾燥工程より弱め界磁制御を行って」という記載は、「脱水工程」は「洗い工程」よりも「界磁を弱めた制御」を行うことを意図しているのか、「脱水工程」は「弱め界磁制御」を行っていることを意図しているのか、2通りの解釈ができ、また、如何様に界磁を制御しているのかも不明瞭であるから、発明の範囲は不明確であるという異議申立人の主張については、 訂正事項aのとおりの訂正が認められ、訂正前の「脱水工程は洗い及び乾燥工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御するようにした」点は、「脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにした」と訂正されたことから、上記記載不備の点は、解消したものといえる。
イ.訂正前の請求項1ないし2には、「ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置」と記載されているが、ベクトル制御機能と「脱水工程は洗い工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御」すること或いは「脱水工程は洗い及び乾燥工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御」することとの間の技術的意味、技術的関連が示されていないし、「脱水工程は洗い工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御」することや「脱水工程は洗い及び乾燥工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御」することが、「可変周波数制御」によってもたらされるのか「ベクトル制御機能」によってもたらされるのかが不明瞭な記載であるから、特許請求の範囲の記載により発明が明確に定義されているとは言えないし、また、発明の詳細な説明を参酌しても、「ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置」および「脱水工程は洗い工程より弱め界磁制御を行って」の定義が十分に記載されていないから、発明の範囲は不明確であるという異議申立人の主張については、 同じく本件訂正が認められ、訂正前の「ベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置」が、「モータ駆動の周波数をインバータで可変制御し且つモータの励磁電流成分の制御が可能なベクトル制御機能を有するベクトル制御インバータで構成される可変周波数制御装置」と訂正され、同訂正前の「前記可変周波数制御装置により、脱水工程は洗い工程より弱め界磁制御を行って前記モータの回転数を制御するようにした」が、「前記可変周波数制御装置により、前記モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにした」と訂正されたことから、上記記載不備の点は、解消したものといえる。

(3)取消理由の理由3(特許法第39条第2項)について
上記〔1〕で示したように本件訂正が認められるから、本件発明1は、「脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにした」構成を具備するものと訂正され、その脱水工程は、ベクトル制御により「洗い」工程及び「乾燥工程」という両者の工程よりもその「励磁電流成分を小さくする」ことにより「弱め界磁制御を行う」構成のものといえるので、「洗い時よりも励磁電流成分を小さくする」ことにより弱め界磁制御を行っているところの特許第3222838号に係る出願(特願平10-237523号)の請求項2に係る発明と、同一の発明であるということはできない。

〔6〕むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
全自動洗濯乾燥機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】洗い,脱水,乾燥を行い、モータ駆動の周波数をインバータで可変制御し且つモータの励磁電流成分の制御が可能なベクトル制御機能を有するベクトル制御インバータで構成される可変周波数制御装置により前記洗い、脱水、乾燥に用いるモータを駆動する全自動洗濯乾燥機であって、
前記可変周波数制御装置により、前記モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、
脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする全自動洗濯乾燥機。
【請求項2】乾燥工程における熱風を循環させるダクトを有し、該ダクト内を通過する熱風に含まれる湿気を水冷式により凝縮捕集する請求項1記載の全自動洗濯乾燥機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は全自動洗濯乾燥機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の装置は、特開昭58-155894号公報及び特公昭64-9040号公報のように、前者は無刷子交流電動機により駆動される洗濯機、後者は三相交流モータを周波数変換装置を介して任意の回転数に設定できる可変速制御を特徴とした洗濯機の駆動方式であり、いずれもインバータ等の周波数可変装置でモータ回転数を制御するために、駆動モータのギヤー切換えを不要としている。
【0003】
しかし、少なくとも洗濯,脱水の工程は勿論であるが、洗濯,脱水さらに乾燥等の工程を1台の洗濯機で行う場合には駆動用モータの回転数範囲が広いので、従来のV/F(電圧/周波数)一定制御ではインバータの周波数制御範囲が広くなる。この結果、各工程におけるモータの電圧と電流の関係に差異が生じる。すなわち、モータの回転数は乾燥工程が最も低く、次いで洗濯工程、最も回転速度の大きいのが脱水工程である。このため、洗濯工程時のモータ回転数に対して脱水工程時の回転数は4〜6倍大きく、乾燥工程時のモータ回転数と脱水工程時の回転数ではさらに回転数差が大きく、14〜16倍の差異がある。
【0004】
このため、1台のモータでギヤー切換を行なわない場合には各工程でモータの印加電圧及び電流の値に大きな差異が生じ、駆動モータが大きくなり問題となる。すなわち、V/F一定制御インバータでは高速回転では周波数が高くなると同時に電圧も高くなり、低速回転では周波数が低くなると同時に電圧も低くなるから、回転数範囲が広いとモータ電流に差異が生じ易い欠点があつた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術はブラシレスモータを駆動モータもしくは三相誘導電動機をV/F一定制御インバータで駆動する場合に洗濯,脱水あるいは乾燥等におけるパルセータやバスケツトの回転をギヤーあるいはプーリ等の減速比を変えられる減速機を用いないこと及び回転数範囲が広いために、各工程における所要入力の電圧と電流値の差異が大きくなり、モータの小形化が困難であつた。
【0006】
本発明の目的は、性能の良い全自動洗濯乾燥機を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、洗い,脱水,乾燥を行い、モータ駆動の周波数をインバータで可変制御し且つモータの励磁電流成分の制御が可能なベクトル制御機能を有するベクトル制御インバータで構成される可変周波数制御装置により前記洗い、脱水、乾燥に用いるモータを駆動する全自動洗濯乾燥機であって、前記可変周波数制御装置により、前記モータの基底回転数を脱水時の最高回転数よりも小さくして、洗い時および乾燥時は、基底回転数以下で前記モータを運転するようにしてあり、脱水工程は、ベクトル制御により洗い及び乾燥工程よりも励磁電流成分を小さくすることにより弱め界磁制御を行って脱水時の最高回転数が基底回転数よりも大きな回転数を得られるように前記モータの回転数を制御するようにしたことを特徴とする。
上記構成によれば、洗濯,脱水,乾燥を行うモータにベクトル制御機能を有する可変周波数制御装置により電力供給されて、洗濯,脱水,乾燥工程などの各工程に適した回転速度になるようにモータ制御される。特に、脱水工程は、弱め界磁制御を行うことで、モータ電圧が最大(定格電圧)に至りそれ以上電圧を上げられない場合であっても、回転数増加のための周波数増加に対応した高速回転を可能にする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面の一実施例にもとづいて説明する。図1〜図4は全自動洗濯乾燥機への実施例で、図1は右側面から見た状態の内部構造説明図、図2はベクトル制御インバータで駆動する場合の基本構成図、図3は背面から見た状態の内部構造説明図、図4は図1と異なる部分を右側面から見た状態の内部構造説明図である。
【0009】
図において、鋼板製で箱形の外枠1内には、吊棒2および防振ばね3によつて回動ベース4が防振支持されている。回動ベース4は、外槽6に可回転的に取り付けられている。回動ビーム5は、回動ベース4と同様、その一端が外槽6に可回転的に取り付けられており、回動ビーム5の他端は、後述する回動モータ機構に取り付けられている。外槽6内には、横断面形状がほぼ円形でしかも、洗い槽,脱水槽,乾燥用ドラムを兼ねるバスケツト7が設けられている。バスケツト7の上端には、バランスリング8が、超音波溶着等の手段により取り付けられている。バスケツト7の内側壁には、バスケツト7を傾けて乾燥をおこなう場合に布をかき上げる縦リブ状のリフター7aが複数個設けられており、また多数の縦溝7bが設けられている。縦溝7bには、多数の脱水孔7cが設けられている。バられている。外槽6の上端には、外槽6とバスケツト7との間に洗濯物が落下するのを防止するために槽カバー10を固定する。外槽6の外底部には、排水バルブ11が取り付けられている。
【0010】
回転駆動装置12は、鋼板製のベース13に取り付けられている。ベース13は、ほぼ箱形に形成されており、ねじ等の手段により外槽7に固定されている。
【0011】
内部排水ホース15の一端は、排水バルブ11に接続され、他端は、外枠1の下部に設けたベース16上に開放されている。ベース16は、その下部に複数個の足16a,外枠1の保持部16b,水受部16c、および排水口部16dを有する。水受部16cは、中央に向けて傾斜させた構成とし、排水ホース15から放出された水は、前記排水口部16dから排出される。なお、排水口部16dからの水は、外部排水ホース20を介して外部に排出される。水受部16cの外周には、水が溢水しないようにリブ16eが設けられている。
【0012】
全自動洗濯機の場合は洗濯と脱水、また、全自動洗濯乾燥機の場合は洗濯,脱水,乾燥工程があり、その駆動システムの基本構成を図2で説明する。洗いはパルセータ9を回転させ、脱水及び乾燥はバスケツト7を回転させる。バスケツト7とパルセータ9の駆動はモータ出力軸からプーリもしくはギヤー等からなる一定の減速比の減速装置19aを介しバスケツト7あるいはパルセータ9のいずれかを駆動するのをクラツチ装置19bで切換える構成になつており、これらを回転駆動装置12としている。
【0013】
モータ17は三相誘導モータで構成し、巻線形もしくはかご形誘導モータを用いるが、構成の堅固なかご形誘導モータが望ましい。
【0014】
モータ17を駆動する可変周波数制御装置18はベクトル制御インバータで構成し、モータ17に速度センサを設ける方式と速度センサを設けない方式があるが、洗濯機では速度センサを設けない方式が望ましいことから、図2は速度センサレスベクトル制御インバータを示している。
【0015】
本構成では洗い工程ではクラツチ19bはパルセータ9側が直結され、脱水工程と乾燥工程はバスケツト7側が直結されて、減速装置19aを介してモータ17にベクトル制御インバータからなる可変周波数制御装置18から電力を供給されて、各工程に適した回転速度になるように周波数が設定される。
【0016】
なお、モータ17,減速装置19aとクラツチ19bからなる回転駆動装置12は外槽6の底部にベース13を介して取り付けられている。
【0017】
回動モータ21の出力軸には、回動アーム22が取り付けられており、回動アーム22には、回動ビーム5の一端が可回転的に取り付けられている。外槽6には、軸ベース23が、ねじ等の手段により設けられており、軸ベース23の一部を延出してビーム受け24が形成されている。回動ビーム5の他端は、ビーム受け24の係止部25に可回転的に支持されている。外槽軸26は、軸ベース23に取り付けられており、また外槽軸26は、回動ベース4の軸受部27で可回転的に支持されている。スイツチレバー40は、外槽軸26に一体的に設けられており、またスイツチレバー40は、マイクロスイツチ(H)41,マイクロスイツチ(V)42に係合するように取り付けられている。
【0018】
ダクト44は、乾燥工程中に熱風を循環するためのものであり、その一端は、外槽6の排気部6bに、他端は、送風機45の吸気口45aに気密的に接続されている。ダクト44の中央内径部44aは、外槽6に一体的に設けられた溢水すすぎ用の溢水口46の上端部47よりH寸法だけ高くして、洗濯水が送風機45の内部に侵入しないよう構成されている。
【0019】
ダクト44の内部には、ノズル50が設置されており、ホース49を介して導入された水がダクト44内に噴霧される。すなわち、乾燥工程中、衣類からの湿気を含んだ空気が循環するのを防止すべく、バスケツト7内の熱風をダクト44内に導びき、このダクト44内を通過する熱風に水を噴射して、当該熱風中の湿気を凝縮捕集する。送風ガイド52の一端は、送風機45の排気側に取り付けられ、他端は、加熱ユニツト51に接続されている。さらに、加熱ユニツト51は、槽内排気口53を有している。
【0020】
以上の構成において、洗い-すすぎ-脱水の洗濯工程は、外槽6,バスケツト7を直立させた状態でおこなう。なお、この位置検出は、スイツチレバー40がマイクロスイツチ(V)42と係合することによりおこなわれる。
【0021】
なお、洗い,すすぎの洗濯工程は減速装置19aを介してクラツチ19bでパルセータ9が直結されて基底回転速度で励磁電流成分の大きい状態で運転される。また、乾燥工程は洗濯工程の基底回転速度より低い回転速度で運転されるが、洗濯工程と同様にベクトル制御により励磁電流成分の大きい状態で運転される。但し乾燥工程はクラツチ19bの動作でバスケツト7が直結される。
【0022】
次に、乾燥工程に入るが、この乾燥工程に際しては、通常のドラム式乾燥機と同じように、バスケツト7をほぼ水平の位置まで傾斜させる。すなわち、この動作は、回動モータ21により回動アーム22を回転させ、いわゆるリンク機構の一要素をなす回動ビーム5を移動させることによりおこなわれる。なお、回動角度の検出は、スイツチレバー40がマイクロスイツチ(H)41と係合することによりおこなわれる。そして、所定の乾燥工程が実施されると、前記と逆の動作で外槽6,バスケツト7が直立の位置まで戻される。
【0023】
ここで、洗い,脱水及び乾燥工程に必要なパルセータ9とバスケツト7を回転させるモータ17の所要トルクと回転数の関係について詳述する。
【0024】
まず、洗い時あるいはすすぎ時には、パルセータ9を約120rpmで短周期反転させる。なお、実験によれば、この場合のパルセータ9を回転させるのに必要なトルクは、衣類の種類にもよるが、最大約200kgcmである。脱水時には、バスケツト7を約900rpmで高速一方向回転させる。
【0025】
なお、同じく実験によれば、この場合のバスケツト7の定常回転を維持させるのに必要なトルクは、最大約15kgcmと小さな値となる。その理由を述べると、バスケツト7の回転を阻害させようとする力は、駆動装置12の伝達損失でありしかも、主として軸心の狂い、軸受部の回転損失であるため、前記のごとく小さな値となる。
【0026】
乾燥時には、バスケツト7を約55rpmで回転させる。なお、乾燥工程が進むにしたがって負荷は減少するが、実験によれば、この場合のバスケツト7の定常回転を維持させるのに必要なトルクは、最大約100kgcmである。
【0027】
以上を整理すると、この乾燥機に要求される回転動力は、表1に示すようになる。
【0028】
【表1】

【0029】
しかして、このように種々変化する回転数,トルクに対して好適な動力として、近年急速に普及してきた交流式のインバータモータがある。
【0030】
従来、インバータでモータを駆動する場合は、可変周波数にできることから任意の回転数に設定できるので減速装置の減速比を変えないで、モータ軸出力を負荷に直接直結する方式と一定の減速比で洗濯,脱水及び乾燥を行う方式が適用されていた。しかし、この減速装置の減速比が一定(例えば、ギヤー比ε=1/10)とすると表2に示すモータの所要特性となる。表2中のモータの所要出力P(W)は表1の回転数N(rpm),必要トルクτ(kg-m)とすると次式から求められる。
【0031】
P=1.027・τ・N
なお、表2はブラシレスモータあるいはV/F一定制御インバータで誘導モータを駆動する場合の所要回転数に対するトルク及びその時の出力とその出力を出すためのモータ電圧と電流の関係を示す。モータ電圧,電流はモータ効率100%と仮定した概略計算値で示している。
【0032】
【表2】

【0033】
表2より、減速比が一定の場合に、V/F一定制御インバータで回転数が最も高い脱水工程のモータ電圧を最大の200Vに設定すると洗い工程では26.6Vで、電流が9.3Aと大きくなる。また、乾燥工程はモータ電圧が12.2Vと最少となるが、電流は4.6Aと比較的大きい値となる。すなわち、モータ電流が各工程で大幅な差異を生じ、モータの設計上からは洗い工程のモータ電流9.3Aにモータが耐えられるように設計しなければならなくなり、モータが大きくなる。
【0034】
これに対し、本発明では洗い工程のモータ所要回転数1200rpmを基底回転速度に設定した場合の例を表3に示す。なお、本表では減速装置19aの減速比を1/10に設定した場合を仮定している。
【0035】
【表3】

【0036】
表3より、洗いのモータ回転数を基底回転数とすると1200rpmで定格電圧となり、この時の電圧が200Vとなるので電流は1.23Aとなる。脱水の時は9000rpmなので弱め界磁制御となるので電圧は定格電圧の200Vに維持する。
【0037】
このため、界磁電流成分は回転数を増加させるための周波数増加に対して減少させる制御を行う。実際には1200rpmを基底回転数にして最高回転数を9000rpmにするのは界磁制御範囲が広いので、実際には基底回転数をもう少し高い回転数に設定することになると考えられる。
【0038】
一方、乾燥工程は基底回転数以下の回転数なので電圧も基底回転数との比で減少して92Vとなり、電流が0.61Aとなる。表2に対して、表3のように可変周波数制御装置18に強め界磁及び弱め界磁制御が可能なベクトル制御インバータとすることにより、各工程におけるモータ電流の電流値の差が小さくできる結果、モータ体格を小さくすることができることになり、モータの小形軽量化を図ることができる。
【0039】
なお、ベクトル制御インバータとした可変周波数制御装置18とモータ17を三相誘導モータとした時の構成を図5に示す。家庭用の単相100V電源100の場合は力率改善回路101を介して倍電圧整流ダイオード102a,102bを介して平滑コンデンサ103a,103bを充電する。平滑コンデンサの出力は高周波スイッチング素子としてのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transister)106a〜106c′からなるインバータ回路を介してモータ17に電力を供給する。
【0040】
また、電源は単相100Vでなくて200Vでも良いことは勿論で、この場合には倍電圧整流回路とする必要はない。
【0041】
半導体スイツチング素子106a〜106c′としてIGBTを適用しているが、これは誘導モータの場合はエアーギヤツプが小さいために、インバータのPWMチヨツパ周波数を16kHz以上に上げて可聴周波数内での騒音が発生しないようにするためである。
【0042】
特に洗濯機及び洗濯乾燥機は外槽がスピーカのような形状のために騒音発生源を極力小さくしなければならない。
【0043】
また、単相電源を整流した場合の平滑コンデンサ103a,103bに印加される電圧はコンデンサ容量の大小で影響されるが直流電圧が脈動する。
【0044】
しかし、直流電圧の脈動はベクトル制御インバータでは問題となるので、直流脈動電圧を検出しPWMインバータのパルス幅変調信号のパルス幅を直流電圧が高い場合はインバータ出力電圧が絞られる側にし、逆の場合は逆に変化させて、直流脈動電圧を補償するための信号を出力する直流脈動電圧補償回路105を設け、その出力信号をベクトル制御の駆動制御回路110に入力する。ベクトル制御の駆動制御回路は洗濯工程を順次指令する速度指令回路111からの信号と直流電流検出回路104の信号及びベクトル制御による二つの相の電流検出回路107からの信号により、インバータを構成するIGBT106a〜106c′を駆動するゲート信号を出す構成としている。
【0045】
以上は洗濯,脱水,乾燥を1台のモータで行う一実施例を述べたが、次に2台のモータを駆動する場合の一実施例について、図6,図7を用いて説明する。図6は洗い,乾燥を1台のモータ17とし、脱水用のモータを17′とする。ベクトル制御インバータである可変周波数制御装置18は誘導モータ17を駆動し、また、他のモータ17′は可変周波数制御装置18の出力を図7に示すごとくモータ17と17′を切換器120で切換えても良い。また、切換えない場合にはモータ17のみを可変周波数制御装置18で運転し、他のモータ17′は従来のコンデンサモータによる運転方式とすることもできる。また、減速装置14,14aは異なる減速比の減速装置とする。
【0046】
なお、ここでは一方のモータで洗い,乾燥用とし、他のモータを脱水用としたが、洗いを一方のモータで、他のモータを脱水,乾燥用としても良い。また、洗いと脱水を一方のモータで行い、他のモータを乾燥用とすることも可能であることはいうまでもない。いずれにおいてもベクトル制御インバータである可変周波数制御装置18でモータを駆動し、連続的に必要な回転数で運転することができる。
【0047】
また、可変周波数制御装置18でモータを駆動する場合は共振点の通過を急加速運転により共振にいたる前に通過させることができると同時に、洗濯,乾燥時には連続的に回転速度を変えることができるので、ゆつくりした洗いも可能となる。
【0048】
なお、上記一実施例では、洗濯工程の一例として必要トルクが最大で基底回転数による制御を例示したが、ベクトル制御インバータにより、洗いもしくは洗い,乾燥をベクトル制御で基底回転数以下で運転し、脱水工程のみを最高回転数にして弱め界磁運転するようにしてもよい。
【0049】
例えば、1つのプーリあるいはギヤーによる一定の減速機で運転される駆動システムとして、モータに三相誘導電動機を用いて基底回転数以下に洗いと乾燥工程を設定し、脱水工程を最高回転数にして、基底回転数までは強め界磁、最高回転数では弱め界磁制御を行えるようなベクトル制御インバータで運転する。
【0050】
このため、三相誘導電動機をV/F一定制御インバータでなく、ベクトル制御インバータで駆動して、洗いと乾燥工程は励磁電流成分を大きくし、脱水工程は励磁電流成分を小さくするように制御して、モータ電流が各工程で大きな差異とならないようにすることができ、モータの小形化が可能となる。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、性能の良い全自動洗濯機及び全自動洗濯乾燥機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
ベクトル制御インバータの可変周波数制御装置でモータを駆動する本発明の全自動洗濯乾燥機の一実施例の右側面から見た状態の内部構造説明図である。
【図2】
駆動システムの基本構成図である。
【図3】
背面から見た状態の内部構造説明図である。
【図4】
図1と異なる部位を右側面から見た状態の内部構造説明図である。
【図5】
ベクトル制御インバータの可変周波数制御装置とモータの回路構成図である。
【図6】
可変周波数制御装置により2台のモータを駆動する他の実施例の全自動洗濯乾燥機の右側面から見た状態の内部構造説明図である。
【図7】
1台の可変周波数制御装置で2台のモータを駆動する場合の回路構成説明図である。
【符号の説明】
1…外枠、6…外槽、7…バスケツト、9…パルセータ、12…回転駆動装置、17…モータ、18…ベクトル制御の可変周波数制御装置、19a…減速装置、19b…クラツチ、105…直流脈動電圧補償回路。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-26 
出願番号 特願2000-309429(P2000-309429)
審決分類 P 1 651・ 534- YA (D06F)
P 1 651・ 121- YA (D06F)
P 1 651・ 832- YA (D06F)
P 1 651・ 4- YA (D06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新海 岳金丸 治之栗山 卓也  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 平上 悦司
和泉 等
登録日 2002-10-04 
登録番号 特許第3357657号(P3357657)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 全自動洗濯乾燥機  
代理人 田中 恭助  
代理人 小川 勝男  
代理人 田中 恭助  
代理人 小川 勝男  

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