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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1129969
審判番号 不服2003-4752  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-04-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-24 
確定日 2006-01-19 
事件の表示 平成 7年特許願第262213号「電子写真用乾式カラートナー及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 4月15日出願公開、特開平 9-101632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成7年9月18日(優先日は平成6年9月16日及び平成7年8月1日)の出願であって(以下、平成6年9月16日を「本願優先日」という。)、その出願からの主だった経緯を箇条書きにすると以下のとおりである。
・平成 7年 9月18日 本件出願
・平成14年11月21日付け 原審にて拒絶理由の通知
・平成15年 1月27日付け 意見書・手続補正書の提出
・平成15年 2月14日付け 原審にて拒絶査定の通知
・平成15年 3月24日 本件審判請求
・平成15年 4月23日付け 審判請求書に係る手続補正書及び明細書に
係る手続補正書の提出

第2 平成15年4月23日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年4月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正事項
平成15年4月23日付け手続補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定に基づく明細書についての手続補正であり(以下、「本件補正」という。)、特許請求の範囲を次のように補正する補正事項が含まれている。
補正前の
「【請求項1】 ポリエステル樹脂及び/又はポリオール樹脂からなるバインダー樹脂と顔料の混合物を予め有機溶剤と共にバインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行ない、更にバインダー樹脂及び帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練することにより、ヘーズ度が1〜10(%)のカラートナーを得ることを特徴とする電子写真用乾式カラートナーの製造方法。
【請求項2】 バインダー樹脂と顔料の混合物100重量部を、予め5〜20重量部の有機溶剤を含有させた状態で1段目の混練を行なうことを特徴とする請求項1に記載の電子写真用乾式カラートナーの製造方法。
【請求項3】 請求項1又は2記載の電子写真用乾式カラートナーの製造方法により製造された、少なくともバインダー樹脂、顔料及び帯電制御剤を主成分とするカラートナーであって、該カラートナーのヘーズ度が1〜10(%)であることを特徴とする電子写真用乾式カラートナー。
【請求項4】 該顔料の平均分散粒子径が、0.2μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の電子写真用乾式カラートナー。
【請求項5】 該顔料が、C.I.Pigment Yellow 180であることを特徴とする請求項3又は4に記載の電子写真用乾式カラートナー。
【請求項6】 該帯電制御剤が、サリチル酸誘導体の金属塩であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の電子写真用乾式カラートナー。
【請求項7】 外添剤として疎水化度50%以上の疎水性シリカ微粉末を含有することを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の電子写真用乾式カラートナー。」から、
「【請求項1】 ポリエステル樹脂及び/又はポリオール樹脂からなるバインダー樹脂と顔料の混合物を予め軟化点より10℃高い温度以下で1段目の加熱溶融混練を行ない、更にバインダー樹脂及び帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練することにより、ヘーズ度が1〜10(%)(但し、10%を除く。)のカラートナーを得ることを特徴とする電子写真用乾式カラートナーの製造方法。
【請求項2】 ポリエステル樹脂及び/又はポリオール樹脂からなるバインダー樹脂と顔料の混合物を予め有機溶剤と共にバインダー樹脂の軟化点よりも低い温度で1段目の加熱混練を行ない、更にバインダー樹脂及び帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練することにより、ヘーズ度が1〜10(%)(但し、10%を除く。)のカラートナーを得ることを特徴とする電子写真用乾式カラートナーの製造方法。
【請求項3】 バインダー樹脂と顔料の混合物100重量部を、予め5〜20重量部の有機溶剤を含有させた状態で1段目の混練を行なうことを特徴とする請求項2に記載の電子写真用乾式カラートナーの製造方法。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真用乾式カラートナーの製造方法により製造された、少なくともバインダー樹脂、顔料及び帯電制御剤を主成分とするカラートナーであって、該カラートナーのヘーズ度が1〜10(%)(但し、10%を除く。)であることを特徴とする電子写真用乾式カラートナー。
【請求項5】 該顔料の平均分散粒子径が、0.2μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の電子写真用乾式カラートナー。
【請求項6】 該顔料が、C.I.Pigment Yellow 180であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電子写真用乾式カラートナー。
【請求項7】 該帯電制御剤が、サリチル酸誘導体の金属塩であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の電子写真用乾式カラートナー。
【請求項8】 外添剤として疎水化度50%以上の疎水性シリカ微粉末を含有することを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の電子写真用乾式カラートナー。」に補正する。

2.補正の適否についての判断
補正前後の特許請求の範囲を比較すると、本件補正前の請求項1乃至請求項7は、本件補正後の請求項2乃至請求項8にそれぞれ対応している。よって、本件補正後の請求項1に対応する本件補正前の請求項は存在しない。
さらに、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1乃至請求項7に係る発明の特定事項である「有機溶剤と共に」混練するとの限定が削除されているから、上記補正事項は新たな請求項を付加することを目的としたものであり、特許法第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものではない(新たな請求項を追加する補正を禁じた判決(東京高裁平成16年4月14日判決,平成15年(行ケ)第230号及び知財高裁平成17年4月25日判決,平成17年(行ケ)第10192号(最高裁HP)参照。)。
しかも、本件審判請求人も平成15年4月23日付け手続補正書(方式)第3頁第9〜10行で「新たな請求項1を設けました。」と主張しているところでもある。

3.補正却下の決定のむすび
したがって、上記本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同第159条第1項の規定で読み替えて準用する同第53条第1項の規定により、これを却下する。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.特許請求の範囲の記載
平成15年4月23日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年1月27日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1には、次のように記載されている。
「【請求項1】 ポリエステル樹脂及び/又はポリオール樹脂からなるバインダー樹脂と顔料の混合物を予め有機溶剤と共にバインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行ない、更にバインダー樹脂及び帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練することにより、ヘーズ度が1〜10(%)のカラートナーを得ることを特徴とする電子写真用乾式カラートナーの製造方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のようなものである。
(1)この出願の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)この本願の特許請求の範囲に記載された「バインダー樹脂の溶融温度」とは、どういう温度なのか分かないから、本願は特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.当審の判断
(1)特許法第36条についての判断
出願当初の明細書には、特許請求の範囲に記載された「バインダー樹脂の溶融温度」について、「バインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行ない」(【0015】)、「バインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で混練を行なうため、混練物の粘度が非常に高く、せん断力が強く働く状態となり、バインダー樹脂中での顔料の分散が良好になり、顔料の分散径が小さくなることに帰因するものと考えられる。」(【0016】)、「バインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で混練して」(【0017】)と記載されている。
しかし、樹脂の軟化、溶融に関する熱的特性を表す温度には、「軟化点」、「溶融開始温度」、「ガラス転移温度」及び「融点」等があり、「溶融温度」という表現は、いずれの熱的特性を表現したものなのか特定できないから、特許請求の範囲に記載の「バインダー樹脂の溶融温度」とは、どういう温度なのか不明確である。
請求人は平成15年1月27日付け意見書において「本願発明1における「バインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行ない」とは、バインダー樹脂の軟化点よりも低い温度で1段目の混練を行なうという意味であります。」と主張している(第4頁第18行目〜第20行目参照。)。
たしかに、本願明細書の実施例7、8には、軟化点100℃のポリエステル樹脂を着色剤及び有機溶媒とともに、軟化点より低い50℃に加熱したロールで混連を行うことが記載されているが、この記載から、直ちに「溶融温度」が「軟化点」の意味であるということはできない。
また、実施例3には、軟化点110℃のポリオール樹脂を着色剤とともに100〜110℃に加熱されたロールで混練することについて「溶融混練」と記載され、この温度の加熱ロールで樹脂が溶融しているとみることができるが、混練器内の温度は不明であり、しかも軟化点以下の温度に加熱されたロールを用いており、この記載から「溶融温度」が「軟化点」の意味であるということもできない。
以上のとおり、本願明細書の記載は不備であるから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(2)特許法第29条第2項についての判断
(ア)本願発明の認定
上記(1)で述べたとおり、本願発明を特定する事項である「バインダー樹脂の溶融温度」が不明確であるが、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、上記のとおり実施例7、8には、軟化点が100℃のバインダー樹脂と着色剤(顔料)との混合物を予め有機溶媒と共に、50℃に加熱したロールで混練することが記載されていることから、軟化点よりかなり低い50℃以下の温度であれば「バインダー樹脂の溶融温度より低い温度」と見ることができる。
(イ)引用刊行物の記載事項
原審の拒絶の理由に引用された本願優先日前の平成3年7月3日に頒布された刊行物である特開平3-155568号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載事項がある。
ア.「(3)(a)結着樹脂100重量部と、染料及び顔料の少なくとも一つ1〜300重量部と、それに上記結着樹脂が溶解し得る有機溶剤10〜500重量部とを混合混練し、次いで、必要に応じて、粉砕し、又は造粒して、マスターバッチを得、(b)上記マスターバッチ2〜20重量部に第2の結着樹脂100重量部と、必要に応じて、有効量の添加剤とを加えて、第2の混合物となし、この混合物を混練して組成物となし、(c)上記組成物を粉砕して、トナーとすることを特徴とする電子写真用トナーの製造方法。」(【特許請求の範囲】参照。)
イ.「本発明において、結着樹脂としては、…の(共)重合体を挙げることができる。特に、本発明においては、ポリスチレンや、スチレンとアクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステルとの共重合体が好ましく用いられる。」(第3頁右上欄第7行目〜同頁左下欄第14行目参照。)
ウ.「また、単色トナーの製造において着色剤としてはカーボンブラックが好ましく用いられ、カラートナーの製造には、種々のアゾ顔料やフタロシアニン顔料が好ましく用いられる。」(第4頁左上欄第4行目〜同欄第7行目参照。)
エ.「一般に、染顔料は高極性を有するから、用いる溶剤は、分子内に極性基を有するものが好ましい。従って、かかる溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、プロパノール、ブタノール等のアルコール類が好適に用いられる。しかし、用いる染顔料が比較的、低極性であるときは、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好適に用いられる。しかし、本発明にて用いる溶剤は、上記に限定されるものではない。」(第4頁右上欄第5行目〜同欄第14行目参照。)
オ.「得られるマスターバッチにおいては、染顔料は、当初、好ましいトナーの粒子径よりも大きい粒子を含む場合であっても、結着樹脂中に微細且つ均一に分散される。即ち、通常、染顔料は、約5μm以下、好ましくは、約1μm程度の粒子径にて、樹脂中に一様に分散せしめられる。」(第4頁右下欄第1行目〜同欄第6行目参照。)
カ.「実施例5 実施例1と同じスチレン-アクリル酸ブチル共重合体100重量部、ジスアゾ系赤色顔料(住友化学工業(株)TNC-319)100重量部及びメチルイソブチルケトン10重量部を二本ロールにて室温にて混練して、マスターバッチを得た。このマスターバッチにおけるメチルイソブチルケトンの量は、1重量%以下であった。次いで、上記マスターバッチ10重量部を粗粉砕した後、これに上記と同じスチレン-アクリル酸ブチル共重合体95重量部を加え、150°Cの温度にて混練した。この混練物における上記顔料粒子の分散状態を光学顕微鏡写真にて観察した結果、顔料粒子が極めて微細に且つ均一に分散されていることが確認された。」(第7頁左上欄第2行目〜同欄第17行目参照。)
キ.「実施例6 実施例1と同じスチレン-アクリル酸ブチル共重合体100重量部、フタロシアニン顔料(住友化学工業(株)製TPO-511)100重量部及びメチルイソブチルケトン10重量部を二本ロールにて室温にて混練して、マスターバッチを得た。このマスターバッチにおけるメチルイソブチルケトンの量は、1重量%以下であった。このマスターバッチ10重量部を粗粉砕した後、これに上記と同じスチレン-アクリル酸ブチル共重合体95重量部を加え、150°Cの温度にて混練した。この混練物における上記染料粒子の分散状態を光学顕微鏡写真にて観察した結果、染料粒子が極めて微細に且つ均一に分散されていることが確認された。」(第7頁左下欄第2行目〜同欄第17行目参照。)
ク.「実施例7 実施例1と同じスチレン-アクリル酸ブチル共重合体100重量部、ジスアゾ系黄色顔料(住友化学工業(株)製TNC-113)100重量部及びメチルイソブチルケトン10重量部を二本ロールにて室温にて混練して、マスターバッチを得た。このマスターバッチにおけるメチルイソブチルケトンの量は、1重量%以下であった。このマスターバッチ10重量部を粗粉砕した後、これに上記と同じスチレン-アクリル酸ブチル共重合体95重量部を加え、150°Cの温度にて混練した。この混練物における上記顔料粒子の分散状態を光学顕微鏡写真にて観察した結果、顔料粒子が極めて微細に且つ均一に分散されていることが確認された。」(第7頁左下欄第18行目〜同頁右下欄第13行目参照。)
上記記載事項ア〜クを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1に記載のカラートナーは粉砕又は造粒された粒子状のものであるから、乾式トナーであることが明らかである。また、実施例における150℃での混練では樹脂を加熱溶融状態として混練していることは明らかである。したがって、引用例1には次の発明が記載されているものと認めることができる。
「スチレン-アクリル酸ブチル共重合体と顔料の混合物を予めメチルイソブチルケトンと共に室温で1段目の混練を行ない、更にスチレン-アクリル酸ブチル共重合体を加えて2段目の加熱溶融混練することによりカラートナーを得る電子写真用乾式カラートナーの製造方法。」(以下、「引用発明」という。)
また、原審の拒絶の理由に引用された本願優先日前の平成6年9月9日に頒布された刊行物である特開平6-250444号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の記載事項がある。
ケ.「【請求項4】潜像保持体上に潜像を形成する工程、潜像を複数の現像剤を用いて現像する工程を有するフルカラー画像形成方法において、現像剤として、請求項1記載のhが0.05〜0.11の範囲にあるマゼンタ色材を有する現像剤、同じくhが0.05〜0.11の範囲にあるシアン色材を有する現像剤およびイエロー色材を有する現像剤を用いることを特徴とするフルカラー画像形成方法。」(【特許請求の範囲】参照。)
コ.「【産業上の利用分野】本発明は、フルカラートナーとして、必要な画像濃度、彩度を最大とし、広い色再現範囲を確保し、さらに画像表面光沢も最大として高画質に寄与し、透明性も最大として重ね合わせ特性やOHP透過性を最良とすることができる高バランスのフルカラートナーとその製造方法および該フルカラートナーを用いる画像形成方法に関する。」(【0001】参照。)
サ.「本発明において、色材の含有量は、結着樹脂100重量部に対して2〜8重量部の範囲にあることが好ましい。色材の含有量が2重量部よりも少なくなると着色力が弱くなり、8重量部よりも多くなるとカラートナーの透明性が悪化する。特に3〜5.5重量部の範囲においては、カラートナーのハーフトーン部の粒状性(画質)を著しく改善することができる。トナーの帯電制御は、色材、結着樹脂自体で行ってもよいが、必要に応じて、色再現上問題の生じないような帯電制御剤を併用してもよい。帯電制御剤は、結着樹脂中に添加混合して用いても、トナー粒子表面に付着させた形で用いてもよい。また、ワックス類を内添することもできる。さらに、シリカ粉末、金属酸化物(チタニア、アルミナ等)粉末などの流動化剤やポリマー(ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン等)微粉などのクリーニング助剤または転写助剤等の外添剤を用いることができる。特に、一次粒径が5〜30nmの疎水性シリカが好ましく用いられる。」(【0012】参照。)
シ.「本発明の各カラートナーは、例えば次のようにして製造することができる。色材としての有機顔料結晶は、例えば、ジアゾ化した芳香族アミン誘導体とナフトエ酸誘導体等のカップリング剤とをカップリングして析出させる公知の合成法により製造され、顔料の摩砕または結晶の成長等により、顔料結晶の平均長径が、一般に0.05〜0.20μm、好ましくは0.06〜0.15μmの範囲にある水性スラリーをフィルターにかけることなく、水性スラリーの状態で取り出す。次いで、樹脂(結着樹脂)と溶融混練し、水分を樹脂と置き換えて樹脂分散顔料を得る。この際、顔料を含むスラリーと結着樹脂が十分に混練、分散するように、加熱ニーダー中で結着樹脂の粘度を下げることが好ましく、100℃以上で混練するかあるいは加熱・加圧型ニーダーを使用する。混練時間は5分間以上とするのが好ましく、特に温度範囲100〜130℃で10〜30分程度混練するのが好ましい。また、有機溶剤に溶解した樹脂に顔料を分散し、溶剤を揮発する方法により樹脂分散顔料を調製してもよい。得られた樹脂分散顔料は、更に結着樹脂と溶融混練し、冷却後粉砕して分級する。このようにして、有機顔料結晶の平均長径(l)が0.20μm以下に保持された状態で、平均径h0.05〜0.11の有機顔料結晶が結着樹脂中に分散したカラートナーが製造される。」(【0013】参照。)
ス.「実施例2 カップリング処理後、顔料結晶の平均長径が0.10μmになった時点で攪拌を中止したC.I.ピグメント・レッド57:1の水性スラリー(有機顔料30重量%)100部、およびポリエステル樹脂(ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物-テレフタル酸;Tg:65℃、Mn:3000、Mw:12000)70部を加熱・加圧型ニーダーに投入し、分離してくる水を除去しながら100〜130℃で約10分間混練して樹脂分散顔料を得た。トナーの顔料含有量が5重量%となるように、得られた樹脂分散顔料16.6部に更に結着樹脂83.4部を添加し、エクストルーダー中で混練した後、ジェット粉砕機で粉砕し、遠心式分級機で分級して、顔料結晶の平均径hが0.05で粒径が9μmのマゼンタトナーを製造した。」(【0023】参照。)
セ.「実施例3 有機顔料として平均長径が0.14μmのC.I.ピグメント・レッド48:1を用いた以外は、実施例2と同様にして顔料結晶の平均径hが0.08で粒径が9μmのマゼンタトナーを製造した。」(【0024】参照。)
ソ.【表3】には、実施例3で製造したトナーの透明性H(曇価)が10%であることが記載されている。
(ウ)本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
上記載事項イより、引用発明の「スチレン-アクリル酸ブチル共重合体」は、結着樹脂として用いられているから、本願発明の「バインダー樹脂」に相当する。
上記記載事項エより、引用発明のメチルイソブチルケトンは有機化合物であると共に溶剤として用いているから、本願発明の「有機溶剤」に相当する。
引用発明の室温はバインダー樹脂の溶融温度より低いことは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「バインダー樹脂と顔料の混合物を予め有機溶剤と共にバインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行ない、更にバインダー樹脂を加えて2段目の加熱溶融混練することによりカラートナーを得る電子写真用乾式カラートナーの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
a.相違点1
バインダー樹脂が、本願発明ではポリエステル樹脂及び/又はポリオール樹脂であるのに対し、引用発明ではスチレン-アクリル酸ブチル共重合体である点。
b.相違点2
2段目の加熱溶融混練に際し、本願発明では帯電制御剤を加えているのに対し、引用発明では帯電制御剤を加えることは示されていない点。
c.相違点3
製造方法によって得られるカラートナーが、本願発明ではヘーズ度が1〜10(%)であるトナーであるのに対し、引用発明ではそのような限定がない点。
(エ)相違点についての判断
a.相違点1について
ポリエステル樹脂はスチレン-アクリル酸ブチル共重合体と同様に、カラートナーの製造に普通に用いられるバインダー樹脂であるから、引用発明においてバインダー樹脂としてスチレン-アクリル酸ブチル共重合体に代えてポリエステル樹脂を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、樹脂と顔料の混合物を有機溶媒と共に混練する際、樹脂に応じて適当な有機溶媒を選択すれば、樹脂が有機溶媒に溶解することにより顔料の分散性が向上し、混練温度が溶媒温度よりも低い場合でも、顔料が微細且つ均一に分散されることは容易に予測でき、ポリエステル樹脂を採用するに際して、樹脂に適した有機溶媒を選択し、顔料を微細且つ均一に分散させることは当業者が容易になし得ることである。
b.相違点2について
電子写真用カラートナーの製造において、帯電制御剤を混練して製造することは本願優先日前において慣用されていた技術であって、しかも、混練を2段階に分け、1段目で顔料を樹脂に分散させた後に、帯電制御剤を混練することは、本願優先日前において周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開平3-18862号公報参照。)であるから、相違点2に係る発明特定事項を採用することは、引用発明に前記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得るものである。
c.相違点3について
上記記載事項ケ〜ソより、引用例2には、OHP透過性を最良とすることを目的とし、顔料の粒径を調整して、ヘーズ度が10%のカラートナーを製造することが記載されている。
本願発明の製造方法における発明特定事項は「ポリエステル樹脂及び/又はポリオール樹脂からなるバインダー樹脂と顔料の混合物を予め有機溶剤と共にバインダー樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行ない、更にバインダー樹脂及び帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練する」であって、その結果としてヘーズ度が1〜10(%)になる程度に顔料を分散している。
そして、引用発明は、予め樹脂と顔料の混合物を有機溶媒と共に混練することにより、顔料を微細且つ均一に分散することができるものであるから、透過性の優れたものとしようとする場合に、顔料の分散の程度を調整し、ヘーズ度を1〜10(%)とすることは当業者が容易になし得ることである。
(オ)特許法第29条第2項の判断のむすび
相違点1〜3に係る本願発明の特定事項を採用することは、上記のとおり、当業者にとって容易に想到し得るものであり、また本願発明の作用効果は上記引用発明及び引用例2から予測できる程度のものであって、これら発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることができない。
したがって、本願発明は引用発明及び引用例2に記載の技術並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-18 
結審通知日 2005-11-22 
審決日 2005-12-06 
出願番号 特願平7-262213
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 537- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男福田 由紀  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 藤本 義仁
岡田 和加子
発明の名称 電子写真用乾式カラートナー及びその製造方法  
代理人 伊東 忠彦  

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