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審決分類 審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C12Q
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C12Q
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C12Q
審判 一部申し立て 2項進歩性  C12Q
管理番号 1128972
異議申立番号 異議2003-72296  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-09-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-17 
確定日 2005-10-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3386391号「分析用ポリヌクレオチド配列」の請求項1ないし3、6、9ないし12、14、15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3386391号に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯:
本件特許第3386391号は、特願平1-505144号の特許出願(優先日1988年5月3日、GB)をもとの出願として分割出願した特願平11-173号に係り、平成15年1月10日に特許権の設定がなされた後、請求項1乃至3,6,9乃至12及び14乃至15に係る発明の特許に対してキャノン株式会社から特許異議の申立てがなされた。当審においてなされた平成16年2月10日付取消理由通知に対して平成16年8月20日付で意見書が提出された。その後、平成17年7月12日付でファクシミリによる審尋がなされ、回答書と共に新たな訂正明細書案が提出されたので、平成17年8月15日付で再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年9月6日付で意見書と共に明細書の訂正請求がなされたものである。

〔2〕訂正の請求について:
本件訂正の要旨は、特許請求の範囲の減縮を目的として、
(1)請求項1、6及び11の「多数の」とあるのを「少なくとも72の」に、同「不透過性表面」とあるのを「滑らかな不透過性表面」と、そして「支持体」とあるのを「不透過性支持体」に、
(2)請求項3の「不透過性表面」とあるのを「滑らかな不透過性表面」に、そして「支持体」とあるのを「不透過性支持体」に、
(3)請求項12の「複数の」とあるのを「少なくとも72の」に、同「不透過性表面」とあるのを「滑らかな不透過性表面」と、そして「支持体」とあるのを「不透過性支持体」に、
それぞれ訂正しようとするものである。
当該訂正は、特許明細書の特許請求の範囲において、「多数の」もしくは「複数の」という数値範囲を「少なくとも72の」に限定し、単なる「不透過性表面」とあるのを「滑らかな不透過性表面」に、かつ単なる「支持体」を「不透過性支持体」に限定するものである。そして、「72」については特許明細書第9頁左欄18行等に、そして「滑らかな不透過性表面」については同第7頁左欄32〜33行に具体的に記載されており、また「不透過性支持体」についても、同第8頁左欄23〜25行などに記載のように実施例中で支持体として用いられた「顕微鏡スライド(スライドガラス)」の表面が「不透過性」であることが同7頁左欄23〜33行に記載されているから、実質的に記載されている事項であるといえる。
そうなので、上記訂正事項はいずれも明細書に記載された事項の範囲内における特許請求の範囲の減縮にあたるものであり、またいずれも特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもないと認められる。
したがって、上記訂正は、いずれも特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成5年改正特許法第126条第1項ただし書、第2項、及び第3項の規定に適合するので、当該訂正は認められるものである。

〔3〕特許異議申立について:
1.本件発明について:
本件特許に係る発明は、前記特許明細書の訂正が認められることから、上記異議申立がなされた本件の請求項請求項1乃至3,6,9乃至12及び14乃至15に係る発明は、訂正明細書の請求項請求項1乃至3,6,9乃至12及び14乃至15の記載により以下のように特定されている(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」ともいう。)。

「 【請求項1】 少なくとも72のオリゴヌクレオチドが結合した滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体からなるオリゴヌクレオチドのアレイであって、それら多数のオリゴヌクレオチドは異なるヌクレオチド配列を有し、そして支持体表面上の異なる既知の位置において結合している、オリゴヌクレオチドのアレイ。
【請求項2】 異なるヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる位置において結合している、請求項1記載のアレイ。
【請求項3】 複数のオリゴヌクレオチドが結合した滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体からなるオリゴヌクレオチドのアレイであって、異なるヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる既知の位置において結合している、オリゴヌクレオチドのアレイ。
【請求項6】 少なくとも72のオリゴヌクレオチドを不透過性支持体の滑らかな不透過性表面に結合させるが、但し、オリゴヌクレオチドは予め決定された異なる配列を有し、そして支持体表面上の異なる既知の位置において結合している、オリゴヌクレオチドのアレイの製造方法。
【請求項9】 異なるヌクレオチド配列を有する複数のオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる位置において結合している、請求項6ないし8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】 複数のオリゴヌクレオチドがコンピューター制御された適用装置を用いて異なる既知の位置に結合されている、請求項6記載の方法。
【請求項11】 ポリヌクレオチドを分析する方法であって、以下の工程:
分析される標識ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをハイブリダイゼーション条件下でオリゴヌクレオチドアレイに適用するが、但し、アレイは滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体からなり、予め決定された異なる配列を有する少なくとも72のオリゴヌクレオチドが該表面上の別々の既知のセルに結合しており、そしてポリヌクレオチドまたはそのフラグメントがハイブリダイズするセルと、ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントがハイブリダイズしないセルとを観察することによりポリヌクレオチドを分析することからなる。
【請求項12】 複数のポリヌクレオチド配列を比較する方法であって、以下の工程:
ハイブリダイズする条件下で複数のポリヌクレオチドを少なくとも72のオリゴヌクレオチドのアレイに適用するが、但し、複数のオリゴヌクレオチドは予め決定された異なる配列を有し、そして不透過性支持体の滑らかな不透過性表面上の異なる既知の位置において結合しており、そしてハイブリダイゼーションのパターンの違いを比較することからなる。
【請求項14】 ポリヌクレオチドが蛍光標識を付加されている、請求項11または12記載の方法。
【請求項15】 予め決定された配列を有する複数のオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる既知の位置において結合している、請求項11または12記載の方法。」

2.異議申立の理由の概要:
特許異議申立人キャノン株式会社は、
(1)本件訂正前の請求項1〜3,6,9,11及び14〜15に係る発明は、いずれも実質的に下記甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり、
(2)同請求項1〜3,6,9〜12及び14〜15に係る発明は下記甲第1〜9号証の記載から当業者が容易に想到できた発明であるから、これらの請求項に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであることと共に、
(3)訂正前の請求項12の記載及びそれに関する発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第3項、4項及び第5項に規定する要件を満たしていないこと
の理由をあげ、請求項1〜3,6,9〜12及び14〜15に係る発明の特許が取り消されるべきである旨を主張している。



甲第1号証:欧州特許出願公開第235726A2号公報
甲第2号証:特開昭61-23957号公報
甲第3号証:特開昭61-227591号公報
甲第4号証:特開昭59-141599号公報
甲第5号証:特公昭63-12260号公報
甲第6号証:特開昭57-82769号公報
甲第7号証:特開昭61-193072号公報
甲第8号証:特開昭58-9070号公報
甲第9号証:特開昭62-282599号公報

3.当合議体の判断:
(1)特許法第29条第1項第3号違反の主張について:異議申立理由(1)について

甲第2号証第11頁左上欄9行〜右上欄10行には、「異なるオリゴヌクレオチド配列を異なる部位に存在させる」るように、表面にプローブを結合させた(スライド)ガラスが記載されており、また当該ガラス表面のプローブを用いて、ポリヌクレオチド試料と標識された核酸配列とを特定のハイブリダイズ条件下で競合させ、標識の位置を観察して試料中の核酸配列の分析を行うことも記載されている。
ここで、甲第2号証で支持体として用いられているスライドガラスは、「滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体」であり、ガラス表面のオリゴヌクレオチドは、異なるヌクレオチド配列を有し、かつ異なる既知の位置において結合している点で本件発明と軌を一にするものである。
しかしながら、甲第2号証には、ガラス表面のオリゴヌクレオチドプローブの数については、単に「異なるオリゴヌクレオチド配列」と記載されるのみで具体的数値範囲は記載されておらず、例えば「72」以上等の「多数」の場合を包含することは記載されていない。
ところで、甲第2号証で「DNAまたはRNA試料」として具体的に例示されたポリヌクレオチドは、dsDNAを変性後機械的もしくは酵素的に切断して調製された「平均長500〜10,000nt」という極めて長いフラグメントの混合物であることからみて、同時に「多数」のプローブに対するハイブリダイズの有無を観察することが想定されていたとは考えにくい。しかも、具体的に例示されたアッセイ法はいわゆる競合法であるから、固定プローブの種類ごとに適切な競合条件を設定する煩雑さが予想されるにもかかわらず、具体的な実験例の記載がなく各工程の具体的な実験条件も全く示されていない。そうしてみると、ここでいう「異なるオリゴヌクレオチド配列」の数としては極めて少ない数、せいぜい数個程度であるとする方が自然である。
そうなので、「少なくとも72」という多数のオリゴヌクレオチドが支持体表面に結合していることを必須の構成要件とする本件発明は、甲第2号証には記載されているとも、記載されているに等しいともいうことはできない。
同様に、甲第2号証には、本件請求項2〜3,6,9,11及び14〜15に係る発明のいずれも実質的に記載されていない。
したがって、本件請求項1〜3,6,9,11及び14〜15に係る発明の特許が特許法第29条第1項第3号に該当するとする異議申立人の主張は採用しない。

(2)特許法第29条第2項違反の主張について:異議申立の理由(2)について

甲第1号証には、いくつかの異なるタイプの未標識のプローブを異なる既知の位置に固定した支持体が記載されており、当該プローブを標識された核酸試験サンプルとハイブリダイズさせた後、支持体表面上の標識の位置を観察することで試験サンプルの核酸配列を解析することが記載されている。
しかしながら、実施例で実際に用いられた支持体はニトロセルロース膜のみであり、スライドガラスなどの「滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体」を用いることについては記載されていない。
また、支持体に固定された核酸プローブの数について、「いくつかの異なるタイプの」と表現されていることから「複数」の種類であるとは解されるものの、核酸プローブを透過性のニトロセルロース膜に吸着させて固定する以上、核酸含有液のスポットが膜内に浸透し拡散することは避けられないから、スポットサイズはある程度の大きさを有することになり、支持体表面に固定できる核酸プローブ数は極めて少ない数であるはずである。実際に、実施例において用いられた核酸プローブの数は2又は数種類であり、例えば「72」以上等の「多数」種類の場合にも適用できる旨の記載はない。
一方、甲第2号証においても「多数」の核酸プローブをガラス表面に結合することが教示されていない点は上述の如くである。甲第3〜9号証においては、ガラス表面など「滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体」表面にプローブ等の核酸を結合させることが記載もしくは示唆されている場合でも、結合させる核酸プローブが「複数」であることすら記載されておらず、しかも例示された「ガラス」の表面の性質に関し、核酸プローブ含有液を浸透しないという「(液体の)不透過性」という特性を積極的に利用することを教示する記載もない。
そうしてみると、たとえ甲第1号証の核酸配列解析法において、複数の核酸プローブを支持体表面の異なる位置に固定する際に用いる支持体として、透過性のニトロセルロース膜に代えて、スライドガラスなど「滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体」を用いて結合させることを当業者が想定した場合でも、その際に「少なくとも72」という多数の核酸プローブを「滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体」に結合させようとすることまでは容易に想到できないものというべきである。
そして、「少なくとも72」という多数のオリゴヌクレオチドを表面に結合したアレイに係る本件発明は、アレイの支持体としてスライドガラスなど「滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体」を用い、支持体表面が「滑らかな不透過性表面」であることを利用してオリゴヌクレオチド含有液スポットの表面での拡散を減少させ、極めて小さなスポットサイズを達成したものであり、そのことではじめて「少なくとも72」という多数のオリゴヌクレオチドアレイに対する試料ポリヌクレオチド配列の分析が可能となったものである。
したがって、本件発明は、甲第1号証及び甲第2〜9号証の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
請求項2〜3,6,9〜12及び14〜15に係る発明についても、同様の理由で甲第1〜9号証の記載事項からは当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件請求項1〜3,6,9〜12及び14〜15に係る発明の特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする異議申立人の主張は採用しない。

(3)特許法第36条第3項、第4項及び第5項違反の主張について:異議申立理由(3)について
(3-1)
特許異議申立人は、複数のポリヌクレオチドを複数のオリゴヌクレオチドのアレイに適用して「ハイブリダイゼーションのパターンの違いを比較する」ことで「複数のポリヌクレオチド配列を比較する方法」に係る訂正前の請求項12に対して、下記の(イ)及び(ロ)の点を指摘し、訂正前の本願明細書の請求項12の記載及び発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定される要件を満たしていない旨を主張している。
(イ)訂正前の請求項12の記載は、複数のポリヌクレオチド配列をどのような目的のために比較するかが不明瞭である点。
(ロ)本件明細書【0054】の記載中には、「ハイブリダイゼーションのパターンの違いを比較する」ことについて、異なる細胞型からの集団の比較の根拠を得るための具体的な方法が記載されていないので、本件明細書の発明の詳細な説明には訂正前の請求項12の発明について当業者が容易に実施できる程度に記載されていない点。

(3-2)(イ)の点について:
請求項12には、複数のポリヌクレオチド配列を比較する際に、複数のポリヌクレオチドを少なくとも72のオリゴヌクレオチドのアレイに適用して「ハイブリダイゼーションのパターンの違い」を比較することが記載されている。
ここで、「複数のポリヌクレオチド」試料を、「少なくとも72のオリゴヌクレオチドのアレイ」に適用することで、「試料」のポリヌクレオチド集団の由来が異なれば、当該アレイでのハイブリダイゼーションのパターンが異なるはずであり、当該「ハイブリダイゼーションのパターン」を観察し、「試料」ごとのパターンを比較すれば、「試料」の同定(「試料」の由来の異同の判定)など「試料」の特徴付けができることは明らかである。
そうしてみると、請求項12に記載される方法について、典型的には複数のポリヌクレオチドに対する特徴付けを目的とするものであることが当業者に直ちに理解できるといえるから、請求項12の記載が不明瞭であるとはいえず、上記(イ)の点に関しての記載不備はない。

(3-3)(ロ)の点について:
ところで、本件明細書【0053】には、典型的な「ハイブリダイゼーションのパターンの違いを比較する」ことによる哺乳動物細胞などにおける「mRNA集団の特徴付け」の手法が具体的に記載されている。即ち、哺乳動物など高級真核生物中の大抵のmRNAが3'末端付近に「AAUAAA」の保存配列を有していることを利用し、「NmAATAAANn」型の全ての配列からなるアレイとハイブリダイズさせることでmRNA集団を分析することができることが具体的に記載されている。
特に、哺乳動物細胞の場合については、存在するmRNAは数千種程度であって、その大部分の非反復オリゴヌクレオチド表現を与えるためには、m+n=8に対するあらゆる可能な配列は256×256要素のアレイで充分であることが明記されているのだから、当該アレイを用いることで、哺乳動物由来各細胞ごとに発現しているmRNA集団のパターンが比較解析できることも教示されているといえる。
そして、【0054】における冒頭の「この分析は」の用語は、【0053】に記載された上記mRNA集団のパターンの比較解析を指しているといえるから、【0054】で、異なる細胞型からの集団の比較の根拠となるmRNA集団の複合度の測定分析についても、上記「mRNA集団の特徴付け」のためのアレイ、例えば「NmAATAAANn」型の全ての配列からなる256×256要素のアレイ、を用いて対象となるmRNA集団のハイブリダイゼーションパターンの違いの比較解析を行えばよいことも明らかである。
したがって、上記(ロ)の点についても、異議申立人が主張するような記載不備はない。

(3-4)まとめ:
以上述べたように、請求項12の記載に関して、請求項12の記載及び発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定される要件を満たしていない旨の特許異議申立人の主張も採用しない。

〔4〕結語
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
分析用ポリヌクレオチド配列
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも72のオリゴヌクレオチドが結合した滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体からなるオリゴヌクレオチドのアレイであって、それら多数のオリゴヌクレオチドは異なるヌクレオチド配列を有し、そして支持体表面上の異なる既知の位置において結合している、オリゴヌクレオチドのアレイ。
【請求項2】異なるヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる位置において結合している、請求項1記載のアレイ。
【請求項3】複数のオリゴヌクレオチドが結合した滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体からなるオリゴヌクレオチドのアレイであって、異なるヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる既知の位置において結合している、オリゴヌクレオチドのアレイ。
【請求項4】複数のオリゴヌクレオチドは群をなして並んでおり、そして1つのヌクレオチド残基だけ異なる、請求項1または3記載のアレイ。
【請求項5】オリゴヌクレオチドの対合が対立遺伝子の多型性を表す、請求項1または3記載のアレイ。
【請求項6】少なくとも72のオリゴヌクレオチドを不透過性支持体の滑らかな不透過性表面に結合させるが、但し、オリゴヌクレオチドは予め決定された異なる配列を有し、そして支持体表面上の異なる既知の位置において結合している、オリゴヌクレオチドのアレイの製造方法。
【請求項7】長さがsであってn個の異なるヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドのアレイを構築する請求項6記載の方法であって、以下の工程:
a)n個の異なるヌクレオチドを、別々に支持体のn個の異なる領域に適用し、
b)n個の異なるヌクレオチドを、a)において規定されたn個の異なる領域の各々の範囲でn個の異なる領域に別々に適用し、そして
c)全部でs回上記工程を繰り返すこと
からなる。
【請求項8】複数のオリゴヌクレオチドのアレイを製造する方法であって、以下の工程:
a)支持体の不透過性表面にマスクを適用することにより、表面の露出領域を規定し、
b)露出領域にヌクレオチドをカップリングさせ、
c)マスクを差し引き(off-setting)することにより、表面の別の露出領域を規定し、
d)上記の別の露出領域にヌクレオチドをカップリングさせ、そして
e)所望のオリゴヌクレオチドアレイが作成されるまで工程c)及びd)を繰り返すこと
からなる。
【請求項9】異なるヌクレオチド配列を有する複数のオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる位置において結合している、請求項6ないし8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】複数のオリゴヌクレオチドがコンピューター制御された適用装置を用いて異なる既知の位置に結合されている、請求項6記載の方法。
【請求項11】ポリヌクレオチドを分析する方法であって、以下の工程:
分析される標識ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをハイブリダイゼーション条件下でオリゴヌクレオチドアレイに適用するが、但し、アレイは滑らかな不透過性表面を有する不透過性支持体からなり、予め決定された異なる配列を有する少なくとも72のオリゴヌクレオチドが該表面上の別々の既知のセルに結合しており、そして
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントがハイブリダイズするセルと、ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントがハイブリダイズしないセルとを観察することによりポリヌクレオチドを分析すること
からなる。
【請求項12】複数のポリヌクレオチド配列を比較する方法であって、以下の工程:
ハイブリダイズする条件下で複数のポリヌクレオチドを少なくとも72のオリゴヌクレオチドのアレイに適用するが、但し、複数のオリゴヌクレオチドは予め決定された異なる配列を有し、そして不透過性支持体の滑らかな不透過性表面上の異なる既知の位置において結合しており、そして
ハイブリダイゼーションのパターンの違いを比較すること
からなる。
【請求項13】ポリヌクレオチドがゲノムDNAまたはメッセンジャーRNAである、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】ポリヌクレオチドが蛍光標識を付加されている、請求項11または12記載の方法。
【請求項15】予め決定された配列を有する複数のオリゴヌクレオチドが支持体表面上の72から1012の間の異なる既知の位置において結合している、請求項11または12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリヌクレオチドの分析に関する。
【従来の技術】
1.概論
核酸配列の分子分析に主として次の3方法がある:制限フラグメントのゲル電気泳動、分子ハイブリッド形成および迅速DNA塩基配列決定方法。これらの3方法は生物学において基礎研究と、医学および農業のような生物学の応用分野との両方において広範囲に用いられている。これらの方法が現在用いられている規模についての若干の示唆は、現在1年間に100万より充分に大きい塩基対が蓄積されるDNA塩基配列の蓄積速度によって与えられる。
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの方法は強力ではあるけれども、限界を有している。制限フラグメントとハイブリッド形成方法は広範囲な領域を大ざっぱに分析するにすぎないが、迅速である。塩基配列分析法は究極的な分析を与えるが、緩慢であり、一度に短い範囲(stretch)のみを分析するにすぎない。現在の方法よりも迅速な方法、および特に核分析において多量の塩基配列をカバーする方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
本発明は単一分析でフィンガープリントと、部分的または完全な塩基配列との両方を生じ、複合DNAおよびRNAの集団にクローニングの必要なく直接用いることのできるような新しいアプローチを提供する。
本発明は、特定の長さのオリゴヌクレオチドの完全なセットの全体もしくは特定部分のアレイ(array)をその表面に結合してなる支持体を用いることにより、ポリヌクレオチドの決定されていない配列もしくは決定されていない配列の変異体を分析する方法を提供する。この方法は、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを標識し、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをハイブリダイゼーション条件下、ポリヌクレオチド中の相補体を有するオリゴヌクレオチドをそれを有しないオリゴヌクレオチドから区別しうる条件下でアレイに供給し、そして
オリゴヌクレオチドのセットの特定の構成員に関連する表面上の標識の位置を観察する、
ことを含み、ここで異なるオリゴヌクレオチドはアレイの別々のセルを占有していることを特徴とする。
本発明はまた、特定の長さのオリゴヌクレオチドの完全なセットの全体もしくは特定部分のアレイをその表面に結合してなる支持体を用いることにより、あらかじめ決定されているポリヌクレオチド配列を分析する方法を提供する。この方法は、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを標識し、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをハイブリダイゼーション条件下でアレイに供給し、そして
オリゴヌクレオチドのセットの特定の構成員に関連する表面上の標識の位置を観察する、
ことを含み、ここで、各々のオリゴヌクレオチドは末端ヌクレオチドを介して支持体の表面に結合しており、異なるオリゴヌクレオチドはアレイの別々のセルを占有していることを特徴とする。
本発明はまた、特定の長さのオリゴヌクレオチドの完全なセットの全体もしくは特定部分のアレイをその表面に結合してなる支持体を用いることにより、あらかじめ決定されているポリヌクレオチド配列を分析する方法を提供する。この方法は、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを標識し、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをハイブリダイゼーション条件下でアレイに供給し、そして
オリゴヌクレオチドのセットの特定の構成員に関連する表面上の標識の位置を観察する、
ことを含み、ここで各々のオリゴヌクレオチドはインサイチュで合成されており、共有結合を介して支持体の表面に結合しており、異なるオリゴヌクレオチドはアレイの別々のセルを占有していることを特徴とする。
本発明はまた、正確な適合(マッチ)と不適合(ミスマッチ)との間を区別するように選択された長さのオリゴヌクレオチドの完全なセットの全体もしくは特定部分のアレイをその表面に結合してなる支持体を用いることにより、あらかじめ決定されているポリヌクレオチド配列を分析する方法を提供する。この方法は、ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを標識し、
ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントをハイブリダイゼーション条件下でアレイに供給し、そして
オリゴヌクレオチドのセットの特定の構成員に関連する表面上の標識の位置を観察する、
ことを含み、ここで異なるオリゴヌクレオチドはアレイの別々のセルを占有していることを特徴とする。
本発明はまた、ポリヌクレオチドの決定されていない配列もしくは決定されていない配列の変異体を分析するための装置であって、異なる配列を有する異なるオリゴヌクレオチドのアレイをその表面に結合してなる支持体を含み、ここでオリゴヌクレオチドはアレイのセルを占有し表面に結合しており、アレイの1つのセルのオリゴヌクレオチドの定められた配列はアレイの他のセルのオリゴヌクレオチドの定められた配列とは異なっており、かつ、配置は、分析されるべきポリヌクレオチド配列のアレイへの供給がハイブリダイゼーション条件下でポリヌクレオチド中の相捕体を有するオリゴヌクレオチドをそれを有しないオリゴヌクレオチドから区別しうるようなものであることを特徴とする装置を提供する。
本発明はまた、あらかじめ決定されているポリヌクレオチド配列を分析するための装置であって、少なくとも2つの定められたセルに分画された表面を有する支持体を含み、各々のセルには既知の配列のオリゴヌクレオチドが結合されており、各々のセルのオリゴヌクレオチドは末端ヌクレオチドを介して支持体の表面に結合されており、ここで第1のセルのオリゴヌクレオチドの配列は別のセルのオリゴヌクレオチドの配列と異なることを特徴とする装置を提供する。
本発明はまた、あらかじめ決定されているポリヌクレオチド配列を分析するための装置であって、少なくとも2つの定められたセルに分画された表面を有する支持体を含み、各々のセルには既知の配列のオリゴヌクレオチドが結合されており、各々のセルのオリゴヌクレオチドはインサイチュで合成されており、かつ共有結合を介して支持体の表面に結合されており、ここで第1のセルのオリゴヌクレオチドの配列は別のセルのオリゴヌクレオチドの配列と異なることを特徴とする装置を提供する。
本発明はまた、あらかじめ決定されているポリヌクレオチド配列を分析するための装置であって、少なくとも2つの定められたセルに分画された表面を有する支持体を含み、各々のセルには既知の配列のオリゴヌクレオチドが結合されており、各々のセルのオリゴヌクレオチドは正確な適合と不適切な適合との間を区別するように選択された長さを有しており、ここで第1のセルのオリゴヌクレオチドの配列は別のセルのオリゴヌクレオチドの配列と異なることを特徴とする装置を提供する。
本発明はまた、本発明の装置のために、支持体物質の別々のセル中に選択された長さのオリゴヌクレオチドのアレイを生成する方法を提供する。この方法は、
a)支持体物質を別々のセル区域に分画し;
b)あるヌクレオチドをセル区域の第1のセットにカップリングさせ;
c)あるヌクレオチドをセル区域の第2のセットにカップリングさせ;
d)あるヌクレオチドをセル区域の第3のセットにカップリングさせ;そして
e)所望のアレイが生成するまで一連のカップリング工程を続ける;
の各工程を含み、
カップリングは、各々の区域において、支持体の表面に対してまたは前工程においてその区域にカップリングされたヌクレオチドに対して実施されることを特徴とする。
本発明は1態様において、支持体とその表面に取付けた、アレイの別々のセルを占有し、ハイブリッド形成反応に参加しうる特定長さのオリゴヌクレオチドの完全なセットの全体または特定の部分のアレイから成るポリヌクレオチド塩基配列の分析装置を提供する。ポリヌクレオチド塩基配列の差異を調べるために、本発明は他の態様において支持体と、その表面に取付けた、アレイの別々のセルを占有するハイブリッド形成反応に参加しうるオリゴヌクレオチドであって、ポリヌクレオチド塩基配列を含む特定長さのオリゴヌクレオチドの完全なセットの全体または特定部分のアレイとから成る装置を提供する。
他の態様において本発明はその表面に特定長さのオリゴヌクレオチドの完全セットの全体または特定部分のアレイを取付けた支持体を用いることによるポリヌクレオチド塩基配列の分析方法であって(異なるオリゴヌクレオチドがアレイの別々のセルを占有する)、ポリヌクレオチド塩基配列またはそのフラグメントを標識して標識物質を形成し、ハイブリッド形成条件下で標識物質をアレイに加え、オリゴヌクレオチドセットの特定要素と結合した、表面の標識の位置を観察することから成る方法を提供する。
このように、本発明の考えは1種類の特定長さまたは数種類の特定長さのオリゴヌクレオチドの完全セットの全体または特定部分の組織化アレイ(structured array)を提供することである。支持フィルムまたはガラスプレート上に展開されるアレイはハイブリッド形成反応の標的を形成する。ハイブリッド形成の特定条件とオリゴヌクレオチドの長さとはいずれにしても正確に適合したオリゴヌクレオチドと不適合(ミスマッチ)のオリゴヌクレオチドとを識別する有効な装置のために充分でなければならない。ハイブリッド形成反応では、特定長さ以上のポリヌクレオチド塩基配列またはフラグメントのオリゴマーを含み、その性質が特定の用途に依存する標識プローブによって、アレイが利用される。例えば、プローブはポリメラーゼ連鎖反応によってゲノムDNAから増幅される標識塩基配列、またはmRNA集団、または例えば全ゲノムのような、複合塩基配列からのオリゴヌクレオチドの完全セットを含む。最終結果は分析塩基配列中に存在するオリゴヌクレオチドに一致する充てんセル(filled cell)のセットと、分析塩基配列中に存在しない配列に一致する「エンプティ」座位のセットである。このパターンは被分析塩基配列のすべてを表すフィンガープリントを生ずる。さらに、オリゴヌクレオチド長さをオリゴヌクレオチドの殆んどまたはすべてが1回のみ生ずるように選択するならば、被分析塩基配列の殆んどまたは全てを集合させることも可能である。
アレイ「ルックアップ表」中に存在するオリゴヌクレオチドの数、長さおよび塩基配列も用途に依存する。アレイは被分析塩基配列に関する塩基配列情報が存在しない場合に必要になるような、特定長さのあらゆる可能なオリゴヌクレオチドを含みうる。この場合に、使用オリゴヌクレオチドの好ましい長さは被分析塩基配列の長さに依存し、被分析塩基配列中の特定オリゴマーの1コピーにすぎないと思われるような長さである。このようなアレイは大きい。被分析塩基配列に関する情報が全く得られない場合には、アレイは選択された部合集合(selected subset)でありうる。公知の塩基配列の分析では、アレイのサイズは塩基配列の長さと同じオーダーであり、例えば突然変位遺伝子の分析のような多くの用途では、きわめて短い。これらの要素については下記で詳細に考察する。
2.塩基配列プローブとしてのオリゴヌクレオチド
オリゴヌクレオチドは相補的塩基配列を有するオリゴヌクレオチドと塩基対合した二本鎖(base paired duplex)を形成する。二本鎖の安定性はオリゴヌクレオチドの長さと塩基組成とに依存する。二本鎖(duplex)安定性に対する塩基組成の効果は高濃度の4級アミンまたは3級アミンの存在によって非常に減ぜられる。しかし、ハイブリッドの熱安定性に対してオリゴヌクレオチド二本鎖中の不適合(ミスマッチ)の強力な効果が存在し、このことがオリゴヌクレオチドとのハイブリッド形成技術を突然変異分析のためおよびDNAポリメラーゼ連鎖反応による増幅の特異的塩基配列を選択するためのこのような強力な方法にしている。不適合の位置は不安定化度(degree of destabilisation)に影響を与える。二本鎖の中心に存在する不適合は末端不適合の1℃に比べてTmを10℃低下させる。ここに述べる方法に密接に関係する、不適合の位置に依存するある範囲の識別力が存在する。例えば、ハイブリッド形成を二本鎖のTm近くで実施して不適合二本鎖の形成率を減ずることによる。または非反復表現(unique representation)に必要である以上にオリゴヌクレオチドの長さを増大することによるような、識別改良方法が幾つか存在する。これの系統的実施方法を考察する。
3.既知塩基配列の分析
オリゴヌクレオチドプローブの最も有効な使用方法の1つはヒト遺伝子中の単独塩基変化の検出である。最初の例は鎌状赤血球病を生ずるベータグロビン遺伝子における学独遺伝子変化であった。このアプローチを例えばDMD遺伝子およびHPRT遺伝子のような、同じ表現型を生ずる多くの異なる突然変異が生ずる遺伝子にまで拡大して、例えばハンチントン病(Huntington’s disease)およびのう胞性線維症のような疾患遺伝子座(disease locus)を含むことが結合分析によって判明している領域における突然変異のヒトゲノムの効果的な走査方法を発見することが必要とされている。如何なる既知の塩基配列も重複オリゴヌクレオチドのセットとして完全に表すことができる。セットのサイズNはs+1〜Nであり、Nは塩基配列の長さ、sはオリゴマーの長さである。例えば1kbの遺伝子は特定長さの約1000オリゴヌクレオチドの重複セットに分けることができる。別々のセル内にこれらのオリゴヌクレオチドの各々によって構成されたアレイは例えばヒトゲノム中の単独コピー遺伝子(single copy gene)または混合RNA集団中のメッセンジャーRNAのような、何らかの意味で相同塩基配列を検出するための多重ハイブリッド形成プローブとして用いられる。長さsは、塩基配列内のオリゴマーが被分析配列中のどこかで表される確率がごく小さいように選択することができる。これは下記の統計を考察する項に述べる式から算出することができる。あまり完全ではない分析では、例えば一部重複または非重複セットで塩基配列を表すことによって、5までのファクターを用いてアレイのサイズを減ずることが可能である。完全重複セットを用いることの利点は、s連続オリゴヌクレオチド中の不適合が走査されるので、塩基配列差の正確な位置確認が可能になることである。
4.未知塩基配列の分析
あらゆる自由生活有機体(free living organism)のゲノムは100万以上の塩基対であり、いずれのゲノムもまだ完全には解明されていない。制限座位マッピングは塩基配列のごく一部のみを明らかにするにすぎず、2ゲノムの比較に用いる場合に突然変異の小部分のみを検出できるにすぎない。関係する遺伝子に直接接近することのできない多くの生物学的問題に分子生物学の全エネルギーを集中するには、複合塩基配列のさらに効果的な分析方法が必要である。多くの場合に、核酸の完全な塩基配列を決定する必要はなく、重要な配列は2種類の核酸を区別するような配列である。3例を挙げると、野性型有機体と突然変異体含有有機体とでは異なるDNA塩基配列は問題遺伝子の単離方法を誘導しうる;同様に、癌細胞とその正常相対細胞との間の塩基配列差によって形質転換の原因を解明することができる;また、2細胞型の間で異なるRNA配列はこれらを区別する機能を与える。これらの問題は塩基配列差を確認する方法によって、分子分析で解説することができる。ここに述べるアプローチを用いると、このような差は2種類の核酸、例えば2遺伝子型のゲノムDNAまたは2細胞型のmRNA集団から全ての可能な塩基配列を表すオリゴヌクレオチドアレイにハイブリッド形成することによって示される。1塩基配列によって占められ他方の配列によって示されていないアレイ中の位置は2塩基配列の差を表す。これは関係する塩基配列のクローンの単離に用いられるプローブの合成に必要な塩基配列情報を与える。
4.1塩基配列情報の組立て
アレイへのハイブリッド形成の結果を調べることによって、塩基配列を再構成することができる。長い配列内からの長さsのオリゴヌクレオチドは長さs-1にわたって他の2塩基配列と重複する。各陽性のオリゴヌクレオチドから出発して、左へ4オリゴヌクレオチドおよび1塩基置換体と重複しうる右方へ4オリゴヌクレオチドについてアレイを調べる。これらの4オリゴヌクレオチドの中の1個のみが右方へ陽性であることが判明した場合には、重複と右方への付加塩基とが未知塩基配列中のs塩基を決定する。このプロセスを両方向にくり返して、アレイ中の他のオリゴヌクレオチドとの独特の適合を求める。各独特適合が再構成配列に塩基を加える。
4.2統計学
長さNの塩基配列は長さs塩基対の〜N重複塩基配列のセットに分解される。(二重鎖核酸では、N塩基対の配列の塩基配列複合度(sequence complexity)は、2本の鎖が異なる配列を有するので2Nであるが、本発明のためには、この2という係数は重要ではない)。長さsのオリゴヌクレオチドでは、4s種類の配列組合せが存在する。複合度Nの被分析配列中に大ていのオリゴヌクレオチドが1回のみ表われることを保証するには、sの大きさはどの位であるべきか?ランダム配列では、1つ以上のコピー中に存在するsマー(s-mer)の期待数は
【数1】
μ>1〜4s(1-e-λ(1+λ))
[λ=(N-S+1)/4s]
である。
実用的な理由から、単独塩基変化によってあらゆるsマーに如何に多くの配列が関係するかを知ることも有用である。各位置は3塩基の1つによって置換されるので、単独塩基変化によって各sマーに関して3s配列が存在し、N塩基の配列中のsマーが1置換を可能にする配列中の他のsマーと関係する確率は3s×N/4sである。この場合に適合配列と不適合配列の相対シグナルは、完全適合を単独塩基だけ異る適合から区別することにハイブリッド形成条件が如何に良好であるかにも依存する。(4sがNより大きい、大きさのオーダーである場合には、1塩基変化によるいかなるオリゴヌクレオチドに比べてもごく小さい3s/10であるにちがいない)。不適合配列からのハイブリッド収量が完全な二重鎖によって形成される収量の一部にすぎないことが示唆される。
下記に示すように、プローブ中に相補性を有するオリゴヌクレオチドを相補性を有さないオリゴヌクレオチドから区別させる条件が存在すると考える。
4.3アレイフォーマット、構成とサイズ
異なる複合度の塩基配列を分析するために必要なアレイの規模について考えるために、アレイを方形マトリックスと見なすことが便利である。一定長さのすべての配列を4塩基を表す4列を引き、次に同様に4縦列を引くことによって構成されるマトリックス中に1回のみ表すことができる。これは4×4マトリックスを形成し、16方形の各々16ダブレットの1つを表す。次に、大きさが1/4である以外は同じ4マトリックスを各オリジナルマトリックス中に描いた。これによって全体で256テトラヌクレオチド配列を含む、16×16マトリックスが形成される。このプロセスをくり返すと、特定の深さs、セル数が4sに等しいマトリックスが得られる。上述したように、sの選択は、これが塩基配列複合度を決定するので、非常に重要である。下記で検討するように、sは、複合ゲノムのために充分に大きくなければならない構成マトリックスのサイズをも決定する。最後に、オリゴヌクレオチドの長さはハイブリッド形成条件と、ハイブリッド形成プローブとしてのそれらの識別力とを決定する。

この表は数個のゲノムの第1分析を実施するために必要なアレイの予想規模を示す。例は通常の方法によって塩基配列を決定された(コスミドスケール)、または現在塩基配列決定中(大腸菌スケール)であるゲノムであるか、または問題の大きさがかなり検討されている(ヒトスケール)ゲノムであるために、選択した。表はマトリックスアプローチの予想スケールが通常のアプローチのごく一部であることも示す。これは用いられるX線フィルムの面積に容易に認められる。分析に要する時間がゲル方法に要する時間のごく一部であることも明らかである。「ゲノム」縦列はマトリックスのセルの約5%を満たすランダム配列の長さを示す。これは下記で考察する塩基配列決定法の第一段階の最適条件であるように選択した。このサイズでは、正シグナルの割合の大きいことが各オリゴマーの1回発生を示し、これは2ゲノムを比較して配列差を知るために必要な条件である。
5.不完全塩基配列の精製
複合配列の再構成は、配列中でくり返されるオリゴマーが発生する個所において再構成配列が中断されるという結果を生ずる。例えばヒトDNAに分散され、タンデム反復する、DNAの構造組織の一部をなす長い反復構造の成分として反復が存在する。しかし、マトリックスに用いるオリゴヌクレオチドの長さが非反復表現の全体を与えるために必要であるよりも短い場合には、偶発的に反復が生ずる。このような反復は単離されやすい。すなわち、反復オリゴマーを囲む配列は互いに関係していない。これらの反復によって生ずるギャップは配列を長いオリゴマーに伸長することによって解消される。あらゆる可能なオリゴマーのアレイ表現を用いた、第1分析によって反復することが判明した塩基配列は、原則として、各端部での伸長によって再合成することができる。各反復オリゴマーに対して、新しいマトリックス中に4×4=16オリゴマーが存在する。ハイブリッド形成分析は、配列が完成するまで、くり返される。実際には、ハイブリッド形成における陽性シグナルの結果が不明瞭であるので、第1分析において明確な陰性結果を与えなかったすべての配列の伸長による第1結果の精製(refinement)を利用することが好ましい。このアプローチの利点は配列の伸長によって、短いオリゴマーの末端に近い不適合を伸長オリゴマーの中央近くに持ってきて、二重鎖形成の識別力を高めることである。
5.1バクテリオファージλDNAの塩基配列の仮説的分析
ラムダファージDNAは48,502塩基対長さである。これの塩基配列は完全に決定されているので、これの一重鎖を分析のコンピューターシミュレーションにテストケースとして処理した。表は、この複合度の配列に用いるオリゴマーの適当なサイズが10マーであることを示す。10マーのマトリックスでは、サイズは1024ライン平方であった。コンピューターでのラムダ10マーの「ハイブリッド形成」後に、46,377セルが陽性であり、1957が二重発生を示し、75が三重発生を示し、3セルが四重発生を示した。これらの46,377陽性セルはマトリックスのそれらの位置から推定して、既知の配列を表した。各々を3′末端において4×1塩基、5′末端において4×1塩基伸長させて、16×46,337=742,032セルを得た。この伸長セットは二重発生を161に減じ、さらに16倍の伸長はこの数を10に減じ、再度の実験は完全に重複した結果を示した。完全に重複した配列の同じ最終結果は416マトリックスから出発して得られるが、このマトリックスはすべての10マーを表すために必要なマトリックスよりも4000倍大きく、この上に表された配列の大部分は冗長であった。
5.2マトリックスのレイダウン
ここに述べた方法は、例を上述したように、4塩基の先駆物質を所定パターンでレイダウンすることによって、アレイのセル中にオリゴヌクレオチドを合成することによってマトリックスが製造されることを可能にする。先駆物質を供給する自動装置はまだ開発されていないが、明白に可能性が存在する。この目的にペンプロッターその他のコンピューター制御プリンティング装置を用いることも困難でない筈である。複合ゲノムは非常に多数のセルを必要とするので、アレイのピクセルサイズが小さければ小さいほど良い。しかし、これらを如何に小さく製造するかについては限界がある。100ミクロンはかなり満足できる上限であるが、組織および拡散のために、紙ではおそらく達せられない。例えばガラスのような滑らかな不透過性表面では、例えばレーザータイプセッター(laser typesetter)を用いて溶媒抵抗性グリッドを形成し、暴露部分にオリゴヌクレオチドを構成することによって約10ミクロンまでの分析が達成される。本発明のオリゴヌクレオチド合成方法の適用を可能にする魅力的な可能性の1つは、ガラスプレートの表面上の顕微鏡パッチとしての微孔質ガラスを焼結することである。プリンティングメカニズムが緩慢である場合には、非常に多数のラインまたはドッドのレイダウンには長時間を要する。しかし、低コストジェットプリンターは約10,000スポット/秒の速度でプリントすることができる。このような速度では、約3時間に108スポットをプリントすることができる。
5.3オリゴヌクレオチドの合成
幾つかのオリゴヌクレオチド合成方法が存在する。現在用いられている大ていの方法は制御孔度ガラス(CPG)の固体支持体にヌクレオチドを結合させる方法であり、ガラス面での合成に用いるため適している。それらをその上で合成したマトリックスにまだ結合した状態のハイブリッド形成プローブとしてのオリゴヌクレオチドの直接使用については、我々の知るところでは、開示されていないが、合成後に結合させた固体支持体上のハイブリッド形成プローブとしてのオリゴヌクレオチドの使用は報告されている。PCT出願第WO 85101051号はCPGカラムに結合したオリゴヌクレオチドの合成方法を述べている。我々が実施した実験では、ファージラムダの左手COS座位に相補的な13マーを合成するためにアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)オリゴヌクレオチド合成器の支持体としてCPGを用いた。カップリング工程は理論的収量にすべて密接した。全合成と脱保護との工程を通して第1塩基は、支持体媒質に共有結合によって安定に結合した。
6.プローブ、ハイブリッド形成および検出
微孔質ガラス上に合成されるオリゴヌクレオチドの収量は約30μmol/gである。この物質の1ミクロン厚さ×10ミクロン平方のパッチは、ヒトDNA約2gに等価である、〜3×10-12μmolを維持した。それ故、ハイブリッド形成反応はプローブ中のオリゴヌクレオチドよりも非常に大きく過剰な結合オリゴヌクレオチドによって実施される。そのため、収量は反応のすべての段階において濃度に比例するので、プローブ塩基配列の単独発生と多量発生とを含むハイブリッド形成を区別できる系の設計が可能であるべきである。
被分析ポリヌクレオチド配列はDNAまたはRNAのいずれかである。プローブを製造するには、ポリヌクレオチドを分解してフラグメントを形成する。ポリヌクレオチドをできるだけランダムな方法で分解して、支持体上の特定の長さを中心とした平均の長さのオリゴヌクレオチドおよび塩基配列決定用ゲルでの電気泳動によって選択される正確な長さsのオリゴマーを形成することが好ましい。プローブを次に標識する。例えば、長さsのオリゴヌクレオチドを末端標識することができる。32Pで標識する場合には、全ヒトDNAからの個々のsマーの放射能収量(radioactive yield)は104dpm/総DNAmg以上になりうる。検出のためには、このごく一部が10〜100ミクロン平方のパッチに必要である。これはハイブリッド形成条件を二重鎖(duplex)のTmに近いように選択することを可能にする、これはハイブリッドの収量および形成速度を減ずるが、識別力を高める。結合オリゴヌクレオチドが過剰に存在するので、平衡近くで作用する場合にもシグナルが問題になる必要はない。
ハイブリッド形成条件は、フィルターへのハイブリッド形成に用いる標準方法に適することが知られている条件に合わせて選択することができるが、最適条件を確立することが重要である。特に、温度は±0.5℃より良好に、密接に制御することが必要である。特に、オリゴヌクレオチドの選択された長さが小さい場合に、ハイブリッド形成速度および/またはハイブリッド形成度の僅かな差を分析が識別しうることが必要である。装置は種々なオリゴヌクレオチドの間の塩基組成の差に対してプログラムされることが必要である。アレイの構成では、これを同じ塩基組成を有するサブマトリックス(sub-matrices)に分割することが好ましい。これは塩基組成によって僅かに異なるTmを明確にすることを容易にする。
特に32Pによるオートラジオグラフィーは画像分解(image degradation)を生じ、分析を決定する限定要素になる;ハロゲン駆動銀フィルムの限界は約25ミクロンである。直接検出系が明らかに好ましいと考えられる。蛍光プローブも考られ、標的オリゴヌクレオチドが高濃度であるならば、蛍光の低感度も問題にならない。
我々はデジタルスキャナーによる走査ラジオグラフィー画像もかなり経験している。我々の現在の設計は25ミクロンまでの分析を可能にするが、ハイブリッド形成反応の質と、1つ以上の塩基配列の存在から1つの配列の不存在をどのように良好に識別するかとに依存して、分析範囲は現在の適用よりも低い範囲にまで容易に伸長される。ぼう大なプレートを測定する装置が約1μの精度を有する。走査速度は数分間内に数百万セルのマトリックスが走査されるような速度である。データ分析のソフトウェアは直接的であるが、大きなデータセットは迅速なコンピュータを必要とする。
下記の実験は請求項の実行可能性を実証する。市販の顕微鏡スライド〔BDHスーパープレミウム(BDH Super Premium)76×26×1mm〕を支持体として用いた。これらは芳香族ヘテロ環塩基の脱保護に用いられる条件、すなわち30%NH3、55℃、10時間に耐えることのできる長い脂肪族リンカーによって誘導体化した(derivatized)。次のオリゴヌクレオチドの出発点として役立つヒドロキシル基を有するリンカー(linker)を2段階で合成する。スライドを最初に、触媒としてヒューニッヒの塩基(Hunig’s base)数滴を含むキシレン中の3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランの25%溶液で最初に処理する。反応は乾燥管を備えたステイニングジャー(staining jar)中で、90℃において20時間実施する。スライドをMeOH,Et2Oで洗浄し、風乾させる。ストレート(neat)のヘキサエチレングリコールと痕跡量の濃硫酸を加え、混合物を80℃に20時間維持する。スライドをMeOH,Et2Oで洗浄し、風乾させ、使用するまで-20℃において乾燥維持する。この調製法は英国特許第8822228,6号(1988年9月21日出願)に述べられている。
オリゴヌクレオチド合成サイクルは次のように実施する:
カップリング溶液を各工程に対して、無水アセトニトリル中0.5Mテトラゾール6量(vol.)と必要なベーターシアノエチルホスホーラミジトの0.2M溶液5量とを混合することによって新たに製造する。カップリング時間は3分間である。THF/ピリジン/H2O中I2の0.1M溶液による酸化は安定なホスホトリエステル結合を生ずる。ジクロロメタン中の3%トリクロロ酢酸による5′未満の脱トリチル化はオリゴヌクレオチド鎖のさらに伸長を可能にする。スライド上の反応性部位に対して用いたホスホーラミジドの過剰量はカップリングを完成させるために充分に大きいので、キャッピング段階は存在しなかった。合成が完成した後に、オリゴヌクレオチドを30%NH3中、55℃において10時間脱保護する。カップリング段階に用いた化学薬品は感湿性であるので、この重要な段階は次のように密閉容器内の無水条件下で実施しなければならない。合成すべきパッチの形を、上述のように誘導体化した顕微鏡スライドと、同じサイズおよび厚さのテフロン片との間にサンドイッチしたシリコーンゴムシート(76×26×0.5mm)から切断した。これに、カップリング溶液の注射器による注入、抽出およびアルゴンによる空隙のフラッシュを可能にするプラスチック・チューブの小片を取付けた。全組立て体をホールドバックペーパークリップ(foldback paper clip)によって一緒に維持した。カップリング後に、セットアップを分解し、スライドをスティニングジャー中に浸せきすることによって、次の化学反応(ヨウ素による酸化:TCA処理による脱トリチル化)に通した。
【実施例】
実施例1
第1例として、カップリング溶液レベルを工程10〜14に徐々に減ずることによって、スライド上にオリゴーdT10-オリゴーdT14の配列を合成した。このようにして、スライドの上部に10マーを合成し、底部に14マーを合成し、この間に11,12,13マーを合成した。ハイブリッド形成プローブとしてポリヌクレオチドキナーゼ反応によって、150万c.p.m.の総活性まで32Pによって5′末端において標識した10pmolオリゴdA12を用いた。ハイブリッド形成は顕微鏡スライドに適合するように製造し:TE中1M NaCl1.2ml、0.1%SDSを充てんしたパースペックス(プレキシーガラス)容器内で20℃において5分間実施した。オリゴヌクレオチドを含まない同じ溶液中で短時間すすいだ後に、放射線モニター(radiation monitor)によって2000cps以上を検出することができた。オートラジオグラフは全てのカウントがオリゴヌクレオチド合成部分から生じたこと、すなわちガラスまたはリンカーのみによって誘導体化した領域への非特異的結合が存在しないことを示した。0.1M NaCl中に一部溶解した後に、標的への示差結合(differential bind)が検出可能である、すなわち長いオリゴーdTへよりも短いオリゴーdTへの結合が少ない。スライドを洗浄溶液中で徐々に加熱することによって、Tm(50%溶離した場合の転移の中点値)が33°であることが測定された。39°でのインキュベーション後に検出可能なカウントは存在しなかった。ハイブリッド形成と溶解はシグナルを弱めることなく8回くり返した。結果は再現可能である。入力カウントの少なくとも5%が各サイクルにおいてスライドに取り込まれたことが考えられる。
実施例2
適合または不適合オリゴヌクレオチドを区別できるかどうかを知るために、2配列3’CCC GCC GCT GGA(CosL)と3’CCC GCC TCT GGAを合成した、これらは7位置の1塩基によって異なる。第7塩基以外の全ての塩基を長方形パッチに加えた。第7塩基では、長方形の半分を代わりに露出し、2ストリップにおいて2種類の塩基を加えた。cosRプローブオリゴヌクレオチド(5′GGG CGG CGA CCT)(32Pにより110万c.p.m.まで標識したキナーゼ、0.1M NaCl,TE,0.1%SDS)のハイブリッド形成を30℃において5時間実施した。スライドの前面はすすぎ洗い後に100c.p.s.を示した。オートラジオグラフィーは完全に相補的オリゴヌクレオチドを含むスライド部分にのみアニーリングが生ずることを示した。不適合配列を含むパッチではシグナルが検出されなかった。
実施例3
ハイブリッド形成挙動に対する不適合または短い塩基配列の影響をさらに調べるために、1つ(a)は24オリゴヌクレオチドのアレイ、他方(b)は72オリゴヌクレオチドのアレイの2アレイを構成した。
これらのアレイを第1表(a)と(b)に示すようにセットした。これらのアレイのレイダウンに用いたマスク(mask)は以前の実験に用いたものとは異なるものであった。シリコーンゴムチューブ(外径1mm)の長さをプレーンな顕微鏡スライドの表面にU字形にシリコーンゴムセメントで付着させた。これらのマスクを誘導体化顕微鏡スライドに対してクランプし、生じた空隙中にカップリング溶液を注射器によって注入した。このようにして、空隙内のスライド部分のみがホスホーラミジド溶液と接触した。不適合塩基の位置を例外として、第1表に挙げたアレイはスライド幅の大部分をカバーするマスクを用いてレイダウンさせた。次のカップリング反応において誘導体化スライドを3mm上下させることによってこのマスクをオフセット(off-set)させると、3′末端と5′末端において切り取られたオリゴヌクレオチドが生成した。
不適合を導入するために、第1マスクの幅1/2(アレイ(a)のために)または1/3(アレイ(b)のために)をカバーしたマスクを用いた。6位置と7位置の塩基は2本または3本の細長いストリップによってレイダウンした。これはスライドの各1/2(アレイ(a))または各1/3(アレイ(b))に1塩基のみ異なるオリゴヌクレオチドの合成を生じた。他の位置では、配列は最も長い配列から末端配列のないことによって異なった。
アレイ(b)では、第1表(b)に示した配列の間に配列の2縦列が存在し、この場合にはスライドがシリコーンゴムシールによってストリップ状に遮へいされたので、全ての位置において第6塩基と第7塩基とが欠損した。従って、90の異なる位置においてスライド上に表された72種類の塩基配列が存在した。
19マー 5′CTC CTG AGG AGA AGT CTG Cを用いてハイブリッド形成した(200万cpm、TE中0.1M NaCl1.2ml、0.1%SDS、20°)。
洗浄と溶離後にオートラジオグラフィーを行った。スライドは各溶離工程において5分間洗浄液中に保持し、それから暴露させた(45分間、強化)。溶離温度はそれぞれ23、36、42、47、55および60℃であった。
表に示したように、オリゴヌクレオチドは異なる融解挙動を示した。短いオリゴヌクレオチドは長いオリゴヌクレオチドよりも前に融解し、55℃では、完全適合19マーのみが安定であり、他のすべてのオリゴヌクレオチドは溶離した。従って、この方法は末端の1塩基欠損のみによって異なる18マーと19マーとを識別することができる。オリゴヌクレオチド末端と内部部位における不適合はすべて、完全な二重鎖が残留する条件下で融解した。
従って、不適合配列または長さにおいて1塩基程度異なるオリゴヌクレオチドを排除する非常に激しいハイブリッド形成条件を用いることができる。固体支持体に結合したオリゴヌクレオチドのハイブリッド形成を用いた方法で不適合の効果にこれほど敏感である方法は他に存在しない。
実施例4
遺伝疾患の診断への本発明の適用をテストするために、野性型とβ-グロビン遺伝子の鎌状赤血球突然変異とに対して特異的なオリゴヌクレオチド配列を有するアレイ(a)と、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてβ-グロビン遺伝子から増幅した110塩基対フラグメントとをハイブリッド形成した。正常固体の血液からの全DNA(1μg)を適当なプライマー オリゴヌクレオチドの存在下でPCRによって増幅した。生成した110塩基対フラグメントをアガロースゲルを通しての電気泳動によって精製した。溶離後に、小サンプル(約10ピコグラムpg)を第2PCR反応においてα-32P-dCTP(50マイクロキュリー)を用いて標識した。このPCRは上流で開始するオリゴヌクレオチドのみを含有した。延長時間9分間による60サイクルの増幅後にゲル濾過によって先駆物質から生成物を除去した。放射性生成物のゲル電気泳動は110塩基フラグメントに長さが相当する主要バンドを示した。この生成物(100,000c.p.m.0.9M NaCl中、TE,0.1%SDS)の1/4をアレイ(a)にハイブリッド形成した。30°での2時間後に、15000c.p.m.が吸収された。ハイブリッドの融解挙動は実施例3の19マーに述べた融解挙動に従い、この融解挙動はオリゴヌクレオチドの融解挙動と同じであることが判明した。すなわち、不適合がハイブリッドの融点をかなり低下させ、完全適合二重鎖が残留するが不適合二重鎖は完全に融解するような条件が容易に発見された。
従って、本発明を用いてDNAの長いフラグメントおよびオリゴヌクレオチド分析することができる、この例は突然変異の核酸配列を調べるために本発明を如何に利用するかを示す。特に、遺伝疾患の診断にどのように利用するかを示す。
実施例5
先駆物質をレイダウンさせるための自動化系をテストするために、上記のやり方で加えた12塩基の中の11塩基を用いてcosLオリゴヌクレオチドを合成した。しかし、第7塩基を加えるために、スライドをペンプロッター含有アルゴン充てん室に移した。プロッターのペンを、ペンと同じ形状およびサイズを有するが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)チューブをも有し、これを通して化学薬品がプロッターの床に配置されたガラススライドの表面に放出される「ナイロン製」の要素と取り替えた。マイクロコンピューターを用いてプロッターと、化学薬品を放出する注射器ポンプとを制御した。注射器からの放出チューブを有するペンはスライド上の位置に移動し、ペンが降下し、ポンプが始動してカップリング溶液をレイダウンさせる。ペンに連続的にG、TおよびAホスホーラミジド溶液を充てんし、12スポットのアレイを3種類のオリゴヌクレオチド配列を有する、4個ずつの3グループとしてレイダウンさせた。例2に述べたようにcosLにハイブリッド形成し、オートラジオグラフィーした後に、シグナルはdGを加えた完全適合オリゴヌクレオチドの4スポット上でのみ見られた。
結論として、次のことを実証した。
1.平たいガラスプレート上で良好な収量においてオリゴヌクレオチドを合成することができる。
2.サンプル上の小スポットにおいて高密度で、多重配列を簡単な手動方法またはコンピューター制御装置を用いて自動的に合成することができる。
3.プレート上でのオリゴヌクレオチドへのハイブリッド形成を非常に簡単な方法で実施することができる。ハイブリッド形成は効果的であり、ハイブリッドは短時間のオートラジオグラフィー暴露によって検出することができる。
4.ハイブリッド形成は特異的である。オリゴヌクレオチドが存在しないプレート部分ではシグナルが検出されない。不適合塩基の効果を調べ、12マー〜19マーの長さの範囲内のオリゴヌクレオチドのいずれかの位置での単独不適合塩基がハイブリッドの安定性を充分に低下させ、シグナルは非常に低いレベルに低下するが、完全適合ハイブリッドへの有意なハイブリッド形成は保有される。
5.オリゴヌクレオチドはガラスに安定に結合し、プレートはハイブリッド形成に反復して用いることができる。
本発明はこのように、ヌクレオチド配列の新規な分析方法を提供し、広範囲な用途を見出すと思われる。可能な用途の幾つかを下記に挙げる:
フィンガープリントまたはマッピングツールとしてのオリゴヌクレオチドの小アレイ
遺伝疾患を含めた既知突然変異の分析
上記例4は本発明を如何に用いて突然変異を分析するかを示す。遺伝病の検出を含めてこのような方法には多くの用途がある。
ゲノムフィンガープリンティング
検出可能な疾患を生ずる突然変異と同様に、この方法を用いてDNAのいずれかの区間(stretch)における点変異を検出することができる。制限フラグメント長さ多型性(RFLP)を生ずる塩基差を含む多くの領域に関する塩基配列が現在入手可能である。このような多型性を示すオリゴヌクレオチドのアレイは2つの対立制限部位を表すオリゴヌクレオチド対から製造することができる。RFLPを含む配列の増幅および次のプレートへのハイブリッド形成は、試験ゲノム中にどのような対立遺伝子(allele)が存在するかを示すことができる。単独分析で分析することのできるオリゴヌクレオチド数は非常に大きい。選択した対立遺伝子から製造した50対は個体に特有のフィンガープリントを与えるために充分である。
結合分析
最後のパラグラフに述べた方法を系図(pedigree)に適用すると、組換え(recombination)が指摘される。アレイ中の各スポット対はゲル電気泳動とプロッティングを用いたRFLP分析のトラックに認められるような情報を与え、これは現在ルーチンに結合研究に用いられている。オリゴヌクレオチドの対立遺伝子対のアレイへのハイブリッド形成によって、単独分析において多くの対立遺伝子対を分析することが可能になり、これはDNA多型性と例えば疾患遺伝子のような表現型マーカーとの間の結合の検出に用いられる方法を非常に簡単化する。
上記例は我々が開発し、実験によって実証した方法を用いて実施することができる。
配列読み取りツールとしてのオリゴヌクレオチドの大きなアレイ
オリゴヌクレオチドが小パッチ内の正確に定めた位置に2方法の1つによって、すなわちペンプロッターのペンから先駆物質を放出することによってまたはシリコーンゴムで部分を遮へいすることによって合成できることを示した。各位置に異なる配列を有する大きなアレイの合成にペンプロッターを用いる方法は明白である。幾つかの用途に対して、アレイは予め定められ、限定されたセットでありうるが、他の用途に対しては、アレイは予め定められた長さの各配列から構成される。後者に対して遮へい方法は交差ラインを形成するマスク中に先駆物質をレイダウンすることによって用いられる。これを実施する多くの方法があるが、1例のみを説明のために用いる:
1.最初の4塩基A,C,G,Tを方形プレート上の4本の幅広ストリップ中に配置する。
2.第2セットを第1ストリップと等しい幅であり、第1ストリップと直交する4本のストリップ中にレイダウンする。アレイをすべてで16個のジヌクレオチドから構成する。
3.第3層と第4層を第1ストリップの幅の1/4である4ストリップの4セット中にレイダウンする。4本の狭いストリップの各セットは幅広ストリップの1本の内を通る。この場合にアレイはすべてで256個のテトラヌクレオチドから構成される。
4.各回に先行2層の幅の1/4であるストリップによって2層をレイダウンすることによって、プロセスをくり返す。加えた各層はオリゴヌクレオチドの長さを1塩基だけ伸長し、異なるオリゴヌクレオチド配列の数を4の倍数ずつ増やす。
このようなアレイのサイズはストリップの幅によって定まる。配置した最も狭いストリップは1mmであるが、これが下限でないことは明らかである。
塩基配列の一部が予め定められたものであり、一部があらゆる可能な配列から構成されたものであるアレイには有用な用途が存在する。例えば、mRNA集団の特徴付けである。
mRNA集団の特徴付け
高級真核生物中の大ていのmRNAは3′末端近くに配列AAUAAAを有している。mRNA分析に用いられるアレイはプレート全体でこの配列を有すると考えられる。mRNA集団を分析するには、これをNmAATAAANn型のすべての配列から成るアレイとハイブリッド形成させる。例えば哺乳動物細胞のような入手源に存在すると考えられる数千のmRNAの大部分に対する非反復オリゴヌクレオチド表現を与えるために充分であるm+n=8に対して、アレイは256要素平方である。上記遮へい方法を用いて256×256要素をAATAAA上に配置する。約1mmのストリップでは、アレイは約256mm平方であると考えられる。
この分析はmRNA集団の複合度を測定し、異なる細胞型からの集団の比較の根拠として用いられる。このアプローチの利点はハイブリッド形成パターンの差が集団において異なるすべてのmRNAを単離させるために用いられるオリゴヌクレオチドの配列を形成することである。
塩基配列決定
特定の長さのあらゆる可能なオリゴヌクレオチドから成るアレイを用いて、この概念を未知塩基配列の決定にまで拡大することは、我々が現在までに合成したよりも大きなアレイを必要とする。しかし、スポットのサイズをスケールダウンさせ、数を我々が開発した小アレイでテストしてきた方法の拡大によって必要とされる数にスケールアップすることが可能である。我々の経験によると、この方法はゲルに基づく方法よりも操作が非常に簡単である。
【表1】

上記アレイ(b)の3縦列の間に2縦列が存在し、左方からの塩基6と7は各ラインにおいて欠損した。これらの配列はすべて20°または30°で融解した。(a,t)不適合塩基(.)欠損塩基。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-10-13 
出願番号 特願平11-173
審決分類 P 1 652・ 531- YA (C12Q)
P 1 652・ 534- YA (C12Q)
P 1 652・ 113- YA (C12Q)
P 1 652・ 121- YA (C12Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新見 浩一小暮 道明  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 河野 直樹
鵜飼 健
登録日 2003-01-10 
登録番号 特許第3386391号(P3386391)
権利者 オックスフォード・ジーン・テクノロジー・リミテッド
発明の名称 分析用ポリヌクレオチド配列  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 増井 忠弐  
代理人 金田 暢之  
代理人 今井 庄亮  
代理人 小林 泰  
代理人 小林 泰  
代理人 今井 庄亮  
代理人 伊藤 克博  
代理人 社本 一夫  
代理人 富田 博行  
代理人 富田 博行  
代理人 増井 忠弐  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 社本 一夫  
代理人 石橋 政幸  
代理人 栗田 忠彦  

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