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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1128999
異議申立番号 異議2003-73319  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2005-12-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3452669号「無機フィラー強化樹脂組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3452669号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯

本件特許第3452669号は、平成6年12月8日に特許出願され、平成15年7月18日に特許権の設定登録がなされ、その後、平成15年12月24日に出光石油化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成17年1月11日付けで取消理由を通知したところ、平成17年3月22日に特許異議意見書が提出されたものである。


【2】本件発明

本件の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明3」ともいう。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】(a) ASTM D-1238に従って測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜150g/10分の範囲であり、13C-NMRで求められたメソ平均連鎖長(Nm)とMFRが、
Nm≧97+29.5logMFR
なる関係式を満たすプロピレン重合体20〜96.5重量%と、(b) 平均繊維径が11μm以下であるガラス繊維0.3〜42重量%と、(c) 重量平均粒子径が20μm以下であるタルク0.9〜54重量%と、(d) 変性ポリオレフィン0.5〜20重量%とからなる無機フィラー強化樹脂組成物。
【請求項2】 前記ガラス繊維の配合量が2〜32重量%であり、前記タルクの配合量が4〜32重量%であることを特徴とする請求項1に記載の無機フィラー強化樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の無機フィラー強化樹脂組成物において、前記ガラス繊維の配合量と前記タルクの配合量の合計が、6〜60重量%であり、かつ前記タルクの配合量と、前記ガラス繊維の配合量と前記タルクの配合量の合計との比〔タルクの配合量/(ガラス繊維の配合量とタルクの配合量の合計)〕が3/10〜9/10であることを特徴とする無機フィラー強化樹脂組成物。」

【3】特許異議の申立て、及び、取消理由の概要

1.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、甲第1号証(特開昭59-226041号公報)、甲第2号証(特開昭58-104905号公報)、甲第3号証(「POLYMER SEQUENCE DETERMINATION Carbon-13 NMR Method」JAMES C.RANDALL 1977,p1〜41,Academic Press,New York San Francisco London)、甲第4号証(甲第3号証の説明書)および甲第5号証(特開昭60-90239号公報)を提示して、全請求項について特許異議申立てを行っているが、その具体的な主張の概要は以下のとおりである。
(1)本件発明1ないし3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。
(2)本件発明1ないし3は、甲第5号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。
(3)本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項及び第5項の規定を満たさない出願に対してなされたものである。

2.当審が通知した取消理由の概要

(1)取消理由の概要
これに対して、当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
1)取消理由1:本件発明1ないし3は、刊行物3及び参考資料1の記載を参酌すれば、刊行物1及び2に記載された発明又は刊行物1,2及び4に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得るものであるから、本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
2)取消理由2:本件請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項、5項及び6項の規定を満足しない出願に対してなされたものである。

(2)取消理由で引用した引用刊行物
刊行物1:特開昭59-226041号公報(特許異議申立の甲第1号証)
刊行物2:特開昭58-104905号公報(特許異議申立の甲第2号証)
刊行物3:「POLYMER SEQUENCE DETERMINATION Carbon-13 NMR Method 」JAMES C.RANDALL 1977,p1〜41,Academic Press,New York San Francisco London(特許異議申立の甲第3号証)
刊行物4:特開昭60-90239号公報(特許異議申立の甲第5号証)
参考資料1:刊行物3の説明書(平成15年12月16日 兼崎隆作成、特許異議申立の甲第4号証)

(3)刊行物1〜4の記載内容
刊行物1
(1-1)
「(a)結晶性プロピレン重合体5〜98重量部、
(b)平均直径が7μ以下でかつ集束剤付着量が0.01〜0.3重量%であるガラス繊維2〜30重量部、
(c)不飽和有機酸またはその誘導体で変性した結晶性プロピレン重合体0〜10重量部、
(d)非晶性エチレン-αオレフイン系共重合体0〜35重量部、および
(e)タルク、マイカ、けい酸カルシウムおよびガラス粉から選ばれた少なくとも1種の無機充填剤0〜30重量部
からなることを特徴とするフイラー含有プロピレン重合体組成物。」(特許請求の範囲)
(1-2)
「本発明の組成物は、耐熱剛性・外観が極めて改良されるばかりでなく、成形反り変形、再加熱反り変形も小さく、かつ衝撃強度が実用十分で、ウエルド強度・耐傷性等も良好である為、高レベルの品質が要求される分野への適用が可能である。」(第2頁右上欄9行〜13行)
(1-3)
「本発明で用いる上記(a)成分である結晶性プロピレン重合体は、立体規則性を有するプロピレンの単独重合体(ポリプロピレン)、・・・プロピレンとこれらαオレフインとの二元以上のブロツクまたはランダム共重合体、・・・、これらは結晶性を表わすアイソタクチツク・インデツクス(II)が40以上のものである。IIが60以上のものが好ましく、中でも特にII 75以上のものが良い。II40未満のものは剛性が不足する。これらの中で特にポリプロピレンとプロピレン-エチレンランダム又はブロツク共重合体(とりわけエチレン含量が1〜30重量%、更には3〜25重量%のプロピレン-エチレンブロツク共重合体)が好ましい。前者は、とりわけ耐熱剛性を重要視するケースに、また後者は、衝撃強度とのバランスを重要視するケースに適する。又、成形時の流動性を良くするにはこれらプロピレン重合体はメルトフローレート(MFR)が一般に0.01〜200g/10分程度、好ましくは0.3〜120g/10分のものである。・・・ここでMFRは、JIS-K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定したものである。」(第2頁右上欄14行〜右下欄6行)
(1-4)
「本発明で用いる(b)成分であるガラス繊維は、平均直径が7μ以下、好ましくは2〜7μで、」(第2頁右下欄11行〜12行)
(1-5)
「本発明で使用する(c)成分である変性プロピレン重合体は、不飽和有機酸またはその誘導体例えばアクリル酸、・・・等を結晶性プロピレン重合体100重量部に対し、0.05〜20重量部添加してグラフト法により変性したものである。中でもアクリル酸、無水マレイン酸を用いて変性したものが好ましい。」(第3頁左下欄14行〜右下欄7行)
(1-6)
「ここでタルクは平均粒径が0.2〜10μ、好ましくは0.2〜5μ、・・・のものが適する。」(第4頁右上欄6行〜8行)
(1-7)
第1表にNo.6として、プロピレン重合体55部、変性ポリプロピレン5重量部、ガラス繊維10重量部及びタルク20重量部含有するプロピレン重合体組成物が記載されている。(第7頁)
刊行物2
(2-1)
「(1)〔1〕アイソタクチツクペンタツド分率(P)とメルトフローインデツクス(MFR)とが
1.00≧P≧0.015logMFR+0.955
の関係にあり、〔2〕沸騰n-ヘキサンおよび沸騰n-ヘプタンで逐次抽出した抽出物のアイソタクチツクペンタツド分率(P)がそれぞれ0.450〜0.700および0.750〜0.930である結晶性ポリプロピレンを用いてなる高剛性ポリプロピレン射出成形物。」(特許請求の範囲 ただし、〔1〕、〔2〕は原文では○中に数字、≧は原文では>の下は一本線。以下このように記載する。)
(2-2)
「本発明者等は、ポリプロピレン射出成形物の剛性向上に関する前述の方法に伴う欠点のない該成形物について鋭意研究した。その結果、後述の本発明により限定されたアイソタクチツクペンタツド分率を有するポリプロピレンを用いることにより、何等特別な添加剤を用いることなく高剛性射出成形物が得られることを知つて本発明を完成した。」(第2頁左上欄20行〜右上欄7行)
(2-3)
実施例3にMFRが34.0、全ポリマーのアイソタクチツクペンタツド分率(P)が0.990のポリプロピレンが、実施例5にMFRが8.7、全ポリマーのアイソタクチツクペンタツド分率(P)が0.987のポリプロピレン記載されている。


(第3頁右上欄15行〜第4頁左下欄19行)
刊行物3
(3-1)
図1.8には、mmは,mmmm、mmmr、rmmrからなり、mrはmmrm、mmrr、rmrm及びrmrrからなり、rrはmrrm、mrrr、rrrrからなることが記載されている。

(第19頁 Fig.1.8)
刊行物4
(4-1)
「(a)結晶性プロピレン重合体10〜70重量部、
(b)平均直径が7μ以下で且つ集束剤付着量が0.01〜0.3重量%であるガラス繊維30超過〜70重量部、および
(c)不飽和有機酸またはその誘導体で変性した結晶性プロピレン重合体0〜20重量部
からなることを特徴とするガラス繊維補強プロピレン系樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
(4-2)
「本発明の組成物は、耐熱剛性が極めて改良されるばかりでなく、成形反り変形、再加熱反り変形も小さく、かつ衝撃強度(特に面強度)が実用十分で、ウエルド強度・耐熱性等も良好である為、高レベルの品質が要求される分野への適用が可能である。」(第2頁左上欄14行〜19行)
(4-3)
「本発明で用いる上記(a)成分である結晶性プロピレン重合体は、立体規則性を有するプロピレンの単独重合体(ポリプロピレン)、・・・プロピレンとこれらαオレフインとの二元以上のブロツクまたはランダム共重合体、・・・、これらは結晶性を表わすアイソタクチツク・インデツクス(II)が40以上のものである。IIが60以上のものが好ましく、中でも特にII75以上のものが良い。II40未満のものは剛性が不足する。これらの中で特にポリプロピレンとプロピレン-エチレンランダム又はブロツク共重合体(とりわけエチレン含量が1〜30重量%、更には3〜25重量%のプロピレン-エチレンブロツク共重合体)が好ましい。前者は、とりわけ耐熱剛性を重要視するケースに、また後者は、衝撃強度とのバランスを重要視するケースに適する。又、成形時の流動性を良くするにはこれらプロピレン重合体はメルトフローレート(MFR)が一般に0.01〜200g/10分程度、好ましくは0.3〜120g/10分のものである。・・・ここでMFRは、JIS-K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定したものである。」(第2頁左上欄20行〜左下欄12行)
(4-4)
「本発明で用いる(b)成分であるガラス繊維は、平均直径が7μ以下、好ましくは2〜7μで、」(第2頁左下欄17行〜18行)
(4-5)
「本発明で使用する(c)成分である変性プロピレン重合体は、不飽和有機酸またはその誘導体例えばアクリル酸、・・・等を結晶性プロピレン重合体100重量部に対し0.05〜20重量部添加してグラフト法により変性したものである。中でもアクリル酸、無水マレイン酸を用いて変性したものが好ましい。」(第3頁左下欄2行〜15行)
(4-6)
「本発明組成物は、その効果を著しく損なわない範囲内(通常組成物全量の40重量%以下)で、これら(a)〜(c)成分の外に種々の付加的成分を添加する事ができる。
それらの付加成分としては、・・・、タルク、・・・を挙げることができる。」(第3頁右下欄20行〜第4頁左下欄5行)

【4】本件特許異議申立についての判断
I.取消理由2について
1.取消理由2の内容
当審が平成17年1月11日付けで通知した取消理由2は下記のとおりである。

取消理由2:明細書の記載不備について
1)本件特許明細書には、特許異議申立書25頁4行〜25頁末行、26頁16行〜26頁26行記載の不備があり、本件請求項1〜3に係る特許は特許法第36条第4項、5項及び6項の規定を満足しない出願にされたものである。
(特許異議申立書25頁4行〜25頁末行の補足)
特許請求の範囲で規定されている範囲については、その範囲全てについて当業者が容易に実施できることが必要であり、この観点から請求項1で規定されているメソ平均連鎖長(Nm)とメルトフローレート(MFR)との関係式について検討する。
本件発明の効果を奏するためには、メルトフローレート(MFR)値(0.01~150g/10分)だけでは決まらず、メソ平均連鎖長(Nm)の値がメルトフローレート(MFR)のある値よりも大きいことが必要であることが関係式で示されている。
そして、関係式から判断すると、ある特定のMFR値であっても、関係式の範囲内のものと範囲外のものとが存在することになる。
しかし、本件明細書にはメソ平均連鎖長(Nm)とメルトフローレート(MFR)とが技術的にどのような関係を持ち、互いにどのように影響するのかについて記載されておらず、そのために、MFR値をある値に固定した場合、どのようにすれば所定の範囲内のメソ平均連鎖長(Nm)とすることができるのかが不明である。
その結果、実施例で開示された内容を参酌しても、発明の詳細な説明には請求項1〜3に係る発明の範囲全体について当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
2)請求項1及び該請求項を引用する請求項2〜3には、特定の関係式を満たすプロピレン重合体を用いる旨のことが規定されている。
しかし、発明の詳細な説明には、その関係式を導き出した過程について記載されておらず、また、その関係式を満たす実施例は(MFR 20、Nm 173.4)、(MFR 30、Nm 156.6)の2例、比較例は(MFR20、Nm 120)の1例のみである。
そうすると、発明の詳細な説明には、その特定の関係式を満たすプロピレン重合体の全てが実施例と同等の効果を奏することの裏付けが具体的に示されているとは言えず、理論的にも説明されていないので、実施例以外の請求項1〜3に含まれる発明の範囲全てが本件明細書に記載された効果を奏するものか明らかではない。
したがって、発明の詳細な説明には請求項1〜3に係る発明の範囲全体について当業者が容易に実施できる程度に目的、構成及び効果が記載されていない。
以上のとおり、本件請求項1〜3に係る特許は特許法第36条第4項の規定を満足しない出願にされたものである。

2.取消理由2(明細書記載不備)に対する特許異議意見書の概略
1)メソ平均連鎖長(Nm)値の制御について
イ.当該分野の同業者にとって、段落【0031】及び段落【0035】の記載に基いて、高い[mmmm]を持つポリプロピレン鎖を与える活性点の立体特異性を高めるための、すなわちNm値を高めるための、具体的条件を探すことは容易である。
つまり、MFRを固定して本件規定の範囲内でNmの値を高めるためには、所望のMFRとなるように分子量調節剤の存在量を調整したうえで、「1.段落【0031】に記載されている範囲で、接触温度を高くする。」、「2.段落【0035】に記載されている(C)有機ケイ素化合物を使用する。」という条件を選べばよい。
ロ.Nmを高くすると、同一水素濃度の下ではMFRがやや低下することが多いが、段落【0051】に記載したように水素濃度を適度に高くすることにより希望するMFRをもつポリプロピレンを得ることもできる。

2)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1〜3の範囲全体について当業者が容易に実施できる程度に記載されており、本件発明においては、特定の関係式を満たすプロピレン重合体の全てが実施例と同等の効果を奏することの裏付けが具体的に示されているといえて、理論的にも説明されており、実施例以外の本件発明1〜3に含まれる範囲全てが本件明細書に記載された効果を奏することは明らかである。
したがって、発明の詳細な説明には本件発明1〜3の範囲全体について当業者が容易に実施できる程度に目的、構成及び効果が記載されているのは明らかである。

3.当審の判断
取消理由2の1)について
まず、メソ平均連鎖長(Nm)は、本件明細書段落【0008】に記載されているように、13C-NMRで測定したメソ-メソトライアッド【mm】及びメソ-ラセミトライアッド【mr】とから式:Nm=[【mm】+1/2【mr】]/[1/2【mr】]に従って求められるものであり、立体規則性の指標となるものである。
そして、重合触媒(チーグラーナッタ触媒)、重合条件等が、ポリプロピレンの立体規則性に影響することは周知の事項(高木謙行 他1名編「ポリプロピレン樹脂」日刊工業新聞社、昭和56年1月30日初版7刷発行、p.20〜p.24)である。
本件明細書には、重合触媒の構成成分として非常に多くの物が例示されているが、その重合触媒の構成成分と生成されるポリプロピレンのメソ平均連鎖長(Nm)との関係については何ら記載されていない。また、特許権者の主張する段落【0031】の記載は、「【0031】(イ)マグネシウム化合物、(ロ)チタン化合物、(ハ)電子供与性化合物、更に必要に応じて(ニ)ハロゲン含有化合物を、不活性媒体の存在下又は不存在下で混合攪絆するか、機械的に共粉砕することにより、接触することができる。接触は40〜150℃の加熱下で行うことができる。不活性媒体としては、へキサン、へプタン、オクタン等の飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の飽和脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が使用できる。」というものであり、重合触媒の固体成分Aの調整方法に関する記載であるが、「接触は40〜150℃の加熱下で行うこと」が記載されているのみで、その温度の変化が固体成分Aにどのような影響を与え、その結果として固体成分Aを含む重合触媒にどのような影響を与えるのか、ひいては重合触媒で生成されるポリプロピレンの立体規則性、しかもメソ平均連鎖長(Nm)の値にどのような影響を与えるのかは全く記載されていない。
これについて、特許権者は、固体成分Aの調整に際しての接触温度を高くすることが、メソ平均連鎖長(Nm)値を高くする旨の主張をしている(上記2.1)イ.)が、当該事項が当業者に周知の事項であると認めるに足る証拠は示されていない。
また、特許権者は、段落【0035】に記載されている(C)有機ケイ素化合物を使用することがメソ平均連鎖長(Nm)値を高くすると主張している(上記2.1)イ.)が、段落【0035】には(C)有機ケイ素化合物がNm値とどのような関係にあるのかは記載されていない。
仮に該化合物がメソ平均連鎖長(Nm)の値を高めることが知られているとしても、どの程度に高めるのかは不明であるし、段落【0035】に示された非常に多くの有機ケイ素化合物がすべてメソ平均連鎖長(Nm)の値の上昇に同程度に作用するか否かも不明であるから、特定のメソ平均連鎖長(Nm)の値をとるポリプロピレンの製造にどの有機ケイ素化合物を選択するのかは、当業者に過度の試行錯誤を要求するものといえる。
さらに、上記のように、特定のメソ平均連鎖長(Nm)の値を得るための方法が明らかでない上に、本件発明1〜3においては、メソ平均連鎖長(Nm)の値がメルトフローレート(MFR)のある値よりも大きいことが必要であることが関係式で示されているものである。
そして、関係式から判断すると、ある特定のメルトフローレート(MFR)値であっても、関係式の範囲内のものと範囲外のものとが存在することになる。
しかし、本件明細書にはメソ平均連鎖長(Nm)とメルトフローレート(MFR)とが技術的にどのような関係を持ち、互いにどのように影響するのかについて記載されておらず、しかも、上記したように特定のメソ平均連鎖長(Nm)値のポリプロピレンを得る方法も不明確であるから、メルトフローレート(MFR)値をある値に固定した場合、どのようにすれば所定の範囲内のメソ平均連鎖長(Nm)とすることができるのかは全く不明といわざるをえない。
これについて、特許権者は、「段落【0051】に記載されているようにMFRが低下する場合は水素濃度を適度に高くすることにより希望するMFRをもつポリプロピレンを得ることもできる。」旨主張している。(上記2.1)ロ.)
しかしながら、本件明細書には、上記のようにメソ平均連鎖長(Nm)とメルトフローレート(MFR)とが技術的にどのような関係を持ち、互いにどのように影響するのかについて記載されていないから、メルトフローレート(MFR)を水素濃度によって調整することができたとしても、それにともなってメソ平均連鎖長(Nm)がどのように変化するかは不明であり、結局、どのようにすればメソ平均連鎖長(Nm)を所定の範囲内のものとすることができるのかは明らかではない。
また、プロピレンホモポリマーとプロピレンブロックポリマーとが同様に製造できるのか否かも明らかではない。
さらに、本件明細書に記載された高結晶性プロピレンポリマーの合成例1と合成例2とはホモポリマーとブロックポリマーという異なる構造のポリプロピレンを合成しており、その製造条件と合成されたプロピレンの構造とは何等関連づけて示されていない。
そうすると、結局、本件明細書には、Nm≧97+29.5logMFRなる関係式(以下、「本件関係式」という。)を満たすプロピレン重合体を得る方法について、当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1〜3の範囲全体について当業者が容易に実施できる程度に目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。

取消理由2の2)について
本件明細書には、本件関係式が導き出される理論的な説明は記載されていない。また、実験データより導かれたものであるとすれば、その導き出された過程が記載されるはずであるが、そのような過程あるいはその技術的意義については記載されておらず、ただ、本件関係式を満たすものとして高結晶性プロピレンホモポリマー(a)-1と高結晶性プロピレンブロックポリマー(a)-2(合成例1、合成例2)の2種類のものが、これを満たさないものとしてプロピレンホモポリマー(a)-3とプロピレンブロックポリマー(a)-4の2種類が記載されているのみであり、(a)-4についてはメソ平均連鎖長(Nm)値は記載されていない。
そして、この(a)-1,(a)-2、(a)-3の3種類のものと本件関係式の関係は特許異議意見書の10頁の図に示されている様な関係であるが、この3種類のものから得られうる式としては無数のものがあり(例えば、Nm=121以上、あるいは関係式とは逆の傾きの直線を引くことも可能である。)、当該関係式が導かれるとする根拠は示されていない。
そうすると、(a)-1及び(a)-2と、(a)-3とを用いたガラス繊維強化樹脂組成物の効果の差異がプロピレン重合体が本件関係式を満たすか否かによってもたらされるものとは直ちにはいえないから、本件関係式を満たすプロピレン重合体の全てが実施例と同等の効果を奏することの裏付けが具体的に示されているとはいえず、実施例以外の本件発明1〜3に含まれる範囲全てが本件明細書に記載された効果を奏するものかは明らかではない。
そうすると、実施例以外の効果が確認されないものであることから、本件関係式を満たすことの技術的意義が不明りょうであり、発明の詳細な説明に当該関係式を満たす結晶性プロピレン重合体を用いる発明が記載されているということはできない。
したがって、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えた発明が記載されているものというほかなく、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものとはいえず、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たさない。

3)まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1〜3に係る特許は特許法第36条第4項、第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

II.取消理由(1)について
II-1.刊行物1及び2に記載された発明に基づく容易性について
1.本件発明1について

1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には「(a)結晶性プロピレン重合体5〜98重量部、(b)平均直径が7μ以下でかつ集束剤付着量が0.01〜0.3重量%であるガラス繊維2〜30重量部、(c)不飽和有機酸またはその誘導体で変性した結晶性プロピレン重合体0〜10重量部、(e)タルク0〜30重量部」を含有するプロピレン重合体組成物が記載されており(摘示記載1-1)、その(a)成分である結晶性プロピレン重合体はメルトフローレート(MFR)が一般に0.01〜200g/10分程度、好ましくは0.3〜120g/10分のものであること、(b)成分のガラス繊維は、平均直径が7μ以下、好ましくは2〜7μであること、(e)成分のタルクは平均粒径が0.2〜10μであることが記載されている(摘示記載1-3、1-4、1-6)。
そして、刊行物1においては各成分の割合は重量部で表されているが、その実施例をみると組成物全体を100重量部としていることから、刊行物1における重量部は重量%と実質的に差異はない。

2)本件発明1と刊行物1に記載された発明との対比
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、変性した結晶性ポリプロピレンは変性ポリオレフィンに包含されるものであるから、両者は、以下の一致点、相違点を有する。

《一致点》
(a) メルトフローレート(MFR)が0.01〜150g/10分の範囲であるプロピレン重合体20〜96.5重量%と、(b) 平均繊維径が7μm以下であるガラス繊維2〜30重量%と、(c)平均粒子径が0.2〜10μのタルク0.9〜30重量%、(d)変性ポリオレフィン0.5〜10重量%とからなるガラス繊維強化樹脂組成物。

《相違点1》
本件発明1の(a)プロピレン重合体のメルトフローレート(MFR)は ASTM D-1238に従って測定したものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては(a)結晶性プロピレン重合体のメルトフローレートはJIS-K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定したものである点

《相違点2》
本件発明1の(a)プロピレン重合体は、13C-NMRで求められたメソ平均連鎖長(Nm)とメルトフローレート(MFR)が、本件関係式を満たすものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては(a)結晶性プロピレン重合体に係る限定が付されていない点。

《相違点3》
本件発明1の(c)タルクの粒子径は、重量平均粒子径で規定されているのに対し、刊行物1に記載された発明においては(e)タルクの平均粒子径の定義が明らかでない点。

3)相違点に対する判断
イ.相違点1について
刊行物1に記載された発明のJIS-K7210は、ASTM D-1238に基礎を置く測定法であることは周知であり(「新版高分子辞典」、株式会社 朝倉書店、1988年11月25日初版第1刷発行、p.456「メルトフローレート、MFR」の項参照)、その測定条件230℃、荷重2.16kgも本件明細書に記載された条件と同じであるから、刊行物1に記載された発明においても、メルトフローレート(MFR)は ASTM D-1238に従って測定したものといえ、両者に実質的な差異はない。

ロ.相違点2について
【4】I.3.において述べたように、本件明細書には本件関係式について、その技術的意義が明確に記載されておらず、また効果を裏付けるデータも十分に記載されていないから、本件発明1においてポリプロピレン重合体の立体規則性をNmとMFRの関係において規定する意義が不明りょうである。
一方、刊行物2には、「〔1〕アイソタクチツクペンタツド分率(P)とメルトフローインデツクス(MFR)とが
1.00≧P≧0.015logMFR+0.955
の関係にあり、〔2〕沸騰n-ヘキサンおよび沸騰n-ヘプタンで逐次抽出した抽出物のアイソタクチツクペンタツド分率(P)がそれぞれ0.450〜0.700および0.750〜0.930である結晶性ポリプロピレンを用いてなる高剛性ポリプロピレン射出成形物。」(摘示記載2-1)が記載されており、結晶性プロピレン重合体の立体規則性をアイソタクチツクペンタツド分率(P)とメルトフローレート(MFR)との関係において規定している。
アイソタクチツクペンタツド分率(P)も、メソ平均連鎖長(Nm)もともに立体規則性の指標となるものであることは当業者に周知の事項である。
なお、このことは、上記2.1)イ.における特許権者の主張にあるように、特許権者自体が、アイソタクチツクペンタツド分率(P)の指標となる[mmmm]を高めることがメソ平均連鎖長(Nm)を高めることになることを認めていることからも、明らかである。
また、刊行物2には、「限定されたアイソタクチツクペンタツド分率を有するポリプロピレンを用いることにより、何等特別な添加剤を用いることなく高剛性射出成形物が得られることを知って本発明を完成した。」(摘示記載2-2)と記載されているところ、上記の「1.00≧P≧0.015logMFR+0.955」との式は、アイソタクチツクペンタツド分率(P)が少なくとも0.955以上であることを示す式であるから、結晶性プロピレン重合体の立体規則性を高めることにより高剛性の成形物が得られることを示している式である。また、メルトフローレート(MFR)は、高分子の分子量の指標ともなるものであり、これが高くなると分子量は小さくなり、逆に低くなると分子量が大きくなることは、周知の事項である。そうすると、上記式は一定の範囲内で、分子量が大きくなるほど、そのアイソタクチツクペンタツド分率(P)は低くても良いことを示しているものでもある。
したがって、刊行物2に接した当業者は、当該式から結晶性プロピレン成形物の剛性には立体規則性と分子量が関係していることを容易に理解できるものである。
そうであれば、刊行物1に記載された発明において、その剛性を高める目的で、結晶性プロピレン重合体として刊行物2に記載された発明の高立体規則性の結晶性プロピレンを適用し、さらのその立体規則性の指標としてアイソタクチツクペンタツド分率(P)に代えてメソ平均連鎖長(Nm)を採用し、メルトフローレート(MFR)との関係で良好な範囲を規定する程度のことは当業者が容易になし得る程度の事項である。
また、メソ平均連鎖長(Nm)とメルトフローレート(MFR)で規定することにより格別顕著な効果を奏するものと認めることもできない。

なお、特許権者は、特許異議意見書においてアイソタクチツクペンタツド分率(P)値とメソ平均連鎖長(Nm)は本質的に異なるものであることおよび本件発明1は本件関係式を包含する特有の構成により格別の効果を奏する旨主張している(特許異議意見書第12〜13頁)ので、これについて検討する。
確かに、アイソタクチツクペンタツド分率(P)値とメソ平均連鎖長(Nm)とは異なる指標であって、両者に一定の相関関係があるものとはいえないが、ともに立体規則性の指標である点では共通するものである。
刊行物2には「〔1〕アイソタクチツクペンタツド分率(P)とメルトフローインデツクス(MFR)とが
1.00≧P≧0.015logMFR+0.955
の関係にあり、〔2〕沸騰n-ヘキサンおよび沸騰n-ヘプタンで逐次抽出した抽出物のアイソタクチツクペンタツド分率(P)がそれぞれ0.450〜0.700および0.750〜0.930である結晶性ポリプロピレンを用いてなる高剛性ポリプロピレン射出成形物。」(摘示記載2-1)が記載されている。
そして、実施例1〜5において、そのアイソタクチツクペンタツド分率(P)(全ポリマー、n-C6抽出分、n-C7継続抽出分)が高くなる、すなわち、立体規則性が高くなるのにほぼ比例して、その得られる物性値(曲げ弾性率、曲げ強度、引張り強度、硬度、熱変形温度(HDT))も高くなっており、実施例3及び5において特に優れた物性が得られていることがわかる。
この実施例3及び5は、その全ポリマーのアイソタクチツクペンタツド分率(P)の値は、それぞれ0.990、0.987であるところ、刊行物3(本件明細書段落【0008】に記載された文献)には、mmは,mmmm、mmmr、rmmrからなり、mrはmmrm、mmrr、rmrm及びrmrrからなり、rrはmrrm、mrrr、rrrrからなることが記載されている。
アイソタクチツクペンタツド分率(P)は上記刊行物3の分類でいうとmmmmの割合に相当するものであるから、実施例3及び5において0.990,0.987はmmmmであり、残りの0.01、0.013が他のペンタッド種の合計を表すことになる。ここで、NmはNm=(【mm】+1/2【mr】)/(1/2【mr】)=2(【mm】/【mr】)+1で表される値(本件明細書段落【0008】)であるから、メソ平均連鎖長(Nm)が最小となるのは【mr】が最大の場合、すなわち、他のペンタッド種の全てがmrであると仮定した場合である。この仮定の下で実施例3及び5のメソ平均連鎖長(Nm)を計算すると各々199,153となり、メルトフローレート(MFR)は各々34、8.7であるから、これらを関係式にあてはめると、本件関係式を満足するものとなり(参考資料1参照)、実施例3及び5の結晶性プロピレン重合体は本件発明1のプロピレン重合体とその表現ぶりは異なるものの、物としては同一のものである。
すなわち、結晶性プロピレンの立体規則性が高くなれば、アイソタクチツクペンタツド分率(P)値で表された物とメソ平均連鎖長(Nm)で表された物とは、物としての差異は少なくなると解される。
そうであるから、刊行物1及び2にメソ平均連鎖長(Nm)に関する記載のないこと、あるいは、アイソタクチツクペンタツド分率(P)値とメソ平均連鎖長(Nm)が本質的に異なるものであること(その当否は別としても)が、刊行物1及び2を結びつける阻害要因となるものではない。
また、その効果に関しても、上記【4】の「I.取消理由2について」で述べたように、本件明細書において本件関係式の技術的意義は明らかではなく、それによる効果も確認されているとはいえないから、本件関係式を包含する特有の構成により格別の効果を奏すると認めることはできない。
さらに、本件明細書の実施例1と本件関係式を満たさないポリプロピレンを用いた比較例1を比較しても、格別顕著な差異があるものとはいえない。
したがって、上記特許権者の主張は失当である。

ハ.相違点3について
刊行物1に記載された発明においてはタルクの平均粒子径は特に定義はなされていないから、重量平均粒子径をも包含するものであり、本件発明1と実質的に差異はない。

ニ.まとめ
したがって、本件発明1は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、さらにガラス繊維の配合量を2〜32重量%に、タルクの配合量を4〜32重量%に限定したものであるが、上記のように刊行物1に記載された発明はガラス繊維2〜30重量%、タルク0〜30重量%含有するものであるから、その範囲は重複しているものであり、その点に差異はない。

したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2を引用し、さらに「ガラス繊維の配合量と前記タルクの配合量の合計が、6〜60重量%であり、かつ前記タルクの配合量と、前記ガラス繊維の配合量と前記タルクの配合量の合計との比〔タルクの配合量/(ガラス繊維の配合量とタルクの配合量の合計)〕が3/10〜9/10であること」を規定するものである。
刊行物1に記載された発明において、その実施例No.6は、プロピレン重合体55部、変性ポリプロピレン5重量部、ガラス繊維10重量部、タルク20重量部からなる組成物である(摘示記載1-7)が、これは、ガラス繊維とタルクの合計は30重量部/90重量部=33重量%、タルクの配合量と、ガラス繊維の配合量とタルクの配合量の合計との比は2/3であり、本件発明3と重複しているから、その点において差異はない。
したがって、本件発明3は、本件発明1及び2と同様の理由により刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

II-2.刊行物1、2及び4に記載された発明に基づく容易性について
1.本件発明1について
1)刊行物4に記載された発明
刊行物4には「(a)結晶性プロピレン重合体10〜70重量部、(b)平均直径が7μ以下で且つ集束剤付着量が0.01〜0.3重量%であるガラス繊維30超過〜70重量部、および(c)不飽和有機酸またはその誘導体で変性した結晶性プロピレン重合体0〜20重量部」を含有するプロピレン重合体組成物が記載されており(摘示記載4-1)、その(a)成分である結晶性プロピレン重合体はメルトフローレート(MFR)が一般に0.01〜200g/10分程度、好ましくは0.3〜120g/10分のものであること、(b)成分のガラス繊維は、平均直径が7μ以下、好ましくは2〜7μであることが記載されている(摘示記載4-3、4-4)。さらに付加成分としてタルク40重量%以下を添加することが記載されている。(摘示記載4-6)
そして、刊行物4においては各成分の割合は重量部で表されているが、その実施例をみると組成物全体を100重量部としていることから、刊行物4における重量部は重量%と実質的に差異はない。

2)本件発明1と刊行物4に記載された発明との対比
本件発明1と刊行物4に記載された発明とを対比すると、変性した結晶性ポリプロピレンは変性ポリオレフィンに包含されるものであるから、両者は、以下の一致点、相違点を有する。

《一致点》
(a) メルトフローレート(MFR)が0.01〜150g/10分の範囲であるプロピレン重合体20〜70重量%と、(b) 平均繊維径が7μm以下であるガラス繊維30超過〜42重量%と、(c)タルク0.9〜40重量%、(d) 変性ポリオレフィン0.5〜20重量%とからなるガラス繊維強化樹脂組成物。

《相違点1》
本件発明1の(a)プロピレン重合体のメルトフローレート(MFR)は ASTM D-1238に従って測定したものであるのに対し、刊行物4に記載された発明においては(a)結晶性プロピレン重合体のメルトフローレートはJIS-K7210(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定したものである点

《相違点2》
本件発明1の(a)プロピレン重合体は、本件関係式を満たすものであるのに対し、刊行物1に記載された発明においては(a)結晶性プロピレン重合体に係る限定が付されていない点。

《相違点3》
本件発明1は、(c)成分のタルクは、重量平均粒子径20μ以下と規定されているのに対し、刊行物4に記載された発明においてはタルクの粒子径が記載されていない点。

3)相違点に対する判断
相違点1および相違点2は上記「II-1.刊行物1及び2に記載された発明に基づく容易性について」における相違点1および相違点2と同じであるから、その相違点に対する判断もII-1.3)イ.及びロ.に記載したものと同様である。
相違点3については、刊行物1にはフィラー含有プロピレン重合体組成物に平均粒子径0.2〜10μのタルクを添加することが記載されている(摘示記載1-1,1-6)。刊行物1に記載された発明においては、平均粒子径の定義はなされていないところ、粒子径の定義として重量平均粒子径は周知であることから、刊行物4に記載された発明のタルクとして刊行物1に記載された平均粒子径のものを、重量平均粒子径で規定して用いることは当業者が適宜なし得る事項である。
したがって、本件発明1は刊行物1,2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3.本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用し、さらにガラス繊維の配合量を2〜32重量%に、タルクの配合量を4〜32重量%に限定したものであるが、上記のように刊行物4に記載された発明はガラス繊維30超過〜70重量%、タルク40重量%以下含有するものであるから、その範囲は重複しているものであり、その点に差異はない。

したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2を引用し、さらに「ガラス繊維の配合量と前記タルクの配合量の合計が、6〜60重量%であり、かつ前記タルクの配合量と、前記ガラス繊維の配合量と前記タルクの配合量の合計との比〔タルクの配合量/(ガラス繊維の配合量とタルクの配合量の合計)〕が3/10〜9/10であること」を規定するものである。
刊行物1に記載された発明の実施例No.6は、プロピレン重合体55部、変性ポリプロピレン5重量部、ガラス繊維10重量部、タルク20重量部からなるから組成物(摘示記載1-7)であり、これは、ガラス繊維とタルクの合計は30重量部/90重量部=33重量%、タルクの配合量と、ガラス繊維の配合量とタルクの配合量の合計との比は2/3であるから、刊行物4に記載された発明においても、ガラス繊維とタルクを刊行物1に記載された割合で配合することは当業者が適宜なし得る事項である。

したがって、本件発明3は、本件発明1及び2と同様の理由により刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

【5】結論
以上のとおり、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第4項、第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1〜3に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-10-31 
出願番号 特願平6-331172
審決分類 P 1 651・ 531- Z (C08L)
P 1 651・ 121- Z (C08L)
P 1 651・ 534- Z (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 船岡 嘉彦
藤原 浩子
登録日 2003-07-18 
登録番号 特許第3452669号(P3452669)
権利者 東燃化学株式会社
発明の名称 無機フィラー強化樹脂組成物  
代理人 小島 隆  
代理人 大谷 保  

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