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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
管理番号 1128990
異議申立番号 異議2003-73662  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-06-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-27 
確定日 2005-10-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3431064号「中和石こう粉末の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3431064号の訂正後の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3431064号の請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成10年12月9日に特許出願され、平成15年5月23日にその特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1ないし請求項4に係る特許について特許異議申立人 藤田肇(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月20日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断

2-1.訂正の内容
平成16年12月20日付け訂正請求は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付された明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるもので、その内容は、以下の訂正事項aないし訂正事項eのとおりである。

訂正事項a:
特許明細書の特許請求の範囲請求項1の記載について、
「硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させて中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成し、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を製造する方法において、
前記循環する種結晶を第1種結晶とするとき、前記第1種結晶と別に前記硫酸と前記炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を前記反応槽(13)に第2種結晶として添加し、前記第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末(18)の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末の製造方法。」とあるのを、
「製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成する製造開始工程と、
前記製造開始工程で生成したスラリー(14)から製品となる中和石こう粉末(18)を得るとともに、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程を含む中和石こう粉末を連続製造する方法において、
前記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、前記第1種結晶とは別に前記反応槽(13)に排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を第2種結晶として添加し、前記第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末(18)の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法。」と訂正する。

訂正事項b:
特許明細書の発明の詳細な説明請求項2ないし請求項4を削除する。

訂正事項c:
特許明細書の発明の詳細な説明【0005】の記載について、
「【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、図1に示すように硫酸と炭酸カルシウムを反応槽13で反応させて中和石こう粉末を含むスラリー14を生成し、このスラリー14を反応槽13に循環させ、このスラリー14に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を製造する方法において、上記循環する種結晶を第1種結晶とするとき、この第1種結晶と別に硫酸と炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を反応槽13に第2種結晶として添加し、この第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末18の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末の製造方法である。請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第2種結晶が排煙脱硫石こう粉末である中和石こう粉末の製造方法である。請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第2種結晶が石こう鉱石の粉砕物である中和石こう粉末の製造方法である。請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第2種結晶が硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末である中和石こう粉末の製造方法である。請求項1〜4に係る発明の製造方法では、第2種結晶として排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物、又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末などの硫酸と炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を用いることにより、第2種結晶の表面で結晶生成反応が起きるため、反応速度が変わらないにも拘わらず、嵩比重が高く、不純度の少ない中和石こう粉末が得られる。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、図1に示すように製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽13で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー14を生成する製造開始工程と、製造開始工程で生成したスラリー14から製品となる中和石こう粉末18を得るとともに、このスラリー14を反応槽13に循環させ、このスラリー14に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程とを含む中和石こう粉末を連続製造する方法において、上記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、この第1種結晶とは別に反応槽13に排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を第2種結晶として添加し、この第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末18の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法である。
請求項1に係る発明の製造方法では、連続操業工程において、第1種結晶とは別に、第2種結晶として排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物、又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末などの硫酸と炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を用いることにより、第2種結晶の表面で結晶生成反応が起きるため、反応速度が変わらないにも拘わらず、嵩比重が高く、不純度の少ない中和石こう粉末が得られる。」と訂正する。

訂正事項d:
特許明細書の発明の詳細な説明【0007】の記載について、
「本発明の特徴ある点は、この第1種結晶とは別に・・・。・・・。添加量が3重量%に未満の・・・」とあるのを、
「本発明の特徴ある点は、連続操業工程において、この第1種結晶とは別に・・・。・・・。添加量が3重量%未満の・・・」と訂正する。

訂正事項e:
特許明細書の発明の詳細な説明【0008】の記載について、
「請求項2〜4に係る発明のこの第2種結晶を例示すれば、・・・」とあるのを、
「この第2種結晶としては、・・・」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

訂正事項aについて
上記訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲請求項1の記載について、以下の訂正事項a-1ないし訂正事項a-4を含むものである。

訂正事項a-1:
「硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させて中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成し、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を製造する方法において、」との記載を、
「製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成する製造開始工程と、
前記製造開始工程で生成したスラリー(14)から製品となる中和石こう粉末(18)を得るとともに、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程を含む中和石こう粉末を連続製造する方法において、」と訂正する。

訂正事項a-2:
「前記循環する種結晶を第1種結晶とするとき、」との記載を、
「前記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、」と訂正する。

訂正事項a-3:
「前記第1種結晶と別に前記硫酸と前記炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を前記反応槽(13)に第2種結晶として添加し、」との記載を、
「前記第1種結晶とは別に前記反応槽(13)に排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を第2種結晶として添加し、」と訂正する。

訂正事項a-4:
「・・・を特徴とする中和石こう粉末の製造方法。」との記載を、
「・・・を特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法。」と訂正する。

訂正事項a-1について
上記訂正事項a-1は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1に記載の『「硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させて中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成し、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすること」により「中和石こう粉末を製造する方法」』を、『「中和石こう粉末を連続製造する方法」であって「製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成する製造開始工程」と「製造開始工程で生成したスラリー(14)から製品となる中和石こう粉末(18)を得るとともに、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程」とを含む方法』に限定するものであって、斯かる限定により、開始時の種結晶、すなわち、循環させるスラリーを得る前の種結晶を如何にするかを明確にするものである。
してみれば、訂正事項a-1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし且つ明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
次いで、新規事項の有無を検討するに、特許明細書の発明の詳細な説明【0006】には「【発明の実施の形態】・・・50〜98重量%の硫酸と炭酸カルシウムのスラリーを反応槽13で混合撹拌し、約60℃の温度で反応させることにより中和石こうのスラリー14を生成する。この反応のために製造開始時には新規な種結晶(図示せず)を反応槽13に加える。この新規な種結晶により中和石こうを生成した後、この中和石こうを含むスラリー14はポンプ16により複数の遠心分離機17に送られるとともに、反応槽13に送られ循環使用される、このスラリー14に含まれる中和石こう粉末を次の連続操業用の第1種結晶とする。遠心分離機17に送られ、そこで固液分離された中和石こう粉末18は石こうボードメーカー向けの製品となる。」との記載がある。
ここにおいて、上記訂正事項a-1の「中和石こう粉末を連続製造する」との事項は、前記【0006】の「スラリー14は・・・遠心分離機17に送られるとともに、・・・連続操業用の第1種結晶とする。遠心分離機17に送られ、・・・製品となる」との記載より、連続操業を行うことが把握できるので、新規事項を追加するものではない。
また、「製造開始工程」と「連続操業工程」とを含むとの事項は、前記【0006】の「製造開始時には新規な種結晶(図示せず)を反応槽13に加える。この新規な種結晶により中和石こうを生成した後、・・・」との記載より、製造開始時の工程の後に上述の連続操業が行なわれることが把握できるので、新規事項を追加するものではない。
また、「製造開始工程」が「製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成する」ものであるとの事項は、前記【0006】の「硫酸と炭酸カルシウムのスラリーを反応槽13で混合撹拌し、約60℃の温度で反応させることにより中和石こうのスラリー14を生成する。この反応のために製造開始時には新規な種結晶(図示せず)を反応槽13に加える」との事項より明らかであるので、新規事項を追加するものではない。
また、「連続操業工程」が「製造開始工程で生成したスラリー(14)から製品となる中和石こう粉末(18)を得るとともに、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する」ものであるとの事項は、前記【0006】の「この中和石こうを含むスラリー14はポンプ16により複数の遠心分離機17に送られるとともに、反応槽13に送られ循環使用される、このスラリー14に含まれる中和石こう粉末を次の連続操業用の第1種結晶とする。遠心分離機17に送られ、そこで固液分離された中和石こう粉末18は石こうボードメーカー向けの製品となる」との事項より明らかであるので、新規事項を追加するものではない。
加えて、訂正事項a-1は、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項a-2について
上記訂正事項a-2は、上記訂正事項a-1に揃えて、特許明細書の特許請求の範囲請求項1に記載の「循環する種結晶を第1種結晶」を、「連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶」と限定するものであるから、上記訂正事項a-1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項a-2は、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項a-3について
上記訂正事項a-3は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1に記載される反応槽に添加される第1種結晶とは別の「第2種結晶」を、「前記硫酸と前記炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末」から「排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末」に限定するものであるから、訂正事項a-3は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項a-3は、特許明細書の特許請求の範囲請求項2ないし請求項4の記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではない。
加えて、訂正事項a-3は、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項a-4について
上記訂正事項a-4は、上記訂正事項a-1に揃えて、特許明細書の特許請求の範囲請求項1に記載の「中和石こう粉末の製造方法」を、「中和石こう粉末を連続製造する方法」と限定するものであるから、上記訂正事項a-1と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項a-4は、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項bについて
上記訂正事項bは、特許明細書の特許請求の範囲請求項2、請求項3及び請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項bは、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項c及び訂正事項eについて
上記訂正事項c及び訂正事項eは、上記訂正事項a及び上記訂正事項bによる特許明細書の特許請求の範囲の訂正に整合させて、発明な詳細な説明の記載を訂正するものであるから、いずれも、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項d
上記訂正事項dは、上記訂正事項a及び上記訂正事項bによる特許明細書の特許請求の範囲の訂正に整合させて、発明な詳細な説明の記載を訂正すると共に、「3重量%に未満」を「3重量%未満」に訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とし且つ誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項dは、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.訂正の適否についてのまとめ
したがって、上記の訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件の明細書は、上記のとおり訂正請求がなされ、その請求どおり訂正が認められたものであるから、訂正後の特許第3431064号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】 製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成する製造開始工程と、
前記製造開始工程で生成したスラリー(14)から製品となる中和石こう粉末(18)を得るとともに、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程を含む中和石こう粉末を連続製造する方法において、
前記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、前記第1種結晶とは別に前記反応槽(13)に排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を第2種結晶として添加し、前記第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末(18)の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法。

4.特許異議申立の概要
申立人は、証拠として下記の甲第1号証及び甲第2号証を提示し、以下の理由により、特許明細書の請求項1ないし請求項4に係る特許は取り消されるべきものであると主張する。
理由:
特許明細書の請求項1ないし請求項4に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるか甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき容易になし得たものであるので、特許明細書の請求項1ないし請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであるか特許法第29条第2項に違反してされたものである。

甲第1号証:特開昭49-101294号公報
甲第2号証:特公昭47-32919号公報

5.証拠に記載される事項

5-1.甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載される。
(5-1-1)「硫酸を含む水溶液とカルシウム源とを反応槽で反応させて石膏を生成させ、生成した石膏を含むスラリーを反応槽から取出し、石膏を連続的に分離回収する方法において、大きい石膏結晶を湿式粉砕して得た水性媒体中の微細石膏を反応槽に連続的又は間けつ的に供給し、反応槽内に常時適量の種晶となる微細石膏を存在せしめることを特徴とする良質石膏製造法」(第1頁左欄第6-13行)
(5-1-2)「本発明は石膏の製造法、特に・・・結晶が大きく且つ結晶の大きさにバラツキが少ない良質な石膏を得る方法に関するものである。」(第1頁左欄15-18行)
(5-1-3)「カルシウム源としては・・・炭酸カルシウム系よい。」(第2頁右下欄4-7行)
(5-1-4)「こゝにいう大きな石膏結晶とは・・・入手の面からは反応槽から取り出し製品として回収した石膏が有利である」(第2頁右下欄13-16行)
(5-1-5)「反応槽内で必要とする微細石膏量は・・・目安としては反応槽内の全石膏量の5%程度である。従って粉砕による微細石膏の供給は・・・所定量との差に応じて適宜連続的又は間けつ的に実施する」(第3頁左上欄3-14行)
(5-1-6)「このようにして反応槽で生成し、成長した石膏はスラリー状態で反応槽から取出される。取出されたスラリーの1部を反応槽へ循環することが好ましいが、このスラリーから製品石膏を回収するに当たっては・・・」(第3頁左下欄9-13行)
(5-1-7)「こゝで回収される製品石膏は分離手段によっても異なるが長さ300〜400μ、巾35〜50μの比較的結晶形の揃ったもので、しかも経時的にも安定した良質の石膏である」(第3頁左下欄16-19行)

5-2.甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載される。
(5-2-1)「本発明は金属塩を含有する硫酸廃液及びカルシウム源スラリー、更に必要に応じて種晶を反応槽に送入して・・・石膏の連続的製造方法に関するものである。」(第1頁2欄8-15行)
(5-2-2)「この反応槽内は種晶として作用する100μ以下の微細石膏が・・・必要であり、・・・通常の操作条件では100μ以下の微細石膏が反応槽内に存在する全石膏量の5%程度あればよい」(第1頁2欄36行-第2頁3欄18行)
(5-2-3)「自然発生する微細石膏が定常的に種晶として作用するに必要充分な量であれば、該槽には系外より種晶を送入する必要はなく、・・・操作条件が変動し、微細石膏量が減少すれば、その減少分を系外から補充することもできる。」(第2頁3欄24-32行)

6.当審の判断

6-1.発明の新規性について

6-1-1.甲第1号証に記載された発明との対比・判断
上記摘示箇所(5-1-1)、摘示箇所(5-1-3)、摘示箇所(5-1-5)及び摘示箇所(5-1-6)の記載を整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されるといえる。
「硫酸と炭酸カルシウムとを反応槽で反応させて石膏を生成させ、生成した石膏を含むスラリーを反応槽から取出し、取出されたスラリーの1部は反応槽へ循環させる、石膏を連続的に分離回収する方法において、大きい石膏結晶を湿式粉砕して得た水性媒体中の微細石膏を反応槽に供給し、反応槽内に常時、種晶となる微細石膏を全石膏量の5%程度存在せしめることを特徴とする石膏製造法」
ここで、本件発明と甲第1発明を対比すると、甲第1発明の「石膏」は、本件発明の「石こう粉末」に相当し、斯かる「石膏」が「硫酸と炭酸カルシウムとを反応させて生成させた」ものである時には、「中和石こう粉末」であるといえる。
また、甲第1発明の「石膏製造法」は、「石膏を連続的に分離回収する」ことからいって、本件発明の「中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程を含む中和石こう粉末を連続製造する方法」であるといえる。
また、甲第1発明の「種晶」は、本件発明の「種結晶」に相当し、甲第1発明の「反応槽へ循環させるスラリー」には、技術的にいって、必ず「種晶となる微細石膏」すなわち「種結晶となる微細な中和石こう粉末」が含有されるものであるから、甲第1発明の「石膏製造法」は、「スラリーを反応槽に循環させ、スラリーに含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を製造」しているといえる。
してみれば、両者は、「硫酸と炭酸カルシウムを反応槽で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリーを生成し、生成したスラリーから製品となる中和石こう粉末を得るとともに、前記スラリーを前記反応槽に循環させ、前記スラリーに含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程を含む中和石こう粉末を連続製造する方法であって、前記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、前記第1種結晶とは別の第2種結晶を反応槽に添加することを特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:
本件発明では、「製造開始時に種結晶を加える」ことを特定事項としているの対し、甲第1発明では、斯かる特定がされていない点
相違点2:
反応槽に添加する第1種結晶とは別の第2種結晶が、本件発明では、「排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末」であるの対し、甲第1発明では、「大きい石こう粉末を湿式粉砕して得た水性媒体中の微細な石こう粉末」である点
相違点3:
上記の第2種結晶の添加量に関し、本件発明では、「第2種結晶の添加量が製品となる中和石こう粉末の3〜30重量%となる」ように規定しているの対し、甲第1発明では、「種結晶となる微細な石こう粉末の量が全石こう粉末量の5%程度になる」ように規定している点
以上の相違点があるので、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。

6-1-2.甲第2号証に記載された発明との対比・判断
本件発明と甲第2号証に記載された発明を対比すると、甲第2号証には、第1種結晶と第2種結晶を使用すること及び種結晶として排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を使用することについて何等記載がないので、本件発明は、少なくとも、第1種結晶と第2種結晶を使用する点及び斯かる第2種結晶が排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末であると特定されている点で、甲第2号証に記載された発明と相違する。
してみれば、本件発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。

6-1-3.発明の新規性についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではない。

6-2.発明の進歩性について
まず、本件発明と甲第1発明を対比したときの相違点2について検討する。
上記のとおり、相違点2は、第2種結晶が、本件発明では、「排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末」であるの対し、甲第1発明では、「大きい石こう粉末を湿式粉砕して得た水性媒体中の微細な石こう粉末」である点による。
甲第1号証では、上記摘示箇所(5-1-4)に「こゝにいう大きな石こう結晶とは・・・入手の面からは反応槽から取り出し製品として回収した石膏が有利である」と記載されるように、回収した石膏以外のもの、すなわち、中和石こう粉末以外の粉末の使用を否定はしていないが、「排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末」の使用を直接示唆する記載はない。加えて、上記摘示箇所(5-1-7)に「こゝで回収される製品石膏は分離手段によっても異なるが長さ300〜400μ、巾35〜50μの比較的結晶形の揃ったもので、しかも経時的にも安定した良質の石膏である」と記載されるように、結晶形の揃ったものを経時的に安定して製造できることを開示するものの、結晶の形状などに依存する嵩比重を大きくしようとする技術思想ついては開示しておらず、また、「長さ300〜400μ、巾35〜50μ」との値からいって、アスペクト比が小さく嵩比重の高い粉末ができているものでもない。
また、甲第2号証は、上記のとおり、第1種結晶と第2種結晶を使用すること及び種結晶として排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を使用することについて何等記載がないので、相違点2について、示唆する事項はない。
これに対して、本件発明は、相違点2に係る構成、すなわち、第2種結晶が「排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末」であるとの構成とその他の構成と相まって、明細書の発明の詳細な説明【0014】に記載される「粉末の嵩比重が高くなり、異種類の石こう粉末と容易に混合することできる」との粉末を得ることができるという効果を有するものである。
してみれば、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき容易になし得たものとはいうことができない。

7.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては訂正後の請求項1に係る特許は取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
中和石こう粉末の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽(13)で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー(14)を生成する製造開始工程と、
前記製造開始工程で生成したスラリー(14)から製品となる中和石こう粉末(18)を得るとともに、前記スラリー(14)を前記反応槽(13)に循環させ、前記スラリー(14)に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程とを含む中和石こう粉末を連続製造する方法において、
前記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、前記第1種結晶とは別に前記反応槽(13)に排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を第2種結晶として添加し、前記第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末(18)の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、種結晶の存在下で硫酸と炭酸カルシウムを反応させることにより得られ、石こうボードの原料として用いられる中和石こう粉末の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
石こうボードの原料となる石こうには、▲1▼石こう鉱石を粉砕した石こう粉末、▲2▼排煙脱硫石こう粉末、▲3▼硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末、▲4▼硫酸と炭酸カルシウムを直接反応させて作られた中和石こう粉末等が一般に用いられる。これらの原料の供給業者が複数ある場合、使用原料の品質を安定させるために、石こうボードの製造工場ではこれらの石こう粉末を複数種類混合して、原料としている。
これらの内で上記▲4▼の中和石こう粉末の製造方法では、図2に示すように濃硫酸、もしくは濃硫酸を水で希釈した50〜98重量%の硫酸と炭酸カルシウムのスラリーを反応槽1で混合撹拌し、約60℃の温度で反応し生成した中和石こうのスラリーを遠心分離機2により固液分離して中和石こう粉末3を得ている。この方法では、製造開始時に新規な種結晶を反応槽1に加える。この新規な種結晶により中和石こうを生成した後、この中和石こうを含むスラリーを反応槽1に循環させ、このスラリーに含まれる中和石こう粉末を次の連続操業用の種結晶としている。この方法によれば、不純物の少ない中和石こう粉末が得られる利点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記スラリーに含まれる中和石こうは針状の結晶であって、図2に示すようにこのスラリーを反応槽1に戻してスラリーに含まれる中和石こう粉末全てを種結晶とすると、硫酸と炭酸カルシウムの反応性が極端に良好になり、製品となる中和石こう粉末も針状結晶になり、嵩比重が低くなる傾向があった。
このため、石こうボードの製造時に、針状結晶でない別の種類の石こう粉末と混合する場合、嵩比重の差に起因して完全に混合することが困難であった。この不完全に混合した原料石こうを焼成し、この焼成体を粉砕してスラリーに戻す場合には、そのスラリーの濃度が微視的に変化し、石こうボードの強度不足を招いたり、ボードに気泡が混入する問題があった。
【0004】
上記問題を解決するために、硫酸と炭酸カルシウムの反応時に添加剤を加えることにより、中和石こうの結晶の成長速度を遅らせて非針状の結晶にする方法、例えばアルミ法による排煙脱硫の技術が試みられているが、この場合、添加剤が不純物として石こう中に残留する不都合があった。
本発明の目的は、嵩比重が高く、石こうボードを製造する際に異種類の石こう粉末と容易に混合できる高純度の中和石こう粉末の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、図1に示すように製造開始時に種結晶を加えて硫酸と炭酸カルシウムを反応槽13で反応させることにより中和石こう粉末を含むスラリー14を生成する製造開始工程と、製造開始工程で生成したスラリー14から製品となる中和石こう粉末18を得るとともに、スラリー14を反応槽13に循環させ、このスラリー14に含まれる中和石こう粉末を種結晶とすることにより中和石こう粉末を連続的に製造する連続操業工程とを含む中和石こう粉末を連続製造する方法において、上記連続操業工程で循環する種結晶を第1種結晶とするとき、この第1種結晶とは別に反応槽13に排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末を第2種結晶として添加し、この第2種結晶の添加量を製品となる中和石こう粉末18の3〜30重量%とすることを特徴とする中和石こう粉末を連続製造する方法である。
請求項1に係る発明の製造方法では、連続操業工程において、第1種結晶とは別に、第2種結晶として排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物、又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末などの硫酸と炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を用いることにより、第2種結晶の表面で結晶生成反応が起きるため、反応速度が変わらないにも拘わらず、嵩比重が高く、不純度の少ない中和石こう粉末が得られる。
【0006】
【発明の実施の形態】
請求項1に係る発明の製造方法では、図1に示すように、混合槽11で濃硫酸を水で希釈し、混合槽12で炭酸カルシウム粉末と水とを混合して炭酸カルシウムのスラリーを調製する。50〜98重量%の硫酸と炭酸カルシウムのスラリーを反応槽13で混合撹拌し、約60℃の温度で反応させることにより中和石こうのスラリー14を生成する。この反応のために製造開始時には新規な種結晶(図示せず)を反応槽13に加える。この新規な種結晶により中和石こうを生成した後、この中和石こうを含むスラリー14はポンプ16により複数の遠心分離機17に送られるとともに、反応槽13に送られ循環使用される、このスラリー14に含まれる中和石こう粉末を次の連続操業用の第1種結晶とする。
遠心分離機17に送られ、そこで固液分離された中和石こう粉末18は石こうボードメーカー向けの製品となる。遠心分離機17で得られたろ液はろ液受槽19に貯えられ、ろ液の一部は石こうスラリーの濃度調整用として反応槽13に戻され、残部は排水処理設備に送られ処理される。
【0007】
本発明の特徴ある点は、連続操業工程において、この第1種結晶とは別に第2種結晶を反応槽13に加えることにある。第2種結晶の添加量は、製品となる中和石こう粉末18の3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。添加量が3重量%未満の場合には嵩比重を高めることが困難となり、30重量%を超えた場合、石こう分離機の能力に制限があり、所期の石こう生産量が得られない。
第2種結晶は、図示するように直接反応槽13に投入してもよいが、混合槽12に入れて炭酸カルシウムと混合してから反応槽13に導入してもよいし、或いは循環させるスラリーに添加することにより反応槽13に導入してもよい。
【0008】
この第2種結晶としては、排煙脱硫石こう粉末、石こう鉱石の粉砕物、又は硫酸塩と炭酸カルシウムを反応させて作られた石こう粉末が挙げられる。この硫酸塩としては硫酸鉄又は硫酸アルミニウムが挙げられる。
排煙脱硫とは、硫黄を含む燃料を用いる工場や火力発電所の排煙中に含まれるSO2,SO3や、或いは硫酸プラントの排ガス中のSO2をそれぞれ除去することである。この排煙脱硫により石こう粉末を製造する方法には、(a)石灰石粉か消石灰を吸収剤として脱硫し、酸化して石こうとする直接石灰石こう法と、(b)苛性ソーダやアンモニア水などの他のアルカリで一度SOxを吸収した後、石灰石粉か消石灰で複分解して石こうとする間接石灰石こう法がある。その他に(c)苛性ソーダを吸収剤として亜硫酸ソーダのままで副生する方法や、(d)この副生物を更に酸化して硫酸ソーダにする方法や、(e)活性炭吸着による乾式法などがある。本発明の排煙脱硫石こう粉末は、上記(a)〜(e)の製造法のいずれかで作られた石こう粉末である。
【0009】
この排煙脱硫石こうを生成するまでの反応式は、次の式(1)及び(2)で示される。式(1)はSO2の吸収を示し、式(2)はその吸収により生成した亜硫酸カルシウム(CaSO3)の酸化を示す。
SO2+CaCO3→CaSO3+CO2 …(1)
CaSO3+1/2O2+2H2O→CaSO4・2H2O …(2)
このようにして生成した排煙脱硫石こう粉末(CaSO4・2H2O)の結晶は針状でなく米粒状である。
【0010】
【実施例】
次に本発明の具体的態様を示すために、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
<実施例1>
50重量%硫酸と炭酸カルシウムのスラリーを反応槽で反応させて中和石こう粉末を製造した。このとき製造開始時を除いて、反応により生成した中和石こうを含むスラリーを反応槽に循環させ、このスラリーに含まれている中和石こうを第1種結晶とした。この第1種結晶は製品となる中和石こう粉末の約500重量%であった。この第1種結晶に加えて、第2種結晶として、硫酸プラントの排ガス中のSO2から生成した排煙脱硫石こう粉末を、製品となる中和石こう粉末の20重量%の割合で反応槽に添加して上記反応を行った。この第2種結晶の排煙脱硫石こう粉末は図6の顕微鏡写真(倍率50)に示すように、米粒状の細かな結晶形を有していた。この反応により得られた中和石こう粉末の軽装嵩比重は0.77であった。この中和石こう粉末の顕微鏡写真(倍率50)を図3に示す。
なお、軽装嵩比重とは石こうボードの原料としての使い易さの目安として測定した嵩比重であって、乾燥させた中和石こう粉末を300ccのガラス容器にふるいを用いて静かに落下させ定規で上面を平らにして、その重量を体積で割ることにより算出した嵩比重を意味する。アスペクト比が小さい結晶粉末ほど軽装嵩比重の値が高くなり、石こうボードの原料として使い易い粉末であると評価される。
【0011】
<実施例2>
第2種結晶として火力発電所の排煙中に含まれるSO2から生成した排煙脱硫石こう粉末を使用し、かつ第2種結晶の反応槽への添加量を製品となる中和石こう粉末の5重量%の割合にした以外は、実施例1と同様にして中和石こう粉末を製造した。この第2種結晶の排煙脱硫石こう粉末は図7の顕微鏡写真(倍率50)に示すように、米粒のような球状の結晶形を有していた。この反応により得られた中和石こう粉末の軽装嵩比重は0.82であった。この中和石こう粉末の顕微鏡写真(倍率50)を図4に示す。
【0012】
<比較例1>
第2種結晶を全く使用せずに、反応により生成した中和石こうを含むスラリーを実施例1と同じ割合で反応槽に循環させ、このスラリーに含まれる第1種結晶のみを種結晶とした以外は、実施例1と同様にして中和石こう粉末を製造した。この反応により得られた中和石こう粉末の軽装嵩比重は0.70であった。この中和石こう粉末の顕微鏡写真(倍率50)を図5に示す。
【0013】
<比較評価>
比較例1で得られた中和石こう粉末は図5に示すように細長い結晶形を有しており、上記のように、その軽装嵩比重は0.70と低い値を示した。
これに対し、実施例1で得られた中和石こう粉末は図3に示すように小さい結晶形を有しており、比較例1のような細長い結晶は見られないことが判る。また上記のように、その軽装嵩比重は0.77と比較例1よりも高いことが判る。
また実施例2で得られた中和石こう粉末は図4に示すように小さい結晶形を有しており、実施例1と同様に比較例1のような細長い結晶は見られないことが判る。また上記のように、種結晶の添加量が5重量%と少量でありながら、得られる中和石こう粉末の軽装嵩比重は0.82と比較例1よりも更に高いことが判る。
【0014】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、従来の第1種結晶に加えて、硫酸と炭酸カルシウムのみを反応させて作られる中和石こう粉末と異なる石こう粉末を第2種結晶として連続的に添加して硫酸と炭酸カルシウムを反応させて中和石こう粉末を製造したので、粉末の嵩比重が高くなり、異種類の石こう粉末と容易に混合することができる。
また不純物の原因となる添加剤を添加することなく嵩比重を高めることができるため、良質で高純度の石こうボード用原料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の中和石こう粉末の製造装置の構成図。
【図2】
従来の中和石こう粉末の製造装置の構成図。
【図3】
実施例1で得られた中和石こう粉末の顕微鏡写真を示す図。
【図4】
実施例2で得られた中和石こう粉末の顕微鏡写真を示す図。
【図5】
比較例1で得られた中和石こう粉末の顕微鏡写真を示す図。
【図6】
実施例1で第2種結晶として使用された排煙脱硫石こう粉末の顕微鏡写真を示す図。
【図7】
実施例2で第2種結晶として使用された排煙脱硫石こう粉末の顕微鏡写真を示す図。
【符号の説明】
13 反応槽
14 スラリー
18 製品となる中和石こう粉末
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-10-07 
出願番号 特願平10-349699
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C01F)
P 1 651・ 121- YA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
鈴木 毅
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3431064号(P3431064)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 中和石こう粉末の製造方法  
代理人 須田 正義  
代理人 須田 正義  

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