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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A01D
管理番号 1129010
異議申立番号 異議2003-72531  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-09 
確定日 2006-01-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第3397202号「コンバインの乗降装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3397202号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3397202号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年8月27日に特許出願された特願平5-212560号の出願の一部を新たな出願(特願2000-392757号)としたものであって、平成15年2月14日にその特許権の設定登録がなされ、その後、セイレイ工業 株式会社 より特許異議の申立がなされ、取り消しの理由が通知され、その指定期間内である平成17年7月25日に訂正請求がなされ、これに対して訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成17年10月25日に手続補正書の提出がなされたものである。
2.訂正請求書の補正の適否についての判断
(1)訂正請求書の補正の内容
特許権者が求めている訂正請求書の補正の要点は、以下のとおりである。
ア.全文訂正明細書中の特許請求の範囲の請求項1を補正する。
イ.訂正請求書中の訂正事項aを補正する。
ウ.全文訂正明細書中の段落番号【0004】を補正する。
エ.訂正請求書中の訂正事項bを補正する。
具体的には、ア.及びイ.によれば、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載、
「【請求項1】 無限軌道帯式の走行装置(6,6)の上方に機台(7)を設け、該機台(7)の上部に脱穀装置(8)と穀物貯留装置(9)と操縦部(10)を設け、前記脱穀装置(8)の前方に刈取装置(3)を設け、前記操縦部(10)の座席(32)の前側下方で前記機台(7)より上方にステップ(69)を形成し、該ステップ(69)の外側下方に乗降用の補助ステップ(83)を設けたコンバインにおいて、前記ステップ(69)の外端部下方で機台(7)より上方の外側面(84)に開口部(85)を形成し、該外側面(84)より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ(83)を取付けて該補助ステップ(83)を前記開口部(85)内に入り込んで収納される収納状態と開口部(85)の外側下位で前記機台(7)より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし、該補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成したことを特徴とするコンバインの乗降装置。」を、
「【請求項1】 無限軌道帯式の走行装置(6,6)の上方に機台(7)を設け、該機台(7)の上部に脱穀装置(8)と穀物貯留装置(9)と操縦部(10)を設け、前記脱穀装置(8)の前方に刈取装置(3)を設け、前記操縦部(10)の座席(32)の前側下方で前記機台(7)より上方にステップ(69)を形成し、該ステップ(69)の外側下方に乗降用の補助ステップ(83)を設けたコンバインにおいて、前記ステップ(69)の外端部下方で機台(7)より上方の外側面(84)に開口部(85)を形成し、該外側面(84)より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ(83)を取付けて該補助ステップ(83)を前記開口部(85)内に入り込んで収納される収納状態と開口部(85)の外側下位で前記機台(7)より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし、該補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、補助ステップ(83)を収納状態に切換操作させることができるように構成し、該補助ステップ(83)を収納状態に切換操作すると、補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成したことを特徴とするコンバインの乗降装置。」と補正しようとするものである。
また、ウ.及びエ.によれば、訂正明細書の段落番号【0004】の記載、
「【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決するために次のような技術的手段を講じた。
すなわち、無限軌道帯式の走行装置(6,6)の上方に機台(7)を設け、該機台(7)の上部に脱穀装置(8)と穀物貯留装置(9)と操縦部(10)を設け、前記脱穀装置(8)の前方に刈取装置(3)を設け、前記操縦部(10)の座席(32)の前側下方で前記機台(7)より上方にステップ(69)を形成し、該ステップ(69)の外側下方に乗降用の補助ステップ(83)を設けたコンバインにおいて、前記ステップ(69)の外端部下方で機台(7)より上方の外側面(84)に開口部(85)を形成し、該外側面(84)より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ(83)を取付けて該補助ステップ(83)を前記開口部(85)内に入り込んで収納される収納状態と開口部(85)の外側下位で前記機台(7)より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし、該補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成したことを特徴とするコンバインの乗降装置としたものである。」を、
「【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決するために次のような技術的手段を講じた。
すなわち、無限軌道帯式の走行装置(6,6)の上方に機台(7)を設け、該機台(7)の上部に脱穀装置(8)と穀物貯留装置(9)と操縦部(10)を設け、前記脱穀装置(8)の前方に刈取装置(3)を設け、前記操縦部(10)の座席(32)の前側下方で前記機台(7)より上方にステップ(69)を形成し、該ステップ(69)の外側下方に乗降用の補助ステップ(83)を設けたコンバインにおいて、前記ステップ(69)の外端部下方で機台(7)より上方の外側面(84)に開口部(85)を形成し、該外側面(84)より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ(83)を取付けて該補助ステップ(83)を前記開口部(85)内に入り込んで収納される収納状態と開口部(85)の外側下位で前記機台(7)より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし、該補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、補助ステップ(83)を収納状態に切換操作させることができるように構成し、該補助ステップ(83)を収納状態に切換操作すると、補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成したことを特徴とするコンバインの乗降装置としたものである。」と補正しようとするものである。
(2)補正による訂正請求書の要旨の変更の有無
ア.及びイ.による訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の補正は、「収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成した」を、「補助ステップ(83)を収納状態に切換操作させることができるように構成し、該補助ステップ(83)を収納状態に切換操作すると、補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成した」に変更することにより、訂正事項の内容が変更されるから、訂正請求書の要旨を変更するものにあたる。
また、ウ.及びエ.による訂正明細書の段落番号【0004】の補正も、「収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成した」を、「補助ステップ(83)を収納状態に切換操作させることができるように構成し、該補助ステップ(83)を収納状態に切換操作すると、補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成した」に変更することにより、訂正事項の内容が変更されるから、訂正請求書の要旨を変更するものにあたる。
したがって、ア.イ.ウ.及びエ.の補正は特許法第120条の4第3項において準用する特許法第131条第2項に規定する、請求書の補正の要件を満たしていないので、その補正を採用することができない。
3.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載、
「【請求項1】 無限軌道帯式の走行装置6,6の上方に機台7を設け、該機台7の上部に脱穀装置8と穀物貯留装置9と操縦部10を設け、前記脱穀装置8の前方に刈取装置3を設け、前記操縦部10の座席32の前側下方で前記機台7より上方にステップ69を形成し、該ステップ69の外側下方に乗降用の補助ステップ83を設けたコンバインにおいて、前記ステップ69の外端部下方で機台7より上方の外側面84に開口部85を形成し、該外側面84より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ83を取付けて該補助ステップ83を前記開口部85内に入り込んで収納される収納状態と開口部85の外側下位で前記機台7より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ83を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具89,87を前記ステップ69より上方で座席32より下方にあって前記ステップ69の外端側付近に設け、該操作具89,87と補助ステップ83は該補助ステップ83の収納状態において前記ステップ69の下方であって前記外側面84より機体内側において連動連結する構成としたことを特徴とするコンバインの乗降装置。」を、
「【請求項1】 無限軌道帯式の走行装置(6,6)の上方に機台(7)を設け、該機台(7)の上部に脱穀装置(8)と穀物貯留装置(9)と操縦部(10)を設け、前記脱穀装置(8)の前方に刈取装置(3)を設け、前記操縦部(10)の座席(32)の前側下方で前記機台(7)より上方にステップ(69)を形成し、該ステップ(69)の外側下方に乗降用の補助ステップ(83)を設けたコンバインにおいて、前記ステップ(69)の外端部下方で機台(7)より上方の外側面(84)に開口部(85)を形成し、該外側面(84)より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ(83)を取付けて該補助ステップ(83)を前記開口部(85)内に入り込んで収納される収納状態と開口部(85)の外側下位で前記機台(7)より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし、該補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成したことを特徴とするコンバインの乗降装置。」と訂正する。
イ.訂正事項b 特許明細書の段落番号【0004】の記載、
「【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決するために次のような技術的手段を講じた。即ち、無限軌道帯式の走行装置6,6の上方に機台7を設け、該機台7の上部に脱穀装置8と穀物貯留装置9と操縦部10を設け、前記脱穀装置8の前方に刈取装置3を設け、前記操縦部10の座席32の前側下方で前記機台7より上方にステップ69を形成し、該ステップ69の外側下方に乗降用の補助ステップ83を設けたコンバインにおいて、前記ステップ69の外端部下方で機台7より上方の外側面84に開口部85を形成し、該外側面84より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ83を取付けて該補助ステップ83を前記開口部85内に入り込んで収納される収納状態と開口部85の外側下位で前記機台7より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ83を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具89,87を前記ステップ69より上方で座席32より下方にあって前記ステップ69の外端側付近に設け、該操作具89,87と補助ステップ83は該補助ステップ83の収納状態において前記ステップ69の下方であって前記外側面84より機体内側において連動連結する構成としたことを特徴とするコンバインの乗降装置としたものである。」を、
「【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記課題を解決するために次のような技術的手段を講じた。
すなわち、無限軌道帯式の走行装置(6,6)の上方に機台(7)を設け、該機台(7)の上部に脱穀装置(8)と穀物貯留装置(9)と操縦部(10)を設け、前記脱穀装置(8)の前方に刈取装置(3)を設け、前記操縦部(10)の座席(32)の前側下方で前記機台(7)より上方にステップ(69)を形成し、該ステップ(69)の外側下方に乗降用の補助ステップ(83)を設けたコンバインにおいて、前記ステップ(69)の外端部下方で機台(7)より上方の外側面(84)に開口部(85)を形成し、該外側面(84)より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ(83)を取付けて該補助ステップ(83)を前記開口部(85)内に入り込んで収納される収納状態と開口部(85)の外側下位で前記機台(7)より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし、該補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成したことを特徴とするコンバインの乗降装置としたものである。」と訂正する。
ウ.訂正事項c
(訂正請求書の「(3)訂正の要旨」には「訂正事項c」は記載されていないが、訂正請求書に添付した「訂正明細書」から「訂正事項c」が把握される。)
特許明細書の【符号の説明】の欄の
「【符号の説明】
1 走行装置
3 刈取装置
6,6 無限軌道帯式の走行装置
7 機台
8 脱穀装置
9 穀物貯留装置
10 操縦部
32 座席
69 ステップ
83 補助ステップ
84 外側面
86 収納ワイヤ
87 張出し操作レバー(操作具)
89 ノブ(操作具)」を、
「【符号の説明】
1 走行装置
3 刈取装置
6,6 無限軌道帯式の走行装置
7 機台
8 脱穀装置
9 穀物貯留装置
10 操縦部
32 座席
69 ステップ
83 補助ステップ
84 外側面
86 収納ワイヤ
87 張出し操作レバー(操作具)
89 ノブ(操作具)
90 係止部材」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aによると、【請求項1】において、「補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成した」という語句を追加しようとするものであり、上記訂正事項bによると、明細書の段落番号【0004】において、同様に、「補助ステップ(83)の中間部に連結した操作具(89)を作業者が操縦部(10)に搭乗したまま上方向へ引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させることができるように構成し、該補助ステップ(83)の収納状態において、前記収納ワイヤ(86)のノブ(89)は、ステップ(69)より上方に設けられた係止部材(90)に係止させるように構成した」という語句を追加しようとするものである。
そして、特許権者は、訂正請求書の「(4)訂正の原因」の欄で、上記訂正事項a及び訂正事項bは、願書に添付した明細書の段落番号【0030】、【図9】、及び【図10】に記載された事項の範囲内の訂正である旨記載している。
上記訂正事項a及び訂正事項bによる追加記載は、操作具(89)による補助ステップ(83)の操作に関する事項を追加するものであって、「収納ワイヤ(86)」及び「ノブ(89)」の部品名が初めて出てくる。
そこで、これらの部品と、他の部品の関係について検討する。
訂正明細書において、操作具(89)による補助ステップ(83)の操作に関する事項は、【請求項1】及び明細書の段落番号【0004】のもとの記載部分にも、「該補助ステップ(83)を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を前記ステップ(69)より上方で座席(32)より下方にあって前記ステップ(69)の外端側付近に設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は該補助ステップ(83)の収納状態において前記ステップ(69)の下方であって前記外側面(84)より機体内側において連動連結する構成とし」たと記載されている。
このもとの記載部分は、以下の部品の関係に要約できる。
A:補助ステップ(83)を収納状態と張出状態とに切換操作する操作具(89,87)を設け、該操作具(89,87)と補助ステップ(83)は連動連結する構成とした。
同様に追加記載部分は、以下の部品の関係に要約できる。
B:操作具(89)を引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を収納状態側に移動させる。
C:収納ワイヤ(86)のノブ(89)。
このA、B、及びCを対比して、
Aにおける「“連動連結する”もの」の「操作具(89)」と「補助ステップ(83)」とに対する関係、及びBにおける「収納ワイヤ(86)」の「操作具(89)」と「補助ステップ(83)」とに対する関係から判断して、Aにおける「“連動連結する”もの」とBにおける「収納ワイヤ(86)」とは同格であり、また、Bにおける「操作具(89)」の「収納ワイヤ(86)」に対する関係、及びCにおける「ノブ(89)」の「収納ワイヤ(86)」に対する関係から判断して、Bにおける「操作具(89)」とCにおける「ノブ(89)」とは同格であることがうかがわれるから、結局、
「収納ワイヤ(86)」は、「“連動連結する”もの」と同格であり、
「ノブ(89)」は、「操作具(89)」と同格である関係が認められる。
しかし、「“連動連結する”もの」を特定したものが「収納ワイヤ(86)」であることを示す記載、及び「操作具(89)」を特定したものが「ノブ(89)」であることを示す記載は、追加記載されていない。
したがって、「“連動連結する”もの」と「収納ワイヤ(86)」との異同、及び「操作具(89)」と「ノブ(89)」との異同が判然とせず明確でない。
また、「“連動連結する”もの」を特定したものが「収納ワイヤ(86)」であるとしたとき、もとの記載部分において「操作具(89,87)」は、「補助ステップ(83)を収納状態と張出状態とに切換操作する」(上記A参照。)ものであるにもかかわらず、追加記載部分において「操作具(89)」は、「操作具(89)を引き操作することによって、収納ワイヤ(86)が引かれて補助ステップ(83)を(「収納状態に切換操作する」のではなく、)収納状態側に移動させる」(上記B参照。)ものになるのか明確でない。さらにもとの記載部分における「収納状態に切換操作する」(上記A参照。)ことと、追加記載部分における「収納状態側に移動させる」(上記B参照。)こととの表現の差違で、どのような内容の差違を表現しようとしているのかも明確でない。
よって、特許明細書の記載を明確でないものとする、上記訂正事項a及び訂正事項bの訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明のいずれかの事項を目的とするものに該当しない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項に規定する訂正の要件を満たしていない(訂正拒絶理由通知での結論。)としたところ、この出願の出願日(現実の出願日 平成12年12月25日)は、もとの出願の出願日(平成5年8月27日)となり、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書きに規定する訂正の要件を満たしていない。
4.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人 セイレイ工業 株式会社 は、
甲第1号証
証拠の表示:実開昭62-151146号公報
添付の証拠:実願昭61-40226号(実開昭62-151146号)のマイクロフイルム
甲第1号証の1:特開昭53-2822号公報
甲第2号証
証拠の表示:実開平5-5588号公報
添付の証拠:実願平3-59661号(実開平5-5588号)のCD-ROM
甲第3号証
証拠の表示:実開昭63-72134号公報
添付の証拠:実願昭61-166442号(実開昭63-72134号)のマイクロフイルム
甲第3号証の1
証拠の表示:実願昭61-20397号(実開昭62-131944号)のマイクロフイルム
添付の証拠:実開昭62-131944号公報
甲第3号証の2
証拠の表示:実願昭58-115669号(実開昭60-23447号)のマイクロフイルム
添付の証拠:実開昭60-23447号公報
甲第4号証
証拠の表示:実開平1-76344号公報
添付の証拠:実願昭62-172084号(実開平1-76344号)のマイクロフイルム
甲第4号証の1
証拠の表示:実願昭59-4847号(実開昭60-115755号)のマイクロフイルム
添付の証拠:実開昭60-115755号公報
甲第4号証の2
証拠の表示:実願昭61-157462号(実開昭63-63235号)のマイクロフイルム
添付の証拠:実開昭63-63235号公報
甲第4号証の3
証拠の表示:実願昭63-146143号(実開平2-65645号)のマイクロフイルム
添付の証拠:実開平2-65645号公報
を引用、提出して、
特許第3397202号の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ないものであって、請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから特許を取り消すべき旨主張している。
(2)請求項1に係る発明
上記「3.訂正の適否についての判断」で述べたように、当該訂正は認められないから、本件特許第3397202号の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 無限軌道帯式の走行装置6,6の上方に機台7を設け、該機台7の上部に脱穀装置8と穀物貯留装置9と操縦部10を設け、前記脱穀装置8の前方に刈取装置3を設け、前記操縦部10の座席32の前側下方で前記機台7より上方にステップ69を形成し、該ステップ69の外側下方に乗降用の補助ステップ83を設けたコンバインにおいて、前記ステップ69の外端部下方で機台7より上方の外側面84に開口部85を形成し、該外側面84より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップ83を取付けて該補助ステップ83を前記開口部85内に入り込んで収納される収納状態と開口部85の外側下位で前記機台7より下方に張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップ83を前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具89,87を前記ステップ69より上方で座席32より下方にあって前記ステップ69の外端側付近に設け、該操作具89,87と補助ステップ83は該補助ステップ83の収納状態において前記ステップ69の下方であって前記外側面84より機体内側において連動連結する構成としたことを特徴とするコンバインの乗降装置。」
(3)特許法第29条第2項違反について
[引用刊行物]
当審が通知した取消しの理由に引用された、
刊行物1:実願昭61-40226号(実開昭62-151146号)のマイクロフイルム(甲第1号証)
刊行物2:実願昭59-2627号(実開昭60-114635号)のマイクロフイルム
刊行物3:実願昭54-120554号(実開昭56-39334号)のマイクロフイルム
には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
刊行物1
1-ア.「本考案の一実施例を図面に示すコンバインについて説明すると、1は走行装置2を有する機台3上の一側に搭載した脱穀装置であって、その側方には前方から順に操作盤5、デッキ6、運転席7穀粒タンク8及びエンジンルーム9を設けてあり、前方には刈取装置10及び穀稈搬送装置11からなる前処理装置が昇降可能に装着してある。」(第4頁第14〜20行。)
1-イ.「そして、前記デッキ6の下部にはサイドパネル15の切欠窓15aを出入口とする収納部を設けてあり、」(第5頁第4〜6行。)
1-ウ.「第4〜5図は作動部をクローラからなる走行装置2の排土板16aとしたもので、」(第6頁第20行,第7頁第1行。)
1-エ.「第10〜12図はステップ16を出入する他のタイプを示し、このステップ16はその一側を機台3上に水平な突出姿勢と、上方へ回動した収納姿勢になるように支軸40で支持されており、運転席7の外側に設けた肘掛41はフレーム42に軸43により上下回動可能に支持し、前部に枢支したレバー45と一体なアーム46を後部に枢支した係止杆47に連杆48で連結し、上記係止杆47の下部の折曲部はフレーム42の後面に穿設した係止孔50に係脱すると共に支点ピン51に巻いたスプリング51により係合付勢されており、前記支軸40のアーム40aと軸43のアーム43aは連杆52、L型リンク53及びスプリング54により連動連結してある。」(第9頁第6〜18行。)
1-オ.「そして、運転者が乗降する時、前記レバー45は第12図に示す如く上方へ回動して係止杆47を係止孔50から離脱させ、肘掛41を第11図に実線で示す如く、下降回動させると鎖線で示すように起立して収納されていたステップ16が外側方へ下降回動して水平になるからこの状態で乗降し、通常の作業時には肘掛41を第12図に示す如く水平にセットする。」(第9頁第19行〜第10頁第6行。)
刊行物2
2-ア.「高い運転台の外側部に乗降用ステツプ枠を連設するとともに、該ステツプ枠の下部には下方に垂設する梯子形補助ステツプ枠の上部を枢着して上方のステツプ枠側に収納できるように装設して構成するコンバインにおいて、機体の走行操作用メインシフトレバーを中立にしてしかも補助ステツプ枠を収納しないとエンジン始動ができないようにしたもので、補助ステツプ枠に人が乗つたまま機体が発進したり、走行中に補助ステツプが物に引つかかつたり衝突するような危険を生じないように安全性を確保できることになり、簡単な構造にして好適に実施できるよう提供するものである。」(第2頁第3〜15行。)
2-イ.「両車輪(7)(7)の間の上方で機体(C)の上部前方に架設した運転台(1)の上方周囲には一側方を開放したガード(11)を張りめぐらせて架設し、」(第3頁第2〜4行。)
2-ウ.「また、開放側となる運転台(1)の左側部には乗降用ステツプ枠(A)を左側車輪(7)の上方に位置するよう連設するが、該ステツプ枠(A)は、両側に手すり杆(15)(15)を、下部の上方には運転台(1)より少しく低いステツプ板(16)を、また、下部の外方側下方にステツプ杆(17)をそれぞれ有するようにして枠組み構成し、該ステツプ枠(A)の下方に連結する梯子形補助ステツプ枠(B)の上方屈折部(18)(18)の先端を、ステツプ枠(A)の下部に横設した支軸(19)の両端に回動自由に枢支するとともに、その屈折部(18)(18)を前記ステツプ杆(17)に係合させると下部が車輪(7)の外側方に接近して補助ステツプ枠(B)全体が垂下状態となるように装設し、支軸(19)中心に補助ステツプ枠(B)を上方に回動してステツプ枠(A)の内方に収納すると補助ステツプ枠(B)が運転台(1)の外側方に接近して起立状態で収納できるように装設し、上方のガード(11)部分と補助ステツプ枠(B)の下端部との間には収納操作用の紐(20)を連繋して構成する。」(第3頁第9行〜第4頁第6行。)
2-エ.「また、運転台(1)にオペレーターが乗つて、上方から紐(20)を引きながら第6図において仮想線で示すように補助ステツプ枠(B)を上方に回動させて、第6図および第7図に示すように補助ステツプ枠(B)をステツプ枠(A)の内方側に収納しておくと、」(第5頁第9〜13行。)
刊行物3
3-ア.「本考案は、機枠に連設された足載せ用ステップよりも下方に位置する乗降用姿勢とこの姿勢よりも上方に位置する格納姿勢とに切換揺動可能な補助ステップを設けたトラクタにおけるステップ構造に関する。」(第1頁第20行〜第2頁第4行。)
3-イ.「前記ステップ(6)の前端がわ横側部に、補助ステップ(10)が設けられている。この補助ステップ(10)は、第2図及び第3図に示す如く、前記ステップ(6)に上下揺動自在に枢支されてステップ(6)よりも下方に位置する乗降用姿勢とこの姿勢よりも上方に位置する格納姿勢とに切換揺動可能に構成されている。」(第3頁第7〜13行。)
3-ウ.「第4図(イ),(ロ)は別の実施例を示しており、これは、前記実施例と同様に、ステップ(6)に枢支され、且つ、スプリング(11a)とストッパー(12a),(12a)との共働により両姿勢に保持される補助ステップ(10a)を設けるに、前記運転座席(5)の直下部に設けた押引きレバー(13)と補助ステップ(10a)とをリンク機構(14)を介して連動連結してあり、前記レバー(13)を用いて着座しながら補助ステップ(10)を両姿勢に切換え操作できるようにしたものである。」(第4頁第4〜13行。)
[対比・判断]
「1-ア.」〜「1-オ.」の摘記事項及び第1図〜第12図から判断して、刊行物1には、
「クローラからなる走行装置2を有する機台3上の一側に脱穀装置1を搭載し、その側方には前方から順に操作盤5、デッキ6、運転席7、穀粒タンク8及びエンジンルーム9を設けてあり、前方には刈取装置10及び穀稈搬送装置11からなる前処理装置が昇降可能に装着してあるコンバインにおいて、ステップ16がその一側を機台3上に水平な突出姿勢と、上方へ回動した収納姿勢になるように支軸40で支持されており、運転席7の外側に設けた肘掛41が軸43により上下回動可能に支持されていて、支軸40のアーム40aと軸43のアーム43aとが連動連結していて、運転者が乗降する時、肘掛41を下降回動させると、起立して収納されていたステップ16が外側方へ下降回動して水平になり、通常の作業時には肘掛41を水平にセットするようにしたコンバインのステップとその操作装置。」
が記載されている。
そして、第10図を見て、「クローラからなる走行装置2の上方に機台3を設け」ていること、「運転席7の前側下方で機台3より上方にデッキを形成し」ていること、「デッキの外側下方に乗降用のステップ16を設けた」こと、「デッキの外端部下方で機台3より上方のサイドパネルの外側面に切欠窓を形成し」たこと、及び「肘掛41をデッキより上方でかつ運転席7の座面より上方に設けた」ことが把握され、第10図及び第11図を対照して見て、「サイドパネルの外側面より機体内側に設けた受部材の受孔に支軸40を取付け」ていること、「ステップ16は切欠窓内に入り込んで収納される収納状態と切欠窓の外側下端部の機台3より上方で水平に張出す張出状態とに切換」られること、「肘掛41をデッキの外端側付近に設け」たこと、及び「肘掛41とステップ16は該ステップ16の収納状態においてデッキの下方であってサイドパネルの外側面より機体内側において連動連結する構成とした」ことが把握される。
そこで、本件発明と、刊行物1に記載されたものを対比すると、刊行物1に記載されたものの「クローラ」、「走行装置2」、「機台3」、「脱穀装置1」、「デッキ6」、「運転席7」、「穀粒タンク8」、「刈取装置10」、「ステップ16」、「肘掛41」、「切欠窓」、及び「コンバイン」はそれぞれ本件発明の「無限軌道帯」、「走行装置6,6」、「機台7」、「脱穀装置8」、「ステップ69」、「座席32」、「穀物貯留装置9」、「刈取装置3」、「補助ステップ83」、「操作具89,87」、「開口部85」、及び「コンバイン」に相当し、
刊行物1に記載されたものの「操作盤5」及び「運転席7」が本件発明の「操縦部10」に対応するから、
本件発明と、刊行物1に記載されたものとは、
「無限軌道帯式の走行装置の上方に機台を設け、該機台の上部に脱穀装置と穀物貯留装置と操縦部を設け、脱穀装置の前方に刈取装置を設け、前記操縦部の座席の前側下方で前記機台より上方にステップを形成し、該ステップの外側下方に乗降用の補助ステップを設けたコンバインにおいて、前記ステップの外端部下方で機台より上方の外側面に開口部を形成し、該外側面より機体内側に設けた取付け部に回動自在に補助ステップを取付けて該補助ステップを前記開口部内に入り込んで収納される収納状態と開口部の外側で張出す張出状態とに切換自在に設け、該補助ステップを前記収納状態と前記張出状態とに切換操作する操作具を前記ステップより上方で前記ステップの外端側付近に設け、該操作具と補助ステップは該補助ステップの収納状態において前記ステップの下方であって前記外側面より機体内側において連動連結する構成としたコンバインの乗降装置。」
の点で一致し、下記1の点で相違する。
相違点1
本件発明の「補助ステップ83」は張出状態で「開口部85の外側下位で機台7より下方に張出す」ものであり、「操作具89,87」は「補助ステップ83」を張出状態で「開口部85の外側下位で機台7より下方に張出す」ように「切換操作」するものであって、「ステップ69より上方で座席32より下方にあ」るのに対し、刊行物1に記載されたものの「ステップ16」は張出状態で「切欠窓の外側下端部の機台3より上方で水平に張出す」ものであり、「肘掛41」は「ステップ16」を張出状態で「切欠窓の外側下端部の機台3より上方で水平に張出す」ように「切換操作」するものであって、「デッキより上方でかつ運転席7の座面より上方にあ」る点。
以下、上記相違点1について検討する。
相違点1について
刊行物2には、「両車輪(7)(7)の間の上方で機体(C)の上部前方に架設した運転台(1)の上方周囲に、一側方を開放したガード(11)を張りめぐらせて架設し、開放側となる運転台(1)の左側部には、両側に手すり杆(15)(15)を、下部の外方側下方にステツプ杆(17)をそれぞれ有する乗降用ステツプ枠(A)を連設し、該ステツプ枠(A)の下部に支軸(19)を横設し、該ステツプ枠(A)の下方には、前記支軸(19)の両端に上方屈折部(18)(18)の先端を回動自由に枢支し、その屈折部(18)(18)を前記ステツプ杆(17)に係合させると下部が車輪(7)の外側方に接近して全体が垂下状態となるような梯子形補助ステツプ枠(B)を装設し、支軸(19)を中心に補助ステツプ枠(B)を上方に回動してステツプ枠(A)の内方に収納すると、補助ステツプ枠(B)が運転台(1)の外側に接近して起立状態で収納でき、上方のガード(11)部分と補助ステツプ枠(B)の下端部との間には収納操作用の紐(20)が連繋してあり、運転台(1)にオペレーターが乗って、上方から紐(20)を引き補助ステツプ枠(B)を上方に回動させて、補助ステツプ枠(B)をステツプ枠(A)の内方側に収納しておくと、走行中に補助ステツプが物に引っかかったり衝突するような危険が生じないで安全性を確保できるコンバインの補助ステツプ枠。」が記載されている。すなわち、刊行物2に記載されたものの「補助ステツプ枠(B)」は、枠状であり、垂下した張出状態で、側面視倒L字形をしていて、倒立した収納状態では、側面視L字形をしていて、水平片の先端部に回動の中心があり、垂下した張出状態で垂下片が下方に張出しているものである。そして、「支軸(19)中心に補助ステツプ枠(B)を上方に回動してステツプ枠(A)の内方に収納する」(「2-ウ.」参照。)とされていること、及び、第2図、第3図、第7図から、「ステツプ枠(A)」の両側の「手すり杆(15)(15)」及び下部の「ステツプ杆(17)」で構成される凵形の枠組み部分を開口部の開口枠の一部として備えた面を、「ステツプ枠(A)」への出入りの面として想定することができ、「ステツプ枠(B)」は、この想定した面の開口部に対し、「開口部内に入り込んで収納される収納状態と開口部の外側で張出す張出状態とに切換自在」の構造を有していることが把握できる。実際、垂下した張出状態で側面視倒L字形をした補助ステップ枠を、開口部を通じて出入り自在に設けることは、周知の技術手段である(実願昭59-190274号(実開昭61-104254号)のマイクロフイルム、及び実願平1-44387号(実開平2-133939号)のマイクロフイルム(第2実施例)参照。)。そうすると、刊行物1に記載されたものの、「ステップ16」と、刊行物2に記載されたものの「補助ステツプ枠(B)」とは、「開口部内に入り込んで収納される収納状態と開口部の外側で張出す張出状態とに切換自在」な、コンバインの「補助ステップ」として共通している。
刊行物3には、「機枠に連設された足載せ用ステップ(6)よりも下方に位置する乗降用姿勢とこの姿勢よりも上方に位置する格納姿勢とに切換揺動可能な補助ステップ(10a)を設けるとともに、運転座席(5)の直下部に押引きレバー(13)を設け、該押引きレバー(13)と補助ステップ(10a)とはリンク機構(14)を介して連動連結してあり、前記レバー(13)を用いて着座しながら補助ステップ(10a)を両姿勢に切換え操作できるようにしてなるトラクタのステップとその操作装置。」が記載されている。そして、第4図(イ),(ロ)を見て、「押引きレバー(13)はステップ(6)より上方にあ」ることが把握される。すなわち、刊行物3に記載されたものの補助ステップ(10a)を乗降用姿勢と格納姿勢とに切換え操作する「押引きレバー(13)」は、「ステップ(6)より上方で運転座席(5)より下方にあ」る。そして、刊行物1に記載されたものの「肘掛41」及び刊行物2に記載されたものの「収納操作用の紐(20)」と刊行物3に記載されたものの「押引きレバー(13)」とは、農業用作業機の補助ステップの「操作具」として共通している。
そうすると、本件発明が「補助ステップ83」を張出状態で「開口部85の外側下位で機台7より下方に張出す」ようにし、「操作具」が「補助ステップ83」を張出状態で「開口部85の外側下位で機台7より下方に張出す」ように「切換操作」するとともに、「ステップ69より上方で座席32より下方にあ」るようにした点は、刊行物1に記載されたものの、「コンバイン」の「ステップ16」に、刊行物2に記載されたものの、「コンバイン」の「補助ステツプ枠(B)」の枠状で側面視倒L字形の形状と、垂下した張出状態から倒立した収納状態に回動する回動動作の態様とを採用し、刊行物1に記載されたものの、「ステップ16」を回動動作させる、張出及び収納の双方向の操作をする「肘掛41」に換えて、刊行物2に記載されたものの、「補助ステツプ枠(B)」を回動動作させる、一方向操作具である「収納操作用の紐(20)」を採用するとともに、何らかの「張出操作用の操作具」を付加採用し、下方に張出している垂下片の下端を「機台7より下方」に位置させ、「収納操作用の紐」及び「張出操作用の操作具」を、刊行物3に記載されたものが補助ステップ(10a)を乗降用姿勢と格納姿勢とに切換え操作する「押引きレバー(13)」を「ステップ(6)より上方で運転座席(5)より下方にあ」るようにしたのに倣い、「デッキ6より上方で運転席7より下方にあ」るように位置させることにより、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本件発明が、上記相違点1により予期しない格別の作用効果を奏するというものでもない。
したがって、請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明乃至刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)特許法第36条第4項違反について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件請求項1に係る発明の「コンバインの乗降装置」について以下のように記載されている。
「【0030】
また、前記操縦部10には、図9、図10に示す構成の乗降装置を設けている。即ち、操縦部10への乗り降りを容易にするために、補助ステップ83を設ける。該補助ステップ83は、その基部を前記ステップ69外側面84の内壁に軸着し、該外側面84に形成する開口部85から出し入れ回動自在とする。そして、前記補助ステップ83は、中間部に連結した収納ワイヤ86の引き操作により上方回動し、前記ステップ69下方に収納される。‥‥‥
【図9】この発明の実施例における一部の説明用正面図である。
【図10】この発明の実施例における一部の説明用側面図である。
‥‥‥
69 ステップ
83 補助ステップ
84 外側面
86 収納ワイヤ
87 張出し操作レバー(操作具)
89 ノブ(操作具)」
そして、【図9】を見て、収納ワイヤ86は、ステップ69の外端側付近に設けた貫通孔を通してステップ69上に露出し、ステップ69上で引き操作されるようになっていることが把握される。
したがって、収納ワイヤ86による補助ステップ83の引き操作の向きは、前記貫通孔によって規制されている。
そうすると、【図9】から判断して、補助ステップ83は、「収納ワイヤ86の引き操作により上方回動」するものの、収納ワイヤ86は、補助ステップ83の上方回動の途中で引き切られてしまい、この引き操作では、未だ補助ステップ83の重心は補助ステップ83の軸着された基部上を越えてはいないから、「ステップ69下方に収納される」状態にはなっておらず、収納ワイヤ86の引き操作を止めると、補助ステップ83は、もとの張出状態へ下方回動してしまうものと考えられる。
したがって、【図9】に描かれた収納ワイヤ86によって、どのように補助ステップ83を収納状態にすることができるものなのか、不明である。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)むすび
以上のとおりであって、請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-11-16 
出願番号 特願2000-392757(P2000-392757)
審決分類 P 1 651・ 531- ZB (A01D)
P 1 651・ 121- ZB (A01D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 関根 裕  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 川島 陵司
前田 建男
登録日 2003-02-14 
登録番号 特許第3397202号(P3397202)
権利者 井関農機株式会社
発明の名称 コンバインの乗降装置  

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